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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20230906BHJP
   C08L 15/02 20060101ALI20230906BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20230906BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L15/02
C08K5/17
C08K5/13
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019122657
(22)【出願日】2019-07-01
(65)【公開番号】P2021008558
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】酒井 智行
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】特公昭49-007053(JP,B2)
【文献】特許第4711710(JP,B2)
【文献】特開2012-184336(JP,A)
【文献】特開2014-162894(JP,A)
【文献】特開平03-041135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100質量部に、トコフェロール、トコトリエノールおよびこれらの酢酸エステル、ニコチン酸エステル、リン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1つのトコフェロール化合物をMb質量部と、1級アミノ基を有する1級アミン化合物をMa質量部配合してなり、前記1級アミン化合物の配合量(Ma)と前記トコフェロール化合物の配合量(Mb)の比(Ma/Mb)が0.5~5.0であり、前記ゴム成分が、ジエン系ゴムおよび/またはハロゲン化ブチルゴムの合計100質量部からなり、前記ゴム成分100質量部に対し、前記トコフェロール化合物を0.1~5.0質量部配合してなることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記1級アミン化合物が、その分子内に少なくとも2つの1級アミノ基を有することを特徴する請求項に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記1級アミン化合物の重量平均分子量が、100~3000であることを特徴とする請求項1または2に記載のゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸化老化防止性能に優れたゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤなどのゴム製品には、耐酸化老化防止性能に優れることが不可欠である。しかし、芳香族第2級アミン系老化防止剤に代表される老化防止剤は、化石資源を原料として生産されるため、大量の熱や二酸化炭素が排出されるので地球環境への影響が懸念される。このため、特許文献1は、芳香族第2級アミン系老化防止剤とトコフェロールを併用したゴム組成物を提案し、特許文献2は、ユビキノールおよび/またはユビキノンを、任意に芳香族第2級アミン系老化防止剤、ビタミンE、ビタミンCと共に配合したゴム組成物を提案する。
【0003】
しかし、特許文献1,2に記載されたゴム組成物の耐酸化老化防止性能は、芳香族第2級アミン系老化防止剤を配合したゴム組成物の耐酸化老化防止性能と共に、未だ改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4711710号公報
【文献】特許第5485841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐酸化老化防止性能を従来レベル以上に改良したゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のゴム組成物は、ゴム成分100質量部に、トコフェロール、トコトリエノールおよびこれらの酢酸エステル、ニコチン酸エステル、リン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1つのトコフェロール化合物をMb質量部と、1級アミノ基を有する1級アミン化合物をMa質量部配合してなり、前記1級アミン化合物の配合量(Ma)と前記トコフェロール化合物の配合量(Mb)の比(Ma/Mb)が0.5~5.0であり、前記ゴム成分が、ジエン系ゴムおよび/またはハロゲン化ブチルゴムの合計100質量部からなり、前記ゴム成分100質量部に対し、前記トコフェロール化合物を0.1~5.0質量部配合してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分に、トコフェロール化合物および1級アミン化合物を特定の比で配合したので、ゴム組成物の耐酸化老化防止性能を従来レベル以上に向上することができる。
【0009】
