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特許7343583電解液、並びに、電解液を含む電気化学装置及び電子装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】電解液、並びに、電解液を含む電気化学装置及び電子装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20230905BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230905BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230905BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20230905BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01M4/38 Z
H01M4/48
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021531033
(86)(22)【出願日】2020-08-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-14
(86)【国際出願番号】 CN2020108970
(87)【国際公開番号】W WO2022032585
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2021-05-31
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】彭謝学
(72)【発明者】
【氏名】鄭建明
(72)【発明者】
【氏名】唐超
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/151658(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111640986(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587;10/36-10/39
H01M4/38、4/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液であって、前記電解液は、式Iで示される化合物の少なくとも一種を含み、
【化20】
ここで、A、A及びAは、それぞれ独立して、下記の式I-A、式I-B、式I-C、及び式I-Dからなる群から選択され、且つ、A、A及びAは同時にI-Aではなく、
【化21】
ここで、
【化22】
は隣接原子との結合手を表し、
ここで、m、kは、それぞれ独立して、0及び1からなる群から選択され、nは~6の整数からなる群から選択され、
11、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R1a、R1b、R1c及びR1dは、それぞれ独立して、置換又は無置換のC-C10アルキレン基、置換又は無置換のC-C10アルケニレン基、置換又は無置換のC-C10アルキニレン基、置換又は無置換のC-C10アレニル基、置換又は無置換のC-C10アリール基、及び、置換又は無置換のC-C10脂環式炭化水素基からなる群から選択され、
12は、置換又は無置換のC-C10アルキル基、置換又は無置換のC-C10アルケニル基、置換又は無置換のC-C10アルキニル基、置換又は無置換のC-C10アレニル基、置換又は無置換のC-C10アリール基、置換又は無置換のC-C10脂環式炭化水素基、及び、置換又は無置換のヘテロ原子含有官能基からなる群から選択され、
ここで、置換される場合、置換基はそれぞれ独立してハロゲンからなる群から選択され、
前記電解液は、さらに硫黄-酸素二重結合を含有する化合物を含み、前記硫黄-酸素二重結合を含有する化合物は、スルホラン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、メチレンメタンジスルホネート、1,3-プロパンジスルホン酸無水物、硫酸エチレン、亜硫酸エチレン、4-メチル-1,3,2-ジオキサチオラン2,2-ジオキシド、2,4-ブタンスルトン、2-メチル-1,3-プロパンスルトン、1,3-ブタンスルトン、1-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、2-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、プロペン1,3-スルトン、硫酸プロピレン、亜硫酸プロピレン、及びフルオロエチレンスルファートの少なくとも一種を含み、ここで、前記電解液の総重量に対して、前記硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の含有量は0.01%~10%であり、
前記電解液は、さらにP-O結合を含有する化合物を含み、前記P-O結合を含有する化合物は、ジフルオロリン酸リチウム、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム、テトラフルオロオキサラトリン酸リチウム、1,2-ビス((ジフルオロホスフィノ)オキシ)エタン、リン酸トリメチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリイソプロピル、リン酸3,3,3-トリフルオロエチル、亜リン酸3,3,3-トリフルオロエチル、リン酸トリス(トリメチルシリル)、エトキシ(ペンタフルオロ)シクロトリホスファゼン、及びペンタフルオロ(フェノキシ)シクロトリホスファゼンの少なくとも一種を含み、ここで、前記電解液の総重量に対して、前記P-O結合を含有する化合物の含有量は0.1%~3%である、電解液。
【請求項2】
前記式Iで示される化合物は、
【化23】
【化24】
の少なくとも一種を含む、請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記電解液の総重量に対して、前記式Iで示される化合物の含有量は0.01%~5%である、請求項1に記載の電解液。
【請求項4】
さらにポリニトリル化合物を含み、前記ポリニトリル化合物は、アジポニトリル、スクシノニトリル、1,2-ビス(2-シアノエトキシ)エタン、1,2,3-プロパントリカルボニトリル、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,6-ヘキサントリカルボニトリル、及び1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパンの少なくとも一種を含む、請求項1に記載の電解液。
【請求項5】
前記電解液の総重量に対して、前記式Iで示される化合物の含有量をa%とし、前記ポリニトリル化合物の含有量をb%としたときに、前記式Iで示される化合物の含有量と前記ポリニトリル化合物の含有量との比a/bは、0.1以上80以下である、請求項に記載の電解液。
【請求項6】
正極、負極、セパレータ及び請求項1~のいずれか1項に記載の電解液を含む電気化学装置。
【請求項7】
前記電解液は、さらに金属元素を含み、前記金属元素は、Cu、Co、Ni、及びMnの少なくとも一種を含み、前記電解液における前記金属元素の含有量は1000ppm未満である、請求項に記載の電気化学装置。
【請求項8】
前記負極は、負極活物質層及び負極集電体を含み、前記負極活物質層は負極活物質を含み、前記負極活物質はケイ素含有材料を含む、請求項に記載の電気化学装置。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか1項に記載の電気化学装置を含む、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵技術分野に関し、特に、電解液、並びに、電解液を含む電気化学装置及び電子装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池などの電気化学装置は、エネルギー密度が高く、メンテナンスが少なく、自己放電が比較的少なく、サイクル寿命が長く、メモリー効果がなく、動作電圧が安定し、環境に優しいなどの特性を備えるため、幅広い注目を集めて、携帯型電子デバイス(携帯電話、ノートパソコン、カメラなどの電子製品を含む)、電動工具、及び電気自動車などの分野に広く使用されている。しかしながら、技術の急速な発展とマーケットニーズの多様性に伴い、例えば、より薄く、より軽く、外形のより多様化、より高い安全性、より高い電力などのさらなる要求が電子製品の電源に求められている。
