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特許7343502カラーフィルタを選択するための方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】カラーフィルタを選択するための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/06 20060101AFI20230905BHJP
   A61B 3/028 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
A61B3/06
A61B3/028
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020531009
(86)(22)【出願日】2018-12-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 EP2018083869
(87)【国際公開番号】W WO2019110758
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-11-17
(31)【優先権主張番号】17306709.1
(32)【優先日】2017-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518182542
【氏名又は名称】エシロール アテルナジオナール
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】アラール, レミー
(72)【発明者】
【氏名】シルベストル, ダフニ
(72)【発明者】
【氏名】シェンギティ, ヤニス
【審査官】田辺 正樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0242670(US,A1)
【文献】国際公開第2017/194898(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/113506(WO,A1)
【文献】特表2008-508010(JP,A)
【文献】特開平03-004832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所与の環境において達成される所与の視覚タスクのための対象の視特性を改善するために前記対象により装着されるように意図されたカラーフィルタを選択するシステムの作動方法であって、
付与手段が、前記対象に、前記所与の視覚タスクのための前記視特性を評価するようにされたカラーの時空間的視覚刺激を付与する付与工程と、
評価手段が、前記視覚刺激の前記対象の視覚的知覚に基づいて前記対象の視特性を評価する評価工程と、
選択手段が、前記視特性の評価の結果に基づいて前記カラーフィルタを選択する選択工程と、を含み、
前記視覚刺激は、前記対象の眼のLおよびM錐体の刺激経路を別々に刺激するように設計されているため、その色度が修正され、少なくとも2つの別個の値を取り得るものであり、
各視覚刺激は、その表面全体で同じ色度を有するものであり、
前記選択されたカラーフィルタは、前記視覚刺激の前記視覚的知覚を最適化するものであり、
前記対象へ提示される前記視覚刺激VSは、VS(x,y,t,λ)=C(λ)*L(x,y,t)の形式のものであり、ここで、
C(λ)は、前記視覚刺激のスペクトル密度であり;
L(x,y,t)は、前記視覚刺激の空間的及び時間的輝度プロファイルを表し、
前記視覚刺激の前記スペクトル密度C(λ)は、C(λ)=w1*C1(λ)+w2*C2(λ)であり、ここで、
C1(λ)及びC2(λ)は、前記対象の前記眼の前記L錐体又はM錐体の刺激経路を異なるやり方で刺激するように設計された異なるスペクトルであり;
w1及びw2は、前記スペクトルのそれぞれの重み付けである、作動方法。
【請求項2】
