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特許7343628固相固定化された微生物トランスグルタミナーゼMTGおよび溶液でのMTGによる抗体リジン残基への部位特異的コンジュゲーション
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】固相固定化された微生物トランスグルタミナーゼMTGおよび溶液でのMTGによる抗体リジン残基への部位特異的コンジュゲーション
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20230905BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20230905BHJP
   C07K 7/00 20060101ALI20230905BHJP
   C12N 11/08 20200101ALI20230905BHJP
   C12P 21/04 20060101ALI20230905BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20230905BHJP
   C07K 14/78 20060101ALI20230905BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
C12P21/02 B ZNA
C07K16/00
C07K7/00
C12N11/08
C12P21/04
C07K14/705
C07K14/78
C07K19/00
【請求項の数】 17
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022005624
(22)【出願日】2022-01-18
(62)【分割の表示】P 2019502618の分割
【原出願日】2017-07-11
(65)【公開番号】P2022058642
(43)【公開日】2022-04-12
【審査請求日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】16180382.0
(32)【優先日】2016-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501494414
【氏名又は名称】パウル・シェラー・インスティトゥート
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ルネ シュピュヒャー
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ベーエ
(72)【発明者】
【氏名】ローガー シブリ
(72)【発明者】
【氏名】ダーフィト フアヴィッツ
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ クライス
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-524037(JP,A)
【文献】Enzyme and Microbial Technology,2016年02月26日,Vol.87,p.44-51
【文献】BIOCHEMICAL EDUCATION,1987年,Vol.15, No.4,p.198-208
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 21/00
C12N 11/00
C07K 16/00
C07K 14/00
C07K 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定化および/または非固定化形態のMTG(微生物トランスグルタミナーゼ)を使用して、有機分子を標的タンパク質にコンジュゲートし、融合タンパク質を作製するための方法であって、
a)MTGを含む溶液を供給する工程
b)標的タンパク質および有機分子を流体内に供給し、その後に、前記流体を、前記MTGを含む溶液と混合し
それによって前記有機分子を、MTGの触媒作用下で前記標的タンパク質にコンジュゲートする工程;
を含み、
ここで、
前記標的タンパク質は、抗体またはそのフラグメントであり
前記有機分子は、グルタミン残基またはリジン残基を含むペプチドであり、かつ
前記ペプチドは機能性部分を含み、ここで、前記機能性部分は、細胞毒性部分、蛍光標識、金属キレート剤、またはSPAACクリック反応に適した化学的部分である、前記方法。
【請求項2】
前記ペプチドは、MTGの基質である、請求項1に記載の方法
【請求項3】
前記SPAACクリック反応に適した化学的部分は、アジド基、DBCO基、テトラジン基またはトランスシクロオクテン基を含む、請求項1または2に記載の方法
【請求項4】
前記ペプチドは、前記ペプチドと前記機能性部分との間にスペーサー部分を含み、かつ/または自壊型基を含む、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法
【請求項5】
前記スペーサー部分は、ポリ-エチレングリコールまたはアルキル基であり、かつ、前記自壊型基は、p-アミノベンジルオキシカルボニル(PAB)である、請求項4に記載の方法
【請求項6】
前記グルタミン残基を含むペプチドは、アミノ酸配列FGLQPRY、SLLQGRを含むか、あるいは前記リジン残基を含むペプチドは、アミノ酸配列KNAAGGG、KDAAGGG、KAYAGGGもしくはAKETAAを含む、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法
【請求項7】
前記MTGが、標的タンパク質上の1つ以上の反応性グルタミン残基または1つ以上の反応性リジン残基を有機分子で修飾し、その際、前記残基が、遺伝的手段によって内因的または人工的に導入されている、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法
