(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】電波透過カバー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/02 20060101AFI20230905BHJP
B01J 39/05 20170101ALI20230905BHJP
B01J 39/07 20170101ALI20230905BHJP
B01J 47/12 20170101ALI20230905BHJP
H01Q 1/42 20060101ALI20230905BHJP
G01S 7/03 20060101ALI20230905BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230905BHJP
B32B 3/18 20060101ALI20230905BHJP
B32B 15/082 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
B32B15/02
B01J39/05
B01J39/07
B01J47/12
H01Q1/42
G01S7/03 246
B32B7/025
B32B3/18
B32B15/082 Z
(21)【出願番号】P 2020217190
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保山 大貴
(72)【発明者】
【氏名】村井 盾哉
(72)【発明者】
【氏名】南 秀人
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-055308(JP,A)
【文献】特開2007-119896(JP,A)
【文献】特開2019-064100(JP,A)
【文献】特開2017-106906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/02
B01J 39/05
B01J 39/07
B01J 47/12
H01Q 1/42
G01S 7/03
B32B 7/025
B32B 3/18
B32B 15/082
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材と、表出部となる透明フィルム層と、前記樹脂基材と前記透明フィルム層との間に設けられた透明イオン交換樹脂層と、前記樹脂基材と前記透明イオン交換樹脂層との間に設けられた接着層と、を備え、
前記透明イオン交換樹脂層の前記樹脂基材側表面にAg粒子の不連続膜が形成されており、
透明イオン交換樹脂は樹脂骨格中にイオン交換可能な官能基を有し、前記透明イオン交換樹脂のハンセン溶解度パラメータ(HSP)値と、前記透明フィルムのHSP値の距離Raが20以下である、
電波透過カバー。
【請求項2】
Ag粒子の一部又は全部が前記透明イオン交換樹脂層に埋まっている、請求項1に記載の電波透過カバー。
【請求項3】
前記透明イオン交換樹脂のイオン交換可能な官能基の密度が1.5mol/L以上である、請求項1又は2に記載の電波透過カバー。
【請求項4】
前記透明イオン交換樹脂のHSP値と、前記透明フィルムのHSP値の距離Raが16.8以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電波透過カバー。
【請求項5】
前記透明イオン交換樹脂が、マレイン酸モノオクチルと、スチレン、メタクリル酸ブチル及びビニルトルエンから選ばれる1種以上のモノマーとの共重合体、並びに4-ビニル安息香酸と、スチレン、メタクリル酸ブチル及びビニルトルエンから選ばれる1種以上のモノマーとの共重合体から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の電波透過カバー。
【請求項6】
透明フィルムの表面に透明イオン交換樹脂層を形成することと、
前記透明イオン交換樹脂層をAgイオン溶液で処理して、イオン交換により、前記透明イオン交換樹脂層にAgイオンを導入することと、
前記透明イオン交換樹脂層を還元剤で処理してAg粒子を表面に析出させて、Ag粒子の不連続膜を前記透明イオン交換樹脂層の表面に形成することと、
