(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】埋込体留置器具及び埋込体留置器具用カバー部材
(51)【国際特許分類】
A61F 2/10 20060101AFI20230905BHJP
【FI】
A61F2/10
(21)【出願番号】P 2019236349
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】石田 昌弘
【審査官】中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-535835(JP,A)
【文献】特表2005-529643(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0206963(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0206964(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0093088(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内に挿入可能な先端部と、
前記先端部の基端側に配置された長尺な埋込体と、
前記埋込体を覆う管状のカバー部材と、を有し、
前記カバー部材には、生体内において先端部分と基端部分とに分離可能な破断容易部が設けら
れ、
前記先端部は、前記カバー部材と一体的に形成されている、
埋込体留置器具。
【請求項2】
請求項1記載の埋込体留置器具であって、前記先端部は、生体内に穿刺可能な針先を備えた導入針よりなり、前記カバー部材は前記導入針の基端部に接合されて前記埋込体を覆う埋込体留置器具。
【請求項3】
請求項
2記載の埋込体留置器具であって、前記先端部には、前記先端部を把持して先端側に引き抜くための把持部が設けられており、前記把持部は鉗子又は把持具に引っ掛けるための凹部又は凸部を有する埋込体留置器具。
【請求項4】
請求項
2又は3記載の埋込体留置器具であって、前記カバー部材の基端部には前記カバー部材に接合された操作ハブが設けられている埋込体留置器具。
【請求項5】
請求項1~
4の何れか1項に記載の埋込体留置器具であって、前記破断容易部は、前記先端部分と前記基端部分との境界に沿って設けられたミシン目部を有する埋込体留置器具。
【請求項6】
請求項1~
4の何れか1項に記載の埋込体留置器具であって、前記破断容易部は、前記先端部分と前記基端部分との境界に設けられた、溝部、孔部、接着部、及びねじ機構の何れかよりなる埋込体留置器具。
【請求項7】
請求項1~
6の何れか1項に記載の埋込体留置器具であって、前記カバー部材は、前記破断容易部によって生体の内部の中央で分離可能である埋込体留置器具。
【請求項8】
請求項1~
7の何れか1項に記載の埋込体留置器具であって、前記埋込体は、細胞が付着することで組織再生を促す能力を有するコラーゲン繊維よりなる埋込体留置器具。
【請求項9】
長尺な埋込体を生体内に留置する埋込体留置器具
に使用される埋込体留置器具用カバー部材であって、
前記埋込体留置器具は、
生体内に挿入可能な先端部と、
前記先端部の基端側に配置された前記埋込体と、を有し、
前記埋込体留置器具用カバー部材は、
前記埋込体を覆う管状に形成され、
前記生体内において先端部分と基端部分とに分離可能な破断容易部を備
え、
前記埋込体留置器具の前記先端部と一体的に形成されている、
埋込体留置器具
用カバー部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の皮下に長尺な埋込体を留置するための埋込体留置器具及び埋込体留置器具用カバー部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、皮下に長尺な埋込体を留置する手技が行われており、その手技に用いるための器具が種々提案されている。例えば、特許文献1には、美容を目的として皮下に長尺な埋込体を留置するための器具が開示されている。
【0003】
