(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】眼科装置、その制御方法、プログラム、及び、記録媒体
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20230905BHJP
【FI】
A61B3/10 100
(21)【出願番号】P 2019145923
(22)【出願日】2019-08-08
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100124626
【氏名又は名称】榎並 智和
(72)【発明者】
【氏名】多々良 陽子
(72)【発明者】
【氏名】山口 達夫
(72)【発明者】
【氏名】雜賀 誠
【審査官】北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-041221(JP,A)
【文献】特開2008-206684(JP,A)
【文献】特開2015-016151(JP,A)
【文献】特開2015-208574(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0128731(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 - 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)を適用する眼科装置であって、
測定アームと参照アームとを含む干渉計と、
前記干渉計からの出力に基づきOCTデータを生成するOCTデータ生成部と、
前記測定アーム及び前記参照アームの少なくとも一方の光路長を変更する光路長変更部と、
所定の眼組織に対応する前記OCTデータ中の部分データが、所定の眼球パラメータ値に基づき設定された基準深さ位置に配置されるように、前記光路長変更部を制御する処理部と
、
前記被検眼の眼球特性値を取得する取得部と
を含
み、
前記処理部は、前記眼球特性値に基づいて、前記部分データを前記基準深さ位置に配置させるための前記光路長変更部の制御を行い、
更に、前記処理部は、所定の第3眼底組織に対応する第3部分データの端部がフレームの側辺に配置されるように前記制御を行い、
更に、前記処理部は、前記第3眼底組織よりも深部に位置する所定の第4眼底組織に対応する第4部分データに基づいて前記制御を行い、
更に、前記処理部は、
前記眼球特性値に基づいて前記第4部分データの平均深さ位置を算出する算出部を含み、
前記平均深さ位置と前記基準深さ位置とに基づいて前記光路長変更部の第1制御を行う、
眼科装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記平均深さ位置が前記基準深さ位置に配置されるように前記第1制御を行う、
請求項
1の眼科装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記第3部分データの端部が前記側辺に配置されているか判定する判定部を更に含む、
請求項
2の眼科装置。
【請求項4】
前記第1制御の後に前記判定部により前記端部が前記側辺に配置されていないと判定された場合、前記処理部は、前記基準深さ位置よりも深い位置に前記平均深さ位置が配置されるように前記光路長変更部の第2制御を行う、
請求項
3の眼科装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記第2制御の後に前記判定を再度行う、
請求項
4の眼科装置。
【請求項6】
前記処理部は、前記判定部により前記端部が前記側辺に配置されていると判定されるまで、前記平均深さ位置をより深い位置に移動するための前記光路長変更部の制御を繰り返し行う、
請求項
5の眼科装置。
【請求項7】
前記判定部は、前記第4部分データから所定距離だけ浅い位置に前記第3部分データを設定する、
請求項
3~
6のいずれかの眼科装置。
【請求項8】
前記第4眼底組織は、網膜色素上皮であり、
前記算出部は、
前記眼球特性値に基づいて前記網膜色素上皮の推定形状を求める形状推定部を含み、
前記推定形状に基づいて前記平均深さ位置を求める、
請求項
1~
7のいずれかの眼科装置。
【請求項9】
前記算出部は、
OCTスキャンのピボット位置と前記推定形状との間の距離分布を求める距離算出部を更に含み、
前記距離分布に基づいて前記平均深さ位置を求める、
請求項
8の眼科装置。
【請求項10】
前記第3眼底組織は、網膜表面である、
請求項
8又は
9の眼科装置。
【請求項11】
被検眼に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)を適用する眼科装置であって、
測定アームと参照アームとを含む干渉計と、
前記干渉計からの出力に基づきOCTデータを生成するOCTデータ生成部と、
前記測定アーム及び前記参照アームの少なくとも一方の光路長を変更する光路長変更部と、
所定の眼組織に対応する前記OCTデータ中の部分データが、所定の眼球パラメータ値に基づき設定された基準深さ位置に配置されるように、前記光路長変更部を制御する処理部と
を含
み、
前記OCTデータ生成部は、前記光路長変更部の制御の後に得られた前記干渉計からの出力に基づいてOCTデータを生成し、
前記処理部は、当該OCTデータを解析して網膜表面に対応する画像を検出し、当該画像の端部がフレームの上辺に配置されている場合に前記光路長変更部の第3制御を行う、
眼科装置。
【請求項12】
被検眼に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)を適用する眼科装置であって、
測定アームと参照アームとを含む干渉計と、
前記干渉計からの出力に基づきOCTデータを生成するOCTデータ生成部と、
前記測定アーム及び前記参照アームの少なくとも一方の光路長を変更する光路長変更部と、
所定の眼組織に対応する前記OCTデータ中の部分データが、所定の眼球パラメータ値に基づき設定された基準深さ位置に配置されるように、前記光路長変更部を制御する処理部と
を含
み、
前記処理部は、前記被検眼に適用されるOCTスキャンの寸法に応じて前記基準深さ位置を変更する、
眼科装置。
【請求項13】
測定アームと参照アームとを含む干渉計と、前記測定アーム及び前記参照アームの少なくとも一方の光路長を変更する光路長変更部と、プロセッサとを含み、被検眼にOCTを適用する眼科装置を制御する方法であって、
前記干渉計からの出力に基づきOCTデータを生成するように前記プロセッサを制御し、
所定の眼組織に対応する前記OCTデータ中の部分データが、所定の眼球パラメータ値に基づき設定された基準深さ位置に配置されるように、前記光路長変更部
の制御
を実行し、
更に、前記被検眼の眼球特性値を取得するように前記プロセッサを制御し、
更に、前記眼球特性値に基づいて、前記部分データを前記基準深さ位置に配置させるように、前記光路長変更部の前記制御を実行し、
更に、所定の第3眼底組織に対応する第3部分データの端部がフレームの側辺に配置されるように前記光路長変更部の前記制御を実行し、
更に、前記第3眼底組織よりも深部に位置する所定の第4眼底組織に対応する第4部分データに基づいて前記光路長変更部の前記制御を実行し、
更に、前記眼球特性値に基づいて前記第4部分データの平均深さ位置を算出するように前記プロセッサを制御し、
更に、前記平均深さ位置と前記基準深さ位置とに基づいて前記光路長変更部の第1制御を実行する、
眼科装置の制御方法。
【請求項14】
測定アームと参照アームとを含む干渉計と、前記測定アーム及び前記参照アームの少なくとも一方の光路長を変更する光路長変更部と、プロセッサとを含み、被検眼にOCTを適用する眼科装置を制御する方法であって、
前記干渉計からの出力に基づきOCTデータを生成するように前記プロセッサを制御し、
所定の眼組織に対応する前記OCTデータ中の部分データが、所定の眼球パラメータ値に基づき設定された基準深さ位置に配置されるように、前記光路長変更部
の制御
を実行し、
更に、前記光路長変更部の前記制御の後に得られた前記干渉計からの出力に基づいてOCTデータを生成するように前記プロセッサを制御し、
更に、当該OCTデータを解析して網膜表面に対応する画像を検出するように前記プロセッサを制御し、
当該画像の端部がフレームの上辺に配置されている場合に前記光路長変更部の第3制御を実行する、
眼科装置の制御方法。
【請求項15】
測定アームと参照アームとを含む干渉計と、前記測定アーム及び前記参照アームの少なくとも一方の光路長を変更する光路長変更部と、プロセッサとを含み、被検眼にOCTを適用する眼科装置を制御する方法であって、
前記干渉計からの出力に基づきOCTデータを生成するように前記プロセッサを制御し、
所定の眼組織に対応する前記OCTデータ中の部分データが、所定の眼球パラメータ値に基づき設定された基準深さ位置に配置されるように、前記光路長変更部を制御
し、
更に、前記被検眼に適用されるOCTスキャンの寸法に応じて前記基準深さ位置を変更するように前記プロセッサを制御する、
眼科装置の制御方法。
【請求項16】
請求項
13~15のいずれかの制御方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項17】
請求項
16のプログラムが記録された、コンピュータ可読な非一時的記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科装置、その制御方法、プログラム、及び、記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科分野において画像診断は重要な位置を占める。眼科画像診断には眼底カメラや走査型レーザ検眼鏡(SLO)やスリットランプ顕微鏡が従来から使用されているが、近年では光コヒーレンストモグラフィ(OCT)の活用が進んでいる。
【0003】
OCTは、一般に、光干渉を利用して光散乱媒体(例えば、生体組織)内からの信号を取り出して高解像度の画像を再構成するイメージング技術である。OCT装置は、測定アームと参照アームとを有する干渉計を備え、画像化される深さ範囲を変更するために、測定アーム長及び/又は参照アーム長を変化させる機構を備えている。
【0004】
更に、OCT機能を有する幾つかの眼科装置は、眼球運動や拍動や体動に対処するためにアーム長(光路長)調整機能を有する。この光路長調整機能として、好適な光路長を自動で探索するためのオートZや、オートZで達成された状態を自動で維持するためのZロックが知られている(例えば、特許文献1を参照)。典型的には、オートZでは、被検眼の所定の基準部位が画像フレーム内の所定の基準深さ位置に描出されるように光路長制御が行われ、これに続くZロックでは、基準部位が基準深さ位置に描出された状態が維持されるように光路長制御が行われる。
【0005】
OCT機能を有する従来の眼科装置では、基準部位の描出目標となる基準深さ位置は固定されている。しかし、被検眼のサイズや形態には個人差があり、例えば被検眼の眼軸長が比較的長い場合(被検眼が近視である場合など)には、画像フレームの上端からはみ出した像が折り返して描出されることがある(例えば、特許文献2、3を参照)。
【0006】
なお、被検眼の個人差に応じた基準深さ位置を設定するための計測を光路長調整の前に実施することも考えられるが、検査時間が長くなる、被検者に掛かる負担が大きくなる、といった問題が新たに生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-41221号公報
【文献】特開2014-73207号公報
【文献】特開2017-86311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明に係る眼科装置、その制御方法、プログラム、及び、記録媒体の1つの目的は、OCTの光路長調整機能の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の例示的な態様は、被検眼に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)を適用する眼科装置であって、干渉計と、OCTデータ生成部と、光路長変更部と、処理部とを含む。干渉計は、測定アームと参照アームとを含む。OCTデータ生成部は、干渉計からの出力に基づきOCTデータを生成する。光路長変更部は、測定アーム及び参照アームの少なくとも一方の光路長を変更する。処理部は、所定の眼組織に対応するOCTデータ中の部分データが、所定の眼球パラメータ値に基づき設定された基準深さ位置に配置されるように、光路長変更部を制御する。
第1の例示的な態様において、基準深さ位置は、所定の第1眼底組織に対応する第1部分データの端部がフレームの側辺に配置されるように設定されてよい。
第1の例示的な態様において、第1眼底組織は、網膜表面であってよい。更に、基準深さ位置は、網膜表面よりも深部に位置する所定の第2眼底組織に対応する第2部分データに基づき設定されてよい。
第1の例示的な態様において、基準深さ位置は、第2部分データの平均深さ位置又はそれよりも深い位置に設定されてよい。
第1の例示的な態様において、第2眼底組織は、網膜色素上皮であってよい。
第1の例示的な態様において、網膜色素上皮に対応する第2部分データは、網膜表面に対応する第1部分データから所定距離だけ深い位置に設定されてよい。
第1の例示的な態様は、被検眼の眼球特性値を取得する取得部を更に含んでいてよい。更に、処理部は、眼球特性値に基づいて、部分データを基準深さ位置に配置させるための光路長変更部の制御を行ってよい。
