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特許7343737脂質系コーティングの調製のための一般的な方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】脂質系コーティングの調製のための一般的な方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/28 20060101AFI20230906BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20230906BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20230906BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
A61L27/28
A61L29/08
A61M25/00 610
G02C7/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020567636
(86)(22)【出願日】2019-02-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2019054698
(87)【国際公開番号】W WO2019166416
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-11-08
(31)【優先権主張番号】18158839.3
(32)【優先日】2018-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】523277437
【氏名又は名称】リポコート イーペー ホールディング ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ファン ヴェールド ヤスペル
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0298297(US,A1)
【文献】特開2013-028649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 29/00
A61M 25/00
G02C 7/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質で被覆された基材を製造する方法であって
a.25~450mg/mlのリン脂質濃度における、水混和性有機溶媒中のリン脂質の脂質溶液(A)を提供する工程;
b.4~8のpHを有する水溶液(B)を提供する工程;
c.前記水溶液(B)を撹拌し、且つ前記脂質溶液(A)を前記水溶液(B)中に分注して、0.05mg/ml~2mg/mlのリン脂質濃度における、80~120nmの数平均サイズ(動的光散乱によって測定)を有する脂質ベシクルを含む水性分散液(C)を調製する工程;及び
d.前記水性分散液(C)を基材に適用し、且つ脂質系コーティングを形成する工程
を含み、水性分散液(C)は、少なくとも95重量%の水を含有する、方法。
【請求項2】
前記有機溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、グリセロール、ポリエチレングリコール(PEG)、ジメチルスルホキシド及びこれらの混合物から選択され、好ましくは、前記溶媒は、アルコールであり、最も好ましくは、前記溶媒は、エタノールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脂質溶液(A)の温度は、一般的に、-20~60℃、好ましくは10~50℃、最も好ましくは15~30℃である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
リン脂質は、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DPPE-PEG2000)及び1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DOPE-PEG2000)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DPPE-PEG2000)及び1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DOPE-PEG2000)などのmPEG-リン脂質からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記リン脂質は、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)及び1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記リン脂質は、少なくとも1種以上のペグ化リン脂質を含み、前記ペグ化リン脂質は、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-350](DSPE-PEG350)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-550](DSPE-PEG550)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-750](DSPE-PEG750)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-1000](DSPE-PEG1000)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DSPE-PEG2000)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-3000](DSPE-PEG3000)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-5000](DSPE-PEG5000)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-350](DSPE-PEG350)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-550](DSPE-PEG550)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-750](DSPE-PEG750)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-1000](DSPE-PEG1000)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DSPE-PEG2000)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-3000](DSPE-PEG3000)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-5000](DSPE-PEG5000)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-350](DSPE-PEG350)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-550](DSPE-PEG550)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-750](DSPE-PEG750)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