(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】電解コンデンサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/028 20060101AFI20230906BHJP
H01G 9/022 20060101ALI20230906BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20230906BHJP
H01G 9/042 20060101ALI20230906BHJP
H01G 11/02 20130101ALI20230906BHJP
【FI】
H01G9/028 G
H01G9/022
H01G9/00 290H
H01G9/042 500
H01G11/02
(21)【出願番号】P 2020522193
(86)(22)【出願日】2019-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2019020989
(87)【国際公開番号】W WO2019230676
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2018102002
(32)【優先日】2018-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115509
【氏名又は名称】佐竹 和子
(72)【発明者】
【氏名】小関 良弥
(72)【発明者】
【氏名】長原 和宏
(72)【発明者】
【氏名】町田 健治
【審査官】菊地 陽一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/129515(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/107894(WO,A1)
【文献】特開2006-352172(JP,A)
【文献】特開2017-188655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/028
H01G 9/022
H01G 9/00
H01G 9/042
H01G 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体と、該導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する陰極と、
弁金属からなる基体と、該基体の表面に設けられた前記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有し、該誘電体層と前記陰極の導電性高分子層とが空間を開けて対向するように配置されている陽極と、
前記空間に充填されている
、電子伝導性を有していないイオン伝導性電解質と、
を備え、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加することにより、前記イオン伝導性電解質と接触している前記陰極の導電性高分子層がレドックス容量を発現する電解コンデンサであって、
前記陰極における導電性高分子層が、3,4-エチレンジオキシチオフェンと、式(I)
【化1】
(式中、Rは炭素数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキルを表し、xは1~4の整数を表し、xが2以上の整数を表す場合にはそれぞれのRは同一であっても異なっていても良い。)で表される化合物から成る群から選択された少なくとも1種の化合物と、のコポリマーにより構成されて
おり、且つ、3,4-エチレンジオキシチオフェンと前記式(I)で表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物とをモル比で19:1~1:7の範囲で含む重合液から得られた電解重合膜である
ことを特徴とする電解コンデンサ。
【請求項2】
前記式(I)におけるxが1を表し、Rが炭素数1~10の直鎖状のアルキルを表す、請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
フタル酸のアミジニウム塩をγ-ブチロラクトンに20質量%の濃度で溶解させた電解液に前記陰極を導入し、室温にて、銀-塩化銀電極に対して-0.4Vの電位における120Hzでの第1の陰極容量を測定し、次いで、-0.4Vから-1.0Vまでカソード方向に分極させた後に分極の方向を反転させて-0.6Vまでアノード方向に分極させ、-0.6Vの電位における120Hzでの第2の陰極容量を測定する試験において、前記第2の容量が前記第1の容量の80%以上である陰極が備えられている、請求項1又は2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
フタル酸のアミジニウム塩をγ-ブチロラクトンに20質量%の濃度で溶解させた電解液に前記陰極を導入し、室温にて前記陰極のサイクリックボルタモグラムを銀-塩化銀電極に対して-1.2Vから+0.2Vの範囲で100mV/sの走査速度で5サイクル測定する試験において、5サイクル目のサイクリックボルタモグラムにおける還元ピークの電位が-0.55Vより卑電位である陰極が備えられている、請求項1~3のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
フタル酸のアミジニウム塩をγ-ブチロラクトンに20質量%の濃度で溶解させた電解液に前記陰極を導入し、室温にて前記陰極のサイクリックボルタモグラムを銀-塩化銀電極に対して-1.2Vから+0.2Vの範囲で100mV/sの走査速度で5サイクル測定する試験において、5サイクル目のサイクリックボルタモグラムにおける酸化ピークの電位と還元ピークの電位との差が0.20~0.80Vの範囲である陰極が備えられている、請求項1~4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
前記陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗が1Ωcm
2以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項7】
前記導電性基体が、酸化アルミニウム皮膜を備えたアルミニウム箔と、前記酸化アルミニウム皮膜の表面に設けられた無機導電性材料を含む無機導電層と、を含み、
前記無機導電層と前記アルミニウム箔とが導通しており、
前記導電性高分子層が、前記無機導電層の表面に設けられている、請求項6に記載の電解コンデンサ。
【請求項8】
導電性基体と、該導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する陰極と、
弁金属からなる基体と、該基体の表面に設けられた前記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有し、該誘電体層と前記陰極の導電性高分子層とが空間を開けて対向するように配置されている陽極と、
前記空間に充填されているイオン伝導性電解質と、
を備え、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加することにより、前記イオン伝導性電解質と接触している前記陰極の導電性高分子層がレドックス容量を発現する電解コンデンサの製造方法であって、
導電性基体の表面に、3,4-エチレンジオキシチオフェンと、式(I)
【化2】
(式中、Rは炭素数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキルを表し、xは1~4の整数を表し、xが2以上の整数を表す場合にはそれぞれのRは同一であっても異なっていても良い。)で表される化合物から成る群から選択された少なくとも1種の化合物と、のコポリマーにより構成されている導電性高分子層を
、3,4-エチレンジオキシチオフェンと前記式(I)で表される化合物から選択された少なくとも1種の化合物とをモル比で19:1~1:7の範囲で含む重合液を使用して電解重合により形成し、前記電解コンデンサのための陰極を得る、陰極形成工程、
弁金属からなる基体の表面を酸化して前記弁金属の酸化物からなる誘電体層を形成し、前記電解コンデンサのための陽極を得る、陽極形成工程、
前記陰極の導電性高分子層と前記陽極の誘電体層とを空間を開けて対向させ、前記空間に
電子伝導性を有していないイオン伝導性電解質を充填する、電解質充填工程、及び、
前記陰極と前記陽極との間に電圧を印加して前記陰極の導電性基体から導電性高分子層に対して電子を供給し、前記イオン伝導性電解質と接触している前記陰極の導電性高分子層にレドックス容量を発現させる、レドックス容量誘導工程
を含むことを特徴とする電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックス容量を発現する導電性高分子層を有する陰極を備えた電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン伝導性電解質(電解液を含む。)を有する電解コンデンサは、一般的に、アルミニウム、タンタル、ニオブ等の弁金属箔の表面に誘電体層としての酸化皮膜が設けられている陽極と、弁金属箔等により構成された集電用の陰極(見かけの陰極)と、陽極と陰極との間に配置された真の陰極としてのイオン伝導性電解質を保持したセパレータとが密封ケース内に収容された構造を有しており、巻回型、積層型等の形状のものが広く使用されている。
【0003】
この電解コンデンサは、プラスチックコンデンサ、マイカコンデンサ等と比較して、小型で大容量を有するという利点を有し、陽極の酸化皮膜を厚くすることによりコンデンサの絶縁破壊電圧を向上させることができる。しかし、陽極の酸化皮膜を厚くすると電解コンデンサの容量が低下してしまい、小型大容量という利点の一部が失われてしまう。そこで、電解コンデンサの絶縁破壊電圧を低下させることなく容量を向上させることを目的として、陰極の容量を増加させる検討が行われてきた。
【0004】
