(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】レーザクリーニング装置
(51)【国際特許分類】
B08B 7/00 20060101AFI20230906BHJP
B23K 26/073 20060101ALI20230906BHJP
B23K 26/36 20140101ALI20230906BHJP
【FI】
B08B7/00
B23K26/073
B23K26/36
(21)【出願番号】P 2017236878
(22)【出願日】2017-12-11
【審査請求日】2020-11-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000198318
【氏名又は名称】株式会社IHI検査計測
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】大脇 桂
(72)【発明者】
【氏名】藤田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】川口 勲
(72)【発明者】
【氏名】海老名 信一
(72)【発明者】
【氏名】大阿見 尚弥
(72)【発明者】
【氏名】牧 聡美
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】山崎 孔徳
【審判官】関口 哲生
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-10968(JP,A)
【文献】特開2016-221561(JP,A)
【文献】特開2006-74041(JP,A)
【文献】特開2008-105096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 7/00
B23K 26/073
B23K 26/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリーニング対象部材である母材の表面をクリーニングするレーザクリーニング装置であって、
レーザ発振器と、
前記レーザ発振器からパルス発振されるレーザ光を集光して前記母材の表面上に照射しつつ走査する照射ヘッドを備え、
前記照射ヘッドには、前記レーザ発振器からパルス発振されるレーザ光をパワー密度分布がトップハット型に整形された集光ビームとするべく光学系ビーム整形手段
であるホモジナイザが位置調整機構を介して位置調整可能
で且つ着脱可能に配置されているレーザクリーニング装置。
【請求項2】
前記レーザ発振器としてファイバーレーザ発振器を用いる請求項1に記載のレーザクリーニング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、母材表面を覆う酸化被膜や塗装膜やめっき層や錆び・汚れ等の被膜を除去するのに好適なレーザクリーニング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザクリーニングは、母材表面の被膜構成物質が高エネルギー密度のレーザ光を受けることで、母材表面から蒸散する現象(レーザアブレーション)を利用したものである。
【0003】
このレーザクリーニングには、例えば、アルミニウム合金の表面を覆う酸化被膜(アルマイト)を溶接の前処理として除去する際に採用されているサンドブラストやグラインダーによる研削のような機械的除去手段と比べて、レーザ光の照射条件によっては、母材にダメージを与えずに被膜を除去することができる点や、粉じん対策を必要としない点等のメリットがある。
また、このレーザクリーニングには、上記酸化被膜を除去する際に用いられる薬剤による化学的除去手段と比べても、廃液処理を必要としないというメリットがある。
【0004】
従来、このようなレーザクリーニングに用いられるレーザクリーニング装置としては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。
このレーザクリーニング装置は、レーザ発振器と、このレーザ発振器からパルス発振されるレーザ光を集光して母材の表面上の被膜に照射しつつ走査するレーザ光走査機構を備えており、レーザ光走査機構は、モータにより回転駆動されるポリゴンミラーを具備している。
【0005】
このレーザクリーニング装置では、母材の表面上の被膜に対して、パルス発振されたレーザ光をレーザヘッドから照射しつつ一定の周波数で走査することで、母材の表面を覆う被膜、例えば、アルミニウム合金の表面を覆う酸化被膜を除去するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したレーザクリーニング装置には、まず母材の表面に被膜を残さないことが要求される。したがって、上記したレーザクリーニング装置によって被膜を除去する場合には、母材表面への入熱量を多目に設定したレーザ光照射が行われる。
【0008】
しかしながら、上記したレーザクリーニング装置により母材表面に照射されるレーザ光は、パワー密度分布が急峻な山型に整形されたガウシアンビームであるため、母材の材質によっては、均一にクリーニングし得ない可能性があるという問題を有しており、この問題を解決することが従来の課題となっている。
【0009】