-1000](DSPE-PEG1000)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DSPE-PEG2000)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-3000](DSPE-PEG3000)及び1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-5000](DSPE-PEG5000)からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ペグ化リン脂質は、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DPPE-PEG2000)及び1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DOPE-PEG2000)、例えば1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DPPE-PEG2000)及び1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DOPE-PEG2000)などのmPEG-リン脂質からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記水溶液(B)は、水と、任意選択で塩(例えば、NaCl及びCaCl2)、緩衝剤、錯化剤及び/又は水溶性医薬成分とを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記水溶液は、純水、超純水、脱塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、HEPES緩衝液、食塩水である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
水溶液(B)中の脂質溶液(A)の希釈係数は、100~2000の範囲であり、前記希釈係数は、水溶液(B)の総体積(溶液(A)との混合前)を、前記水溶液(B)に加えられる脂質溶液(A)の体積で割ることによって計算される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
脂質で被覆された基材を製造するための水性分散液(C)であって、前記分散液はリン脂質を含み、前記リン脂質は、40~140nmの数平均サイズ(動的光散乱によって測定)を有するベシクルとして存在し、リン脂質濃度は、0.05~2.0mg/mlの範囲であり、前記分散液は、少なくとも95重量%の水を含有し、前記分散液は、0.05体積%~1体積%のアルコールを含有し、前記リン脂質は、ホスファチジルコリン誘導体、ホスファチジン酸誘導体、ホスファチジルグリセロール誘導体、ホスファチジルエタノールアミン誘導体、ホスファチジルセリン誘導体、天然リン脂質誘導体、ポリグリセリン-リン脂質、リン脂質、ペグ化リン脂質から選択され、誘導体は、12~22個のC原子を有する脂肪酸尾部である、水性分散液(C)。
【請求項12】
ホスファチジルコリン誘導体及びペグ化リン脂質を含むリン脂質ベシクルを含有する、請求項11に記載の水性分散液(C)。
【請求項13】
(総リン脂質含量の)90~95mol%の1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)又は1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)と、(総リン脂質含量の)5~10mol%の、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DPPE-PEG2000)又は1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DOPE-PEG2000)などのペグ化リン脂質と、任意選択で(総リン脂質含量に対して)0~5mol%の、蛍光性コンジュゲート、タンパク質、ペプチド、両親媒物質、エチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、イオン性ポリマー、糖分子、酵素及び医薬成分から選択される添加剤とを含む脂質ベシクルを含有する、請求項11又は12に記載の水性分散液(C)。
【請求項14】
コンタクトレンズ、カテーテルなどの医療機器、(マイクロ)流体装置、細胞培養装置、食品製造装置、医薬装置上に脂質系コーティングを調製するための、請求項11~13のいずれか一項に記載の水性分散液(C)の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に脂質系コーティングを調製するための利用しやすい方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の被覆は、当技術分野で公知である。一般的に、コーティングは、基材に適用可能な被膜である。コーティングは、例えば、装飾性、機能性又は両方であり得る。装飾性コーティングには、例の塗料及び又はラッカーがある。機能性コーティングには、例えば、接着、光学、触媒、光感受性、磁気、電気、導電性、絶縁性、芳香性及び又は保護がある。機能性(保護)コーティングには、例えば、耐食性、耐傷性、防水性、抗菌性、抗炎症性、防汚性、潤滑性、疎水性、親水性及び又は生物活性がある。
【0003】
コーティングは、例えば、蒸着、化学及び電気化学的技法、噴霧、ロールツーロールコーティングプロセス、スピンコーティング並びにディップコーティングを使用して適用できる。蒸着の例は、有機金属気相成長法、静電スプレー支援蒸着(ESAVD)及び又はシェラダイジングなどの化学気相成長、陰極アーク蒸着、電子ビーム物理蒸着(EBPVD)、イオンプレーティング、イオンビーム支援蒸着(IBAD)、マグネトロンスパッタリング、パルスレーザー蒸着、スパッタ蒸着、真空蒸着、真空蒸発、蒸発(堆積)などの物理蒸着である。化学及び電気化学的技法の例は、陽極酸化、クロメート化成被膜、プラズマ電解酸化、リン酸塩(被膜)などの化成処理被膜、イオンビームミキシング、酸洗塗油、無電解めっき及び又は電気めっきである。噴霧の例は、スプレー塗装、高速フレーム溶射(HVOF)、プラズマ溶射、溶射及び又はプラズマ移行型ワイヤアーク溶射がある。ロールツーロールコーティングプロセスの例は、エアナイフコーティング、アニロックスコーター、フレキソコーター、ギャップコーティング、グラビアコーティング、ホットメルトコーティング、浸漬ディップコーティング、キスコーティング、メータリングロッド(メイヤーバー)コーティング、ローラーコーティング、シルクスクリーンコーター、スロットダイコート、インクジェット印刷、リソグラフィー及びフレキソ印刷である。
【0004】
支持脂質二重膜(SLB)に限定されない典型的な脂質系コーティングは、超音波処理又はエクストルージョンによって調製される、サイズ及び組成が様々であるベシクルを使用して通常施される。SLBは、一般的に、ベシクル融合によって調製され、最初に報告されて以来(McConnel and Tamm 1985)、研究に広く使用されてきた。SLBは、防汚性表面として多大な見込みを示し、それらの表面組成及び機能において調整可能である。SLBの防汚特性及びそれらの調整可能な組成のため、それらは、固体材料上の表面コーティングとして機能する理想的な候補である。しかし、商業的用途におけるSLBの使用は、限定されている。これは、部分的には空気中での安定性がないためである。ごく最近、商業的使用により好適である、空気中で安定なSLBの形成を可能にする方法が記載された。
【0005】
空気中で安定なSLBを調製する方法は、例えば、米国特許出願公開第2008/0241942号明細書に記載されている。ここで、二重層は、固体表面、好ましくはアレイ上に施される。方法は、
