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特許7343759材料パラメータ算出方法、材料パラメータ算出装置、および構造体のシミュレーション方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】材料パラメータ算出方法、材料パラメータ算出装置、および構造体のシミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/00 20060101AFI20230906BHJP
   G06F 30/20 20200101ALN20230906BHJP
【FI】
G01L1/00 M
G06F30/20
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019133415
(22)【出願日】2019-07-19
(65)【公開番号】P2021018127
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】前田 成人
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-185042(JP,A)
【文献】特開2017-096871(JP,A)
【文献】特開2018-084471(JP,A)
【文献】特開2011-225057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00
G06F 30/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料の力学特性を定める材料パラメータの値をコンピュータが算出する材料パラメータ算出方法であって、
コンピュータが、材料に与えるひずみ変形様式を複数設定し、材料のひずみ変形様式に応じて定まるひずみとひずみの第1不変量との間の関係を用いて、前記ひずみ変形様式毎のひずみの値と前記第1不変量の値との間の数値の対応関係を、前記ひずみ変形様式毎に作成するステップと、
前記材料のひずみエネルギーポテンシャルの前記第1不変量に関する偏微分値を前記第1不変量により表した微分データと、前記ひずみ変形様式毎の前記対応関係と、前記ひずみ変形様式毎のひずみの値及び応力の値と前記偏微分値との間の関係と、を用いて、前記ひずみ変形様式毎の前記ひずみの値に対応する応力の値を前記コンピュータが算出することにより、前記コンピュータが、前記ひずみ変形様式毎のひずみの値に対する応力の値を表した特性データを算出するステップと、
設定した複数の前記ひずみ変形様式の前記特性データを用いて、前記コンピュータが、前記材料の力学特性を表すことができるひずみエネルギーポテンシャル関数で用いる材料パラメータの値を算出するステップと、
を備えることを特徴とする材料パラメータ算出方法。
【請求項2】
設定される前記ひずみ変形様式は、一方向に伸張し、前記一方向に直交する方向の変形を拘束しない一軸伸張の変形様式を含む、請求項1に記載の材料パラメータ算出方法。
【請求項3】
コンピュータが、材料の力学特性を定める材料パラメータの値を算出する材料パラメータ算出方法であって、
コンピュータが、材料の第1のひずみ変形様式におけるひずみの値に対する応力の値を表した第1の特性データを取得するステップと、
前記第1のひずみ変形様式におけるひずみとひずみの第1不変量との間の関係と、前記第1のひずみ変形様式のひずみの値及び応力の値と前記材料のひずみエネルギーポテンシャルの第1不変量に関する偏微分値との間の関係と、を用いて、前記第1の特性データから、前記偏微分値を前記第1不変量によって表わした微分データを前記コンピュータが算出するステップと、
前記コンピュータが、材料の少なくとも1つの第2のひずみ変形様式を設定し、前記第2のひずみ変形様式に応じて定まるひずみとひずみの第1不変量との間の関係を用いて、前記第2のひずみ変形様式におけるひずみの値と、ひずみの第1不変量の値との間の数値の対応関係を作成するステップと、
前記微分データと、前記対応関係と、前記第2のひずみ変形様式のひずみ及び応力と前記微分値との間の関係と、を用いて、前記第2のひずみ変形様式におけるひずみの値に対応する応力の値を、前記コンピュータが算出することにより、前記コンピュータが、前記第2のひずみ変形様式のひずみの値に対する応力の値を表した第2の特性データを算出するステップと、
前記第1のひずみ変形様式の前記第1の特性データと、前記第2のひずみ変形様式における前記第2の特性データを用いて、前記コンピュータが、前記材料の力学特性を表すことができるひずみエネルギーポテンシャル関数で用いる材料パラメータの値を算出するステップと、
を備えることを特徴とする材料パラメータ算出方法。
【請求項4】
前記第1のひずみ変形様式は、一方向に伸張し、前記一方向に直交する方向の変形を拘束しない一軸伸張の変形様式である、請求項3に記載の材料パラメータ算出方法。
【請求項5】
前記第1の特性データは、荷重負荷過程及び荷重除去過程の両方の過程を含むデータである、請求項3または4に記載の材料パラメータ算出方法。
【請求項6】
前記第1の特性データは、ひずみ伸張比を一定にして応力が時間的に変化する応力緩和過程、あるいは、応力を一定にしてひずみ伸張比が時間的に変化するクリープ変形過程を含むデータである、請求項3または4に記載の材料パラメータ算出方法。
【請求項7】
前記材料パラメータは、前記材料のひずみエネルギーポテンシャルを、前記ひずみの伸張比あるいはひずみの第2不変量の関数として表されるひずみエネルギーポテンシャル関数で用いるパラメータである、請求項1~6のいずれか1項に記載の材料パラメータ算出方法。
【請求項8】
前記材料パラメータは、前記材料の粘弾性特性を表したモデルのパラメータである、請求項1~7のいずれか1項に記載の材料パラメータ算出方法。
【請求項9】
前記材料は、ゴムである、請求項1~8のいずれか1項に記載の材料パラメータ算出方法。
【請求項10】
コンピュータが、構造体の力学挙動をシミュレーションする構造体のシミュレーション方法であって、
コンピュータが、構造体のシミュレーションモデルに含まれる、前記構造体を構成する材料の材料モデルに対して、請求項1~9のいずれか1項に記載の材料パラメータ算出方法で算出した材料パラメータの値を付与して前記シミュレーションモデルを作成するステップと、