【請求項8】
前記標的タンパク質が、IgG、IgM、IgAもしくはIgEフォーマットの抗体またはそのフラグメントからなる群から選択される、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法
【請求項9】
前記抗体が、K288、K290またはK340の位置でグルタミン残基を含むペプチドで修飾されているか、あるいは前記抗体が、Q295またはN297Qの位置でリジン残基を含むペプチドで修飾されている、請求項8に記載の方法
【請求項10】
前記抗体のフラグメントが、Fab、Fab’、F(ab)’2、F(ab)’3、Dab、Fv、一本鎖Fv(scFv)、scFv-FcまたはscFv フラグメントである、請求項8または9に記載の方法
【請求項11】
前記MTGが、ポリマーに共有結合している、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法
【請求項12】
前記ポリマーが、第二世代の樹状ポリマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリ(アルキルオキサゾリン)、ポリビニルピロリドン、ポリリジンおよびポリグルタメート、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリメタクリル酸およびポリプロパクリル酸、あるいはそれらの混合物およびデンドリマー構造、糖残基をベースとするポリマー、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(ポリNIPAM)、ポリ(グリシジルメタクリレート)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(エチレン-alt-テトラフルオロエチレン)(ETFE)、ポリ(オリゴエチレングリコール)メタ-アクリレート(POEGMA)、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)(PMOXA)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)およびポリ(エチレンイミン)からなる群から選択される、請求項11に記載の方法
【請求項13】
第二世代の樹状ポリマーがde-PG2である、請求項12に記載の方法
【請求項14】
前記ポリマーのMTGコンジュゲートは、ポリマーとMTGとの間にリンカーを含み、前記リンカーは、リンカー系S-HyNic(スクシンイミジル-6-ヒドラジノ-ニコチンアミド)、S-4FB(4-ホルミルベンゾエート)、SMCC(スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート)、Y-S-Z(YはZでもあり得、その逆もあり得る)のような構造を有するホモ二官能性またはヘテロ二官能性スペーサーであり、ここでYおよびZは、以下の群:テトラジン、トランス-シクロオクテン、アジド、シクロオクテン、n-ヒドロキシスクシンイミド、マレイミド、イソチオシアネート、アルデヒド、エポキシド、アルコール、アミン、チオール、ホスホネート、アルキン、アシルトリフルオロホウ酸カリウム、α-ケト酸-ヒドロキシルアミン、O-アシルヒドロキシルアミン、カルボン酸、ヒドラジン、イミン、ノルボルネン、ニトリルおよびシクロプロペンのものであり、かつSは、ポリマーであるスペーサー単位であり、前記スペーサーのポリマーはオリゴまたはポリ(エチレングリコール)(PEG)、デキストラン、アルキルおよびアミノ酸である、請求項11から13までのいずれか1項に記載の方法
【請求項15】
前記ポリマーのMTGコンジュゲートは、マイクロビーズ上に固定化されている、請求項11から14までのいずれか1項に記載の方法
【請求項16】
前記マイクロビーズは、ガラス、ニッケル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチルブテン)、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、レーヨン、ナイロン、ポリ(ビニルブチレート)、ポリ二フッ化ビニリデン(PCDF)、シリコーン、ポリホルムアルデヒド、セルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ゼラチン、セファロースマクロビーズ、セファデックスビーズまたはデキストランマイクロキャリア、アガロース、アルギン酸塩、カラギーナン、キチン、セルロース、デキストランまたはデンプン、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリアクロレイン、ポリジメチルシロキサン、ポリビニルアルコール、ポリメチルアクリレート、ペルフルオロカーボン、シリカ、珪藻土、アルミナ、金、酸化鉄、グラフェンおよびグラフェン酸化物、金属酸化物を含み;前記マイクロビーズの大きさは、1~100nm、または100~1000nm、または1μm~10μm、または10μm~1000μmの範囲にある、請求項15に記載の方法
【請求項17】
前記流体は、緩衝水溶液であり、前記緩衝水溶液はさらに、塩、グリセロール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-プロパノール、DMSO、メタノールおよびアセトニトリルからなる群から選択される添加剤を60%まで含有する、請求項1から16までのいずれか1項に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロビーズ固定化MTG(微生物トランスグルタミナーゼMTG)および/または溶液でのMTGポリマーコンジュゲートおよび/または溶液での遊離MTGを用いる、有機分子のタンパク質へのコンジュゲーション方法および融合タンパク質の作製方法に関する。
【0002】
