(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】積層造形物の製造方法、積層造形物の製造システム、及び積層造形物の製造プログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20230905BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20230905BHJP
B23K 9/032 20060101ALI20230905BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20230905BHJP
B29C 64/106 20170101ALI20230905BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230905BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20230905BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20230905BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K31/00 K
B23K31/00 A
B23K9/032 Z
B29C64/393
B29C64/106
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
(21)【出願番号】P 2020184403
(22)【出願日】2020-11-04
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 碩
(72)【発明者】
【氏名】椋田 雄
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-084553(JP,A)
【文献】特開2020-168642(JP,A)
【文献】特表2000-500604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B23K 31/00
B23K 9/032
B29C 64/393
B29C 64/106
B33Y 10/00
B33Y 30/00
B33Y 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶加材を溶融させつつ繰り返し積層して積層造形物を製造する積層造形物の製造方法であって、
前記溶加材を溶融させた溶着ビードを繰り返し積層して積層造形物を形成する工程と、
前記積層造形物のうち積層方向に前記溶着ビードが連なった面の凹凸形状を計測して形状プロファイルを取得する工程と、
前記形状プロファイルから形状指標として所定高さの区間ごとに歪度または尖度の少なくともいずれかを計算する工程と、
前記形状指標を隣接する区間同士で比較し、比較した区間の形状指標の差異が予め決定した閾値を超えるか否かを判定する工程と、
前記閾値を超える区間に対して凹凸形状の平滑化処理を施す指示を出す工程と、
を備える積層造形物の製造方法。
【請求項2】
前記平滑化処理は前記溶着ビードの追加または前記溶着ビードの切削のいずれかである、請求項1に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項3】
前記溶着ビードの追加において、他の溶着ビードよりも溶着量または入熱量を低減させる、請求項2に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項4】
前記平滑化処理は、前記歪度および前記尖度がいずれも予め決定した閾値を超える区間のみにおいて行う、請求項1から3のいずれか1項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項5】
前記形状指標としてさらに前記区間ごとに表面粗さRzを計算し、前記平滑化処理は、前記表面粗さRzが予め決定した第二閾値を超える区間のみにおいて行う、請求項1から4のいずれか1項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項6】
溶加材を溶融させつつ繰り返し積層して積層造形物を製造する積層造形物の製造システムであって、
前記溶加材を溶融させた溶着ビードを繰り返し積層して積層造形物を形成するトーチと、
前記積層造形物のうち積層方向に前記溶着ビードが連なった面の凹凸形状を計測して形状プロファイルを取得する形状センサと、
