(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】フルオロアルキン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 17/25 20060101AFI20230906BHJP
C07C 21/22 20060101ALI20230906BHJP
C09K 13/00 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
C07C17/25
C07C21/22
C09K13/00
(21)【出願番号】P 2021075321
(22)【出願日】2021-04-27
【審査請求日】2022-03-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江藤 友亮
(72)【発明者】
【氏名】中村 新吾
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/171011(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/132964(WO,A1)
【文献】特開2019-172659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
R
1C≡CR
2 (1)
[式中、R
1及びR
2は同一又は異なって、
炭素数1~4のフルオロアルキル基を示す。]
で表されるフルオロアルキン化合物の製造方法であって、
一般式(2):
R
1CHX
1CFX
2R
2 (2)
[式中、R
1及びR
2は前記に同じである。X
1及びX
2は、X
1がフッ素原子でX
2が水素原子であるか、又は、X
1が水素原子でX
2がフッ素原子である。]
で表されるフルオロアルカン化合物を、
鎖状エーテルを含む溶媒と、アルカリ金
属の水酸化物を含む塩基との存在下に脱フッ化水素反応する
ことによって、1ステップで前記フルオロアルキン化合物を得る工程を備え
る、
製造方法。
【請求項2】
前記
鎖状エーテルを含む溶媒の総量を100質量%として、前記
鎖状エーテルを含む溶媒の水分濃度が、0.01~500質量ppmである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記
鎖状エーテルが有する
鎖状エーテル結合の数が、1~10個である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記フルオロアルキル基が、一般式(3):
-CF
2R
3 (3)
[式中、R
3はフッ素原子又は炭素数1~3のフルオロアルキル基を示す。]
で表される、請求項
1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記脱フッ化水素反応における反応温度が、0~300℃である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
一般式(1):
R
1C≡CR
2 (1)
[式中、R
1及びR
2は同一又は異なって、炭素数1~4のフルオロアルキル基を示す。]
で表されるフルオロアルキン化合物と、
一般式(4):
R
1CF=CHR
2 (4)
[式中、R
1及びR
2は前記に同じである。]
で表されるフルオロアルケン化合物とを含有する組成物であって、
組成物全量を100モル%として、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物の含有量が25.00~75.00モル%であり、前記一般式(4)で表されるフルオロアルケン化合物の含有量が25.00~75.00モル%であり、且つ、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物と前記一般式(4)で表されるフルオロアルケン化合物の合計含有量が、90.00~100.00モル%である、
エッチングガスとして用いるための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フルオロアルキン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロアルキン化合物は、クリーニングガス、エッチングガス、冷媒、熱移動媒体、有機合成用ビルディングブロック等として期待されている。
【0003】
このようなフルオロアルキン化合物の製造方法としては、例えば、非特許文献1には、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)等の塩基を用いて、脱フッ化水素反応で、フルオロアルカン化合物からフルオロアルキン化合物が得られることが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Tetrahedron, 1988, vol. 44, No. 10, p. 2865-2874
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、フルオロアルカン化合物から、効率的にフルオロアルキン化合物を合成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の構成を包含する。
【0007】
項1.一般式(1):
R1C≡CR2 (1)
[式中、R1及びR2は同一又は異なって、フッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。]
で表されるフルオロアルキン化合物の製造方法であって、
一般式(2):
R1CHX1CFX2R2 (2)
[式中、R1及びR2は前記に同じである。X1及びX2は、X1がフッ素原子でX2が水素原子であるか、又は、X1が水素原子でX2がフッ素原子である。]
で表されるフルオロアルカン化合物を、エーテルを含む溶媒の存在下に脱フッ化水素反応する工程を備え、
(I)前記フルオロアルキル基が炭素数1~4のフルオロアルキル基である、又は
(II)前記エーテルが鎖状エーテルであり、前記脱フッ化水素反応を、前記鎖状エーテルを含む溶媒と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物及び/又はアルコキシドを含む塩基との存在下で行う
の少なくとも1つを満たす、製造方法。
【0008】
項2.前記溶媒の総量を100質量%として、前記溶媒の水分濃度が、0.01~500質量ppmである、項1に記載の製造方法。
【0009】
項3.前記エーテルが有するエーテル結合の数が、1~10個である、項1又は2に記載の製造方法。
【0010】
項4.前記(I)を満たす、項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【0011】
項5.前記フルオロアルキル基が、一般式(3):
-CF2R3 (3)
[式中、R3はフッ素原子又は炭素数1~3のフルオロアルキル基を示す。]
で表される、項4に記載の製造方法。
【0012】
項6.前記脱フッ化水素反応を塩基の存在下で行う、項4又は5に記載の製造方法。
【0013】
項7.前記塩基が、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物及び/又はアルコキシドである、項6に記載の製造方法。
【0014】
