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特許7343603アルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品及びその製造方法
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  • 特許-アルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品及びその製造方法 図1
  • 特許-アルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品及びその製造方法 図2
  • 特許-アルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品及びその製造方法 図3
  • 特許-アルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品及びその製造方法 図4
  • 特許-アルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品及びその製造方法 図5
  • 特許-アルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品及びその製造方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】アルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20230905BHJP
   B23K 26/073 20060101ALI20230905BHJP
   B23K 26/322 20140101ALI20230905BHJP
   B23K 26/342 20140101ALI20230905BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20230905BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20230905BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230905BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20230905BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
B23K26/21 F
B23K26/073
B23K26/21 W
B23K26/322
B23K26/342
B23K35/30 320A
C22C21/02
C22C38/00 301A
C22C38/38
C22C38/60
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021551592
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-20
(86)【国際出願番号】 CN2020081743
(87)【国際公開番号】W WO2020200110
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-08-30
(31)【優先権主張番号】201910249188.6
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】潘 華
(72)【発明者】
【氏名】劉 成 杰
(72)【発明者】
【氏名】雷 鳴
(72)【発明者】
【氏名】呉 岳
(72)【発明者】
【氏名】孫 中 渠
(72)【発明者】
【氏名】蒋 浩 民
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-220445(JP,A)
【文献】特開2013-204090(JP,A)
【文献】特開2014-118628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
C22C 38/00
C22C 38/60
C22C 38/38
B23K 35/30
C22C 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含むことを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品の製造方法:
1)鋼板の溶接前の準備
ストレート鋼板を、溶接しようとする鋼板とし、上記の溶接しようとする鋼板は、基体及びその表面の少なくとも一つのメッキ層を含み、当該メッキ層は、基体と接する金属間化合物合金層及びその上の金属合金層を含む;上記の溶接しようとする鋼板の溶接する領域のメッキ層には、除去または薄化処理は行われない;当該の2枚の溶接しようとする鋼板は、それぞれに、高強度鋼板、低強度鋼板であり、ホットスタンプした後に、上記の高強度鋼板の引張強度は、1300MPa~1700MPaである;ホットスタンプした後に、上記の低強度鋼板の引張強度は、400MPa~700MPaである;
2)突き合わせ隙間のプリセット
溶接しようとする2枚の鋼板の突き合わせ隙間を0.2~0.5mmにプリセットする;
3)溶接
レーザーワイヤーフィラー溶接又はガスシールド溶接を使用し、2枚の溶接しようとする鋼板を一体になるように溶接する;ただし、
レーザーワイヤーフィラー溶接プロセスには、レーザースポット直径を1.2mm~2.0mmにし、デフォーカス量を-3~0mmにし、レーザーパワーを4kW~6kWの範囲に制御し、溶接速度を40mm/s~120mm/sに制御する;溶接ワイヤ直径を0.8mm~1.4mmにし、ワイヤ送給速度を50mm/s~100mm/sにする;99.99%の高純度のアルゴンガスを保護ガスとし、流量を10~25L/minにし、給気管を溶接方向に対して60°~120°になるように、保護ガスを均一かつ安定に溶接領域に送る;
上記のガスシールド溶接は、メタルイナートガスアーク溶接であり、メタルイナートガスアーク溶接の溶接電流を110-130Aにし、溶接電圧を18-25Vにし、溶接速度を300-800mm/minにし、溶接ワイヤ直径を0.8~1.4mmにし、保護ガスは、60~80%アルゴンガス+20~40%二酸化炭素ガスであり、流量は、10~25L/minであり、給気方向が、溶接方向に対して60°~120°の角度になり、
上記の溶接ワイヤの組成重量百分比は:C 0.1~0.25%、Si 0.2~0.4%、Mn 1.2~2%、P<0.03%、S<0.006%、Al<0.06%、Ti 0.02~0.08%、Cr 0.05~0.2%、残部はFeおよび不可避不純物である;溶接ワイヤ直径は0.8-1.4mmである。