前記形状プロファイルから形状指標として所定高さの区間ごとに歪度または尖度の少なくともいずれかを計算する形状指標演算部と、
前記形状指標を隣接する区間同士で比較し、比較した区間の形状指標の差異が予め決定した閾値を超えるか否かを判定する判定部と、
前記閾値を超える区間に対して凹凸形状の平滑化処理を施す指示を出す平滑化処理指示部と、
を備える積層造形物の製造システム。
【請求項7】
溶加材を溶融させつつ繰り返し積層して積層造形物を製造する積層造形物の製造プログラムであって、
前記溶加材を溶融させた溶着ビードを繰り返し積層して積層造形物を形成する工程と、
前記積層造形物のうち積層方向に前記溶着ビードが連なった面の凹凸形状を計測して形状プロファイルを取得する工程と、
前記形状プロファイルから形状指標として所定高さの区間ごとに歪度または尖度の少なくともいずれかを計算する工程と、
前記形状指標を隣接する区間同士で比較し、比較した区間の形状指標の差異が予め決定した閾値を超えるか否かを判定する工程と、
前記閾値を超える区間に対して凹凸形状の平滑化処理を施す指示を出す工程と、
をコンピュータに実行させる積層造形物の製造プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた積層体を含む積層造形物の製造方法、積層造形物の製造システム、及び積層造形物の製造プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、溶着ビードを並べた溶着ビード層を積層して高品質な積層造形物を形成することが可能な積層造形物の製造方法を開示している。本方法は、アークを用いて溶加材を溶融及び凝固させた複数の溶着ビードを隣接して並べた溶着ビード層が複数層に積層された積層造形物の製造方法であって、溶着ビード層となる溶着ビードを形成する溶着ビード造形工程と、溶着ビード層の溶着ビードを加熱して表面を再溶融させる再溶融工程と、を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
積層造形物の造形後に表面加工を行う際、凹凸が大きいと切削量が増えてしまい費用の上昇や生産性の悪化を招く可能性がある。したがって、造形においてはなるべく表面凹凸が低減されるように造形条件を調整することが好ましい。また、内部流路など切削自体がそもそも困難なケースにおいては、大きな凹凸は品質不良の原因となり得る。
【0005】
一方、凹凸形状を表面粗さRzの様な単純な高低差を表す指標のみにより、造形物表面の凹凸の程度を表し、その詳細を把握することは難しい。例えば表面粗さRzは最大高さと最低高さの差(最大山高さと最大谷深さの和)を表すが、その高低差から局所的な凹凸を示すのか、またはなだらかな形状変化なのかといった違いを区別することはできない。特に積層造形においては、繰り返し溶着ビードを積層する都合上、表面形状の周期性の中から、いびつで不規則な形状が生じた場合を、異常な状態として適切に抽出する必要がある。
【0006】
尚、特許文献1の様に、積層造形物表面の凹凸について、表面を再溶融させて凹凸形状の緩和を図る技術が知られている。しかし、この技術は、傾斜がない上面での適用を想定しており、側面や傾斜面では表面を再溶融させた際に溶着金属が垂れてしまい、凹凸形状が悪化してしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、積層造形物の凹凸形状を正確に把握し、平滑化処理を施して積層造形物を高精度に作成する技術に関する。
【0008】
本発明は、溶加材を溶融させつつ繰り返し積層して積層造形物を製造する積層造形物の製造方法であって、前記溶加材を溶融させた溶着ビードを繰り返し積層して積層造形物を形成する工程と、前記積層造形物のうち積層方向に前記溶着ビードが連なった面の凹凸形状を計測して形状プロファイルを取得する工程と、前記形状プロファイルから形状指標として所定高さの区間ごとに歪度または尖度の少なくともいずれかを計算する工程と、前記形状指標を隣接する区間同士で比較し、比較した区間の形状指標の差異が予め決定した閾値を超えるか否かを判定する工程と、前記閾値を超える区間に対して凹凸形状の平滑化処理を施す指示を出す工程と、を備える。
【0009】
本発明は、溶加材を溶融させつつ繰り返し積層して積層造形物を製造する積層造形物の製造システムであって、前記溶加材を溶融させた溶着ビードを繰り返し積層して積層造形物を形成するトーチと、前記積層造形物のうち積層方向に前記溶着ビードが連なった面の凹凸形状を計測して形状プロファイルを取得する形状センサと、前記形状プロファイルから形状指標として所定高さの区間ごとに歪度または尖度の少なくともいずれかを計算する形状指標演算部と、前記形状指標を隣接する区間同士で比較し、比較した区間の形状指標の差異が予め決定した閾値を超えるか否かを判定する判定部と、前記閾値を超える区間に対して凹凸形状の平滑化処理を施す指示を出す平滑化処理指示部と、を備える。
