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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】分析装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/16 20120101AFI20230906BHJP
【FI】
G06Q50/16 300
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019116889
(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2021002311
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-06-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年7月11日 平成30年度 空気調和・衛生工学会大会 大会講演論文集 第9巻にて公開 平成30年8月29日 平成30年度 空気調和・衛生工学会大会 大会講演論文集(DVD-R)にて公開 平成30年9月13日 平成30年度 空気調和・衛生工学会大会(名古屋)にて公開 平成30年12月3日 Asim2018 IBPSA Asia Conference 報告予稿集にて公開 平成30年12月3日 Asim2018 IBPSA Asia Conferenceにて公開 平成31年1月29日 第35回 エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス 講演論文集 第592頁~597頁にて公開 平成31年1月30日 第35回 エネルギーシステム・経済・環境コンファレンスにて公開 平成31年3月5日 空気調和・衛生工学会論文集 Vol.44 No.264にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000156938
【氏名又は名称】関西電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 吉之
(72)【発明者】
【氏名】大島 弘暉
(72)【発明者】
【氏名】山口 弘雅
(72)【発明者】
【氏名】岸本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】山口 麻有
【審査官】松野 広一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-050971(JP,A)
【文献】特開2018-132921(JP,A)
【文献】再公表特許第2018/164283(JP,A1)
【文献】特開2000-162253(JP,A)
【文献】特開2018-136870(JP,A)
【文献】特許第6443601(JP,B1)
【文献】国際公開第2018/164283(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の電力消費状態を分析する分析装置であって、
分析対象期間における前記建物の時間帯毎に計測された電力消費量を示す電力量データを取得する取得部と、
前記分析対象期間に含まれる各日が空調機の稼働日および非稼働日のいずれであるかを判定する判定部と、
前記電力量データのうち前記非稼働日のデータである非稼働日データに基づいて、前記分析対象期間に含まれる対象日の対象時間帯における前記建物の用途別の電力消費量を推定する推定部とを備え、
前記判定部は、
前記電力量データの中から、1日における前記時間帯毎に計測された電力消費量のうちの最大電力消費量が下位所定日数の日のデータを訓練データとして抽出し、
前記分析対象期間に含まれる各日について、前記訓練データと前記電力量データのうち当該日のデータである判定対象データとの比較結果に基づいて、当該日が前記稼働日および前記非稼働日のいずれであるかを決定する、分析装置。
【請求項2】
前記判定部は、
前記訓練データの後に前記判定対象データを結合した時系列データであるテストデータを作成し、
変化点検出アルゴリズムを用いて、前記テストデータにおける各時点の変化点スコアを計算し、
前記テストデータのうち前記訓練データに対応する時点の第1変化点スコアと、前記テストデータのうち前記判定対象データに対応する時点の第2変化点スコアとが等価か否かを検定により判定し、前記第1変化点スコアと前記第2変化点スコアとが等価である場合に、前記判定対象データに対応する日が非稼働日であると決定し、前記第1変化点スコアと前記第2変化点スコアとが等価でない場合に、前記判定対象データに対応する日が稼働日であると決定する、請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記検定はt検定である、請求項2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記推定部は、
前記対象日が前記非稼働日と判定された場合に、前記対象日の前記対象時間帯における空調用途の空調分電力消費量を0と推定し、
前記対象日が前記稼働日と判定された場合に、前記対象日における前記対象時間帯に計測された対象電力消費量から、前記非稼働日データから計算される、前記非稼働日における前記対象時間帯の電力消費量の代表値を差し引いた量を、前記対象日の前記対象時間帯における前記空調分電力消費量として推定する、請求項1から3のいずれか1項に記載の分析装置。
【請求項5】
前記取得部は、前記分析対象期間における、前記建物を含む地域の前記時間帯毎の外気温を示す外気温データをさらに取得し、
前記推定部は、
前記電力量データと前記外気温データとを用いて、外気温度帯毎の最小電力消費量を抽出し、
外気温を説明変数とし、抽出した最小電力消費量を目的変数とする回帰式を計算し、
前記回帰式と前記対象日の前記対象時間帯における外気温とに基づいて、前記対象日の前記対象時間帯におけるベース電力消費量を推定する、請求項4に記載の分析装置。
【請求項6】
前記推定部は、
前記非稼働日データから計算される、前記非稼働日における前記対象時間帯の電力消費量の代表値から、前記非稼働日における前記対象時間帯における前記ベース電力消費量の代表値を差し引いた量を、前記対象時間帯における人間活動に起因する用途の活動分電力消費量として推定する、請求項5に記載の分析装置。
【請求項7】
前記対象電力消費量と、前記空調分電力消費量、前記ベース電力消費量および前記活動分電力消費量の総和とに差分が生じる場合に、前記対象電力消費量と前記総和とが一致するように、前記空調分電力消費量および前記活動分電力消費量の少なくとも一方を補正する補正部をさらに備える、請求項6に記載の分析装置。
【請求項8】
前記建物において人間活動が行なわれる予定の時間帯である活動時間帯が予め定められており、
前記補正部は、
前記対象時間帯が前記活動時間帯に含まれ、かつ、前記対象電力消費量が前記総和よりも大きい場合に、前記空調分電力消費量を前記差分だけ増やし、
前記対象時間帯が前記活動時間帯に含まれ、かつ、前記対象電力消費量が前記総和よりも小さく、かつ、前記差分が前記空調分電力消費量以下である場合に、前記空調分電力消費量を前記差分だけ減らし、