出願人は、特許文献1(特開2017-188655号公報)において、導電性基体と該導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する陰極と、弁金属からなる基体と該基体の表面に設けられた上記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有し、該誘電体層と上記陰極の導電性高分子層とが空間を開けて対向するように配置されている陽極と、上記空間に充填されているイオン伝導性電解質と、を備えた電解コンデンサにおいて、上記陽極と上記陰極との間に電圧を印加することにより陰極の導電性基体から導電性高分子層に対して電子が供給されると、上記イオン伝導性電解質と接触している上記陰極の導電性高分子層がレドックス容量を発現するため、陰極の容量が顕著に増大し、したがって電解コンデンサの単位体積あたりの容量が顕著に増大することを報告した。出願人はまた、特許文献1に開示されたコンデンサを基礎として検討を進め、本出願の優先権主張の基礎とされた出願の出願時には未公開であるPCT/JP2018/036871において、陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗が1Ωcm2以下であると、レドックス容量を信頼性良く発現させることができる量の電子が導電性基体から導電性高分子層に対して供給されることを報告した。陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗の意味については後述する。
【0005】
なお、導電性高分子層を有する陰極を備えた電解コンデンサを開示した文献は他にも存在する(特許文献2(特開平3-112116号公報)の実施例、特許文献3(特開平7-283086号公報)の実施例9、特許文献4(特開2000-269070号公報)の実施の形態16,17参照)。特許文献2~4の電解コンデンサにおいては、陰極の導電性高分子層によるレドックス容量の発現が認められていない。これらの文献の電解コンデンサにおける導電性高分子層に対する電子の供給が、レドックス容量を発現させるためには不十分であったと推測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-188655号公報
【文献】特開平3-112116号公報
【文献】特開平7-283086号公報
【文献】特開2000-269070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された電解コンデンサにおいて、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(以下、3,4-エチレンジオキシチオフェンを「EDOT」と表し、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を「PEDOT」と表す。)により構成された導電性高分子層を好ましく使用することができる。PEDOT層は、高いレドックス活性を示す上に耐熱性にも優れている。
図1は、アルミニウム箔の自然酸化皮膜上に無機導電層としてのカーボン蒸着膜を形成しさらに該カーボン蒸着膜上に厚み350nmのPEDOT層を形成することによって電解コンデンサ用の陰極を作成した後、フタル酸のアミジニウム塩をγ-ブチロラクトンに20質量%の濃度で溶解させた電解液に、作用極としての上記陰極と、対極としての活性炭電極と、参照電極としての銀-塩化銀電極とを導入し、上記陰極のサイクリックボルタモグラムの測定を行った結果を示している。測定は、室温にて、銀-塩化銀電極に対して-1.2Vから+0.2Vの範囲で、100mV/sの走査速度で5サイクル行われた。
図1には5サイクル目のサイクリックボルタモグラムが示されている。
図1のサイクリックボルタモグラムにおいて、-0.2V付近の狭い範囲にPEDOT層のドーピングを示す酸化波と脱ドーピングを示す還元波が認められるが、このことは速い充放電反応が生じていることを示している。特許文献1に開示された電解コンデンサは、このレドックス容量の発現を利用したコンデンサである。この電解コンデンサの容量は、上述した容量発現のメカニズムから理解されるように、コンデンサに印加される電圧値によって変化するものの、通常の使用条件下ではコンデンサ容量の変化は比較的小さいことが分かっている。
【0008】
したがってPEDOT層を有する陰極を備えた電解コンデンサによって高い容量が得られるものの、この電解コンデンサに直流電圧を負荷して125℃の条件下に長時間放置する高温負荷試験を行った後にコンデンサ容量を確認したところ、バイアス電圧を負荷する条件下で測定した試験後のコンデンサ容量が試験前のコンデンサ容量より低下しており、特に高周波数領域におけるコンデンサ容量の低下が顕著であった。このコンデンサ容量の変化は、高温条件下でのコンデンサの使用を制限するため、回避されるべきである。そこで、本発明の目的は、特許文献1に開示された電解コンデンサを基礎として、高温負荷試験を経験した後のバイアス電圧負荷時の容量の低下が抑制された電解コンデンサ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、高温負荷試験を経験した後のバイアス電圧負荷時の容量の低下の原因を追求すべく、高温負荷試験前後のコンデンサについてバイアス電圧負荷時の陰極電位を比較した。その結果、バイアス電圧負荷時の陰極電位が高温負荷試験を経験した後では卑側にシフトしていることがわかった。このシフトは、高温条件下で陰極に電位が印加され続けることによるPEDOT層の還元(脱ドープ)が原因であると考えられた。そして、高温負荷試験を経験した後のバイアス電圧負荷時の容量の低下は、PEDOT層の脱ドープによって陰極電位が卑側にシフトし、バイアス電圧負荷時の陰極電位がPEDOT層の酸化(ドープ)が生じる電位よりも卑な電位となったため、PEDOT層のドープが起こりにくくなったことが原因であると考えられた。この考えに基づくと、
図1に示したPEDOT層のサイクリックボルタモグラムの酸化ピークと還元ピークよりも卑側に酸化ピークと還元ピークを有する導電性高分子層を電解コンデンサのために用いれば、高温負荷試験を経験した後のバイアス電圧負荷時の容量の低下が抑制されると期待される。
【0010】
そこで、発明者らはまず、EDOTのエチレン基に電子供与性のアルキル置換基が結合した化合物を導電性高分子層の形成のためのモノマーとして用いることを検討した。
図2に、EDOTのエチレン基にエチル(Et)が結合した化合物(EtEDOT)のホモポリマー層(PEtEDOT層)を有する陰極を作用極とし、
図1のサイクリックボルタモグラムを得たのと同条件でサイクリックボルタモグラムを得た結果を、PEDOT層を有する陰極のサイクリックボルタモグラムと比較して示す。PEDOT層は、銀-塩化銀電極に対して-0.168Vの位置に酸化ピークを、銀-塩化銀電極に対して-0.314Vの位置に還元ピークを示すが、
図2において矢印で示したように、PEtEDOT層は、PEDOT層よりも卑側に酸化ピークと還元ピークとを有している。しかし、PEtEDOT層を有する陰極を用いて電解コンデンサを作成し、高温負荷試験を行ったところ、試験後のバイアス電圧負荷時の容量の試験前のバイアス電圧負荷時の容量からの低下は十分には改善されておらず、低周波数領域におけるコンデンサ容量の低下がむしろ激しくなっていた(表1参照)。
【0011】
しかし、EDOTと、EDOTのエチレン基に電子供与性のアルキル基が結合した化合物と、のコポリマーによって導電性高分子層を形成すると、意外にも、この導電性高分子層はPEDOT層よりも卑側に酸化ピークと還元ピークとを有する上に、この導電性高分子層の使用によって高温負荷試験を経験した後のバイアス電圧負荷時の容量の低下が抑制されることが分かった。
【0012】
そこで、本発明はまず、
導電性基体と、該導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する陰極と、
弁金属からなる基体と、該基体の表面に設けられた上記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有し、該誘電体層と上記陰極の導電性高分子層とが空間を開けて対向するように配置されている陽極と、
上記空間に充填されているイオン伝導性電解質と、
を備え、上記陽極と上記陰極との間に電圧を印加することにより、上記イオン伝導性電解質と接触している上記陰極の導電性高分子層がレドックス容量を発現する電解コンデンサであって、
上記陰極における導電性高分子層が、EDOTと、式(I)
【化1】
(式中、Rは炭素数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキルを表し、xは1~4の整数を表し、xが2以上の整数を表す場合にはそれぞれのRは同一であっても異なっていても良い。)で表される化合物から成る群から選択された少なくとも1種の化合物と、のコポリマーにより構成されていることを特徴とする電解コンデンサに関する。式(I)で表される化合物は、x個の置換基RがEDOTのエチレン基に結合している化合物に相当する。導電性高分子層は、式(I)においてxが1を表し且つRが炭素数1~10の直鎖状のアルキルを表す化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物とEDOTとのコポリマーから構成されていることが好ましく、式(I)においてxが1を表し且つRが炭素数2~4の直鎖状のアルキルを表す化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物とEDOTとのコポリマーから構成されていることが特に好ましい。なお、レドックス容量の発現のために、陰極の導電性高分子層はイオン伝導性電解質と直接接触している必要があるが、陽極の誘電体層はイオン伝導性電解質と直接接触していてもよく、他の導電性材料を介してイオン伝導性電解質と間接的に接続していても良い。
【0013】
図3~
図8に、EDOTとEtEDOTとのコポリマー層(P(EDOT-EtEDOT)層)を有する陰極を作用極とし、
図1のサイクリックボルタモグラムを得たのと同条件でサイクリックボルタモグラムを得た結果を、PEDOT層を有する陰極についてのサイクリックボルタモグラムと比較して示す。
図3~
図8はそれぞれ、EDOTとEtEDOTとのモル比を各図に示した比率に調整した重合液を用いて得られたP(EDOT-EtEDOT)層を有する陰極についてのサイクリックボルタモグラムを示している。
図3~
図8において矢印で示したように、重合液中のEDOTとEtEDOTとのモル比の相違に関わらず、P(EDOT-EtEDOT)層はPEDOT層よりも卑側に酸化ピークと還元ピークを有している。そして、P(EDOT-EtEDOT)層を有する陰極を用いて電解コンデンサを作成し、高温負荷試験を行ったところ、試験後のバイアス電圧負荷時の容量の試験前のバイアス電圧負荷時の容量からの低下が改善されており、特に高周波数領域におけるコンデンサ容量の低下が顕著に改善されていた(表1参照)。PEDOT層を有する陰極及びPEtEDOT層を有する陰極によっては試験後のバイアス電圧負荷時の容量の試験前のバイアス電圧負荷時の容量からの低下が抑制されないことを考慮すると、コポリマー層であるP(EDOT-EtEDOT)層を有する陰極によって容量低下が抑制されたことは驚くべきことである。なお、
