(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】セラミック複合材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/80 20060101AFI20230905BHJP
C04B 35/84 20060101ALI20230905BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20230905BHJP
B29C 70/10 20060101ALI20230905BHJP
D01F 9/10 20060101ALN20230905BHJP
【FI】
C04B35/80
C04B35/84
D03D1/00 A
B29C70/10
D01F9/10 A
(21)【出願番号】P 2019200181
(22)【出願日】2019-11-01
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 俊
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-272040(JP,A)
【文献】特開平05-330933(JP,A)
【文献】特開昭63-265871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/80
C04B 35/84
D03D 1/00
B29C 70/10
D01F 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する第一面及び第二面と、前記第一面及び前記第二面に対して直交する方向に所定の厚さを有する形状であるとともに、
骨材と、前記骨材の隙間に充填された
多結晶SiCからなるマトリックスと、を有するセラミック複合材であって、
前記骨材は、前記第一面及び前記第二面に対して略平行な方向に沿って延びるセラミック繊維を有し、
さらに、前記マトリックス中に配置され、前記厚さ方向に対して略平行な方向に沿って延びるウィスカ状単結晶体を有する、セラミック複合材。
【請求項2】
前記ウィスカ状単結晶体は、SiC単結晶体及びAlN単結晶体の少なくとも一方からなる、請求項1に記載のセラミック複合材。
【請求項3】
前記セラミック繊維は、SiC繊維である請求項1
又は2に記載のセラミック複合材。
【請求項4】
前記骨材は、前記セラミック繊維を用いて形成されたフィラメントワインディング体、ブレーディング体及び織布から選択された少なくとも1種からなる、請求項1~
3のいずれか1項に記載のセラミック複合材。
【請求項5】
前記形状は、板状又は管状である、請求項1~
4のいずれか1項に記載のセラミック複合材。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のセラミック複合材を製造する方法であって、
前記セラミック繊維を用いて前記骨材を形成する骨材形成工程と、
前記ウィスカ状単結晶体と、溶媒とを含有するスラリーを前記骨材に含浸させ、前記溶媒を乾燥させて含浸体を得る含浸・乾燥工程と、
前記含浸体をマトリックスで固定化するマトリックス形成工程と、を有するセラミック複合材の製造方法。
【請求項7】
前記含浸・乾燥工程において、前記スラリーはセラミック前駆体を含有し、
前記マトリックス形成工程において、前記含浸体を硬化・焼成することにより、セラミックからなるマトリックスを形成する、請求項
6に記載のセラミック複合材の製造方法。
【請求項8】
前記マトリックス形成工程において、セラミック前駆体を含有する溶液に前記含浸体を含浸させ、硬化・焼成することにより、セラミックからなるマトリックスを形成する請求項
6に記載のセラミック複合材の製造方法。
【請求項9】
前記セラミック前駆体は、SiC前駆体である、請求項
7又は
8に記載のセラミック複合材の製造方法。
【請求項10】
前記マトリックス形成工程において、セラミックの材料となる原料ガスを用いたCVD法により、セラミックからなるマトリックスを形成する、請求項
6に記載のセラミック複合材の製造方法。
【請求項11】
前記原料ガスは、シラン系ガスであり、SiCからなるマトリックスを形成する、請求項
10に記載のセラミック複合材の製造方法。
【請求項12】
前記ウィスカ状単結晶体は、SiC単結晶体及びAlN単結晶体の少なくとも一方からなる、請求項
6~
11のいずれか1項に記載のセラミック複合材の製造方法。
【請求項13】
前記セラミック繊維は、SiC繊維である請求項
6~
12のいずれか1項に記載のセラミック複合材の製造方法。
