(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/02 20060101AFI20230905BHJP
B60K 6/442 20071001ALI20230905BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20230905BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20230905BHJP
B60W 20/50 20160101ALI20230905BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20230905BHJP
B60W 10/30 20060101ALI20230905BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20230905BHJP
B60W 20/20 20160101ALI20230905BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20230905BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20230905BHJP
F16H 61/12 20100101ALI20230905BHJP
F16H 61/68 20060101ALI20230905BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20230905BHJP
B60W 10/11 20120101ALI20230905BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20230905BHJP
B60W 50/029 20120101ALI20230905BHJP
【FI】
B60W10/02 900
B60K6/442 ZHV
B60K6/52
B60K6/547
B60W20/50
B60W10/06 900
B60W10/30 900
B60W10/10 900
B60W20/20
B60W20/00 900
B60W10/08 900
F16H61/12
F16H61/68
B60W10/00 106
B60W10/11
F02D29/06 D
B60W50/029
(21)【出願番号】P 2020045791
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】北井 慎也
(72)【発明者】
【氏名】山本 一洋
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 一輝
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 広則
(72)【発明者】
【氏名】坂元 竜起
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-029162(JP,A)
【文献】特開2010-084871(JP,A)
【文献】特開2021-011137(JP,A)
【文献】特開2006-046542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/02
B60K 6/442
B60K 6/52
B60K 6/547
B60W 20/50
B60W 10/06
B60W 10/30
B60W 10/10
B60W 20/20
B60W 20/00
B60W 10/08
F16H 61/12
F16H 61/68
B60W 10/04
B60W 10/11
F02D 29/06
B60W 50/029
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の油圧式の変速用係合装置の係合解放状態によって複数のギヤ段を成立させることができる自動変速機と、該自動変速機の上流側に設けられた第1回転機と、該第1回転機の上流側に油圧式の断接装置を介して切り離し可能に連結されたエンジンとを備え、前記エンジンおよび前記第1回転機が走行用駆動力源として用いられて前記自動変速機を介して前後輪の一方を駆動するハイブリッド駆動ユニットと、
第2回転機を備えており、該第2回転機が走行用駆動力源として用いられて前記前後輪の他方を駆動する電気駆動ユニットと、
前記複数の変速用係合装置および前記断接装置の係合解放状態をそれぞれ切り替えるための複数の電磁弁を備えている油圧制御回路と、
を有するハイブリッド車両の駆動装置であって、
前記自動変速機の変速制御が不能となる異常が発生した際に、前記断接装置が係合させられるとともに前記自動変速機を介した動力伝達が遮断された状態で、前記エンジンにより前記第1回転機を回転駆動して発電し、該発電した電気を用いて前記電気駆動ユニットの前記第2回転機を作動させて走行するハイブリッド制御装置を有
し、
前記油圧制御回路は、
前記複数の電磁弁に対する総ての通電が遮断される電源OFF失陥に伴ってフェール判定油の出力状態が切り替わるフェール判定用電磁弁と、
前記フェール判定油が供給される切替ポートと、前記断接装置の作動油を排出して該断接装置を解放する排出用油路が接続される連結ポートと、前記排出用油路から前記連結ポートに供給された作動油をドレーンするドレーンポートと、前記断接装置を係合させることが可能なフェール時係合油が供給される係合ポートとを備えるとともに、前記連結ポートと前記ドレーンポートとを連通させて前記排出用油路から供給された作動油をドレーンさせる正常時接続状態と、前記連結ポートと前記係合ポートとを連通させて前記フェール時係合油を前記排出用油路に出力することにより前記断接装置を係合させるフェール時接続状態と、の2つの状態に切替可能で、常には前記正常時接続状態に保持されるが、前記電源OFF失陥に伴って前記フェール判定油の出力状態が切り替わることにより前記フェール時接続状態に切り替えられるフェールセーフバルブと、を有する
ことを特徴とするハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項2】
前記フェール判定用電磁弁は、前記電源OFF失陥に伴って前記フェール判定油を出力するノーマリオープン型の電磁弁で、
前記フェールセーフバルブは、スプリングの付勢力に従ってスプールが正常側位置に保持されて前記正常時接続状態とされる一方、前記切替ポートに前記フェール判定油が供給されることにより前記スプリングの付勢力に抗して前記スプールがフェール側位置へ移動させられて前記フェール時接続状態に切り替えられるものである
ことを特徴とする請求項
1に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項3】
前記フェールセーフバルブの前記係合ポートには、前記フェール時係合油として前記フェール判定油が供給される
ことを特徴とする請求項
2に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項4】