図3~
図8にはP(EDOT-EtEDOT)層を導電性高分子層とした陰極に関する結果を示しているが、EtEDOT以外の式(I)で表される化合物とEDOTとのコポリマーの使用によっても同様の結果が得られている。
【0014】
本発明の電解コンデンサの好ましい形態では、フタル酸のアミジニウム塩をγ-ブチロラクトンに20質量%の濃度で溶解させた電解液に上記陰極を導入し、室温にて、銀-塩化銀電極に対して-0.4Vの電位における120Hzでの第1の陰極容量を測定し、次いで、-0.4Vから-1.0Vまでカソード方向に分極させた後に分極の方向を反転させて-0.6Vまでアノード方向に分極させ、-0.6Vの電位における120Hzでの第2の陰極容量を測定する試験において、上記第2の容量が上記第1の容量の80%以上である陰極が備えられる。この範囲内で、高温負荷試験後のバイアス電圧負荷時の容量の試験前のバイアス電圧負荷時の容量からの低下がより顕著に改善される。
【0015】
本発明の別の好ましい形態では、上記電解液に上記コポリマー層を導電性高分子層として有する陰極を導入し、室温にて上記陰極のサイクリックボルタモグラムを銀-塩化銀電極に対して-1.2Vから+0.2Vの範囲で100mV/sの走査速度で5サイクル測定する試験を行った結果を参照して、5サイクル目のサイクリックボルタモグラムにおける還元ピークの電位が-0.55Vより卑電位である陰極が備えられ、或いは、5サイクル目のサイクリックボルタモグラムにおける酸化ピークの電位と還元ピークの電位との差が0.20~0.80Vの範囲である陰極が備えられている。この範囲内で、高温負荷試験後のバイアス電圧負荷時の容量の試験前のバイアス電圧負荷時の容量からの低下がより顕著に改善される。
【0016】
本発明の電解コンデンサにおいて、陰極における導電性基体とこの表面に設けられた導電性高分子層との接触抵抗が3Ωcm2以下であれば、電解コンデンサの陽極と陰極との間に電圧を印加することによりイオン伝導性電解質と接触している導電性高分子層にレドックス容量を発現させるのに十分な量の電子の供給がなされるが、上記接触抵抗が1Ωcm2以下であると、レドックス容量が信頼性良く発現するため好ましい。
【0017】
陰極における導電性基体は、1層の導電層から成っていても良く、複数層の異なる導電層から成っていても良い。複数層から成っている場合には、各導電層が直接接触していても良く、導電層間に絶縁層が存在していても、絶縁層の一部が破壊されて導電層間が導通していれば、導電性基体として使用することができる。ここで、陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗は、
図9に示す方法により測定された値を意味する。
図9(a)は、導電性基体が1層の導電層から成る場合の測定方法を示した図であり、
図9(b)は、導電性基体が2層の導電層から成る場合の測定方法を示した図である。接触抵抗の測定の前にまず、導電性高分子層の表面にカーボンペースト(商品型式DY-200L-2、東洋紡株式会社製)を5~10μmの厚みで塗布し、150℃で20分乾燥させ、次いで、カーボン層の表面に銀ペースト(商品型式DW-250H-5、東洋紡株式会社製)を介して銅箔を固定し、150℃で20分乾燥させる。そして、
図9(a)では、銅箔と導電性基体との間について、0.1Hz~100kHzの周波数の範囲で交流インピーダンス測定を行い、
図9(b)では、銅箔と導電性基体のうち導電性高分子層と接触していない層(第1層)との間について、上述した交流インピーダンス測定を行う。得られたCole-Coleプロットの実数成分の値が、導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗である。例えば、第1層がアルミニウム箔である場合には一般に表面に酸化アルミニウム皮膜が形成されているが、酸化アルミニウム皮膜の表面に第2層として導電層が形成されている場合には、
図9(b)に示した測定方法が採用される。導電性基体が3層以上の導電層から成る場合には、導電性高分子層上に上述した方法によりカーボンペースト及び銀ペーストを介して接続された銅箔と導電性高分子層から最も離れた位置にある導電層との間について、上述した交流インピーダンス測定を行い、得られたCole-Coleプロットの実数成分の値が、陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗である。
【0018】
アルミニウム箔は、電解液に対して良好な耐腐食性を示すため、陰極における導電性基体のために好ましく使用することができる。アルミニウム箔の表面には一般に自然酸化アルミニウム皮膜が存在しているが、真空系内で自然酸化アルミニウム皮膜にキャリアガスなどのイオンを衝突させることにより上記皮膜を完全に除去した後、アルミニウム箔の表面に耐水性や耐酸性の向上を目的として保護導電層を形成し、この保護導電層上にさらに無機導電層を形成することにより、複数層の導電層から成り各導電層が直接接触している導電性基体を好ましく得ることができる。上記導電性高分子層は、上記基体の無機導電層の表面に設けられる。上記導電性基体は、アルミニウム箔と無機導電層と間の密着性に優れ低い接触抵抗を示すため、陰極の導電性高分子層によるレドックス容量を信頼性良く発現させることができる。
【0019】
さらに、上記導電性基体が、酸化アルミニウム皮膜を備えたアルミニウム箔と、上記酸化アルミニウム皮膜の表面に設けられた無機導電性材料を含む無機導電層と、を含み、上記無機導電層と上記アルミニウム箔とが導通している基体であるのが好ましい。この場合にも、上記導電性高分子層は、上記無機導電層の表面に設けられる。酸化アルミニウム皮膜は、自然酸化皮膜であっても良く、化成処理により形成した化成酸化皮膜であっても良い。また、酸化アルミニウム皮膜の表面に無機導電層を設ける過程で、酸化アルミニウム皮膜の一部を破壊し、無機導電層とアルミニウム箔とを導通させることにより、陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗を1Ωcm2以下に調整することができ、陰極の導電性高分子層によるレドックス容量を信頼性良く発現させることができる。
【0020】
本発明はまた、
導電性基体と、該導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する陰極と、
弁金属からなる基体と、該基体の表面に設けられた上記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有し、該誘電体層と上記陰極の導電性高分子層とが空間を開けて対向するように配置されている陽極と、
上記空間に充填されているイオン伝導性電解質と、
を備え、上記陽極と上記陰極との間に電圧を印加することにより、上記イオン伝導性電解質と接触している上記陰極の導電性高分子層がレドックス容量を発現する電解コンデンサの製造方法であって、
導電性基体の表面に、EDOTと、上記式(I)で表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物と、のコポリマーにより構成されている導電性高分子層を形成し、上記電解コンデンサのための陰極を得る、陰極形成工程、
弁金属からなる基体の表面を酸化して上記弁金属の酸化物からなる誘電体層を形成し、上記電解コンデンサのための陽極を得る、陽極形成工程、
上記陰極の導電性高分子層と上記陽極の誘電体層とを空間を開けて対向させ、上記空間にイオン伝導性電解質を充填する、電解質充填工程、及び、
上記陰極と上記陽極との間に電圧を印加して上記陰極の導電性基体から導電性高分子層に対して電子を供給し、上記イオン伝導性電解質と接触している上記陰極の導電性高分子層にレドックス容量を発現させる、レドックス容量誘導工程
を含むことを特徴とする電解コンデンサの製造方法に関する。この方法により、高温負荷試験後のバイアス電圧負荷時の容量の試験前のバイアス電圧負荷時の容量からの低下が改善された電解コンデンサが得られる。
【0021】
上記陰極形成工程において、陰極の導電性基体上の導電性高分子層は、電解重合により形成しても良く、化学重合により形成しても良く、また、導電性高分子の粒子を含む分散液を上記導電性基体の表面に適用することにより形成しても良いが、電解重合により形成するのが好ましい。電解重合により、上記導電性基体の表面に少量のモノマーから機械的強度に優れた導電性高分子層を短時間で形成することができ、また、薄く緻密で均一な導電性高分子層を得ることができる。電解重合には、EDOTと上記式(I)で表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物とをモル比で19:1~1:7、好ましくは7:1~1:3の範囲で含む電解重合液を使用するのが好ましい。この範囲内で、高温負荷試験後のバイアス電圧負荷時の容量の試験前のバイアス電圧負荷時の容量からの低下が顕著に改善された電解コンデンサへと導く導電性高分子層を好ましく得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
レドックス容量を発現する導電性高分子層を有する陰極を備えた電解コンデンサにおいて、上記導電性高分子層をEDOTと上記式(I)で表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物とのコポリマーにより構成すると、高温負荷試験後のバイアス電圧負荷時の容量の試験前のバイアス電圧負荷時の容量からの低下が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】PEDOT層を有する陰極についてサイクリックボルタモグラムの測定を行った結果を示した図である。
【
図2】PEtEDOT層を有する陰極についてサイクリックボルタモグラムの測定を行った結果を、PEDOT層を有する陰極についてのサイクリックボルタモグラムと比較して示した図である。
【
図3】P(EDOT-EtEDOT)層を有する陰極の一形態についてサイクリックボルタモグラムの測定を行った結果を、PEDOT層を有する陰極についてのサイクリックボルタモグラムと比較して示した図である。
【
図4】P(EDOT-EtEDOT)層を有する陰極の別の形態についてサイクリックボルタモグラムの測定を行った結果を、PEDOT層を有する陰極についてのサイクリックボルタモグラムと比較して示した図である。
【
図5】P(EDOT-EtEDOT)層を有する陰極のさらに別の形態についてサイクリックボルタモグラムの測定を行った結果を、PEDOT層を有する陰極についてのサイクリックボルタモグラムと比較して示した図である。
【
