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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】車両制御装置及び車両制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/12 20120101AFI20230906BHJP
   B60W 40/08 20120101ALI20230906BHJP
   B60W 40/076 20120101ALI20230906BHJP
   B60K 28/10 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
B60W50/12
B60W40/08
B60W40/076
B60K28/10 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020194258
(22)【出願日】2020-11-24
(65)【公開番号】P2022083031
(43)【公開日】2022-06-03
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹中 淳
(72)【発明者】
【氏名】雲丹亀 誉史
(72)【発明者】
【氏名】猪飼 正樹
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-026129(JP,A)
【文献】特開2014-019295(JP,A)
【文献】特開2003-056371(JP,A)
【文献】特開2019-182314(JP,A)
【文献】特開2020-131862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 40/00 ~ 50/16
B60K 28/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を加速させるために前記車両の運転者によって操作される加速操作子と、
前記車両を減速させるために前記運転者によって操作される減速操作子と、
方向指示器と、
所定の誤操作条件が成立するか否かを判定し、前記誤操作条件が成立したと判定した場合、前記加速操作子の操作量に応じて変化する前記車両の駆動力が前記誤操作条件が成立していない場合に比較して小さくなるように、前記駆動力を制御する駆動力抑制制御を実行する制御ユニットと、
を備え、
前記誤操作条件は、第1条件、第2条件及び第3条件を少なくとも含み、
前記第1条件は、前記操作量の単位時間当たりの変化量である操作速度が所定の正の第1操作速度閾値以上であるとの操作速度条件を少なくとも含み、
前記第2条件は、前記第1条件が成立した後に判定される条件であって、前記第1条件が成立した時点から所定の第1時間閾値以内に前記操作量が所定の正の第1操作量閾値以上になるとの条件であり、
前記第3条件は、前記運転者が前記減速操作子の操作を解除した時点からの経過時間が所定の第2時間閾値以上であるとの条件と、前記方向指示器がオン状態からオフ状態へと変更された時点からの経過時間が所定の第3時間閾値以上であるとの条件と、の少なくとも一方を含み、
前記制御ユニットは、前記第2条件が成立した時点にて前記第3条件が成立している場合、前記誤操作条件が成立したと判定するように構成され、
更に、前記制御ユニットは、
前記第2条件が成立した時点にて前記第3条件が成立しておらず、且つ、前記第1条件が成立した時点から前記第1時間閾値以内に前記第3条件が成立した場合において、
前記第3条件が成立する前に所定の踏込条件が成立しているとき、前記誤操作条件が成立しないと判定するように構成され、
前記制御ユニットは、前記操作量が所定の正の第2操作量閾値以上であり、且つ、前記操作速度が所定の正の第2操作速度閾値以下であるとき、前記踏込条件が成立したと判定するように構成された、
車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記第2操作量閾値は、前記第1操作量閾値以上の値であり、
前記第2操作速度閾値は、前記第1操作速度閾値以下の値である、
車両制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記第1条件は、前記操作速度条件に加えて、
前記操作速度条件が成立したときの前記操作量が、前記第1操作量閾値よりも小さい正の第3操作量閾値以上であるとの操作量条件を更に含む、
車両制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記誤操作条件は、
前記車両の車速が所定の速度閾値以下であるとの第4条件と、
前記車両が走行している道路の勾配が所定の勾配閾値以下であるとの第5条件と、
の少なくとも一方を更に含む、
車両制御装置。
【請求項5】
車両を加速させるために前記車両の運転者によって操作される加速操作子と、前記車両を減速させるために前記運転者によって操作される減速操作子と、方向指示器と、を備える車両における車両制御方法であって、
所定の誤操作条件が成立するか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにおいて前記誤操作条件が成立したと判定された場合に、前記加速操作子の操作量に応じて変化する前記車両の駆動力が前記誤操作条件が成立していない場合に比較して小さくなるように、前記駆動力を制御する駆動力抑制制御を実行する制御ステップと、
を含み、
前記誤操作条件は、第1条件、第2条件及び第3条件を少なくとも含み、
前記第1条件は、前記操作量の単位時間当たりの変化量である操作速度が所定の正の第1操作速度閾値以上であるとの操作速度条件を少なくとも含み、
前記第2条件は、前記第1条件が成立した後に判定される条件であって、前記第1条件が成立した時点から所定の第1時間閾値以内に前記操作量が所定の正の第1操作量閾値以上になるとの条件であり、
前記第3条件は、前記運転者が前記減速操作子の操作を解除した時点からの経過時間が所定の第2時間閾値以上であるとの条件と、前記方向指示器がオン状態からオフ状態へと変更された時点からの経過時間が所定の第3時間閾値以上であるとの条件と、の少なくとも一方を含み、
前記判定ステップは、
前記第2条件が成立した時点にて前記第3条件が成立している場合、前記誤操作条件が成立したと判定することを含み、
前記判定ステップは、更に、
前記第2条件が成立した時点にて前記第3条件が成立しておらず、且つ、前記第1条件が成立した時点から前記第1時間閾値以内に前記第3条件が成立した場合において、
前記第3条件が成立する前に所定の踏込条件が成立しているとき、前記誤操作条件が成立しないと判定することを含み、
前記操作量が所定の正の第2操作量閾値以上であり、且つ、前記操作速度が所定の正の第2操作速度閾値以下であるとき、前記踏込条件が成立したと判定される、
車両制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加速操作子が誤って操作されていると判定した場合に、車両の走行状態を制御する車両制御装置及び車両制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られる車両制御装置の一つ(以下、「従来装置」と称呼する。)は、車両の加速操作子(アクセルペダル)の操作量が急上昇した場合、運転者が、減速操作子(ブレーキペダル)の代わりに誤って加速操作子を操作していると判定する。以降において、このような操作を「加速操作子(アクセルペダル)の誤操作」と称呼する。従来装置は、加速操作子の誤操作が行われたと判定した場合、車両の実際の加速度が上限加速度を超えないように車両の走行状態を制御する(例えば、特許文献1を参照。)。係る制御は、便宜上「駆動力抑制制御」とも称呼される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-131069号公報
【発明の概要】
【0004】
ところで、運転者が意図的に加速操作子を操作している場合でも、加速操作子の操作量が急上昇する状況がある。従来装置は、このような状況においても加速操作子の誤操作が行われたと判定して、駆動力抑制制御を実行する可能性がある。従って、実際には加速操作子の誤操作が行われてないにも関わらず、車両が加速されないという問題が生じる。
【0005】
本開示は、加速操作子の誤操作と加速操作子の意図的な操作とを従来装置に比べて高い精度で区別できる技術を提供する。
【0006】
一以上の実施形態における車両制御装置は、
車両を加速させるために前記車両の運転者によって操作される加速操作子(51)と、
前記車両を減速させるために前記運転者によって操作される減速操作子(52)と、
方向指示器(61r、61l)と、
所定の誤操作条件が成立するか否かを判定し、前記誤操作条件が成立したと判定した場合、前記加速操作子の操作量(AP)に応じて変化する前記車両の駆動力が前記誤操作条件が成立していない場合に比較して小さくなるように、前記駆動力を制御する駆動力抑制制御を実行する制御ユニット(10)と、
を備える。
前記誤操作条件は、第1条件、第2条件及び第3条件を少なくとも含む。
前記第1条件は、前記操作量の単位時間当たりの変化量である操作速度(APV)が所定の正の第1操作速度閾値(APVth1)以上であるとの操作速度条件を少なくとも含む。
