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特許7343761開口部を保有するタンディッシュ内の溶鋼シール方法およびシール構造
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  • 特許-開口部を保有するタンディッシュ内の溶鋼シール方法およびシール構造 図1
  • 特許-開口部を保有するタンディッシュ内の溶鋼シール方法およびシール構造 図2
  • 特許-開口部を保有するタンディッシュ内の溶鋼シール方法およびシール構造 図3
  • 特許-開口部を保有するタンディッシュ内の溶鋼シール方法およびシール構造 図4
  • 特許-開口部を保有するタンディッシュ内の溶鋼シール方法およびシール構造 図5
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  • 特許-開口部を保有するタンディッシュ内の溶鋼シール方法およびシール構造 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】開口部を保有するタンディッシュ内の溶鋼シール方法およびシール構造
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/106 20060101AFI20230906BHJP
   B22D 11/10 20060101ALI20230906BHJP
   B22D 41/00 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
B22D11/106 A
B22D11/10 310Z
B22D41/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019154394
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021030277
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 和弥
(72)【発明者】
【氏名】天田 克己
(72)【発明者】
【氏名】鎌野 景都
(72)【発明者】
【氏名】平井 隆太郎
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-139958(JP,U)
【文献】特開平09-085398(JP,A)
【文献】実開昭60-171651(JP,U)
【文献】特開2013-035004(JP,A)
【文献】実開昭60-166455(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00-11/22
B22D 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を保有するタンディッシュ内の溶鋼シール方法であって、開口部のあるタンディッシュの槽の一方の長辺と、前記開口部との間から、長手方向がタンディッシュの槽の一方の長辺に添うように形成された細長いスリット状の単一の不活性ガスノズルから溶鋼表面に向けて不活性ガスを下向きに投入し溶鋼表面に平行な横方向に流すことを特徴とする開口部を保有するタンディッシュ内の溶鋼シール方法。
【請求項2】
前記不活性ガスの下向き投入角度は60°以上135°未満であることを特徴とする請求項1に記載の開口部を保有するタンディッシュ内の溶鋼シール方法。
【請求項3】
タンディッシュの槽内に投入された前記不活性ガスが、タンディッシュの槽内で不活性ガスの流れの向きを変更する内壁部に当たることにより、不活性ガスの流れが溶鋼面側に向けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の開口部を保有するタンディッシュ内の溶鋼シール方法。
【請求項4】
開口部を保有するタンディッシュ内の溶鋼シール構造であって、開口部のあるタンディッシュの槽の一方の長辺と、前記開口部との間から、溶鋼表面に向けて不活性ガスを下向きに投入し溶鋼表面に平行な横方向の流れが形成されるように、長手方向がタンディッシュの槽の一方の長辺に添うように形成された細長いスリット状の単一の不活性ガスノズルが配置されていることを特徴とするタンディッシュ内の溶鋼シール構造。
【請求項5】
前記不活性ガスの下向き投入角度は60°以上135°未満であることを特徴とする請求項に記載の開口部を保有するタンディッシュ内の溶鋼シール構造。
【請求項6】