前記対象時間帯が前記活動時間帯に含まれ、かつ、前記対象電力消費量が前記総和よりも小さく、かつ、前記差分が前記空調分電力消費量よりも超過量だけ超える場合に、前記空調分電力消費量を0に減らすとともに、前記活動分電力消費量を前記超過量だけ減らし、
前記対象時間帯が前記活動時間帯に含まれず、かつ、前記対象電力消費量が前記総和よりも大きい場合に、前記活動分電力消費量を前記差分だけ増やし、
前記対象時間帯が前記活動時間帯に含まれず、かつ、前記対象電力消費量が前記総和よりも小さく、かつ、前記差分が前記空調分電力消費量以下である場合に、前記空調分電力消費量を前記差分だけ減らし、
前記対象時間帯が前記活動時間帯に含まれず、かつ、前記対象電力消費量が前記総和よりも小さく、かつ、前記差分が前記空調分電力消費量よりも超過量だけ超える場合に、前記空調分電力消費量を0に減らすとともに、前記活動分電力消費量を前記超過量だけ減らす、請求項7に記載の分析装置。
【請求項9】
建物の電力消費状態を推定する推定方法であって、
プロセッサが、分析対象期間における前記建物の時間帯毎に計測された電力消費量を示す電力量データを取得するステップと、
前記プロセッサが、前記分析対象期間に含まれる各日が空調の稼働日および非稼働日のいずれであるかを判定するステップと、
前記プロセッサが、前記電力量データのうち前記非稼働日のデータである非稼働日データに基づいて、前記分析対象期間に含まれる対象日の対象時間帯における前記建物の用途別の電力消費量を推定するステップとを備え、
前記判定するステップは、
前記プロセッサが、前記電力量データの中から、1日における前記時間帯毎に計測された電力消費量のうちの最大電力消費量が下位所定日数の日のデータを訓練データとして抽出するステップと、
前記プロセッサが、前記分析対象期間に含まれる各日について、前記訓練データと前記電力量データのうち当該日のデータである判定対象データとの比較結果に基づいて、当該日が前記稼働日および前記非稼働日のいずれであるかを決定するステップとを含む、推定方法。
【請求項10】
建物の電力消費状態を推定する推定方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記推定方法は、
分析対象期間における前記建物の時間帯毎に計測された電力消費量を示す電力量データを取得するステップと、
前記分析対象期間に含まれる各日が空調の稼働日および非稼働日のいずれであるかを判定するステップと、
前記電力量データのうち前記非稼働日のデータである非稼働日データに基づいて、前記分析対象期間に含まれる対象日の対象時間帯における前記建物の用途別の電力消費量を推定するステップとを備え、
前記判定するステップは、
前記電力量データの中から、1日における前記時間帯毎に計測された電力消費量のうちの最大電力消費量が下位所定日数の日のデータを訓練データとして抽出するステップと、
前記分析対象期間に含まれる各日について、前記訓練データと前記電力量データのうち当該日のデータである判定対象データとの比較結果に基づいて、当該日が前記稼働日および前記非稼働日のいずれであるかを決定するステップとを含む、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建物の電力消費状態を分析するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の電力消費量に基づいて、当該建物の用途別の電力消費量を分析する技術が開発されている。たとえば、特開2008-298375号公報(特許文献1)は、建物におけるエネルギーの使用実績から、当該建物の空調負荷を算出する空調負荷算出システムを開示している。空調負荷算出システムは、第1の所定期間の時刻毎のエネルギー使用量に係るデータに基づいて、第1の所定期間でエネルギー使用量が最も少ない第2の所定期間を選定する。第2の所定期間は、例えば1週間である。空調負荷算出システムは、第2の所定期間におけるエネルギー使用量に基づいて、第1の所定期間のエネルギーベース使用量を算定する。エネルギーベース使用量は、空調負荷を除外したエネルギー使用量として算出される。空調負荷算出システムは、エネルギーベース使用量に基づいて、空調に使用されているエネルギー使用量を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-298375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、第2の所定期間のエネルギー使用量に基づいてエネルギーベース使用量が算定される。第2の所定期間が例えば1週間と短いため、エネルギーベース使用量の精度が低い。その結果、空調に使用されているエネルギー使用量の算出精度も低下する。
【0005】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、精度良く用途別の電力消費量を分析することが可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ある局面に従うと、建物の電力消費状態を分析する分析装置は、取得部と、判定部と、推定部とを備える。取得部は、分析対象期間における建物の時間帯毎に計測された電力消費量を示す電力量データを取得する。判定部は、分析対象期間に含まれる各日が空調機の稼働日および非稼働日のいずれであるかを判定する。推定部は、電力量データのうち非稼働日のデータである非稼働日データに基づいて、分析対象期間に含まれる対象日の対象時間帯における建物の用途別の電力消費量を推定する。判定部は、電力量データの中から、1日における時間帯毎に計測された電力消費量のうちの最大電力消費量が下位所定日数の日のデータを訓練データとして抽出する。判定部は、分析対象期間に含まれる各日について、訓練データと電力量データのうち当該日のデータである判定対象データとの比較結果に基づいて、当該日が稼働日および非稼働日のいずれであるかを決定する。
【0007】
上記の分析装置において、判定部は、訓練データの後に判定対象データを結合した時系列データであるテストデータを作成し、変化点検出アルゴリズムを用いて、テストデータにおける各時点の変化点スコアを計算してもよい。判定部は、テストデータのうち訓練データに対応する時点の第1変化点スコアと、テストデータのうち判定対象データに対応する時点の第2変化点スコアとが等価か否かを検定により判定し、第1変化点スコアと第2変化点スコアとが等価である場合に、判定対象データに対応する日が非稼働日であると決定し、第1変化点スコアと第2変化点スコアとが等価でない場合に、判定対象データに対応する日が稼働日であると決定してもよい。検定は例えばt検定である。
【0008】
上記の分析装置において、推定部は、対象日が非稼働日と判定された場合に、対象日の対象時間帯における空調用途の空調分電力消費量を0と推定してもよい。さらに、推定部は、対象日が稼働日と判定された場合に、対象日における対象時間帯に計測された対象電力消費量から、非稼働日データから計算される、非稼働日における対象時間帯の電力消費量の代表値を差し引いた量を、対象日の対象時間帯における空調分電力消費量として推定してもよい。
【0009】