項8.前記(II)を満たす、項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【0015】
項9.前記フルオロアルキル基の炭素数が1~10である、項8に記載の製造方法。
【0016】
項10.前記フルオロアルキル基が、一般式(3):
-CF2R3 (3)
[式中、R3はフッ素原子又は炭素数1~9のフルオロアルキル基を示す。]
で表される、項8又は9に記載の製造方法。
【0017】
項11.前記脱フッ化水素反応における反応温度が、0~300℃である、項1~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【0018】
項12.一般式(1):
R1C≡CR2 (1)
[式中、R1及びR2は同一又は異なって、フッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。]
で表されるフルオロアルキン化合物と、
一般式(4):
R1CF=CHR2 (4)
[式中、R1及びR2は前記に同じである。]
で表されるフルオロアルケン化合物とを含有する組成物であって、
組成物全量を100モル%として、前記フルオロアルキン化合物の含有量が25.00~75.00モル%であり、前記フルオロアルケン化合物の含有量が25.00~75.00モル%であり、且つ、前記フルオロアルキン化合物と前記フルオロアルケン化合物の合計含有量が、90.00~100.00モル%である、組成物。
【0019】
項13.クリーニングガス、エッチングガス、冷媒、熱移動媒体又は有機合成用ビルディングブロックとして用いられる、項12に記載の組成物。
【0020】
項14.項12に記載の組成物の、クリーニングガス、エッチングガス、冷媒、熱移動媒体又は有機合成用ビルディングブロックへの使用。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、フルオロアルカン化合物から、効率的にフルオロアルカン化合物を合成する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0023】
本開示において、「選択率」とは、反応器出口からの流出ガスにおける原料化合物以外の化合物の合計モル量に対する、当該流出ガスに含まれる目的化合物の合計モル量の割合(モル%)を意味する。
【0024】
本開示において、「転化率」とは、反応器に供給される原料化合物のモル量に対する、反応器出口からの流出ガスに含まれる原料化合物以外の化合物の合計モル量の割合(モル%)を意味する。
【0025】
本開示において、「収率」とは、反応器に供給される原料化合物のモル量に対する、反応器出口からの流出ガスに含まれる目的化合物の合計モル量の割合(モル%)を意味する。
【0026】
フルオロアルキン化合物の製造方法としては、CF3CFHCFHCF3等のフルオロアルカン化合物から、脱フッ化水素反応を行ってCF3CF=CHCF3等のフルオロアルケン化合物を合成し、そこからさらに、脱フッ化水素反応を行って合成することが知られている。この方法では、脱フッ化水素反応を2回施す必要があり、製造工程が長くなっていた。
【0027】
また、非特許文献1のような、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)を塩基として用いて、ヘキサン、ジエチルエーテル、モノエチレングリコールジメチルエーテル等の溶媒中で、1回の脱フッ化水素反応で、フルオロアルカン化合物からフルオロアルキン化合物を得る方法も知られている。この方法では、KOC(CH3)3を塩基として用いて、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド等の溶媒中でも、1回の脱フッ化水素反応で、フルオロアルカン化合物からフルオロアルキン化合物が得られている。しかしながら、この方法においては、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)を使用する場合は、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)は高価であるため効率的な方法ではないうえに、収率は最大でも41%(高価なLDAを使用しない場合は最大で24%)であり、有効な製造方法とは言えない。
【0028】
本開示の製造方法によれば、従来と比較しても、フルオロアルカン化合物から、効率的にフルオロアルカン化合物を高収率で合成する方法を提供することができる。
【0029】
1.フルオロアルキン化合物の製造方法(第1の態様)
本開示の第1の態様におけるフルオロアルキン化合物の製造方法は、
一般式(1):
R1C≡CR2 (1)
[式中、R1及びR2は同一又は異なって、フッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。]
で表されるフルオロアルキン化合物の製造方法であって、
一般式(2):
R1CHX1CFX2R2 (2)
[式中、R1及びR2は前記に同じである。X1及びX2は、X1がフッ素原子でX2が水素原子であるか、又は、X1が水素原子でX2がフッ素原子である。]
で表されるフルオロアルカン化合物を、エーテルを含む溶媒の存在下に脱フッ化水素反応する工程を備え、
(I)前記フルオロアルキル基が炭素数1~4のフルオロアルキル基である
を満たす。
【0030】
つまり、本開示の第1の態様におけるフルオロアルキン化合物の製造方法は、
一般式(1):
R1C≡CR2 (1)
[式中、R1及びR2は同一又は異なって、フッ素原子又は炭素数1~4のフルオロアルキル基を示す。]
で表されるフルオロアルキン化合物の製造方法であって、
一般式(2):
R1CHX1CFX2R2 (2)
[式中、R1及びR2は前記に同じである。X1及びX2は、X1がフッ素原子でX2が水素原子であるか、又は、X1が水素原子でX2がフッ素原子である。]
で表されるフルオロアルカン化合物を、エーテル溶媒の存在下に脱フッ化水素反応する工程を備える。
【0031】
本開示によれば、上記した一般式(2)で表されるフルオロアルカン化合物の脱フッ化水素反応を行うことで、一般式(2)で表されるフルオロアルカン化合物1モルに対して2モルのフッ化水素が脱離した一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物を1ステップのみで得ることができる。
【0032】
(1-1)原料化合物(フルオロアルカン化合物)
本開示の製造方法(第1の態様)において使用できる基質としてのフルオロアルカン化合物は、上記のとおり、一般式(2):
R1CHX1CFX2R2 (2)
[式中、R1及びR2は同一又は異なって、フッ素原子又は炭素数1~4のフルオロアルキル基を示す。X1及びX2は、X1がフッ素原子でX2が水素原子であるか、又は、X1が水素原子でX2がフッ素原子である。]
で表されるフルオロアルカン化合物である。
【0033】
つまり、一般式(2)で表されるフルオロアルカン化合物は、一般式(2A)及び(2B):
R1CFHCFHR2 (2A)
R1CH2CF2R2 (2B)
[式中、R1及びR2は同一又は異なって、フッ素原子又は炭素数1~4のフルオロアルキル基を示す。]
のいずれも包含する。
【0034】