前記コンピュータが、前記シミュレーションモデルに所定の条件を与えて構造体の力学挙動をシミュレーションするステップと、
を備えることを特徴とする構造体のシミュレーション方法。
【請求項11】
材料の力学特性を定める材料パラメータの値を算出する、コンピュータで構成された材料パラメータ算出装置であって、
材料に与えるひずみ変形様式を複数設定し、材料のひずみ変形様式に応じて定まるひずみとひずみの第1不変量との間の関係を用いて、前記ひずみ変形様式毎のひずみの値と前記第1不変量の値と間の数値の対応関係を、前記ひずみ変形様式毎に作成する対応関係作成部と、
前記材料のひずみエネルギーポテンシャルの前記第1不変量に関する偏微分値を前記第1不変量により表した微分データを記憶保持する記憶部と、
記憶した前記微分データと、前記ひずみ変形様式毎の前記対応関係と、前記ひずみ変形様式毎のひずみ及び応力と前記偏微分値との間の関係と、を用いて、前記ひずみ変形様式毎の前記ひずみの値に対応する応力の値を算出することにより、前記ひずみ変形様式毎のひずみの値に対する応力の値を表した特性データを算出する特性データ算出部と、
前記ひずみ変形様式毎の前記特性データを用いて、前記コンピュータが、前記材料の力学特性を表すことができるひずみエネルギーポテンシャル関数で用いる材料パラメータの値を算出する材料パラメータ算出部と、
を備えることを特徴とする材料パラメータ算出装置。
【請求項12】
材料の力学特性を定める材料パラメータの値を算出する、コンピュータで構成された材料パラメータ算出装置であって、
材料の第1のひずみ変形様式におけるひずみの値に対する応力の値を表した第1の特性データを取得する取得部と、
前記第1のひずみ変形様式におけるひずみとひずみの第1不変量との間の関係と、前記第1のひずみ変形様式のひずみの値及び応力の値と前記材料のひずみエネルギーポテンシャルの第1不変量に関する偏微分値との間の関係と、を用いて、前記第1の特性データから、前記材料のひずみエネルギーポテンシャルの前記第1不変量に関する偏微分値を前記第1不変量によって表わした微分データを算出する微分データ算出部と、
前記材料の少なくとも1つの第2のひずみ変形様式を設定し、前記第2のひずみ変形様式に応じて定まるひずみとひずみの第1不変量との間の関係を用いて、前記第2のひずみ変形様式におけるひずみの値と前記第1不変量の値との間の数値の対応関係を作成する対応関係作成部と、
前記微分データと、前記対応関係と、前記第2のひずみ変形様式のひずみの値及び応力の値と前記微分データとの間の関係と、を用いて、前記第2のひずみ変形様式におけるひずみの値に対応する応力の値を算出することにより、前記第2のひずみ変形様式のひずみの値に対する応力の値を表した第2の特性データを算出する特性データ算出部と、
前記第1のひずみ変形様式の前記第1の特性データと、前記第2のひずみ変形様式における前記第2の特性データを用いて、前記材料の力学特性を表すことができるひずみエネルギーポテンシャル関数で用いる材料パラメータの値を算出する材料パラメータ算出部と、
を備えることを特徴とする材料パラメータ算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の力学特性を定める材料パラメータの値をコンピュータが算出する材料パラメータ算出方法、材料の力学特性を定める材料パラメータの値を算出する、コンピュータで構成された材料パラメータ算出装置、および上記算出方法を用いて算出された材料パラメータの値を用いて構造体の力学挙動のシミュレーションを行う構造体のシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、構造体の力学挙動をシミュレーションする際に、有限要素法等を用いた構造体の離散化モデルが用いられる。例えば、ゴム製品や樹脂製品等の構造体のシミュレーションを行う場合、ゴムや樹脂等の粘弾性特性を有する材料特性を定める材料定数や材料パラメータの値を設定する必要がある。このため、材料定数や材料パラメータの値を、実際の材料に適するようにシミュレーションの前に、決定することが求められる。
【0003】
例えば、超弾性モデルの材料パラメータを同定するために、応力とひずみとの間の関係を、一軸伸長条件と一軸拘束一軸伸長条件と二軸均等伸長条件との3条件で実測して求め、これらの3条件での実測値に基づき、Ogdenモデルなどの超弾性モデルを用いたフィッティングを行うことにより、超弾性モデルの材料パラメータを同定することが行われている。
これに対して、設定する材料パラメータの値の精度向上のために、一軸伸長条件での応力とひずみの関係の実測値と、一軸拘束一軸伸長条件での応力とひずみの関係の実測値と、二軸均等伸長条件での応力とひずみの関係の実測値と、二軸不均等伸長条件での応力とひずみの関係の実測値を得た後、得られた各条件の実測値に対する超弾性モデルを用いたフィッティングにより超弾性モデルの材料パラメータの値を算出する技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-84471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記技術では、算出する材料パラメータの値が、超弾性モデルの材料パラメータの値に制限されるほか、二軸不均等伸長条件の実測値を得るために二軸不均等伸長の実験を行う必要がある。二軸不均等伸長の実験では、二軸方向に個別の伸張条件で伸張するので、実験の工数が増大し、処理が煩雑になる。このため、実験の工数を増やすことなく容易に材料パラメータの値を算出することはできない。
【0006】
そこで、本発明は、材料の力学特性を定める材料パラメータの値をコンピュータが算出する際に、材料パラメータの値を容易にしかも精度よく算出することができる材料パラメータ算出方法および材料パラメータ算出装置を提供するとともに、算出された材料パラメータの値を用いて構造体の力学挙動のシミュレーションを行う構造体のシミュレーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、材料の力学特性を定める材料パラメータの値をコンピュータが算出する材料パラメータ算出方法であって、
コンピュータが、材料に与えるひずみ変形様式を複数設定し、材料のひずみ変形様式に応じて定まるひずみとひずみの第1不変量との間の関係を用いて、前記ひずみ変形様式毎のひずみの値と前記第1不変量の値との間の数値の対応関係を、前記ひずみ変形様式毎に作成するステップと、