【請求項2】
上記の高強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.08~0.8%、Si:0.05~1.0%、Mn:0.1~5%、P<0.3%、S<0.1%、Al<0.3%、Ti<0.5%、B:0.0005~0.1%、Cr:0.01~3%、残部はFeおよび不可避不純物であることを特徴とする、請求項1に記載されたアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品の製造方法。
【請求項3】
上記の高強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.1~0.6%、Si:0.07~0.7%、Mn:0.3~4%、P<0.2%、S<0.08%、Al<0.2%、Ti<0.4%、B:0.0005~0.08%、Cr:0.01~2%、残部はFeおよび不可避不純物であることを特徴とする、請求項1に記載されたアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品の製造方法。
【請求項4】
上記の高強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.15~0.5%、Si:0.1~0.5%、Mn:0.5~3%、P<0.1%、S<0.05%、Al<0.1%、Ti<0.2%、B:0.0005~0.08%、Cr:0.01~1%、残部はFeおよび不可避不純物であることを特徴とする、請求項1に記載されたアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品の製造方法。
【請求項5】
上記の低強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.03~0.1%、Si:0~0.3%、Mn:0.5~2.0%、P<0.03%、S<0.01%、Al<0.1%、Cr:0~0.1%、Ti:0~0.05%、残部はFeおよび不可避不純物であることを特徴とする、請求項1に記載されたアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品の製造方法。
【請求項6】
上記のメッキ層は、純アルミニウム又はアルミニウム合金であり、ただし、アルミニウム合金の組成重量比は:Si:5-11%、Fe:0-4%、残部はAlであることを特徴とする、請求項1に記載されたアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品の製造方法。
【請求項7】
上記の高強度鋼板と低強度鋼板の基体の厚さは0.5mm~3mmであることを特徴とする、請求項1に記載されたアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品の製造方法。
【請求項8】
請求項1-7のいずれか一つに記載された方法で製造して得るアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品。
【請求項9】
高強度鋼板と低強度鋼板とを、突合せ溶接してなるものであり、ホットスタンプした後に、上記の高強度鋼板の引張強度は、1300MPa~1700MPaである;ホットスタンプした後に、上記の低強度鋼板の引張強度は、400MPa~700MPaである;ただし、上記の高強度鋼板と低強度鋼板が、基体及びその表面の少なくとも一つの純アルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層を含む;上記のメッキ層は、基体と接する金属間化合物合金層及びその上の金属合金層を含む;上記の高強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.08~0.8%、Si:0.05~1.0%、Mn:0.1~5%、P<0.3%、S<0.1%、Al<0.3%、Ti<0.5%、B:0.0005~0.1%、Cr:0.01~3%、残部はFeおよび不可避不純物である;上記の低強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.03~0.1%、Si:0~0.3%、Mn:0.5~2.0%、P<0.03%、S<0.01%、Al<0.1%、Cr:0~0.1%、Ti:0~0.05%、残部はFeおよび不可避不純物である;かつ上記の高強度鋼板と上記の低強度鋼板を溶接するための溶接ワイヤの組成重量百分比は:C 0.1~0.25%、Si 0.2~0.4%、Mn 1.2~2%、P<0.03%、S<0.006%、Al<0.06%、Ti 0.02~0.08%、Cr 0.05~0.2%、残部はFeおよび不可避不純物であり、溶接ワイヤ直径は0.8-1.4mmであることを特徴とする、アルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品。
【請求項10】
上記の鋼製の強度に差がある溶接部品の溶接シームの引張強度は、低強度鋼の母材の引張強度より大きく、引張荷重を受ける溶接継手の破断位置が低強度鋼の母材であり、溶接継手の伸長率は4%を超えることを特徴とする、請求項9に記載されたアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品。
【請求項11】
上記の高強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.1~0.6%、Si:0.07~0.7%、Mn:0.3~4%、P<0.2%、S<0.08%、Al<0.2%、Ti<0.4%、B:0.0005~0.08%、Cr:0.01~2%、残部はFeおよび不可避不純物であることを特徴とする、請求項9に記載されたアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品。
【請求項12】
上記の高強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.1~0.6%、Si:0.07~0.7%、Mn:0.3~4%、P<0.2%、S<0.08%、Al:0.04-0.1%、Ti:0.01~0.3%、B:0.0005~0.08%、Cr:0.1~1.0%、残部はFeおよび不可避不純物であることを特徴とする、請求項9に記載されたアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品。
【請求項13】
上記の高強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.15~0.5%、Si:0.1~0.5%、Mn:0.5~3%、P<0.1%、S<0.05%、Al<0.1%、Ti≦0.2%、B:0.0005~0.08%、Cr:0.01~1%、残部はFeおよび不可避不純物であることを特徴とする、請求項9に記載されたアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品。