前記視覚刺激は、その色度が前記付与工程中に変更される間にその空間的及び時間的輝度プロファイルが不変であるように設計される、請求項1に記載の作動方法。
【請求項3】
前記視覚刺激の前記空間的及び時間的輝度プロファイルは、前記所与の視覚タスクの前記対象の必要性にしたがって予め判断される、請求項に記載の作動方法。
【請求項4】
前記視特性の評価結果の少なくとも1つと所定基準値とを比較することにその本質がある比較工程であって、前記カラーフィルタの前記選択はさらにこの比較の結果に基づく、比較工程をさらに含む請求項に記載の作動方法。
【請求項5】
前記選択工程において:
前記対象の前記視特性が改善されたということを前記比較の前記結果が示すと、前記カラーフィルタを、前記カラーフィルタを通して見られる前記対象を取り囲む前記環境のスペクトル密度CE(λ)が、前記対応する付与工程中に前記視覚刺激の前記スペクトル密度C(λ)にグローバルに一致するようなスペクトル応答Tλを有するものとして選択し;
前記対象の前記視特性が劣化されたということを前記比較の前記結果が示すと、別のカラーフィルタを選択する、請求項に記載の作動方法。
【請求項6】
前記カラーフィルタは、前記カラーフィルタを通して前記所与の環境を前記対象が見る場合の前記対象のL/M錐体励起比が、前記対応する付与工程中に前記対象が当該視覚刺激を付与された場合の前記対象のL/M錐体励起比にほぼ等しくなるように選択される、請求項に記載の作動方法。
【請求項7】
前記選択工程は、前記所与の環境の前記スペクトル密度をさらに考慮する、請求項又はに記載の作動方法。
【請求項8】
請求項乃至のいずれか一項に記載の方法であって、前記所定基準値は、前記選択方法を使用して予め評価された視特性の値である、作動方法。
【請求項9】
前記評価された視特性は:
空間的及び/又は時間的コントラスト感度;
視力;
色感度;
スペクトル感度;
臨界周波数融合;及び/又は
読書又は運転能力のうちの1つである、請求項1乃至のいずれか一項に記載の作動方法。
【請求項10】
前記視覚刺激は、カラーディスプレイにより生成される、請求項1乃至のいずれか一項に記載の作動方法。
【請求項11】
前記評価工程において、前記視特性は周辺環境光源により照射される検査チャートを使用することにより評価され、前記周辺環境光源の前記スペクトル密度は、前記付与工程中に修正される、請求項1乃至のいずれか一項に記載の作動方法。
【請求項12】
所与の環境において達成される所与の視覚タスクのための対象の視特性を改善するために対象により装着されるように意図されたカラーフィルタを選択するシステムであって、
前記対象に、前記所与の視覚タスクのための前記視特性を評価するようにされたカラーの時空間的視覚刺激を付与するように構成された表示手段と、
前記対象へ表示される前記視覚刺激の前記対象の視覚的知覚に基づいて前記対象の前記視特性を評価する評価手段と、
前記評価手段により行われる前記視特性の評価結果に基づいて前記カラーフィルタを選択する選択手段と、を含み、
前記視覚刺激は、前記対象の眼のLおよびM錐体の刺激経路を別々に刺激するように設計されているため、その色度が修正され、少なくとも2つの別個の値を取り得るものであり、
各視覚刺激は、その表面全体で同じ色度を有するものであり、
前記選択されたカラーフィルタは、前記視覚刺激の前記視覚的知覚を最適化するものであり、
前記対象へ提示される前記視覚刺激VSは、VS(x,y,t,λ)=C(λ)*L(x,y,t)の形式のものであり、ここで、
C(λ)は、前記視覚刺激のスペクトル密度であり;
L(x,y,t)は、前記視覚刺激の空間的及び時間的輝度プロファイルを表し、
前記視覚刺激の前記スペクトル密度C(λ)は、C(λ)=w1*C1(λ)+w2*C2(λ)であり、ここで、
C1(λ)及びC2(λ)は、前記対象の前記眼の前記L錐体又はM錐体の刺激経路を異なるやり方で刺激するように設計された異なるスペクトルであり;
w1及びw2は、前記スペクトルのそれぞれの重み付けである、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検眼法の領域と対象の感度によるカラーフィルタの選択とに関する。