【0010】
本発明は、溶加材を溶融させつつ繰り返し積層して積層造形物を製造する積層造形物の製造プログラムであって、前記溶加材を溶融させた溶着ビードを繰り返し積層して積層造形物を形成する工程と、前記積層造形物のうち積層方向に前記溶着ビードが連なった面の凹凸形状を計測して形状プロファイルを取得する工程と、前記形状プロファイルから形状指標として所定高さの区間ごとに歪度または尖度の少なくともいずれかを計算する工程と、前記形状指標を隣接する区間同士で比較し、比較した区間の形状指標の差異が予め決定した閾値を超えるか否かを判定する工程と、前記閾値を超える区間に対して凹凸形状の平滑化処理を施す指示を出す工程と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、歪度や尖度を区間ごとに比較することにより、形状プロファイルからいびつな領域を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態の製造方法で積層造形物を製造する製造システムの模式的な概略構成図である。
【
図2】
図2は、形状センサについて説明する概略側面図である。
【
図3】
図3は、積層造形物の一例を示す積層造形物の概略断面図である。
【
図4】
図4は、歪度の値に応じたグラフの形状を示すイメージ図である。
【
図5】
図5は、尖度の値に応じたグラフの形状を示すイメージ図である。
【
図6】
図6は、歪度及び尖度を算出するイメージ図である。
【
図7】
図7は、入熱量が異なるそれぞれのサンプルについて、凹凸高さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の積層造形物の製造に用いる製造システムの構成図である。
本構成の積層造形物の製造システム100は、積層造形装置11と、積層造形装置11を統括制御するコントローラ13と、電源装置15と、を備える。
【0014】
積層造形装置11は、先端軸にトーチ17が設けられた溶接ロボット19と、トーチ17に溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部21とを有する。この溶接ロボット19の先端軸には、トーチ17とともに形状センサ23が設けられている。
【0015】
溶接ロボット19は、多関節ロボットであり、ロボットアームの先端軸に取り付けたトーチ17には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ17の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0016】
トーチ17は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物に応じて適宜選定される。
【0017】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ17は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部21からトーチ17に送給される。そして、トーチ17を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、ベースプレート51上に溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶着ビードBが形成され、この溶着ビードBからなる積層造形物Wが造形される。
【0018】
図2に示すように、形状センサ23は、トーチ17に並設されており、トーチ17とともに移動される。この形状センサ23は、溶着ビードBを形成する際の下地となる部分の形状を計測するセンサである。更に形状センサ23は、後述する積層造形物Wのうち積層方向に溶着ビードが連なった面の凹凸形状を計測して形状プロファイルを取得する。この形状センサ23としては、例えば、照射したレーザ光の反射光を高さデータとして取得するレーザセンサが用いられる。なお、形状センサ23としては、3次元形状計測用カメラを用いてもよい。
【0019】
図1に示すコントローラ13は、CAD/CAM部31と、軌道演算部33と、記憶部35と、形状指標演算部37と、判定部39と、平滑化処理指示部32と、これらが接続される制御部41と、を有する。コントローラ13は、CPU等の演算手段と、メモリ、ストレージ等の記憶手段と、各部を制御する信号を入出力するI/Oインターフェース等を備えるコンピュータ装置からなる。
