IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社キャタラーの特許一覧

<>
  • 特許-排ガス浄化用触媒 図1
  • 特許-排ガス浄化用触媒 図2
  • 特許-排ガス浄化用触媒 図3
  • 特許-排ガス浄化用触媒 図4
  • 特許-排ガス浄化用触媒 図5
  • 特許-排ガス浄化用触媒 図6
  • 特許-排ガス浄化用触媒 図7
  • 特許-排ガス浄化用触媒 図8
  • 特許-排ガス浄化用触媒 図9
  • 特許-排ガス浄化用触媒 図10
  • 特許-排ガス浄化用触媒 図11
  • 特許-排ガス浄化用触媒 図12
  • 特許-排ガス浄化用触媒 図13
  • 特許-排ガス浄化用触媒 図14
  • 特許-排ガス浄化用触媒 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20230905BHJP
   B01J 23/83 20060101ALI20230905BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20230905BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20230905BHJP
   B01J 23/75 20060101ALI20230905BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20230905BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
B01J23/63 M ZAB
B01J23/83 M
B01J23/89 M
B01J23/755 M
B01J23/75 M
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/10 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022561914
(86)(22)【出願日】2021-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2021041017
(87)【国際公開番号】W WO2022102582
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2020187482
(32)【優先日】2020-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】高須 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】尾上 亮太
(72)【発明者】
【氏名】平尾 哲大
(72)【発明者】
【氏名】戸田 陽介
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/128786(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/001765(WO,A1)
【文献】特表2013-500149(JP,A)
【文献】特開2010-005587(JP,A)
【文献】特開昭53-070216(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154685(WO,A1)
【文献】特開2009-082880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/76
B01D 53/86 - 53/90
B01D 53/94 - 53/96
F01N 3/10 - 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気経路に配置され、前記内燃機関から排出される排ガス中の未燃成分を浄化する排ガス浄化用触媒であって、
基材と、
前記基材の上に設けられ、前記排ガス中の前記未燃成分をHに変換する水素生成触媒を含む改質反応層と、
前記改質反応層の上に設けられ、前記未燃成分を浄化する貴金属を含む触媒層と、
を備え、
前記水素生成触媒は、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化コバルトおよび酸化ニッケルのうちの少なくとも1つであり、
前記改質反応層における前記水素生成触媒の含有量が、前記基材の単位体積あたり、5g/L以上であり、
前記触媒層は、前記基材の排ガス流入側の端部から延伸方向に沿って、前記改質反応層よりも長く設けられている、
排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記改質反応層が、酸素吸蔵能を有するOSC材をさらに含む、
請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記改質反応層において、前記水素生成触媒の含有量に対する前記OSC材の含有量の比が、0.5~10である、
請求項2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記水素生成触媒の含有量が、20g/L以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記改質反応層が、貴金属を含まない、
請求項1~のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記触媒層が、
前記貴金属として酸化触媒を含む第1触媒層と、
前記第1触媒層の上に設けられ、前記貴金属としてRhを含む第2触媒層と、
を備える、
請求項1~のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項7】
前記改質反応層が、前記基材の排ガス流入側の端部から延伸方向に沿って、前記基材よりも短く設けられ、
前記触媒層が、前記基材と同じ長さで設けられている、
請求項1~のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項8】
前記触媒層が、最表層を構成している、
請求項1~のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項9】
前記改質反応層のコート量が、前記基材の体積1Lあたり、50g/L以上100g/L以下である、
請求項1~のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項10】
前記水素生成触媒が、前記酸化プラセオジムおよび前記酸化ネオジムのうちの少なくとも1つである、
請求項1~のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関する。特には、窒化酸化物(NOx)を含む排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒に関する。本願は2020年11月10日に出願された日本国特許出願第2020-187482号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
車両等の内燃機関から排出される排ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等の未燃成分(有害成分)が含まれる。これら未燃成分を排ガス中から効率よく反応・除去するために、従来から排ガス浄化用触媒が利用されている。典型的な排ガス浄化用触媒は、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)等の貴金属を含む触媒層を備えている。排ガスに含まれるNOxは、触媒層によって還元され、窒素に変換される。排ガス浄化用触媒に関連する従来技術文献として、特許文献1~4が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-282697号公報
