(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/16 20060101AFI20230905BHJP
B29C 45/40 20060101ALI20230905BHJP
B29C 45/73 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
B29C45/16
B29C45/40
B29C45/73
(21)【出願番号】P 2019203391
(22)【出願日】2019-11-08
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100141645
【氏名又は名称】山田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100076048
【氏名又は名称】山本 喜幾
(72)【発明者】
【氏名】杉江 信二
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-101670(JP,A)
【文献】特開2008-074027(JP,A)
【文献】特開2004-358951(JP,A)
【文献】実開昭61-105124(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/44,45/16,45/40,45/73
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材の一方面に塗装層を有すると共に他方面から突出する突状形成部を有する樹脂成形品の製造方法であって、
第1型と第2型とを型閉じすると共に、当該第1型と第2型との間に形成される第1キャビティに樹脂原料を注入して樹脂基材を成形する第1の工程と、
前記第1型に前記樹脂基材が残るように前記第1型および第2型を型開きして樹脂基材の一方面を外気に露出する第2の工程と、
前記樹脂基材が残る前記第1型と第3型とを型閉じすると共に、当該樹脂基材の一方面と第3型との間に形成される第2キャビティに塗料を注入して前記塗装層を成形する第3の工程と、
前記第3型に前記塗装層を形成した前記樹脂基材が残るように前記第1型および第3型を型開きして樹脂基材の他方面を外気に露出する第4の工程と、
前記樹脂基材が残る前記第3型と第4型とを型閉じすると共に、当該樹脂基材の他方面と第4型との間に形成される第3キャビティに樹脂原料を注入して前記突状形成部を成形する第5の工程とを備える
ことを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程では、アンダーカット部を形成するスライドコアを備えた第1型により前記樹脂基材を成形し、
前記第4工程において前記第1型および第3型を型開きする際に、前記塗装層を形成した前記樹脂基材を前記第3型側に押し付けるように前記第1型のスライドコアを突き出すことを特徴とする請求項1記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記第3の工程において、前記第3型を加温しながら熱硬化性樹脂からなる塗料を前記第2キャビティに注入して前記塗装層を成形することを特徴とする請求項1または2記載の樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表面側に塗装層を有すると共に裏面側に取付部などの突状形成部が突出するように設けられている樹脂成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両や船舶、或いは航空機といった各種の乗物や、住宅等の建築物の建材、或いは椅子やソファー等の家具などには、対象部材の装飾や保護などを目的として、表面を塗装した樹脂成形品が設けられることがある。例えば、このような樹脂成形品は、自動車等の車両のピラーアウターガーニッシュやルーフガーニッシュ等の車両の外装を装飾する装飾部材として、或いはインパネやドアトリム等の車両の内装を装飾する装飾部材として広く利用されている。このような樹脂成形品の塗装層の形成は、射出成形によって形成した樹脂基材の表面にスプレー法や浸漬法などを利用して塗料を塗布することで容易に形成することができるものの、このような方法では均一な厚みの塗装層を形成することは困難になる。そこで、例えば特許文献1のように、射出成形した樹脂基材を塗装面側に隙間が空くように樹脂基材を成形型に設置し、その隙間に塗料を注入する型内塗装(インモールディングコート)などによって行うことがある。