図6】P(EDOT-EtEDOT)層を有する陰極のさらに別の形態についてサイクリックボルタモグラムの測定を行った結果を、PEDOT層を有する陰極についてのサイクリックボルタモグラムと比較して示した図である。
【
図7】P(EDOT-EtEDOT)層を有する陰極のさらに別の形態についてサイクリックボルタモグラムの測定を行った結果を、PEDOT層を有する陰極についてのサイクリックボルタモグラムと比較して示した図である。
【
図8】P(EDOT-EtEDOT)層を有する陰極のさらに別の形態についてサイクリックボルタモグラムの測定を行った結果を、PEDOT層を有する陰極についてのサイクリックボルタモグラムと比較して示した図である。
【
図9】陰極における導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗の測定方法を説明するための概略図であり、(a)は導電性基体が1層の導電層から成る場合の測定方法を示した図であり、(b)は導電性基体が2層の導電層から成る場合の測定方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の電解コンデンサは、導電性基体と該導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する陰極と、弁金属からなる基体と該基体の表面に設けられた上記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有し、該誘電体層と上記陰極の導電性高分子層とが空間を開けて対向するように配置されている陽極と、上記空間に充填されているイオン伝導性電解質とを備え、上記陽極と上記陰極との間に電圧を印加することにより、上記イオン伝導性電解質と接触している上記陰極の導電性高分子層がレドックス容量を発現する電解コンデンサであって、上記陰極における導電性高分子層が、EDOTと、式(I)
【化2】
(式中、Rは炭素数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキルを表し、xは1~4の整数を表し、xが2以上の整数を表す場合にはそれぞれのRは同一であっても異なっていても良い。)で表される化合物から成る群から選択された少なくとも1種の化合物、すなわち、x個の置換基RがEDOTのエチレン基に結合している化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物と、のコポリマーにより構成されていることを特徴とする。この導電性高分子層により、高温負荷試験後のバイアス電圧負荷時の容量の試験前のバイアス電圧負荷時の容量からの低下が改善される。本発明の電解コンデンサは、以下に示す、陰極形成工程、陽極形成工程、電解質充填工程、及びレドックス容量誘導工程により製造することができる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0025】
(1)陰極形成工程
本発明の電解コンデンサにおける陰極は、導電性基体と、該導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する。導電性基体としては、導電性高分子層にレドックス容量を発現させるために十分な量の電子の供給が可能であれば、集電体として機能する基体を特に限定なく使用することができる。陰極形成工程では、導電性基体の抵抗が25Ωcm2以下、好ましくは6Ωcm2以下、特に好ましくは0.25Ωcm2以下である導電性基体を好ましく使用することができる。ここで、導電性基体の抵抗は、導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗の測定に関して上述した方法と同様の方法によって測定された値を意味する。すなわち、導電性基体における導電性高分子層が形成されるべき表面にカーボンペースト(商品型式DY-200L-2、東洋紡株式会社製)を5~10μmの厚みで塗布し、150℃で20分乾燥させ、次いで、カーボン層の表面に銀ペースト(商品型式DW-250H-5、東洋紡株式会社製)を介して銅箔を固定し、150℃で20分乾燥させる。そして、銅箔と導電性基体との間について0.1Hz~100kHzの周波数の範囲で交流インピーダンス測定を行う。得られたCole-Coleプロットの実数成分の値が導電性基体の抵抗である。
【0026】
このような導電性基体は、1層の導電層から成っていても良く、複数層の異なる導電層から成っていても良い。複数層から成っている場合には、各導電層が直接接触していても良く、導電層間に絶縁層が存在していても、絶縁層の一部が破壊されて導電層間が導通していれば、導電性基体として使用することができる。例えば、従来の電解コンデンサにおいて陰極のために使用されている、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウム等の弁金属の箔、或いは、これらの弁金属箔に化学的或いは電気化学的なエッチング処理を施すことにより表面積を増大させた箔を、導電性基体として使用することができ、アルミニウム-銅合金等の合金を導電性基体とすることもできる。弁金属箔の表面には一般に自然酸化皮膜が存在しているが、自然酸化皮膜を完全に除去した後の弁金属箔の表面に1層以上の無機導電性材料を含む無機導電層を形成することにより、複数の導電層から成り各導電層が直接接触している導電性基体を得ることができる。また、弁金属箔の表面に、自然酸化皮膜に加えて、ホウ酸アンモニウム水溶液、アジピン酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液等の化成液を使用した化成処理により形成した化成酸化皮膜が存在していても、酸化皮膜の表面に無機導電性材料を含む無機導電層を設ける過程で、酸化皮膜の一部を破壊し、導電層と弁金属箔とを導通させることにより、導電性基体として使用することができる。上記無機導電層を形成する無機導電性材料の種類及び無機導電層の形成方法には、導電性高分子層にレドックス容量を発現させるために十分な量の電子の供給がなされるのであれば特別な限定がない。例えば、炭素、チタン、白金、金、銀、コバルト、ニッケル、鉄等の無機導電性材料を真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、塗布、電解めっき、無電解めっき等の手段により酸化皮膜上に積層することにより無機導電層を設ける過程で、酸化皮膜の一部を破壊し、無機導電層と弁金属箔とを導通させることができる。
【0027】
弁金属箔としては、アルミニウム箔又は必要に応じてエッチング処理を施したアルミニウム箔が、電解液に対して良好な耐腐食性を示すため好ましい。アルミニウム箔を使用する場合には、一般に自然酸化アルミニウム皮膜が存在しているが、真空系内で自然酸化アルミニウム皮膜にキャリアガスなどのイオンを衝突させることにより上記皮膜を完全に除去した後、アルミニウム箔の表面に耐水性や耐酸性の向上を目的として保護導電層を形成し、この保護導電層上にさらに無機導電層を形成することにより、複数層の導電層から成り各導電層が直接接触している導電性基体を得るのが好ましく、また、自然酸化アルミニウム皮膜又は化成酸化アルミニウム皮膜を有するアルミニウム箔であっても、上述したように、酸化アルミニウム皮膜上に無機導電層を設け、この過程で酸化アルミニウム皮膜の一部を破壊し、無機導電層とアルミニウム箔とを導通させるのが好ましい。無機導電層としてチタン蒸着膜を使用する場合には、蒸着処理における周囲雰囲気中の原子を含ませることができ、例えば、窒素や炭素を含ませて窒化チタン蒸着膜及び炭化チタン蒸着膜とすることができる。上記無機導電層が、カーボン、チタン、窒化チタン、炭化チタン及びニッケルから成る群から選択された少なくとも1種の無機導電性材料を含む層であると、耐久性に優れた陰極が得られるため好ましい。また、中でも、炭化チタン蒸着膜やカーボン蒸着膜は、以下に示す電解重合において安定した特性を示す重合膜を与えるため好ましく、カーボン塗布層は生産性に優れるため好ましい。
【0028】
上記導電性基体の表面には、導電性高分子層が設けられる。上記無機導電層が設けられている場合には、無機導電層の表面に導電性高分子層が設けられる。この導電性高分子層は、電解重合膜であっても良く、化学重合膜であっても良く、導電性高分子の粒子と分散媒とを少なくとも含む分散液を用いて形成しても良い。
【0029】
電解重合膜の形成は、モノマーと支持電解質と溶媒とを少なくとも含む重合液に上記導電性基体と対極とを導入し、導電性基体と対極との間に電圧を印加することにより行われる。対極としては、白金、ニッケル、鋼等の板や網を用いることができる。電解重合の過程で、支持電解質から放出されるアニオンがドーパントとして導電性高分子層に含まれる。
【0030】
電解重合用重合液の溶媒としては、所望量のモノマー及び支持電解質を溶解することができ電解重合に悪影響を及ぼさない溶媒を特に限定なく使用することができる。例としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、アセトニトリル、ブチロニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、γ-ブチロラクトン、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ニトロベンゼン、スルホラン、ジメチルスルホランが挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。水を溶媒全体の80質量%以上の量で含む溶媒、特に水のみからなる溶媒を使用すると、緻密で安定な電解重合膜が得られるため好ましい。
【0031】
電解重合用重合液には、モノマーとして、EDOTと、上記式(I)で表される、x(xは1~4の整数を表す。)個の置換基R(Rは炭素数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキルを表す。)がEDOTのエチレン基に結合している化合物と、が含まれる。EDOTと共に重合液中に含まれる上記式(I)で表される化合物は、1種の化合物であっても良く、2種以上の化合物であっても良い。置換基Rの例としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、1-エチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、1,2-ジメチルプロピル、2,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-ノニル、n-デシルが挙げられる。xが2以上の整数を表す場合には、それぞれのRは同一であっても異なっていても良い。式(I)においてxが1を表し且つRが炭素数1~10の直鎖状のアルキルを表す化合物からなる群から選択された化合物とEDOTとが重合液中に含まれているのが好ましく、式(I)においてxが1を表し且つRが炭素数2~4の直鎖状のアルキルを表す化合物からなる群から選択された化合物とEDOTとが重合液中に含まれているのが特に好ましい。