前記第2条件は、前記第1条件が成立した後に判定される条件であって、前記第1条件が成立した時点から所定の第1時間閾値(Tath)以内に前記操作量(AP)が所定の正の第1操作量閾値(APth1)以上になるとの条件である。
前記第3条件は、前記運転者が前記減速操作子の操作を解除した時点からの経過時間(Tb)が所定の第2時間閾値(Tbth)以上であるとの条件と、前記方向指示器がオン状態からオフ状態へと変更された時点からの経過時間(Tc)が所定の第3時間閾値(Tcth)以上であるとの条件と、の少なくとも一方を含む。
前記制御ユニットは、前記第2条件が成立した時点にて前記第3条件が成立している場合、前記誤操作条件が成立したと判定するように構成されている。
更に、前記制御ユニットは、
前記第2条件が成立した時点にて前記第3条件が成立しておらず、且つ、前記第1条件が成立した時点から前記第1時間閾値以内に前記第3条件が成立した場合において、
前記第3条件が成立する前に所定の踏込条件が成立しているとき、前記誤操作条件が成立しないと判定するように構成されている。
前記制御ユニットは、前記操作量(AP)が所定の正の第2操作量閾値(APth2)以上であり、且つ、前記操作速度(APV)が所定の正の第2操作速度閾値(APVth2)以下であるとき、前記踏込条件が成立したと判定するように構成されている。
【0007】
上記構成によれば、車両制御装置は、第1条件、第2条件及び第3条件を用いて、加速操作子の誤操作と加速操作子の意図的な操作とを従来装置に比べて高い精度で区別できる。
【0008】
一方で、運転者が減速操作子の操作を解除した直後に加速操作子を意図的に強く操作すると仮定する。このような操作が行われた場合、第2条件が成立した時点にて第3条件が成立しておらず、且つ、第1条件が成立した時点から第1時間閾値以内に第3条件が成立することがある。このような場合において、第3条件が成立する前に踏込条件が成立しているとき、車両制御装置は、誤操作条件が成立しないと判定する。従って、運転者が意図的に加速操作子を強く操作している状況において、駆動力抑制制御が実行される可能性を小さくできる。
【0009】
上記のように運転者が減速操作子の操作を解除した直後に加速操作子を意図的に強く操作した場合、運転者は、加速操作子を強く操作した状態を維持する。操作速度が小さくなるものの、操作量が比較的高い操作量で維持される。上記構成によれば、このような操作が行われた場合、車両制御装置は、踏込条件が成立したと判定することができる。このように、車両制御装置は、踏込条件を用いることにより、運転者が加速操作子を意図的に操作している蓋然性が高いかを判定することができる。
【0010】
一以上の実施形態において、前記第2操作量閾値は、前記第1操作量閾値以上の値である。前記第2操作速度閾値は、前記第1操作速度閾値以下の値である。
【0011】
上記構成によれば、車両制御装置は、第1操作量閾値と第2操作量閾値との関係、及び、第1操作速度閾値と第2操作速度閾値との関係に基いて、操作速度が小さくなり且つ操作量が高い操作量で維持されているかを判定できる。
【0012】
一以上の実施形態において、前記第2操作量閾値は、前記第1操作量閾値と同じ値であってもよい。
【0013】
一以上の実施形態において、前記第1条件は、前記操作速度条件に加えて、前記操作速度条件が成立したときの前記操作量(AP)が、前記第1操作量閾値よりも小さい正の第3操作量閾値(APth3)以上であるとの操作量条件を更に含む。
【0014】
上記構成によれば、車両制御装置は、加速操作子の誤操作と加速操作子の意図的な操作とをより高い精度で区別できる。
【0015】
一以上の実施形態において、前記誤操作条件は、
前記車両の車速(Vs)が所定の速度閾値(Vth)以下であるとの第4条件と、
前記車両が走行している道路の勾配(Gr)が所定の勾配閾値(Grth)以下であるとの第5条件と、
の少なくとも一方を更に含む。
【0016】
上記構成によれば、車両制御装置は、車速及び/又は勾配を更に考慮して、加速操作子の誤操作と加速操作子の意図的な操作とを区別できる。
【0017】
一以上の実施形態において、車両を加速させるために前記車両の運転者によって操作される加速操作子(51)と、前記車両を減速させるために前記運転者によって操作される減速操作子(52)と、方向指示器(61r、61l)と、を備える車両における車両制御方法が提供される。当該車両制御方法は、
所定の誤操作条件が成立するか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにおいて前記誤操作条件が成立したと判定された場合に、前記加速操作子の操作量(AP)に応じて変化する前記車両の駆動力が前記誤操作条件が成立していない場合に比較して小さくなるように、前記駆動力を制御する駆動力抑制制御を実行する制御ステップと、
を含む。
前記誤操作条件は、第1条件、第2条件及び第3条件を少なくとも含む。
前記第1条件は、前記操作量の単位時間当たりの変化量である操作速度(APV)が所定の正の第1操作速度閾値(APVth1)以上であるとの操作速度条件を少なくとも含む。
前記第2条件は、前記第1条件が成立した後に判定される条件であって、前記第1条件が成立した時点から所定の第1時間閾値(Tath)以内に前記操作量(AP)が所定の正の第1操作量閾値(APth1)以上になるとの条件である。
前記第3条件は、前記運転者が前記減速操作子の操作を解除した時点からの経過時間(Tb)が所定の第2時間閾値(Tbth)以上であるとの条件と、前記方向指示器がオン状態からオフ状態へと変更された時点からの経過時間(Tc)が所定の第3時間閾値(Tcth)以上であるとの条件と、の少なくとも一方を含む。
前記判定ステップは、
前記第2条件が成立した時点にて前記第3条件が成立している場合、前記誤操作条件が成立したと判定することを含む。
前記判定ステップは、更に、
前記第2条件が成立した時点にて前記第3条件が成立しておらず、且つ、前記第1条件が成立した時点から前記第1時間閾値以内に前記第3条件が成立した場合において、
前記第3条件が成立する前に所定の踏込条件が成立しているとき、前記誤操作条件が成立しないと判定することを含む。ここで、前記操作量(AP)が所定の正の第2操作量閾値(APth2)以上であり、且つ、前記操作速度(APV)が所定の正の第2操作速度閾値(APVth2)以下であるとき、前記踏込条件が成立したと判定される。
【0018】
一以上の実施形態において、上記の制御ユニットは、本明細書に記述される一以上の機能を実行するためにプログラムされたマイクロプロセッサにより実施されてもよい。一以上の実施形態において、上記の制御ユニットは、一以上のアプリケーションに特化された集積回路、即ち、ASIC等により構成されたハードウェアによって、全体的に或いは部分的に実施されてもよい。
【0019】
上記説明においては、後述する一以上の実施形態に対応する構成要素に対し、実施形態で用いた名称及び/又は符号を括弧書きで添えている。しかしながら、各構成要素は、前記名称及び/又は符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。本開示の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される一以上の実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態に係る車両制御装置(第1装置)の概略構成図である。
図2】通常駆動力制御に使用される通常加速度マップM1を示した図である。
図3】駆動力抑制制御に使用される制限加速度マップM2を示した図である。
図4】アクセルペダルの誤操作が行われた場合のアクセルペダル操作量APの時間に対する変化の一例、及び、アクセルペダルの意図的な操作が行われた場合のアクセルペダル操作量APの時間に対する変化の一例を示した図である。
図5】アクセルペダルの意図的な操作が行われた場合のブレーキオフ時点からのアクセルペダル操作量APの時間に対する変化の一例を示した図である。
図6】アクセルペダルの誤操作が行われた場合のアクセルペダル操作量APの時間に対する変化の一例である。
図7】アクセルペダルの意図的な操作が行われた場合のアクセルペダル操作量APの時間に対する変化の一例である。
図8】制御ECUが実行する「第1誤操作判定ルーチン」を示したフローチャートである。
図9】制御ECUが図8のステップ807にて実行する「第2誤操作判定ルーチン」を示したフローチャートである。
図10】制御ECUが実行する「踏込条件判定ルーチン」を示したフローチャートである。
図11】制御ECUが実行する「駆動力制御ルーチン」を示したフローチャートである。
図12】制御ECUが実行する「終了判定ルーチン」を示したフローチャートである。
図13】第2実施形態に係る車両制御装置(第2装置)の制御ECUが図8のステップ807にて実行する「第2誤操作判定ルーチン」を示したフローチャートである。
図14】第3実施形態に係る車両制御装置(第3装置)の制御ECUが図8のステップ807にて実行する「第2誤操作判定ルーチン」を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
第1実施形態に係る車両制御装置(以下、「第1装置」と称呼される場合がある。)は、図1に示すように、車両VAに適用される。
【0022】
(構成)