樹脂基材と、前記Ag粒子の不連続膜が前記透明イオン交換樹脂層の表面に形成した透明フィルムとを、前記Ag粒子の不連続膜側を前記樹脂基材に向けて接着層を介して貼り合わせることと
を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の電波透過カバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波透過カバー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両や歩行者、障害物等を検知するためのセンサ装置として、ミリ波レーダ装置などの電波レーダ装置を搭載した車両が開発されている。電波レーダ装置は、一般に、金属光沢を付与するために金属調フィルムを用いた電波透過カバーで覆われており、電波透過カバーには、優れた金属光沢及び電波透過性を有することが求められる。
【0003】
電波透過カバーとして、例えば、加飾層をインジウム(In)やスズ(Sn)の蒸着によって形成したものが知られている。InやSnの蒸着では一般に微細な海島構造が形成され、電波透過性を示すが、InやSnは反射率が低く、金属光沢を高めるためには厚膜化する必要があり、海島構造が連続膜となって電波透過性が低下する恐れがある。
【0004】
一方、特許文献1には、InやSnの蒸着の代わりに、金属微粒子が分散した不連続金属膜で電波透過層を構成した電波透過カバーが開示されている。特許文献1に開示される電波透過カバーは、下から順に、樹脂基材、接着層、基材フィルム、電波透過層、接着層、透明樹脂材を備える。特許文献1に開示される電波透過カバーでは、金属光沢と電波透過性を両立するために電波透過層の表面の空隙率を所定の値以上に調整する必要があるが、金属微粒子は樹脂接着層と接着しないため、電波透過層と接着層の接着が困難であり、また、金属微粒子の不連続金属膜は基材フィルムとの密着性がないため、不連続金属膜の剥離が懸念される。
【0005】
さらに、従来のInやSnの蒸着により作製した電波透過カバーや、特許文献1のような電波透過層に不連続金属膜を用いた電波透過カバーでは、インジェクション成形やプレス成型により表出部に透明樹脂を設けており、製造工程が複雑であり、コストが高くなるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記の通り、従来のInやSnの蒸着により作製した電波透過カバーでは、金属光沢及び電波透過性が両立できない場合があり、また、コストが高くなることがあった。また、特許文献1のような電波透過層に不連続金属膜を用いた電波透過カバーでは、電波透過層の剥離が発生する可能性があり、また、コストが高くなることがあった。それ故、本発明は、低コストで製造可能な、層の剥離が抑制された電波透過カバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、透明イオン交換樹脂層上にAg粒子の不連続膜を形成し、透明イオン交換樹脂とその上に設けられた透明フィルムのHSP値の距離Raを特定の範囲に制御することにより、層の剥離が抑制された電波透過カバーを低コストで製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)樹脂基材と、表出部となる透明フィルム層と、前記樹脂基材と前記透明フィルム層との間に設けられた透明イオン交換樹脂層と、前記樹脂基材と前記透明イオン交換樹脂層との間に設けられた接着層と、を備え、
前記透明イオン交換樹脂層の前記樹脂基材側表面にAg粒子の不連続膜が形成されており、
透明イオン交換樹脂は樹脂骨格中にイオン交換可能な官能基を有し、前記透明イオン交換樹脂のハンセン溶解度パラメータ(HSP)値と、前記透明フィルムのHSP値の距離Raが20以下である、
電波透過カバー。
(2)Ag粒子の一部又は全部が前記透明イオン交換樹脂層に埋まっている、前記(1)に記載の電波透過カバー。
(3)前記透明イオン交換樹脂のイオン交換可能な官能基の密度が1.5mol/L以上である、前記(1)又は(2)に記載の電波透過カバー。