【0032】
電解重合用重合液に含まれる支持電解質としては、従来の導電性高分子に含まれるドーパントを放出する化合物を特に限定なく使用することができる。例えば、ホウ酸、硝酸、リン酸、タングストリン酸、モリブドリン酸等の無機酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、アスコット酸、酒石酸、スクアリン酸、ロジゾン酸、クロコン酸、サリチル酸等の有機酸に加えて、メタンスルホン酸、ドデシルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、1,2-ジヒドロキシ-3,5-ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸等のスルホン酸及びこれらの塩が例示される。また、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸等のポリカルボン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸等のポリスルホン酸、及びこれらの塩も支持電解質として使用可能である。
【0033】
さらに、ボロジサリチル酸、ボロジシュウ酸、ボロジマロン酸、ボロジコハク酸、ボロジアジピン酸、ボロジマレイン酸、ボロジグリコール酸、ボロジ乳酸、ボロジヒドロキシイソ酪酸、ボロジリンゴ酸、ボロジ酒石酸、ボロジクエン酸、ボロジフタル酸、ボロジヒドロキシ安息香酸、ボロジマンデル酸、ボロジベンジル酸等のホウ素錯体、式(II)又は式(III)
【化3】
(式中、mが1~8の整数、好ましくは1~4の整数、特に好ましくは2を意味し、nが1~8の整数、好ましくは1~4の整数、特に好ましくは2を意味し、oが2又は3の整数を意味する)で表わされるスルホニルイミド酸、及びこれらの塩も支持電解質として使用可能である。
【0034】
塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、エチルアンモニウム塩、ブチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩、ジエチルアンモニウム塩、ジブチルアンモニウム塩等のジアルキルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩、トリブチルアンモニウム塩等のトリアルキルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等のテトラアルキルアンモニウム塩が例示される。
【0035】
これらの支持電解質は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良く、支持電解質の種類に依存して、重合液に対する飽和溶解度以下の量で且つ電解重合のために充分な電流が得られる濃度、好ましくは重合液1リットルに対して10ミリモル以上の濃度で使用される。
【0036】
水を多く含む溶媒、好ましくは水を80質量%の量で含む溶媒、特に好ましくは水のみから成る溶媒に、支持電解質としてボロジサリチル酸及びその塩を溶解させた電解重合液を用いると、ボロジサリチル酸イオンをドーパントとして含む導電性高分子層により、コンデンサ容量の周波数依存性が改善され、高い周波数の条件下でも高い容量が得られるため好ましい。また、水を多く含む溶媒、好ましくは水を80質量%の量で含む溶媒、特に好ましくは水のみから成る溶媒に、支持電解質としてボロジサリチル酸及びその塩を溶解させ、さらに陰イオン界面活性剤を共存させて、該界面活性剤により上記モノマーを上記溶媒に可溶化又は乳化させた電解重合液を用いると、コンデンサ容量の周波数依存性がさらに改善されることが分かっている。使用可能な陰イオン界面活性剤を例示すると、脂肪酸塩型界面活性剤、例えば、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム及びステアリン酸ナトリウム、アミノ酸型界面活性剤、例えば、ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、ラウロイルアスパラギン酸ナトリウム及びラウロイルメチルアラニンナトリウム、硫酸エステル型界面活性剤、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム及びミリスチル硫酸ナトリウムのようなアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムのようなアルキルエーテル硫酸エステル塩、スルホン酸型界面活性剤、例えば、デカンスルホン酸ナトリウム及びドデカンスルホン酸ナトリウムのようなアルカンスルホン酸塩、オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアルキルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム及びブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムのようなアルキルナフタレンスルホン酸塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムのような高分子スルホン酸塩、テトラデセンスルホン酸ナトリウムのようなオレフィンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムのようなスルホ脂肪酸エステル塩、及び、アルキルリン酸エステル型界面活性剤、例えば、ラウリルリン酸ナトリウム、ミリスチルリン酸ナトリウム及びポリオキシエチレンラウリルリン酸ナトリウム、が挙げられる。上記陰イオン界面活性剤は、単独で使用しても良く、2種以上の混合物として使用しても良く、所望量のモノマーを可溶化或いは乳化させるのに十分な量で使用される。上記陰イオン界面活性剤がスルホン酸型界面活性剤及び/又は硫酸エステル型界面活性剤であると、特に周波数特性に優れた電解コンデンサが得られるため好ましい。
【0037】
電解重合は、定電位法、定電流法、電位掃引法のいずれかの方法により行われる。定電位法による場合には、モノマーの種類に依存するが、飽和カロメル電極に対して1.0~1.5Vの電位が好適であり、定電流法による場合には、モノマーの種類に依存するが、1~10000μA/cm2の電流値が好適であり、電位掃引法による場合には、モノマーの種類に依存するが、飽和カロメル電極に対して0~1.5Vの範囲を5~200mV/秒の速度で掃引するのが好適である。重合温度には厳密な制限がないが、一般的には10~60℃の範囲である。重合時間にも厳密な制限はないが、一般的には1分~10時間の範囲である。
【0038】
化学重合膜の形成は、溶媒にモノマーと酸化剤の両方を溶解させた液を用意し、この液を刷毛塗り、滴下塗布、浸漬塗布、スプレー塗布等により上記導電性基体の表面に適用し、乾燥する方法、又は、溶媒にモノマーを溶解させた液と、溶媒に酸化剤を溶解させた液とを用意し、これらの液を交互に刷毛塗り、滴下塗布、浸漬塗布、スプレー塗布等により上記導電性基体の表面に適用し、乾燥する方法により行うことができる。溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、アセトニトリル、ブチロニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、γ-ブチロラクトン、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ニトロベンゼン、スルホラン、ジメチルスルホランを使用することができる。これらの溶媒は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。モノマーとしては、EDOTと、上記式(I)で表される、x(xは1~4の整数を表す。)個の置換基R(Rは炭素数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキルを表す。)がEDOTのエチレン基に結合している化合物と、が併用される。EDOTと併用される上記式(I)で表される化合物は、1種の化合物が用いられても良く、2種以上の化合物が用いられても良い。化学重合においても、式(I)においてxが1を表し且つRが炭素数1~10の直鎖状のアルキルを表す化合物からなる群から選択された化合物とEDOTとが併用されるのが好ましく、式(I)においてxが1を表し且つRが炭素数2~4の直鎖状のアルキルを表す化合物からなる群から選択された化合物とEDOTとが併用されるのが特に好ましい。酸化剤としては、p-トルエンスルホン酸鉄(III)、ナフタレンスルホン酸鉄(III)、アントラキノンスルホン酸鉄(III)等の三価の鉄塩、若しくは、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム等の過硫酸塩等を使用することができ、単独の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を使用しても良い。重合温度には厳密な制限がないが、一般的には0~200℃の範囲である。重合時間にも厳密な制限はないが、一般的には1分~10時間の範囲である。
【0039】
さらに、導電性高分子の粒子と分散媒とを少なくとも含む分散液を上記導電性基体の表面に塗布、滴下等の手段により適用し、乾燥することにより、導電性高分子層を形成することもできる。上記分散液における分散媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、アセトニトリル、ブチロニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、γ-ブチロラクトン、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ニトロベンゼン、スルホラン、ジメチルスルホランを使用することができるが、水を分散媒として使用するのが好ましい。上記分散液は、例えば、水に、モノマーとしてのEDOT及び上記式(I)で表されるx(xは1~4の整数を表す。)個の置換基R(Rは炭素数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキルを表す。)がEDOTのエチレン基に結合している化合物と、ドーパントを放出する酸又はその塩と、酸化剤とを添加し、化学酸化重合が完了するまで攪拌し、次いで、限外濾過、陽イオン交換、及び陰イオン交換等の精製手段により酸化剤及び残留モノマーを除去した後、必要に応じて超音波分散処理、高速流体分散処理、高圧分散処理等の分散処理を施すことにより得ることができる。また、水に、モノマーとしてのEDOT及び上記式(I)で表されるx(xは1~4の整数を表す。)個の置換基R(Rは炭素数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキルを表す。)がEDOTのエチレン基に結合している化合物と、ドーパントを放出する酸又はその塩を添加し、攪拌しながら電解酸化重合し、次いで、限外濾過、陽イオン交換、及び陰イオン交換等の精製手段により残留モノマーを除去した後、必要に応じて超音波分散処理、高速流体分散処理、高圧分散処理等の分散処理を施すことにより得ることができる。さらに、上述した化学酸化重合法又は電解重合法により得られた液をろ過して凝集体を分離し、十分に洗浄した後水に添加し、超音波分散処理、高速流体分散処理、高圧分散処理等の分散処理を施すことにより得ることができる。分散液中の導電性高分子の粒子の含有量は、一般的には1.0~3.0質量%の範囲であり、好ましくは1.5質量%~2.0質量%の範囲である。