前記フェールセーフバルブの前記係合ポートには、前記フェール時係合油としてライン圧に調圧された作動油が供給される
ことを特徴とする請求項
1または
2に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項5】
前記油圧制御回路は、前記複数の変速用係合装置のそれぞれに対応して前記複数の電磁弁が設けられており、該電磁弁に通電されることにより前記変速用係合装置にそれぞれ作動油を供給して係合させる一方、該電磁弁に対する通電が停止されることにより前記変速用係合装置をそれぞれ解放させるように構成されており、
前記自動変速機は、前記異常が、前記複数の電磁弁に対する総ての通電が遮断される電源OFF失陥によるものである場合、前記複数の変速用係合装置が総て解放されて動力伝達遮断状態になる
ことを特徴とする請求項1~
4の何れか1項に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド車両の駆動装置に係り、特に、自動変速機の変速制御が不能となる異常発生時の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 複数の油圧式の変速用係合装置の係合解放状態によって複数のギヤ段を成立させることができる自動変速機と、(b) 前記複数の変速用係合装置の係合解放状態を切り替えるための複数の電磁弁を備えている油圧制御回路と、を有する車両が知られている。特許文献1に記載の車両はその一例で、この特許文献1では、前記自動変速機の変速制御が不能となる異常が発生した際に、異常が発生する直前のギヤ段に応じて高速側フェールセーフギヤ段および低速側フェールセーフギヤ段の何れかが択一的に形成され、そのフェールセーフギヤ段で退避走行できるようになっている。
【0003】
一方、特許文献2には、(a) 複数の油圧式の変速用係合装置の係合解放状態によって複数のギヤ段を成立させることができる自動変速機と、(b) その自動変速機の上流側に設けられた第1回転機と、(c) その第1回転機の上流側に油圧式の断接装置を介して切り離し可能に連結されたエンジンとを備え、(d) 前記エンジンおよび前記第1回転機が走行用駆動力源として用いられて前記自動変速機を介して前後輪の一方を駆動するハイブリッド駆動ユニットが記載されている。このようなハイブリッド駆動ユニットを有するハイブリッド車両においても、自動変速機の変速制御が不能となる異常発生時には、特許文献1と同様に所定のフェールセーフギヤ段を形成して退避走行できるようにすることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-146901号公報
【文献】特開2012-35692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の車両は一定のフェールセーフギヤ段で退避走行するため、そのギヤ段(変速比)に応じて発進性能や登坂性能、或いは最高車速等の走行性能が制約されるという問題があった。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、自動変速機の変速制御が不能となる異常が発生した際の退避走行時の走行性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 複数の油圧式の変速用係合装置の係合解放状態によって複数のギヤ段を成立させることができる自動変速機と、その自動変速機の上流側に設けられた第1回転機と、その第1回転機の上流側に油圧式の断接装置を介して切り離し可能に連結されたエンジンとを備え、前記エンジンおよび前記第1回転機が走行用駆動力源として用いられて前記自動変速機を介して前後輪の一方を駆動するハイブリッド駆動ユニットと、(b) 第2回転機を備えており、その第2回転機が走行用駆動力源として用いられて前記前後輪の他方を駆動する電気駆動ユニットと、(c) 前記複数の変速用係合装置および前記断接装置の係合解放状態をそれぞれ切り替えるための複数の電磁弁を備えている油圧制御回路と、を有するハイブリッド車両の駆動装置であって、(d) 前記自動変速機の変速制御が不能となる異常が発生した際に、前記断接装置が係合させられるとともに前記自動変速機を介した動力伝達が遮断された状態で、前記エンジンにより前記第1回転機を回転駆動して発電し、その発電した電気を用いて前記電気駆動ユニットの前記第2回転機を作動させて走行するハイブリッド制御装置を有し、(e)前記油圧制御回路は、(f) 前記複数の電磁弁に対する総ての通電が遮断される電源OFF失陥に伴ってフェール判定油の出力状態が切り替わるフェール判定用電磁弁と、(g) 前記フェール判定油が供給される切替ポートと、前記断接装置の作動油を排出してその断接装置を解放する排出用油路が接続される連結ポートと、前記排出用油路から前記連結ポートに供給された作動油をドレーンするドレーンポートと、前記断接装置を係合させることが可能なフェール時係合油が供給される係合ポートとを備えるとともに、前記連結ポートと前記ドレーンポートとを連通させて前記排出用油路から供給された作動油をドレーンさせる正常時接続状態と、前記連結ポートと前記係合ポートとを連通させて前記フェール時係合油を前記排出用油路に出力することにより前記断接装置を係合させるフェール時接続状態と、の2つの状態に切替可能で、常には前記正常時接続状態に保持されるが、前記電源OFF失陥に伴って前記フェール判定油の出力状態が切り替わることにより前記フェール時接続状態に切り替えられるフェールセーフバルブと、を有することを特徴とする。
【0009】
第2発明は、第1発明のハイブリッド車両の駆動装置において、(a) 前記フェール判定用電磁弁は、前記電源OFF失陥に伴って前記フェール判定油を出力するノーマリオープン型の電磁弁で、(b) 前記フェールセーフバルブは、スプリングの付勢力に従ってスプールが正常側位置に保持されて前記正常時接続状態とされる一方、前記切替ポートに前記フェール判定油が供給されることにより前記スプリングの付勢力に抗して前記スプールがフェール側位置へ移動させられて前記フェール時接続状態に切り替えられるものであることを特徴とする。
【0010】
第3発明は、第2発明のハイブリッド車両の駆動装置において、前記フェールセーフバルブの前記係合ポートには、前記フェール時係合油として前記フェール判定油が供給されることを特徴とする。
【0011】
第4発明は、第1発明または第2発明のハイブリッド車両の駆動装置において、前記フェールセーフバルブの前記係合ポートには、前記フェール時係合油としてライン圧に調圧された作動油が供給されることを特徴とする。
【0012】
第5発明は、第1発明~第4発明の何れかのハイブリッド車両の駆動装置において、(a) 前記油圧制御回路は、前記複数の変速用係合装置のそれぞれに対応して前記複数の電磁弁が設けられており、その電磁弁に通電されることにより前記変速用係合装置にそれぞれ作動油を供給して係合させる一方、その電磁弁に対する通電が停止されることにより前記変速用係合装置をそれぞれ解放させるように構成されており、(b) 前記自動変速機は、前記異常が、前記複数の電磁弁に対する総ての通電が遮断される電源OFF失陥によるものである場合、前記複数の変速用係合装置が総て解放されて動力伝達遮断状態になることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