上記の分析装置において、取得部は、分析対象期間における、建物を含む地域の時間帯毎の外気温を示す外気温データをさらに取得してもよい。推定部は、電力量データと外気温データとを用いて、外気温度帯毎の最小電力消費量を抽出してもよい。推定部は、さらに、外気温を説明変数とし、抽出した最小電力消費量を目的変数とする回帰式を計算し、回帰式と対象日の対象時間帯における外気温とに基づいて、対象日の対象時間帯におけるベース電力消費量を推定してもよい。
【0010】
上記の分析装置において、推定部は、非稼働日データから計算される、非稼働日における対象時間帯の電力消費量の代表値から、非稼働日における対象時間帯におけるベース電力消費量の代表値を差し引いた量を、対象時間帯における人間活動に起因する用途の活動分電力消費量として推定してもよい。
【0011】
上記の分析装置は、対象電力消費量と、空調分電力消費量、ベース電力消費量および活動分電力消費量の総和とに差分が生じる場合に、対象電力消費量と総和とが一致するように、空調分電力消費量および活動分電力消費量の少なくとも一方を補正する補正部をさらに備えてもよい。
【0012】
上記の分析装置において、建物において人間活動が行なわれる予定の時間帯である活動時間帯が予め定められていてもよい。そして、補正部は、対象時間帯が活動時間帯に含まれ、かつ、対象電力消費量が総和よりも大きい場合に、空調分電力消費量を差分だけ増やしてもよい。補正部は、対象時間帯が活動時間帯に含まれ、かつ、対象電力消費量が総和よりも小さく、かつ、差分が空調分電力消費量以下である場合に、空調分電力消費量を差分だけ減らしてもよい。補正部は、対象時間帯が活動時間帯に含まれ、かつ、対象電力消費量が総和よりも小さく、かつ、差分が空調分電力消費量よりも超過量だけ超える場合に、空調分電力消費量を0に減らすとともに、活動分電力消費量を超過量だけ減らしてもよい。補正部は、対象時間帯が活動時間帯に含まれず、かつ、対象電力消費量が総和よりも小さい場合に、活動分電力消費量を差分だけ増やしてもよい。補正部は、対象時間帯が活動時間帯に含まれず、かつ、対象電力消費量が総和よりも小さく、かつ、差分が空調分電力消費量以下である場合に、空調分電力消費量を差分だけ減らしてもよい。補正部は、対象時間帯が活動時間帯に含まれず、かつ、対象電力消費量が総和よりも小さく、かつ、差分が空調分電力消費量よりも超過量だけ超える場合に、空調分電力消費量を0に減らすとともに、活動分電力消費量を超過量だけ減らしてもよい。
【0013】
他の局面に従うと、建物の電力消費状態を推定する推定方法は、第1~第3のステップを備える。第1のステップは、分析対象期間における建物の時間帯毎に計測された電力消費量を示す電力量データを取得するステップである。第2のステップは、分析対象期間に含まれる各日が空調の稼働日および非稼働日のいずれであるかを判定するステップである。第3のステップは、電力量データのうち非稼働日のデータである非稼働日データに基づいて、分析対象期間に含まれる対象日の対象時間帯における建物の用途別の電力消費量を推定するステップである。判定するステップは、電力量データの中から、1日における時間帯毎に計測された電力消費量のうちの最大電力消費量が下位所定日数の日のデータを訓練データとして抽出するステップと、分析対象期間に含まれる各日について、訓練データと電力量データのうち当該日のデータである判定対象データとの比較結果に基づいて、当該日が稼働日および非稼働日のいずれであるかを決定するステップとを含む。
【0014】
他の局面において、プログラムは、上記の分析方法の各ステップをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0015】
本開示の技術によれば、精度良く用途別の電力消費量を分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施の形態に従う分析装置を含むシステムの概略を示す図である。
図2】分析装置のハードウェア構成を示す図である。
図3】分析装置の機能構成を示す図である。
図4】分析装置における分析処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図5】ベース電力消費量の推定方法を説明する図である。
図6】推定部によって推定されたベース電力消費量の推定精度の検証結果を示す図である。
図7】テストデータに対するChangeFinderの適用例を示す図である。
図8】推定部によって推定された活動分電力消費量の推定精度の検証結果を示す図である。
図9】空調分電力消費量の推定方法を説明する図である。
図10】推定部によって推定された空調分電力消費量の推定精度の検証結果を示す図である。
図11】電力消費量の3用途への分解精度の検証結果を示す図である。
図12】ベース電力消費量、活動分電力消費量および空調分電力消費量の各々の推定値と実測値との誤差の平均値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明に従う実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は繰り返さない。なお、以下で説明される実施の形態および各変形例は、適宜選択的に組み合わされてもよい。
【0018】
<A.システム構成>
図1を参照して、本実施の形態に従う分析装置を含むシステムの構成について説明する。図1は、本実施の形態に従う分析装置を含むシステムの概略を示す図である。図1に示されるように、システムSYSは、分析装置100と建物200とサーバ装置300とを含む。
【0019】
建物200は、例えば、店舗、事務所などの中小規模業務建物である。建物200にはスマートメータ210が設置されている。スマートメータ210は、建物200内の各種の機器220で使用された時間帯毎の総電力消費量(以下、単に「電力使用量」と称する。)を計測して記録する。具体的には、0時から24時までを所定の時間長さ(例えば、30分や15分)で区切った時間帯毎に電力消費量が計測される。
【0020】
スマートメータ210は、サーバ装置300との間で通信を行ない、計測した電力消費量を示す電力量データをサーバ装置300に送信する。
【0021】
サーバ装置300は、建物200のスマートメータ210から受信した電力量データを蓄積する。
【0022】
分析装置100は、ネットワークに接続されており、ネットワークを介してサーバ装置300から建物200の電力量データを取得する。分析装置100は、当該電力データに基づいて、建物200の電力消費状態を分析する。分析装置100は、分析結果を用いて、建物200の省エネルギーに関する提案情報を生成してもよい。生成された提案情報は、建物200を管理する管理者に適宜配信される。管理者は、提案情報を確認することにより、建物200の省エネルギーのために適した行動を実行することができる。
【0023】
<B.分析装置のハードウェア構成>
