(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20230905BHJP
B23K 9/073 20060101ALI20230905BHJP
B23K 9/02 20060101ALI20230905BHJP
B23K 9/09 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
B23K9/095 501A
B23K9/073 545
B23K9/02 S
B23K9/09
(21)【出願番号】P 2020006184
(22)【出願日】2020-01-17
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慎也
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-082641(JP,A)
【文献】特開平11-291040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00-9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の複数の板材を所定方向に重ねて溶接した接合体の製造方法であって、
前記複数の板材のうち前記所定方向の端に位置する第1板材に入熱を行い溶接することを含み、
前記溶接することは、前記複数の板材に溶け込みが生じる第1の入熱と、前記第1の入熱よりも入熱量の小さい第2の入熱と、を交互に繰り返しつつ入熱位置を移動させることを含
み、
前記複数の板材のうち前記所定方向と反対の端に位置する第2板材は、前記複数の板材のうち前記第2板材を除く板材よりも厚く、
前記溶接することは、前記第1板材における前記所定方向を向く面から入熱することを含む、接合体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の接合体の製造方法であって、
前記複数の板材のうち前記第2板材を除く少なくとも1つの板材は、前記第2板材における該第2板材の端面から離れた所定の位置に端面が位置するように配置されており、
前記溶接することは、前記第1板材の前記端面に沿って行われる、接合体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の接合体の製造方法であって、
前記溶接することは、アーク溶接であって、前記第1の入熱をパルス溶接にて実現し、前記第2の入熱を短絡溶接により実現する、接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属製の複数の板材を所定方向に重ねて溶接する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製の複数の板材を溶接して接合した接合体の製造が行われている。特許文献1には、重ね合わせた上板及び下板のうち、下板の主たる面と、上板の端面と、により構成される角部分を溶接するいわゆる隅肉溶接を行う構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の隅肉溶接では、2つの母材の間の溶接ルート部にて溶接を行う。溶接位置が溶接ルート部からずれると、溶接不良が生じ易い。溶接位置が下板側にずれると、下板の溶け落ちが生じやすくなってしまい、また上板が溶融しないため溶接が実現されない。一方、溶接位置が上板側にずれると、下板への入熱が小さくなり、下板の溶け込みを確保できない。また、溶接装置の出力を上げて入熱量を大きくすると、上板の溶け落ちが生じやすくなってしまう。
【0005】
本開示の目的は、接合状態の向上を図ることができる接合体の製造方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、金属製の複数の板材を所定方向に重ねて溶接した接合体の製造方法であって、複数の板材のうち所定方向の端に位置する第1板材に入熱を行い溶接することを含む。溶接することには、複数の板材に溶け込みが生じる第1の入熱と、第1の入熱よりも入熱量の小さい第2の入熱と、を交互に繰り返しつつ入熱位置を移動させることが含まれる。
【0007】
このような製造方法であれば、相対的に入熱量の大きい第1の入熱により、複数の板材全体に熱を加えることができる。また相対的に入熱量の小さい第2の入熱を行うことで、入熱量を低下させすぎることなく、過剰に加熱してしまうことを抑制できる。したがって、入熱量が小さいことによる溶け込み不足、及び、入熱量が過剰であることによる溶け落ちの発生を抑制し、接合状態のよい接合体を製造することができる。
