IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社の特許一覧

特許7343544非水電解液および該非水電解液を用いた二次電池
<>
  • 特許-非水電解液および該非水電解液を用いた二次電池 図1
  • 特許-非水電解液および該非水電解液を用いた二次電池 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】非水電解液および該非水電解液を用いた二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20230905BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20230905BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230905BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/052
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021083090
(22)【出願日】2021-05-17
(65)【公開番号】P2022176583
(43)【公開日】2022-11-30
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】近藤 親平
(72)【発明者】
【氏名】浅野 洋人
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-526913(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047019(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0178770(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 10/0569
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解液二次電池に用いられる非水電解液であって、
ジフルオロリン酸リチウムと、CsPO および/またはCsPF であるCsカチオン化合物と、を含み、
前記非水電解液の全体を100質量%としたときに、前記ジフルオロリン酸リチウムを1.0質量%以下含有し、かつ、前記Csカチオン化合物を0.1質量%~0.5質量%含有する、非水電解液。
【請求項2】
非水系溶媒として少なくとも1種のカーボネート類に属する溶媒を含む、請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
非水電解液として請求項1または2に記載の非水電解液を用いた非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液および該非水電解液を用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
非水電解液二次電池の非水電解液に、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)を添加する技術が知られている(下記特許文献1および2を参照)。LiPOを添加することで、負極の表面にSEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜が形成され、これによって、電池の抵抗低減と、充電時の負極電位低下に伴う金属リチウム(以下、「金属Li」とも表記する)析出の抑制が実現できることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-219994号公報
【文献】国際公開第2017/047019号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、非水電解液にLiPOを添加した場合、金属Li析出の抑制に関してまだまだ改善の余地があることが分かった。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、その主な目的は、LiPOを含有する態様において、抵抗増加の抑制と、金属Li析出耐性の向上とを、好適に両立し得る非水電解液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を実現するべく、本発明は、非水電解液二次電池に用いられる非水電解液を提供する。上記非水電解液は、ジフルオロリン酸リチウムと、Csカチオン含有化合物とを含み、上記非水電解液の全体を100質量%としたときに、上記ジフルオロリン酸リチウムを1.0質量%以下含有し、かつ、上記Csカチオン含有化合物を0.1質量%~0.5質量%含有する。
【0008】
本発明者らは、金属Liの析出の要因となり得るジフルオロリン酸リチウムの添加量を低減し(ここでは、1.0質量%以下)、かつ、Csカチオン含有化合物を少量(ここでは、0.1質量%~0.5質量%)添加することによって、電池の抵抗増加の抑制と、金属Li析出耐性の向上とを、好適に両立することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
ここで開示される非水電解液の好適な一態様では、上記Csカチオン含有化合物は、CsPO、CsPFおよびCsFSIからなる群から選択される少なくとも1種を含む。かかる構成の非水電解液によると、抵抗増加の抑制と、金属Li析出耐性の向上とを、より好適に両立することができる。
【0010】
ここで開示される非水電解液の好適な一態様では、非水系溶媒として少なくとも1種のカーボネート類に属する溶媒を含む。カーボネート類に属する溶媒を含む(より好ましくは、非水系溶媒がカーボネート類に属する溶媒から構成される)ことによって、非水電解液二次電池により好適に用いられる非水電解液を提供することができる。
【0011】
また、本発明は、他の側面から、ここで開示されるいずれかの非水電解液を用いた非水電解液二次電池を提供する。かかる非水電解液二次電池によると、抵抗増加の抑制と、金属Li析出耐性の向上とを、好適に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池が備える捲回電極体の構成を示す模式分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、ここで開示される非水電解液および該非水電解液を用いた二次電池に関する好適な一実施形態について、適宜図面を参照しつつ詳細に説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の実施形態は、ここで開示される技術を限定することを意図したものではない。また、本明細書にて示す図面では、同じ作用を奏する部材・部位に同じ符号を付して説明している。さらに、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、所定の数値範囲をA~B(A、Bは任意の数値)と記すときは、A以上B以下の意味である。したがって、Aを上回り且つBを下回る場合を包含する。
