(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】基材に依存する補償プロファイル
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20230905BHJP
【FI】
B41J2/01 205
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019213296
(22)【出願日】2019-11-26
【審査請求日】2022-08-15
(31)【優先権主張番号】10 2018 220 334.2
(32)【優先日】2018-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390009232
【氏名又は名称】ハイデルベルガー ドルツクマシーネン アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Heidelberger Druckmaschinen AG
【住所又は居所原語表記】Kurfuersten-Anlage 52-60, D-69115 Heidelberg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アクセル ハウク
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-028127(JP,A)
【文献】特開2010-094875(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0154477(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
演算装置(6)によって、インクジェット印刷機(7)における印刷ノズルの、位置に依存する濃度変動を補償する方法であって、
前記演算装置(6)は、用いられるすべての印刷基材に対して、前記インクジェット印刷機(7)のすべての印刷ヘッド(5)に関する、位置に依存する濃度変動の補償プロファイル(10,11)を作成し、かつ該補償プロファイル(10,11)を、前記インクジェット印刷機(7)における、位置に依存する濃度変動を補償するために用いる、方法において、
前記演算装置(6)は、一般的な基準印刷基材を用いて、それぞれ印刷機特有のまたは印刷ヘッド特有の影響および印刷基材特有の影響ファクタを求め、
前記基準印刷基材から基準補償プロファイル(11)を作成し、
前記基準補償プロファイル(11)は、網点面積率および位置に依存し、かつ前記基準補償プロファイル(11)から、位置に依存する濃度変動を補償するために用いる全体補償プロファイルを作成
し、
前記演算装置(6)は、所定の印刷インキの個々の前記印刷ヘッド(5)の間の移行領域に対する機械特有のまたは印刷ヘッド特有の影響を個別に考慮する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記演算装置(6)は、用いられる印刷基材(14,15,16)に対する特有の補償プロファイル(10)を作成し、次いで、該補償プロファイル(10)を前記基準補償プロファイル(11)と照合することによって、印刷基材特有の影響ファクタを求め、
印刷基材特有の影響ファクタは、純粋に網点面積率に依存する
ことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記演算装置(6)は、印刷基材特有の影響ファクタを、平均値、中央値または他の統計上の特性値として、印刷幅(9)全体にわたる基準基材に対する特有の印刷基材(14,15,16)の補償強さ(8)の比(12)から計算することを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
変化された印刷機パラメータまたは印刷ヘッドパラメータに前記全体補償プロファイルを適合させるとき、前記演算装置(6)は、印刷機特有のまたは印刷ヘッド特有の影響だけを新たに求めることを特徴とする、請求項1から3までのいずれ1項記載の方法。
【請求項5】
印刷機特有のまたは印刷ヘッド特有の影響を、前記演算装置(6)により、データベースに記憶し、他の印刷ジョブのために前記インクジェット印刷機(7)において引き続き用いることを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
