(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】生体情報検出装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0245 20060101AFI20230905BHJP
A61B 5/08 20060101ALI20230905BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20230905BHJP
A61B 5/113 20060101ALI20230905BHJP
G01S 13/34 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
A61B5/0245 A
A61B5/08
A61B5/11 110
A61B5/113
G01S13/34
(21)【出願番号】P 2019058032
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000153236
【氏名又は名称】株式会社光波
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新保 敦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智和
(72)【発明者】
【氏名】鷹觜 敦
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 將貴
(72)【発明者】
【氏名】沖田 和則
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-135194(JP,A)
【文献】特開平10-295658(JP,A)
【文献】特開2017-134792(JP,A)
【文献】特開2015-019741(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0312647(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/03
A61B 5/06-5/22
G01S 13/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調した連続波による送信波を、生体を含む対象物に送信し、前記送信波と前記対象物からの反射波との周波数差に基づいて、前記対象物までの距離毎の強度を時系列的に示す距離スペクトル強度データを検出する検出部と、
前記検出部から出力される距離スペクトル強度データと前記距離スペクトル強度データに予め定められた時間の遅延を与えたデータとの差を前記距離毎に求めた第1の差分データを算出する算出部と、
前記第1の差分データから前記生体のバイタル値に対応する周波数成分を抽出する抽出部と、
前記抽出部の前記周波数成分の出力データに対して計算に用いる時間幅が異なる複数の移動平均処理を行い、それらの処理結果に基づいて前記生体の複数の状態を判定し、前記状態毎に前記移動平均処理した前記バイタル値を出力する状態判定部と、
を備えた生体情報検出装置。
【請求項2】
前記状態判定部は、前記バイタル値として心拍数を出力する、
請求項1に記載の生体情報検出装置。
【請求項3】
前記算出部は、前記検出部から出力される距離スペクトル強度データと前記距離スペクトル強度データに予め定められた時間の遅延を与えたデータに対して行った移動平均処理によるデータとの差を前記距離毎に求めた第2の差分データを算出し、
前記抽出部は、前記第2の差分データから前記生体のバイタル値に対応する周波数成分を抽出し、
前記状態判定部は、前記バイタル値として呼吸数を出力する、
請求項1に記載の生体情報検出装置。
【請求項4】
前記第1の差分データに基づいて前記生体の体動の有無を判定する体動判定部と、
前記第2の差分データに基づいて前記生体の存在の有無を判定する存在判定部と、
前記体動判定部及び前記存在判定部の判定結果に応じて前記生体の前記複数の状態のいずれかの状態にあるかを判定し、その判定結果を出力する出力部と、
をさらに備えた請求項3に記載の生体情報検出装置。
【請求項5】
当該生体情報検出装置は、
前記生体が臥床する領域をカバーするように検出エリアが設定され
ており、
前記第1の差分データ及び前記第2の差分データに基づいて前記検出エリア内に存在する前記生体までの距離を検出する距離検出部をさらに備え、
前記出力部は、前記距離検出部により検出された前記生体までの距離に基づいて、
前記臥床する領域における前記生体の起き上がりの状態を判定する、
