IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本触媒の特許一覧

特許7343655インクジェット捺染用インク、該インクを用いた印刷物の製造方法および画像固着物品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】インクジェット捺染用インク、該インクを用いた印刷物の製造方法および画像固着物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20230905BHJP
   D06P 5/30 20060101ALI20230905BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230905BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230905BHJP
   D06P 1/44 20060101ALN20230905BHJP
【FI】
C09D11/322
D06P5/30
B41J2/01 501
B41M5/00 114
B41M5/00 120
B41M5/00 100
D06P1/44 L
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022078502
(22)【出願日】2022-05-11
(65)【公開番号】P2023001873
(43)【公開日】2023-01-06
【審査請求日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2021102640
(32)【優先日】2021-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100161942
【弁理士】
【氏名又は名称】鴨 みどり
(72)【発明者】
【氏名】中元 桂一
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-023168(JP,A)
【文献】特開2018-058913(JP,A)
【文献】特開2005-314688(JP,A)
【文献】特開2020-104362(JP,A)
【文献】特開2018-133442(JP,A)
【文献】特開2010-077381(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044673(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
D06P
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、樹脂エマルション粒子、オキサゾリン基含有化合物および水性媒体を含むインクジェット捺染用インクであって、
前記樹脂エマルション粒子が、カルボキシ基を有するアクリル-スチレン系重合体を主成分として含み、
前記樹脂エマルション粒子の平均粒子径が150nm以上であり、前記樹脂エマルション粒子の含有量が前記インクジェット捺染用インク100質量%に対し10~20質量%であり、
前記オキサゾリン基含有化合物の含有量が前記樹脂エマルション粒子100質量%に対し0.5~10質量%である
ことを特徴とするインクジェット捺染用インク。
【請求項2】
前記アクリル-スチレン系重合体を形成するための単量体におけるスチレン系単量体の含有量が、(メタ)アクリル系単量体およびスチレン系単量体の合計量100質量%に対し、1~55質量%である、
請求項1に記載のインクジェット捺染用インク。
【請求項3】
前記アクリル-スチレン系重合体が反応性乳化剤の存在下で乳化重合により製造されたものである、
請求項1又は2に記載のインクジェット捺染用インク。
【請求項4】
前記オキサゾリン基含有化合物が、水溶性のオキサゾリン基含有ポリマーを含む、
請求項1又は2に記載のインクジェット捺染用インク。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のインクジェット捺染用インクを、インクジェットプリンターを用いて、布帛に付着させ画像を形成する画像形成工程を含む、前記布帛に前記画像が印刷された印刷物の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のインクジェット捺染用インクからなる印刷画像が布帛の一部または全部に印刷されてなる画像印刷物品であって、顔料と樹脂とを含み、前記樹脂がカルボキシ基を有するアクリル-スチレン系重合体(A)とオキサゾリン基含有化合物(B)との反応生成物(C)を含む、画像印刷物品
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染用インク、該インクを用いた印刷物の製造方法および画像固着物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、着色剤として顔料を含むインクを用いたインクジェット法による捺染法(インクジェット印刷し捺染物を得る方法)が注目されている。インクジェット法に用いるインクに対しては、分散安定性、吐出安定性および媒体への定着性等のインクジェット法に特有の性能が要求される。インクジェット法による捺染法に用いるインクジェット捺染用インクには、上記の他、印刷された画像の摩擦堅牢性、洗濯堅牢性等の堅牢性や風合いといった性能が要求されている。このような背景のもと、堅牢性等に優れる捺染用インクの提供を目的として、たとえば架橋剤を含むインクの提案がされている(たとえば、特許文献1、2)。特許文献1では綿100%の布帛に対し、特許文献2では前処理液を塗布した綿の布帛に対し、各々の捺染用インクをインクジェット印刷し得られた捺染物が摩擦堅牢性等の堅牢性に優れることが実施例で示されている。いずれの文献においてもインクジェット印刷後に160℃で加熱処理を行っている。
【0003】
特許文献1には、比較例7において、水分散性樹脂(樹脂エマルジョン)と、架橋剤(2)としてオキサゾリン系化合物とが使用されているが、樹脂エマルジョン粒子の含有量(樹脂エマルジョンの固形分の含有量)は、インクジェット捺染用インク100質量%に対し10質量%を大きく下回る2.6質量%であり、オキサゾリン基含有化合物の含有量は、上記樹脂エマルション粒子100質量%に対し10質量%を大きく上回る88質量%である。特許文献1には、インクジェット法による捺染において、インクジェット捺染時の加熱温度が低温であっても、印刷された画像の摩擦堅牢性に優れるとともに吐出安定性に優れる、インクジェット捺染用インクを提供することについては、記載も示唆もされていない。
【0004】
特許文献2にも、インクジェット法による捺染において、インクジェット捺染時の加熱温度が低温であっても、印刷された画像の摩擦堅牢性に優れるとともに吐出安定性に優れる、インクジェット捺染用インクを提供することについては、記載も示唆もされておらず、オキサゾリン基含有化合物も記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-215506号公報
【文献】特開2011-105805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インクジェット法による捺染ではインクジェット法により画像を形成している途中又は形成後、画像を定着させるために好ましくは加熱処理を行うが、布帛の材質により、許容される加熱温度が異なる。木綿は160℃でも可能であるが、ポリエステル繊維等、多くの布帛の許容温度はより低温である。したがって、上記加熱温度がより低温であっても、得られた画像の堅牢性等に優れる捺染用インクの開発が期待されている。しかもインクジェット法による捺染では印刷される画像の再現性の観点から、印刷時の吐出安定性に優れることも重要である。
【0007】
よって本発明は、インクジェット法による捺染において、インクジェット捺染時の加熱温度が低温であっても、印刷された画像の摩擦堅牢性に優れるとともに、印刷時の吐出安定性に優れる、インクジェット捺染用インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が、上記課題に着目し、布帛に捺染するためのインクジェット捺染用インクについて鋭意検討した。その結果、顔料、樹脂エマルション粒子および水性媒体を含むインクにおいて、樹脂エマルション粒子の粒子径、配合量を特定の範囲とするとともに、特定の化合物を特定量配合すると、インクジェット捺染時の加熱温度が低温であっても、摩擦堅牢性に優れる印刷画像が得られるとともに、印刷時の吐出安定性に優れるインクとなることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明のインクジェット捺染用インクは、顔料、樹脂エマルション粒子、オキサゾリン基含有化合物および水性媒体を含むインクジェット捺染用インクであって、前記樹脂エマルション粒子の平均粒子径が150nm以上であり、前記樹脂エマルション粒子の含有量が前記インクジェット捺染用インク100質量%に対し10~20質量%であり、前記オキサゾリン基含有化合物の含有量が前記樹脂エマルション粒子100質量%に対し0.5~10質量%であることを特徴とするインクジェット捺染用インクである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のインクジェット捺染用インクは、上述した構成により、印刷時の吐出安定性に優れるとともに、インクジェット捺染時の加熱温度が低温であっても、印刷された画像の摩擦堅牢性に優れる。そのため、布帛等へのインクジェット捺染において本発明のインクジェット捺染用インクを用いることにより、乾燥工程を省エネルギー化することができるとともに、ポリエステル繊維をはじめ耐熱温度が低い材料を含む布帛に対しても摩擦堅牢性に優れる、画像の形成工程を有する印刷(捺染)を安定して行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0012】
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」または「メタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」または「メタクリル」を意味する。また(メタ)アクリレートを(メタ)アクリル酸エステルということもある。
【0013】
また、本明細書において「インクジェット捺染時の加熱温度」とは、インクジェット装置(インクジェットプリンター)を用いた捺染法において、インクジェット装置で画像を形成している途中又は形成後に行う加熱処理における加熱温度を意味する。ただし、布帛を加熱しながらインクジェット装置で画像を形成し、すなわち、画像を形成している途中に加熱処理を行い、画像形成後には加熱を行わない場合は、画像を形成する際の加熱温度を意味し、布帛を加熱しながらインクジェット装置で画像を形成し画像形成後にも加熱を行う場合は画像形成時の加熱温度と画像形成後の加熱温度のうち高い方の温度を意味するものとする。
【0014】
1.インクジェット捺染用インク
本発明のインクジェット捺染用インクは、顔料、樹脂エマルション粒子、オキサゾリン基含有化合物および水性媒体を含むインクジェット捺染用インクであって、前記樹脂エマルション粒子の平均粒子径が150nm以上であり、前記樹脂エマルション粒子の含有量が前記インクジェット捺染用インク100質量%に対し10~20質量%であり、前記オキサゾリン基含有化合物の含有量が前記樹脂エマルション粒子100質量%に対し0.5~10質量%であることを特徴とする。
【0015】
本発明のインクジェット捺染用インクを、本発明のインクとも称する。本発明のインクは、上記した成分以外に、必要に応じて、後述する他の成分を含むこともできる。本発明のインクを構成する各成分について説明する。
【0016】
<顔料>