用いられる前記印刷基材(14,15,16)に対する特有の補償プロファイル(10)の記録を複数回行い、結果をデータベースに保存し、前記演算装置(6)は、結果を統計的に評価することを特徴とする、請求項
2または請求項2を引用する請求項3から
5までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械特有の補償および基材特有の補償によって、インクジェット印刷機における印刷ノズルの、位置に依存する濃度変動を補償する方法に関する。
【0002】
本発明は、インクジェット印刷の技術分野に属する。
【0003】
インクジェット印刷機は、様々な態様で印刷ヘッド内に配置された印刷ノズルの列を有する印刷ヘッドを用いる。印刷ノズルを介してインクが吐出され、ひいては所望の印刷像が作製される。しかし、印刷ノズルは、製造に起因して、インクの吐出特性に関してわずかな差異を有する。つまり、2つの印刷ノズルをまったく同じように制御し、したがって実際にまったく同じ大きさのインク滴を生成すべきではあるが、インク滴は、製造に起因する差異に基づいて、それぞれわずかに異なる。その結果、完成した印刷像において、得られたピクセルのサイズおよび色値がわずかに変動する。これらの変動は、濃度変動とも称される。濃度変動は、別の作用、たとえばインク供給ライン上の障害などによって増大され得る。インクジェット印刷機によって作製されるべき印刷像は、これらの濃度変動によって不利な影響を受ける。したがって、これを補整するために、すべての印刷ヘッドに対して、個々の印刷ノズルの制御において、測定されて分かった濃度変動に依存して、印刷ノズルのインク吐出量を修正する、いわゆる補償プロファイルが作成される。たとえば10番目のノズルにおいて、このノズルが常時いくぶんか増加されたインク吐出量を有することが分かっているとき、この作用を補整するために、常時いくぶんか少量のインクを吐出する補償プロファイルが10番目のノズルの位置に提供される。補償プロファイルを作成するために、印刷方向に対して横向きに、すべての印刷ヘッドに対する濃度プロファイルが、テスト印刷およびテスト印刷の測定または評価によって作成される。これらの濃度プロファイルは、どの印刷ノズルがどういう濃度変動を有するのか正確に示す。したがって、これらの濃度プロファイルから、対応する補償プロファイルを計算することができる。この計算は、通常は、用いられる様々な印刷基材に対して特有に行われる。というのも、濃度変動が、相応して用いられる印刷基材にも依存するからである。さらに、従来技術において、様々な各印刷基材に対してそれぞれ独自の補償プロファイルを用いるのではなく、それぞれ異なる基材に対して1つの補償プロファイルを用いて、これにより補償プロファイルの使用に関する管理上の手間を減らすことが知られている。一般的に、特定の複数の基材の複数の補償プロファイルから1つの平均プロファイルが計算され、この平均プロファイルが、対応するこれらの基材に対して用いられる。さらに従来技術において、特性の似た基材をグループ化し、次いでこれらの基材に応じて割り当てられるとともにグループ化された複数の補償プロファイルから1つの平均プロファイルを計算して用いることが知られている。
【0004】
この場合、補償プロファイルは、印刷所におけるインクジェット印刷機の実際の使用場所で計算することができる。ただし、印刷ヘッドの製造業者が、すでに印刷ヘッドの引渡しと一緒に対応する補償プロファイルを提供することも一般的である。印刷ヘッドの製造業者と同一ではない場合には、インクジェット印刷機の製造業者は、独自の補償プロファイルを作成して印刷業者に提供することも可能である。
【0005】
さらに、濃度を補償する実際の方法では、画像のラスタ処理前後の補償の間で区別される。ラスタ処理前の補償では、濃度変動が分かっているとき、像のグレー値自体が測定された濃度変動に相応に適合させられる、またはグレー値を相応のピクセルパターンに変換するラスタ処理プロセスが、相応に濃度変動を考慮する。ラスタ処理後の補償、いわゆるオンライン補償では、印刷中に、相応のピクセルまたはインク滴サイズが、測定されるべき発生する濃度変動に適合させられる。たいていは、所定の印刷ヘッドに対して、すでに製造業者から提供された補償プロファイルまたは濃度プロファイルを介して分かっている、または事前準備された測定によって求められた、最も粗い濃度変動が、事前補償において相応に修正される一方、オンライン補償によって、印刷プロセス中に濃度変動の変化が後修正される。
