(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】超高分子量ポリエチレンパウダー及びこれを成形してなる成形体
(51)【国際特許分類】
C08F 110/02 20060101AFI20230905BHJP
D01F 6/04 20060101ALI20230905BHJP
H01M 50/417 20210101ALN20230905BHJP
【FI】
C08F110/02
D01F6/04 Z
H01M50/417
(21)【出願番号】P 2022510489
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2021011738
(87)【国際公開番号】W WO2021193544
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2020051302
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】辻本 公一
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-216020(JP,A)
【文献】国際公開第2019/187727(WO,A1)
【文献】特開2015-131880(JP,A)
【文献】特開2006-225645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 10/00 - 10/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度平均分子量(Mv)が10×10
4以上1000×10
4以下であり、
下記方法により求められる膨潤開始温度と溶解開始温度との差が3℃以上であり、
下記方法により求められる流動パラフィン含浸率(重量増加率)が0.5%以上5.0%以下であ
り、
平均粒径(D50)が60μm以上140μm以下である、超高分子量ポリエチレンパウダー。
[膨潤開始温度及び溶解開始温度の測定方法]
長軸径及び短軸径が120μm以上130μm以下の超高分子量ポリエチレンパウダーを光学顕微鏡で確認しながら任意に1粒採取する。採取した超高分子量ポリエチレンパウダー1粒(以下「測定粒子」とも記す)をカバーガラス上にセットし、測定粒子に対して流動パラフィンを2mLスポイトで1滴垂らした後、さらにカバーガラスを乗せて測定粒子を挟む。その後、測定粒子を挟んだカバーガラスをヒートステージへ乗せ、カメラ付光学顕微鏡で測定粒子を下記昇温条件で室温から150℃まで昇温する過程を観察する。昇温工程において測定粒子の観察画像は6秒毎に撮影し、測定終了後に画像解析ソフトを用いて各観察画像から測定粒子の円相当径を算出し、下記のとおり膨潤開始温度及び溶解開始温度を判断する。
(昇温条件)
室温~35℃までの昇温速度:5℃/分
35℃~80℃の範囲の昇温速度:8℃/分
80℃~150℃の範囲の昇温速度:5℃/分
〔膨潤開始温度〕
測定粒子を撮影した観察画像から画像解析ソフトを用いて測定粒子の円相当径を算出する。80℃の測定粒子の円相当径を基準にして、80℃以上150℃以下の温度範囲において、測定粒子の円相当径が1%以上大きくなった時の最小温度を膨潤開始温度とする。当該
膨潤開始温度の測定の3回の
測定値の平均値を最終的な膨潤開始温度とする。
〔溶解開始温度〕
測定粒子を撮影した観察画像から画像解析ソフトを用いて測定粒子の円相当径を算出し、測定粒子の円相当径が最も大きい値を示した時の測定温度を溶解開始温度とする。当該
溶解開始温度の測定の3回の
測定値の平均値を最終的な溶解開始温度とする。
[流動パラフィン含浸率(重量増加率)の算出方法]
超高分子量ポリエチレンパウダー10gと流動パラフィン30gとを混合して試料を作成する。作成した試料を金属製容器に入れ、アルミ箔で蓋をし、70℃で3時間放置する。次に、試料を110℃/減圧(-0.1MPa G)下で、5時間減圧乾燥する。その後、試料に対してヘキサン10gを用いた洗浄濾過作業を3回実施した後、24時間以上風乾し、超高分子量ポリエチレンパウダーの重量測定を実施する。元の超高分子量ポリエチレンパウダーの重量(含浸前重量)に対する流動パラフィン含浸後の超高分子量ポリエチレンパウダーの重量(含浸後重量)の増加率から、下記式により流動パラフィン(LP)含浸率(重量増加率)を算出する。
流動パラフィン含浸率(%)=(含浸後重量-含浸前重量)/含浸前重量×100
【請求項2】
粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーを、クリプトン吸着によるBET法で測定した際の細孔比表面積が0.10m
2/g以上1.50m
2/g以下である、請求項1に記載の超高分子量ポリエチレンパウダー。
【請求項3】
粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーを、水銀ポロシメーターで測定した際の細孔容積が0.30mL/g以上1.70mL/g以下である、請求項1又は2に記載の超高分子量ポリエチレンパウダー。
【請求項4】
粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーを、水銀ポロシメーターで測定した際の平均細孔径が0.10μm以上0.80μm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の超高分子量ポリエチレンパウダー。
【請求項5】
結晶化度が70%以上82%未満である、請求項1~4のいずれか一項に記載の超高分子量ポリエチレンパウダー。
【請求項6】
粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーの割合が、超高分子量ポリエチレンパウダー全体を100質量%としたとき、35質量%以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の超高分子量ポリエチレンパウダー。
【請求項7】
チタン含有量が0.1ppm以上5ppm以下である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の超高分子量ポリエチレンパウダー。
【請求項8】
アルミニウム含有量が0.1ppm以上5ppm以下である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の超高分子量ポリエチレンパウダー。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の超高分子量ポリエチレンパウダーを成形して得られる、成形体。
【請求項10】
前記成形体が、微多孔膜、高強度繊維又は焼結体である、請求項
9に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高分子量ポリエチレンパウダー及びこれを成形してなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンは、フィルム、シート、微多孔膜、繊維、発泡体、パイプ等多種多様な用途に用いられている。ポリエチレンが用いられている理由としては、溶融加工が容易で、得られた成形体は、機械強度が高く、耐薬品性、剛性等にも優れるからである。中でも超高分子量ポリエチレンは、分子量が大きいため、より機械強度が高く、摺動性や耐摩耗性に優れ、化学的安定性や長期信頼性にも優れる。
【0003】
しかしながら、超高分子量ポリエチレンは、融点以上の温度で溶融させても流動性が低いため、ポリエチレンパウダーを加熱下に圧縮成形した後に切削する圧縮成形法や、流動パラフィン等の溶媒に溶解した後、延伸を行い、溶媒を除去することでシート状や糸状に成形する成形方法等が適用されている。
【0004】
超高分子量ポリエチレンはパウダー状で成形されるが、ペレットと比較するとパウダーは表面積が大きく、パウダー中に微細な細孔を有している。
【0005】
ポリエチレンパウダーの細孔状態については、例えば、特許文献1には、BET法により求められる比表面積と、水銀圧入法により求められる細孔容積とを適切な範囲にすることで、速やかに溶剤に溶解し、且つ、未溶解物の発生が少ない成形体が得られるポリエチレンパウダーが開示されている。
【0006】
また、例えば、特許文献2においては、水銀圧入法により測定した細孔のメディアン径とモード径との比を適切な範囲に調整することで、未溶解物の発生が少ない成形体が得られるポリエチレン系パウダーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-88773号公報
【文献】特開2017-145306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したとおり、超高分子量ポリエチレンパウダーは、ペレットと比較すると表面積が大きく、パウダー中に微細な細孔を有している。そのため、加熱している間にパウダーの形状、表面状態、結晶状態や細孔状態等が変化するので、超高分子量ポリエチレンパウダーを成形する際、適切な温度に調整して、溶解や圧縮などの加工をすることが求められる。超高分子量ポリエチレンパウダーを圧縮成形する場合、圧縮前の予熱温度が適切でなければ成形体の中に気泡が残ったり、成形体に歪が残存して冷却後に変形したりする傾向にある。
特許文献1に記載のポリエチレンパウダーは、パウダー特性として比表面積と細孔容積とを調整しているのみで、実際に溶解や溶融する温度ではパウダーの特性は大きく変化しており、成形加工性について改善の余地がある。
【0009】
また、特許文献2に記載のポリエチレン系パウダーも、パウダーの細孔径を規定しているのみであって、加熱される過程で細孔径は大きく変化しているため、成形加工性について改善の余地があり、均一な成形体を得ることが困難な場合がある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、加工成形性に優れる超高分子量ポリエチレンパウダー、及び、これを成形してなる、寸法精度に優れ(シワやムラのない)、高強度である成形体(例えば微多孔膜、高強度繊維、及び多孔質焼結体)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、超高分子量ポリエチレンパウダーの膨潤開始温度と溶解開始温度との差を調整し、かつ超高分子量ポリエチレンパウダーへの流動パラフィンの含浸率を調整することで、上記の課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]
粘度平均分子量(Mv)が10×104以上1000×104以下であり、
下記方法により求められる膨潤開始温度と溶解開始温度との差が3℃以上であり、
下記方法により求められる流動パラフィン含浸率(重量増加率)が0.5%以上5.0%以下である、超高分子量ポリエチレンパウダー。
[膨潤開始温度及び溶解開始温度の測定方法]
長軸径及び短軸径が120μm以上130μm以下の超高分子量ポリエチレンパウダーを光学顕微鏡で確認しながら任意に1粒採取する。採取した超高分子量ポリエチレンパウダー1粒(以下「測定粒子」とも記す)をカバーガラス上にセットし、測定粒子に対して流動パラフィンを2mLスポイトで1滴垂らした後、さらにカバーガラスを乗せて測定粒子を挟む。その後、測定粒子を挟んだカバーガラスをヒートステージへ乗せ、カメラ付光学顕微鏡で測定粒子を下記昇温条件で室温から150℃まで昇温する過程を観察する。昇温工程において測定粒子の観察画像は6秒毎に撮影し、測定終了後に画像解析ソフトを用いて各観察画像から測定粒子の円相当径を算出し、下記のとおり膨潤開始温度及び溶解開始温度を判断する。
(昇温条件)
室温~35℃までの昇温速度:5℃/分
35℃~80℃の範囲の昇温速度:8℃/分
80℃~150℃の範囲の昇温速度:5℃/分
〔膨潤開始温度〕
測定粒子を撮影した観察画像から画像解析ソフトを用いて測定粒子の円相当径を算出する。80℃の測定粒子の円相当径を基準にして、80℃以上150℃以下の温度範囲において、測定粒子の円相当径が1%以上大きくなった時の最小温度を膨潤開始温度とする。当該測定の3回の平均値を最終的な膨潤開始温度とする。
〔溶解開始温度〕
測定粒子を撮影した観察画像から画像解析ソフトを用いて測定粒子の円相当径を算出し、測定粒子の円相当径が最も大きい値を示した時の測定温度を溶解開始温度とする。当該測定の3回の平均値を最終的な溶解開始温度とする。
[流動パラフィン含浸率(重量増加率)の算出方法]
超高分子量ポリエチレンパウダー10gと流動パラフィン30gとを混合して試料を作成する。作成した試料を金属製容器に入れ、アルミ箔で蓋をし、70℃で3時間放置する。次に、試料を110℃/減圧(-0.1MPa G)下で、5時間減圧乾燥する。その後、試料に対してヘキサン10gを用いた洗浄濾過作業を3回実施した後、24時間以上風乾し、超高分子量ポリエチレンパウダーの重量測定を実施する。元の超高分子量ポリエチレンパウダーの重量(含浸前重量)に対する流動パラフィン含浸後の超高分子量ポリエチレンパウダーの重量(含浸後重量)の増加率から、下記式により流動パラフィン(LP)含浸率(重量増加率)を算出する。
流動パラフィン含浸率(%)=(含浸後重量-含浸前重量)/含浸前重量×100
[2]
粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーを、クリプトン吸着によるBET法で測定した際の細孔比表面積が0.10m2/g以上1.50m2/g以下である、[1]に記載の超高分子量ポリエチレンパウダー。
[3]
粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーを、水銀ポロシメーターで測定した際の細孔容積が0.30mL/g以上1.70mL/g以下である、[1]又は[2]に記載の超高分子量ポリエチレンパウダー。
[4]
粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーを、水銀ポロシメーターで測定した際の平均細孔径が0.10μm以上0.80μm以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の超高分子量ポリエチレンパウダー。
[5]
結晶化度が70%以上82%未満である、[1]~[4]のいずれかに記載の超高分子量ポリエチレンパウダー。
[6]
粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーの割合が、超高分子量ポリエチレンパウダー全体を100質量%としたとき、35質量%以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の超高分子量ポリエチレンパウダー。
[7]
平均粒径(D50)が60μm以上140μm以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の超高分子量ポリエチレンパウダー。
[8]
チタン含有量が0.1ppm以上5ppm以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の超高分子量ポリエチレンパウダー。
[9]
アルミニウム含有量が0.1ppm以上5ppm以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の超高分子量ポリエチレンパウダー。
[10]
[1]~[9]のいずれかに記載の超高分子量ポリエチレンパウダーを成形して得られる、成形体。
[11]
前記成形体が、微多孔膜、高強度繊維又は焼結体である、[10]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、加工成形性に優れる超高分子量ポリエチレンパウダー、及び、これを成形してなる、寸法精度に優れ(シワやムラのない)、高強度である、成形体(例えば、微多孔膜、高強度繊維、及び多孔質焼結体)を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
[超高分子量ポリエチレンパウダー]
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダー(以下、単に「パウダー」ともいう。)は、粘度平均分子量が10×104以上1000×104以下である。
【0016】
また、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、成形性と最終物性との観点から、粘度平均分子量が、好ましくは10×104以上900×104以下の範囲であり、より好ましくは10×104以上800×104以下の範囲である。なお、本実施形態における粘度平均分子量は、ポリマー溶液の比粘度から求めた極限粘度を粘度平均分子量に換算した値を指す。具体的には、後述の実施例に記載の方法により粘度平均分子量を求めることができる。
【0017】