請求項4に記載の生体情報検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波を利用した生体情報検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電波を利用した距離測定方法としては、例えば、FM-CW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式によるレーダ(以下「FM-CWレーダ」という。)を用いた生体状態検出装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された生体状態検出装置は、周波数変調した連続波による送信波を、生体を含む対象物に送信し、送信波と対象物からの反射波との周波数差に基づいて、対象物までの予め定められた距離ごとの強度を時系列的に示す距離スペクトル強度データを検出するFM-CWレーダと、FM-CWレーダの検出結果から、生体の呼吸に基づく体動信号を抽出する抽出手段と、体動信号に基づいて生体の姿勢が座位であるか臥位であるか、又は生体の呼吸を判定する判定手段とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生体(通常は人)の姿勢や呼吸数(バイタル値)だけでなく、心拍数(バイタル値)やベッド上に居るか居ないか(在/不在)、ベッドでの起き上がり等の生体に関する情報を取得して生体を監視したいという要請がある。一方、高精度のバイタル値を検出するためには、処理に時間がかかる。
【0006】
本発明の目的は、生体のバイタル値を要求される精度に応じて出力することができる生体情報検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]周波数変調した連続波による送信波を、生体を含む対象物に送信し、前記送信波と前記対象物からの反射波との周波数差に基づいて、前記対象物までの距離毎の強度を時系列的に示す距離スペクトル強度データを検出する検出部と、
前記検出部から出力される距離スペクトル強度データと前記距離スペクトル強度データに予め定められた時間の遅延を与えたデータとの差を前記距離毎に求めた第1の差分データを算出する算出部と、
前記第1の差分データから前記生体のバイタル値に対応する周波数成分を抽出する抽出部と、
前記抽出部の前記周波数成分の出力データに対して計算に用いる時間幅が異なる複数の移動平均処理を行い、それらの処理結果に基づいて前記生体の複数の状態を判定し、前記状態毎に前記移動平均処理した前記バイタル値を出力する状態判定部と、を備えた生体情報検出装置。
[2]前記状態判定部は、前記バイタル値として心拍数を出力する、前記[1]に記載の生体情報検出装置。
[3]前記算出部は、前記検出部から出力される距離スペクトル強度データと前記距離スペクトル強度データに予め定められた時間の遅延を与えたデータに対して行った移動平均処理によるデータとの差を前記距離毎に求めた第2の差分データを算出し、
前記抽出部は、前記第2の差分データから前記生体のバイタル値に対応する周波数成分を抽出し、
前記状態判定部は、前記バイタル値として呼吸数を出力する、前記[1]に記載の生体情報検出装置。
[4]前記第1の差分データに基づいて前記生体の体動の有無を判定する体動判定部と、
前記第2の差分データに基づいて前記生体の存在の有無を判定する存在判定部と、
前記体動判定部及び前記存在判定部の判定結果に応じて前記生体の前記複数の状態のいずれかの状態にあるかを判定し、その判定結果を出力する出力部と、をさらに備えた前記[3]に記載の生体情報検出装置。
[5]当該生体情報検出装置は、前記生体が臥床する領域をカバーするように検出エリアが設定されており、
前記第1の差分データ及び前記第2の差分データに基づいて前記検出エリア内に存在する前記生体までの距離を検出する距離検出部をさらに備え、
前記出力部は、前記距離検出部により検出された前記生体までの距離に基づいて、前記臥床する領域における前記生体の起き上がりの状態を判定する、前記[4]に記載の生体情報検出装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生体のバイタル値を要求される精度に応じて出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る生体情報検出装置が配置されたベッドの一例を示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態に係る生体情報検出装置の構成例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、第1のステート判定部及び第2のステート判定部における状態遷移の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、第3のステート判定部における状態遷移の