【0040】
薄い導電性高分子層を備えた陰極の使用により、陰極のサイズを減少させることができ、ひいてはコンデンサの単位体積当たりの容量を向上させることができる。陰極の導電性高分子層の厚みは、200~2450nmの範囲であるのが好ましい。導電性高分子層の厚みが200nm未満であると、高温耐久性が低下する傾向が認められ、また、導電性高分子層の厚みが2450nmより厚いと、容量の温度依存性が大きくなる上に、電解コンデンサの小型化に寄与しにくくなる。
【0041】
陰極の導電性高分子層は、電解重合により形成するのが好ましい。電解重合により、上記導電性基体の表面に少量のモノマーから機械的強度に優れた導電性高分子層を短時間で形成することができ、また、薄く緻密で均一な導電性高分子層を得ることができる。電解重合には、EDOTと上記式(I)で表される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物とをモル比で19:1~1:7、好ましくは7:1~1:3の範囲で含む重合液を使用するのが好ましい。2種以上の式(I)で表される化合物が用いられる場合には、EDOTのモル量と2種以上の式(I)で表される化合物のモル量の合計との比が19:1~1:7、好ましくは7:1~1:3の範囲である。この範囲内で、高温負荷試験後のバイアス電圧負荷時の容量の試験前のバイアス電圧負荷時の容量からの低下が顕著に改善された電解コンデンサへと導く導電性高分子層を好ましく得ることができる。
【0042】
本発明の電解コンデンサの好ましい形態では、上述した工程により導電性基体の表面に導電性高分子層を形成して陰極を得た後、フタル酸のアミジニウム塩をγ-ブチロラクトンに20質量%の濃度で溶解させた電解液中に得られた陰極を導入し、室温にて、銀-塩化銀電極に対して-0.4Vの電位における120Hzでの第1の陰極容量を測定し、次いで、-0.4Vから-1.0Vまでカソード方向に分極させた後に分極の方向を反転させて-0.6Vまでアノード方向に分極させ、-0.6Vの電位における120Hzでの第2の陰極容量を測定する試験の結果を参照して、上記第2の容量が上記第1の容量の80%以上である陰極が備えられる。この範囲内で、高温負荷試験後のバイアス電圧負荷時の容量の試験前のバイアス電圧負荷時の容量からの低下がより顕著に改善される。
【0043】
本発明の電解コンデンサの別の好ましい形態では、上述した工程により導電性基体の表面に導電性高分子層を形成して陰極を得た後、上記電解液に得られた電極を導入し、室温にて上記陰極のサイクリックボルタモグラムを銀-塩化銀電極に対して-1.2Vから+0.2Vの範囲で100mV/sの走査速度で5サイクル測定する試験を行った結果を参照して、5サイクル目のサイクリックボルタモグラムにおける還元ピークの電位が-0.55Vより卑電位である陰極が備えられ、或いは、5サイクル目のサイクリックボルタモグラムにおける酸化ピークの電位と還元ピークの電位との差が0.20~0.80Vの範囲である陰極が備えられている。この範囲内で、高温負荷試験後のバイアス電圧負荷時の容量の試験前のバイアス電圧負荷時の容量からの低下がより顕著に改善される。
【0044】
本発明の電解コンデンサにおいて、陰極における導電性基体とこの表面に設けられた導電性高分子層との接触抵抗が3Ωcm
2以下であれば、電解コンデンサの陽極と陰極との間に電圧を印加することによりイオン伝導性電解質と接触している導電性高分子層にレドックス容量を発現させるのに十分な量の電子の供給がなされるが、上記接触抵抗が1Ωcm
2以下であるとレドックス容量が信頼性良く発現するため好ましく、上記接触抵抗が0.06Ωcm
2以下であるのが特に好ましい。上記接触抵抗が低いほど、本発明による電解コンデンサの周波数特性が改善されることが分かっている。上記接触抵抗は、上述した工程により導電性基体の表面に導電性高分子層を形成した後、
図9を参照して説明した方法により測定される。
【0045】
(2)陽極形成工程
本発明の電解コンデンサにおける陽極は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウム等の弁金属からなる基体と、該基体の表面に設けられた上記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有する。陽極のための基体としては、弁金属の箔に公知の方法により化学的或いは電気化学的なエッチング処理を施すことにより表面積を増大させたものが好ましく、エッチング処理を施したアルミニウム箔が特に好ましい。基体の表面の誘電体層は、基体にホウ酸アンモニウム水溶液、アジピン酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液等の化成液を使用した化成処理を施す公知の方法により形成することができる。
【0046】
(3)電解質充填工程
この工程では、上記陰極形成工程において得られた、導電性基体と該導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する陰極と、上記陽極形成工程において得られた、弁金属からなる基体と該基体の表面に設けられた上記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有する陽極とを、陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とが空間を開けて対向するように配置して組み合わせた後、上記空間にイオン伝導性電解質を充填する。
【0047】
イオン伝導性電解質としては、電子伝導性を有していない公知のイオン伝導性電解質を特に限定なく使用することができる。まず、従来の電解コンデンサのために使用されている電解液、例えば、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、メチルセロソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテル、スルホラン、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、水等の溶媒に、安息香酸塩、酪酸塩、フタル酸塩、イソフタル酸塩、テレフタル酸塩、サリチル酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、リンゴ酸塩、グルタル酸塩、アジピン酸塩、アゼライン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、ピロメリット酸塩、トリメリット酸塩、1,6-デカンジカルボン酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、1-ナフトエ酸塩、マンデル酸塩、シトラコン酸塩、2,4-ジヒドロキシ安息香酸塩、2,5-ジヒドロキシ安息香酸塩、2,6-ジヒドロキシ安息香酸塩、ボロジサリチル酸塩、ボロジシュウ酸塩、ボロジマロン酸塩等の溶質を溶解させた電解液を使用することができる。塩としては、アミジニウム塩、ホスホニウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルカリ金属塩等が挙げられる。溶質としては、カルボン酸塩が好ましく、カルボン酸塩が多く含まれていると、陰極の導電性高分子層によるレドックス容量が増大する。電解液におけるカルボン酸塩の含有量は、少なくとも0.1Mの濃度であり、多くとも電解液における飽和溶解量であるのが好ましい。特に、アミジニウム塩は、陰極の導電性高分子層によるレドックス容量を顕著に増大させるため好ましい。アミジニウム塩を例示すると、1,3-ジメチルイミダゾリウム塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム塩、1-メチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム塩等のイミダゾリウム塩;1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム塩、1,3-ジメチル-2,4-ジエチルイミダゾリニウム塩、1,2-ジメチル-3,4-ジエチルイミダゾリニウム塩等のイミダゾリニウム塩;1,3-ジメチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジニウム塩、1,2,3-トリメチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジニウム塩、1,3-ジメチル-1,4-ジヒドロピリミジニウム塩等のピリミジニウム塩;ホルムアミジニウム塩、アセトアミジニウム塩、ベンジルアミジニウム塩等の鎖状アミジニウム塩が挙げられる。電解液の溶媒は単一の化合物であっても2種以上の混合物であっても良く、溶質も単一の化合物であっても良く2種以上の混合物であっても良い。
【0048】
これらの電解液には、上述した溶媒及び溶質に加えて、公知の添加物が含まれていても良く、例えば、コンデンサの耐電圧性の向上を目的として、リン酸、リン酸エステル等のリン酸化合物、ホウ酸等のホウ酸化合物、マンニット等の糖アルコール、ホウ酸と糖アルコールとの錯化合物、ポリエチレングリコール、ポリグリセリン、ポリプロピレングリコール等のポリオキシアルキレンポリオール等が含まれていても良く、さらに、特に高温下で急激に発生する水素を吸収する目的で、ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ニトロアニソール、ニトロベンジルアルコール等のニトロ化合物が含まれていても良い。また、これらの電解液にはゲル化剤が含まれていても良い。さらに、常温溶融塩(イオン液体)をイオン伝導性電解質とすることができる。