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、エチレン単独重合体、及び/又は、エチレンと、エチレンと共重合可能なオレフィン(以下、コモノマーともいう)との共重合体(以下、エチレン重合体ともいう)からなるパウダーであることが好ましい。
【0018】
エチレンと共重合可能なオレフィンとしては、特に限定されないが、具体的には、例えば、炭素数3以上15以下のα-オレフィン、炭素数3以上15以下の環状オレフィン、式CH2=CHR1(ここで、R1は炭素数6~12のアリール基である。)で表される化合物、及び炭素数3以上15以下の直鎖状、分岐状又は環状のジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種のコモノマーが挙げられる。これらの中でも、好ましくは炭素数3以上15以下のα-オレフィンである。
上記α-オレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン等が挙げられる。
本実施形態に用いるエチレン重合体が、コモノマーを含む場合、エチレン重合体中のコモノマー単位の含有量は、好ましくは0.01モル%以上5モル%以下であり、より好ましくは0.01モル%以上2モル%以下であり、更に好ましくは0.01モル%以上1モル%以下である。なお、コモノマー量は分解率抑制の観点から、5モル%以下にすることが好ましい。
【0019】
[粘度平均分子量]
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量(Mv)は、10×104以上1000×104以下であり、好ましくは10×104以上900×104以下であり、より好ましくは10×104以上800×104以下である。
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、粘度平均分子量(Mv)が10×104以上であることにより、強度がより向上し、また、粘度平均分子量(Mv)が1000×104以下であることにより、成形性がより向上する。
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、微多孔膜等の成形体に用いるならば、粘度平均分子量(Mv)が、好ましくは10×104以上300×104未満であり、より好ましくは10×104以上200×104以下である。また、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、高強度繊維等の成形体に用いるならば、粘度平均分子量(Mv)が、好ましくは300×104以上1000×104以下であり、より好ましくは300×104以上800×104以下である。
【0020】
粘度平均分子量(Mv)を上記範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、エチレンを単独重合する際、又は、エチレンと共重合可能なオレフィンとを共重合する際の反応器の重合温度を変化させることが挙げられる。粘度平均分子量(Mv)は、重合温度を高温にするほど低くなる傾向にあり、重合温度を低温にするほど高くなる傾向にある。また、粘度平均分子量(Mv)を上記範囲にする別の方法としては、特に限定されないが、例えば、エチレンを単独重合する際、又は、エチレンと共重合可能なオレフィンとを共重合する際に使用する助触媒としての有機金属化合物種を変更することが挙げられる。更に、粘度平均分子量(Mv)を上記範囲にする別の方法としては、特に限定されないが、例えば、エチレンを単独重合する際、又は、エチレンと共重合可能なオレフィンとを共重合する際に連鎖移動剤を添加することが挙げられる。連鎖移動剤を添加することにより、同一重合温度でも生成する超高分子量ポリエチレンの粘度平均分子量が低くなる傾向にある。
【0021】
[超高分子量ポリエチレンパウダーの膨潤開始温度及び溶解開始温度]
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーの膨潤開始温度と溶解開始温度との差は3℃以上であり、好ましくは4℃以上、より好ましくは5℃以上、さらに好ましくは7℃以上である。膨潤開始温度と溶解開始温度との差の上限は、特に限定されないが、例えば、50℃以下、好ましくは25℃以下、より好ましくは20℃以下である。また、膨潤開始温度と溶解開始温度との差は、3℃以上25℃以下が好ましく、4℃以上20℃以下がより好ましく、5℃以上20℃以下がさらに好ましく、7℃以上20℃以下が特に好ましい。膨潤開始温度と溶解開始温度との差が3℃以上であることで、流動パラフィンに溶解する成形法において、超高分子量ポリエチレンパウダー中に流動パラフィンが含浸するまでの時間を十分に稼ぐことができ、成形加工時に、超高分子量ポリエチレンパウダーが溶解する前に、パウダー中心部まで十分な流動パラフィンが含浸されるため、ダマ(超高分子量ポリエチレンパウダー同士が溶融融着した物)のない均一なゲルを得ることができる。その結果、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、成形加工時に欠点(成形体中の異物(ダマが未溶融の状態で残ったもの等))やメヤニ量を抑制し、厚みムラのない成形体を得ることができる。さらに、膨潤開始温度と溶解開始温度との差が3℃以上であることで、超高分子量ポリエチレンパウダーと流動パラフィンとをラボプラストミルで混練する際に、混練時間を短縮しても均一なゲルを得ることができ、生産性が向上する。また、超高分子量ポリエチレンパウダー中に流動パラフィンが含浸するまでの時間を十分に稼いだことで、分子鎖の絡み合いを解すことができ、得られる成形体は薄膜高強度化することができる。以上から、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、均一なゲルを作製できると共に、そのゲルを用いることで薄膜高強度の成形体を得ることができる。
なお、膨潤開始温度及び溶解開始温度は、下記方法に従って算出する。
[膨潤開始温度及び溶解開始温度の測定方法]
長軸径及び短軸径が120μm以上130μm以下の超高分子量ポリエチレンパウダーを光学顕微鏡で確認しながら任意に1粒採取する。採取した超高分子量ポリエチレンパウダー1粒(以下「測定粒子」とも記す)をカバーガラス上にセットし、測定粒子に対して流動パラフィンを2mLスポイトで1滴垂らした後、さらにカバーガラスを乗せて測定粒子を挟む。その後、測定粒子を挟んだカバーガラスをヒートステージへ乗せ、カメラ付光学顕微鏡で測定粒子を下記昇温条件で室温から150℃まで昇温する過程を観察する。昇温工程において測定粒子の観察画像は6秒毎に撮影し、測定終了後に画像解析ソフトを用いて各観察画像から測定粒子の円相当径を算出し、下記のとおり膨潤開始温度及び溶解開始温度を判断する。
(昇温条件)
室温~35℃までの昇温速度:5℃/分
35℃~80℃の範囲の昇温速度:8℃/分
80℃~150℃の範囲の昇温速度:5℃/分
〔膨潤開始温度〕
測定粒子を撮影した観察画像から画像解析ソフトを用いて測定粒子の円相当径を算出する。80℃の測定粒子の円相当径を基準にして、80℃以上150℃以下の温度範囲において、測定粒子の円相当径が1%以上大きくなった時の最小温度を膨潤開始温度とする。当該測定の3回の平均値を最終的な膨潤開始温度とする。
〔溶解開始温度〕
測定粒子を撮影した観察画像から画像解析ソフトを用いて測定粒子の円相当径を算出し、測定粒子の円相当径が最も大きい値を示した時の測定温度を溶解開始温度とする。当該測定の3回の平均値を最終的な溶解開始温度とする。
【0022】
なお、本実施形態において、超高分子量ポリエチレンパウダーの膨潤開始温度及び溶解開始温度は、測定粒子として、長軸径及び短軸径が120μm以上130μm以下の超高分子量ポリエチレンパウダーの粒子を用いることにより正確に測定することができる。ただし、長軸径及び短軸径が120μm以上130μm以下の超高分子量ポリエチレンパウダーの粒子が存在しない場合等を考慮して、上記膨潤開始温度及び溶解開始温度の測定粒子として、平均粒径(D50)±10μmの範囲内の超高分子量ポリエチレンパウダーの粒子を用いてもよい。平均粒径(D50)±10μmの範囲内の超高分子量ポリエチレンパウダーの粒子であれば、長軸径及び短軸径が120μm以上130μm以下の超高分子量ポリエチレンパウダーの粒子を用いた場合と同等の膨潤開始温度及び溶解開始温度となる傾向にある。
【0023】
[超高分子量ポリエチレンパウダー中に含浸される流動パラフィン含浸率(重量増加率)]
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、下記方法により求められる流動パラフィン含浸率(重量増加率、以下、単に「流動パラフィン含浸率」とも記す。)が、0.5%以上5.0%以下であり、好ましくは1.0%以上4.5%以下、より好ましくは2.0%以上4.5%以下である。本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、流動パラフィン含浸率を0.5%以上に調整することで、超高分子量ポリエチレンパウダーの中心部まで十分な流動パラフィンが含浸されるため、ダマ(超高分子量ポリエチレンパウダー同士が溶融融着した物)のない均一なゲルを得ることができる。その結果、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、成形加工時に欠点やメヤニ量を抑制し、厚みムラのない成形体を得ることができる。また、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、流動パラフィン含浸率を5.0%以下に調整することで、薄膜高強度かつシワのない成形体を得ることができる。これは、超高分子量ポリエチレンパウダー中に含浸される流動パラフィン含浸率が5.0%以下である場合、非晶部の占める割合が低くなり、薄膜高強度化することが容易になるためであると考えられる。また、非晶部の占める割合が低いと流動パラフィンが分散して分子鎖の絡み合いを良好に解くことができ、均一なゲルになるため、製膜延伸時の延伸度合の差が抑制され、その結果シワが発生し難く膜強度向上に繋がると推定される。
つまり、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、パウダー中に含浸される流動パラフィン含浸率を5.0%以下に調整することにより、結晶部と非晶部との割合を最適化し、その結果、薄膜高強度化、かつシワの少ない成形体を得ることができる。
なお、超高分子量ポリエチレンパウダー中に含浸される流動パラフィン含浸率は、下記方法従って求める。
[流動パラフィン含有率(重量増加率)の算出方法]
超高分子量ポリエチレンパウダー10gと流動パラフィン30gとを混合して試料を作成する。作成した試料を金属製容器に入れ、アルミ箔で蓋をし、70℃で3時間放置する。次に、試料を110℃/減圧(-0.1MPa G)下で、5時間減圧乾燥する。その後、試料に対してヘキサン10gを用いた洗浄濾過作業を3回実施した後、24時間以上風乾し、超高分子量ポリエチレンパウダーの重量測定を実施する。元の超高分子量ポリエチレンパウダーの重量(含浸前重量)に対する流動パラフィン含浸後の超高分子量ポリエチレンパウダーの重量(含浸後重量)の増加率から、下記式により流動パラフィン(LP)含有率(重量増加率)を算出する。
流動パラフィン含有率(%)=(含浸後重量-含浸前重量)/含浸前重量×100
【0024】
[達成手段]
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーにおいて、膨潤開始温度と溶解開始温度との差が3℃以上であり、流動パラフィン含浸率を0.5%以上5.0%以下に調整する方法としては、特に限定されないが、例えば、超高分子量ポリエチレンパウダーの中心部と表面の細孔径及び細孔容積との差、結晶部と非晶部との割合の差を可能な限り小さくする方法が挙げられる。このような超高分子量ポリエチレンパウダーを製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、重合最後の触媒活性を上げること、及び乾燥温度と乾燥時間とを調整する方法が考えられる。
重合最後の触媒活性を上げる具体的方法としては、特に限定されないが、例えば、重合最後に反応器内の圧力を高くする方法や、スラリー滞留時間を長くする方法等が挙げられる。
このような方法により膨潤開始温度と溶解開始温度との差、及び流動パラフィン含浸率を制御できるメカニズムは明らかでないが、以下のように推定している。通常、触媒が系内に導入されると反応初期に激しく反応し、その後、反応活性が低下していく。反応初期に生成したポリマー鎖は触媒中心(パウダーの中心)から外へ押し出される。よって、パウダー表面には反応初期に生成したポリマー鎖が存在することになる。反応最後は触媒活性が低下しているので、ポリマーがゆっくりと生成する。そのため、パウダー表面と中心部とではパウダー構造(パウダー表面の細孔大、パウダー中心部の細孔小)及びポリエチレン物性(結晶部と非晶部の割合)が異なる。そこで、重合最後に反応器内の圧力を高くする、又はスラリー滞留時間を長くすることで、パウダー中心部と表面とで構造や物性が均一になるよう調整することができると考えられる。
また、乾燥温度と乾燥時間とを調整する具体的方法としては、特に限定されないが、例えば、以下のような3段階での乾燥が挙げられる。1段階目は、水:メタノール=20:80の混合溶液を乾燥機内に噴霧し、超高分子量ポリエチレンパウダーに含浸させながら、結晶化温度±5℃の高温で全乾燥時間の1/4に相当する時間乾燥し、2段階目は、90℃以上105℃以下の温度で全乾燥時間の2/4に相当する時間乾燥し、3段階目は、60℃以上90℃未満の低温で全乾燥時間の1/4に相当する時間乾燥する方法が挙げられる。このような乾燥条件とすることで、メタノール、水の順に揮発することでポリエチレンパウダーの中心部と表面との細孔径及び細孔容積を調整でき、徐々に温度を下げて低温で一定時間乾燥することでポリエチレンパウダーのアニールを防ぎ、ポリエチレンパウダーの中心部と表面の結晶部と非晶部との割合を調整することができると考えられる。
【0025】
[粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーのBET(Kr)測定した際の細孔比表面積]
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーを、クリプトン吸着によるBET法(以下「BET(Kr)」とも記す)測定した際の細孔比表面積が好ましくは0.10m2/g以上1.50m2/g以下であり、より好ましくは0.10m2/g以上1.40m2/g以下であり、さらに好ましくは0.20m2/g以上1.20m2/g以下である。粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーを、BET(Kr)測定した際の細孔比表面積が0.10m2/g以上であることで、成形加工時に、超高分子量ポリエチレンパウダーが溶解する前に、パウダー中心部まで十分な流動パラフィンが含浸されるため、ダマ(超高分子量ポリエチレンパウダー同士が溶融融着した物)のない均一なゲルを得ることができる傾向にある。その結果、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、成形加工時に欠点やメヤニ量を抑制し、厚みムラのない成形体を得ることができる傾向にある。さらに、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、流動パラフィンとラボプラストミルで混練する際に、混練時間を短縮しても均一なゲルを得ることができ、かつ超高分子量ポリエチレンパウダー中に流動パラフィンが十分含浸しているため、短時間で分子鎖の絡み合いを解すことができ、得られる成形体は薄膜高強度化することができる傾向にある。
また、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーを、BET(Kr)測定した際の細孔比表面積が1.50m2/g以下であることで、高強度な成形体を得る上で影響する結晶部と非晶部との割合を最適化することができる。すなわち、当該細孔比表面積が1.50m2/g以下である場合は、細孔の数が少なく、密なパウダーであるため、非晶部の割合が少なくなり、強度面が向上する傾向にあると考えられる。
本実施形態において、粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーを、BET(Kr)測定した際の細孔比表面積を前記範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、重合最後の触媒活性を上げること、及び乾燥温度と乾燥時間とを調整する方法が考えられる。
重合最後の触媒活性を上げる具体的方法としては、特に限定されないが、例えば、重合最後に反応器内の圧力を高くする方法や、スラリー滞留時間を長くする方法等が挙げられる。
【0026】
[粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーの水銀ポロシメーターで測定した際の細孔容積]
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーを、水銀ポロシメーターで測定した際の細孔容積が、好ましくは0.30mL/g以上1.70mL/g以下であり、より好ましくは0.30mL/g以上1.30mL/g以下であり、更に好ましくは0.40mL/g以上1.20mL/g以下であり、特に好ましくは0.50mL/g以上1.00mL/g以下である。本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーを、水銀ポロシメーターで測定した際の細孔容積が0.30mL/g以上であることで、成形加工時に、超高分子量ポリエチレンパウダーが溶解する前に、パウダー中心部まで十分な流動パラフィンが含浸されるため、ダマ(超高分子量ポリエチレンパウダー同士が溶融融着した物)のない均一なゲルを得ることができ、その結果、成形加工時に欠点やメヤニ量を抑制し、厚みムラのない成形体を得ることができる傾向にある。さらに、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、流動パラフィンとラボプラストミルで混練する際に、混練時間を短縮しても均一なゲルを得ることができ、かつ超高分子量ポリエチレンパウダー中に流動パラフィンが十分含浸しているため、短時間で分子鎖の絡み合いを解すことができ、得られる成形体は薄膜高強度化することができる傾向にある。
また、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーを、水銀ポロシメーターで測定した際の細孔容積が1.70mL/g以下であることで、高強度な成形体を得る上で影響する結晶部と非晶部との割合を最適化することができる。すなわち、当該細孔容積が1.70mL/g以下である場合は、細孔の数が少なく、密なパウダーであるため、非晶部の割合が少なくなり、強度面が向上する傾向にあると考えられる。
本実施形態において、粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーを、水銀ポロシメーターで測定した際の細孔容積を前記範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、重合最後の触媒活性を上げること、及び乾燥温度と乾燥時間とを調整する方法が考えられる。
重合最後の触媒活性を上げる具体的方法としては、特に限定されないが、例えば、重合最後に反応器内の圧力を高くする方法や、スラリー滞留時間を長くする方法等が挙げられる。
【0027】
[粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーの水銀ポロシメーターで測定した際の平均細孔径]
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーを、水銀ポロシメーターで測定した際の平均細孔径が、好ましくは0.10μm以上0.80μm以下であり、より好ましくは0.10μm以上0.50μm以下であり、更に好ましくは0.10μm以上0.45μm以下であり、特に好ましくは0.20μm以上0.40μm以下である。本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーを、水銀ポロシメーターで測定した際の平均細孔径が0.10μm以上であることで、成形加工時に、超高分子量ポリエチレンパウダーが溶解する前に、パウダー中心部まで十分な流動パラフィンが含浸されるため、ダマ(超高分子量ポリエチレンパウダー同士が溶融融着した物)のない均一なゲルを得ることができ、その結果、成形加工時に欠点やメヤニ量を抑制し、厚みムラのない成形体を得ることができる傾向にある。さらに、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、流動パラフィンとラボプラストミルで混練する際に、混練時間を短縮しても均一なゲルを得ることができ、かつ超高分子量ポリエチレンパウダー中に流動パラフィンが十分含浸しているため、短時間で分子鎖の絡み合いを解すことができ、得られる成形体は薄膜高強度化することができる傾向にある。
また、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーを、水銀ポロシメーターで測定した際の平均細孔径が0.80μm以下であることで、高強度な成形体を得る上で影響する結晶部と非晶部との割合を最適化することができる。すなわち、当該平均細孔径が0.80μm以下である場合は、細孔が小さく、密なパウダーであるため、非晶部の割合が少なくなり、強度面が向上する傾向にあると考えられる。
本実施形態において、粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーを、水銀ポロシメーターで測定した際の平均細孔径を前記範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、重合最後の触媒活性を上げること、及び乾燥温度と乾燥時間とを調整する方法が考えられる。
重合最後の触媒活性を上げる具体的方法としては、特に限定されないが、例えば、重合最後に反応器内の圧力を高くする方法や、スラリー滞留時間を長くする方法等が挙げられる。
【0028】
[超高分子量ポリエチレンパウダーの結晶化度]
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーの結晶化度は、好ましくは70%以上82%以下であり、より好ましくは70%以上80%以下であり、更に好ましくは70%以上78%以下であり、特に好ましくは70%以上75%以下である。本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、結晶化度が70%以上であることで、高強度な成形体を得ることができる傾向にある。また、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、結晶化度が82%以下であることで、成形加工し易く、加工性に優れる傾向にある。
本実施形態において、超高分子量ポリエチレンパウダーの結晶化度を前記範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、乾燥温度と乾燥時間とを調整する方法が考えられる。
本実施形態において、結晶化度は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0029】
[粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーが占める割合]
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーの割合が、超高分子量ポリエチレンパウダー全体を100質量%としたときに、好ましくは35質量%以下であり、より好ましくは33質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーの割合の下限は、特に限定されないが、例えば、超高分子量ポリエチレンパウダー全体を100質量%としたときに1質量%である。本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーの割合が35質量%以下であることで、ダマのない均一なゲルを得ることができる。つまり、粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーの割合が35質量%以下であると、超高分子量ポリエチレンパウダーが膨潤する前に微粉同士が溶融融着することを抑制でき、ダマになり難くなる。以上から、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーの割合が35質量%以下に調整することで、成形加工時に欠点やメヤニ量を抑制し、厚みムラのない成形体を得ることができる傾向にある。
本実施形態において、粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーの割合は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0030】
[超高分子量ポリエチレンパウダーの平均粒径(D50)]
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーの平均粒径(D50)は、好ましくは60μm以上140μm以下であり、より好ましくは60μm以上120μm以下であり、更に好ましくは60μm以上115μm以下であり、特に好ましくは60μm以上100μm以下である。本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、平均粒径(D50)が60μm以上であることで、超高分子量ポリエチレンパウダーが膨潤する前に微粉同士が溶融融着し、ダマになるのを抑制することができる傾向にある。その結果、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、成形加工時に欠点やメヤニ量を抑制し、厚みムラのない成形体を得ることができる傾向にある。また、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、平均粒径(D50)が140μm以下であることで、粗粉の膨潤不良を抑制することができる傾向にある。その結果、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、成形加工時に欠点やメヤニ量を抑制し、厚みムラのない成形体を得ることができる傾向にある。
本実施形態において、超高分子量ポリエチレンパウダーの平均粒径(D50)は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0031】
[超高分子量ポリエチレンパウダー中のチタン含有量及びアルミニウム含有量]
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、チタン(Ti)含有量が、好ましくは0.1ppm以上5.0ppm以下であり、より好ましくは0.5ppm以上5.0ppm以下であり、さらに好ましくは1.0ppm以上4.0ppm以下である。また、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、アルミニウム(Al)含有量が、好ましくは0.1ppm以上5.0ppm以下であり、より好ましくは0.1ppm以上4.0ppm以下であり、さらに好ましくは0.1ppm以上3.5ppm以下である。
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、チタン含有量及びアルミニウム含有量をこのような範囲に調整することで、熱安定性により優れ、得られる成形体の長期安定性がより優れる傾向にある。また、加工時に加える酸化防止剤や熱安定剤との反応を抑制でき、有機金属錯体が生成されることによる成形体の着色を抑制できる傾向にある。さらに、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、チタン含有量及びアルミニウム含有量を前記範囲に調整することで、繊維にした際は糸径が均一な糸を得ることができ、また、膜にした際は膜厚が均一な膜を得ることができる。なお、一般的には、超高分子量ポリエチレンパウダー中に残存する触媒残渣由来の金属量が多いことで、成形体の厚みムラの原因になる傾向が強い。なお、超高分子量ポリエチレンパウダー中のTi、Alの含有量は、単位触媒あたりのエチレン単独重合体又はエチレン系重合体の生産性により制御することが可能である。エチレン単独重合体又はエチレン系重合体の生産性は、製造する際の反応器の重合温度や重合圧力やスラリー濃度により制御することが可能である。つまり、本実施形態に用いるエチレン単独重合体又はエチレン系重合体の生産性を高くするには、特に限定されないが、例えば、重合温度を高くする、重合圧力を高くする、及び/又はスラリー濃度を高くすることが挙げられる。他の方法としては、エチレン単独重合体又はエチレン系重合体を重合する際の、助触媒成分の種類の選択や、助触媒成分の濃度を低くすることや、エチレン単独重合体又はエチレン系重合体を酸やアルカリで洗浄することでもアルミニウム量を制御することが可能である。なお、本実施形態において、Ti、Alの含有量の測定は後述の実施例に記載の方法により行うことができる。
【0032】
[超高分子量ポリエチレンパウダーの製造方法]
(触媒成分)
本実施形態に係る超高分子量ポリエチレンパウダーの製造に使用される触媒成分としては特に限定されないが、例えば、一般的なチーグラー・ナッタ触媒が挙げられる。
<チーグラー・ナッタ触媒>
チーグラー・ナッタ触媒としては、固体触媒成分[A]及び有機金属化合物成分[B]からなる触媒であって、固体触媒成分[A]が、下記式1で表される不活性炭化水素溶媒に可溶である有機マグネシウム化合物(A-1)と、下記式2で表されるチタン化合物(A-2)とを反応させることにより製造されるオレフィン重合用触媒であるものが好ましい。
(A-1):(M1)α(Mg)β(R2)a(R3)b(Y1)c ・・・式1
(式中、M1は周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子であり、R2及びR3は炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、Y1はアルコキシ、シロキシ、アリロキシ、アミノ、アミド、-N=C-R4、R5、-SR6(ここで、R4、R5及びR6は炭素数1以上20以下の炭化水素基を表す。cが2の場合には、Y1はそれぞれ異なっていてもよい。)、β-ケト酸残基のいずれかであり、α、β、a、b及びcは次の関係を満たす実数である。0≦α、0<β、0≦a、0≦b、0≦c、0<a+b、0≦c/(α+β)≦2、nα+2β=a+b+c(ここで、nはM1の原子価を表す。))
【0033】
(A-2):Ti(OR7)dX1
(4-d) ・・・式2
(式中、dは0以上4以下の実数であり、R7は炭素数1以上20以下の炭化水素基であり、X1はハロゲン原子である。)
【0034】
なお、(A-1)と(A-2)との反応に使用する不活性炭化水素溶媒としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;及びシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素等が挙げられる。
【0035】
まず、(A-1)について説明する。(A-1)は、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウムの錯化合物の形として示され、ジヒドロカルビルマグネシウム化合物及びこの化合物と他の金属化合物との錯体のすべてを包含するものである。記号α、β、a、b、cの関係式nα+2β=a+b+cは、金属原子の原子価と置換基との化学量論性を示している。
【0036】
式1において、R2及びR3表される炭素数2以上20以下の炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基であり、例えば、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニル基等が挙げられる。このなかでも、好ましくはアルキル基である。α>0の場合、金属原子M1としては、周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子が使用でき、例えば、亜鉛、ホウ素、アルミニウム等が挙げられる。このなかでも、アルミニウム、亜鉛が好ましい。
【0037】
金属原子M1に対するマグネシウムの比β/αには特に限定されないが、0.1以上30以下であることが好ましく、0.5以上10以下であることがより好ましい。また、α=0である所定の有機マグネシウム化合物を用いる場合、例えば、R2が1-メチルプロピル等の場合には不活性炭化水素溶媒に可溶であり、このような化合物も本実施形態に好ましい結果を与える。式1において、α=0の場合のR2、R3は次に示す3つの群(1)、群(2)、群(3)のいずれか1つを満たすものであることが推奨される。
【0038】
群(1):R2、R3の少なくとも一方が炭素原子数4以上6以下である二級又は三級のアルキル基であること、好ましくはR2、R3がともに炭素原子数4以上6以下のアルキル基であり、少なくとも一方が二級又は三級のアルキル基であること。
群(2):R2とR3とが炭素原子数の互いに相異なるアルキル基であること、好ましくはR2が炭素原子数2又は3のアルキル基であり、R3が炭素原子数4以上のアルキル基であること。
群(3):R2、R3の少なくとも一方が炭素原子数6以上の炭化水素基であること、好ましくはR2、R3に含まれる炭素原子数を加算すると12以上になるアルキル基であること。