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、判定テーブルの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、位置判定部が出力するセンサからの距離の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、ベッド及びその周辺におけるパワーの時系列的変化の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、パワーの時系列的変化の一例を示し、(a)は心拍0°、(b)は心拍90°、(c)は呼吸0°、(d)は呼吸90°を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、各図中、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
【0011】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る生体情報検出装置が配置されたベッドの一例を示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【0012】
同図に示すベッド10は、フレーム11と、マットレス12とを備える。フレーム11は、マットレス12が配置される床板110と、床板110の頭部側に立設した木製のヘッドボード111と、複数本の脚112とを備える。ヘッドボード111の外側の面111aに生体情報検出装置(以下「センサ」ともいう。)1が配置されている。なお、センサ1をヘッドボード111の上部、内部、又は内側の面に配置してもよい。
【0013】
センサ1は、例えば、ベッド10又はその周辺における対象者Pの生体情報を検出する。「生体情報」とは、生体の位置や生体の状態等の生体に関する情報をいう。生体情報には、例えば、ベッド10上の在/不在、活動状態、着床状態、ベッド10上の姿勢、呼吸数、心拍数(脈拍数)等が含まれる。対象者Pは、生体の一例である。なお、生体は、犬、猫等の動物でもよい。また、対象者Pは複数でもよい。
【0014】
センサ1の検出可能距離は、例えば0~2mである。センサ1からの距離に応じて同心円状に、第1の検出エリア(例えば、0.7m以下)121、及び第2の検出エリア(0.7mを超え2m以下)122が設定されている。第1の検出エリア121及び第2の検出エリア122によりベッド10をカバーすることができる。なお、センサ1の検出可能距離を例えば0~3mとし、2mを超え3m以下の第3の検出エリアを設定してもよい。第3の検出エリアを設定することにより、例えば、ベッド10のヘッドボード111と反対側の方から対象者Pが接近する動きを検出することができる。
【0015】
図2は、センサ1の構成例を示すブロック図である。センサ1は、検出系2と、第1の処理系3と、第2の処理系4と、通信部5とを備える。
【0016】
通信部5は、第1の処理系3及び第2の処理系4により得られた生体情報の検出結果を有線又は無線により外部に送信する。外部としては、例えば、対象者Pを管理する管理センタ等が考えられる。管理センタは、通信部5から送信された生体情報に基づいて警報を発する等の動作を行う。
【0017】
(検出系の構成)
検出系2は、RFレーダ20と、I/Q折畳同期加算部21と、周波数変換部22とを備える。
【0018】
RFレーダ20は、周波数変調した連続波による送信波を対象物(生体等の移動体やベッド等の固定物を含む。)に送信し、対象物からの反射波を受信し、送信波と反射波との周波数差(ビート周波数)をI信号及びQ信号(以下「IQ信号」という。)として出力する。送信波は、例えば24GHz帯を用いる。掃引周波数帯域を200MHzとした場合、RFレーダ20は、24.05GHz~24.25GHzの範囲で変調した送信波を送信する。なお、周波数帯は、24GHzに限られない。
【0019】
I/Q折畳同期加算部21は、RFレーダ20から出力されたIQ信号の重ね合わせを予め定められた回数繰り返し行う。これによりIQ信号のSN比が向上する。
【0020】
周波数変換部22は、I/Q折畳同期加算部21から出力されたIQ信号をフーリエ変換することにより、対象物までの距離毎の強度(以下、パワーともいう。)を時系列的に示すデータ(以下「距離スペクトル強度データ」ともいう。)を出力する。
【0021】
(第1の処理系の構成)
第1の処理系3は、第1の差分データ算出部30と、スペクトラム変換部31と、フィルタ部32と、位置判定部33と、エリア毎パワー部34と、第1の動作判定部35と、ノイズフロア検出部36と、第1の抽出部37と、第1のステート判定部38と、判定テーブル390(