(4)前記透明イオン交換樹脂のHSP値と、前記透明フィルムのHSP値の距離Raが16.8以下である、前記(1)~(3)のいずれかに記載の電波透過カバー。
(5)前記透明イオン交換樹脂が、マレイン酸モノオクチルと、スチレン、メタクリル酸ブチル及びビニルトルエンから選ばれる1種以上のモノマーとの共重合体、並びに4-ビニル安息香酸と、スチレン、メタクリル酸ブチル及びビニルトルエンから選ばれる1種以上のモノマーとの共重合体から選ばれる少なくとも1種である、前記(1)~(4)のいずれかに記載の電波透過カバー。
(6)透明フィルムの表面に透明イオン交換樹脂層を形成することと、
前記透明イオン交換樹脂層をAgイオン溶液で処理して、イオン交換により、前記透明イオン交換樹脂層にAgイオンを導入することと、
前記透明イオン交換樹脂層を還元剤で処理してAg粒子を表面に析出させて、Ag粒子の不連続膜を前記透明イオン交換樹脂層の表面に形成することと、
樹脂基材と、前記Ag粒子の不連続膜が前記透明イオン交換樹脂層の表面に形成した透明フィルムとを、前記Ag粒子の不連続膜側を前記樹脂基材に向けて接着層を介して貼り合わせることと
を含む、前記(1)~(5)のいずれかに記載の電波透過カバーの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、層の剥離が抑制された電波透過カバーを低コストで製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態の電波透過カバーの断面模式図を示す。
【
図2】
図2は、実施例12の電波透過カバーについて、使用したフィルム2の断面のTEM(透過型電子顕微鏡)画像を示す。
図2Aは、実施例12のフィルム2の断面のTEM画像(10万倍)を示し、
図2Bは、実施例12のフィルム2の断面のTEM画像(20万倍)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明は、電波透過カバーに関する。本発明の電波透過カバーは、樹脂基材と、表出部となる透明フィルム層と、樹脂基材と透明フィルム層との間に設けられた透明イオン交換樹脂層と、樹脂基材と透明イオン交換樹脂層との間に設けられた接着層とを備え、透明イオン交換樹脂層の樹脂基材側表面に、電波透過層としてAg粒子の不連続膜が形成されている。
【0014】
図1に、本発明の一実施形態の電波透過カバーの断面模式図を示す。
図1に示されるように、電波透過カバー10は、樹脂基材1と、表出部となる透明フィルム層2と、樹脂基材1と透明フィルム層2との間に設けられた透明イオン交換樹脂層3と、樹脂基材1と透明イオン交換樹脂層3との間に設けられた接着層4とを備え、透明イオン交換樹脂層3の樹脂基材1側表面にAg粒子の不連続膜5が形成されている。すなわち、電波透過カバー10は、樹脂基材1と、接着層4と、Ag粒子の不連続膜5と、透明イオン交換樹脂層3と、透明フィルム層2がこの順に積層された構造を有する。電波透過カバー10において、樹脂基材1と透明イオン交換樹脂層3は接着層4を介して貼り合わされている。
【0015】
樹脂基材は、好ましくは透明である。樹脂基材としては、特に限定されずに、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート及びアクリル等が挙げられ、ポリカーボネートが好ましい。
【0016】
樹脂基材の厚さは、通常0.1mm~10mmであり、好ましくは0.3mm~7.5mmである。
【0017】
透明フィルム層を構成する透明フィルムとしては、特に限定されずに、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート及びアクリル等が挙げられ、ポリカーボネートが好ましい。
【0018】
透明フィルム層の厚さは、通常10μm~3mmであり、好ましくは50μm~500μmである。本発明の電波透過カバーでは、表層部の保護のために透明樹脂を成形することなく、透明フィルム層により表層部を保護することができる。
【0019】