【0039】
以下これらの基を具体的に示す。群(1)において炭素原子数4以上6以下である二級又は三級のアルキル基としては、具体的には、例えば、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチル、2-メチルブチル、2-エチルプロピル、2,2-ジメチルプロピル、2-メチルペンチル、2-エチルブチル、2,2-ジメチルブチル、2-メチル-2-エチルプロピル基等が挙げられる。このなかでも1-メチルプロピル基が特に好ましい。
【0040】
また、群(2)において炭素原子数2又は3のアルキル基としては、具体的には、例えば、エチル、1-メチルエチル、プロピル基等が挙げられる。このなかでもエチル基が特に好ましい。また、炭素原子数4以上のアルキル基としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等が挙げられる。このなかでも、ブチル、ヘキシル基が特に好ましい。
【0041】
更に、群(3)において炭素原子数6以上の炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、2-ナフチル基等が挙げられる。炭化水素基の中ではアルキル基が好ましく、アルキル基の中でもヘキシル、オクチル基が特に好ましい。
【0042】
一般に、アルキル基に含まれる炭素原子数が増えると不活性炭化水素溶媒に溶けやすくなる傾向にあり、また溶液の粘度が高くなる傾向にある。そのため適度な長鎖のアルキル基を用いることが取り扱い上好ましい。なお、上記有機マグネシウム化合物は不活性炭化水素溶媒で希釈して使用することができるが、該溶液中に微量のエーテル、エステル、アミン等のルイス塩基性化合物が含有され、又は残存していても差し支えなく使用できる。
【0043】
次にY1について説明する。式1においてY1はアルコキシ、シロキシ、アリロキシ、アミノ、アミド、-N=C-R4,R5、-SR6(ここで、R4、R5及びR6はそれぞれ独立に炭素数2以上20以下の炭化水素基を表す。)、β-ケト酸残基のいずれかである。
【0044】
式1においてR4、R5及びR6で表される炭化水素基としては、炭素原子数1以上12以下のアルキル基又はアリール基が好ましく、3以上10以下のアルキル基又はアリール基が特に好ましい。特に限定されないが、例えば、メチル、エチル、プロピル、1-メチルエチル、ブチル、1-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチル、ペンチル、ヘキシル、2-メチルペンチル、2-エチルブチル、2-エチルペンチル、2-エチルヘキシル、2-エチル-4-メチルペンチル、2-プロピルヘプチル、2-エチル-5-メチルオクチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、ナフチル基等が挙げられる。このなかでも、ブチル、1-メチルプロピル、2-メチルペンチル及び2-エチルヘキシル基が特に好ましい。
【0045】
また、式1においてY1はアルコキシ基又はシロキシ基であることが好ましい。アルコキシ基としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、1-メチルエトキシ、ブトキシ、1-メチルプロポキシ、1,1-ジメチルエトキシ、ペントキシ、ヘキソキシ、2-メチルペントキシ、2-エチルブトキシ、2-エチルペントキシ、2-エチルヘキソキシ、2-エチル-4-メチルペントキシ、2-プロピルヘプトキシ、2-エチル-5-メチルオクトキシ、オクトキシ、フェノキシ、ナフトキシ基であることが好ましい。このなかでも、ブトキシ、1-メチルプロポキシ、2-メチルペントキシ及び2-エチルヘキソキシ基であることがより好ましい。シロキシ基としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、ヒドロジメチルシロキシ、エチルヒドロメチルシロキシ、ジエチルヒドロシロキシ、トリメチルシロキシ、エチルジメチルシロキシ、ジエチルメチルシロキシ、トリエチルシロキシ基等が好ましい。このなかでも、ヒドロジメチルシロキシ、エチルヒドロメチルシロキシ、ジエチルヒドロシロキシ、トリメチルシロキシ基がより好ましい。
【0046】
本実施形態において(A-1)の合成方法には特に制限はなく、例えば、式R2MgX1、及び式R2Mg(R2は前述の意味であり、X1はハロゲンである。)からなる群に属する有機マグネシウム化合物と、式M1R3
n及びM1R3
(n-1)H(M1、及びR3は前述の意味であり、nはM1の原子価を表す。)からなる群に属する有機金属化合物とを不活性炭化水素溶媒中、25℃以上150℃以下で反応させ、必要な場合には続いて式Y1-H(Y1は前述の意味である。)で表される化合物を反応させる、又はY1で表される官能基を有する有機マグネシウム化合物及び/又は有機アルミニウム化合物を反応させることにより合成することが可能である。このうち、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物と式Y1-Hで表される化合物とを反応させる場合、反応の順序については特に制限はなく、例えば、有機マグネシウム化合物中に式Y1-Hで表される化合物を加えていく方法、式Y1-Hで表される化合物中に有機マグネシウム化合物を加えていく方法、又は両者を同時に加えていく方法のいずれの方法も用いることができる。
【0047】
本実施形態において、(A-1)における全金属原子に対するY1のモル組成比c/(α+β)は0≦c/(α+β)≦2であり、0≦c/(α+β)<1であることが好ましい。全金属原子に対するY1のモル組成比が2以下であることにより、(A-2)に対する(A-1)の反応性が向上する傾向にある。
【0048】
次に、(A-2)について説明する。(A-2)は式2で表されるチタン化合物である。
(A-2):Ti(OR7)dX1
(4-d) ・・・式2
(式中、dは0以上4以下の実数であり、R7は炭素数1以上20以下の炭化水素基であり、X1はハロゲン原子である。)
【0049】
上記式2において、dは0以上1以下であることが好ましく、0であることが更に好ましい。また、式2においてR7で表される炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、2-エチルヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、アリル基等の脂肪族炭化水素基;シクロヘキシル、2-メチルシクロヘキシル、シクロペンチル基等の脂環式炭化水素基;フェニル、ナフチル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられる。このなかでも、脂肪族炭化水素基が好ましい。X1で表されるハロゲンとしては、例えば、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。このなかでも、塩素が好ましい。本実施形態において、(A-2)は四塩化チタンであることが特に好ましい。本実施形態においては上記から選ばれた化合物を2種以上混合して使用することが可能である。
【0050】
次に、(A-1)と(A-2)との反応について説明する。該反応は、不活性炭化水素溶媒中で行われることが好ましく、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒中で行われることが更に好ましい。該反応における(A-1)と(A-2)とのモル比については特に限定されないが、(A-1)に含まれるMg原子に対する(A-2)に含まれるTi原子のモル比(Ti/Mg)が0.1以上10以下であることが好ましく、0.3以上3以下であることがより好ましい。反応温度については、特に限定されないが、-80℃以上150℃以下の範囲で行うことが好ましく、-40℃以上100℃以下の範囲で行うことが更に好ましい。(A-1)と(A-2)の添加順序には特に制限はなく、(A-1)に続いて(A-2)を加える、(A-2)に続いて(A-1)を加える、(A-1)と(A-2)とを同時に添加する、のいずれの方法も可能であるが、(A-1)と(A-2)とを同時に添加する方法が好ましい。本実施形態においては、上記反応により得られた固体触媒成分[A]は、不活性炭化水素溶媒を用いたスラリー溶液として使用される。
【0051】
本実施形態において使用されるチーグラー・ナッタ触媒成分の他の例としては、固体触媒成分[C]及び有機金属化合物成分[B]からなり、固体触媒成分[C]が、式3で表される不活性炭化水素溶媒に可溶である有機マグネシウム化合物(C-1)と式4で表される塩素化剤(C-2)との反応により調製された担体(C-3)に、式5で表される不活性炭化水素溶媒に可溶である有機マグネシウム化合物(C-4)と式6で表されるチタン化合物(C-5)を担持することにより製造されるオレフィン重合用触媒が好ましい。
【0052】
(C-1):(M2)γ(Mg)δ(R8)e(R9)f(OR10)g ・・・式3
(式中、M2は周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子であり、R8、R9及びR10はそれぞれ炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、γ、δ、e、f及びgは次の関係を満たす実数である。0≦γ、0<δ、0≦e、0≦f、0≦g、0<e+f、0≦g/(γ+δ)≦2、kγ+2δ=e+f+g(ここで、kはM2の原子価を表す。))
【0053】
(C-2):HhSiCliR11
(4-(h+i)) ・・・式4
(式中、R11は炭素数1以上12以下の炭化水素基であり、hとiは次の関係を満たす実数である。0<h、0<i、0<h+i≦4)
【0054】
(C-4):(M1)α(Mg)β(R2)a(R3)bY1
c ・・・式5
(式中、M1は周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子であり、R2及びR3は炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、Y1はアルコキシ、シロキシ、アリロキシ、アミノ、アミド、-N=C-R4,R5、-SR6(ここで、R4、R5及びR6は炭素数1以上20以下の炭化水素基を表す。cが2の場合には、Y1はそれぞれ異なっていてもよい。)、β-ケト酸残基のいずれかであり、α、β、a、b及びcは次の関係を満たす実数である。0≦α、0<β、0≦a、0≦b、0≦c、0<a+b、0≦c/(α+β)≦2、nα+2β=a+b+c(ここで、nはM1の原子価を表す。))
【0055】
(C-5):Ti(OR7)dX1
(4-d) ・・・式6
(式中、dは0以上4以下の実数であり、R7は炭素数1以上20以下の炭化水素基であり、X1はハロゲン原子である。)
【0056】
まず、(C-1)について説明する。(C-1)は、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウムの錯化合物の形として示されているが、ジヒドロカルビルマグネシウム化合物及びこの化合物と他の金属化合物との錯体のすべてを包含するものである。式3の記号γ、δ、e、f及びgの関係式kγ+2δ=e+f+gは金属原子の原子価と置換基との化学量論性を示している。
【0057】
上記式中、R8ないしR9で表される炭化水素基は、特に限定されないが、具体的には、それぞれアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基であり、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニル基等が挙げられる。このなかでも、好ましくはR8及びR9は、それぞれアルキル基である。α>0の場合、金属原子M2としては、周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子が使用でき、例えば、亜鉛、ホウ素、アルミニウム等が挙げられる。このなかでも、アルミニウム、亜鉛が特に好ましい。
【0058】
金属原子M2に対するマグネシウムの比δ/γには特に限定されないが、0.1以上30以下であることが好ましく、0.5以上10以下であることが更に好ましい。また、γ=0である所定の有機マグネシウム化合物を用いる場合、例えば、R8が1-メチルプロピル等の場合には不活性炭化水素溶媒に可溶であり、このような化合物も本実施形態に好ましい結果を与える。式3において、γ=0の場合のR8、R9は次に示す3つの群(1)、群(2)、群(3)のいずれか1つであることが推奨される。
【0059】
群(1):R8、R9の少なくとも一方が炭素数4以上6以下である二級又は三級のアルキル基であること、好ましくはR8、R9がともに炭素数4以上6以下であり、少なくとも一方が二級又は三級のアルキル基であること。
群(2):R8とR9とが炭素数の互いに相異なるアルキル基であること、好ましくはR8が炭素数2又は3のアルキル基であり、R9が炭素数4以上のアルキル基であること。
群(3):R8、R9の少なくとも一方が炭素数6以上の炭化水素基であること、好ましくはR8、R9に含まれる炭素数の和が12以上になるアルキル基であること。
【0060】
以下、これらの基を具体的に示す。群(1)において炭素数4以上6以下である二級又は三級のアルキル基としては、具体的には、例えば、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチル、2-メチルブチル、2-エチルプロピル、2,2-ジメチルプロピル、2-メチルペンチル、2-エチルブチル、2,2-ジメチルブチル、2-メチル-2-エチルプロピル基等が用いられる。このなかでも、1-メチルプロピル基が特に好ましい。
【0061】
また、群(2)において炭素数2又は3のアルキル基としては、例えば、エチル、1-メチルエチル、プロピル基等が挙げられる。このなかでも、エチル基が特に好ましい。また炭素数4以上のアルキル基としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等が挙げられる。このなかでも、ブチル、ヘキシル基が特に好ましい。
【0062】
更に、群(3)において炭素数6以上の炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、2-ナフチル基等が挙げられる。炭化水素基の中ではアルキル基が好ましく、アルキル基の中でもヘキシル、オクチル基が特に好ましい。
【0063】
一般に、アルキル基に含まれる炭素原子数が増えると不活性炭化水素溶媒に溶けやすくなる傾向にあり、溶液の粘度が高くなる傾向にある。そのため、適度な長鎖のアルキル基を用いることが取り扱い上好ましい。なお、上記有機マグネシウム化合物は不活性炭化水素溶液として使用されるが、該溶液中に微量のエーテル、エステル、アミン等のルイス塩基性化合物が含有され、或いは残存していても差し支えなく使用できる。
【0064】
次にアルコキシ基(OR10)について説明する。R10で表される炭化水素基としては、炭素原子数1以上12以下のアルキル基又はアリール基が好ましく、3以上10以下のアルキル基又はアリール基が特に好ましい。R10としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、メチル、エチル、プロピル、1-メチルエチル、ブチル、1-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチル、ペンチル、ヘキシル、2-メチルペンチル、2-エチルブチル、2-エチルペンチル、2-エチルヘキシル、2-エチル-4-メチルペンチル、2-プロピルヘプチル、2-エチル-5-メチルオクチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、ナフチル基等が挙げられる。このなかでも、ブチル、1-メチルプロピル、2-メチルペンチル及び2-エチルヘキシル基が特に好ましい。
【0065】
本実施形態においては、(C-1)の合成方法には特に限定しないが、式R8MgX1及び式R8Mg(R8は前述の意味であり、X1はハロゲン原子である。)からなる群に属する有機マグネシウム化合物と、式M2R9
k及び式M2R9
(k-1)H(M2、R9及びkは前述の意味)からなる群に属する有機金属化合物とを不活性炭化水素溶媒中、25℃以上150℃以下の温度で反応させ、必要な場合には続いてR9(R9は前述の意味である。)で表される炭化水素基を有するアルコール又は不活性炭化水素溶媒に可溶なR9で表される炭化水素基を有するアルコキシマグネシウム化合物、及び/又はアルコキシアルミニウム化合物と反応させる方法が好ましい。
【0066】