このような型内塗装では、塗装面側に形成する隙間を適宜に調整することで樹脂基材の塗装面に均一な厚みで塗装層が形成された樹脂成形品が得られる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述した樹脂成形品は、車体のパネルなどの取付対象に対する取り付けに使用される取付部や、補強するための補強部などが樹脂基材の裏面側に突出するようにして形成されることがある。このような樹脂基材の裏面から突出する突状形成部は、樹脂基材とは別に成形して接着などにより固定したり、樹脂基材と一体成形により形成することができる。しかしながら、樹脂基材とは別に設けた突状形成部を接着により固定した場合には、その接着不良や接着部分の経時的な劣化などによって樹脂基材と突状形成部とが分離する問題が生じかねない。一方で、樹脂基材と突状形成部とを射出成形で一体成形する場合には、このような接着不良などに起因した離脱問題は防止できるものの、射出成形では溶融した樹脂が冷えて固まる過程で収縮することで、突状形成部の形成部分など凹凸を形成した部分の表面側にヒケと呼ばれる凹状の成形不良が生ずることが知られている。このようなヒケが樹脂基材の表面に表れると、表面側に形成した塗装層にヒケの形態が転写して塗装層が波打ったり、塗装層の厚みが不均一になって光沢などの装飾性を損なう要因となっていた。このようなヒケは、突状形成部の根元部分を薄肉にする所謂「肉盗み」を施すことで抑制することができるものの、薄肉にすることにより突状形成部の強度低下を招くと共に、肉盗みを施した場合でも完全にヒケが生じないようにすることは困難である。
【0005】
すなわち本発明は、樹脂基材の一方面に良好な塗装層を形成しつつ、樹脂基材の他方面から突出する突状形成部を設けることができる樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の請求項1に係る発明は、
樹脂基材の一方面に塗装層を有すると共に他方面から突出する突状形成部を有する樹脂成形品の製造方法であって、
第1型と第2型とを型閉じすると共に、当該第1型と第2型との間に形成される第1キャビティに樹脂原料を注入して樹脂基材を成形する第1の工程と、
前記第1型側に前記樹脂基材が残るように前記第1型および第2型を型開きして樹脂基材の一方面を外気に露出する第2の工程と、
前記樹脂基材が残る前記第1型と第3型とを型閉じすると共に、当該樹脂基材の一方面と第3型との間に形成される第2キャビティに塗料を注入して前記塗装層を成形する第3の工程と、
前記第3型側に前記塗装層を形成した前記樹脂基材が残るように前記第1型および第3型を型開きして樹脂基材の他方面を外気に露出する第4の工程と、
前記樹脂基材が残る前記第3型と第4型とを型閉じすると共に、当該樹脂基材の他方面と第4型との間に形成される第3キャビティに樹脂原料を注入して前記突状形成部を成形する第5の工程とを備えることを要旨とする。
このように、第1型と第2型との間に形成される第1キャビティに樹脂原料を注入して樹脂基材を成形した後に、樹脂基材の表面と第3のキャビティ型との間に形成される第2キャビティに塗料を注入して塗装層を形成し、更にその後に樹脂基材の他方面と第4型との間に形成される第3キャビティに樹脂原料を注入して突状形成部を成形することで、突状形成部の形成位置で樹脂基材にヒケが生ずるのを効果的に防止できる。このため、樹脂基材に対して塗装層を良好な状態で形成することができ、樹脂成形品の外観の仕上がり(見栄え)を高めることができる。また、塗装層の成形前には樹脂基材における塗装層の形成面(一方面)を外気に触れさせることで、塗装層の形成面を外気により冷却して硬化を促進することができるから、硬化した樹脂基材に塗装層を良好な状態で形成することができる。同様に、突状形成部の成形前には樹脂基材における突状形成部の形成面(他方面)を外気に触れさせることで、当該突状形成部の形成面(他方面)を外気により冷却して硬化を促進することができるから、突状形成部の成形時に樹脂基材にヒケが生ずるのを効果的に防止できる。このように、樹脂成形品を成形する際に、その樹脂基材を成形する工程と、塗装層を形成する工程と、突状形成部を成形する工程とに分け、各工程を行う前の段階で塗装層や突状形成部を形成する面を外気に触れさせることで、外観の仕上がり(見栄え)を良好にすることができる。
【0007】
請求項2に係る発明は、
前記第1の工程では、アンダーカット部を形成するスライドコアを備えた第1型により前記樹脂基材を成形し、