特許文献1の器具は、支持部材で長尺な埋込体を支持する構造を備えており、皮下に挿入する際には埋込体及び支持部材をカバー部材で覆った状態で行い、その後、支持部材及び不要となったカバー部材を引き抜くことで、埋込体を皮下に留置する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2018/0206963号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の器具では、カバー部材を引き抜く際に、皮下組織との摩擦抵抗によってカバー部材が破損し、カバー部材の一部が皮下組織内に残留するおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、長尺な埋込体を覆うカバー部材を容易に引き抜くことができる埋込体留置器具及び埋込体留置器具用カバー部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点は、生体内に挿入可能な先端部と、前記先端部の基端側に配置された長尺な埋込体と、前記埋込体を覆う管状のカバー部材と、を有し、前記カバー部材には、生体内において先端部分と基端部分とに分離可能な破断容易部が設けられ、前記先端部は、前記カバー部材と一体的に形成されている、埋込体留置器具にある。
【0008】
本発明の別の一観点は、長尺な埋込体を生体内に留置する埋込体留置器具に使用される埋込体留置器具用カバー部材であって、前記埋込体留置器具は、生体内に挿入可能な先端部と、前記先端部の基端側に配置された前記埋込体と、を有し、前記埋込体留置器具用カバー部材は、前記埋込体を覆う管状に形成され、前記生体内において先端部分と基端部分とに分離可能な破断容易部を備え、前記埋込体留置器具の前記先端部と一体的に形成されている、埋込体留置器具用カバー部材にある。
【発明の効果】
【0010】
上記観点の埋込体留置器具及び埋込体留置器具用カバー部材によれば、カバー部材が破断することにより、カバー部材を2方向から引き抜くことができるのでカバー部材と皮下組織との摩擦抵抗を低減でき、カバー部材を容易に引き抜くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る埋込体留置器具の断面図である。
【
図2】
図2Aは、
図1のカバー部材の破断容易部の構成例1を示す説明図であり、
図2Bは
図1のカバー部材の破断容易部の構成例2を示す説明図であり、
図2Cは、
図1のカバー部材の破断容易部の構成例3を示す説明図である。
【
図4】
図4Aは、変形例1に係る導入針とカバー部材との接続構造を示す断面図であり、
図4Bは、変形例2に係る接続構造を示す説明図である。
【
図5】
図5Aは、
図1のカバー部材の内部への埋込体の配置例1を示す断面図であり、
図5Bは埋込体の配置例2を示す断面図である。
【
図7】本実施形態の埋込体留置方法のリンパ節の治療への適用例を示す説明図である。
【
図8】第2実施形態に係る埋込体留置器具の断面図である。
【
図9】
図9Aは、
図8のカバー部材の破断容易部の構成例1を示し、
図9Bは同じく破断容易部の構成例2を示す。
図9Cは同じく破断容易部の構成例3を示し、
図9Dは同じく破断容易部の構成例4を示す。
図9Eは同じく破断容易部の構成例5を示し、
図9Fは同じく破断容易部の構成例6を示す。
【
図10】
図8のカバー部材の把持具の構造を示す斜視図である。
【
図12】第3実施形態に係る埋込体留置器具の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態に係る埋込体留置器具10は、先端部12を構成する導入針14と、導入針14の基端側に接合された管状のカバー部材16と、カバー部材16によって覆われた長尺な埋込体18とを備える。
【0014】
導入針14は、例えば中実な針で構成されており、その先端には、皮膚90に穿刺可能な鋭利な針先20が形成されている。針先20は、軸方向に対して傾斜した刃先面の先端に形成されており、皮膚90に容易に穿刺することができる。なお、針先20は鋭利なものに限定されず、例えば、腱、筋組織、血管等の損傷を避けたい組織の近傍に使用する導入針14については、針先20を鈍に形成してもよい。
【0015】
導入針14の構成材料としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム合金、チタン又はチタン合金等の金属材料が挙げられる。また、導入針14の先端部12には、X線透視装置による視認性を高めるために、重元素(原子番号の大きな元素)を含んだマーカー部材が設けられていてもよい。また、導入針14の外周部が抗菌剤や潤滑剤で被覆されていてもよい。さらに、導入針14の先端部12には、超音波画像での視認性を高めるエコジェニック部材が取り付けられていてもよい。
【0016】