【0002】
より正確には、本発明は、所与の環境において達成される所与の視覚タスクのための対象の視特性を改善するために対象により装着されるように意図されたカラーフィルタを選択する方法に関する。
【0003】
本発明はまた、このような選択方法を使用して選択されたカラーフィルタを含む光学物品を提案する。
【0004】
本発明の別の目的は、前記選択方法を使用してカラーフィルタを選択するためのシステムを提供することである。
【背景技術】
【0005】
カラー(「色:chromatic」としても知られる)フィルタが環境条件(周辺照明の輝度レベル、スペクトルコンテンツ、空間的及び/又は時間的周波数)、視覚タスク(読書、運転等)及び観察者の因子(例えば年令、民族性、病理等)に依存してこのカラーフィルタの対象の視感度を改善又は劣化させ得るということは眼科用フィルタの技術分野においてよく知られている。
【0006】
通常、フィルタの色は、対象の定性的判断又は信条(すなわち、好ましい知覚、審美的考慮、視力強化における信条(例えば、霧のための橙色、明るく晴れた日のための茶色))にしたがって多くの可能なカラーフィルタの中から対象により主観的に選択される。
【0007】
しかし、定性的嗜好と視特性との間の相関は低い。
【0008】
したがって、所与の視覚タスクのための対象の真の必要性はしばしば、所与の環境におけるこのタスクの対象の視特性を最適化するためには考慮されない(又はほとんど考慮されない)。換言すれば、最適カラーフィルタを選択するための視特性の客観的定量化は存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の1つの目的は、特定視覚機能及び条件の最適カラーフィルタを選択するためにスペクトル処方箋を最適化するための解決策を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、カラーフィルタの主観的認識を低減し得るカラーフィルタ選択方法を提供することと、対象毎に最良色度を選択することによりコントラスト感度を最適化するようにカラーフィルタ処方箋を誘導することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、所与の環境において達成される所与の視覚タスクのための対象の視特性を改善するために対象により装着されるように意図されたカラーフィルタを選択する方法を提供することにより本発明にしたがって達成される。前記方法は、
- 前記対象に、前記所与の視覚タスクのための前記視特性を評価するようにされたカラーの時空間的視覚刺激を付与する工程であって、前記刺激はその色度が修正され得るように設計され、視覚刺激の色度は少なくとも2つの別個の値を取り、各色度は一様である、工程と;
- 前記視覚刺激の対象の視覚的知覚に基づき対象の視特性を評価する工程であって、視覚刺激の色度は少なくとも2つの別個の値を取り、各色度は一様である、工程と;
- 視特性の前記評価の結果に基づき前記カラーフィルタを選択する工程と、を含む。
【0012】
視覚刺激の上記「色度」はCIE1931色空間にしたがって比色分析量として定義され(CIEは「国際照明委員会:Commission Internationale de l’Eclairage」を表わす):「色度」は基本的に、眼の「色感覚」、すなわち特定色視覚刺激に対する眼の応答、すなわち特定スペクトル密度又はスペクトルパワー分布を有するカラー視覚刺激を表す。
【0013】
2つの別個の色視覚刺激(したがって異なるスペクトル密度を有する)が対象の眼から同じ応答(すなわち同じ色感覚)を引き起こし得るということは強調されるべきである。この現象は条件等色(metamerism)と呼ばれる。この現象は用語「条件等色」(色と様々なスペクトルパワー分布との知覚整合)により理解される。
【0014】