【0008】
上述した製造方法において、複数の板材のうち所定方向と反対の端に位置する第2板材を除く少なくとも1つの板材は、第2板材における第2板材の端面から離れた所定の位置に端面が位置するように配置されていてもよい。また上述した溶接することは、第1板材の端面に沿って行われてもよい。このような製造方法であれば、いわゆる隅肉溶接と同等の溶接を実現することができる。
【0009】
また、上述した製造方法において、溶接することは、アーク溶接により実現されてもよい。また、第1の入熱をパルス溶接にて実現し、第2の入熱を短絡溶接により実現してもよい。このような製造方法であれば、第1の入熱をパルス溶接によって実現することができ、第2の入熱を短絡溶接によって実現することができる。またこの製造方法では、ビードの形成に溶接ワイヤが用いられるため、溶接ワイヤでビードを盛ることができ、溶け落ちによる孔あきを高度に抑制することができる。
【0010】
また上述した製造方法において、複数の板材のうち所定方向と反対の端に位置する第2板材は、複数の板材のうち第2板材を除く板材よりも厚くてもよい。このような製造方法であれば、第2板材が他の板材よりも相対的に厚いため、第2板材の溶け落ちの発生を高度に抑制することができる。
【0011】
また上述した製造方法において、溶接することは、第1板材における上述した所定方向を向く面に入熱することを含んでもよい。このような製造方法であれば、より高い精度で第1板材から入熱を行うことができる。そのため、第1板材に入熱ができずに溶接ができなくなる危険を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1A~1Cは、実施形態に係る接合体の製造方法を説明する模式的な側面図であって、
図1Aは第1の入熱を説明する図であり、
図1Bは第2の入熱を説明する図であり、
図1Cは溶接が行われた後の状態を説明する図である。
【
図2】実施形態に係る接合体の製造方法を説明する模式的な平面図である。
【
図3】実施例に係る消音器の製造方法を説明する模式的な断面図である。
【
図4】
図4Aは実施例に係る消音器を説明する模式的な正面断面図であり、
図4Bは消音器のマフラーシェルに係る側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本開示の実施形態を図面と共に説明する。
[1.接合体の製造方法]
<接合体の構成>
以下に説明する接合体の製造方法は、金属製の複数の板材を所定方向に重ねて溶接した接合体の製造方法である。ここでいう複数の板材の材料は、溶接による接合が可能な金属材料であれば特に限定されない。複数の板材は、材料の異なる2種類以上の板材であってもよい。また、接合体を構成する複数の板材は、少なくとも接合される部分が板状の形状であればよい。複数の板材の形状は、溶接する箇所を重ねて配置可能であれば特に限定されない。
【0014】
以下では、2枚の金属板材を接合した接合体の製造方法を図示して説明する。
図1Aに示されるように、接合体には第1板材11及び第2板材12が含まれる。第1板材11及び第2板材12は、主たる面が隣接するように重ねて配置されている。第2板材12は、第1板材11よりも厚い板材である。なお、3枚以上の板材を溶接する場合には、第1板材11と第2板材12の間に配置して溶接してもよい。
【0015】
第1板材11が、複数の板材のうち所定方向の端に位置する板材に相当する。また、第2板材12が、複数の板材のうち所定方向と反対の端に位置する板材に相当する。ここでいう所定方向とは、第1板材11と第2板材12の重なる方向であって、第2板材12から第1板材11に向かう方向である。
【0016】
第1板材11は、第2板材12における該第2板材12の端面12aから離れた所定の位置に端面11aが位置するように配置されている。つまり、第2板材12は第1板材11よりも外側に突き出している。また、第1板材11の端面11aは、第2板材12の主たる面のうち所定方向を向く面である接合面12b上に位置し、接合面12bと交差するように配置されている。
【0017】
なお、3枚以上の板材を溶接する場合は、第2板材12を除く少なくとも1つ又は全部の板材が上述した第1板材11と同様の位置及び態様で配置されていてもよい。また、3枚以上の板材を溶接する場合は、第2板材12を最も厚い板材としてもよい。言い換えると、第2板材12が、複数の板材のうち第2板材12を除く板材よりも厚く構成されていてもよい。