・分子膜で被覆された固体表面を提供する工程;
・ステロール基を分子膜に共有結合する工程;及び
・ステロール官能化分子膜を、エクストルージョンによって調製された脂質溶液と接触させる工程
を含む。
【0006】
米国特許出願公開第2008/0241942号明細書に記載される方法の欠点は、二重層を結合することが可能であるために、例えば親水性ポリマー又はハイドロゲルコーティングである分子膜が固体表面に施されなければならないことである。二重層は、基材に直接結合せず、固体表面に結合している分子膜を介してのみ結合する。分子膜は、ステロール基と共有結合的に反応する反応性基を含有し、それが、その後、SLBと結合する。この化学的手順は、全ての材料にとって好適でない可能性があり、望まれない問題を起こす。さらに、分子膜の担体への適用は、追加工程であり、それは、時間がかかり、システムに複雑さを加える。SLBの調製が制御される必要があるばかりでなく、基材と分子膜との間の相互作用及び密着性並びに分子膜の安定性も制御される必要がある。さらに、分子膜は、全種類の固体表面に適用できるわけではない。したがって、SLBの製造に使用される基材の選択に制限が存在する。もう1つの欠点は、分子膜の適用により、固体表面の化学的及び機械的性質が変化し得ることである。
【0007】
これらの限界は、国際公開第2014/184383号パンフレットに記載の方法の利用によって克服できる。この方法は、分子膜の必要性をなくし、より広く適用できる。ここで、安定なSLBコーティングをもたらす基材の調製の方法であって、
・表面を有する物体を提供する工程;
・物体の表面を、活性酸素を含有するプラズマによって処理して、物体の表面に反応性基Aを与える工程;
・ステロール基を反応性基Aと共有結合させる工程;及び
・ステロール基によって活性化された物体を脂質溶液と接触させて、脂質二重層を形成する工程
含む方法が記載されている。
【0008】
これらの改良により、商業的使用のための脂質コーティングの探索が可能になる。しかし、次の課題は、脂質コーティング調製、すなわち脂質(ベシクル)溶液の調製の大きい障害を克服することである。上記方法において又は従来のSLBを調製する際、脂質コーティングは、通常、エクストルージョンのプロセスを利用して調製される脂質ベシクル溶液により調製される。
【0009】
例えば、そのようなエクストルージョン法は、Jasper van Weerd:“novel biomedical applications of supported lipid bilayers”,PhD Thesis,Jan 16,2015(XP055482572)、国際公開第01/58910号パンフレット及び他の文献に記載されている。
【0010】
エクストルージョンのプロセスを利用する脂質ベシクル溶液の調製は、時間がかかり(典型的に数時間~1日)、一般的に少量を数回に分けて実施される。
【0011】
エクストルージョンによる脂質ベシクル溶液の調製は、一般的に、以下の工程を包含する。
・ガラス容器内での乾燥脂質膜の調製;
・水溶液を使用する乾燥脂質膜の水和;
・任意選択で、水和を支援するために超音波処理及び/又は凍結解凍サイクルを利用できる;及び
・生じた溶液を数回、通常、11回以上、明確に定義された細孔径を有するメンブランに通して押し出して脂質ベシクル溶液が生じるか又はそのまま使用できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
脂質コーティングの商業的用途のために、より速く、拡大が容易であり、使用が容易である、基材上の脂質コーティングの調製のための脂質ベシクル溶液を形成するためのより簡単な方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、脂質で被覆された基材を製造する一般的な方法であって
a)25~450mg/mlのリン脂質濃度における、水混和性有機溶媒中のリン脂質の脂質溶液(A)を提供する工程;
b)4~8のpHを有する水溶液(B)を提供する工程;
c)水溶液(B)を撹拌し、且つ脂質溶液(A)を水溶液(B)中に分注して、0.05mg/ml~2mg/mlのリン脂質濃度における、80~120nmの数平均サイズ(動的光散乱によって測定)を有する脂質ベシクルを含む水性分散液(C)を調製する工程;及び
d)水性分散液(C)を基材に適用し、且つ脂質系コーティングを形成する工程
を含み、水性分散液(C)は、少なくとも95重量%の水を含有する、方法に関する。
【0014】
本発明の方法は、脂質ベシクルを形成する簡単な方法であり、速く、従来のSLB及び脂質コーティングの製造に適合性があり、米国特許出願公開第2008/0241942号明細書及び国際公開第2014/184383号パンフレットなどの基材の前処理の異なる方法とも適合性があるという利点を有する。さらに、溶液(A)及び(B)をストック溶液として事前に調製して、コーティング形成を数秒にさらに速めることができる。
【0015】
本発明の好ましい実施形態において、リン脂質の濃縮物を含有する溶液(A)は、水混和性有機溶媒中に調製され、基材を含有する撹拌される水溶液(B)に分注されて、脂質ベシクルの水性分散液(C、図1 - 方式1 1番)及び基材上での前記ベシクルの脂質系コーティングへの即時の融合(図1 - 方式1 2番)をもたらす。
【0016】
本発明の別の実施形態において、リン脂質の濃縮物を含有する溶液(A)は、水混和性有機溶媒中に調製され、撹拌された水溶液(B)に分注されて、ベシクルの形成をもたらす(図1 - 方式2 3番)。生じた脂質ベシクルの水性分散液(C)は、希釈され又は希釈されずに基材と接触され(図1 - 方式2 4番)、基材上でのベシクルの脂質系コーティングへの即時の融合をもたらす(図1 - 方式2 5番)。
【0017】
本発明は、脂質系コーティングによる基材の被覆の一般的な方法に関する。
【0018】
第1工程において、リン脂質の溶液は、水と容易に混和する有機溶媒中に調製される。
【0019】
水混和性有機溶媒の例は、酢酸、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、アルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、グリセロール、ポリエチレングリコールなど、及びテトラヒドロフランである。
【0020】
好ましい好適な有機溶媒の例は、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、グリセロール、ポリエチレングリコール(PEG)、ジメチルスルホキシド及びこれらの混合物である。より好ましくは、溶媒は、アルコールであり、最も好ましくは、溶媒は、エタノールである。
【0021】
脂質溶液(A)の温度は、一般的に、-20~60℃、好ましくは10~50℃、最も好ましくは15~30℃である。温度は、透明な溶液を得るのに十分に高くなければならない。
【0022】
溶液(A)中のリン脂質の濃度は、典型的に、25~450mg/ml、好ましくは40~200mg/mlの範囲である。リン脂質の濃度が25mg/ml未満であると、一般的に分散液(C)中の脂質ベシクルの濃度が低くなりすぎて、基材の層を効果的に覆うことができない。500mg/mlより高い濃度であると、不規則な形状及び制御されないベシクルサイズ分布を有する脂質ベシクルを与える。
【0023】
脂質溶液(A)は、リン脂質を含む。脂質溶液は、例えば、膜貫通タンパク質、表在性膜タンパク質、ペプチド両親媒性物質、イオン性ポリマー、糖分子、酵素並びに医薬成分及び糖脂質のような他の親油性化合物をさらに含有し得る。脂質の混合物も使用できる。好ましくは、リン脂質の量は、リン脂質及び親油性化合物の量に対して少なくとも97mol%である。
【0024】