第1の例示的な態様において、処理部は、所定の第3眼底組織に対応する第3部分データの端部がフレームの側辺に配置されるように制御を行ってよい。
第1の例示的な態様において、処理部は、第3眼底組織よりも深部に位置する所定の第4眼底組織に対応する第4部分データに基づいて制御を行ってよい。
第1の例示的な態様において、処理部は、眼球特性値に基づいて第4部分データの平均深さ位置を算出する算出部を含んでいてよく、且つ、平均深さ位置と基準深さ位置とに基づいて光路長変更部の第1制御を行ってよい。
第1の例示的な態様において、処理部は、平均深さ位置が基準深さ位置に配置されるように第1制御を行ってよい。
第1の例示的な態様において、処理部は、第3部分データの端部が側辺に配置されているか判定する判定部を更に含んでいてよい。
第1の例示的な態様において、第1制御の後に判定部により端部が側辺に配置されていないと判定された場合、処理部は、基準深さ位置よりも深い位置に平均深さ位置が配置されるように光路長変更部の第2制御を行ってよい。
第1の例示的な態様において、判定部は、第2制御の後に判定を再度行ってよい。
第1の例示的な態様において、処理部は、判定部により端部が側辺に配置されていると判定されるまで、平均深さ位置をより深い位置に移動するための光路長変更部の制御を繰り返し行ってよい。
第1の例示的な態様において、判定部は、第4部分データから所定距離だけ浅い位置に第3部分データを設定してよい。
第1の例示的な態様において、第4眼底組織は、網膜色素上皮であってよい。更に、算出部は、眼球特性値に基づいて網膜色素上皮の推定形状を求める形状推定部を含んでよく、且つ、推定形状に基づいて平均深さ位置を求めてよい。
第1の例示的な態様において、算出部は、OCTスキャンのピボット位置と推定形状との間の距離分布を求める距離算出部を更に含んでよく、且つ、距離分布に基づいて平均深さ位置を求めてよい。
第1の例示的な態様において、第3眼底組織は、網膜表面であってよい。
第1の例示的な態様において、OCTデータ生成部は、光路長変更部の制御の後に得られた干渉計からの出力に基づいてOCTデータを生成してよい。更に、処理部は、当該OCTデータに基づいて光路長変更部の第3制御を行ってよい。
第1の例示的な態様において、処理部は、当該OCTデータを解析して折り返し像の有無を判定してよく、且つ、折り返し像が検出された場合に第3制御を行ってよい。
第1の例示的な態様において、処理部は、当該OCTデータを解析して網膜表面に対応する画像を検出してよく、且つ、当該画像の端部がフレームの上辺に配置されている場合に第3制御を行ってよい。
第1の例示的な態様は、表示部と操作部とを更に含んでいてよい。更に、OCTデータ生成部は、光路長変更部の制御の後に得られた干渉計からの出力に基づいてOCTデータを生成してよい。加えて、処理部は、当該OCTデータに基づくOCT画像を表示部に表示させる表示制御部を含んでいてよく、且つ、ユーザによる指示を受けた操作部からの出力に基づいて光路長変更部の第4制御を行ってよい。
第1の例示的な態様において、処理部は、被検眼に適用されるOCTスキャンの寸法に応じて基準深さ位置を変更してよい。
第2の例示的な態様は、被検眼にOCTを適用する眼科装置を制御する方法である。この眼科装置は、測定アームと参照アームとを含む干渉計と、測定アーム及び参照アームの少なくとも一方の光路長を変更する光路長変更部と、プロセッサとを含む。この制御方法は、干渉計からの出力に基づきOCTデータを生成するようにプロセッサを制御する。更に、この制御方法は、所定の眼組織に対応するOCTデータ中の部分データが、所定の眼球パラメータ値に基づき設定された基準深さ位置に配置されるように、光路長変更部を制御する。第1の例示的な態様に対して任意的に組み合わせ可能な要素を、第2の例示的な態様に組み合わせることが可能である。
第3の例示的な態様は、第2の例示的な態様の制御方法をコンピュータに実行させるプログラムである。第1の例示的な態様に対して任意的に組み合わせ可能な要素を、第3の例示的な態様に組み合わせることが可能である。
第4の例示的な態様は、第3の例示的な態様のプログラムが記録された、コンピュータ可読な非一時的記録媒体である。第1の例示的な態様に対して任意的に組み合わせ可能な要素を、第4の例示的な態様に組み合わせることが可能である。
【発明の効果】
【0010】
例示的な態様によれば、OCTの光路長調整機能の向上を図ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】例示的な態様に係る眼科装置の構成の例を表す概略図である。
【
図2】例示的な態様に係る眼科装置を説明するための概略図である。
【
図3】例示的な態様に係る眼科装置を説明するための概略図である。
【
図4A】例示的な態様に係る眼科装置を説明するための概略図である。
【
図4B】例示的な態様に係る眼科装置を説明するための概略図である。
【
図5A】例示的な態様に係る眼科装置を説明するための概略図である。
【
図5B】例示的な態様に係る眼科装置を説明するための概略図である。
【
図6A】例示的な態様に係る眼科装置を説明するための概略図である。
【
図6B】例示的な態様に係る眼科装置を説明するための概略図である。
【
図6C】例示的な態様に係る眼科装置を説明するための概略図である。
【
図7A】例示的な態様に係る眼科装置を説明するための概略図である。
【
図7B】例示的な態様に係る眼科装置を説明するための概略図である。
【
図7C】例示的な態様に係る眼科装置を説明するための概略図である。
【
図8】実施例に係る眼科装置の構成の例を表す概略図である。
【
図9】実施例に係る眼科装置の構成の例を表す概略図である。
【
図10】実施例に係る眼科装置の構成の例を表す概略図である。
【
図11】他の実施例に係る眼科装置の構成の例を表す概略図である。
【
図12】他の実施例に係る眼科装置の構成の例を表す概略図である。
【
図13】他の実施例に係る眼科装置の動作の例を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態の例示的な態様について図面を参照しながら詳細に説明する。例示的な態様の眼科装置は、被検眼に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)を適用可能であり、所定の眼球パラメータ値に基づき設定された基準深さ位置に応じた光路長調整が可能である。
【0013】
例示的な態様の眼科装置は、典型的な眼科OCT装置と同様に、干渉計と、OCTデータ生成部と、光路長変更部とを含む。
【0014】
干渉計は、測定アームと参照アームとを含む。典型的な干渉計は、測定アームにより測定光を被検眼に導くとともにその戻り光を導き、参照アームにより参照光を導き、ビームコンバイナにより測定光の戻り光を参照光に重ね合わせて干渉光を生成し、光検出器により干渉光を検出する。
【0015】
OCTデータ生成部は、干渉計からの出力に基づきOCTデータを生成する。典型的なOCTデータ生成部は、OCTデータ生成プログラムにしたがって動作するプロセッサを含む。典型的なOCTデータは、干渉計から出力された干渉信号に少なくともフーリエ変換を適用することで生成された強度プロファイル(少なくとも深さ方向に沿った強度分布)、又は、この強度プロファイルを画像化することで構築された画像である。
【0016】
光路長変更部は、測定アーム及び参照アームの少なくとも一方の光路長を変更する。典型的な光路長変更部は、測定アーム及び参照アームのいずれか一方の光路長を変更する。測定アームに適用される典型的な光路長変更部は、測定アームの途中に設けられたコーナーキューブと、このコーナーキューブを移動するための機構と、この機構に駆動力を印可するアクチュエータとを含む。参照アームに適用される典型的な光路長変更部は、参照アームの遠端に設けられた反射ミラーと、この反射ミラーを移動するための機構と、この機構に駆動力を印可するアクチュエータとを含む。或いは、参照アームに適用される光路長変更部は、測定アームに係る上記構成と同様であってもよい。
【0017】
例示的な態様の眼科装置は、処理部を更に含む。処理部は、所定の眼組織に対応するOCTデータ中の部分データが、所定の眼球パラメータ値に基づき設定された基準深さ位置に配置されるように、光路長変更部を制御する。典型的な処理部は、光路長制御プログラムにしたがって動作するプロセッサを含む。基準深さ位置の設定のために用いられる眼球パラメータ値は、例えば、眼軸長及び屈折度数の少なくとも一方の値を含んでいてよい。基準深さ位置の設定については後述する。
【0018】
基準深さ位置は、被検眼の基準部位(所定の眼組織)の描出目標となる深さ位置(z座標)である。眼底にOCTスキャンが適用される場合において、例示的な基準深さ位置は、所定の第1眼底組織の両端が切れないように設定されてよい。すなわち、例示的な基準深さ位置は、第1眼底組織に対応する第1部分データの端部がフレームの側辺に配置されるように設定されてよい。
【0019】
例示的な第1眼底組織は網膜表面であってよい。この場合、例えば、眼底のBスキャン像(又は3次元画像)が構築される。網膜表面(内境界膜、ILM)に対応する画像領域は、典型的には、画像フレームの下端(深い側の端)に向かって凸形状を有し、この画像領域の端部(例えば、Bスキャン像における当該画像領域の左端及び右端、又は、3次元画像における当該画像領域の周縁)は、典型的には、当該画像領域のうちで最も上端側に位置する。
【0020】
例示的な基準深さ位置は、網膜表面に対応する画像領域の端部が画像フレームの側辺(側端)に配置されるように(換言すると、当該画像領域が画像フレームの側辺と交差するように、又は、当該画像領域が画像フレームの上端と交差しないように)設定される。
【0021】
更に、例示的な基準深さ位置は、網膜表面よりも深部に位置する所定の第2眼底組織に対応する第2部分データに基づき設定される。第2眼底組織は、例えばOCT画像において明瞭に描出される部位であってよく、典型的には網膜色素上皮(RPE)であってよい。例えば、基準深さ位置は、第2部分データの平均深さ位置又はそれよりも深い位置に設定される。第2眼底組織に対応する第2部分データの平均深さ位置は、例えば、第2部分データを定義する複数の点(複数の画素)の深さ位置(z座標)の平均として求められる。
【0022】
第2眼底組織が網膜色素上皮である場合において、網膜色素上皮に対応する第2部分データは、網膜表面に対応する第1部分データから所定距離(典型的には臨床的に得られた標準的な値、例えば0.5mm)だけ深い位置に設定されてよい。第1眼底組織及び/又は第2眼底組織が上記例と異なる場合も同様であってよい。このように第1部分データと第2部分データとの間の距離を予め定めておく場合には、第2眼底組織の検出のための画像解析を行う必要がないため、OCT画像の解析に要されるリソースや時間の低減を図ることが可能である。
【0023】
このような眼科装置の一態様を
図1に示す。本態様の眼科装置1000は、被検眼EにOCTスキャンを適用するために用いられる。OCTのタイプは任意であり、典型的にはフーリエドメインOCT(スペクトラルドメインOCT又はスウェプトソースOCT)である。光源1010、光検出器1060、OCTデータ生成部1070などは、採用されるOCTのタイプに応じた構成を有する。
【0024】
光源1010から出力された光は、ビームスプリッタ(ビームコンバイナ)1020によって測定光と参照光とに分割される。本態様では、ビームスプリッタ1020を透過した光が測定光として利用され、ビームスプリッタ1020により反射された光が参照光として利用されるが、逆であってもよい。換言すると、本態様では、ビームスプリッタ1020と参照ミラー1030との間の光路が参照アーム1040であり、ビームスプリッタ1020から被検眼Eに向かう光路が測定アーム1050であるが、逆であってもよい。
【0025】
参照ミラー1030は、参照ミラー駆動機構1035により参照アーム1040に沿って移動される。これにより、参照アーム1040の光路長が変更される。
【0026】
測定アーム1050は、ビームスプリッタ1020により生成された測定光を被検眼Eに導くとともに、被検眼Eからの測定光の戻り光をビームコンバイナ1020に導く。典型的な測定アーム1050は、ガルバノスキャナ等の光スキャナ(図示せず)を含み、各種スキャンモード(例えば、Bスキャン、3次元スキャンなど)を実現する。
【0027】
他方、ビームスプリッタ1020により生成された参照光は、参照アーム1040により参照ミラー1030に導かれ、参照ミラー1030により反射され、ビームコンバイナ1020に戻される。
【0028】
ビームコンバイナ1020は、被検眼Eからの測定光の戻り光を、参照ミラー1030にて反射された参照光に重ね合わせる。これにより、被検眼Eの情報を含む干渉光が生成される。この干渉光は光検出器1060に導かれる。光検出器1060は、この干渉光を検出して電気信号(干渉信号)を出力する。
【0029】
OCTデータ生成部1070は、この干渉信号に基づきOCTデータを生成する。典型的には、OCTデータ生成部1070は、被検眼Eに適用されたスキャンモードに応じたOCT画像(例えば、Bスキャン像、3次元画像など)を構築する。干渉信号から強度プロファイルを生成する処理も、強度プロファイルを画像化する処理も、公知である。
【0030】
処理部1080は、所定の眼組織に対応するOCTデータ中の部分データが、所定の眼球パラメータ値に基づき設定された基準深さ位置に配置されるように、参照ミラー駆動機構1035を制御する。例えば、処理部1080は、被検眼Eの網膜色素上皮に対応するOCT画像中の画像領域(RPE領域)が既定の基準深さ位置に配置されるように参照ミラー駆動機構1035の制御を実行する。