図2は、分析装置のハードウェア構成を示す図である。図2に示されるように、分析装置100は、主たる構成要素として、プログラムを実行するプロセッサ101と、データを不揮発的に格納するROM(Read Only Memory)102と、プロセッサ101によるプログラムの実行により生成されたデータ、又は入力装置を介して入力されたデータを揮発的に格納するRAM(Random Access Memory)103と、データを不揮発的に格納するハードディスク(HDD)104と、通信IF(Interface)105と、操作キー106と、電源回路107と、ディスプレイ108とを含む。各構成要素は、相互にデータバスによって接続されている。なお、通信IF105は、他の機器との間における通信を行なうためのインターフェイスである。
【0024】
分析装置100における処理は、各ハードウェアおよびプロセッサ101により実行されるプログラム110によって実現される。このようなプログラム110は、HDD104に予め記憶されている。ただし、プログラム110は、その他の記憶媒体に格納されて、プログラムプロダクトとして流通していてもよい。あるいは、プログラム110は、いわゆるインターネットに接続されている情報提供事業者によってダウンロード可能なプログラムプロダクトとして提供されてもよい。このようなプログラム110は、読取装置によりその記憶媒体から読み取られて、あるいは、通信IF105等を介してダウンロードされた後、HDD104に格納される。プロセッサ101は、HDD104からプログラム110を読み出し、プログラム110を実行する。
【0025】
<C.分析装置の機能構成>
図3は、分析装置の機能構成を示す図である。図3に示されるように、分析装置100は、取得部10と、記憶部11と、判定部14と、推定部15と、補正部16と、提案情報生成部17とを備える。取得部10、判定部14、推定部15、補正部16および提案情報生成部17は、プロセッサ101がプログラム110を実行することにより実現される。記憶部11は、ROM102およびRAM103によって実現される。
【0026】
取得部10は、ネットワークを介してサーバ装置300から、分析対象となる建物200について、分析対象期間における電力量データ12を取得する。分析対象期間は、例えば1年である。ただし、分析対象となる建物200の休日(例えば、土曜日、日曜日、祝日)は、分析対象期間から除かれる。取得部10は、取得した電力量データ12を記憶部11に格納する。
【0027】
さらに、取得部10は、ネットワークを介して、分析対象となる建物200を含む地域の、分析対象期間における時間帯毎の外気温を示す外気温データ13を取得する。外気温データは、所定の機関(例えば気象庁)から配信される。取得部10は、取得した外気温データ13を記憶部11に格納する。
【0028】
判定部14は、電力量データ12を用いて、分析対象期間に含まれる各日が空調機(空気調和機)の稼働日および非稼働日のいずれであるかを判定する。
【0029】
推定部15は、分析対象期間に含まれる対象日の対象時間帯における、建物200の用途別の電力消費量を推定する。本実施の形態において、推定部15は、3用途の電力消費量を推定する。3用途の電力消費量は、ベース電力消費量、活動分電力消費量および空調分電力消費量である。
【0030】
ベース電力消費量は、人間の活動に起因しない用途の電力消費量である。ベース電力消費量には、通信機器で消費される電力量、年間を通して常時使用される冷却設備(例えば、サーバ室の冷房機、食品スーパーの冷蔵冷凍ケース)で消費される電力量、電灯コンセントの待機電力量が含まれる。
【0031】
活動分電力消費量は、人間の活動に起因する用途の電力消費量である。活動分電力消費量には、換気動力で消費される電力量、電灯コンセントで消費される電力量(待機電力量を除く)、エレベータで消費される電力量、EV(Electric Vehicle)充電用の電力量、電気給湯設備で消費される電力量、その他の動力で消費される電力量が含まれる。
【0032】
空調分電力消費量は、人間の快適性の向上目的のために温度および/または湿度を調整する用途(以下、「空調用途」と称する。)の電力消費量である。空調分電力消費量には、熱源設備で消費される電力量、空調機の空気搬送動力で消費される電力量が含まれる。なお、換気は単に気流の調整であるため、換気動力で消費される電力量は、空調分電力消費量に含まれない。年間を通して常時使用される冷却設備の電力消費量は、上述したようにベース電力消費量に含まれ、空調分電力消費量に含まれない。
【0033】
補正部16は、対象日の対象時間帯に計測された対象電力消費量と、ベース電力消費量、活動分電力消費量および空調分電力消費量の総和とに差分が生じる場合に、対象電力消費量と総和とが一致するように、活動分電力消費量および空調分電力消費量の少なくとも一方を補正する。対象電力消費量は、電力量データのうち対象日の対象時間帯に対応するデータで示される電力消費量である。
【0034】
提案情報生成部17は、ベース電力消費量、活動分電力消費量および空調分電力消費量に基づいて、建物200の管理者への提案情報を生成する。
【0035】
<D.分析処理の流れ>
図4は、分析装置における分析処理の流れの一例を示すフローチャートである。図4に示されるように、まず、分析装置100の取得部10は、分析対象となる建物200について、分析対象期間の電力量データ12および外気温データ13を取得する(ステップS1)。取得された電力量データ12および外気温データ13は、記憶部11に格納される。
【0036】
次に、推定部15は、電力量データ12および外気温データ13を用いて、対象日の対象時間帯におけるベース電力消費量を推定する(ステップS2)。
【0037】
次に、判定部14は、電力量データ12を用いて、分析対象期間に含まれる各日が空調機の稼働日および非稼働日のいずれであるかを判定する(ステップS3)。
【0038】
次に、推定部15は、電力量データ12のうち、判定部14によって非稼働日として判定された日のデータ(以下、「非稼働日データ」と称する)と、ベース電力消費量とに基づいて、対象日の対象時間帯における活動分電力消費量を推定する(ステップS4)。
【0039】
次に、推定部15は、非稼働日データに基づいて、対象日の対象時間帯における空調分電力消費量を推定する(ステップS5)。
【0040】
次に、補正部16は、必要に応じて、空調分電力消費量および活動分電力消費量の少なくとも一方を補正する(ステップS6)。
【0041】
次に、提案情報生成部17は、ベース電力消費量、活動分電力消費量および空調分電力消費量に基づいて、建物200の管理者への提案情報を生成する(ステップS7)。
【0042】
なお、ステップS1~S6の処理順は、図4に示される順番に限定されない。例えば、ステップS3は、ステップS2の前に実行されてもよい。また、ステップS5は、ステップS4の前に実行されてもよい。
【0043】
<E.ベース電力消費量の推定方法>
図5を参照して、ステップS2で実行されるベース電力消費量の推定方法について説明する。図5は、ベース電力消費量の推定方法を説明する図である。
【0044】
推定部15は、電力量データ12と外気温データ13とを用いて、分析対象期間に含まれる各日における各時間帯の電力消費量と当該時間帯の外気温とを対応付けた単位データを生成する。例えば、分析対象期間に含まれる日数が300であり、各日が15分毎の96個の時間帯に分割される場合、推定部15は、300×96=28800個の単位データを生成する。図5の上段には、横軸を外気温(℃)、縦軸を電力消費量(kWh/15min)とするグラフに生成された複数の単位データ30をプロットした結果が示される。