前記材料のひずみエネルギーポテンシャルの前記第1不変量に関する偏微分値を前記第1不変量により表した微分データと、前記ひずみ変形様式毎の前記対応関係と、前記ひずみ変形様式毎のひずみの値及び応力の値と前記偏微分値との間の関係と、を用いて、前記ひずみ変形様式毎の前記ひずみの値に対応する応力の値を前記コンピュータが算出することにより、前記コンピュータが、前記ひずみ変形様式毎のひずみの値に対する応力の値を表した特性データを算出するステップと、
設定した複数の前記ひずみ変形様式の前記特性データを用いて、前記コンピュータが、前記材料の力学特性を表すことができるひずみエネルギーポテンシャル関数で用いる材料パラメータの値を算出するステップと、
を備える。
【0008】
設定される前記ひずみ変形様式は、一方向に伸張し、前記一方向に直交する方向の変形を拘束しない一軸伸張の変形様式を含む、ことが好ましい。
【0009】
本発明の他の一態様は、コンピュータが、材料の力学特性を定める材料パラメータの値を算出する材料パラメータ算出方法であって、
コンピュータが、材料の第1のひずみ変形様式におけるひずみの値に対する応力の値を表した第1の特性データを取得するステップと、
前記第1のひずみ変形様式におけるひずみとひずみの第1不変量との間の関係と、前記第1のひずみ変形様式のひずみの値及び応力の値と前記材料のひずみエネルギーポテンシャルの第1不変量に関する偏微分値との間の関係と、を用いて、前記第1の特性データから、前記偏微分値を前記第1不変量によって表わした微分データを前記コンピュータが算出するステップと、
前記コンピュータが、材料の少なくとも1つの第2のひずみ変形様式を設定し、前記第2のひずみ変形様式に応じて定まるひずみとひずみの第1不変量との間の関係を用いて、前記第2のひずみ変形様式におけるひずみの値と、ひずみの第1不変量の値との間の数値の対応関係を作成するステップと、
前記微分データと、前記対応関係と、前記第2のひずみ変形様式のひずみ及び応力と前記微分値との間の関係と、を用いて、前記第2のひずみ変形様式におけるひずみの値に対応する応力の値を、前記コンピュータが算出することにより、前記コンピュータが、前記第2のひずみ変形様式のひずみの値に対する応力の値を表した第2の特性データを算出するステップと、
前記第1のひずみ変形様式の前記第1の特性データと、前記第2のひずみ変形様式における前記第2の特性データを用いて、前記コンピュータが、前記材料の力学特性を表すことができるひずみエネルギーポテンシャル関数で用いる材料パラメータの値を算出するステップと、
を備える。
【0010】
前記第1のひずみ変形様式は、一方向に伸張し、前記一方向に直交する方向の変形を拘束しない一軸伸張の変形様式である、ことが好ましい。
【0011】
前記第1の特性データは、荷重負荷過程及び荷重除去過程の両方の過程を含むデータである、ことが好ましい。
【0012】
前記第1の特性データは、ひずみ伸張比を一定にして応力が時間的に変化する応力緩和過程、あるいは、応力を一定にしてひずみ伸張比が時間的に変化するクリープ変形過程を含むデータである、ことが好ましい。
【0013】
前記材料パラメータは、前記材料のひずみエネルギーポテンシャルを、前記ひずみの伸張比あるいはひずみの第2不変量の関数として表されるひずみエネルギーポテンシャル関数で用いるパラメータである、ことが好ましい。
【0014】
前記材料パラメータは、前記材料の粘弾性特性を表したモデルのパラメータである、ことが好ましい。
【0015】
前記材料は、ゴムである、ことが好ましい。
【0016】
本発明の他の一態様は、コンピュータが、構造体の力学挙動をシミュレーションする構造体のシミュレーション方法であって、
コンピュータが、構造体のシミュレーションモデルに含まれる、前記構造体を構成する材料の材料モデルに対して、前記材料パラメータ算出方法で算出した材料パラメータの値を付与して前記シミュレーションモデルを作成するステップと、
前記コンピュータが、前記シミュレーションモデルに所定の条件を与えて構造体の力学挙動をシミュレーションするステップと、
を備える。
【0017】
本発明のさらに他の一態様は、材料の力学特性を定める材料パラメータの値を算出する、コンピュータで構成された材料パラメータ算出装置であって、
材料に与えるひずみ変形様式を複数設定し、材料のひずみ変形様式に応じて定まるひずみとひずみの第1不変量との間の関係を用いて、前記ひずみ変形様式毎のひずみの値と前記第1不変量の値と間の数値の対応関係を、前記ひずみ変形様式毎に作成する対応関係作成部と、
前記材料のひずみエネルギーポテンシャルの前記第1不変量に関する偏微分値を前記第1不変量により表した微分データを記憶保持する記憶部と、
記憶した前記微分データと、前記ひずみ変形様式毎の前記対応関係と、前記ひずみ変形様式毎のひずみ及び応力と前記偏微分値との間の関係と、を用いて、前記ひずみ変形様式毎の前記ひずみの値に対応する応力の値を算出することにより、前記ひずみ変形様式毎のひずみの値に対する応力の値を表した特性データを算出する特性データ算出部と、
前記ひずみ変形様式毎の前記特性データを用いて、前記コンピュータが、前記材料の力学特性を表すことができるひずみエネルギーポテンシャル関数で用いる材料パラメータの値を算出する材料パラメータ算出部と、
を備える。
【0018】
本発明のさらに他の一態様は、材料の力学特性を定める材料パラメータの値を算出する、コンピュータで構成された材料パラメータ算出装置であって、
材料の第1のひずみ変形様式におけるひずみの値に対する応力の値を表した第1の特性データを取得する取得部と、
前記第1のひずみ変形様式におけるひずみとひずみの第1不変量との間の関係と、前記第1のひずみ変形様式のひずみの値及び応力の値と前記材料のひずみエネルギーポテンシャルの第1不変量に関する偏微分値との間の関係と、を用いて、前記第1の特性データから、前記材料のひずみエネルギーポテンシャルの前記第1不変量に関する偏微分値を前記第1不変量によって表わした微分データを算出する微分データ算出部と、
前記材料の少なくとも1つの第2のひずみ変形様式を設定し、前記第2のひずみ変形様式に応じて定まるひずみとひずみの第1不変量との間の関係を用いて、前記第2のひずみ変形様式におけるひずみの値と前記第1不変量の値との間の数値の対応関係を作成する対応関係作成部と、