近年、酵素によるタンパク質の部位特異的機能化は、バイオコンジュゲーション分野においてかなりの関心を集めている。酵素によって行われるバイオコンジュゲーション反応は、通常、低い試薬濃度(サブミリモル)での速い反応速度、高い変換効率を示し、そしてこれは生理学的条件下で行われ得る。
【0003】
これらの利点にもかかわらず、酵素は、その後に、あらゆる下流での干渉を避けるために混合物から除去されなければならず、したがって、酵素は、失われてしまう。これは、固相の固定化を通して、酵素の簡単な回収で回避することができた。酵素の固定化は、これまで、ほぼ小化合物の変換のみに適用されており、そして酵素の安定性を高め、さらには高められた活性、選択性または選択度につながることが報告された。様々なタンパク質フォーマットを数回コンジュゲーションするための連続操作下でタンパク質のような高分子量基質を部位特異的に修飾するための固定化酵素の調整可能な性質(すなわち、特定の残基に対して高められた選択性)はまだ報告されていない。
【0004】
Policarpoらは、近年、Ni-NTAアガロースビーズ上への酵素のコンジュゲーションを示した。残念ながら、このコンジュゲーションは、非共有結合的な性質を有し、カラムブリードの危険性が高い。
【0005】
したがって、本発明の課題は、酵素のあらゆるカラムブリードを大幅に避けながら、有機分子のタンパク質への望ましいコンジュゲーションのために、高い速度に達するアクティブフローリアクターカラムまたはスピンカラムで使用するためのしっかりと固定化された酵素および/または溶液で酵素をもたらす方法を提供することである。
【0006】
この課題は、本発明に従って、固定化および/または非固定化形態のMTG(微生物トランスグルタミナーゼ)を使用して、有機分子を標的タンパク質にコンジュゲートし、融合タンパク質を作製するための方法であって、以下の工程:
a)MTGを、ポリマーの交差反応性基を露出させることによって上記ポリマーに結合させて、MTGを固定化する工程;
b)MTGポリマーコンジュゲートをマイクロビーズに吸着させるか、またはMTGポリマーコンジュゲートを溶液に入れる工程;
c)MTGポリマーコンジュゲート吸着マイクロビーズおよび/またはMTGポリマーコンジュゲートを含む溶液および/またはMTGを含む溶液をアクティブフローリアクターカラムに充填する工程;
d)標的タンパク質および有機分子を流体内に供給し、前記流体を、所定の条件下で、前記充填されたアクティブフローリアクターカラムに通すか、またはMTGポリマーコンジュゲートを含む溶液および/またはMTGを含む溶液と混合し、それによって前記有機分子を、MTGの触媒作用下で前記タンパク質にコンジュゲートする工程;
e)前記流体からタンパク質有機分子コンジュゲートを抽出する工程
を含む方法によって達成される。
【0007】
この方法は、遊離体の高い転化率でタンパク質に有機分子をコンジュゲートして、タンパク質有機分子コンジュゲートを効率的に形成するための機会を初めて提供する。MTGのポリマーへの共有結合のために、MTGのブリーディングは、有利な程度まで抑制され得る。この方法は驚くべきことに、コンジュゲーションが溶液での非固定化酵素を用いて行われた場合にすべて標的化されることになる複数の反応性残基の存在下でコンジュゲートされるべきタンパク質、ペプチドまたは他の生体分子上の1つの(またはそれ以上の所望の)酵素反応性残基に対して高められた選択性を酵素の固定化によってもたらす。このことは、様々な程度までコンジュゲートされた分子の望ましくない混合物、またはすべての残基の完全なコンジュゲーションをもたらすであろう。このように固定化形態のMTGを使用する場合、たった1つの(またはそれ以上の所望の)残基が、それぞれ、標的化され、かつコンジュゲートされる。当然ながら、MTGは、溶液中でその遊離形態でかつ/または溶液に入れられるMTGポリマーコンジュゲートとしても使用され得る。MTGに関して、当業者は、MTGが、好ましくは、生物ストレプトマイセス・モバラエンシス(streptomyces mobaraensis)に由来することを理解している。
【0008】
ポリマーのマイクロビーズへの結合は、ポリマーがマイクロビーズにイオン結合および/または共有結合する際に安定な方式でもたらされ得る。ポリマーの好ましい例は、第二世代の樹状ポリマー(de-PG2)であり得る。
【0009】
本発明の好ましい実施形態によれば、標的タンパク質は、IgG、IgM、IgAもしくはIgEフォーマットの抗体またはそのフラグメントからなる群から選択することができ、好ましくはモノクローナルであって、任意で、N297にて変異(例えば、N297QまたはN297A)(EU番号付けスキーム)を含む、キメラ、ヒト化または二重特異性、脱グリコシル化または非グリコシル化であるように選択されるモノクローナルであり、また、好ましくはさらにMTGを介したコンジュゲーションを可能にする抗体骨格中に他の反応性グルタミン残基変異も含む。
【0010】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、標的タンパク質は、ペプチド、例えば、Fab、Fab’、F(ab)’2、F(ab)’3、Dab、Fv、一本鎖Fv(scFv)フラグメントscFv-Fc(scFv)であり、ここで、さらに可能性のあるタンパク質および/またはペプチドは、他のタンパク質およびペプチドの認識に関与するタンパク質およびペプチド、例えば、これらに限定されないが、タンパク質キナーゼ、例えば、マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼ、ならびにMAPキナーゼ、ヤヌスキナーゼ(JAKI)およびサイクリン依存性キナーゼを直接的または間接的にリン酸化するキナーゼ、上皮成長因子(EGF)受容体、血小板由来成長因子(PDGF)受容体、線維芽細胞由来成長因子(FGF)受容体、インスリン受容体およびインスリン様成長因子(IGF)、人工タンパク質、例えば、ダルピン(darpin)、アフィボディ/ナノボディもしくはフィブロネクチンフラグメント、または免疫応答を誘発し、したがってワクチン接種にとって重要であるCRM197、ジフテリア毒素の変異体もしくはGBS67(PI-2aの補助タンパク質)などのキャリアタンパク質もしくはハプテンを含み;さらに、標的タンパク質は、好ましくは非タンパク質構造、例えば、グルカンのような単量体または多量体デキストランへのコンジュゲーションも含む。