【0006】
この場合、濃度プロファイルの記録および補償プロファイルの計算にかなり時間がかかり、その上、損紙が発生する。このような手間は、プロセスの加速および自動化によって低減することができる。様々な印刷基材の使用は、計算にかかる何倍もの手間を意味する。というのも、補償プロファイルを計算する作業を、実際に、新しい印刷基材ごとに完全に実行しなければならないからである。印刷ヘッドまたはインクのジェッティング特性などの、影響を及ぼす周辺条件が変化すると、同様にこれらの計算も完全にやり直す必要がある。個々の印刷ヘッドの故障および/または交換時に、同様にすべての印刷基材に対する補償プロファイルも再計算する必要がある。
【0007】
未だ公開されていない独国特許出願第102018216434号明細書において、演算装置によって、インクジェット印刷機における印刷ノズルの、位置に依存する濃度変動を補償する方法が知られており、この方法では、演算装置が、用いられるすべての印刷基材に対して、すべての印刷ヘッドに関する、位置に依存する濃度変動の複数の補償プロファイルを作成し、これらの補償プロファイルから1つの平均プロファイルを計算し、この平均プロファイルを、インクジェット印刷機における、位置に依存する濃度変動を補償するために用い、この方法は、インクジェット印刷機の1つまたは複数の印刷ヘッドを交換するとき、演算装置によって、1つの印刷基材に対してのみ、新たな1つの補償プロファイルを計算し、演算装置は、この補償プロファイルから新たな1つの平均プロファイルを導出し、演算装置は、残りの印刷基材の古い補償プロファイルを用いて、この新たな平均プロファイルを計算し、適用する。ただしこの場合、少なくともスケールファクタで作用すべき網点面積率に対する濃度プロファイルの依存性が明確には言及されていない。さらにこの方法の基準および基準値は、個々の印刷基材に対して求められた個々の補償プロファイルから計算された平均的な曲線である。ただし、これには、個々のプロファイルの平均値が同一であることも必要であり、そうでない場合には、スケールファクタに関する変換が不正確である。
【0008】
したがって、本発明の課題は、少なくとも一定の補償品質で濃度補償にかかる手間をさらに低減する、代替的な、インクジェットにおける、基材に依存して濃度を補償する方法を見出すことにある。
【0009】
この課題は、演算装置によって、インクジェット印刷機における印刷ノズルの、位置に依存する濃度変動を補償する方法であって、演算装置は、用いられるすべての印刷基材に対して、すべての印刷ヘッドに関する、位置に依存する濃度変動の補償プロファイルを作成し、補償プロファイルを、インクジェット印刷機における、位置に依存する濃度変動を補償するために用いる、方法において、演算装置は、一般的な基準印刷基材を用いて、それぞれ印刷機特有のまたは印刷ヘッド特有の影響および印刷基材特有の影響ファクタを求め、網点面積率および位置に依存する基準補償プロファイルを基準印刷基材から作成し、かつ基準補償プロファイルから位置に依存する濃度変動を補償するために用いる全体補償プロファイルを作成する、ことを特徴とする、方法によって解決される。したがって、本発明の核心は、それぞれ異なる印刷基材に対して用いられる全体補償プロファイルの計算において、機械特有のまたは印刷ヘッド特有の影響および印刷基材特有の影響ファクタをそれぞれ別個に求め、全体補償プロファイルの計算に影響を与えることができることにある。この場合、機械特有のまたは印刷ヘッド特有の影響は、濃度プロファイルの記録によって相応に考慮される。これによって、濃度補償方法にかかる手間が大幅に低減される。というのも、とりわけ各々の影響ファクタの変化に際して、これらの変化は多くの場合に互いに別々に発生し、相応して別々に修正することもできるからである。これは、影響ファクタの変化において、計算に考慮されるすべての影響ファクタを新たに求めなくてよいので、実質的にそれほど複雑ではない。さらに、機械特有のまたは印刷特有の影響については、用いられる印刷基材の種類はさほど重要でない。したがって、ここでは一般的な基準基材が用いられる。そこから作成される補償プロファイルは、位置に依存する。というのも、各印刷ノズルに対する補償プロファイルは、相応する濃度変動を補整するために、どのようにして印刷ノズルを制御するべきであるのかを示すからである。この場合、補償プロファイルは、印刷ヘッド全体にわたって、または用いられるすべての印刷ヘッドにわたって延びており、これは、位置に依存して表れる。網点面積率依存性は、濃度変動が作製されるべき印刷像において形成されるべき網点面積率に依存することによって説明される。