【0003】
充電電圧を上げること/活物質の容量を増やすことは、電池のエネルギー密度を高める主な方法であるが、これらは電解液の分解を促進し、電池にガスを発生させる。高価数遷移金属をどのように安定化し、電解液の分解を抑制するかということは、従来技術において早く解決されるべき技術的問題である。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、関連分野に存在した少なくとも一つの問題を解決することを意図するように、電解液及びこの電解液を用いた電気化学装置を提供する。特に、本発明で提供される電解液は、電気化学装置の高温特性と浮動充電特性を著しく改善させることができる。
【0005】
本発明は、式Iで示される化合物の少なくとも一種を含み、
【化1】
ここで、A、A及びAは、それぞれ独立して、下記の式I-A、式I-B、式I-C、及び式I-Dからなる群から選択され、且つ、A、A及びAは同時にI-Aではなく、
【化2】
ここで、
【化3】
は隣接原子との結合手を表し、
ここで、m、kは、それぞれ独立して、0及び1からなる群から選択され、nは1~6の整数からなる群から選択され、
11、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R1a、R1b、R1c及びR1dは、それぞれ独立して、H、置換又は無置換のC-C10アルキレン基、置換又は無置換のC-C10アルケニレン基、置換又は無置換のC-C10アルキニレン基、置換又は無置換のC-C10アレニル(Allenyl)基、置換又は無置換のC-C10アリール基、置換又は無置換のC-C10脂環式炭化水素基からなる群から選択され、
12は、置換又は無置換のC-C10アルキル基、置換又は無置換のC-C10アルケニル基、置換又は無置換のC-C10アルキニル基、置換又は無置換のC-C10アレニル基、置換又は無置換のC-C10アリール基、置換又は無置換のC-C10脂環式炭化水素基、及び、置換又は無置換のヘテロ原子含有官能基からなる群から選択され、
ここで、置換される場合、置換基はそれぞれ独立してハロゲンからなる群から選択される、電解液を提供する。
【0006】
一部の実施例において、電解液における式Iで示される化合物は、
【化4】
【化5】
の少なくとも一種を含む。
【0007】
一部の実施例において、電解液の総重量に対して、前記式Iで示される化合物の含有量は0.01%~5%である。
【0008】
一部の実施例において、本発明の電解液は、さらに硫黄-酸素二重結合を含有する化合物を含み、前記硫黄-酸素二重結合を含有する化合物は、スルホラン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、メチレンメタンジスルホネート、1,3-プロパンジスルホン酸無水物、硫酸エチレン、亜硫酸エチレン、4-メチル-1,3,2-ジオキサチオラン2,2-ジオキシド、2,4-ブタンスルトン、2-メチル-1,3-プロパンスルトン、1,3-ブタンスルトン、1-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、2-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、プロペン1,3-スルトン、硫酸プロピレン、亜硫酸プロピレン、及びフルオロエチレンスルファートの少なくとも一種を含み、ここで、電解液の総重量に対して、前記硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の含有量は0.01%~10%である。
【0009】
一部の実施例において、本発明の電解液は、さらにP-O結合を含有する化合物を含み、前記P-O結合を含有する化合物は、ジフルオロリン酸リチウム、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム、テトラフルオロオキサラトリン酸リチウム、1,2-ビス((ジフルオロホスフィノ)オキシ)エタン、リン酸トリメチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリイソプロピル、リン酸3,3,3-トリフルオロエチル、亜リン酸3,3,3-トリフルオロエチル、リン酸トリス(トリメチルシリル)、エトキシ(ペンタフルオロ)シクロトリホスファゼン、及びペンタフルオロ(フェノキシ)シクロトリホスファゼンの少なくとも一種を含み、ここで、電解液の総重量に対して、前記P-O結合を含有する化合物の含有量は0.1%~3%である。
【0010】
一部の実施例において、本発明の電解液は、さらにポリニトリル化合物を含み、前記ポリニトリル化合物は、アジポニトリル、スクシノニトリル、1,2-ビス(2-シアノエトキシ)エタン、1,2,3-プロパントリカルボニトリル、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,6-ヘキサントリカルボニトリル、及び1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパンの少なくとも一種を含む。
【0011】
一部の実施例において、電解液の総重量に対して、式Iで示される化合物の含有量をa%とし、ポリニトリル化合物の含有量をb%としたときに、式Iで示される化合物の含有量とポリニトリル化合物の含有量との比a/bは、0.1以上80以下である。
【0012】
本発明は、さらに、正極、負極、セパレータ及び本発明に記載の電解液を含む電気化学装置を提供する。
【0013】
一部の実施例において、電気化学装置における電解液は、さらに金属元素を含み、この金属元素は、Cu、Co、Ni、及びMnの少なくとも一種を含み、電解液における金属元素の含有量は1000ppm未満である。
【0014】
一部の実施例において、電気化学装置における負極は、負極活物質を含み、この負極活物質は、ケイ素含有材料を含む。
【0015】
本発明は、さらに、本発明に記載の電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、本発明の目的、技術案及び利点をより明らかにするために、本発明の技術案は、実施例を参照して、明確且つ完全に説明される。以下に説明される実施例は、本発明の実施例の一部であり、実施例のすべてではないことが明らかである。ここで説明される実施例は、例示的なものであり、本発明を概に理解するために使用されるものである。本発明の実施例は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。本発明に記載される技術案及び実施例に基づいて、当業者が創造的労力をかけない前提で得られる他のすべての実施例は、本発明の保護範囲に属するものである。
【0017】
本発明で使用されるように、「約」との用語は小さな変化を叙述及び説明するためのものである。事例又は状況と合わせて用いる場合、前記用語は、その事例又は状況が正確に発生する例及びその事例又は状況が極めて近似的に発生する例を指しうる。例を挙げると、数値と合わせて用いる場合、用語は、前記数値の±10%以下の変化範囲、例えば、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、又は±0.05%以下の変化範囲を指しうる。例を挙げると、2つの数値の差が前記数値の平均値の±10%以下(例えば、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、又は±0.05%以下)である場合、前記2つの数値は「約」同じであると考えられる。
【0018】
なお、本発明では、範囲の形で量、比率及び他の数値を表すことがある。当業者にとって理解できるように、このような範囲の形は、便宜上及び簡潔にするためのものであり、当該範囲に明確に限定されている数値を含むだけでなく、前記範囲に含まれるすべての各々の値又はサブ範囲も含み、それは、各々の値又はサブ範囲を明確に限定することに相当する。
【0019】
具体的な実施形態及び請求の範囲において、「の一方」、「の一つ」、「の一種」との用語、又は、他の類似な用語で接続される項のリストは、リストされる項のいずれか一つを意味する。例えば、項A及び項Bがリストされる場合、「A及びBの一方」という句は、Aのみ、又はBのみを意味する。他の実例において、項A、項B及び項Cがリストされる場合、「A、B及びCの一方」という句は、Aのみ、Bのみ、又はCのみを意味する。項Aは、単一の素子又は複数の素子を含んでいてもよい。項Bは、単一の素子又は複数の素子を含んでいてもよい。項Cは、単一の素子又は複数の素子を含んでいてもよい。
【0020】