このような第1発明のハイブリッド車両の駆動装置においては、自動変速機の変速制御が不能となる異常が発生した際に、断接装置が係合させられるとともに自動変速機を介した動力伝達が遮断された状態で、エンジンにより第1回転機を回転駆動して発電し、その発電した電気を用いて電気駆動ユニットの第2回転機を作動させて走行する。すなわち、シリーズ型ハイブリッドの駆動方式で退避走行するため、従来装置のように自動変速機を所定のフェールセーフギヤ段として退避走行する場合に比較して、発進性能や登坂性能、最高車速等の走行性能が全体として向上する。また、第1発明は、電源OFF失陥に伴ってフェール判定油の出力状態が切り替わるフェール判定用電磁弁とフェールセーフバルブとを備えており、電源OFF失陥に伴ってフェール判定油の出力状態が切り替わると、フェールセーフバルブは連結ポートと係合ポートとを連通させてフェール時係合油を排出用油路に出力するフェール時接続状態に切り替えられ、フェール時係合油によって断接装置が係合させられる。すなわち、複数の電磁弁に対する総ての通電が遮断される電源OFF失陥により変速制御が不能となる異常発生時には、その電源OFF失陥に伴って断接装置が自動的に接続状態とされるため、特別な制御を必要とすることなくエンジンにより断接装置を介して第1回転機を回転駆動して発電することが可能であり、シリーズ型ハイブリッドの駆動方式で適切に退避走行することができる。
【0015】
第2発明は、フェール判定用電磁弁がノーマリオープン型の電磁弁で、電源OFF失陥に伴ってフェール判定油が出力されることにより、フェールセーフバルブがスプリングの付勢力に抗してフェール時接続状態に切り替えられる場合で、電源OFF失陥に伴って断接装置が適切に接続状態とされる。また、第3発明のようにフェールセーフバルブの係合ポートにフェール時係合油としてフェール判定油が供給されるようにすれば、油圧制御回路を簡単に構成できる。
【0016】
第4発明は、フェールセーフバルブの係合ポートに、フェール時係合油としてライン圧に調圧された作動油が供給される場合で、そのライン圧に基づいて断接装置が適切に接続状態とされる。
【0017】
第5発明は、複数の変速用係合装置のそれぞれに対応して複数の電磁弁が設けられており、その電磁弁に通電されることにより変速用係合装置がそれぞれ係合させられ、電磁弁に対する通電が停止されることにより変速用係合装置がそれぞれ解放される場合で、電源OFF失陥による異常発生時には複数の変速用係合装置が総て解放されて自動変速機が動力伝達遮断状態になる。これにより、エンジンにより第1回転機を回転駆動して発電して第2回転機を作動させるシリーズ型ハイブリッドの駆動方式により適切に退避走行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施例であるハイブリッド車両の駆動装置の概略構成図で、制御機能の要部を併せて示した図である。
【
図2】
図1の駆動装置に備えられたAT変速部の一例を説明する骨子図である。
【
図3】
図2のAT変速部の複数のギヤ段と変速用係合装置の作動状態との関係を説明する係合作動表である。
【
図4】
図2のAT変速部の変速制御、および断接装置K0の係合解放制御に関与する油圧制御回路の一例を説明する油圧回路図である。
【
図5】
図4のリニアソレノイドバルブSLKの一例を具体的に説明する断面図である。
【
図6】
図4のリニアソレノイドバルブSLKおよびフェール判定用電磁弁SCFの出力油圧特性の一例を示した図である。
【
図7】
図1の駆動装置においてTCUの失陥時における各部の作動を説明するフローチャートである。
【
図8】本発明の他の実施例を説明する図で、1M-HVユニットの別の例を説明する概略構成図である。
【
図9】TCU失陥時に断接装置K0を係合させるフェール時接続回路の別の例を説明する油圧回路図である。
【
図10】TCU失陥時に断接装置K0を係合させるフェール時接続回路の更に別の例を説明する油圧回路図である。
【
図11】本発明の更に別の実施例を説明する図で、HV-ECUの機能ブロック線図である。
【
図12】TCU失陥時に断接装置K0を係合させるフェール時接続回路の更に別の例を説明する油圧回路図で、
図4に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
走行用駆動力源として用いられるエンジンは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の燃料の燃焼で動力を発生する内燃機関である。第1回転機は、走行用駆動力源および発電機として選択的に用いられるモータジェネレータである。第2回転機は、少なくとも走行用駆動力源として用いられるもので、電動モータでも良いし、電動モータおよび発電機として選択的に用いることができるモータジェネレータでも良い。電気駆動ユニットは、例えば単一の第2回転機の出力をディファレンシャル装置により左右に分配して左右の車輪を回転駆動するものでも良いが、左右の車輪を別々に駆動するように一対の第2回転機を備えて構成しても良い。複数の油圧式の変速用係合装置を備える自動変速機は、例えば遊星歯車式や常時噛合型平行2軸式等の有段変速機である。この自動変速機は、第1回転機と駆動輪との間の動力伝達経路に配設される。変速用係合装置は、例えば摩擦係合式のクラッチやブレーキ、或いは噛合い式クラッチなどである。油圧式の断接装置も、例えば摩擦係合式のクラッチやブレーキ、或いは噛合い式クラッチなどである。第1回転機と自動変速機との間には、必要に応じて発進用クラッチを設けることも可能で、この発進用クラッチが解放されることにより自動変速機を介した動力伝達が遮断されるようになっていても良い。
【0020】
変速用係合装置および断接装置の係合解放状態を制御する電磁弁としては、出力油圧を連続的に変化させることができるリニアソレノイドバルブが好適に用いられるが、オンオフソレノイドバルブを採用することもできる。電磁弁から出力された作動油が変速用係合装置や断接装置に直接供給されて、それ等の変速用係合装置や断接装置が係合させられるようになっていても良いが、電磁弁から出力された作動油によってコントロールバルブ等の切替弁が切替制御されることにより、変速用係合装置や断接装置に係合用の作動油が供給されるようになっていても良いなど、種々の態様が可能である。電磁弁は、通電されることにより作動油を出力する一方、通電が停止されることにより作動油の出力を停止するノーマリクローズ型でも良いし、通電されることにより作動油の出力を停止する一方、通電が停止されることにより作動油を出力するノーマリオープン型でも良く、油圧回路に応じて適宜採用される。
【0021】