一般式(2)において、R1及びR2で示されるフルオロアルキル基は、アルキル基における1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された基を意味し、アルキル基の全ての水素原子が置換されたパーフルオロアルキル基も包含する。このようなフルオロアルキル基としては、直鎖状フルオロアルキル基及び分岐鎖状フルオロアルキル基のいずれも採用することができ、例えば、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、モノフルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、テトラフルオロエチル基、ペンタフルオロエチルフルオロエチル基、モノフルオロプロピル基、ジフルオロプロピル基、トリフルオロプロピル基、テトラフルオロプロピル基、ペンタフルオロプロピル基、ヘキサフルオロプロピル基、ヘプタフルオロプロピル基、モノフルオロブチル基、ジフルオロブチル基、トリフルオロブチル基、テトラフルオロブチル基、ヘプタフルオロブチル基、ヘキサフルオロブチル基、ヘプタフルオロブチル基、オクタフルオロブチル基、ノナフルオロブチル基等の炭素数1~4のフルオロアルキル基が挙げられ、フルオロアルキン化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点から、炭素数1~3のフルオロアルキル基が好ましい。また、これらフルオロアルキル基は、副反応を抑制しやすい観点からは水素原子が少ないことが好ましく、パーフルオロアルキル基が特に好ましい。
【0035】
基質であるフルオロアルカン化合物としては、フルオロアルキン化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点において、R1及びR2はいずれも、フルオロアルキル基が好ましく、パーフルオロアルキル基がより好ましく、トリフルオロメチル基がさらに好ましい。
【0036】
上記したR1及びR2は、それぞれ同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0037】
上記のような条件を満たす基質としてのフルオロアルカン化合物としては、具体的には、CF2HCF2H、CF3CFHCF2H、CF3CFHCFHCF3、CF3CF2CFHCFHCF3、CF3CF2CFHCFHCF2CF3、CFH2CF3、CF3CH2CF3、CF3CH2CF2CF3、CF3CF2CH2CF2CF3、CF3CF2CH2CF2CF2CF3等が挙げられる。これらのフルオロアルカン化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。このようなフルオロアルカン化合物は、公知又は市販品を採用することができる。
【0038】
(1-2)脱フッ化水素反応
本開示におけるフルオロアルカン化合物から脱フッ化水素反応させる工程では、例えば、基質として、一般式(2)で表されるフルオロアルカン化合物では、R1及びR2は、トリフルオロメチル基であることがより好ましい。
【0039】
つまり、以下の反応式:
CF3CFHCFHCF3 → CF3C≡CCF3 + 2HF
CF3CH2CF2CF3 → CF3C≡CCF3 + 2HF
に従い、CF3CFHCFHCF3又はCF3CH2CF2CF31モルに対して2モルのフッ化水素が脱離した脱フッ化水素反応であることが好ましい。
【0040】
本開示におけるフルオロアルカン化合物から脱フッ化水素反応させる工程は、転化率、選択率及び収率の観点から、エーテルを含む溶媒の存在下、つまり、エーテルを含む溶媒を用いた液相で行う。溶媒を使用しない気相で行ったり、エーテルを含む溶媒以外の溶媒を用いた液相反応を行ったりすると、フルオロアルケン化合物からの脱フッ化水素反応が進まず、1ステップでフルオロアルカン化合物からフルオロアルキン化合物を効率よく得ることができない。
【0041】
本開示においては、例えば金属容器を用いることにより、圧力をかけ、原料の沸点を上げることによって液相の量を多くすることで、目的化合物の収率をより向上させることができる。
【0042】
また、本開示においては、まず、上記した一般式(2)で表されるフルオロアルカン化合物の溶液を準備し、次いで、塩基の存在下に反応を進行させることが好ましい。
【0043】
(1-3)エーテルを含む溶媒
本開示では、好ましくは1ステップで、フルオロアルカン化合物から脱フッ化水素反応によりフルオロアルキン化合物を得るためにエーテルを含む溶媒の存在下で反応を行う。
【0044】
ただし、フルオロアルカン化合物から脱フッ化水素反応によりフルオロアルキン化合物を得られやすいように、水分量は少ないことが好ましい。このような観点から、エーテルを含む溶媒の総量を100質量%として、エーテルを含む溶媒の水分濃度は、500質量ppm以下が好ましく、400質量ppm以下がより好ましく、300質量ppm以下がさらに好ましい。なお、エーテルを含む溶媒の水分濃度の下限値は特に制限されるわけではないが、技術的に達成しやすい観点から0.01質量ppm以上が好ましい。
【0045】
また、フルオロアルカン化合物から脱フッ化水素反応によりフルオロアルキン化合物を得られやすいように、エーテルが有するエーテル結合の数は極力少ないことが好ましい。このような観点から、エーテルが有するエーテル結合の数は、1~10が好ましく、1~5がより好ましく、1~3がさらに好ましく、1~2が特に好ましい。
【0046】
以上のような条件を満たすエーテルを含む溶媒におけるエーテルとしては、転化率、選択率及び収率の観点から、鎖状エーテルが好ましい。なお、鎖状エーテルとは、環状構造を一切有しないエーテル化合物のみならず、エーテル結合を含まない環状構造を含むエーテル化合物も包含される。つまり、鎖状エーテルとは、テトラヒドロフランのように、エーテル結合が環状構造を構成しているエーテル化合物は包含しないが、ジフェニルエーテルのように、エーテル結合を含まない環状構造を含むエーテル化合物も包含する概念である。なお、環状構造を一切有しないエーテル化合物を使用すれば、目的物であるフルオロアルキン化合物の収率を特に向上させることができ、エーテル結合を含まない環状構造を含むエーテル化合物を使用すれば、不純物(フルオロアルカン化合物、フルオロアルケン化合物及びフルオロアルキン化合物以外のハイドロフルオロカーボン化合物)の収率を特に低減することができる。このようなエーテルとしては、具体的には、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ(n-ブチル)エーテル、ジフェニルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジグライム等が好ましい。エーテル溶媒は、単独で使用することもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。なかでも、転化率、選択率及び収率の観点から、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ(n-ブチル)エーテル、ジフェニルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等が好ましく、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ(n-ブチル)エーテル、ジフェニルエーテル等がより好ましく、ジイソプロピルエーテル、ジ(n-ブチル)エーテル、ジフェニルエーテル等がさらに好ましい。