具体的な実施形態及び請求の範囲において、「の少なくとも一方」、「の少なくとも一つ」、「の少なくとも一種」との用語、又は、他の類似な用語で接続される項のリストは、リストされる項の任意の組み合わせを意味する。例えば、項A及び項Bがリストされる場合、「A及びBの少なくとも一方」という句は、Aのみ、Bのみ、又は、A及びBを意味する。他の実例において、項A、項B、及び項Cがリストされる場合、「A、B、及びCの少なくとも一方」という句は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、A及びB(Cを除く)、A及びC(Bを除く)、B及びC(Aを除く)、又は、A、B及びCのすべてを意味する。項Aは、単一の素子又は複数の素子を含んでいてもよい。項Bは、単一の素子又は複数の素子を含んでいてもよい。項Cは、単一の素子又は複数の素子を含んでいてもよい。
【0021】
本発明では、以下の定義が使用される(別に明記されない限り)。
【0022】
簡単のため、「Cn-Cm」基は、「n」~「m」個の炭素原子を有する基を指し、ここで、「n」及び「m」は整数である。例えば、「C1-C10」アルキル基は、1~10個の炭素原子を有するアルキル基である。
【0023】
「アルキル基」との用語は、1~20個の炭素原子を有する直鎖状飽和炭化水素構造であると予期される。「アルキル基」は、また、3~20個の炭素原子を有する分岐状又は環状炭化水素構造であると予期される。例えば、アルキル基は、1~20個の炭素原子のアルキル基、1~10個の炭素原子のアルキル基、1~5個の炭素原子のアルキル基、5~20個の炭素原子のアルキル基、5~15個の炭素原子のアルキル基、又は5~10個の炭素原子のアルキル基であり得る。特定の炭素数を有するアルキル基を指定すると、その炭素数を有するすべての幾何異性体を包含することが予期される。そのため、例えば、「ブチル基」は、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基及びシクロブチル基を含むことを意味し、「プロピル基」は、n-プロピル基、iso-プロピル基及びシクロプロピル基を含むことを意味する。アルキル基の実例は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、オクチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、ノルボルニル基などを含むが、これらに限定されない。なお、アルキル基は、任意に置換されてもよい。
【0024】
「アルケニル基」との用語は、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、且つ、少なくとも一つ、通常は1個、2個、又は3個の炭素-炭素二重結合を有する一価の不飽和炭化水素基を指す。別に定義されない限り、前記アルケニル基は、一般的に2~20個の炭素原子を含有する。前記アルケニル基は、例えば、2~20個の炭素原子のアルケニル基、6~20個の炭素原子のアルケニル基、2~10個の炭素原子のアルケニル基、又は2~6個の炭素原子のアルケニル基であり得る。代表的なアルケニル基は、(例えば)ビニル基、n-プロペニル基、イソプロペニル基、n-ブト-2-エニル基、ブト-3-エニル基、n-ヘキサ-3-エニル基などを含む。なお、アルケニル基は、任意に置換されてもよい。
【0025】
「アルキニル基」との用語は、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、少なくとも一つ、通常は1個、2個、又は3個の炭素-炭素三重結合を有する一価の不飽和炭化水素基を指す。別に定義されない限り、前記アルキニル基は、一般的に2~20個の炭素原子を含有する。前記アルキニル基は、例えば、2~20個の炭素原子のアルキニル基、6~20個の炭素原子のアルキニル基、2~10個の炭素原子のアルキニル基、又は2~6個の炭素原子のアルキニル基であり得る。代表的なアルキニル基は、(例えば)エチニル基、プロプ-2-イニル基(n-プロピニル基)、n-ブト-2-イニル基、n-ヘキサ-3-イニル基などを含む。なお、アルキニル基は、任意に置換されてもよい。
【0026】
本発明で使用される「アルキレン基」、「アルケニレン基」又は「アルキニレン基」との用語は、他の2つの化学基の間に位置し、且つ他の2つの化学基を接続する、前文でそれぞれに定義された「アルキル基」、「アルケニル基」又は「アルキニル基」を指す。アルキレン基の実例は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、及びブチレン基を含むが、これらに限定されない。アルケニレン基の実例は、ビニレン基、プロペニレン基及びブテニレン基を含むが、これらに限定されない。アルキニレン基の実例は、エチニレン基、プロピニレン基及びブチニレン基を含むが、これらに限定されない。
【0027】
「アレニル基」との用語は、分子内に一対の隣接する炭素-炭素二重結合を有すること、即ち、一つの炭素原子が二つの二重結合によって二つの隣接する炭素原子に接続することを意味し、例えば、
【化6】
を指す。
【0028】
「アリール基」との用語は、単環(例えば、フェニル基)又は縮合環を有する一価の芳香族炭化水素を指す。縮合環系は、完全に不飽和な環系(例えば、ナフタレン)及び部分的に不飽和な環系(例えば、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン)を含む。別に定義されない限り、前記アリール基は、一般的に、6~26個、6~20個、6~15個、又は6~10個の炭素環原子を含有し、且つ、(例えば)-C6-10アリール基を含む。代表的なアリール基は、(例えば)フエニル基、メチルフェニル基、プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、ベンジル基及びナフタレン-1-イル基、ナフタレン-2-イル基などを含む。
【0029】
「複素環」又は「ヘテロシクリル基」との用語は、1~3個の炭素原子が窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群から選択されるヘテロ原子で置換される、置換又は無置換の5~8員の単環式又は二環式非芳香族炭化水素を指す。実例は、ピロリジン-2-イル基、ピロリジン-3-イル基、ピペリジル基、モルホリン-4-イル基などを含む。その後、これらの基は置換されてもよい。「ヘテロ原子」は、N、O及びSからなる群から選択される原子である。
【0030】
「脂環式炭化水素基」は、約3~15個の炭素、又は3~12個の炭素、又は3~8個の炭素、又は3~6個の炭素、又は、5もしくは6個の炭素を有する、飽和、部分的に不飽和又は不飽和の単環式、二環式、三環式、又は多環式炭化水素基を指す。脂環式炭化水素基の実例は、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロブテニル基、シクロペンチル基、シクロペンテニル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などを含むが、これらに限定されない。
【0031】
本発明で使用されるように、「ハロゲン」との用語は、F、Cl、Br又はIであり得る。
【0032】
本発明で使用されるように、「シアノ基」との用語は、有機基-CNを含有する有機物を包含する。
【0033】
前記置換基が置換される場合、置換基は、ハロゲン、アルキル基、アルケニル基、アリール基及びヘテロアリール基からなる群から選択される基であってもよい。
【0034】
(一、電解液)
(1、式Iで示される化合物)
本発明は、式Iで示される化合物の少なくとも一種を含み、
【化7】
ここで、A、A及びAは、それぞれ独立して、下記の式I-A、式I-B、式I-C、及び式I-Dからなる群から選択され、且つ、A、A及びAは同時にI-Aではなく、
【化8】
ここで、
【化9】
は隣接原子との結合手を表し、
ここで、m、kは、それぞれ独立して0及び1からなる群から選択され、nは1~6の整数からなる群から選択され、
11、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R1a、R1b、R1c及びR1dは、それぞれ独立して、H、置換又は無置換のC-C10アルキレン基、置換又は無置換のC-C10アルケニレン基、置換又は無置換のC-C10アルキニレン基、置換又は無置換のC-C10アレニル基、置換又は無置換のC-C10アリール基、及び、置換又は無置換のC-C10脂環式炭化水素基からなる群から選択され、