【0014】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイスをいい、いわゆる蓄電池、および電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【0015】
本実施形態に係る非水電解液は、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)と、Csカチオン含有化合物とを含む。また、上記非水電解液の全体を100質量%としたときに、LiPOを1.0質量%以下含有し、かつ、Csカチオン含有化合物を0.1質量%~0.5質量%含有することを特徴とする。
本発明者らが鋭意検討した結果、過剰に添加すると金属リチウムの析出の要因となり得るLiPOの添加量をSEI被膜が形成される程度に低減し(ここでは、1.0質量%以下)、かつ、Csカチオン含有化合物を少量(ここでは、0.1質量%~0.5質量%)添加することによって、電池の抵抗増加の抑制と、金属Li析出耐性の向上とを好適に両立することができることを見出した。特に限定解釈されることを意図したものではないが、Csカチオン含有化合物を少量添加することで金属Li析出耐性が向上するメカニズムは、以下のとおり考えられ得る。
【0016】
例えば金属Liの核が発生した場合、Liよりも析出電位が小さいセシウム(Cs)のカチオンが該核の周辺に引き寄せられることで、静電遮蔽効果が発揮されるものと考えられ得る。また、Csの析出電位はCsカチオンの濃度が低い程小さくなるため、Csカチオン含有化合物を少量添加した場合、Liの析出電位との差をより大きくすることができる(即ち、Li析出電位付近でCsが析出しにくくなる)ものと考えられ得る。これらによって、金属Liの析出を好適に抑制することができる(換言すると、金属Li析出耐性が好適に向上する)ものと解される。したがって、LiPOの添加量をSEI被膜が形成される程度まで低減し、かつ、Csカチオン含有化合物を少量添加した非水電解液によると、電池の抵抗増加の抑制と、金属Li析出耐性の向上とを、好適に両立することができるものと考えられ得る。
【0017】
上述したように、ここで開示される非水電解液に含まれるLiPOは、非水電解液の全体を100質量%としたときに、1.0質量%以下である。また、LiPOの添加量の下限値は、ここで開示される技術の効果が発揮され得る限りにおいて特に制限されないが、概ね0.1質量%以上とすることができ、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上とすることができる。LiPOとしては、例えば市販品を用いることができる。
【0018】
Csカチオン含有化合物は、Csカチオン(Cs)と、Xで表されるアニオンとの塩ということができる。Xで表されるアニオンとしては、例えばPO (ジフルオロリン酸イオン)、PF (ヘキサフルオロリン酸イオン)、FSI(ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン)、BF (テトラフルオロホウ酸イオン)、B(C (ビスオキサレートボレートイオン)、TFSI(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン)、その他種々のアニオンを挙げることができる。Csカチオン含有化合物は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。なお、Csカチオン含有化合物が、CsPO、CsPFおよびCsFSIからなる群から選択される少なくとも1種を含む場合、抵抗増加の抑制と、金属Li析出耐性の向上とを、より好適に両立することができる。また、ここで開示される非水電解液に含まれるCsカチオン含有化合物は、非水電解液の全体を100質量%としたときに、0.1質量%~0.5質量%の範囲内であり、より好ましくは0.2質量%~0.5質量%とすることができる。上記Csカチオン含有化合物としては、例えば市販品を用いることができる。
【0019】
非水電解液は、典型的には、さらに非水溶媒と支持塩(電解質塩)とを含有する。非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に限定なく用いることができる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。なかでもカーボネート類に属する溶媒を含む(より好ましくは、非水系溶媒がカーボネート類に属する溶媒から構成される)場合が好ましい。カーボネート類に属する溶媒の具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等が例示される。
【0020】
支持塩としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる各種の指示塩を、特に制限なく用いることができる。例えば、LiPF、LiBF、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド(LiTFSI)等のリチウム塩(好ましくはLiPF)を好適に用いることができる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
支持塩の濃度は、ここで開示される技術の効果が得られる限り特に限定されない。支持塩としての機能を適切に発揮させる観点から、非水電解液中の支持塩の濃度は、好ましくは0.5mol/L以上3mol/L以下とすることができ、より好ましくは0.8mol/L以上1.6mol/L以下とすることができる。
【0022】
なお、本実施形態に係る非水電解液は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、例えば、ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;被膜形成剤;分散剤;増粘剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0023】
本実施形態に係る非水電解液は、従来公知の方法に従って製造することができる。また、本実施形態に係る非水電解液は、従来公知の方法に従ってリチウムイオン二次電池に用いることができる。本実施形態に係る非水電解液を非水電解液二次電池(ここでは、リチウムイオン二次電池)に用いることにより、電池の抵抗の維持と、金属Liの析出耐性の向上とを、好適に両立することができる。
【0024】
以下、本実施形態に係る非水電解液を用いた非水電解液二次電池について、扁平形状の捲回電極体と扁平形状の電池ケースとを有する扁平角型のリチウムイオン二次電池を例にして、詳細に説明する。しかしながら、本実施形態に係る非水電解液二次電池は、以下説明する例に限定されない。
【0025】
図1に示すリチウムイオン二次電池100は、扁平形状の捲回電極体20と非水電解液80とが扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)30に収容されることにより構築される密閉型電池である。電池ケース30には、外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36とが設けられている。正負極端子42,44はそれぞれ正負極集電板42a,44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質には、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。