前記1級アミン化合物は、その分子内に少なくとも2つの1級アミノ基を有することができる。また前記1級アミン化合物の重量平均分子量は100~3000であるとよい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のゴム組成物を組成するゴム成分は、ジエン系ゴムおよび/またはハロゲン化ブチルゴムの合計100質量部からなる。ジエン系ゴムは、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ブチルゴム、スチレン-イソプレン共重合ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合ゴム、溶液重合スチレン-ブタジエン-イソプレンランダム共重合ゴム、乳化重合スチレン-ブタジエン-イソプレンランダム共重合ゴム、乳化重合スチレン-アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体等を挙げることができる。なかでも天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴムがよい。これらのジエン系ゴムは、単独あるいは複数を組合わせて含有することができる。また、ハロゲン化ブチルゴムは、例えば塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、ヨウ素化ブチルゴムが挙げられる。
【0011】
ゴム組成物において、トコフェロール化合物および1級アミン化合物を老化防止剤としてジエン系ゴムに配合する。本明細書において、トコフェロール化合物は、トコフェロールおよびその誘導体から選ばれる少なくとも1つである。また、1級アミン化合物は、1級アミノ基を有する化合物である。
【0012】
トコフェロール化合物を配合することにより、ゴム成分の酸化に伴い発生するラジカルを補足し、酸化劣化が連鎖的に進行するのを防ぐことができる。トコフェロールとして、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール、およびこれらの複数の組合せが挙げられる。また、トコフェロールの誘導体として、α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、δ-トコトリエノールおよびこれらの複数の組合せ、4種(α,β,γ,δ)のトコフェロールおよび4種(α,β,γ,δ)のトコトリエノールの酢酸エステル、ニコチン酸エステル、リン酸エステルなどが挙げられる。
【0013】
トコフェロールは、ゴム成分100質量部に対し、好ましくは0.1~5.0質量部、より好ましくは0.2~3.0質量部配合するとよい。トコフェロールを0.1質量部以上配合することにより、ラジカルを補足し、酸化劣化が連鎖的に進行するのを防ぐことができる。また、トコフェロールを5.0質量部以下配合することにより、ゴムの力学物性の低下を抑制することができる。
【0014】
一方、1級アミン化合物は、ゴム成分の酸化に伴い発生するアルデヒド基を有するゴム分解成分に反応し、この反応で生成した二次生成物が、抗酸化作用を有し、ゴム組成物の耐酸化老化性能を改良すると考えられる。更に、この二次生成物は、ラジカルを補足し酸化したトコフェロール化合物を還元し、元のトコフェロール化合物に再生することが期待される。
【0015】
1級アミン化合物は、1級アミノ基を1つ以上有する化合物であり、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上1級アミノ基を有するとよい。1級アミン化合物として、例えばアルキルアミン、アルキレンジアミン、アルキレントリアミン、アルキレンテトラアミン、ポリエチレンイミン、等を挙げることができる。好ましくは、炭素数5~30のアルキルアミン、炭素数5~30のアルキレンジアミン、炭素数5~200の直鎖状または分岐状ポリエチレンイミン、炭素数5~30のアルキレントリアミン、炭素数5~30のアルキレンテトラアミン、等が挙げられ、より好ましくは、炭素数5~20のアルキルアミン、炭素数5~20のアルキレンジアミン、炭素数10~200の直鎖状または分岐状ポリエチレンイミン、炭素数5~20のアルキレントリアミン、炭素数5~20のアルキレンテトラアミン、が例示される。アルキルアミンとしては、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン等、アルキレンジアミンとしては、ブチレンジアミン、ペンチレンジアミン、ヘキシレンジアミン、等を挙げることができる。また、ポリエチレンイミンとしては、重量平均分子量が100~3000で、1級アミノ基を3つ以上有する直鎖状または分岐状ポリエチレンイミンを挙げることができる。
【0016】
1級アミン化合物は、好ましくは20℃で固体であり、その融点が好ましくは100℃~150℃、より好ましくは110℃~140℃であるとよい。1級アミン化合物の融点を100℃以上にすることにより、低温でスコーチすることを抑制できる。また融点を150℃以下にすることにより、混合中に融解し混ざりやすくなる。
【0017】
1級アミン化合物の配合量は、後述する1級アミン化合物とトコフェロール化合物の配合量の比(Ma/Mb)およびトコフェロール化合物の配合量から決めることができる。
【0018】
トコフェロール化合物および1級アミン化合物は、ゴム成分100質量部に対し、トコフェロール化合物の配合量をMb質量部、1級アミン化合物の配合量をMa質量部とするとき、1級アミン化合物の配合量(Ma)とトコフェロール化合物の配合量(Mb)の比(Ma/Mb)が0.5~5.0であるようにする。比(Ma/Mb)が0.5未満であると、アミンを加えたことによる効果が十分得られない。また比(Ma/Mb)が5.0を超えると、過剰なアミン化合物によるスコーチしやすく、また加硫反応も安定しなくゴムがもろくなるになる。比(Ma/Mb)は、好ましくは0.5~3.0、より好ましくは0.5~2.0にするとよい。
【0019】