透明イオン交換樹脂層は、樹脂骨格中にイオン交換可能な官能基を有する透明イオン交換樹脂で構成される。イオン交換樹脂層とその上に設けられたフィルム層がいずれも透明であることにより、電波透過カバーを上から見たときにAg粒子が見え、電波透過カバーが優れた金属光沢を有する。
【0020】
透明イオン交換樹脂は、イオン交換可能な官能基を有するモノマーの重合体又は2種以上のイオン交換可能な官能基を有するモノマーの共重合体であってもよく、また、イオン交換可能な官能基を有するモノマーと、イオン交換可能な官能基を有しない他のモノマーとの共重合体であってもよい。イオン交換可能な官能基を有するモノマーとしては、特に限定されずに、例えば、カルボキシル基及び/又はスルホ基を有するモノマーを用いることができ、エチレン性不飽和結合と、カルボキシル基及び/又はスルホ基を有するモノマーが好ましい。イオン交換可能な官能基を有するモノマーとしては、特に限定されずに、例えば、マレイン酸モノオクチル、4-ビニル安息香酸、C4~C24不飽和脂肪酸(例えば、C4~C24モノ不飽和脂肪酸、C18~C22ジ不飽和脂肪酸、C18~C20トリ不飽和脂肪酸)、酢酸4-ビニルフェニル、2-フェニルプロピオン酸ビニル、けい皮酸、コハク酸、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ダイマー酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、メサコン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、タウリン等を用いることができ、マレイン酸モノオクチル及び4-ビニル安息香酸が好ましい。一方、他のモノマーとしては、特に限定されずに、例えば、エチレン性不飽和結合を有するモノマーを用いることができ、スチレン、メタクリル酸ブチル及びビニルトルエンが好ましい。
【0021】
透明イオン交換樹脂は、好ましくは、イオン交換可能な官能基を有するモノマーと、他のモノマーとの共重合体である。イオン交換可能な官能基を有するモノマーと、他のモノマーとの比は、モル比で好ましくは2:1~1:10であり、より好ましくは1:1~1:5である。このような共重合体としては、例えば、マレイン酸モノオクチルの共重合体及び4-ビニル安息香酸の共重合体が挙げられ、マレイン酸モノオクチルと、スチレン、メタクリル酸ブチル及びビニルトルエンから選ばれる1種以上のモノマーの共重合体、並びに4-ビニル安息香酸と、スチレン、メタクリル酸ブチル及びビニルトルエンから選ばれる1種以上のモノマーの共重合体が好ましい。
【0022】
イオン交換可能な官能基を有するモノマー及び他のモノマーは、ヒルデブラント溶解度パラメータδ(SP値)が、好ましくは18~30であり、より好ましくは19~28である。モノマーのSP値が18~30であると、2種以上のモノマーを使用するとき、モノマーが混ざり合いやすく、密着性も高いため、重合の際に分離を抑制することができ、また、透明フィルムとの密着性も確保される。
【0023】
透明イオン交換樹脂のイオン交換可能な官能基の密度は、透明イオン交換樹脂に対して好ましくは1.5mol/L以上であり、より好ましくは2mol/L以上である。透明イオン交換樹脂のイオン交換可能な官能基の密度が1.5mol/L以上であると、Agイオンとのイオン交換能が十分に高いため、優れた金属光沢を有するAg粒子の不連続膜が形成される。透明イオン交換樹脂のイオン交換可能な官能基の密度は、好ましくは20mol/L以下であり、より好ましくは10mol/L以下である。透明イオン交換樹脂のイオン交換可能な官能基の密度は、好ましくは1.5mol/L~20mol/Lであり、より好ましくは2mol/L~10mol/Lである。イオン交換可能な官能基の密度は、モノマーの分子構造と密度から計算により求めることができる。
【0024】
透明イオン交換樹脂のハンセン溶解度パラメータ(Hansen solubility parameter:HSP)値と、透明フィルムのHSP値の距離Raは20以下(Ra≦20)であり、好ましくは16.8以下(Ra≦16.8)である。距離Raが20以下であると、透明イオン交換樹脂と透明フィルムの密着性が高くなり、層の剥離を抑制することができる。HSP距離は、以下の式:HSP距離Ra={4×(δD1-δD2)2+(δP1-δP2)2+(δH1-δH2)2}0.5(式中、δD、δP及びδHは、それぞれHSP値の分散力項(δD)、極性項(δP)及び水素結合項(δH)であり、1及び2は透明イオン交換樹脂及び透明フィルムを示す)により求めることができる。