【請求項14】
前記骨材は、前記セラミック繊維を用いて形成されたフィラメントワインディング体、ブレーディング体及び織布から選択された少なくとも1種からなる、請求項
6~
13のいずれか1項に記載のセラミック複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック複合材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛、炭化ケイ素などは、耐熱性、化学的安定性、機械的特性等に優れた材料である。このため、これらのセラミック材料は、原子力分野、航空・宇宙分野、発電分野等の過酷な環境下や、ポンプメカニカルシール等の一般的な分野で使用される材料として開発が進められている。
【0003】
しかしながら、焼結体としての黒鉛、炭化ケイ素はセラミック材料であるため、破壊靱性が小さく、その弱点を解消するためにセラミック繊維で強化した複合材料が開発されている。例えば、SiC/SiC複合材などのセラミック繊維を用いたセラミック複合材は、高強度のセラミック繊維からなる骨材の間に、主にSiCからなるマトリックスが充填されることにより構成されている。中でもSiC繊維は、耐熱性を有するとともに高強度の素材であるので、C/C(Carbon Fiber Reinforced Carbon Composite:炭素繊維強化炭素複合材料)コンポジットなどとともに過酷な環境下で使用できる特徴がある。
【0004】
上記のようなセラミック繊維を用いたセラミック複合材として、強い接合力を有し、剥離しにくいセラミック複合材が特許文献1に開示されている。上記セラミック複合材は、SiC繊維を骨材とし、表面にセラミック被覆を有するものであって、骨材は、SiC繊維層が複数積層した支持材からなる。SiC繊維層は、複数本のSiC繊維からなるストランドが隙間をあけて並んで配置されたものであり、ストランドの隙間には、ストランドを覆うとともにセラミック被覆から延びるセラミック層が形成されている。そして、このセラミック層により、SiC繊維層が互いに接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高い熱伝導性が要求される部材として、上記特許文献1に記載のセラミック複合材を用いる場合に、セラミック繊維間に隙間が形成されているため、この隙間が熱抵抗の原因となり、熱伝導性が低下するという問題点がある。
また、上記セラミック複合材は、SiC繊維層が複数積層した構造であるため、セラミック繊維層に平行な方向に対しては良好な熱伝導性を有するが、セラミック繊維層に直交する方向、すなわち、厚さ方向への熱伝導性は低い。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑み、面方向及び厚さ方向のいずれに対しても優れた熱伝導性を有するセラミック複合材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、本発明に係る下記(1)のセラミック複合材により達成される。
(1) 対向する第一面及び第二面と、前記第一面及び前記第二面に対して直交する方向に所定の厚さを有する形状であるとともに、
骨材と、前記骨材の隙間に充填されたマトリックスと、を有するセラミック複合材であって、
前記骨材は、前記第一面及び前記第二面に対して略平行な方向に沿って延びるセラミック繊維を有し、
さらに、前記マトリックス中に配置され、前記厚さ方向に対して略平行な方向に沿って延びるウィスカ状単結晶体を有する、セラミック複合材。
【0009】
また、本発明に係るセラミック複合材は、下記(2)~(6)であることが好ましい。
(2) 前記ウィスカ状単結晶体は、SiC単結晶体及びAlN単結晶体の少なくとも一方からなる、(1)に記載のセラミック複合材。
(3) 前記マトリックスは、多結晶SiCからなる、(1)又は(2)に記載のセラミック複合材。
(4) 前記セラミック繊維は、SiC繊維である(1)~(3)のいずれか1つに記載のセラミック複合材。
(5) 前記骨材は、前記セラミック繊維を用いて形成されたフィラメントワインディング体、ブレーディング体及び織布から選択された少なくとも1種からなる、(1)~(4)のいずれか1つに記載のセラミック複合材。
(6) 前記形状は、板状又は管状である、(1)~(5)のいずれか1つに記載のセラミック複合材。
【0010】
上記の目的は、本発明に係る下記(7)のセラミック複合材の製造方法により達成される。
(7) (1)~(6)のいずれか1つに記載のセラミック複合材を製造する方法であって、