【0011】
酵素に関して、酵素は、1つ以上の反応性グルタミン残基(例えば抗体のQ295およびN297Q)または標的タンパク質上の1つ以上の反応性リジン残基(例えば抗体のK288またはK290、K340)のいずれかを有機分子で修飾してもよく;ここで、残基は、遺伝的手段またはその組み合わせによって内因的または人工的に導入される。
【0012】
標的タンパク質にコンジュゲートされるべき有機分子の好ましい実施形態は、蛍光色素/標識(例えば、Alexa488、Alexa647)、毒素などの細胞傷害性または影響を及ぼす部分または細胞調節剤、免疫細胞免疫調節/刺激化合物、SPECT/PETまたはMRIに適した金属キレート剤(例えばNODA-GA)、機能性ペプチド(例えば、アルファデフェンシンNP-1)、歪み促進型アジド-アルキンクリックケミストリー(SPAAC)またはテトラジン-アルケンライゲーションのようなクリック反応に適した化学的部分、例えば、アジドおよびシクロオクチン誘導体(例えば、DIFO、BCN、DIBAC、DIBO、ADIBO)、ならびにMTGを介したコンジュゲーションのための第一級アミンおよびC>20のスペーサー部分を有するテトラジンおよびトランス-シクロオクテン誘導体からなる群から選択され得る。
【0013】
さらに、有機分子は、細胞傷害性部分のような機能性部分にコンジュゲートされた(C+N)>20のペプチド、蛍光色素、金属キレート剤、またはSPAACクリック反応に適した化学的部分(例えば、アジド基またはDBCO基)またはテトラジンおよびトランス-シクロオクテン基またはその誘導体からなる群から選択され得る。特に、ペプチドは、リジン(例えば、KNAAまたはKAYA)またはグルタミン残基(例えば、FGLQPRY)を含んでいてよく、これはMTGにより標的化され(すなわち、MTGのための基質である)、任意でC>20のスペーサー部分(例えば、ポリエチレングリコール、アルキル基)を含みかつ/または第一級アミンを介してコンジュゲートされている。
【0014】
さらに、有機分子は、任意の位置にリジンを含むペプチド(例えば、KNAAGGGもしくはKDAAGGGもしくはKAYAGGGもしくはAKETAA)または任意の位置にグルタミン残基を含むペプチド(例えば、FGLQPRY、SLLQGR)からなる群から選択することができ、これはMTGにより標的化され(すなわち、MTGのための基質である)、任意で酵素的に切断可能なペプチド配列(例えば、バリン-シトルリン(VC)、KNAAGGG-VC)を含み;前記リジンペプチドは、(C+N)>20のサイズ(長さ)を有し、前記グルタミンペプチドは、1<(C+N)<200のサイズ(長さ)を有する。
【0015】
マイクロビーズまたはマイクロビーズ樹脂の好ましい実施形態は、ガラス、ニッケル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチルブテン)、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、レーヨン、ナイロン、ポリ(ビニルブチレート)、ポリ二フッ化ビニリデン(PCDF)、シリコーン、ポリホルムアルデヒド、セルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、および類似物からなる群から選択され得る。他の固体支持体としては、ゼラチン、ガラス、セファロースマクロビーズ、セファデックスビーズまたはデキストランマイクロキャリア、例えば、CYTODES(登録商標)(ファルマシア、スウェーデン、ウプサラ)、多糖、例えば、アガロース、アルギン酸塩、カラギーナン、キチン、セルロース、デキストランまたはデンプン、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリアクロレイン、ポリジメチルシロキサン、ポリビニルアルコール、ポリメチルアクリレート、ペルフルオロカーボン、無機化合物、例えば、シリカ、ガラス、珪藻土、アルミナ、金、酸化鉄、グラフェンおよびグラフェン酸化物もしくは他の金属酸化物、または2種以上の天然に存在するポリマー、合成ポリマーもしくは無機化合物の任意の組み合わせからなるコポリマーが挙げられる。ビーズの大きさは、1~100nm、または100~1000nm、または1μm~10μm、または10μm~1000μmであり得る。
【0016】
流体の適切な例は、適切な緩衝剤(例えば、トリス)および塩添加剤(例えば、NaCl)を含有する水からなる群から選択することができ、前記緩衝水溶液はさらに、グリセロールおよび他の有機溶媒、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-プロパノール、DMSO、メタノール、アセトニトリルを60%まで含有し得る。
【0017】
第一世代および第二世代およびそれ以上の世代の樹状ポリマー(de-PG2)の他に、適切なポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリ(アルキルオキサゾリン)、ポリビニルピロリドン、ポリリジンおよびポリグルタメート、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリメタクリル酸およびポリプロパクリル酸、あるいはそれらの混合物およびデンドリマー構造からなる群から選択され得る。また、糖残基をベースとしたポリマーとしては、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(ポリNIPAM)、ポリ(グリシジルメタクリレート)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、およびポリ(エチレン-alt-テトラフルオロエチレン)(ETFE)、ポリ(オリゴエチレングリコール)メタ-アクリレート(POEGMA)、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)(PMOXA)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)およびポリ(エチレンイミン)ならびにそれらの誘導体が挙げられる。