タンディッシュの槽内に投入された前記不活性ガスが、タンディッシュの槽内で不活性ガスの流れの向きを変更する内壁部に当たるような構造を持ち、不活性ガスの流れが溶鋼面側に向けられるようになっていることを特徴とする請求項4又は5に記載の開口部を保有するタンディッシュ内の溶鋼シール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開口部を保有するタンディッシュ内の溶鋼シール方法およびシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、溶鋼を鋳型で連続鋳造する際、鍋で運ばれてきた溶鋼はタンディッシュと呼ばれる容器に一時的に蓄えられて欠陥の原因となる介在物の浮上除去が行われる。しかしタンディッシュでの滞留時間の分だけ溶鋼が大気と触れる時間が長くなるため、大気と接触している溶鋼表面において大気中の酸素により溶鋼が酸化され介在物が生成し、鋳型に持ち込まれるリスクが高まってしまう(図6参照)。
【0003】
介在物を発生させないためには、溶鋼表面での酸素濃度は「0」であることがベストだが、タンディッシュには、鍋から溶鋼を注入するための開口部や予熱を行う際にバーナーが挿入される開口部があり、Arなどの不活性ガスによる置換を行ってもこれらの開口部からの大気の流出入が多く、目的の酸素濃度まで低減するには多量に不活性ガスを使用する必要があった。この様な不活性ガスの流量や設備のシール性、今までの介在物発生状況から、少なくとも溶鋼表面での平均酸素濃度を2.0%以下にすることが好ましい。
【0004】
この問題を解決するため、図7に示すように、溶鋼表面と垂直となる方向から勢いよく不活性ガスを導入し、タンディッシュ内の空間にある空気全体を不活性ガスで置換する方法が検討されてきた。しかしながら、図7-aで溶鋼表面平均酸素濃度は6.4%(不活性ガス流量360Nm/Hr時)、図7-bで2.6%(同左)と、2.0%を下回るに至っていない。尚、図7はH型タンディッシュの槽や舟形のタンディッシュの槽の様に、溶鋼の注入のための開口部が存在する部分の槽が短辺と長辺により構成されている槽を想定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-188893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような背景でなされた発明であり、本発明が解決しようとする課題は、少量の不活性ガスでも溶鋼表面の酸素濃度を低減し、溶鋼の酸化を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、開口部を保有するタンディッシュ内の溶鋼シール方法であって、開口部のあるタンディッシュの槽の長辺側の開口部と、タンディッシュの槽の端部との間から、溶鋼表面に向けて不活性ガスを下向きに投入する開口部を保有するタンディッシュ内の溶鋼シール方法とする。
【0008】
また、長手方向がタンディッシュの槽の長辺に添うように形成された単一乃至複数の不活性ガスノズルから、不活性ガスをタンディッシュの槽内に投入することが好ましい。
【0009】
また前記不活性ガスの下向き投入角度は60°以上135°未満であることが好ましい。
【0010】
また、槽内に水平方向に投入された不活性ガスが、タンディッシュの槽内で内壁部に当たることにより、不活性ガスの流れが溶鋼面側に向けられるようにすることが好ましい。
【0011】
開口部を保有するタンディッシュ内の溶鋼シール構造であって、開口部のあるタンディッシュの槽の長辺側の開口部と、タンディッシュの槽の端部との間から、溶鋼表面に向けて不活性ガスを下向きに投入されるように不活性ガスノズルが配置されていることを特徴とするタンディッシュ内の溶鋼シール構造である。
【0012】
また長手方向がタンディッシュの槽の長辺に添うように形成された単一乃至複数の不活性ガスノズルにより、不活性ガスをタンディッシュの槽内に投入される構造であることが好ましい。
【0013】
また前記不活性ガスの下向き投入角度は60°以上135°未満である構造が好ましい。
【0014】
またタンディッシュの槽内に水平方向に投入された不活性ガスが、タンディッシュの槽内で内壁部に当たるような構造を持ち、不活性ガスの流れが溶鋼面側に向けられるような構造になっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明を用いると、少量の不活性ガスでも溶鋼表面の酸素濃度を低減し、溶鋼の酸化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】開口部のあるタンディッシュの槽の長辺側の開口部と、タンディッシュの槽の端部との間から、溶鋼表面に向けて不活性ガスを下向きに投入する状態を示す図である。ただし、上側にはタンディッシュの一部の平面図を下側には縦断面図を表している。