第1装置は、制御ECU10、エンジンECU20、及び、ブレーキECU30を備えている。これらのECUは、図示しないCAN(Controller Area Network)を介して相互に情報を送信可能及び受信可能に接続されている。なお、これらのECUの幾つか又は全部が一つのECUに統合されてもよい。
【0023】
ECUは、エレクトロニックコントロールユニットの略称であり、マイクロコンピュータを主要構成部品として有する電子制御回路である。本明細書において、マイクロコンピュータは、CPU、RAM、ROM、不揮発性メモリ及びインターフェース(I/F)等を含む。CPUは、ROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより、後述する各種機能を実現するようになっている。
【0024】
制御ECU10は、以下に列挙する「センサ及びスイッチ」と接続されていて、それらの検出信号又は出力信号を受信するようになっている。
【0025】
車速センサ11は、車両VAの走行速度(車速)を検出し、車速Vsを表す信号を出力するようになっている。
【0026】
勾配センサ12は、例えば、車両前後方向の加速度と車両上下方向の加速度とを検出する2軸の加速度センサを含み、走行路面の車両前後方向の勾配Grを表す信号を出力するようになっている。例えば、勾配センサ12は、車両前後方向の加速度と車両上下方向の加速度との比に基いて、勾配Grを検出する。勾配Grは、車両VAが水平面を走行しているとき「0」となる。勾配Grは、車両VAが上り坂を走行しているときに正の値となり(Gr>0)、車両VAが下り坂を走行しているときに負の値となる(Gr<0)。
【0027】
ウインカースイッチ13は、左右のウィンカー(方向指示器)61r、61lのそれぞれをオン状態とオフ状態との間で変更させるためのスイッチである。運転者は、左右のウィンカー61r、61lを作動(点滅)させるためにウインカーレバー(図示略)を操作する。ウインカーレバーは、少なくとも第1位置及び第2位置に操作できるようになっている。第1位置は、初期位置から時計回りに所定角度回転された位置である。第2位置は、初期位置から反時計回りに所定角度回転された位置である。
【0028】
ウインカースイッチ13は、ウインカーレバーが第1位置にある場合、右のウィンカー61rをオン状態にする(即ち、ウィンカー61rを点滅させる)。この場合、ウインカースイッチ13は、ウィンカー61rがオン状態であることを表す信号を制御ECU10に出力する。ウインカースイッチ13は、ウインカーレバーが第2位置にある場合、左のウィンカー61lをオン状態にする(即ち、ウィンカー61lを点滅させる)。この場合、ウインカースイッチ13は、ウィンカー61lがオン状態であることを表す信号を制御ECU10に出力する。なお、ウインカースイッチ13は、左右のウィンカー61r、61lがオフ状態である場合、その旨を表す信号を制御ECU10に出力する。
【0029】
作動スイッチ14は、運転者が「後述する駆動力抑制制御」の実行の許可及び禁止の何れかを要求する場合に操作するスイッチである。作動スイッチ14が押下される度に、作動スイッチ14の状態がオン状態とオフ状態との間で交互に入れ替わる。作動スイッチ14の状態がオン状態である場合、駆動力抑制制御の実行が許可される。一方、作動スイッチ14の状態がオフ状態である場合、駆動力抑制制御の実行が禁止される。
【0030】
エンジンECU20は、アクセルペダル操作量センサ21及びエンジンセンサ22に接続されている。アクセルペダル操作量センサ21は、アクセルペダル51の操作量(即ち、アクセル開度[%])を検出し、アクセルペダル操作量APを表す信号をエンジンECU20に出力する。アクセルペダル51は、車両VAを加速させるために運転者によって操作される加速操作子である。運転者がアクセルペダル51を操作していない場合(即ち、運転者がアクセルペダル51を踏み込んでいない場合)、アクセルペダル操作量APは「0」になる。運転者がアクセルペダル51を踏み込む量が大きくなるほど、アクセルペダル操作量APは大きくなる。なお、エンジンECU20は、アクセルペダル操作量センサ21から受信した検出信号を制御ECU10に送信する。
【0031】
エンジンセンサ22は、内燃機関24の運転状態量を検出するセンサである。エンジンセンサ22は、スロットル弁開度センサ、機関回転速度センサ及び吸入空気量センサ等を含んでいる。
【0032】
更に、エンジンECU20は、エンジンアクチュエータ23に接続されている。エンジンアクチュエータ23は、火花点火・ガソリン燃料噴射式・内燃機関24のスロットル弁の開度を変更するスロットル弁アクチュエータを含む。エンジンECU20は、エンジンアクチュエータ23を駆動することによって、内燃機関24が発生するトルクを変更することができる。内燃機関24が発生するトルクは、変速機(図示略)を介して駆動輪に伝達される。従って、エンジンECU20は、エンジンアクチュエータ23を制御することによって、車両の駆動力を制御し加速状態(加速度)を変更することができる。
【0033】
なお、車両が、ハイブリッド車両である場合、エンジンECU20は、車両駆動源としての「内燃機関及び電動機」の何れか一方又は両方によって発生する車両の駆動力を制御することができる。更に、車両が電気自動車である場合、エンジンECU20は、車両駆動源としての電動機によって発生する車両の駆動力を制御することができる。
【0034】
ブレーキECU30は、ブレーキペダル操作量センサ31及びブレーキスイッチ32に接続されている。ブレーキペダル操作量センサ31は、ブレーキペダル52の操作量を検出し、ブレーキペダル操作量BPを表す信号を出力する。ブレーキペダル52は、車両VAを減速させるために運転者によって操作される減速操作子である。運転者がブレーキペダル52を操作していない場合(即ち、運転者がブレーキペダル52を踏み込んでいない場合)、ブレーキペダル操作量BPは「0」になる。運転者がブレーキペダル52を踏み込む量が大きくなるほど、ブレーキペダル操作量BPは大きくなる。なお、ブレーキECU30は、ブレーキペダル操作量センサ31から受信した検出信号を制御ECU10に送信する。
【0035】
ブレーキスイッチ32は、ブレーキペダル52が操作されているときにオン信号をブレーキECU30に出力し、ブレーキペダル52が操作されていないときにオフ信号をブレーキECU30に出力する。なお、ブレーキECU30は、ブレーキスイッチ32から受信した信号を制御ECU10に送信する。
【0036】
更に、ブレーキECU30は、ブレーキアクチュエータ33に接続されている。車輪に対する制動力(制動トルク)は、ブレーキアクチュエータ33によって制御される。ブレーキアクチュエータ33は、ブレーキECU30からの指示に応じて、ブレーキキャリパ34bに内蔵されたホイールシリンダに供給する油圧を調整し、その油圧によりブレーキパッドをブレーキディスク34aに押し付けて摩擦制動力を発生させる。従って、ブレーキECU30は、ブレーキアクチュエータ33を制御することによって、車両の制動力を制御し加速状態(減速度、即ち、負の加速度)を変更することができる。
【0037】
更に、制御ECU10は、スピーカー41及び表示器42に接続されている。表示器42は、運転席の正面に設けられたマルチインフォーメーションディスプレイである。表示器42は、車速Vs及びエンジン回転速度等の計測値の表示に加えて、各種の情報を表示する。なお、表示器42として、ヘッドアップディスプレイが採用されてもよい。
【0038】
制御ECU10は、後述する駆動力抑制制御を実行している間に、スピーカー41に「運転者の注意を喚起する警報音」を出力させる。更に、制御ECU10は、表示器42に、「アクセルペダル51が踏まれている」旨のメッセージ及び注意喚起用のマーク(例えば、ウォーニングランプ)を表示させる。
【0039】
(駆動力制御)
次に、制御ECU10によって実行される駆動力制御について説明する。本例において、駆動力制御は、通常駆動力制御及び駆動力抑制制御を含む。
【0040】
制御ECU10は、所定の誤操作条件が成立しているか否かを判定する。誤操作条件は、運転者がアクセルペダルの誤操作を行ったかどうかを判定するための条件である。誤操作条件の詳細は後述される。
【0041】
制御ECU10は、誤操作条件が成立していない場合、通常駆動力制御を実行する。一方で、制御ECU10は、誤操作条件が成立している場合、通常駆動力制御に代えて、駆動力抑制制御を実行する。
【0042】
・通常駆動力制御
制御ECU10は、誤操作条件が成立していない場合、以下のように、通常駆動力制御を実行する。制御ECU10は、第1時間が経過するごとに、アクセルペダル操作量AP及び車速Vsを図2に示した通常加速度マップM1(AP,Vs)に適用して、「車速Vs及びアクセルペダル操作量APに対応する要求加速度Gap」を求める。通常加速度マップM1(AP,Vs)によれば、アクセルペダル操作量APが大きくなるほど要求加速度Gapが大きくなり、車速Vsが高いほど要求加速度Gapが小さくなる。
【0043】
制御ECU10は、目標加速度Gtgtを要求加速度Gapに設定し、その目標加速度GtgtをエンジンECU20に送信する。エンジンECU20は、実加速度Gaが目標加速度Gtgtに一致するようにエンジンアクチュエータ23を制御する。
【0044】
・駆動力抑制制御