【文献】特開2005-185966号公報
【文献】特開2011-183319号公報
【文献】国際公開2020/128786号
【発明の概要】
【0004】
ところで近年、欧州のRDE(Real Driving Emission)規制に代表されるように、例えば車両が急な加速や減速を行って、排ガスの空燃比(A/F;Air/fuel ratio)の制御がストイキ状態(A/F=14.5)から多少変動したとしても、排ガスを適切に浄化することが求められている。しかし、本発明者らの検討によれば、図14に示すように、排ガスの空燃比が酸素過剰のリーン雰囲気(14.5<A/F)にある状態では、貴金属が十分なNOx浄化性能を発揮できず、NOxの浄化率が低くなる。このため、リーン雰囲気においても、NOx浄化性能を向上することが望まれている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、リーン雰囲気でのNOx浄化性能が向上した新規な排ガス浄化用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らの検討によれば、リーン雰囲気では、通常、触媒層中の貴金属が酸化物の状態にある。しかし、貴金属は、酸化物の状態では活性が低く、排ガスを浄化する機能を十分に発揮できない。そのため、本発明者らは、強力な還元剤として知られる水素を利用して貴金属を還元し、速やかにメタル化することによって、排ガス中の未燃成分の酸化反応速度を向上させることを考えた。そして、さらなる鋭意検討を重ね、本発明を創出するに至った。
【0007】
本発明により、内燃機関の排気経路に配置され、上記内燃機関から排出される排ガス中の未燃成分を浄化する排ガス浄化用触媒であって、基材と、上記基材の上に設けられ、上記排ガス中の上記未燃成分をHに変換する水素生成触媒として、希土類酸化物および遷移金属酸化物(ただしRh,Ru以外の貴金属を除く)のうちの少なくとも1つを含む改質反応層と、上記未燃成分を浄化する貴金属を含む触媒層と、を備え、上記改質反応層における上記水素生成触媒の含有量が、上記基材の単位体積あたり、5g/L以上である、排ガス浄化用触媒が提供される。
【0008】
上記排ガス浄化用触媒は、水素生成触媒を含む改質反応層を備えている。改質反応層では、排ガス中の未燃成分(例えば、HCやCO)を、反応性の高い水素分子(H)に変換することができる。また、Hによって貴金属を酸化物の状態から活性の高い金属の状態へと還元することができる。さらに、改質反応層がRh,Ru以外の貴金属を含まないことで、酸化反応による排ガスの浄化反応との競合を避け、上記Hへの変換反応を促進することができる。その結果、上記排ガス浄化用触媒では、排ガスの酸化反応速度を高めることができ、リーン雰囲気でのNOx浄化性能を向上することができる。したがって、例えば車両の走行条件等によって排ガスの空燃比が多少変動したときにも、安定して優れたNOx浄化性能を発揮することができる。
【0009】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい一態様では、上記改質反応層が、酸素吸蔵能を有するOSC材をさらに含む。水素生成触媒とOSC材との相乗効果によって、改質反応層における未燃成分のHへの変換を促進することができる。したがって、NOx浄化性能をさらに向上することができる。
【0010】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい一態様では、上記改質反応層において、上記水素生成触媒の含有量に対する上記OSC材の含有量の比が、0.5~10である。これにより、未燃成分のHへの変換をより適切に促進すると共に、改質反応層のコート量を抑えて、圧損やコストを低減することができる。
【0011】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい一態様では、上記水素生成触媒の含有量が、20g/L以下である。これにより、リーン雰囲気でのNOx浄化性能と優れた低温活性とを兼ね備えることができる。
【0012】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい一態様では、上記水素生成触媒が、Pr,Nd,Co,Niのうちの少なくとも1つを含む。これにより、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮することができる。
【0013】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい一態様では、上記改質反応層が、貴金属を含まない。これにより、価格の高騰が進む貴金属の使用量を低減して、低コスト化を実現することができる。
【0014】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい一態様では、上記触媒層が、上記改質反応層の上に設けられている。これにより、改質反応層で発生したHによって過剰に還元された物質(例えば、NOxが還元され生成されるアンモニア)が、再酸化されずに排ガス浄化用触媒から排出されることを抑制することができる。また、排ガスを改質反応層よりも先に触媒層と接触させることができ、改質反応層の耐久性を向上することができる。
【0015】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい一態様では、上記触媒層が、上記貴金属として酸化触媒を含む第1触媒層と、上記第1触媒層の上に設けられ、上記貴金属としてRhを含む第2触媒層と、を備える。このような構成により、次のうちの少なくとも1つの効果:(1)水素生成触媒の劣化を抑えると共に、水素生成触媒の使用に伴うRhの酸化を抑制して、ここに開示される技術の効果を長期にわたって発揮する;(2)水素生成触媒により発生したHを使用し、NOxを還元してNとHOに浄化したり、酸化物の状態の貴金属をメタル化したりする;を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、一実施形態に係る排ガス浄化システムを示す模式図である。
図2図2は、図1の排ガス浄化用触媒を模式的に示す斜視図である。
図3図3は、図2の排ガス浄化用触媒を筒軸方向に切断した断面図である。
図4図4は、試験例1の、空燃比(A/F)とNOx浄化率との関係を示すグラフである。
図5図5は、試験例1の、リーン雰囲気でのNOx浄化率を比較したグラフである。
図6図6は、試験例2の、空燃比(A/F)とNOx浄化率との関係を示すグラフである。
図7図7は、試験例2の、リーン雰囲気でのNOx浄化率を比較したグラフである。
図8図8は、試験例3の、空燃比(A/F)とNOx浄化率との関係を示すグラフである。
図9図9は、試験例3の、酸化ニッケルの含有量とNOx T50のA/Fとの関係を示すグラフである。
図10図10は、試験例2の例4と試験例3の例6とを比較したグラフである。
図11図11は、試験例3の、酸化ニッケルの含有量とNOx T50との関係を示すグラフである。
図12図12は、試験例4の、空燃比(A/F)とNOx浄化率との関係を示すグラフである。
図13図13は、試験例4の、リーン雰囲気でのNOx浄化率を比較したグラフである。
図14図14は、空燃比(A/F)と未燃成分(CO,HC,NOx)の浄化率との関係を示すグラフである。
図15図15は、試験例3の、空燃比(A/F)が14.6でのNOx浄化率を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は、実際の寸法関係を必ずしも反映するものではない。また、本明細書において範囲を示す「A~B」(A,Bは任意の数値)の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含する。
【0018】
≪排ガス浄化システム≫
【0019】
