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特許7343864線維芽細胞又は軟骨細胞におけるエラスチン産生促進剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】線維芽細胞又は軟骨細胞におけるエラスチン産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   C07K 5/062 20060101AFI20230906BHJP
   A61K 38/05 20060101ALI20230906BHJP
   A61P 19/04 20060101ALI20230906BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
C07K5/062 ZNA
A61K38/05
A61P19/04
A61P43/00 111
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021196566
(22)【出願日】2021-12-03
(62)【分割の表示】P 2017199547の分割
【原出願日】2017-10-13
(65)【公開番号】P2022025155
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2021-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000251130
【氏名又は名称】林兼産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100139262
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 和昭
(72)【発明者】
【氏名】白土 絵理
(72)【発明者】
【氏名】宮成 健司
(72)【発明者】
【氏名】有馬 一成
(72)【発明者】
【氏名】山口 泰平
(72)【発明者】
【氏名】小峯 卓士
(72)【発明者】
【氏名】宅野 美月
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-182414(JP,A)
【文献】特開2015-051953(JP,A)
【文献】特開2010-202578(JP,A)
【文献】国際公開第2013/005362(WO,A1)
【文献】特開2003-104997(JP,A)
【文献】Biochimica et Biophysica Acta,2005年,Vol. 1721,pp. 89-97
【文献】Agr. Biol. Chem.,1973年,Vol. 37, No. 10,pp. 2427-2428
【文献】FISHERIES SCIENCE,2002年,Vol. 68,pp. 921-928
【文献】Int. J. Pept. Res. Ther.,2010年,Vol. 16,pp. 111-121
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 5/06-5/062
A61K 38/05
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Val-Proで表されるアミノ酸配列からなるペプチド又はその塩を含む軟骨細胞に おけるエラスチン産生促進剤。
【請求項2】
前記軟骨細胞が、ヒト軟骨細胞であることを特徴とする請求項に記載の軟骨細胞におけるエラスチン産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維芽細胞又は軟骨細胞におけるエラスチン産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
線維芽細胞は、結合組織を構成する細胞の1つで、全身の結合組織に散在しており、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸等の細胞外マトリックス物質の産生、造骨細胞や軟骨細胞への分化、組織の損傷部位への遊走及び上記細胞外マトリックス物質の産生等を通じて、皮膚、肺、靱帯、軟骨等の結合組織の形成及び弾性等の維持に深く関与している。
【0003】
また、線維芽細胞の機能低下が各種疾患と関連している場合がある。例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において、線維芽細胞の創傷治癒能力が健常者のそれよりも低下しているという報告がなされている(非特許文献1参照)。
【0004】
エラスチンは、コラーゲンと共に、弾性線維の主要な構成成分で、脊椎動物の結合組織に広く分布する不溶性タンパク質である。生体内では動脈壁や項靭帯、肺、皮膚等、弾力性及び伸縮性が必要とされる組織に多く分布し、生体内で弾性の維持、細胞の機能調節等、様々な役割を果たしている。血管や項靭帯におけるエラスチン含量は、全乾燥重量あたり50%以上、皮膚中では2%程を占めている。生体内のエラスチンは、紫外線や加齢等の要因によって減少や変性することが知られており、皮膚でのこのような変化は、皮膚のシワやたるみ及び弾力性低下の原因となる。遺伝的にエラスチン形成能のないマウスの皮膚は弾力性がないこと(非特許文献2参照)や、紫外線照射後の弾性線維の構造変化により皮膚での弾力性低下やシワ形成が起こる可能性(非特許文献3参照)が報告されている。このため、エラスチンの産生を促進する物質は、肌の弾力性やハリを保ち、シワの予防及び改善に繋がると考えられる。