【0049】
例えば、帯状の上記陰極と上記陽極とをセパレータを介して陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とが対向するように積層した後これを巻回することにより形成したコンデンサ素子に上記電解液或いはイオン液体を含浸させることにより、この工程を実施することができる。また、所望形状の上記陰極と上記陽極とをセパレータを介して陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とが対向するように積層することにより形成したコンデンサ素子に上記電解液或いはイオン液体を含浸させることにより、この工程を実施することができる。複数組の陰極と陽極とをセパレータを間に挟んで陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とが対向するように交互に積層したコンデンサ素子に上記電解液或いはイオン液体を含浸させても良い。セパレータとしては、セルロース系繊維で構成された織布又は不織布、例えば、マニラ紙、クラフト紙、エスパルト紙、ヘンプ紙、コットン紙、レーヨン及びこれらの混抄紙や、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びこれらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂等で構成された織布又は不織布、ガラスペーパー、ガラスペーパーとマニラ紙、クラフト紙との混抄紙等を使用することができる。上記電解液或いはイオン液体の含浸は、開口部を有する外装ケース内に上記コンデンサ素子を収容した後に実施しても良い。ゲル化剤を含む電解液を使用すると、上記コンデンサ素子に電解液を含浸させた後加熱することにより、電解液をゲル状とすることができる。
【0050】
また、陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とを絶縁性のスペーサを介して対向させることにより形成したコンデンサ素子の上記スペーサにより形成された空間にイオン伝導性電解質を充填することにより、この工程を実施しても良い。この形態の場合には、イオン伝導性電解質として、上記電解液或いはイオン液体に加えて、上記電解液をポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル等に吸収させたゲル状電解質、或いは、上述した塩とポリエチレンオキサイド、ポリメタクリレート、ポリアクリレート等の高分子化合物との複合体からなる固体状電解質も使用可能である。陰極の導電性高分子層の上にゲル状又は固体状の電解質を積層し、次いでこの電解質上に陽極を誘電体層が接触するように積層しても良い。
【0051】
本発明では、陰極の導電性高分子層はイオン伝導性電解質と直接接触している必要があり、陰極の導電性高分子層は陽極と直接接触せずイオン伝導性電解質を介して陽極と接続(導通)しているが、陽極の誘電体層はイオン伝導性電解質と直接接触していてもよく、他の導電性材料を介してイオン伝導性電解質と間接的に接続していても良い。好適な他の導電性材料として導電性高分子層を挙げることができる。この導電性高分子層は、上記陽極形成工程において陽極を形成した後、陽極の誘電体層の表面に電解重合法又は化学重合法により形成することができ、また、導電性高分子の粒子と分散媒とを少なくとも含む分散液を陽極の誘電体層の表面に適用して乾燥することにより形成することもできる。陽極の導電性高分子層については、上述したEDOTと式(I)で表される化合物とのコポリマーにより形成された導電性高分子層に限定されず、PEDOT層等の公知の導電性高分子層も使用することができる。陽極の誘電体層に隣接して導電性高分子層が設けられている場合には、この導電体層と陰極の導電性高分子層とが空間を開けて対向するように配置して組み合わせた後、上記空間にイオン伝導性電解質を充填すれば良い。
【0052】
(4)レドックス容量誘導工程
外装ケース内に収容されて封止されたコンデンサ素子の陽極と陰極との間に電圧を印加し、陰極の導電性基体から導電性高分子層に対して電子を供給すると、上記イオン伝導性電解質と接触している上記陰極のEDOTと式(I)で表される化合物とのコポリマーにより形成された導電性高分子層によるレドックス容量が発現する。このため、陰極が顕著に増大した容量を示し、ひいては電解コンデンサの単位体積あたりの容量が顕著に増大する。レドックス容量発現の過程で、上記陰極の導電性高分子層にイオン伝導性電解質中のイオンが取り込まれる。また、陰極がEDOTと式(I)で表される化合物とのコポリマーにより形成された導電性高分子層を有するため、高温負荷試験後のバイアス電圧負荷時の容量の試験前のバイアス電圧負荷時の容量からの低下が改善される。
【実施例】
【0053】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0054】
実施例1
表層のみにエッチング処理を施したアルミニウム箔を投影面積1cm2に打ち抜き、自然酸化アルミニウム皮膜の表面にカーボン蒸着膜を形成して導電性基体を得た。このカーボン蒸着膜の表面に、上述した方法に従い、カーボンペースト及び銀ペーストを介して銅箔を固定し、銅箔とアルミニウム箔との間について交流インピーダンス測定を行ったところ、導電性基体の抵抗は5.3×10-3Ωcm2であった。
【0055】
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、40℃に加熱した。この液に、EDOTと式(I)においてRがエチル(Et)を表し且つxが1を表す化合物(EtEDOT)とを、EDOT:EtEDOTのモル比が19:1で且つ合計で0.03Mの濃度で導入し、さらに0.04Mのボロジサリチル酸アンモニウムと0.04Mのブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムとを添加して撹拌し、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムによりEDOTとEtEDOTとを水に可溶化させた電解重合用重合液を得た。次いで、上記導電性基体(作用極)と、10cm2の面積を有するSUSメッシュの対極とを、上述した電解重合用重合液に導入し、500μA/cm2の条件で定電流電解重合を2分間行った。重合後の作用極を水で洗浄した後、100℃で30分間乾燥し、カーボン蒸着膜上に導電性高分子層としてのP(EDOT-EtEDOT)層が厚み350nmで形成されている陰極を得た。なお、導電性高分子層の厚みは、500μA/cm2の条件での定電流電解重合を時間を変えて複数回実施し、各回の実験において得られた導電性高分子層の厚みを原子間力顕微鏡或いは段差計を用いて測定し、導電性高分子層の厚みと電荷量との関係式を導出した後、導出した関係式を用いて電解重合の電荷量を導電性高分子層の厚みに換算して求めた値である。
【0056】
上記陰極のP(EDOT-EtEDOT)層の表面に、
図9を参照して説明した方法に従い、カーボンペースト及び銀ペーストを介して銅箔を固定し、銅箔とアルミニウム箔との間について交流インピーダンス測定を行ったところ、導電性基体とP(EDOT-EtEDOT)層との接触抵抗は7.3×10
-3Ωcm
2であった。
【0057】
フタル酸のアミジニウム塩をγ-ブチロラクトンに20質量%の濃度で溶解させた電解液に、得られた陰極と、対極としての12cm2の面積を有する活性炭電極と、参照電極としての銀-塩化銀参照電極とを導入し、室温にて上記陰極のサイクリックボルタモグラムを銀-塩化銀電極に対して-1.2Vから+0.2Vの範囲で100mV/sの走査速度で5サイクル測定する試験を行い、5サイクル目のサイクリックボルタモグラムにおける還元ピークの電位と、酸化ピークの電位と、酸化ピークの電位と還元ピークの電位との差とを求めた。また、上記陰極と、対極としての12cm2の面積を有する活性炭電極と、参照電極としての銀-塩化銀参照電極とを導入し、室温にて、銀-塩化銀電極に対して-0.4Vの電位における120Hzでの第1の陰極容量を測定し、次いで、-0.4Vから-1.0Vまでカソード方向に分極させた後に分極の方向を反転させて-0.6Vまでアノード方向に分極させ、-0.6Vの電位における120Hzでの第2の陰極容量を測定した後、第1の陰極容量に対する第2の陰極容量の比率を算出した。
【0058】
投影面積2.1cm2に打ち抜いた上記アルミニウム箔を用いて自然酸化アルミニウム皮膜の表面にカーボン蒸着膜を形成した導電性基体を得、得られた導電性基体と上記対極とを上記電解重合用重合液に導入し、500μA/cm2の条件で定電流電解重合を2分間行い、重合後の作用極を水で洗浄した後、100℃で30分間乾燥して、カーボン蒸着膜上のP(EDOT-EtEDOT)層の厚みが350nmである陰極を得た。また、エッチング処理を施して表面積を増大させたアルミニウム箔の表面に化成処理により酸化アルミニウム皮膜を形成した後、投影面積2.1cm2に打ち抜き、陽極(容量:370μF/cm2)を得た。次いで、上記陰極と上記陽極とをセルロース系セパレータを介して積層したコンデンサ素子を作成し、この素子にフタル酸のアミジニウム塩をγ-ブチロラクトンに20質量%の濃度で溶解させた電解液を含浸させ、ラミネートパックした。次いで、105℃の温度で3.35Vの電圧を60分印加する再化成処理を行い、平板型の電解コンデンサを得た。
【0059】
このコンデンサについて、室温条件下で2.9Vのバイアス電圧を負荷して120Hz及び10kHzにおけるコンデンサ容量を測定した後、125℃で直流電圧2.4Vを1060時間印加する高温負荷試験を行い、この試験後に、再び室温条件下で2.9Vのバイアス電圧を負荷して120Hz及び10kHzでのコンデンサ容量を測定した。
【0060】
実施例2
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、40℃に加熱した。この液に、EDOTと式(I)においてRがエチル(Et)を表し且つxが1を表す化合物(EtEDOT)とを、EDOT:EtEDOTのモル比が9:1で且つ合計で0.03Mの濃度で導入し、さらに0.04Mのボロジサリチル酸アンモニウムと0.04Mのブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムとを添加して撹拌し、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムによりEDOTとEtEDOTとを水に可溶化させた電解重合用重合液を得た。実施例1で用いた電解重合用電解液に代えてこの重合液を用いた点を除いて実施例1と同様の手順を繰り返した。なお、導電性基体とP(EDOT-EtEDOT)層との接触抵抗は5.9×10-3Ωcm2であった。