【0020】
CAD/CAM部31は、作製しようとする積層造形物Wの形状データ(CADデータ等)を入力又は作成する。
【0021】
軌道演算部33は、3次元形状データの形状モデルを溶着ビードBの高さに応じた複数の溶着ビード層に分解する。そして、分解された形状モデルの各層について、溶着ビードBを形成するためのトーチ17の軌道、及び溶着ビードBを形成する加熱条件(ビード幅、ビード積層高さ等を得るための溶接条件等を含む)を定める積層計画を作成する。
【0022】
形状指標演算部37は、形状センサ23が取得した形状プロファイルから、形状指標として、積層造形物Wの所定高さの区間ごとに歪度または尖度を計算する。
【0023】
判定部39は、形状指標演算部37が計算した形状指標を隣接する区間同士で比較し、比較した区間の形状指標の差異が予め決定した閾値を超えるか否かを判定する。
【0024】
平滑化処理指示部32は、判定部39が形状指標の差異が閾値を超えると判定した区間に対して、凹凸形状の平滑化処理を施す指示を出す。
【0025】
制御部41は、記憶部35に記憶された駆動プログラムを実行して、溶接ロボット19や電源装置15等を駆動する。つまり、溶接ロボット19は、コントローラ13からの指令により、トーチ17を移動させるとともに、溶加材Mをアークで溶融させて、ベースプレート51上に溶着ビードBを形成する。
【0026】
なお、ベースプレート51は、鋼板等の金属板からなり、基本的には積層造形物Wの底面(最下層の面)より大きいものが使用される。このベースプレート51は、板状に限らず、ブロック体や棒状等、他の形状のベースであってもよい。
【0027】
溶加材Mとしては、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定されるワイヤを用いることができる。
【0028】
次に、本実施形態に係る製造方法によって造形する積層造形物の一例について説明する。
図3は、積層造形物Wの一例を示す積層造形物Wの概略断面図である。
図3に示すように、この積層造形物Wは、ベースプレート51上に溶着ビードB1を積層させて造形された枠部53を有している。さらに、この積層造形物Wは、枠部53の内部に溶着ビードB2から造形された内部造形部55を有している。この内部造形部55は、溶着ビードB2からなる溶着ビード層BLを積層させて構成されている。
【0029】
次に、積層造形物Wを造形する場合について説明する。
積層造形装置11のトーチ17を溶接ロボット19の駆動により移動させながら溶加材Mを溶融させる。そして、溶融した溶加材Mからなる溶着ビードB1をベースプレート51上に供給して積層させ、ベースプレート51上に積層させた溶着ビードB1からなる平面視略矩形状の枠部53を造形する。
【0030】
枠部53の内部に溶着ビードB2を形成する。そして、この溶着ビードB2を、枠部53内における幅方向に形成する。これにより、枠部53内に、並列に形成された複数の溶着ビードB2からなる溶着ビード層BLを形成する。そして、この溶着ビード層BLを枠部53の内部で積層させて内部造形部55を造形する。
【0031】
この製造方法によれば、枠部53の造形後に、この枠部53の内部に内部造形部55を造形するので、内部造形部55を大きな断面積の溶着ビードB2によって効率よく造形することができる。
【0032】
ところで、例えば枠部53の様に垂直方向に延びる壁造形のようなケースにおいて、ビ溶着ビードを積層していくと、枠部53の側面の溶加材Mが少しずつ下方に垂れる。この垂れによって側面の形状はうねりを有する形状を呈することになる。この垂れによって、上下方向に非対称な凹凸形状が形成される。
【0033】
このような垂れによるうねりが大きくなると、いびつで不規則な形状となるため、異常な状態として適切に抽出する必要がある。表面の凹凸形状を評価する指標としては、例えば表面粗さRzの様な指標が存在するが、この様な指標は表面の単純な高低差を表すのであって、この指標のみにより、表面が局所的な凹凸を示すのか、またはなだらかな形状変化を示すのか、といった違いを区別することはできない。
【0034】
発明者は上記事項に鑑み、適切な形状指標について鋭意検討した。検討の結果、発明者は表面凹凸の高さ分布から歪度または尖度という指標を用いることにより、表面形状の周期性の中から、いびつで不規則な形状を検出し得ることを見出した。歪度(スキューネス)は、ある形状がどちらか片方に偏るほど大きくなる値であり、以下の(1)式により算出することができる。尖度(クルシトス)は、基準形状からの凸または凹の度合いを表し、以下の(2)式により算出することができる。