【0005】
皮膚や毛髪に対し生理学的健全効果及び整肌効果を示す有効成分として、ブタ、ウマの組織由来の水溶性抽出物、より具体的には、ブタ、ウマの項靱帯由来のエラスチン又はその加水分解物の水溶性抽出物等が極めて有用であることが報告されている(特許文献1参照)。また、魚類の動脈球より得られるエラスチンの加水分解物である水溶性のエラスチンペプチドが、皮膚線維芽細胞におけるエラスチンの産生を促進する活性を有することが報告されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-205913号公報
【文献】特開2010-155820号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】科学研究費補助金 2010年度研究成果報告書、「慢性閉塞性肺疾患の組織傷害における線維芽細胞の役割の解明」、URL:https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-20590905/20590905seika/
【文献】Yanagisawa H.他著、「Fibulin-5 is an elastin-binding protein essential for elastic fibre development in vivo」、Nature、Nature Publishing Group(英国)、第415巻、第6868号(2002年1月10日)、p.168-171
【文献】Imokawa G.他著、「Degree of Ultraviolet-Induced Tortuosity of Elastic Fibers in Rat Skin Is Age Dependent」、J. Invest. Dermatol.、Nature Publishing Group(英国)、第105巻、第2号(1995年8月)、p.254-258
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、エラスチンを初めとするタンパク質の加水分解物は、アミノ酸配列及び分子量の異なる多くのペプチドの混合物であると共に、加水分解の条件により組成が大きく変化するため、製造条件等により活性が大きく異なる場合がある。
【0009】
本発明者らは、かかる事情に鑑みて、線維芽細胞の増殖促進活性、線維芽細胞におけるエラスチン産生促進活性等の活性を有するペプチドについて検討を重ねた結果、公知のジペプチドにおいて、これまで知られていなかった上述の活性を見出した。かくして、本発明は、新な線維芽細胞又は軟骨細胞におけるエラスチン産生促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的に沿う本発明の第の態様は、Val-Proで表されるアミノ酸配列からなるペプチド又はその塩を含むことを特徴とする線維芽細胞におけるエラスチン産生促進剤を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0017】
本発明の第の態様に係る線維芽細胞におけるエラスチン産生促進剤において、前記線維芽細胞が、ヒト皮膚線維芽細胞及びヒト肺線維芽細胞のいずれか一方又は双方であってもよい。
【0018】
本発明の第の態様は、Val-Proで表されるアミノ酸配列からなるペプチド又はその塩を含む軟骨細胞におけるエラスチン産生促進剤を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0019】
本発明の第の態様に係る軟骨細胞におけるエラスチン産生促進剤において、前記軟骨細胞が、ヒト軟骨細胞であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、新規な維芽細胞又は軟骨細胞におけるエラスチン産生促進剤及び新規な軟骨細胞におけるエラスチン産生促進剤が提供される。これらの促進剤は、皮膚、肺、軟骨における弾性の維持や生体機能の維持、加齢、紫外線、疾患等による機能低下の予防又は改善に有効である。また、これらの促進剤は、確立されたアミノ酸配列を有するペプチド又はその塩を有効成分として含んでいるため、安定した一定の活性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】正常ヒト皮膚線維芽細胞の細胞増殖率に、Val-Pro-Gly-Glyで表されるアミノ酸配列からなるペプチドが及ぼす影響を示すグラフである。
図2】正常ヒト皮膚線維芽細胞の細胞増殖率に、Val-Pro-Gly-Alaで表されるアミノ酸配列からなるペプチドが及ぼす影響を示すグラフである。
図3】正常ヒト皮膚線維芽細胞のエラスチン産生量に、Val-Pro-Gly-Glyで表されるアミノ酸配列からなるペプチドが及ぼす影響を示すグラフである。
図4】正常ヒト皮膚線維芽細胞のエラスチン産生量に、Val-Pro-Gly-Alaで表されるアミノ酸配列からなるペプチドが及ぼす影響を示すグラフである。