自動変速機の変速制御が不能となる異常は、例えば目標ギヤ段の理論変速比と実際の変速比とのずれや、入力回転速度の吹き、油圧式係合装置の両側の回転速度差、などに基づいて検出することができる。変速制御が不能となる異常は、例えば油圧制御回路の電磁弁に対する総ての通電が遮断される電源OFF失陥で、コネクタ外れや断線などによって発生するが、断線等により一部の電磁弁に対する通電が遮断される場合や、バルブスティック等により機械的に電磁弁が作動不良となる場合など、種々の可能性がある。すなわち、変速制御が不能となる異常は、必ずしも総ての変速制御が不能となる場合だけでなく、一部の変速制御が不能となる場合であっても良い。電源OFF失陥の場合に、その電源OFF失陥に伴って断接装置が係合させられるとともに自動変速機の複数の変速用係合装置が解放されて動力伝達遮断状態になるように、油圧制御回路を構成することが望ましい。一部の電磁弁に対する通電が遮断されたりバルブスティック等により機械的に電磁弁が作動不良になったりして変速制御が不能になった場合に、電気制御によって断接装置を係合させるとともに自動変速機を介した動力伝達が遮断されるように油圧回路を切り替えるフェール時切替制御を行なうこともできる。例えば、電源OFF失陥に伴って断接装置が係合させられるとともに自動変速機を介した動力伝達が遮断されるように油圧回路が構成されている場合には、一部の電磁弁に対する通電が遮断されるなどした異常発生時に強制的に総ての電磁弁に対する通電が遮断される電源OFFにする電源OFF制御部を設けるようにしても良い。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0023】
図1は、本発明が適用されたハイブリッド車両の駆動装置10(以下、単に駆動装置10という)を説明する概略構成図であると共に、駆動装置10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。
図1において、駆動装置10は、左右の前輪12を回転駆動する1M-HV(1モータハイブリッド)ユニット14と、左右の後輪16を回転駆動するe-Axleユニット18と、を備えている4輪駆動型の駆動装置である。1M-HVユニット14は、複数の油圧式の変速用係合装置CBの係合解放状態によって複数のギヤ段を成立させることができるAT変速部20と、そのAT変速部20の上流側に設けられた第1回転機MG1と、その第1回転機MG1の上流側に油圧式の断接装置K0を介して切り離し可能に連結されたエンジン22とを備えており、エンジン22および第1回転機MG1が走行用駆動力源として用いられる。そして、エンジン22および第1回転機MG1の少なくとも一方からAT変速部20へ伝達された駆動力は、ディファレンシャル装置24によって左右のドライブシャフト26に分配され、そのドライブシャフト26から左右の前輪12に伝達される。1M-HVユニット14は、前後輪の一方を駆動するハイブリッド駆動ユニットに相当する。
【0024】
エンジン22は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関で、HV-ECU(Electronic Control Unit:電子制御装置)70から出力されるエンジン制御指令信号Se に従ってエンジントルク等の作動状態が制御される。HV-ECU70は12Vバッテリー94に接続されており、その12Vバッテリー94から作動に必要な電力が供給される。第1回転機MG1は、電動モータおよび発電機として選択的に用いることができるモータジェネレータで、PCU(Power Control Unit) 82およびDC-DCコンバータ84を介して高電圧バッテリー86に接続されており、HV-ECU70から出力されるMG1制御指令信号Smg1に従ってPCU82が制御されることにより、電動モータ或いは発電機として機能させられるとともにトルクが制御される。断接装置K0は、単板式或いは多板式の摩擦クラッチで、バルブボデー28から供給される作動油によって係合解放制御される。バルブボデー28には、断接装置K0の係合解放制御用やAT変速部20の変速制御用すなわち前記複数の変速用係合装置CBの係合解放制御ために複数の電磁弁29が設けられているとともに、それ等の電磁弁29はTCU(Transmission Control Unit)92を介して12Vバッテリー94に接続されており、HV-ECU70から出力される油圧制御指令信号Satに従ってTCU92が制御されることにより、断接装置K0や複数の変速用係合装置CBがそれぞれ係合解放制御される。複数の変速用係合装置CBが係合解放制御されることにより、AT変速部20のギヤ段が切り替えられる。
【0025】
AT変速部20は、遊星歯車式や常時噛合型平行2軸式等の有段の自動変速機である。
図2は、遊星歯車式のAT変速部20の一例を説明する骨子図である。AT変速部20は、その軸心に対して略対称的に構成されているため、
図2の骨子図においては下側半分が省略されている。AT変速部20は、第1回転機MG1に連結された入力軸30と、減速歯車機構32(
図1参照)を介してディファレンシャル装置24に出力する出力歯車34とを備えている。AT変速部20は、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置40を主体として構成されている第1変速部42と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置44およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置46を主体として構成されている第2変速部48と、を共通の軸心上に備えており、入力軸30の回転を変速して出力歯車34から出力する。第2遊星歯車装置44および第3遊星歯車装置46は、両者のキャリアおよびリングギヤがそれぞれ共通の部材にて構成されているとともに、第2遊星歯車装置44のピニオンギヤが第3遊星歯車装置46の第2ピニオンギヤ(外側のピニオンギヤ)を兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
【0026】
AT変速部20は、油圧式摩擦係合装置として4つのクラッチC1~C4、および2つのブレーキB1、B2を備えており、バルブボデー28から供給される作動油によって個別に係合解放制御される。ブレーキB1、B2は、回転要素をトランスアクスルケース36に固定して回転停止させる。これ等のクラッチC1~C4、およびブレーキB1、B2は前記変速用係合装置CBに相当するもので、特に区別しない場合は変速用係合装置CBという。
図3の係合作動表に示されるように、変速用係合装置CBの何れか2つが係合させられることにより、第1速ギヤ段「1st」~第8速ギヤ段「8th」の前進8段と、第1速後進ギヤ段「Rev1」および第2速後進ギヤ段「Rev2」の後進2段が成立させられ、変速用係合装置CBが総て解放されることによって動力伝達を遮断するニュートラルNになる。第1速ギヤ段「1st」は、変速比γ(=入力軸30の回転速度/出力歯車34の回転速度)が最も大きいロー側のギヤ段で、第8速ギヤ段「8th」は、変速比γが最も小さいハイ側のギヤ段である。