【0031】
そのために、処理部1080は、例えば、OCT画像を解析して網膜表面に対応する画像領域(ILM領域)を検出し、このILM領域から0.5mm程度深い位置にある高輝度で明瞭な領域をRPE領域に設定し、このRPE領域における複数の点(複数の画素)のそれぞれの深さ位置(z座標)を平均し、得られた平均深さ位置(RPE領域の平均z座標)の基準深さ位置に対する偏位を算出し、この偏位を打ち消す方向及び距離だけ参照ミラー1030を移動させるように参照ミラー駆動機構1035を制御する。或いは、処理部1080は、ILM領域の検出を行うことなく、OCT画像を解析して上記高輝度領域を検出し、それをRPE領域に設定してもよい。
【0032】
このような一連の処理を繰り返し行うことで、RPE領域の平均深さ位置を基準深さ位置に維持するようにZロックを行うことができる。また、基準深さ位置を上記のように設定することにより、網膜表面の像の端部が画像フレームの側辺に配置されたOCT画像が得られる。換言すると、画像フレームの上端から網膜像がはみ出さないため、網膜の折り返し像が発生しない。
【0033】
〈基準深さ位置の設定について〉
ここでは、典型的な広角OCTスキャンの1つであるライン長12mmのBスキャンが適用される場合のオートZ及びZロックに採用可能な基準深さ位置について説明する。特に、近視眼のように眼軸長が比較的長い眼の眼底にライン長12mmのBスキャンを適用する場合において眼底の折り返し像が発生しないような条件について説明する。
【0034】
最初に眼球を次のようにモデル化する。眼底の後極部の形状は、例えば網膜色素上皮(RPE)により定義されるものとする。また、後極部の形状は楕円で近似できると仮定する。
【0035】
David A. Atchison et al., “Shape of the Retinal Surface in Emmetropia and Myopia”, Investigative Ophthalmology & Visual Science, August 2005, Vol. 46, No.8, PP. 2698-2707に記載されている回帰直線を参照すると、網膜の曲率半径(網膜形状を近似する楕円の長軸の半径)「Rz」と、赤道の半径「Rx」及び「Ry」とは、それぞれ以下のように表される。ここで、長さの単位はミリメートルである。また、「D」は眼屈折度数の単位ディオプトリを示す。
・Rz(mm) = -0.163D + 10.148
・Rx(mm) = -0.043D + 11.455
・Ry(mm) = -0.090D + 11.365
【0036】
これより、次の事項を仮定する:眼屈折度数0Dに対応する眼軸長が24mmであること;眼軸長が1mm延びるごとに眼屈折度数が-3Dずつ変化すること;厚い箇所の網膜厚が500umであること。
【0037】
ライン長12mmのBスキャンを眼底に適用する場合に眼底の折り返し像が発生しないような基準深さ位置を設定するために、次のような方法を採用する。
【0038】
1.眼球モデルに基づいて網膜形状のシミュレーションを行う。なお、前述したように、網膜の断面像は楕円形状であること、網膜曲率半径が長軸半径に相当すること、赤道が短軸に相当することを前提とする。
【0039】
2.眼底にOCTスキャン(ライン長12mmのBスキャン)を適用して得られる画像をシミュレーションを用いて求める。
【0040】
例示的なシミュレーションにおいて用いられる眼球モデルを
図2に示す。眼球モデル2000において、符号2010は楕円形状の眼底(後極部、網膜、網膜色素上皮)2010を示し、符号2020は角膜を示し、符号2030は虹彩を示し、符号2040は水晶体を示す。
【0041】
また、符号2100は、OCTスキャン(ライン長12mmのBスキャン)の中心軸(スキャン中心軸)を示す。スキャン中心軸2100は、眼球モデル2000の軸(典型的には、角膜2020の頂点と眼底2010の中心とを結ぶ直線)に一致しているとする。符号2110a及び2110bは、それぞれ、スキャン中心軸2100を中心とするライン長12mmのBスキャンにおける最大振れ角の測定光の経路を示す。符号2120は、ライン長12mmのBスキャンにおいて振られる測定光の中心点(固定点、ピボット点)を示す。符号2130は、ライン長12mmのBスキャンを用いて画像化される範囲(画像化範囲)を示す。
【0042】
また、前述したようにy方向における赤道半径を「Ry」で示すとともに、眼球モデル2000の眼軸長を「AL」で示し、角膜頂点からピボット点までの距離を「CP」で示す。ここで、Arthur G. Bennett et al., “Improvements on Littmann's method of determining the size of retinal features by fundus photography”, Graefe’s Arch Clin Exp Ophthalmol (1994), 232:361-367を参照し、角膜頂点からピボット点までの距離「CP」として標準的な値である1.82mmを採用することにする。標準的な眼の焦点距離(f)を17mmとすると、この眼にライン長12mmのBスキャンを適用するときの測定光の最大振れ角(θ)、つまりスキャン中心軸2100と経路2110a(又は経路2110b)とがなす角度は、19.44度となる。これは、屈折度数0Dの眼球モデルにライン長12mmのBスキャンを適用した場合に相当する。
【0043】
また、幾つかの基準深さ位置についてZロックの状態をシミュレーションする。以下においては、画像フレームの上端から下端までのピクセル数(z方向におけるピクセル数)を992とし、画像フレーム上端から450ピクセルの位置に基準深さ位置を設定した場合と、画像フレーム上端から550ピクセルの位置に基準深さ位置を設定した場合とについてシミュレーションを行う。
【0044】
なお、一般に、基準深さ位置が画像フレーム下端に近づくほど、描出される眼底の画質が低下することが知られている。一方、基準深さ位置が画像フレーム上端に近づくほど、眼底の折り返し像が発生する可能性が高くなる。本例では、このような制限を受ける基準深さ位置の最適化を図る。
【0045】
ここで、前述したように、オートZやZロックは、網膜色素上皮に相当する画像領域(RPE領域)の平均深さ位置を参照して実行されるものとする。
【0046】
更に、幾つかの屈折度数についてZロックの状態をシミュレーションする。以下においては、屈折度数-6D及び-10Dが採用される。加えて、Arthur G. Bennett et al.に記載されたピボット点の位置の個人差(CP = 1.27~2.37mm)と、眼科装置の作動距離の許容範囲(例えば、±0.1mm)とを考慮し、ピボット点の範囲1.17~2.47mmにおいて比較検討を行うこととする。
【0047】
さて、まず、眼軸長の相違による網膜形状の相違を把握するために、異なる複数の眼軸長にそれぞれ対応する複数の網膜形状をシミュレーションする。このシミュレーションの例を
図3に示す。眼球モデル2210は眼屈折度数0Dに対応する眼軸長の眼球モデルであり、眼球モデル2220は眼屈折度数-6Dに対応する眼軸長の眼球モデルである。符号2230はスキャン中心軸を示す。眼球モデル2210の形状と眼球モデル2220の形状とを領域2240内において比較すると、大きな相違は見られない。
【0048】
このように、眼軸長(眼屈折度数)の相違に応じた網膜形状の相違を考慮する限りにおいては、OCT画像への影響はさほど大きくなく、眼底の折り返し像の発生の有無や程度への影響もそれほど大きくないと考えられる。そこで、OCT画像に影響を与えうる各種のパラメータについて検討する。以下、基準深さ位置、眼屈折度数、及びピボット点の位置の3つのパラメータについてそれぞれ検討する。なお、これら以外のパラメータについても同様の検討を行うことが可能であり、その結果を利用することが可能である。
【0049】
まず、OCT画像に対する基準深さ位置の影響について
図4A及び
図4Bを参照しつつ説明する。前述したように、深さ方向(z方向)におけるピクセル数を992とし、深さ「z」をピクセル番号(0~991)で表現する。ここで、角膜に最も近い位置のピクセルの番号は「0」であり、角膜から遠くなるにつれてピクセル番号(整数)は大きくなっていくものとする。ピクセル番号が増加する方向を「+z方向」とする。
【0050】
図4Aは、基準深さ位置を「z = 450」に設定してシミュレーションを実施して得られた網膜の形状及び位置の結果を示し、
図4Bは、基準深さ位置を「z = 550」に設定してシミュレーションを実施して得られた網膜の形状及び位置の結果を示す。
【0051】
シミュレーションの条件として、赤道直径は23.25mmに設定され、眼屈折度数0Dに対応する眼軸長は24mmに設定され、眼屈折度数-6Dに対応する眼軸長は26mmに設定され、OCTスキャンは眼屈折度数0D(焦点距離f = 17mm)の場合におけるライン長12mmの縦方向(y方向)のBスキャンに設定され、このBスキャンにおける測定光のピボット点の位置(ピボット位置)は角膜頂点から1.82mmだけ+z方向に離れた位置に設定される。y方向の座標は、距離「mm」を単位とし、前述したスキャン中心軸を「0」として「-6mm ~ +6mm」の範囲において定義されている。なお、このy座標は、眼屈折度数0D(焦点距離f = 17mm)の場合において定義されたものである。
【0052】
基準深さ位置「z = 450」に対応するシミュレーション結果3100(
図4A)において、符号3111は、眼屈折度数0D(眼軸長24mm)に対応する網膜表面の位置及び形状を示し、符号3112は、同じく眼屈折度数0D(眼軸長24mm)に対応する網膜色素上皮の位置及び形状を示す。ここで、前述したように、網膜色素上皮は、網膜表面を+z方向に0.5mmだけ変位させた位置に設定されている(以下同様)。
【0053】
また、符号3121は、眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)に対応する網膜表面の位置及び形状を示し、符号3122は、同じく眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)に対応する網膜色素上皮の位置及び形状を示す。
【0054】
このシミュレーション結果3100から分かるように、眼屈折度数0D(眼軸長24mm)の場合には、網膜表面3111の全体(y = -6~+6)が画像フレーム(画像化範囲)内に描出されるが、眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)の場合には、網膜表面3121の両端(y = -6の近傍、及び、y = +6の近傍)が描出されない。すなわち、眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)程度の近視眼や、より近視が強い眼(より眼軸長が長い眼)を、上記条件で撮影した場合には、網膜表面の両端が画像フレームからはみ出して折り返し像が発生するおそれがあることが分かる。
【0055】
次に
図4Bを参照する。基準深さ位置「z = 550」に対応するシミュレーション結果3200において、符号3211は、眼屈折度数0D(眼軸長24mm)に対応する網膜表面の位置及び形状を示し、符号3212は、同じく眼屈折度数0D(眼軸長24mm)に対応する網膜色素上皮の位置及び形状を示す。
【0056】
また、符号3221は、眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)に対応する網膜表面の位置及び形状を示し、符号3222は、同じく眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)に対応する網膜色素上皮の位置及び形状を示す。
【0057】
このシミュレーション結果3200から分かるように、眼屈折度数0D(眼軸長24mm)の場合だけでなく、眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)の場合にも、網膜表面の全体(y = -6~+6)が画像フレームに描出される。なお、眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)の場合、網膜表面3221の両端がぎりぎり画像フレーム内に収まっている。したがって、眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)程度の近視眼や、より近視が弱い眼(より眼軸長が短い眼)を、上記条件で撮影した場合には、網膜表面の全体が画像フレームに描出され、折り返し像が発生しない可能性が高いことが分かる。
【0058】
このように、
図4A及び
図4Bに示すシミュレーション結果3100及び3200を検討することによって、基準深さ位置「z = 450」であっても、眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)程度の近視眼で既に網膜表面が画像フレーム(画像化範囲)からはみ出し、折り返し像が発生する可能性があることが分かる。また、ピボット位置及び眼屈折度数の双方を固定した場合、基準深さ位置が浅くなるほど(つまり、基準深さ位置が画像フレームの上端に近づくほど、又は、zの値が小さくなるほど)、網膜表面が画像化範囲からはみ出し、折り返し画像が発生するリスクが高くなることが分かる。
【0059】
次に、OCT画像に対する眼屈折度数の影響について
図5A及び
図5Bを参照しつつ説明する。
図5A及び