制御ECU10は、誤操作条件が成立している場合、以下のように、駆動力抑制制御を実行する。制御ECU10は、第1時間が経過するごとに、上述した通常駆動力制御と同様に、通常加速度マップM1(AP,Vs)を用いて要求加速度Gapを求める。更に、制御ECU10は、第1時間が経過するごとに、車速Vsを図3に示した制限加速度マップM2(Vs)に適用して、「車速Vsに対応する上限加速度Glim」を求める。制限加速度マップM2(Vs)によれば、車速Vsが「0」から「Vs1」までの値であるとき、上限加速度Glimが一定の加速度G1となる。更に、車速Vsが「Vs1」から大きくなるほど上限加速度Glimが小さくなる。加えて、車速Vsが「Vs2(>Vs1)」以上であるとき、上限加速度Glimが「0」になる。
【0045】
制御ECU10は、第1時間が経過するごとに、要求加速度Gapと上限加速度Glimとのうちの小さい方を目標加速度Gtgtとして設定する。そして、制御ECU10は、目標加速度GtgtをエンジンECU20に送信する。エンジンECU20は、実加速度Gaが目標加速度Gtgtに一致するようにエンジンアクチュエータ23を制御する。
【0046】
このように、制御ECU10が駆動力抑制制御を実行している場合、目標加速度Gtgtが、「車速Vsに応じた上限加速度Glim」以下に制限される。よって、運転者がアクセルペダル51の誤操作を行った場合、制御ECU10は、実加速度Gaが上限加速度Glimを超えないように車両VAの駆動力を制御することができる。換言すると、制御ECU10は、誤操作条件が成立したと判定した場合、アクセルペダル操作量APに応じて変化する車両VAの駆動力(実加速度に相当する値)が、誤操作条件が成立していない場合(即ち、通常駆動力制御を実行する場合)に比較して小さくなるように、車両VAの駆動力を制御する。
【0047】
(誤操作条件)
本願の発明者は、「アクセルペダルの誤操作」の過去のデータを検討した結果、以下の知見を得た。
【0048】
図4は、アクセルペダルの誤操作が行われた場合のアクセルペダル操作量AP(アクセル開度[%])の時間に対する変化の一例(実線L1を参照。)、及び、運転者が意図的にアクセルペダルを操作した場合のアクセルペダル操作量APの時間に対する変化の一例(一点鎖線L2を参照。)を示す。図4において、低開度領域は、例えばアクセル開度0[%]以上20[%]未満の領域であり、中開度領域は、例えばアクセル開度20[%]以上80[%]未満の領域であり、高開度領域は、例えばアクセル開度80[%]以上の領域である。なお、以降において、アクセルペダル操作量APの単位時間当たりの変化量を「アクセルペダル操作速度(又はアクセル開度速度)APV[%/s]」と称呼する。
【0049】
アクセルペダルが誤操作された場合、中開度領域において、アクセルペダル操作速度APVが大きくなり、時点t0においてアクセルペダル操作速度APVが正の第1操作速度閾値APVth1以上になる。更に、時点t0から比較的短い時間(Tm1)が経過したとき、アクセルペダル操作量APが高開度領域に到達する。これは、運転者がパニック状態に陥り、運転者がアクセルペダル51を強く踏み込んでしまうためであると考えられる。
【0050】
一方で、アクセルペダルが意図的に強く操作された場合にも中開度領域においてアクセルペダル操作速度APVが大きくなり、時点t0においてアクセルペダル操作速度APVが第1操作速度閾値APVth1以上になる。しかしながら、時点t0以降、アクセルペダル操作速度APVがやや減少する。これは、運転者は、最初はアクセルペダルを強く踏み込むものの、その後は比較的ゆっくりとアクセルペダルを踏み込む傾向にあるからである。従って、アクセルペダル操作速度APVが第1操作速度閾値APVth1以上になった時点t0から比較的長い時間(Tm2>Tm1)が経過した時点にてアクセルペダル操作量APが高開度領域に到達する。或いは、時点t0の後に、アクセルペダル操作量APが高開度領域に到達しない場合もある。
【0051】
そこで、第1装置は、アクセルペダル操作速度APVが第1操作速度閾値APVth1以上になった時点から所定の第1時間閾値Tath以内に、アクセルペダル操作量APが正の第1操作量閾値APth1以上になるか否かを判定する。このような条件が成立した場合、運転者がアクセルペダルの誤操作を行った可能性がある。
【0052】
具体的には、制御ECU10は、所定時間(以降、便宜上、「第1時間(Tp1)」と称呼する。)が経過するごとに、アクセルペダル操作量AP(アクセル開度[%])をエンジンECU20を介して取得する。そして、制御ECU10は、アクセルペダル操作速度APVを求める。具体的には、制御ECU10は、現時点で取得したアクセルペダル操作量APから前回取得したアクセルペダル操作量APを減算することによって減算値dAPを求める。更に、制御ECU10は、減算値dAPを第1時間(アクセルペダル操作量APの取得時間間隔Tp1)で除算することによってアクセルペダル操作速度APVを求める(APV=dAP/Tp1)。
【0053】
制御ECU10は、第1条件が成立するか否かを判定する。第1条件は、以下の条件A1が成立したときに成立する。なお、条件A1は、操作速度条件と称呼される場合がある。
条件A1:アクセルペダル操作速度APVが第1操作速度閾値APVth1以上である。例えば、第1操作速度閾値APVth1は、70[%/s]以上の値である。好ましくは、第1操作速度閾値APVth1は、90[%/s]以上の値である。より好ましくは、第1操作速度閾値APVth1は、100[%/s]以上の値である。本例において、第1操作速度閾値APVth1は、100[%/s]である。
【0054】
第1条件が成立する場合、制御ECU10は、タイマTによる時間の計測を開始する。タイマTは、第1条件が成立した時点からの経過時間Taを計測するためのタイマである。
【0055】
第1条件が成立した後、制御ECU10は、第2条件が成立するか否かを判定する。第2条件は、以下の条件B1及び条件B2の両方が成立したときに成立する。
条件B1:アクセルペダル操作量APが第1操作量閾値APth1以上である。第1操作量閾値APth1は、高開度領域の下限値(例えば、アクセル開度80[%])以上の値である。好ましくは、第1操作量閾値APth1は、90[%]以上の値である。本例において、第1操作量閾値APth1は、90[%]である。
条件B2:条件B1が成立した時点での経過時間Taが第1時間閾値Tath以下である。例えば、第1時間閾値Tathは、0.5s以下の値である。第1時間閾値Tathは、0.3s以下の値であってもよい。本例において、第1時間閾値Tathは、0.5sである。
【0056】
制御ECU10は、第1条件が成立し且つ第2条件が成立している場合、運転者によりアクセルペダル51の誤操作が行われた可能性があると判定する。
【0057】
しかし、発明者が上記の過去のデータを更に検討したところ、上記の第1条件及び第2条件が成立した場合でも、以下に述べる状況においては、運転者がアクセルペダル51を意図的に操作しているという知見を得た。運転者がブレーキペダル52を踏み込んで車両VAを停止させる。その後、運転者がアクセルペダル51を強く踏み込んで車両VAを急発進させる。この状況においては、運転者はアクセルペダル51を踏み込む直前までブレーキペダル52を操作しているので、運転者はアクセルペダル51とブレーキペダル52を区別できている。即ち、運転者は、アクセルペダル51を意図的に強く操作しており、即ち、アクセルペダルの誤操作を行っていない。
【0058】
一方、運転者がブレーキペダル52を長い期間において操作していない状況では、運転者がアクセルペダル51とブレーキペダル52とを正確に区別できていない可能性がある。即ち、「運転者がブレーキペダル52の操作を解除した時点からの経過時間」が長い状況において第1条件及び第2条件が成立した場合、アクセルペダルの誤操作が行われた可能性が高い。
【0059】
従って、制御ECU10は、第1条件及び第2条件が成立した場合、以下の第3条件が成立するかを判定する。従って、本例において、誤操作条件は、第1条件、第2条件及び第3条件を含む。
【0060】
第3条件は、以下の条件C1が成立したときに成立する。
条件C1:ブレーキスイッチ32からオフ信号を受信した時点からの経過時間Tbが所定の第2時間閾値Tbth以上である。例えば、第2時間閾値Tbthは、5s以下の値である。好ましくは、第2時間閾値Tbthは、3s以下の値である。本例において、第2時間閾値Tbthは、2sである。
ここで、経過時間Tbは、ブレーキスイッチ32からの信号がオン信号からオフ信号へと変化した時点(ブレーキオフ時点)から当該オフ信号が継続している期間(即ち、運転者がブレーキペダル52の操作を解除した時点からブレーキペダル52の操作が行われていない状態が継続している期間)である。
なお、制御ECU10は、ブレーキスイッチ32からオン信号を受信すると、経過時間Tbの値をゼロに設定し、その後、オフ信号を受信した時点から経過時間Tbの計測を開始する。
【0061】
制御ECU10は、第2条件が成立した時点にて第3条件が成立している場合、誤操作条件が成立したと判定する。この場合、制御ECU10は、通常駆動力制御に代えて、駆動力抑制制御を実行する。
【0062】