【0025】
透明イオン交換樹脂層の厚さは、通常0.5μm~10μmであり、好ましくは0.7μm~4μmである。
【0026】
Ag粒子の不連続膜は電波透過層を構成する。Ag粒子の不連続膜において、Ag粒子間には隙間がある。Ag粒子間に隙間があることにより電波透過性が確保される。Ag粒子の不連続膜において、Ag粒子は、好ましくは島状に形成している。すなわち、Ag粒子同士が各々独立しており、各Ag粒子は互いに僅かに離れた状態で存在する。
【0027】
Ag粒子の形状は、特に限定されずに、例えば球状、楕円体状、プレート状、フレーク状、鱗片状、樹枝状、ロッド状、ワイヤー状及び不定形状であってよい。
【0028】
Ag粒子の平均粒径は、好ましくは5nm~200nmであり、より好ましくは10nm~200nmであり、特に好ましくは10nm~150nmである。Ag粒子の平均粒径が5nm~200nmであると、Ag粒子が可視光を反射し、且つミリ波を透過することができ、電波透過性を有する。本発明において、Ag粒子の平均粒径は、フィルム表面のFE-SEM(5万倍)観察画像により測定した、粒子の長径(最大直径)の数平均粒径をいう。なお、Ag粒子が球状の場合には、平均粒径は、Ag粒子の直径の数平均粒径をいう。
【0029】
Ag粒子の不連続膜において、各Ag粒子の一部又は全部が透明イオン交換樹脂層に埋まっている。これにより、Ag粒子は容易に剥離せず、Ag粒子の不連続膜と透明イオン交換樹脂層の密着性が高くなり、層の剥離を抑制することができる。本発明においては、以下で説明する製造方法によりAg粒子を透明イオン交換樹脂層の表面に析出させることにより、Ag粒子の一部又は全部が透明イオン交換樹脂層に埋まった構造とすることができる。
【0030】
Ag粒子の不連続膜の厚さは、通常5nm~200nmであり、好ましくは10nm~150nmである。
【0031】
接着層は、樹脂基材と透明イオン交換樹脂層との間に設けられており、接着層を介してこれらの層が貼り合わされている。なお、透明イオン交換樹脂層の表面にはAg粒子の不連続膜が形成しているが、Ag粒子と一般的な樹脂接着層は接着しない。
【0032】
接着層は、好ましくは樹脂接着層である。接着剤としては、樹脂接着剤を用いることができ、特に限定されずに、例えばアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ゴム系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、線状ポリウレタン樹脂等を用いることができ、アクリル樹脂が好ましい。
【0033】
接着層の厚さは、通常10μm~300μmであり、好ましくは15μm~100μmである。
【0034】
本発明の電波透過カバーは、樹脂基材と、Ag粒子の不連続膜が透明イオン交換樹脂層の表面に形成した透明フィルムを接着層を介して貼り合わせることにより製造することができる。
【0035】
具体的には、本発明の電波透過カバーの製造方法は、透明フィルムの表面に透明イオン交換樹脂層を形成すること(ステップ1)と、透明イオン交換樹脂層をAgイオン溶液で処理して、イオン交換により、透明イオン交換樹脂層にAgイオンを導入すること(ステップ2)と、透明イオン交換樹脂層を還元剤で処理してAg粒子を表面に析出させて、Ag粒子の不連続膜を透明イオン交換樹脂層の表面に形成すること(ステップ3)と、樹脂基材と、Ag粒子の不連続膜が透明イオン交換樹脂層の表面に形成した透明フィルムを、Ag粒子の不連続膜側を樹脂基材に向けて接着層を介して貼り合わせること(ステップ4)とを含む。
【0036】
ステップ1では、透明フィルムの表面に透明イオン交換樹脂層を形成する。透明イオン交換樹脂層は、例えば、透明イオン交換樹脂の溶液を透明フィルム上に塗布し、乾燥して溶媒を除去することにより形成することができる。透明イオン交換樹脂の溶液の塗布は、例えばスピンコート等により行うことができる。乾燥条件は、例えば25℃~140℃にて5分から72時間である。