一般的に、リン脂質は、頭部基及び1つ以上の脂肪酸尾部を含む。リン脂質頭部基の例には、ホスファチジルコリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルセリンがある。脂肪酸尾部組成は、炭素鎖長が12~22個の炭素原子内で様々であり得、飽和度が様々であり得、C=C二重結合はシス又はトランス異性体をもたらし得る。飽和脂肪酸尾部の例には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びベヘン酸がある。不飽和脂肪酸尾部の例には、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸及びオレイン酸がある。脂肪酸尾部組成の変化したものは、特定のリン脂質頭部基の誘導体とまとめて称される。
【0025】
したがって、リン脂質の例には、ホスファチジルコリン誘導体、ホスファチジン酸誘導体、ホスファチジルグリセロール誘導体、ホスファチジルエタノールアミン誘導体、ホスファチジルセリン誘導体、天然リン脂質誘導体、ポリグリセリン-リン脂質、官能化リン脂質、末端活性化リン脂質及びペグ化リン脂質がある。
【0026】
ホスファチジルコリン誘導体の例は、1,2-ジデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DDPC)、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、1,2-ジエルコイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DEPC)、ジインPC脂質、例えば1,2-ビス(10,12-トリコサジイノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリン及び1-パルミトイル-2-(10,12-トリコサジイノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリンなどである;
【0027】
ホスファチジン酸誘導体の例は、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(DMPA)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(DPPA)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(DSPA)である。
【0028】
ホスファチジルグリセロール誘導体の例は、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール)(DMPG)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール)(DPPG)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール)(DSPG)、1-アルミトイル(almitoyl)-2-オレオイル-sn-グリセロ-3[ホスホ-rac-(1-グリセロール)](POPG)である。
【0029】
ホスファチジルエタノールアミン誘導体の例は、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DMPE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、ジインPE脂質、例えば1,2-ビス(10,12-トリコサジイノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン及び1-パルミトイル-2-(10,12-トリコサジイノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンなど、並びに非限定的にペプチド、タンパク質及びフルオロフォアと結合した複合ホスホエタノールアミン、例えばテキサスレッド-1,2-ジヘキサデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(TR-DHPE)などである。
【0030】
ホスファチジルセリン誘導体の例は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)である。
【0031】
ペグ化リン脂質の例は、ポリエチレングリコール(PEG)に結合した飽和及び不飽和(例えば、14:0、16:0、18:0及び18:1)のホスファチジルエタノールアミン誘導体である。ペグ化リン脂質中のPEG基は、好ましくは、200~10,000のMWを有する。ペグ化リン脂質は、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-350](DSPE-PEG350)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-550](DSPE-PEG550)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-750](DSPE-PEG750)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-1000](DSPE-PEG1000)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DSPE-PEG2000)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-3000](DSPE-PEG3000)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-5000](DSPE-PEG5000)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-350](DSPE-PEG350)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-550](DSPE-PEG550)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-750](DSPE-PEG750)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-1000](DSPE-PEG1000)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DSPE-PEG2000)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-3000](DSPE-PEG3000)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-5000](DSPE-PEG5000)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-350](DSPE-PEG350)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-550](DSPE-PEG550)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-750](DSPE-PEG750)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-1000](DSPE-PEG1000)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DSPE-PEG2000)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-3000](DSPE-PEG3000)及び1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-5000](DSPE-PEG5000)からなる群から選択され得る。