一方、第2条件が成立した時点にて第3条件が成立していない場合がある。この場合、制御ECU10は、経過時間Taが第1時間閾値Tathを超えるまで、第3条件が成立するか否かを繰り返し判定する。そして、経過時間Taが第1時間閾値Tathを超えた時点にて第3条件が成立していない場合、制御ECU10は、誤操作条件が成立しないと判定する。従って、制御ECU10は、通常駆動力制御を継続する。
【0063】
しかし、上記のように第3条件を判定する場合に以下の課題が生じる。図5は、ブレーキオフ時点からのアクセルペダル操作量APの時間に対する変化の一例である。図5の横軸は、ブレーキオフ時点からの経過時間Tbである。図5の操作は、運転者がアクセルペダル51を意図的に強く操作した例であり、アクセルペダルの誤操作ではない。
【0064】
本例において、時点t0にて第1条件が成立し、その後、時点t1にて第2条件が成立する。時点t1では、第3条件が成立しない。しかし、経過時間Taが第1時間閾値Tathに到達する前の時点t2にて、経過時間Tbが第2時間閾値Tbthに到達する。従って、第3条件が成立する。その結果、制御ECU10は、時点t2にて誤操作条件が成立したと判定し、駆動力抑制制御を開始する。従って、実際にはアクセルペダルの誤操作が行われてないにも関わらず、車両VAが加速されない。
【0065】
上記を考慮して、第2条件が成立した時点にて第3条件がまだ成立していない場合、制御ECU10は、以下のような処理を実行する。図5に示した例において、第2条件が成立した後においても、運転者は、アクセルペダル51を強く踏み込んだ状態を維持する。アクセルペダル操作速度APVが、第2条件が成立した時点t1の値と比べて小さくなるが、アクセルペダル操作量APが高開度領域に維持される。従って、制御ECU10は、アクセルペダル操作速度APVが所定値まで減少し、且つ、アクセルペダル操作量APが高開度領域であるか否かを判定する。第2条件が成立した後にこのような条件が成立した場合、運転者がアクセルペダル51を意図的に操作している蓋然性が高い。
【0066】
具体的には、制御ECU10は、以下の踏込条件が成立するか否かを判定する。踏込条件は、第1条件及び第2条件が成立した状況において、運転者がアクセルペダル51を意図的に操作している蓋然性が高いときに成立する条件である。踏込条件は、以下の条件D1及び条件D2の両方が成立したときに成立する。
条件D1:アクセルペダル操作量APが第2操作量閾値APth2以上である。第2操作量閾値APth2は、高開度領域の下限値(例えば、アクセル開度80[%])以上の値である。好ましくは、第2操作量閾値APth2は、90[%]以上の値である。本例において、第2操作量閾値APth2は、第1操作量閾値APth1と同じ値であり、90[%]である。
条件D2:アクセルペダル操作速度APVが、所定の正の第2操作速度閾値APVth2以下である。例えば、第2操作速度閾値APVth2は、第1操作速度閾値APVth1以下の値である。例えば、第2操作速度閾値APVth2は、100[%/s]以下の値である。本例において、第2操作速度閾値APVth2は、100[%/s]である。
【0067】
制御ECU10は、第1条件が成立した時点t1から第1時間閾値Tath以内に第3条件が成立した場合において、第3条件が成立する前に上記の踏込条件が成立しているとき、誤操作条件が成立しないと判定する。従って、制御ECU10は、駆動力抑制制御を実行することなく、通常駆動力制御を継続する。
【0068】
なお、制御ECU10は、駆動力抑制制御を開始した時点(即ち、誤操作条件が成立した時点)以降において、所定の終了条件が成立するか否かを判定する。終了条件は、アクセルペダル51の誤操作が解消されたときに成立する条件である。具体的には、終了条件は、アクセルペダル操作量APが所定の終了閾値APeth以下になったときに成立する。終了閾値APethは、運転者がアクセルペダル51に対する操作を弱めた場合(解除した場合を含む。)にアクセルペダル操作量APが到達する値である。従って、終了閾値APethは、例えば、低開度領域(例えばアクセル開度0以上20[%]未満)の値であり、本例において、10[%]に設定されている。
【0069】
(作動例)
図6を用いて、アクセルペダル51の誤操作が行われた場合の第1装置の作動の例を説明する。
【0070】
<時点t61>
時点t61にて、アクセルペダル操作速度APVが第1操作速度閾値APVth1以上となる。従って、制御ECU10は以下の作動a1及び作動a2を行う。
作動a1:制御ECU10は、第1条件が成立したと判定する。
作動a2:制御ECU10は、タイマTによる計測を開始する。即ち、制御ECU10は、第1条件が成立した時点(時点t61)からの経過時間Taを計測する。
【0071】
なお、時点t61では、第1条件しか成立していないので、制御ECU10は、通常駆動力制御を継続する。
【0072】
<時点t62>
時点t62にて、アクセルペダル操作量APが第1操作量閾値APth1以上になる。なお、この時点にて、経過時間Tbが第2時間閾値Tbth以上であると仮定する。従って、制御ECU10は以下の作動a3乃至作動a7を行う。
作動a3:制御ECU10は、条件B1が成立したと判定する。
作動a4:条件B1が成立した時点での経過時間Taが第1時間閾値Tath以下であるので、制御ECU10は条件B2が成立したと判定する。従って、制御ECU10は、第2条件が成立したと判定する。
作動a5:第2条件が成立した時点にて経過時間Tbが第2時間閾値Tbth以上である。制御ECU10は第3条件が成立したと判定する。
作動a6:制御ECU10は、誤操作条件が成立したと判定する。よって、制御ECU10は駆動力抑制制御を開始する。
作動a7:制御ECU10は、運転者に対して所定の警報処理を実行する。具体的には、CPUは、スピーカー41に「運転者の注意を喚起する警報音」を出力させる。更に、CPUは、表示器42に、「アクセルペダル51が踏まれている」旨のメッセージ及び注意喚起用のマークを表示させる。
【0073】
一般に、アクセルペダル51の誤操作は、車速Vsが低い状況において発生する。図6に示した例では、時点t62にて車速VsはVs1未満であると仮定する。制御ECU10は、通常加速度マップM1(AP,Vs)を用いて要求加速度Gapを求める。車速Vsが小さく且つアクセルペダル操作量APが大きいので、要求加速度Gapは相当に大きくなる。更に、制御ECU10は、制限加速度マップM2(Vs)を用いて上限加速度Glimを求める。この場合、上限加速度Glimは「G1」であり、要求加速度Gapよりも相当に小さい値である。従って、制御ECU10は、目標加速度Gtgtを上限加速度G1に設定し、目標加速度GtgtをエンジンECU20に送信する。この結果、実加速度Gaが上限加速度G1を超えないように車両VAの走行状態が制御される。従って、車両VAの急な加速が回避される。
【0074】
<時点t63>
時点t62と時点t63との間において、運転者が、警報処理に応じてアクセルペダル51に対する操作を弱める。その後、時点t63にてアクセルペダル操作量APが終了閾値APeth以下になり、終了条件が成立する。よって、制御ECU10は駆動力抑制制御を終了し、通常駆動力制御を再開する。
【0075】
次に、図7を用いて、アクセルペダル51の意図的な操作が行われた場合の第1装置の作動の例を説明する。
【0076】
<時点t71>
時点t71にて、アクセルペダル操作速度APVが第1操作速度閾値APVth1以上となる。従って、制御ECU10は以下の作動b1及び作動b2を行う。
作動b1:制御ECU10は、第1条件が成立したと判定する。
作動b2:制御ECU10は、タイマTによる計測を開始する。
なお、この時点では、制御ECU10は、通常駆動力制御を継続する。
【0077】
<時点t72>
時点t72にて、アクセルペダル操作量APが第1操作量閾値APth1以上になる。なお、この時点にて、経過時間Tbが第2時間閾値Tbth未満であると仮定する。従って、制御ECU10は以下の作動b3乃至作動b6を行う。
作動b3:制御ECU10は、条件B1が成立したと判定する。
作動b4:条件B1が成立した時点での経過時間Taが第1時間閾値Tath以下であるので、条件B2が成立する。制御ECU10は第2条件が成立したと判定する。
作動b5:第2条件が成立した時点にて経過時間Tbが第2時間閾値Tbth未満である。制御ECU10は第3条件が成立しないと判定する。
作動b6:制御ECU10は、上記の踏込条件の判定処理を開始する。即ち、制御ECU10は、時点t72以降において踏込条件が成立するか否かを繰り返し判定する。
【0078】
<時点t73>
時点t73にて、アクセルペダル操作量APが第2操作量閾値APth2以上であるので、条件D1が成立する。更に、アクセルペダル操作速度APVが第2操作速度閾値APVth2以下であるので、条件D2が成立する。制御ECU10は踏込条件が成立したと判定する。この時点においても、経過時間Tbが第2時間閾値Tbth未満である。制御ECU10は、通常駆動力制御を継続する。
【0079】
<時点t74>
時点t74にて(即ち、第1条件が成立した時点t71から第1時間閾値Tath以内に)、経過時間Tbが第2時間閾値Tbth以上になる。従って、条件C1が成立する。制御ECU10は第3条件が成立したと判定する。しかし、第3条件が成立する前に(時点t73にて)、踏込条件が成立している。この場合、制御ECU10は、誤操作条件が成立しないと判定する。即ち、制御ECU10は、アクセルペダル51の意図的な操作が行われたと判定する。従って、制御ECU10は、通常駆動力制御を継続する。