12は、置換又は無置換のC-C10アルキル基、置換又は無置換のC-C10アルケニル基、置換又は無置換のC-C10アルキニル基、置換又は無置換のC-C10アレニル基、置換又は無置換のC-C10アリール基、置換又は無置換のC-C10脂環式炭化水素基、及び、置換又は無置換のヘテロ原子含有官能基からなる群から選択され、
ここで、置換される場合、置換基はそれぞれ独立してハロゲンからなる群から選択される、電解液を提供する。
【0035】
一部の実施例において、式Iで示される化合物におけるA、A及びAは、式I-A及び式I-Bの両方を含むか、式I-B及び式I-Cの両方を含むか、式I-A及び式I-Cの両方を含むか、又は、いずれも式I-Bである。
【0036】
一部の実施例において、電解液における式Iで示される化合物は、
【化10】
【化11】
の少なくとも一種を含む。
【0037】
一部の実施例において、電解液の総重量に対して、前記式Iで示される化合物の含有量は0.01%~5%である。例えば、式Iで示される化合物の含有量は、約0.01%、約0.05%、約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、約1.0%、約2.0%、約3.0%、約4.0%又は約5.0%であってもよく、或いは、上記の任意の2つの数値の間の範囲である。
【0038】
(2、他の添加剤)
一部の実施例において、電解液は、さらに、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物、P-O結合を含有する化合物、ポリニトリル化合物又は環状カーボネート系化合物の少なくとも一種を含む。
【0039】
((1)硫黄-酸素二重結合を含有する化合物)
本発明の電解液は、さらに、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物を含んでもよく、この硫黄-酸素二重結合を含有する化合物は、式II-Aで示される化合物の少なくとも一種を含んでもよく、
【化12】
ここで、
21及びR22は、それぞれ独立して、置換又は無置換のC-Cアルキル基、置換又は無置換のC-Cアルキレン基、置換又は無置換のC-C10アルケニル基、置換又は無置換のC-C10アルキニル基、置換又は無置換のC-C10脂環基、置換又は無置換のC-C10アリール基、置換又は無置換のC-Cヘテロシクリル基(ヘテロシクリル基は脂肪族ヘテロシクリル基及び芳香族ヘテロシクリル基を含む)、ここで、置換される場合、置換基は、ハロゲン原子及びヘテロ原子含有官能基の一種又は複数種であり、ここで、R21及びR22は閉環構造を形成してもよく、ヘテロ原子は、B、N、O、F、Si、P及びSからなる群から選択される一種又は複数種である。
【0040】
一部の実施例において、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物は、
【化13】
【化14】
の少なくとも一種を含むが、これらに限定されない。
【0041】
一部の実施例において、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物は、スルホラン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、メチレンメタンジスルホネート、1,3-プロパンジスルホン酸無水物、硫酸エチレン、亜硫酸エチレン、4-メチル-1,3,2-ジオキサチオラン2,2-ジオキシド、2,4-ブタンスルトン、2-メチル-1,3-プロパンスルトン、1,3-ブタンスルトン、1-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、2-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、プロペン1,3-スルトン、硫酸プロピレン、亜硫酸プロピレン、及びフルオロエチレンスルファートの少なくとも一種を含む。
【0042】
一部の実施例において、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物は、スルホラン(II-7)、1,3-プロパンスルトン(II-12)、プロペン1,3-スルトン(II-17)、硫酸エチレン(II-18)、及びメチレンメタンジスルホネート(II-21)の少なくとも一種を含む。
【0043】
一部の実施例において、電解液に硫黄-酸素二重結合を含有する化合物が含まれる場合、この電解液の総重量に対して、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の含有量は、0.01%~10%であり、より好ましくは0.1%~8%である。例えば、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の含有量は、約0.01%、約0.05%、約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、約1.0%、約2.0%、約3.0%、約4.0%、約5.0%、約6.0%、約8.0%、約9.0%又は約10.0%であってもよく、或いは、上記の任意の2つの数値の間の範囲である。
【0044】
本発明に係る硫黄-酸素二重結合を含有する化合物は、強力な抗酸化能力を持ち、正極材料で酸化されにくいである。一方、この硫黄-酸素二重結合を含有する化合物は、負極でリチウムが析出した場合、金属リチウムの表面で還元されて保護膜を形成することにより、金属リチウムと電解液との分解反応による発熱を抑制し、活物質に対する保護をさらに補強する。
【0045】
((2)P-O結合を含有する化合物)
一部の実施例において、本発明の電解液は、さらにP-O結合を含有する化合物を含み、前記P-O結合を含有する化合物は、ジフルオロリン酸リチウム、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム、テトラフルオロオキサラトリン酸リチウム、1,2-ビス((ジフルオロホスフィノ)オキシ)エタン、リン酸トリメチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリイソプロピル、リン酸3,3,3-トリフルオロエチル、亜リン酸3,3,3-トリフルオロエチル、リン酸トリス(トリメチルシリル)、エトキシ(ペンタフルオロ)シクロトリホスファゼン、及びペンタフルオロ(フェノキシ)シクロトリホスファゼンの少なくとも一種を含む。
【0046】
一部の実施例において、電解液の総重量に対して、P-O結合を含有する化合物の含有量は0.1%~3%である。例えば、P-O結合を含有する化合物の含有量は約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、約1.0%、約1.5%、約2.0%、約2.5%又は約3.0%であってもよく、或いは、上記の任意の2つの数値の間の範囲である。
【0047】
((3)ポリニトリル化合物)
一部の実施例において、本発明の電解液は、さらにポリニトリル化合物を含み、前記ポリニトリル化合物は、ジニトリル及びトリニトリル化合物の少なくとも一種を含む。一部の実施例において、ポリニトリル化合物は、アジポニトリル、スクシノニトリル、1,2-ビス(2-シアノエトキシ)エタン、1,2,3-プロパントリカルボニトリル、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,6-ヘキサントリカルボニトリル、及び1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパンの少なくとも一種を含むが、これらに限定されない。
【0048】
一部の実施例において、ポリニトリル化合物は、1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパン(TCEP)、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル(HTCN)、1,2-ビス(2-シアノエトキシ)エタン(DENE)、及びアジポニトリル(ADN)の少なくとも一種を含み、それらの構造は次のとおりである。
【化15】
【0049】
一部の実施例において、電解液にポリニトリル化合物が含まれる場合、式Iで示される化合物とポリニトリル化合物との質量比は0.1以上80以下である。例えば、式Iで示される化合物とポリニトリル化合物との質量比は約0.1、約0.15、約0.2、約0.25、約0.3、約0.4、約0.5、約0.6、約0.7、約0.8、約0.9、約1.0、約1.5、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約12、約15、約18、約20、約25、約28、約30、約35、約40、約45、約50、約60、約70、約80であってもよく、或いは、上記の任意の2つの数値の間の範囲である。
