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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】軟弱地盤における圧密促進システム
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/10 20060101AFI20230906BHJP
   E02D 3/11 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
E02D3/10 103
E02D3/11
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020059806
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021156111
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(73)【特許権者】
【識別番号】591159675
【氏名又は名称】錦城護謨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 敦史
(72)【発明者】
【氏名】小河 篤史
(72)【発明者】
【氏名】大塚 義一
(72)【発明者】
【氏名】今井 亮介
(72)【発明者】
【氏名】白石 祐彰
(72)【発明者】
【氏名】長 千佳
(72)【発明者】
【氏名】目黒 緑
(72)【発明者】
【氏名】三成 昌也
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-033330(JP,A)
【文献】特開平09-119128(JP,A)
【文献】特開2004-245004(JP,A)
【文献】特開2003-117540(JP,A)
【文献】特開平03-151411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/10
E02D 3/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延設して軟弱地盤に埋設設置された複数のドレーン材を介して過剰間隙水を排水させることにより圧密して、軟弱地盤を地盤改良する工法において、圧密沈下を促進できるようにする軟弱地盤における圧密促進システムであって、
前記ドレーン材の上端部と連続させて軟弱地盤を覆って敷設された透水層と、該透水層の上に盛土された盛土載荷層と、打込み用重機により打ち込まれて上下方向に延設して軟弱地盤に埋設された、下端部のアンカー材で折り返されることにより併設される供給流路及び返送流路を有すると共に、可撓性を備える複数の循環流路材と、各々の循環流路材に加熱された熱媒体を供給する熱媒体供給手段とを含んで構成されており、
該熱媒体供給手段から供給される熱媒体を、下端部のアンカー材で折り返された各々の前記循環流路材の併設された供給流路及び返送流路を介して循環させることにより、軟弱地盤を加温して、過剰間隙水の排水を促進させる軟弱地盤における圧密促進システム。
【請求項2】
前記熱媒体供給手段は、太陽熱を捕集するソーラー装置を含んで構成されている請求項1記載の軟弱地盤における圧密促進システム。
【請求項3】
前記熱媒体は、ソーラー装置によって加熱された温水である請求項2記載の軟弱地盤における圧密促進システム。
【請求項4】
可撓性を有する前記循環流路材は、プラスチック複合成形品からなる請求項1~3のいずれか1項記載の軟弱地盤における圧密促進システム。
【請求項5】
前記ドレーン材は、前記循環流路材と同様のプラスチック複合成形品からなり、前記循環流路材は、前記ドレーン材を軟弱地盤に打ち込む重機と同様の打込み用重機を用いて地中に埋設されたものとなっている請求項4記載の軟弱地盤における圧密促進システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟弱地盤における圧密促進システムに関し、特に、軟弱地盤を地盤改良する工法において、圧密沈下を促進できるようにする軟弱地盤における圧密促進システムに関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤を地盤改良する工法として、例えば軟弱地盤の上方に透水層を介在させた状態で盛土を施工することにより載荷層を形成し、形成した載荷層の重量によって、軟弱地盤中の過剰間隙水を滲出させて透水層に排水させながら、軟弱地盤を圧密沈下させる工法が一般に採用されている。また圧密沈下を促進するために、砂杭や、透水性を備える袋に砂を詰めた袋詰め砂杭によるドレーン材を、軟弱地盤に複数本打ち込んで、排水距離を短縮させるようにしたサンドドレーン工法やパックドレーン工法等も公知である。
【0003】
さらに、砂杭や袋詰め砂杭に換えて、ドレーン材として、長手方向に延設する凹溝を適宜数並設せしめた、可撓性を有する合成樹脂による帯状の条板の表面に、透水性シートとして例えば不織布を張設させてなる、プラスチック複合成形品であるプラスチックボード(例えば、特許文献1参照)を用いることで、打込み用重機によりドレーン材を軟弱地盤に打ち込む作業を容易にする技術も開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭49-104107号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】2018年10月に公益社団法人日本材料学会が発行した第13回地盤改良シンポジウム論文集