導入針14の基端部22には、管状のカバー部材16が接合されている。カバー部材16は、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン等よりなる樹脂フィルムをチューブ状に形成したものであり、柔軟に変形可能となっている。カバー部材16はその先端側の一部分が導入針14の外周部を覆うように装着されており、その装着部分に対して溶着又は接着等による接合処理が施されている。
【0017】
カバー部材16は、基端側に向けて一定の直径の筒状に形成されており、その長手方向の長さは埋込体18よりも長く形成されている。また、カバー部材16の中央付近には、生体内で破断可能な破断容易部24が形成されている。破断容易部24は、カバー部材16において、厚さ方向に貫通する複数の切込が線状に連なったミシン目として構成できる。また、破断容易部24は、カバー部材16の肉薄部又は、切込によって分離しやすくされた幅狭部等として構成してもよい。破断容易部24は、カバー部材16の先端部分16aと基端部分16bとの境界に沿って形成されている。
【0018】
埋込体18は、糸状又は帯状の繊維素材よりなり、その外径は、カバー部材16の内径よりも小さく形成されている。埋込体18は、カバー部材16内において、張力が掛からない状態で収容されている。埋込体18は、生体内において皮下組織92(
図6A参照)との親和性のある素材によって形成されている。
【0019】
埋込体18は、用途に応じて種々の素材を用いることができるが、例えば、後述する組織再生を促す目的で用いる場合には、生体内において損傷した組織に埋め込んだ際に、組織を再生させる細胞が集まりやすい素材を用いることができる。このような素材としては、短冊状のコラーゲン繊維シートを短辺側に細くなるように絞って糸状にしたコラーゲン繊維が挙げられる。組織再生に用いる場合には、埋込体18は、例えば径の平均値が0.4mm程度で、長さが100mm以上の糸状又は帯状のものを用いることができる。
【0020】
なお、埋込体18は、X線透視装置による視認性を高めるために、重元素(原子番号の大きな元素)を含んだマーカー部材を備えていてもよいし、繊維の内部に重元素を含んだ造影剤を混入させてもよい。また、埋込体18は、繊維の内部又は外表面に抗菌剤を含有してもよい。がん治療の一環として行われるリンパ節郭清の治療に埋込体18を用いる場合には、埋込体18の内部に抗がん剤が含まれていてもよい。
【0021】
次に、破断容易部24の具体的な構成例1~4について説明する。
【0022】
図2Aに示す構成例1に係る破断容易部24Aは、管状のカバー部材16の途中にカバー部材16の外周を周方向に一周するように環状に形成された環状ミシン目部25を備える。構成例1の破断容易部24Aは、カバー部材16の先端側と基端側とを矢印に示す方向に引っ張ることで破断してカバー部材16が先端側と基端側とに分離する。カバー部材16は、破断容易部24Aで分離されることにより、先端側と基端側との2方向から引き抜くことが可能となる。分離されたカバー部材16は、皮下組織92内との接触部分の長さが短くなるため、摩擦抵抗が減少し、破損することなく引き抜くことができる。
【0023】
図2Bに示す構成例2に係る破断容易部24Bは、カバー部材16の先端側に設けられた第1傾斜ミシン目部26と、基端側に設けられた第2傾斜ミシン目部28と、第3ミシン目部30とを備える。第1傾斜ミシン目部26及び第2傾斜ミシン目部28は、カバー部材16の長手方向に対して傾斜して形成されている。第3ミシン目部30は、第1、第2傾斜ミシン目部26、28の端部同士を繋いでカバー部材16の長手方向に延びて形成されている。この破断容易部24Bは、カバー部材16の先端側及び基端側を矢印に示すように引っ張ることで、弱い力でも容易に裂け目を発生させることができる。カバー部材16を長手方向にさらに引っ張ると、ミシン目の裂け目が広がることで、破断容易部24Bが完全に破断する。このように、本構成例の破断容易部24Bは、比較的弱い操作力で破断するため、カバー部材16の引き抜き作業がさらに容易になる。
【0024】
図2Cに示す構成例3に係る破断容易部24Cは、カバー部材16の途中に設けられた環状ミシン目部32と、第1らせんミシン目部34と第2らせんミシン目部36とを備える。環状ミシン目部32は、カバー部材16の中央付近に設けられており、外周に沿って周方向に1周して形成されている。第1らせんミシン目部34は、環状ミシン目部32の先端側に設けられたミシン目部であり、らせん状に形成されてカバー部材16の先端に延びている。第2らせんミシン目部36は、環状ミシン目部32の基端側に設けられたミシン目部であり、らせん状に形成されてカバー部材16の基端に延びている。
【0025】