【0018】
いくつかの実施形態では、MTGとポリマーとのコンジュゲーションは、ポリマーとMTGとの間にリンカー(スペーサー)を含み、前記リンカーは、二官能性リンカー系S-HyNic(スクシンイミジル-6-ヒドラジノ-ニコチンアミド)、S-4FB(4-ホルミルベンゾエート)もしくはそれらの誘導体、またはSMCC(スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート)もしくはその誘導体、Y-S-Z(YはZでもあり得、その逆もあり得る)のような構造を有するホモ二官能性またはヘテロ二官能性スペーサーからなる群から選択することができ、ここでYおよびZは、以下の群またはそれらの誘導体:テトラジン、トランス-シクロオクテン、アジド、シクロオクテン(例えば、ジベンジルシクロオクチンまたはビシクロノニン)、n-ヒドロキシスクシンイミド、マレイミド、イソチオシアネート、アルデヒド、エポキシド、アルコール、アミン、チオール、ホスホネート、アルキン、アシルトリフルオロホウ酸カリウム、α-ケト酸-ヒドロキシルアミン、O-アシルヒドロキシルアミン、カルボン酸、ヒドラジン、イミン、ノルボルネン、ニトリルおよびシクロプロペンのものであり、かつSは、ポリマーまたはその誘導体、例えば、オリゴまたはポリ(エチレングリコール)(PEG)、アルキル部分で作られたデキストラン、アミノ酸またはペプチド誘導体であるスペーサー単位である。
【0019】
コンジュゲーションの進行に適した条件は、所定の条件が、以下の詳細を含む場合にもたらされ得る:0℃~50℃の温度範囲、数秒~168時間(または7日)の接触時間、アクティブフローリアクターカラムにおいて1μL/分を下回るかまたは1μL/分~10ml/分の流速/速度、1μM~1mMのタンパク質濃度、ここで、標的タンパク質に対する有機分子のモル比は、0.5~50倍または50~500倍または500~10,000倍であり、かつMTG濃度は、樹脂もしくはマイクロビーズまたはコンジュゲーション溶液1mlあたり0.001mg/ml~0.01mg/mlまたは0.01mg/ml~10mg/mlであり、さらに好ましくは少なくとも30%かつ100%までの転化率の有機分子を用いた標的タンパク質へのコンジュゲーション効率および0.1バール~20バールの流圧も含む。
【0020】
さらに、機能化マイクロビーズは、スピンカラムに適したデバイスに配置することもでき、ここで、反応混合物は、マイクロビーズと共に1秒~60秒、1分~60分、1時間~168時間の一定時間インキュベートされる。次いで、遠心分離し、上清を除去することにより混合物が再びマイクロビーズから除去されるか、または遠心分離の間に、マイクロビーズを保持するが、反応に必要な混合物/コンジュゲートを保持せずに、溶液が適切なフィルターデバイスを通して押し出される。
【0021】
本発明の好ましい実施形態は、添付の図面を参照して以下により詳細に説明される:
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、de-PG2ポリマーへの微生物トランスグルタミナーゼMTGの固定化プロセスおよびその後のマイクロビーズへの吸着を概略的に示す。
図2図2は、de-PG2ポリマーへのMTGのコンジュゲーションおよびMTGの特性および定量化、ならびに、1μMのMTGに規準化したMTG-ポリマーコンジュゲート活性を示す。
図3図3は、マイクロビーズ固定化MTGを用いたscFVおよびFabフラグメントのような抗体様足場への機能性分子のコンジュゲーションを概略的に示す。
図4図4は、マイクロビーズ固定化MTGを用いた(非グリコシル化)抗体(N297SまたはN297Q変異体)への機能性分子のコンジュゲーション;さらには抗MTG抗体によって検出されたポリマーに結合したMTGを概略的に示す。
図5図5は、コンジュゲーションが溶液の形で行われる場合と比較した、いくつかの反応性アミノ酸の存在下で固定化MTGによって高められた選択性を示す。
図6図6は、異なるpH条件を用いた脱グリコシル化IgG1(ハーセプチン)についてのグルタミン含有ペプチド(配列を右側の表に示す)のスクリーニングを示す。ペプチド2は、50%以上のコンジュゲーションが生じるpH7.6で最も有効であることが分かった。
図7図7は、ペプチド2の構造(左)およびそのアジド誘導体(右)を示す。
図8図8は、固相固定化MTGを用いた、ペプチドFGLQRPY(ペプチド2)と脱グリコシル化IgG1とのコンジュゲーションを示す。
図9図9は、70%を上回るコンジュゲーションをもたらす、固定化MTG(左)および溶液のMTG(右)を用いた、IgG1(N297S変異を含む)へのペプチド2のコンジュゲーションを示す。
図10図10は、70%を上回るコンジュゲーションをもたらす、固定化MTG(左)および溶液のMTG(右)を用いた、IgG1 N297S抗体のリジン340およびリジン288/290へのペプチド2-アジド誘導体のコンジュゲーションを示す。
図11図11は、約40%の二重部位特異的修飾IgG1をもたらす、固定化MTG(左)および溶液のMTG(右)を用いたIgG1 N297S抗体への二重部位特異的コンジュゲーションを示す。グルタミンQ295コンジュゲーション用の基質TCO-PEG3-NHおよびリジン340(および288/290)コンジュゲーション用のペプチド2アジド誘導体を使用した。