本発明のゴム組成物は、補強性充填剤を含むことができる。補強性充填剤としては、例えばカーボンブラック、シリカ、クレイ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、タルク、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸バリウム等の無機フィラーや、セルロース、レシチン、リグニン、デンドリマー等の有機フィラーを例示することができる。なかでもカーボンブラック、シリカから選ばれる少なくとも1種を配合することが好ましい。これら補強性充填剤は、単独でまたは複数を組合わせて配合することができる。
【0020】
またゴム組成物には、常法に従って、加硫剤または架橋剤、加硫促進剤、シランカップリング剤、プロセスオイル、軟化剤、加工助剤、可塑剤、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などゴム組成物に一般的に使用される各種配合剤を配合することができる。これらの配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0021】
ゴム組成物を製造する方法として、加硫系配合剤を除く配合剤並びにジエン系ゴム、トコフェロール化合物および1級アミン化合物をバンバリーミキサー、ニーダー、オープンロールなどのゴム混練機を用いて混練した後、冷却してから加硫系配合剤を混合することにより未加硫のゴム組成物を調製することができる。得られた未加硫のゴム組成物を、空気入りタイヤ等のゴム製品或いはその部材の形状に合わせて押出し成形し、これを加硫機中で加硫成形することにより加硫したゴム製品(ゴム硬化物)が製造される。
【0022】
本発明のゴム組成物を硫黄で架橋してなるゴム硬化物は、通常のゴム製品、特に空気入りタイヤやコンベアベルトを構成する部材として好適に使用することができる。本発明のゴム組成物からなるゴム硬化物は、芳香族第2級アミン系老化防止剤を配合したゴム組成物の硬化物と同等以上の優れた耐酸化老化防止性能を有する。
【0023】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0024】
実施例1~5
表1に示す組成からなるゴム組成物について、硫黄および加硫促進剤を除く成分を、1.7Lの密閉式バンバリーミキサーを用いて6分間混合し、150℃でミキサーから放出後、室温まで冷却した。その後、再度1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーを用いて3分間混合し、放出後、オープンロールにて硫黄および加硫促進剤を混合することにより10種類のゴム組成物(実施例1~5、比較例1~5)を調製した。
【0025】
得られたゴム組成物を所定のモールドを用いて、160℃で30分間加硫して加硫ゴムシートを作製した。得られた加硫ゴムシートを使用し、熱老化処理の有無による引張り特性(100%引張応力)の変化を以下の方法で測定し耐酸化老化防止性能を評価した。また加硫ゴムシートの耐クラック成長試験を以下の方法で評価した。
【0026】
耐酸化老化防止性能(熱老化処理の有無による引張応力の変化率)
得られた加硫ゴム試験片を使用し、JIS K6251に準拠して、ダンベルJIS3号形試験片を作製し、熱老化処理(80℃、168時間)を行った試験片と測定環境に静置した試験片を準備した。得られた試験片を用い、室温(20℃)で500mm/分の引張り速度で引張り試験を行い、100%伸長時の100%引張応力を測定した。得られた結果から、熱老化処理を行っていない試験片の100%引張応力をT0、熱老化処理(80℃、168時間)を行った試験片の100%引張応力をT1とし、熱老化処理の有無による引張応力の変化率Δ=(T1-T0)/T0×100[%]を算出し、表1に示した。この引張応力の変化率Δが小さいほど、耐酸化老化防止性能が優れることを意味する。
【0027】
耐クラック成長試験
JIS K6260に準拠してクラック成長試験を行った。150mm×25mmの6.3mm厚さの短冊の中央に曲率半径2.38mmの傷をつけた試験片を使用した。温度23℃にてストローク40mmで、毎分300±10回の屈曲を、1万回、3万回、5万回および10万回行ったとき、亀裂が成長した長さ(mm)を測定し、表1に示した。
【0028】
【表1】
【0029】
表1に記載された化合物は以下の通りである。
-天然ゴム:TSR
-カーボンブラック:新日化カーボン社製ニテロン#10S
-トコフェロール化合物:関東化学社製α-トコフェロール
-1級アミン化合物A:東京化成工業社製1,4-ブチレンジアミン、沸点158~160℃
-1級アミン化合物B:富士フイルム和光純薬株式会社製ポリエチレンイミン、重量平均分子量1500
-1級アミン化合物C:富士フイルム和光純薬株式会社製ポリエチレンイミン、重量平均分子量が600
-芳香族2級アミン化合物:N-フェニル-N'-(1,3-ジメチルブチル)-1,4-フェニレンジアミン、Solutia Euro社製Santoflex 6PPD
-酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
-ステアリン酸:日油社製ステアリン酸
-硫黄:軽井沢精錬所製油処理硫黄
-加硫促進剤:三新化学社製サンセラーCM-PO(CZ)
【0030】
表1から明らかなように、本発明にかかる実施例1~5のゴム組成物は、芳香族2級アミン化合物(6PPD)を配合した比較例2のゴム組成物に対し、同等以上の耐酸化老化防止性能、および耐クラック成長性を有することが認められた。
【0031】
比較例3のゴム組成物は、1級アミン化合物を配合しないので、耐酸化老化防止性能が比較例2のゴム組成物に比べ劣る。
比較例4のゴム組成物は、1級アミン化合物の代わりに芳香族2級アミン化合物を配合したが、耐酸化老化防止性能および耐クラック成長性が、比較例2のゴム組成物に比べ劣る。
比較例5のゴム組成物は、トコフェロール化合物を配合しないので、耐酸化老化防止性能および耐クラック成長性が比較例2のゴム組成物に比べ劣る。