【0080】
なお、別の例において、第1条件が成立した時点t71から第1時間閾値Tath以内に第3条件がしないと仮定する。この場合においても、制御ECU10は、誤操作条件が成立しないと判定する。従って、制御ECU10は、通常駆動力制御を継続する。
【0081】
(作動)
制御ECU10のCPU(以下、単に「CPU」と称呼する。)は、所定時間(例えば、第1時間)が経過する毎に図8に示した「第1誤操作判定ルーチン」を実行するようになっている。
【0082】
なお、CPUは、第1時間が経過するごとに、各種センサ(11、12、21、22、31)及び各種スイッチ(13、14、32)から、それらの検出信号又は出力信号を受信してRAMに格納している。
【0083】
所定のタイミングになると、CPUは、図8のステップ800から処理を開始してステップ801に進み、作動スイッチ14の状態がオン状態であるか否かを判定する。作動スイッチ14の状態がオン状態でない場合、CPUはステップ801にて「No」と判定してステップ895に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0084】
作動スイッチ14の状態がオン状態であると仮定すると、CPUは、ステップ801にて「Yes」と判定してステップ802に進み、第1フラグX1の値が「0」であるか否かを判定する。第1フラグX1は、その値が「0」であるとき駆動力抑制制御が実行されていないことを示し、その値が「1」であるとき駆動力抑制制御が実行されていることを示す。なお、第1フラグX1の値は、図示しないイグニッションスイッチがOFFからONへと変更されたときにCPUにより実行されるイニシャライズルーチンにおいて、「0」に設定される。
【0085】
第1フラグX1の値が「0」でない場合、CPUはステップ802にて「No」と判定してステップ895に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0086】
第1フラグX1の値が「0」であると仮定すると、CPUはステップ802にて「Yes」と判定してステップ803に進み、上述した第1条件が成立するか否かを判定する。第1条件が成立しない場合、CPUはステップ803にて「No」と判定してステップ895に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0087】
これに対し、第1条件が成立する場合、CPUは、ステップ803にて「Yes」と判定してステップ804に進む。CPUは、ステップ804にて、まず、タイマTをリセットする。その後、CPUは、タイマTによる経過時間Taの計測を開始する。次に、CPUは、ステップ805にて、上述の第2条件が成立するか否かを判定する。
【0088】
第2条件が成立した場合、CPUは、ステップ805にて「Yes」と判定して、以下に述べるステップ807乃至ステップ809を順に実行する。その後、CPUは、ステップ895に進み、本ルーチンを一旦終了する。
ステップ807:CPUは、図9に示した「第2誤操作判定ルーチン」を実行する。図9のルーチンの詳細については後述する。
ステップ808:CPUは、タイマTの計測を終了する。
ステップ809:CPUは、第2フラグX2の値を「0」に設定し、第3フラグX3の値を「0」に設定する。第2フラグX2は、第2条件が成立した時点にて第3条件が成立していない場合に「1」に設定される。第2フラグX2は、図9のルーチンにおいて設定される。第2フラグX2の値が「1」に設定されると、踏込条件の判定処理が開始される(図10を参照。)。第3フラグX3は、図10に示したルーチンにおいて設定される。第3フラグX3は、踏込条件が成立した場合に「1」に設定される。なお、第2フラグX2及び第3フラグX3は、上述のイニシャライズルーチンにおいて、「0」に設定される。
【0089】
これに対し、第2条件が成立しない場合、CPUは、ステップ805にて「No」と判定してステップ806に進み、経過時間Taが第1時間閾値Tathより大きいか否かを判定する。経過時間Taが第1時間閾値Tath以下である場合、CPUは、ステップ806にて「No」と判定してステップ805の処理に戻り、第2条件が成立するか否かを判定する。なお、CPUは、このようにステップ805及びステップ806の処理を繰り返し実行している間、アクセルペダル操作量センサ21からアクセルペダル操作量APの最新の情報を継続して取得する。
【0090】
タイマTによる経過時間Taの計測が開始された後に第2条件が成立することなく、経過時間Taが第1時間閾値Tathより大きくなると、CPUは、ステップ806にて「Yes」と判定して、上述のようにステップ808及びステップ809の処理を実行する。その後、CPUは、ステップ895に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0091】
次に、CPUが図8のルーチンのステップ807にて実行するルーチンについて説明する。CPUは、ステップ807に進んだ場合、図9のステップ900から処理を開始してステップ901に進む。CPUは、上述した第3条件が成立するか否かを判定する。第3条件が成立する場合、CPUは、ステップ901にて「Yes」と判定してステップ904に進み、第3フラグX3の値が「0」であるか否かを判定する。いま、第3フラグX3の値が「0」であると仮定すると、CPUは、ステップ904にて「Yes」と判定してステップ905に進み、第1フラグX1の値を「1」に設定する。その後、CPUは、ステップ995に進んで本ルーチンを終了し、図8のルーチンのステップ808に進む。この場合、第1フラグX1の値が「1」に設定されたので、CPUは、後述するように、駆動力抑制制御を実行する(図11を参照。)。
【0092】
これに対し、第3条件が成立しない場合、CPUは、ステップ901にて「No」と判定してステップ902に進み、第2フラグX2の値を「1」に設定する。これにより、CPUは、後述するように、踏込条件が成立するか否かを繰り返し判定する(図10を参照。)。次に、CPUは、ステップ903にて、経過時間Taが第1時間閾値Tathより大きいか否かを判定する。経過時間Taが第1時間閾値Tath以下である場合、CPUは、ステップ903にて「No」と判定してステップ901の処理に戻り、第3条件が成立するか否かを判定する。このように、CPUは、ステップ901乃至ステップ903の処理を繰り返し実行する。第3条件が成立することなく、経過時間Taが第1時間閾値Tathより大きくなると、CPUは、ステップ903にて「Yes」と判定して、ステップ995に進んで本ルーチンを終了する、その後、CPUは、図8のルーチンのステップ808に進む。この場合、第1フラグX1の値が「0」であるので、CPUは、後述するように、通常駆動力制御を実行する(図11を参照。)。
【0093】
CPUがステップ901乃至ステップ903の処理を繰り返し実行している間に、CPUが図10のルーチンにおいて第3フラグX3の値を「1」に設定したと仮定する。更に、第3フラグX3の値が「1」に設定された後に、第3条件が成立したと仮定する。この場合、CPUは、ステップ901にて「Yes」と判定してステップ904に進む。更に、CPUは、ステップ904にて「No」と判定して、ステップ995に進んで本ルーチンを終了する。その後、CPUは、図8のルーチンのステップ808に進む。この場合、第1フラグX1の値が「0」であるので、CPUは、後述するように、通常駆動力制御を実行する(図11を参照。)。
【0094】
なお、CPUが図10のルーチンにおいて第3フラグX3の値を「1」に設定していない場合(即ち、踏込条件が成立していない場合)、CPUは、ステップ904にて「Yes」と判定してステップ905に進む。その後、CPUは、ステップ995に進んで本ルーチンを終了し、図8のルーチンのステップ808に進む。
【0095】
CPUは、第1時間が経過する毎に、図10に示した踏込条件判定ルーチンを実行するようになっている。CPUは、図10のステップ1000から処理を開始してステップ1001に進み、第2フラグX2の値が「1」であるか否かを判定する。第2フラグX2の値が「1」でない場合、CPUは、ステップ1001にて「No」と判定してステップ1095に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0096】
これに対し、第2フラグX2の値が「1」である場合、CPUは、ステップ1001にて「Yes」と判定してステップ1002に進み、上述の踏込条件が成立するか否かを判定する。踏込条件が成立する場合、CPUは、ステップ1002にて「Yes」と判定してステップ1003に進み、第3フラグX3の値を「1」に設定する。その後、CPUは、ステップ1095に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0097】
なお、踏込条件が成立しない場合、CPUは、ステップ1002にて「No」と判定してステップ1095に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0098】