【0047】
本開示においては、エーテルを使用していれば、その他の溶媒、例えば、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸メチルプロピル、炭酸エチルプロピル等の炭酸エステル溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル等のエステル溶媒;アセトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトン等のケトン溶媒;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のラクトン溶媒;テトラヒドロフラン等の環状エーテル溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン溶媒等と併用することを妨げるものではない。ただし、反応の転化率、選択率、収率等の観点から、反応に使用する溶媒の総量を100体積%として、上記エーテルの使用量は80~100体積%(特に90~100体積%)が好ましく、これら他の溶媒の使用量は0~20体積%(特に0~10体積%)が好ましい。
【0048】
(1-4)塩基
本開示におけるフルオロアルカン化合物から脱フッ化水素反応させてフルオロアルキン化合物を得る工程は、転化率、選択率及び収率の観点から、塩基の存在下で行うことが好ましい。
【0049】
塩基としては、反応の転化率やハロゲン化アルキン化合物の選択率及び収率の観点から、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物及びアルコキシドよりなる群から選ばれる少なくとも1種(つまり、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属アルコキシド及びアルカリ土類金属アルコキシドよりなる群から選ばれる少なくとも1種)が好ましく、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物並びにアルコキシドアルカリ金属塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種(つまり、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドよりなる群から選ばれる少なくとも1種)がより好ましく、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルコキシド(つまり、アルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ金属アルコキシド)がさらに好ましく、アルカリ金属水酸化物が特に好ましい。このような塩基としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ナトリウムメトキシド、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシド、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド、マグネシウムtert-ブトキシド、カルシウムメトキシド、カルシウムエトキシド、カルシウムtert-ブトキシド等が挙げられる。なかでも、反応の転化率やハロゲン化アルキン化合物の選択率及び収率の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシド等が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシド等がより好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等がさらに好ましい。
【0050】
塩基の使用量は、特に制限されないが、一般式(2)で表されるフルオロアルカン化合物1モルに対して、1.0~10.0モルが好ましく、1.5~5.0モルがより好ましく、2.0~3.0モルがさらに好ましい。
【0051】
(1-5)反応条件
密閉反応系
本開示において、目的化合物の一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物は、その沸点が低く、室温で気体(ガス)として存在する。そのため、本開示における脱フッ化水素反応する工程では、反応系を密閉反応系とすることで、自然と密閉反応系内の圧力は上昇し、加圧条件下で反応を行うことができる。このため、目的化合物である一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物をより高い選択率及びより高い転化率で得ることができる。
【0052】
このように、目的化合物の沸点が低いことにより密閉反応系は加圧され、上記したエーテル溶媒中の基質(原料化合物)濃度が上昇し反応性を向上させることが可能である。密閉反応系とするためには、バッチ式の耐圧反応容器を用いて反応系を密閉して、反応を行うことが好ましい。バッチ式で反応を行う場合には、例えば、オートクレーブ等の圧力容器に原料化合物、エーテル溶媒及び必要に応じて塩基等を仕込み、ヒーターにて適切な反応温度まで昇温させ、撹拌下に一定時間反応することが好ましい。反応雰囲気としては、窒素、ヘリウム、炭酸ガス等の不活性ガスの雰囲気中で反応を行うことが好ましい。
【0053】
本開示における脱フッ化水素反応する工程では、密閉圧反応系での反応温度は、反応の転化率やハロゲン化アルキン化合物の選択率及び収率の観点から、通常0~400℃が好ましく、25~300℃がより好ましく、50~200℃がさらに好ましい。
【0054】
なお、塩基を使用しない場合又は塩基としてアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物を使用する場合は、密閉圧反応系での反応温度は、反応の転化率やハロゲン化アルキン化合物の選択率及び収率の観点から、通常25~400℃が好ましく、50~300℃がより好ましく、100~200℃がさらに好ましい。
【0055】
一方、塩基としてアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のアルコキシドを使用する場合は、反応温度が高すぎるとアルコキシドの二重結合への付加反応が進行するため、反応温度は低めとすることが好ましい。このため、密閉圧反応系での反応温度は、反応の転化率やハロゲン化アルキン化合物の選択率及び収率の観点から、通常0~200℃が好ましく、25~150℃がより好ましく、50~100℃がさらに好ましい。
【0056】
なお、反応時間は特に制限はなく、反応を十分に進行させることができる時間とすることができ、具体的には、反応系内で組成に変化がなくなるまで反応を進行させることができる。
【0057】
加圧反応系
本開示において、脱フッ化水素反応する工程は、反応温度を0℃以上とし、反応圧力を0kPaより大きくすることで、加圧反応系にて反応を行うこともできる。これにより、目的化合物である一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物をより高い選択率及びより高い転化率で得ることができる。このように反応系が加圧されると、エーテル溶媒中の基質(原料化合物)濃度が上昇し反応性を向上させることが可能である。前記加圧反応系は、バッチ式の耐圧反応容器を用いて反応系を密閉させて、反応を行うことが好ましい。バッチ式で反応を行う場合には、例えば、オートクレーブ等の圧力容器に原料化合物、エーテル溶媒及び必要に応じて塩基等を仕込み、ヒーターにて適切な反応温度まで昇温させ、撹拌下に一定時間反応することが好ましい。