図1は、排ガス浄化システム1の模式図である。排ガス浄化システム1は、内燃機関(エンジン)2と、排ガス浄化装置3と、エンジンコントロールユニット(Engine Control Unit:ECU)7と、を備えている。排ガス浄化システム1は、内燃機関2から排出される排ガスに含まれる未燃成分、例えば、HC、CO、NOx等を、排ガス浄化装置3で浄化するように構成されている。なお、図1の矢印は、排ガスの流動方向を示している。また、以下の説明では、排ガスの流れに沿って内燃機関2に近い側を上流側、内燃機関2から遠い側を下流側という。
【0020】
内燃機関2は、ここではガソリン車両のガソリンエンジンを主体として構成されている。ただし、内燃機関2は、ガソリン以外のエンジン、例えばディーゼルエンジンやハイブリッド車に搭載されるエンジン等であってもよい。内燃機関2は、燃焼室(図示せず)を備えている。燃焼室は、燃料タンク(図示せず)に接続されている。燃料タンクには、ここではガソリンが貯留されている。ただし、燃料タンクに貯留される燃料は、ディーゼル燃料(軽油)等であってもよい。燃焼室では、燃料タンクから供給された燃料が酸素と混合され、燃焼される。これにより、燃焼エネルギーが力学的エネルギーへと変換される。燃焼室は、排気ポート2aに連通している。排気ポート2aは、排ガス浄化装置3に連通している。燃焼された燃料ガスは、排ガスとなって排ガス浄化装置3に排出される。排ガスは、未燃成分(有害成分)を含んでいる。
【0021】
排ガス浄化装置3は、内燃機関2と連通する排気経路4と、酸素センサ8と、第1触媒10と、第2触媒9と、を備えている。排気経路4は、排ガスが流動する排ガス流路である。排気経路4は、ここではエキゾーストマニホールド5と排気管6とを備えている。エキゾーストマニホールド5の上流側の端部は、内燃機関2の排気ポート2aに連結されている。エキゾーストマニホールド5の下流側の端部は、排気管6に連結されている。排気管6の途中には、上流側から順に、第1触媒10と第2触媒9とが配置されている。ただし、第1触媒10と第2触媒9との配置は任意に可変であってよい。また、第1触媒10と第2触媒9との個数は特に限定されず、それぞれ複数個が設けられてもよい。また、第2触媒9は必須ではなく、他の実施形態において省略することもできる。
【0022】
第1触媒10は、ここでは排ガスと最初に接触する触媒である。詳しくは後述するが、第1触媒10は、Hを生成するとともに、排ガス中の未燃成分を浄化する機能を有する。第1触媒10は、ここに開示される「排ガス浄化用触媒」の一例である。なお、以下では、第1触媒10を「排ガス浄化用触媒」ということがある。第1触媒(排ガス浄化用触媒)10の構成については、後に詳述する。第2触媒9は、従来と同様でよく、特に限定されない。第2触媒9は、例えば、排ガスに含まれるHC、CO、NOxを同時に浄化する3元触媒;排ガスに含まれるPMを除去するガソリンパティキュレートフィルタ(GPF:Gasoline Particulate Filter);等であってもよい。
【0023】
なお、第1触媒10の上流側には、第1触媒10および第2触媒9とは異なる構成の触媒、例えば、排ガスに含まれるPMを除去するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter);排ガスに含まれるHCやCOを浄化するディーゼル酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst);通常運転時に(リーン条件下で)NOxを吸蔵し、燃料を多めに噴射した時に(リッチ雰囲気で)HC、COを還元剤としてNOxを浄化するNOx吸着還元(NSR:NOx Storage-Reduction)触媒;等がさらに配置されていてもよい。
【0024】
ECU7は、内燃機関2と排ガス浄化装置3とを制御する。ECU7は、内燃機関2と、排ガス浄化装置3の各部位に設置されているセンサ(例えば、酸素センサ8や、図示しない温度センサや圧力センサ等)とに、電気的に接続されている。なお、ECU7の構成については従来と同様でよく、特に限定されない。ECU7は、例えばプロセッサや集積回路である。ECU7は、入力ポート(図示せず)と出力ポート(図示せず)とを備えている。ECU7は、例えば、車両の運転状態や、内燃機関2から排出される排ガスの量、温度、圧力等の情報を受信する。ECU7は、センサで検知された情報(例えば、酸素センサ8で計測された酸素量)を、入力ポートを介して受信する。ECU7は、例えば受信した情報に基づいて、出力ポートを介して制御信号を送信する。ECU7は、内燃機関2の燃料噴射制御や点火制御、吸入空気量調節制御等の運転を制御する。ECU7は、例えば排ガスの空燃比(A/F)がストイキ状態となるように、内燃機関2の運転を制御する。ECU7は、例えば内燃機関2の運転状態や内燃機関2から排出される排ガスの量等に基づいて、排ガス浄化装置3の駆動と停止とを制御する。
【0025】
≪排ガス浄化用触媒≫
図2は、排ガス浄化用触媒10を模式的に示す斜視図である。図3は、排ガス浄化用触媒10を筒軸方向Xに沿って切断した断面を模式的に示す断面図である。なお、図2図3中の矢印は、排ガスの流動方向を示している。図2図3では、相対的に内燃機関2に近い排気経路4の上流側が左側に表され、相対的に内燃機関2から遠い排気経路の下流側が右側に表されている。また、符号Xは、排ガス浄化用触媒10の筒軸方向を表している。排ガス浄化用触媒10は、筒軸方向Xが排ガスの流動方向に沿うように排気経路4に設置されている。以下では、筒軸方向Xのうち、一の方向X1を上流側(排ガス流入側、フロント側ともいう。)といい、他の方向X2を下流側(排ガス流出側、リア側ともいう。)ということがある。ただし、これは説明の便宜上の方向に過ぎず、排ガス浄化用触媒10の設置形態を何ら限定するものではない。また、本明細書において、「含有量」とは、基材の単位体積(1L)あたりの質量をいう。
【0026】
排ガス浄化用触媒10は、Hを生成するとともに、排ガス中の未燃成分を浄化する機能を有する。排ガス浄化用触媒10の一の方向X1の端部は排ガスの流入口10aであり、他の方向X2の端部は排ガスの流出口10bである。排ガス浄化用触媒10の外形は、ここでは円筒形状である。ただし、排ガス浄化用触媒10の外形は特に限定されず、例えば、楕円筒形状、多角筒形状、パイプ状、フォーム状、ペレット形状、繊維状等であってもよい。排ガス浄化用触媒10は、ストレートフロー構造の基材11と、改質反応層20(図3参照)と、触媒層30(図3参照)と、を備えている。
【0027】
基材11は、排ガス浄化用触媒10の骨組みを構成するものである。基材11としては特に限定されず、従来のこの種の用途に用いられる種々の素材および形態のものが使用可能である。基材11は、例えば、コージェライト、チタン酸アルミニウム、炭化ケイ素等のセラミックスで構成されるセラミックス担体であってもよいし、ステンレス鋼(SUS)、Fe-Cr-Al系合金、Ni-Cr-Al系合金等で構成されるメタル担体であってもよい。図2に示すように、基材11は、ここではハニカム構造を有している。基材11は、筒軸方向Xに規則的に配列された複数のセル(空洞)12と、複数のセル12を仕切る隔壁(リブ)14と、を備えている。特に限定されるものではないが、基材11の筒軸方向Xに沿う長さ(平均長さ)Lは、概ね10~500mm、例えば50~300mmであってもよい。また、基材11の体積は、概ね0.1~10L、例えば0.5~5Lであってもよい。なお、本明細書において、「基材の体積」とは、基材11自体の体積(純体積)に加えて、内部のセル12の容積を含んだ見掛けの体積(嵩容積)をいう。
【0028】
セル12は、排ガスの流路である。セル12は、筒軸方向Xに延びている。セル12は、基材11を筒軸方向Xに貫通する貫通孔である。セル12の形状、大きさ、数等は、例えば、排ガス浄化用触媒10を流動する排ガスの流量や成分等を考慮して設計すればよい。セル12の筒軸方向Xに直交する断面の形状は特に限定されない。セル12の断面形状は、例えば、正方形、平行四辺形、長方形、台形等の四角形や、その他の多角形(例えば、三角形、六角形、八角形)、波形、円形等種々の幾何学形状であってよい。隔壁14は、セル12に面し、隣り合うセル12の間を区切っている。