【0032】
好ましいリン脂質は、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、例えば1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DPPE-PEG2000)及び1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DOPE-PEG2000)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DPPE-PEG2000)及び1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DOPE-PEG2000)などのmPEG-リン脂質からなる群から選択される。
【0033】
より好ましくは、リン脂質は、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DSPE-PEG2000)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DPPE-PEG2000)及び1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DOPE-PEG2000)からなる群から選択される。
【0034】
一般的に、リン脂質は、それぞれ親水性の頭部及び2つの疎水性尾部を有する。リン脂質が水に曝されると、それらは、例えば、それらの尾部の全てがシートの中心に向いた2層のシート(二重層)に配列するか、又はそれらの尾部が互いの方に向いているミセルとして配列する。この二重層及びミセルの中心は、ほとんど水を含有せず、水に溶けるが、例えば油に溶けない極性分子を排除している。
【0035】
所与の温度において、リン脂質二重層は、液相又はゲル(固体)相のいずれかで存在できる。脂質は、全てゲルから液相に転移(融解)する特性温度-相転移温度を有する。いずれの相でも、リン脂質分子は、二重層を横切る垂直方向の移行がほとんど妨げられているが、液相二重層において、ある脂質は、毎秒数百万回にわたり、その隣の脂質と位置を交換するであろう。液相二重層と異なり、ゲル相二重層中のリン脂質は、運動性が非常に制限されて所定の位置に固定されている。
【0036】
リン脂質尾部は、主として二重層の相挙動を調節するが、二重層表面化学作用を決定するのは、脂質の頭部基である。リン脂質のうち、最もよく見られる頭部基は、ホスファチジルコリン(PC)である。ホスファチジルコリンは、ホスフェート基に負電荷を、且つコリンに正電荷を有するため、双性イオン頭部基であるが、これらの局所電荷は、釣り合っているため、正味の電荷は、生理学的pHで存在しない。生理学的pHで正味の電荷がない頭部基の別の例は、ホスファチジルエタノールアミンである。ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン及びホスファチジジルグリセロールなどの他の頭部基は、生理学的pHで負電荷を有する。
【0037】
その双性イオン性の性質により、ホスファチジルコリン誘導体は、好ましくは、コーティング用途に使用される。ホスファチジルコリン誘導体は、ホスファチジルコリン頭部基を有し、長さ及び飽和度などの組成が様々である天然又は合成の疎水性尾部を有し得る1種の脂質である。天然の疎水性尾部の例は、パルミトイル、オレオイル、ジフィタノイル及びミリストイルである。合成の疎水性尾部の例は、ジアセチレン性及びアクリラート含有尾部である。好ましくは、脂質溶液(A)は、基材上に脂質系コーティングを容易に形成する、融合性の(基材の表面に融合する能力)脂質ベシクルをもたらすリン脂質誘導体を含む。典型的に、融合性のベシクルは、脂質の好ましい群、すなわちホスファチジルコリン誘導体から調製することができる。
【0038】
水溶液(B)は、水と、任意選択で塩(例えば、NaCl及びCaCl2)、緩衝剤、錯化剤及び/又は水溶性医薬成分とを含む。
【0039】
好適な水溶液の例は、milliQ水、脱塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、HEPES緩衝液、食塩水である。
【0040】
水溶液(B)のpHは、4~9、好ましくは5~8の範囲である。このpH範囲外(pH4未満及びpH9超)では、所望の粒子サイズ及び分布を有する脂質ベシクルは、容易に形成されず、以下のコーティングプロセスは、最適ではない。
【0041】
水溶液(B)の温度は、0℃より高く、溶液(A)中のリン脂質の最低相転移温度も超えなければならない。水溶液(B)の温度は、一般的に、0~60℃、好ましくは10~50℃、最も好ましくは15~30℃である。
【0042】
工程IIIにおいて、水溶液(B)が撹拌されると同時に、溶液(A)は、撹拌されている溶液(B)に分注される。当業者は、基材上に脂質系コーティングを形成するのに使用され得る、40~140nmの数平均サイズを有する脂質ベシクルを含む水性分散液(C)を作るように、溶液(A)中の水混和性溶媒が溶液(B)に迅速に溶解できる限り、異なる撹拌及び分注の方法を適用できることを認識するであろう。
【0043】
水溶液(B)の撹拌は、脂質溶液(A)の迅速な分散及び水混和性溶媒の水への速い溶解を支援し、それにより脂質を含むナノ粒子が形成される(脂質ベシクルを含む水性分散液(C))。混合プロセスは、脂質が、動的光散乱によって測定された80~120nmの数平均サイズを有する脂質ベシクルを形成できるように実施しなければならない。脂質溶液(A)の高すぎる濃度、低すぎる混合速度、脂質溶液(A)の水溶液(B)への低すぎる希釈係数では、脂質粒子の凝集が起こり、不規則な形状の粒子、広いサイズ分布を有する粒子などがもたらされ得る。不規則で大きい粒子の形成は、不透明な溶液によっても観察され得るが、それは、光を散乱し、乳白色の外観を有する。数平均サイズが40~140nm、好ましくは80~120nmの小さい粒子が形成されつつあるとき、生じる分散液は、透明である。透明性は、目視により当業者によって定性的にも、600nmの波長の吸光度測定値(OD600、光学濃度)により定量的にも評価できる。
【0044】
効率的に溶液(B)を撹拌し、溶液(A)を溶液(B)に分注する例は、それぞれ撹拌プレート又はボルテックス及び溶液(A)を(B)に分注する流体装置を使用することにより実施できる。溶液(B)を撹拌することの一例は、25~1000mlの体積を、Teflonコートされた撹拌子及び磁気撹拌プレートを使用して100~600rpmで撹拌することである。水溶液(B)の撹拌は、溶液(A)を分注する前に最初に定常状態に達していなければならない。好適な流体装置の例は、溶液(A)の体積が0.1~1秒で分注されるP10、P100、P200及びP1000型のエアーディスプレイスメントマイクロピペットである。好ましくは、透明な分散液(C)は、ヒトの眼に見える粒子が事実上全くない状態で得られている。
【0045】
典型的に、分注は、溶液(B)への0.1~2mmの内径のノズルを有する分注システムにより、溶液(A)を溶液(B)に毎秒1~10mlで導入することにより実施される。
【0046】
溶液(A)は、溶液(B)に分注されるとき、溶液(B)で希釈されている。
【0047】
水溶液(B)への脂質溶液(A)の希釈係数は、利用されるプロセスの種類、脂質溶液(A)の濃度及び水溶液の種類により、100~2000の範囲であり得る。希釈係数は、水溶液(B)の総体積(溶液(A)との混合前)を、水溶液(B)中に加えられる脂質溶液(A)の体積で割ることによって計算される。単純なバッチ操作において、希釈係数は、好ましくは、500~2000又は750~1500である。例えば、マイクロ流体装置のような連続操作において、希釈係数は、より低くなることがあり、例えば100~1000又は250~800であり得る。