【0045】
ベース電力消費量は、人間の活動に起因しない用途の電力消費量であり、各外気温における最小の電力消費量に対応する可能性が高い。そのため、推定部15は、以下の手順(1)~(4)に従って、対象日の対象時間帯におけるベース電力消費量を推定する。
【0046】
手順(1):推定部15は、設定された外気温範囲を複数の外気温度帯に分割する。外気温範囲は、予め設定されてもよいし、外気温データ13の分布に応じて設定されてもよい。例えば、外気温データ13で示される外気温の分布の95%が占める範囲が外気温範囲として定められる。外気温度帯の幅は、予め定められており、例えば1℃である。図5の中段には、分割された外気温度帯が示される。図5に示す例では、推定部15は、0~40℃の外気温範囲を1℃幅の40個の外気温度帯に分割している。
【0047】
手順(2):推定部15は、外気温度帯毎の最小電力消費量を抽出する。図5の中段には、図5の上段に示すグラフの5~9℃の拡大図が示される。図5に示す例では、推定部15は、40個の外気温度帯の各々について、当該外気温度帯に属する単位データ30の中から最小の電力消費量を有する単位データ31を抽出する。推定部15は、40個の外気温度帯の各々について抽出した単位データ31で示される電力消費量を、当該外気温度帯の最小電力消費量として決定する。
【0048】
手順(3):推定部15は、外気温を説明変数とし、手順(2)で抽出した最小電力消費量を目的変数とする回帰式を計算する。図5に示す例では、推定部15は、40個の外気温度帯の各々について抽出した単位データ31で示される外気温を説明変数とし、当該単位データ31で示される電力消費量(最小電力消費量)を目的変数とする回帰式を計算する。回帰式は、例えばn次曲線を示し、最小二乗法を用いて計算される。
【0049】
図5の中段および下段には、回帰式で示される回帰曲線33が示される。図5に示す例では、回帰曲線33は、外気温が高いときに、外気温に対して相関が見られる。これは、通信機器用の冷却設備で消費される電力量が外気温の上昇に応じて増大するためである。
【0050】
なお、単位データ30の個数が少ない外気温度帯には、人間の活動に起因しない用途の電力消費量のみを示す単位データ30が含まれない可能性がある。そのため、推定部15は、単位データ30の個数が閾値未満である外気温度帯について、当該外気温度帯に最も近い、単位データ30の個数が閾値以上である外気温度帯の最小電力消費量を用いて回帰式を計算することが好ましい。なお、推定部15は、単位データ30の個数が閾値未満である外気温度帯について、当該外気温度帯の中間温度を外気温として用いて回帰式を計算すればよい。
【0051】
図5に示す例では、推定部15は、5℃以下の外気温度帯に属する単位データ30の個数が閾値未満であるため、5℃以下の外気温度帯の最小電力消費量として、5~6℃の外気温度帯の最小電力消費量を用いて回帰式を計算する。さらに、推定部15は、30℃以上の外気温度帯に属する単位データ30の個数が閾値未満であるため、30℃以上の外気温度帯の最小電力消費量として、29~30℃の外気温度帯の最小電力消費量を用いる。
【0052】
手順(4):推定部15は、回帰式と対象日の対象時間帯における外気温とに基づいて、対象日の対象時間帯におけるベース電力消費量を推定する。すなわち、推定部15は、回帰式に対象日の対象時間帯における外気温を代入することにより、対象日の対象時間帯におけるベース電力消費量を計算する。
【0053】
図6は、推定部によって推定されたベース電力消費量の推定精度の検証結果を示す図である。図6(a)には、冬期(1月)を対象日として推定されたベース電力消費量の推定精度の検証結果が示される。図6(b)には、夏期(9月)を対象日として推定されたベース電力消費量の推定精度の検証結果が示される。
【0054】
検証は、建物200に設置された各種の設備毎の電力消費量を計測することにより実施された。図6には、各設備の電力消費量の時間変化が示される。図6には、年間通して使用される冷却設備として通信機器用の冷却設備(サーバ室の冷房機)のみを含む建物200の例が示される。図6において、「通信機器系」で示される電力量には、通信機器で消費される電力量と、通信機器用の冷却設備で消費される電力量とが含まれる。
【0055】
図6に示されるように、推定部15によって推定されたベース電力消費量の波形を示す線34は、通信機器系の電力量と電灯コンセントの電力量との総和を示す波形の谷部よりも僅かに少ない電力量の推移を示している。電灯コンセントの電力量には、電灯コンセントの待機電力量と、電灯コンセントの使用時の電力量とが含まれる。電灯コンセントの電力量の時間変化を示す波形において、谷部は待機電力量を示し、山部は使用時の電力量を示している。このように、推定部15によって推定されたベース電力消費量は、人間の活動に起因しない用途の電力消費量(通信機器で消費される電力量、通信機器用の冷却設備で消費される電力量、電灯コンセントの待機電力量)の総和を精度良く表している。
【0056】
なお、図6に示されるように、冬期(および中間期(春および秋)において推定されるベース電力消費量は略一定であるのに対し、夏期において推定されるベース電力消費量は僅かな変動を有する。これは、外気温が高い夏期において、通信機器用の冷却設備で消費される電力量が外気温の上昇に応じて増大するためである。
【0057】
<F.空調機の稼働日/非稼働日の判定方法>
次に、ステップS3で実行される空調機の稼働日/非稼働日の判定方法について説明する。判定部14は、以下の手順(a)(b)に従って、分析対象期間に含まれる各日が空調機の稼働日および非稼働日のいずれであるかを判定する。
【0058】
手順(a):判定部14は、電力量データの中から、1日における時間帯毎に計測された電力消費量のうちの最大電力消費量が下位所定日数の日のデータを訓練データとして抽出する。
【0059】
具体的には、判定部14は、分析対象期間に含まれる各日について、当該日における時間帯毎の電力消費量のうちの最大電力消費量を特定する。判定部14は、特定した最大電力消費量を昇順に並び替え、下位所定日数の日を空調機の非稼働日と定義する。所定日数は、例えば20日である。判定部14は、電力量データの中から、当該下位所定日数の日のデータを抽出し、抽出したデータを連結させることにより訓練データを生成する。
【0060】
手順(b):判定部14は、分析対象期間に含まれる各日について、訓練データと電力量データのうち当該日のデータである判定対象データとの比較結果に基づいて、当該日が空調機の稼働日および非稼働日のいずれであるかを決定する。手順(b)は、例えば以下の手順(b-1)~(b-4)を含む。
【0061】
手順(b-1):判定部14は、訓練データの後に判定対象データを結合した時系列データであるテストデータを作成する。
【0062】