【0058】
本開示における脱フッ化水素反応する工程では、反応圧力を0kPaより大きくすることが好ましい。本開示における脱フッ化水素反応する工程では、反応圧力は、0kPaより大きくすることが好ましく、5kPa以上がより好ましく、10kPa以上がさらに好ましく、15kPa以上が特に好ましい。反応圧力の上限は特に制限はなく、通常、2MPa程度である。なお、本開示において、圧力については特に表記が無い場合はゲージ圧とする。また、ここでは、加圧反応系を採用する場合の反応圧力について記載したが、加圧反応系を採用しない場合は、例えば、減圧下又は常圧下においても反応を進行させることができる。
【0059】
加圧には、反応系に、窒素、ヘリウム、炭酸ガス等の不活性ガスを送り込むことで、反応系内の圧力を上昇させることができる。
【0060】
本開示における脱フッ化水素反応する工程では、加圧反応系での反応温度は、より効率的に脱離反応を進行させ、目的化合物をより高い選択率で得ることができる観点、転化率の低下を抑制する観点から、通常0~400℃が好ましく、25~300℃がより好ましく、100~200℃がさらに好ましい。
【0061】
なお、塩基を使用しない場合又は塩基としてアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物を使用する場合は、加圧反応系での反応温度は、反応の転化率やハロゲン化アルキン化合物の選択率及び収率の観点から、通常25~400℃が好ましく、50~300℃がより好ましく、100~200℃がさらに好ましい。
【0062】
一方、塩基としてアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のアルコキシドを使用する場合は、反応温度が高すぎるとアルコキシドの二重結合への付加反応が進行するため、反応温度は低めとすることが好ましい。このため、加圧反応系での反応温度は、反応の転化率やハロゲン化アルキン化合物の選択率及び収率の観点から、通常0~200℃が好ましく、25~150℃がより好ましく、50~100℃がさらに好ましい。
【0063】
密閉反応系と加圧反応系との組合せ
本開示における脱フッ化水素反応する工程では、また、連続相槽型反応器(CSTR)に背圧弁を接続する等の方法により、液を抜き出しながら、若しくは生成物をガス化させて抜き出しながら、連続且つ加圧での反応形態で行うこともできる。
【0064】
脱フッ化水素反応終了後は、必要に応じて常法にしたがって精製処理を行い、一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物を得ることができる。
【0065】
(1-6)目的化合物(ハロゲン化アルキン化合物)
このようにして得られる本開示の目的化合物は、一般式(1):
R1C≡CR2 (1)
[式中、R1及びR2は同一又は異なって、フッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。]
で表されるフルオロアルキン化合物である。
【0066】
一般式(1)におけるR1及びR2は、上記した一般式(2)におけるR1及びR2と対応している。このため、製造しようとする一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物は、例えば、具体的には、CF≡CF、CF3C≡CF、CF3C≡CCF3、CF3CF2C≡CCF3、CF3CF2C≡CCF2CF3等が挙げられる。
【0067】
なお、本発明の製造方法によれば、上記した一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物が単独で得られるのではなく、一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物を含む組成物の形で得られることもある。この場合であっても、一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物以外に含まれるのは、大部分が、一般式(2)で表されるフルオロアルカン化合物から、1モルのフッ化水素のみが脱離した一般式(4):
R1CF=CHR2 (4)
[式中、R1及びR2は前記に同じである。]
で表されるフルオロアルケン化合物であるため、上記の脱フッ化水素反応する工程を繰り返すことにより、さらに、一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物の選択率及び収率を向上させることが可能である。
【0068】
例えば、後述の実施例1では、原料化合物としてCF3CFHCFHCF3を用い、CF3C≡CCF3を収率49.9モル%(転化率97.9%×選択率51.00%)、CF3CF=CHCF3を収率41.7モル%(転化率97.9%×選択率42.62%)で得られている。
【0069】
本開示では、脱フッ化水素反応する工程を繰り返す、つまり、工程数を増やした場合には、不純物として得られたCF3CF=CHCF3を原料物質として、同様に脱フッ化水素反応することになる。このため、2工程目のCF3CF=CHCF3→CF3C≡CCF3の収率も同様に49.9モル%とすると、2工程で合計して、原料であるCF3CFHCFHCF3の70.7モル%のCF3C≡CCF3が得られる。
【0070】
一方、従来の方法のように、1工程目をCF3CFHCFHCF3→CF3CF=CHCF3、2工程目をCF3CF=CHCF3→CF3C≡CCF3とすると、1工程目の収率が仮に100モル%であるとすると、2工程目の収率は上記のとおり49.9モル%であるため、2工程で、原料であるCF3CFHCFHCF3の49.9モル%のCF3C≡CCF3となる。
【0071】
以上から、本開示によれば、所定のフルオロアルカン化合物を原料化合物として用いて、1ステップのみで所定のフルオロアルキン化合物を得ることができるうえに、脱フッ化水素反応を複数回繰り返した場合には、従来の方法と比較してフルオロアルキン化合物の収率を向上させることが可能である。いずれにしても、本開示の製造方法が有用であることが理解できる。
【0072】
このようにして得られたフルオロアルキン化合物は、半導体、液晶等の最先端の微細構造を形成するためのエッチングガス、クリーニングガス、デポジットガス、冷媒、熱移動媒体、有機合成用ビルディングブロック等の各種用途に有効利用できる。デポジットガス及び有機合成用ビルディングブロックについては後述する。
【0073】
2.フルオロアルキン化合物の製造方法(第2の態様)
本開示の第2の態様におけるフルオロアルキン化合物の製造方法は、
一般式(1):
R1C≡CR2 (1)
[式中、R1及びR2は同一又は異なって、フッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。]
で表されるフルオロアルキン化合物の製造方法であって、
一般式(2):
R1CHX1CFX2R2 (2)
[式中、R1及びR2は前記に同じである。X1及びX2は、X1がフッ素原子でX2が水素原子であるか、又は、X1が水素原子でX2がフッ素原子である。]