【0048】
これらの希釈係数において、基材上に容易に融合できる所望の脂質ベシクルが得られる。溶液(A)中のどのような脂質濃度でも希釈係数が高いと、分散液(C)中の水混和性溶媒及び脂質ベシクルの量が少なくなる。融合する能力は、分散液(C)中の脂質ベシクルの量(脂質濃度)に依存し得るが、使用される水溶液(B)にも依存する。水溶液(B)がmilliQ水のみを含有する場合、分散液(C)中の脂質濃度は、典型的に、CalCl2などの塩を含有する水溶液(B)と比べて高い。典型的に、分散液(C)中のリン脂質濃度は、0.05~2.0mg/mlである。より好ましくは、分散液(C)中のリン脂質濃度は、0.1~1.0mg/mlである。
【0049】
溶液(B)を撹拌し、溶液(A)を溶液(B)に分注することによる水性分散液(C)の調製中の温度は、0℃より高くなければならず、溶液(A)中のリン脂質の最低相転移温度も超えなければならない。温度は、一般的に、0~60℃、好ましくは10~50℃、最も好ましくは15~30℃である。
【0050】
水性分散液(C)は、溶液(A)を、撹拌されている溶液(B)に分注することの結果として調製される。典型的に、分散液(C)を調製する時間は、1~60秒である。分散液(C)が調製された後、撹拌を停止できる。
【0051】
水性分散液(C)は、少なくとも95重量%の水、より好ましくは少なくとも98重量%の水を含有する。水性分散液(C)は、溶液(A)を分注することに由来する溶媒、好ましくはアルコール、最も好ましくはエタノールも含有する。
【0052】
溶液(A)を分注することに由来する溶媒の量は、水性分散液(C)に対して好ましくは0.05体積%~1体積%、好ましくは0.1体積%~0.5体積%の範囲である。
【0053】
水性分散液(C)は、基材上に適用され得る。
【0054】
分散液(C)中の脂質ベシクルが基材上に脂質系コーティングを形成できる限り、原則的にあらゆる基材を使用できる。基材は、あらゆるサイズ及び形状の材料及び物体であり得る。基材は、ガラス、プラスチック、金属などであり得る。ガラス及びポリカプロラクトンは、例えば、特別な前処理なしに被覆できるが、一部のプラスチックは、例えば、プラズマ処理、UV-オゾン処理、自己集合単層の形成又は例えば米国特許出願公開第2008/0241942号明細書及び国際公開第2014/184383号パンフレットに記載のさらなる化学的誘導体化のような何らかの前処理を必要とすることがある。水性分散液(C)を、水溶液(B)中に存在する基材に適用して、基材上での脂質ベシクルの脂質系コーティングへの即時の融合をもたらすことができる。代わりに、生じた水性分散液(C)を希釈して又は希釈せずに基材と接触させて、基材上でのベシクルの脂質系コーティングへの即時の融合をもたらすことができる。
【0055】
本発明は、先に定義されたリン脂質を含む水性分散液(C)であって、リン脂質は、40~140nmの数平均サイズ(動的光散乱によって測定)を有するベシクルとして存在し、リン脂質濃度は、0.05~2.0mg/mlの範囲であり、分散液は、少なくとも95重量%の水を含有する、水性分散液(C)にも関する。
【0056】
リン脂質は、好ましくは、ホスファチジルコリン誘導体、ホスファチジン酸誘導体、ホスファチジルグリセロール誘導体、ホスファチジルエタノールアミン誘導体、ホスファチジルセリン誘導体、天然リン脂質誘導体、ステロール、コレステロール、デスモステロール、ラノステロール及びステロールの誘導体、ポリグリセリン-リン脂質、官能化リン脂質、末端活性化リン脂質、N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムメチル-サルフェート(DOTAP)、ペグ化リン脂質、タンパク質、ペプチド、両親媒物質、イオン性ポリマー、糖分子、酵素及び医薬成分から選択される。
【0057】
好ましくは、リン脂質ベシクルを含有する水性分散液(C)は、ホスファチジルコリン誘導体及びペグ化リン脂質を含む。より好ましくは、分散液(C)は、(総リン脂質含量の)90~95mol%の1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)又は1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)と、(総リン脂質含量の)5~10mol%のペグ化リン脂質、例えば1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DPPE-PEG2000)又は1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DOPE-PEG2000)などと、任意選択で(総リン脂質含量に対して)0~5mol%の、蛍光性コンジュゲート、タンパク質、ペプチド、両親媒物質、エチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、イオン性ポリマー、糖分子、酵素及び医薬成分から選択される添加剤とを含む脂質ベシクルを含有する。
【0058】
本発明は、コンタクトレンズ及びカテーテルなどの医療機器などであるが、これらに限定されない機器、(マイクロ)流体装置及び細胞培養装置などの研究開発ツールのコーティング、食品製造装置、医薬装置などの上に脂質系コーティングを調製する方法にも関する。
【0059】
本発明は、コンタクトレンズ、カテーテルなどの医療機器、(マイクロ)流体装置、細胞培養装置、食品製造装置、医薬装置などの上に脂質系コーティングを調製するための水性分散液(C)の使用にも関する。
【0060】
本発明は、先に定義された脂質系コーティングを有し、且つ/又は本発明の方法に従って製造された医療機器にさらに関する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】コーティングを基材に施す異なる方式を示す:方式1において、基材は、分散液(C)の形成中に存在し、基材の瞬時の被覆が起こる。方式2において、最初に分散液(C)が調製され、その後、基材が分散液に加えられ、基材の被覆が起こる。
図2】実験1~4の粒子サイズ分布を示す。
図3】実験5~8の粒子サイズ分布及び蛍光スペクトルを示す。
図4】実験9~12の粒子サイズ分布及び蛍光スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0062】
実験1(比較):
脂質系コーティングをもたらさない、水溶液(B)中の溶液(A)の高すぎる希釈係数を実証するために実験1を実施した。高すぎる希釈係数を調査するために、溶液(A)を、50mg/mlにおいて、総脂質含量の99.8mol%のDOPC(Avanti polar lipids)及び総脂質含量の0.2mol%のTR-DHPE(Thermo Fisher)を使用してエタノール(無水エタノール≧99.8%、VWR)中に調製した。溶液(A)をアルゴン下、マイクロ遠心分離容器(VWR)中において-20℃で最長6週間保存した。全脂質を粉末化ストックとして注文し、アルゴン雰囲気下に保ち、-20℃で最長1年間保存した。水溶液(B)は、pH7.4の0.1M PBS緩衝液(Sigma-Aldrich)を含んでいた。室温の1.5mLの水溶液(B)に0.75μLの溶液(A)を加え、それにより2000倍の希釈係数を使用して1mlあたり0.025mgリン脂質にした。溶液(A)の水溶液(B)への分注は、エアーディスプレイスメントP10マイクロピペット(Eppendorf)を使用して実施した。撹拌は、卓上ボルテックス(labdancer、VWR)を使用して実施した。水溶液(B)を定常状態までボルテックスにかけ、その時点で溶液(A)を1秒で分注した。生じた水性分散液(C)を、動的光散乱(DLS、Nanotrac wave、Microtrac)を使用して特性化した。