図5】正常ヒト肺線維芽細胞の細胞増殖率に、Val-Pro-Gly-Glyで表されるアミノ酸配列からなるペプチドが及ぼす影響を示すグラフである。
図6】正常ヒト肺線維芽細胞の細胞増殖率に、Val-Pro-Gly-Alaで表されるアミノ酸配列からなるペプチドが及ぼす影響を示すグラフである。
図7】ヒト膝関節由来軟骨細胞のエラスチン産生量に、Val-Pro-Gly-Glyで表されるアミノ酸配列からなるペプチドが及ぼす影響を示すグラフである。
図8】ヒト膝関節由来軟骨細胞のエラスチン産生量に、Val-Pro-Gly-Glyで表されるアミノ酸配列からなるペプチドが及ぼす影響を示すグラフである。
図9】ヒト膝関節由来軟骨細胞のエラスチン産生量に、Val-Proで表されるアミノ酸配列からなるペプチドが及ぼす影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
Val-Proで表されるアミノ酸配列からなるペプチド及びその塩は、軟骨細胞におけるエラスチンの産生を促進する活性を有している。
【0026】
上記の(c)で表されるアミノ酸配列を有するペプチドは、アンジオテンシン変換酵素を阻害する活性を有することが既に知られているが(特開2007-182414号公報参照)、軟骨細胞におけるエラスチンの産生促進活性については、本発明者らによって初めて見出された。
【0027】
上記のVal-Proで表されるアミノ酸配列からなるペプチドの生産方法は特に制限されず、タンパク質加水分解法、有機化学的合成法、遺伝子工学的合成法、発酵法等の任意の方法を用いることができる。
【0028】
Val-Proで表されるアミノ酸配列からなるペプチドは、N末端のアミノ基及びC末端のカルボキシル基の一方又は双方が塩(アミン塩及び/又はカルボン酸塩)を形成していてもよい。塩の種類は特に限定されず、後述する種々の活性を阻害せず、医薬や食品等の用途に許容される限りにおいて、任意の塩を用いることができる。アミン塩の具体例としては、塩酸塩、臭化水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩等が挙げられる。カルボン酸塩の具体例としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。N末端のアミノ基及びC末端のカルボキシル基の双方が塩を形成している場合、分子内塩(双性イオン:Zwitter ion)であってもよい。
【0029】
Val-Proで表されるアミノ酸配列からなるペプチド又はその塩は、軟骨細胞におけるエラスチン産生促進活性剤として用いることができる。
【0030】
Val-Proで表されるアミノ酸配列からなるペプチド又はその塩を、医薬用途に通常用いられる任意の担体等と混合することにより、軟骨細胞におけるエラスチン産生促進活性を有する医薬組成物として用いることができる。
【0031】
医薬組成物のヒトあるいは動物に対する投与形態としては、経口、経直腸、非経口(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与など)等が挙げられ、投与量は、医薬組成物の製剤形態、投与方法、使用目的およびこれに適用される投与対象の年齢、体重、症状によって適宜設定され一義的に決定することは困難であるが、ヒトの場合、一般には製剤中に含有される有効成分の量で、好ましくは成人1日当り0.1~2000mg/kgである。もちろん投与量は、種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、あるいは上記投与量の範囲を超えて必要な場合もある。
【0032】
経口投与製剤として調製する場合は、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、コーティング剤、液剤、懸濁剤等の形態に調製することができ、非経口投与製剤にする場合には、注射剤、点滴剤、座薬等の形態に調製することができる。製剤化には、任意の公知の方法を用いることができる。例えば、エラスチンペプチドと、製薬学的に許容し得る担体または希釈剤、安定剤、およびその他の所望の添加剤を配合して、上記の所望の剤形とすることができる。
【0033】
Val-Proで表されるアミノ酸配列からなるペプチド又はその塩を、そのまま食品として調製し、又は他の食品に添加し、又はカプセル、錠剤等、食品または健康食品に通常用いられる任意の形態に調製することにより、軟骨細胞におけるエラスチンの産生促進活性を有する食品又は健康食品として用いることができる。
【0034】
食品中に配合して摂取あるいは投与する場合には、適宜、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料等と混合し、用途に応じて、粉末、顆粒、錠剤等の形に成形することができる。また、適宜、食品原料中に混合して食品を調製し、上述の機能を有する機能性食品として製品化することによって摂取することができる。
【0035】
Val-Proで表されるアミノ酸配列からなるペプチド又はその塩を、そのまま飼料として調製し、あるいは飼料に配合することにより、軟骨細胞におけるエラスチンの産生促進活性を有する飼料として用いることができる。
【0036】