前記第4工程において前記第1型および第3型を型開きする際に、前記塗装層を形成した前記樹脂基材を前記第3型側に押し付けるように前記第1型のスライドコアを突き出すことを要旨とする。
このように、アンダーカット形状部分を成形するスライドコアを備えた第1型を用いて樹脂基材を成形することで、当該樹脂基材の成形後に第1型と第2型とを型開きした際に、第1型側に樹脂基材を確実に保持すことができる。また、塗装層の形成した第1型と第3型とを型開きする際(第4工程)には、塗装層を形成した樹脂基材を第3型側に押し付けるようにスライドコアを突き出すことで、塗装層を形成した樹脂基材を第3型に確実に保持させることができる。
【0008】
請求項3に係る発明は、
前記第3の工程において、前記第3型を加温しながら熱硬化性樹脂からなる塗料を前記第2キャビティに注入して前記塗装層を成形することを要旨とする。
このように、熱硬化性樹脂からなる塗料を用い、第3型を加温しながら第2キャビティに塗料を注入して塗装層を成形することで、塗料の硬化を促進して樹脂成形品の脱型までのサイクル時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂基材の一方面に良好な塗装層を形成しつつ、樹脂基材の他方面から突出する突状形成部を設けた樹脂成形品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る樹脂成形品を成形する成形型の概略図である。
【
図2】樹脂成形品の製造工程を示す説明図であって、(a)は第1のコア型と第1のキャビティ型とを型閉めして第1キャビティを形成した状態を示し、(b)は第1キャビティに樹脂を注入して樹脂基材を形成した状態を示している。
【
図3】樹脂成形品の製造工程を示す説明図であって、(a)は樹脂基材の形成後に第1のコア型と第1のキャビティ型とを型開きした状態を示し、(b)は樹脂基材を保持する第1のコア型に第2のキャビティ型を対面させた状態を示している。
【
図4】樹脂成形品の製造工程を示す説明図であって、(a)は第1のコア型と第2のキャビティ型とを型閉めして第2キャビティを形成した状態を示し、(b)は第2キャビティに塗料を注入して塗装層を形成した状態を示している。
【
図5】樹脂成形品の製造工程を示す説明図であって、(a)は塗装層の形成後に第1のコア型と第2のキャビティ型とを型開きした状態を示し、(b)は塗装層を形成した樹脂基材を保持する第2のキャビティ型を第2のコア型に対面させた状態を示している。
【
図6】樹脂成形品の製造工程を示す説明図であって、(a)は第2のコア型と第2のキャビティ型とを型閉めして第3キャビティを形成した状態を示し、(b)は第3キャビティに樹脂を注入して取付部を形成した状態を示している。
【
図7】樹脂成形品の製造工程を示す説明図であって、(a)は取付部の形成後に第2のコア型と第2のキャビティ型とを型開きした状態を示し、(b)は成形した樹脂基材を第2のコア型から脱型した状態を示している。
【
図8】(a)は樹脂成形品を正面側から見た状態で示す概略斜視図であり、(b)は樹脂成形品を背面側から見た状態で示す概略斜視図である。
【
図9】樹脂成形品を取付部および延出部の形成位置で破断した横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明に係る樹脂成形品100の製造方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。本実施例では、
図8、
図9に示すように、樹脂成形品100として自動車のピラー(取付対象)の外面に取り付けて装飾するピラーガーニッシュを例にして説明する。この樹脂成形品100は、平板状の板部104の外周縁から裏面側(取付対象側に向く面側)に周壁106が延出する皿状に樹脂基材102が形成されて、当該樹脂基材102(板部104および周壁106)の表面側(取付対象と反対側を向く面側)に塗装層110が設けられると共に、当該樹脂基材102(板部104)の裏面側に取付対象へ取り付けるための取付部(突状形成部)112が形成されている。また、樹脂基材102は、周壁106の端部の適宜位置に対向する周壁106側に向けて延出するアンダーカット状の延出部106aが設けられており、当該延出部106aが樹脂成形品100の成形時に成形型(後述する第1のコア型12)に樹脂基材102を残存させる係合部として機能する部分になっている。また、取付部112は、板部104の裏面側に突出するように繋がる連結壁112aと、当該連結壁112aの突出端から交差方向に延出するアンダーカット状の延出壁112bが設けられており、当該取付部112が樹脂成形品100の成形時に成形型(後述する第2のコア型)に樹脂基材102を残存させる係合部として機能する部分になっている。