本構成例の破断容易部24Cは、カバー部材16を先端側及び基端側から引っ張ると、第1らせんミシン目部34及び第2らせんミシン目部36に裂け目が生じる。そして、カバー部材16は、裂け目の進行に伴って管状の形状から帯状に変形しながら引き抜かれてゆく。そして、環状ミシン目部32に裂け目が広がることにより、カバー部材16が先端部分16aと基端部分16bとに分離される。その後、先端部分16aを先端側から引き抜くことができ、及び基端部分16bを基端側から引き抜くことができる。カバー部材16は、第1、第2らせんミシン目部34、36によって、元の管状の形態よりも、幅が小さな帯状に変形するため、皮下組織92からの摩擦抵抗をさらに受けにくくなり、抜去が容易になる。
【0026】
図3A~
図3Cに示す構成例4に係る破断容易部24Dは、カバー部材16が長手方向に沿って一対設けられた長手方向ミシン目部38a、38bと、カバー部材16の周方向に延びる複数の周方向ミシン目部40と、を備えている。
図3A及び
図3Bに示すように、一対の長手方向ミシン目部38a、38bは、直線状に形成されており、カバー部材16の中心軸を挟んで対向するようにして形成されている。この長手方向ミシン目部38a、38bは、カバー部材16の先端から基端にかけて形成されている。周方向ミシン目部40は、カバー部材16の周方向の一部に設けられたミシン目であり、カバー部材16の長手方向に一定間隔を開けて複数配置されている。隣接する周方向ミシン目部40は、周方向の配置位置が異なっている。すなわち、周方向ミシン目部40は、一方の長手方向ミシン目部38aと交差し他方の長手方向ミシン目部38bから離間した第1周方向ミシン目部40aと、他方の長手方向ミシン目部38bと交差し一方の長手方向ミシン目部38aから離間した第2周方向ミシン目部40bとがある。そして、第1周方向ミシン目部40aと第2周方向ミシン目部40bとは、長手方向に交互に配置されている。
【0027】
破断容易部24Dが設けられたカバー部材16(
図3B)を先端側及び基端側から引っ張ると、周方向ミシン目部40に裂け目が生じ、その裂け目が長手方向ミシン目部38a、38bに延びることで、カバー部材16が半径方向に2つに分離される。その際に、周方向ミシン目部40に裂け目が入ることにより、
図3Cに示すように、長手方向に延びながら先端部分16aと基端部分16bとに分離する。本構成例の破断容易部24Dによれば、第1、第2らせんミシン目部34、36と異なり、引っ張った際に分離した部分が埋込体18に巻き付いて締め付けることがなく、スムーズに引き抜くことができる。
【0028】
次に、導入針14とカバー部材16の接続構造について説明する。
【0029】
図4Aに示すように、変形例1に係る導入針14Aは、中空針となっており、中心軸に沿って貫通孔42が形成されている。なお、導入針14Aの先端には鋭利な針先が形成されていてもよい。貫通孔42の内径は、カバー部材16の外径と同程度に形成されており、カバー部材16の先端側が貫通孔42内に挿入されて接合されている。カバー部材16と導入針14Aとは、例えば接着剤によって接合されている。本変形例によれば、導入針14Aとカバー部材16とが強固に接合されているため、カバー部材16の基端側と導入針14Aとを引っ張ることで、カバー部材16の破断容易部24(
図1参照)を破断させて、カバー部材16を引き抜くことができる。
【0030】
図4Bに示すように、変形例2に係る導入針14Bでは、中継部材44を介してカバー部材16が接合されている。導入針14Bは、中空針であり、中心軸に沿って形成された貫通孔42には、中継部材44の先端側(図の左側)の一部分が挿入されており、接着剤により接合されている。中継部材44の基端側(図の右側)は、導入針14Bの基端側に突出している。中継部材44は、中空円筒状に形成されており、その外径はカバー部材16の内径と同程度又はこれよりも小さい径に形成されている。そして、カバー部材16は、その先端側の一部を中継部材44の基端側に装着することで接合されている。中継部材44とカバー部材16とは、例えば接着剤により接合されている。
【0031】
本変形例によれば、中継部材44を介して導入針14Bとカバー部材16とを強固に接合することができる。また、柔軟なカバー部材16を導入針14Bの貫通孔42に挿入する必要がないので、容易に製造を行える。なお、本変形例において、中継部材44は中空円筒状に限定されず、中実な棒状であってもよい。
【0032】
次に、カバー部材16の内部での埋込体18の配置例について説明する。