【0026】
捲回電極体20は、図1および図2に示すように、正極シート50と、負極シート60とが、2枚の長尺状のセパレータシート70を介して重ね合わされて長手方向に捲回された形態を有する。正極シート50は、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された構成を有する。負極シート60は、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成されている構成を有する。正極活物質層非形成部分52a(すなわち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)および負極活物質層非形成部分62a(すなわち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)は、それぞれ捲回電極体20の捲回軸方向(すなわち、上記長手方向に直交するシート幅方向)の端部から外方にはみ出すように形成されている。正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aには、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0027】
正極集電体52としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。正極集電体52としては、アルミニウム箔が好ましい。
【0028】
正極集電体52の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。正極集電体52としてアルミニウム箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0029】
正極活物質層54に含まれる正極活物質としては、例えばリチウム遷移金属酸化物(例、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiCoO、LiFeO、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等)、リチウム遷移金属リン酸化合物(例、LiFePO等)等が挙げられる。
【0030】
正極活物質の平均粒子径(メジアン径:D50)は、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上20μm以下であり、好ましくは1μm以上25μm以下であり、より好ましくは5μm以上15μm以下である。なお、本明細書において「平均粒子径」とは、例えば、レーザー回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径の小さい側から積算値50%に相当する粒径を意味する。
【0031】
正極活物質層54は、正極活物質以外の成分、例えば、リン酸三リチウム、導電材、バインダ等を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(例、グラファイトなど)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
【0032】
正極活物質層54中の正極活物質の含有量(すなわち、正極活物質層54の全質量に対する正極活物質の含有量)は、特に限定されないが、70質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上97質量%以下であり、さらに好ましくは85質量%以上96質量%以下である。正極活物質層54中のリン酸三リチウムの含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、2質量%以上12質量%以下がより好ましい。正極活物質層54中の導電材の含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、3質量%以上13質量%以下がより好ましい。正極活物質層54中のバインダの含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、1.5質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0033】
正極活物質層54の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0034】
負極集電体62としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の負極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。負極集電体52としては、銅箔が好ましい。
【0035】
負極集電体62の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。負極集電体62として銅箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0036】
負極活物質層64は負極活物質を含有する。当該負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。黒鉛は、天然黒鉛であっても人造黒鉛であってもよく、黒鉛が非晶質な炭素材料で被覆された形態の非晶質炭素被覆黒鉛であってもよい。
【0037】
負極活物質の平均粒子径(メジアン径:D50)は、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上50μm以下であり、好ましくは1μm以上25μm以下であり、より好ましくは5μm以上20μm以下である。
【0038】
負極活物質層64は、活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0039】
負極活物質層中の負極活物質の含有量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上99質量%以下がより好ましい。負極活物質層中のバインダの含有量は、0.1質量%以上8質量%以下が好ましく、0.5質量%以上3質量%以下がより好ましい。負極活物質層中の増粘剤の含有量は、0.3質量%以上3質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がより好ましい。
【0040】
負極活物質層64の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0041】
セパレータ70としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から成る多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0042】