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来の軟弱地盤を圧密沈下させる工法では、好ましくはドレーン材を軟弱地盤に複数本打ち込んで、圧密沈下を促進させるようにした場合でも、圧密沈下が収束するまでには、例えば半年から数年程度の長期間を要することになり、その間、軟弱地盤や盛土された載荷層は、使用することが困難な地盤領域となることから、軟弱地盤の圧密沈下をさらに促進させて、迅速に利用可能な状態にできるようにする新たな技術の開発が望まれている。
【0007】
一方、軟弱地盤については、当該軟弱地盤を加温して高温条件下で圧密させることにより、間隙水の粘性の低下と、間隙水の膨張による過剰間隙水圧の発生とによって、圧密沈下量を増加させ、圧密速度を向上させることで、圧密沈下の促進を図れるようになることが実証されている(例えば、非特許文献1参照)。また非特許文献1には、近年、太陽熱や工業排熱をアクティブに利用する地中蓄熱等の地盤技術が、欧米を中心に積極的に研究・開発されていることが記載されている。
【0008】
しかしながら、非特許文献1に記載された加温による軟弱地盤の圧密促進に関する室内実験では、室内における実証実験の結果として、軟弱地盤を加温して高温条件下で圧密させることにより、圧密沈下の促進を図れることを実証するものに過ぎないことから、このような実証実験の結果を反映させて、実際の施工現場において、軟弱地盤を効率良く加温
することにより圧密沈下の促進を効果的に図ることを可能にする、施工現場で採用可能な新たなシステムの開発が望まれている。
【0009】
本発明は、軟弱地盤を地盤改良する施工現場において、軟弱地盤を効率良く加温して、圧密沈下の促進を効果的に図ることのできる軟弱地盤における圧密促進システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上下方向に延設して軟弱地盤に埋設設置された複数のドレーン材を介して過剰間隙水を排水させることにより圧密して、軟弱地盤を地盤改良する工法において、圧密沈下を促進できるようにする軟弱地盤における圧密促進システムであって、前記ドレーン材の上端部と連続させて軟弱地盤を覆って敷設された透水層と、該透水層の上に盛土された盛土載荷層と、打込み用重機により打ち込まれて上下方向に延設して軟弱地盤に埋設された、下端部のアンカー材で折り返されることにより併設される供給流路及び返送流路を有すると共に、可撓性を備える複数の循環流路材と、各々の循環流路材に加熱された熱媒体を供給する熱媒体供給手段とを含んで構成されており、該熱媒体供給手段から供給される熱媒体を、下端部のアンカー材で折り返された各々の前記循環流路材の併設された供給流路及び返送流路を介して循環させることにより、軟弱地盤を加温して、過剰間隙水の排水を促進させる軟弱地盤における圧密促進システムを提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0011】
そして、本発明の軟弱地盤における圧密促進システムは、前記熱媒体供給手段が、太陽熱を捕集するソーラー装置を含んで構成されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の軟弱地盤における圧密促進システムは、前記熱媒体が、ソーラー装置によって加熱された温水であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の軟弱地盤における圧密促進システムは、可撓性を有する前記循環流路材が、プラスチック複合成形品からなっていることが好ましい。
【0014】
さらにまた、本発明の軟弱地盤における圧密促進システムは、前記ドレーン材が、前記循環流路材と同様のプラスチック複合成形品からなり、前記循環流路材は、前記ドレーン材を軟弱地盤に打ち込む重機と同様の打込み用重機を用いて地中に埋設されたものとなっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の軟弱地盤における圧密促進システムによれば、軟弱地盤を地盤改良する施工現場において、軟弱地盤を効率良く加温して、圧密沈下の促進を効果的に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の好ましい一実施形態に係る軟弱地盤における圧密促進システムの構成を説明する略示断面図である。
図2】a)~(e)は、プラスチックドレーン工法によって軟弱地盤に循環流路材を埋設する状況の説明図である。
図3】循環流路材を地中に残置させるアンカー材の説明図である。
図4】プラスチックドレーン工法の施工を管理する施工管理装置の説明図である。
図5】(a)~(c)は、圧密促進システムの施工手順を説明する略示横断面である。
図6】圧密促進システムの他の施工手順を説明する略示横断面である。
図7】圧密沈下後の圧密促進システム及び軟弱地盤の状態を説明する横断面である。
図8】本発明の軟弱地盤における圧密促進システムの他の構成を説明する略示断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好ましい一実施形態に係る軟弱地盤における圧密促進システム10は、図1に示すように、例えば支持地盤51の上に堆積した軟弱地盤50を地盤改良する際に、圧密沈下を促進させて、盛土載荷層を削減できるようにすると共に、沈下が収束するまでの期間を短縮できるようにするためのシステムとして採用されたものである。本実施形態の圧密促進システム10は、未利用熱エネルギーを活用することにより、在来工法と比較して、低コストで且つ低い環境負荷で、簡易な構成によって軟弱地盤を効率良く加温できるようにして、効果的に圧密沈下の促進を図ることを可能にする機能を備えている。