図4参照)を保持する第3のステート判定部39とを備える。第1の差分データ算出部30は、第1の算出部の一例である。なお、第3のステート判定部39は、第2の処理系4に設けられてもよく、第1の処理系3及び第4の処理系4とは独立して設けられてもよい。第1の動作判定部35は、体動判定部の一例である。第1のステート判定部38は、状態判定部の一例である。第3のステート判定部39は、出力部の一例である。
【0022】
第1の差分データ算出部30は、周波数変換部22から出力される距離スペクトル強度データに予め定められた時間(例えば、20.48ms)の遅延を与える遅延部30aと、周波数変換部22の出力データに遅延部30aの出力データを加算する加算部30bとを備える。これにより距離スペクトル強度データと時系列的にその1つ前の距離スペクトル強度データとの差を距離毎に求めた差分データが得られる。
【0023】
スペクトラム変換部31は、第1の差分データ算出部30からの差分データに対し、連続する複数の周波数BIN毎にパワーを求め、それを対数に変換する。
【0024】
フィルタ部32は、スペクトラム変換部31の出力データに対して連続する複数の周波数BIN毎に移動平均処理(ローパスフィルタに相当する処理)を行い、処理結果(距離毎のパワー)を第1の動き情報32aとして位置判定部33に出力する。なお、第1の動き情報32aには全ての位置のパワーが含まれている。
【0025】
位置判定部33は、第1の処理系3のフィルタ部32からの第1の動き情報32aと第2の処理系4のフィルタ部42からの第2の動き情報42aのピーク位置(センサ1からピークまでの距離)に基づいて、対象者Pのベッド10上の位置(例えば、センサ1から0.7m以内、センサ1から0.7mを超え2m以内、ベッド10外等)を判定し、それを位置情報33aとして第3のステート判定部39に出力する。
【0026】
第1の処理系3のフィルタ部32から対象者Pの毎分60回以上の比較的速い第1の動きの情報(例えば、歩行等の体動)32aが得られ、第2の処理系4のフィルタ部42から対象者Pの毎分50回以下の比較的遅い第2の動きの情報(例えば、呼吸数等)42aが得られる。
【0027】
第1の動き情報32a及び第2の動き情報42aには、パワーのピークが発生したときの時間及びセンサ1からの距離が含まれる。したがって、位置判定部33は、パワーのピークが発生した時間及び距離を追跡することにより、対象者Pのベッド10上の現在の位置及び位置の変化等の位置情報33aを検出することができる。
【0028】
また、位置判定部33は、第1の動き情報32aに基づいてセンサ1から対象者Pのまでの距離の情報(
図6参照)を生成し、これを位置情報33aとして第3のステート判定部39に出力する。
図6は、位置判定部33が出力するセンサ1からの距離の一例を示す図である。
図6の横軸は時間(検出単位等)を示す。
【0029】
エリア毎パワー部34は、算出に使用する距離範囲を指定することでエリア121、122毎のパワーを出力する。すなわち、エリア毎パワー部34は、第1の差分データ算出部30から出力された距離スペクトル強度データを、第1の検出エリア121に関する距離スペクトル強度データ(以下「第1のエリア動き情報」という。)34aと、第2の検出エリア122に関する第1のエリア動き情報34bとに分けて出力する。
【0030】
第1の動作判定部35は、エリア毎パワー部34が出力したエリア121、122毎の第1のエリア動き情報34a、34bと、ノイズフロア検出部36が検出した最小ノイズフロア36aとに基づいて、第1の検出エリア121及び第2の検出エリア122における対象者Pの体動の有無を判定し、判定結果を動作情報35a(
図7参照)として第3のステート判定部39に出力する。
【0031】
すなわち、第1の動作判定部35は、第1の検出エリア121及び第2の検出エリア122におけるパワーが最小ノイズフロア36aを超え、さらに閾値以上に変動した場合、その位置で対象者Pの体動があったと判定する。
【0032】
第1の動作判定部35は、エリア毎パワー部34が出力する第1のエリア動き情報34a、34bのいずれか一方が予め定められた時間(例えば2秒)のパワーの平均値が体動の閾値(例えば、20dB)以上の場合(
図7のa、c、d参照)、体動が「有」の動作情報35aを第3のステート判定部39に出力する。また、第1の動作判定部35は、エリア毎パワー部34が出力する第1のエリア動き情報34a、34bの両方が予め定められた時間(例えば2秒)のパワーの平均値が体動の閾値(例えば、20dB)未満の場合(
図7のb参照)、体動が「無」の動作情報35aを第3のステート判定部39に出力する。
【0033】
ノイズフロア検出部36は、第1の検出エリア121におけるパワーの最小値を追跡することで最小ノイズフロア36a(
図7参照)を検出する。但し、最小ノイズフロア36aは、値が極端に変化しないように変化量を制限している。