CIE標準規格にもかかわらず、視覚刺激の知覚色度は個人的であり且つ色知覚の個人的生理学に依存する。例えば、様々な網膜光受容体(短波長錐体S、中波長錐体M又は長波長錐体L)の実際のスペクトル感度、又はどのようにこれらの光受容体からの情報が網膜及び脳内で組み合わせられるか。同じやり方で、視特性が最適である色度は人毎に変化する。このため、我々は、最良のカラーフィルタを選択するために様々な一様色度の視覚能力を評価する。
【0015】
本方法の好適な実施形態では、視覚刺激は、そのグローバル色度が付与工程中に変更される間にその空間的及び時間的輝度プロファイルが不変であるように設計される。
【0016】
代替的に、視覚刺激は、その色度が一様なままである間にその空間的及び/又は時間的輝度プロファイルが変更されるように設計される。
【0017】
対象へ提示される視覚刺激は好適にはVS(λ,x,y,t)=C(λ)*L(x,y,t)の形式のものである、ここで、C(λ)は視覚刺激VSのスペクトル密度であり;L(x,y,t)は視覚刺激VSの空間的及び時間的輝度プロファイルを表す。
【0018】
本発明による方法の他の有利且つ非限定的特徴は以下のとおりである:
- 選択工程において選択されたカラーフィルタは前記視覚刺激の視覚的知覚を最適化する;
- 視覚刺激は、対象の眼のM錐体刺激経路及びL錐体刺激経路を異なるやり方で刺激するように設計される;
- 視覚刺激の空間的及び時間的輝度プロファイルは所与の視覚タスクの対象の必要性にしたがって判断される;
- 選択方法はさらに、前記視特性評価結果の少なくとも1つと所定基準値とを比較することにその本質がある比較工程であって、前記カラーフィルタの選択はさらにこの比較の結果に基づく、工程を含む;
- 選択工程において:
- 対象の視特性が改善されたということを比較の結果が示すと、我々は、前記カラーフィルタを、前記カラーフィルタを通して見られる対象を取り囲む環境の色度が対応付与工程中に前記色度にグローバルに一致するようなスペクトル応答Tλを有するものとして選択する;
- 対象の視特性が劣化されたということを比較の結果が示すと我々は別のカラーフィルタを選択する;
- カラーフィルタは、前記フィルタを通して所与の環境を対象が見る場合の対象のL/M錐体励起比が、対応付与工程中に対象が当該視覚刺激を付与された場合の対象のL/M錐体励起比にほぼ等しくなるように選択される;
- 選択工程はさらに、前記所与の環境のスペクトルコンテンツを考慮する;
- 視覚刺激の前記スペクトル密度C(λ)は、C(λ)=w*C(λ)+w*C(λ)であり、ここで、C(λ)及びC(λ)は対象の眼のL錐体又はM錐体の刺激経路を異なるやり方で刺激するように設計された異なるスペクトルであり;w及びwは前記スペクトルのそれぞれの重み付けである;
- 所定基準値は前記選択方法を使用して既に評価された視特性の値である;
- 評価された視特性は以下のうちの1つである:空間的及び/又は時間的コントラスト感度;視力;色感度;スペクトル感度;臨界周波数融合;及び/又は読書又は運転能力。
- 前記視覚刺激はカラーディスプレイにより生成される;
- 評価工程において、視特性は周辺環境光源により照射される検査チャートを使用することにより評価され、前記周辺環境光源のスペクトル密度は付与工程中に修正される。
【0019】
本発明による選択方法は、所与の環境における所与の活動のための対象の感度を最大化することを目的としている。前記選択方法の様々な利点は以下のものである:
- 対象の色感度へ個人化されたカラーフィルタを処方する。視覚的知覚が最適である色度は観察者毎に変化する。したがって、特許請求される選択方法は所与の観察者の視覚的知覚を最適化する;
- 対象の必要性又は活動(読書、ナビゲーション、運転、色覚)へ個人化されたカラーフィルタを処方する。空間的及び時間的輝度プロファイルは、特定タスクのための視力を最適化するために、対象の必要性(例えば、低空間的及び時間的周波数対高空間的及び時間的周波数、中央視野対周辺視野、低輝度強度対高輝度強度)にしたがって視力を最適化するように調節され得る。様々な視覚機能間のトレードオフを所与として、色度を変更することは、いくつかの視覚機能を改善し、他の視覚機能を損ない得る。例えば、所与のカラーフィルタは空間視力を損なう可能性があるが時間的視力を改善する可能性があり、その逆も正しい。