前記微分データと、前記対応関係と、前記第2のひずみ変形様式のひずみの値及び応力の値と前記微分データとの間の関係と、を用いて、前記第2のひずみ変形様式におけるひずみの値に対応する応力の値を算出することにより、前記第2のひずみ変形様式のひずみの値に対する応力の値を表した第2の特性データを算出する特性データ算出部と、
前記第1のひずみ変形様式の前記第1の特性データと、前記第2のひずみ変形様式における前記第2の特性データを用いて、前記材料の力学特性を表すことができるひずみエネルギーポテンシャル関数で用いる材料パラメータの値を算出する材料パラメータ算出部と、
を備える。
【発明の効果】
【0019】
上述の材料パラメータ算出方法および材料パラメータ算出装置によれば、一軸伸長条件、一軸拘束一軸伸長条件、及び二軸均等伸長条件、さらに加えて二軸不均等伸長条件における実測値を取得することなく、材料パラメータの値を容易に、精度よく算出することができる。したがって、構造体のシミュレーションにおいて、精度の高いシミュレーションを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施形態の材料パラメータ算出方法の流れをわかり易く説明する図である。
図2】(a),(b)は、種々のひずみ変形様式のうちの一軸伸張と均等二軸伸張における変形様式を説明する図である。
図3】一実施形態の材料パラメータ算出方法のフローを示す図である。
図4】一実施形態の材料パラメータ算出装置の構成を示す図である。
図5】一実施形態における材料パラメータ算出方法の流れをわかり易く説明する図である。
図6】一実施形態の材料パラメータ算出方法のフローを示す図である。
図7】一実施形態の材料パラメータ算出装置の構成を示す図である。
図8】(a)は、ひずみ変形様式が異なる3つの基準特性データの一例を示す図であり、(b)は、図1に示す第1の特性データとして用いた特性データの例を示す図である。
図9】(a)~(c)は、算出した一実施例の特性データ(破線)と基準特性データ(実線)との比較を示す図である。
図10】(a)~(c)は、算出した比較例の特性データ(破線)と基準特性データ(実線)との比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施形態の材料パラメータ算出方法、材料パラメータ算出装置、および構造体のシミュレーション方法を説明する。
【0022】
(第1実施形態の説明)
図1は、一実施形態(第1実施形態)の材料パラメータ算出方法の流れをわかり易く説明する図である。
図1に示す材料パラメータ算出方法は、材料の力学特性を定める材料パラメータの値をコンピュータが算出する方法である。材料は、ゴムや樹脂等の粘弾性特性を有する材料あるいは応力-ひずみの関係が非線形で非圧縮性である超弾性材料を含む。力学特性は、材料を伸縮変形させ、あるいはせん断変形させたときの、応力、ひずみに関する特性を含む。
以下説明するひずみ変形様式とは、材料にひずみ変形を与えるときの変形の様式をいい、例えば一軸伸張、一軸拘束一軸伸張、均等二軸伸張、単純せん断、非均等二軸伸張等の各様式を含む。一軸伸張は、一軸方向に伸張を与え、この一軸に直交する一軸方向の変形を拘束させず自由に変形させる変形様式である。一軸拘束一軸伸張は、一軸方向に伸張を与え、この一軸に直交する方向の一軸方向の変形を拘束する変形様式である。均等二軸伸張は、互いに直交する二軸方向の伸張比を揃えて、二軸方向に伸張させる変形様式である。単純せん断は、垂直ひずみを与えることなくせん断ひずみのみを与える変形様式である。非均等二軸伸張様式は、互いに直交する二軸方向の伸張比を異ならせて、二軸方向に伸張させる変形様式である。
【0023】
材料パラメータ算出方法では、図1に示すように、材料の第1のひずみ変形様式におけるひずみλの値に対する応力σの値を表した第1の特性データAをコンピュータは取得する。第1の特性データAは、例えば、材料を試験機で伸張試験した実測データである。
第1のひずみ変形様式がどの変形様式であるか特定できれば、ひずみλと、材料のひずみ変形におけるひずみの第1不変量Iとの間の関係が一意的に定まり、例えば、関数式で表すことができる。また、第1のひずみ変形様式がどの変形様式であるか特定できれば、材料のひずみエネルギーポテンシャルの第1不変量Iに関する偏微分値を、第1のひずみ変形様式におけるひずみλの値及び応力σの値と関係付けることができ、例えば、関数式で表わすことができる。これらの関数式については、後述する。
第1実施形態では、これらの関係を用いて、第1の特性データAから、材料のひずみエネルギーポテンシャルの第1不変量Iに関する偏微分値を第1不変量Iにより表した微分データDをコンピュータは算出する。
【0024】
さらに、コンピュータは、材料の少なくとも1つの第2のひずみ変形様式を設定し、設定した第2のひずみ変形様式に応じて定まるひずみとひずみの第1不変量Iとの間の関係を用いて、第2のひずみ変形様式におけるひずみλの値と第2のひずみ変形様式におけるひずみの第1不変量Iの値との間の数値の対応関係を作成する。対応関係は、例えば、ひずみλの値と第1不変量Iの値とを対応させた参照テーブルを含む。
作成した対応関係と、微分データDと、第2のひずみ変形様式におけるひずみλ及び応力σと材料のひずみエネルギーポテンシャルの第1不変量Iに関する偏微分値との間の関係と、を用いて、第2のひずみ変形様式におけるひずみλの値に対応した応力σの値を、コンピュータが算出することにより、コンピュータは、第2のひずみ変形様式のひずみλの値に対する応力σの値を表した第2の特性データBを算出する。第2のひずみ変形様式におけるひずみλ及び応力σと材料のひずみエネルギーポテンシャルの第1不変量Iに関する偏微分値との間の関係は、上述した第1のひずみ変形様式と同様に、第2のひずみ変形様式がどの変形様式であるか特定できれば、一意的に定まり、例えば、関数式で表わすことができる。この点は、後述する。
例えば、後述する図2(b)に示す均等二軸伸張の場合、第1不変量Iの値に対する式(4)の左辺の偏微分値は、微分データDから既知であり、さらに、式(3)の関係に基づいて作成された上記対応関係からひずみλの値も、第1不変量Iの値から既知であるので、この偏微分値とひずみλの値を用いて、式(4)から応力σの値を算出することができる。
なお、第2のひずみ変形様式は1つではなくてもよく、図1に示すように2つ以上のひずみ変形様式が第2のひずみ変形様式として設定されてもよい。したがって、複数の第2のひずみ変形様式が設定される場合、第2の特性データBは、第2のひずみ変形様式として設定されたそれぞれの変形様式別に算出される。