図5Aに示す配置例1では、埋込体18は、筒状のカバー部材16の内部に配置される。図示のように、埋込体18の先端は、カバー部材16の先端(中継部材44)よりも基端側に離間するように配置されていてもよい。この配置例1では、埋込体18が長手方向に変位可能な状態に保たれるため、皮下組織92に配置する手技の間、埋込体18を長手方向に引っ張る力が作用しにくくなる。これにより、留置完了後に埋込体18が収縮して意図せぬ変形を生じることや、脂肪組織内で蛇行するといった事象を防ぐことができる。
【0033】
また、
図5Bに示す配置例2では、埋込体18の先端が接着部46でカバー部材16に固定された状態で配置される。接着部46は、例えば接着剤をカバー部材16内の所定位置に注入することで形成できる。なお、配置例2の場合には、使用者は、カバー部材16を引き抜く前に、カバー部材16の先端側を切断する。カバー部材16の切断位置は、接着部46の基端側とし、接着部46を取り除く。その後、使用者が鉗子等でカバー部材16の端部を把持して破断容易部24を破断させる。そして、使用者がカバー部材16を先端側及び基端側から引き抜く。このような配置例2では、埋込体18がカバー部材16に固定されるため、手技を行っている間に埋込体18が移動してカバー部材16から脱落してしまう事象を防ぐことができる。
【0034】
また、配置例2においては、接着部46よりも基端側に切断位置を示すマーキングを施しておくと好適である。これにより、接着部46の先端側を切断する事象や、誤って硬い接着部46(
図5B参照)に切り込んでしまう等の事象を防止できる。
【0035】
なお、
図5Aの態様の埋込体留置器具10についても、カバー部材16の皮下組織92からの引き抜きに先立って、カバー部材16の先端付近を切断して導入針14B(及び中継部材44)を切り離し、その後、カバー部材16の引き抜きを行う使い方もできる。このような使い方の便宜を図るべく、カバー部材16に、適切な切断位置を示すマーキングを設けてもよい。具体的には、配置例1の埋込体18の先端と、中継部材44の基端部との間の部分のカバー部材16に切断位置を示すマーキングを付しておくことが好ましい。これにより、硬い中継部材44を避けた位置でカバー部材16の切断を行うことができる。また、切断されたカバー部材16の先端に埋込体18がない部分が現われるため、その部分を鉗子やピンセット等で把持して引き抜くことで、埋込体18に損傷を与えることなくカバー部材16を抜去できる。
【0036】
次に、本実施形態の埋込体留置器具10を用いた埋込体18の皮下組織92への留置方法について説明する。
【0037】
図6Aに示すように、医師等の使用者は、導入針14を皮膚90から、目的部位96の近傍の皮下組織92(例えば脂肪組織)に穿刺する。なお、導入針14が鈍針の場合には、使用者は皮膚90を切開して柔軟な皮下組織92に至る導入経路を形成し、その導入経路を通じて導入針14の先端を皮下組織92に挿入してもよい。
【0038】
その後、使用者が導入針14を皮下組織92内で押し進め、目的部位96を通過させる。その間、導入針14の基端側に配置された埋込体18は、カバー部材16で覆われた状態に保たれる。
【0039】
次に、
図6Bに示すように、使用者が導入針14の先端を皮膚90から突出させる。さらに、使用者が導入針14を皮膚90から完全に引き抜き、カバー部材16の先端側を皮膚90から突出させる。
【0040】
次に、
図6Cに示すように、使用者が導入針14の基端部付近で皮膚90から突出しているカバー部材16を埋込体18とともに切断する。そして、使用者がカバー部材16の先端側と、基端側とを引っ張る。これにより、破断容易部24が破断して、カバー部材16が先端部分16aと基端部分16bとに分離される。その後、使用者がカバー部材16の先端側及び基端側をそれぞれ引っ張ることで、分離した先端部分16a及び基端部分16bをそれぞれ先端側及び基端側から引き抜く。
【0041】
カバー部材16が先端部分16a及び基端部分16bに分離されるために、皮下組織92との摩擦抵抗が減少し、先端部分16a及び基端部分16bを破損させることなく、きれいに引き抜くことができる。また、埋込体18とカバー部材16との摩擦抵抗も減少するため、カバー部材16を引き抜く際に埋込体18に作用する引っ張り力を抑制することができるため、埋込体18の位置ずれや蛇行収縮等の発生を防ぐことができる。以上により、本実施形態の埋込体18の皮下組織92への留置が完了する。
【0042】
上記の、埋込体留置器具10及び埋込体留置方法は、損傷した組織の再生を促す治療にも応用することができる。例えば、
図7に示すように、埋込体留置方法は、損傷したリンパ管があるリンパ節付近に埋込体18を留置する手技に用いることができる。リンパ管の損傷は、腫瘍の治療の際のリンパ節郭清や放射線治療等により生じる。リンパ管が損傷を受けて機能不全となると、リンパ液が正常に流れず浮腫を生ずることがある。