【0034】
第1の抽出部37は、第1の差分データ算出部30から出力された差分データから心拍数を抽出する。第1の抽出部37は、バンドバスフィルタ370と、オートゲイン371と、櫛型フィルタ372と、ピーク毎SN比算出部373とを備える。
【0035】
バンドパスフィルタ370は、第1の差分データ算出部30から出力された差分データのうち一般の人の心拍の周波数成分(例えば、50~150bpm)が通過するようにフィルタ係数が設定されている。
【0036】
オートゲイン371は、バンドパスフィルタ370の出力信号の平均パワーが所定の値になるようにゲインを調整し、位相差0°のI信号371a(
図8(a)参照)、及び位相差90°のQ信号371b(
図8(b)参照)を出力する。
図8(a)、(b)は、オートゲイン371の出力信号の一例を示す図である。
図8(a)、(b)の横軸は時間(秒)を示し、縦軸はパワー(dB)を示す。
図8(a)、(b)に示すように、バンドパスフィルタ370を通過させることにより、心拍数を含む信号371a、371bが得られることが分かる。
【0037】
櫛型フィルタ372は、検出された信号から心拍数を特定し、ピーク毎SN比算出部373は、周期性(ピーク)を評価することにより、安定的に心拍数を出力する。
【0038】
第1のステート判定部38は、
図3に示す「待ち」、「探索」、「収束」、「安定」のいずれの状態であるかを判定し、「探索」、「収束」、「安定」の各状態の心拍数を心拍情報38aとして通信部5に出力する。なお、以下は第1のステート判定部38について説明するが、第2のステート判定部48においても検出対象以外は第1のステート判定部38と同様であるので、説明を省略する。
【0039】
具体的には、「待ち」の状態のときに第3のステート判定部39から「着床」の状態になったことが通知されると、「探索」に移行する。「探索」では、第1の抽出部37からの出力データに対して計算に用いられる時間幅が比較的短い移動平均を行う。SN比が低いが「探索」に移行してから短い時間(例えば、数十秒以下)で心拍数を算出することができる。「探索」の状態が予め定められた時間継続すると、「収束」に移行する。「収束」では、第1の抽出部37からの出力データに対して計算に用いられる時間幅が比較的長い移動平均を行う。まだSN比が低いが「探索」よりは精度の高い心拍数を「収束」に移行してから短い時間(例えば、数十秒以下)で算出することができる。「収束」の状態が予め定められた時間継続すると、「安定」に移行する。「安定」では、第1の抽出部37からの出力データに対して計算に用いられる時間幅が比較的長い移動平均を行うことで、SN比の高くなるため、「収束」よりも精度の高い心拍数を算出することができる。複数の段階で心拍数を算出することにより、長い時間待たなくても低い精度であるが心拍数を知ることができる。
【0040】
第3のステート判定部39は、位置判定部33からの位置情報33a、第1の動作判定部35からの動作情報35a、及び第2の動作判定部45からの在/不在情報45aに基づいて、
図5の判定テーブル390に従い、現在の対象者Pの状態(ステート)が
図4に示す「着床」、「寝ている」、「寝た状態で体動」、「起き上がり」、「離床」のいずれの状態にあるかを判定し、その判定結果を姿勢情報39aとして通信部5に出力する。
【0041】
図5は、判定テーブル390の一例を示す図である。判定テーブル390は、状態として、「着床」、「寝ている」、「寝た状態で体動」、「起き上がり」、「離床」を有する。判定テーブル390中の「ベッド」は対象者Pが存在する位置がベッド10の位置であることを示し、「0.7m超え」はセンサ1から対象者Pまでの距離が0.7mを超えたことを示し、「ベッド外」は対象者Pがベッド10に存在しなくなったことを示す。判定テーブル390中の「有」は対象者Pに体動があったことを示し、「無」は対象者Pに体動がなかったことを示し、「在」は対象者Pがベッド10の上に存在していることを示し、「不在」は対象者Pがベッド10の上に存在していないことを示す。
【0042】
(第2の処理系の構成)
第2の処理系4は、第2の差分データ算出部40と、スペクトラム変換部41と、フィルタ部42と、エリア毎パワー部44と、第2の動作判定部45と、ノイズフロア検出部46と、第2の抽出部47と、第2のステート判定部48とを備える。第2の差分データ算出部40は、第2の算出部の一例である。第2のステート判定部48は、状態判定部の一例である。第2の動作判定部45は、存在判定部の一例である。
【0043】
第2の差分データ算出部40は、周波数変換部22から出力される距離スペクトル強度データに予め定められた時間(例えば、20.48ms)の遅延を与えるとともに、周波数変換部22から出力される距離スペクトル強度データに対して移動平均処理を行う移動平均部40aと、周波数変換部22の出力データに移動平均部40aの出力データを加算する加算部40bとを備える。これにより距離スペクトル強度データと時系列的にその1つ前の距離スペクトル強度データとの差を距離毎に求めた差分データが得られる。