- 対象の環境の色度へ個人化されたカラーフィルタを処方する。視覚的知覚は、照明のスペクトル密度、環境のスペクトル反射、及びカラーフィルタリングに依存する眼に入る視覚情報のスペクトルコンテンツに依存する。したがって、フィルタが使用されることになる環境の色度は視覚的知覚を最適化するために考慮され得る。選択されたフィルタは特定環境(例えば、水上などで青が優勢となる場合又は森林中などで緑が優勢となる場合)に応じて調節され得る。
【0020】
本発明の別の目的は光学物品(例えば本発明による選択の方法を使用して選択されたカラーフィルタを含む視覚補正のための眼科機器)に関する。
【0021】
本発明の別の目的は、所与の環境において達成される所与の視覚タスクのための対象の視特性を改善するために対象により装着されるように意図されたカラーフィルタを選択するための独創的システムを提供することである。
【0022】
本発明によると、前記システムは:
- 前記対象に、前記所与の視覚タスクのための前記視特性を評価するようにされたカラーの時空間的視覚刺激を付与するように構成された表示手段であって、前記刺激はその色度が修正され得るように設計され、視覚刺激の色度は少なくとも2つの別個の値を取り、各色度は一様である、表示手段と;
- 対象へ表示される前記視覚刺激の対象の視覚的知覚に基づき対象の視特性を評価する評価手段であって、視覚刺激の色度は少なくとも2つの別個の値を取り、各色度は一様である、評価手段と、
- 評価手段により行われる視特性の前記評価の結果に基づき前記カラーフィルタを選択する選択手段と、を含む。
【0023】
非限定的例により与えられる添付図面を参照してなされる以下の説明は、本発明が何にその本質があるか、そしてどのように本発明が実行されるかを明確に理解されるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】対象のコントラスト感度を試験して最良カラーフィルタを発見するためにカラーディスプレイの前に置かれた対象を示す概略図である。
図2】カラー視覚刺激を生成するために使用される図1のカラーディスプレイの2つのカラーガンの発光スペクトル曲線を示すグラフである。
図3-4】図1の対象のコントラスト感度を試験するために使用される2つの正弦波格子の概略図である。
図5図1の対象のS錐体、M錐体、及びL錐体の標準光子吸収確率曲線を示すグラフであり、各曲線はその最大値により個々に正規化されている。
図6図2の2つのカラーガンの相対的重み付けに応じた4人の異なる被検者のコントラスト感度曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書を通じて、我々は色盲の人でない1人又は幾人かの対象を考察することになる。実際、本発明は、この種の病気の人へ捧げられてれおらず、したがってこの種の人のために実施され得ない。
【0026】
ここで説明される選択方法は、所与の環境において実現される所与の視覚タスクのための対象の視特性を改善又は最適化するように設計される(本明細書の残りでは、我々は主被検者が男性であると考えることにする)。
【0027】
対象の評価される視特性は以下のうちの1つである:空間的及び/又は時間的コントラスト感度;視力;色感度;スペクトル感度;臨界周波数融合;及び/又は読書又は運転能力。
【0028】
所与の環境は対象を取り囲む照明条件に関連する。所与の環境は、試験下の対象により経験される周囲輝度へのすべての視覚的寄与を含む。
【0029】
以下に説明される本発明による選択方法は、カラーフィルタを装着する対象のスペクトル感度を明らかにし測定することを可能にする;換言すれば、本発明の目的は、カラーフィルタの主観的認識を低減し得るカラーフィルタ選択方法を提供することと、対象毎に最良色度を選択することによりコントラスト感度を最適化するようにカラーフィルタ処方箋を誘導することである。
【0030】