図4は、歪度の値に応じたグラフの形状を示すイメージ図であり、
図5は、尖度の値に応じたグラフの形状を示すイメージ図である。式において、nはサンプルサイズ、xi(i=1,2,・・・,n)が各データであり、xの上線付きがxiの平均値、sは標準偏差である。
【0035】
【0036】
【0037】
歪度は分布の非対称性を示す指標である。
図4に示す通り、分布が正規分布に従うとき歪度は0となるが、分布が左に偏るとき歪度は正となり、分布が右に偏るとき歪度は負となる。例えば、垂直方向に延びる枠部53を歪度によって評価する場合、上下に非対称な形状であるほど歪度の絶対値(正または負)は大きくなるので、溶加材Mの垂れ具合を評価するには好適である。
【0038】
尖度は頻度分布の鋭さを表す指標である。
図5に示す通り、正規分布と比べて、尖度が大きければ鋭いピークと長く太い裾をもった分布であり、尖度が小さければより丸みがかったピークと短く細い尾をもつ分布である。歪度を計算することにより、表面に形成される凹凸のなだらかさやとがり具合を評価することができる。
【0039】
表面粗さ(RzやRa等)では歪度合いを評価することはできない。また表面粗さが見かけ上低い値であっても、余肉が小さいと見かけの数値よりも小さく見えてしまう可能性がある。
【0040】
上記検討を踏まえ、発明者は、所定のサンプルについて、表面の歪度、尖度を算出した。この算出にあたり、まず
図6に示す様に、各サンプルについて、形状センサ23を用いて、側面の位置に対応する座標につき、凹凸高さ(凹凸形状)がどれだけかを測定し(上のグラフ)、凹凸高さの発生頻度をカウントしてグラフ化し(下のグラフ)、歪度及び尖度を算出するとともに、表面粗さRzをも算出した。
図7は、実際のサンプルにおける凹凸高さ(凹凸形状)のグラフを示す。サンプル群は、トーチ17から溶加材(溶接ワイヤ)Mへの入熱量が異なる5種類のサンプル(358J/mm、455J/mm、474J/mm、714J/mm、1095J/mm)を含む。形状センサ23は、枠部53の側面の様に垂直方向に延びる面の高さ方向(横軸)に沿って、凹凸高さ(凹凸形状)を取得した(縦軸)。さらに、この凹凸高さが示す形状プロファイルに基づき、高さ方向に沿った2mmの区間ごとに歪度、尖度及び表面粗さRzを算出した。
図7では、高さ方向が-6mm~+6mmの領域に渡る凹凸高さを示している。同領域における算出結果を下記の表に示す。
【0041】
【0042】
積層造形においては、層状に繰り返し溶着ビードを溶着させるため、仕上がりの良い積層造形物は、側面に形成される凹凸が理想的に一定の周期的な形状を形成することが期待される。よって、所定の高さごとに区切って歪度や尖度を計算して区間同士で比較しても、その差は小さいことが期待される。
図7における入熱474J/mmがその好例である。ここでいう所定高さは、例えば積層する1層あたりの高さを用いてよい。
【0043】
一方で、何らかの事情によりその周期性が乱れていびつな形状が形成される場合には、隣接する区間同士の歪度や尖度の差異が大きくなる。
図7における入熱358J/mm、1095J/mmの実線で囲んだ部分がその例である。この実線の部分は、表面粗さRzだけを見ると0.1mm程度であるため、表面粗さRzという指標のみからは、表面がきれいな平坦面になっていると判断する結果を導く可能性が高いが、表面を全体的に観察すると、でっぱりやへこみの一部となっていることが
図7のプロファイルから理解される。
【0044】
上記検討及び実験を通じて、発明者は、上記の測定から、所定の高さで区切った各区間の歪度または尖度を隣同士で比較して、その差分が予め決定した閾値を超える場合にその箇所を抽出し、切削や追加溶着等の何らかの処置をすることが望ましいことを見出した。更に発明者は、以下の様な派生的な内容を見出した。
【0045】
・歪度の正と負に渡る大きな変化:ベースラインの位置が変化している。
・尖度の大きな変化:くぼみができる。
・歪度や尖度の変化が区間同士で小さい場合は繰り返し形状なので無視することができる。
【0046】
なお、予め決定する閾値については任意に設定してよく、
図7では実線と破線により区別しているが、実線で囲まれた区間は、隣接した区間と比べて歪度及び尖度が2.5以上変化している区間であり、破線で囲まれた区間は、隣接した区間と比べて歪度及び尖度が1以上変化している区間である。特に目立ついびつな形状のみを平滑化したい場合は、閾値を2.5に設定して実線の部分だけ抽出すればよく、逆になるべく多くの箇所を平滑化したい場合は、閾値を1に設定して実線及び破線の基準に沿っていびつな区間を抽出すればよい。