【0012】
樹脂成形品100を成形する成形型10は、
図1に示すように、樹脂成形品100の裏面側を成形する第1のコア型(第1型)12および第2のコア型(第4型)14と、樹脂成形品100の表面側を成形する第1のキャビティ型(第2型)16および第2のキャビティ型(第3型)18とから構成されている。この第1のキャビティ型16および第2のキャビティ型18は、成形面16a,18aと反対側で共通の支持板20に支持されており、図示しない駆動手段により、第1のキャビティ型16が第1のコア型12と対面すると共に第2のキャビティ型18が第2のコア型14と対面する第1位置と、第2のキャビティ型18が第1のコア型12と対面する第2位置とに移動可能に構成されている。また、第1のキャビティ型16および第2のキャビティ型18は、図示しない別の駆動手段によって対面する第1のコア型12および第2のコア型14から離れた型開き位置と、対面する第1のコア型12および第2のコア型14とによりキャビティC1,C2,C3を形成する型閉め位置とに移動可能に構成されている。
【0013】
図1に示すように、第1のコア型12は、第1の型本体22と、当該第1の型本体22に対して成形位置と突出位置にスライド可能に設けられた第1のスライドコア24とを備えており、第1の型本体22に樹脂基材102の裏面を成形する成形面22aが形成されると共に、当該第1の型本体22との間に樹脂基材102のアンダーカット形状部分(延出部106a)を成形するアンダーカット成形面24aが第1のスライドコア24に形成されている。そして、第1のキャビティ型16には、樹脂基材102(板部104、周壁106)の表面を成形する成形面16aが形成されている。すなわち、第1のキャビティ型16を第1のコア型12に対して型閉めした際に、当該第1のコア型12(第1の型本体22および第1のスライドコア24)の成形面22a,24aと第1のキャビティ型16の成形面16aとの間に第1キャビティC1が形成され(
図2(a)参照)、当該第1キャビティC1に注入した溶融樹脂を硬化することで樹脂基材102(板部104、周壁106および延出部106a)が形成されるようになっている。そして、第1キャビティC1で形成された樹脂基材102は、延出部106aが第1のスライドコア24のアンダーカット成形面24aと係合した状態となっており、当該係合状態により第1のコア型12に樹脂基材102が保持されるようになっている(
図3(a)参照)。
【0014】
ここで、第1のスライドコア24は、軸体24bを介して図示しない駆動手段に接続されており、第1の型本体22に対して傾斜した方向に突き出し可能になっている。すなわち、樹脂基材102を成形する成形位置から突出位置に向けて第1のスライドコア24を突き出すように移動することで、樹脂基材102を第1の型本体22から離れるように押し出すと共に、第1のスライドコア24のアンダーカット成形面24aが樹脂基材102の延出部106aから離れるように移動して係合状態が解除され、樹脂基材102を第1のコア型12から離脱させ得るようになっている(
図5(a)参照)。
【0015】
また、第1のキャビティ型16の下部には、第1のコア型12(型本体)との間に第1キャビティC1に繋がる第1の樹脂流路30(スプルー、ランナー、ゲート)を形成する第1の流路形成凹部26が形成されており、第1位置で型閉めすることで形成される第1の樹脂流路30を介して、樹脂供給部(図示せず)から溶融した樹脂を第1キャビティC1に注入し得るようになっている。そして、第1のキャビティ型16の上部には、第1のコア型12(第1の型本体22)との間に第1キャビティC1に繋がる第1の逃げ空間32を形成する第1の逃げ凹部28が形成されており、第1キャビティC1に溶融樹脂を注入する際に混入したり第1キャビティC1内で溶融した樹脂が硬化する際に発生する気泡を第1の逃げ空間32に逃がし得るようになっている。第1の樹脂流路30や第1の逃げ空間32で硬化して樹脂基材102に繋がる樹脂部分は、不要樹脂部として成形後の後加工において切断除去される部分である。なお、以下において、第1の樹脂流路30で硬化して樹脂基材102に繋がる樹脂部分を、流路硬化樹脂Mと言う場合がある。
【0016】
図1に示すように、第2のキャビティ型18の成形面18aは、第1のコア型12に対して型閉めした際に、第1のコア型12(第1の型本体22および第1のスライドコア24)の成形面22a,24aに対して第1のキャビティ型16の成形面16aが位置付けられる位置(