【0043】
このような機能不全を改善するために、コラーゲン繊維よりなる埋込体18を留置する手技が行われる。コラーゲン繊維よりなる埋込体18は、断面に無数の微細孔が形成された多孔質状のコラーゲン繊維が挙げられる。例えば径の平均値が0.4mm程度で、長さが100mm以上の糸状のものを使用できる。皮下組織92への穿刺は、図中のように導入針14を用いて行う。この場合には、図示の直線状の導入針14に代えて円弧状の導入針を用いてもよい。円弧状の導入針を用いることにより、生体の皮下組織92にスムーズに穿刺することができ、穿刺部位への負担を軽減できる。
【0044】
このような埋込体18は、本実施形態の埋込体留置器具10を用いて、
図6A~
図6Cを参照しつつ説明した方法で、目的部位96に留置することができる。再生する範囲が広い場合には、図示のように埋込体18が目的部位96に複数本平行に埋め込まれる。埋め込まれたコラーゲン繊維よりなる埋込体18は、組織を再生させる細胞が集まることで、細胞増殖及び組織化を誘導して、リンパ管の再生を促す。
【0045】
本実施形態では、カバー部材16の引き抜きの際にカバー部材16が分離するため、カバー部材16をきれいに抜去できる。また、皮下組織92や埋込体18に対する引っ張り力等の負荷の作用が軽減されるため、埋込体18の細胞定着性が向上するとともに、埋込体18の位置ずれや蛇行収縮の発生を防止できる。
【0046】
本実施形態のカバー部材16、埋込体留置器具10及び埋込体18の留置方法は、以下の効果を奏する。
【0047】
本実施形態の埋込体留置器具10は、生体内に挿入可能な先端部としての導入針14と、導入針14の基端側に配置された長尺な埋込体18と、埋込体18を覆う管状のカバー部材16と、を有する。そして、カバー部材16には、生体内において先端部分16aと基端部分16bとに分離可能な破断容易部24が設けられている。このように構成することにより、カバー部材16を先端部分16aと基端部分16bとに分離して、先端側と基端側とからそれぞれ引き抜くことができる。この構成により、カバー部材16と皮下組織92との摩擦抵抗を抑制でき、カバー部材16を残留させることなくきれいに引き抜くことができる。
【0048】
上記の埋込体留置器具10において、先端部は、生体内に穿刺可能な針先20を備えた導入針14よりなり、カバー部材16は導入針14の基端部22に接合されて埋込体18を覆うように構成されてもよい。この構成により、皮膚90の切開が不要となる。
【0049】
上記の埋込体留置器具10において、破断容易部24は、先端部分16aと基端部分16bとの境界に沿って設けられたミシン目部で構成することができる。これにより、簡単かつ製造が容易な構造で、破断容易部24を実現できる。
【0050】
埋込体留置器具10において、埋込体18は、細胞が付着することで組織再生を促す能力を有するコラーゲン繊維としてもよい。この構成により、埋込体留置器具10を損傷した組織の治療に利用できる。
【0051】
(第2実施形態)
図8に示すように、本実施形態の埋込体留置器具10Aは、先端部52と、埋込体18を収容する本体部54とが一体的に形成されたカバー部材50と、カバー部材50の基端側に設けられた操作ハブ56とを備えている。
【0052】
カバー部材50は、先端部52から基端部55にかけて軸方向に延びる貫通孔58が形成された中空針よりなる。カバー部材50の先端部52は、先細り形状に形成されており、生体の皮膚90に穿刺可能な鋭利な針先20(
図1参照)として形成されている。なお、針先20は、鋭利なものに限定されず、鈍であってもよい。本体部54は、一定の直径で基端部55にまで延びており、その内部に貫通孔58が形成されている。貫通孔58は、長尺な埋込体18の直径(短手方向の寸法)よりも大きな内径に形成されている。埋込体18は、引っ張り力等の負荷が作用しない状態で、貫通孔58内に収容される。
【0053】
本体部54の中央付近には、操作力を作用させることで、先端部分50aと基端部分50bとに分離可能な破断容易部60が設けられている。破断容易部60の具体的な構成例については後述する。
【0054】
