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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】セメント組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/04 20060101AFI20230905BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20230905BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20230905BHJP
   C04B 16/06 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B24/26 E
C04B18/14 Z
C04B16/06 Z
C04B16/06 A
C04B16/06 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019219826
(22)【出願日】2019-12-04
(65)【公開番号】P2021088485
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡村 脩平
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-088793(JP,A)
【文献】特開2018-111631(JP,A)
【文献】特開2010-116274(JP,A)
【文献】特開平10-036151(JP,A)
【文献】金圭庸ら,各種繊維補強モルタルの高速耐衝撃性能および耐爆政能の評価,コンクリート工学年次論文集,2010年,Vol.32 No.1,P.257-262
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、水、骨材、減水剤およびシリカフュームを含有するセメント組成物において、シリカフュームは、セメント、水、骨材、減水剤およびシリカフュームの合計量を基準として5~25体積%含有され、さらに短繊維(A)を、セメント、水、骨材、減水剤およびシリカフュームの合計量100体積%を基準として1.0~7.0体積%含有し、短繊維(A)は平均繊維長0.1~1.5mmかつアスペクト比5~150の形状であり、引張強度2000MPa以上のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の短繊維であり、さらに、合成繊維の短繊維(B)を、セメント、水、骨材、減水剤およびシリカフュームの合計量100体積%を基準として0.2~3.0体積%含有し、該短繊維(B)は、平均繊維長10~50mmかつアスペクト比5~150の形状であることを特徴とする、セメント組成物。
【請求項2】
セメント組成物に占める短繊維(A)および短繊維(B)の合計の体積分率Vfが、セメント、水、骨材、減水剤およびシリカフュームの合計量100体積%を基準として3.0~8.0体積%である、請求項記載のセメント組成物。
【請求項3】
短繊維(B)が、引張強度300MPa以上の合成繊維のモノフィラメントの短繊維である、請求項1または2記載のセメント組成物。
【請求項4】
短繊維(B)が、引張強度300MPa以上の合成繊維を樹脂で集束した集束短繊維の短繊維である、請求項1または2記載のセメント組成物。
【請求項5】
短繊維(B)の合成繊維が、全芳香族ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維およびポリビニルアルコール繊維からなる群から選ばれるいずか1種以上である、請求項1または2記載のセメント組成物。
【請求項6】
圧縮強度が120MPa以上である、請求項1乃至のいずれかに記載のセメント組成物が硬化して得られるセメント複合体。
【請求項7】
JIS A1106の試験方法による曲げ強度が15MPa以上である、請求項1乃至のいずれかに記載のセメント組成物が硬化して得られるセメント複合体。
【請求項8】
平均繊維長0.1~1.5mmかつアスペクト比5~150の形状であり、引張強度が2000MPa以上の繊維の短繊維(A)、シリカフューム、セメントおよび水を混錬する工程を含むことを特徴とする、請求項1記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項9】