【0037】
ステップ2では、透明イオン交換樹脂層をAgイオン溶液で処理する。この処理により、透明イオン交換樹脂のイオン交換可能な官能基がAgイオンとイオン交換され、Agイオンが透明イオン交換樹脂層に導入される。イオン交換可能な官能基は層中に分散しているため、導入されたAgイオンはこの層に埋め込まれた状態である。なお、イオン交換可能な官能基は、Agイオンで完全に置換されていなくてもよく、一部が該官能基のまま残存していてもよい。
【0038】
Agイオン溶液は、特に限定されずに、Agイオンの塩溶液を用いることができ、塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、酢酸塩及びリン酸塩等が挙げられる。Agイオン溶液は、好ましくは硝酸銀溶液である。
【0039】
Agイオン溶液の濃度は、通常0.001M(mol/L)~0.5Mであり、好ましくは0.05M~0.15Mである。
【0040】
Agイオン溶液による処理は、例えば、透明イオン交換樹脂層をAgイオン溶液に浸漬することによって行うことができる。Agイオン溶液による処理条件は、処理温度は、通常10℃~50℃であり、好ましくは20℃~30℃であり、処理時間は、通常10秒~120分であり、好ましくは1分~60分である。
【0041】
ステップ3では、透明イオン交換樹脂層を還元剤で処理する。この処理により、Agイオンが、還元剤が存在する透明イオン交換樹脂層の表面へと拡散し、Ag粒子へと還元されて、Ag粒子間に隙間がある状態で析出し、Ag粒子の不連続膜が透明イオン交換樹脂層の表面に形成する。なお、通常、AgイオンがAg粒子へと還元されると、Agイオンが導入されていたイオン交換可能な官能基は、イオン交換可能な官能基に戻る。
【0042】
還元剤としては、特に限定されずに、リン酸系化合物、水素化ホウ素化合物及びヒドラジン誘導体等を挙げることができる。リン酸系化合物としては、次亜リン酸、亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸等が挙げられる。また、水素化ホウ素化合物としては、メチルヘキサボラン、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、モルホリンボラン、ピリジンアミンボラン、ピペリジンボラン、エチレンジアミンボラン、エチレンジアミンビスボラン、t-ブチルアミンボラン、イミダゾールボラン、メトキシエチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウム等が挙げられる。また、ヒドラジン誘導体としては、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン等のヒドラジン塩や、ピラゾール類、トリアゾール類、ヒドラジド類等のヒドラジン誘導体等を用いることができる。これらの中で、ピラゾール類としては、ピラゾールの他に、3,5-ジメチルピラゾール、3-メチル-5-ピラゾロン等のピラゾール誘導体を用いることができる。また、トリアゾール類としては、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、1,2,3-トリアゾール等を用いることができる。また、ヒドラジド類としては、アジピン酸ヒドラジド、マレイン酸ヒドラジド、カルボヒドラジド等を用いることができる。還元剤は、好ましくはジメチルアミンボラン(DMAB)である。
【0043】
還元剤による処理は、例えば、透明イオン交換樹脂層を還元剤溶液に浸漬することによって行うことができる。還元剤溶液の濃度は、通常0.01mM~500mMであり、好ましくは0.01mM~1mMであり、より好ましくは0.1mM~0.5mMである。本発明においては、還元剤溶液の濃度が例えば0.01mM~1mMと低い範囲であると、Ag粒子が透明イオン交換樹脂層により深く埋まった状態で析出し、これにより、Ag粒子と透明イオン交換樹脂層の密着力を高めることができる。還元剤による処理条件は、処理温度は、通常10℃~60℃であり、好ましくは25℃~60℃であり、より好ましくは50℃であり、処理時間は、通常10秒~60分であり、好ましくは10秒~30分であり、より好ましくは30秒~5分である。