前記セラミック繊維を用いて前記骨材を形成する骨材形成工程と、
前記ウィスカ状単結晶体と、溶媒とを含有するスラリーを前記骨材に含浸させ、前記溶媒を乾燥させて含浸体を得る含浸・乾燥工程と、
前記含浸体をマトリックスで固定化するマトリックス形成工程と、を有するセラミック複合材の製造方法。
【0011】
また、本発明に係るセラミック複合材の製造方法は、下記(8)~(15)であることが好ましい。
(8) 前記含浸・乾燥工程において、前記スラリーはセラミック前駆体を含有し、
前記マトリックス形成工程において、前記含浸体を硬化・焼成することにより、セラミックからなるマトリックスを形成する、(7)に記載のセラミック複合材の製造方法。
(9) 前記マトリックス形成工程において、セラミック前駆体を含有する溶液を前記含浸体に含浸させ、硬化・焼成することにより、セラミックからなるマトリックスを形成する(7)に記載のセラミック複合材の製造方法。
(10) 前記セラミック前駆体は、SiC前駆体である、(8)又は(9)に記載のセラミック複合材の製造方法。
(11) 前記マトリックス形成工程において、セラミックの材料となる原料ガスを用いたCVD法により、セラミックからなるマトリックスを形成する、(7)に記載のセラミック複合材の製造方法。
(12) 前記原料ガスは、シラン系ガスであり、SiCからなるマトリックスを形成する、(11)に記載のセラミック複合材の製造方法。
(13)前記セラミック繊維は、SiC繊維である(7)~(12)のいずれか1つに記載のセラミック複合材。
(14) 前記ウィスカ状単結晶体は、SiC単結晶体及びAlN単結晶体の少なくとも一方からなる、(7)~(13)のいずれか1つに記載のセラミック複合材の製造方法。
(15) 前記骨材は、前記セラミック繊維を用いて形成されたフィラメントワインディング体、ブレーディング体及び織布から選択された少なくとも1種からなる、(7)~(14)のいずれか1つに記載のセラミック複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のセラミック複合材によれば、セラミック繊維が、セラミック複合材の第一面及び第二面に対して略平行な方向に沿って延び、ウィスカ状単結晶体が、セラミック複合材の厚さ方向に対して略平行な方向に沿って延びるように構成されているため、面方向及び厚さ方向のいずれに対しても優れた熱伝導性を得ることができる。
【0013】
また、本発明のセラミック複合材の製造方法によれば、面方向に対して略平行な方向に沿って延びるセラミック繊維を有する骨材を使用し、ウィスカ状単結晶体を含有するスラリーを含浸する方法によりセラミック複合材を製造するため、ウィスカ状単結晶体がセラミック複合材の厚さの方向に対して略平行な方向に沿って延びるように構成され、面方向及び厚さ方向のいずれに対しても優れた熱伝導性を有するセラミック複合材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るセラミック複合材を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すセラミック複合材の骨材を模式的に示す平面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2の実施形態に係るセラミック複合材の骨材を拡大して示す平面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第3の実施形態に係るセラミック複合材を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、
図6に示すセラミック複合材の表面を拡大して示す模式図である。
【
図8】
図8は、本発明に係るセラミック複合材の製造方法を工程順に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、例えば板状部材について、面方向及び厚さ方向のいずれに対しても優れた熱伝導性を有するセラミック複合材を得るため、鋭意検討を行った。その結果、面に対して略平行な方向に沿って延びるセラミック繊維からなる骨材と、セラミック繊維の隙間を充填するマトリックスと、厚さ方向に対して略平行な方向に沿って延びるウィスカ状単結晶体と、を有するセラミック複合材が、上記課題を解決することができることを見出した。