図2(a)参照)よりも、当該第1のコア型12の成形面22a,24aから離間した位置に位置付けられるように形成されている。すなわち、第1のキャビティ型16との間で形成した樹脂基材102を第1のコア型12に保持した状態で第2のキャビティ型18を第1のコア型12に対して型閉めすることで、当該樹脂基材102の表面と第2のキャビティ型18の成形面18aとの間に第2キャビティC2が形成され、当該第2キャビティC2に注入した塗料を硬化することで樹脂基材102の表面に塗装層110が形成されるようになっている(
図4(a)参照)。
【0017】
そして、第2のキャビティ型18の下部には、第1のコア型12(第1の型本体22)に保持した樹脂基材102に繋がる流路硬化樹脂Mとの間に第2キャビティC2に繋がる第2の樹脂流路38(スプルー、ランナー、ゲート)を形成する第2の流路形成凹部34が形成されており、第2位置で型閉めすることで形成される第2の樹脂流路38を介して、塗料供給部から塗料を第2キャビティC2に注入し得るようになっている。また、第2のキャビティ型18の上部には、第1のコア型12(第1の型本体22)に保持した樹脂基材102との間に第2キャビティC2に繋がる第2の逃げ空間40を形成する第2の逃げ凹部36が形成されており、第2キャビティC2に塗料を注入する際に混入したり第2キャビティC2内で塗料が硬化する際に発生する気泡を第2の逃げ空間40に逃がし得るようになっている。すなわち、第2のキャビティ型18を第1のコア型12に対して型閉めした状態で、当該第2のキャビティ型18の成形面18a、第2の流路形成凹部34および第2の逃げ凹部36の第1のコア型12側には、第1のコア型12と第1のキャビティ型16とを型閉めた成形時に形成された樹脂部分(樹脂基材102や流路硬化樹脂M、第1の逃げ空間32で硬化して樹脂基材102に繋がる樹脂部分)が位置しており、第2キャビティC2に注入した塗料が第1のコア型12(第1の型本体22、第1のスライドコア24)に触れないようにしてある。また、第2のキャビティ型18は、図示しないヒータ等の加温手段を備えており、第2キャビティC2に注入した塗料の硬化を促進し得るようにしてある。
【0018】
図1に示すように、第2のコア型14は、第2の型本体42と、当該第2の型本体42に対して成形位置と突出位置にスライド可能に設けられた第2のスライドコア46とを備えている。第2の型本体42には、樹脂基材102を保持した第2のキャビティ型18を第2のコア型14に対して型閉めした際に、当該樹脂基材102の裏面に突き当たる突当て部44が設けられており、取付部112を形成する連結壁112aの一側面(実施例では延出壁112bとは反対側の外側面)を成形する成形面44aが突当て部44に形成されている。また、第2のスライドコア46は、成形位置において樹脂基材102の裏面に突き当たると共に、突当て部44との間に取付部112のアンダーカット形状部分(延出壁112b)を成形するアンダーカット成形面46aが形成されている。すなわち、樹脂基材102を保持した第2のキャビティ型18を第2のコア型14に対して型閉めした際に、当該樹脂基材102の裏面で塞がれるようにして第2のコア型14の突当て部44の成形面44aと第2のスライドコア46の成形面46aとの間に第3キャビティC3が形成され(
図6(a)参照)、当該第3キャビティC3に注入した溶融樹脂を硬化することで取付部112(連結壁112a、延出壁112b)が形成されるようになっている。なお、第2のコア型14の型本体には、第3キャビティC3に繋がる図示しない樹脂流路(スプルー、ランナー、ゲート)が形成されており、当該樹脂流路を介して樹脂供給部から溶融樹脂を第3キャビティC3に注入し得るようになっている。そして、第3キャビティC3で取付部112を形成した樹脂基材102は、当該取付部112(延出壁112b)が第2のスライドコア46のアンダーカット成形面46aと係合した状態となっており、当該係合状態により第2のコア型14に樹脂基材102が保持されるようになっている(
図7(a)参照)。
【0019】
ここで、第2のスライドコア46は、軸体46bを介して図示しない駆動手段に接続されており、第2のコア型14の型本体に対して傾斜した方向に突き出し可能になっている。すなわち、樹脂基材102を成形する成形位置から第2のスライドコア46を突き出すように移動することで、樹脂基材102を第2の型本体42から離れるように押し出すと共に、第2のスライドコア46のアンダーカット成形面46aが取付部112の延出壁112bから離れるように移動して係合状態が解除され、樹脂基材102を第2のコア型14から離脱させ得るようになっている。