で表されるフルオロアルカン化合物を、エーテルを含む溶媒の存在下に脱フッ化水素反応する工程を備え、
(II)前記エーテルが鎖状エーテルであり、前記脱フッ化水素反応を、前記鎖状エーテルを含む溶媒と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物及び/又はアルコキシドを含む塩基との存在下で行う。
【0074】
つまり、本開示の第2の態様におけるフルオロアルキン化合物の製造方法は、
一般式(1):
R1C≡CR2 (1)
[式中、R1及びR2は同一又は異なって、フッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。]
で表されるフルオロアルキン化合物の製造方法であって、
一般式(2):
R1CHX1CFX2R2 (2)
[式中、R1及びR2は前記に同じである。X1及びX2は、X1がフッ素原子でX2が水素原子であるか、又は、X1が水素原子でX2がフッ素原子である。]
で表されるフルオロアルカン化合物を、鎖状エーテルを含む溶媒と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物及び/又はアルコキシドを含む塩基との存在下に脱フッ化水素反応する工程を備える。
【0075】
本開示によれば、上記した一般式(2)で表されるフルオロアルカン化合物の脱フッ化水素反応を行うことで、一般式(2)で表されるフルオロアルカン化合物1モルに対して2モルのフッ化水素が脱離した一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物を1ステップのみで得ることができる。
【0076】
(2-1)原料化合物(フルオロアルカン化合物)
本開示の製造方法(第2の態様)において使用できる基質としてのフルオロアルカン化合物は、上記のとおり、一般式(2):
R1CHX1CFX2R2 (2)
[式中、R1及びR2は同一又は異なって、フッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。X1及びX2は、X1がフッ素原子でX2が水素原子であるか、又は、X1が水素原子でX2がフッ素原子である。]
で表されるフルオロアルカン化合物である。
【0077】
つまり、一般式(2)で表されるフルオロアルカン化合物は、一般式(2A)及び(2B):
R1CFHCFHR2 (2A)
R1CH2CF2R2 (2B)
[式中、R1及びR2は同一又は異なって、フッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。]
のいずれも包含する。
【0078】
一般式(2)において、R1及びR2で示されるフルオロアルキル基は、アルキル基における1個以上の水素原子がフッ素原子に置換された基を意味し、アルキル基の全ての水素原子が置換されたパーフルオロアルキル基も包含する。このようなフルオロアルキル基としては、直鎖状フルオロアルキル基及び分岐鎖状フルオロアルキル基のいずれも採用することができ、例えば、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、モノフルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、テトラフルオロエチル基、ペンタフルオロエチルフルオロエチル基、モノフルオロプロピル基、ジフルオロプロピル基、トリフルオロプロピル基、テトラフルオロプロピル基、ペンタフルオロプロピル基、ヘキサフルオロプロピル基、ヘプタフルオロプロピル基等の炭素数1~10のフルオロアルキル基が挙げられ、フルオロアルキン化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点から、炭素数1~4のフルオロアルキル基が好ましく、炭素数1~3のフルオロアルキル基がより好ましい。
【0079】
基質であるフルオロアルカン化合物としては、フルオロアルキン化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点において、R1及びR2はいずれも、フルオロアルキル基が好ましく、パーフルオロアルキル基がより好ましく、トリフルオロメチル基がさらに好ましい。
【0080】
上記したR1及びR2は、それぞれ同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0081】
上記のような条件を満たす基質としてのフルオロアルカン化合物としては、具体的には、CF2HCF2H、CF3CFHCF2H、CF3CFHCFHCF3、CF3CF2CFHCFHCF3、CF3CF2CFHCFHCF2CF3、CFH2CF3、CF3CH2CF3、CF3CH2CF2CF3、CF3CF2CH2CF2CF3、CF3CF2CH2CF2CF2CF3等が挙げられる。これらのフルオロアルカン化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。このようなフルオロアルカン化合物は、公知又は市販品を採用することができる。
【0082】
(2-2)脱フッ化水素反応
「脱フッ化水素反応」については、上記した「(1-2)脱フッ化水素反応」と同様とすることができる。各種条件も、上記したものと同様とすることができる。
【0083】
(2-3)鎖状エーテルを含む溶媒
本開示では、好ましくは1ステップで、フルオロアルカン化合物から脱フッ化水素反応によりフルオロアルキン化合物を得るために鎖状エーテルを含む溶媒の存在下で反応を行う。
【0084】
ただし、フルオロアルカン化合物から脱フッ化水素反応によりフルオロアルキン化合物を得られやすいように、水分量は少ないことが好ましい。このような観点から、鎖状エーテルを含む溶媒の総量を100質量%として、鎖状エーテルを含む溶媒の水分濃度は、500質量ppm以下が好ましく、400質量ppm以下がより好ましく、300質量ppm以下がさらに好ましい。なお、鎖状エーテルを含む溶媒の水分濃度の下限値は特に制限されるわけではないが、技術的に達成しやすい観点から0.01質量ppm以上が好ましい。
【0085】
また、フルオロアルカン化合物から脱フッ化水素反応によりフルオロアルキン化合物を得られやすいように、鎖状エーテルが有するエーテル結合の数は極力少ないことが好ましい。このような観点から、鎖状エーテルが有するエーテル結合の数は、1~10が好ましく、1~5がより好ましく、1~3がさらに好ましく、1~2が特に好ましい。
【0086】