このうち、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物とアルコールとを反応させる場合、反応の順序については特に制限はなく、有機マグネシウム化合物中にアルコールを加えていく方法、アルコール中に有機マグネシウム化合物を加えていく方法、又は両者を同時に加えていく方法のいずれの方法も用いることができる。本実施形態において不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物とアルコールとの反応比率については特に限定されないが、反応の結果、得られるアルコキシ基含有有機マグネシウム化合物における、全金属原子に対するアルコキシ基のモル組成比g/(γ+δ)は0≦g/(γ+δ)≦2であり、0≦g/(γ+δ)<1であることが好ましい。
【0067】
次に、(C-2)について説明する。(C-2)は式4で表される、少なくとも一つはSi-H結合を有する塩化珪素化合物である。
【0068】
(C-2):HhSiCliR11
(4-(h+i)) ・・・式4
(式中、R11は炭素数1以上12以下の炭化水素基であり、hとiは次の関係を満たす実数である。0<h、0<i、0<h+i≦4)
【0069】
式4においてR11で表される炭化水素基は、特に限定されないが、具体的には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基であり、例えば、メチル、エチル、プロピル、1-メチルエチル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニル基等が挙げられる。このなかでも、炭素数1以上10以下のアルキル基が好ましく、メチル、エチル、プロピル、1-メチルエチル基等の炭素数1以上3以下のアルキル基が更に好ましい。また、h及びiはh+i≦4の関係を満たす0より大きな数であり、iが2以上3以下であることが好ましい。
【0070】
これらの化合物としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、HSiCl3、HSiCl2CH3、HSiCl2C2H5、HSiCl2(C3H7)、HSiCl2(2-C3H7)、HSiCl2(C4H9)、HSiCl2(C6H5)、HSiCl2(4-Cl-C6H4)、HSiCl2(CH=CH2)、HSiCl2(CH2C6H5)、HSiCl2(1-C10H7)、HSiCl2(CH2CH=CH2)、H2SiCl(CH3)、H2SiCl(C2H5)、HSiCl(CH3)2、HSiCl(C2H5)2、HSiCl(CH3)(2-C3H7)、HSiCl(CH3)(C6H5)、HSiCl(C6H5)2等が挙げられる。これらの化合物又はこれらの化合物から選ばれた2種類以上の混合物からなる塩化珪素化合物が使用される。この中でも、HSiCl3、HSiCl2CH3、HSiCl(CH3)2、HSiCl2(C3H7)が好ましく、HSiCl3、HSiCl2CH3がより好ましい。
【0071】
次に(C-1)と(C-2)との反応について説明する。反応に際しては(C-2)を予め、不活性炭化水素溶媒、1,2-ジクロルエタン、o-ジクロルベンゼン、ジクロルメタン等の塩素化炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系媒体;又はこれらの混合媒体、を用いて希釈した後に利用することが好ましい。このなかでも、触媒の性能上、不活性炭化水素溶媒がより好ましい。(C-1)と(C-2)との反応比率には特に限定されないが、(C-1)に含まれるマグネシウム原子1molに対する(C-2)に含まれる珪素原子が0.01mol以上100mol以下であることが好ましく、0.1mol以上10mol以下であることが更に好ましい。
【0072】
(C-1)と(C-2)との反応方法については特に制限はなく、(C-1)と(C-2)とを同時に反応器に導入しつつ反応させる同時添加の方法、(C-2)を事前に反応器に仕込んだ後に(C-1)を反応器に導入させる方法、又は(C-1)を事前に反応器に仕込んだ後に(C-2)を反応器に導入させる方法のいずれの方法も使用することができる。このなかでも、(C-2)を事前に反応器に仕込んだ後に(C-1)を反応器に導入させる方法が好ましい。上記反応により得られる担体(C-3)は、ろ過又はデカンテーション法により分離した後、不活性炭化水素溶媒を用いて充分に洗浄し、未反応物又は副生成物等を除去することが好ましい。
【0073】
(C-1)と(C-2)との反応温度については特に限定されないが、25℃以上150℃以下であることが好ましく、30℃以上120℃以下であることがより好ましく、40℃以上100℃以下であることが更に好ましい。(C-1)と(C-2)とを同時に反応器に導入しつつ反応させる同時添加の方法においては、あらかじめ反応器の温度を所定温度に調節し、同時添加を行いながら反応器内の温度を所定温度に調節することにより、反応温度を所定温度に調節することが好ましい。(C-2)を事前に反応器に仕込んだ後に(C-1)を反応器に導入させる方法においては、該塩化珪素化合物を仕込んだ反応器の温度を所定温度に調節し、該有機マグネシウム化合物を反応器に導入しながら反応器内の温度を所定温度に調節することにより、反応温度を所定温度に調節することが好ましい。(C-1)を事前に反応器に仕込んだ後に(C-2)を反応器に導入させる方法においては、(C-1)を仕込んだ反応器の温度を所定温度に調節し、(C-2)を反応器に導入しながら反応器内の温度を所定温度に調節することにより、反応温度を所定温度に調節することが好ましい。
【0074】
次に、有機マグネシウム化合物(C-4)について説明する。(C-4)としては、前述の式5(C-4)で表されるものが好ましい。
【0075】
(C-4):(M1)α(Mg)β(R2)a(R3)bY1
c ・・・式5
(式中、M1は周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子であり、R2及びR3は炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、Y1はアルコキシ、シロキシ、アリロキシ、アミノ、アミド、-N=C-R4,R5、-SR6(ここで、R4、R5及びR6は炭素数1以上20以下の炭化水素基を表す。cが2の場合には、Y1はそれぞれ異なっていてもよい。)、β-ケト酸残基のいずれかであり、α、β、a、b及びcは次の関係を満たす実数である。0≦α、0<β、0≦a、0≦b、0<a+b、0≦c/(α+β)≦2、nα+2β=a+b+c(ここで、nはM1の原子価を表す。))
【0076】
(C-4)の使用量は、(C-5)に含まれるチタン原子に対する(C-4)に含まれるマグネシウム原子のモル比で0.1以上10以下であることが好ましく、0.5以上5以下であることがより好ましい。
【0077】
(C-4)と(C-5)との反応の温度については特に限定されないが、-80℃以上150℃以下であることが好ましく、-40℃以上100℃以下の範囲であることがより好ましい。
【0078】
(C-4)の使用時の濃度については特に限定されないが、(C-4)に含まれるチタン原子基準で0.1mol/L以上2mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上1.5mol/L以下であることがより好ましい。なお、(C-4)の希釈には不活性炭化水素溶媒を用いることが好ましい。
【0079】
(C-3)に対する(C-4)と(C-5)の添加順序には特に制限はなく、(C-4)に続いて(C-5)を加える、(C-5)に続いて(C-4)を加える、(C-4)と(C-5)とを同時に添加する、のいずれの方法も可能である。このなかでも、(C-4)と(C-5)とを同時に添加する方法が好ましい。(C-4)と(C-5)との反応は不活性炭化水素溶媒中で行われるが、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒を用いることが好ましい。かくして得られた触媒は、不活性炭化水素溶媒を用いたスラリー溶液として使用される。
【0080】
次に(C-5)について説明する。本実施形態において、(C-5)は前述の式6で表されるチタン化合物である。
【0081】
(C-5):Ti(OR7)dX1
(4-d) ・・・式6
(式中、dは0以上4以下の実数であり、R7は炭素数1以上20以下の炭化水素基であり、X1はハロゲン原子である。)
【0082】
式6においてR7で表される炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、2-エチルヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、アリル基等の脂肪族炭化水素基;シクロヘキシル、2-メチルシクロヘキシル、シクロペンチル基等の脂環式炭化水素基;フェニル、ナフチル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられる。このなかでも、脂肪族炭化水素基が好ましい。X1で表されるハロゲンとしては、特に限定されないが、具体的には、例えば、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。このなかでも、塩素が好ましい。上記から選ばれた(C-5)を、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して使用することが可能である。
【0083】
(C-5)の使用量としては特に限定されないが、担体(C-3)に含まれるマグネシウム原子に対するモル比で0.01以上20以下が好ましく、0.05以上10以下が特に好ましい。
【0084】
(C-5)の反応温度については、特に限定されないが、-80℃以上150℃以下であることが好ましく、-40℃以上100℃以下の範囲であることが更に好ましい。
本実施形態においては、(C-3)に対する(C-5)の担持方法については特に限定されず、(C-3)に対して過剰な(C-5)を反応させる方法や、第三成分を使用することにより(C-5)を効率的に担持する方法を用いてもよいが、(C-5)と有機マグネシウム化合物(C-4)との反応により担持する方法が好ましい。
【0085】
次に、本実施形態に用いる有機金属化合物成分[B]について説明する。本実施形態に用いる固体触媒成分は、有機金属化合物成分[B]と組み合わせることにより、高活性な重合用触媒となる。有機金属化合物成分[B]は「助触媒」と呼ばれることもある。有機金属化合物成分[B]としては、周期律表第1族、第2族、第12族及び第13族からなる群に属する金属を含有する化合物であることが好ましく、特に有機アルミニウム化合物及び/又は有機マグネシウム化合物が好ましい。
【0086】
有機アルミニウム化合物としては、下記式7で表される化合物を単独又は混合して使用することが好ましい。
【0087】
AlR12
jZ1
(3-j) ・・・式7
(式中、R12は炭素数1以上20以下の炭化水素基、Z1は水素、ハロゲン、アルコキシ、アリロキシ、シロキシ基からなる群に属する基であり、jは2以上3以下の数である。)
【0088】
上記の式7において、R12で表される炭素数1以上20以下の炭化水素基は、特に限定されないが、具体的には、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素を包含するものであり、例えばトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリ(2-メチルプロピル)アルミニウム(又は、トリイソブチルアルミニウム)、トリペンチルアルミニウム、トリ(3-メチルブチル)アルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ビス(2-メチルプロピル)アルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド等のハロゲン化アルミニウム化合物、ジエチルアルミニウムエトキシド、ビス(2-メチルプロピル)アルミニウムブトキシド等のアルコキシアルミニウム化合物、ジメチルヒドロシロキシアルミニウムジメチル、エチルメチルヒドロシロキシアルミニウムジエチル、エチルジメチルシロキシアルミニウムジエチル等のシロキシアルミニウム化合物及びこれらの混合物が好ましい。このなかでも、トリアルキルアルミニウム化合物が特に好ましい。
【0089】
有機マグネシウム化合物としては、前述の式3で表される不活性炭化水素溶媒に可溶である有機マグネシウム化合物が好ましい。
【0090】
(M2)γ(Mg)δ(R8)e(R9)f(OR10)g ・・・式3
(式中、M2は周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子であり、R8、R9及びR10はそれぞれ炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、γ、δ、e、f及びgは次の関係を満たす実数である。0≦γ、0<δ、0≦e、0≦f、0≦g、0<e+f、0≦g/(γ+δ)≦2、kγ+2δ=e+f+g(ここで、kはM2の原子価を表す。))
【0091】
この有機マグネシウム化合物は、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウムの錯化合物の形として示されているが、ジアルキルマグネシウム化合物及びこの化合物と他の金属化合物との錯体の全てを包含するものである。γ、δ、e、f、g、M2、R8、R9、OR10についてはすでに述べたとおりであるが、この有機マグネシウム化合物は不活性炭化水素溶媒に対する溶解性が高いほうが好ましいため、δ/γは0.5以上10以下の範囲にあることが好ましく、またM2がアルミニウムである化合物が更に好ましい。
なお、固体触媒成分及び有機金属化合物成分[B]の組み合わせ比率は特に限定されないが、固体触媒成分1gに対し有機金属化合物成分[B]は1mmol以上3,000mmol以下であることが好ましい。
【0092】
(重合条件)
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーの製造方法における重合温度は、通常、30℃以上100℃以下である。重合温度が30℃以上であることにより、工業的により効率的な製造ができる傾向にある。一方、重合温度が100℃以下であることにより、連続的により安定した運転ができる傾向にある。
【0093】
また、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーの製造方法における重合圧力は、通常、常圧以上2MPa以下である。当該重合圧力は、0.1MPa以上が好ましく、より好ましくは0.12MPa以上であり、また、1.5MPa以下が好ましく、より好ましくは1.0MPa以下である。重合圧力が常圧以上であることにより、工業的により効率的な製造ができる傾向にあり、重合圧力が2MPa以下であることにより、触媒導入時の急重合反応による部分的な発熱を抑制することができ、ポリエチレンを安定的に生産できる傾向にある。
【0094】
重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法において行なうことができるが、連続式で重合することが好ましい。エチレンガス、溶媒、触媒等を連続的に重合系内に供給し、生成したポリエチレンと共に連続的に排出することで、急激なエチレンの反応による部分的な高温状態を抑制することが可能となり、重合系内がより安定化する。系内が均一な状態でエチレンが反応すると、ポリマー鎖中に分岐や二重結合等が生成されることが抑制され、ポリエチレンの低分子量化や架橋が起こりにくくなるため、超高分子量ポリエチレンパウダーの溶融、又は溶解時に残存する未溶融物が減少し、着色が抑えられ、機械的物性が低下するといった問題も生じにくくなる。よって、重合系内がより均一となる連続式が好ましい。
【0095】
また、重合を反応条件の異なる2段以上に分けて行なうことも可能である。更に、例えば、西独国特許出願公開第3127133号明細書に記載されているように、得られるポリエチレンの極限粘度は、重合系に水素を存在させるか、又は重合温度を変化させることによって調節することもできる。重合系内に連鎖移動剤として水素を添加することにより、極限粘度を適切な範囲で制御することが可能である。重合系内に水素を添加する場合、水素のモル分率は、0mol%以上30mol%以下であることが好ましく、0mol%以上25mol%以下であることがより好ましく、0mol%以上20mol%以下であることが更に好ましい。なお、本実施形態では、上記のような各成分以外にもポリエチレンの製造に有用な他の公知の成分を含むことができる。
【0096】
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーを重合する際には、重合反応器へのポリマー付着を抑制するため、The Associated Octel Company社製(代理店丸和物産)のStadis450等の静電気防止剤を使用することも可能である。Stadis450は、不活性炭化水素媒体に希釈したものをポンプ等により重合反応器に添加することもできる。この際の添加量は、単位時間当たりのポリエチレンの生産量に対して、0.10ppm以上20ppm以下の範囲で添加することが好ましく、0.20ppm以上10ppm以下の範囲で添加することがより好ましい。