【請求項14】
上記の高強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.15~0.5%、Si:0.1~0.5%、Mn:0.5~3%、P<0.1%、S<0.05%、Al:0.04~0.09%、Ti:0.02~0.2%、B:0.003~0.08%、Cr:0.1~0.8%、残部はFeおよび不可避不純物であることを特徴とする、請求項9に記載されたアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品。
【請求項15】
上記の低強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.06~0.1%、Si:0.06~0.2%、Mn:0.5~1.5%、P<0.1%、S<0.05%、Al:0.02~0.08%、Cr:0.02-0.1%、Ti:0.002~0.045%、残部はFeおよび不可避不純物であることを特徴とする、請求項9に記載されたアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品。
【請求項16】
上記の強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.06~0.1%、Si:0.06~0.2%、Mn:0.5~1.5%、P<0.03%、S<0.005%、Al:0.02~0.08%、Cr:0.02~0.1%、Ti:0.002~0.045%、残部はFeおよび不可避不純物であることを特徴とする、請求項9に記載されたアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品。
【請求項17】
上記の鋼製強度に差がある溶接部品は、自動車のAピラー、Bピラー又はミドルチャネルであることを特徴とする、請求項8-16のいずれか一つに記載されたアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品。
【請求項18】
上記の溶接ワイヤの組成重量百分比は:C 0.1~0.25%、Si 0.2~0.4%、Mn 1.2~2%、P<0.03%、S<0.006%、Al<0.06%、Ti 0.02~0.08%、Cr 0.05~0.2%、残部はFeおよび不可避不純物である;溶接ワイヤ直径は0.8-1.4mmであることを特徴とする、請求項1に記載されたアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品の製造方法に使用する溶接ワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、溶接部品の製造に関し、具体的に、アルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の異なる強度の溶接部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
今日の社会では、自動車の普及が進んでおり、自動車の台数が増え続ける中で、自動車の排気ガスと環境汚染との矛盾がますます注目されている。車両の重量を減らすことで、燃料消費量を減らし、排気ガスを減らすことができるので、強度の向上と薄肉化は、自動車産業の開発トレンドになっている;中でも、ホットスタンプは、部品の高強度を実現する一般的な方法であって、熱処理と高温成形を組み合わせて高い製品強度を実現する方法である;レーザーテーラード・ブランクのホットスタンプにより、重量を減らすと同時に、ボディパーツの数を減らし、製造精度を向上させることができる。
【0003】
一般的なレーザーテーラード溶接ホットスタンプ製品には、主にAピラー、Bピラー、絞り部(middle channel)などの安全構造部品が含まれ、これらのホットスタンプ製品は、高強度、複雑な形状、優れた成形性、高い寸法精度、小さなスプリングバック、強度や厚さに差があるなどの特徴を備えている。なかでも、強度に差があるBピラーテーラード溶接部材は自動車材料の開発動向であり、一般的に使用されている組み合わせは、ホットスタンプ後の引張強度が1300MPa~1700MPaの鋼板と、ホットスタンプ後の引張強度が400MPa~700MPaの鋼板とをテーラー溶接してなるものである。ホットスタンプ用鋼の表面の状態には、裸板とメッキ層付き鋼板があり、裸板に比べて、メッキ層付きのホットスタンプ鋼板は、耐食性、耐高温酸化性に優れて、かつホットスタンプ後のショットピーニング又は酸洗い処理を省略できるので、ますます注目を集めている。最も一般的に使用される熱間成形鋼は、アルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層ホットスタンプ鋼であるが、この材料を溶接すると、メッキ層は、溶接熱の影響によって、溶融され、溶融池に溶け込み、Feと脆くて硬い金属間化合物(FeAl、FeAl、FeAl)を形成し、溶接後の熱処理中に、これらの金属間化合物はさらに成長し、溶接継手の強度と延性を大幅に低下し、自動車工場の要求を満たしていない。
【0004】
中国特許CN101426612Aは、アルミニウム-シリコンめっき層付け鋼板を原料とし、金属間化合物のみをプレコーティングとして含む溶接ブランクの製造方法を開示している。具体的には、メッキ層におけるアルミニウム合金層を除去し、溶融池への過剰なアルミニウムの溶融を避け、メッキ層内の金属間化合物層を保留する。次に、溶接ブランクに溶接とホットスタンプが実行される。この特許には、メッキ層の合金層を除去したが、金属間化合物層を保留した(残りの厚さは3~10μm)ので、メッキ層における元素は、相変わらず溶接シームに導入され、不適切に制御すると、溶接シームの性能を低下させる可能性がある;さらに、これらの数マイクロメートルのメッキ層を保留すると、安定に実施することも困難になり、生産リスクが高まる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の内容
本発明の目的として、アルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品及びその製造方法を提供し、高強度鋼板+低強度鋼板を溶接する際に、メッキ層における元素が溶接シームに侵入することより、ホットスタンプ後の溶接シームの引張強度が低強度鋼の母材強度より低く、部品がロードされる時の溶接シームが破断するという問題を解決する。本発明で得られた溶接部品には、その溶接シームの引張強度が、低強度鋼母材の引張強度より大きく、伸長率は4%を超え、自動車ホットスタンプ分野におけるこのような強度に差があるテーラー溶接部品の応用要望を満足する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を果たすために、本発明の技術方案は:
アルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品の製造方法であって、以下の工程を含む:
1)鋼板の溶接前の準備
ストレート鋼板を、溶接しようとする鋼板とし、上記の溶接しようとする鋼板は、基体及びその表面の少なくとも一つのメッキ層を含み、当該メッキ層は、基体と接する金属間化合物合金層及びその上の金属合金層を含む;上記の溶接しようとする鋼板の溶接する領域のメッキ層には、除去または薄化処理は行われない;当該の2枚の溶接しようとする鋼板は、それぞれに、高強度鋼板、低強度鋼板であり、ホットスタンプした後に、上記の高強度鋼板の引張強度は、1300MPa~1700MPaである;ホットスタンプした後に、上記の低強度鋼板の引張強度は、400MPa~700MPaである;
2)突き合わせ隙間のプリセット
溶接しようとする2枚の鋼板の突き合わせ隙間を0.2~0.5mmにプリセットする;
3)溶接
レーザーワイヤーフィラー溶接又はガスシールド溶接を使用し、2枚の溶接しようとする鋼板を一体になるように溶接する;ただし、
レーザーワイヤーフィラー溶接プロセスには、レーザースポット直径を1.2mm~2.0mm、好ましくに1.4mm~2.0mmにし、デフォーカス量を-3~0mm、好ましくに-3mm~-1mmにし、レーザーパワーを4kW~6kWの範囲に制御し、溶接速度を40mm/s~120mm/s、好ましくに60mm/s~120mm/sに制御する;溶接ワイヤ直径を0.8mm~1.4mm、好ましくに0.8mm~1.2mmにし、ワイヤ送給速度を50mm/s~100mm/sにする;99.99%の高純度のアルゴンガスを保護ガスとし、流量を10~25L/minにし、給気管を溶接方向に対して60°~120°になるように、保護ガスを均一かつ安定に溶接領域に送る。
【0007】
好ましくに、上記の高強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.08~0.8%、Si:0.05~1.0%、Mn:0.1~5%、P<0.3%、S<0.1%、Al<0.3%、好ましくに0.01~0.2%、より好ましくに0.04~0.12%、Ti<0.5%、好ましくに0.01~0.4%、B:0.0005~0.1%、Cr:0.01~3%、残部はFeおよび不可避不純物である;
好ましくに、上記の低強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.03~0.1%、好ましくに0.05~0.1%、Si:0~0.3%、好ましくに0.01~0.3%、より好ましくに0.05~0.2%、Mn:0.5~2.0%、好ましくに0.5~1.5%、P<0.1%、S<0.05%、Al<0.1%、好ましくに0.02~0.08%、Cr:0~0.1%、好ましくに0.01~0.1%、より好ましくに0.02-0.1%、Ti:0~0.05%、好ましくに0.001~0.045%、残部はFeおよび不可避不純物である。好ましくに、上記の低強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.06~0.1%、Si:0.06~0.2%、Mn:0.5~1.5%、P<0.1%、好ましくにP<0.03%、S<0.05%、好ましくにS<0.005%、Al:0.02~0.08%、Cr:0.02-0.1%、Ti:0.002~0.045%、残部はFeおよび不可避不純物である。
【0008】
好ましくに、上記の高強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.1~0.6%、Si:0.07~0.7%、Mn:0.3~4%、P<0.2%、S<0.08%、Al<0.2%、好ましくに0.04~0.1%、Ti<0.4%、好ましくに0.01~0.3%、B:0.0005~0.08%、Cr:0.01~2%、好ましくに0.1~1.0%、残部はFeおよび不可避不純物である。
【0009】
好ましくに、上記の高強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.15~0.5%、Si:0.1~0.5%、Mn:0.5~3%、P<0.1%、S<0.05%、Al<0.1%、好ましくに0.04~0.09%、Ti≦0.2%、好ましくに0.02~0.2%、B:0.0005~0.08%、Cr:0.01~1%、残部はFeおよび不可避不純物である。さらに好ましくに、B:0.003~0.08%、Cr:0.1-0.8%。
【0010】
好ましくに、上記の高強度鋼板と低強度鋼板の基体の厚さは、0.5mm~3mmである。
【0011】
好ましくに、上記のメッキ層は、純アルミニウム又はアルミニウム合金であり、ただし、アルミニウム合金の組成重量比は:Si:5-11%、Fe:0-4%、残部はAlである。
【0012】
好ましくに、以下に示されたような組成重量百分比を有する溶接ワイヤで溶接を行う:C 0.1~0.25%、Si 0.2~0.4%、Mn 1.2~2%、P≦0.03%、S<0.006%、Al<0.06%、Ti 0.02~0.08%、Cr 0.05~0.2%、残部はFe及び不可避不純物である;溶接ワイヤ直径は、0.8~1.4mmである。好ましくに、0.03≦Al<0.06%である。
【0013】
好ましくに、以下に示されたような組成重量百分比を有する溶接ワイヤで溶接を行う:C 0.1~0.15%、Si 0.2~0.4%、Mn 1.5~2%、P≦0.03%、S<0.006%、Al<0.06%、Ti 0.02~0.08%、Cr 0.05~0.2%、残部はFe及び不可避不純物である;溶接ワイヤ直径は、0.8~1.4mmである。好ましくに、0.03≦Al<0.04%である。
【0014】
好ましくに、上記の方法は、さらに溶接後のホットスタンプ工程を含む。好ましくに、上記のホットスタンプ工程が、溶接の後に、ブランクを900~960℃、好ましくに930~950℃に1~6分間温度を保持し、好ましくに2~4分間の加熱処理を行い、そして冷却し、好ましくに5~20秒間水冷する。
【0015】
好ましくに、上記のガスシールド溶接は、メタルイナートガスアーク溶接である。好ましくに、メタルイナートガスアーク溶接の溶接電流を80-130Aにし、溶接電圧を17-25Vにし、溶接速度を300-800mm/minにし、溶接ワイヤ直径を0.8~1.4mmにし、保護ガスは、60~90%アルゴンガス+10~40%二酸化炭素ガスであり、流量は、10~25L/minであり、給気方向が、溶接方向に対して60°~120°の角度になる。
【0016】