本発明のインクは、顔料を含む。顔料としては、有機顔料および無機顔料が挙げられ、これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
【0017】
有機顔料としては、例えば、ベンジジン、ハンザイエローなどのアゾ顔料、ジアゾ顔料、アゾメチン顔料、メチン顔料、アントラキノン顔料、フタロシアニンブルーなどのフタロシアニン顔料、ペリノン顔料、ペリレン顔料、ジケトピロロピロール顔料、チオインジゴ顔料、イミノイソインドリン顔料、イミノイソインドリノンなどのイソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、キナクリドンレッドやキナクリドンバイオレットなどのキナクリドン顔料、フラバントロン顔料、インダントロン顔料、アントラピリミジン顔料、カルバゾール顔料、モノアリーライドイエロー、ジアリーライドイエロー、ベンゾイミダゾロンイエロー、トリルオレンジ、ナフトールオレンジ、キノフタロン顔料などが挙げられる。
色相は特に限定されず、イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができ、具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、C.I.ピグメント・グリーンなどの品番製品が挙げられる。ポリプロピレン布帛を対象とする場合は、ポリプロピレンの熱分解を促進しないよう、有機顔料としては金属を含まない顔料を用いることが好ましい。具体的にはピグメント・ブルー16等を選択することができる。
【0018】
無機顔料としては、例えば、二酸化チタン、三酸化アンチモン、亜鉛華等の酸化亜鉛、リトポン、鉛白、赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、酸化クロムグリーン、カーボンブラック、黄鉛、モリブデン赤、フェロシアン化第二鉄(プルシアンブルー)、ウルトラマリン、クロム酸鉛などがあげられる。また、無機顔料としては、雲母(マイカ)、クレー、アルミニウム粉末、タルク、ケイ酸アルミニウムなどの扁平形状を有する顔料、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウムなどの体質顔料なども挙げられる。さらに、カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
無機顔料のうち、白色顔料としては、二酸化チタン、三酸化アンチモン、亜鉛華等の酸化亜鉛、リトポン、鉛白、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、クレー、タルク、ケイ酸アルミニウムが好ましい。中でも屈折率が高く隠ぺい性に優れる観点から二酸化チタンが好ましい。二酸化チタンの中でも、結晶構造がルチルである二酸化チタンが好ましい。
着色顔料としては、上記の有機顔料、赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、酸化クロムグリーン、カーボンブラック、黄鉛、モリブデン赤、フェロシアン化第二鉄(プルシアンブルー)、ウルトラマリン、クロム酸鉛等が好ましい。
【0019】
顔料の平均粒子径は、分散安定性と発色性あるいは隠ぺい力の観点から10~1000nmが好ましく、20~500nmが好ましい。
白色顔料の場合、平均粒子径は、隠蔽性により優れる観点から、100~500nmが好ましく、下限については、より好ましくは150nm以上であり,さらに好ましくは200nm以上であり、上限については、より好ましくは450nm以下であり、さらに好ましくは400nm以下である。
着色顔料の場合、平均粒子径は、特に発色性の観点から20~200nmが好ましく、下限については、より好ましくは40nm以上であり、さらに好ましくは50nm以上であり、上限については、より好ましくは150nm以下であり、さらに好ましくは100nm以下である。
【0020】
上記顔料の平均粒子径は、本発明のインク中における平均粒子径である。顔料の平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布計や動的光散乱法により測定することができる。たとえば、動的光散乱法による粒度分布測定器(大塚電子株式会社製、品番:FPAR-1000)を用いて測定したときのキュムラント法で得られた値を採用することができる。ただし、黒色顔料などのように動的光散乱法による測定が難しい場合は、レーザー回折散乱式粒度分布計により測定し得られた体積基準の粒度分布における50%粒径を平均粒子径として採用することができる。
【0021】
顔料は本発明のインク中で、分散剤で分散安定化されていることが好ましい。上記分散剤としては、たとえば、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸塩等のポリ(メタ)アクリル酸(塩);(メタ)アクリル酸(塩)と、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルニトリル、(メタ)アクリルアミド、スチレン、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸エステル、酢酸ビニル等のエチレン性不飽和二重結合含有単量体の1種または2種以上との共重合体;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドンなどがあげられる。
【0022】
<樹脂エマルション粒子>
本発明のインクに含まれる樹脂エマルション粒子について説明する。
上記樹脂エマルション粒子は、特に限定されないが、水性エマルション由来の樹脂粒子が好ましい。
【0023】
上記樹脂エマルション粒子の形状は特に限定されないが、通常は球状である。形状は透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡により測定することができる。
上記樹脂エマルション粒子の平均粒子径は、150nm以上である。平均粒子径を150nm以上とすることにより、インクの粘度を適正な範囲に保ちながら、樹脂エマルション粒子を高濃度に配合し易くなる。上記平均粒子径は、より好ましくは180nm以上、さらに好ましくは200nm超、さらにより好ましくは210nm以上である。一方、上限は特に限定されないが、好ましくは350nm以下であり、より好ましくは330nm以下であり、さらに好ましくは300nm以下である。
なお、本明細書において、樹脂エマルション粒子の平均粒子径は、動的光散乱法による粒度分布測定器(大塚電子株式会社製、品番:FPAR-1000)を用いて測定したときのキュムラント法で得られた値である。
【0024】
上記樹脂エマルション粒子は、そのガラス転移温度は特に限定されないが、本発明のインクを用いて得られる捺染物が風合いに優れるものとなり易い観点から、0℃以下であることが好ましい。より好ましくは-10℃以下であり、さらに好ましくは-15℃以下である。一方、下限は特に限定されないが、-50℃以上が好ましく、-40℃以上がより好ましい。
【0025】
上記ガラス転移温度は、示差走査熱量分析(DSC)、示差熱量分析(DTA)、熱機械分析(TMA)のいずれかの測定により得られる値を採用することができるが、示差走査熱量分析(DSC)により得られる値を採用することが好ましく、特に断りのない限り、本明細書におけるガラス転移温度は示差走査熱量分析(DSC)により得られる値を意味する。
【0026】
ただし、ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、アクリル―スチレン系重合体などのように、後述する樹脂エマルション粒子における樹脂成分の組成に基づき、フォックス(Fox)の式によりガラス転移温度を計算により求めることができる場合、これを代わりに採用することができる。
【0027】
示差走査熱量の測定装置としては、例えば、セイコーインスツル(株)製、品番:DSC220Cなどが挙げられる。また、示差走査熱量を測定する際、示差走査熱量(DSC)曲線を描画する方法、示差走査熱量(DSC)曲線から一次微分曲線を得る方法、スムージング処理を行なう方法、目的のピーク温度を求める方法などには特に限定がない。例えば、前記測定装置を用いた場合には、当該測定装置を用いることによって得られたデータから作図すればよい。その際、数学的処理を行なうことができる解析ソフトウェアを用いることができる。当該解析ソフトウェアとしては、例えば、解析ソフトウェア(セイコーインスツル(株)製、品番:EXSTAR6000)などが挙げられる。測定条件としては、昇温速度を15℃/分、降温速度を15℃/分で行うことが好ましく、該条件で得られた値を採用することとする。また、上記測定においてガラス転移の開始温度と中間温度と屈曲点温度と終了温度が観測されるが、中間温度をその樹脂エマルション粒子のガラス転移温度(Tg)とする。
【0028】
なおフォックス(Fox)の式は以下のとおりである。
1/Tg=Σ(Wm/Tgm)/100
式中、Tgはガラス転移温度、Wmは樹脂成分を構成する単量体成分における単量体mの含有率(質量%)、Tgmは単量体mの単独重合体のガラス転移温度(絶対温度:K)を示す。
【0029】
上記式に、樹脂エマルション粒子を構成する樹脂を形成するために用いた単量体総量に対する各単量体の含有率、各単量体の単独重合体のガラス転移温度を代入することにより、ガラス転移温度を求めることができる。上記方法に採用できる単独重合体のガラス転移温度は、例えば、アクリル酸の単独重合体では95℃、メタクリル酸の単独重合体では130℃、メチルメタクリレートの単独重合体では105℃、スチレンの単独重合体では100℃、シクロヘキシルメタクリレートの単独重合体では83℃、n-ブチルメタクリレートの単独重合体では20℃、2-エチルヘキシルアクリレートの単独重合体では-70℃、n-ブチルアクリレートの単独重合体では-56℃、ヒドロキシエチルメタクリレートの単独重合体では55℃、アクリルアミドの単独重合体では165℃、4-メタクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンの単独重合体では130℃である。
【0030】
上記樹脂エマルション粒子は、酸性官能基を有することが好ましい。酸性官能基の中でもカルボキシ基(-COOH)が好ましい。酸性官能基の含有量は、樹脂エマルション粒子100質量%に対し、0.06~3質量%であることが好ましい。また、酸性官能基の含有量は、樹脂エマルション粒子100質量%に対する、酸性官能基を有する単量体由来の構成単位の含有量で表して、0.1~5質量%であることが好ましい。カルボキシ基の好ましい含有量についても上記酸性官能基の場合と同様である。
【0031】
樹脂エマルション粒子におけるカルボキシ基の含有量、酸性官能基の含有量を各々上記範囲とすることにより、インクとした場合、印刷画像の画像均一性、及び、インクジェット捺染時の加熱温度が低温であっても、印刷画像の洗濯堅牢性を優れたものとすることができる。樹脂エマルション粒子におけるカルボキシ基等の酸性官能基の含有量は、たとえば樹脂エマルション粒子の重合に使用される単量体の組成を調整することにより調節することができる。
【0032】
上記樹脂エマルション粒子の酸価は、0.5~50mgKOH/gであることが好ましい。より好ましくは、0.8~40mgKOH/gである。上記樹脂エマルション粒子におけるカルボキシル基由来の酸価についても、好ましい範囲は上記酸価の場合と同様である。樹脂エマルション粒子の酸価、カルボキシ基由来の酸価を各々上記範囲とすることにより、本発明のインクを用いて得られる画像の画像均一性、及び、インクジェット捺染時の加熱温度が低温であっても、得られた画像の洗濯堅牢性を優れたものとすることができる。
【0033】
上記樹脂エマルション粒子を構成する樹脂成分の重量平均分子量は、耐水性および密着性をより向上させる観点から、好ましくは5万以上、より好ましくは30万以上、さらに好ましくは55万以上、特に好ましくは60万以上である。樹脂成分の重量平均分子量の上限値は、成膜性および耐水性を向上させる観点から、好ましくは500万以下である。