以上のような条件を満たす鎖状エーテルを含む溶媒における鎖状エーテルとは、環状構造を一切有しないエーテル化合物のみならず、エーテル結合を含まない環状構造を含むエーテル化合物も包含される。つまり、鎖状エーテルとは、テトラヒドロフランのように、エーテル結合が環状構造を構成しているエーテル化合物は包含しないが、ジフェニルエーテルのように、エーテル結合を含まない環状構造を含むエーテル化合物も包含する概念である。なお、環状構造を一切有しないエーテル化合物を使用すれば、目的物であるフルオロアルキン化合物の収率を特に向上させることができ、エーテル結合を含まない環状構造を含むエーテル化合物を使用すれば、不純物(フルオロアルカン化合物、フルオロアルケン化合物及びフルオロアルキン化合物以外のハイドロフルオロカーボン化合物)の収率を特に低減することができる。このような鎖状エーテルとしては、具体的には、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ(n-ブチル)エーテル、ジフェニルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジグライム等が好ましい。鎖状エーテル溶媒は、単独で使用することもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。なかでも、転化率、選択率及び収率の観点から、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ(n-ブチル)エーテル、ジフェニルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等が好ましく、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ(n-ブチル)エーテル、ジフェニルエーテル等がより好ましく、ジイソプロピルエーテル、ジ(n-ブチル)エーテル、ジフェニルエーテル等がさらに好ましい。
【0087】
本開示においては、鎖状エーテルを使用していれば、その他の溶媒、例えば、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸メチルプロピル、炭酸エチルプロピル等の炭酸エステル溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル等のエステル溶媒;アセトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトン等のケトン溶媒;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のラクトン溶媒;テトラヒドロフラン等の環状エーテル溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン溶媒等と併用することを妨げるものではない。ただし、反応の転化率、選択率、収率等の観点から、これら他の溶媒の使用量は少ないほうが好ましく、具体的には、反応に使用する溶媒の総量を100体積%として、上記鎖状エーテルの使用量は80~100体積%(特に90~100体積%)が好ましく、これら他の溶媒の使用量は0~20体積%(特に0~10体積%)が好ましい。
【0088】
(2-4)塩基
本開示におけるフルオロアルカン化合物から脱フッ化水素反応させてフルオロアルキン化合物を得る工程は、転化率、選択率及び収率の観点から、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物及び/又はアルコキシドを含む塩基の存在下で行う。
【0089】
塩基としては、反応の転化率やハロゲン化アルキン化合物の選択率及び収率の観点から、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物及びアルコキシドよりなる群から選ばれる少なくとも1種(つまり、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属アルコキシド及びアルカリ土類金属アルコキシドよりなる群から選ばれる少なくとも1種)、好ましくはアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物並びにアルコキシドアルカリ金属塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種(つまり、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドよりなる群から選ばれる少なくとも1種)、より好ましくは、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルコキシド(つまり、アルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ金属アルコキシド)、さらに好ましくはアルカリ金属水酸化物である。このような塩基としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ナトリウムメトキシド、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシド、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド、マグネシウムtert-ブトキシド、カルシウムメトキシド、カルシウムエトキシド、カルシウムtert-ブトキシド等が挙げられる。なかでも、反応の転化率やハロゲン化アルキン化合物の選択率及び収率の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシド等が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシド等がより好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等がさらに好ましい。
【0090】
塩基の使用量は、特に制限されないが、一般式(2)で表されるフルオロアルカン化合物1モルに対して1モル前後であることが好ましい。具体的には、塩基の使用量は、一般式(2)で表されるフルオロアルカン化合物1モルに対して、1.0~10.0モルが好ましく、1.5~5.0モルがより好ましく、2.0~3.0モルがさらに好ましい。
【0091】
(2-5)反応条件及び目的化合物
「反応条件」については、上記した「(1-5)反応条件」と同様とすることができる。また、「目的化合物」については、上記した「(1-6)目的化合物」と同様とすることができる。各種条件も、上記したものと同様とすることができる。
【0092】
3.組成物
以上のようにして、フルオロアルカン化合物から好ましくは1ステップで、フルオロアルキン化合物を得ることができるが、フルオロアルキン化合物を含む組成物の形で得られることもある。特に、本開示の製造方法によれば、例えば、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物と、一般式(2)で表されるフルオロアルカン化合物から、1モルのフッ化水素のみが脱離した一般式(4):
R1CF=CHR2 (4)
[式中、R1及びR2は前記に同じである。]
で表されるフルオロアルケン化合物とを含有する組成物が生成され得る。
【0093】
一般式(4)におけるR1及びR2は、上記した一般式(2)におけるR1及びR2と対応している。このため、一般式(4)で表されるフルオロアルケン化合物は、例えば、具体的には、CF2=CFH、CF3CF=CFH、CF3CH=CFH、CF3CF=CHCF3、CF3CF2CF=CHCF3、CF3CF2CH=CFCF3、CF3CF2CF=CHCF2CF3等が挙げられる。これらのフルオロアルケン化合物は、単独であってもよく、2種以上を組合せであってもよい。
【0094】