本発明によると、本発明によるカラーフィルタを選択するための方法は、以下の工程を含む:
- 所与の視覚タスク(例えば読書)のための視特性(コントラスト感度)を評価するために対象に以下ではVSと呼ばれその色度が修正され得るように設計されるカラー時空間的視覚刺激を付与する工程と;
- 視覚刺激の少なくとも2つの色度(2つの「色感覚」)の前記視覚刺激VSの対象の視覚的知覚に基づき対象の視特性を評価する工程であって、各色度は一様である、工程と、
- 視特性の前記評価の結果に基づき前記カラーフィルタを選択する工程。
【0031】
視覚刺激の少なくとも2つの色度は付与工程において使用される視覚刺激の異なる瞬間における色度の2つの別個の値である。
【0032】
「一様色度」により、我々は次のことを意味する:対象の前の面内の一定の(すなわち、非零の)空間的広がりを有し様々な区域の視覚刺激を含む視覚刺激は、視覚刺激中の所与の瞬間において視覚刺激の区域が何であっても同じ視覚色感覚を引き起こす。
【0033】
図1は、コントラストに対する被検者の感度(すなわち暗特徴と明特徴とをそれらのサイズ及び周期性に依存して区別する被検者の能力)を強化し得るカラーフィルタを判断したい被検者1(ここでは被検者の頭だけが示される)を表す。
【0034】
この判断のために、被検者1は、被検者1の眼3とディスプレイ2のスクリーン4との間の距離dESにおいてカラーディスプレイ2のすぐ前に置かれる(立って又は椅子に座って)。
【0035】
コントラスト感度試験のために、眼-スクリーン距離dESは、必要に応じ視覚補正による鋭い視力を許容するために20センチメートル(cm)~5メートル(m)に含まれる。眼-スクリーン距離dESはここでは100cmの値に設定される。この距離では、近方/中間視力だけが求められる。
【0036】
ディスプレイ2はディジタルカラーディスプレイであり、スクリーン4は、2次元アレイの「青色」、「緑色」、及び「赤色」画素を有する3色スクリーンである。ここでは、コントラスト感度試験のために、緑色及び赤色「カラーガン」だけが被検者1の視力を刺激するために使用される。図2は、それぞれディスプレイ2の緑色カラーガンのスペクトル5及びディスプレイ2の赤色カラーガンのスペクトル6である2つの曲線C(λ)及びC(λ)を表す。
【0037】
カラーディスプレイ2は、スクリーン4上に様々なカラーパターン又は白黒パターン(例えばシンボルを意味する文字又は数、単純な図、幾何学図形など)を表示することにより被検者1へ可視である視覚刺激VSを生成する。
【0038】
本実験では、被検者1のコントラスト感度を試験するために、モノクロ正弦波格子7、8が10ミリ秒~5秒に含まれる所定時間の間スクリーン4上に表示される。ここで、正弦波格子7、8は、垂直方向(図3の場合)又は水平方向(図4の場合)のいずれかにランダムに配向されて500msの短期間提示される。
【0039】
正弦波格子7、8はここでは「モノクロ」である、すなわち全表面上に同じ色度を提示する。実際、スクリーン4(図2を参照)の2つの(緑色及び赤色)カラーガンを異なる割合で混合することにより、特定色度を有するカラー視覚刺激VSを生成する(すなわちスクリーン4上の格子7、8を見る被検者1に特定「色感覚」を引き起こす)ことが可能である。
【0040】
付与工程では、対象は自身の前に置かれたディスプレイスクリーン4(図1を参照)を見るように要求され、対象のタスクは表示された正弦波格子7、8の配向(垂直方向又は水平方向)を識別することである。
【0041】
格子の配向に関する被検者1の回答に依存して、正弦波格子7、8のコントラストが変更される:すなわち、正しい回答にしたがって低減され、正しくない回答にしたがって増加される。このようにして、対象が判定基準レベルに対するタスクを行なう可能性がある閾値コントラスト値(75%正しい答え:すなわち完全な成績(すなわち100%)と偶然(すなわち50%)との間の中点値)を発見することが可能である。
【0042】