平均繊維長0.1~1.5mmかつアスペクト比5~150の形状であり、引張強度が2000MPa以上の繊維の短繊維(A)、シリカフューム、セメント、骨材および水を混錬する工程を含むことを特徴とする、請求項1記載のセメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセメント組成物に関し、詳しくは短繊維で補強されたセメント複合体を得ることのできるセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
モルタルまたはコンクリートといったセメント複合体は、圧縮強度、耐久性、不燃性などの優れた特性を示しながらも安価であることから、建築や土木の分野で大量に使用されている。しかし、これらのセメント複合体は脆性物質であり、引張りや曲げ、屈曲などの応力が加わると容易にクラックが入るか、破損する。
【0003】
この欠点を補うために、各種繊維の短繊維を用いてセメント複合体を補強することが行われている。この補強により、セメント複合体の曲げ強度や曲げ靱性といった機械的特性の向上を得ることができる。
【0004】
短繊維を補強用繊維として使用する場合、カット長の短い短繊維を用いると、曲げ強度の補強効果が不十分となる。他方、補強効果を向上させるためにカット長の長い短繊維を用いると分散性が低下して作業性が悪くなる他、攪拌中に繊維同士が絡みあってファイバーボールを発生しやすくなり、曲げ靱性の向上の効果を十分に発揮できない。
【0005】
この問題を解決するために、特許文献1(特開2010-116274号公報)では、繊維長が3~20mmの短繊維と、繊維長が10~30mmの短繊維とを併用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-116274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、曲げ強度と圧縮強度に優れるセメント複合体を得ることのできるセメント組成物を提供することにあり、さらに、施工性および曲げ靭性に優れるセメント複合体となるセメント組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、セメント、水、骨材、減水剤およびシリカフュームを含有するセメント組成物において、シリカフュームは、セメント、水、骨材、減水剤およびシリカフュームの合計量を基準として5~25体積%含有され、さらに短繊維(A)を、セメント、水、骨材、減水剤およびシリカフュームの合計量100体積%を基準として1.0~7.0体積%含有し、短繊維(A)は平均繊維長0.1~1.5mmかつアスペクト比5~150の形状であり、引張強度2000MPa以上の繊維の短繊維であることを特徴とする、セメント組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、曲げ強度と圧縮強度に優れるセメント複合体を得ることのできるセメント組成物を得ることができ、さらに、施工性および曲げ靭性に優れるセメント複合体となるセメント組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
<短繊維(A)>
短繊維(A)は、平均繊維長0.1~1.5mmかつアスペクト比5~150の短繊維である。短繊維(A)の平均繊維長が1.5mmを超えるか、アスペクト比が150を超えると、セメント組成物を得るために、硬化前のセメント、砂、砂利、水等の組成物と混練した際に、短繊維(A)に剪断力がかかりやすく、短繊維(A)が損傷して補強効果が低下する他、硬化前のセメント組成物の流動性が低下し、施工性が劣る。他方、短繊維(A)の平均繊維長が1.5mmを超えるか、アスペクト比が5未満であると、短繊維(A)とセメント組成物を構成する他の成分との単位体積あたりの接触面積が小さくなり、セメント組成物を硬化させてセメント複合体としたときに短繊維(A)とセメント複合体との付着力が低くなり、短繊維の添加量を増やしても十分な曲げ強度を得ることが困難である。なお、アスペクト比は平均繊維長を平均繊維径で割ることで計算される。
【0012】
短繊維(A)の平均繊維径は、好ましくは15~50μmである。平均繊維径が15μm未満であると曲げ強度と分散性を両立するアスペクト比を得ることが困難となるだけでなく、混練時に単繊維がせん断力で破断してしまい、短繊維の効果を十分に得られなくなり好ましくない。平均繊維径が50μmを超えると曲げ強度と分散性を両立するアスペクト比を得ることが困難となるだけでなく、混練時に単繊維が座屈によりダメージを受けてしまい、短繊維の効果を十分に得られなくなり好ましくない。