【0044】
移動平均処理では、時系列的に連続するN個の値を平均した平均値を、時間方向に1つずつ移動しながら算出する。検出したい動きの周波数に応じてNの値を定めればよい。本実施の形態では、毎分10~50回の呼吸数が検出できるようにNの値を定める。なお、移動平均処理は、単純移動平均を用いてもよく、重み付け移動平均を用いてもよい。重み付け移動平均を用いることにより、本来のデータに近いデータが得られる。重み付け移動平均は、直近ほど大きな係数を用いる。
【0045】
スペクトラム変換部41と、第1の処理系3のスペクトラム変換部31と同様に、連続する複数の周波数BIN毎にパワーを求め、それを対数に変換する。
【0046】
フィルタ部42は、第1の処理系3のフィルタ部32と同様に、スペクトラム変換部41の出力データに対して連続する複数の周波数BIN毎に移動平均処理(ローパスフィルタに相当する処理)を行い、処理結果(距離毎のパワー)を第2の動き情報42aとして位置判定部33に出力する。なお、第2の動き情報42aには、全ての位置のパワーが含まれている。
【0047】
エリア毎パワー部44は、第1の処理系3のエリア毎パワー部34と同様に、算出に使用する距離範囲を指定することでエリア121、122毎のパワーを算出する。すなわち、エリア毎パワー部44は、第2の差分データ算出部40から出力された距離スペクトル強度データを、第1の検出エリア121に関する距離スペクトル強度データ(以下「第2のエリア動き情報」という。)44aと、第2の検出エリア122に関する第2のエリア動き情報44bとに分けて出力する。
【0048】
第2の動作判定部45は、エリア毎パワー部44が算出したエリア121、122毎の第2のエリア動き情報44a、44bと、ノイズフロア検出部46が検出した最小ノイズフロア46aとに基づいて、対象者Pのベッド10に存在(着床)しているか否かを示す在/不在情報45a(
図7参照)を第3のステート判定部39に出力する。
【0049】
すなわち、第2の動作判定部45は、第1の検出エリア121及び第2の検出エリア122におけるパワーが最小ノイズフロアを超え、さらに閾値以上に変動した場合、その位置に対象者Pがいると判定する。なお、動作判定部45は、ノイズフロア検出部46のデータを用いずにエリア毎パワー部44の出力データのレベルと予め定めた閾値との比較によりベッド10上の在/不在を判定してもよい。
【0050】
第2の動作判定部45は、エリア毎パワー部44が出力する第2のエリア動き情報44a、44bのいずれか一方が予め定められた時間(例えば2秒)のパワーの平均値が在/不在の閾値(例えば、20dB)以上の場合、「在」の在/不在情報45aを第3のステート判定部39に出力する。また、第2の動作判定部45は、エリア毎パワー部44が出力する第2のエリア動き情報44a、44bの両方が予め定められた時間(例えば2秒)のパワーの平均値が在/不在の閾値(例えば、20dB)未満の場合、「不在」の在/不在情報45aを第3のステート判定部39に出力する。
【0051】
ノイズフロア検出部46は、第1の処理系3のノイズフロ検出部36と同様に、第1の検出エリア121におけるパワーの最小値を追跡することで最小ノイズフロア46aを検出する。但し、最小ノイズフロア49aは、値が極端に変化しないように変化量を制限している。
【0052】
第2の抽出部47は、バンドバスフィルタ470と、オートゲイン471と、櫛型フィルタ472と、ピーク毎SN比算出部473とを備える。
【0053】
バンドパスフィルタ470は、第2の差分データ算出部40から出力された差分データのうち一般の人の呼吸の周波数成分(例えば、5~50bpm)が通過するようにフィルタ係数が設定されている。
【0054】
オートゲイン471は、バンドパスフィルタ370の出力信号の平均パワーが所定の値になるようにゲインを調整し、位相差0°のI信号471a(
図8(c)参照)、及び位相差90°のQ信号471b(
図8(d)参照)を出力する。
図8(c)、(d)は、オートゲイン471の出力信号の一例を示す図である。
図8(c)、(d)の横軸は時間(秒)を示し、縦軸はパワー(dB)を示す。
図8(c)、(d)に示すように、バンドパスフィルタ470を通過させることにより、呼吸数を含む信号471a、471bが得られることが分かる。
【0055】
櫛型フィルタ472は、検出された信号から心拍数を特定し、ピーク毎SN比算出部473は、周期性(ピーク)を評価することにより、安定的に心拍数を出力する。
【0056】
第2のステート判定部48は、第1のステート判定部38と同様に、