図2】不活性ノズルの「下向き」についてその角度を変えてシール状況を確認した図である。ただし、上側にはタンディッシュの一部の平面図を下側には縦断面図を表しており、A-A‘断面図はタンディッシュの一部の平面図および縦断面図を縦断している一点鎖線A-A’による横断面図である。
図3】不活性ガスの「下向き」について、好ましい方法、形態を示す図である。
図4】不活性ガス流量と溶鋼表面酸素濃度の関係を従来法(図7-b)と改善案(図3)に分けて表した図である。
図5】不活性を用いなかった場合(大気条件)と、従来法によりパージした場合と、改善案を採用した場合、の各々におけるスリバー個数を大気条件の場合のスリバー個数を1として相対値で表す図である。
図6】タンディッシュ内の溶鋼の表面が空気中の酸素と反応していることを表す図である。
図7】タンディッシュの上部から垂直下方に不活性ガスが導入された状態を示す図である。ただし、上側にはタンディッシュの一部の平面図を下側には縦断面図を表している。なお、(a)では一か所から、(b)では二か所から不活性ガスを導入している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に発明を実施するための形態を示す。本発明では、溶鋼表面が大気中の酸素と反応しないようにするには、溶鋼と大気の界面さえ不活性ガスで置換すれば足りるという発想から、不活性ガス噴流が溶鋼表面上を這う流れを形成するものである。具体的には、不活性ガスを溶鋼表面上に這わせる流れを形成し、溶鋼と大気の界面の酸素濃度を低減することで不活性ガスの使用量を抑える技術である。このため発明者らは鋭意検討の結果、前述の図7-a,bの様にタンディッシュの槽1の短辺側に不活性ガスノズル3を配置するのではなく、図1の様に、タンディッシュの槽1の長辺側の開口部11とタンディッシュの槽1の端部との間に、溶鋼表面に向けて不活性ガスを下向きに投入する不活性ガスノズル3を配置することで、不活性ガスが溶鋼表面上を沿う流れを形成し、溶鋼表面の平均酸素濃度を2.0%以下に低減させることに成功した。図1の場合、同じ不活性ガス流量で溶鋼表面の平均酸素濃度1.9%を達成した。酸素濃度は、パージを行った槽内の開口部直下の溶鋼表面上10mmもしくは溶鋼表面を覆っている保温材上10mm地点のガスを、開口部から垂直に挿入されたガスサンプリング管により吸引することで測定した。測定は3箇所以上を行うことで平均酸素濃度を求めた。酸素分析装置は、隔膜ガルバニ電池式を検知原理として持つ新コスモス電機株式会社製の酸素濃度計(型式:XP-3180E)を用いた。当該酸素濃度計の測定範囲は0~25.0vol%、測定精度は±0.3vol%であった。
【0018】
なお、本発明に示す例では、前述の様に、H型タンディッシュと呼ばれるタンディッシュ1が開口部11を有する槽(一槽目)と、この槽と下部で繋がる槽(二槽目)を有するものを代表例として説明するが、二槽目が無いような舟形タンディッシュ1であっても本発明は適用できる。
【0019】
ここで図1の不活性ガスノズル3はスリット状であるが、同様の場所に複数のノズルを並列配置しても構わない。また当該不活性ガスノズル3は、開口部11の長さ以上であっても構わない。開口部11の長さ以上としてタンディッシュの槽1の長辺に添うように不活性ガスを投入することで、溶鋼表面を不活性ガスで覆いやすくなることが期待できる。尚、不活性ガスノズル3のタンディッシュの槽1の長辺方向の長さは、安定して溶鋼表面を不活性ガスで覆うために、開口部11の長さの1/4以上であることが好ましい。
【0020】
さらに発明者らは、図1の不活性ガスノズル3の「下向き」についてどの程度まで下向きであれば溶鋼表面の平均酸素濃度2.0%以下を維持できるか、図2に示すように不活性ガスノズル3の角度を変更してシール状況を確認した。ここで不活性ガスノズル3の角度は図2のA-A’断面を上から見て時計回りに向かって左側で水平/0°~垂直/90°~向かって右側で水平/180°とする。尚、120°以上は開口部や周辺機器の配置の都合上確認はできなかった。
【0021】