手順(b-2):判定部14は、変化点検出アルゴリズムを用いて、テストデータにおける各時点の変化点スコアを計算する。変化点検出アルゴリズムとして、例えばChangeFinder(「J.Takeuchi and K.Yamanishi:A Unifying Framework for Detecting Outliers and Change Points from Time Series,IEEE Tran.on Knowledge and Data Engineering,Vol.18,No.4 (April-2006),p.482-492」および「貝戸清之、数実浩佑:統計的変化点検出に基づく社会基盤施設の早期異常検知(異常検知と変化点検出)、信頼性学会REAJ誌、Vol.37(通巻223号)(2015)、p.116-125」参照)を用いることができる。ChangeFinderは、時系列モデルの2段階学習を採用しており、時系列データの変化具合を外れ値と区別した上で、変化点スコアとして計算する。具体的には、第1段階で学習したモデルを利用して外れ値を検出し、第2段階で学習したモデルを用いて変化点を検出する。
【0063】
図7は、テストデータに対するChangeFinderの適用例を示す図である。図7には、20日分の訓練データの後ろに判定対象データが結合されたテストデータの時間変化が示される。
【0064】
判定部14は、第1段階の学習を行なう。判定部14は、テストデータの確率モデルとしてARモデル(Auto Regressive Model)を用いて、当該ARモデルをSDAR(Sequentially Discounting Auto Regressive)アルゴリズムで学習し、確率密度関数pt(x)(t=1,2,・・・)を計算する。判定部14は、学習により得られた確率密度関数pt(x)を用いて、以下の式(1)で示される対数損失を、各時点tのデータxtの外れ値スコアとして計算する。
Score1(xt)=-lnpt-1(xt)・・・式(1)
式(1)において、Score1(xt)は外れ値スコアである。
【0065】
判定部14は、外れ値スコアを平滑化する。判定部14は、正の整数であるTを幅とするウィンドウを設け、ウィンドウ内に含まれる時点の外れ値スコアの平均値を計算する。判定部14は、ウィンドウをスライドさせることにより、以下の式(2)で示される、時系列の移動平均スコアyt(t=1,2,・・・)を計算する。
【0066】
【数1】
【0067】
次に、判定部14は、第2段階の学習を行なう。判定部14は、式(2)で得られた新たな時系列データyt(t=1,2,・・・)の確率モデルとしてARモデルを用いて、当該ARモデルをSDARアルゴリズムで学習し、確率密度関数qt(y)(t=1,2,・・・)を計算する。さらに、判定部14は、各時点tの対数損失-lnqt-1(yt)と正の整数であるT’とを用いて、以下の式(3)に従って、各時点tの変化点スコアを計算する。式(3)において、Score2(yt)は変化点スコアである。
【0068】
【数2】
【0069】
Score2(yt)が大きいほど、時刻tにおいて時系列データであるテストデータの変化具合が大きいと判定することができる。
【0070】
手順(b-3):判定部14は、テストデータにおける時点毎の変化点スコアを、訓練データに対応する時点の第1データ群と、判定対象データに対応する時点の第2データ群とに分割する。なお、テストデータでは、先頭から所定時間経過するまでの間において、学習データが少ないために変化点スコアが極めて大きくなる。そのため、先頭から所定時間経過するまでの間(図7に示す例では、先頭から5日間)の変化点スコアについては、第1データ群に含めない。
【0071】
手順(b-4):判定部14は、第1データ群で示される変化点スコア(第1変化点スコア)と、第2データ群で示される変化点スコア(第2変化点スコア)とが等価か否かを検定により判定する。判定部14は、例えばウェルチのt検定を用いる。判定部14は、t検定の結果、例えばp値が有意水準5%を下回った場合に、第1変化点スコアの平均値と第2変化点スコアの平均値とに有意な差が存在する(等価ではない)と判定する。判定部14は、第1変化点スコアの平均値と第2変化点スコアの平均値とに有意な差が存在する場合に、判定対象データに対応する日が空調機の稼働日であると判定する。判定部14は、第1変化点スコアの平均値と第2変化点スコアの平均値とに有意な差が存在しない場合に、判定対象データに対応する日が空調機の非稼働日であると判定する。
【0072】
このようにして判定された稼働日/非稼働日の判定精度を検証した。具体的には、1年間のうち空調機の実際の稼働日数が208日である建物の電力量データを用いて、判定部14により空調機の稼働日/非稼働日の判定を行なったところ、204日が稼働日として判定された。すなわち、判定精度は97.1%であった。このように、判定部14による判定精度が十分に高いことが確認された。
【0073】
<G.活動分電力消費量の推定方法>
空調機が稼働していないときの電力消費量は、ベース電力消費量と活動分電力消費量との合計となる。活動分電力消費量は時間経過に従って変動する。ただし、中小規模業務建物であれば、ある時間帯における活動分電力消費量は、年間を通して、大きく変動しない。そこで、推定部15は、各時間帯の活動分電力消費量が年間を通して一定であるものと仮定して、対象時間帯における活動分電力消費量を推定する。
【0074】
推定部15は、電力量データ12のうちの非稼働日データに基づいて、非稼働日における対象時間帯の電力消費量の第1代表値(例えば平均値、中間値など)を計算する。さらに、推定部15は、上記のベース電力消費量の推定方法に従って、各非稼働日における対象時間帯のベース電力消費量を推定し、推定したベース電力消費量の第2代表値(例えば平均値、中間値など)を計算する。推定部15は、第1代表値から第2代表値を差し引いた量を、対象時間帯における活動分電力消費量として推定する。
【0075】
図8は、推定部によって推定された活動分電力消費量の推定精度の検証結果を示す図である。検証は、図6と同様に、建物200に設置された各種の設備毎の電力消費量を計測することにより実施された。図8には、11月7日から11日を対象日として推定された各時間帯の活動分電力消費量の推定精度の検証結果が示される。上述したように、各時間帯の活動分電力消費量は年間を通して一定であるため、5対象日の同じ時間帯に対して推定される活動分電力消費量は同一である。なお,図8には、11月7日から11日を対象日として推定されたベース電力消費量も合わせて示されている。
【0076】
図8に示されるように、推定部15によって推定された活動分電力消費量は、換気設備で消費される電力量、電灯コンセントで消費される電力量(待機電力量を除く)、エレベータで消費される電力量、EV充電用の電力量、電気給湯設備で消費される電力量、その他の動力で消費される電力量の実測値の総和と略一致する。このように、推定部15によって推定された活動分電力消費量は、人間の活動に起因する用途の電力消費量の総和を精度良く表している。
【0077】
<H.空調分電力消費量の推定方法>
図9を参照して、ステップS5で実行される空調分電力消費量の推定方法について説明する。図9は、空調分電力消費量の推定方法を説明する図である。空調分電力消費量は、空調機が稼働していないときの電力消費量から超過する電力消費量に対応する。そこで、推定部15は、以下のようにして、対象日の対象時間帯における空調分電力消費量を推定する。
【0078】