カバー部材50は、適度な強度を有して形成されていることが好ましい。カバー部材50の構成材料としては、樹脂材料や金属材料を用いることができる。具体例としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム合金、チタン又はチタン合金等の金属材料が挙げられる。また、PTFE、ETFE、PFA等のフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテルナイロン樹脂等が挙げられる。なお、カバー部材50の全部又は一部が、重元素を含んで造影機能を有してもよい。また、カバー部材50は、抗菌剤で被覆されていてもよい。また、近赤外蛍光色素が混錬されていてもよい。
【0055】
カバー部材50の基端部55には、カバー部材50を操作するための操作ハブ56が設けられている。操作ハブ56は、中心部に軸孔62が形成された略円筒状の部材として構成されている。軸孔62は、カバー部材50の貫通孔58と連通しており、その内部に埋込体18の基端側の一部分が収容されている。軸孔62の内径は、カバー部材50の本体部54の外径と略同じ大きさに形成されており、カバー部材50と操作ハブ56とは、例えば、カシメ、融着、接着剤による接着等の方法により接合されている。操作ハブ56は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール等の各種樹脂材料で形成される。
【0056】
次に、カバー部材50の破断容易部60の具体的な構成例について説明する。
【0057】
図9Aに示す構成例1では、破断容易部60が、カバー部材50の周方向の全周に亘って形成された溝状の肉薄部64で構成されている。肉薄部64は、カバー部材50に折り曲げる力を作用させると破断して、カバー部材50が先端部分50aと基端部分50bとに分離する。
【0058】
図9Bに示す構成例2では、破断容易部60が、カバー部材50の周方向の一部を直線状の溝で切り欠いた切欠部66で構成されている。切欠部66は、切欠部66を中心としてカバー部材50を折り曲げるように変形させると、容易に破断し、カバー部材50が先端部分50aと基端部分50bとに分離する。なお、図示の例では、両側部に二本の溝状の切欠部66を設けているが、本構成例はこれに限定されるものではなく、一本の溝状の切欠部66で破断容易部60を構成してもよい。
【0059】
図9Cに示す構成例3では、破断容易部60が、カバー部材50の外周側から貫通孔58に連通するように形成された孔部68として形成されている。孔部68は、カバー部材50の中心軸を挟んで一対形成されている。孔部68が形成されていない部分を撓ませるようにしてカバー部材50を折り曲げると、一対の孔部68の間のカバー部材50の側部が破断する。これにより、カバー部材50が先端部分50aと基端部分50bとに分離される。なお、図示の例では、周方向に離間して配置された一対の孔部68で破断容易部60を形成する例を示したが、本構成例はこれに限定されるものではなく、周方向の一か所に孔部68を設けて破断容易部60を構成してもよい。
【0060】
図9Dに示す構成例4では、カバー部材50が先端部分50aと基端部分50bとを接合して構成されており、破断容易部60が先端部分50aと基端部分50bとの接合部70として形成されている。接合部70は、先端部分50aの基端側に縮径して突出した円筒状の突出部71と、基端部分50bに設けられ、突出部71を受け入れる凹部72とを備えている。突出部71が凹部72に挿入されるとともに、接着剤で接合されている。カバー部材50を先端側と基端側とから引っ張ると、接合部70の接着剤が剥離することで、破断容易部60が破断する。
【0061】
図9Eに示す構成例5では、カバー部材50が先端部分50aと基端部分50bとを接合して構成されており、破断容易部60が先端部分50aと基端部分50bとの接合部74として構成されている。接合部74は、接着剤により接合されている。本構成例では、接合部74が軸方向に長く延びた直線部74aを備えている。図示の矢印のように、カバー部材50を折り曲げるように変形させると、接合部74の接着剤が剥離して破断容易部60が破断する。
【0062】
図9Fに示す構成例6では、カバー部材50が先端部分50aと基端部分50bとをねじ機構76を介して接合して構成されている。ねじ機構76が破断容易部60を構成する。破断容易部60は、先端部分50aのねじ山77aを有する突出部77と、基端部分50bのねじ溝78aを有する凹部78とにより構成されている。初期状態では、突出部77と凹部78とが螺合して接合されている。操作ハブ56をカバー部材50に対して軸回りに回動させることにより、破断容易部60の螺合を解除して、カバー部材50を先端部分50aと基端部分50bとに分離させることができる。
【0063】