図1に示すような本発明の好適な実施形態では、視覚刺激VSは、付与工程中にその空間的及び時間的輝度プロファイルが不変である(すなわち同じ「光レベル感覚」である)がそのグローバル色度は修正されるようにされる。
【0043】
上記特性は、VS(λ,x,y,t)=C(λ)*L(x,y,t)の形式である対象へ提示される視覚刺激VSにより実現される:ここで、
- C(λ)は視覚刺激VSのスペクトル密度(又は「スペクトルコンテンツ」又は「スペクトル」)である;
- L(xt)は視覚刺激VSの時空間的輝度プロファイル(すなわち輝度定義情報/輝度ベース信号)を表す。
【0044】
コントラスト感度CSはコントラスト閾値CTの逆数(すなわち空間(x,y)及び時間(t)に応じた時空間的パターンを表す所与の信号S(x,y,t)を視覚的に知覚するために必要とされる最小コントラストc)として定義され得る。
【0045】
したがって、空間的及び時間的輝度プロファイルL(xt)はここでは次のように規定され得る:L(x,y,t)=L*[1+c*S(x,y,t)]、ここで、信号S(x,y,t)はS(x,y,t)=cos(2*π*ω*t)*cos(2*π*x/Λ)*cos(2*π*y/Λ)となるようにされる。量ωは時間的脈動であり、ω=500ms;ΛとΛはそれぞれ垂直方向正弦波格子及び水平方向正弦波格子7、8(図3、4を参照)の周期(例えばミリメートル単位の)である。
【0046】
上に規定したように、視覚刺激VS(λ,x,y,t)は、そのスペクトル密度C(λ)としたがってその色度とが被検者1の眼3を異なるやり方で刺激するために変更され得るように設計される。
【0047】
対象の必要性に関連する空間的及び時間的周波数k=2*π/Λ、k=2*π/Λ図3と4を参照)とωとを選択することにより、被検者1によるこれらの時空間的周波数の視覚的知覚が最適化される色度が、対象の必要性の視特性を最適化するために発見される可能性がある。
【0048】
技術的解決策を示すために、本章は、実施され得るいくつかの輝度定義情報L(x,y,t)の知覚の具体例を提供する。
【0049】
本例では、色度C(λ)は、対象の必要性に関連するいくつかの特定時空間的周波数k,k,ωにおいてコントラスト感度を最適化する(例えば、ナビゲーション、スポーツ又は運転のための低空間周波数及び高時間的周波数並びに読書などの手作業のきめ細かい活動のための高空間周波数及び低時間的周波数に対する視特性を最適化する)ように調節され得る。
【0050】
換言すれば、本技術的解決策は、輝度定義情報(すなわち時空間的輝度プロファイルL(x,y,t))の視覚的知覚が最適化される(感度を改善する又は超輝度(supra-luminal)情報を強化しこれによりいくつかの視特性を改善する)色度C(λ)を判断することを目的とする。
【0051】
時空間的輝度プロファイルL(x,y,t)は対象の必要性(例えば、低空間的及び時間的周波数対高空間的及び時間的周波数、中央視野対周辺視野、平均輝度強度)にしたがって判断される。
【0052】
輝度定義情報の最適知覚は、様々な色度において被検者1の視覚的知覚を評価すること(例えば視覚タスク又は主観的判断)により発見される。
【0053】
コントラスト感度へのカラーフィルタの影響は科学文献において調査されてきた。しかし、カラーフィルタによるコントラスト感度促進は依然として討議されている。
【0054】
本発明は、短(S)、中(M)、及び長(L)錐体(スペクトル感度を処理するための特定生理学的センサ)分布に基づき生理学的手法を考慮する新しいパラダイムに焦点を合わせた。所与のタスク及び所与の環境に関しては、最適カラーフィルタは錐体(特にM錐体及びL錐体)の神経統合を最適化することにより判断されることになる。
【0055】
色度と光度との間の相互作用の背後の論理的根拠は、視覚系の輝度経路がL錐体及びM錐体経路の統合から生じるということである。しかし、S錐体は輝度処理に対し無視できる役割を果たす。
【0056】
被検者1へ提示される視覚刺激VSのスペクトル密度C(λ)を変更することにより、M錐体とL錐体は、所与の光受容体(すなわち、S、M、又はL錐体)により吸収される光子の確率がその波長λ(P(λ)、X=S、M又はL)に依存するので異なる割合で刺激され得る。