図3に示す「待ち」、「探索」、「収束」、「安定」のいずれの状態であるかを判定し、「探索」、「収束」、「安定」の各状態の呼吸数を呼吸情報48aとして通信部5に出力する。
【0057】
(実施の形態の動作)
次に、本実施の形態の動作の一例を
図7を参照して説明する。
図7は、ベッド10及びその周辺におけるパワーの時系列的変化の一例を示す図である。
図7の横軸は時間を示し、縦軸は動作情報35a及び在/不在情報45aを除きパワー(dB:デシベル)を示す。
【0058】
対象者Pがベッド10に近づくと、
図7のaで示すように、第1の処理系3のエリア毎パワー部34から出力される第1のエリア動き情報34a、及び第2の処理系4のエリア毎パワー部44から出力される第2のエリア動き情報44a(例えば、呼吸)のパワーのレベルが共に大きくなる。
【0059】
次に、対象者Pがベッド10に横になると、
図7のbに示すように、第1のエリア動き情報34a及び第2のエリア動き情報44aのパワーのレベルは、共に小さくなるが、第1のエリア動き情報34aの方が第2のエリア動き情報44aよりもレベルは小さくなる。対象者Pの体動が呼吸よりも遅くなると、このような傾向になる。
図7のaからbに移行し、bの区間が予め定められた第1の時間継続することで、第3のステート判定部39は、「着床」と判定する。
図7のbの区間が現れなかった場合は、第3のステート判定部39は、「離床」と判定する。
図7のbの区間が予め定められた第2の時間(第1の時間よりも長い)継続することで、第3のステート判定部39は、「寝ている」と判定する。
【0060】
対象者Pがベッド10の上で寝返りをすると、
図7のc、dに示すように、体が動くため、第1のエリア動き情報34a及び第2のエリア動き情報44aのパワーが共に瞬間的に大きくなる。
図7のc、dの区間では、第3のステート判定部39は、「寝た状態で体動」と判定する。
図7のc、dの区間で
図6に示すように、位置判定部33から0.7mを超える距離の情報が出力された場合、第3のステート判定部39は、「起き上がり」と判定する。
【0061】
(実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)第1のステート判定部38及び第2のステート判定部48は、状態毎に移動平均処理したバイタル値(心拍数、呼吸数)を出力しているので、対象者Pのバイタル値を要求される精度に応じて出力することができる。
(2)第3のステート判定部39は、第1の動作判定部35による体動の有無の判定結果と、第2の動作判定部45によるベッド10上の存/不在の判定結果とから、対象者Pが「着床」、「寝ている」、「離床」のいずれの状態にあるかの判定結果を出力することができる。
(3)第3のステート判定部39は、位置判定部33からのセンサ1から対象者Pまでの距離の情報に基づいて、対象者Pが「起き上がり」の状態にあるとの判定結果を出力することができる。
【0062】
[変形例]
なお、本発明の実施の形態は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内で種々に変形、実施が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…生体情報検出装置(センサ)、2…検出系、3…第1の処理系、
4…第2の処理系、5…通信部、
10…ベッド、11…フレーム、12…マットレス、
20…RFレーダ、21…I/Q折畳同期加算部、22…周波数変換部、
30…第1の差分データ算出部、30a…遅延部、30b…加算部、
31…スペクトラム変換部、32…フィルタ部、33…位置判定部、
33a…位置情報、34…エリア毎パワー部、
34a、34b…第1のエリア動き情報、35…第1の動作判定部、
36…ノイズフロア検出部、36a…最小ノイズフロア、
38…第1のステート判定部、38a…心拍情報、39…第3のステート判定部、
40…第2の差分データ算出部、40a…移動平均部、40b…加算部、
41…スペクトラム変換部、42…フィルタ部、44…エリア毎パワー部、
44a、44b…第2のエリア動き情報、45…第2の動作判定部、
45a…在/不在情報、46…ノイズフロア検出部、46a…最小ノイズフロア、
47…第2の抽出部、48…第2のステート判定部、48a…呼吸情報、
110…床板、111…ヘッドボード、112…脚、111a…外側の面、
121…第1のエリア、122…第2の検出エリア、
370…バンドバスフィルタ、371…オートゲイン、371a…I信号、
371b…Q信号、372…櫛型フィルタ、373…ピーク毎SN比算出部、
470…バンドバスフィルタ、471…オートゲイン、471a…I信号、
471b…Q信号、472…櫛型フィルタ、473…ピーク毎SN比算出部、
P…対象者