平均の数重み付け直径(Mn)は、90.8±29.6nmであり、溶液は、目視観察により透明であるように見えた。96ウェルガラスボトムプレート(SensoPlates、Greiner Bio-one)のウェルごとに100μLの分散液(C)を加えた。96ウェルガラスボトムプレートを事前に300μLの2v/v% Hellmanex III(Sigma-Aldrich)のmilliQ溶液の1時間室温でのインキュベーションにより洗浄し、その後、デミ水によりすすいで、洗剤を除去した。水性分散液(C)を少なくとも5分間インキュベートしたままにして、脂質系コーティングを形成し、その後、100μLのmilliQの添加及び100μLの溶液の除去による段階希釈により、milliQにより洗浄した。少なくとも16の段階希釈を実施して、水性分散液(C)の残りを除いた。ガラス壁を、蛍光顕微鏡法を使用して特性化した。この目的のために、光源としてのXenon X-cite 120PC及び画像取込みのためのOlympus DR70デジタルカメラを備えたOlympus倒立型IX71落射蛍光リサーチ顕微鏡を使用して、蛍光顕微鏡写真を得た。TR-DHPEを、510≦λex≦550nm及びλem>590nmを利用して画像化した。蛍光退色後回復測定(FRAP)実験を実施した。FRAPを、共焦点顕微鏡(Nikon confocal A1)を使用して実施して、側方拡散係数Dにより示される脂質コーティングのシグナチャー運動性又は不動性を推測した。画像解析を、ImageJ(NIH)、Origin(OriginLab)及びExcel(Microsoft)を使用して実施した。拡散係数は、Soumpasis et al.1983により記載される通り、変形ベッセル関数を使用して推測した。データを画像取込み中の退色に関して補正し、正規化し、FRAPAnalyser(University of Luxembourg)により処理した。
【0063】
水性分散液(C)は、DLSにより示される通り正しいサイズの脂質ベシクルを含有したが、ガラス表面の蛍光実験後、脂質系コーティングは、全く見られなかった。脂質材料の濃度は、ガラス基材上に脂質系コーティングを形成するには不十分であった。
【0064】
実験2:
水溶液(B)中の溶液(A)の適切な希釈係数及び水性分散液(C)中の適切なリン脂質濃度を実証するために実験2を実施した。
【0065】
溶液(A)、水溶液(B)及びガラス基材を実験1に記載の通り調製した。水性分散液(C)の調製、水性分散液(C)のガラス基材への適用及びその特性化のプロセスは、以下の希釈係数;1000倍[水性分散液(C)中1mlあたり0.05mgリン脂質]を使用した以外、実験1に記載の通り実施した。DLS特性化は、93.6±35.7nmのMnを有する所望の脂質ベシクルが水性分散液(C)中に存在することを明らかにした。水性分散液(C)は、目視検査により透明であった。さらに、蛍光及びFRAPを使用して推測した側方運動性(D)予測値により示される通り、脂質系コーティング形成がガラス基材上に観察された。
【0066】
実験3:
水溶液(B)中の溶液(A)の適切な希釈係数及び水性分散液(C)中の適切なリン脂質濃度を実証するために実験3を実施した。
【0067】
溶液(A)、水溶液(B)及びガラス基材を実験1に記載の通り調製した。水性分散液(C)の調製、水性分散液(C)のガラス基材への適用及びその特性化のプロセスは、以下の希釈係数;500倍[水性分散液(C)中1mlあたり0.10mgリン脂質]を使用した以外、実験1に記載の通り実施した。DLS特性化は、実験3で93.0±29.6nmのMnを有する所望の脂質ベシクルが水性分散液(C)中に存在することを明らかにした。水性分散液(C)は、目視検査により透明であった。さらに、蛍光及びFRAPを使用して推測した側方運動性(D)予測値により示される通り、脂質系コーティング形成がガラス基材上に観察された。
【0068】
実験4:
水溶液(B)中の溶液(A)の適切な希釈係数及び水性分散液(C)中の適切なリン脂質濃度を実証するために実験4を実施した。
【0069】
溶液(A)、水溶液(B)及びガラス基材を実験1に記載の通り調製した。水性分散液(C)の調製、水性分散液(C)のガラス基材への適用及びその特性化のプロセスは、以下の希釈係数;200倍[水性分散液(C)中1mlあたり0.25mgリン脂質]を使用した以外、実験1に記載の通り実施した。DLS特性化は、実験4で87.3±37.4nmのMnを有する所望の脂質ベシクルが水性分散液(C)中に存在することを明らかにした。水性分散液(C)は、目視検査により透明であった。さらに、蛍光及びFRAPを使用して推測した側方運動性(D)予測値により示される通り、脂質系コーティング形成がガラス基材上に観察された。
【0070】
実験5:
水溶液(B)中の溶液(A)の適切な希釈係数及び水性分散液(C)中の適切なリン脂質濃度を実証するために実験5を実施した。
【0071】
溶液(A)、水溶液(B)及びガラス基材を実験1に記載の通り調製した。水性分散液(C)の調製、水性分散液(C)のガラス基材への適用及びその特性化のプロセスは、以下の希釈係数;100倍[水性分散液(C)中1mlあたり0.50mgリン脂質]を使用した以外、実験1に記載の通り実施した。DLS特性化は、実験5で88.5±31.5nmのMnを有する所望の脂質ベシクルが水性分散液(C)中に存在することを明らかにした。水性分散液(C)は、目視検査により透明であった。さらに、蛍光及びFRAPを使用して推測した側方運動性(D)予測値により示される通り、脂質系コーティング形成がガラス基材上に観察された。
【0072】
実験6(比較):
脂質系コーティングをもたらさない、水溶液(B)中の溶液(A)の低すぎる希釈係数を実証するために実験6を実施した。溶液(A)及びガラス基材は、実験1に記載の通り調製した。水溶液(B)は、150mM NaCl(Sigma-Aldrich)及び2mM CaCl2 pH(Sigma-Aldrich)を含有するpH7.4のHEPES緩衝液(Sigma-Aldrich)を含んでいた。水性分散液(C)の調製、水性分散液(C)のガラス基材への適用及びその特性化のプロセスは、水性分散液(C)中1mlあたり1.00mgリン脂質をもたらす50倍の希釈係数を使用した以外、実験1に記載の通り実施した。DLS特性化は、55.5±16.2nmのMnを有する脂質ベシクルが水性分散液(C)中に存在することを明らかにした。測定されたサイズ分布は、Mn80~Mn120nmの所望の範囲外であった。さらに、水性分散液(C)は、実験2~5と比べて透明性が低く見えた。結果として、蛍光の非存在により示される通り、脂質系コーティング形成は、ガラス基材上に全く観察されなかった。おそらく、低すぎる希釈係数のために、高すぎる濃度のエタノールが水性分散液(C)中に存在した。
【0073】
実験7(比較):
脂質系コーティングをもたらさない、溶液(A)中の高すぎる濃度のリン脂質を実証するために実験7を実施した。溶液(A)を、500mg/mlにおいて、総脂質含量の99.8mol%のDOPC(Avanti polar lipids)及び総脂質含量の0.2mol%のTR-DHPE(Thermo Fisher)を使用してエタノール(無水エタノール≧99.8%、VWR)中に調製した。水溶液(B)は、150mM NaCl(Sigma-Aldrich)及び2mM CaCl2 pH(Sigma-Aldrich)を含有するpH7.4の0.01M HEPES緩衝液(Sigma-Aldrich)を含んでいた。ガラス基材を実験1に記載の通り調製した。水性分散液(C)の調製、水性分散液(C)のガラス基材への適用及びその特性化のプロセスは、以下の希釈係数;10000倍[水性分散液(C)中1mlあたり0.05mgリン脂質]を使用した以外、実験1に記載の通り実施した。DLS特性化は、所望の脂質ベシクルが水性分散液(C)中に存在せず、信頼できるMnが実験7で推測できなかったことを明らかにした。結果として、蛍光の非存在により示される通り、脂質系コーティング形成は、ガラス基材上に観察されなかった。おそらく、高すぎる濃度のリン脂質が溶液(A)中に存在し、それが水混和性溶媒の適切な溶解及び所望の脂質ベシクルの形成を妨げた。