図3から明らかなように、本実施例のAT変速部20は、第2速ギヤ段「2nd」と第3速ギヤ段「3rd」との間など連続する前進ギヤ段の間で変速する場合、何れか1つの変速用係合装置CBを解放するとともに他の一つの変速用係合装置CBを係合させるクラッチツウクラッチ変速が実行される。変速用係合装置CBは、例えば互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキ等により構成される。
【0027】
図4は、上記AT変速部20の複数の変速用係合装置CB(クラッチC1~C4、ブレーキB1、B2)および断接装置K0を係合解放制御するためのリニアソレノイドバルブSL1~SL6、SLKを含む油圧制御回路100の一例を示した油圧回路図である。油圧制御回路100は、前記バルブボデー28等を含んで構成されており、リニアソレノイドバルブSL1~SL6、SLKは前記電磁弁29の具体例である。
【0028】
油圧制御回路100は、エンジン22によって回転駆動される機械式オイルポンプ102、およびエンジン非作動時にポンプ用電動機によって回転駆動される電動式オイルポンプ(EOP)104を、油圧源として備えている。電動式オイルポンプ104は、HV-ECU70から出力される油圧制御指令信号SatのEOP作動指令に従って作動させられる。これ等のオイルポンプ102、104によってオイルパン等の油貯留部105から汲み上げられた作動油は、逆止弁106、108を介してライン圧油路110に供給され、プライマリレギュレータバルブ等のライン圧コントロールバルブ112により所定のライン圧PLに調圧される。ライン圧コントロールバルブ112にはリニアソレノイドバルブSLTが接続されており、そのリニアソレノイドバルブSLTは、HV-ECU70から出力される油圧制御指令信号Satに従ってTCU92を介して電気的に制御されることにより、略一定圧であるモジュレータ油圧Pmoを元圧として信号圧Pslt を出力する。そして、その信号圧Pslt がライン圧コントロールバルブ112に供給されると、ライン圧コントロールバルブ112のスプールが信号圧Pslt によって付勢されて軸方向へ移動させられ、ドレーン流量が変化させられることにより、その信号圧Pslt に応じてライン圧PLが調圧される。ライン圧PLは、例えばアクセル開度θacc 等の駆動力要求量に応じて調圧される。
【0029】
上記リニアソレノイドバルブSLTはノーマリオープン(N/O)型で、コネクタ外れ等による電源OFF失陥を含む非通電時には、信号圧Pslt としてモジュレータ油圧Pmoが略そのまま出力され、ライン圧コントロールバルブ112から高圧のライン圧PLが出力される。また、異物噛み込み等によりリニアソレノイドバルブSLTのスプールが動かなくなるバルブスティックにより、例えば信号圧Pslt が最低圧に維持される異常(オンフェール)が発生した場合には、ライン圧コントロールバルブ112のスプールが
図4における下降端付近に保持される状態となり、ライン圧PLとして所定の最低ライン圧PLmin が出力される。
【0030】
ライン圧PLに調圧された作動油は、ライン圧油路110を介して変速制御用のリニアソレノイドバルブSL1~SL6、および断接装置K0の係合解放制御用のリニアソレノイドバルブSLK等に供給される。リニアソレノイドバルブSL1~SL6は、前記クラッチC1~C4、ブレーキB1、B2の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)に対応して設けられており、HV-ECU70から出力される油圧制御指令信号Satに従ってTCU92を介してそれぞれ出力油圧(係合油圧)が制御されるとともに、出力された作動油がクラッチC1~C4、ブレーキB1、B2に直接供給されて個別に係合解放制御される。
図4では、クラッチC2~C4、およびブレーキB1に関する油圧回路が省略されているが、クラッチC1、ブレーキB2と同様に構成されている。リニアソレノイドバルブSLKは、断接装置K0の油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)に対応して設けられており、HV-ECU70から出力される油圧制御指令信号Satに従ってTCU92を介して出力油圧(係合油圧)が制御されるとともに、出力された作動油が断接装置K0に直接供給されて係合解放制御される。リニアソレノイドバルブSL1~SL6、およびSLKは何れもノーマリクローズ(N/C)型で、通電時には所定の油圧の作動油を出力してクラッチC1~C4、ブレーキB1、B2、および断接装置K0をそれぞれ係合させるが、コネクタ外れ等による電源OFF失陥を含む非通電時には作動油の出力が停止し、クラッチC1~C4、ブレーキB1、B2、および断接装置K0が何れも解放される。この場合、AT変速部20は動力伝達が遮断されるニュートラルNになる。
【0031】
図5は、リニアソレノイドバルブSLKの一例を具体的に説明する断面図である。リニアソレノイドバルブSLKは、通電することにより電気エネルギーを駆動力に変換する装置であるソレノイド部314と、そのソレノイド部314の駆動により入力圧であるライン圧PLを調圧して所定の出力油圧Pout を発生させる調圧部316とから構成されており、調圧部316には、ライン圧油路110が接続される入力ポート336、断接装置K0の作動油を排出するための排出用油路337が接続されるドレーンポート338、および断接装置K0の油圧アクチュエータに接続される出力ポート340が設けられている。ソレノイド部314は、円筒状の巻芯318と、その巻芯318の外周側に巻回されたコイル320と、巻芯318の内部に軸方向に移動可能に設けられたコア322と、そのコア322における上記調圧部316と反対側の端部に固設されたプランジャ324と、それ等の巻芯318、コイル320、コア322、およびプランジャ324を格納するためのケース326と、そのケース326の開口に嵌め着けられたカバー328とから成る。上記調圧部316は、ケース326に嵌め着けられたスリーブ330と、そのスリーブ330の内部を軸方向に移動可能に設けられたスプール332と、そのスプール332をソレノイド部314に向けて付勢するスプリング334とから成り、そのスプール332におけるソレノイド部314側の端部は、上記コア322における調圧部316側の端部に当接させられている。
【0032】
以上のように構成されたリニアソレノイドバルブSLKにおいては、上記コイル320に駆動電流Idrが通電されると、その電流値に応じてプランジャ324がコア322およびスプール332に共通の軸方向の一方(図の下方側)へ移動させられ、それに従ってコア322、更にはスプール332が同方向へ移動させられる。これにより、入力ポート336から入力される作動油の流量およびドレーンポート338から排出される作動油の流量が調節され、例えば
図6に実線で示す出力油圧特性に従って、入力ポート336から入力されたライン圧PLが駆動電流Idrに応じて所定の出力油圧Pout に調圧されて出力ポート340から出力される。スプール332の右側半分は、この調圧時の状態である。一方、コネクタ外れ等による電源OFF失陥を含む非通電時には、スプール332が