【0061】
実施例3
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、40℃に加熱した。この液に、EDOTと式(I)においてRがエチル(Et)を表し且つxが1を表す化合物(EtEDOT)とを、EDOT:EtEDOTのモル比が7:1で且つ合計で0.03Mの濃度で導入し、さらに0.04Mのボロジサリチル酸アンモニウムと0.04Mのブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムとを添加して撹拌し、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムによりEDOTとEtEDOTとを水に可溶化させた電解重合用重合液を得た。実施例1で用いた電解重合用電解液に代えてこの重合液を用いた点を除いて実施例1と同様の手順を繰り返した。なお、導電性基体とP(EDOT-EtEDOT)層との接触抵抗は8.3×10-3Ωcm2であった。
【0062】
実施例4
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、40℃に加熱した。この液に、EDOTと式(I)においてRがエチル(Et)を表し且つxが1を表す化合物(EtEDOT)とを、EDOT:EtEDOTのモル比が3:1で且つ合計で0.03Mの濃度で導入し、さらに0.04Mのボロジサリチル酸アンモニウムと0.04Mのブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムとを添加して撹拌し、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムによりEDOTとEtEDOTとを水に可溶化させた電解重合用重合液を得た。実施例1で用いた電解重合用電解液に代えてこの重合液を用いた点を除いて実施例1と同様の手順を繰り返した。なお、導電性基体とP(EDOT-EtEDOT)層との接触抵抗は5.4×10-3Ωcm2であった。
【0063】
実施例5
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、40℃に加熱した。この液に、EDOTと式(I)においてRがエチル(Et)を表し且つxが1を表す化合物(EtEDOT)とを、EDOT:EtEDOTのモル比が1:1で且つ合計で0.03Mの濃度で導入し、さらに0.04Mのボロジサリチル酸アンモニウムと0.04Mのブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムとを添加して撹拌し、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムによりEDOTとEtEDOTとを水に可溶化させた電解重合用重合液を得た。実施例1で用いた電解重合用電解液に代えてこの重合液を用いた点を除いて実施例1と同様の手順を繰り返した。なお、導電性基体とP(EDOT-EtEDOT)層との接触抵抗は1.0×10-2Ωcm2であった。
【0064】
実施例6
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、40℃に加熱した。この液に、EDOTと式(I)においてRがエチル(Et)を表し且つxが1を表す化合物(EtEDOT)とを、EDOT:EtEDOTのモル比が1:3で且つ合計で0.03Mの濃度で導入し、さらに0.04Mのボロジサリチル酸アンモニウムと0.04Mのブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムとを添加して撹拌し、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムによりEDOTとEtEDOTとを水に可溶化させた電解重合用重合液を得た。実施例1で用いた電解重合用電解液に代えてこの重合液を用いた点を除いて実施例1と同様の手順を繰り返した。なお、導電性基体とP(EDOT-EtEDOT)層との接触抵抗は7.6×10-3Ωcm2であった。
【0065】
実施例7
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、40℃に加熱した。この液に、EDOTと式(I)においてRがn-ブチル(Bu)を表し且つxが1を表す化合物(BuEDOT)とを、EDOT:BuEDOTのモル比が3:1で且つ合計で0.03Mの濃度で導入し、さらに0.04Mのボロジサリチル酸アンモニウムと0.04Mのブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムとを添加して撹拌し、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムによりEDOTとBuEDOTとを水に可溶化させた電解重合用重合液を得た。実施例1で用いた電解重合用電解液に代えてこの重合液を用いた点を除いて実施例1と同様の手順を繰り返した。なお、導電性基体とP(EDOT-BuEDOT)層との接触抵抗は2.2×10-2Ωcm2であった。
【0066】
比較例1
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、40℃に加熱した。この液に、EDOTを0.03Mの濃度で導入し、さらに0.04Mのボロジサリチル酸アンモニウムと0.04Mのブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムとを添加して撹拌し、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムによりEDOTを水に可溶化させた電解重合用重合液を得た。実施例1で用いた電解重合用電解液に代えてこの重合液を用いた点を除いて実施例1と同様の手順を繰り返した。なお、導電性基体とPEDOT層との接触抵抗は1.6×10-3Ωcm2であった。
【0067】
比較例2
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、40℃に加熱した。この液に、EtEDOTを0.03Mの濃度で導入し、さらに0.04Mのボロジサリチル酸アンモニウムと0.04Mのブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムとを添加して撹拌し、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムによりEtEDOTを水に可溶化させた電解重合用重合液を得た。実施例1で用いた電解重合用電解液に代えてこの重合液を用いた点を除いて実施例1と同様の手順を繰り返した。なお、導電性基体とPEtEDOT層との接触抵抗は1.0×10-2Ωcm2であった。
【0068】
表1に、実施例1~7及び比較例1,2において得られた電解コンデンサについて、高温負荷試験前に測定された120Hz及び10kHzにおけるバイアス電圧負荷時のコンデンサ容量(Cap)、高温負荷試験後に測定された120Hz及び10kHzにおけるバイアス電圧負荷時のコンデンサ容量、及び、高温負荷試験前後の120Hz及び10kHzにおけるバイアス電圧負荷時のコンデンサ容量の変化率を示す。
【表1】
【0069】
比較例1及び比較例2のコンデンサは、高温負荷試験後にも安定した容量を示したが、比較例1のコンデンサは高温負荷試験後に特に10kHzにおいて、比較例2のコンデンサは高温負荷試験後に120Hz及び10kHzのいずれにおいても、著しい容量低下が認められた。一方、実施例1~7の電解コンデンサは、表1から明らかなように、高温負荷試験後にも安定した容量を示した上に、高温負荷試験後の容量の試験前の容量からの低下が、比較例1のコンデンサの容量低下に比較して顕著に改善されていた。したがって、レドックス容量を発現する導電性高分子層を有する陰極を備えた電解コンデンサにおいて、EDOTと式(I)で表される化合物とのコポリマーにより形成された導電性高分子層を使用することにより、高温負荷試験後のバイアス電圧負荷時の容量の試験前のバイアス電圧負荷時の容量からの低下が顕著に改善されることがわかった。
【0070】
表2には、高温負荷試験後にも安定した容量を示した実施例1~7及び比較例1,2の陰極についての、5サイクル目のサイクリックボルタモグラムから得られた、還元ピークの電位(Ered)、酸化ピークの電位(Eox)、及び酸化ピークの電位と還元ピークの電位との差(ΔEp)を示し、また、銀-塩化銀電極に対して-0.4Vから出発してー1.0Vまでカソード方向に分極させた後分極の方向を反転させて-0.6Vまでアノード方向に分極させながら測定した、出発点の-0.4Vにおける120Hzでの陰極容量(第1の陰極容量)(C(-0.4V))、最終点の-0.6Vにおける120Hzでの陰極容量(第2の陰極容量)(C(-0.6V))、及び第1の陰極容量に対する第2の陰極容量の比率を示す。
【表2】
【0071】
表2より、P(EDOT-EtEDOT)層又はP(EDOT-BuEDOT)層を有する実施例1~7における陰極は、PEDOT層を有する比較例1の陰極と比較して、卑側に酸化ピーク及び還元ピークを示し、また酸化ピークの電位と還元ピークの電位との差が拡大していることが分かる。また、P(EDOT-EtEDOT)層又はP(EDOT-BuEDOT)層を有する実施例1~7における陰極は、PEDOT層を有する比較例1の陰極と比較して、-0.6Vにおける120Hzでの陰極容量(第2の陰極容量)(C(-0.6V))が特に増加しており、-0.4Vにおける120Hzでの陰極容量(第1の陰極容量)(C(-0.4V))に対する第2の陰極容量の比率が80%を超えていた。これらの特性を反映して、実施例1~7のコンデンサは、高温負荷試験前に高い容量を示す上に、高温負荷試験後のバイアス電圧負荷時の容量の試験前のバイアス電圧負荷時の容量からの低下が改善されたと判断された。一方、PEtEDOT層を有する比較例2の陰極も、PEDOT層を有する比較例1の陰極と比較して卑側に酸化ピークと還元ピークを有するため、高温負荷試験経験後のバイアス電圧負荷時の容量の低下が抑制されることが期待されるものの、表1から把握されるように実際には容量の低下は抑制されず、したがってEDOTと式(I)で表される化合物とのコポリマーにより形成された導電性高分子層を使用することが重要であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明により、小型で大容量を有する上に高温での使用に耐える電解コンデンサが得られる。