【0013】
本発明のセメント組成物における短繊維(A)の含有量は、セメント、水、骨材、減水剤およびシリカフュームの合計量100体積%に対して1.0~7.0体積%である。含有量が1.0体積%未満であると分散性には優れるが曲げ強度が劣ることとなり、7.0体積%を超えると効率的に曲げ補強効果を得るための繊維の分散性が困難となる。
【0014】
短繊維(A)として、引張強度が2000MPa以上の繊維の短繊維を用いる。引張強度が2000MPa未満の短繊維を用いると良好な分散性を得るためのアスペクト比や繊維添加量では十分な補強効果が得られない。引張強度が2000MPa以上の繊維の短繊維として、例えば、炭素繊維、高強度ガラス繊維、鋼繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維といった無機繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維(ポリビニルアルコール繊維)、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズオキサゾール繊維といった合成繊維を例示することができる。
【0015】
なかでも腐食の心配がなく耐アルカリ性に優れることから、パラ型全芳香族ポリアミド繊維が好ましく、さらにポリパラフェニレンテレフタラミドやコポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミドといったパラ型アラミド繊維が、補強効果が大きいので好ましい。なかでもコポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド繊維は、高温下で強アルカリ性の雰囲気中に長時間保持しても機械的特性の劣化が小さく、高温下での蒸気養生や水中養生においても高い強力保持率を有するので、特に好ましい。
【0016】
短繊維(A)は、ギロチンカット機やロータリーカット機を用いて短繊維にされたものが好ましい。なお、短繊維(A)は、他の繊維製品からのリサイクル品を用いてもよく、この場合、ロールミルまたはナイフミルで得られた短繊維であることが好ましい。
【0017】
<短繊維(B)>
本発明のセメント組成物は、好ましくはさらに合成繊維の短繊維(B)を含有する。この場合、セメント組成物における合成繊維の短繊維(B)の含有量は、セメント、水、骨材、減水剤およびシリカフュームの合計量100体積%に対して、好ましくは0.2~3.0体積%である。0.2体積%未満であると十分な曲げ靭性を得ることが難しくなり好ましくなく、3.0体積%を超えると分散性と曲げ靭性の両立が困難となるため好ましくない。
【0018】
合成繊維の短繊維(B)は、平均繊維長10~50mmかつアスペクト比5~150の形状である。短繊維(B)の平均繊維長が50mmを超えるか、アスペクト比が150を超えると、硬化前のセメント組成物の流動性が低下し施工性が劣る。他方、平均繊維長が10mm未満であるか、アスペクト比5未満であると、短繊維(B)セメント組成物の他の成分との単位体積あたりの接触面積が小さくなり、硬化させてセメント複合体としたときに、短繊維(B)に応力が掛かった際に早期に引き抜けてしまい、十分な曲げ靭性等の効果が得られ難い。
【0019】
短繊維(B)の平均繊維径は、好ましくは100~800μmである。平均繊維径が100μm未満であると曲げ靭性と分散性を両立するアスペクト比を得ることが困難となるだけでなく、混練時に短繊維(B)がせん断力で破断してしまい、短繊維の効果を十分に得られなくなる。好ましくない、平均繊維径が800μmを超えると曲げ靭性と分散性を両立するアスペクト比を得ることが困難となるだけでなく、混練時に短繊維(B)が座屈によりダメージを受けてしまい、短繊維の効果を十分に得られなくなるため好ましくない。
【0020】
短繊維(B)の合成繊維としては、引張強度が300MPa以上の合成繊維のモノフィラメントか引張強度300MPa以上の合成繊維を樹脂で集束した集束短繊維を用いることが好ましい。すなわち、短繊維(B)は、引張強度300MPa以上の合成繊維のモノフィラメントの短繊維であるか、引張強度300MPa以上の合成繊維を樹脂で集束した集束短繊維の短繊維であることが好ましい。
【0021】