【0020】
次に、本発明に係る樹脂成形品100の製造方法について、前述した成形型10を用いて説明する。まず、
図2(a)に示すように、第1位置において第1のキャビティ型16を型開き位置から型閉め位置に移動して第1のコア型12に対して型閉じして、第1のコア型12と第1のキャビティ型16の間に第1キャビティC1を形成する。そして、
図2(b)に示すように、この状態で第1のコア型12と第1のキャビティ型16の間に形成される第1の樹脂流路30を介して樹脂供給部から溶融した樹脂を第1キャビティC1に注入し、注入した樹脂を硬化させることで板部104と周壁106と延出部106aとを備えた樹脂基材102を形成する(第1の工程)。ここで、第1キャビティC1に注入して樹脂基材102を形成する樹脂は、特に限定されるものではなく樹脂成形品100の用途に適した熱可塑性樹脂を用いることができる。特に、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)やポリカーボネート(PC)、ポリカーボネートとアクリロニトリル・ブタジエン・スチレンとの混合樹脂(PC/ABS)などの極性樹脂を用いることで、樹脂基材102の表面側に積層形成した塗装層110の剥がれなどを効果的に防いで良好な状態を維持することができる。
【0021】
次いで、
図3(a)に示すように、第1のコア型12の成形面22a,24a側に樹脂基材102が残るように第1のキャビティ型16を型閉じ位置から型開き位置に移動して型開きする(第2の工程)。このとき、第1のコア型12の第1のスライドコア24は成形位置に保持してある。すなわち、第1キャビティC1で形成した樹脂基材102はアンダーカット状の延出部106aを有しており、この延出部106aが第1のコア型12の第1のスライドコア24のアンダーカット成形面24aと係合した状態で型開きすることで、第1のスライドコア24で樹脂基材102を保持して第1のコア型12の成形面22a,24a側に確実に残すことができる。その後、第1のキャビティ型16および第2のキャビティ型18を第2位置に移動し、第2のキャビティ型18の成形面18aを第1のコア型12に対面させる。
【0022】
図3(b)、
図4(a)に示すように、第2位置において第2のキャビティ型18を型開き位置から型閉め位置に移動して第1のコア型12に対して型閉じして、第1のコア型12に保持した樹脂基材102の表面と第2のキャビティ型18の成形面18aとの間に第2キャビティC2を形成する。そして、
図4(b)に示すように、この状態で流路硬化樹脂Mの表面と第2のキャビティ型18の第2の流路形成凹部34の間に形成される第2の樹脂流路38を介して塗料供給部から塗料を第2キャビティC2に注入し、注入した塗料を硬化させることで、樹脂基材102の表面に塗装層110を形成する(第3の工程)。ここで、塗料としては、特に限定されるものではなく樹脂成形品100の用途に適したものを用いることができ、エポキシ樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料、アクリル樹脂塗料などを好適に採用できる。特に、ウレタン樹脂塗料などの極性樹脂を用いることで、樹脂基材102の表面側に積層形成した塗装層110の剥がれなどを効果的に防いで良好な状態を維持することができると共に、光輝性に優れたツヤのある塗装層110を形成し得ると共に耐候性の高い塗装層110を形成できる。また、ウレタン樹脂塗料としては、ポリオールとポリイソシアネートとを混合する2液型のものが好ましい。このような2液型のウレタン樹脂塗料を用いることで、塗料の硬化に対する気候等の影響を抑制して一定の塗装状態を維持することが可能になる。また、塗料として熱硬化性樹脂原料からなる塗料を採用することが好適である。熱硬化性樹脂原料からなる塗料を採用することで、第2のキャビティ型18をヒータ等の加温手段で加温することにより塗料の硬化を促進し、樹脂成形品100を脱型するまでの間に塗装層110を形成することができ、成形のサイクルを短縮化することができる。
【0023】
次いで、