図9には、分析対象期間における対象時間帯14:00~14:15の電力消費量の分布が示される。図9において、丸印は、判定部14によって空調機の稼働日として判定された日のデータを示し、バツ印は、判定部14によって空調機の非稼働日として判定された日のデータを示す。
【0079】
推定部15は、<G.活動分電力消費量の推定方法>と同様に、電力量データ12のうちの非稼働日データに基づいて、非稼働日における対象時間帯の電力消費量の第1代表値(例えば平均値、中間値など)を計算する。図9において、線35は、非稼働日における対象時間帯の電力消費量の平均値を示している。
【0080】
推定部15は、電力量データのうち対象日の対象時間帯に対応するデータ36で示される電力消費量(以下、「対象電力消費量」と称する。)から第1代表値を差し引いた量を、対象日の対象時間帯における空調分電力消費量として推定する。
【0081】
なお、推定部15は、対象日が判定部14によって非稼働日と判定されている場合、対象日の対象時間帯における空調分電力消費量を0と推定する。
【0082】
図10は、推定部によって推定された空調分電力消費量の推定精度の検証結果を示す図である。検証は、建物200に設置された熱源設備および空調機の空気搬送動力で消費される電力量を計測することにより実施された。図10には、2月1日から9日を対象日として推定された空調分電力消費量の推定精度の検証結果が示される。図10に示されるように、推定部15によって推定された空調分電力消費量は、実測値と略一致する。このように、推定部15によって推定された空調分電力消費量は、熱源設備および空調機の空気搬送動力で消費される電力量を精度良く表している。
【0083】
<I.補正方法>
次に、ステップS6で実行される補正方法について説明する。上述したように、ベース電力消費量は、回帰式と対象日の対象時間帯における外気温とに基づいて推定される。対象時間帯における活動分電力消費量は、非稼働日データを用いて推定され、年間を通して一定値をとる。そのため、電力量データのうち対象日の対象時間帯に対応するデータで示される対象電力消費量と、ベース電力消費量、活動分電力消費量および空調分電力消費量の総和(以下、「推定値の総和」と称する。)との間に差分が生じる可能性がある。そこで、補正部16は、以下のようにして、活動分電力消費量および空調分電力消費量を補正する。
【0084】
分析装置100には、建物200において人間活動が行なわれる予定の時間帯である活動時間帯が予め定められる。具体的には、建物毎の活動時間帯(例えば、8:00~20:00)は、操作キー106(図2参照)を用いて分析装置100に予め登録される。
【0085】
活動時間帯において対象電力消費量が推定値の総和よりも大きくなる原因として、主に空調機の過剰運転が考えられる。そのため、補正部16は、対象時間帯が活動時間帯に含まれ、かつ、対象電力消費量が推定値の総和よりも大きい場合に、対象電力消費量と推定値の総和との差分だけ、空調分電力消費量を増やす。
【0086】
活動時間帯において対象電力消費量が推定値の総和よりも小さくなる原因として、第1に空調機に対する省エネルギー行動の実施が考えられ、第2に他の設備に対する省エネルギー行動の実施が考えられる。そのため、補正部16は、対象時間帯が活動時間帯に含まれ、かつ、対象電力消費量が推定値の総和よりも小さく、かつ、対象電力消費量と推定値の総和との差分が空調分電力消費量以下である場合に、空調分電力消費量を当該差分だけ減らす。一方、補正部16は、対象時間帯が活動時間帯に含まれ、かつ、対象電力消費量が推定値の総和よりも小さく、かつ、対象電力消費量と推定値の総和との差分が空調分電力消費量よりも超過量だけ超える場合に、空調分電力消費量を0に減らすとともに、活動分電力消費量を超過量だけ減らす。
【0087】
活動時間帯以外の時間帯に対象電力消費量が推定値の総和よりも大きくなる原因として、主に人間活動の増大が考えられる。そのため、補正部16は、対象時間帯が活動時間帯に含まれず、かつ、対象電力消費量が推定値の総和よりも大きい場合に、対象電力消費量と推定値の総和との差分だけ活動分電力消費量を増やす。
【0088】
活動時間帯以外の時間帯に対象電力消費量が推定値の総和よりも小さくなる原因として、第1に空調分電力消費量を過大に推定していることが考えられ、第2に他の設備に対する省エネルギー行動の実施が考えられる。そのため、補正部16は、対象時間帯が活動時間帯に含まれず、かつ、対象電力消費量が推定値の総和よりも小さく、かつ、対象電力消費量と推定値の総和との差分が空調分電力消費量以下である場合に、空調分電力消費量を当該差分だけ減らす。一方、補正部16は、対象時間帯が活動時間帯に含まれず、かつ、対象電力消費量が推定値の総和よりも小さく、かつ、対象電力消費量と推定値の総和との差分が空調分電力消費量よりも超過量だけ超える場合に、空調分電力消費量を0に減らすとともに、活動分電力消費量を超過量だけ減らす。
【0089】
補正部16の補正により、計測された実際の電力消費量と、ベース電力消費量、活動分電力消費量および空調分電力消費量の総和とを一致させることができる。
【0090】
<J.電力消費量の分解精度の検証結果>
異なる5つの建物A~Eについて、分析装置100によって推定および補正されたベース電力消費量、活動分電力消費量および空調分電力消費量と実測値とを比較することにより、電力消費量の3用途への分解精度の検証を行なった。
【0091】
図11は、電力消費量の3用途への分解精度の検証結果を示す図である。図11において、(a)~(e)は、それぞれ建物A~Eにおける、ベース電力消費量、活動分電力消費量および空調分電力消費量の推定値と実測値とを比較結果を示す。なお、図11(a)~(e)において、上段には、ベース電力消費量の推定値と実測値との比較結果が示され、中段には、活動分電力消費量の推定値と実測値との比較結果が示され、下段には、空調分電力消費量の推定値と実測値との比較結果が示される。なお、ベース電力消費量、活動分電力消費量および空調分電力消費量の推定値は、補正部16によって適宜補正されている。
【0092】
図12は、ベース電力消費量、活動分電力消費量および空調分電力消費量の各々の推定値と実測値との誤差の平均値を示す図である。
【0093】
図11および図12に示されるように、ベース電力消費量、活動分電力消費量および空調分電力消費量の各々の推定値と実測値との誤差は15%以下となっている。このことから、電力消費量の3用途への分解は、精度良く行なわれている。
【0094】
<K.提案情報の生成処理>
提案情報生成部17は、例えば次のような第1~第3提案情報を生成する。
【0095】
第1提案情報は、空調機の稼働が必要でない外気温において稼働している空調機を停止させた際に見込める省エネルギー量(以下、「第1省エネルギー量」と称する。)を示す。
【0096】
第2提案情報は、外気温に対して過剰運転している空調機を最適な運転に変更した際に見込める省エネルギー量(以下、「第2省エネルギー量」と称する。)を示す。
【0097】
第3提案情報は、夜間における電灯コンセントの消し忘れを防止した際に見込める省エネルギー量(以下、「第3省エネルギー量」と称する。)を示す。
【0098】
(K-1.第1提案情報の生成方法)