【0047】
前記の手段でもって異常な凹部または凸部の有無や位置を特定したあと、以下の様な手法をもって平滑化を行い、凹凸形状を緩和することができる。ただし、平滑化の手法は特に限定されない。
【0048】
・入熱量を低下させる(溶けて垂れる量を制限する)。
・側面部の溶着ビードだけ溶着量を減らす(垂れる量を制限する)。
・溶着ビードを凹部に追加で積層する。
・凸部を切削する(特に手段は限定されないが、機械加工による切削が一例である)。
【0049】
図1の積層造形物の製造システム100は、溶加材Mを溶融させつつ繰り返し積層して積層造形物を製造するが、上記内容を以下の様に実施する。
【0050】
まずトーチ17が、溶加材Mを溶融させた溶着ビードBを繰り返し積層して積層造形物Wを形成する。形成後、形状センサ23は、積層造形物Wのうち積層方向に溶着ビードBが連なった面の凹凸形状を計測して形状プロファイルを取得する。例えば形状センサ23は、積層造形物Wのうち枠部53について、その積層方向である垂直方向に溶着ビードBが連なった側面を計測して、凹凸形状に対応した形状プロファイルを取得する。形状プロファイルを取得する面は、枠部53の側面の様に垂直方向に延びる面には限定されず、水平方向や斜め方向であっても、溶着ビードBが連なった面の形状プロファイルを取得すればよい。
【0051】
形状センサ23が取得した形状プロファイルから、形状指標演算部37は、
図7の様に形状指標として所定高さの区間ごとに歪度または尖度の少なくともいずれかを計算する。用いる形状指標は、歪度または尖度のいずれかであってもよいし、歪度及び尖度の両方を用いてもよい。
【0052】
次に判定部39が、形状指標演算部37が計算した形状指標(歪度または尖度)を隣接する区間同士で比較し、比較した区間の形状指標の差異が予め決定した閾値を超えるか否かを判定する。このような閾値は、歪度及び尖度それぞれについて任意の値を用意し、例えば記憶部35に記憶される。また、歪度及び尖度それぞれについて何種類かの閾値を用意し、測定する領域や積層造形物Wの種類によって、閾値を変更してもよい。
【0053】
最後に平滑化処理指示部32は、判定部39が判定した閾値を超える区間に対して、凹凸形状の平滑化処理を施す指示を出す。この指示は、どの区間に対してどれだけの平滑化を行うのかという情報を含んでいる。平滑化処理指示部32が制御部41に対しこの平滑化処理指示を出すと、制御部41は適切な平滑化処理を行うため、電源装置15、トーチ17等を制御して、入熱量を加減したり、溶着ビードBの溶着量を加減したりして、平滑化を行う。
【0054】
本実施形態によれば、歪度または尖度といった形状指標を区間ごとに比較することで、形状プロファイルからいびつな領域を特定することができる。また、いびつな場所に対して平滑化処理を実施することにより、形状プロファイルを取得した面全体に対して平滑化処理を施すより工数やコストを削減することができる。
【0055】
平滑化処理は、例えば溶着ビードBの追加または溶着ビードBの切削のいずれかである。溶着ビードBの追加を行う場合、例えば制御部41が溶加材供給部21を制御してより多くの溶加材Mをトーチ17に供給する。溶着ビードBの切削を行う場合、例えば制御部41が図示せぬ切削装置を制御して凸部を切削する。このような平滑化処理により、造形中においても簡易に凹凸を修正することができる。
【0056】
溶着ビードBの追加においては、例えば他の溶着ビードBよりも溶着量または入熱量を低減させることが好ましい。このような平滑化処理の制御により、追加する溶着ビードの垂れを抑制しつつ、局所的な凹凸を改善することができる。
【0057】
平滑化処理指示部32は、平滑化処理を、歪度および尖度がいずれも予め決定した閾値を超える区間のみにおいて行うように、平滑化処理を施す指示を出すことができる。これにより、過剰な数の凹凸形状について平滑化処理を行い、時間及びコストが増加することを抑制することができる。
【0058】
形状指標としてさらに区間ごとに表面粗さRzを計算し、平滑化処理は、表面粗さRzが予め決定した第二閾値を超える区間のみにおいて行うようにしてもよい。これにより、表面の起伏が大きいいびつ形状を抽出して平滑化処理を施すことができる。
【0059】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
【0060】
(1)溶加材を溶融させつつ繰り返し積層して積層造形物を製造する積層造形物の製造方法であって、
前記溶加材を溶融させた溶着ビードを繰り返し積層して積層造形物を形成する工程と、