図5(a)に示すように、第2のキャビティ型18の成形面18a側に塗装層110を形成した樹脂基材102が残るように第2のキャビティ型18を型閉じ位置から型開き位置に移動して第1のコア型12に対して型開きする(第4の工程)。このとき、第1のコア型12の第1のスライドコア24が突出位置に向けて第1の型本体22に対して傾斜した方向に移動する。すなわち、第1のスライドコア24を突き出すようにして第2のキャビティ型18を型開きすることで、樹脂基材102の延出部106aと第1のスライドコア24との係合状態を解除しながら当該第1のスライドコア24が樹脂基材102を第2のキャビティ型18の成形面18a側に押し付けるよう移動し、第2のキャビティ型18の成形面18a側に樹脂基材102を確実に残すことができる。また、第1のコア型12に対する第2のキャビティ型18の型開きは、第2キャビティC2に注入した塗料が完全に硬化する前に行われる。塗料が完全に硬化する前に行うことで、塗料のファンデルワールス力により樹脂基材102を第2のキャビティ型18の成形面18a側に付着させることができるから、第2のキャビティ型18の成形面18a側に樹脂基材102を残しながら第2のキャビティ型18を型開きすることができる。また、流路硬化樹脂Mの表面と第2のキャビティ型18の第2の流路形成凹部34の間に形成される第2の樹脂流路38を介して塗料供給部から第2キャビティC2に塗料を注入するようにし、塗料が第1のコア型12に触れないようにすることで、注入した塗料が第1のコア型12に付着することはなく、第2のキャビティ型18の成形面18a側に樹脂基材102を確実に残しながら第2のキャビティ型18を型開きすることができる。その後、第1のキャビティ型16および第2のキャビティ型18を第1位置に移動し、第2のキャビティ型18の成形面18aを第2のコア型14に対面させる(
図5(b)参照)。
【0024】
図6(a)に示すように、第1位置において第2のキャビティ型18を型開き位置から型閉め位置に移動して第2のコア型14に対して型閉じし、第2の型本体42の突当て部44および第2のスライドコア46を第2のキャビティ型18に保持した樹脂基材102の裏面に突き当て、突当て部44の成形面44aと第2のスライドコア46のアンダーカット成形面46aとの間に第3キャビティC3を形成する。この状態で、
図6(b)に示すように、第2のコア型14に設けた図示しない樹脂流路を介して樹脂供給部から溶融した樹脂を第3キャビティC3に注入し、注入した樹脂を硬化させることで樹脂基材102の裏面に取付部112を形成する(第5の工程)。第3キャビティC3に注入して樹脂基材102を形成する樹脂は、特に限定されるものではなく樹脂成形品100の用途に適したものを用いることができ、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、ポリカーボネート(PC)などの熱可塑性樹脂を好適に採用できる。ここで、樹脂基材102と同一の樹脂素材を用いることで、樹脂基材102の裏面に対して取付部112を効果的に接合することができる。
【0025】
次いで、
図7(a)に示すように、取付部112を形成した樹脂基材102が第2のコア型14側に残るように第2のキャビティ型18を型閉じ位置から型開き位置に移動して第2のコア型14に対して型開きする。このとき、第2のスライドコア46は成形位置に保持してある。すなわち、第3キャビティC3で形成した取付部112はアンダーカット状の延出壁112bを有しており、この延出壁112bが第2のコア型14の第2のスライドコア46のアンダーカット成形面46aと係合した状態で型開きすることで、第2のスライドコア46で樹脂基材102を保持して第2のコア型14側に確実に残すことができる。この第2のコア型14に対する第2のキャビティ型18の型開きは、塗装層110が硬化した後に行われる。ここで、第2のキャビティ型18をヒータ等の加温手段で加温すると共に熱硬化性樹脂原料からなる塗料により塗装層110を形成することで、塗料の硬化を促進することができ、第2キャビティC2に塗料を注入してから第2のコア型14に対して第2のキャビティ型18の型開きするまでの時間を短縮して成形のサイクルを短縮化することができる。
【0026】
そして、
図7(b)に示すように、第2のコア型14に対して第2のキャビティ型18を型開きした後に、第2のスライドコア46が突出位置に向けて第2の型本体42に対して傾斜した方向に移動する。すなわち、第2のスライドコア46を突き出すようにすることで、取付部112の延出壁112bと第2のコア型14のスライドコアとの係合を解除しながら当該第2のスライドコア46が樹脂基材102を第2のコア型14から離れるように押し出すことで、取付部112を形成した樹脂基材102が第2のコア型14から脱型される。そして、脱型した後に樹脂基材102に繋がる不要樹脂部(流路硬化樹脂Mや第1の逃げ空間32で硬化した樹脂部分)を図示しない切断装置などで切断して除去することで、樹脂基材102の表面に塗装層110を有すると共に裏面から突出するよう取付部112を有する樹脂成形品100が得られる(