図12図12は、リジンコンジュゲート抗体のSDS-PAGEクマシー分析および蛍光分析を示す。軽鎖ではなく、重鎖のみが選択的にコンジュゲートされる。
【0023】
MTG-ポリマー-コンジュゲートの形成および特性決定
微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)へのN-スクシンイミジル-4-ホルミルベンズアミド(4FB)のコンジュゲーション(図1)について、MTG1つあたり1つのリンカーを目標に、様々なリンカー過剰を調査した。リンカー比をLC-MSおよびUV-VISによる分光光度法で定量すると、双方の方法がよく相関していることが分かった(図2a)。4FBに対して等しいMTGのリンカー量では、約0.4のコンジュゲーション比が得られ、2を超えるとこの比は約0.8に増加した(図2a)。0.8の比が望ましいように思われたが、本発明者らは、約0.5のリンカー比をもたらす1.5当量の4FBを使用することを選択した。なぜならば、実験の過程で、リンカー比が0.8であり高すぎる場合には、酵素-ポリマーコンジュゲートが生成されるものの、サンプルが沈殿するためこれを超遠心処理では精製できないことが観察されたためである。これは、2当量の場合には二重に結合したMTG(MTG-(4FB))の量が20%を上回り、対照的に1.5当量の場合にはこの量が10%を下回ったままであったことに起因し得る(図2b)。MTG-(4FB)の量が多すぎると、同一または別のポリマーストランドでの望ましくない過剰架橋、MTG活性の低下、および酵素-ポリマーコンジュゲートの溶解度の低下を招き得る。これらの理由から、MTGを過剰にコンジュゲートさせずに、MTGに対して1.5当量の過剰の4FBを選択し、単一結合したMTGを90%を上回る純度で生成させることが特に強調された。
【0024】
N-スクシンイミジル6-ヒドラジノニコチネート(S-HyNic)-リンカーにコンジュゲートしたポリマーde-PG2500図1)を、次いでMTG-4FBと共にインキュベートした。これら2種の結合した化合物を混合すると、UV-VISから分かるように354nmで特徴的なピークが形成され、吸収が増加した(図2c)。このことは、ビス-アリール-ヒドラゾン(BAH)結合が形成され、かつ酵素-ポリマーコンジュゲートがうまく生成したことを表す。
【0025】
ポリマー-酵素コンジュゲートの活性を、比色ヒドロキシルアミン-アミンアッセイを用いて溶液中でアッセイしたところ、MTGは、天然型MTGと比較して明らかに低下してはいるものの、まだ触媒活性を有することが分かった(図2d)。この活性の低下は、固定化されていない天然型MTGと比較してポリマー固定化MTGの回転自由度および配置の可能性が低下し、これによりヒドロキシルアミンが酵素の活性部位により入りにくくなったことで説明することができるだろう。溶液中の同一のポリマーに固定化されたプロテイナーゼKについても、同様の活性低下が見られたことが報告された。そうとはいえ、最も重要なのは、MTGは、固定化後もまだ触媒活性を示したことであった。
【0026】
マイクロビーズガラス表面に吸着したMTG-ポリマーコンジュゲートの量の計算
354nm(29,000M-1cm-1)にてUV-VISで定量化可能なビス-アリール-ヒドラゾン結合によって、ビーズ固定化MTG量を、溶出容量から推定することができた。1時間のインキュベーション後、溶出容量中の濃度を求めると1.6±0.15μMであり、開始濃度が5μMの場合には約70%のコンジュゲートがビーズに吸着した。MTGは、ほとんどがポリマーに単一架橋しているので、吸着質量は、約300ng/cmまたは約7.8pmolMTG/cmと推定され得る。これらの値は、樹状化ポリマー(denpol-polymer)に固定化されたプロテイナーゼKまたはホースラディッシュペルオキシダーゼおよびシリカポリマー表面に共有結合的に固定化された他の酵素を用いるすでに公表された結果と一致する。
【0027】
機能性分子のタンパク質への部位特異的コンジュゲーションのためのマイクロビーズ固定化MTG
MTG-ポリマーコンジュゲートの安定した固定化のために、ガラスマイクロビーズの使用を選択した。これは、正電荷を帯びた樹状化アミン(denpol-amine)が、負電荷を帯びたガラス表面に対して強い親和性を示し、ビーズをフローベースのマイクロリアクターに容易に取り付けることができるためである。このようなセットアップによって、十分に制御可能な方法でサンプルビーズを繰り返しオーバーフローさせることが可能となり、したがって反応を完了に向かわせるためにこれを使用することができる。さらに、マイクロビーズをコンジュゲーションプロセス後に容易に洗浄することができ、それにより、次のコンジュゲーションに向けて固定化MTGを回収することができる。
【0028】
scFV、ナノボディまたはFabフラグメントを含む、比較的小さな抗体様足場の治療関連タンパク質は、より大きな抗体と比較して、それらの腫瘍浸透能力の増大、それらの容易な産生およびより迅速なクリアランスのためにかなり興味深い。タンパク質を機能化する最初の試みでは、このように、FabフラグメントとscFVとをコンジュゲートすることが目的とされており、その双方とも、それらのC末端myc-タグにおいてグルタミン2(‘Q2’)を介して、ストレプトアビジン被覆表面への固定化を含むさらに下流の用途に理想的な基質であるビオチン-カダベリンをアミンとして使用して、溶液でのMTGによって効率的にコンジュゲートされることがすでに示されている。グルタミンを含むタンパク質上の可動性ループおよび末端タグは、MTGによって優先的に標的とされることが知られているが、球状構造および接近可能な末端タグの存在は、表面固定化MTGのコンジュゲーションを可能にし、酵素の活性部位に入るのは、嵩高い抗体上のグルタミン295のようなループ構造と比較してそれほど難しくない。したがって、ビオチン-カダベリンとC末端にmycタグ付けしたFabフラグメントおよびscFVとを混合し、マイクロリアクター内のマイクロビーズ固定化MTG上に溶液を流した(図1および3a)。この溶液をマイクロリアクターに30分間ポンプで送り、LC-MS分析を行った。所望のビオチンコンジュゲートFabフラグメントへの95%以上の完全な転化が生じたことが判明し、非コンジュゲート材料は、検出されなかった(図3b)。また、c-mycタグ付きscFVは、同一の条件下でわずか30分以内に効率的にコンジュゲートして、95%以上の所望のコンジュゲートをもたらした(図3b)。