【0018】
<接合体の溶接>
溶接の具体的方法について説明する。本実施形態では、第1板材11と第2板材12との溶接ルート部ではなく、第1板材11に入熱を行い溶接する。より詳細には、第1板材11における所定方向を向く面である入熱面11bに入熱する。また本実施形態では、アーク溶接により溶接を行う。このアーク溶接では、第1の入熱と、第2の入熱と、を交互に繰り返す。
【0019】
<第1の入熱>
第1の入熱は、溶接対象となる複数の板材の全てに溶け込みを生じさせる入熱である。
図1Aに示されるように、溶接ワイヤ21は、入熱面11bに向けて設定される。ここでは、アーク溶接としてパルス溶接(パルスアーク溶接)を行う。このパルス溶接は、1回以上のパルス出力を含むものであり、パルス出力の所定期間の経過、又は、ピーク電流を所定回数出力するまでを1つの単位とする。
【0020】
<第2の入熱>
第2の入熱は、第1の入熱よりも入熱量の小さい入熱である。ここでは、アーク溶接として短絡溶接(短絡アーク溶接)を行う。
図1Bに示されるように、第1の入熱によって第1板材11及び第2板材12に溶け込みが生じ、溶融池13が形成されている。この状態で短絡溶接を行うことで、直前の第1の入熱を含む過去の入熱を利用して板材を溶融させる。この操作によって、
図1Cに示されるように、ビード14が形成される。
【0021】
<入熱位置の移動>
図2に示されるように、アーク溶接が為される位置である入熱位置22は、第1板材11の端面11aに沿って移動する。移動中、第1の入熱と、第2の入熱と、が交互に繰り返される。なお、第1の入熱と第2の入熱との切替え頻度、及び、入熱位置22の移動の速度は特に限定されず、板材の種別、板厚、出力などを考慮して適宜設定してもよい。
【0022】
なお、複数の板材を溶接する際に、各板材の間に生じる隙間の大きさは特に限定されない。例えば、隙間の大きさは、板材の板厚よりも大きくてもよい。
【0023】
[3.効果]
上述した接合体の製造方法であれば、以下の効果が得られる。
(i)上述した接合体の製造方法では、第1の入熱により、複数の板材全体に熱を加える。ここで、第1の入熱は入熱量が大きい入熱操作であるため、いずれかの板材、特に第2板材12の溶け込みが不足してしまうことによる接合不良を抑制できる。また、第1の入熱と交互に、相対的に入熱量の小さい第2の入熱を行うことで、入熱量を低下させすぎることなく、過剰に加熱してしまうことを抑制できる。そのため、いずれかの板材、特に第1板材11が溶け落ちてしまうことによる接合不良を抑制できる。
【0024】
なお、第1の入熱のみを継続して場合、過剰な溶け込みが発生しやすくなってしまう。また、第1の入熱のみを断続的に行う場合、言い換えると、第2の入熱を行うタイミングで何らの入熱を行わない場合は、溶接状態の位置によるバラつきが生じやすくなってしまう。しかし、第2の入熱を行うことで溶接状態を均一化でき、接合状態のよい接合体を製造することができる。ここでいう溶接状態とは、例えば、第2板材12における溶融深さや盛られるビード14の量などを指す。
【0025】
(ii)上述した接合体の製造方法では、第1板材11の端面11aに沿って溶接が行われる。そして、第1板材11を含む第2板材12以外の板材は、第2板材12の端面12aから離れた所定の位置に端面が位置するように配置されている。すなわち、いわゆる隅肉溶接と同等の溶接を実現することができる。さらに、上述した接合体の製造方法では、第1板材11を狙って入熱するため、溶接ルート部を正確に狙うことが望まれる従来の方法と比較して、入熱位置のバラつきに起因する溶接状態のバラつきが生じにくい。そのため、接合体の接合状態の向上を図ることができ、特に3枚以上の板材を重ねて溶接する場合に有効である。
【0026】
(iii)上述した接合体の製造方法では、アーク溶接による溶接を行うため、溶接ワイヤ21によってビード14を盛ることができる。その結果、溶け落ちによる孔あきを高度に抑制することができる。また、パルス溶接による第1の入熱と、短絡溶接による第2の入熱と、を交互に行うことで、入熱量を好適に調整することができる。
【0027】
(iv)上述した接合体の製造方法では、第2板材12が他の板材よりも相対的に厚いため、第2板材12の溶け落ちの発生を高度に抑制することができる。
(v)上述した接合体の製造方法では、第1板材11の入熱面11bを狙って入熱するため、より高い精度で第1板材11からの入熱を実現することができる。その結果、第1板材11に入熱ができずに溶接ができなくなる危険を低減できる。