本発明はこのような知見に基づくものであり、以下において本発明の実施形態に係るセラミック複合材及びその製造方法について詳細に説明する。なお、本願明細書において、略平行とは、多少のずれを含んでいてもよい。すなわち、本発明は、セラミック繊維が面に対して略平行な方向に沿って延びることにより、面方向への熱伝導性を得ることができる。また、ウィスカ状単結晶体が厚さ方向に対して略平行な方向に沿って延びていることにより、厚さ方向に優れた熱伝導性を得ることができる。したがって、略平行とは、例えば、±30°のずれを有する場合を含むこととする。また、ウィスカ状単結晶体が厚さ方向に対して略平行な方向に沿って延びているとは、最も多くのウィスカ状単結晶体が当該方向を向いていることを示し、配向しているともいう。
【0016】
[セラミック複合材]
図1は、本発明の第1の実施形態に係るセラミック複合材を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、セラミック複合材1は、対向する第一面1a及び第二面1bを有し、第一面1a及び第二面1bに対して直交する方向に、所定の厚さdを有する形状を備える。また、セラミック複合材1は、骨材2と、骨材2の隙間6に充填されたマトリックス3と、マトリックス3中に配置され、厚さdの方向に対して略平行な方向に沿って延びるウィスカ状単結晶体7と、を有する。さらに、骨材2は、セラミック複合材1の第一面1a及び第二面1bに対して略平行な方向に沿って延びるセラミック繊維4aを有している。
【0017】
以下、第1の実施形態に係るセラミック複合材1における、骨材2の形状について詳細に説明する。
図2は、
図1に示すセラミック複合材の骨材を模式的に示す平面図であり、
図3は、その一部を拡大して示す平面図、
図4は、その断面図である。なお、
図2~
図4に示す骨材2の外形は、
図1に示すセラミック複合材1の形状とほぼ同一であるため、以下の説明では、骨材2の第一面2a及び第二面2bは、セラミック複合材1の第一面1a及び第二面1bに対応するものとする。
【0018】
図2~
図4に示すように、複数のセラミック繊維4aからなるストランド4が縦糸及び横糸となって織り込まれることにより織布5が形成されており、さらに、織布5が積層されることにより骨材2が構成されている。なお、骨材2には隙間6が形成されており、ウィスカ状単結晶体7は、セラミック複合材1の厚さ方向に対して略平行な方向に沿って延びるように、隙間6に配置される。
【0019】
このように構成された本実施形態に係るセラミック複合材1においては、セラミック繊維4aが、セラミック複合材1の第一面1a及び第二面1bに対して略平行な方向に沿って延びている。セラミック繊維4aは、繊維の方向に沿って高い熱伝導性を有しているため、セラミック複合材1は、その面方向、すなわち、第一面1a及び第二面1bに対して略平行な方向への熱伝導性が優れたものとなる。
【0020】
また、本実施形態において、セラミック複合材1の厚さdの方向に対して略平行な方向に沿って延びるように、ウィスカ状単結晶体7がマトリックス3中に配置されている。ウィスカ状単結晶体7には粒界が存在しないため、多結晶体と比較して著しく熱伝導性が高い。したがって、セラミック複合材1は、その厚さ方向に対しても優れた熱伝導性を得ることができる。
【0021】
本実施形態において、ウィスカ状単結晶体7は、例えば、SiC単結晶体及びAlN単結晶体の少なくとも一方からなるものとすることが好ましい。ウィスカ状単結晶体7がSiC単結晶体又はAlN単結晶体であると、マトリックス3中において、ウィスカ状単結晶体7と多結晶SiCとが、ともに存在している場合であっても、例えば2000Kを超える高い温度まで、両者が互いに反応し合うことがない(出典:A.Zangvil and R.Ruh:J.Am.Ceram.Soc.,71(1988),884)。したがって、ウィスカ状単結晶体7が有する高い結晶性を維持することができ、厚さ方向に対する優れた熱伝導性を得ることができる。
【0022】
また、マトリックス3は、例えば、多結晶SiCにより構成することができる。多結晶SiCは、骨材2に含まれるセラミック繊維4aとともに高い耐熱性及び耐酸化性を有するため、セラミック複合材1は、高い耐熱性及び耐酸化性を得ることができる。
【0023】
本実施形態において、セラミック繊維4aはSiC繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、ジルコニア繊維など特に限定されないが、SiC繊維であることが好ましい。SiC繊維は、特に耐熱性、耐酸化性ともに優れるため、高い耐熱性及び耐酸化性を有するセラミック複合材1を得ることができる。
【0024】