【0025】
最後に、第1のひずみ変形様式の第1の特性データAと、第2のひずみ変形様式における第2の特性データBを用いて、コンピュータは、材料の力学特性を表すことができるひずみエネルギーポテンシャル関数で用いる材料パラメータの値を算出する。材料パラメータの値は、ひずみエネルギーポテンシャル関数から求められる第1,2のひずみ変形様式に対応した特性データが、カーブフィッティングにより第1の特性データA及び第2の特性データBの曲線に近似するように、算出される。ひずみエネルギーポテンシャル関数については、後述する。
【0026】
このように、1つの第1の特性データAから、第1のひずみ変形様式および第2のひずみ変形様式に無関係に、ひずみの第1不変量Iで表すことができる、ひずみエネルギーポテンシャルの第1不変量Iに関する偏微分値からなる微分データDを算出することができ、この微分データDを利用して、少なくとも1つ以上の第2の特性データBを算出することができる。このため、第1の特性データA及び第2の特性データBから、ひずみエネルギーポテンシャル関数における材料パラメータの値を精度の高く算出することができる。また、第1実施形態では、少なくとも1つの第1の特性データAを取得すればよく、従来のように、ひずみ変形様式が異なる3つ以上の様式毎に実験等から実測データを取得することを不要とする。このため、材料パラメータの値を容易に、精度よく算出することができる。
【0027】
図2(a),(b)は、種々のひずみ変形様式のうちの一軸伸張と均等二軸伸張における変形様式を説明する図である。図2(a)は、一軸伸張における伸張方向の垂直ひずみである伸張比λUTと第1不変量Iとの間の関係を関数式で表した式(1)、及び、微分データDの微分値と、一軸伸張における伸張比λUT及び応力σUTとの間の関係を関数式で表した式(2)を示す。一軸伸張では、矢印で示す一軸方向に伸張を与え、この一軸に直交する一軸方向の変形を拘束させず自由に材料を変形させる。
図2(b)は、均等二軸伸張における伸張方向の垂直ひずみである伸張比λBTと第1不変量Iとの間の関係を関数式で表した式(3)、及び、微分データDの微分値と、均等二軸伸張におけるひずみ(伸張比)λBT及び応力σBTの関係を関数式で表した式(4)を示す。均等二軸伸張は、互いに直交する矢印で示す二軸方向の伸張比を揃えて、二軸方向に伸張させる。
【0028】
このような式(2),(4)に示す関係は、ひずみの第1不変量Iが下記式(5)で表され、変形勾配テンソルFが下記式(6),(7)に示す関係で表されることを用い、さらに
ひずみエネルギーポテンシャルの第1不変量Iに関する偏微分値と応力の関係を示した式(8)を用いて求めることができる。
【0029】
【数1】

ここで、tr( )は、テンソル(行列)の対角和を表し、Fは、Fの転置を表す。
【0030】
【数2】
上記式において、一軸伸張におけるひずみλUTを、λとして表している。
【0031】
【数3】

上記式において、一軸伸張におけるひずみλBTを、λとして表している。
【0032】
【数4】
ここで、Pは、第1Piola-Kirchhoff応力(公称応力)テンソルであり、pは、静水圧である。また、F-Tは、Fの逆行列の転置行列を表わす。
【0033】
式(8)において、ひずみ変形様式における、負荷あるいは拘束をしていない方向に向く表面の応力が0となることを利用して、静水圧pを求めて式(8)を整理することにより、図2(a),(b)に示す式(2),(4)の関係を求めることができる。
一軸拘束一軸伸張、単純せん断、非均等二軸伸張等の他の様式についても、式(2),(4)のような、微分値と、ひずみ変形様式それぞれにおけるひずみ及び応力の関係を、上述した方法により、変形勾配テンソルFと式(8)を用いて求めることができる。
したがって、第1のひずみ変形様式及び第2のひずみ変形様式の区別なく、ひずみと、材料のひずみ変形におけるひずみの第1不変量Iとの間の関係、及び材料のひずみエネルギーポテンシャルの第1不変量Iに関する偏微分値と、ひずみ変形様式におけるひずみの値及び応力の値との間の関係を設定することができる。
【0034】
材料の力学特性を表すことができるひずみエネルギーポテンシャル関数Wは、例えば、下記式(9)に示される3軸方向の垂直ひずみである主伸張比(λ,λ,λ)で表したOgdenモデル、あるいは、下記式(10)に示されるひずみの第1,2不変量(I,I)で表したMooney-Rivlinモデルの関数を用いることができる。
【0035】
【数5】

ここで、μ,αは、材料パラメータである。
【0036】
【数6】
ここで、C10,C01は、材料パラメータである。
【0037】
ひずみエネルギーポテンシャル関数Wは、ひずみ変形様式における3軸方向のひずみを用いてあるいは第1,2不変量を用いて表わすことができる。したがって、ひずみ変形様式がどの変形様式であるか特定できれば、式(9)のλ,λ,λに変形様式に応じたひずみを設定することができる。例えば、一軸伸張の変形様式の場合、λ=λUT、λ,λ=λUT -(1/2)である。ひずみエネルギーポテンシャル関数Wが上記式(9)で表される場合、例えば、上記式(9)と下記式(11),(12)で表される時間依存性を含んだモデルを用いることができる。
【0038】
【数7】
【0039】
【数8】
式(11),式(12)におけるCは、右Cauchy-Green 変形テンソル(=FF)であり、式(12)におけるSは、第2Piola-Kirchhoff応力テンソルであり、γ,γi, τiは、材料パラメータである。
【0040】
式(11)に示すように、ひずみエネルギーポテンシャル関数Wを右Cauchy-Green 変形テンソルCで偏微分した要素に時間依存性のある要素Hを加算することにより第2Piola-Kirchhoff応力テンソルSが得られる。この第2Piola-Kirchhoff応力テンソルSに変形勾配テンソルFを作用させることにより第1Piola-Kirchhoff応力テンソルPを得ることができる。これにより、ひずみエネルギーポテンシャル関数Wから、ひずみ(伸張比)の値に対する応力の値を算出することができる。すなわち、ひずみに対する応力の特性データを求めることができる。したがって、ひずみエネルギーポテンシャル関数Wから求められるひずみ変形様式に対応した特性データが、カーブフィッティングにより第1の特性データA及び第2の特性データBの曲線に近似するように材料パラメータの値を算出することができる。なお、変形勾配テンソルFは、ひずみ変形様式が設定されれば定まるものであり、ひずみ変形様式が異なれば異なる。