【0097】
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーの製造方法において、重合最後に反応器内の圧力を高くし、かつエチレン導入量を増やすことが好ましい。
通常、触媒が系内に導入されると反応初期に激しく反応し、その後、反応活性が低下していく。反応初期に生成したポリマー鎖は触媒中心(パウダーの中心)から外へ押し出される。よって、パウダー表面には反応初期に生成したポリマー鎖が存在することになる。反応最後は触媒活性が低下しているので、ポリマーがゆっくりと生成する。そのため、パウダー表面と中心部とではパウダー構造(パウダー表面の細孔大、パウダー中心部の細孔小)及びポリエチレン物性(結晶部と非晶部の割合)が異なる。そこで、重合最後に反応器内の圧力を高くする、又はエチレン導入量を増やすことで、パウダー中心部と表面の細孔が共に大きくなるように調整することができると考えられる。
【0098】
また、乾燥温度と乾燥時間とを適宜調整することが好ましい。具体的には、以下のような3段階の乾燥が好ましい。1段階目は、水:メタノール=20:80の混合溶液を乾燥機内に噴霧し、超高分子量ポリエチレンパウダーに含浸させながら、結晶化温度±5℃の高温で全乾燥時間の1/4に相当する時間乾燥することが好ましく、2段階目は、90℃以上105℃以下の温度で全乾燥時間の2/4に相当する時間乾燥することが好ましく、3段階目は、60℃以上90℃未満の低温で全乾燥時間の1/4に相当する時間乾燥することが好ましい。1段階目で、メタノール、水の順に揮発して、超高分子量ポリエチレンパウダーの中心部と表面との細孔径及び細孔容積を調整することができる。また、高温で乾燥し続けると超高分子量ポリエチレンパウダーがアニールし、超高分子量ポリエチレンパウダーの中心部と表面との細孔径及び細孔容積のバランスが崩れてしまうため、1段階目の乾燥時間はで全乾燥時間の1/4に相当する時間が好ましく、2段階目以降で温度を下げることが好ましい。ただし、一気に低温まで下げると超高分子量ポリエチレンパウダーの中心部と表面の結晶部と非晶部との割合のバランスが崩れてしまうため、2段階目のような中間の温度で全乾燥時間の2/4に相当する時間乾燥させ、3段階目で低温で乾燥することが好ましい。
以上のように、各重合条件を調整することで、本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーを得ることができる。
【0099】
[添加剤]
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーには、必要に応じて、スリップ剤、中和剤、酸化防止剤、耐光安定剤、帯電防止剤、顔料等の添加剤を添加することができる。
【0100】
スリップ剤又は中和剤としては、特に限定されないが、例えば、脂肪族炭化水素、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、アルコールの脂肪酸エステル、ワックス、高級脂肪酸アマイド、シリコーン油、ロジン等が挙げられる。スリップ剤又は中和剤の含有量は、特に限定されないが、5000ppm以下であり、好ましくは4000ppm以下、より好ましくは3000ppm以下である。
【0101】
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、フェノール系化合物、若しくはフェノールリン酸系化合物が好ましい。具体的には、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(ジブチルヒドロキシトルエン)、n-オクタデシル-3-(4-ヒドロキ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、テトラキス(メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒサロキシハイドロシンナメート))メタン等のフェノール系酸化防止剤;6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン等のフェノールリン系酸化防止剤;テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレン-ジ-ホスフォナイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-t-ブチルフェニルフォスファイト)等のリン系酸化防止剤が挙げられる。
【0102】
本実施形態に係る超高分子量ポリエチレンパウダーにおいて、酸化防止剤量としては、超高分子量ポリエチレンパウダーと流動パラフィンとの合計を100質量部としたときに、好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは4質量部以下、更に好ましくは3質量部以下、特に好ましくは2質量部以下である。酸化防止剤が5質量部以下であることにより、ポリエチレンの劣化が抑制されて、脆化や変色、機械的物性の低下等が起こりにくくなり、長期安定性により優れるものとなる。
【0103】
耐光安定剤としては、特に限定されないが、例えば、2-(5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系耐光安定剤;ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジン)セバケート、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]等のヒンダードアミン系耐光安定剤が挙げられる。耐光安定剤の含有量は、特に限定されないが、5000ppm以下であり、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは2000ppm以下である。
【0104】
帯電防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アルミノケイ酸塩、カオリン、クレー、天然シリカ、合成シリカ、シリケート類、タルク、珪藻土等や、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0105】
[成形体]
本実施形態の超高分子量ポリエチレンパウダーは、種々の方法により成形することができる。また、本実施形態の成形体は、上述の超高分子量ポリエチレンパウダーを成形して得られる。本実施形態の成形体は種々の用途に用いることができる。本実施形態の成形体の具体例としては、限定されるものではないが、例えば、二次電池セパレーター用微多孔膜、中でも、リチイムイオン二次電池セパレーター用微多孔膜、焼結体、高強度繊維等として好適である。微多孔膜の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、溶剤を用いた湿式法において、Tダイを備え付けた押出し機にて、押出し、延伸、抽出、乾燥を経る加工方法が挙げられる。
また高分子量のエチレン重合体の特性である耐摩耗性、高摺動性、高強度、高衝撃性などの優れた特徴を活かし、上述の超高分子量ポリエチレンパウダーを焼結して得られる成形体(焼結体)にも使用できる。
高強度繊維の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、流動パラフィンと上述の超高分子量ポリエチレンパウダーとを混練紡糸後、加熱延伸することで得る方法が挙げられる。
【実施例】
【0106】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0107】
本願において、実施例及び比較例で使用したエチレン、ヘキサンはMS-3A(昭和ユニオン製)を用いて脱水し、ヘキサンは更に真空ポンプを用いた減圧脱気を行うことにより脱酸素した後に使用した。
【0108】
〔測定方法及び条件〕
実施例及び比較例の超高分子量ポリエチレンパウダーの物性を下記の方法で測定した。
【0109】
(1)粘度平均分子量(Mv)
実施例及び比較例で得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量Mvは、ISO1628-3(2010)に準拠し、以下に示す方法によって求めた。
まず、溶解管に超高分子量ポリエチレンパウダー20mgを秤量し、溶解管を窒素置換した後、20mLのデカヒドロナフタレン(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールを1g/L加えたもの)を加え、150℃で2時間攪拌して超高分子量ポリエチレンパウダーを溶解させた。その溶液を135℃の恒温槽で、キャノン-フェンスケの粘度計(柴田科学器械工業社製:製品番号-100)を用いて、標線間の落下時間(ts)を測定した。同様に、超高分子量ポリエチレンパウダー量を10mg、5mg、2mgに変えたサンプルについても同様に標線間の落下時間(ts)を測定した。ブランクとして超高分子量ポリエチレンパウダーを入れていない、デカヒドロナフタレンのみの落下時間(tb)を測定した。以下の式に従って超高分子量ポリエチレンパウダーの還元粘度(ηsp/C)を求めた。
ηsp/C=(ts/tb-1)/0.1 (単位:dL/g)
濃度(C)(単位:g/dL)と超高分子量ポリエチレンパウダーの還元粘度(ηsp/C)との関係をそれぞれプロットして、最小二乗法により近似直線式を導き、濃度0に外挿して極限粘度([η])を求めた。次に下記数式Aを用いて、上記極限粘度[η]の値から粘度平均分子量(Mv)を算出した。
Mv=(5.34×104)×[η]1.49 (数式A)
【0110】
(2)膨潤開始温度及び溶解開始温度
長軸径及び短軸径が120μm以上130μm以下の超高分子量ポリエチレンパウダーを光学顕微鏡で確認しながら任意に1粒採取した。採取した超高分子量ポリエチレンパウダー1粒(以下「測定粒子」とも記す)をカバーガラス(MARIENFELD社、Deckglaser CoverGlasses24×24mm)上にセットし、測定粒子に対して流動パラフィン((株)松村石油研究所製流動パラフィン(製品名:スモイルP-350P))を2mLスポイトで1滴垂らした後、さらにカバーガラス(松浪硝子工業、TROPHY MICRO COVER GLASS 18×18mm)を乗せて測定粒子を挟んだ。その後、測定粒子を挟んだカバーガラスをヒートステージへ乗せ、カメラ付光学顕微鏡で測定粒子を下記昇温条件で室温から150℃まで昇温する過程を観察した。昇温工程において測定粒子の観察画像は6秒毎に撮影し、測定終了後に画像解析ソフト(旭化成製 A像くんver.2.50)を用いて各観察画像から測定粒子の円相当径を算出し、下記のとおり膨潤開始温度及び溶解開始温度を判断した。
(昇温条件)
35℃~80℃の範囲の昇温速度:8℃/分
80℃~150℃の範囲の昇温速度:5℃/分
なお、室温から35℃までの昇温速度は、5℃/分とした。
〔膨潤開始温度〕
測定粒子を撮影した観察画像から画像解析ソフト(旭化成製 A像くんver.2.50)を用いて測定粒子の円相当径を算出した。80℃の測定粒子の円相当径を基準にして、80℃以上150℃以下の温度範囲において、測定粒子の円相当径が1%以上大きくなった時の最小温度を膨潤開始温度とした。なお、3回測定した平均値を最終的な膨潤開始温度とした。温度毎の測定粒子の円相当径をプロットして、グラフを作成した。
〔溶解開始温度〕
測定粒子を撮影した観察画像から画像解析ソフトを用いて測定粒子の円相当径を算出し、測定粒子の円相当径が最も大きい値を示した時の測定温度を溶解開始温度とした。なお、3回測定した平均値を最終的な溶解開始温度とした。
【0111】
(3)流動パラフィン含浸率(重量増加率)
超高分子量ポリエチレンパウダー10gと流動パラフィン((株)松村石油研究所製流動パラフィン(製品名:スモイルP-350P))30gとを撹拌速度50rpm、3minの条件で混合して試料を作製した。作製した試料を金属製容器に入れ、アルミ箔で蓋をし、70℃で3時間放置した。次に、試料を110℃/減圧(-0.1MPa G)下で、5時間減圧乾燥した。その後、試料に対してヘキサン10gを用いた洗浄濾過作業を3回実施した後、24時間以上風乾し、超高分子量ポリエチレンパウダーの重量測定を実施した。なお、洗浄濾過作業とは、漏斗にろ紙をセットし、ろ紙上に試料を流し込み、その上からヘキサン10gを流し込んで、洗浄濾過を行う作業を言う。元の超高分子量ポリエチレンパウダーの重量(含浸前重量)に対する流動パラフィン含浸後の超高分子量ポリエチレンパウダーの重量(含浸後重量)の増加率から、下記式により流動パラフィン(LP)含浸率(重量増加率)を算出した。
流動パラフィン含浸率(%)=(含浸後重量-含浸前重量)/含浸前重量×100
【0112】
(4)粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダー採取
超高分子量ポリエチレンパウダーを、JIS Z8801規格に準拠した目開き:710μm、500μm、425μm、355μm、300μm、212μm、150μm、106μm、75μm、53μmのスクリーンメッシュで分級した。
分級した超高分子量ポリエチレンパウダーの各分画のうち、粒径75μm未満のパウダーを分取した。
【0113】
(5)BET法で測定した細孔比表面積
上記(4)で採取した粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダー 約1gをガラス管に入れ、約100mTorrの減圧下において70℃の温度で約18時間かけて加熱真空脱気した。その後、粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーについて、多検体高性能比表面積・細孔分布測定装置(商品名:3Flex、マイクロメリティックス社製)により、吸着ガスとしてクリプトンガスを用いて-196℃における吸着等温線を測定し、多点BETプロットから粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーの細孔比表面積(粒径75μm未満;細孔比表面積(m2/g))を求めた。
【0114】
(6)水銀ポロシメーターで測定した細孔容積及び細孔径
水銀ポロシメーターとして島津製作所社製オートポアIV9500型を用いて、上記(4)で採取した粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーの細孔容積(粒径75μm未満;細孔容積(mL/g))及び細孔分布を測定した。得られた細孔分布を基に粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダーの平均細孔径(粒径75μm未満;平均細孔径(μm))を算出した。
なお、前処理として上記(4)で採取した粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダー0.5gを試料セルに入れ低圧測定部で常温脱気乾燥後、水銀を試料容器内に充填した。徐々に加圧して(高圧部)水銀を試料の細孔へ圧入した。
圧力条件は以下のように設定した。
・低圧部:69Pa(0.01psia)N2圧で測定
・高圧部:21~228MPa(3000~33000pisa)
【0115】
(7)X線測定による超高分子量ポリエチレンパウダーの結晶化度
超高分子量ポリエチレンパウダーの結晶化度は、広角X線散乱(WAXS)により下記条件で測定した。
測定には、リガク社製Ultima-IVを用いた。Cu-Kα線を、試料である超高分子量ポリエチレンパウダーに入射し、D/tex Uitraにより回折光を検出した。測定条件は、試料と検出器間との距離が285mm、励起電圧が40kV、電流が40mAの条件であった。光学系には集中光学系を採用し、スリット条件は、DS=1/2°、SS=解放、縦スリット=10mmであった。
【0116】
(8)粒径75μm未満の超高分子量ポリエチレンパウダー粒子の割合
超高分子量ポリエチレンパウダー粒子(以下単に「粒子」とも記す)全体において、粒径75μm未満の粒子の割合(粒径75μm未満の割合)は、JIS Z8801で規定された10種類の篩(目開き:710μm、500μm、425μm、355μm、300μm、212μm、150μm、106μm、75μm、53μm)を用いて、100gの粒子を分級した後、全粒子(超高分子量ポリエチレンパウダー)の重量に対する、目開き75μmの篩を通過した粒子の重量、として求めた。
粒子径75μm未満の粒子の割合(質量%)は、上記にて求められた、目開き75μmの目開を有する篩を通過した粒子の重量から以下の式より算出した。
粒子径75μm未満の粒子の割合(質量%)=[75μmの目開を有する篩を通過した粒子の重量(g)]/[全粒子(超高分子量ポリエチレンパウダー)の重量 100(g)]×100
【0117】
(9)超高分子量ポリエチレンパウダーの平均粒径(D50)