【0050】
((4)環状カーボネート添加剤)
一部の実施例において、電解液は、さらに、環状カーボネート添加剤を含んでもよく、前記環状カーボネート添加剤は、式IIIで示される化合物の少なくとも一種を含み、
【化16】
ここで、Rは置換のC-Cアルキレン基、及び置換又は無置換のC-Cアルケニレン基からなる群から選択され、置換される場合、置換基は、ハロゲン、C-Cアルキル基、及びC-Cアルケニル基からなる群から選択される。
【0051】
一部の実施例において、環状カーボネート添加剤は、
【化17】
の少なくとも一種を含むが、これらに限定されない。
【0052】
一部の実施例において、環状カーボネート添加剤は、フルオロエチレンカーボネート(FEC)及びビニレンカーボネート(VC)の少なくとも一種を含む。
【0053】
一部の実施例において、電解液に環状カーボネート添加剤が含まれる場合、この電解液の総重量に対して、環状カーボネート添加剤の含有量は、0.01%~30%である。例えば、環状カーボネート添加剤の含有量は、約0.01%、約0.05%、約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、約1.0%、約2.0%、約3.0%、約4.0%、約5.0%、約6.0%、約8.0%、約9.0%、約10%、約15%、約18%、約20%、約25%又は約30%であってもよく、或いは、上記の任意の2つの数値の間の範囲である。
【0054】
本発明において、式Iで示される化合物と環状カーボネート添加剤との協力作用は、SEIフィルムの安定性をさらに高めることができるとともに、SEIフィルムの柔軟性を高め、活物質に対する保護作用を補強し、活物質と電解液の界面との接触確率を低減して、サイクル中の副生成物の蓄積による抵抗増加を改善することができる。
【0055】
((5)ホウ素含有リチウム塩)
一部の実施例において、本発明の電解液は、さらに、ホウ素含有リチウム塩を含み、前記ホウ素含有リチウム塩は、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiB(C、LiBOB)及びジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBF(C)、LiDFOB)の少なくとも一種を含む。
【0056】
一部の実施例において、電解液にホウ素含有リチウム塩が含まれる場合、この電解液の総重量に対して、ホウ素含有リチウム塩の含有量は0.01%~3%である。例えば、ホウ素含有リチウム塩の含有量は約0.01%、約0.05%、約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、約1.0%、約2.0%、約3.0%であってもよく、或いは、上記の任意の2つの数値の間の範囲である。
【0057】
(3、有機溶媒)
本発明の電解液は、さらに、非水有機溶媒を含んでもよい。
【0058】
一部の実施例において、非水有機溶媒は、炭酸エステル、カルボン酸エステル、エーテル系、又は他の非プロトン性溶媒を含んでもよい。炭酸エステル系溶媒の例は、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどを含む。カルボン酸エステル系溶媒の例は、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロパン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル、γ-ブチロラクトン、酢酸2,2-ジフルオロエチル、バレロラクトン、ブチロラクトン、2-フルオロ酢酸エチル、2,2-ジフルオロ酢酸エチル、トリフルオロ酢酸エチル、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピオン酸エチル、2,2,3,3,4,4,4,4-ヘプタフルオロ酪酸メチル、4,4,4-トリフルオロ-3-(トリフルオロメチル)酪酸メチル、2,2,3,3,4,4,5,5,5,5-ノナフルオロ吉草酸エチル、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9-ヘプタフルオロノナン酸メチル、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9-ヘプタフルオロノナン酸エチルなどを含む。エーテル系溶媒の例は、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテルなどを含む。
【0059】
一部の実施例において、電解液には、一種類の非水有機溶媒を使用してもよく、複数の非水有機溶媒の混合物を使用してもよい。混合溶媒を使用する場合、所望の電気化学装置の特性に応じて混合比を制御することができる。
【0060】
(4、リチウム塩)
本発明の電解液は、さらに、リチウム塩を含んでもよく、前記リチウム塩は、有機リチウム塩及び無機リチウム塩の少なくとも一種を含むか、或いは、これらからなる群から選択される少なくとも一種である。一部の実施例において、リチウム塩には、フッ素元素、ホウ素元素及びリン元素の少なくとも一種を含む。
【0061】
一部の実施例において、本発明のリチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ヘキサフルオロアンチモン酸リチウム(LiSbF)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF)、ペルフルオロブタンスルホン酸リチウム(LiCSO)、過塩素酸リチウム(LiClO)、アルミン酸リチウム(LiAlO)、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl)、ビススルホンイミドリチウム(LiN(C2x+1SO)(C2y+1SO)、ここで、xとyは自然数である)、塩化リチウム(LiCl)、及びフッ化リチウム(LiF)の少なくとも一種を含むか、或いは、これらからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0062】
一部の実施例において、本発明の電解液におけるリチウム塩の濃度は0.5mol/L~3mol/L、0.5mol/L~2mol/L、又は0.8mol/L~1.5mol/Lである。
【0063】
一部の実施例において、電解液は、式Iで示される化合物と硫黄-酸素二重結合を含有する化合物との組み合わせ、式Iで示される化合物とホウ素含有リチウム塩との組み合わせ、式Iで示される化合物とポリニトリル化合物との組み合わせ、式Iで示される化合物と硫黄-酸素二重結合を含有する化合物とホウ素含有リチウム塩との組み合わせ、式Iで示される化合物と硫黄-酸素二重結合を含有する化合物とポリニトリル化合物との組み合わせ、式Iで示される化合物とポリニトリル化合物とホウ素含有リチウム塩との組み合わせを含んでもよい。
【0064】
一部の実施例において、電解液は、式Iで示される化合物と、1,3-プロパンスルトン、スルホラン、硫酸エチレン、メチレンメタンジスルホネート、テトラフルオロホウ酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロオキサラトリン酸リチウム、フルオロエチレンカーボネート及びビニレンカーボネートの少なくとも一種の添加剤とを含む。
【0065】
(二、電気化学装置)
本発明は、さらに、正極、負極、セパレータ及び本発明の電解液を含む電気化学装置を提供する。
【0066】
一部の実施例において、電気化学装置における電解液は、さらに金属元素を含み、この金属元素は、Cu、Co、Ni及びMnの少なくとも一種を含む。一部の実施例において、電解液における金属元素の含有量は1000ppm未満である。
【0067】
本発明において、式Iで示される化合物、又は、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物、P-O結合を含有する化合物、ポリニトリル化合物の少なくとも一方と式Iで示される化合物との協力作用により、正極集電体及び負極集電体中の金属の溶出を効果的に抑制し、正極活物質構造の安定性を維持し、負極集電体(例えば、銅箔)の腐食を抑制することができる。
【0068】
((1)正極)
本発明に係る電気化学装置の正極は、集電体及び集電体上に設置する正極活物質層を含む。正極活物質層は正極活物質を含み、正極活物質は可逆的にリチウムイオンを吸蔵及び放出する化合物(即ち、リチウム化層間化合物)を含む。正極活物質は、リチウムと、コバルト、マンガン及びニッケルからなる群から選択される少なくとも一種とを含む複合酸化物を含む。