更に、CPUは、第1時間が経過する毎に、図11に示した駆動力制御ルーチンを実行するようになっている。CPUは、図11のステップ1100から処理を開始してステップ1101に進み、第1フラグX1の値が「0」であるか否かを判定する。第1フラグX1の値が「0」である場合、CPUは、ステップ1101にて「Yes」と判定してステップ1102に進む。CPUは、ステップ1102にて、前述した通常駆動力制御を実行する。その後、CPUは、ステップ1195に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0099】
これに対し、第1フラグX1の値が「0」でない場合(即ち、「1」である場合)、CPUは、ステップ1101にて「No」と判定して、以下に述べるステップ1103及びステップ1104の処理を順に実行する。その後、CPUは、ステップ1195に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0100】
ステップ1103:CPUは、前述した駆動力抑制制御を実行する。
ステップ1104:CPUは、運転者に対して、前述した警報処理を実行する。
【0101】
更に、CPUは、第1時間が経過する毎に、図12に示した終了判定ルーチンを実行するようになっている。CPUは、図12のステップ1200から処理を開始してステップ1201に進み、第1フラグX1の値が「1」であるか否かを判定する。第1フラグX1の値が「1」でない場合、CPUはステップ1201にて「No」と判定してステップ1295に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0102】
第1フラグX1の値が「1」である場合、CPUは、ステップ1201にて「Yes」と判定してステップ1202に進み、上述の終了条件が成立するか否かを判定する。終了条件が成立しない場合、CPUはステップ1202にて「No」と判定してステップ1295に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0103】
これに対し、終了条件が成立する場合、CPUは、ステップ1202にて「Yes」と判定してステップ1203に進み、第1フラグX1の値を「0」に設定する。これにより、図11のルーチンのステップ1101にてCPUが「Yes」と判定するので、駆動力抑制制御及び警報処理が終了されるとともに、通常駆動力制御が再開される。
【0104】
以上説明したように、第1装置は、第1条件、第2条件及び第3条件を用いて、アクセルペダル51の誤操作とアクセルペダル51の意図的な操作とを高い精度で区別できる。
【0105】
一方で、第2条件が成立した時点にて第3条件が成立しておらず、且つ、第1条件が成立した時点から第1時間閾値Tath以内に第3条件が成立する場合が生じ得る。このような場合においても、第3条件が成立する前に踏込条件が成立しているとき、第1装置は、誤操作条件が成立しないと判定する。従って、運転者が意図的にアクセルペダル51を強く操作している状況(図5の例及び図7の例を参照。)において、駆動力抑制制御が実行される可能性を小さくできる。
【0106】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る車両制御装置(以下、「第2装置」と称呼される場合がある。)について説明する。第2装置は、第3条件がウィンカー61r、61lに関する条件である点において、第1装置と相違している。以下、この相違点を中心に記述する。
【0107】
ウィンカー61r又は61lがオン状態である場合、例えば、車両VAが、先行車を追い越すために急加速している可能性がある。この場合、運転者が意図的にアクセルペダル51を強く操作している。
【0108】
更に、左右のウィンカー61r、61lの何れかがオン状態である状況から左右のウィンカー61r、61lが共にオフ状態である状況へと変化した時点(以下、単に「ウィンカーオフ時点」とも称呼する。)の直後では、車両VAが先行車を追い越している途中である可能性がある。このような場合においても、運転者が意図的にアクセルペダル51を強く操作している。
【0109】
上記を考慮して、第3条件は、以下の条件C2が成立したときに成立する条件であってもよい。
条件C2:「ウィンカーオフ時点」からの経過時間Tcが所定の第3時間閾値Tcth以上である。例えば、第3時間閾値Tcthは、5s以下の値である。好ましくは、第3時間閾値Tcthは、3s以下の値である。本例において、第3時間閾値Tcthは、2sである。ここで、経過時間Tcは、「ウィンカーオフ時点」から左右のウィンカー61r、61lの両方がオフ状態に維持されている期間である。
なお、制御ECU10は、ウインカースイッチ13から左右のウィンカー61r、61lの何れかがオン状態である旨を表す信号を受信すると、経過時間Tcの値をゼロに設定する。その後、制御ECU10は、ウインカースイッチ13から左右のウィンカー61r、61lの両方がオフ状態である旨を表す信号を受信した時点から経過時間Tcの計測を開始する。
【0110】
しかし、この構成においても図5を用いて説明した課題が生じ得る。第2条件が成立した時点では条件C2が成立しないものの、第1条件が成立した時点から第1時間閾値Tath以内に条件C2が成立すると仮定する。このような状況において駆動力抑制制御が実行されると、実際にはアクセルペダルの誤操作が行われてないにも関わらず、車両VAが加速されないという課題が生じる。例えば、車両VAが先行車を追い越している状況において車両VAの駆動力が抑制される。
【0111】
上記を考慮して、制御ECU10は、第1条件が成立した時点から第1時間閾値Tath以内に第3条件(条件C2)が成立した場合において、第3条件が成立する前に踏込条件が成立しているとき、誤操作条件が成立していないと判定する。
【0112】
(作動)
第2装置の制御ECU10のCPUは、図9に示したルーチンに代えて、図13に示したルーチンを実行するようになっている。図13に示したルーチンは、図9のルーチンに対してステップ1301を追加し、且つ、ステップ901をステップ1302に置き換えたルーチンである。なお、図13に示したステップのうち、図9に示したステップと同じ処理が行われるステップには、図9のステップに付した符号と同じ符号が付されている。それらのステップについての詳細な説明は省略される。
【0113】
CPUは、図8のルーチンのステップ807に進んだ場合、図13のステップ1300から処理を開始してステップ1301に進む。CPUは、左右のウィンカー61r、61lの状態が共にオフ状態であるか否かを判定する。左右のウィンカー61r、61lの何れかがオン状態である場合、CPUは、ステップ1301にて「No」と判定して、ステップ1395に進んで本ルーチンを終了する、その後、CPUは、図8のルーチンのステップ808に進む。
【0114】
これに対し、左右のウィンカー61r、61lの状態が共にオフ状態である場合、CPUは、ステップ1301にて「Yes」と判定してステップ1302に進み、上述した第3条件が成立するか否かを判定する。第3条件が成立する場合、CPUは、ステップ1302にて「Yes」と判定して、ステップ904及びステップ905の処理を前述のように実行して、ステップ1395に進む。その後、CPUは、図8のルーチンのステップ808に進む。
【0115】
なお、第3条件が成立しない場合、CPUは、ステップ1302にて「No」と判定して、前述のようにステップ902及びステップ903の処理を実行する。
【0116】
CPUがステップ1302、ステップ902及びステップ903の処理を繰り返し実行している間に、CPUが図10のルーチンにおいて第3フラグX3の値を「1」に設定したと仮定する。更に、第3フラグX3の値が「1」に設定された後に、第3条件が成立したと仮定する。この場合、CPUは、ステップ1302にて「Yes」と判定してステップ904に進む。更に、CPUは、ステップ904にて「No」と判定して、ステップ1395に進んで本ルーチンを終了する。その後、CPUは、図8のルーチンのステップ808に進む。この場合、第1フラグX1の値が「0」であるので、CPUは、通常駆動力制御を実行する(図11を参照。)。
【0117】
以上説明したように、第2条件が成立した時点にて第3条件(条件C2)が成立しておらず、且つ、第1条件が成立した時点から第1時間閾値Tath以内に第3条件が成立した場合において、第3条件が成立する前に踏込条件が成立しているとき、第2装置は、誤操作条件が成立しないと判定する。従って、運転者が意図的にアクセルペダル51を強く操作している状況(例えば、車両VAが先行車を追い越すために急加速している状況)において、駆動力抑制制御が実行される可能性を小さくできる。
【0118】
なお、ステップ1302における第3条件は、条件C1及び条件C2の両方を含んでもよい。
【0119】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態に係る車両制御装置(以下、「第3装置」と称呼される場合がある。)について説明する。第3装置は、誤操作条件が、後述する第4条件及び第5条件を更に含む点において、第2装置と相違している。以下、この相違点を中心に記述する。
【0120】
(第4条件)
発明者は、上記の過去のデータから、アクセルペダル51の誤操作は、車両VAが低速で走行している状況において行なわれる可能性が高いとの知見を得た。従って、誤操作条件は、以下の第4条件を含んでもよい。