上記重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー〔東ソー(株)製、品番:HLC-8120GPC、カラム:TSKgel G-5000HXLとTSKgel GMHXL-Lとを直列に使用〕を用いて測定された重量平均分子量(ポリスチレン換算)を意味する。
【0034】
上記樹脂エマルション粒子の構造は特に限定されず、粒子全体の組成が均一である形態であってもよいし、組成および/または物性が異なるコアとシェルとからなるコアシェル構造であってもよい。コアシェル構造は2層に限られず、3層以上であってもよい。これらの中でも、塗膜の伸びと硬さのバランスが向上できる2層以上のコアシェル構造となる形態が好ましい。
【0035】
上記樹脂エマルション粒子は、界面活性剤で分散安定化されていることが好ましい。界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等があげられ、従来公知の界面活性剤を用いることができる。これらの界面活性剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0036】
上記界面活性剤の中でも、ノニオン性界面活性剤またはアニオン性界面活性剤が好ましい。その分子中に重合性基を含む界面活性剤もまた好ましい。重合性基としてはたとえばエチレン性不飽和二重結合を有する基があげられる。上記界面活性剤の中でも、重合性基を含むノニオン性界面活性剤または重合性基を含むアニオン性界面活性剤が特に好ましい。なお、重合性基を含む界面活性剤を反応性乳化剤とも称する。また界面活性剤として高分子乳化剤も用いることができる。
【0037】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アンモニウムドデシルサルフェート、ナトリウムドデシルサルフェートなどのアルキルサルフェート塩;アンモニウムドデシルスルホネート、ナトリウムドデシルスルホネート、ナトリウムアルキルジフェニルエーテルジスルホネートなどのアルキルスルホネート塩;アンモニウムドデシルベンゼンスルホネート、ナトリウムドデシルナフタレンスルホネートなどのアルキルアリールスルホネート塩;ポリオキシエチレンアルキルスルホネート塩;ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩;ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩;ジアルキルスルホコハク酸塩;アリールスルホン酸-ホルマリン縮合物;アンモニウムラウリレート、ナトリウムステアリレートなどの脂肪酸塩;ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレートスルホネート塩、プロペニル-アルキルスルホコハク酸エステル塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルホネート塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンホスフォネート塩、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルホネート塩などのアリル基を有する硫酸エステルまたはその塩;アリルオキシメチルアルコキシエチルポリオキシエチレンの硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩などが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0038】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの縮合物、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、エチレンオキサイドと脂肪族アミンとの縮合生成物、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルなどが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0039】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルアンモニウムクロライドなどのアルキルアンモニウム塩などが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。両性界面活性剤としては、例えば、ベタインエステル型乳化剤などが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0040】
高分子乳化剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリヒドロキシエチルアクリレートなどのポリヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;これらの重合体を構成する単量体のうちの1種類以上を共重合成分とする共重合体などが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0041】
反応性乳化剤としては、例えば、プロペニル-アルキルスルホコハク酸エステル塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルホネート塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンホスフォネート塩(例えば、三洋化成工業(株)製、商品名:エレミノールRS-30など)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテルスルホネート塩(例えば、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンHS-10など)、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルホネート塩(例えば、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンKH-10など)、ポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム(例えば、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンAR-10など)、ポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル(例えば、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンAN-10など)、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレンのスルホネート塩(例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープSE-10など)、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン硫酸エステル塩(例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープSR-10、SR-30など)、ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化スルホネート塩(例えば、日本乳化剤(株)製、商品名:アントックスMS-60など)、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープER-20など)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(例えば、第一工業製薬(株)製、商品名:アクアロンRN-20など)、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、(株)ADEKA製、商品名:アデカリアソープNE-10など)などが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0042】
上記樹脂エマルション粒子を構成する樹脂としては、特に制限されず、たとえば、ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂等があげられる。
【0043】
中でも、エチレン性不飽和二重結合含有単量体を重合してなる重合体(ポリマー)が好ましい。言い換えれば、エチレン性不飽和二重結合含有単量体由来の構成単位を含む重合体(ポリマー)が好ましい。樹脂がエチレン性不飽和二重結合含有単量体を重合してなる重合体(ポリマー)であると、カルボキシ基等の酸性官能基の含有量や疎水性モノマーを任意に設計することができる。
【0044】
エチレン性不飽和二重結合含有単量体としては、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリロニトリル、アクリルアミド、安息香酸ビニル等のビニル系単量体;(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸などの(メタ)アクリル系単量体;スチレン、α―メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン系単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン系単量体;等の他、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸モノブチルエステル等があげられる。
【0045】
上記樹脂エマルション粒子を構成する樹脂としては、これらの単量体の1種または2種以上を用いて(共)重合してなる(共)重合体が好ましい。
たとえば、酢酸ビニル重合体、塩化ビニル重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・エチレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・塩素化エチレン・スチレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体、(メタ)アクリル酸エステル・(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸エステル・(メタ)アクリル酸・スチレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル・ウレタン共重合体、アクリロニトリル・(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体等があげられる。
【0046】
中でも、ポリプロピレン繊維等の疎水性の高い繊維を主成分とする布帛に対して摩擦堅牢性に優れるだけでなく風合いにも優れる捺染物が得られ易い観点から、エチレン性不飽和二重結合含有単量体として、少なくとも(メタ)アクリル系単量体の1種または2種以上とスチレン系単量体の1種または2種以上とを含む単量体組成物を共重合してなる共重合体が好ましい。なお、このような共重合体を、アクリル-スチレン系重合体ともいうこととする。上記アクリル-スチレン系重合体としては、たとえば、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸エステル・(メタ)アクリル酸・スチレン共重合体、アクリロニトリル・(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体等があげられる。