【0069】
正極活物質である前記化合物は、表面に位置する被覆層を有してもよく、或いは,被覆層を有する別の化合物と混合してもよい。被覆層は、被覆元素の酸化物、被覆元素の水酸化物、被覆元素のオキシ水酸化物、被覆元素のオキシ炭酸塩(oxycarbonate)、及び被覆元素のヒドロキシ炭酸塩(hydroxyl carbonate)からなる群から選択される少なくとも一種の被覆元素の化合物を含んでもよい。被覆層に使用される化合物は、アモルファス又は結晶性であってもよい。一部の実施例において、被覆層に使用される被覆元素は、Mg、Al、Co、K、Na、Ca、Si、Ti、V、Sn、Ge、Ga、B、As、Zr又はそれらの混合物を含んでもよい。この化合物に前記元素が含まれているために正極活物質の特性に悪影響を及ぼさない限り、任意の方法で被覆層を形成することができる。例えば、この方法は、スプレー、ディッピングなどの、当業者にとって公知の任意の被覆方法を含んでもよい。
【0070】
正極活物質層は、バインダー及び導電材を含んでもよい。バインダーは、正極活物質粒子の同士の結着性、及び、正極活物質粒子と集電体との結着性を改善することができる。一部の実施例において、バインダーの非限定的な例としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリビニルクロリド、カルボキシル化ポリビニルクロリド、ポリフッ化ビニル、エチレンオキシドを含むポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル(エステル)化スチレンブタジエンゴム、エポキシ樹脂、ナイロンなどを含む。
【0071】
導電材は、電極に導電性を付与するために使用される。導電材は、望ましくない化学変化を引き起こさない限り、任意の導電材を含んでもよい。一部の実施例において、導電材の例は、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末や金属繊維など、又は、ポリフェニレン誘導体などの一種又は混合物を含む。集電体は、アルミニウムを含み得るが、これに限定されない。
【0072】
一部の実施例において、正極活物質層の圧縮密度は、3.2g/cm~4.5g/cmである。
【0073】
一部の実施例において、正極活物質は、リチウムコバルト酸化物を含み、正極活物質層の圧縮密度は、3.8g/cm~4.5g/cmであり、例えば、正極活物質層の圧縮密度は、約3.8g/cm、約3.85g/cm、約3.9g/cm、約4.0g/cm、約4.1g/cm、約4.15g/cm、約4.2g/cm、約4.3g/cm、約4.5g/cmであってもよく、或いは、上記の任意の2つの数値の間の範囲である。
【0074】
((2)負極)
一部の実施例において、電気化学装置の負極は、集電体及び集電体上に形成される負極活物質層を含む。負極活物質層は、負極活物質を含み、負極活物質は、可逆的にリチウムイオンを吸蔵・放出する材料、リチウム金属、リチウム金属合金、リチウムをドープ・脱ドープ可能な材料、又は遷移金属酸化物を含んでもよい。可逆的にリチウムイオンを吸蔵・放出する材料は、炭素材料であってもよい。炭素材料は、充電式電気化学装置で一般的に使用される炭素による任意の負極活物質であってもよい。炭素材料の例は、結晶性炭素、非晶質炭素又はそれらの組み合わせを含む。結晶性炭素は、アモルファス、フレーク形、小フレーク形、球状又は繊維状の天然黒鉛又は人造黒鉛であってもよい。非晶質炭素は、ソフトカーボン、ハードカーボン、メソフェーズピッチ炭化物、焼成コークスなどであってもよい。低結晶性炭素と高結晶性炭素の両方は、炭素材料として使用してもよい。低結晶性炭素材料として、一般的に、ソフトカーボン及びハードカーボンを含む。高結晶性炭素材料として、一般的に、天然黒鉛、結晶性黒鉛、熱分解炭素、中間相ピッチ系炭素繊維、中間相カーボンビーズ、中間相ピッチ、及び高温か焼炭(例えば、石油又はコールタールピッチ由来のコークス)を含む。
【0075】
負極活物質層は、粘着剤を含んでもよく、且つ、この粘着剤は、ジフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-co-HFP)、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルクロリド、カルボキシル化ポリビニルクロリド、ポリフッ化ビニル、エチレンオキシドを含むポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル(エステル)化スチレンブタジエンゴム、エポキシ樹脂、ナイロンなどの各種の粘着剤ポリマーを含み得るが、これに限定されない。
【0076】
負極活物質層は、電極の導電率を改善するように、導電材をさらに含んでもよい。望ましくない化学変化を引き起こさない限り、任意の導電材をこの導電材として使用してもよい。一部の実施例において、導電材の例は、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維などの炭素による材料;例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、銀などを含む金属粉末や金属繊維などの金属による材料;例えば、ポリフェニレン誘導体などの導電性重合体;又はそれらの混合物;を含む。一部の実施例において、集電体は、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、発泡ニッケル、発泡銅、導電性金属被覆重合体基板、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0077】
一部の実施例において、負極活物質は、ケイ素含有材料を含む。一部の実施例において、負極活物質は、ケイ素ー酸素複合体を含む。
【0078】
一部の実施例において、電気化学装置における負極活物質粒子の平均粒子径は5μm~22μmである。
【0079】
一部の実施例において、電気化学装置における負極活物質粒子の比表面積は1m/g~50m/gである。
【0080】
一部の実施例において、ケイ素ー酸素複合体SiO(0<x<2)は多孔質ケイ素系負極活物質である。
【0081】
一部の実施例において、この多孔質SiOx粒子ケイ素系負極活物質は、LiSiO及びLiSiOの少なくとも一種を含んでもよい。
【0082】
一部の実施例において、負極活物質層の圧縮密度は1.4g/cm~2.0g/cmである。例えば、負極活物質層の圧縮密度は、約1.4g/cm、約1.5g/cm、約1.6g/cm、約1.65g/cm、約1.7g/cm、約1.75g/cm、約1.8g/cm、約1.9g/cm、約2.0g/cmであってもよく、或いは、上記の任意の2つの数値の間の範囲である。
【0083】
(3)セパレータ)
一部の実施例において、電気化学装置のセパレータは、ポリオレフィン系多孔質フィルム、コート層(ポリオレフィン系多孔質フィルムの表面に塗工される)及びポリマー粘着剤を含む。
【0084】
一部の実施例において、セパレータは、ポリエチレン(PE)、エチレン-プロピレン共重合体、ポリプロピレン(PP)、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体の一種又は複数種からなる単層又は多層のポリオレフィン系多孔質フィルムを含む。
【0085】
一部の実施例において、セパレータのコート層は、無機セラミック粒子及び有機物を含む。コート層における有機物は、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、アクリル酸-スチレン共重合体、ポリジメチルシロキサン、ポリアクリル酸ナトリウム、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムの少なくとも一種を含む。コート層における無機セラミック粒子は、SiO、Al、CaO、TiO、ZnO、MgO、ZrO及びSnOの少なくとも一種を含む。
【0086】
一部の実施例において、コート層におけるポリマーは、ポリフッ化ビニリデンを含む。
【0087】
一部の実施例において、本発明の電気化学装置の充電カットオフ電圧は4.2V以上である。
【0088】
(三、電子装置)
本発明は、さらに、本発明に係る電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0089】