図5の左側に示すようにスプリング334の付勢力に従ってソレノイド部314側(図の上方側)のドレーン位置へ移動させられ、入力ポート336と出力ポート340との連通が遮断されるとともに、ドレーンポート338と出力ポート340とが連通させられる。これにより、断接装置K0内の作動油が出力ポート340からドレーンポート338へ流通させられ、断接装置K0が解放される。変速制御用のリニアソレノイドバルブSL1~SL6も、実質的にリニアソレノイドバルブSLKと同様に構成されている。
【0033】
図4に戻って、油圧制御回路100にはまた、TCU92による電磁弁29の制御が不能となりAT変速部20の変速制御が不能となるTCU失陥時、具体的には例えばコネクタ外れや断線等による電源OFF失陥時等に、前記断接装置K0を係合させるためのフェール時接続回路120が設けられている。フェール時接続回路120は、フェール判定用電磁弁SCFおよびフェールセーフバルブ130を備えている。フェール判定用電磁弁SCFは、ノーマリオープン(N/O)型のオンオフソレノイドバルブで、通常は励磁電流が供給されることによりモジュレータ油圧Pmoの出力を停止する閉状態とされるが、コネクタ外れ等による電源OFF失陥を含む非通電時には、モジュレータ油圧Pmoの作動油がフェール判定油Ofjとして出力ポート122から出力される。
図6の破線は、このフェール判定用電磁弁SCFの出力油圧特性の一例である。
【0034】
フェールセーフバルブ130は、フェール判定用電磁弁SCFからフェール判定油Ofjが供給される切替ポート132、前記断接装置K0を解放する排出用油路337が接続される連結ポート134、排出用油路337から連結ポート134に供給された作動油をドレーンするドレーンポート136、および断接装置K0を係合させることが可能なフェール時係合油Ofcが供給される係合ポート138を備えている。フェール時係合油Ofcとして、本実施例ではフェール判定用電磁弁SCFからフェール判定油Ofjが係合ポート138に供給されるようになっている。このフェールセーフバルブ130は、軸方向(
図4の上下方向)へ移動可能なスプール140を備えており、そのスプール140が軸方向へ移動させられることにより、連結ポート134とドレーンポート136とを連通させるとともに連結ポート134と係合ポート138とを遮断して排出用油路337から連結ポート134に供給された作動油をドレーンポート136からドレーンさせる正常時接続状態と、連結ポート134と係合ポート138とを連通させるとともに連結ポート134とドレーンポート136とを遮断してフェール時係合油Ofcを排出用油路337に出力するフェール時接続状態と、の2つの状態に切替可能とされている。フェールセーフバルブ130のスプール140の左側半分は正常時接続状態を示した図で、右側半分はフェール時接続状態を示した図である。
【0035】
フェールセーフバルブ130のスプール140は、常にはスプリング142の付勢力に従って図の上方側である正常側位置に保持されるようになっており、図の左側半分に示す正常時接続状態とされる。一方、切替ポート132にフェール判定用電磁弁SCFからフェール判定油Ofjが供給されると、スプリング142の付勢力に抗してスプール140が図の下方側であるフェール側位置へ移動させられ、フェール時接続状態に切り替えられる。すなわち、TCU92から油圧制御回路100の各電磁弁29に駆動電流が適切に供給される正常時には、フェール判定用電磁弁SCFが閉状態でフェールセーフバルブ130が正常時接続状態に保持され、リニアソレノイドバルブSLKからの作動油のドレーンが許容されることにより、リニアソレノイドバルブSLKによる断接装置K0の係合解放制御が許容される。一方、TCU92から油圧制御回路100の各電磁弁29に出力される駆動電流が総て遮断される電源OFF失陥等のTCU失陥時には、フェール判定用電磁弁SCFからフェール判定油Ofjが出力されてフェールセーフバルブ130がフェール時接続状態に切り替えられる。これにより、リニアソレノイドバルブSLKのスプール332が電源OFF失陥によりドレーン位置とされ、断接装置K0の油圧アクチュエータが排出用油路337に接続された状態でも、フェールセーフバルブ130から排出用油路337にフェール時係合油Ofcが供給されることにより、リニアソレノイドバルブSLKを介して断接装置K0の油圧アクチュエータにフェール時係合油Ofcが供給され、断接装置K0が係合させられる。
【0036】
図1に戻って、前記e-Axleユニット18は第2回転機MG2を備えており、その第2回転機MG2が走行用駆動力源として用いられて左右の後輪16を回転駆動する。第2回転機MG2は、電動モータおよび発電機として選択的に用いることができるモータジェネレータで、PCU96およびDC-DCコンバータ84を介して高電圧バッテリー86に接続されており、HV-ECU70から出力されるMG2制御指令信号Smg2に従ってPCU96が制御されることにより、電動モータ或いは発電機として機能させられる。e-Axleユニット18は、例えば第2回転機MG2から出力された駆動力を、図示しないディファレンシャル装置により左右のドライブシャフト50に分配して左右の後輪16を回転駆動する。このe-Axleユニット18は、前後輪の他方を駆動する電気駆動ユニットに相当する。
【0037】
HV-ECU70は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより駆動装置10の各種制御を実行する。例えばエンジン22および回転機MG1、MG2の出力制御や、AT変速部20の変速制御、断接装置K0の係合解放制御(接続遮断制御)等を行なうもので、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等に分けて構成される。そして、例えば1M-HVユニット14のみを用いて前輪12だけで走行する2輪走行モード、1M-HVユニット14およびe-Axleユニット18の両方を用いて前輪12および後輪16で走行する4輪走行モード、1M-HVユニット14のエンジン22のみを用いて前輪12だけで走行するエンジン走行モード、1M-HVユニット14の第1回転機MG1のみを用いて前輪12だけで走行するEV走行モード、などの種々の走行モードが可能で、走行条件や運転者の選択操作等に応じて走行モードを切り替えて走行することができる。エンジン22や回転機MG1、MG2の出力制御は、基本的にはアクセル開度θacc 等の駆動力要求量に応じて行なわれる。また、AT変速部20の変速制御では、例えばアクセル開度θacc 等の駆動力要求量および車速V等をパラメータとして定められた変速マップ、或いは運転者のマニュアル変速操作等に従って目標ギヤ段を求め、その目標ギヤ段となるように油圧制御指令信号Satを出力してAT変速部20のギヤ段を切り替える。
【0038】