【0074】
実験8(比較):
脂質系コーティングをもたらさない、溶液(A)中の高すぎる濃度のリン脂質を実証するために実験8を実施した。溶液(A)を、500mg/mlにおいて、総脂質含量の99.8mol%のDOPC(Avanti polar lipids)及び総脂質含量の0.2mol%のTR-DHPE(Thermo Fisher)を使用してエタノール(無水エタノール≧99.8%、VWR)中に調製した。水溶液(B)は、150mM NaCl(Sigma-Aldrich)及び2mM CaCl2 pH(Sigma-Aldrich)を含有するpH7.4の0.01M HEPES緩衝液(Sigma-Aldrich)を含んでいた。ガラス基材は、実験1に記載の通り調製した。水性分散液(C)の調製、水性分散液(C)のガラス基材への適用及びその特性化のプロセスは、以下の希釈係数;5000倍[水性分散液(C)中1mlあたり0.10mgリン脂質]を使用した以外、実験1に記載の通り実施した。DLS特性化は、所望の脂質ベシクルが水性分散液(C)中に存在せず、信頼できるMnが実験8で推測できなかったことを明らかにした。結果として、蛍光の非存在により示される通り、脂質系コーティング形成は、ガラス基材上に観察されなかった。おそらく、高すぎる濃度のリン脂質が溶液(A)中に存在し、それが水混和性溶媒の適切な溶解及び所望の脂質ベシクルの形成を妨げた。
【0075】
実験9:
本発明の医療機器への適用可能性を実証するために実験9を実施した。溶液(A)及び水溶液(B)を実験3に記載の通り調製した。基材は、コンタクトレンズ医療機器であった。より具体的には、基材は、メニコンEX材料を含むRGPコンタクトレンズであった。コンタクトレンズ基材を、エタノール(無水エタノール≧99.8%、VWR)によりすすぎ、その後、milliQによりすすぐことにより洗浄した。コンタクトレンズ基材をN2ガスにより乾燥させ、200ミリトルで40ワットにおいて酸素プラズマにより(Plasma prep II、SPI supplies)60秒間処理した。水性分散液(C)を調製するプロセスは、水性分散液(C)の1mlあたりの記載されたリン脂質通りに実施した。プラズマ処理の直後に、コンタクトレンズを、配置された24ウェルプレート(Greiner Bio-one)に配置し、それに1mLの分散液(C)を加えた。水性分散液(C)をそのまま少なくとも5分間インキュベートして、脂質系コーティングを形成し、その後、1000μLのmilliQの添加及び1000μLの溶液の除去による段階希釈により、milliQにより洗浄した。少なくとも16の段階希釈を実施して、水性分散液(C)の残りを除去した。コンタクトレンズの特性化は、実験1に記載の通り実施した。DLS特性化は、107.7±44.2nmのMnを有する所望の脂質ベシクルが水性分散液(C)中に存在することを明らかにした。水性分散液(C)は、目視検査により透明であった。さらに、蛍光及びFRAPを使用して推測した側方運動性(D)予測値により示される通り、コンタクトレンズ医療機器上の脂質系コーティング形成が観察された。
【0076】
実験10:
本発明の医療機器への適用可能性を実証するために実験10を実施した。溶液(A)及び水溶液(B)を実験3に記載の通り調製した。基材は、コンタクトレンズ医療機器であった。より具体的には、基材は、メニコンZ材料を含むRGPコンタクトレンズであった。コンタクトレンズ基材を、エタノール(無水エタノール≧99.8%、VWR)によりすすぎ、その後、milliQによりすすぐことにより洗浄した。コンタクトレンズ基材をN2ガスにより乾燥させ、200ミリトルで40ワットにおいて酸素プラズマ(Plasma prep II、SPI supplies)により60秒間処理した。水性分散液(C)を調製するプロセスは、水性分散液(C)の1mlあたりの記載されたリン脂質通りに実施した。プラズマ処理の直後に、コンタクトレンズを、配置された24ウェルプレート(Greiner Bio-one)に配置し、それに1mLの分散液(C)を加えた。水性分散液(C)をそのまま少なくとも5分間インキュベートして、脂質系コーティングを形成し、その後、1000μLのmilliQの添加及び1000μLの溶液の除去による段階希釈により、milliQにより洗浄した。少なくとも16の段階希釈を実施して、水性分散液(C)の残りを除去した。コンタクトレンズの特性化は、実験1に記載の通り実施した。DLS特性化は、107.7±44.2nmのMnを有する所望の脂質ベシクルが水性分散液(C)中に存在することを明らかにした。水性分散液(C)は、目視検査により透明であった。さらに、蛍光及びFRAPを使用して推測した側方運動性(D)予測値により示される通り、コンタクトレンズ医療機器上での脂質系コーティング形成が観察された。
【0077】
実験11:
ペグ化脂質系コーティングの調製を実証するために実験11を実施した。溶液(A)及び水溶液(B)を実験6に記載の通り調製した。実験11では、溶液(A)を、50mg/mlにおいて、総脂質含量の94.5mol%のDOPC(Avanti polar lipids)、総脂質含量の5mol%のDOPE-PEG2000(Avanti polar lipids)及び総脂質含量の0.5mol%のTR-DHPE(Thermo Fisher)を使用してエタノール(無水エタノール≧99.8%、VWR)中に調製した。溶液(A)をアルゴン下、マイクロ遠心分離容器(VWR)中において-20℃で最長6週間保存した。水溶液(B)を実験3に記載の通り調製し、ガラス基材を実験1に記載の通り調製した。水性分散液(C)の調製、水性分散液(C)のガラス基材への適用及びその特性化のプロセスは、水性分散液(C)中1mlあたり0.05mgのリン脂質をもたらす1000倍の希釈係数を使用した以外、実験1に記載の通り実施した。DLS特性化は、実験11で88.6±1.1nmのMnを有する所望の脂質ベシクルが水性分散液(C)中に存在することを明らかにした。実験11の水性分散液(C)は、目視検査により透明であった。さらに、蛍光及びFRAPを使用して推測した側方運動性(D)予測値により示される通り、ガラス基材上のペグ化脂質系コーティング形成が観察された。
【0078】
実験12:
ペグ化脂質系コーティングの調製を実証するために実験12を実施した。溶液(A)及び水溶液(B)を実験6に記載の通り調製した。実験12では、溶液(A)を、50mg/mlにおいて、総脂質含量の89.5mol%のDOPC(Avanti polar lipids)、総脂質含量の10mol%のDOPE-PEG2000(Avanti polar lipids)及び総脂質含量の0.5mol%のTR-DHPE(Thermo Fisher)を使用してエタノール(無水エタノール≧99.8%、VWR)中に調製した。溶液(A)をアルゴン下、マイクロ遠心分離容器(VWR)中において-20℃で最長6週間保存した。水溶液(B)を実験3に記載の通り調製し、ガラス基材を実験1に記載の通り調製した。水性分散液(C)の調製、水性分散液(C)のガラス基材への適用及びその特性化のプロセスは、水性分散液(C)中1mlあたり0.05mgのリン脂質をもたらす1000倍の希釈係数を使用した以外、実験1に記載の通り実施した。DLS特性化は、実験12で80.4±3.6nmのMnを有する所望の脂質ベシクルが水性分散液(C)中に存在することを明らかにした。実験12の水性分散液(C)は、目視検査により透明であった。さらに、蛍光及びFRAPを使用して推測した側方運動性(D)予測値により示される通り、ガラス基材上のペグ化脂質系コーティング形成が観察された。
【0079】
【表1】
図1
図2
図3
図4