本発明は、上記したような従来の課題を解決するためになされたもので、母材が金型のような均一な除去が必要な製品の場合であったとしても、母材表面にダメージを与えることなく簡単且つ確実に被膜を除去することが可能なレーザクリーニング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために成された本発明の第1の態様は、クリーニング対象部材である母材の表面をクリーニングするレーザクリーニング装置であって、レーザ発振器と、前記レーザ発振器からパルス発振されるレーザ光を集光して前記母材の表面上に照射しつつ走査する照射ヘッドを備え、前記照射ヘッドには、前記レーザ発振器からパルス発振されるレーザ光をパワー密度分布がトップハット型に整形された集光ビームとするべく光学系ビーム整形手段であるホモジナイザが位置調整機構を介して位置調整可能で且つ着脱可能に配置されている構成としている。
【0011】
また、本発明の第2の態様は、前記レーザ発振器としてファイバーレーザ発振器を用いる構成としている。
【0013】
本発明の第1の態様に係るレーザクリーニング装置では、母材表面を覆っている被膜を除去するに際して、照射ヘッドの光学系ビーム整形手段において、レーザ発振器からパルス発振されるレーザ光をパワー密度分布がトップハット型の集光ビームに整形するので、母材表面に対してパワー密度を平準化した集光ビームを走査し得ることとなる。
【0014】
つまり、母材が金型のような均一な除去が必要な製品の場合において、母材表面への入熱量を多目に設定したとしても、母材の表面にダメージを与えることがなく、その結果、取り残しのない均一なクリーニングが簡単且つ確実に成されることとなる。
【0015】
また、本発明の第2の態様に係るレーザクリーニング装置では、レーザ発振器として高品質の集光特性を有するファイバーレーザ発振器を用いているので、母材が金属である場合には、その表面におけるレーザ光の反射を防ぐための前処理(黒染色)が不要となる。
【0016】
さらに、本発明の第3の態様に係るレーザクリーニング装置では、前記光学系ビーム整形手段としてホモジナイザを採用したうえで、このホモジナイザを照射ヘッドに着脱可能に配置するようにしているので、母材表面に照射するレーザ光として、パワー密度分布を急峻な山型に整形したガウシアンビームが要求されるような場合であったとしても、柔軟に対応し得ることとなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るレーザクリーニング装置によれば、母材が金型のような均一な除去が必要な製品の場合であっとしても、母材表面にダメージを与えることなく簡単且つ確実に被膜を除去することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るレーザクリーニング装置の概略構成説明図である。
【
図2】
図1におけるレーザクリーニング装置のレーザヘッドを詳細に示す部分斜視説明図である。
【
図3】
図1におけるレーザクリーニング装置のレーザヘッドにレーザ光が入射する際の入射レーザパワー密度分布を示すグラフである。
【
図4】
図1のホモジナイザ使用モードにおけるレーザクリーニング装置のレーザヘッドから出射するレーザ光の出射レーザパワー密度分布を示すグラフ(a)及び正方形均一密度分布説明図(b)である。
【
図5】
図1のホモジナイザ不使用モードにおけるレーザクリーニング装置のレーザヘッドから出射するレーザ光の出射レーザパワー密度分布を示すグラフ(a)及び円形均一密度分布説明図(b)である。
【
図6】
図1のレーザクリーニング装置によってホモジナイザ使用モードでクリーニングを行った試験片の表面外観拡大写真(a)及びホモジナイザ不使用モードでクリーニングを行った試験片の表面外観拡大写真(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1及び
図2は、本発明の一実施形態に係るレーザクリーニング装置を示しており、この実施形態では、本発明に係るレーザクリーニング装置のビームプロファイルを示すために、アクリル樹脂に対してレーザ光を照射する場合を例に挙げて説明する。
【0020】
図1に概略的に示すように、このレーザクリーニング装置1は、クリーニング対象部材である平板(母材)Wの表面Waをクリーニングするものであって、ファイバーレーザ発振器2と、このファイバーレーザ発振器2に対して光ファイバ3及びコネクタ4を介して接続された照射ヘッド10を備えている。この照射ヘッド10では、ファイバーレーザ発振器2からパルス発振されるレーザ光Lを集光して平板Wの表面Wa上に照射しつつ走査するようになっている。
【0021】
照射ヘッド10は、この照射ヘッド10内において平行な入射レーザ光L1が得られるように収差補正されたコリメートレンズ12と、このコリメートレンズ12を通過した平行な入射レーザ光L1をパワー密度分布がトップハット型に整形された集光ビームL2とするホモジナイザ(光学系ビーム整形手段)13を具備している。
【0022】
また、照射ヘッド10は、ホモジナイザ13を通過した集光ビームL2を走査するガルバノミラー14と、このガルバノミラー14で走査された集光ビームL2を平板Wの表面Wa上で等速走査させる機能を有するFθレンズ15を具備しており、コリメートレンズ12,ガルバノミラー14及びFθレンズ15は、いずれもベースプレート11上に固定されている。
【0023】
この場合、ベースプレート11上におけるコリメートレンズ12及びホモジナイザ13の間には、
図2に示すように、入射レーザ光L1の角度を変えるベンドミラー16が配置されており、ホモジナイザ13は、ベースプレート11上において、位置調整機構17を介して位置調整可能で且つ着脱可能に固定されている。
【0024】
ここで、コリメートレンズ12を通過した入射レーザ光L1の入射レーザパワー密度分布は、
図3のグラフに示すように、なだらかな山型を成している。このような入射レーザパワー密度分布の入射レーザ光L1がホモジナイザ13を通過すると、
図4(a)のグラフに示すように、出射パワー密度分布(焦点強度分布)がトップハット型を成す集光ビームL2に整形される。