HV-ECU70は、更に異常検出部72およびシリーズHVモード移行制御部74を機能的に備えている。異常検出部72は、AT変速部20の変速制御が不能となる異常すなわちTCU失陥が発生したか否かを検出するもので、例えばAT変速部20の目標ギヤ段の理論変速比γ0と実際の変速比γとのずれに基づいて判断することができる。TCU失陥は、例えばコネクタ外れや断線などによって油圧制御回路100の複数の電磁弁29(例えばリニアソレノイドバルブSL1~SL6、SLKなど)に対する総ての通電が遮断される電源OFF失陥である。その場合、AT変速部20の総ての変速用係合装置CB(例えばクラッチC1~C4、およびブレーキB1、B2)が解放されて、AT変速部20は動力伝達遮断状態になる一方、断接装置K0は、フェール時接続回路120によって排出用油路337にフェール時係合油Ofcが供給されることにより接続状態とされる。すなわち、エンジン22および第1回転機MG1は断接装置K0を介して連結される一方、変速制御が不能なAT変速部20は動力伝達遮断状態となって前輪12に対する動力伝達が遮断される。
【0039】
一方、シリーズHVモード移行制御部74は、上記異常検出部72によってTCU失陥が検出された場合に、エンジン22を作動させて第1回転機MG1を回転駆動するとともに、その第1回転機MG1を回生制御することにより発電し、発電した電気を用いてe-Axleユニット18の第2回転機MG2を作動させるシリーズHVモードへ移行する。これにより、変速制御が不能となるTCU失陥の発生時においても、アクセル開度θacc 等の駆動力要求量に応じて、シリーズ型ハイブリッドの駆動方式で第2回転機MG2を作動させ、後輪16を回転駆動して退避走行を行なうことができる。
【0040】
図7は、TCU失陥が発生した場合の駆動装置10の各部の作動状態を説明するフローチャートで、TCU失陥として電源OFF失陥が発生すると、フェールセーフバルブ130がフェール時接続状態に切り替えられることにより断接装置K0が強制的に係合させられる一方、AT変速部20の変速用係合装置CBが総て解放されてAT変速部20が動力伝達遮断状態になる。また、そのTCU失陥が異常検出部72によって検出されると、シリーズHVモード移行制御部74によって駆動装置10はシリーズHVモードへ移行させられる。シリーズHVモードでは、エンジン22により第1回転機MG1を回転駆動して発電し、その発電した電気でe-Axleユニット18の第2回転機MG2を作動させることにより、アクセル開度θacc 等の駆動力要求量に応じて後輪16を回転駆動して退避走行することができる。
【0041】
このように本実施例の駆動装置10においては、AT変速部20の変速制御が不能となるTCU失陥が発生した際に、断接装置K0が係合させられるとともにAT変速部20を介した動力伝達が遮断された状態でシリーズHVモードに移行し、エンジン22により第1回転機MG1を回転駆動して発電し、その発電した電気を用いてe-Axleユニット18の第2回転機MG2を作動させて走行する。このようにシリーズHVモードで退避走行が行なわれることにより、従来装置のようにAT変速部20を所定のフェールセーフギヤ段として退避走行する場合に比較して、発進性能や登坂性能、最高車速等の走行性能が全体として向上する。
【0042】
また、油圧制御回路100は、電源OFF失陥に伴ってフェール判定油Ofjの出力状態が切り替わるフェール判定用電磁弁SCFとフェールセーフバルブ130とを有するフェール時接続回路120を備えており、電源OFF失陥に伴ってフェール判定油Ofjの出力状態が切り替わると、フェールセーフバルブ130は連結ポート134と係合ポート138とを連通させてフェール時係合油Ofcを排出用油路337に出力するフェール時接続状態に切り替えられ、フェール時係合油Ofcによって断接装置K0が係合させられる。すなわち、複数の電磁弁29に対する総ての通電が遮断される電源OFF失陥により変速制御が不能となるTCU失陥時には、その電源OFF失陥に伴って断接装置K0が自動的に接続状態とされるため、特別な制御を必要とすることなくエンジン22により断接装置K0を介して第1回転機MG1を回転駆動して発電することが可能であり、シリーズHVモードにより適切に退避走行することができる。
【0043】
また、フェール判定用電磁弁SCFはノーマリオープン型の電磁弁で、電源OFF失陥に伴ってフェール判定油Ofjが出力されることによりフェールセーフバルブ130がフェール時接続状態に切り替えられるため、電源OFF失陥に伴って断接装置K0が適切に接続状態とされる。また、フェールセーフバルブ130の係合ポート138には、フェール時係合油Ofcとしてフェール判定油Ofjが供給されるため、油圧制御回路100のフェール時接続回路120が簡単に構成される。
【0044】
また、複数の変速用係合装置CB(例えばクラッチC1~C4、およびブレーキB1、B2)のそれぞれに対応して複数の電磁弁29(例えばリニアソレノイドバルブSL1~SL6)が設けられており、その電磁弁29に通電されることにより変速用係合装置CBがそれぞれ係合させられ、電磁弁29に対する通電が停止されることにより変速用係合装置CBがそれぞれ解放される。このため、電源OFF失陥によるTCU失陥の発生時には、複数の変速用係合装置CBが総て解放されてAT変速部20が動力伝達遮断状態になり、エンジン22により第1回転機MG1を回転駆動して発電して第2回転機MG2を作動させるシリーズHVモードにより適切に退避走行することができる。
【0045】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0046】
図8の1M-HVユニット150は、前記実施例に比較して第1回転機MG1とAT変速部20との間に発進用クラッチCSが設けられている点が相違する。この場合も、電源OFF失陥によるTCU失陥時には、断接装置K0が係合させられるとともにAT変速部20を介した動力伝達が遮断された状態でシリーズHVモードに移行して退避走行することが可能で、前記実施例と同様の作用効果が得られる。なお、この実施例では発進用クラッチCSの解放によりAT変速部20を介した動力伝達が遮断されるようにすることが可能で、必ずしもAT変速部20が動力伝達遮断状態とされる必要はない。すなわち、変速制御が不能となる異常であるTCU失陥時に、発進用クラッチCSが解放されるようにしても良い。
【0047】
図9のフェール時接続回路200は、電源OFF失陥時に断接装置K0を係合させるために前記フェール時接続回路120の代わりに設けられるもので、フェール判定用電磁弁SCFおよびフェールセーフバルブ202を備えている。この実施例のフェール判定用電磁弁SCFは、ノーマリクローズ(N/C)型のオンオフソレノイドバルブで、通常は励磁電流が供給されることにより開状態とされ、モジュレータ油圧Pmoの作動油がフェール判定油Ofjとして出力ポート204から出力されるが、コネクタ外れ等による電源OFF失陥を含む非通電時にはフェール判定油Ofjの出力が停止する。フェールセーフバルブ202は、フェール判定用電磁弁SCFからフェール判定油Ofjが供給される切替ポート206、前記排出用油路337が接続される連結ポート208、排出用油路337から連結ポート208に供給された作動油をドレーンするドレーンポート210、および断接装置K0を係合させることが可能なフェール時係合油Ofcが供給される係合ポート212を備えている。本実施例では係合ポート212に前記ライン圧油路110が接続され、フェール時係合油Ofcとしてライン圧PLの作動油が係合ポート212に供給されるようになっている。このフェールセーフバルブ202は、図示しないスプールが軸方向へ移動させられることにより、連結ポート208とドレーンポート210とを連通させるとともに連結ポート208と係合ポート212とを遮断して排出用油路337から連結ポート208に供給された作動油をドレーンポート210からドレーンさせる正常時接続状態と、連結ポート208と係合ポート212とを連通させるとともに連結ポート208とドレーンポート210とを遮断してフェール時係合油Ofcを排出用油路337に出力するフェール時接続状態と、の2つの状態に切替可能とされている。フェールセーフバルブ202の下側は正常時接続状態を示した図で、上側はフェール時接続状態を示した図である。