【0010】
方法の、有利な、したがって好適な発展形態は、付属の従属請求項および図面が付属する明細書において明らかである。
【0011】
本発明に係る方法のさらに好適な発展形態によれば、演算装置は、用いられる印刷基材に対する特有の補償プロファイルを作成し、次いで、演算装置が、補償プロファイルを基準補償プロファイルと照合することによって、印刷基材特有の影響ファクタを求め、その際、印刷基材特有の影響ファクタは、純粋に網点面積率に依存する。印刷基材特有の影響ファクタは、様々な印刷基材に対して相応の補償プロファイルを作成する、つまり特定の印刷基材に対して濃度プロファイルを測定し、これに続いてこの濃度プロファイルから、そのために必要な補償プロファイルを計算することによって、求められる。この場合、基準補償プロファイルとの照合により、印刷基材特有の影響ファクタが得られる。この影響ファクタは、機械パラメータまたは印刷ヘッドパラメータに依存しないので、影響ファクタは、論理的に位置依存性も有しない。しかし、網点面積率依存性は、引き続き与えられている。というのも、結果として生じる印刷された色値が、特定の印刷基材と特定の網点面積率との組み合わせに依存するからである。
【0012】
本発明に係る方法の、さらに好適な発展形態によれば、演算装置は、印刷基材特有の影響ファクタを、平均値、中央値または他の統計学的な特性値として、印刷幅全体にわたる、基準基材に対する特有の印刷基材の補償強さ又は補償量の比から計算する。この統計学的な処理によって、このように計算される印刷基材特有の影響ファクタの信頼性がさらに改善される。
【0013】
本発明に係る方法のさらに好適な発展形態によれば、変化された印刷機パラメータまたは印刷ヘッドパラメータに全体補償プロファイルを適合させるとき、演算装置は、印刷機特有のまたは印刷ヘッド特有の影響だけを新たに求める。本発明に係る方法の大きな利点の1つは、インクジェット印刷機パラメータまたは印刷ヘッドパラメータが変化するとき、対応する影響だけを新たに求めるだけでもよいことにある。これにより、全体補償プロファイルの作成および使用に伴う手間が大幅に削減される。その変化は、たとえば、印刷プロセス中の印刷ノズルのインク吐出特性の変化、または極端な場合、印刷ヘッドの交換であってよい。
【0014】
本発明に係る方法のさらに好適な発展形態によれば、印刷機特有のまたは印刷ヘッド特有の影響を、演算装置により、データベースに記憶させ、他の印刷ジョブのために、インクジェット印刷機において引き続き用いる。これによって、一方では、そのようにして得られる、印刷機特有のまたは印刷ヘッド特有の影響に関する認識を後続のジョブにも用いるので、対応する全体補償プロファイルを、次の印刷ジョブにおいて、常時再計算しなくてもよい、ということが考えられる。他方、データベースを用いた、印刷機特有のまたは印刷ヘッド特有の影響の記憶または蓄積によってデータベースがより大きくなる。しかしこのような方法で、より多くの、相応の機械特有のまたは印刷ヘッド特有の影響が計算されるほど、これらの影響はより正確になり、用いられる全体補償プロファイル、ひいては濃度補償が改善される。
【0015】
本発明に係る方法のさらに好適な発展形態によれば、演算装置は、所定の印刷インキの個々の印刷ヘッドの間の移行領域に対する機械特有のまたは印刷ヘッド特有の影響を個別に考慮する。ステッチング領域とも称される、個々の印刷ヘッドの間の移行領域は、通常の印刷ヘッド領域とは異なる状況にある。というのも、ここでは、特に個々の印刷ノズルの位相位置のずれが、ステッチング領域における隣り合う印刷ヘッドの印刷ノズルの交互の印刷に基づいて、特別なエラー像を引き起こすからである。これは、個々の印刷ヘッドの間の移行をできるだけ印刷結果への影響なく保証するのに必要な特別な要求および状況によるものである。したがって、ここでは別個の処理が考えられる。
【0016】
本発明に係る方法のさらに好適な発展形態によれば、用いられる印刷基材に対する特有の補償プロファイルの記録を複数回行い、結果をデータベースに保存し、演算装置は、結果を統計学的に評価する。機械特有のまたは印刷ヘッド特有の影響をデータベースに記憶することに加えて、用いられる印刷基材の特有の補償プロファイルもデータベースに保存し、これにより結果の精度がより高められる。これを複数回記録し、データベースに保存された結果を、次いで統計学的に評価することが考えられる。