例えば、炭素繊維、ガラス繊維、鋼繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維といった無機繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、塩化ビニル繊維、ポリケトン繊維といった合成繊維を挙げることができる。なかでも腐食の心配がなく、特に耐アルカリ性に優れることから、全芳香族アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維が好ましい。
【0022】
セメント組成物に占める短繊維(A)および短繊維(B)の合計の体積分率Vfは、セメント、水、骨材、減水剤およびシリカフュームの合計量100体積%に対して、好ましくは3.0~8.0体積%である。体積分率が3.0体積%未満では補強性能が劣り好ましくなく、他方8.0体積%を超えると流動性が悪く、また分散不良となり補強性能も劣ることになり好ましくない。
【0023】
短繊維(B)を未硬化の生モルタルであるセメント組成物に均一に分散させ、硬化後のセメント複合体としての曲げ強度および曲げ靱性の性能向上を同時に達成するために、短繊維(A)と短繊維(B)との混合割合は、体積比率B/Aとして、例えば0.1~2.0、好ましくは0.1~1.0である。この範囲であると短繊維(A)と短繊維(B)との間の繊維同士の絡まりが少なく、かつ流動性も良好で、短繊維が均一に混合分散するため好ましい。
【0024】
短繊維(B)は、繊維の製法上、繊維径を太くしても高い引張強度を維持しやすい繊維を短繊維(B)として用いる場合には、モノフィラメントの短繊維(B1)として用いることが好ましい。他方、アラミド繊維や超高分子量ポリエチレン繊維のように、繊維の製法上、繊維径を太くしようとすると高分子鎖の結晶配向性や結晶化度の制御や困難となり、引張強度の著しい低下を起こしやすい繊維を短繊維(B)として用いる場合には、繊維束を樹脂で被覆することにより、樹脂で集束した集束短繊維の短繊維(B2)として用いることが好ましい。
【0025】
繊維束を集束させるための樹脂として、強い集束性を得るために、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、イソシアネート樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリウレア樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂といった熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0026】
集束させるための樹脂として、強い集束性が得られるとともに耐アルカリ性に優れる、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、イソシアネート樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリウレア樹脂が好ましい。
【0027】
集束短繊維の短繊維(B2)において、繊維束を集束するために用いられる樹脂の付着量は、集束性と短繊維物性を両立する観点から、繊維100重量%に対して好ましくは5~40重量%、さらに好ましくは10~25重量%である。
【0028】
<シリカフューム>
本発明のセメント組成物は、混和材としてシリカフュームを含有する。シリカフュームの含有量は、セメント、水、骨材、減水剤およびシリカフュームの合計量を基準として5~25体積%、好ましくは5~15体積%である。5体積%未満であるとセメント組成物の強度発現性が低下し、25体積%を超えるとセメント組成物の硬化前の流動性が低下する。
【0029】
シリカフュームは二酸化珪素の超微粒子である。これは、フェロシリコン、金属シリコン、電融ジルコニア等を製造するときに発生するダストを集塵する際に得られる、高純度二酸化珪素の非晶質球状微粒子として知られている。シリカフュームの平均粒径は例えば0.1~0.2μmである。セメント組成物の強度発現性の観点から、シリカフュームは、二酸化珪素含有率は90重量%以上かつ塩素含有量0.05重量%以下のものを用いることが好ましい。
【0030】
シリカフュームのBET比表面積は、好ましくは15~25m/g、さらに好ましくは17~23m/g、特に好ましくは18~22m/gである。BET比比表面積が15m/g未満であるとセメント組成物を硬化させたセメント複合体の強度発現性が低下して好ましくなく、25m/gを超えるとセメント組成物の硬化前の流動性が低下して好ましくない。
【0031】
<セメント組成物>