次に、カバー部材50の先端部分50aを安全に保持するための構成例について説明する。カバー部材50の破断容易部60を破断させるためには、カバー部材50の先端側と、基端側を把持して操作する必要がある。そこで、カバー部材50の先端部分50aを安全に把持するべく、
図10に示すように、先端部52の近傍の本体部54に、一対の溝状の凹部79が形成されている。
【0064】
図示のように把持具80を用意してもよい。把持具80は、例えば直方体状に形成された樹脂部材よりなり、カバー部材50の先端部52及び本体部54の直径と同じ寸法の幅の溝状の収容溝82を備えている。収容溝82の両側壁82aからは、カバー部材50の凹部79に係合可能な凸部84がそれぞれ内側に向けて突設されている。カバー部材50を把持具80の収容溝82に挿入すると、凹部79に凸部84が係合してカバー部材50を把持具80で把持することができる。この把持具80を介して、カバー部材50の先端側を引っ張ることで、破断容易部60の破断操作を確実に行うことができる。
【0065】
次に、本実施形態の埋込体留置器具10Aを用いた埋込体18の留置方法について説明する。
【0066】
図11Aに示すように、まず、使用者が、埋込体留置器具10Aを、留置部位の近くの皮膚90に穿刺する。カバー部材50の先端部52の先端を鈍に形成した場合には、使用者が予め皮膚90を切開してから、先端部52を皮下組織92に挿入してもよい。その後、使用者は、穿刺した部位から留置部位に向けてカバー部材50を皮下組織92内で前進させる。カバー部材50を前進させる操作は、操作ハブ56を手で持って行うことができる。
【0067】
次に、
図11Bに示すように、使用者が埋込体留置器具10Aのカバー部材50の先端部52及び本体部54の一部を皮膚90から突出させる。そして、先端部52及び本体部54の一部に、使用者が把持具80を装着する。なお、把持具80に代えて、鉗子等で把持してもよい。
【0068】
次に、
図11Cに示すように、把持具80及び操作ハブ56を通じて使用者がカバー部材50に力を作用させて、破断容易部60を破断させる。カバー部材50を軸方向に引っ張るか、湾曲させることで、破断容易部60が破断し、カバー部材50が先端部分50aと基端部分50bとに分離する。その後、使用者は、先端部分50a及び基端部分50bをそれぞれ先端側及び基端側から引き抜くことで、カバー部材50を除去する。以上により、目的部位96に埋込体18が留置され、本実施形態の埋込体留置方法が完了する。
【0069】
本実施形態の埋込体留置器具10Aは、先端部52がカバー部材50と一体的に形成されている。本実施形態によっても、カバー部材50を先端側と、基端側とから確実に引き抜くことができる。また、引き抜く距離が短くなることにより、皮下組織92の変形量が減少するため、カバー部材50を引き抜いた後の皮下組織92の変形量が減少する。その結果、皮下組織92の変形に伴う埋込体18の位置ずれや蛇行及び変形を抑制できる。
【0070】
(第3実施形態)
図12に示すように、本実施形態の埋込体留置器具10Bは、長尺な埋込体18を支持する支持部材102と、支持部材102の基端側に接合された操作ハブ104と、埋込体18及び支持部材102を覆う筒状のカバー部材106とを備えている。
【0071】
カバー部材106は、柔軟な樹脂フィルムよりなり、その中央部には、分離可能な破断容易部108が形成されている。破断容易部108はミシン目によって構成されている。
【0072】
本実施形態では、使用者が生体の皮膚90を切開した後、埋込体留置器具10Bを皮下組織92内に挿入する。その後、使用者は、操作ハブ104を持ってカバー部材106で覆われた埋込体18及び支持部材102を皮下組織92に前進させる。さらに、その先端を皮膚90から突出させる。その後、使用者は、支持部材102を操作ハブ104とともに引き抜く。次いで、使用者が、皮膚90から突出したカバー部材106の先端側と基端側とを引っ張ることで、カバー部材106の破断容易部108を破断させる。その後、使用者がカバー部材106を先端側及び基端側から引き抜くことで、カバー部材106を抜去して、埋込体18の留置が完了する。
【0073】
以上のような本実施形態の埋込体留置器具10Bによっても、第1実施形態の埋込体留置器具10と同様の効果を得ることができる。
【0074】
上記において、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0075】
10、10A、10B…埋込体留置器具 12…先端部
14、14A、14B…導入針 16、50、106…カバー部材
18…埋込体 22…基端部
24A~24D、60、108…破断容易部
56、104…操作ハブ 80…把持具