本発明に記載されたアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品は、高強度鋼板と低強度鋼板とを、突合せ溶接してなるものであり、ホットスタンプした後に、上記の高強度鋼板の引張強度は、1300MPa~1700MPaである;ホットスタンプした後に、上記の低強度鋼板の引張強度は、400MPa~700MPaである;ただし、
上記の高強度鋼板と低強度鋼板が、基体及びその表面の少なくとも一つの純アルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層を含む;上記のメッキ層は、基体と接する金属間化合物合金層及びその上の金属合金層を含む。
【0017】
好ましくに、上記の高強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.08~0.8%、Si:0.05~1.0%、Mn:0.1~5%、P<0.3%、S<0.1%、Al<0.3%、Ti<0.5%、B:0.0005~0.1%、Cr:0.01~3%、残部はFeおよび不可避不純物である;
好ましくに、上記の低強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.03~0.1%、好ましくに0.05~0.1%、Si:0~0.3%、好ましくに0.01~0.3%、より好ましくに0.05~0.2%、Mn:0.5~2.0%、好ましくに0.5~1.5%、P<0.1%、S<0.05%、Al<0.1%、好ましくに0.02~0.08%、Cr:0~0.1%、好ましくに0.01~0.1%、より好ましくに0.02-0.1%、Ti:0~0.05%、好ましくに0.001~0.045%、残部はFeおよび不可避不純物である。
【0018】
好ましくに、上記の高強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.1~0.6%、Si:0.07~0.7%、Mn:0.3~4%、P<0.2%、S<0.08%、Al<0.2%、Ti<0.4%、B:0.0005~0.08%、Cr:0.01~2%、残部はFeおよび不可避不純物である。
【0019】
好ましくに、上記の高強度鋼板の基体の組成重量百分比は:C:0.15~0.5%、Si:0.1~0.5%、Mn:0.5~3%、P<0.1%、S<0.05%、Al<0.1%、Ti≦0.2%、B:0.0005~0.08%、Cr:0.01~1%、残部はFeおよび不可避不純物である。さらに好ましくに、B:0.003~0.08%、Cr:0.1-0.8%。
【0020】
好ましくに、上記の高強度鋼板と低強度鋼板の基体の厚さは、0.5mm~3mmである。
【0021】
好ましくに、上記のメッキ層は、純アルミニウム又はアルミニウム合金であり、ただし、アルミニウム合金の組成重量比は:Si:5-11%、Fe:0-4%、残部はAlである。
【0022】
好ましくに、上記の鋼製の強度に差がある溶接部品の溶接シームの引張強度が、低強鋼の母材強度より低く、引張荷重を受ける溶接継手の破断位置が母材であり、溶接継手の伸長率は4%を超える。
【0023】
好ましくに、上記の鋼製の強度に差がある溶接部品は、自動車のAピラー、Bピラー又は絞り部(middle channel)である。
【0024】
一部の実施形態において、本発明に記載されたアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品の製造方法は、以下の工程を含む:
1) 溶接前に鋼板を準備する
溶接ブランクとして、上記の組成を有する冷間圧延板又はアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼板を採用し、鋼板が真っ直ぐで表面が清潔で、油や水がないことを確保する;
2) プリセットされた突き合わせ隙間を溶接する
溶接しようとする2枚の溶接鋼板の溶接シームの突き合わせ隙間を、0.2-0.5mmに保持する;
3) レーザー溶接プロセス
使用した溶接方法は、レーザーワイヤーフィラー溶接又はガスシールド溶接である;
レーザースポット直径を1.2mm~2.0mm、好ましくに1.4mm~2.0mmにし、デフォーカス量を-3~0mm、好ましくに-3mm~-1mmにし、レーザーパワーを4kW~6kWの範囲に制御し、溶接速度を40mm/s~120mm/s、好ましくに60mm/s~120mm/sに制御する;溶接ワイヤ直径を0.8mm~1.2mmにし、ワイヤ送給速度を50mm/s~100mm/sにする;99.99%の高純度のアルゴンガスを保護ガスとし、流量を10~25L/minにし、給気管を溶接方向に対して60°~120°になるように、保護ガスを均一かつ安定に溶接領域に送る;上記のガスシールド溶接は、メタルイナートガスアーク溶接であり、好ましくに、メタルイナートガスアーク溶接の溶接電流を80-130Aにし、溶接電圧を17-25Vにし、溶接速度を300-800mm/minにし、溶接ワイヤ直径を0.8~1.4mmにし、保護ガスは、60~90%アルゴンガス+10~40%二酸化炭素ガスであり、流量を10~25L/minにし、給気方向が、溶接方向に対して60°~120°の角度になる。
【0025】
また、本発明に記載されたアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品の製造方法に使用された溶接ワイヤであって、その組成重量百分比は:C 0.1~0.25%、Si 0.2~0.4%、Mn 1.2~2%、P≦0.03%、S<0.006%、Al<0.06%、Ti 0.02~0.08%、Cr 0.05~0.2%、残部はFe及び不可避不純物である;溶接ワイヤ直径は、0.8~1.4mmである。好ましくに、0.03≦Al<0.06%である。好ましくに、上記の溶接ワイヤの組成重量百分比は:C 0.1~0.15%、Si 0.2~0.4%、Mn 1.5~2%、P≦0.03%、S<0.006%、Al<0.06%、好ましくに地0.03≦Al<0.04%、Ti 0.02~0.08%、Cr 0.05~0.2%、残部はFe及び不可避不純物である;溶接ワイヤ直径は、0.8~1.4mmである。
【0026】
本発明に記載された溶接用溶接ワイヤの成分設計において:
ケイ素は溶接ワイヤにおける脱酸元素であり、鉄と酸素とのを防ぎ、溶融池に酸化鉄を還元することができる;しかしながら、ケイ素を単独で脱酸に使用すると、得られるシリカの融点が高く(約1710℃)、酸化物粒子が小さく、溶融池から浮き上がりにくいので、スラグが溶接シームに存在しやすくなり、したがって、本発明の溶接ワイヤにおけるケイ素の重量百分比は、0.2-0.4%の範囲に制御される。
【0027】