図5Bはともに、基準深さ位置を「z = 450」に設定してシミュレーションを実施して得られた網膜の形状及び位置の結果を示す。
【0060】
シミュレーションの条件として、赤道直径は23.25mmに設定され、眼屈折度数0Dに対応する眼軸長は24mmに設定され、眼屈折度数-6Dに対応する眼軸長は26mmに設定され、眼屈折度数-10Dに対応する眼軸長は27.33mmに設定され、OCTスキャンは眼屈折度数0D(焦点距離f = 17mm)の場合におけるライン長12mmの縦方向(y方向)のBスキャンに設定され、このBスキャンにおける測定光のピボット点の位置(ピボット位置)は角膜頂点から1.82mmだけ+z方向に離れた位置に設定される。y方向の座標は、距離「mm」を単位とし、前述したスキャン中心軸を「0」として「-6mm ~ +6mm」の範囲において定義されている。なお、このy座標は、眼屈折度数0D(焦点距離f = 17mm)の場合において定義されたものである。
【0061】
眼屈折度数-6Dに対応するシミュレーション結果3300(
図5A)において、符号3311は、眼屈折度数0D(眼軸長24mm)に対応する網膜表面の位置及び形状を示し、符号3312は、同じく眼屈折度数0D(眼軸長24mm)に対応する網膜色素上皮の位置及び形状を示す。これらは次との比較のために提示されている。符号3321は、眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)に対応する網膜表面の位置及び形状を示し、符号3322は、同じく眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)に対応する網膜色素上皮の位置及び形状を示す。
【0062】
このシミュレーション結果3300から分かるように、眼屈折度数0D(眼軸長24mm)の場合には、網膜表面3311の全体(y = -6~+6)が画像フレーム(画像化範囲)内に描出されるが、眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)の場合には、網膜表面3321の両端(y = -6の近傍、及び、y = +6の近傍)が描出されない。
【0063】
次に
図5Bを参照する。眼屈折度数-10Dに対応するシミュレーション結果3400において、符号3411は、眼屈折度数0D(眼軸長24mm)に対応する網膜表面の位置及び形状を示し、符号3412は、同じく眼屈折度数0D(眼軸長24mm)に対応する網膜色素上皮の位置及び形状を示す。これらは次との比較のために提示されている。符号3421は、眼屈折度数-10D(眼軸長27.33mm)に対応する網膜表面の位置及び形状を示し、符号3422は、同じく眼屈折度数-10D(眼軸長27.33mm)に対応する網膜色素上皮の位置及び形状を示す。
【0064】
このシミュレーション結果3400から分かるように、眼屈折度数-10D(眼軸長27.33mm)の場合には、網膜表面3421の両端の比較的広い範囲が描出されず、網膜色素上皮3422でさえもその両端がぎりぎり画像フレーム内に収まることが分かる。
【0065】
このように、
図5A及び
図5Bに示すシミュレーション結果3300及び3400を検討することによって、基準深さ位置「z = 450」の場合においては、眼屈折度数-10D(眼軸長27.33mm)程度の強度近視眼では網膜表面が画像フレーム(画像化範囲)から大きくはみ出し、折り返し像が発生する可能性が高いことが分かる。また、ピボット位置及び基準深さ位置の双方を固定した場合、近視眼の屈折度数が大きくなるほど(つまり、負値である眼屈折度数の絶対値が大きくなるほど、又は、近視の度合が大きくなるほど)、網膜表面が画像化範囲からはみ出し、折り返し画像が発生するリスクが高くなることが分かる。
【0066】
最後に、OCT画像に対するピボット位置の影響について
図6A、
図6B及び
図6Cを参照しつつ説明する。
図6A~
図6Cはいずれも、基準深さ位置を「z = 450」に設定してシミュレーションを実施して得られた網膜の形状及び位置の結果を示す。
【0067】
シミュレーションの条件として、赤道直径は23.25mmに設定され、眼屈折度数0Dに対応する眼軸長は24mmに設定され、眼屈折度数-6Dに対応する眼軸長は26mmに設定され、OCTスキャンは眼屈折度数0D(焦点距離f = 17mm)の場合におけるライン長12mmの縦方向(y方向)のBスキャンに設定される。y方向の座標は、距離「mm」を単位とし、前述したスキャン中心軸を「0」として「-6mm ~ +6mm」の範囲において定義されている。なお、このy座標は、眼屈折度数0D(焦点距離f = 17mm)の場合において定義されたものである。
【0068】
標準的なピボット位置「1.82mm」に対応するシミュレーション結果3600(
図6A)において、符号3511は、眼屈折度数0D(眼軸長24mm)に対応する網膜表面の位置及び形状を示し、符号3512は、同じく眼屈折度数0D(眼軸長24mm)に対応する網膜色素上皮の位置及び形状を示す。また、符号3521は、眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)に対応する網膜表面の位置及び形状を示し、符号3522は、同じく眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)に対応する網膜色素上皮の位置及び形状を示す。
【0069】
このシミュレーション結果3500から分かるように、眼屈折度数0D(眼軸長24mm)の場合には、網膜表面3511の全体(y = -6~+6)がぎりぎり画像フレーム(画像化範囲)内に描出されるが、眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)の場合には、網膜表面3521の両端(y = -6の近傍、及び、y = +6の近傍)が描出されない。
【0070】
次に
図6Bを参照する。ピボット位置「1.17mm」に対応するシミュレーション結果3600において、符号3611は、眼屈折度数0D(眼軸長24mm)に対応する網膜表面の位置及び形状を示し、符号3612は、同じく眼屈折度数0D(眼軸長24mm)に対応する網膜色素上皮の位置及び形状を示す。また、符号3621は、眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)に対応する網膜表面の位置及び形状を示し、符号3622は、同じく眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)に対応する網膜色素上皮の位置及び形状を示す。
【0071】
このシミュレーション結果3600から分かるように、眼屈折度数0D(眼軸長24mm)の場合及び眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)の場合のいずれにおいても、網膜表面の両端が画像フレーム内に描出されないことが分かる。特に、眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)の場合には、網膜表面の両端の比較的広い範囲が描出されないことが分かる。
【0072】
続いて
図6Cを参照する。ピボット位置「2.47mm」に対応するシミュレーション結果3700において、符号3711は、眼屈折度数0D(眼軸長24mm)に対応する網膜表面の位置及び形状を示し、符号3712は、同じく眼屈折度数0D(眼軸長24mm)に対応する網膜色素上皮の位置及び形状を示す。また、符号3721は、眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)に対応する網膜表面の位置及び形状を示し、符号3722は、同じく眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)に対応する網膜色素上皮の位置及び形状を示す。
【0073】
このシミュレーション結果3700から分かるように、眼屈折度数0D(眼軸長24mm)の場合には、網膜表面3711の全体(y = -6~+6)が画像フレーム(画像化範囲)内に描出されるが、眼屈折度数-6D(眼軸長26mm)の場合には、網膜表面3721の両端(y = -6の近傍、及び、y = +6の近傍)が描出されない。
【0074】
このように、
図6A~
図6Cに示すシミュレーション結果3500~3700を検討することによって、角膜に近い位置にピボット点が設定されると(ピボット位置の値が小さくなると)、折り返し像が発生するおそれが高まることが分かる。また、眼屈折度数及び基準深さ位置の双方を固定した場合、ピボット位置が角膜頂点に近づくほど、網膜表面が画像化範囲からはみ出し、折り返し画像が発生するリスクが高くなることが分かる。
【0075】
以上のシミュレーション及びその検討の結果によれば、本態様において、基準深さ位置を次のように設定することが可能である。基準深さ位置の設定に係る本例の説明には、
図7A、
図7B及び
図7Cを参照する。
【0076】
図7Aに示すように、被検眼(又は眼球モデル)2300の眼底に対してOCTスキャンが適用されたとする。本例のOCTスキャンはBスキャンであり、被検眼2300の軸2310上に位置するピボット点2320を中心に測定光を振るようにして実行される。これにより、画像化範囲2330を通過するように配列されたN本のAラインに対応するN個のAスキャン像2340-n(n=1、2、・・・、N)が得られる。N個のAスキャン像2340-1~2340-Nは、ピボット点2320を中心とする扇形状に配列されている。
【0077】
このようなN個のAスキャン像2340-1~2340-Nに基づいてBスキャン像が構築される。典型的には、N個のAスキャン像2340-1~2340-Nの配列を、
図7Aに示す扇形状配置から、
図7Bに示す平行配置に変換することにより、Bスキャン像が構築される。このようなBスキャン像を用いて基準深さ位置を設定することが可能である。基準深さ位置を設定するための幾つかの条件の例について、
図7Cに示すシミュレーション結果3800に基づき説明する。
【0078】
例示的な第1の条件は、網膜表面(ILM領域)3810が画像フレームの側辺と交差することである。すなわち、網膜表面3810の左端(y = -6)が左側辺上に配置され、且つ、右端(y = +6)が右側辺上に配置されることである。換言すると、本条件は、z方向の原点(z=0)が画像フレームの上辺に設定され、且つ、+z方向が画像フレームの上辺から下辺に向かう方向であるとし、更に、網膜表面3810を表す曲線を「z = R(y)」で表現したときに、「R(y=-6)≧0」且つ「R(y=+6)≧0」が成立することである。
【0079】
例示的な第2の条件は、網膜表面3810から所定距離だけ+z方向に変位した位置3820に網膜色素上皮(RPE領域)が存在すると仮定することである。この所定距離は、例えば前述のように0.5mmに設定されるが、これに限定されない。
【0080】
例示的な第3の条件は、画像化範囲2330(-6≦y≦+6)における網膜色素上皮3820の平均深さ位置又はそれよりもz座標値が大きい位置(つまり、平均深さ位置、又は、平均深さ位置に対して画像フレームの下辺寄りの位置)を基準深さ位置として設定することである。
【0081】
前述した各種のシミュレーションによれば、以下のような知見が得られる。まず、基準深さ位置を「z = 450」に設定した場合、眼軸長が眼屈折度数-6Dに相当する長さに達するまでは、傾斜が無い限りにおいて、画像フレームの上端から網膜像がはみ出さず、網膜の折り返し像は発生しない。一方、基準深さ位置を「z = 550」に設定すれば、或る程度の余裕を持って撮影を行うことができる。
【0082】
また、眼軸長が眼屈折度数-10Dに相当する長さである場合においては、基準深さ位置を「z = 450」に設定したとしても、網膜の折り返し像が発生する可能性がある。
【0083】
また、ピボット点の位置は個人差やアライメント誤差によって変化するものであるが、ピボット点が角膜側に変位した場合には、眼軸長が眼屈折度数-6Dに相当する長さ程度であっても折り返し像が発生する可能性がある。
【0084】
<実施例>
上記した例示的態様を実現するための眼科装置の一例を説明する。本実施例に係る眼科装置は、眼底にOCTスキャンを適用するための構成を備える。以下、スウェプトソースOCTと眼底カメラとを組み合わせた例を説明するが、実施例はこれに限定されない。例えば、低コヒーレンス光源と分光器とを用いたスペクトラルドメインOCTを、スウェプトソースOCTの代わりに採用することができる。
【0085】
図8に示す本実施例の眼科装置1は、眼底カメラユニット2、OCTユニット100及び演算制御ユニット200を含む。眼底カメラユニット2には、被検眼E(前眼部Ea、眼底Ef)の正面画像を取得するための光学系や機構が設けられている。OCTユニット100には、OCTスキャンを実行するための光学系や機構が設けられている。演算制御ユニット200は、各種の演算及び制御を実行するプロセッサを含む。これらに加え、被検者の顔を支持するための部材(顎受け、額当て等)や、OCTスキャンの適用部位を切り替えるためのレンズユニット(例えば、前眼部OCT用アタッチメント)が設けられる。更に、眼科装置1は一対の前眼部カメラ5A及び5Bを備える。
【0086】
本明細書において「プロセッサ」は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array))等の回路を意味する。プロセッサは、例えば、記憶回路や記憶装置に格納されているプログラムを読み出し実行することで、目的の機能を実現する。
【0087】