【0047】
上記アクリル-スチレン系重合体を形成するための単量体としては、(メタ)アクリル系単量体、スチレン系単量体以外の他の単量体を含んでいてもよい。しかし、上記アクリルースチレン系重合体を形成するための単量体の合計100質量%に対する、(メタ)アクリル系単量体とスチレン系単量体との合計含有量が50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0048】
言い換えれば、上記アクリル-スチレン系重合体は、(メタ)アクリル系単量体由来の構成単位およびスチレン系単量体由来の構成単位を含んでいればよく、これらの構成単位以外の他の構成単位を含んでいてもよい。しかし、上記アクリル-スチレン系重合体を構成する構成単位の合計100質量%に対する、(メタ)アクリル系単量体由来の構成単位とスチレン系単量体由来の構成単位との合計含有量が50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0049】
上記(メタ)アクリル系単量体としては、従来公知の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸より1種または2種以上を選択して用いることができる。
【0050】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレートなどのフルオロアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、メチルベンジル(メタ)アクリレート、ナフチルメチル(メタ)アクリレートなどのアラルキル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、α-メチルグリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有(メタ)アクリレート;メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシブチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリプロポキシ(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキル基含有(メタ)アクリレート;γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヒドロキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルヒドロキシシランなどのシリル基含有(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルオキシアルキルプロペナール、アセトニル(メタ)アクリレート、ジアセトン(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートアセチルアセテート、ブタンジオール-1,4-アクリレートアセチルアセテート、2-(アセトアセトキシ)エチル(メタ)アクリレートなどのカルボニル基含有(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロイルアジリジン、(メタ)アクリル酸2-アジリジニルエチルなどのアジリジニル基含有(メタ)アクリレート;エチレングリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールメトキシ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールメトキシ(メタ)アクリレートなどの(ジ)エチレングリコール(メトキシ)(メタ)アクリレートなどのオキソ基含有(メタ)アクリレート;4-(メタ)アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(メタ)アクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンなどのピペリジン基含有(メタ)アクリレート等があげられ、1種または2種以上を選択して用いることができる。
【0051】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、多官能(メタ)アクリレートを用いることもできる。多官能(メタ)アクリレートとしては、たとえば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの炭素数1~10の多価アルコールのジ(メタ)アクリレート;エチレンオキシドの付加モル数が2~50のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシドの付加モル数が2~50のポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの炭素数2~4のアルキレンオキシド基の付加モル数が2~50であるアルキルジ(メタ)アクリレート;エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノヒドロキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリエトキシトリ(メタ)アクリレートなどの炭素数1~10の多価アルコールのトリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートなどの炭素数1~10の多価アルコールのテトラ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール(モノヒドロキシ)ペンタ(メタ)アクリレートなどの炭素数1~10の多価アルコールのペンタ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの炭素数1~10の多価アルコールのヘキサ(メタ)アクリレート;ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2-(2’-ビニルオキシエトキシエチル)(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有(メタ)アクリレート;ウレタン(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0052】
上記スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチル
スチレン、tert-メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、2-スチリル
エチルトリメトキシシランなどが挙げられる。スチレン系単量体は、ベンゼン環にメチル基、tert-ブチル基などのアルキル基、ニトロ基、ニトリル基、アルコキシル基、アシル基、スルホン基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子などの官能基が存在していてもよい。スチレン系単量体のなかでは、耐水性を高める観点から、スチレンが好ましい。
上記スチレン系単量体としては、多官能スチレン系単量体を用いることもできる。多官能スチレン系単量体としてはジビニルベンゼンが好ましく挙げられる。
【0053】
上記アクリル-スチレン系重合体を形成するための単量体におけるスチレン系単量体の含有量は、(メタ)アクリル系単量体およびスチレン系単量体の合計量100質量%に対し、1~55質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましく、10~45質量%がさらに好ましい。スチレン系単量体の含有量を上記範囲とすることにより、風合いにより優れる、あるいは洗濯堅牢性に優れる捺染物が得られ易くなる。
【0054】
上記アクリル-スチレン系重合体は、上記(メタ)アクリル系単量体と上記スチレン系単量体を、好ましくは上記範囲となる組成比の単量体組成物を共重合してなる重合体であることが好ましい。
【0055】
上記アクリル-スチレン系重合体は、カルボキシ基を有する重合体であることが好ましく、カルボキシ基の含有量は、樹脂エマルション粒子100質量%に対し、0.06~3質量%であることが好ましい。またカルボキシ基の含有量は、樹脂エマルション粒子100質量%に対する、カルボキシ基を有する単量体由来の構成単位の含有量で表して0.1~5質量%であることが好ましい。
【0056】
また上記カルボキシ基が(メタ)アクリル酸由来のカルボキシ基であることが好ましい。よって、上記アクリル-スチレン系重合体を構成する(メタ)アクリル系単量体由来の構成単位が、(メタ)アクリル酸由来の構成単位の1種または2種以上を含むものであることが好ましく、さらに、上記(メタ)アクリレートエステル由来の構成単位の1種または2種以上と、(メタ)アクリル酸由来の構成単位の1種または2種以上とを含むものであることがより好ましい。
【0057】
上記アクリル-スチレン系重合体を構成する(メタ)アクリル酸由来の構成単位の含有量は、(メタ)アクリル系単量体由来の構成単位およびスチレン系単量体由来の構成単位の合計量100質量%に対し、0.1~5質量%が好ましく、0.2~4質量%がより好ましく、1~3質量%がさらに好ましい。
【0058】
上記アクリル-スチレン系重合体を形成するための(メタ)アクリル系単量体が、(メタ)アクリル酸の1種または2種以上を含むものであることが好ましく、さらに、上記(メタ)アクリレートエステルの1種または2種以上と、(メタ)アクリル酸の1種または2種以上とを含むものであることがより好ましい。
【0059】
上記アクリル-スチレン系重合体を形成するための単量体における(メタ)アクリル酸の含有量は、(メタ)アクリル系単量体およびスチレン系単量体の合計量100質量%に対し、0.1~5質量%が好ましく、0.2~4質量%がより好ましく、1~3質量%がさらに好ましい。
【0060】
上記アクリル-スチレン系重合体を形成するための(メタ)アクリル系単量体としては、(メタ)アクリル酸以外に、(メタ)アクリル酸エステルを含むことが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルの中でも、アルキル(メタ)アクリレートの1種または2種以上を含むことが好ましく、またヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの1種または2種以上を含むことが好ましい。さらに、アルキル(メタ)アクリレートの1種または2種以上と、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの1種または2種以上とを含むことがより好ましい。
【0061】
上記アルキル(メタ)アクリレートの中でも、アルキル基の炭素数が1~18のアルキル(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、アルキル基の炭素数が4~12のアルキル(メタ)アクリレートを含むことがさらに好ましい。また、上記アルキル(メタ)アクリレートとして、炭素数が異なる2種以上を併用することも好ましい形態である。たとえば、炭素数が1~5のアルキル(メタ)アクリレートと炭素数が6~18のアルキル(メタ)アクリレートとを併用する形態、炭素数が1のアルキル(メタ)アクリレートと炭素数が8~18のアルキル(メタ)アクリレートとを併用する形態、炭素数が1のアルキル(メタ)アクリレートと炭素数が4~6のアルキル(メタ)アクリレートと炭素数が8~18のアルキル(メタ)アクリレートとを併用する形態、炭素数が2~6のアルキル(メタ)アクリレートと炭素数が8~12のアルキル(メタ)アクリレートとを併用する形態などがあげられる。また、上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、ヒドロキシアルキル鎖における炭素数が1~18のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、該炭素数が2~4のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