【0041】
図3は、一実施形態の材料パラメータ算出方法のフローを示す図である。
図4は、一実施形態の材料パラメータ算出装置の構成を示す図である。
図4に示す材料パラメータ算出装置10は、CPU12及びメモリ14を備えるコンピュータで構成されている。材料パラメータ算出装置10は、モニタ16及びマウス及びキーボードを含む入力操作デバイス18と接続されている。さらに、材料パラメータ算出装置10は、材料に与えるひずみ変形様式を自在に設定して材料の変形試験を行うことができる試験装置30と接続されている。このため、材料パラメータ算出装置10は、試験装置30で測定されたひずみに対する応力の特性データを受けることができる。
【0042】
材料パラメータ算出装置10のCPU12は、メモリ14に記憶されているソフトウェアを読み出して実行することにより、取得部20、微分データ算出部22、対応関係作成部24、特性データ算出部26、および材料パラメータ算出部28を作成して機能させる。すなわち、取得部20、微分データ算出部22、対応関係作成部24、特性データ算出部26、および材料パラメータ算出部28は、ソフトウェアモジュールである。
【0043】
取得部20は、試験装置30で測定されて送信された、材料の第1のひずみ変形様式におけるひずみλの値に対する応力σの値を表した第1の特性データAを取得する(図3 ST10)。
【0044】
次に、微分データ算出部22は、第1のひずみ変形様式におけるひずみλとひずみの第1不変量Iとの間の関係(例えば、図2に示す式(1))と、第1のひずみ変形様式のひずみλの値及び応力σの値と材料のひずみエネルギーポテンシャルの第1不変量Iに関する偏微分値との間の関係と、を用いて、第1の特性データAから、材料のひずみエネルギーポテンシャルの第1不変量Iに関する偏微分値を第1不変量Iによって表わした微分データDを算出する(図3 ST12)。ひずみλの値及び応力σの値は第1の特性データAとして取得されて既知であるので、ひずみλとひずみの第1不変量Iとの間の第1のひずみ変形様式における関係を用いて、ひずみλの値からひずみの第1不変量Iの値を算出し、さらに、ひずみエネルギーポテンシャルの第1不変量Iに関する偏微分値とひずみλの値及び応力σの値との間の第1のひずみ変形様式における関係も定まっているので、偏微分値の値を算出することができる。これにより、微分データDを算出することができる。
【0045】
この後、対応関係作成部24は、入力操作デバイス18で入力された情報に基づいて、材料の少なくとも1つの第2のひずみ変形様式を設定し、第2のひずみ変形様式に応じて定まるひずみλとひずみの第1不変量Iとの間の関係を用いて、第2のひずみ変形様式におけるひずみλの値とひずみの第1不変量Iの値との間の数値の対応関係、例えば参照テーブルを作成する(図3 ST14)。
【0046】
特性データ算出部26は、微分データDと、対応関係作成部24で作成した対応関係と、第2のひずみ変形様式のひずみλの値及び応力σの値と偏微分値との間の関係と、を用いて、第2のひずみ変形様式におけるひずみλの値に対応する応力σの値を算出することにより、第2のひずみ変形様式のひずみλの値に対する応力σの値を表した第2の特性データBを算出する(図3 ST16)。具体的には、第1不変量Iの値に対する式(4)の左辺の偏微分値が、微分データDから既知であり、さらに、式(3)の関係に基づいて作成された上記対応関係を参照して、ひずみλの値も第1不変量Iの値から既知となるので、この偏微分値とひずみλの値を用いて、式(4)から応力σの値を算出することができる。
算出した第2の特性データBは、第1の特性データAと共に、モニタ16に表示される。
【0047】
最後に、材料パラメータ算出部28は、第1のひずみ変形様式の第1の特性データAと、第2のひずみ変形様式における第2の特性データBを用いて、材料の力学特性を表すことができるひずみエネルギーポテンシャル関数Wで用いる材料パラメータの値、例えば式(9),(10)で示されるμ,α,C10,C01の値を算出する(図3 ST18)。材料パラメータの値は、ひずみエネルギーポテンシャル関数から求められる第1,2のひずみ変形様式に対応した特性データが、第1の特性データA及び第2の特性データBの曲線に近似するようにカーブフィッティングにより算出される。カーブフィッティングの処理途中の情報及びカーブフィッティングの処理結果の情報は、モニタ16に表示される。
以上のようにして、ひずみエネルギーポテンシャル関数Wで用いる材料パラメータの値は算出される。
【0048】
一実施形態によれば、第1のひずみ変形様式は、一方向に伸張し、この一方向に直交する方向の変形を拘束しない一軸伸張の変形様式であることが好ましい。一軸伸張の特性データは、実測データとして他のひずみ変形様式に比べて測定し易く、測定方法はJIS規格で正確に定められており、精度の高い特性データを得ることができる。
【0049】
一実施形態によれば、第1の特性データは、荷重負荷過程及び荷重除去過程の両方の過程を含むデータである、ことが好ましい。荷重負荷過程及び荷重除去過程の両方の過程を含むことで、粘弾性モデル、弾塑性モデル、粘塑性モデル等の荷重負荷過程及び荷重除去過程で異なる変形を示す材料モデルにおける材料パラメータの値を求めることができる。
【0050】
一実施形態によれば、第1の特性データは、垂直ひずみであるひずみ伸張比を一定にして応力が時間的に変化する応力緩和過程、あるいは、応力を一定にしてひずみ伸張比が時間的に変化するクリープ変形過程を含むデータであることも好ましい。上記式式(11),式(12)に示す材料モデルでは、時間依存性の要素を含んでいるので、応力緩和過程及びクレープ変形過程を再現することができる。このため、時間依存性を有する粘弾性材料における材料パラメータの値を精度よく算出することができる。
【0051】
上述したように、ひずみ変形様式に無関係に、ひずみの第1不変量Iで表すことができる微分データDに基づいて、異なるひずみ変形様式における特性データを算出するので、予め、材料パラメータの値を求めようとする材料の微分データDが記憶保持されていれば、上述したように、第1の特性データAを用いて微分データDを算出する必要はない。以下、第1の特性データAを用いて微分データDを算出することを不要とする第2実施形態の概略説明をする。