その結果を表1に示す。45°では溶鋼表面の平均酸素濃度が3.3%であるが、60°以上であれば2.0%以下となる。また前述の理由により角度が120°超での確認は出来ていないが、90°~105°~120°と溶鋼表面の平均酸素濃度が上昇してきており、推定ながら135°辺りで溶鋼表面の平均酸素濃度が2.0%を超えるのではないかと推定される。これは投入された不活性ガスがタンディッシュの槽1の内側に衝突し、乱流が発生し、周囲の空気を巻き込むためではないかと推定する。以上から不活性ガスの「下向き」は60°以上135°未満であることが好ましい。尚、表1における不活性ガスの流量は360Nm/Hrである。
【0022】
【表1】
【0023】
図1および表1の結果から、不活性ガスは概ね垂直に下向きに投入されることが好ましいことが判明した。この投入方法について、タンディッシュの蓋14上の機器配置や周辺機器、配管の引き回しなどを考慮すると、例えば図3のような不活性ガスの投入方法、形態も好ましい。
【0024】
図3では、長手方向が槽の長辺に添うように形成された不活性ガスノズル3から、水平方向に不活性ガスをタンディッシュの槽1内に投入し、不活性ガスの流れの向きを変更する内壁部16によって下向きに流れが変更される。また、不活性ガスの槽内への流入速度を抑制することもできる。図3の場合の不活性ガスノズル3の配置は、タンディッシュの槽1の側壁13やタンディッシュの槽1の上部、若しくは、タンディッシュの槽1を覆う蓋14に設けることが好ましい。尚、図3における内壁部16の形状はは、円弧状、曲面、角型いずれでもよいが、不活性ガスの流れをむやみに乱さないためには円弧状や曲面が好ましい。
【0025】
図3で不活性ガスは、槽内で内壁部16に当たることにより、不活性ガスの流れが下向きに向けられるようになり、この倍の溶鋼表面の平均酸素濃度は0.7%まで低減できた(不活性ガス流量は360Nm/Hr)。図1の様な単純な下向きの不活性ガスノズル3より平均酸素濃度が低くなる理由としては、内壁部16に当たった不活性ガスが、溶鋼表面に対して斜め方向から接近することになり、溶鋼表面上を這うように流れることが可能と一方で、不活性ガスノズル3の吐出口直前で不活性ガスの流れの向きを変えられることから、水平方向への素活性ガスの流れの勢いが一部残存し、開口部11に向けて渦の様な流れを発生させ、周囲の空気の流入を防いでいるためと推定される。
【0026】
尚、不活性ガスの投入は、溶鋼が注入される開口部11のみならず、溶鋼を注入していない反注入点や、他の開口部においても実施することが好ましい。
【実施例
【0027】
ここで、図7-bに示すような方法で不活性ガスをタンディッシュ1の開口部11を有する槽内に導入する従来法と、図3に示すような方法で不活性ガスをタンディッシュ1の開口部11を有する槽内に導入する改善案を実施した際の結果について説明する。図4には、上記従来法と改善案を、不活性ガスの流量を120Nm/Hr、240Nm/Hr、360Nm/Hr、と変化させて行った際の、各々の溶鋼表面酸素濃度についての結果を表す。
【0028】
図4に示すことから理解されるように、従来法によって不活性ガス流量360Nm/Hrでパージした場合は酸素濃度が2.6%であったのに対して、改善案では240Nm/Hrで酸素濃度が1.2%となり、360Nm3/Hrでは酸素濃度が0.7%と大幅に低下することが確認された。 また改善案では、概ね200Nm3/Hr以上の不活性ガス流量があれば溶鋼表面の平均酸素濃度を2.0%以下にできる。
【0029】
次に、品質結果についての調査結果について説明する。図5では、品質結果として、スリバー個数[個/コイル]を示す。なお、大気条件はパージ無しの条件で溶鋼表面の酸素濃度は21%、従来法、改善案の各吹込み方法は不活性ガス流量360Nm/Hrのときの結果で、大気条件の場合のスリバー個数を1として相対値で表してある。
【0030】
この結果より、溶鋼表面中の酸素濃度を低減するほど品質結果が良くなる傾向が確認された。特に、改善案では大気条件と比較してスリバー個数は約3割も良化したことが分かる。
【0031】
以上、実施形態を中心として本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、図3の例において、不活性ガスノズル3をタンディッシュの槽1の側壁13に配置した場合、前述の内壁部16は蓋14ではなく、タンディッシュの槽1の側壁13や不活性ガスノズル3に配置しても構わず、各種の態様とすることが可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 タンディッシュの槽
2 鍋
3 不活性ガスノズル
4 スライディングノズル
11 開口部
13 側壁
14 蓋
16 内壁部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7