【0028】
[4.実施例]
図3に示す消音器31は、マフラーシェル41と、アウタープレート42と、を含む。なお、消音器31にはインレットパイプ、アウトレットパイプ、それらのパイプをマフラーシェル41内に保持する保持部品、及び、それらのパイプが貫通する貫通孔などが含まれるが、溶接工程に関係性の薄い要素の説明は割愛する。
【0029】
マフラーシェル41は、筒状の形状であり、少なくともアウタープレート42と溶接する箇所においては内管51及び外管52を有する二重管構造である。内管51と外管52は、端部を揃えて配置される。
【0030】
アウタープレート42は、筒状の側板42aを有する。側板42aはマフラーシェル41の端部に挿入され、溶接によりマフラーシェル41に接合される。側板42aは、内管51及び外管52よりも板厚が大きい。内管51の板厚をt1、外管52の板厚をt2、側板42aの板厚をt3としたとき、t1≦t3、及び、t2≦t3となる。なおt1とt2はいずれが厚くてもよく、同じ厚さでもよい。
【0031】
溶接方法について説明する。トーチ3は、マフラーシェル41の外管52の上側面52aに出力する。この位置は、外管52の外周面であり、内管51及びアウタープレート42の側板42aと重なる位置である。溶接はアーク溶接であって、溶接位置を周方向に移動させつつ、パルス溶接と短絡溶接とを交互に行う。
【0032】
このような溶接方法によって溶接を行うことで、側板42aの溶け込みが十分に行われ、かつ、マフラーシェル41の溶け落ちが抑制された、接合状態のよい消音器31が製造される。
【0033】
なおマフラーシェルは、
図4A、
図4Bに示されるように、一枚の板により二重管として形成されたものであってもよい。例えば、マフラーシェル41は、一枚の板を巻いて二重とし、端部が重なった部分をスポット溶接により接合し、さらに、所望の形状に加圧等により変形させて製造してもよい。このように、上述した溶接方法により接合される複数の板材は、その一部又は全部が1つの板材として繋がっていてもよい。
【0034】
上記本実施例において、消音器31が接合体の一例である。また、マフラーシェル41の内管51及び外管52、並びに、アウタープレート42の側板42aが、複数の板材の一例である。また、外管52が第1板材の一例であり、側板42aが第2板材の一例である。
【0035】
[5.その他の実施形態]
以上本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
【0036】
(5a)上記実施形態では、第1の入熱をパルス溶接により実現し、第2の入熱を短絡溶接により実現する構成を例示した。しかしながら、第1の入熱によって溶接の対象となる板材に溶け込みが生じ、かつ、第1の入熱と第2の入熱との入熱量に差が生じていれば、それらの具体的な手段は特に限定されない。なお第1の入熱は、複数の入熱方法の組み合わせであってもよい。例えば、ピーク電流値が2種類以上に設定された複数回のパルス出力の組み合わせによって第1の入熱の一単位が構成されていてもよい。また第2の入熱も同様に、複数の入熱方法の組み合わせであってもよい。
【0037】
(5b)上記実施形態では、溶接のための入熱を、第1板材11の入熱面11b、又は、外管52の上側面52aに対して行う構成を例示した。しかしながら第1板材11の端面11aや外管52の端面52bに対して入熱を行う構成であってもよい。
【0038】
(5c)上記実施形態では、第2板材12が他の板材よりも外側に広く突き出し、他の板材は端面が揃えられ、それらの端面が第2板材12の端面から離れた位置に配置された状態で溶接が行われる構成を例示した。しかしながら、各板材の相対的な位置は特に限定されない。
【0039】
(5d)上記実施形態では、第2板材12が他の板材よりも厚い構成を例示したが、板材の厚さは特に限定されない。例えば、また、第2板材12よりも他の板材の厚さが大きくてもよい。また、溶接する対象となる板材の厚さはいずれも同じであってもよいし、いずれも異なっていてもよい。
【0040】
(5e)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【符号の説明】
【0041】
3…トーチ、11…第1板材、11a…端面、11b…入熱面、12…第2板材、12a…端面、12b…接合面、13…溶融池、14…ビード、21…溶接ワイヤ、31…消音器、41…マフラーシェル、42…アウタープレート、42a…側板、51…内管、52…外管、52a…上側面、52b…端面