【0025】
つまり、光学系ビーム整形手段としてのホモジナイザ13は、このホモジナイザ13をベースプレート11に固定したホモジナイザ使用モードにおいて、コリメートレンズ12を通過した入射レーザ光L1を、
図4(b)に示すように、正方形均一密度分布の集光ビームL2に整形するものとなっており、このように整形された集光ビームL2は、Fθレンズ15により平板Wの表面Wa上に等速走査されるようになっている。
【0026】
一方、照射ヘッド10に着脱可能に固定されたホモジナイザ13をベースプレート11から取り外したホモジナイザ不使用モードでは、コリメートレンズ12を通過した入射レーザ光L1がFθレンズ15を通過した時点で、
図5(a)のグラフに示すように、出射パワー密度分布がガウシアン型(急峻な山型)を成す集光ビームL3となる。
【0027】
すなわち、ホモジナイザ不使用モードでは、
図5(b)に示すように、入射レーザ光L1を円形均一密度分布の集光ビームL3にして、平板Wの表面Wa上に等速走査するようになっている。
【0028】
この実施形態のレーザクリーニング装置1において、クリーニング対象部材である平板Wの表面Waを覆っている被膜Sを除去するに際しては、まず、ホモジナイザ使用モードを選択してクリーニングを開始する。
【0029】
このホモジナイザ使用モードでは、照射ヘッド10のホモジナイザ13が、ファイバーレーザ発振器2からパルス発振されてコリメートレンズ12を通過した平行な入射レーザ光L1を、パワー密度分布(焦点強度分布)がトップハット型の集光ビームL2に整形する。
【0030】
そして、パワー密度分布がトップハット型を成すように整形された集光ビームL2を照射ヘッド10のFθレンズ15により平板Wの表面Wa上に等速走査して、平板Wの表面Waを覆っている被膜Sを除去する。
【0031】
つまり、平板Wの表面Waに対して、焦点のパワー密度を平準化した集光ビームL2を走査し得ることになるので、この実施形態のように、平板Wがアクリル樹脂から成っている場合において、平板Wの表面Waへの入熱量を多目に設定したとしても、平板Wの表面Waにダメージを与えることがなく、その結果、取り残しのない均一なクリーニングが簡単且つ確実に成されることとなる。
【0032】
また、この実施形態のレーザクリーニング装置1では、レーザ発振器として高品質の集光特性を有するファイバーレーザ発振器2を用いているので、このレーザクリーニング装置1により金属製の母材の表面を覆っている被膜を除去する場合には、その表面におけるレーザ光の反射を防ぐための前処理(黒染色)が不要となる。
【0033】
さらに、この実施形態のレーザクリーニング装置1では、光学系ビーム整形手段としてホモジナイザ13を採用したうえで、このホモジナイザ13を照射ヘッド10のベースプレート11に着脱可能に固定するようにしている。
【0034】
したがって、ホモジナイザ13をベースプレート11から取り外すホモジナイザ不使用モードを選択すれば、コリメートレンズ12を通過した入射レーザ光L1を出射パワー密度分布がガウシアン型(急峻な山型)の集光ビームL3にして、母材の表面上に等速走査し得るので、母材の表面に照射するレーザ光として、出射パワー密度分布がガウシアン型の集光ビームが要求されるような場合に柔軟に対応し得ることとなる。
【0035】
そこで、対象部材としてアクリル樹脂から成る試験片を用意し、この試験片に対して、上記レーザクリーニング装置1により、ホモジナイザ使用モード及びホモジナイザ不使用モードによるビームプロファイルの計測をそれぞれ実施した。
【0036】
この際、ホモジナイザ使用モード及びホモジナイザ不使用モードのいずれのモードも、パルス発振されるレーザ光のパルス周波数を50kHz、レーザ出力を100%、走査速度を100Hz、照射幅を30mmとしてビームプロファイルの計測を実施した。
【0037】
図6(a)は、上記レーザクリーニング装置1によってホモジナイザ使用モードでレーザクリーニングを行った試験片の表面外観拡大写真であり、この表面外観拡大写真の下半分はレーザ光未照射の試験片の表面を示している。
一方、
図6(b)は、上記レーザクリーニング装置1によってホモジナイザ不使用モードでレーザクリーニングを行った試験片の表面外観拡大写真であり、この表面外観拡大写真の下半分もレーザ光未照射の試験片の表面を示している。
【0038】
図6(a)の表面外観拡大写真に示すように、ホモジナイザ使用モードでは、レーザクリーニングを行った表面外観拡大写真の上半分は、レーザ光未照射の下半分と比べて被膜が良好に除去されていることが判った。
【0039】
一方、
図6(b)の表面外観拡大写真に示すように、ホモジナイザ不使用モードでは、レーザクリーニングを行った表面外観拡大写真の上半分は、レーザ光未照射の下半分と比べて被膜が概ね除去されているものの、出射パワー密度分布がガウシアン型(急峻な山型)の集光ビームL3を走査しているため、試験片の表面がダメージを受けていることが判った。
【0040】
したがって、この実施形態に係るレーザクリーニング装置1では、ホモジナイザ使用モードを選択することで、試験片への入熱量を多目に設定したとしても、試験片の表面にダメージを与えることなく、取り残しのない均一なクリーニングを簡単且つ確実に行い得ることが実証できた。
【0041】
本発明に係るレーザクリーニング装置の構成は、上記した実施形態に限られるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 レーザクリーニング装置
2 ファイバーレーザ発振器(レーザ発振器)
10 照射ヘッド
13 ホモジナイザ(光学系ビーム整形手段)
L レーザ光
L1 入射レーザ光
L2 集光ビーム
W 平板(母材)
Wa 平板の表面