飼料中に混合して、家畜などの動物に投与する場合には、予め飼料の原料中に混合して、機能性を付与した飼料として調製することができる。また、飼料に添加して投与することもできる。すなわち、エラスチンペプチドを有効成分として含む血管内皮細胞保護剤は、ブタ、ニワトリ、ウシ、ウマ、ヒツジ等の家畜や、魚類、ペット(イヌ、ネコ、鳥類)等の飼料に添加することにより、安全で、血管内皮細胞保護効果を有する機能性飼料として用いることができる。
【実施例
【0037】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った参考例及び実施例について説明する。なお、以下の説明において、「X-Y-Zからなるアミノ酸配列を有するペプチド」を、「ペプチドX-Y-Z」と表記する場合がある。また、実験結果を示すグラフにおいて、各アミノ酸を、3文字略号の代わりに1文字略号で表記している。
【0038】
以下に示す参考例及び実施例において、3種類のペプチドVal-Pro-Gly-Gly、Val-Pro-Gly-Ala及びVal-Proとして、国産化学株式会社製のものを使用した。対照実験において、カツオ動脈球由来エラスチンの加水分解物として、林兼産業株式会社製のものを使用した。
【0039】
参考例1:正常ヒト皮膚線維芽細胞の増殖試験
96ウェルプレートに、培養フラスコ中で培養した皮膚線維芽細胞を3500cells/cmになるように播種した(100μL/ウェル、培地:10%FBS DMEM)。37℃、5%CO条件下で24時間培養した後、ウェル中の培養液を除去し、0.5%FBSを含むDMEMを添加して同条件下で更に24時間培養した。ウェル中の培養液を除去し、DPBSにより洗浄後、DPBSを除去した。0.5%FBSを含むDMEMにて、所定の各濃度となるように、ペプチドVal-Pro-Gly-Gly(VPGG)及びペプチドVal-Pro-Gly-Ala(VPGA)の溶液を調製し、100μLずつウェルに添加した。37℃、5%COの条件化で4日間培養を行い、培養上清を回収した。回収した培養上清は、実施例2においてエラスチン産生量の測定に使用した。0.5%FBSを含むDMEMを加え、cell counting kit-8(10μL/ウェル)により、細胞数を測定し、ペプチドを添加しない場合に対する細胞増殖率を算出した。
【0040】
結果を、図1及び図2に示す。エラーバーは標準偏差を示す。「**」は、ダネット検定において、p<0.01の有意差を有することを示す。ペプチドVal-Pro-Gly-Gly及びペプチドVal-Pro-Gly-Alaのいずれにおいても、5ng/mL以上のペプチドの添加により、細胞増殖率が有意に増大していること、すなわち細胞増殖促進活性を有することが確認された。また、カツオ動脈球由来エラスチンの加水分解物を用いて同様の実験を行ったが、ペプチドVal-Pro-Gly-Gly及びペプチドVal-Pro-Gly-Alaの方が、より高い細胞増加率の測定値を示した。
【0041】
参考例2:正常ヒト皮膚線維芽細胞におけるエラスチン産生試験
正常ヒト皮膚線維芽細胞におけるエラスチンの産生量の定量は、ELISA法を用いて行った。検量線作成のための標準物質として、可溶化エラスチン(牛項靱帯由来)を用いて、2000、1000、500、250、125、62.5、31.25、0ng/mLの濃度となるように、0.5%のFBSを含むDMEMで希釈した。このようにして調製した試料を、40μLずつ、Corning 96Well EIA/RIA Half Area Flat Bottom Plate (High binding)へ加えて、4℃で1時間30分インキュベートし、プレートに固定化した。併せて、実施例1において回収した各培養上清も、40μLずつ添加して、同様の手順により固定化した。ウェル内の液を捨て、PBSTで洗浄後、0.1%ゼラチンを含むブロッキングバッファー(150μL)で1時間ブロッキングした。PBSTで洗浄後、500倍希釈した一次抗体(ウサギ抗エラスチン抗体:Anti-tropo elastin (Rabbit-Poly)
PR385}を40μL加えて1時間インキュベートした。PBSTで洗浄後、1000倍希釈した二次抗体(HRPコンジュゲートヤギ抗ウサギ抗体:Peroxidase-Labeled Affinity Purified Antibody To Rabbit IgG (H+L))を40μL加えて30分間インキュベートした。ウェル内の液を捨て、PBSTで洗浄後、基質溶液(TMB Peroxidase substrate: Peroxidase Substrate Solution B = 1:1 solution)を40μL加え、5分間室温にてインキュベートした。1N HSOを40μL加え、酵素反応を停止した後、450nmの吸光度(A450)を測定し、検量線を元にエラスチンの産生量を算出し、これを実施例1における細胞数の測定結果で除することにより、細胞1個あたりのエラスチンの産生量を求めた。
【0042】
結果を図3及び図4に示す。エラーバーは標準偏差を示す。「*」は、ダネット検定において、p<0.05の有意差を有することを示す。ペプチドVal-Pro-Gly-Gly及びペプチドVal-Pro-Gly-Alaのいずれにおいても、50000ng/mL以上のペプチドの添加により、エラスチンの産生量が有意に増大していること、すなわち正常ヒト線維芽細胞におけるエラスチン産生促進活性を有することが確認された。
【0043】