さらに、本実施形態において、骨材2は、セラミック繊維4aを束ねたストランド4を用いて織布5を形成し、これを積層して構成されている。このため、骨材2には、第一面2a側から第二面2b側に向けて厚さ方向に延びる隙間6が形成されやすくなる。したがって、所望の方向に配向したウィスカ状単結晶体7を得ることができる。
【0025】
上記第1の実施形態に係るセラミック複合材1の骨材2は、織布5が積層されることにより構成されているが、本発明はこのような構成に限定されず、例えば、セラミック繊維を用いて形成されたブレーディング体、又はフィラメントワインディング体等を採用することができる。
【0026】
骨材2として、ブレーディング体、フィラメントワインディング体を用いた例について、以下に説明する。
【0027】
図5は、本発明の第2の実施形態に係るセラミック複合材の骨材を拡大して示す平面図である。第2の実施形態は、骨材12としてブレーディング体を用いて、円筒状の骨材を形成した例である。複数のセラミック繊維14aからなるストランド14を互いに逆方向に交差させて組み込むことにより、ブレーディング体(組物)が形成されている。
図5では図示を省略しているが、ブレーディング体(組物)は、互いに略直交する方向のストランド14が螺旋状に交差しながら組み込まれているため、ストランド14は切断されることなく連続している。骨材12は、例えば、上記ブレーディング体を複数積層されることにより構成されるため、骨材12には、第一面12a側から第二面12b側に向けて、厚さ方向に延びる隙間16が形成されやすくなっている。したがって、このような骨材を用いてセラミック複合材1を製造することにより、厚さ方向に略平行な方向に延びるように、ウィスカ状単結晶体7が配置されやすくなる。
【0028】
続いて、
図6は、本発明の第3の実施形態に係るセラミック複合材を示す斜視図であり、
図7は、
図6に示すセラミック複合材の表面を拡大して示す模式図である。第3の実施形態に係るセラミック複合材に用いられる管状の骨材はフィラメントワインディング体であり、例えば、円柱形状の芯材の周囲に巻回された後に、芯材が抜き出されることにより形成されたものである。
図6及び
図7に示すように、セラミック複合材21は、セラミック繊維からなるストランド24からなる管状の骨材の隙間にマトリックス23が充填されたものである。セラミック繊維は、セラミック複合材21の第一面21a及び第二面22bに対して略平行な方向に沿って延びている。なお、骨材には、厚さ方向に延びる隙間が形成され、隙間に充填されたマトリックス23中には、骨材の厚さ方向に対して略平行な方向に沿って延びるウィスカ状単結晶体(図示せず)が配置されている。
【0029】
上記骨材を形成する際におけるセラミック繊維の巻回方向は、芯材の軸方向に対して平面視で略直交するように巻回する(フープ巻き)方向や、芯材の軸方向に対して平面視で斜めとなるように巻回する(ヘリカル巻き)方向がある。いずれの場合であっても、セラミック繊維は骨材の第一面(外周面)及び第二面(内周面)に対して略平行な方向に沿って延びている。そして、骨材には、第一面側から第二面側に向けて厚さ方向に延びる隙間が形成されやすくなっている。したがって、上記第1の実施形態及び第2の実施形態と同様に、厚さ方向に略平行な方向に延びるように、ウィスカ状単結晶体が配置されやすくなる。
【0030】
なお、上記第2及び第3の実施形態における骨材としては、円管形状のものを例示したが、本発明においては円管形状である必要はなく、外周面を主面とし、内周面を主面に対向する面として、主面と対向する面とに直交する方向に厚さが設定される形状であればよい。例えば、中空の角管形状や円錐形状も採用することができる。また、織布5を利用した場合であっても、丸めることにより、管状、中空の角管形状又は円錐形状の骨材を形成することができる。
【0031】
[セラミック複合材の製造方法]
図8は、本発明に係るセラミック複合材の製造方法を工程順に示す図である。セラミック複合材の製造方法は、骨材形成工程と、含浸・乾燥工程と、マトリックス形成工程とを有する。なお、
図8に示す製造方法は、
図1に示すセラミック複合材1を、
図2~
図4に示す骨材2を用いて製造した例である。
【0032】
<骨材形成工程>
まず、
図8(a)に示すように、セラミック繊維4aを有する骨材2を形成する。セラミック繊維4aは、製造されるセラミック複合材1の主面となる第一面1a及び第一面に対向する第二面1bに対して略平行な方向に沿って延びるように構成される。具体的には、複数のセラミック繊維4aからなるストランド4を縦糸及び横糸として織り込むことにより織布5を形成し、得られた織布5を積層することにより骨材2を形成する。これにより、骨材2には、製造されるセラミック複合材1の厚さdの方向(