【0062】
なお、上記アクリル-スチレン系重合体を形成するための単量体としては、(メタ)アクリル系単量体、スチレン系単量体以外の他の単量体を含んでいてもよい。他の単量体としては、たとえば、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリルアミドがあげられる。また、上記他の単量体としては、付加重合性オキサゾリンがあげられる。付加重合性オキサゾリンとしては、例えば、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリンなどが挙げられる。
【0063】
上記アクリル-スチレン系重合体は、上記の好ましい単量体を好ましい割合で共重合してなるものであることが好ましく、好ましい単量体由来の構成単位を、好ましい単量体配合比に対応する割合で含む重合体であることが好ましい。
【0064】
本発明のインクを構成する樹脂エマルション粒子は上記アクリル-スチレン系重合体を樹脂の主成分として含むものであることが好ましい。該粒子をアクリル-スチレン系重合体エマルション粒子ともいう。
【0065】
なお、本発明のインクを構成する樹脂エマルション粒子について粒子の形状、平均粒径、ガラス転移温度、酸性官能基の含有量、カルボキシ基含有量、酸価、重量平均分子量、粒子の構造、界面活性剤等に関する好ましい態様を説明したが、これらはいずれも、上記アクリルースチレン系重合体エマルション粒子にそのまま適用できる。
【0066】
上記アクリル-スチレン系重合体エマルション粒子は、従来公知の乳化重合法により製造することができる。乳化重合する際の好ましい単量体の種類、組み合わせ、配合比等は、上述のアクリル-スチレン系重合体を形成するための単量体について説明した好ましい形態に準じる。すなわち、上記アクリル-スチレン系重合体エマルション粒子は、(メタ)アクリル系単量体、スチレン系単量体、および必要に応じて他のエチレン性不飽和二重結合含有単量体を含む単量体を、乳化剤の存在下で水性媒体中で乳化重合することによって製造することができる。用いる乳化剤も従来公知の乳化剤を用いることができる。用いる乳化剤としては上記界面活性剤を用いることができ、好ましい態様は、上記界面活性剤における好ましい態様と同様である。
【0067】
また、上記乳化重合法により得られるエマルションにおいて、残存モノマーはエマルションに対し質量割合で100ppm未満であることが好ましい。残存モノマーはガスクロマトグラフィー等で測定することができる。重合反応の熟成後において残存モノマーが100ppm未満となるように、重合開始剤を追加で添加して熟成を延長することが好ましい。
【0068】
<オキサゾリン基含有化合物>
本発明のインクは、オキサゾリン基含有化合物を含む。
本発明においてオキサゾリン基含有化合物は、オキサゾリン基を分子中に2個以上有する化合物を意味する。上記オキサゾリン基含有化合物としては、例えば、2,2’-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-メチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-トリメチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-テトラメチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-ヘキサメチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-オクタメチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレン-ビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレン-ビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、ビス(2-オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス(2-オキサゾリニルノルボルナン)スルフィド、オキサゾリン基含有ポリマーなどが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのオキサゾリン基含有化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0069】
上記オキサゾリン基含有化合物のなかでは、架橋性能に優れる観点から、水溶性のオキサゾリン基含有化合物が好ましく、また、オキサゾリン基含有ポリマーが好ましい。上記オキサゾリン基含有ポリマーは、従来公知の製造方法で製造することができる。たとえば、付加重合性オキサゾリンの1種または2種以上、または付加重合性オキサゾリンと付加重合性オキサゾリンと共重合可能な単量体を含む単量体成分を重合させる方法があげられる。共重合可能な単量体としては、オキサゾリン基と反応する官能基をもたず、付加重合性オキサゾリンと共重合可能な単量体が好ましい。たとえば、上記エチレン性不飽和二重結合含有単量体においてオキサゾリン基と反応する官能基をもたない単量体を挙げることができる。たとえば、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリロニトリル、アクリルアミド、安息香酸ビニル等のビニル系単量体;(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系単量体;スチレン、α―メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン系単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン系単量体等があげられる。
【0070】
上記付加重合性オキサゾリンとしては、例えば、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリンなどが挙げられる。
【0071】
オキサゾリン基含有ポリマーの中でも水溶性のオキサゾリン基含有ポリマーが好ましく、上記オキサゾリン基含有ポリマーの製造方法と同様の方法により製造することができる。上記水溶性のオキサゾリン基含有ポリマーとしては、たとえば、アクリル系重合体、アクリルースチレン系重合体等を主鎖とし、側鎖にオキサゾリン基を含有するポリマーがあげられる。
【0072】
オキサゾリン基含有ポリマーとしては市販品を用いることもできる。例えば、(株)日本触媒製、商品名:エポクロスWS-500、エポクロスWS-700等の水溶性タイプのポリマー、エポクロスK-2010、エポクロスK-2020、エポクロスK-2030等のエマルションタイプのポリマーがあげられる。これらのなかでは、水溶性ポリマーである、(株)日本触媒製、商品名:エポクロスWS-500、エポクロスWS-700が好ましい。
【0073】
本発明のインクに含まれるオキサゾリン基含有化合物の含有量は、上記樹脂エマルション粒子100質量%に対し、0.5~10質量%である。主に摩擦堅牢性の観点から上記範囲が好ましい。上記含有量は、好ましくは5質量%以下である。
【0074】
上記オキサゾリン基含有化合物は、本発明のインクに含まれる成分、たとえば、樹脂エマルション粒子、顔料、あるいは顔料分散剤等との相互作用により、あるいは化学反応により、低温においても架橋剤的な作用を発揮し強靭な塗膜を形成するものと推定される。
【0075】
<水性媒体>
本発明のインクは水性媒体を含む。本発明において水性媒体は水を含む溶媒を意味する。水性媒体における水の含有量は10~100質量%であることが好ましい。より好ましくは25質量%以上であり、さらに好ましくは60質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である。残部は有機溶剤であることが好ましい。
【0076】
上記水性媒体は有機溶剤を含むことができる。有機溶剤としては、例えば、プロピレングリコール、1,3プロパンジオール、グリセリン、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のグリコール;モノエチレングリコールモノメチルエーテル、モノエチレングリコールモノエチルエーテル、モノエチレングリコールモノプロピルエーテル、モノエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、モノエチレングリコールモノブチルエーテル、モノエチレングリコールモノイソブチルエーテル等のモノエチレングリコールのエーテル;モノプロピレングリコールモノメチルエーテル、モノプロピレングリコールモノエチルエーテル、モノプロピレングリコールモノプロピルエーテル、モノプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、モノプロピレングリコールモノブチルエーテル、モノプロピレングリコールモノイソブチルエーテル等のモノプロピレングリコールのエーテル;ポリエチレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノエチルエーテル、ポリエチレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノプロピルエーテル、ポリエチレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノイソプロピルエーテル、ポリエチレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノブチルエーテル、ポリエチレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノイソブチルエーテル等のポリエチレングリコールのエーテル;ポリプロピレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノプロピルエーテル、ポリプロピレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノイソプロピルエーテル、ポリプロピレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノブチルエーテル、ポリプロピレングリコール(EO付加モル数=2~10、好ましくは2~4)のモノイソブチルエーテル等のポリプロピレングリコールのエーテル、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン等の複素環類が挙げられる。
【0077】
これらの中でも、プロピレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコール(EO付加モル数=2~4)のモノブチルエーテル、2-ピロリドンが好ましく、さらに好ましくは、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(EO付加モル数=2~4)のモノブチルエーテル、2-ピロリドンである。これらの有機溶剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0078】
<組成比>
本発明のインクにおける樹脂エマルション粒子の含有量は、インク100質量%あたり、10~20質量%である。インクジェット捺染時に低温で処理された画像の摩擦堅牢性や、印刷時のインクの吐出安定性の向上の観点から上記範囲が好ましい。好ましくは10.5質量%以上であり、18質量%以下である。