本開示の製造方法によれば、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物と、前記一般式(4)で表されるフルオロアルケン化合物とを、同程度の量含み、他の成分の含有量が少ない組成物が製造されやすい傾向にある。このため、本開示におけるフルオロアルキン化合物を含む組成物は、組成物全量を100モル%として、一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物の含有量は、25.00モル%以上が好ましく、30.00モル%以上がより好ましく、35.00モル%以上がさらに好ましい。同様に、本開示におけるフルオロアルキン化合物を含む組成物は、組成物全量を100モル%として、一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物の含有量は、例えば、75.00モル%以下であってもよく、70.00モル%以下であってもよく、65.00モル%以下であってもよい。また、本開示におけるフルオロアルキン化合物を含む組成物は、組成物全量を100モル%として、一般式(4)で表されるフルオロアルケン化合物の含有量は、25.00モル%以上であってもよく、30.00モル%以上であってもよく、35.00モル%以上であってもよい。同様に、本開示におけるフルオロアルキン化合物を含む組成物は、組成物全量を100モル%として、一般式(4)で表されるフルオロアルケン化合物の含有量は、75.00モル%以下が好ましく、70.00モル%以下がより好ましく、65.00モル%以下がさらに好ましい。さらに、本開示におけるフルオロアルキン化合物を含む組成物は、組成物全量を100モル%として、一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物と一般式(4)で表されるフルオロアルケン化合物との合計含有量は、90.00モル%以上が好ましく、91.00モル%以上がより好ましく、92.00モル%以上がさらに好ましい。同様に、本開示におけるフルオロアルキン化合物を含む組成物は、組成物全量を100モル%として、一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物と一般式(4)で表されるフルオロアルケン化合物との合計含有量は、100.00モル%以下であってもよく、99.99モル%以下であってもよく、99.98モル%以下であってもよい。
【0095】
上記のとおり、本開示の製造方法によれば、得られる組成物中に含まれる一般式(1)で表されるフルオロアルキン化合物及び一般式(4)で表されるフルオロアルケン化合物以外の成分として、トリフルオロメタン(R23)、ジフルオロメタン(R32)、テトラフルオロメタン(R14)、モノフルオロメタン(R41)、1,2-ジフルオロエチレン(R1132)、1,1,2-トリフルオロエチレン(R1123)等のハイドロフルオロカーボン化合物が含まれていてもよい。この場合、本開示におけるフルオロアルキン化合物を含む組成物は、組成物全量を100モル%として、これら他のハイドロフルオロカーボン化合物の含有量は、0.00モル%以上であってもよく、0.01モル%以上であってもよく、0.02モル%以上であってもよい。同様に、本開示におけるフルオロアルキン化合物を含む組成物は、組成物全量を100モル%として、これら他のハイドロフルオロカーボン化合物の含有量は、10.00モル%以下が好ましく、7.50モル%以下がより好ましく、5.00モル%以下がさらに好ましい。
【0096】
本開示の製造方法によれば、フルオロアルカン化合物からフルオロアルキン化合物を得ようとする従来の方法よりも、フルオロアルキン化合物を特に高い選択率及び収率で得ることができ、その結果、フルオロアルキン化合物を得る為の精製を効率よく行うことができる。
【0097】
本開示のフルオロアルキン化合物を含む組成物は、フルオロアルキン化合物単独の場合と同様に、半導体、液晶等の最先端の微細構造を形成するためのエッチングガスの他、クリーニングガス、デポジットガス、冷媒、熱移動媒体、有機合成用ビルディングブロック等の各種用途に有効利用できる。
【0098】
前記デポジットガスとは、エッチング耐性ポリマー層を堆積させるガスである。
【0099】
前記有機合成用ビルディングブロックとは、反応性が高い骨格を有する化合物の前駆体となり得る物質を意味する。例えば、本開示の組成物とCF3Si(CH3)3等の含フッ素有機ケイ素化合物とを反応させると、CF3基等のフルオロアルキル基を導入して洗浄剤や含フッ素医薬中間体と成り得る物質に変換することが可能である。
【0100】
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能である。
【実施例】
【0101】
以下に実施例を示し、本開示の特徴を明確にする。本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0102】
実施例1~6及び比較例1のフルオロアルキン化合物の製造方法では、原料化合物は、一般式(2)で表されるフルオロアルカン化合物において、R1及びR3はトリフルオロメチル基とし、以下の反応式:
CF3CFHCFHCF3 → CF3C≡CCF3 + 2HF
に従って、脱フッ化水素反応により、フルオロアルキン化合物を得た。
【0103】
実施例1~6及び比較例1
オートクレーブに、塩基として水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、ナトリウムtert-ブトキシド(t-BuONa)又はカリウムtert-ブトキシド(t-BuOK)と、溶媒としてジ(n-ブチル)エーテル(Bu2O)、ジフェニルエーテル(Ph2O)、ジグライム又は水とを加え、さらに原料化合物(CF3CFHCFHCF3)を加え、蓋をして密閉系にした。加えた溶媒中の塩基の濃度は、2.5モル/Lとした。この際、塩基の使用量は、原料化合物1モルに対して2モルとなるように調整した。その時の圧力は0kPaであった。その後、100℃又は150℃まで昇温して撹拌し、反応を進行させた。脱フッ化水素反応を開始してから、適宜サンプリングを行い、反応系内で組成に変化がなくなった時を反応終了とした。反応終了時の圧力は500kPaであった。
【0104】
撹拌停止後、室温まで冷却し、ガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、商品名「GC-2014」)を用いてガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)により質量分析を行い、NMR(日本電子(株)製、商品名「400YH」)を用いてNMRスペクトルによる構造解析を行った。質量分析及び構造解析の結果から、目的化合物としてCF3C≡CCF3が生成したことが確認された。結果を表1に示す。なお、表1において、R23はトリフルオロメタン、R1132は1,2-ジフルオロエチレン、PF2Bは目的化合物であるCF3C≡CCF3、1327myzはCF3CF=CHCF3を意味する。
【0105】
【0106】
実施例7及び比較例2
ICP(Inductive Coupled Plasma)放電電力800W、バイアス電力100W、圧力3mmTorr(0.399Pa)、電子密度8×1010~2×1011cm-3、電子温度5~7eVのエッチング条件で、実施例1で得られた組成物(CF3C≡CCF3を51.00モル%、CF3CF=CHCF3を42.62モル%含む)を用いて、SiO2膜とレジスト膜とをエッチングしたときのエッチング速度及び対レジスト選択比(SiO2膜のエッチング速度/レジストのエッチング速度)を測定した(実施例7)。また用いたガスをCF3C≡CCF3のみに変更して同様の実験を行った(比較例2)。
【0107】
結果を表2に示す。
【0108】