【0029】
改質反応層20は、排ガス中の未燃成分をHに変換する反応場である。図3に示すように、改質反応層20は、筒軸方向Xと直交する厚み方向において、ここでは基材11と触媒層30との間に設けられている。改質反応層20は、具体的には基材11の上、詳しくは隔壁14の表面に設けられている。これにより、Hによって過剰に還元された物質(例えば、NOxが還元され生成されるアンモニア)が、再酸化されずに排ガス浄化用触媒10から排出されることを抑制することができる。また、排ガスを改質反応層20よりも先に触媒層30と接触させることができるので、後述する水素生成触媒の活性点がコーキング等で劣化しにくくなり、改質反応層20の耐久性を向上することができる。
【0030】
改質反応層20は、ここでは排ガスの流入口10aから下流側に向かって、筒軸方向Xに沿うように設けられている。ただし、他の実施形態において、排ガスの流出口10bから上流側に向かって、筒軸方向Xに沿うように設けられていてもよい。改質反応層20は、基材11の上に連続的に設けられていてもよく、断続的に設けられていてもよい。改質反応層20の筒軸方向Xの全体のコート幅(平均長さ)L1は、例えば基材11の大きさや排ガス浄化用触媒10に流通する排ガスの流量等を考慮して設計すればよい。いくつかの態様において、改質反応層20の筒軸方向Xのコート幅L1は、排ガス浄化用触媒10の筒軸方向Xの全長をLとしたときに、0.3L≦L1<Lを満たし、好ましくは、0.5L≦L1≦0.8Lを満たしている。これにより、改質反応層20を効率的に活用して、ここに開示される技術の効果をより高いレベルで発揮することができる。また、改質反応層20の全体のコート厚み(筒軸方向Xに直交する厚み方向の平均長さ)は、耐久性や耐剥離性等の観点から、概ね1~100μm、例えば5~100μm程度であるとよい。
【0031】
改質反応層20は、水素生成触媒を必須として含んでいる。改質反応層20は、ここではさらに水素生成触媒以外の無機酸化物を含んでいる。具体的には、酸素吸蔵能(Oxygen Storage Capacity:OSC)を有するOSC材と、酸素吸蔵能を有しない非OSC材と、を含んでいる。ただし、水素生成触媒以外の無機酸化物(OSC材および/または非OSC材)は必須ではなく、他の実施形態において省略することもできる。改質反応層20は、ここではRh,Ru以外の貴金属は含まない。これにより、酸化反応による排ガスの浄化反応との競合を避け、水素生成反応を好適に促進することができる。改質反応層20は、水素生成反応活性が高いRhおよび/またはRuは含んでもよい。
【0032】
水素生成触媒は、排ガス中の未燃成分をHに変換する水素生成反応を生じさせる触媒である。より具体的には、例えばHCやCOを、水蒸気改質反応(HC+HO→CO+H)および/またはCOシフト反応(CO+HO→CO+H)によってHに変換する触媒である。水素生成触媒は、酸化物の状態の貴金属をメタル化する触媒でもありうる。なお、水素生成触媒は、筒軸方向Xに沿って均一に含まれていてもよいし、例えば上流側から下流側に向かって含有量が段階的に変化するように含まれていてもよい。例えば上流側から下流側に向かって含有量が暫時減少するように含まれていてもよい。
【0033】
水素生成触媒は、粒子状である。ここでは、水素生成触媒は、改質反応層20中でOSC材や非OSC材と混在している。水素生成触媒は、例えばOSC材や非OSC材には担持されず、OSC材や非OSC材とは別個独立している。これにより、水素生成触媒の耐熱性を高めて、水素生成反応(水蒸気改質反応および/またはCOシフト反応)を良好に生じさせることができる。また、水素生成触媒の分散性を高めて、シンタリングを抑制することができる。水素生成触媒の平均粒子径(電子顕微鏡観察に基づく個数基準)は、OSC材および/または非OSC材の平均粒子径よりも小さいことが好ましい。これにより、難還元化を防いで、安定した活性を維持することができる。
【0034】
ここに開示される技術において、水素生成触媒は、希土類酸化物および遷移金属酸化物(ただしRh,Ru以外の貴金属を除く)のうちの少なくとも1つを含んでいる。これにより、酸化反応による排ガスの浄化反応との競合を避け、水素生成反応を促進することができる。水素生成触媒は、水素生成反応活性が高いRhおよび/またはRuを含んでもよく、Rhおよび/またはRuを含んでいなくてもよい。水素生成触媒は、例えば、第1の水素生成触媒として、希土類酸化物および遷移金属酸化物(ただし貴金属を除く)のうちの少なくとも1つを含み、第2の水素生成触媒として、Rhおよび/またはRuをさらに含んでもよい。
【0035】
希土類酸化物としては、周期表の3族に属するスカンジウム(Sc),イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)の各酸化物が挙げられる。なかでも、反応性が高く水素生成能に優れることから、ランタノイドの酸化物が好ましく、耐久性や入手容易性等の観点から、PrおよびNdのうちの少なくとも1つが好ましい。
【0036】
遷移金属酸化物(ただしRh,Ru以外の貴金属を除く)としては、例えば、周期表の第4周期に属するスカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)の各酸化物、周期表の第5周期に属するイットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)の各酸化物が挙げられる。なかでも、反応性が高く水素生成能に優れることから、周期表の第4周期に属する金属の酸化物が好ましく、鉄属(Fe,Co,Ni)の酸化物がより好ましく、特にはNiが好ましい。また、耐久性等の観点からは、CoおよびNiのうちの少なくとも1つが好ましい。
【0037】
本実施形態において、改質反応層20における水素生成触媒の含有量は、酸化物基準で、基材の体積1Lあたり、5g/L以上である。これにより、ここに開示される技術の効果をいかんなく発揮して、排ガス中の未燃成分(例えば、HCやCO)を、反応性の高いHに迅速に変換することができる。いくつかの態様において、水素生成触媒の含有量は、基材の体積1Lあたり、10g/L以上であるとよい。
【0038】
また、水素生成触媒の含有量は、未燃成分が過剰に還元されること(例えば、NOxが過剰に還元されてアンモニアが生成されること)を抑制する観点から、基材の体積1Lあたり、概ね100g/L以下、好ましくは80g/L以下、例えば50g/L以下であるとよい。また、リーン雰囲気でのNOx浄化性能と優れた低温活性(例えば暖機性や保温性)とを兼ね備える観点から、水素生成触媒の含有量は、基材の体積1Lあたり、30g/L以下であることが好ましく、特には20g/L以下であることが好ましい。
【0039】
いくつかの態様において、水素生成触媒が、第1の水素生成触媒としての希土類酸化物および遷移金属酸化物(ただし貴金属を除く)と、第2の水素生成触媒としてのRhおよび/またはRuと、を含む場合、第2の水素生成触媒の含有量は、典型的には、第1の水素生成触媒よりも少ない。第2の水素生成触媒の含有量は、第1の水素生成触媒の含有量の概ね0.1~50%、例えば1~30%、好ましくは2~20%であるとよい。
【0040】
OSC材は、ここで開示される技術において、水素生成反応(水蒸気改質反応および/またはCOシフト反応)を促進させる機能を有する。OSC材は、助触媒として機能しうる。より具体的には、改質反応層20において、OSC材は、水素生成触媒に近接して配置されている。特に限定的に解釈されるものではないが、本発明者らの推定によれば、OSC材は、排ガス中のHOを解離させて、O原子を水素生成触媒に供給するように機能すると考えられる。これにより、水素生成反応を促進することができると考えられる。また、従来知られているように、OSC材は、リーン雰囲気において、酸素を吸蔵する吸収材としての機能を有する。これらの相乗効果により、OSC材を含むことで、排ガスの空燃比がストイキ状態から変動したときにも浄化性能を格段に安定させることができる。例えばNOx浄化性能およびHC浄化性能のうちの少なくとも一方(好ましくは両方)を向上することができる。