ポリエチレンパウダーの平均粒径は、JIS Z8801で規定された10種類の篩(目開き:710μm、500μm、425μm、355μm、300μm、212μm、150μm、106μm、75μm、53μm)を用いて、100gの粒子を分級した際に得られる各篩に残った粒子の重量を目開きの小さい側から積分した積分曲線において、50%の重量になる粒子径を平均粒径とした。
【0118】
(10)超高分子量ポリエチレンパウダー中のTi、Al含有量
超高分子量ポリエチレンパウダーをマイクロウェーブ分解装置(型式ETHOS TC、マイルストーンゼネラル社製)を用い加圧分解し、内部標準法にて、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置、型式Xシリーズ X7、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、超高分子量ポリエチレンパウダー中の含有金属としてチタン(Ti)、アルミニウム(Al)の元素濃度を測定した。
【0119】
(11)二次電池セパレーター用微多孔膜の製造方法
超高分子量ポリエチレンパウダーを用いて二次電池セパレーター用微多孔膜を以下のとおり製造した。
超高分子量ポリエチレンパウダーと流動パラフィンとの合計を100質量部としたときに、30~40質量部の超高分子量ポリエチレンパウダーと60~70質量部の流動パラフィン((株)松村石油研究所製流動パラフィン(製品名:スモイルP-350P))と、更に1質量部の酸化防止剤(グレートレイクスケミカル日本(株)製テトラキス[メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマート)]メタン(製品名:ANOX20))とを配合してスラリー状液体を調製した。
得られたスラリー状液体は窒素で置換を行った後に、(株)東洋精機社製ラボプラストミル(本体型式:30C150)用二軸押出機(本体型式:2D25S)へ窒素雰囲気下でフィーダーを介して投入し、200℃条件で混練した後、押出機先端に設置したTダイから押出した後、ただちに25℃に冷却したキャストロールで冷却固化させゲル状シートを成形した。
このゲル状シートを120℃で同時二軸延伸機を用いて7×7倍に延伸した後、この延伸フィルムをメチルエチルケトン又はヘキサンに浸漬し、流動パラフィンを抽出除去後、24時間以上真空乾燥した。更に125℃、3分で熱固定し、二次電池セパレーター用微多孔膜を得た。
【0120】
(12)二次電池セパレーター用微多孔膜の製造時のメヤニ量
上記(11)に記載した方法で1時間製膜作業を行った際に、押出機先端に付着するメヤニ量を目視で判断した。
(評価基準)
◎(良い) …メヤニなし
○(普通) …メヤニあり(少ない)
×(悪い) …メヤニあり(多い)
【0121】
(13)二次電池セパレーター用微多孔膜の膜厚ムラ
上記(11)に記載の方法で二次電池セパレーター用微多孔膜を製造し、得られた微多孔膜の膜厚を、東洋精機製の微小測厚器(タイプKBM(登録商標))を用いて室温23℃で測定した。膜1mごとにまんべんなく均等になるように任意の10ヶ所を選び測定し、膜5m合計50カ所を測定し平均膜厚を算出した。平均膜厚は5μm以上20μm以下であった。平均膜厚を基準にして微多孔膜の膜厚ムラを以下のとおり評価した。
(評価基準)
◎は、非常に良かったことを表し、平均膜厚に対して±3μm未満のバラつきであった。
○は、問題なかったことを表し、平均膜厚に対して±3μm以上5μm未満のバラつきであった。
×は、悪かったことを表し、平均膜厚に対して±5μm以上のバラつきであった。
【0122】
(14)二次電池セパレーター用微多孔膜の突刺強度
上記(11)に記載の方法で得たゲル状シートを120℃で同時二軸延伸機を用いて7×7倍に延伸した。得られた延伸膜をカトーテック製品の「KES-G5ハンディー圧縮試験器」(商標)を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/秒の条件で突刺試験を行い、最大突刺荷重(N)を測定した。最大突刺荷重(N)が3.0N以上であれば、強度が十分に優れていることを示す。評価基準は、以下のとおりとした。
(評価基準)
◎(良い):最大突刺荷重(N)が3.5N以上
○(普通):最大突刺荷重(N)が3.0N以上3.5N未満
×(悪い):最大突刺荷重(N)が3.0N未満
【0123】
(15)二次電池セパレーター用微多孔膜のシワの数
上記(11)に記載の方法で得た微多孔膜のシワの数を目視測定した。評価基準は、以下のとおりとした。
(評価基準)
◎(良い):シワの数が30個以下/1000m2
○(普通):シワの数が31個以上50個以下/1000m2
×(悪い):シワの数が51個以上/1000m2
【0124】
(16)高強度繊維の製造方法
超高分子量ポリエチレンパウダーを用いて高強度繊維を以下のとおり製造した。
超高分子量ポリエチレンパウダーと流動パラフィンとの合計を100質量部としたとき、5~10質量部の超高分子量ポリエチレンパウダーと90~95質量部の流動パラフィン((株)松村石油研究所製流動パラフィン(製品名:スモイルP-350P))と、更に1質量部の酸化防止剤(グレートレイクスケミカル日本(株)製テトラキス[メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマート)]メタン(製品名:ANOX20))とを配合して、スラリー状液体を調製した。
次に、スラリー状液体を80℃以上で1時間以上撹拌しながら真空脱気した後に、押出機に導入した。押出機でのスラリー状液体の混練は、窒素雰囲気下で行い、酸素濃度を0.1容量%以下に設定した。
スラリー状液体が導入される押出機は、(株)東洋精機社製ラボプラストミル(本体型式:30C150)用二軸押出機(本体型式:2D25S)を使用し、混練紡糸作業を行った。
また、スラリー状液体が押出機中で混練される温度は、140℃以上320℃以下であり、押出機内での溶融滞留時間としては5分以上30分以下であった。
その後、押出機先端に装着した紡糸口金に通して紡糸した。紡糸口金の温度は140℃以上250℃以下、吐出量は0.5g/分以上2.0g/分以下であり、紡糸口金の孔径は0.3mm以上1.5mm以下で実施した。
【0125】
次に、吐出した流動パラフィンを含む糸を、3~5cmのエアギャップを介して5℃以上15℃以下の水浴中に投入し、急冷しながら巻き取った。巻取速度としては、20m/分以上50m/分以下で実施した。
ついで、該糸から流動パラフィンを除去した。ヘキサン等の溶媒に該糸を浸漬させ、抽出作業を行った後、24時間以上真空乾燥させた。
得られた糸を糸温度が100℃以上140℃以下になるように金属ヒータに接触させ、一次延伸し延伸糸を巻き取った。ついで、該延伸糸を延伸糸が140℃以上160℃以下になるように金属ヒータに接触させ更に二次延伸し、糸が切れる直前まで延伸し、延伸糸を得た。得られた延伸糸(高強度繊維)の糸径の均一性評価等を以下のとおり実施した。
【0126】
(17)高強度繊維の製造時のメヤニ量
上記(16)に記載した方法で1時間紡糸作業を行った際に、紡口近傍に付着するメヤニ量を目視で判断した。
(評価基準)
◎(良い) …メヤニなし
○(普通) …メヤニあり(少ない)
×(悪い) …メヤニあり(多い)
【0127】
(18)高強度繊維の糸径ムラ
上記(16)に記載の方法で紡糸し破断限界まで延伸した糸(高強度繊維)を10本用意し、n=10で平均糸径を算出した。高強度繊維の平均糸径は10μm以上20μm以下であった。平均糸径を基準にして高強度繊維の糸径ムラを以下のとおり評価した。
(評価基準)
◎は、非常に良かったことを表し、平均糸径に対して±5μm未満のバラつきであった。
○は、問題なかったことを表し、平均糸径に対して±5μm以上10μm未満のバラつきであった。
×は、悪かったことを表し、平均糸径に対して±10μm以上のバラつきであった。
【0128】
(19)高強度繊維の引張破断強度
上記(16)に記載の方法で紡糸した糸を10本用意し、n=10で引張破断強度を算出した。引張破断強度の算出方法は下記の通りとした。
破断限界まで延伸した糸を室温で破断するまで引張り、その際に糸にかかった最高荷重値を繊度で割ることで算出した。なお、繊度は糸1×104m当たりの重量であり、単位はdtexで表す。高強度繊維の引張破断強度は、以下の基準で評価した。
(評価基準)
◎(良い) …破断強度30cN/dtex以上
○(普通) …破断強度20cN/dtex以上、30cN/dtex未満
×(悪い) …破断強度20cN/dtex未満
【0129】
〔触媒合成方法〕
[固体触媒成分[A]の調製]
(1)原料(a-1)の合成
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに1mol/LのMg6(C4H9)12Al(C2H5)3のヘキサン溶液2,000mL(マグネシウムとアルミニウムとの合計で2000mmol相当)を仕込み、80℃で攪拌しながら、8.33mol/Lのメチルハイドロジエンポリシロキサン(信越化学工業社製)のヘキサン溶液240mLを圧送し、さらに80℃で2時間かけて攪拌を継続させた。反応終了後、常温まで冷却した反応液を原料(a-1)とした。原料(a-1)はマグネシウムとアルミニウムとの合計濃度で0.786mol/Lであった。
(2)窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブにヘキサン1,600mLを添加し、10℃で攪拌しながら、1mol/Lの四塩化チタンのヘキサン溶液800mLと原料(a-1)800mLとを同時に5時間かけて添加した。10℃で1時間反応を継続させた。反応終了後、得られた反応液の上澄み液を除去し、ヘキサンで4回洗浄することにより、未反応原料成分を除去し、固体触媒成分[A]を調製した。
【0130】
[固体触媒成分[B]の調製]
(1)原料(b-1)の合成
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに1mol/LのMg6(C4H9)12Al(C2H5)3のヘキサン溶液2,000mL(マグネシウムとアルミニウムとの合計で2000mmol相当)を仕込み、50℃で攪拌しながら、5.47mol/Lのn-ブタノールヘキサン溶液146mLを3時間かけて滴下し、滴下終了後ラインを300mLのヘキサンで洗浄した。さらに、50℃で2時間かけて攪拌を継続した。反応終了後、常温まで冷却した反応液を原料(b-1)とした。原料(b-1)はマグネシウムの濃度で0.704mol/Lであった。
(2)原料(b-2)の合成
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに1mol/LのMg6(C4H9)12Al(C2H5)3のヘキサン溶液2,000mL(マグネシウムとアルミニウムとの合計で2000mmol相当)を仕込み、80℃で攪拌しながら、8.33mol/Lのメチルハイドロジエンポリシロキサン(信越化学工業社製)のヘキサン溶液240mLを圧送し、さらに80℃で2時間かけて攪拌を継続させた。反応終了後、常温まで冷却した反応液を原料(b-2)とした。原料(b-2)はマグネシウムとアルミニウムとの合計濃度で0.786mol/Lであった。
(3)(B-1)担体の合成
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに1mol/Lのヒドロキシトリクロロシランのヘキサン溶液1,000mLを仕込み、65℃で原料(b-1)の有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液1340mL(マグネシウム943mmol相当)を3時間かけて滴下し、さらに65℃で1時間攪拌しながら反応を継続させた。反応終了後、得られた反応液の上澄み液を除去し、1,800mLのヘキサンで4回洗浄し、(B-1)担体を得た。この担体を分析した結果、固体1g当たりに含まれるマグネシウムは7.5mmolであった。
(4)上記(B-1)担体110gを含有するヘキサンスラリー1,970mLに10℃で攪拌しながら、1mol/Lの四塩化チタンのヘキサン溶液103mLと原料(b-2)131mLとを同時に3時間かけて添加した。添加後、10℃で1時間反応を継続させた。反応終了後、得られた反応液の上澄み液を除去し、ヘキサンで4回洗浄することにより、未反応原料成分を除去し、固体触媒成分[B]を調製した。
【0131】
[実施例1]
(ポリエチレンの重合工程)
ヘキサン、エチレン、水素及び触媒を、攪拌装置が付いたベッセル型300L重合反応器(1)に連続的に供給した。重合圧力は0.5MPaであった。重合温度はジャケット冷却により83℃に保った。ヘキサンは40L/時間で重合反応器(1)の底部から供給した。触媒として固体触媒成分[A]を使用し、助触媒としてトリイソブチルアルミニウムとジイソブチルアルミニウムハイドライドとの混合物(順に質量比で9:1混合物)を使用した。固体触媒成分[A]は0.2g/時間の速度で重合反応器(1)の液面と底部との中間から添加し、助触媒は10mmol/時間の速度で重合反応器(1)の液面と底部との中間から添加した。ポリエチレンの製造速度は14kg/時間であった。水素を、気相のエチレンに対する水素濃度が11.0mol%になるようにポンプで連続的に供給した。なお、水素は気相部に供給し、エチレンは重合反応器(1)の底部から供給した。触媒活性は50,000g-PE/g-固体触媒成分[A]であった。次に、重合スラリーを重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に圧力0.05MPa、温度83℃のフラッシュドラムに抜き、その後、スラリーポンプで0.8MPa、温度83℃のベッセル型300L重合反応器(2)へ供給し、2段目の重合を行った後、未反応のエチレン及び水素を分離した。触媒活性は70,000g-PE/g-固体触媒成分[A]であった。なお、1段目の重合スラリー滞留時間は1時間で、2段目の重合スラリー滞留時間は4時間であった。
【0132】
次に、重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に遠心分離機に送り、ポリエチレンパウダーとそれ以外の溶媒等を分離した。その時のポリエチレンパウダーに対する溶媒等の含有量は87質量%であった。
【0133】
分離されたポリエチレンパウダーは、以下のとおり3段階に分けて窒素ブローしながら乾燥した。前段乾燥としては、115℃で全乾燥時間の1/4に相当する時間乾燥した。この時、水:メタノール=20:80の混合溶液を乾燥機内に噴霧し、超高分子量ポリエチレンパウダーに含浸させ、触媒及び助触媒を失活させた。中段乾燥としては、80℃で全乾燥時間の1/4に相当する時間乾燥し、後段乾燥としては、95℃で全乾燥時間の2/4に相当する時間乾燥した。なお、全体の乾燥時間は2時間とした。
得られた超高分子量ポリエチレンパウダーに対し、ステアリン酸カルシウム(大日化学社製)を500ppm添加し、ヘンシェルミキサーを用いて、均一混合した。得られた超高分子量ポリエチレンパウダーを目開き425μmの篩を用いて、篩を通過しなかったものを除去することで超高分子量ポリエチレンパウダーを得た。得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量は30×104であった。また、得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの特性を上記の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0134】
(二次電池セパレーター用微多孔膜の製造方法)
得られた超高分子量ポリエチレンパウダーと流動パラフィンとの合計100質量部に対して、超高分子量ポリエチレンパウダーの配合量を40質量部とし、の超高分子量ポリエチレンパウダーと流動パラフィンの配合量を60質量部として上記(11)に記載の方法により二次電池セパレーター用微多孔膜を製造した。得られた微多孔膜の評価結果を表1に示す。
【0135】
[実施例2]
(ポリエチレンの重合工程)
1-ブテンをエチレンに対して0.4mol%気相から導入したこと以外は、実施例1と同様に行って実施例2の超高分子量ポリエチレンパウダーを得た。得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量は30×104であった。また、得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの特性を上記の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0136】
(二次電池セパレーター用微多孔膜の製造方法)
得られた超高分子量ポリエチレンパウダーを用いた以外は実施例1と同様に行って実施例2の微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の評価結果を表1に示す。
【0137】
[実施例3]
(ポリエチレンの重合工程)