本発明のセメント組成物は、補強繊維としての上記の短繊維の他に、混和材としての上記のシリカフューム、セメントを含有し、要すればさらに骨材を含有することが好ましい。さらに、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、石灰石粉末、石英粉末、二水石膏、半水石膏、無水石膏、生石灰系膨張材、カルシウムサルフォアルミネート系膨張材などを含有してもよい。
【0032】
<骨材>
セメント組成物がモルタルやコンクリートの場合、細骨材が含有される。細骨材としては、川砂、海砂、山砂、珪砂、ガラス砂、鉄砂、灰砂、人工砂等が挙げられる。また、これらの粗骨材は、1種で用いることも2種以上併用することもできる。骨材は、砂、砂利、砕砂、砕石等で、粒径に応じて細骨材と粗骨材とに分類される。細骨材は、10mmふるいを全て通過し、5mmふるいを85質量%以上通過する骨材である。
【0033】
また、セメント組成物がコンクリートの場合、粗骨材がさらに含有される。粗骨材としては、例えば、レキ、砂利、砕石、スラグ、各種人工軽量骨材等が挙げられる。また、これらの粗骨材は、1種で用いることも2種以上併用することもできる。粗骨材は、粒径が5mm以上のものを85質量%以上含有する骨材である。
【0034】
<減水材>
減水剤としては、例えば、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系の減水剤を使用することができる。中でも、セメント組成物の強度発現性や硬化前の流動性を向上させる観点から、ポリカルボン酸系の減水剤が好ましい。減水剤の配合量は、セメント、水、骨材、減水剤およびシリカフュームの合計量を基準として固形分換算で、例えば0.2~1.5重量%、好ましくは0.4~1.2質量%である。0.2重量%以上であると減水性能が向上し、セメント組成物の硬化前の流動性が向上して好ましい。1.5重量%以下であるとセメント組成物の強度発現性が向上して好ましい。
【0035】
上記以外に、例えば、空気量を調整する空気連行剤(AE剤)、スランプ(流動性)を調整する流動化剤、増粘剤、撥水剤、膨張剤、急結剤、防錆剤、消泡剤を配合してもよい。
【0036】
本発明のセメント組成物によれば、上記の構成により、JIS A 1108の試験方法による圧縮強度が120MPa以上であり、かつJIS A1106の試験方法による曲げ強度が15MPa以上であるセメント複合体を得ることができる。得られるセメント複合体の圧縮強度が120MPa未満であると圧縮特性に劣るため適用できる用途が限定されることになり、曲げ強度が15MPa未満であっても曲げ特性に劣るため適用できる用途が限定されることになる。本発明は、圧縮強度と曲げ強度を高い水準で両立するセメント複合体を成形することができ、構造材料を含む広い用途に用いることができる。
【0037】
本発明のセメント組成物は、水/結合剤比率を0.1~0.3の低めに設定すると、圧縮強度の高いセメント複合体となるセメント組成物を得ることができる。
【0038】
<製造方法>
本発明のセメント組成物は、平均繊維長0.1~1.5mmかつアスペクト比5~150の形状であり、引張強度が2000MPa以上の繊維の短繊維(A)、シリカフューム、セメントおよび水を混錬することにより製造することができる。また、本発明のセメント複合体は、上記のセメント組成物を硬化することによって製造することができる。
【0039】
本発明のセメント組成物はまた、平均繊維長0.1~1.5mmかつアスペクト比5~150の形状であり、引張強度が2000MPa以上の繊維の短繊維(A)、シリカフューム、セメント、骨材および水を混錬することによって製造することができる。また本発明のセメント複合体は、上記のセメント組成物を硬化することによって製造することができる。
【0040】
混錬は、例えばミキサーを用いて撹拌することにより行うことができる。ミキサーとしてモルタルミキサーを用いることができ、なかでも撹拌力の高いプラネタリミキサーが好ましい。硬化は例えば水分の揮発を予防した環境において室温から100℃以下の温度で、例えば1から28日間、気中や水中に静置(養生)することで行うことができる。
【実施例
【0041】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、実施例における評価は、次のように行った。
(1)平均繊維長
平均繊維長は、JIS L 1015のC法(直接法)に準拠して測定した。
(2)平均繊維径
JIS A 6208のC法(JIS L 1017法)に準拠して測定および算出した繊維径を平均繊維径と称した。