図9参照)。
【0027】
このように、第1のコア型12と第1のキャビティ型16との間に形成される第1キャビティC1に樹脂原料を注入して樹脂基材102を成形した後に、樹脂基材102の表面と第2のキャビティ型18との間に形成される第2キャビティC2に塗料を注入して塗装層110を形成し、更にその後に樹脂基材102の裏面と第2のコア型14との間に形成される第3キャビティC3に樹脂原料を注入して樹脂基材102から突出するように取付部112を成形することで、取付部112の形成位置で樹脂基材102にヒケが生ずるのを効果的に防止できる。このため、樹脂基材102の表面に形成される塗装層110を均一な厚みで形成することができ、樹脂成形品100の外観の仕上がり(見栄え)を高めることができる。
【0028】
ここで、塗装層110の成形前には、樹脂基材102が第1のコア型12に残るように第1のコア型12と第1のキャビティ型16が型開きされ、樹脂基材102における塗装層110の形成面(表面)が外気に触れる。これにより、樹脂基材102における塗装層110の形成面を外気により冷却して硬化を促進することができるから、樹脂基材102の表面に形成される塗装層110を均一な厚みにすることができる。また、取付部112の成形前には、塗装層110を形成した樹脂基材102が第2のキャビティ型18に残るように第1のコア型12と第2のキャビティ型18が型開きされ、樹脂基材102における取付部112の形成面(裏面)が外気に触れるようになる。これにより、樹脂基材102における取付部112の形成面を外気により冷却して硬化を促進することができから、取付部112の成形時に樹脂基材102にヒケが生ずるのを効果的に防止できる。このように、樹脂成形品100を成形する際に、その樹脂基材102を成形する工程と、塗装層110を形成する工程と、取付部112を成形する工程とに分け、各工程を行う前の段階で塗装層110や取付部112を形成する面を外気に触れさせることで、外観の仕上がり(見栄え)を良好にすることができる。
【0029】
また、アンダーカット形状部分を成形する第1のスライドコア24を備えた第1のコア型12を用いて樹脂基材102を成形することで、当該樹脂基材102の成形後に第1のコア型12と第1のキャビティ型16とを型開きした際に、第1のコア型12側に樹脂基材102を確実に保持させるようにすることができる。また、塗装層110の形成した第1のコア型12と第2のキャビティ型18とを型開きする際(第4工程)には、塗装層110を形成した樹脂基材102を第2のキャビティ型18の成形面18a側に押し付けるように第1のスライドコア24を突き出すことで、塗料のファンデルワールス力だけでなく、第1のスライドコア24の突き出しにより塗装層110を形成した樹脂基材102を第2のキャビティ型18の成形面18aに確実に保持させるようにすることができる。
【0030】
更に、熱硬化性樹脂原料からなる塗料を用い、第2のキャビティ型18を加温しながら第2キャビティC2に塗料を注入して塗装層110を成形することで、塗料の硬化を促進して樹脂成形品100の脱型までのサイクル時間を短縮することができる。
【0031】
(変更例)
前述した実施例に限定されず、例えば以下のように変更することができる。
(1)実施例では、第1のキャビティ型16と第2のキャビティ型18とを支持板20で支持し、共通の駆動手段により第1位置および第2位置に移動すると共に、第1のコア型12および第2のコア型14に対して型閉めおよび型開き可能に構成したが、第1のキャビティ型16と第2のキャビティ型18とを独立して設け、夫々を個別の駆動手段で移動するようにしてもよい。
(2)実施例では、第1のキャビティ型16と第2のキャビティ型18を第1位置および第2位置に移動して対面するコア型とキャビティ型を入れ替えるようにしたが、第1のコア型12および第2のコア型14を移動するようにして対面するコア型とキャビティ型を入れ替えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0032】
12 第1のコア型(第1型),14 第2のコア型(第4型)
16 第1のキャビティ型(第2型),18 第2のキャビティ型(第3型)
24 第1のスライドコア,102 樹脂基材,110 塗装層
112 取付部(突状形成部),C1 第1キャビティ,C2 第2キャビティ
C3 第3キャビティ