非水電解液80には、上述の本実施形態に係る非水電解液が用いられる。なお、図1は、電池ケース30内に注入される非水電解液80の量を厳密に示すものではない。
【0043】
以上のようにして構成されるリチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。リチウムイオン二次電池100は、典型的には複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0044】
なお、一例として扁平形状の捲回電極体20を備える角形のリチウムイオン二次電池100について説明した。しかしながら、ここに開示される非水電解液二次電池は、積層型電極体(すなわち、複数の正極と、複数の負極とが交互に積層された電極体)を備えるリチウムイオン二次電池として構成することもできる。また、ここに開示される非水電解液二次電池は、コイン型リチウムイオン二次電池、ボタン型リチウムイオン二次電池、円筒形リチウムイオン二次電池、ラミネート型リチウムイオン二次電池として構成することもできる。また、ここに開示される非水電解液二次電池は、公知方法に従い、リチウムイオン二次電池以外の非水電解液二次電池として構成することもできる。
【0045】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0046】
<非水電解液の調製>
非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、30:40:30の体積比で含有する混合溶媒を準備した。また、支持塩としてのLiPFを1.0Mとなるように添加した。この混合溶媒に、表1に示す添加剤(LiPO)およびCsカチオン含有化合物を、それぞれ非水電解液の全体を100質量%としたときに表1に示す含有量となるように添加することにより、各サンプルに係る非水電解液を調製した。
【0047】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
正極活物質粉末としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3(LNCM)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、LNCM:AB:PVdF=87:10:3の質量比でN-メチルピロリドン(NMP)と混合し、正極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、アルミニウム箔に塗布して乾燥した後、ロールプレスすることにより、正極シートを作製した。
負極活物質としての天然黒鉛系材料(C)(平均粒子径:20μm)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=98:1:1の質量比でイオン交換水と混合して、負極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、銅箔に塗布して乾燥した後、ロールプレスすることにより、負極シートを作製した。
また、セパレータシートとして、PP/PE/PPの三層構造の多孔質ポリオレフィンシート(ガーレー試験法によって得られる透気度は250秒であった)を用意した。
上記のとおり作製した正極シートと負極シートとを、セパレータシートを介して対向させて電極体を作製した。そして、この電極体に集電体を取り付けた後、各サンプルに係る非水電解液と共にラミネートケースに収容した。ラミネートケースを封止することにより、評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0048】
<コンディショニング>
上記のとおり作製した各リチウムイオン二次電池を25℃の環境下に置いた。各リチウムイオン二次電池に対し、0.3Cの電流値で4.1Vまで定電流充電した後、0.3Cの電流値で3.0Vまで定電流放電した。続いて、0.2Cの電流値で4.1Vまで定電流充電した後、電流値が1/50Cになる点まで定電圧充電を行い、満充電状態とした。そして、0.2Cの電流値で3.0Vまで定電流放電したときの容量を初期容量とした。
【0049】
<初期電池抵抗測定>
コンディショニングした各リチウムイオン二次電池の初期容量をSOC100%とし、25℃の環境下で、0.3Cの電流値でSOC30%になるまで充電した。これを-30℃の温度環境下に置き、2秒間放電した。放電電流レートは3C、5C、8C、12Cとし、各電流レートで放電した後の電圧を測定した。電流レートおよび電圧変化量よりIV抵抗を算出し、その平均値を初期電池抵抗とした。サンプル15に係るリチウムイオン二次電池の初期抵抗を「1.00」とした場合のその他の電池の初期抵抗の比を算出した。結果を表1の「初期抵抗比」の欄に示した。なお、初期抵抗比の値が1.1以下である場合、電池の抵抗増加が好適に抑制されていると評価することができる。
【0050】
<金属リチウム析出耐性-容量維持率の測定>
上記初期電池抵抗測定後の各評価用リチウムイオン二次電池に対し、25℃の環境下で、0.3Cの電流値でSOC60%になるまで充電した。これを-30℃の温度環境下に置き、20Cの電流値で0.5秒間のパルス電流での充放電を10000サイクル数繰り返した。その後、初期容量と同様にして容量を測定した。容量維持率(%)=(充放電サイクル後の容量/初期容量)×100により、容量維持率を求めた。結果を表1の「低温パルス試験後の容量維持率」の欄に示した。なお、容量維持率の値が大きいほど、金属Li析出耐性が高いと評価することができる。また、ここでは、容量維持率が98%以上であった場合に、容量維持率に優れる(即ち、金属Li析出耐性に優れる)と評価される。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示すように、添加剤としてのLiPOと、Csカチオン含有化合物とを含み、非水電解液の全体を100質量%としたときに、LiPOを1.0質量%以下含有し、かつ、Csカチオン含有化合物を0.1質量%~0.5質量%含有する非水電解液を用いたサンプル1~14に係るリチウムイオン二次電池によると、LiPOを単独で用いたサンプル15、Csカチオン含有化合物を単独で用いたサンプル16~21、LiPOを1.0質量%以下含有し、かつ、Csカチオン含有化合物を上記範囲外としたサンプル22、LiPOを1.0質量%超含有し、かつ、Csカチオン含有化合物を上記範囲内としたサンプル23と比較して、電池の抵抗(ここでは、電池の初期抵抗)の増加を抑制しつつ、金属Li析出耐性の向上が好適の実現されることが確認された。
【0053】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0054】
20 捲回電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極シート(正極)
52 正極集電体
52a 正極活物質層非形成部分
54 正極活物質層
60 負極シート(負極)
62 負極集電体
62a 負極活物質層非形成部分
64 負極活物質層
70 セパレータシート(セパレータ)
80 非水電解液
100 リチウムイオン二次電池

図1
図2