【0017】
本発明に係る方法のさらに好適な発展形態によれば、一般的な基準印刷基材として、平均的な性質を有する印刷基材または所定の基材等級の代表的な印刷基材を用いる。この場合、どちらの方法が有利であるのか、つまり用いられる場合には、平均的なまたは中程度の特性を有する印刷基材の評価または所定の基材等級の代表的な印刷基材は、処理されるべき印刷ジョブの状況に依存する。
【0018】
本発明自体、および本発明の構造的にかつ/または機能的に有利な発展形態を、少なくとも1つの好適な実施形態に基づいて、付属の図面を参照して以下に詳説する。図面において、相互に対応する要素には、同一の参照符号が付けられている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】インクジェット印刷機システムの構成の一例を示す。
【
図2】基準基材と比較した基材の補償プロファイルの線図を示す。
【
図3】網点面積率に依存する様々な基材の平均的な補償比の線図を示す。
【0020】
好適な実施形態の用途は、インクジェット印刷機7である。印刷ヘッド5によって印刷が行われる印刷ユニット4に印刷基材2を供給するフィーダ1からデリバリ3までの、そのような機械7の基本構成の一例が、
図1に示されている。この機械7は、制御演算装置6によってコントロールされる枚葉インクジェット印刷機7である。この印刷機7の運転時に、すでに述べたように、個々の印刷ノズルの、結果として生じる面濃度の変動が生じ得る。インクジェット印刷機7において発生するこの局所的な濃度変動の、本発明による補整は、被印刷物2または印刷基材2に塗布されるべき印刷ドットの数またはサイズの変化によって濃度変動の補整をもたらす補償プロファイルの適用によって行われる。
【0021】
水性のインクジェットインクを用いる枚葉インクジェット印刷機7における、印刷方向に対して横向きの、結果として生じる濃度分布への影響ファクタは、大まかに3つのグループに分けることができる。
1.ヘッド特有で、機械特有の影響、特に:
・個々の印刷ノズルのジェッティング特性、小、中、大のインク滴の位相位置/ずれおよび振幅/印刷強さ
・たとえば印刷ヘッド5における複数の印刷ノズルの配置および間隔に関する、それぞれ用いられる印刷ヘッド5のヘッド幾何学形状および構成
・印刷ノズルの位相位置の標準的なずれを介して認識可能な、印刷ヘッド5の劣化、摩耗
・インク供給部、たとえば印刷ヘッド5に通じる、印刷ヘッド5内のマニホールドによる影響
・平均濃度の均一化のための、個々の印刷ヘッド5の圧電・火花電圧
・印刷ノズルと印刷基材2との間のジェッティング距離
2.基材特有の影響、特に:
・小、中、大のインク滴の、印刷基材2上のインクの広がり特性
・正確な刷り上がりなどのための印刷基材表面のプレコート所要量
・塗布される種類および塗布されない種類に対する印刷基材表面へのインク吸収量、吸収性
3.その他の考えられる影響、特に:
・規格サイズに関するプレコート分布(量)の均一性
・プレコートのBrix値
・それぞれ異なるハーフトーン値に対する面(Drop Mixture Table)の網目および構成
・小、中、大のインク滴の滴体積および結果として生じる網点サイズ。
【0022】
これに依存して、本発明に係る方法の好適な実施形態は、以下のように進行する。ヘッド特有であり、機械特有でもある影響は、用いられるすべての印刷基材2への印刷において同一であり、演算装置6によって、一般的な基準印刷基材を基に求められる。この基準印刷基材は、たとえばプレコート塗布を必要としない写真用紙であってよい、またプレコート塗布された別の基準基材であってもよい。そうして得られた補償プロファイル10は、通常は、ジェッティング特性に関して、補償8の位置および印刷された網点面積率13に依存する。したがって、補償プロファイル10は、十分な数のハーフトーン値に対して、生じ得るすべての印刷幅9にわたって求めなければならない。
【0023】
この状態から出発して、演算装置6によって、同一の方法で、それぞれ異なる基材A,B,C14,15,16に対する補償プロファイル10が求められる。基準基材に対する補償プロファイル11と比較した、特定の印刷基材A14のそのような補償プロファイル10の一例が、