(3)アスペクト比
平均繊維長/平均繊維径を計算してアスペクト比を算出した。
(4)生モルタル流動性
混練工程の後に、水平に配置した50cm角のアルミ板にスランプコーン(高さ15cm、下面内径10cm、上面内径5cmの内側がくり貫かれた円錐柱)に生モルラルを摺り切りで注ぎ入れ、スランプコーンをゆっくり垂直に引き上げた。このとき生モルタルはアルミ板上に円形に広がる。このときの広がった円形の直径、または円形が歪んでいる場合は最短径と最長径の相加平均を、フロー値として計測した。このフロー値は生モルタルの流動性を反映している。
(5)セメント複合体の圧縮強度
セメント組成物を硬化させたセメント複合体である供試体についてJIS A 1108に準拠して測定した。
(6)セメント複合体の曲げ強度および曲げ靭性
セメント組成物を幅40mm×高さ40mm×長さ160mmの型枠に、生モルタルを打設し、20℃、90%RHで材齢28日まで養生して、供試体を製造した。上記供試体を、「JIS-R-5201」に準拠して3点曲げ測定した。より詳しくは、10トン用引張圧縮試験機(TOYO BALDWIN社製、UNIVERSAL TESTING INSTRUMENT MODEL UTM 10t)を用い、支点間距離10cmの中心を2mm/分の速度で圧縮し、曲げ応力-歪みの最大応力を曲げ強度として算出した。また、載荷点変位6mmまでの曲げ応力-歪み曲線の面積を曲げ靭性として算出した。
【0042】
〔実施例1〕
共重合型アラミド繊維(共重合型芳香族ポリアミド繊維、帝人株式会社製「テクノーラ」1670dtex、333フィラメント、引張強度3280GPa)をギロチンカット機で繊維長0.5mmに切断することで短繊維(A)を用意した。また、共重合型アラミド繊維(共重合型芳香族ポリアミド繊維、帝人株式会社製「テクノーラ」1670dtex、1000フィラメント)に160回/mの撚りを施した後、エポキシ樹脂(集束繊維の重量100重量%あたり13重量%)で集束した集束繊維(引張強度2600GPa)をギロチンカット機で繊維長30mmに切断して短繊維(B2)を用意した。
【0043】
短繊維(A)34.8g(密度1.4g/cm、体積25cm)、短繊維(B2)13.9g(密度1.4g/cm、体積10cm)、低熱ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)951g(密度3.2g/cm、体積302cm)、シリカフューム(エルケムAS社製)220g(密度2.2g/cm、体積100cm)、細骨材(三栄シリカ株式会社製、「6号珪砂」)541g(密度2.6g/cm、体積208cm)、細骨材(三栄シリカ株式会社製、「珪砂SP80」)437g(密度2.6g/cm、体積168cm)および水193g(密度1.0g/cm、体積193cm)を、モルタルミキサー(マルイ製、MIC-362型、容量:5L)に投入して、140rpmの撹拌速度で3分間混練し、生モルタルであるセメント組成物を得た。この生モルタルを気中で3日間、70℃の水中で2日間、さらに気中で2日間養生して得たモルタル成形体を、セメント複合体として評価した。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
〔実施例2〕
実施例1において短繊維(A)の代わりに共重合型アラミド繊維(共重合型芳香族ポリアミド繊維、帝人株式会社製「テクノーラ」4000dtex、200フィラメント、引張強度2680GPa)をギロチンカット機で繊維長0.5mmに切断した短繊維を用いた他は実施例1と同様にして実施した。評価結果を表1に示す。
【0046】
〔実施例3〕
実施例1において短繊維(B2)を用いなかった他は実施例1と同様にして実施した。評価結果を表1に示す。
【0047】
〔実施例4〕
実施例2において短繊維(B2)を用いなかった他は実施例2と同様にして実施した。評価結果を表1に示す。
【0048】
〔比較例1〕
実施例1において、短繊維(A)の代わりに共重合型アラミド繊維(共重合型芳香族ポリアミド繊維、帝人株式会社製「テクノーラ」1670dtex、1000フィラメント、引張強度3410GPa)をギロチンカット機で繊維長3.0mmに切断した短繊維を用いた他は実施例1と同様にして実施した。評価結果を表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のセメント組成物は、橋梁やトンネル、道路等の構造材料として、また、瓦や防護壁の材料として用いることができる。さらに補修材料としても用いることができる。