【0029】
MTG用の蛍光アミン供与体であるダンシルカダベリンもまた、FabおよびscFVに対してわずか8等モルの過剰量でコンジュゲートされ(図3a)、30分以内に95%以上のダンシル標識化Fabフラグメントおよび90%以上のscFVをもたらした(図3b)。
【0030】
場合によっては、嵩高い第一級アミン含有基質を、MTG反応性グルタミンに直接コンジュゲートさせると、残留非コンジュゲート材料との不完全な生成物転化をもたらすことがある。これは特に、金属キレート剤上のカルボキシ基のような親水性の高い基を含むそれらの基質で起こる。最初に「クリック可能」な部分をタンパク質上に設け、続いて所望分子のクリックコンジュゲーションを行う2段階手法を使用すると、この問題を回避して、定量的コンジュゲーションをもたらすことができる。したがって、SPAAC(歪み促進型アルキン-アジド環状付加)クリックケミストリー(図3c)に適したアミン-PEG3-アジドを用いてmycタグ付きscFVにコンジュゲートできるかどうかが検討された。mycタグ付きscFVをカラムに流し、30分後にサンプルを取り出し、LC-MS分析にかけたところ、すでに82%までの所望のscFV-N3転化が生じていた(図3c)。90分間ビーズをオーバーフローさせ続けると97%の転化が得られ、一晩連続して(14時間)流した後、非コンジュゲート材料は、もはや検出されなかった(図3c)。これらの結果は、マイクロビーズ固定化MTGが、少量の試薬過剰でも、90分未満で様々な基質をmycタグ付きタンパク質に定量的にコンジュゲートすることが可能であったことを明確に実証する。
【0031】
これらの結果に基づいて、完全抗体もビーズ固定化MTGによってコンジュゲートできるかどうかが検討された。予め、脱グリコシル化抗体の1つの特定されたグルタミン295(Q295)は、抗体骨格内の唯一のMTG標的部位としてFcドメインの可動性C’Eループ上にあり、したがって、グリコシル化部位を切除するN297Q点変異を導入すると、2つまたは4つの結合部位を有する規定の抗体コンジュゲートが生成される。表面上での抗体コンジュゲーションは、その配向の可能性を制限する抗体の嵩高さゆえ、溶液の形でよりも困難な場合があり、したがって、ループへのQ295およびQ297それぞれへのMTGの到達は、おそらくより困難になる。
【0032】
したがって、脱グリコシル化およびビオチン-カダベリンを回避するために、N297S点変異を含むIgG1抗体に固定化MTGを供した(図4a)。30分後、還元抗体のLC-MS分析は、すでに37%の重鎖転化率を示し、室温で1時間後には72%を示し、これは一晩のインキュベーションの間に95%以上に増加した(図4a)。4~6の高い薬物抗体比(DAR)を有する部位特異的に修飾された抗体は、同一の薬物量を有する従来の非特異的コンジュゲート抗体と比較して、コンジュゲート薬物を効果的に腫瘍標的部位に送達されると考えられ、これによって、このようなADCは、改善された癌治療として非常に魅力的なものとなる。したがって、固定化MTGが、N297Q抗体に非常に近接して2つのSPAAC感受性二官能性リンカーをコンジュゲートするその能力を維持するであろうかどうかが調査された(図4b)。ビーズ固定化MTGが実際に双方のリンカーを定量的かつ効率的にコンジュゲートすることができ、抗体1つあたり4つのリンカーの比でN297Q抗体をもたらすることが分かった(図4b)。
【0033】
これらの研究により、MTGの特異的でかつ効率的なコンジュゲーション能力は固定化時に維持され、さらにタンパク質の残基特異性を調整することさえできることが明らかになった。
【0034】
マイクロビーズ上でのMTG-ポリマーコンジュゲートおよびMTG活性の安定性調査
樹状化ポリマーのポリカチオン性が、数週間にわたりアニオン性ガラス表面での安定な表面固定をもたらすことはすでに示されていた。固体酵素固定化は、特に有望な治療用タンパク質の下流の用途にとって重要であるため、スロットブロットアッセイおよび抗MTG抗体を用いた酵素漏出への対処がなされている。大量のサンプルの適用が可能であり、またその感度ゆえ、スロットブロットが選択されている。陽性対照としてのMTG-ポリマーコンジュゲートは、強いシグナルを示し(図4c、レーン1、i)、また非コンジュゲートMTGを検出することができたが(レーン1、ii)、HyNicポリマーは、シグナルを生成しなかった(レーン1、iii)。このことは、MTGがポリマーにコンジュゲートした場合であっても、抗体がMTGを特異的に認識したことを実証している。14時間の連続操作の後、MTGはしっかりと結合したままであり(レーン2、iおよびii)、また複数のコンジュゲーションを実施した40時間の操作後も、MTGは、ポリマーにしっかりと結合したままで、酵素は検出されなかった(レーン2、iii)。後者の条件下では、固定化MTGは、3時間後にも90%を上回るまでBCをN297S IgG1にコンジュゲートすることができた。これらのデータから、MTGは、ガラスマイクロビーズにしっかりと結合したままであるだけでなく、長期間および数回のコンジュゲーションの間、それぞれ、活性があり、したがって、MTGと同程度のサイズ範囲のタンパク質をコンジュゲートするための非常に有望なツールであると結論づけられた。
【0035】
固定化MTGの複数のMTG反応性アミノ酸の存在下での残基選択性の増加