【0041】
OSC材としては、例えば、酸素吸蔵能の高いセリア(CeO)を含んだ金属酸化物(Ce含有酸化物)が挙げられる。Ce含有酸化物は、セリアであってもよく、セリアとセリア以外の金属酸化物との複合酸化物であってもよい。Ce含有酸化物は、耐熱性や耐久性を向上する観点等から、ZrおよびAlのうちの少なくとも一方を含む複合酸化物、例えば、セリア(CeO)-ジルコニア(ZrO)複合酸化物(CZ複合酸化物)であるとよい。CZ複合酸化物は、耐熱性を向上する観点等から、例えば、Nd、La、Y、Pr10等の希土類金属酸化物をさらに含んでいてもよい。CZ複合酸化物は、Ceリッチであってもよく、Zrリッチであってもよい。いくつかの態様において、セリアの混合割合は、CZ複合酸化物の全体を100質量%としたときに、概ね10~90質量%、例えば15~70質量%であるとよい。セリアの混合割合が所定値以上であると、未燃成分のHへの変換を促進することができる。セリアの混合割合が所定値以下であると、耐熱性を向上することができる。上記範囲であると、ここに開示される技術の効果と耐熱性とを高いレベルで兼ね備えることができる。
【0042】
特に限定されるものではないが、改質反応層20におけるOSC材の含有量は、基材の体積1Lあたり、概ね1~100g/L、例えば5~50g/Lであるとよい。また、いくつかの態様において、水素生成触媒の含有量に対するOSC材の含有量の比(C2/C1)は、概ね0.1以上、0.2以上、好ましくは0.5以上、例えば1以上、2以上、3以上であって、概ね30以下、20以下、好ましくは10以下、例えば5以下であるとよい。これにより、水素生成反応を促進すると共に、改質反応層20のコート量を抑えて、圧損やコストを低減することができる。
【0043】
非OSC材は、改質反応層20の耐熱性を向上する機能、改質反応層20の耐久性を向上する機能、および基材11からの改質反応層20の剥離を抑制する機能、のうちの少なくとも1つを有する。非OSC材としては、例えば、アルミナ(Al)、チタニア(TiO)、ジルコニア(ZrO)、シリカ(SiO)等の希土類金属酸化物が挙げられる。なかでも、耐熱性や耐久性の高いアルミナを含んだ金属酸化物(Al含有酸化物)が好ましい。Al含有酸化物は、アルミナであってもよく、アルミナとアルミナ以外の金属酸化物(例えば希土類金属酸化物)との複合酸化物であってもよい。Al含有酸化物は、耐熱性や耐久性を向上する観点等から、例えば、La-Al複合酸化物(LA複合酸化物)であるとよい。LA複合酸化物は、Laリッチであってもよく、Alリッチであってもよい。いくつかの態様において、アルミナ以外の金属酸化物の混合割合は、使用に伴う経年劣化を抑制する観点等から、LA複合酸化物の全体を100質量%としたときに、概ね50質量%未満、例えば0.1~20質量%であるとよい。
【0044】
特に限定されるものではないが、改質反応層20における非OSC材の含有量は、OSC材の含有量よりも少なくてもよい。非OSC材の含有量は、基材の体積1Lあたり、概ね1~100g/L、例えば5~50g/Lであってもよい。
【0045】
改質反応層20では、水素生成触媒が主体(全体の50質量%以上を占める成分。)をなしていてもよく、OSC材が主体をなしていてもよく、非OSC材が主体をなしていてもよい。水素生成触媒の分散性を高めて、シンタリングを抑制する観点等からは、OSC材および/または非OSC材(両方含まれる場合はその合計でもよい。)が、改質反応層20の主体をなしているとよい。特に限定されるものではないが、改質反応層20の全体を100質量%としたときに、水素生成触媒の含有割合は、ここに開示される技術の効果を長期にわたって好適に発揮する観点等から、概ね5~90質量%、好ましくは10~70質量%であるとよい。また、OSC材の含有割合は、水素生成反応を促進する等の観点から、概ね1~70質量%、好ましくは5~65質量%であるとよい。また、非OSC材の含有割合は、耐熱性や耐久性、耐剥離性を向上する観点等から、概ね10質量%以上、好ましくは25質量%以上、例えば30~50質量%であるとよい。
【0046】
改質反応層20は、水素生成触媒とOSC材と非OSC材とで構成されていてもよく、さらに任意成分を含んでもよい。例えば改質反応層20がOSC材を含む場合等には、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)等のアルカリ土類元素を含んでもよい。これにより、リーン雰囲気において、OSC材への酸素吸蔵量を向上させることができる。また、リッチ雰囲気での被毒が抑えられ、水素生成触媒の活性を安定して維持することができる。
【0047】
いくつかの態様において、改質反応層20のコート量(成形量)は、基材の体積1Lあたり、概ね10~200g/L、例えば50~100g/Lであるとよい。上記範囲を満たすことにより、ここに開示される技術の効果を長期にわたって安定して高いレベルで発揮することができる。なお、本明細書において「コート量」とは、基材の単位体積(1L)あたりに含まれる固形分の質量をいう。
【0048】
触媒層30は、排ガス中の未燃成分を浄化する反応場である。排ガス浄化用触媒10に流入した排ガスは、排ガス浄化用触媒10の流路内(セル12)を流動している間に触媒層30と接触する。これによって、排ガスが浄化される。例えば、排ガスに含まれるHCやCOは、触媒層30で酸化され、水や二酸化炭素等に変換(浄化)される。排ガスに含まれるNOxは、触媒層30で還元され、窒素に変換(浄化)される。
【0049】
図3に示すように、触媒層30は、筒軸方向Xと直交する厚み方向において、ここでは改質反応層20よりも基材11から離れた側に設けられている。触媒層30は、具体的には改質反応層20と接するように、改質反応層20の表面に設けられている。ただし、触媒層30は、基材11の上に設けられていてもよく、厚み方向において、例えば基材11と改質反応層20との間に設けられていてもよい。
【0050】
触媒層30は、排ガスの流入口10aから下流側に向かって、筒軸方向Xに沿うように設けられていてもよいし、排ガスの流出口10bから上流側に向かって、筒軸方向Xに沿うように設けられていてもよい。触媒層30は、改質反応層20の上に連続的に設けられていてもよく、断続的に設けられていてもよい。触媒層30の筒軸方向Xの全体のコート幅(平均長さ)L2は、例えば基材11の大きさや排ガス浄化用触媒10に流通する排ガスの流量等を考慮して設計すればよい。いくつかの態様において、触媒層30の筒軸方向Xのコート幅L2は、排ガス浄化用触媒10の筒軸方向Xの全長をLとしたときに、0.5L≦L2≦Lを満たし、好ましくは、0.8L≦L2、例えば、0.9L≦L2を満たしている。また、触媒層30の全体のコート厚み(筒軸方向Xに直交する厚み方向の平均長さ)は、概ね1~300μm、例えば5~100μm程度であるとよい。
【0051】
図3の触媒層30は、筒軸方向Xに直交する厚み方向において、相互に構成の異なる2つの触媒コート層が積層された積層構造を有している。すなわち、触媒層30は、ここでは、改質反応層20の表面に形成された下層31と、下層31の上に形成された上層32と、を備えている。下層31は、ここに開示される「第1触媒層」の一例であり、上層32は、ここに開示される「第2触媒層」の一例である。下層31と上層32とは、長さや厚みが相互に異なっていてもよい。また、改質反応層20は、単層構造であってもよい。また、下層31と上層32との間には、さらに組成や性状の異なる第3の層(中間層)が設けられていてもよい。触媒層30は、下層31と、1つまたは2つ以上の中間層と、上層32と、を備えていてもよい。また、他の実施形態において、触媒層30は、筒軸方向Xにおいて、上流側に位置する前段部と、前段部よりも下流側に位置し、前段部とは組成や性状の異なる後段部と、を備えていてもよい。