【0044】
ステップ4では、樹脂基材と、Ag粒子の不連続膜が透明イオン交換樹脂層の表面に形成した透明フィルムを、Ag粒子の不連続膜側を樹脂基材に向けて接着層を介して貼り合わせる。この処理により、樹脂基材と透明イオン交換樹脂層が接着層を介して貼り合わされる。この処理は、通常10℃~180℃にて行う。
【0045】
本発明の電波透過カバーは、例えば、ミリ波レーダ装置などの電波レーダ装置の電波透過カバーとして用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
イオン交換樹脂の調製
イオン交換可能な官能基を有するモノマーとして、カルボキシル基を有するマレイン酸モノオクチル及び4-ビニル安息香酸を使用し、共重合モノマーとして、スチレン、メタクリル酸ブチル及びビニルトルエンを使用し、溶媒としてトルエン及びエタノールを使用し、重合開始剤としてAIBNを使用した。表2に示す量のモノマー及び溶媒を混合してモノマー溶液を調製し、AIBNをこのモノマー溶液に添加し、重合してイオン交換樹脂の溶液を得た。表1に、使用したモノマーの分子量、HSP値及びSP値を示す。
【0048】
【0049】
実施例1
透明フィルムとしてポリカーボネート(PC)フィルム(厚さ400μm、住化アクリル販売社製、テクノロイ(登録商標)C000)を準備し、樹脂基材として透明のポリカーボネート(PC)シート(厚さ2mm、住化アクリル販売社製、テクノロイ(登録商標)C000)を準備した。
【0050】
基材としてのポリカーボネートフィルムに表2に示す組成のイオン交換樹脂の溶液250μLを、1000rpmで15秒の後、3000rpmで60秒の条件でスピンコートし、40℃で1時間真空乾燥して、イオン交換樹脂層が表面に形成したポリカーボネートフィルム(フィルム1)を得た。
【0051】
硝酸銀(AgNO3)(ナカライテスク社製、31018-14)を純水に溶解して、0.1MのAgNO3溶液を調製した。フィルム1をこのAgNO3溶液に室温(25℃)で5分間浸漬して、イオン交換により、イオン交換樹脂層にAgイオンを導入した。
【0052】
ジメチルアミンボラン(DMAB)(Wako製、028-08401)を純水に溶解して、0.2mMのDMAB溶液を調製した。フィルムを水洗した後、DMAB溶液に50℃で2分間浸漬して、Agイオンを還元して、Ag粒子をイオン交換樹脂層の表面に析出させた後、フィルムを水洗し、乾燥して、Ag粒子の不連続膜がイオン交換樹脂層の表面に形成したフィルム(フィルム2)を得た。
【0053】
以上のようにして作製したフィルム2とPCシートの間に接着層としてアクリル樹脂製粘着シート(厚さ18μm、TOYOCHEM社製、BPS5260)を配置し、フィルム2のAg粒子の不連続膜を樹脂基材側に向けて室温にてこれらを貼り合わせて、実施例1の電波透過カバーを得た。電波透過カバーの層の構成は、下から順に、PCシート、接着層、Ag粒子の不連続膜、イオン交換樹脂層、PCフィルム層であり、接着層を介してPCシートとイオン交換樹脂層が貼り合わされている。
【0054】
実施例2~12
イオン交換樹脂を表2に示す組成のものに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2~12の電波透過カバーを得た。
【0055】
実施例13
イオン交換樹脂を表2に示すHSP値のものに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例13の電波透過カバーを得た。
【0056】
比較例1
イオン交換樹脂を表2に示す組成のものに変更した以外は実施例1と同様にして、比較例1の電波透過カバーを得た。
【0057】
比較例2
イオン交換樹脂を、色が付いた樹脂であるポリアミック酸(I.S.T社製、Pyre-M.L.(登録商標)RC-5019)に変更した以外は実施例1と同様にして、比較例2の電波透過カバーを得た。
【0058】