本発明のインクにおける顔料の含有量は、特に制限されないが、インク100質量%あたり、1~20質量であることが好ましい。1質量%未満では発色性や隠蔽性が不足するといった虞があり、20質量%を超えると風合いが低下するといった虞がある。より好ましくは2質量%以上であり、18質量%以下である。
本発明のインクにおける水性媒体の含有量は、本発明のインク100質量%に対し、55~89質量%であることが好ましく、より好ましくは70~85質量%である。
本発明のインクにおける、顔料、樹脂エマルション粒子およびオキサゾリン基含有化合物の合計含有量100質量%に対する顔料の含有量は、形成または印刷された画像の隠蔽性あるいは着色性を向上させる観点から、好ましくは10~80質量%であり、より好ましくは15~75質量%である。
【0079】
<その他の成分>
本発明のインクには、本発明の目的が阻害されない範囲内で、上述した必須成分(顔料、樹脂エマルション粒子、水性媒体)以外の他の成分が含まれていてもよい。例えば、界面活性剤、分散剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、増粘剤、湿潤剤、可塑剤、安定剤、消泡剤、染料、酸化防止剤、架橋促進剤、PH調整剤、防腐剤などの添加剤が適量で含まれていてもよい。上記レベリング剤としては、たとえば、アセチレングリコール系、シリコーン系、フッ素系の界面活性剤等を用いることが好ましく、中でもポリエーテル変性シリコーン化合物が好ましい。
【0080】
上記他の成分を添加する場合、その含有量は、特に限定されるものではないが、本発明のインク100質量%に対し、2質量%以下が好ましく、1質量%以下が好ましい。また添加効果を発揮するためには0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。
【0081】
<本発明のインクジェット捺染用インクの製造方法>
本発明のインクの製造方法は、特に限定されない。たとえば、顔料、樹脂エマルション粒子、オキサゾリン基含有化合物および水性媒体を混合することにより、製造することができるが、好ましい製造例を示す。
【0082】
まず、樹脂エマルション粒子を含むエマルション、および顔料分散体をそれぞれ準備する。上記顔料分散体としては顔料が水性媒体に分散されてなるものが好ましい。上記顔料分散体は、たとえば、水等の水性媒体に、顔料および分散剤を混合し、ビーズミル等で分散処理を行うことにより製造することができる。顔料分散体における顔料の含有率は、特に限定されないが、顔料分散体100質量%に対し、15~65質量%であることが好ましい。一方、樹脂エマルション粒子を含むエマルションは、上記したように従来公知の乳化重合法により製造することができる。上記エマルションにおける樹脂エマルション粒子の含有率は、特に限定されないが、エマルション100質量%に対し、30~65質量%であることが好ましい。乳化重合法により得られるエマルションには、通常、乳化に用いた界面活性剤等の乳化剤が含まれるが、該エマルションをそのまま、本発明のインクを調製するエマルションとして用いてもよい。
【0083】
次に、上記顔料分散体、上記エマルション、オキサゾリン基含有化合物及び必要に応じて水性媒体を混合する。混合にあたり、上記オキサゾリン基含有化合物は、該化合物をそのまま用いてもよいし、水性媒体等で希釈した溶液を用いてもよい。上記の各成分を混合する方法や順番は特に限定されない。たとえば、上記エマルションと上記顔料分散体を混合した後、上記オキサゾリン基含有化合物を混合してもよいし、上記顔料分散体と上記オキサゾリン基含有化合物とを混合した後、上記エマルションを混合してもよいし、上記エマルションと上記オキサゾリン基含有化合物とを混合した後、上記顔料分散体を混合してもよいし、上記顔料分散体、上記エマルションおよび上記オキサゾリン基含有化合物をほぼ同時に混合してもよい。
【0084】
また本発明のインクにおける各成分の濃度を調整する目的あるいはインクの物性を調整する目的で、水性媒体あるいは水性媒体を構成する水あるいは有機溶剤を各々単独あるいは混合したものを混合してもよいし、上記以外の添加材等の成分をさらに混合してもよい。これら(水性媒体、添加剤等)を混合するタイミングは適宜選択すればよい。また、遠心分離やフィルター濾過等を必要に応じて行うことができる。
【0085】
上記した製造方法により、顔料、樹脂エマルション粒子、オキサゾリン基含有化合物および水性媒体、さらに必要に応じて添加剤等の他の成分を含む本発明のインクが得られる。
【0086】
上述した本発明のインクは、インクジェットプリンターを用いた、布帛への捺染に好適に用いることができる。インクジェット捺染法に本発明のインクを用いることにより、文字、絵柄および図等の任意の画像を布帛に印刷した物品を得ることができるが、本発明のインクジェット捺染用インクは、上述した構成により、インクジェット捺染時の加熱温度が低温であっても、印刷された画像の摩擦堅牢性に優れるものとなる。そのため、布帛等へのインクジェット捺染において本発明のインクジェット捺染用インクを用いることにより、乾燥工程を省エネルギー化することができるともに、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維をはじめ耐熱温度が低い材料を含む布帛に対しても摩擦堅牢性に優れる画像の形成および印刷(捺染)を行うことができる。
【0087】
2.布帛に画像が印刷された印刷物の製造方法
本発明のインクジェット捺染用インクを用いた印刷物(捺染物)は、種々の方法で製造できるが、これらの製造方法の中でも、好ましい製造方法について説明する。該製造方法とは、本発明のインクジェット捺染用インクを、インクジェットプリンターを用いて、布帛に付着させ画像を形成する画像形成工程を含む、前記布帛に前記画像が印刷された印刷物の製造方法である。なお、該製造方法を、本発明の印刷物の製造方法とも称する。また、本発明のインクジェット捺染用インクを用いた転写捺染法も採用することができる。転写捺染法としては従来公知の方法を採用することができる。転写捺染法としては、たとえば、インクジェットプリンターにより本発明のインクジェット捺染用インクを転写紙基材上に吐出して、必要により乾燥することにより、画像を形成した転写紙を製造する転写紙製造工程と、前記転写紙製造工程によって製造された前記転写紙を布帛に重ね合わせて、加熱および/または加圧することにより前記転写紙上に形成された画像を前記布帛に転写する転写工程と、前記転写工程によって画像が転写された後の前記布帛から前記転写紙を剥離する剥離工程と、を含む方法があげられる。
【0088】
本明細書において、布帛とは、天然繊維および/または合成繊維を原糸とする、布、織物等の繊維製品を全て包含する。たとえば、織布、不織布、編布等があげられる。布帛を構成する繊維も特に限定されず、たとえば、天然繊維、化学繊維またはこれらの混合物があげられる。
【0089】
天然繊維としては、たとえば、絹、綿、羊毛等が好ましい例としてあげられる。化学繊維としては合成繊維、再生繊維および半合成繊維があげられる。合成繊維としては、たとえば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維等が好ましい例としてあげられる。再生繊維としては、たとえばレーヨン等が好ましい例としてあげられる。半合成繊維としてはアセテート、トリアセテート等が好ましい例としてあげられる。
【0090】
これらの中でも、綿、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維をそれぞれ含む布帛が好ましい。後述するように、布帛を構成する繊維の種類により好ましい加熱処理温度は異なる。該加熱処理温度が低い、ポリエステル繊維を主成分として含む布帛やポリプロピレン繊維を主成分として含む布帛に対しても、本発明のインクを用いると摩擦堅牢性に優れる捺染物の製造が可能となる。また、綿のように、従来、画像を定着させ堅牢性を確保するために160℃で加熱処理を行っていた布帛の場合でも、本発明のインクを用いることにより、より低い加熱温度での処理によっても、摩擦堅牢性に優れる捺染物の製造が可能となる。
【0091】
上記画像形成工程、及び転写紙製造工程において用いるインクジェットプリンターは特に限定されず、従来公知のインクジェットプリンターを用いることができる。インクジェットプリンターは、たとえば、ピエゾ方式、サーマル方式、荷電変更制御方式(連続吐出方式)等、いずれの方式のものであっても良く、ピエゾ方式のインクジェットプリンターが特に好ましい。上記ピエゾ方式のインクジェットプリンターを用いる場合、インクの突出条件等は特に限定されない。本発明のインクの性状、布帛の種類、印刷する画像の種類等により適宜選択すればよい。また本発明のインクジェット捺染用インクの粘度は2~20mPa/sの範囲が好ましい。インク表面張力は25~45mN/mの範囲が好ましい。
【0092】
上記画像形成工程、及び転写紙製造工程において、インクジェットプリンターヘッドのノズル開口より、吐出された本発明のインクは、布帛表面、及び転写紙基材にそれぞれ付着し、画像を形成する。
【0093】
本発明の印刷物の製造方法では、上記画像形成工程において画像形成された布帛を、室温超の温度で加熱する工程(加熱処理工程ともいう)を含むことが好ましい。また、上記転写捺染法では、転写工程において転写紙から画像が転写された布帛を、室温超の温度で加熱する工程(加熱処理工程ともいう)を含むことが好ましい。室温超の温度での加熱処理により、布帛に形成された画像中に含まれる、インク由来の水性媒体等の揮発成分の除去を促進でき、画像の定着を促進することができる。またインクに含まれる樹脂エマルション粒子の成膜(融着)により画像の密着性等を向上できる。また、後述の反応生成物(C)の生成反応も進みやすい。
【0094】
加熱処理工程は、画像形成工程や転写工程と同時であっても画像形成工程や転写工程の後であってもよい。また両者を組み合わせてもよい。たとえば、加熱処理工程を画像形成工程や転写工程と同時に行う方法としては、布帛を加熱しながら、画像形成工程や転写工程を行う方法があげられる。画像形成工程や転写工程の後に加熱処理工程を行う場合の加熱処理方法としては、たとえば、加熱乾燥炉による加熱方法、ヒートプレスによる加熱方法、赤外線ランプによる加熱方法、常圧スチームまたは高圧スチーム等のスチームを用いる方法等が好ましくあげられる。中でも加熱方法としては、同時に行うと気流が乱れる虞から、加熱処理工程は画像形成や転写工程の後に行うことが好ましい。
【0095】
上記加熱処理工程における加熱する温度は、それぞれ、90~180℃が好ましい。上限値は、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは130℃以下、特に好ましくは120℃以下であり、下限値は、より好ましくは95℃以上であり、さらに好ましくは100℃以上である。なお、加熱処理工程において、布帛を構成する繊維により推奨される加熱温度、時間は異なる。たとえば、綿は160℃、ポリプロピレンは125℃、ポリエステルは110℃でいずれも5分以内であり、好ましくは3分以内、より好ましくは2分以内である。上記の加熱処理工程後に得られた捺染物(布帛に画像が形成された印刷物)を水洗し乾燥しても良い。
本発明のインクジェット捺染用インクを用いた、本発明の印刷物の製造方法、及び上記転写捺染法により、加熱温度が低温であっても、印刷された画像の摩擦堅牢性に優れた捺染物(布帛に画像が形成された印刷物)を省エネルギーで環境に優しく製造することが可能となる。
摩擦堅牢性に優れる捺染物を短時間で得るためには、上述したように加熱する温度が90℃以上であることが好ましい。しかし、上記加熱処理工程において加熱する温度は、上記した範囲に限定されず、たとえば、常温付近の温度、たとえば15~25℃であってもよい。このような温度であっても、長時間、加熱することにより、印刷された画像の摩擦堅牢性を向上することができる。加熱時間の短縮の観点から、30℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、90℃以上がさらに好ましい。