第4条件:車速Vsが所定の車速閾値Vth以下である。車速閾値Vthは、例えば、30[km/s]以下の値である。本例において、車速閾値Vthは、30[km/s]である。
【0121】
(第5条件)
車両VAが走行している道路が坂道である状況において、運転者は発進時における車両の後退を防ぐためにアクセルペダル51を意図的に強く操作する可能性が高い。一方で、車両VAが走行している道路が坂道でない状況において、運転者がアクセルペダル51を強く操作したと仮定する。この場合、アクセルペダル51の誤操作が行われた可能性がある。従って、誤操作条件は、以下の第5条件を含んでもよい。
第5条件:勾配Grが所定の正の勾配閾値Grth以下である。
【0122】
(作動)
第3装置の制御ECU10のCPUは、図13に示したルーチンに代えて、図14に示したルーチンを実行するようになっている。図14に示したルーチンは、図13のルーチンに対して、ステップ1401及びステップ1402を追加したルーチンである。なお、図14に示したステップのうち、図13に示したステップと同じ処理が行われるステップには、図13のステップに付した符号と同じ符号が付されている。それらのステップについての詳細な説明は省略される。
【0123】
CPUは、図8のルーチンのステップ807に進んだ場合、図14のステップ1400から処理を開始してステップ1401に進む。CPUは、上述した第4条件が成立するか否かを判定する。
【0124】
第4条件が成立しない場合、CPUは、ステップ1401にて「No」と判定してステップ1495に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。これに対し、第4条件が成立する場合、CPUは、ステップ1401にて「Yes」と判定してステップ1402に進み、上述した第5条件が成立するか否かを判定する。
【0125】
第5条件が成立しない場合、CPUは、ステップ1402にて「No」と判定してステップ1495に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。これに対し、第5条件が成立する場合、CPUは、ステップ1402にて「Yes」と判定してステップ1301に進む。ステップ1301以降の処理は、第2装置と同じである。
【0126】
以上説明したように、第3装置が用いる誤操作条件は、第1条件乃至第3条件に加えて、第4条件及び第5条件を含む。従って、第3装置は、車速Vs及び勾配Grを更に考慮して、アクセルペダル51の誤操作とアクセルペダル51の意図的な操作とを区別できる。
【0127】
なお、図14のルーチンにおける第3条件(ステップ1302)は、条件C1及び条件C2の両方を含んでもよい。一以上の実施形態において、第3条件は、条件C1及び条件C2の少なくとも一方を含んでよい。
【0128】
なお、本開示は上記実施形態に限定されることはなく、本開示の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【0129】
(変形例1)
第1条件が、条件A1(操作速度条件)に加えて、アクセルペダル操作量APに関する条件(操作量条件)を更に含んでもよい。
【0130】
図4に示すように、アクセルペダルの誤操作が行われた場合、アクセルペダル操作速度APVが大きくなった時点t0以降においても、アクセルペダル操作速度APVの値が引続き大きい。特に、中開度領域の中の比較的高い領域APmにおいても、アクセルペダル操作速度APVの値が大きい。
【0131】
これに対して、アクセルペダルの意図的な操作が行われた場合、時点t0以降に、アクセルペダル操作速度APVがやや減少する。即ち、アクセルペダル操作速度APVが急に上昇してアクセルペダル操作量APが領域APmに到達した以降において、アクセルペダル操作速度APVの値が減少する傾向にある。従って、アクセルペダルが意図的に操作された場合、領域APmにおいては、条件A1が成立する可能性が小さくなる。
【0132】
従って、アクセルペダルの誤操作とアクセルペダルの意図的な操作とをより高い精度で区別するために、領域APmにおいて第1条件の条件A1を判定してもよい。具体的には、CPUは、以下の条件A1及び条件A2の両方が成立したときに、第1条件が成立したと判定する。
条件A1:アクセルペダル操作速度APVが第1操作速度閾値APVth1以上である。
条件A2:アクセルペダル操作量APが、所定の正の第3操作量閾値APth3以上である。第3操作量閾値APth3は、第1操作量閾値APth1よりも小さく且つ終了閾値APethよりも大きい値である。例えば、第3操作量閾値APth3は、50[%]以上80[%]未満の値である。好ましくは、第3操作量閾値APth3は、70[%]以上80[%]未満の値である。本例において、第3操作量閾値APth3は、70[%]である。なお、条件A2は、アクセルペダル操作量APが第3操作量閾値APth3以上であり且つ第1操作量閾値APth1未満であるときに成立する条件であってもよい。
【0133】
上記構成によれば、CPUは、中開度領域の中の比較的高い領域(即ち、アクセルペダル操作量APが第3操作量閾値APth3以上であり且つ第1操作量閾値APth1未満である領域)において、アクセルペダル操作速度APVに関する条件A1が成立するか否かを判定する。他の言い方をすれば、CPUは、条件A1が成立した時点でのアクセルペダル操作量APが第3操作量閾値APth3以上であるか否かを判定する。従って、アクセルペダル51の誤操作とアクセルペダル51の意図的な操作とをより高い精度で区別することができる。
【0134】
(変形例2)
第3実施形態において、第4条件及び第5条件のそれぞれが成立するか否かを判定するタイミングは、図14のルーチンのタイミング(即ち、ステップ1400とステップ1301の間)に限定されない。例えば、図14のルーチンにおいて、ステップ1401及びステップ1402は、ステップ1302とステップ904との間に挿入されてもよい。
【0135】
(変形例3)
誤操作条件は、第1条件、第2条件及び第3条件を少なくとも含む。なお、第3実施形態において、誤操作条件は、第4条件及び第5条件の両方を含まなくてもよい。誤操作条件は、第1条件乃至第3条件に加えて、第4条件及び第5条件のうちの一方の条件を含んでよい。即ち、ステップ1401及びステップ1402のうちの一方のステップが省略されてもよい。
【0136】
(変形例4)
終了条件(図12のルーチンにおけるステップ1202)は、上述の例に限定されない。終了条件は、制御ECU10がブレーキスイッチ32のオン信号を受信したとき、又は、ブレーキペダル操作量BPがゼロより大きい値になったときに成立する条件であってもよい。
【0137】
(変形例5)
アクセルペダル操作量APは、上記の例(アクセル開度)に限定されない。アクセルペダル操作量APは、アクセル信号に関する情報であってもよい。アクセル信号は、アクセルペダル51の操作量に応じて変化(上昇)する電圧として検出される。
【0138】
(変形例6)
加速操作子は、アクセルペダル51に限定されず、例えば、アクセルレバーであってもよい。減速操作子は、ブレーキペダル52に限定されず、例えば、ブレーキレバーであってもよい。
【0139】
(変形例7)
制御ECU10は、図11のルーチンのステップ1103にてブレーキECU30に対しても目標加速度Gtgtを送信するように構成され得る。この場合、ブレーキECU30は、実加速度Gaが目標加速度Gtgtを越えている場合には、ブレーキアクチュエータ33を制御して車輪に制動力を付与するように構成されてもよい。従って、実加速度Gaが上限加速度G1を超えないように車両VAの走行状態が制御される。
【0140】
(変形例8)
加速度から勾配を演算する勾配センサ12は、他のセンサに置き換えられてもよい。例えば、勾配センサ12に代えて、道路の傾斜角を検知する傾斜角センサが用いられてもよい。この場合、第5条件は、道路の傾斜角θが所定の正の傾斜角閾値θth以下であるときに成立する条件であってもよい。
【0141】
(変形例9)
駆動力抑制制御は、上述の例に限定されない。誤操作条件が成立したと判定した場合、制御ECU10は、アクセルペダル操作量APに応じて変化する車両VAの駆動力が、誤操作条件が成立していない場合(即ち、通常駆動力制御を実行する場合)に比較して小さくなるように、車両VAの駆動力を制御すればよい。
【0142】
例えば、制御ECU10は、誤操作条件が成立したと判定した場合、目標加速度Gtgtを常にゼロに設定してもよい。
【0143】
別の例によれば、誤操作条件が成立したと判定した場合、制御ECU10は、アクセルペダル操作量APに対応する要求加速度Gapに対して「所定の係数(例えば、1未満の値)」を乗算することにより目標加速度Gtgtを算出してもよい。この構成によれば、誤操作条件が成立した場合の車両VAの駆動力が、誤操作条件が成立していない場合(即ち、通常駆動力制御を実行する場合)に比較して小さくなる。
【符号の説明】
【0144】
10…制御ECU、11…車速センサ、12…勾配センサ、13…ウインカースイッチ、14…作動スイッチ、20…エンジンECU、21…アクセルペダル操作量センサ、22…エンジンセンサ、23…エンジンアクチュエータ、30…ブレーキECU、31…ブレーキペダル操作量センサ、32…ブレーキスイッチ、33…ブレーキアクチュエータ。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14