提案情報生成部17は、空調機の非稼働日の判定された日の9:00~17:00に含まれる時間帯の外気温を外気温データから抽出する。提案情報生成部17は、抽出された外気温データで示される複数の外気温における下位25%の外気温を暖房開始外気温として決定し、当該複数の外気温における上位25%の外気温を冷房開始外気温として決定する。提案情報生成部17は、暖房開始外気温から冷房開始外気温までの外気温度帯を、空調機の稼働が不要な空調不要温度帯として決定する。
【0099】
提案情報生成部17は、分析対象期間において空調機の稼働日であると判定された日を対象日として特定し、さらに、対象日において、外気温が空調不要温度帯に属する時間帯を対象時間帯として特定する。提案情報生成部17は、これらの対象日の対象時間帯に対して推定部15によって推定された空調分電力消費量の合計値を第1省エネルギー量として計算する。そして、提案情報生成部17は、計算された第1省エネルギー量を示す第1提案情報を生成する。
【0100】
(K-2.第2提案情報の生成方法)
提案情報生成部17は、上記と同じ方法により、暖房開始外気温および冷房開始外気温を決定する。提案情報生成部17は、暖房開始外気温以下の外気温に対応する時間帯を対象時間帯として推定された空調分電力消費量のデータを暖房外気温帯データとして抽出する。提案情報生成部17は、冷房開始外気温以上の外気温に対応する時間帯を対象時間帯として推定された空調分電力消費量のデータを冷房外気温帯データとして抽出する。
【0101】
提案情報生成部17は、暖房外気温帯データに対してロバスト回帰を適用する。ロバスト回帰とは、線形回帰に外れ値検定を付加した手法である。ロバスト回帰を適用することにより、外れ値を判定するための閾値をデータのばらつきから自動的に設定することができる。提案情報生成部17は、設定された閾値を用いて、暖房外気温帯データを正常データと異常データとに分類する。提案情報生成部17は、異常データと閾値との差分の合計を、暖房運転時における第2省エネルギー量として計算する。
【0102】
同様に、提案情報生成部17は、冷房外気温帯データに対してロバスト回帰を適用する。提案情報生成部17は、ロバスト回帰により設定された閾値を用いて、冷房外気温帯データを正常データと異常データとに分類する。提案情報生成部17は、異常データと閾値との差分の合計を、冷房運転時における第2省エネルギー量として計算する。
【0103】
提案情報生成部17は、計算された暖房運転時および冷房運転時における第2省エネルギー量を示す第2提案情報を生成する。
【0104】
(K-3.第3提案情報の生成方法)
提案情報生成部17は、活動時間帯以外の時間帯を対象時間帯として推定された活動分電力消費量のデータを夜間活動データとして抽出する。提案情報生成部17は、(K-2.第2提案情報の生成方法)と同じ方法により、夜間活動データに対してロバスト回帰を適用する。提案情報生成部17は、ロバスト回帰により設定された閾値を用いて、夜間活動データを正常データと異常データとに分類する。提案情報生成部17は、異常データと閾値との差分の合計を第3省エネルギー量として計算する。提案情報生成部17は、計算された第3省エネルギー量を示す第3提案情報を生成する。
【0105】
<L.変形例>
上記の説明では、分析装置100に提案情報生成部17が備えられるものとした。しかしながら、提案情報生成部17は、分析装置100と通信可能に接続された情報処理装置に備えられていてもよい。この場合、情報処理装置は、分析装置100から、分析対象期間内の各時間帯のベース電力消費量、活動分電力消費量および空調分電力消費量を取得し、取得したデータを用いて提案情報を生成すればよい。
【0106】
提案情報生成部17が上記の第1提案情報および第2提案情報の少なくとも一方のみを生成する場合、推定部15は、ベース電力消費量、活動分電力消費量および空調分電力消費量のうち空調分電力消費量のみを推定してもよい。提案情報生成部17が上記の第3提案情報のみを生成する場合、推定部15は、ベース電力消費量、活動分電力消費量および空調分電力消費量のうちベース電力消費量および活動分電力消費量のみを推定してもよい。
【0107】
図1に示す例では、スマートメータ210、サーバ装置300および分析装置100がネットワークを介して互いにデータの遣り取りを行なうものとした。しかしながら、スマートメータ210、サーバ装置300および分析装置100間のデータの遣り取りの方法は、図1に示す例に限定されない。例えば、サーバ装置300は、ネットワークを介さずにスマートメータ210から電力量データを直接取得してもよい。また、分析装置100は、ネットワークを介さずにサーバ装置300に接続され、サーバ装置300から建物200の電力量データを直接取得してもよい。
【0108】
<M.まとめ>
以上のように、建物200の電力消費状態を分析する分析装置100は、取得部10と、判定部14と、推定部15とを備える。取得部10は、分析対象期間における建物200の時間帯毎に計測された電力消費量を示す電力量データ12を取得する。判定部14は、分析対象期間に含まれる各日が空調機の稼働日および非稼働日のいずれであるかを判定する。推定部15は、電力量データ12のうち非稼働日のデータである非稼働日データに基づいて、分析対象期間に含まれる対象日の対象時間帯における建物の用途別の電力消費量を推定する。判定部14は、電力量データ12の中から、1日における時間帯毎に計測された電力消費量のうちの最大電力消費量が下位所定日数の日のデータを訓練データとして抽出する。判定部14は、分析対象期間に含まれる各日について、訓練データと電力量データ12のうち当該日のデータである判定対象データとの比較結果に基づいて、当該日が稼働日および非稼働日のいずれであるかを決定する。
【0109】
上記の構成によれば、訓練データは、1日における時間帯毎に計測された電力消費量のうちの最大電力消費量が下位所定日数の日のデータである。そのため、訓練データは、空調機が稼働されていない日である可能性が高い日のデータに対応する。従って、訓練データと判定対象データとの比較結果に基づいて、分析対象期間に含まれる各日を空調機の稼働日および非稼働日のいずれかに精度良く判定できる。その結果、電力量データ12の中から、空調機の非稼働日に対応するデータをできるだけ多くかつ精度良く抽出することができる。これにより、空調機の非稼働日の電力消費量が精度良く特定され、特定された電力消費量を用いて建物200の用途別の電力消費量を精度良く分析できる。
【0110】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0111】
10 取得部、11 記憶部、12 電力量データ、13 外気温データ、14 判定部、15 推定部、16 補正部、17 提案情報生成部、30,31 単位データ、33 回帰曲線、100 分析装置、101 プロセッサ、102 ROM、103 RAM、104 HDD、105 通信IF、106 操作キー、107 電源回路、108 ディスプレイ、110 プログラム、200 建物、210 スマートメータ、220 機器、300 サーバ装置、SYS システム。
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