ここで、常温とは、たとえば15~25℃であり、室温とは、室内の実際の温度であるが、通常、15~25℃程度と考えられる。
なお、本明細書において、印刷とは、インクジェット捺染用インクを、インクジェットプリンターを用いて、布帛に付着させ画像を形成する画像形成工程を含んでいれば良く、本発明のインクジェット捺染用インクを用いた、本発明の印刷物の製造方法、及び上記転写捺染法等により印刷された画像は、室温超の温度での加熱処理をされていても良く、室温超の温度での加熱処理をされていなくてもよい。
【0096】
3.画像印刷物品、及び画像固着物品
本発明はさらに画像印刷物品を提供する。本発明が提供する画像印刷物品とは、本発明のインクジェット捺染用インクからなる画像が布帛の一部または全部に印刷されてなる画像印刷物品であって、顔料と樹脂とを含み、前記樹脂がカルボキシ基を有するアクリル-スチレン系重合体(A)とオキサゾリン基含有化合物(B)との反応生成物(C)を含む。上記印刷画像では、樹脂をバインダーとして顔料が分散含有されてなることが好ましい。また、上記インクジェット捺染用インクは、カルボキシ基を有するアクリル-スチレン系重合体(A)を含むことが好ましい。
上記反応生成物(C)は、室温超の温度で加熱しなくても、常温乾燥であっても生成する。そして、温度が高い程に反応が進む。室温超の温度で加熱した方が、上記反応生成物(C)の生成速度は速いが、常温乾燥でも時間と共に少量ずつ生成が進むと考えられる。
【0097】
本発明はさらに画像固着物品を提供する。本発明が提供する、画像固着物品とは、顔料と樹脂とを含む画像が布帛の一部または全部に固着してなる画像固着物品であって、前記樹脂がカルボキシ基を有するアクリルースチレン系重合体(A)とオキサゾリン基含有化合物(B)との反応生成物(C)を含むことを特徴とする画像固着物品である。上記固着画像は顔料と樹脂とを含む。上記固着画像では、樹脂をバインダーとして顔料が分散含有されてなることが好ましい。
ここで、「顔料と樹脂とを含む画像が布帛の一部または全部に固着してなる」とは、好ましくは、顔料と樹脂とを含む画像が摩擦堅牢性に優れるように付着していることを指す。
【0098】
<樹脂>
上記樹脂は、カルボキシ基を有するアクリルースチレン系重合体(A)とオキサゾリン基含有化合物(B)との反応生成物(C)を含む。カルボキシ基を有するアクリルースチレン系重合体(A)について説明する。カルボキシ基を有するアクリルースチレン系重合体(A)を重合体(A)とも称する。
【0099】
上記重合体(A)を形成するために用いる単量体(スチレン系単量体、(メタ)アクリル系単量体等)は、本発明のインクを構成する樹脂エマルション粒子を構成する樹脂の好適な形態である、カルボキシ基を有するアクリルースチレン系重合体を形成するために用いる単量体と同様のものがあげられる。具体的な例示は割愛する。
【0100】
上記重合体(A)におけるアクリルースチレン系重合体は、アクリル系単量体とスチレン系単量との共重合体である。上記重合体(A)は(メタ)アクリル系単量体由来の構成単位およびスチレン系単量体由来の構成単位を含んでいればよく、これらの構成単位以外の他の構成単位を含んでいてもよい。しかし、上記重合体(A)を構成する構成単位の合計100質量%に対する、(メタ)アクリル系単量体由来の構成単位とスチレン系単量体由来の構成単位との合計含有量は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100モル%が特に好ましい。
【0101】
上記重合体(A)におけるスチレン系単量体由来の構成単位の含有量は、特に限定されないが、(メタ)アクリル系単量体由来の構成単位およびスチレン系単量体由来の構成単位の合計量100質量%に対し、1~55質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましく、10~45質量%がさらに好ましい。スチレン系単量体の含有量を上記範囲とすることにより、風合いにより優れる、あるいは洗濯堅牢性に優れる画像印刷物品、及び画像固着物品(例えば、捺染物)となり易い。
【0102】
上記重合体(A)におけるカルボキシ基の含有量は、重合体(A)100質量%に対し、0.06~3質量%であることが好ましい。また上記カルボキシ基が(メタ)アクリル酸由来のカルボキシ基であることが好ましい。よって、上記重合体(A)は、(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含むものであることがより好ましい。上記重合体(A)における(メタ)アクリル酸由来の構成単位の含有量は、(メタ)アクリル系単量体由来の構成単位およびスチレン系単量体由来の構成単位の合計量100質量%に対し、0.1~5質量%が好ましく、0.2~4質量%がより好ましく、1~3質量%がさらに好ましい。
【0103】
上記重合体(A)は、さらに、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むことが好ましい。中でも、アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含むことが好ましい。さらに、アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位と、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位とを含むことがより好ましい。
【0104】
上記アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位において、該構成単位に含まれるアルキル基が、炭素数が1~18のアルキル基を含むことが好ましく、炭素数が4~12のアルキル基を含むことがさらに好ましい。また、上記アルキル基が、炭素数が異なる2種以上のアルキル基を含むことも好ましい形態である。たとえば、炭素数が1~5のアルキル基と炭素数が6~18のアルキル基とを含む形態、炭素数が1のアルキル基と炭素数が8~18のアルキル基とを含む形態、炭素数が1のアルキルと炭素数が4~6のアルキル基と炭素数が8~18のアルキル基とを含む形態、炭素数が2~6のアルキル基と炭素数が8~12のアルキル基とを含む形態などがあげられる。また、上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位において、ヒドロキシアルキル基における炭素数が1~18のものが好ましく、該炭素数が2~4のものがよりに好ましい。
【0105】
なお、上記重合体(A)における構成単位としては、(メタ)アクリル系単量体由来の構成単位、スチレン系単量体由来の構成単位以外の他の構成単位を含んでいてもよい。他の構成単位としては、たとえば、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリルアミド等の各単量体由来の構成単位があげられる。
【0106】
オキサゾリン基含有化合物(B)について説明する。オキサゾリン基含有化合物(B)は、本発明のインクに含まれるオキサゾリン基含有化合物と、好ましい形態も含め、同様であり、上述の説明を準用することができる。よって説明は省略する。
【0107】
重合体(A)とオキサゾリン基含有化合物(B)との反応生成物(C)について説明する。上記反応生成物(C)は、重合体(A)が有するカルボキシ基とオキサゾリン基含有化合物(B)が有するオキサゾリン基との反応により生成する。好ましくは、該反応により、アミドエステル結合を形成してなる。アミドエステル結合の含有量は特に限定されないが、上記樹脂100質量%に対し、0.05~5質量%である。より好ましくは0.1~3質量%である。上記樹脂における上記反応生成物(C)の含有量は特に限定されないが、上記樹脂100質量%に対する割合で0.1~50質量%であることが好ましい。より好ましくは0.2~40質量%であり、さらに好ましくは0.3~30質量%である。
【0108】
上記樹脂は、上記反応生成物(C)以外に、さらに重合体(A)を含むことが好ましい。重合体(A)を含むことにより、風合いに優れる布帛となり易い。上記樹脂における上記重合体(A)の含有量は、樹脂100質量%に対する割合で50~99.9質量%であることが好ましい。下限値は60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、上限値は99.8質量%以下がより好ましく、99.7質量%がさらに好ましく、99質量%以下がさらにより好ましい。
【0109】
上記樹脂は、オキサゾリン基含有化合物(B)をさらに含んでいてもよい。上記樹脂における上記重合体(B)の含有量は、樹脂100質量%に対する割合で0~5質量%であることが好ましい。より好ましくは0~2質量%であり、さらに好ましくは0~1質量%である。
【0110】
<顔料>
上記顔料は、本発明のインクを構成する顔料と好ましい形態も含め、同様であり、上述の説明を準用することができる。よって説明は省略する。
【0111】
<印刷画像、及び固着画像>
上記印刷画像、及び固着画像は、上記樹脂と上記顔料を含む。
上記印刷画像、及び固着画像における樹脂および顔料の合計含有量は、画像100質量%に対する割合で80~100質量%であることが好ましい。より好ましくは90~100質量%であり、さらに好ましくは95~100質量%以上である。
上記印刷画像、及び固着画像における樹脂の含有量は、画像100質量%に対する割合で20~95質量%であることが好ましい。より好ましくは25~90質量%であり、さらに好ましくは30~85質量%である。
【0112】
上記印刷画像は布帛の一部または全部に印刷されていればよい。
上記固着画像は布帛の一部または全部に固着していればよい。
上記印刷画像、及び固着画像の膜厚は、特に限定されないが、0.1~1000μmであることが好ましく、より好ましくは0.3~500μmであり、さらに好ましくは0.5~100μmである。上記膜厚は、たとえば、レーザー顕微鏡等により観察し計測した値を採用することができる。
【0113】
<布帛>
本発明の画像印刷物品、及び画像固着物品における布帛の定義、用いることができる具体的な材料は、「画像が印刷された布帛の製造方法」において説明したものと同様であり、準用することができる。好ましい形態も同様である。すなわち、綿、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維をそれぞれ含む布帛が好ましく、綿を主成分として含む布帛、ポリエステル繊維を主成分として含む布帛、ポリプロピレン繊維を主成分として含む布帛がより好ましい。
【0114】
以上、本発明の画像印刷物品、及び本発明の画像固着物品について説明した。
本発明の画像印刷物品では、印刷時の加熱処理工程における温度が低温であっても、摩擦堅牢性に優れる。加熱処理工程の好ましい態様は、上記本発明の印刷物の製造方法のところで記載したのと同様である。
また、本発明の画像固着物品は、摩擦堅牢性に優れる。
ここで、「摩擦堅牢性に優れる」とは、好ましくは、JIS L0849の規定の方法に従い、II型試験機で綿3-1号の添付白布を使用し、荷重200g、100往復の乾燥摩擦試験および湿潤摩擦試験を行い、変退色グレースケールを用いて評価した場合に、乾燥摩擦試験および湿潤摩擦試験が共に3-4級以上の評価となることを表す。
【0115】
本発明の画像印刷物品、及び本発明の画像固着物品は、たとえば、本発明のインクジェット捺染用インクの中でも特に好ましい形態のインクを用いて製造することが可能である。その際、本発明の画像が印刷された布帛の製造方法、または上記の転写捺染法にかかる画像が印刷された布帛の製造方法を採用することが好ましい。
【実施例
【0116】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
各測定方法、評価方法は以下のとおりである。
【0117】
<樹脂エマルション粒子の平均粒子径>