本発明に係る電気化学装置は、各分野の電子装置に適用する。本発明の電気化学装置の使用は、特に制限なく、先行技術で公知の任意の使用に使用される。一つの実施例において、本発明の電気化学装置は、ノートパソコン、ペン入力型コンピューター、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯型ファクシミリ、携帯型コピー機、携帯型プリンター、ステレオヘッドセット、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、携帯型CDプレーヤー、ミニCD、トランシーバー、電子ノートブック、計算機、メモリーカード、ポータブルテープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、補助自転車、自転車、照明器具、おもちゃ、ゲーム機、時計、電動工具、閃光灯、カメラ、大型家庭用ストレージバッテリー及びリチウムイオンコンデンサーなどの電子装置に使用されるが、これらに限定されない。
【0090】
本発明は、正極の高価数遷移金属の安定性を高めることができるという予想外の技術的効果を達成する。本発明で提供される式Iで示される化合物は、より多くのシアノ基を含み、構造中にリン元素を含むので、正極の高価数遷移金属の安定性を高めることができる。これにより、本発明の電解液は、電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)の高温貯蔵特性を著しく改善する。
【0091】
(実施例)
以下では、実施例を参照して、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明を説明するために使用され、本発明の範囲を制限するものではないことを理解すべきである。
【0092】
(実施例I)
(1、化合物I-13の合成)
500mLの三つ口フラスコに、トリス(2-シアノエチル)ホスフィン(38.64g、0.2mol)とn-ブタノール150mLを投入し、加熱還流して、完全に溶解させた後、撹拌しながら、1,2-ジブロモエタン16.9g(0.09mol)をゆっくりと加えた。混合物を合計24h加熱還流し、次に、即座にろ過し、沈殿物を収集し、乾燥し、そしてアセトニトリルで再結晶して、エチレンビス[トリス(2-シアノエチル)ホスホニウムブロミド]47.3gを得た。
【0093】
金属ナトリウム(3.8g)を無水エタノール200mLに溶解し、25℃までに冷却した。エチレンビス[トリス(2-シアノエチル)ホスホニウムブロミド]47.3gをナトリウムエトキシド溶液に加え、混合物を2時間還流した後、反応混合物を濃縮した。ろ過し、臭化ナトリウムを除去するように氷水で洗浄して、アセトン水溶液で再結晶して、3,3’,3’’,3’’’-(エタン-1,2-ジイルビス(ホスフィノトリイル))テトラプロピオニトリル(I-13)18.2gを得た。
【化18】
【0094】
(2、化合物I-21の合成)
100mLの丸底フラスコに、ジ(β-シアノエチル)ホスフィン2.8g、ピリジン1.9g、及びクロロホルム40mLを加えた。0℃で、ジ(β-シアノエチル)ホスフィンクロライド3.5gを加え、2h反応した後、水で2回抽出し、毎回水20mLで抽出し、乾燥し、クロロホルムを除去し、アセトン-水で再結晶して、3,3’,3’’,3’’’-(ジホスフィン-1,1,2,2-テトラキス)テトラプロピオニトリル(I-21)2.7gを得た。
【化19】
【0095】
(実施例II)
(1、調製方法)
1)電解液の調製
基礎電解液一:含水量が10ppm未満のアルゴン雰囲気グローブボックス内で、エチレンカーボネート(ECと略記)、プロピレンカーボネート(PCと略記)、ジエチルカーボネート(DECと略記)、プロピオン酸エチル(EPと略記)、プロパン酸プロピル(PPと略記)を1:1:1:1:1の質量比で均一に混合し、完全に乾燥したリチウム塩であるLiPF(1mol/L)を上記混合物に溶解して、基礎電解液一を得た。
【0096】
基礎電解液二:含水量が10ppm未満のアルゴン雰囲気グローブボックス内で、エチレンカーボネート(ECと略記)、プロピレンカーボネート(PCと略記)、ジエチルカーボネート(DECと略記)を3:3:4の質量比で均一に混合し、完全に乾燥したリチウム塩であるLiPF(1mol/L)を上記混合物に溶解して、基礎電解液二を得た。
【0097】
基礎電解液三:含水量が10ppm未満のアルゴン雰囲気グローブボックス内で、エチレンカーボネート(ECと略記)、プロピレンカーボネート(PCと略記)、ジエチルカーボネート(DECと略記)、プロピオン酸エチル(EPと略記))を1:2:6:1の質量比で均一に混合し、完全に乾燥したリチウム塩であるLiPF(1mol/L)を上記混合物に溶解して、基礎電解液三を得た。
【0098】
前記の各基礎電解液に、本発明に係る式Iで示される化合物、他の化合物、又はそれらの組み合わせをそれぞれに加え、各実施例の電解液を得た。具体的な添加剤の種類及び含有量は、以下の表に示される。
【0099】
2)正極の調製
正極一:NCM811(LiNi0.8Mn0.1Co0.1)、導電剤であるアセチレンブラック、バインダーであるポリフッ化ビニリデン(PVDFと略記)を96:2:2の重量比で適切な量のN-メチルピロリドン(NMPと略記)溶媒に完全に攪拌し、混合して、均一な正極スラリーを形成した。このスラリーを正極集電体であるアルミニウム箔に塗工し、乾燥し、コールドプレスし、タブを溶接して、正極一を得た。正極一の圧縮密度は3.50g/cmであった。
【0100】
正極二:LCO(LiCoO)、導電性カーボンブラック、導電性スラリー、バインダーであるポリフッ化ビニリデン(PVDFと略記)を97.9:0.4:0.5:1.2の重量比で適切な量のN-メチルピロリドン(NMPと略記)溶媒に完全に攪拌し、混合して、均一な正極スラリーを形成した。このスラリーを正極集電体であるアルミニウム箔に塗工し、乾燥し、コールドプレスし、タブを溶接して、正極二を得た。正極二の圧縮密度は4.15g/cmであった。
【0101】
3)負極の調製
負極一:黒鉛、バインダーであるスチレンブタジエンゴム(SBRと略記)、増粘剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMCと略記)を97.4:1.4:1.2の重量比で適切な量の脱イオン水に完全に攪拌し、混合して、均一な負極スラリーを形成した。このスラリーを負極集電体である銅箔に塗工し、乾燥し、コールドプレスし、タブを溶接して、負極一を得た。負極一の圧縮密度は1.80g/cmであり、黒鉛のDv50は10μmであった。
【0102】
負極二:黒鉛、ケイ素材料(SiO)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMCと略記)、変性ポリアクリル酸を87:10:0.6:2.4の重量比で適切な量の脱イオン水に完全に攪拌し、混合して、均一な負極スラリーを形成した。このスラリーを負極集電体である銅箔に塗工し、乾燥し、コールドプレスし、タブを溶接して、負極二を得た。負極二の圧縮密度は1.70g/cmであり、黒鉛とケイ素材料の混合物のDv50は17μmであった。
【0103】
3)セパレータ
実施例では、単層のPE多孔質ポリマーフィルムをセパレータ(S)として使用し、この単層のPE多孔質ポリマーフィルムの厚さは5μmであり、孔隙率は39%であった。このセパレータには無機コート層と有機物が含まれ、無機コート層はAlであり、有機物はポリフッ化ビニリデンであった。
【0104】
4)リチウムイオン電池の調製
セパレータが正極と負極との間に介在して隔離の役割を果たすように、正極、セパレータ、負極を順に積層して、次に、巻回してベアセルを得た。ベアセルを外装箔に置き、調製された電解液を乾燥された電池に注入し、真空パッケージ、静置、化成(formation)、整形などの工程を経って、リチウムイオン電池の調製を完了した。
【0105】
(2、測定方法及び測定結果)
実施例1~80と比較例1~5
実施例1~80と比較例1~5では、基礎電解液一、正極二及び負極一を使用して、前文で説明された方法に従って、リチウムイオン電池を調製して、且つ、リチウムイオン電池に対して、サイクル試験及び高温貯蔵試験を行った。具体的な測定方法は以下のとおりである。
【0106】
25℃サイクル試験のプロセス:25℃で、電池を0.7Cにて4.45Vまで充電し、4.45Vの定電圧で0.05Cまで充電した。その後、1Cの電流で3.0Vまで放電し、リチウムイオン電池の容量を測定し、Cとして記録した。そして、1.5Cの電流で電圧が4.45Vになるまで充電し、1Cの電流で3.0Vまで放電するプロセスを1サイクルとして、800サイクル繰り返し、この時のリチウムイオン電池の容量を測定し、この容量をCとして記録した。サイクル容量維持率を下式に従って算出した。
サイクル容量維持率(%)=(C-C)÷C×100%