実施例1~13の電波透過カバーについて、使用したフィルム2の表面をSEM(走査型電子顕微鏡)にて観察したところ、フィルムの表面には、Ag粒子が島状に析出しており、Ag粒子間には隙間があり、Ag粒子の不連続膜が形成されていることが確認された。また、
図2に、実施例12の電波透過カバーについて、使用したフィルム2の断面のTEM(透過型電子顕微鏡)画像を示す。
図2Aは、実施例12のフィルム2の断面のTEM画像(10万倍)を示し、
図2Bは、実施例12のフィルム2の断面のTEM画像(20万倍)を示す。
図2A及び
図2Bに示されるように、Ag粒子12は透明イオン交換樹脂層11に埋まった状態であった。
【0059】
表2に、実施例1~13及び比較例1~2の電波透過カバーについて、使用したイオン交換樹脂の組成及び特性を示す。ここで、カルボキシル基密度は、モノマーの分子構造と密度から計算によって得た。HSP値は、モノマーの分子構造からHoftyzer-Van Krevelen法で計算して求め、2種以上のモノマーを用いた場合、相加平均により求めた。イオン交換樹脂と透明フィルムとのHSP値距離Raは、表1に示す各モノマーのHSP値と、ポリカーボネートのHSP値(δD、δP、δH=18.2、5.9、6.9)から計算によって求めた。なお、ポリカーボネートのHSP値はHSPiPというHSP値のデータベースの値を用いた。
【0060】
実施例1~13及び比較例1~2の電波透過カバーのイオン交換樹脂について、透明フィルムとの密着性、Agイオン交換能(還元能)及び透明性を以下のようにして評価した。
【0061】
イオン交換樹脂と透明フィルムの密着性
実施例1~13及び比較例1~2のフィルム1について、以下の手順1~3により密着性を評価した。1:カッターナイフを用いて試験片表面に互いに30度の角度で交わり素地に達する約40mmの切込みを入れた。2:次に、交差する2本の切込みの上から接着部分の長さが約50mmになるようにセロハン粘着テープを貼り付け、消しゴムで上からこすって、イオン交換樹脂塗膜にテープを完全に密着させた。3:テープを付着させてから、1~2分後にテープの端を持って塗膜に直角に瞬間的に引きはがした。イオン交換樹脂層が剥がれたものを×、剥がれずに残ったものを○とした。
【0062】
Agイオン交換能
実施例1~13及び比較例1~2のフィルム2について、分光測色計により測定してL値を求め、L値が60以上であるものを○とし、60未満であるものを×とした。
【0063】
透明性
調製したイオン交換樹脂の溶液250μLをスライドガラス表面に1000rpmで15秒の後、3000rpmで60秒の条件でスピンコートし、40℃で1時間真空乾燥してスライドガラス表面にイオン交換樹脂層を形成させた。イオン交換樹脂層の透明性を分光計で測定し、可視光の波長域380nm~780nmの透過率の平均値が80%以上のとき、透明であるとして〇とし、80%未満のときを×とした。
【0064】
評価結果を表2に示す。
【0065】
【0066】
表2に示されるように、イオン交換樹脂と透明フィルムのHSP値の距離Raが20以下である実施例1~13では、イオン交換樹脂と透明フィルムの密着性が高く、層の剥離が発生しなかった。一方、イオン交換樹脂と透明フィルムのHSP値の距離Raが20超である比較例1及び2では、層の剥離が発生した。また、比較例2では、イオン交換樹脂として用いたポリアミック酸を構成するモノマーのSP値が31.23であるのに対し、実施例1~13では、イオン交換樹脂を構成するモノマーのSP値は18~30の範囲内であり、透明フィルムとの密着性の観点から、イオン交換樹脂を構成するモノマーのSP値は18~30が好ましいことが示唆された。
【0067】
実施例7では、イオン交換樹脂と透明フィルムの密着性は十分に高かったが、Agイオン交換能が比較的低いため、金属光沢がやや低く、高い金属光沢を示すためにはカルボキシル基密度を1.5mol/L以上とすることが好ましいことが示唆された。
【符号の説明】
【0068】
10:電波透過カバー、1:樹脂基材、2:透明フィルム層、3:透明イオン交換樹脂層、4:接着層、5:Ag粒子の不連続膜、11:透明イオン交換樹脂層、12:Ag粒子