図1を参照)に沿って延びる隙間6が形成される。
【0033】
<含浸・乾燥工程>
次に、
図8(b)に示すように、上記骨材2に、ウィスカ状単結晶体7と、例えば、水等の溶媒8とを含有するスラリーを含浸させる。含浸方法としては、骨材2の内部の空気が排出されるよう出口を確保し、一方向から含浸する方法を使用することができる。その後、溶媒を乾燥させることにより含浸体を得る。ウィスカ状単結晶体7を製造する方法、並びに溶媒の乾燥温度及び時間については特に限定されず、適宜選択することができる。なお、スラリー中のウィスカ状単結晶体7の濃度は特に限定されないが、流動性が確保できれば、濃度は高い方が好ましい。
【0034】
上述の製造方法によると、骨材2の隙間6に沿ってスラリーが流動するため、ウィスカ状単結晶体7は、スラリーの流動に沿って移動され、厚さ方向に対して略平行な方向に延びるように配向される。したがって、溶媒を乾燥し、骨材2の隙間に充填されるマトリックス3を形成した後においても、ウィスカ状単結晶体7はセラミック複合材1の厚さ方向に略平行な方向に配置される。その結果、セラミック繊維4aが延びる方向、すなわち、面方向と、ウィスカ状単結晶体7が延びる方向、すなわち、厚さ方向と、のいずれに対しても優れた熱伝導性を有するセラミック複合材1を製造することができる。
【0035】
<マトリックス形成工程>
本発明においては、種々の方法によりマトリックス3を形成することができる。上記含浸・乾燥工程に示すように、水等の溶媒8とウィスカ状単結晶体7のみを含有するスラリーを用いた場合には、
図8(b)に示す含浸・乾燥工程の後に、
図8(c)に示すように、セラミック前駆体を含有する溶液を含浸体に含浸させ、硬化・焼成することにより、セラミックからなるマトリックス3を形成することができる。なお、上記の工程では、含浸・乾燥工程で使用するスラリーには、水等の溶媒8とウィスカ状単結晶体7のみが含有されているので、スラリーの粘度が上がりすぎることを防止することができ、スラリー中のウィスカ状単結晶体7の濃度を高くすることができる。
【0036】
また、他の形成方法として、上記含浸・乾燥工程において、セラミック前駆体を含有したスラリーを使用し、含浸・乾燥工程の後に、含浸体を硬化・焼成することにより、セラミックからなるマトリックス3を形成することができる。このように、セラミック前駆体を含有したスラリーを使用することにより、1回目の含浸・硬化工程でウィスカ状単結晶体7の方向が固定化されるので、含浸・硬化工程を繰り返してもウィスカ状単結晶体の方向性が乱れることを防止することができる。
【0037】
なお、上記いずれのマトリックス形成工程においても、セラミック前駆体としてSiC前駆体を使用することが好ましい。これにより、多結晶SiCからなるマトリックス3を形成することができ、高い耐熱性及び耐酸化性を有するセラミック複合材を得ることができる。
【0038】
さらに、マトリックスを形成する他の方法として、化学蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)法を使用することもできる。具体的には、上記含浸体をCVD炉内に置き、CVD炉内にセラミックの材料となる原料ガスを供給して、真空度及び処理温度を調節することにより、骨材2の隙間にセラミックを気相成長させる。これにより、上記隙間にセラミックからなるマトリックス3を形成することができる。
【0039】
上記CVD法を利用するマトリックス形成工程においても、原料ガスとしてシラン系ガスを使用すると、SiCからなるマトリックス3を形成することができるので、高い耐熱性及び耐酸化性を有するセラミック複合材を得ることができる。
【0040】
なお、骨材形成工程は、上記のように織布を用いて骨材を形成する工程の他に、フィラメントワインディング体、及びブレーディング体等を用いる方法でもよい。また、含浸・乾燥工程において、スラリー中に含有させるウィスカ状単結晶体7は、SiC単結晶体又はAlN単結晶体であることが好ましい。これらの効果は上述した通りである。
【0041】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は、本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0042】
1,21 セラミック複合材
1a,21a 第一面
1b,21b 第二面
2,12 骨材
3,23 マトリックス
4,14,24 ストランド
4a,14a セラミック繊維
5 織布
6,16 隙間
7 ウィスカ状単結晶体
8 溶媒