マンガンは、溶接部の靭性に大きな影響を与える重要な焼入れ性元素であり、脱酸元素でもあるが、ケイ素よりも脱酸能力がやや劣り、マンガンを単独で脱酸に使用すると、生成された酸化マンガンは密度が高くなり、溶融池から浮き上がりにくい;そのため、本発明の溶接ワイヤには、シリコン-マンガン脱酸を採用しているため、脱酸生成物は低融点(約1270℃)かつ低密度の複合ケイ酸塩(MnO.SiO)であり、溶融池に大きなスラグに凝縮することができ、浮き上がりやすく、優れた脱酸効果を達成することができる。また、マンガンは、脱硫機能を有し、硫と硫化マンガンを生成し、硫黄による高温割れの発生を抑えることができる。各要因を考慮すると、本発明の溶接ワイヤにおけるマンガンの重量百分比を、1.2-2%に制御する。
【0028】
硫黄は溶融池で硫化鉄を形成しやすく、粒界にネットワーク状に分布しているため、溶接の靭性が大幅に低下するので、溶接ワイヤに硫黄の存在は有害であり、その含有量を厳密に管理する必要がある。好ましくに、S含有量を0.006%未満に制御する。
【0029】
鋼種におけるリンの強化効果は炭素に次ぐものであり、それが、鋼の強度と硬度を高め、鋼の耐食性を向上させることができるが、可塑性と靭性が大幅に低下し(特に低温場合)、したがって、溶接ワイヤにおけるリンは有害であり、その含有量を厳密に管理する必要がある。好ましくに、P含有量を、≦0.03%に制御する。
【0030】
クロムは、鋼の強度と硬度を高めることができるが、可塑性と靭性は大幅に低下しない。クロムは、鋼の焼入れ性を高めることができ、二次硬化効果もあり、鋼を脆くすることなく鋼の硬度と耐摩耗性を高めることができる。クロムは、γ相領域を拡大し、焼入れ性と高温強度を改善し、δ相の高温範囲を縮小し、δ→γ相転移を促進し、高温δフェライトの析出を抑制することができる。したがって、本発明の溶接ワイヤにおけるクロムの重量百分比を、0.05~0.2%に制御する。
【0031】
チタンも強力な脱酸元素でありつつ、窒素と窒化チタンを形成することができ、優れた窒素固定効果を持ち、溶接シーム金属が窒素細孔に抵抗する能力を向上させる。溶接シーム組織におけるチタンの含有量が適切である場合、溶接シーム組織を微細化することができる。したがって、本発明の溶接ワイヤにおけるチタンの重量百分比を、0.02~0.08%に制御する。
【0032】
プリセットされた溶接隙間を有するメッキ層板を溶接する際に、本発明のMn、Cr、Tiおよび他の元素を含む溶接ワイヤを、テーラー溶接領域に送り、高温δフェライトの形成を抑制する。マンガン、クロムは、γ相領域を拡大し、焼入れ性と高温強度を改善し、δ相の高温範囲を縮小し、δ→γ相転移を促進し、高温δフェライトの析出を抑制し、溶接シーム組織のマルテンサイト変換率を達成することができる;チタンは、溶接シーム組織を微細化し、ホットスタンプ後の溶接シーム強度を向上させ、溶接継手の機械的特性を確保する。
【0033】
国際溶接協会が推奨する炭素当量式は:
CE=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15(%)
溶接ワイヤを充填すると、溶接継手の炭素当量がわずかに増加し、それによって接合部の焼入れ性が確保される;さらに、溶接ワイヤを充填すると、溶接部のメッキ層組成がさらに希釈され、これにより、ホットスタンプ際に溶接シームに鉄-アルミニウム金属間化合物と高温フェライト相の生成を予防することに寄与し、そして、継手の性能が、自動車産業の要求を満たすことを確保する。
【0034】
本発明の方法で溶接すると、熱成形の後に、部品の溶接シームの引張強度が、低強鋼の母材強度より低く、溶接部品がロードされる時の破断部位は、低強度鋼の母材領域に起す。
【0035】
本発明には、Mn、Cr、Tiなどの元素を含む溶接ワイヤと高エネルギーレーザー溶接方法との組み合わせで、溶接プロセスの改良により、ホットスタンプの後に、得られた溶接部品の溶接シームの引張強度が、低強鋼の母材の引張強度より大きく、伸長率は4%を超え、自動車ホットスタンプ分野におけるこのような強度に差があるテーラー溶接部品の応用要望を満足する。
【0036】
本発明に記載されたアルミニウム又はアルミニウム合金メッキ層付きの鋼製の強度に差がある溶接部品の製造方法において:
1、本発明に記載された溶接しようとする鋼板は、基体及びその表面の少なくとも一つのメッキ層を含み、当該メッキ層は、基体と接する金属間化合物合金層及びその上の金属合金層を含む;特に、本発明には、溶接前、溶接中で、溶接しようとする部品の溶接する領域のメッキ層には、除去または薄化処理は行われない。
【0037】
2、溶接する前に、溶接しようとする鋼板の表面の清潔を確保し、基板の厚さは0.5mm~3mmであり、突き合わせる部位に0.2mm~0.5mmの隙間をプリセットし、溶接装置でメッキ層付き鋼板をテーラー溶接し、メッキ層は、溶接熱の作用下で溶融池に入り、溶接プロセス中に強く攪拌されて、組成の均質化を促進する;
なお、ワイヤ送給速度を40mm/s~120mm/sに制御することで、溶接シームにおける溶着金属(溶接ワイヤが溶けた後に形成される溶接シーム金属)の比を変化し、溶接シームに溶けれるアルミニウム元素の濃度を10%未満にする;同時に、溶接ワイヤにおけるマンガン、クロムなどの元素が、オーステナイトの安定性を高め、溶接の焼入れ性を向上し、これにより、ホットスタンプ過程に溶接シームに鉄-アルミニウム金属間化合物とブロック状のフェライト相の生成を避け、溶接シームの相構造とサイズに対する制御を実現する。
【0038】
3、本発明に記載された鋼製の強度に差がある溶接部品の微細構造を、熱処理でマルテンサイトの組織構造になるが、アルミニウム含有メッキ層の存在により、溶接の際に、溶融されたアルミニウムメッキ層が溶接シームに入り、溶接シームの相転移過程と組織構成に影響を及ぼす;溶接継手の品質は、溶接シーム構造におけるマルテンサイトの割合とフェライトの形態に依存し、そのため、溶接シーム構造におけるフェライトの析出を減らす、特にブロック状のフェライトの形成を回避する必要がある。
【0039】
本発明は、Mn、Cr、Tiなどの元素を含む溶接ワイヤを使用することで、高温δフェライトの形成を抑制し、Mn、Cr元素は、γ相領域を拡大し、焼入れ性と高温強度を改善し、δ相の高温範囲を縮小し、δ→γ相転移を促進し、高温δフェライトの析出を抑制し、オーステナイトの安定性を向上し、溶接シームの焼入れ性を向上する。チタンは、溶接シーム組織を微細化し、ホットスタンプ後の溶接シーム強度を向上させ、溶接継手の機械的特性を確保する。
【0040】
4、本発明には、従来技術の溶接前および/または溶接過程の、溶接部品のメッキ層に対する除去または薄化処理を行う必要性がないので、メッキ層を前処理するために生産ラインを設立する必要がなく、設備投資を節約できる。
【0041】
また、どちらの従来技術方法でメッキ層の除去または薄化処理でも、製造速度が低下する;本発明のメッキ層前処理方法には、製造効率を少なくとも20%向上させることができる。
【0042】