【0052】
(第2実施形態の説明)
図5は、一実施形態(第2実施形態)における材料パラメータ算出方法の流れをわかり易く説明する図である。
コンピュータは、材料パラメータの値を求めようとする材料の微分データD、すなわち、材料のひずみエネルギーポテンシャルの第1不変量Iに関する偏微分値を第1不変量Iにより表した微分データDを記憶部に記憶保持している。コンピュータは、材料に与えるひずみ変形様式を複数設定する。図5に示す例では、第1のひずみ変形様式、第2のひずみ変形様式、さらに別のひずみ変形様式が設定される。以下の説明では、設定されるひずみ変形様式の数は2つとし、この2つのひずみ変形様式を、ひずみλ、応力σで表される第1のひずみ変形様式、及び、ひずみλ、応力σで表される第2のひずみ変形様式として説明する。設定されるひずみ変形様式は、例えば、一軸伸張、一軸拘束一軸伸張、均等二軸伸張、単純せん断、非均等二軸伸張から選択することができる。
コンピュータは、設定した材料のひずみ変形様式に応じて定まるひずみとひずみの第1不変量Iとの間の関係を用いて、ひずみ様式毎のひずみλ,λの値と第1不変量Iの値との間の数値の対応関係、例えば参照テーブルを、ひずみ変形様式毎に作成する。
【0053】
さらに、ひずみ変形様式がどの変形様式であるか特定されれば、材料のひずみエネルギーポテンシャルの第1不変量に関する偏微分値とこのひずみ変形様式におけるひずみλ,λの値及び応力σ,σとの間の関係がひずみ変形様式毎に一意的に定まる。したがって、この関係と、作成した上記対応関係と、記憶部から読み出した微分データDと、を用いて、ひずみ変形様式毎のひずみλ,λの値に対応する応力σ,σの値をコンピュータが算出することにより、コンピュータが、ひずみ変形様式毎のひずみλ,λの値に対する応力σ,σの値を表した特性データA,Bを算出する。
例えば、図2(a)に示す一軸伸張の場合、第1不変量Iの値に対する式(2)の左辺の偏微分値は、微分データDから既知であり、さらに、式(1)の関係に基づいて作成された上記対応関係を参照してひずみλの値も第1不変量Iの値から既知となるので、この偏微分値とひずみλの値を用いて、式(2)から応力σの値を算出することができる。同様に、図2(b)に示す均等二軸伸張の場合も、第1不変量Iの値に対する式(4)の左辺の偏微分値が、微分データDから既知であり、さらに、式(3)の関係に基づいて作成された上記対応関係を参照して、ひずみλの値も第1不変量Iの値から既知となるので、この偏微分値とひずみλの値を用いて、式(4)から応力σの値を算出することができる。したがって、ひずみ変形様式毎のひずみλ,λの値に対する応力σ,σの値を表した特性データA,Bを算出することができる。
【0054】
最後に、ひずみ変形様式毎の特性データA,Bを用いて、コンピュータは、材料の力学特性を表すことができるひずみエネルギーポテンシャル関数で用いる材料パラメータの値を算出する。材料パラメータの値は、ひずみエネルギーポテンシャル関数から求められる第1,2のひずみ変形様式に対応した特性データが、カーブフィッティングにより、第1の特性データA及び第2の特性データBの曲線に近似するように算出される。ひずみエネルギーポテンシャル関数については、上述したOgdenモデルの関数及びMooney-Rivlinモデルの関数を含む。
【0055】
このように、ひずみ変形様式に無関係に、ひずみの第1不変量Iで表すことができる、ひずみエネルギーポテンシャルの第1不変量Iに関する偏微分値の微分データDを出発点として、この微分データDに基づいて、異なるひずみ変形様式における特性データを算出することができるので、ひずみ変形様式を設定すれば、ひずみ変形様式毎の特性データを算出することができる。したがって、これらの特性データを用いて材料パラメータの値を精度よく算出することができる。しかも、従来のように、ひずみ変形様式が異なる3つ以上の様式毎に実験等から実測データを取得することを不要とする。このため、材料パラメータの値を容易に、精度よく算出することができる。
【0056】
図6は、一実施形態の材料パラメータ算出方法のフローを示す図である。
図7は、一実施形態の材料パラメータ算出装置の構成を示す図である。
図7に示す材料パラメータ算出装置50は、CPU52及びメモリ54を備えるコンピュータで構成されている。材料パラメータ算出装置50には、モニタ56及びマウス及びキーボードを含む入力操作デバイス58と接続されている。
【0057】
材料パラメータ算出装置50のCPU52は、メモリ54に記憶されているソフトウェアを読み出して実行することにより、対応関係作成部64、特性データ算出部66、および材料パラメータ算出部68を作成して機能させる。すなわち、対応関係作成部64、特性データ算出部66、および材料パラメータ算出部68は、ソフトウェアモジュールである。
【0058】
メモリ54は、材料のひずみエネルギーポテンシャルの第1不変量Iに関する偏微分値を第1不変量Iにより表した微分データDを記憶保持している。
【0059】
対応関係作成部64は、入力操作デバイス58から入力された情報に基づいて、材料に与えるひずみ変形様式を複数設定する(図6 ST50)。さらに、対応関係作成部64は、材料のひずみ変形様式に応じて定まるひずみλ,λとひずみの第1不変量Iとの間の関係を用いて、ひずみ様式毎のひずみλ,λの値と第1不変量Iの値との間の数値の対応関係、例えば参照テーブルを、ひずみ変形様式毎に作成する(図6 ST52)。
【0060】
次に、特性データ算出部66は、記憶した微分データDと、ひずみ変形様式毎に作成した対応関係と、ひずみ変形様式毎のひずみλ,λの値及び応力σ,σの値と微分データDの偏微分値との間の関係と、を用いて、ひずみ変形様式毎のひずみλ,λの値に対応する応力σ,σの値を算出することにより、ひずみ変形様式毎のひずみλ,λの値に対する応力σ,σの値を表した特性データA,Bを算出する(図6 ST54)。算出した特性データA,Bは、モニタ56に表示される。
例えば、図2(b)に示す均等二軸伸張の場合、第1不変量Iの値に対する式(4)の左辺の偏微分値は、微分データDから既知であり、さらに、式(3)の関係に基づいて作成された上記対応関係を参照して、ひずみλの値も、第1不変量Iの値から既知となるので、この偏微分値とひずみλの値を用いて、式(4)から応力σの値を算出することができる。
【0061】