正常ヒト肺線維芽細胞を用いて同様の実験を行ったところ、ペプチドVal-Pro-Gly-Gly及びペプチドVal-Pro-Gly-Alaのいずれにおいても、50000ng/mL以上の添加により、わずかながらエラスチン産生促進活性が認められた。
【0044】
参考例3:正常ヒト肺線維芽細胞の増殖試験
96ウェルプレートに、培養フラスコ中で培養した肺線維芽細胞を2500cells/cmになるように播種した(100μL/ウェル、培地:10%FBS DMEM)。37℃、5%CO条件下で24時間培養した後、ウェル中の培養液を除去し、0.5%FBSを含むDMEMを添加して同条件下で更に24時間培養した。ウェル中の培養液を除去し、DPBSにより洗浄後、DPBSを除去した。0.5%FBSを含むDMEMにて、所定の各濃度となるようにVal-Pro-Gly-Gly及びVal-Pro-Gly-Alaの溶液を調製し、100μLずつウェルに添加した。37℃、5%COの条件化で3日間培養を行い、培養上清を回収した。回収した培養上清は、参考例4においてエラスチン産生量の測定に使用した。0.5%FBSを含むDMEMを加え、cell counting kit-8(10μL/ウェル)により細胞増殖率を算出した。
【0045】
結果を、図5及び図6に示す。エラーバーは標準偏差を示す。「*」、「**」は、ダネット検定において、それぞれ、p<0.05、p<0.01の有意差を有することを示す。ペプチドVal-Pro-Gly-Gly及びペプチドVal-Pro-Gly-Alaのいずれにおいても、5ng/mL以上のペプチドの添加により、細胞増殖率が有意に増大していること、すなわち細胞増殖促進活性を有することが確認された。
【0046】
参考例4:正常ヒト皮膚線維芽細胞の遊走活性試験
組織の修復、再生及び創傷治癒の過程にも関わる線維芽細胞の遊走活性にペプチドVal-Pro-Gly-Glyが及ぼす効果について検討した。CytoSelect(登録商標)24-well Cell Migration Assayキット(Cell Bionics社製)24ウェルプレートのウェルの底に、DMEM培地(対照)、ペプチドVal-Pro-Gly-Gly又は陽性対照としてのペプチドVal-Pro-Gly(伊藤浩行編著、「エラスチン-構造・機能・病理-」、日本エラスチン研究会(非売品)、p.124-137、2008年参照)を溶解したDMEM培地を、それぞれ500μLずつ添加した。次に、ヒト皮膚線維芽細胞(P4~5)をDMEM 培地で懸濁した細胞懸濁液(1×10 cells/mL)を調製し、メンブレンインサート(ポアサイズ8μm)内部に300μL添加した。インサートをウェルに挿入後、細胞培養インキュベーターにて37℃で、20時間インキュベートした(予備検討では6時間も設定)。反応後、インサートから培地を吸引し綿棒(2本両端/ウェル)を使って、メンブレンを透過しなかった非遊走細胞を除去した。細胞染色液を400μL添加して室温で10分反応後、インサートを蒸留水で洗浄し乾燥させ、光学顕微鏡で染色を確認した。次に空のウェルにインサートを移し、抽出液200μLを添加し、室温で10分撹捧しながら反応させた。反応液100μLを96ウェルプレートに移し、プレートリーダーで560nmの吸光度を測定した。
【0047】
結果を図7に示す。エラーバーは標準偏差を示す。「*」、「**」は、ダネット検定において、それぞれ、p<0.05、p<0.01の有意差を有することを示す。ペプチドVal-Pro-Gly-Glyは、細胞の遊走促進活性を有することが知られているペプチドVal-Pro-Glyよりも有意に高い細胞遊走促進活性を有することが確認された。
【0048】
参考例及び実施例1:正常ヒト膝関節軟骨細胞におけるエラスチン産生試験
正常ヒト膝関節軟骨細胞(NHAc-kn:1.0×10 cells/mL)を24穴プレートに播種し(900μL/ウェル、培地:CBM+0.5%FBS)、5%CO雰囲気で、加湿下、37℃で48時間インキュベートした。培地を交換後、ペプチドVPGG(参考例5)及びペプチドVP(実施例1)を添加し(100μL/ウェル、終濃度:0~5000nM)、5%CO雰囲気で、加湿下、37℃で48時間インキュベートした。得られた培養物から細胞上清を回収し、PVDF膜にドットブロットした。5%スキムミルクを含むPBSTでブロッキング後、PBSTで洗浄した。一次抗体として、ウサギ抗エラスチン抗体と反応させ、PBSTで洗浄後、二次抗体としてHRPコンジュゲートヤギ抗ウサギ抗体と反応させ、PBSTで洗浄した。検出試薬ImmunoStar Zeta(和光純薬)と反応させ、得られたシグナル強度を元にエラスチンの産生量を求めた。
【0049】
結果を、図8及び図9に示す。エラーバーは標準偏差を示す。「*」、「**」、「***」は、ダネット検定において、それぞれ、p<0.05、p<0.01、p<0.001の有意差を有することを示す。ペプチドVal-Pro-Gly-Gly及びペプチドVal-Proのいずれにおいても、25nM又は50nM以上のペプチドの添加により、エラスチンの産生量が有意に増大していること、すなわちエラスチンの産生促進活性を有することが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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