触媒として固体触媒成分[B]を使用し、助触媒としてMg6(C4H9)12AL(C2H5)3を使用し、1段目の重合において、温度を70℃とし、圧力を0.4MPaとし、2段目の重合において、温度を70℃とし、圧力を0.7MPaとし、1-ブテンをエチレンに対して0.25mol%の割合で気相から導入し、気相のエチレンに対する水素濃度0.20mol%にしたこと以外は、実施例1と同様に行って実施例3の超高分子量ポリエチレンパウダーを得た。得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量は300×104であった。また、得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの特性を上記の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0138】
(高強度繊維の製造方法)
得られた超高分子量ポリエチレンパウダーと流動パラフィンとの合計100質量部に対して、超高分子量ポリエチレンパウダーの配合量を10質量部とし、流動パラフィンの配合量を90質量部とし、各条件を以下のとおりとして上記(16)に記載の方法により高強度繊維を製造した。得られた高強度繊維の評価結果を表1に示す。
(各条件)
スラリー状液体の撹拌温度:80℃
スラリー状液体の撹拌時間:1時間
押出機中の混練温度:200℃
押出機内の溶融滞留時間:10分
紡糸口金の温度:200℃、
押出機からの糸の吐出量:0.5g/分
紡糸口金の孔径:1.0mm
エアギャップ:4cm
糸を急冷する際の水浴中の温度:5℃
巻取速度:30m/分
真空乾燥時間:24時間
一次延伸で金属ヒータに接触させる際の糸温度:120℃
二次延伸で金属ヒータに接触させる際の糸温度:140℃
【0139】
[実施例4]
(ポリエチレンの重合工程)
触媒として固体触媒成分[B]を使用、助触媒としてMg6(C4H9)12AL(C2H5)3を使用し、1段目の重合において、温度を60℃とし、圧力を0.4MPaとし、2段目の重合において、温度を60℃とし、圧力を0.7MPaとし、気相のエチレンに対する水素濃度0.02mol%にしたこと以外は、実施例1と同様に行って実施例4の超高分子量ポリエチレンパウダーを得た。得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量は660×104であった。また、得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの特性を上記の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0140】
(高強度繊維の製造方法)
得られた超高分子量ポリエチレンパウダーと流動パラフィンとの合計100質量部に対して、超高分子量ポリエチレンパウダーの配合量を5質量部とし、流動パラフィンの配合量を95質量部にしたこと以外は実施例3と同様に行って実施例4の高強度繊維を得た。得られた高強度繊維の評価結果を表1に示す。
【0141】
[実施例5]
(ポリエチレンの重合工程)
1段目の重合スラリー滞留時間を4時間で、2段目の重合スラリー滞留時間を1時間に変更したこと以外は、実施例1と同様に行って実施例5の超高分子量ポリエチレンパウダーを得た。得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量は30×104であった。また、得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの特性を上記の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0142】
(二次電池セパレーター用微多孔膜の製造方法)
得られた超高分子量ポリエチレンパウダーを用いた以外は実施例1と同様に行って実施例5の微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の評価結果を表1に示す。
【0143】
[実施例6]
(ポリエチレンの重合工程)
2段目の重合時の圧力を0.5MPaに変更したこと以外は、実施例1と同様に行って実施例6の超高分子量ポリエチレンパウダーを得た。得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量は30×104であった。また、得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの特性を上記の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0144】
(二次電池セパレーター用微多孔膜の製造方法)
得られた超高分子量ポリエチレンパウダーを用いた以外は実施例1と同様に行って実施例6の微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の評価結果を表1に示す。
【0145】
[実施例7]
(ポリエチレンの重合工程)
1段目の重合スラリー滞留時間を4時間、2段目の重合スラリー滞留時間を1時間とし、前段乾燥温度を90℃に変更したこと以外は、実施例1と同様に行って実施例7の超高分子量ポリエチレンパウダーを得た。得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量は30×104であった。また、得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの特性を上記の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0146】
(二次電池セパレーター用微多孔膜の製造方法)
得られた超高分子量ポリエチレンパウダーを用いた以外は実施例1と同様に行って実施例7の微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の評価結果を表1に示す。
【0147】
[実施例8]
(ポリエチレンの重合工程)
後段乾燥温度を110℃に変更したこと以外は、実施例1と同様に行って実施例8の超高分子量ポリエチレンパウダーを得た。得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量は30×104であった。また、得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの特性を上記の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0148】
(二次電池セパレーター用微多孔膜の製造方法)
得られた超高分子量ポリエチレンパウダーを用いた以外は実施例1と同様に行って実施例8の微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の評価結果を表1に示す。
【0149】
[実施例9]
(ポリエチレンの重合工程)
触媒として固体触媒成分[B]を使用し、助触媒としてMg6(C4H9)12AL(C2H5)3を使用し、1段目の重合において、温度を70℃とし、圧力を0.4MPaとし、2段目の重合において、温度を70℃とし、圧力を0.7MPaとし、気相のエチレンに対する水素濃度0.20mol%にしたこと以外は、実施例1と同様に行って実施例9の超高分子量ポリエチレンパウダーを得た。得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量は300×104であった。また、得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの特性を上記の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0150】
(高強度繊維の製造方法)
得られた超高分子量ポリエチレンパウダーを用いた以外は実施例3と同様の方法により、高強度繊維を製造した。得られた高強度繊維の評価結果を表1に示す。
【0151】
[比較例1]
(ポリエチレンの重合工程)
1段目及び2段目の重合において、温度を85℃とし、気相のエチレンに対する水素濃度30.0mol%にしたこと以外は、実施例1と同様に行って比較例1の超高分子量ポリエチレンパウダー(融着固化)を得た。得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量は3×104であった。また、得られた超高分子量ポリエチレンパウダーは融着固化したため各特性を測定しなかった。
【0152】
(二次電池セパレーター用微多孔膜の製造方法)
得られた超高分子量ポリエチレンパウダーを用いて実施例1と同様の方法で製膜を行ったが、微多孔膜を得ることができなかった。
【0153】
[比較例2]
(ポリエチレンの重合工程)
触媒として固体触媒成分[B]を使用し、助触媒としてMg6(C4H9)12AL(C2H5)3を使用し、1段目の重合において、温度を50℃とし、圧力を0.3MPaとし、2段目の重合において、温度を50℃とし、圧力を0.6MPaとし、気相のエチレンに対する水素濃度0.005mol%にしたこと以外は、実施例1と同様に行って比較例2の超高分子量ポリエチレンパウダーを得た。得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量は1200×104であった。また、得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの特性を上記の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0154】
(二次電池セパレーター用微多孔膜の製造方法)
得られた超高分子量ポリエチレンパウダーを用いた以外は実施例1と同様に行って比較例2の微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の評価結果を表1に示す。
【0155】
[比較例3]
(ポリエチレンの重合工程)
ヘキサン、エチレン、水素及び触媒を、攪拌装置が付いたベッセル型300L重合反応器(1)に連続的に供給した。重合圧力は0.5MPaであった。重合温度はジャケット冷却により83℃に保った。ヘキサンは40L/時間で重合反応器(1)の底部から供給した。触媒として固体触媒成分[A]を使用し、助触媒としてトリイソブチルアルミニウムとジイソブチルアルミニウムハイドライドとの混合物(順に質量比で9:1混合物)を使用した。固体触媒成分[A]は0.2g/時間の速度で重合反応器(1)の液面と底部との中間から添加し、助触媒は10mmol/時間の速度で重合反応器(1)の液面と底部との中間から添加した。ポリエチレンの製造速度は14kg/時間であった。水素を、気相のエチレンに対する水素濃度が11.0mol%になるようにポンプで連続的に供給した。なお、水素は気相部に供給し、エチレンは重合反応器(1)の底部から供給した。触媒活性は50,000g-PE/g-固体触媒成分[A]であった。次に、重合スラリーを重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に圧力0.05MPa、温度83℃のフラッシュドラムに抜き、その後、スラリーポンプで0.5MPa、温度83℃のベッセル型300L重合反応器(2)へ供給し、2段目の重合を行った後、未反応のエチレン及び水素を分離した。触媒活性は50,000g-PE/g-固体触媒成分[A]であった。なお、1段目の重合スラリー滞留時間は1時間で、2段目の重合スラリー滞留時間は4時間であった。
【0156】
次に、重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に遠心分離機に送り、ポリエチレンパウダーとそれ以外の溶媒等を分離した。その時のポリエチレンパウダーに対する溶媒等の含有量は87質量%であった。
【0157】
分離されたポリエチレンパウダーは、以下のとおり3段階に分けて窒素ブローしながら乾燥した。前段乾燥としては、90℃で全乾燥時間の1/4に相当する時間乾燥した。その際、乾燥機内に水を噴霧して触媒及び助触媒を失活させた。中段乾燥としては、100℃で全乾燥時間の1/4に相当する時間乾燥し、後段乾燥としては、110℃で全乾燥時間の2/4に相当する時間乾燥した。なお、全体の乾燥時間は2時間とした。
得られた超高分子量ポリエチレンパウダーに対し、ステアリン酸カルシウム(大日化学社製)を500ppm添加し、ヘンシェルミキサーを用いて、均一混合した。得られた超高分子量ポリエチレンパウダーを目開き425μmの篩を用いて、篩を通過しなかったものを除去することで超高分子量ポリエチレンパウダー得た。得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量は30×104であった。また、得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの特性を上記の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0158】
(二次電池セパレーター用微多孔膜の製造方法)
得られた超高分子量ポリエチレンパウダーを用いた以外は実施例1と同様に行って比較例3の微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の評価結果を表1に示す。
【0159】
[比較例4]
(ポリエチレンの重合工程)
ヘキサン、エチレン、水素及び触媒を、攪拌装置が付いたベッセル型300L重合反応器(1)に連続的に供給した。重合圧力は0.5MPaであった。重合温度はジャケット冷却により83℃に保った。ヘキサンは40L/時間で重合反応器(1)の底部から供給した。触媒として固体触媒成分[A]を使用し、助触媒としてトリイソブチルアルミニウムとジイソブチルアルミニウムハイドライドとの混合物(順に質量比で9:1混合物)を使用した。固体触媒成分[A]は0.2g/時間の速度で重合反応器(1)の液面と底部との中間から添加し、助触媒は10mmol/時間の速度で重合反応器(1)の液面と底部との中間から添加した。ポリエチレンの製造速度は14kg/時間であった。水素を、気相のエチレンに対する水素濃度が11.0mol%になるようにポンプで連続的に供給した。なお、水素は気相部に供給し、エチレンは重合反応器(1)の底部から供給した。触媒活性は50,000g-PE/g-固体触媒成分[A]であった。次に、重合スラリーを重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に圧力0.05MPa、温度83℃のフラッシュドラムに抜き、未反応のエチレン及び水素を分離した。
【0160】
次に、重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に遠心分離機に送り、ポリエチレンパウダーとそれ以外の溶媒等を分離した。その時のポリエチレンパウダーに対する溶媒等の含有量は87質量%であった。
【0161】
分離されたポリエチレンパウダーは、以下のとおり3段階に分けて窒素ブローしながら乾燥した。前段乾燥としては、90℃で全乾燥時間の1/4に相当する時間乾燥した。その際、乾燥機内に水を噴霧して触媒及び助触媒を失活させた。中段乾燥としては、100℃で全乾燥時間の1/4に相当する時間乾燥し、後段乾燥としては、120℃で全乾燥時間の2/4に相当する時間乾燥した。なお、全体の乾燥時間は2時間とした。得られた超高分子量ポリエチレンパウダーに対し、ステアリン酸カルシウム(大日化学社製)を500ppm添加し、ヘンシェルミキサーを用いて、均一混合した。得られた超高分子量ポリエチレンパウダーを目開き425μmの篩を用いて、篩を通過しなかったものを除去することで超高分子量ポリエチレンパウダーを得た。得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量は30×104であった。また、得られた超高分子量ポリエチレンパウダーの特性を上記の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0162】
(二次電池セパレーター用微多孔膜の製造方法)
得られた超高分子量ポリエチレンパウダーを用いた以外は実施例1と同様に行って比較例4の微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の評価結果を表1に示す。
【0163】
【0164】
本出願は、2020年3月23日出願の日本特許出願(特願2020-051302号)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明の超高分子量ポリエチレンパウダーは、溶剤への溶解性に優れる均一なゲルを作り出すことができ、パウダー中の気泡も抜けやすいため、加工性に優れるポリエチレンパウダーを得ることができる。その結果、本発明の超高分子量ポリエチレンパウダーは、例えば、均一性に優れた、成形体、延伸成形体、微多孔膜、及び繊維を提供することができ、産業上の利用可能性を有する。