眼底カメラユニット2には、前眼部Ea及び眼底Efを撮影するための光学系が設けられている。取得される画像は、観察画像、撮影画像等の正面画像である。観察画像は、近赤外光を用いた動画撮影により得られる。撮影画像は、フラッシュ光を用いた静止画像である。
【0088】
眼底カメラユニット2は、照明光学系10と撮影光学系30とを含む。照明光学系10は被検眼Eに照明光を照射する。撮影光学系30は、被検眼Eからの照明光の戻り光を検出する。OCTユニット100からの測定光は、眼底カメラユニット2内の光路を通じて被検眼Eに導かれ、その戻り光は、同じ光路を通じてOCTユニット100に導かれる。
【0089】
照明光学系10の観察光源11は、近赤外成分を含む連続光(観察照明光)を出力する。観察照明光は、曲面状の反射面を有する反射ミラー12により反射され、集光レンズ13を経由し、可視カットフィルタ14を透過して近赤外光となる。更に、観察照明光は、撮影光源15の近傍にて一旦集束し、ミラー16により反射され、リレーレンズ17、18、絞り19及びリレーレンズ20を経由する。そして、観察照明光は、孔開きミラー21の周辺部(孔部の周囲の領域)にて反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて被検眼E(前眼部Ea又は眼底Ef)を照明する。被検眼Eからの観察照明光の戻り光は、対物レンズ22により屈折され、ダイクロイックミラー46を透過し、孔開きミラー21の中心領域に形成された孔部を通過し、ダイクロイックミラー55を透過し、撮影合焦レンズ31を経由し、ミラー32により反射される。更に、この戻り光は、ハーフミラー33Aを透過し、ダイクロイックミラー33により反射され、集光レンズ34によりイメージセンサ35の受光面に結像される。イメージセンサ35は、所定のフレームレートで戻り光を検出する。なお、撮影光学系30のフォーカスは眼底Ef又は前眼部に対して調整される。
【0090】
撮影光源15は、可視成分(及び近赤外成分)を含むフラッシュ光(撮影照明光)を出力する。撮影照明光は、観察照明光と同様の経路を通って眼底Efに照射される。被検眼Eからの撮影照明光の戻り光は、観察照明光の戻り光と同じ経路を通ってダイクロイックミラー33まで導かれ、ダイクロイックミラー33を透過し、ミラー36により反射され、集光レンズ37によりイメージセンサ38の受光面に結像される。
【0091】
LCD39は固視標や視力測定用視標を表示する。LCD39から出力された光束(固視光束、視標光束)は、その一部がハーフミラー33Aにて反射され、ミラー32に反射され、撮影合焦レンズ31及びダイクロイックミラー55を経由し、孔開きミラー21の孔部を通過する。孔開きミラー21の孔部を通過した光束は、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて眼底Efに投射される。
【0092】
固視位置の変更は、LCD39による輝点等の表示位置を変更することによって実現される。輝点等の表示位置は、後述の主制御部211によって制御される。主制御部211は、所定の手法で設定された固視位置に対応するLCD39の画面の位置に輝点等を表示させる。固視位置を設定する手法は、例えば、後述のユーザインターフェイス240を用いて行われる。また、撮影モード(黄斑モード、乳頭モード、パノラマモード等)に応じた既定の位置に輝点等を表示するように構成することもできる。
【0093】
アライメント光学系50は、被検眼Eに対する光学系のアライメントに用いられるアライメント指標を生成する。LED51から出力されたアライメント光は、絞り52及び53並びにリレーレンズ54を経由し、ダイクロイックミラー55により反射され、孔開きミラー21の孔部を通過する。孔開きミラー21の孔部を通過した光は、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により被検眼Eに投射される。アライメント光の戻り光(角膜反射光、眼底反射光等)は、観察照明光の戻り光と同じ経路を通ってイメージセンサ35に導かれる。その受光像(アライメント指標像)に基づいてマニュアルアライメントやオートアライメントを実行できる。
【0094】
フォーカス光学系60は、被検眼Eに対するフォーカス調整に用いられるスプリット指標を生成する。フォーカス光学系60は、撮影光学系30の光路(撮影光路)に沿った撮影合焦レンズ31の移動に連動して、照明光学系10の光路(照明光路)に沿って移動される。反射棒67は、照明光路に対して挿脱可能である。フォーカス調整を行う際には、反射棒67の反射面が照明光路に傾斜配置される。LED61から出力されたフォーカス光は、リレーレンズ62を通過し、スプリット指標板63により2つの光束に分離され、二孔絞り64を通過し、ミラー65により反射され、集光レンズ66により反射棒67の反射面に一旦結像されて反射される。更に、フォーカス光は、リレーレンズ20を経由し、孔開きミラー21に反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて眼底Efに投射される。フォーカス光の眼底反射光は、アライメント光の戻り光と同じ経路を通ってイメージセンサ35に導かれる。その受光像(スプリット指標像)に基づいてマニュアルフォーカシングやオートフォーカシングを実行できる。
【0095】
視度補正レンズ70及び71は、孔開きミラー21とダイクロイックミラー55との間の撮影光路に選択的に挿入可能である。視度補正レンズ70は、強度遠視を補正するためのプラスレンズ(凸レンズ)である。視度補正レンズ71は、強度近視を補正するためのマイナスレンズ(凹レンズ)である。
【0096】
ダイクロイックミラー46は、眼底撮影用の光路とOCTスキャン用の光路とを合成する。ダイクロイックミラー46は、OCTスキャンに用いられる波長帯の光を反射し、眼底撮影用の光を透過させる。OCTスキャン用の光路には、OCTユニット100側から順に、コリメータレンズユニット40、光路長変更部41、光スキャナ42、OCT合焦レンズ43、ミラー44、及びリレーレンズ45が設けられている。
【0097】
光路長変更部41は、
図8に示す矢印の方向に移動可能とされ、OCTスキャン用の光路長を変更する。この光路長の変更は、眼軸長に応じた光路長補正や、干渉状態の調整などに利用される。光路長変更部41は、コーナーキューブと、これを移動する機構とを含む。
【0098】
光スキャナ42は、被検眼Eの瞳孔と光学的に共役な位置に配置される。光スキャナ42は、OCTスキャン用の光路を通過する測定光LSを偏向する。光スキャナ42は、例えば、2次元走査が可能なガルバノスキャナである。
【0099】
OCT合焦レンズ43は、OCTスキャン用の光学系のフォーカス調整を行うために、測定光LSの光路に沿って移動される。撮影合焦レンズ31の移動、フォーカス光学系60の移動、及びOCT合焦レンズ43の移動を連係的に制御することができる。
【0100】
眼科装置1は、対物レンズ22の前側(被検眼E側)に配置可能な補助レンズユニット(図示せず)を備えていてよい。補助レンズユニットは、例えば、正の屈折力を有するレンズ群を含む。補助レンズユニットは、眼底EfにOCTスキャンを適用するときには光路から退避され、前眼部EaにOCTスキャンを適用するときには光路に挿入される。補助レンズユニットの移動(光路に対する挿脱)は、電動又は手動で実行される。
【0101】
前眼部カメラ5A及び5Bは、特開2013-248376号公報に開示された発明と同様に、眼科装置1の光学系と被検眼Eとの間の相対位置を求めるために用いられる。前眼部カメラ5A及び5Bは、光学系が格納された筐体(眼底カメラユニット2等)の被検眼E側の面に設けられている。眼科装置1は、前眼部カメラ5A及び5Bにより異なる方向から実質的に同時に取得された2つの前眼部像を解析することにより、光学系と被検眼Eとの間の3次元的な相対位置を求める。2つの前眼部像の解析は、特開2013-248376号公報に開示された解析と同様であってよい。また、前眼部カメラの個数は2以上の任意の個数であってよい。
【0102】
本例では、2以上の前眼部カメラを利用して被検眼Eの位置(つまり被検眼Eと光学系との相対位置)を求めているが、被検眼Eの位置を求めるための手法はこれに限定されない。例えば、被検眼Eの正面画像(例えば前眼部Eaの観察画像)を解析することにより、被検眼Eの位置を求めることができる。或いは、被検眼Eの角膜に指標を投影する手段を設け、この指標の投影位置(つまり、この指標の角膜反射光束の検出状態)に基づいて被検眼Eの位置を求めることができる。
【0103】
図9に例示するように、OCTユニット100には、スウェプトソースOCTを実行するための光学系が設けられている。この光学系は、波長可変光源(波長掃引型光源)からの光を測定光と参照光とに分割し、被検眼Eからの測定光の戻り光と参照光路を経由した参照光とを重ね合わせて干渉光を生成し、この干渉光を検出する干渉光学系を含む。干渉光学系により得られる検出結果(検出信号)は、演算制御ユニット200に送られる。
【0104】
光源ユニット101は、例えば、出射光の波長を高速で変化させる近赤外波長可変レーザを含む。光源ユニット101から出力された光L0は、光ファイバ102により偏波コントローラ103に導かれてその偏光状態が調整される。更に、光L0は、光ファイバ104によりファイバカプラ105に導かれて測定光LSと参照光LRとに分割される。
【0105】
参照光LRは、光ファイバ110によりコリメータ111に導かれて平行光束に変換され、光路長補正部材112及び分散補償部材113を経由し、コーナーキューブ114に導かれる。光路長補正部材112は、参照光LRの光路長と測定光LSの光路長とを合わせるよう作用する。分散補償部材113は、参照光LRと測定光LSとの間の分散特性を合わせるよう作用する。コーナーキューブ114は、参照光LRの入射方向に移動可能であり、それにより参照光LRの光路長が変更される。
【0106】
コーナーキューブ114を経由した参照光LRは、分散補償部材113及び光路長補正部材112を経由し、コリメータ116によって平行光束から集束光束に変換され、光ファイバ117に入射する。光ファイバ117に入射した参照光LRは、偏波コントローラ118に導かれてその偏光状態が調整され、光ファイバ119によりアッテネータ120に導かれて光量が調整され、光ファイバ121によりファイバカプラ122に導かれる。
【0107】
一方、ファイバカプラ105により生成された測定光LSは、光ファイバ127により導かれてコリメータレンズユニット40により平行光束に変換され、光路長変更部41、光スキャナ42、OCT合焦レンズ43、ミラー44及びリレーレンズ45を経由し、ダイクロイックミラー46により反射され、対物レンズ22により屈折されて被検眼Eに入射する。なお、前眼部EaにOCTスキャンを適用するときには、対物レンズ22により屈折された測定光LSは、前述した補助レンズユニット内のレンズ群により更に屈折されて前眼部Eaに照射される。測定光LSは、眼底Ef又は前眼部Eaの様々な深さ位置において散乱・反射される。被検眼Eからの測定光LSの戻り光は、往路と同じ経路を逆向きに進行してファイバカプラ105に導かれ、光ファイバ128を経由してファイバカプラ122に到達する。
【0108】
ファイバカプラ122は、光ファイバ128を介して入射された測定光LSと、光ファイバ121を介して入射された参照光LRとを合成して(干渉させて)干渉光を生成する。ファイバカプラ122は、所定の分岐比(例えば1:1)で干渉光を分岐することにより、一対の干渉光LCを生成する。一対の干渉光LCは、それぞれ光ファイバ123及び124を通じて検出器125に導かれる。
【0109】
検出器125は、例えばバランスドフォトダイオードである。バランスドフォトダイオードは、一対の干渉光LCをそれぞれ検出する一対のフォトディテクタを有し、これらによる検出結果の差分を出力する。検出器125は、この出力(検出信号)をDAQ(Data Acquisition System)130に送る。
【0110】
DAQ130には、光源ユニット101からクロックKCが供給される。クロックKCは、光源ユニット101において、波長可変光源により所定の波長範囲内で掃引される各波長の出力タイミングに同期して生成される。光源ユニット101は、例えば、各出力波長の光L0を分岐することにより得られた2つの分岐光の一方を光学的に遅延させた後、これらの合成光を検出した結果に基づいてクロックKCを生成する。DAQ130は、検出器125から入力される検出信号をクロックKCに基づきサンプリングする。DAQ130は、検出器125からの検出信号のサンプリング結果を演算制御ユニット200に送る。
【0111】
本例では、測定光LSの光路(測定光路、測定アーム)の長さを変更するための光路長変更部41と、参照光LRの光路(参照光路、参照アーム)の長さを変更するためのコーナーキューブ114の双方が設けられているが、光路長変更部41とコーナーキューブ114のいずれか一方のみが設けられもよい。また、これら以外の光学部材を用いて、測定光路長と参照光路長との差を変更することも可能である。
【0112】
偏波コントローラ103及び118は公知の構成を備える。例えば、偏波コントローラ103(118)は、光ファイバの一部が巻回された1以上の巻回部と、各巻回部を回動する回動機構とを含む。或いは、偏波コントローラ103(118)は、次の要素を含んでもよい:光ファイバから一旦出射した光を平行光束にするコリメータレンズ;この平行光束の光路に順次に配置された、第1の1/4波長板(λ/4板)、1/2波長板(λ/2板)、及び第2の1/4波長板;第2の1/4波長板を通過した平行光束を光ファイバ端に向けて集束させるコリメータレンズ;第1の1/4波長板、1/2波長板及び第2の1/4波長板をそれぞれ回動させる回動機構。偏波コントローラ103及び118のそれぞれは、主制御部211によって制御される。