【0048】
フェールセーフバルブ202は、スプリング214の付勢力に従ってスプールが移動させられることにより、図の上側のフェール時接続状態とされるようになっており、正常時には切替ポート206にフェール判定用電磁弁SCFからフェール判定油Ofjが供給され、スプリング214の付勢力に抗してスプールが逆方向へ移動させられることにより、図の下側の正常時接続状態とされる。すなわち、TCU92から油圧制御回路100の各電磁弁29に駆動電流が適切に供給される正常時には、フェール判定用電磁弁SCFからフェール判定油Ofjが出力されてフェールセーフバルブ202が正常時接続状態に保持され、リニアソレノイドバルブSLKによる断接装置K0の係合解放制御が許容される。一方、TCU92から油圧制御回路100の各電磁弁29に出力される駆動電流が総て遮断される電源OFF失陥時には、フェール判定用電磁弁SCFからのフェール判定油Ofjの出力が停止し、フェールセーフバルブ202がフェール時接続状態に切り替えられる。これにより、リニアソレノイドバルブSLKのスプール332が電源OFF失陥によりドレーン位置とされ、断接装置K0の油圧アクチュエータが排出用油路337に接続された状態でも、フェールセーフバルブ202から排出用油路337にフェール時係合油Ofcが出力されることにより、リニアソレノイドバルブSLKを介して断接装置K0の油圧アクチュエータにフェール時係合油Ofcが供給され、断接装置K0が係合させられる。
【0049】
本実施例においても、電源OFF失陥により変速制御が不能となるTCU失陥時には、その電源OFF失陥に伴って断接装置K0が自動的に接続状態とされるため、特別な制御を必要とすることなくエンジン22により断接装置K0を介して第1回転機MG1を回転駆動して発電することが可能であり、シリーズHVモードにより適切に退避走行することができる。
【0050】
図10のフェール時接続回路220は、上記
図9に比較してフェール判定用電磁弁SCFを省略し、ソレノイド224を有する2位置切替電磁弁222を用いて電源OFF失陥時に断接装置K0を係合させるようになっている。2位置切替電磁弁222は、実質的に前記フェールセーフバルブ202をソレノイド224によって切り替えるようにしたもので、TCU92から油圧制御回路100の各電磁弁29に駆動電流が適切に供給される正常時には、ソレノイド224により2位置切替電磁弁222が正常時接続状態に保持され、リニアソレノイドバルブSLKによる断接装置K0の係合解放制御が許容される。一方、TCU92から油圧制御回路100の各電磁弁29に出力される駆動電流が総て遮断される電源OFF失陥時には、ソレノイド224が非励磁となって2位置切替電磁弁222はスプリング214によりフェール時接続状態に切り替えられ、排出用油路337にフェール時係合油Ofcが出力されることにより断接装置K0が係合させられる。したがって、本実施例においても
図9の実施例と同様の作用効果が得られる。2位置切替電磁弁222は、
図9のフェール判定用電磁弁SCFおよびフェールセーフバルブ202の機能を兼ね備えたものと見做すことができる。
【0051】
図11のHV-ECU230は、前記実施例のHV-ECU70に比較して電源OFF制御部232を機能的に備えている点が相違する。すなわち、変速制御が不能となる異常であるTCU失陥は、油圧制御回路100の総ての電磁弁29に対する通電が遮断される電源OFF失陥の他に、断線等により電磁弁29の一部に対する通電が遮断されたりバルブスティック等により機械的に電磁弁29が作動不良になったりする場合もある。その場合には、変速制御が不能となるTCU失陥時であっても、一部の電磁弁29に通電されることにより断接装置K0が解放されたりAT変速部20が所定のギヤ段になったりして、シリーズHVモードへ適切に移行できない可能性がある。このため、異常検出部72によりTCU失陥が検出された場合には、電源OFF制御部232によって強制的に総ての電磁弁29に対する通電を遮断することにより、フェール時接続回路120、200、220によって断接装置K0が係合させられるとともに、変速用係合装置CBや発進用クラッチCSが解放されてAT変速部20を介した動力伝達が遮断されるようにするフェール時切替制御を行なう。これにより、シリーズHVモード移行制御部74により適切にシリーズHVモードへ移行して退避走行させることができるようになる。
【0052】
図12は、前記
図4の油圧制御回路100において、前記フェール時接続回路120の代わりにフェール時接続回路240が設けられている点が相違する。すなわち、このフェール時接続回路240は、フェール時接続回路120に比較して、前記フェールセーフバルブ130の係合ポート138に前記ライン圧油路110が接続され、フェール時係合油Ofcとしてライン圧PLに調圧された作動油が係合ポート138に供給される点が相違する。したがって、電源OFF失陥時にフェール判定用電磁弁SCFからフェール判定油Ofjが出力され、フェールセーフバルブ130がフェール時接続状態に切り替えられると、フェール時係合油Ofcとしてライン圧PLに調圧された作動油が排出用油路337からリニアソレノイドバルブSLKを介して断接装置K0の油圧アクチュエータに供給され、そのライン圧PLに基づいて断接装置K0が適切に接続状態とされる。
【0053】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0054】
10:ハイブリッド車両の駆動装置 12:前輪(前後輪の一方) 14、150:1M-HVユニット(ハイブリッド駆動ユニット) 16:後輪(前後輪の他方) 18:e-Axleユニット(電気駆動ユニット) 20:AT変速部(自動変速機) 22:エンジン 29:電磁弁 70、230:HV-ECU(ハイブリッド制御装置) 100:油圧制御回路 130、202:フェールセーフバルブ 132、206:切替ポート 134、208:連結ポート 136、210:ドレーンポート 138、212:係合ポート 140:スプール 142:スプリング 337:排出用油路 MG1:第1回転機 MG2:第2回転機 K0:断接装置 CB:変速用係合装置 C1~C4:クラッチ(変速用係合装置) B1、B2:ブレーキ(変速用係合装置) SL1~SL6、SLK:リニアソレノイドバルブ(電磁弁) SCF:フェール判定用電磁弁 Ofj:フェール判定油 Ofc:フェール時係合油 PL:ライン圧