図2に示されている。ここでは、補償強さ8の位置依存性が良好に認識される。というのも、
図2において、個々の印刷ヘッド5に関する補償プロファイル10,11が、印刷幅9にわたる位置に関する線図のX軸に沿って延在するからである。
【0024】
基準プロファイルとこれらの補償プロファイル10,11との、演算装置支援の比較から、基材A,B,C14,15,16への像形成特性が求められる。これらの像形成特性は、最も単純な場合には、純粋に網点面積率に依存し、位置に依存しない。網点面積率に依存するファクタは、たとえば平均値、中央値または他の統計上の特性値として、印刷幅9全体にわたって、基準基材に対する印刷基材A14の補償強さ8の比から計算することができる。これらの特性値の一例が、網点面積率に依存する補償強さの比12の形で、
図3に示されている。
【0025】
この場合、網点面積率に依存する基材特有のファクタと、位置に依存するヘッド特有の補償値とから、演算装置6によって、必要とされる全体補償プロファイルを決定することができる。
【0026】
たとえば劣化または摩耗による印刷ヘッド5のジェッティング特性の変化に基づいて、全体補償プロファイルが更新されると、これによって、ヘッド特有の部分10だけを新たに記録すればよい。基材特有の影響は固定であり、もはや補償プロファイル記録ごとに新たに求めなくてよい。その影響は、おそらく、同一の構成および印刷プロセスパラメータのインクジェット印刷機7にも転用可能である。
【0027】
この場合、3.による影響は、可能な限りコントロールされ、一定に保持される。
【0028】
本発明に係る方法の標準形態は、以下のさらに好適な実施形態にも適合させることができる。
【0029】
1.基準プロファイル11を記録するための写真用紙は極めて高価であるので、たとえば写真用紙の代わりに、理想的には「平均的な」つまり中程度の特性を有する任意の印刷基材2を用いることもできる。または、基材等級の分類が行われる場合には、所定の基材等級の代表的な基材2が用いられる。ただし、写真用紙を用いるときには、プレコート塗布による影響が回避される。
【0030】
2.他の印刷基材14,15,16への基準基材に対する補償プロファイル11の像形成は、より複雑な方法または数学モデルを介して行うこともできる。印刷基材表面の物理的なパラメータを考慮したモデルも考えられる。パラメータは、たとえば広がり特性、表面エネルギ、インクの吸収特性などである。ただし、印刷方向に対して横向きの補償8の位置に依存しない、純粋に網点面積率13または網点面積密度に関する、特有の印刷基材14,15,16の考慮は、極めて簡単なモデルをもたらし、したがって有利である。
【0031】
3.所定の色の個々の印刷ヘッドの間のステッチング領域は、特別な影響に基づいて、個別に処理することができる。
【0032】
4.印刷基材14,15,16の補償プロファイル10,11は、複数回記録され、その後で統計学的に評価される。結果は、演算装置6によって、印刷基材14,15,16用のデータベースに記憶され、次の印刷ジョブに際して、検出された印刷基材14,15,16とともに再び用いられる。これにより、総じて、測定エラーおよびプロセスノイズの影響が低減される。
【0033】
5.印刷基材14,15,16用のデータベースを用いて学習する、特有の依存性を求める方法が用いられる。
【0034】
6.規格サイズ、厚さ、坪量はそれぞれ異なるが同一の塗布ジョブの同種の印刷基材14,15,16に対して同一の像形成モデルが用いられる。
【0035】
この場合、従来技術において知られた手順に対する、本発明に係る方法のその様々な図示の実施形態の利点は、以下の点に集約することができる。
1.印刷基材認定時に補償プロファイルを決定する手間が大幅に低減される。
2.補償強さ8のより簡単な計算方法を含む。
3.個々の印刷ヘッド5を交換するときの手順がそれ程複雑ではない。
4.計算方法により生成されるデータ量がより小さく、ひいては計算方法がより効率的である。
【符号の説明】
【0036】
1 フィーダ
2 印刷基材
3 デリバリ
4 インクジェット印刷ユニット
5 インクジェット印刷ヘッド
6 演算装置
7 インクジェット印刷機
8 位置に依存する補償強さ
9 印刷幅にわたる位置
10 基材Aの補償プロファイル
11 基準基材の補償プロファイル
12 基準基材に対する選択された基材の補償強さの、網点面積率に依存する補償比
13 網点面積率
14,15,16 基材A,B,C