【0113】
眼科装置1の制御系の構成例を
図10に示す。制御部210、画像構築部220及びデータ処理部230は、演算制御ユニット200に含まれる。
【0114】
制御部210は、各種の制御を実行する。制御部210は、主制御部211と記憶部212とを含む。制御部210はプロセッサを含む。
【0115】
主制御部211は、眼科装置1の各部(
図8~
図10に示された要素を含む)を制御する。なお、
図10に示す撮影合焦駆動部31Aは撮影合焦レンズ31を移動し、OCT合焦駆動部43AはOCT合焦レンズ43を移動し、参照駆動部114Aはコーナーキューブ114を移動する。
【0116】
光学系移動部150は、眼科装置1に設けられた光学系の少なくとも一部を移動する。典型的な例として、光学系移動部150は、眼底カメラユニット2を3次元的に移動するように構成されている。この場合、光学系移動部150は、例えば、眼底カメラユニット2が搭載された1以上の可動テーブルと、横方向(左右方向、x方向)、上下方向(y方向)、及び、前後方向(対物光軸方向、z方向)に可動テーブルを移動するための1以上のアクチュエータとを含む。
【0117】
記憶部212は各種のデータを記憶する。記憶部212に記憶されるデータとしては、OCT画像、前眼部像、眼底像や被検眼情報などがある。被検眼情報は、患者IDや氏名などの被検者情報や、左眼/右眼の識別情報や、電子カルテ情報などを含む。また、記憶部212には、予め設定された基準深さ位置を示す情報が記憶される。基準深さ位置は、前述した要領で設定される。
【0118】
画像構築部220は、DAQ130からの出力(検出信号のサンプリング結果)に基づき画像を構築する。例えば、画像構築部220は、従来のスウェプトソースOCTと同様に、Aライン毎のサンプリング結果に基づくスペクトル分布に信号処理を施すことにより、Aライン毎の反射強度プロファイルを生成する(Aスキャン、Aスキャン像等と呼ばれる)。この信号処理には、ノイズ除去(ノイズ低減)、フィルタ処理、FFT(Fast Fourier Transform)などが含まれる。更に、画像構築部220は、複数のAラインに対応する複数のAラインプロファイルを画像化してスキャンラインに沿って配列することにより、複数のAラインの配列に沿った断面像を構築する(Bスキャン、Bスキャン像等と呼ばれる)。画像構築部220はプロセッサを含む。
【0119】
データ処理部230は、各種のデータ処理を実行する。典型例として、データ処理部230は、眼底カメラユニット2により取得された画像(眼底像、前眼部像等)の処理、前眼部カメラ5A及び5Bにより取得された画像の処理、画像構築部220により構築された画像の処理などを実行する。これらの処理は、各種画像処理及び各種解析処理の少なくとも一方を含む。例えば、データ処理部230は、OCTラスタースキャンデータに基づく3次元画像データ(スタックデータ、ボリュームデータ等)の作成、3次元画像データのレンダリング、画像補正、解析アプリケーションに基づく画像解析などを実行する。データ処理部230はプロセッサを含む。
【0120】
前述したように、本実施例に係る眼科装置1は、測定光LSの光路長を変更するための光路長変更部41と、参照光LRの光路長を変更するためのコーナーキューブ114及び参照駆動部114Aとを備えている。一般に、測定光の光路長を変更するための要素と、参照光の光路長を変更するための要素との少なくとも一方が設けられる。換言すると、測定アーム長と参照アーム長との差を変化させるための要素が設けられる。
【0121】
眼科装置1(特に、主制御部211及びデータ処理部230)は、眼底Efの所定の組織に対応するOCTデータ中の部分データが、所定の眼球パラメータ値に基づき設定されて記憶部212に予め記憶された基準深さ位置に配置されるように、光路長変更部(光路長変更部41及び/又は参照駆動部114A)を制御する。典型的には、眼科装置1(特に、主制御部211及びデータ処理部230)は、OCTスキャンにより被検眼E(眼底Ef)から収集されたデータに基づき画像構築部220により構築されたOCT画像(例えば、Bスキャン像)中における所定の組織に対応する画像領域(例えば、RPE領域)が、既定の基準深さ位置に配置されるように、光路長変更部41及び/又は参照駆動部114Aを制御して測定アーム長と参照アーム長との差を調整するように構成される。眼科装置1(特に、主制御部211及びデータ処理部230)は、所定の光路長制御プログラムにしたがって動作するプロセッサを含む。本実施例において、基準深さ位置の設定のために用いられる眼球パラメータ値は、例えば、眼軸長及び屈折度数の少なくとも一方の値を含んでいてよい。
【0122】
基準深さ位置は、被検眼の基準部位(所定の眼組織、例えば網膜色素上皮)の描出目標となる深さ位置(z座標)であり、本実施例のように眼底EfにOCTスキャンが適用される場合、基準深さ位置は、所定の第1眼底組織(例えば網膜表面)の両端が切れないように設定されてよい。換言すると、この基準深さ位置は、第1眼底組織に対応する第1部分データの端部が画像フレームの側辺に配置されるように設定されてよい。すなわち、この基準深さ位置は、第1眼底組織に対応する第1部分データの端部が画像フレームの上辺に配置されないように設定されてよい。
【0123】
更に、基準深さ位置は、網膜表面よりも深部に位置する所定の第2眼底組織に対応する第2部分データに基づき設定される。第2眼底組織の典型例は網膜色素上皮(RPE)である。基準深さ位置は、第2部分データの平均深さ位置に設定されるか、或いはそれよりも深い位置(つまり、平均深さ位置に対して画像フレーム寄りの位置)に設定される。
【0124】
前述したように、第2眼底組織は、第1眼底組織から所定距離(典型的には臨床的に得られた標準的な値)だけ深い位置に設定されてよい。例えば、第1眼底組織が網膜表面であり、且つ、第2眼底組織が網膜色素上皮である場合、網膜表面に対応する第1部分データを画像フレームの下端方向に0.5mmだけ変位させた領域を、網膜色素上皮に対応する第2部分データとして設定することができる。このように第1部分データと第2部分データとの間の距離を予め定めておくことで、第2眼底組織の検出のための画像解析を行う必要がなくなり、OCT画像の解析に要されるリソースや時間が低減される。
【0125】
具体例を説明する。まず、データ処理部230は、OCTスキャンにより眼底Efから収集されたデータに基づき画像構築部220により構築されたOCT画像を解析して網膜表面に対応する画像領域(ILM領域)を検出する。次に、データ処理部230は、検出されたILM領域から0.5mmだけ深い位置にある領域をRPE領域に設定する。次に、データ処理部230は、設定されたRPE領域における複数の点(複数の画素)のそれぞれの深さ位置(z座標)を平均する。次に、データ処理部230は、算出された平均深さ位置(RPE領域の平均z座標)と、記憶部212に記憶されている基準深さ位置とを比較することで、基準深さ位置に対する平均深さ位置の偏位を算出する。例えば、算出された偏位を含む制御情報、又は、この偏位を打ち消すための測定アーム長及び/又は参照アーム長の変更量を含む制御情報が、データ処理部230から主制御部211に送られる。主制御部211は、データ処理部230から送られた制御情報に基づいて、基準深さ位置に対する平均深さ位置の偏位を打ち消す方向及び距離だけ測定アーム長及び/又は参照アーム長を変更するように光路長変更部41及び/又は参照駆動部114Aの制御を行う。
【0126】
このような一連の処理を繰り返し行うことで、RPE領域の平均深さ位置を基準深さ位置に配置するためのオートZと、RPE領域の平均深さ位置を基準深さ位置に維持するためのZロックとを実行することができる。また、基準深さ位置を上記のように設定することにより、網膜表面の像が画像フレームの上端からはみ出さず、折り返し像が混入していない眼底EfのOCT画像を取得することが可能である。
【0127】
ユーザインターフェイス240は表示部241と操作部242とを含む。表示部241は表示装置3を含む。操作部242は各種の操作デバイスや入力デバイスを含む。ユーザインターフェイス240は、例えばタッチパネルのような表示機能と操作機能とが一体となったデバイスを含んでいてもよい。ユーザインターフェイス240の少なくとも一部を含まない実施例を構築することも可能である。例えば、表示デバイスは、眼科装置に接続された外部装置であってよい。
【0128】
<他の実施例>
他の実施例に係る眼科装置について説明する。本態様は、被検眼の眼球特性値に基づく光路長調整を実現するものである。
【0129】
被検眼の眼球特性値は、例えば、前述の眼球パラメータ値であってもよいし、眼球パラメータ値と実質的に同値なパラメータ値であってもよい。ここで、2つのパラメータ値が実質的に同値であるとは、例えば、所定の演算によって互いに変換可能であることを意味し、より一般には、所定の演算によって一方のパラメータ値から他方のパラメータ値を導出可能であることを意味する。また、被検眼の眼球特性値は、被検眼を実際に測定して得られた値(測定値)であってもよいし、所定の条件や所定の情報からの推定により得られた値(推定値)であってもよい。
【0130】
本実施例に係る眼科装置は、前述の例示的態様に係る眼科装置と同様の機能及び構成を有し、所定の眼組織に対応するOCTデータ中の部分データが所定の眼球パラメータ値に基づき設定された基準深さ位置に配置されるように光路長制御(測定アーム長の制御、及び/又は、参照アーム長の制御)を実行することができる。
【0131】
本実施例に係る眼科装置の構成例を
図11及び
図12に示す。眼科装置4000は、OCTスキャナ4010と、光路長変更部4020と、OCTデータ生成部4030と、取得部4040と、ユーザインターフェイス(UI)4050と、処理部4060とを含んでいる。
【0132】
OCTスキャナ4010は、測定アームと参照アームとを含む干渉計を含む。測定アームは、ガルバノスキャナ等の光スキャナを含み、各種スキャンモード(例えば、Bスキャン、3次元スキャンなど)を実現する。光路長変更部4020は、測定アーム長を変更する機構及び参照アーム長を変更する機構のいずれか一方又は双方を含む。OCTデータ生成部4030は、OCTスキャナ4010からの出力に基づきOCTデータを生成する。
【0133】
取得部4040は、被検眼の眼球特性値を取得する。眼球特性値は、例えば、等価球面度数、球面度数、眼軸長、又は、これらのいずれかと同値なパラメータ値であってよい。取得部4040は、例えば、次のいずれかの構成を含んでいてよい:(第1構成)過去の測定で得られた被検眼の眼球特性値の入力を受ける構成;(第2構成)被検眼の眼球特性値を測定する構成;(第3構成)眼科装置4000の要素の状態から被検眼の眼球特性値を推定する構成。
【0134】
ユーザインターフェイス4050は、眼科装置4000とユーザとの間で情報をやりとりするためのマンマシンインターフェイスであり、表示部4051と操作部4052とを含む。
【0135】
処理部4060は、プログラムにしたがって情報処理を実行するプロセッサを含む。特に、処理部4060は、取得部4040により取得された被検眼の眼球特性値に基づいて前述の光路長制御を実行する。すなわち、処理部4060は、取得部4040により取得された被検眼の眼球特性値に基づいて、所定の眼組織に対応するOCTデータ中の部分データが所定の眼球パラメータ値に基づき設定された基準深さ位置に配置されるように光路長制御(測定アーム長の制御、及び/又は、参照アーム長の制御)を実行する。
【0136】
処理部4060は、所定の眼底組織(第3眼底組織)に対応する部分データ(第3部分データ)の端部がフレームの側辺に配置されるように光路長制御を行うように構成されてよい。更に、処理部4060は、第3眼底組織よりも深部に位置する所定の眼底組織(第4眼底組織)に対応する部分データ(第4部分データ)に基づいて光路長制御を行うように構成されてよい。
【0137】
ここで、第3眼底組織は、例えば網膜表面(内境界膜、ILM)であってよく、第4眼底組織は、例えば網膜色素上皮(RPE)であってよい。以下、第3眼底組織は網膜表面であり、第4眼底組織はRPEであるとする。
【0138】
前述した実施例(眼科装置1)の構成が眼科装置4000に採用される場合、眼科装置4000の各要素は、眼科装置1の次の要素によって実現可能である。つまり、眼科装置4000の要素と眼科装置1の要素とは、次のような対応関係にある。
【0139】
まず、OCTスキャナ4010は、OCTユニット100と、測定アームを形成する眼底カメラユニット2内の要素(光学素子等)とを含む。光路長変更部4020は、測定アーム長を変更する光路長変更部41、及び/又は、参照アーム長を変更するコーナーキューブ114及び参照駆動部114Aを含む。OCTデータ生成部4030は、画像構築部220を含む。
【0140】
更に、取得部4040(第1構成)は、ユーザインターフェイス240(例えば、眼球特性値を手入力する場合)、図示しない通信デバイス(例えば、他の眼科装置又は外部装置から眼球特性値を転送する場合)、及び、図示しないドライブ装置(例えば、記録媒体に記録された眼球特性値を読み込む場合)のいずれかを含む。第2構成及び第3構成については後述する。
【0141】
ユーザインターフェイス(UI)4050はユーザインターフェイス240を含み、表示部4051は表示部241を含み、操作部4052は操作部242を含む。処理部4060は、主制御部211及びデータ処理部230を含む。