樹脂エマルション粒子の平均粒子径は、樹脂エマルションを動的光散乱法による粒度分布測定器(大塚電子株式会社製、品番:FPAR-1000)を用いて測定したときのキュムラント法で得られた値を採用した。
【0118】
<顔料の平均粒子径>
顔料の平均粒子径は、顔料分散体を動的光散乱法による粒度分布測定器(大塚電子株式会社製、品番:FPAR-1000)を用いて測定したときのキュムラント法で得られた値を採用した。
【0119】
<インクの粘度>
各実施例、各比較例で得られた各インクを、E型粘度計のTPE-100(東機産業製)で、ローターR24、0.8度、25℃にて測定した。
【0120】
<インクの保存安定性>
各実施例、各比較例で得られた各インクを、密閉容器に封入したインクを50℃の恒温槽内中で30日間保存し、下記評価基準に従い評価した。
◎:保存前後での粘度変化率5%未満。
〇:保存前後での粘度変化率5~10%。
△:保存前後での粘度変化率11~20%。
×:保存によりゲル化。
【0121】
<吐出安定性>
マスターマインド社製テキスタイルプリンタMMP-TX13に各実施例、各比較例で得られた各インクを導入し、PETフィルムに、ノズルチェック印刷(全180ノズルを順に吐出させて罫線を印字)して、飛び散り(曲がり)、ドット抜けを目視にて評価した。更にヘッドをキャップして1週間静置した後、再度ノズルチェック印刷して飛び散り(曲がり)、ドット抜けを目視にて評価した。△印と×印と評価されたインクでは、吐出安定性が不十分であった。
◎:飛び散り(曲がり)、ドット抜けが、初期および1週間後が共に全くない。
〇:飛び散り(曲がり)、ドット抜けが、初期および1週間後の多い方が1個以上2個以内。
△:飛び散り(曲がり)、ドット抜けが、初期および1週間後の多い方が3個以上4個以内。
×:飛び散り(曲がり)、ドット抜けが、初期および1週間後の多い方が5個以上。
【0122】
<摩擦堅牢性>
各実施例、各比較例で得られた各画像が印刷された布帛を、JIS L0849の規定の方法に従い、II型試験機で綿3-1号の添付白布を使用し、荷重200g、100往復の乾燥摩擦試験および湿潤摩擦試験を行い、変退色グレースケールを用いて評価した。なお白インクの実施例7については、綿布帛(Hanes社製綿100%黒色Tシャツ)に印刷した布帛で評価した。△印と×印と評価された画像が印刷された布帛では、摩擦堅牢性が不十分であった。
◎:乾燥摩擦試験および湿潤摩擦試験が共に4-5級以上。
〇:乾燥摩擦試験および湿潤摩擦試験が共に3-4級~4級。
△:乾燥摩擦試験および湿潤摩擦試験が共に2-3級~3級。
×:乾燥摩擦試験および湿潤摩擦試験のいずれかが2級以下。
【0123】
<洗濯堅牢性>
各実施例、各比較例で得られた各画像が印刷された布帛を、家庭用洗濯機で通常の洗濯(洗濯条件:通常モードでの洗濯→すすぎ→脱水→乾燥、液体洗剤アリエール(P&G製)使用)を10回実施し、変退色グレースケールを用いて、退色の度合いを評価した。
◎:4-5級~5級。
〇:3-4級~4級。
△:2-3級~3級。
×:2級以下。
【0124】
<風合い>
各実施例、各比較例で得られた各画像が印刷された布帛を触手により評価した。
◎:画像が印刷された布帛が容易に折れ曲がり、布帛そのものの柔らかさに近いもの。
〇:画像が印刷された布帛が容易に折れ曲がるが、布帛そのものよりも若干ごわつきを感じるもの。
△:画像が印刷された布帛がごわつきを感じるもの。
×:画像が印刷された布帛が自由に折れ曲がらないほど固いもの。
【0125】
<エマルション製造例>
[エマルション製造例1]
滴下ロート、撹拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコ内に、脱イオン水252部を仕込んだ。滴下ロートに、脱イオン水437部、乳化剤((株)ADEKA製、商品名:アデカリアソーブSR-10)の25%水溶液80部、アクリル酸25部、2-エチルヘキシルアクリレート565部、シクロヘキシルメタクリレート50部、ヒドロキシエチルメタクリレート10部およびスチレン350部からなる滴下用プレエマルションを調製し、そのうち全単量体成分の総量の3%にあたる44部をフラスコ内に添加し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら80℃まで昇温し、5%過硫酸アンモニウム水溶液30部を添加し、重合を開始した。その後、滴下用プレエマルションの残部と5%過硫酸アンモニウム水溶液30部を240分間にわたり均一にフラスコ内に滴下した。滴下終了後、フラスコの内容物を80℃で180分間維持し、25%アンモニア水および脱イオン水を添加することによってpHを8.5、固形分50%に調整し、重合を終了した。得られた反応液を室温まで冷却した後、300メッシュの金網で濾過することによりエマルションを得た。このエマルション樹脂粒子におけるスチレンモノマー含有量は35%であり、Tgは-21℃であり、このエマルションの平均粒子径は200nmであった。
【0126】
[エマルション製造例2]
エマルション製造例1における滴下用プレエマルションのうち全単量体成分の総量の0.5%にあたる7部をフラスコ内に添加するよう変更した以外はエマルション製造例1と同様にしてエマルションを得た。このエマルション樹脂粒子におけるスチレンモノマー含有量は35%であり、Tgは-21℃であり、このエマルションの平均粒子径は310nmであった。
【0127】
[エマルション製造例3]
エマルション製造例1における滴下用プレエマルションのうち全単量体成分の総量の6%にあたる87部をフラスコ内に添加するよう変更した以外はエマルション製造例1と同様にしてエマルションを得た。このエマルション樹脂粒子におけるスチレンモノマー含有量は35%であり、Tgは-21℃であり、このエマルションの平均粒子径は140nmであった。
【0128】
[エマルション製造例4]
エマルション製造例1における滴下用プレエマルションのスチレンを50部に変更し、メチルメタクリレートを新たに300部追加した以外はエマルション製造例1と同様にしてエマルションを得た。このエマルション樹脂粒子におけるスチレンモノマー含有量は5%であり、Tgは-20℃であり、このエマルションの平均粒子径は200nmであった。
【0129】
[エマルション製造例5]
エマルション製造例1における滴下用プレエマルションのシクロヘキシルメタクリレートを0部に変更し、スチレンを200部に変更した以外はエマルション製造例1と同様にしてエマルションを得た。このエマルション樹脂粒子におけるスチレンモノマー含有量は20%であり、Tgは-22℃であり、このエマルションの平均粒子径は210nmであった。
【0130】
[エマルション製造例6]
エマルション製造例1における滴下用プレエマルションの2-エチルヘキシルアクリレートを465部に変更し、シクロヘキシルメタクリレートを0部に変更し、スチレンを500部に変更した以外はエマルション製造例1と同様にしてエマルションを得た。このエマルション樹脂粒子におけるスチレンモノマー含有量は50%であり、Tgは-5℃であり、このエマルションの平均粒子径は200nmであった。
【0131】
<顔料分散体製造例>
[顔料分散体製造例1]
分散剤のジョンクリル678(BASF社製)を3部、ジメチルアミノエタノールを1.3部、脱イオン水81部を70℃で撹拌し混合した。次いで、青色顔料のC.I.Pigment Blue15:3 LIONOL BLUE FG-7330(東洋インキ製)を15部、界面活性剤のオルフィンD-10PG(日信化学工業製)を0.1部、粒子径0.5mmジルコニアビーズを体積率で50%充填し、ビーズミルを用いて分散し、孔径1μmフィルター(アドバンテック社製、MCP-1-C10S)で濾過することにより、顔料15%の青色顔料分散体を得た。平均粒子径は90nmであった。
【0132】
[顔料分散体製造例2]
顔料分散体製造例1における青色顔料を金属フリーのC.I.Pigment Blue16(東京化成工業製)に変更した以外は顔料分散体製造例1と同様にして顔料15%の青色顔料分散体を得た。平均粒子径は95nmであった。
【0133】
[顔料分散体製造例3]
分散剤のディスコートN-14(第一工業製薬製)を5部、プロピレングリコール6部、脱イオン水を70部、酸化チタンのCR-95(石原産業製)100部、粒子径0.5mmジルコニアビーズを体積率で50%充填し、ビーズミルを用いて分散し、顔料55%の白色顔料分散体を得た。平均粒子径は330nmであった。
【0134】
<実施例>
[実施例1]
(インクの製造)
エマルション製造例1のエマルションを30部(エマルション粒子として15部)、顔料分散体製造例1の顔料分散体を23部(顔料として15部)、エポクロスWS-700(日本触媒製、固形分25%)を1.2部(固形分として0.3部)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル2部、トリエチレングリコール15部、界面活性剤のKF-6011(信越化学製)0.3部、及び脱イオン水を28.5部を混合し、孔径1μmフィルター(アドバンテック製、MCP-1-C10S)で濾過することにより、インク(1)を製造した。
(インクジェット法による画像形成)
上記で得られたインク(1)を、インクジェットプリンター:マスターマインド社製テキスタイルプリンタMMP-TX13に導入し、綿布帛(Hanes社製綿100%白色Tシャツ)に、青インクで1440dpi×1440dpi、印刷速度設定8、120mm×120mmのベタ印刷を行うことにより布帛に画像を形成した。画像が形成された布帛を110℃の熱風乾燥機で90秒間の加熱処理を行い、画像が印刷された布帛(1)を得た。
【0135】
[実施例2~13および比較例1~8]
実施例1の(インクの製造)における、各原料の種類、仕込み量をそれぞれ、表1~3に示すように変更し、且つ合計量が100部となるよう脱イオン水の仕込み量で調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~13にかかるインク(2)~(13)、比較例1~8にかかるインク(c1)~(c8)を製造した。なお、表1~3記載のオキサゾリン基含有化合物は、エポクロスWS-700(日本触媒製、固形分25%)、カルボジイミド基含有化合物は、カルボジライトSV-02(日清紡製ケミカル製、固形分40%)、ブロックイソシアネート化合物は、バイヒジュールBL2867(住化コベストロウレタン製、固形分38%)を使用した。
【0136】
次に各実施例、比較例の各インクを用いて、実施例1と同様にしてインクジェット法による画像形成を行い、各画像が形成された布帛(2)~(13)および布帛(c1)~(c8)を得た。なお、各実施例、比較例において用いた布帛の種類、加熱処理条件は表1~3に示すとおりである。
ポリエステル布帛はグンゼ製ポリエステル100%白Tシャツ、ポリプロピレン布帛はポリプロピレン100%繊維の布帛を使用した。布帛(2)~(13)および布帛(c1)~(c8)はそれぞれ、実施例1と同様にしてインクジェット法による画像形成を行った後、実施例1と同様にして、表1~3に示す加熱処理条件にて加熱処理を行って得られたものであり、画像が印刷された布帛である。
【0137】
各実施例、比較例で製造したインク、インクジェット特性、画像が印刷された布帛における各評価結果を表1~3に示す。
【0138】
【表1】
【0139】
【表2】
【0140】
【表3】
【0141】
表1~2に示すように、実施例1~13でそれぞれ得られたインク(1)~(13)はいずれも吐出安定性に優れるものであり、且つ、各インクを用いインクジェットプリンターを用いて画像が印刷された布帛(1)~(13)は、加熱処理条件が110℃90秒または110℃60秒という条件であっても、いずれも印刷された画像の摩擦堅牢性に優れるものであった。
また、実施例1~13でそれぞれ得られた布帛(1)~(13)は、摩擦堅牢性に優れるものであり、印刷された画像が布帛に固着してなるものであった。