固定化酵素は、基質に対して高められた選択性を示すことが報告されているので、これは固定化MTGにも適用できると考えられた。MTGを用いた、いくつかの反応性リジン残基を有する、アビジン(モデルタンパク質として機能)へのZQG-Tamra-カダベリン(ZQG-TC)の溶液の形でのコンジュゲーションは、デコンボリューションしたLC-MSスペクトルにおいて2つの主要なピークを示した。これらのピークは、1つのZQG-TCを有するアビジンおよび2つのコンジュゲートしたZQG-TCを有するアビジンに対応するだけでなく、いくつかの未修飾アビジンにも対応する(図5、左パネル)。同一の実験を行ったが、ただし固定化MTGを使用したところ、驚くべきことに、おそらくMTGの回転自由度の低下ゆえに、MTGは、アビジンの1つのリジン残基をほぼ独占的に標的とし、第2残基へのコンジュゲーションは限られていたことが分かった(図5、右パネル)。これらのデータは、固定化MTGが、2つの残基を主にコンジュゲートする液相コンジュゲーションでは手の届かない残基選択性を調整するために実際に使用され得ることを示す。
【0036】
脱グリコシル化および非グリコシル化IgG1のリジン残基への小さなグルタミン含有ペプチドの部位特異的コンジュゲーション
ZQG誘導体を用いるリジン側鎖を介した抗体のMTGを介した機能化が報告されているが、そのコンジュゲーション収率は満足できるものではなく(すなわち<20%)、かつ修飾リジン部位は報告されていなかった。したがって、さらなる研究は、溶液の形でおよび固定化MTGを用いて、非グリコシル化および脱グリコシル化IgG1のリジン残基を標的とすることを目的としている。様々なグルタミンペプチドが、一般的に適用されているZQGまたはその誘導体よりもIgG1上のリジン残基に対してより効率的にコンジュゲートされる可能性があると推論された。したがって、様々なpH条件下にて、溶液で高いMTG活性が報告されているグルタミン含有ペプチドの小さなライブラリーが最初にスクリーニングされ、これはその後、固定化MTGに適用されることが望まれる。実際に、室温で16時間インキュベートした後に脱グリコシル化IgG1に対して好ましいコンジュゲーション比を有する配列を同定することができ、これは分析にLC-MSを使用してZQGより高い反応性を示した(図6)。特に、ペプチド配列NH-FGLQRPY-COOHは、脱グリコシル化IgG1に対してpH7.6の溶液中のZQGよりもほぼ2倍高いほぼ50%のコンジュゲーション効率を示した(図6)。脱グリコシル化IgG1およびペプチドFGLQRPY(ペプチド2、ペプチドの構造については図7の左)を、室温で一晩、固定化MTGに供すると、30%のコンジュゲーションが見出された(図8)。驚くべきことに、IgG1非グリコシル化N297S変異体およびFGLQRPYを使用すると、コンジュゲーション率は、固定化MTGおよび溶液のMTGにより71%に増加した(図9の左右、それぞれ)。固定化MTGおよび溶液のMTGとともにFGLQRPYアジド誘導体(ペプチド構造については図7の右)を使用し、分析にLC-MSを使用しても同じ結果が得られた(図10の左右、それぞれ)。分析にLC-MSを使用すると、主に、単一の修飾種と、ほんのわずかな第2のコンジュゲーションとが見出され、双方とも専ら重鎖上にあった。ペプチドマッピングにより、Lys288またはLys290に、およびLys340に2つの修飾部位が確認された。
【0037】
固定化MTGおよび溶液のMTGを用いる非グリコシル化IgG1(N297S変異体)への部位特異的二重コンジュゲーション
固定化MTGおよび溶液のMTGを用いてグルタミンおよびリジンのコンジュゲーションを確立したことから、N297S IgG1のQ295およびK340、K288/K290を修飾することによって固定化MTGおよび溶液のMTGを用いて部位特異的二重修飾が実現可能であるかどうかが推論された。このような二重修飾抗体、例えば、2つのイメージングプローブを有する二重修飾抗体は、例えば、非侵襲的および/または作業中/作業後の組織イメージングに非常に適しているであろう。また、相乗効果を示す2つの異なる毒性ペイロード(toxic payload)を結合させることができた。Q295を、最初にNH-PEG3-TCOで95%以上修飾し、続いてペプチド-2アジド誘導体で修飾すると、38%のわずかに低い収率の二重部位特異的修飾IgG1が得られ(図11、左)、溶液のMTGを用いる二重部位特異的コンジュゲーションでも同様の結果が得られた(図11、右)。SDS-PAGEにより、リジン残基への重鎖特異的コンジュゲーションが確認され、二重コンジュゲート抗体についてもLC-MS結果が確認された(図12)。
【0038】
機能性リジンペプチドの脱グリコシル化抗体へのコンジュゲーション
リジン残基を含むペプチドが、溶液のMTGを用いてグルタミン295位で脱グリコシル化抗体を部位特異的に修飾するのにも使用できるかどうかも調査されたが、これはこれまで文献には記載されていなかった。このようなN-基(KAYA-GGG-N)などの官能基を有するペプチドまたは金属キレート剤(例えば、NODAGA)を備えることで、第1の場合、例えば、低モル当量でのSPAAC-クリックケミストリーによって別の部分を後で結合させることができるだろう。第2の場合、機能性部分を直接コンジュゲートさせることができるので、第2の工程を必要とせず、このことは、さらなる下流の処理を容易にする。さらに、親水性アミノ酸をペプチドに組み込むことで、機能性部分(「前記ペイロード」)の溶解度を高めることができ、このことは疎水性ペイロードにとって非常に有益である。本研究では、KAYA-GGG-Nは、KNAA-GK-PEG3-NODAGAおよびKAYA-GK-PEG3-NODAGAと同様に高い効率(>95%)で脱グリコシル化抗体にコンジュゲートされ得ることが示された。
図1
図2-1】
図2-2】
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