本発明のワイヤーフィラー溶接法により、溶接部品のメッキ層を除去または薄化処理を行わないように直接に溶接し、ホットスタンプ後の溶接継手の引張強度、伸長率、耐食性を確保し、ホットスタンプした後の溶接シームの抗拉強度は、低強度鋼の母材の抗拉強度より大きく、引張荷重を受ける溶接継手の破断位置が母材であり、継手の伸長率は4%を超える。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明の実施例の溶接継手の引張曲線である。
図2】本発明の実施例の引張破断した溶接継手のサンプルである。
図3】本発明の実施例1の溶接継手の金属組織図である。
図4】本発明の実施例2の溶接継手の金属組織図である。
図5】本発明の実施例3の溶接継手の金属組織図である。
図6】本発明の実施例1の溶接継手の硬度分布である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
具体的な実施形態
以下、実施例および図面に基づいて本発明をさらに説明する。
【0045】
実施例1
高強度アルミニウムケイ素メッキ層熱間成形鋼(t=1.75mm)と低強度アルミニウムケイ素メッキ層熱間成形鋼(t=1.8mm)とをテーラー溶接し、板の化学組成は、表1と表2に示された。鋼板が真っ直ぐで、表面に清潔で、油や水のしみなどの汚染物質がない。高強度、低強度の2枚のブランクの溶接しようとする辺を、レーザー切断の方式で辺縁部の用意を行った;溶接する前に、突き合わせ隙間を、0.3mmにプリセットした。本発明の溶接ワイヤを使用し、レーザーパワーを4.5kWにし、スポット直径を2mmにし、デフォーカス量を-2mmにし、溶接速度を80mm/sにし、溶接ワイヤ直径を1.2mmにし、ワイヤ送給速度を70mm/sにし、溶接ワイヤの組成を表3に示す。高純度のアルゴンガスを、保護ガスとし、ガス流量は15L/minであり、給気方向が、溶接方向に対して120°の角度になる。上記の溶接プロセスでテーラー溶接した後に、ブランクに対して、温度を930℃に4分間保持する加熱処理を行い、通水金型に10秒間冷却し、溶接継手の機械的特性を表4に示し、溶接継手の引張曲線を図1に示し、破断部位を図2に示し、継手の金属組織図を図3に示し、継手の硬度を図6に示した。
【0046】
実施例2
高強度アルミニウムケイ素メッキ層熱間成形鋼(t=1.8mm)と低強度アルミニウムケイ素メッキ層熱間成形鋼(t=1.8mm)とを溶接し、板の化学組成は、表1と表2に示された。鋼板が真っ直ぐで、表面に清潔で、油や水のしみなどの汚染物質がない。高強度、低強度の2枚のブランクの溶接しようとする辺を、レーザー切断の方式で辺縁部の用意を行った;溶接する前に、突き合わせ隙間を、0.4mmにプリセットした。本発明の溶接ワイヤを使用し、レーザーパワーを4.5kWにし、スポット直径を2mmにし、デフォーカス量を-3mにし、溶接速度を80mm/sにし、溶接ワイヤ直径を1.2mmにし、ワイヤ送給速度を80mm/sにし、溶接ワイヤの組成を表3に示す。高純度のアルゴンガスを、保護ガスとし、ガス流量は15L/minであり、給気方向が、溶接方向に対して60°の角度になる。上記の溶接プロセスでテーラー溶接した後に、ブランクに対して、温度を930℃に4分間保持する加熱処理を行い、通水金型に10秒間冷却し、溶接継手の機械的特性を表4に示し、溶接継手の引張曲線を図1に示し、破断部位を図2に示し、継手の金属組織図を図4に示した。
【0047】
実施例3
高強度アルミニウムケイ素メッキ層熱間成形鋼(t=1.5mm)と低強度アルミニウムケイ素メッキ層熱間成形鋼(t=1.5mm)とを溶接し、板の化学組成は、表1と表2に示された。鋼板が真っ直ぐで、表面に清潔で、油や水のしみなどの汚染物質がない。高強度、低強度の2枚のブランクの溶接しようとする辺を、レーザー切断の方式で辺縁部の用意を行った;溶接する前に、突き合わせ隙間を、0.25mmにプリセットした。本発明の溶接ワイヤを使用し、レーザーパワーを4kWにし、スポット直径を2mmにし、デフォーカス量を-1mmにし、溶接速度を60mm/sにし、溶接ワイヤ直径を1.2mmにし、ワイヤ送給速度を60mm/sにし、溶接ワイヤの組成を表3に示す。高純度のアルゴンガスを、保護ガスとし、ガス流量は15L/minであり、給気方向が、溶接方向に対して120°の角度になる。上記の溶接プロセスでテーラー溶接した後に、ブランクに対して、温度を930℃に4分間保持する加熱処理を行い、通水金型に10秒間冷却し、溶接継手の機械的特性を表4に示し、溶接継手の引張曲線を図1に示し、破断部位を図2に示し、継手の金属組織図を図5に示した。
【0048】
実施例4
高強度メッキ層なしの熱間成形鋼(t=1.4mm)と低強度アルミニウムケイ素メッキ層熱間成形鋼(t=1.8mm)とをテーラー溶接し、板の化学組成は、表1と表2に示された。鋼板が真っ直ぐで、表面に清潔で、油や水のしみなどの汚染物質がない。高強度、低強度の2枚のブランクの溶接しようとする辺を、レーザー切断の方式で辺縁部の用意を行った;溶接する前に、突き合わせ隙間を、0.3mmにプリセットした。本発明の溶接ワイヤを使用し、レーザーパワーを4.5kWにし、スポット直径を2mmにし、デフォーカス量を-2mmにし、溶接速度を80mm/sにし、溶接ワイヤ直径を1.2mmにし、ワイヤ送給速度を70mm/sにし、溶接ワイヤの組成を表3に示す。高純度のアルゴンガスを、保護ガスとし、ガス流量は15L/minであり、給気方向が、溶接方向に対して90°の角度になる。上記の溶接プロセスでテーラー溶接した後に、ブランクに対して、温度を950℃に3分間保持する加熱処理を行い、通水金型に10秒間冷却し、溶接継手の機械的特性を表4に示した。
【0049】
実施例5
高強度アルミニウムケイ素メッキ層熱間成形鋼(t=1.2mm)と低強度メッキ層なしの熱間成形鋼(t=1.4mm)とをテーラー溶接し、板の化学組成は、表1と表2に示された。鋼板が真っ直ぐで、表面に清潔で、油や水のしみなどの汚染物質がない。高強度、低強度の2枚のブランクの溶接しようとする辺を、レーザー切断の方式で辺縁部の用意を行った;溶接する前に、突き合わせ隙間を、0.3mmにプリセットした。本発明の溶接ワイヤを使用し、レーザーパワーを4.5kWにし、スポット直径を1.4mmにし、デフォーカス量を-1mmにし、溶接速度を75mm/sにし、溶接ワイヤ直径を1.0mmにし、ワイヤ送給速度を100mm/sにし、溶接ワイヤの組成を表3に示す。高純度のアルゴンガスを、保護ガスとし、ガス流量は15L/minであり、給気方向が、溶接方向に対して90°の角度になる。上記の溶接プロセスでテーラー溶接した後に、ブランクに対して、温度を950℃に3分間保持する加熱処理を行い、通水金型に10秒間冷却し、溶接継手の機械的特性を表4に示した。
【0050】
実施例6