【0142】
取得部4040の例を説明する。過去の測定で得られた被検眼の眼球特性値の入力を受ける第1構成が採用される場合、取得部4040は、処理部4060の制御の下に動作する通信デバイスを含み、外部から転送された被検眼の眼球特性値を受信する。例えば、眼科装置4000は、取得部4040を用いて電子カルテシステムにアクセスし、被検者の電子カルテから眼球特性値を検索して取得することができる。通信デバイスは、ローカルエリアネットワーク(LAN)を介した通信機能、ワイドエリアネットワーク(WAN)を介した通信機能、専用回線を介した通信機能などを有していてよい。
【0143】
被検眼の眼球特性値を測定する第2構成が採用される場合、取得部4040は、例えば、眼屈折度数測定装置(レフラクトメータ等)の機能を有する。OCT装置とレフラクトメータとを組み合わせた眼科装置としては、例えば特開2017-192828号公報に開示されたものが知られている。第2構成の取得部4040は、例えば、被検眼の眼底にリング光束を投射する光学系と、この投射光束の戻り光を検出する光学系と、その検出結果を解析して眼球特性値を求めるプロセッサとを含んでいてよい。他の例において、第2構成の取得部4040は、被検眼の眼底に光束を投射する光学系と、その戻り光をリング光束に変換して検出する光学系と、その検出結果を解析して眼球特性値を求めるプロセッサとを含んでいてよい。プロセッサは、検出結果から球面度数を算出することができる。また、プロセッサは、球面度数及び乱視度数を算出し、これらから等価球面度数を算出することができる。
【0144】
第2構成の他の例において、取得部4040は、眼軸長測定装置の機能を有する。眼軸長測定には、例えば、OCT又は超音波計測が利用される。OCTを利用した眼軸長測定の手法及び構成は、例えば特開2017-192828号公報に開示されている。超音波計測を用いた眼軸長測定の手法及び構成は、例えば国際公開第2013/002332号に開示されている。
【0145】
眼科装置4000の要素の状態から被検眼の眼球特性値を推定する第3構成が採用される場合、取得部4040は、例えば、被検眼に対する眼科装置4000の光学系のフォーカス調整の結果を利用することができる。上記実施例に係る眼科装置1の構成が採用される場合、取得部4040は、OCT合焦レンズ43の位置情報、撮影合焦レンズ31の位置情報、OCT合焦駆動部43Aの制御情報、及び、撮影合焦駆動部31Aの制御情報のいずれかに基づいて、被検眼の屈折度数を推定することができる。このとき、視度補正レンズ70及び71の使用の有無を更に参照してもよい。
【0146】
処理部4060の例を説明する。
図12は、処理部4060の構成例を示す。本例の処理部4060は、光路長制御部4061と、表示制御部4062と、算出部4063と、判定部4067とを含む。
【0147】
光路長制御部4061は、光路長変更部4020の制御を行う。表示制御部4062は、表示部4051の制御を行う。
【0148】
算出部4063は、取得部4040により取得された被検眼の眼球特性値に基づいてRPEに対応する画像領域(RPE領域)の平均深さ位置を算出する。この演算は、所定のアルゴリズムにしたがって実行される。このアルゴリズムは、前述した例示的態様において説明された手法に基づき定式化されてよいが、これに限定されない。
【0149】
なお、算出部4063は、被検眼から取得されたOCTデータに基づき演算を行うのではなく、被検眼の眼球特性値(及び、所定の眼球パラメータ値)を用いてシミュレーションを行うことで、RPEの平均深さ位置を推定するものである。よって、ここで言う眼底組織(網膜表面、ILM、RPEなど)は、実際の眼底組織ではなく、シミュレーションモデルにおける仮想的な眼底組織である。同様に、ここで言う画像領域(ILM領域、RPE領域など)は、実際のOCT画像の部分データではなく、シミュレーションモデルにおける仮想的な画像領域である。
【0150】
また、算出部4063により実行されるシミュレーションでは、所定の1以上の眼球パラメータ値が用いられる。この眼球パラメータ値は、臨床的に(例えば統計的に)導出された標準値であってもよいし、被検眼又は他の眼から得られた測定値であってもよい。1つの眼球パラメータの標準値は、その眼球パラメータに関して最も標準的と考えられる単一の値であってもよいし、互いに異なる2以上の値であってもよい。後者の場合、被検眼の属性及び/又は被検者の属性に対応する1つの値が2以上の値から選択されてシミュレーションに用いられる。属性としては、年齢、性別、人種、地域、病歴(既往歴)、家族歴、眼科検査データ、他科検査データなどがある。
【0151】
本実施例のシミュレーションでは、主として、前述した例示的態様のパラメータ値が用いられる。例えば、網膜表面とRPEとの間の距離は0.5mm(500um)と仮定され、OCT測定光のピボット点と角膜頂点との間の距離は1.82mmと仮定され、眼屈折度数0Dに対応する眼軸長は24mmと仮定され、眼屈折度数が1D減る毎に(近視の程度が1D強くなる毎に)眼軸長は1/3mm伸長すると仮定され、眼の焦点距離は17mmと仮定され、OCTスキャンはライン長12mmのBスキャンと仮定され、眼焦点距離17mm及びOCTスキャン寸法12mmに対応するOCT測定光の最大振れ角は19.44度と仮定される。
【0152】
これらパラメータ値は単なる例示に過ぎず、他の値が採用されてもよい。また、上記のように、或るパラメータに対して2以上の値を準備し、それらを選択的に使用することが可能である。例えば、スキャン寸法(Bスキャンのライン長)として、6mm、9mm、12mm、及び15mmを準備するとともに、これらスキャン寸法のそれぞれに対応するOCT測定光の最大振れ角を準備することができる。スキャン寸法と最大振れ角との関係はこのような離散的関係に限定されず、グラフ等により表現された連続的関係であってもよい。
【0153】
また、基準深さ位置は、眼科装置4000(OCT装置)の仕様に応じて予め設定される。例えば、前述した例示的態様を参照すると、画像フレームの上端から下端までのピクセル数(深さ方向(z方向に並ぶピクセルの個数)が992個であり、深さ方向の分解能が2.6um/pixelである場合、画像フレーム上端から450ピクセルの位置に基準深さ位置を設定することができる。
【0154】
光路長制御部4061は、算出部4063により算出されたRPE領域の平均深さ位置と、予め設定された基準深さ位置とに基づいて、光路長変更部4020の制御を実行することができる。この光路長制御を第1制御と呼ぶ。前述した例示的態様と同様に、光路長制御部4061は、RPE領域の平均深さ位置が基準深さ位置に配置されるように第1制御を行うことができる。換言すると、光路長制御部4061は、RPE領域の平均深さ位置を基準深さ位置に一致させるように第1制御を行うことができる。なお、第1制御は、光路長変更部4020に対する実際の制御でもよいし、シミュレーションにおける仮想的な光路長変更でもよい。
【0155】
前述した例示的態様に基づくアルゴリズムを実現するための例において、算出部4063は、被検眼のRPE領域の形状を推定する処理と、この推定形状に基づきRPE領域の平均深さ位置を算出する処理とを実行するように構成されてよい。ここで、算出部4063は、RPEに対応する第4部分データから所定距離だけ浅い位置に、網膜表面に対応する第3部分データを設定するように構成されていてよい。
【0156】
更なる例において、算出部4063は、被検眼のRPEの形状を推定する処理と、OCTスキャンのピボット位置とRPEの推定形状(つまり、RPE領域の推定形状(推定配置、推定分布))との間の距離分布を求める処理と、この距離分布に基づきRPE領域の平均深さ位置を求める処理とを実行するように構成されてよい。
【0157】
このような演算を実現するための例示的な算出部4063は、形状推定部4064と、距離算出部4065と、平均深さ位置算出部4066とを含む。
【0158】
形状推定部4064は、取得部4040により取得された被検眼の眼球特性値に基づいて、被検眼のRPEの形状を推定する。このRPE形状推定は、任意の演算を用いて実行可能であり、典型的には任意のシミュレーションを用いて実行される。
【0159】
一例として、前述した例示的態様において説明したDavid A. Atchison et al., “Shape of the Retinal Surface in Emmetropia and Myopia”, Investigative Ophthalmology & Visual Science, August 2005, Vol. 46, No.8, PP. 2698-2707に提示された関係式「Rz(mm) = -0.163D + 10.148、Rx(mm) = -0.043D + 11.455、Ry(mm) = -0.090D + 11.365」に、取得部4040により取得された被検眼の屈折度数(例えば等価球面度数)を代入することによって、被検眼のRPEの推定形状を求めることができる。これにより、被検眼の眼球特性値を反映した眼球モデルが得られる。
【0160】
距離算出部4065は、OCTスキャンのピボット位置と、形状推定部4064により求められたRPEの推定形状との間の距離分布を求める(
図7A及びその説明を参照)。例えば、距離算出部4065は、まず、形状推定部4064により求められたRPEの推定形状に基づく眼球モデル内にOCT測定光のピボット位置を設定する。このピボット位置設定は、上記のパラメータ値(ピボット点と角膜頂点との間の距離は1.82mmと仮定されている)に基づき実行される。つまり、本例では、眼球モデルにおける角膜頂点から深さ方向に1.82mmだけ離れた位置にピボット位置が設定される。
【0161】
次に、距離算出部4065は、眼球モデルに設定されたピボット位置と、この眼球モデルにおいてRPEに相当する複数の位置のそれぞれとの間の距離を算出する。これにより、ピボット位置と推定RPEとの間の距離分布が得られる。
【0162】
なお、距離分布導出に用いられる推定RPE上の複数の位置は、任意に設定される。例えば、推定RPE上に等間隔で複数の位置を設定することができる。他の例として、最大振れ角に相当する仮想光線が交差する推定RPE上の位置と、推定RPEの最深位置とを含む、複数の位置について、ピボット位置からの距離を求めることができる。
【0163】
平均深さ位置算出部4066は、距離算出部4065により求められたピボット位置と推定RPE(RPEの推定形状)との間の距離分布に基づいて、RPEの平均深さ位置を算出する。この平均深さ位置算出は、典型的には、距離分布に含まれる複数の値の平均値を求める演算を含む。他の例として、距離分布に含まれる複数の値に重み付け平均演算を施すことによって平均深さ位置を求めてもよい。
【0164】
光路長制御部4061は、平均深さ位置算出部4066により算出されたRPEの平均深さ位置と基準深さ位置とに基づいて、光路長変更部4020に対する前述の第1制御を行うことができる。例えば、光路長制御部4061は、平均深さ位置算出部4066により算出されたRPEの平均深さ位置が基準深さ位置に配置されるように(つまり、平均深さ位置を基準深さ位置に一致させるように)、光路長変更部4020に対する第1制御を行うことができる。
【0165】
このような光路長調整を行うことで、被検眼の眼球の形状や寸法や網膜厚が標準的であれば、網膜表面の像がフレーム側辺に配置される可能性が高くなると言える。すなわち、被検眼の眼球の形状や寸法や網膜厚が(その屈折度数から考えて)標準的な範囲から乖離していない限りにおいて、網膜表面の像がフレーム上端からはみ出さず、折り返し像が混入しない眼底OCT画像が得られると考えられる。
【0166】
しかしながら、この光路長調整がRPEに着目して実行されることを考慮すると、RPEよりも浅い位置に描出される網膜表面がフレーム上端からはみ出すことも考えられる。このような不都合に対処するために判定部4067が設けられている。
【0167】
判定部4067は、網膜表面(推定網膜表面、ILM領域)の端部が画像フレームの側辺に配置されているか判定する。
【0168】
そのために、まず、判定部4067は、被検眼の屈折度数に基づき作成された眼球モデルにおいて、算出部4063(形状推定部4064)により得られた推定RPEから所定距離だけ浅い箇所に、推定網膜表面を設定する。本例では、前述したパラメータ値(網膜表面とRPEとの間の距離は0.5mmと仮定されている)に基づき、眼球モデルにおいて推定RPEから0.5mmだけ浅い領域(推定RPEから0.5mmだけ角膜頂点に近い領域)が推定網膜表面に設定される。
【0169】
次に、判定部4067は、設定された推定網膜表面上の複数の位置について、その深さ位置座標(z座標)を求める。更に、判定部4067は、求められたz座標のうちに負値が存在するか判定する。つまり、判定部4067は、推定網膜表面のいずれかの位置がフレーム上端よりも上方に配置されるか判定する。z座標が負値となる位置が存在する場合、折り返し像が発生することとなる。
【0170】
なお、一般に、(推定)網膜表面の形状は下に凸(+z方向に向かって凸)であり、網膜表面の端部のz座標が最も小さくなる。つまり、網膜表面の端部のz座標が負値となる可能性が最も高くなる。よって、判定部4067は、網膜表面の端部についてのみ、z座標が負値になるか否かの判定を行うようにしてもよい。本例では、上記パラメータ値にあるOCTスキャン寸法12mmの端部に相当する位置についてのみ、網膜表面のz座標が負値になるか否かの判定を行えば十分である。
【0171】