最後に、材料パラメータ算出部68は、ひずみ変形様式毎の特性データA,Bを用いて、材料の力学特性を表すことができるひずみエネルギーポテンシャル関数で用いる材料パラメータの値を算出する(図6 ST56)。材料の力学特性を表すことができるひずみエネルギーポテンシャル関数Wで用いる材料パラメータは、例えば式(9),(10)で示されるμ,α,C10,C01である。材料パラメータの値は、ひずみエネルギーポテンシャル関数から求められる第1,2のひずみ変形様式に対応した特性データが、カーブフィッティングにより第1の特性データA及び第2の特性データBの曲線に近似するように算出される。カーブフィッティングの処理途中の情報及びカーブフィッティングの処理結果の情報は、モニタ56に表示される。
【0062】
一実施形態によれば、図6に示すST50で設定されるひずみ変形様式は、一方向に伸張し、一方向に直交する方向の変形を拘束しない一軸伸張の変形様式を含む、ことが好ましい。一軸伸張の特性データは、材料の基本となるデータであるため、カーブフィッティングにより材料パラメータの値を精度よく算出する上で、一軸伸張の特性データを含めることが好ましい。
【0063】
一実施形態によれば、材料パラメータは、材料のひずみエネルギーポテンシャルを、上記式(9)に示すようにひずみ伸張比の関数、あるいはひずみの第2不変量の関数として表される、材料モデルにおけるひずみエネルギーポテンシャル関数で用いるパラメータである、ことが好ましい。このような材料パラメータを用いる場合、1つのひずみ変形様式の特性データのみから材料パラメータの値を算出した場合に比べて特性データの再現性の精度が向上する。
【0064】
一実施形態によれば、材料モデルは、上記式(11),(12)に示すような材料の粘弾性特性を表したモデルである、ことが好ましい。粘弾性特性を表したモデルを用いて材料パラメータの値を算出することにより、粘弾性材料における特性データを精度よく再現することができる。
【0065】
一実施形態では、材料はゴムである、ことが好ましい。ゴムは、粘弾性特性を有し、上述の材料パラメータ算出方法を用いることにより、粘弾性特性を精度のよく再現することができる。
【0066】
一実施形態によれば、上述の材料パラメータ算出方法は、コンピュータが、構造体の力学挙動をシミュレーションする構造体のシミュレーション方法に好適に用いることが好ましい。
具体的には、コンピュータが、構造体のシミュレーションモデルに含まれる、構造体を構成する材料の材料モデルに対して、上述の材料パラメータ算出方法で算出した材料パラメータの値を付与してシミュレーションモデルを作成する。この後、コンピュータは、作成したシミュレーションモデルに所定の条件を与えて構造体の力学挙動をシミュレーションする。
シミュレーションモデルは、例えば有限要素法や差分法等で用いるメッシュモデルであってもよい。この場合、メッシュモデルの各要素に材料パラメータの値を付与して、材料の力学特性を定める。
構造体は、ゴム及びスチールコードあるいは有機繊維コードを含んだタイヤを含む。
【0067】
(実施例、比較例)
図8~10は、実施例及び比較例により、本実施形態の材料パラメータ算出方法の効果を示す図である。
図8(a)は、ひずみ変形様式が異なる3つの基準特性データの一例を示す図である。基準特性データそれぞれは、ひずみ(公称ひずみ)に対する応力(公称応力)のデータであり、荷重負荷過程及び荷重除去過程の両方の過程を含んでいる。この3つの基準特性データは、第1実施形態の材料パラメータ算出方法で算出した材料パラメータの値を用いて上記3つの基準特性データが再現できるかどうかを確認するために用いられる。
図8(b)は、図1に示す第1の特性データAとして用いた特性データの例を示す図である。図8(b)に示す第1の特性データAは、図8(a)に示す一軸伸張の基準特性データである。
【0068】
(実施例)
実施例では、図8(b)に示す基準特性データを第1の特性データAとして、図1に示す処理を行って、第2のひずみ変形様式として一軸拘束一軸伸張、及び均等二軸伸張の特性データを算出した。第1の特性データAと算出した2つの特性データを合わせた3つの特性データから、上記式(9),式(11),式(12)における材料パラメータの値を算出した。算出した材料パラメータの値を用いたひずみエネルギーポテンシャル関数Wから図8(a)に示す3つの基準特性データに対応した特性データを算出した。図9(a)~(c)は、算出した特性データ(実施例 破線)と基準特性データ(実線)との比較を示す図である。
【0069】
(比較例)
一方、比較例では、図8(b)に示す基準特性データを第1の特性データAとして、この1つの第1の特性データAのみから、上記式(9),式(11),式(12)における材料パラメータの値を算出した。算出した材料パラメータの値を用いたひずみエネルギーポテンシャル関数Wから図8(a)に示す3つの基準特性データに対応した特性データを算出した。図10(a)~(c)は、算出した特性データ(比較例 破線)と基準特性データ(実線)との比較を示す図である。
【0070】
実施例では、一軸伸張、一軸拘束一軸伸張の特性データはいずれも基準特性データを精度よく再現しており、均等二軸伸張の特性データも、対応する基準特性データと概略再現している。均等二軸伸張の特性データと、対応する基準特性データとの間の差は、比較例における均等二軸伸張の特性データと、対応する基準特性データとの間の差よりも小さい。均等二軸伸張の特性データにおける最大応力の値に関して、実施例では、対応する基準特性データとほぼ一致する。これより、実施形態では、特性データを従来に比べてより再現できるように材料パラメータの値を算出することができることを示している。
【0071】
以上、本発明の材料パラメータ算出方法、材料パラメータ算出装置、および構造体のシミュレーション方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更してもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0072】
10,50 材料パラメータ算出装置
12,52 CPU
14,54 メモリ
16,56 モニタ
18,58 入力操作デバイス
20 取得部
22 微分データ算出部
24,64 対応関係作成部
26,66 特性データ算出部
28,68 材料パラメータ算出部
30 試験装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10