高強度アルミニウムケイ素メッキ層熱間成形鋼(t=1.75mm)と低強度アルミニウムケイ素メッキ層熱間成形鋼(t=1.4mm)とをテーラー溶接し、板の化学組成は、表1と表2に示された。鋼板が真っ直ぐで、表面に清潔で、油や水のしみなどの汚染物質がない。高強度、低強度の2枚のブランクの溶接しようとする辺を、レーザー切断の方式で辺縁部の用意を行った;溶接する前に、突き合わせ隙間を、0.3mmにプリセットした。本発明の溶接ワイヤを使用し、レーザーパワーを5.5kWにし、スポット直径を1.4mmにし、デフォーカス量を-2mmにし、溶接速度を120mm/sにし、溶接ワイヤ直径を1.2mmにし、ワイヤ送給速度を70mm/sにし、溶接ワイヤの組成を表3に示す。高純度のアルゴンガスを、保護ガスとし、ガス流量は15L/minであり、給気方向が、溶接方向に対して90°の角度になる。上記の溶接プロセスでテーラー溶接した後に、ブランクに対して、温度を950℃に3分間保持する加熱処理を行い、通水金型に10秒間冷却し、溶接継手の機械的特性を表4に示した。
【0051】
実施例7
高強度メッキ層なしの熱間成形鋼(t=1.8mm)と低強度アルミニウムケイ素メッキ層熱間成形鋼(t=1.4mm)とをテーラー溶接し、板の化学組成は、表1と表2に示された。鋼板が真っ直ぐで、表面に清潔で、油や水のしみなどの汚染物質がない。高強度、低強度の2枚のブランクの溶接しようとする辺を、レーザー切断の方式で辺縁部の用意を行った;溶接する前に、突き合わせ隙間を、0.3mmにプリセットした。本発明の溶接ワイヤを使用し、レーザーパワーを4.5kWにし、スポット直径を2mmにし、デフォーカス量を-2mmにし、溶接速度を100mm/sにし、溶接ワイヤ直径を1.2mmにし、ワイヤ送給速度を50mm/sにし、溶接ワイヤの組成を表3に示す。高純度のアルゴンガスを、保護ガスとし、ガス流量は15L/minであり、給気方向が、溶接方向に対して90°の角度になる。上記の溶接プロセスでテーラー溶接した後に、ブランクに対して、温度を950℃に3分間保持する加熱処理を行い、通水金型に10秒間冷却し、溶接継手の機械的特性を表4に示した。
【0052】
実施例8
高強度アルミニウムケイ素メッキ層熱間成形鋼(t=1.5mm)と低強度アルミニウムケイ素メッキ層熱間成形鋼(t=1.4mm)とをテーラー溶接し、板の化学組成は、表1と表2に示された。鋼板が真っ直ぐで、表面に清潔で、油や水のしみなどの汚染物質がない。高強度、低強度の2枚のブランクの溶接しようとする辺を、レーザー切断の方式で辺縁部の用意を行った;溶接する前に、突き合わせ隙間を、0.3mmにプリセットした。本発明の溶接ワイヤを使用し、レーザーパワーを4.5kWにし、スポット直径を2.0mmにし、デフォーカス量を-1mmにし、溶接速度を80mm/sにし、溶接ワイヤ直径を1.2mmにし、ワイヤ送給速度を80mm/sにし、溶接ワイヤの組成を表3に示す。高純度のアルゴンガスを、保護ガスとし、ガス流量は15L/minであり、給気方向が、溶接方向に対して90°の角度になる。上記の溶接プロセスでテーラー溶接した後に、ブランクに対して、温度を950℃に3分間保持する加熱処理を行い、通水金型に10秒間冷却し、溶接継手の機械的特性を表4に示した。
【0053】
実施例9
高強度メッキ層なしの熱間成形鋼(t=1.4mm)と低強度アルミニウムケイ素メッキ層熱間成形鋼(t=1.2mm)とをテーラー溶接し、板の化学組成は、表1と表2に示された。鋼板が真っ直ぐで、表面に清潔で、油や水のしみなどの汚染物質がない。高強度、低強度の2枚のブランクの溶接しようとする辺を、レーザー切断の方式で辺縁部の用意を行った;溶接する前に、突き合わせ隙間を、0.3mmにプリセットした。本発明の溶接ワイヤを使用し、レーザーパワーを5kWにし、スポット直径を2mmにし、デフォーカス量を-1mmにし、溶接速度を120mm/sにし、溶接ワイヤ直径を1.2mmにし、ワイヤ送給速度を50mm/sにし、溶接ワイヤの組成を表3に示す。高純度のアルゴンガスを、保護ガスとし、ガス流量は15L/minであり、給気方向が、溶接方向に対して90°の角度になる。上記の溶接プロセスでテーラー溶接した後に、ブランクに対して、温度を950℃に2.5分間保持する加熱処理を行い、通水金型に10秒間冷却し、溶接継手の機械的特性を表4に示した。
【0054】
実施例10
高強度アルミニウムケイ素メッキ層熱間成形鋼(t=1.2mm)と低強度アルミニウムケイ素メッキ層熱間成形鋼(t=1.8mm)とをテーラー溶接し、板の化学組成は、表1と表2に示された。鋼板が真っ直ぐで、表面に清潔で、油や水のしみなどの汚染物質がない。高強度、低強度の2枚のブランクの溶接しようとする辺を、レーザー切断の方式で辺縁部の用意を行った;溶接する前に、突き合わせ隙間を、0.3mmにプリセットした。本発明の溶接ワイヤを使用し、レーザーパワーを4.5kWにし、スポット直径を1.4mmにし、デフォーカス量を-1mmにし、溶接速度を80mm/sにし、溶接ワイヤ直径を1.0mmにし、ワイヤ送給速度を100mm/sにし、溶接ワイヤの組成を表3に示す。高純度のアルゴンガスを、保護ガスとし、ガス流量は15L/minであり、給気方向が、溶接方向に対して90°の角度になる。上記の溶接プロセスでテーラー溶接した後に、ブランクに対して、温度を950℃に4分間保持する加熱処理を行い、通水金型に10秒間冷却し、溶接継手の機械的特性を表4に示した。
【0055】
実施例11
実施例10と同じ高強度アルミニウムケイ素メッキ層熱間成形鋼(t=1.2mm)と低強度アルミニウムケイ素メッキ層熱間成形鋼(t=1.8mm)とをテーラー溶接し、板の化学組成は、表1と表2に示された。鋼板が真っ直ぐで、表面に清潔で、油や水のしみなどの汚染物質がない。高強度、低強度の2枚のブランクの溶接しようとする辺を、レーザー切断の方式で辺縁部の用意を行った;溶接する前に、突き合わせ隙間を、0.3mmにプリセットした。実施例10に使用した溶接ワイヤを採用し、溶接電流を120Aにし、溶接電圧を22Vにし、溶接速度を500mm/minにし、突き合わせる板の隙間を0.5mmにプリセットし、溶接ワイヤ直径を1.0mmにし、保護ガスは、80%アルゴンガス+20%二酸化炭素ガスであり、ガス流量を15L/minにした;給気方向が、溶接方向に対して90°の角度になった。上記の溶接プロセスでテーラー溶接した後に、ブランクに対して、温度を950℃に4分間保持する加熱処理を行い、通水金型に10秒間冷却し、溶接継手の機械的特性を表4に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
*標準の引張試験サンプルを使用し、サンプルの公称幅は12.5mmで、元のゲージ長は50mmであり、引張強度と伸長率をテストする;
**耐食性試験は、DIN50021、DIN50017、DIN50014規格に従って実施される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6