判定部4067により実行された判定の結果に基づいて更なる光路長調整を行うことが可能である。例えば、第1制御後において網膜表面がフレーム上端からはみ出すと判定された場合、被検眼の像がフレームに対して相対的に下方に移動するように光路長調整を行うことができる。
【0172】
一例として、光路長制御部4061は、第1制御の後に判定部4067により網膜表面の端部がフレーム側辺に配置されていないと判定された場合に、基準深さ位置よりも深い位置にRPEの平均深さ位置が配置されるように光路長変更部4020の制御を行うように構成されてよい。この光路長制御を第2制御と呼ぶ。なお、第2制御は、光路長変更部4020に対する実際の制御でもよいし、シミュレーションにおける仮想的な光路長変更でもよい。
【0173】
第2制御は、例えば、基準深さ位置から既定距離(例えば、100ピクセル分)だけ下方の位置にRPEの平均深さ位置が配置されるように実行される。或いは、第2制御は、偏位距離を決定する処理と、決定された偏位距離だけ基準深さ位置から下方の位置にRPEの平均深さ位置を移動させる処理とを含んでいてよい。例えば、深さ方向における網膜表面の位置に基づいて偏位距離を求めることができる。典型的には、第1制御の後における網膜表面の端部のz座標(負値である)がゼロ又は正値になるように偏位距離を決定することが可能である。具体例として、第1制御の後における網膜表面の端部がフレーム上端よりもkピクセルだけ上方に位置する場合、基準深さ位置からKピクセル(K≧k)分だけ下方の位置にRPEの平均深さ位置が配置されるように第2制御を実行することができる。
【0174】
他の例において、第1制御の後に判定部4067により網膜表面の端部がフレーム側辺に配置されていないと判定された場合に、フレームの上下方向の寸法を拡大するようにしてもよい。特に、フレームの上端がより上方に配置されるようにフレームを拡大することができる。すなわち、深さ方向における画像化範囲を拡大することができる。
【0175】
判定部4067は、第2制御の後に、網膜表面の端部がフレーム側辺に配置されているか否かについて、再度判定を行うことができる。これにより、第2制御によって網膜表面の全体がフレーム内に描出されるようになったか確認することができる。
【0176】
処理部4060(特に、光路長制御部4061及び判定部4067)は、判定部4067により網膜表面の端部がフレーム側辺に配置されていると判定されるまで、RPEの平均深さ位置をより深い位置に(逐次的に)移動するための光路長変更部4020の制御を繰り返し行うように構成されていてよい。これにより、網膜表面の全体がフレーム内に描出されるように光路長調整を行うことができる。
【0177】
眼科装置4000の動作の一例について
図13を参照しつつ説明する。
図13のフローチャートに示す動作は、患者IDの登録などの準備的な動作の後に実行される。
【0178】
まず、取得部4040が、被検眼の眼球特性値を取得する(S1)。処理部4060は、図示しない記憶装置から前述のパラメータ値を読み出し、後段の処理のために設定する(S2)。
【0179】
次に、形状推定部4064が、ステップS1で取得された眼球特性値に基づいて網膜色素上皮の推定形状(推定RPE)を求める(S3)。算出部4063は、ステップS3で求められた推定RPEとステップS2で得られたパラメータ値とに基づき眼球モデルを作成することができる。
【0180】
次に、距離算出部4065が、ステップS2で得られたパラメータ値に含まれるピボット位置の情報(OCTスキャンのピボット位置)と、ステップS3で求められたRPEの推定形状とに基づいて、ピボット位置と推定RPEとの間の距離分布を求める(S4)。
【0181】
次に、平均深さ位置算出部4066が、ステップS4で求められた距離分布に基づいて、推定RPEの平均深さ位置を求める(S5)。
【0182】
次に、処理部4060が、ステップS5で設定された平均深さ位置を、デフォルトの基準深さ位置(例えば、フレーム上端から450ピクセルだけ下方の位置)に設定する(S6)。
【0183】
次に、判定部4067が、ステップS3で得られた推定RPEから所定距離だけ浅い箇所に推定網膜表面を設定する。更に、判定部4067は、設定された推定網膜表面上の複数の位置について、その深さ位置座標(z座標)を求める(S7)。
【0184】
次に、判定部4067は、ステップS7で推定網膜表面上の複数の位置について求められたz座標のうちに負値が存在するか判定する(S8)。負値のz座標が存在すると判定された場合(S8:Yes)、処理はステップS9に移行する。他方、負値のz座標が存在しないと判定された場合(S8:No)、処理はステップS10に移行する。
【0185】
負値のz座標が存在すると判定された場合(S8:Yes)、処理部4060は、推定RPEの平均深さ位置を下方に移動する(S9)。つまり、処理部4060は、推定RPEの平均深さ位置が現在の深さ位置(現段階では、デフォルトの基準深さ位置)よりも深い位置に配置されるように光路長調整を行う。この光路長調整は、典型的には、シミュレーションにおける光路長シフトであり、実際の光路長変更でなくてよい。
【0186】
ステップS9の光路長シフト(平均深さ位置の下方への移動)の後、ステップS8の判定が再度行われる。つまり、判定部4067は、光路長シフト後の推定網膜表面のz座標のうちに負値が存在するか判定する(S8)。ステップS8及びS9は、ステップS8において「No」と判定されるまで繰り返される。この繰り返し処理により、推定網膜表面がフレーム上端からはみ出さないような基準深さ位置を探索することができる。
【0187】
ステップS8において「No」と判定されると、処理部4060は、この段階におけるRPEの平均深さ位置を、被検眼に対するOCTスキャンにおいて適用される(初期)基準深さ位置に設定する(S10)。ここで、光路長制御部4061は、この初期基準深さ位置が実現されるように光路長変更部4020の制御を行う。
【0188】
この段階において、眼科装置4000は、アライメントやフォーカス調整など、OCTスキャンのための準備的動作を行うことができる。
【0189】
処理部4060は、被検眼の眼底に対してOCTスキャナ4010を適用する(S11)。例えば、処理部4060は、ステップS2で設定されたパターン及び寸法のOCTスキャン(例えば、ライン長12mmのBスキャン)を被検眼の眼底に適用する。OCTデータ生成部4030は、OCTスキャナ4010により取得されたデータに基づいてOCTデータを生成する(S11)。表示制御部4062は、生成されたOCTデータに基づくOCT画像を表示部4051に表示させる(S11)。
【0190】
処理部4060(光路長制御部4061など)は、ステップS11で得られたOCTデータに基づいて、光路長変更部4020の制御(つまり、OCTスキャン及び画像化がなされる深さ範囲の調整、画像の深さ位置の調整)を行うことができる(S12)。この光路長制御は、OCTデータの解析に基づく自動制御、及び、ユーザの指示に基づく手動制御のいずれであってもよい。なお、自動制御を行う場合には、ステップS11においてOCT画像を表示させなくてもよい。
【0191】
自動制御の幾つかの例を説明する。自動制御の第1の例において、処理部4060は、ステップS11で生成されたOCTデータに、網膜表面(及び/又は他の部位)に相当する折り返し像が含まれているか判定するように構成される。折り返し像の検出は、アーチファクトを検出するための公知の画像処理によって実現される。折り返し像が検出された場合、処理部4060は、この折り返し像を消すための光路長変更量(フレームに対する眼底像の下方への相対移動量)を算出する。光路長制御部4061は、算出された光路長変更量だけ光路長を変更するように光路長変更部4020の制御を行う。この光路長制御を第3制御と呼ぶ。
【0192】
自動制御の第2の例において、処理部4060は、ステップS11で生成されたOCTデータに描出された網膜表面(及び/又は他の部位)の像を検出する。例えば、処理部4060は、OCTデータにセグメンテーションを適用してILM領域を検出する。更に、処理部4060は、検出されたILM領域の端部がフレームの側辺に配置されているか判定することができる。ILM領域の端部がフレームの側辺に配置されていない場合、つまり、ILM領域の端部がフレームの上辺に配置されている場合、処理部4060は、フレーム上辺に位置するILM領域の端部をフレーム側辺に移動させるための光路長変更量(フレームに対する眼底像の下方への相対移動量)を算出する。光路長制御部4061は、算出された光路長変更量だけ光路長を変更するように光路長変更部4020の制御を行う。この光路長制御を第3制御と呼ぶ。
【0193】
手動制御の例を説明する。手動制御が行われる場合、ステップS12においてOCT画像が表示部4051に表示される。ユーザは、操作部4052を操作することにより、眼科装置4000に対する指示を入力することができる。ユーザは、表示されたOCT画像に折り返し像が混入しているか確認することができる。また、ユーザは、表示されたOCT画像に描出された網膜表面像がフレームのどこに交差しているか把握することができる。OCT画像に折り返し像が混入している場合、ユーザは、この折り返し像を消すための光路長変更操作を行うことができる。或いは、網膜表面像がフレーム上辺に交差している場合、ユーザは、網膜表面像をフレーム側辺に交差させるための光路長変更操作を行うことができる。光路長制御部4061は、ユーザによる指示を受けた操作部4052からの出力に基づいて光路長変更部4020の制御を行うことができる。この光路長制御を第4制御と呼ぶ。
【0194】
ステップ6で適用されるデフォルトの基準深さ位置は可変であってよい。例えば、被検眼に適用されるOCTスキャンの寸法に応じてデフォルトの基準深さ位置を変更することが可能である。これは、一般的な網膜表面形状が下に凸のお椀型であり、OCTスキャンの寸法(例えば、Bスキャンのライン長)が大きくなるほど網膜表面の最上部(端部)と最下部(最深部)との間の距離が大きくなることを考慮して設定される条件である。本例においては、スキャン寸法とデフォルト基準深さ位置との間の(離散的又は連続的)関係を示す情報を準備し、適用されるスキャン寸法に対応するデフォルト基準深さ位置を決定することができる。一般に、スキャン寸法が大きくなるほど、デフォルト基準深さ位置は深い位置に設定される。スキャン寸法とデフォルト基準深さ位置との間の関係を示す情報は、例えば、前述した例示的態様に係る方法を用いて作成可能である。
【0195】
変形例として、網膜表面の端部のz座標が負値にならないようなRPEの深さ位置を解析的に求めることが可能である。例えば、距離算出部4065により求められた距離分布に基づいて、網膜表面の端部のz座標が負値にならないようなRPEの深さ位置(例えば、平均深さ位置)を決定することができる。これにより、ステップS8及びS9に示すような処理を回すことなくRPEの深さ位置を求めることが可能となる。
【0196】
<制御方法、プログラム、記録媒体>
例示的な態様に係る眼科装置の制御方法について説明する。制御方法を適用可能な眼科装置は、測定アームと参照アームとを含む干渉計と、測定アーム及び参照アームの少なくとも一方の光路長を変更する光路長変更部と、プロセッサとを含み、被検眼にOCTを適用する。このような眼科装置の例として、前述した眼科装置1及び1000がある。例示的な態様に係る制御方法は、干渉計からの出力に基づきOCTデータを生成するようにプロセッサの制御を行う。更に、例示的な態様に係る制御方法は、所定の眼組織に対応するOCTデータ中の部分データが、所定の眼球パラメータ値に基づき設定された基準深さ位置に配置されるように、光路長変更部の制御を行う。
【0197】
このような例示的な態様に係る制御方法に対して、例示的態様に係る眼科装置に関して説明された事項のいずれかを組み合わせることが可能である。
【0198】
例示的態様に係る制御方法をコンピュータに実行させるプログラムを提供することができる。このプログラムに対して、例示的態様に係る眼科装置に関して説明された事項のいずれかを組み合わせることが可能である。
【0199】
このようなプログラムを記録したコンピュータ可読な非一時的記録媒体を作成することが可能である。この記録媒体に対して、例示的態様に係る眼科装置に関して説明された事項のいずれかを組み合わせることが可能である。この非一時的記録媒体は任意の形態であってよく、その例として、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリなどがある。
【0200】
例示的態様に係る制御方法、プログラム、又は記録媒体によれば、例示的な態様に係る眼科装置と同様に、OCTの光路長調整機能の向上を図ることが可能となる。
【0201】
以上に説明した態様及び実施例は本発明の実施形態の幾つかの例に過ぎない。本発明を実施しようとする者は、本発明の要旨の範囲内における変形(省略、置換、付加等)や公知技術による変形を任意に施すことが可能である。
【符号の説明】
【0202】
1 眼科装置
41 光路長変更部
100 OCTユニット
114 コーナーキューブ
114A 参照駆動部
211 主制御部
220 画像構築部
230 データ処理部
1000 眼科装置
1010 光源
1030 参照ミラー
1040 参照アーム
1050 測定アーム
1060 光検出器
1070 OCTデータ生成部
1080 処理部
4000 眼科装置
4010 OCTスキャナ
4020 光路長変更部
4030 OCTデータ生成部
4040 取得部
4051 表示部
4052 操作部
4060 処理部
4061 光路長制御部
4062 表示制御部
4063 算出部
4064 形状推定部
4065 距離算出部
4066 平均深さ位置算出部
4067 判定部