【0052】
下層31と上層32とは、それぞれ貴金属を必須として含んでいる。下層31と上層32とは、ここではさらに貴金属を担持する担持材料を含んでいる。担持材料としては、例えば、改質反応層20のOSC材や非OSC材として上記したような材料を使用しうる。具体例として、セリアやCZ複合酸化物等のCe含有酸化物、アルミナ等のAl含有酸化物が挙げられる。
【0053】
貴金属は、排ガス中の未燃成分を浄化する触媒である。貴金属としては特に限定されず、従来この種の用途に使用され、未燃成分の浄化にあたり酸化触媒や還元触媒として機能し得ることが知られている種々の金属種を1種または2種以上、使用可能である。具体例として、白金族に属する金属(PGM)、すなわち、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)およびイリジウム(Ir)、あるいは白金族以外の貴金属である金(Au)、銀(Ag)が挙げられる。特に限定されるものではないが、触媒層30における貴金属の含有量は、典型的には改質反応層20における水素生成触媒の含有量よりも少ない。貴金属の含有量は、基材の体積1Lあたり、概ね0.1~10g/L、例えば0.5~5g/Lであってもよい。
【0054】
いくつかの態様において、触媒層30は、酸化活性の高い酸化触媒(例えばPdおよびPtのうちの少なくとも一方)を含む酸化触媒層と、還元活性の高い還元触媒(例えばRh)を含む還元触媒層と、を備えている。本実施形態において、下層31と上層32は、相互に異なる種類の貴金属を含んでいる。下層31は、第1の種類の貴金属を含み、上層32は、第1の種類とは異なる第2の種類の貴金属を含んでいる。これにより、貴金属のシンタリングを抑制することができる。
【0055】
下層31は、ここでは酸化触媒(例えば、PdおよびPtのうちの少なくとも1つ)を含む酸化触媒層である。一方、上層32は、ここではRhを含む還元触媒層である。上層32は、ここでは酸化触媒(例えば、PdおよびPtのうちの少なくとも1つ)を含んでいない。酸化触媒を含む下層31(酸化触媒層)が改質反応層20と接触していることで、水素生成触媒の劣化を抑え、長期にわたって活性を高く維持しうる。また、Rhを含む上層32が改質反応層20から離れた位置に設けられていることで、水素生成触媒の使用に伴う還元触媒の酸化を抑制して、長期にわたって活性を高く維持しうる。加えて、このような構成により、水素生成触媒により発生したHを使用し、NOxを還元してNとHOに浄化したり、酸化物の状態の貴金属をメタル化したりしうる。
【0056】
触媒層30は、貴金属と担持材料とで構成されていてもよく、さらに任意成分を含んでもよい。例えば貴金属に加えて、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素等の金属種を含んでもよい。触媒層30が酸化触媒とOSC材とを含む場合等には、改質反応層20の任意成分として上記したようなアルカリ土類元素を含むことが好ましい。また、触媒層30は、NOx吸蔵能を有するNOx吸着材や、安定化剤等を含んでいてもよい。安定化剤としては、例えば、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジウム(Nd)等の希土類元素が挙げられる。
【0057】
いくつかの態様において、触媒層30のコート量(成形量)は、基材の体積1Lあたり、概ね10~500g/L、例えば100~300g/Lであるとよい。上記範囲を満たすことにより、未燃成分の浄化性能の向上と圧損の低減とを高いレベルでバランスすることができる。また、耐久性や耐剥離性を向上することができる。
【0058】
≪排ガス浄化用触媒10の製造方法≫
排ガス浄化用触媒10は、例えば以下のような方法で製造することができる。すなわち、まず基材11と、改質反応層20を形成するための改質反応層形成用スラリーと、下層31を形成するための下層形成用スラリーと、上層32を形成するための上層層形成用スラリーと、を用意する。改質反応層形成用スラリーについては、水素生成触媒(酸化物)を必須の原料成分として含み、その他の任意成分、例えば、無機酸化物(OSC材および/または非OSC材)、バインダ、各種添加剤等を、分散媒に分散させて調製するとよい。水素生成触媒を酸化物の形態で用いることにより、水素生成触媒を、OSC材や非OSC材には担持されず、OSC材や非OSC材とは別個独立した状態で、改質反応層20のなかに含ませることができる。バインダとしては、例えば、アルミナゾル、シリカゾル等を使用しうる。分散媒としては、例えば水や水系溶媒を使用しうる。また、下層形成用スラリーおよび上層層形成用スラリーについては、貴金属源(例えば、貴金属をイオンとして含む溶液)を必須の原料成分として含み、その他の任意成分、例えば、担持材料、バインダ、各種添加剤等を、分散媒に分散させて調製するとよい。
【0059】
改質反応層20および触媒層30(下層31および上層32)の形成は、従来使用されている方法、例えば含浸法やウォッシュコート法等で行うことができる。一例では、まず、上記で調製した改質反応層形成用スラリーを基材11の端部からセル12に流入させ、筒軸方向Xに沿って所定の長さまで供給する。スラリーは、流入口10aと流出口10bのいずれから流入させてもよい。このとき、余分なスラリーは反対側の端部から吸引してもよい。また、反対側の端部から送風を行う等して、余分なスラリーをセル12から排出させてもよい。次に、スラリーを供給した基材11を所定の温度および時間で焼成する。焼成の方法は従来と同様であってよい。これにより、原料成分が基材11に焼結されて、改質反応層20を形成することができる。触媒層30についても同様の方法で形成することができる。このようにして、排ガス浄化用触媒10を作製することができる。
【0060】
≪排ガス浄化用触媒10の用途≫
排ガス浄化用触媒10は、自動車やトラック等の車両や、自動二輪車や原動機付き自転車をはじめとして、船舶、タンカー、水上バイク、パーソナルウォータークラフト、船外機等のマリン用製品、草刈機、チェーンソー、トリマー等のガーデニング用製品、ゴルフカート、四輪バギー等のレジャー用製品、コージェネレーションシステム等の発電設備、ゴミ焼却炉等の内燃機関から排出される排ガスの浄化に好適に用いることができる。なかでも、自動車等の車両に対して好適に用いることができる。特に、リーン雰囲気でのNOx浄化性能と優れた低温活性とを兼ね備える排ガス浄化用触媒は、例えば運転中や信号待ち等の一時停止中に、エンジンが頻繁に起動と停止とを繰り返すような省エネ機構を搭載したエコカーに好適に用いることができる。
【0061】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0062】
〔試験例1〕水素生成触媒の種類の検討1
(例1)
まず、円筒形状のハニカム基材(コージェライト製、基材容積:1.3L、基材の全長:110mm)を用意した。次に、以下の3種類のスラリーを調製した。
・改質反応層形成用スラリー:OSC材としてのセリア―ジルコニア複合酸化物が35g/L(うちセリアは17.5g/L)、非OSC材としてのアルミナが20g/L、水素生成触媒としての酸化プラセオジム(Pr11)が10g/Lとなるように、セリア―ジルコニア複合酸化物と、アルミナと、水素生成触媒と、水と、を混合し、改質反応層形成用スラリーを調製した。
・下層形成用のPdスラリー:セリア―ジルコニア複合酸化物が50g/L(うちセリアは20g/L)、アルミナが50g/L、酸化バリウムが5g/L、貴金属としてのPdが3g/Lとなるように、セリア―ジルコニア複合酸化物と、アルミナと、硝酸Pdと、水と、を混合し、Pdスラリーを調製した。