【0057】
図5は、S、M、及びL錐体それぞれの標準(すなわち対象非依存な)光子吸収確率P(λ)、P(λ)、P(λ)曲線21、22、23を示すグラフであり、各曲線21、22、23はその最大値により個々に(1へ)正規化されている。
【0058】
510nmの単一波長における視覚刺激(垂直線24を参照)は630nmの単一波長の視覚刺激と比較してL錐体(点26)よりM錐体(時点25)をより活性化することになる(垂直線27及び点28、29を参照)ということが図5から理解され得る。
【0059】
我々は、X=S、M、L錐体の活性化AをA=積分{-∞;+∞;C(λ)*P(λ)}のようにそしてL/M活性化比αL/MをαL/M=A/Aとして計算し得る。
【0060】
したがって、M錐体及びL錐体の経路の所与の非線形統合といくつかのL及びM錐体活性化比αL/Mは被検者1の視覚系の輝度経路内の一定のコントラスト感度利得を生じ得る。
【0061】
理想的には、最適活性化比は、個々に測定され得るが、いくつかのグループに関しては近似される可能性もある(例えば、老いた被検者は若い被検者と比較して異なる比となる傾向がある可能性がある)。
【0062】
したがって、コントラスト感度の責任を負う光受容体(M錐体及びL錐体)を別個に刺激するために、視覚刺激VSの知覚色度(スペクトルコンテンツC(λ)に依存する)は、変更され、少なくとも2つの別個の値(2つの「色感覚」)を取る。
【0063】
例えば、これは、好適にはC(λ)=w*C(λ)+w*C(λ)であるスペクトル密度C(λ)により実現され得る。ここで、C(λ)及びC(λ)は、被検者1の眼3のL錐体又はM錐体の刺激経路を異なるやり方で刺激するように設計された異なるスペクトル(「ベースライン色度」;図2を参照)であり;w及びwは前記スペクトルC、Cのそれぞれの重み付けである。
【0064】
視覚刺激VSの輝度(cd/m単位)ではなく色度だけを変更するために、ベースライン色度C(λ)及びC(λ)の輝度は互いに等しくされ、重み付けの合計w=w+wはほぼ一定に維持される。
【0065】
これらの制約条件内で、ベースライン色度のそれぞれの重み付けw及びwを修正し、次に、知覚視覚刺激VSのスペクトルコンテンツC(λ)としたがって視覚刺激VSの色度(すなわち「色感覚」)とを変更するが、前記視覚刺激VSの全体的知覚輝度レベル(すなわち「輝度感覚」)に影響を与えない。
【0066】
視覚的知覚が最適化される重み付けw及びwは、所与の視覚条件において被検者1の視特性の最適錐体活性化比に対応する。
【0067】
これらの原理によると、図6は、図2の2つのカラーガンC(λ)、C(λ)の相対的重み付けw1/2=w/w(但し(w+w=一定))に応じた4人の異なる被検者のコントラスト感度曲線31、32、33、34を示す。
【0068】
図6から分かるように、輝度正弦波格子に対する様々な被検者のコントラスト感度cは視覚刺激VSの色度に対して変化する(色度は活性化比αL/M、wと相対的重み付けw、wとへリンクされるので)。
【0069】
我々はまた、コントラスト感度ピーク(最大値)が一般的には2つの限界比の一方において発生しない(w=0及びw=1、又はw=1及びw=0)ということを観察する。したがって、コントラスト感度がある特定L/M錐体励起比αL/M(観察者毎に変化する)に関し最大化されるということが暗示される。
【0070】
上記詳細な技術的解決策は、ディジタルディスプレイを使用することにより、又は紙チャート(例えばPelli-Robsonコントラスト感度チャート)を使用して対象の視特性を測定しながら少なくとも2つの照射光源の色度を変更することにより、実施され得る。
【0071】
さらに、ディスプレイ又は周囲照明の色度を変更する代わりに、視覚刺激の色度がまた、対象により装着されたカラーフィルタを使用して変更され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6