前記積層造形物のうち積層方向に前記溶着ビードが連なった面の凹凸形状を計測して形状プロファイルを取得する工程と、
前記形状プロファイルから形状指標として所定高さの区間ごとに歪度または尖度の少なくともいずれかを計算する工程と、
前記形状指標を隣接する区間同士で比較し、比較した区間の形状指標の差異が予め決定した閾値を超えるか否かを判定する工程と、
前記閾値を超える区間に対して凹凸形状の平滑化処理を施す指示を出す工程と、
を備える積層造形物の製造方法。
これにより、歪度または尖度といった形状指標を区間ごとに比較することで、形状プロファイルからいびつな領域を特定することができる。また、いびつな場所に対して平滑化処理を実施することにより、形状プロファイルを取得した面全体に対して平滑化処理を施すより工数やコストを削減することができる。
【0061】
(2)前記平滑化処理は前記溶着ビードの追加または前記溶着ビードの切削のいずれかである、(1)に記載の積層造形物の製造方法。
これにより、造形中においても簡易に凹凸を修正することができる。
【0062】
(3)前記溶着ビードの追加において、他の溶着ビードよりも溶着量または入熱量を低減させる、(2)に記載の積層造形物の製造方法。
これにより、追加する溶着ビードの垂れを抑制しつつ、局所的な凹凸を改善することができる。
【0063】
(4)前記平滑化処理は、前記歪度および前記尖度がいずれも予め決定した閾値を超える区間のみにおいて行う、(1)から(3)のいずれかに記載の積層造形物の製造方法。
これにより、過剰な数の凹凸形状について平滑化処理を行い、時間及びコストが増加することを抑制することができる。
【0064】
(5)前記形状指標としてさらに前記区間ごとに表面粗さRzを計算し、前記平滑化処理は、前記表面粗さRzが予め決定した第二閾値を超える区間のみにおいて行う、(1)から(4)のいずれかに記載の積層造形物の製造方法。
これにより、表面の起伏が大きいいびつ形状を抽出して平滑化処理を施すことができる。
【0065】
(6)溶加材を溶融させつつ繰り返し積層して積層造形物を製造する積層造形物の製造システムであって、
前記溶加材を溶融させた溶着ビードを繰り返し積層して積層造形物を形成するトーチと、
前記積層造形物のうち積層方向に前記溶着ビードが連なった面の凹凸形状を計測して形状プロファイルを取得する形状センサと、
前記形状プロファイルから形状指標として所定高さの区間ごとに歪度または尖度の少なくともいずれかを計算する形状指標演算部と、
前記形状指標を隣接する区間同士で比較し、比較した区間の形状指標の差異が予め決定した閾値を超えるか否かを判定する判定部と、
前記閾値を超える区間に対して凹凸形状の平滑化処理を施す指示を出す平滑化処理指示部と、
を備える積層造形物の製造システム。
これにより、歪度または尖度といった形状指標を区間ごとに比較することで、形状プロファイルからいびつな領域を特定することができる。また、いびつな場所に対して平滑化処理を実施することにより、形状プロファイルを取得した面全体に対して平滑化処理を施すより工数やコストを削減することができる。
【0066】
(7)溶加材を溶融させつつ繰り返し積層して積層造形物を製造する積層造形物の製造プログラムであって、
前記溶加材を溶融させた溶着ビードを繰り返し積層して積層造形物を形成する工程と、
前記積層造形物のうち積層方向に前記溶着ビードが連なった面の凹凸形状を計測して形状プロファイルを取得する工程と、
前記形状プロファイルから形状指標として所定高さの区間ごとに歪度または尖度の少なくともいずれかを計算する工程と、
前記形状指標を隣接する区間同士で比較し、比較した区間の形状指標の差異が予め決定した閾値を超えるか否かを判定する工程と、
前記閾値を超える区間に対して凹凸形状の平滑化処理を施す指示を出す工程と、
をコンピュータに実行させる積層造形物の製造プログラム。
これにより、歪度または尖度といった形状指標を区間ごとに比較することで、形状プロファイルからいびつな領域を特定することができる。また、いびつな場所に対して平滑化処理を実施することにより、形状プロファイルを取得した面全体に対して平滑化処理を施すより工数やコストを削減することができる。
【0067】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0068】
11 積層造形装置
13 コントローラ
15 電源装置
17 トーチ
23 形状センサ
32 平滑化処理指示部
35 記憶部
37 形状指標演算部
39 判定部
41 制御部
53 枠部
55 内部造形部
100 積層造形物の製造システム
B,B1,B2 溶着ビード
BL 溶着ビード層
M 溶加材
W 積層造形物