・上層形成用のRhスラリー:セリア―ジルコニア複合酸化物が10g/L(うちセリアは2g/L)、アルミナが70g/L、貴金属としてのRhが0.4g/Lとなるように、セリア―ジルコニア複合酸化物と、アルミナと、硝酸Rhと、水と、を混合し、Rhスラリーを調製した。
【0063】
次に、上記ハニカム基材に改質反応層形成用スラリーを供給し、排ガス流入側の端部から基材の全長の80%に当たる部分に材料をウォッシュコートした。そして、250℃の乾燥機で1時間加熱乾燥して水分を飛ばした後、500℃の電気炉で1時間焼成した。これにより、基材の表面に改質反応層を形成した。
【0064】
次に、改質反応層の上に、上下2層構造の触媒層を形成した。具体的には、まず、上記改質反応層を形成した基材にPdスラリーを供給し、排ガス流入側の端部から下流側に向かって、および排ガス流出側の端部から上流側に向かって、基材の全長の100%に当たる部分に材料をウォッシュコートした。そして、250℃の乾燥機で1時間加熱乾燥して水分を飛ばした後、500℃の電気炉で1時間焼成した。これにより、改質反応層の表面に下層を形成した。次に、上記下層を形成した基材にRhスラリーを供給し、排ガス流入側の端部から下流側に向かって、および排ガス流出側の端部から上流側に向かって、基材の全長の100%に当たる部分に材料をウォッシュコートした。そして、250℃の乾燥機で1時間加熱乾燥して水分を飛ばした後、500℃の電気炉で1時間焼成した。これにより、下層の表面に上層を形成した。
以上のようにして、例1の排ガス浄化用触媒を作製した。
【0065】
(例2)
例2では、改質反応層形成用スラリーを調製する際に、水素生成触媒として酸化ネオジム(Nd)を使用したこと以外、例1と同様にして、排ガス浄化用触媒を作製した。
【0066】
(比較例1)
比較例1では、基材に改質反応層を形成しなかった、すなわち、下層形成用のPdスラリーと上層形成用のRhスラリーとを用いて、基材の上に、上下2層構造の触媒層のみを形成したこと以外、例1と同様にして、排ガス浄化用触媒を作製した。
【0067】
[NOx浄化性能の評価]
ガソリンエンジンを備えた触媒評価装置を用いて、各例に係る排ガス浄化用触媒のNOx浄化性能を評価した。具体的には、各例に係る排ガス浄化用触媒を触媒評価装置に設置し、空燃比(A/F)を変化させた模擬排ガスをエンジンへ供給した。このときの、排ガス浄化用触媒への流入ガスのNOx濃度と、排ガス浄化用触媒からの流出ガスのNOx濃度の比から、NOx浄化率を測定した。結果を図4に示す。また、リーン雰囲気(A/F=14.57)でのNOx浄化率を比較したグラフを図5に示す。
【0068】
図4および図5に示すように、水素生成触媒としての希土類酸化物を5g/L以上含む改質反応層を備えた例1、例2の排ガス浄化用触媒は、改質反応層を備えていない比較例1の排ガス浄化用触媒に比べて、リーン雰囲気でのNOx浄化性能が相対的に高かった。これは、改質反応層で排ガス中の未燃成分(例えば、HCやCO)が、反応性の高い水素分子(H)に変換され、排ガスの酸化反応速度が向上したことと、改質反応層が酸化触媒を含まないことで、酸化触媒による排ガスの浄化反応との競合を避けられたことによる相乗効果と考えられる。
【0069】
〔試験例2〕水素生成触媒の種類の検討2
(例3)
例3では、改質反応層形成用スラリーを調製する際に、水素生成触媒として酸化コバルト(CoO)を使用したこと以外、例1と同様にして、排ガス浄化用触媒を作製した。
【0070】
(例4)
例4では、改質反応層形成用スラリーを調製する際に、水素生成触媒として酸化ニッケル(NiO)を使用したこと以外、例1と同様にして、排ガス浄化用触媒を作製した。
【0071】
そして、試験例1と同様にNOx浄化率を測定した。改質反応層を備えていない比較例1の結果と合わせて、図6に示す。また、リーン雰囲気(A/F=14.6)でのNOx浄化率を比較したグラフを図7に示す。
【0072】
図6および図7に示すように、水素生成触媒としての遷移金属酸化物を5g/L以上含む改質反応層を備えた例3、例4の排ガス浄化用触媒は、改質反応層を備えていない比較例1の排ガス浄化用触媒に比べて、リーン雰囲気でのNOx浄化性能が相対的に高かった。なかでも、酸化ニッケルを用いた(ニッケルを活性種とした)例4では、NOx浄化率が99.9%を超えており、リーン雰囲気でのNOx浄化性能が格段に高かった。
【0073】
〔試験例3〕水素生成触媒の含有量の検討
(例5~9、比較例2)
例5~9では、改質反応層形成用スラリーを調製する際に、水素生成触媒としての酸化ニッケル(NiO)および非OSC材としてのアルミナの含有量を、それぞれ表1に示すように変更し、かつ、OSC材レスとしたこと以外、例4と同様にして、排ガス浄化用触媒を作製した。
【0074】
【表1】
【0075】
そして、試験例1と同様にNOx浄化率を測定した。結果を、図8に示す。また、酸化ニッケルの含有量と、NOx T50のA/Fと、を比較したグラフを図9に示す。
図8および図9に示すように、水素生成触媒(酸化ニッケル)の含有量を増やすことにより、リーン雰囲気でのNOx浄化性能が向上した。なかでも、水素生成触媒(酸化ニッケル)を10g/L以上とすることで、ストイキの運転範囲を大きく拡大できることがわかった。
【0076】
また、OSC材レスとした例6の結果と、OSC材を含む例4の結果と、を比較したグラフを図10に示す。図10に示すように、OSC材を含む例4では、OSC材レスの例6に比べて、リーン雰囲気でのNOx浄化性能が向上した。これは、OSC材が助触媒として機能し、水素生成反応(水蒸気改質反応および/またはCOシフト反応)が促進された効果と考えられる。
【0077】
[低温活性の評価]
各例に係る排ガス浄化用触媒をV型8気筒(排気量:4600cc)のガソリンエンジンの排気系に取り付けた。そして、平均エンジン回転数3000rpmでエンジンを稼働させ、触媒入ガス温度850℃で、45時間にわたり、ストイキ状態~リーン雰囲気の模擬排ガスを一定時間ずつ排ガス浄化用触媒に交互に流通させることによって、耐久試験を行った。耐久試験後、A/F=14.6の模擬排ガスを供給しながら、触媒入ガス温度を室温(25℃)から500℃まで昇温速度20℃/minで昇温した。このときの、排ガス浄化用触媒への流入ガスのNOx濃度と、排ガス浄化用触媒からの流出ガスのNOx濃度の比から、NOx浄化率を測定した。そして、NOx浄化率が50%となった温度(NOx T50)を求めた。酸化ニッケルの含有量と、NOx T50と、のグラフを図11に示す。なお、NOx T50は、数値が小さいほど低温活性(低温でのNOx浄化性能)が良好であることを表している。
【0078】
図11に示すように、水素生成触媒(酸化ニッケル)の含有量を増やすと、NOx T50が高くなり、低温活性が悪化した。したがって、リーン雰囲気でのNOx浄化性能と優れた低温活性とを兼ね備える観点からは、水素生成触媒の含有量を30g/L以下、さらには20g/L以下とすることが好ましいとわかった。
【0079】
〔試験例4〕OSC材の含有量の検討
(例10~12、比較例3)
例10~12、比較例3では、改質反応層形成用スラリーを調製する際に、水素生成触媒としての酸化ニッケル(NiO)と、OSC材としてのセリア―ジルコニア複合酸化物と、非OSC材としてのアルミナの含有量とを、それぞれ表2に示すように変更したこと以外、例4と同様にして、排ガス浄化用触媒を作製した。
【0080】
【表2】
【0081】
そして、試験例1と同様にNOx浄化率を測定した。結果を、図12に示す。また、リーン雰囲気(A/F=14.65)でのNOx浄化率を比較したグラフを図13に示す。なお、図13では、横軸に、水素生成触媒の含有量に対するOSC材の含有量の比をあわせて示している。
【0082】
図12および図13に示すように、水素生成触媒の含有量に対するOSC材の含有量の比を増やすことにより、リーン雰囲気でのNOx浄化性能が向上した。これは、OSC材が助触媒として機能し、水素生成反応が促進されたことと、OSC材が酸素を吸蔵する吸収材としての機能したことの相乗効果と考えられる。
【0083】
〔試験例5〕水素生成触媒の種類の検討3