【0107】
45℃浮動充電試験のプロセス:電池を25℃で0.5Cにて3.0Vまで放電し、0.5Cにて4.45Vまで充電し、4.45Vの定電圧で0.05Cまで充電し、リチウムイオン電池の厚さを測定し、Dとして記録し、45℃のオーブンに置き、4.45Vの定電圧で42日間充電し、厚さの変化を監視し、厚さをDとして記録し、下式に従って、浮動充電の厚さ膨張率を算出した。
浮動充電の厚さ膨張率(%)=(D-D)÷D×100%
【0108】
85℃高温貯蔵試験のプロセス:電池を25℃で0.5Cの定電流で4.45Vまで充電した後、定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、リチウムイオン電池の厚さを測定し、Dとして記録し、85°Cのオーブンに24h置き、この時の厚さを監視し、Dとして記録した。24hの高温貯蔵後のリチウムイオン電池の厚さ膨張率を下式に従って算出した。
厚さ膨張率(%)=(D-D)÷D×100%
【0109】
具体的な測定結果については、以下に示される。
【0110】
(表1.実施例1~34と比較例1の電解液及び測定結果)
【表1-1】
【表1-2】
【0111】
表1の実施例と比較例から、本発明に係る式Iで示される化合物は、電池の浮動充電及び高温貯蔵特性を著しく改善することができることが分かる。以上の測定結果から、式Iで示される化合物の含有量が0.01wt%~10wt%である場合、本発明に係る式Iで示される化合物は、高価数遷移金属を安定化させ、それによって電気化学装置の特性を改善することができることが分かる。
【0112】
実施例18~34では、さらに、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物を添加した。測定結果から、本発明に係る式Iで示される化合物と硫黄-酸素二重結合を含有する化合物との併用は、電気化学装置の高温貯蔵特性をさらに改善することができることが分かる。
【0113】
(表2.実施例4、35~49の電解液及び測定結果)
【表2】
【0114】
実施例35~49では、本発明に係る式Iで示される化合物とホウ素含有リチウム塩とを併用する実例が示された。測定結果から、この組み合わせは、電気化学装置の高温貯蔵特性とサイクル特性を著しく改善させることができることが分かる。
【0115】
(表3.実施例4と50~66の電解液及び測定結果)
【表3】
【0116】
実施例50~66と実施例4から、さらに添加されたP-O結合を含有する化合物と本発明の式Iで示される化合物との組み合わせは、電気化学装置の高温貯蔵特性をさらに改善することができることが分かる。これは、P-O結合を含有する化合物(例えば、ジフルオロリン酸リチウムとテトラフルオロオキサラトリン酸リチウム)と式Iで示される化合物との協力作用により、正極で成膜し、電解液と正極との接触を低減し、ガス発生を抑制することができる、からである。
【0117】
(表4.実施例4、13、14及び67~82と比較例2~5の電解液及び測定結果)
【表4】
【0118】
本発明の発明者は、本発明の式Iで示される化合物とポリニトリル化合物との併用が、電解液の粘度とコストを効果的に低減することができると予想せずに発見した。以上の表4の測定結果から、本発明に係る式Iで示される化合物とポリニトリル化合物との併用が電池の浮動充電特性及びサイクル特性を著しく改善することができるが、ポリニトリル化合物を過剰に添加すると、電解液の粘度が高くなりすぎ、ダイナミクスに影響を与え、サイクル特性の改善程度が低下することが分かる。
【0119】
実施例83~90では、基礎電解液二、正極一及び負極一を使用して、前文で説明された方法に従って、リチウムイオン電池を調製して、且つ、リチウムイオン電池に対して、過充電試験を行った。実施例83~90では、実施例4の上で、表5に示す物質を添加した。
【0120】
(表5.実施例4と83~90の電解液及び測定結果)
【表5】
【0121】
以上の表5の測定結果から、本発明に係る式Iで示される化合物と複数種の物質との併用は、電池の浮動充電特性及び高温貯蔵特性を著しく改善することができることが分かる。
【0122】
(実施例91~96と比較例6~7)
実施例91~96と比較例6~7では、基礎電解液二、正極一及び負極一を使用して、前文で説明された方法に従って、リチウムイオン電池を調製して、且つ、リチウムイオン電池に対して、過充電試験を行った。具体的な測定方法は以下のとおりである。
【0123】
過充電試験プロセス:電池を25℃で0.5Cにて2.8Vまで放電し、2C(6.8A)の定電流で表に示す異なる電圧まで充電し、定電圧で3h充電し、電池表面の温度変化を監視し、発火しなく発煙しない場合は合格とし、そして、合格した電池数をカウントし、グループごとに10個の電池を測定し、合格した電池数を記録した。
【0124】
(表6.実施例91~96と比較例6~7の電解液及び測定結果)
【表6】
【0125】
以上の表6の測定結果から、式Iで示される化合物又は硫黄-酸素二重結合を含有する化合物を単独で使用する場合と比較して、これら2種類の物質を組み合わせて使用すると、電気化学装置の過充電特性を著しく改善することができることが分かる。これは、本発明で使用される硫黄-酸素二重結合を含有する化合物は、一方では電解液の耐酸化性を高めることができ、他方では負極の表面に安定な保護膜を形成して、リチウム析出を効果的に防止し、電解液との直接接触を低減することができ、且つ、本発明の式Iで示される化合物は、正極を保護し、電解液の分解を抑制することができ、この2つの組み合わせにより過充電特性を著しく高めることができる、からである。
【0126】
(実施例97~100及び比較例8)
実施例97~100及び比較例8では、基礎電解液三、正極二及び負極二を使用して、リチウムイオン電池を調製して、且つ、リチウムイオン電池に対して、60℃高温貯蔵試験を行った。具体的な測定方法は以下のとおりである。
【0127】
60℃高温貯蔵試験のプロセス:電池を25℃で0.5Cの定電流で4.45Vまで充電し、次に定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、リチウムイオン電池の厚さを測定し、Dとして記録し、60℃のオーブンに30日間置き、この時の厚さを監視し、Dとして記録した。30日の高温貯蔵後のリチウムイオン電池の厚さ膨張率を下式に従って算出した。
60℃高温貯蔵の厚さ膨張率(%)=(D-D)÷D×100%
【0128】
45℃サイクル試験のプロセス:45℃で、電池を0.7Cにて4.45Vまで充電し、4.45Vの定電圧で0.05Cまで充電し、次に0.5Cの電流で3.0Vまで放電し、この放電容量をCとして記録し、そして、0.5Cにて電圧が4.45Vになるまで充電し、0.5Cにて3.0Vまで放電するプロセスを1サイクルとして、500サイクル繰り返し、この時のリチウムイオン電池の容量を測定し、このサイクル容量をCとして記録した。サイクル容量維持率を下式に従って算出した。
45℃サイクル容量維持率(%)=(C-C)÷C×100%
【0129】
具体的な測定結果については、表7に示される。
【0130】
(表7.実施例97~100と比較例8の電解液及び測定結果)
【表7】
【0131】
以上の結果から、比較例8と比較して、本発明に係る式Iで示される化合物を添加する場合、高温貯蔵特性を著しく改善することができることが分かる。本発明の式Iで示される化合物は、正極材料界面の安定性を高めることができる。また、式Iで示される化合物に含まれるリン部分は、正極から放出される酸素を吸収し、電解液の分解を低減し、ガス発生を抑制することができ、高温貯蔵とサイクルを改善する役割を果たす。
【0132】
明細書全体では、「一部の実施例」、「部分的実施例」、「一つの実施例」、「他の一例」、「例」、「具体例」又は「部分的例」による引用は、本発明の少なくとも一つの実施例又は例は、当該実施例又は例に記載された特定の特徴、構造、材料又は特性を含むことを意味する。従って、明細書全体の各場所に記載された、例えば「一部の実施例において」、「実施例において」、「一つの実施例において」、「他の例において」、「一つの例において」、「特定の例において」又は「例」は、必ずしも本発明での同じ実施例又は例を引用するわけではない。また、本明細書の特定の特徴、構造、材料、又は特性は、一つ又は複数の実施例又は例において、任意の好適な形態で組み合わせることができる。
【0133】
例示的な実施例が開示及び説明されたが、当業者は、上述実施例が本発明を限定するものとして解釈されることができないこと、且つ、本発明の技術思想、原理、及び範囲から逸脱しない場合に実施例への変更、置換及び変更が可能であること、を理解すべきである。