次に、水素生成触媒としての酸化ニッケルとともに白金族に属するいずれかの金属(PGM)、具体的には、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)のいずれかを加えた改質反応層を作製し、性能評価を行った。
(例13)
上記試験例で使用したものと同様の円筒形状ハニカム基材(コージェライト製、基材容積:1.3L、基材の全長:110mm)を用意した。あわせて以下の3種類のスラリーを調製した。
・Pd含有改質反応層形成用スラリー:セリア―ジルコニア複合酸化物(CZ複合酸化物)と、アルミナと、酸化ニッケル(NiO)と、硝酸パラジウムと、水とをそれぞれ適量混合し、Pd含有改質反応層形成用スラリーを調製した。
・下層形成用のPdスラリー:セリア―ジルコニア複合酸化物と、アルミナと、酸化バリウムと、硝酸パラジウムと、水とをそれぞれ適量混合し、Pdスラリーを調製した。
・上層形成用のRhスラリー:セリア―ジルコニア複合酸化物と、アルミナと、硝酸ロジウムと、水とをそれぞれ適量混合し、Rhスラリーを調製した。
【0084】
次に、上記ハニカム基材に上記Pd含有改質反応層形成用スラリーを供給し、排ガス流入側の端部から基材の全長の80%に当たる部分に材料をウォッシュコートした。そして、250℃の乾燥機で1時間加熱乾燥して水分を飛ばした後、500℃の電気炉で1時間焼成した。これにより、基材の表面にPd含有改質反応層を形成した。
次に、Pd含有改質反応層の上に、例1と同様のプロセスにより、上下2層構造の触媒層(下層がPd層、上層がRh層)を形成した。
【0085】
以上のようにして、例13の排ガス浄化用触媒を作製した。なお、触媒体1リットル当たりの各成分の含有量は以下のとおりである。
<Pd含有改質反応層>
酸化ニッケル 10g/L-cat
Pd 0.275g/L-cat
CZ複合酸化物 35g/L-cat(そのうちのセリアは17.5g/L-cat)
アルミナ 20g/L-cat
<触媒層下層>
Pd 3g/L-cat
CZ複合酸化物 50g/L-cat(そのうちのセリアは20g/L-cat)
アルミナ 50g/L-cat
Ba(酸化物換算) 5g/L-cat
<触媒層上層>
Rh 0.4g/L-cat
CZ複合酸化物 10g/L-cat(そのうちのセリアは2g/L-cat)
アルミナ 70g/L-cat
【0086】
(例14)
例14では、上記硝酸パラジウムに代えて、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液を使用した以外は、例13と同様にして、Pt含有改質反応層形成用スラリーを調製した。そして、該Pt含有改質反応層形成用スラリーならびに例13と同じ触媒層下層形成用のPdスラリーおよび触媒層上層形成用Rhスラリーを使用して、例14の排ガス浄化用触媒を作製した。なお、触媒体1リットル当たりの各成分の含有量は以下のとおりである。
<Pt含有改質反応層>
酸化ニッケル 10g/L-cat
Pt 0.275g/L-cat
CZ複合酸化物 35g/L-cat(そのうちのセリアは17.5g/L-cat)
アルミナ 20g/L-cat
<触媒層下層>ならびに<触媒層上層>は例13と同じである。
【0087】
(例15)
例15では、上記硝酸パラジウムに代えて、硝酸ロジウムを使用した以外は、例13と同様にして、Rh含有改質反応層形成用スラリーを調製した。そして、該Rh含有改質反応層形成用スラリーならびに例13と同じ触媒層下層形成用のPdスラリーおよび触媒層上層形成用Rhスラリーを使用して、例15の排ガス浄化用触媒を作製した。なお、触媒体1リットル当たりの各成分の含有量は以下のとおりである。
<Rh含有改質反応層>
酸化ニッケル 10g/L-cat
Rh 0.275g/L-cat
CZ複合酸化物 35g/L-cat(そのうちのセリアは17.5g/L-cat)
アルミナ 20g/L-cat
<触媒層下層>ならびに<触媒層上層>は例13と同じである。
【0088】
(例16)
例16では、上記硝酸パラジウムに代えて、硝酸ルテニウムを使用した以外は、例13と同様にして、Ru含有改質反応層形成用スラリーを調製した。そして、該Ru含有改質反応層形成用スラリーならびに例13と同じ触媒層下層形成用のPdスラリーおよび触媒層上層形成用Rhスラリーを使用して、例16の排ガス浄化用触媒を作製した。なお、触媒体1リットル当たりの各成分の含有量は以下のとおりである。
<Rh含有改質反応層>
酸化ニッケル 10g/L-cat
Ru 0.275g/L-cat
CZ複合酸化物 35g/L-cat(そのうちのセリアは17.5g/L-cat)
アルミナ 20g/L-cat
<触媒層下層>ならびに<触媒層上層>は例13と同じである。
このようにして調製した例13~例16の排ガス浄化用触媒における改質反応層の構成を表3にまとめた。
【0089】
【表3】
【0090】
[NOx浄化性能の評価]
そして、得られた例13~例16の排ガス浄化用触媒、ならびに、上記の例4の排ガス浄化用触媒(即ち、改質反応層にPGMが含まれない。表3参照。)および比較例2の排ガス浄化用触媒(即ち、改質反応層を有しない。表1参照。)を採用し、試験例1と同様に、耐久試験を行った後、NOx浄化率を測定した。A/F:14.6でのNOx浄化率を比較した結果を図15に示す。
【0091】
図15に示すように、上記の条件でのNOx浄化率は、例4の排ガス浄化用触媒が最も高く94.1%であった。次いで、例15の排ガス浄化用触媒および例16の排ガス浄化用触媒のNOx浄化率は、それぞれ、87.2%および85.2%であり、RhあるいはRuを改質反応層に添加した場合でも良好なNOx浄化率を維持していた。
他方、例13の排ガス浄化用触媒および例14の排ガス浄化用触媒のNOx浄化率は、それぞれ、80.6%および79.1%であり、PdあるいはPtを改質反応層に添加した場合は、RhあるいはRuを改質反応層に添加した場合よりもNOx浄化率は低下した。しかしながら、改質反応層を有しない比較例2の排ガス浄化用触媒のNOx浄化率(78.0%)よりも高い値を示した。
かかる結果は、改質反応層にPGMを添加すると、水素生成触媒(ここでは酸化ニッケル)との競合吸着が生じ、改質反応が抑制されるものと考えられる。但し、PGMとしてRhやRuを添加した場合は、それほどの抑制は認められず、改質反応層のない比較例と比べて有利な効果を奏することができる。RhやRuを添加した場合は、これらPGMがニッケルと同様の改質反応を生じさせ得ると考えられる。
あるいはまた、これらPGMを添加することによって、改質反応層をいわゆる三元触媒としての機能を持たせることもできる。
【0092】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本発明は、他にも種々の形態にて実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を他の変形態様に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形態様を追加することも可能である。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【0093】
例えば、上記した排ガス浄化用触媒10では、基材11の上に改質反応層20を備え、改質反応層20の上に触媒層30を備えていた。しかしこれには限定されない。他の実施形態において、排ガス浄化用触媒は、例えば基材11の上に触媒層30を備え、触媒層30の上に改質反応層20を備えていてもよい。あるいは、改質反応層20と触媒層30とが厚み方向に積層されず、筒軸方向Xに並んで備えられていてもよい。改質反応層20と改質反応層20とは、例えば、筒軸方向Xの上流側と下流側とに区分けされて備えられていてもよい。さらに、改質反応層20と改質反応層20とは、別々の基材に備えられていてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15