【0018】
そして、本実施形態の軟弱地盤における圧密促進システム10は、上下方向に延設して軟弱地盤50に埋設設置された複数のドレーン材11を介して過剰間隙水を排水させることにより圧密して、軟弱地盤50を地盤改良する工法において、圧密沈下を促進できるようにするシステムであって、ドレーン材11の上端部と連続させて軟弱地盤50を覆って敷設された透水層12と、透水層12の上に盛土された盛土載荷層13と、上下方向に延設して軟弱地盤50に埋設された、併設される供給流路14a及び返送流路14b(図4参照)を有すると共に可撓性を備える複数の循環流路材14と、各々の循環流路材14に加熱された熱媒体を供給する熱媒体供給手段15とを含んで構成されており、熱媒体供給手段15から供給される熱媒体を各々の循環流路材14を介して循環させることにより、軟弱地盤50を加温して、過剰間隙水の排水を促進させるようになっている。
【0019】
また、本実施形態では、熱媒体供給手段15は、太陽熱を捕集するソーラー装置15aを含んで構成されており、熱媒体は、好ましくはソーラー装置15aによって加熱された温水となっている。
【0020】
本実施形態では、軟弱地盤50は、例えば軟弱な粘土地盤となっており、例えば砂礫層からなる支持地盤51の上に、軟弱層として例えば15~30m程度の厚さで堆積している。軟弱地盤50は、土粒子間に多くの間隙水を含んでいることにより、上方から荷重を載荷することで、間隙水を排除しながら圧密沈下するようになっている。
【0021】
軟弱地盤50を覆って敷設される透水層12は、透水性の高い砂や砂礫を敷設することで、サンドマットとして機能して、ドレーン材11を介して汲み上げられた間隙水や地下水を、横方向に流して排水させる機能を備えている。本実施形態では、透水層12は、軟弱地盤50を覆って例えば50~100cm程度の厚さで敷設されている。
【0022】
軟弱地盤50に埋設設置されるドレーン材11は、地盤改良工法として公知のバーチカルドレーン工法に使用するドレーン材として、好ましくはプラスチックボードドレーン工法に用いるプラスチックボードドレーン材を使用することができる。ドレーン材11としてプラスチックボードドレーン材を用いることにより、好ましくは軽量の打込み用重機30(図2(a)~(e)参照)による静的圧入方式によって、低振動で且つ低騒音で、ドレーン材11を軟弱地盤50に上下方向に延設させるように打ち込むことが可能になる。
【0023】
また、本実施形態では、プラスチックボードドレーン材によるドレーン材11として、例えば実開昭49-104107号公報に記載されるような、熱可塑性樹脂により作った条板を所要の巾にして任意長さとし、その表面に長手方向に延設する凹溝を適宜数並設せしめ、各凹溝上に透水性を備える不織布を跨らせて張貼してなる、プラスチック複合成形品である排水板(ドレーン)を用いることができる。より具体的には、プラスチックボードドレーン材によるドレーン材11として、プラスチック複合成形品である、商品名「キャッスルボード(登録商標)」(錦城護謨株式会社製)や、消費期限が切れて廃棄される資源米を芯体として使用した、商品名「キャッスルボードエコk」(錦城護謨株式会社製
)を用いることができる。
【0024】
そして、実施形態では、好ましくはプラスチックボードドレーン材によるドレーン材11は、図2図4に示す、公知の埋設施工システムを用いることによって、上下方向に延設させて軟弱地盤50に埋設設置することができる。すなわち、埋設施工システムは、例えばクローラ式の移動機構30aを介して移動可能な打込み用重機30と、打込み用重機30の基台部30bに設けられた、供給リール部31、タワー部32、施工管理装置33等を含んで構成されている。打込み用重機30は、アンカー材34(図3参照)を介してドレーン材11の下端部をケーシング35の下端部に係止した状態で、供給リール部31からドレーン材11を繰り出しながら、垂直に立設するタワー部32に沿ってケーシング35を下方に移動させることにより、ドレーン材11と共にケーシング35を支持地盤51に向けて打ち込むようになっている(図2(a)、(b)参照)。
【0025】
また、ケーシング35を、ドレーン材11と共に好ましくは支持地盤51まで打ち込んだら、図2(c)に示すように、打ち込んだケーシング35を、軟弱地盤50から引き抜くようにしてタワー部32に沿って上方に移動させる。これによって、下端部がアンカー材34に係止されたドレーン材11は、アンカー材34が周囲の地盤に埋入されてアンカー効果を発揮することで、地中に残置されたままの状態で、ケーシング35のみが上方に引き抜かれることになる(図2(d)参照)。ケーシング35を軟弱地盤の50の上方まで引き抜いたら、地中に残置されたドレーン材11の直上部分を切断して、供給リール部31側に連続するドレーン材11と切り離すと共に、切り離されて地中に残置されたドレーン材11の上端部を、軟弱地盤50を覆って敷設された透水層12の中に埋設する。これによって、ドレーン材11を介して汲み上げられた間隙水や地下水を、透水層12に流入させることが可能になると共に、打込み用重機30を次のドレーン材11の設置個所まで移動させて、順次ドレーン材11を軟弱地盤50に埋設設置する作業を行うことが可能になる。
【0026】
埋設施工システムは、図4に示すように、例えば供給リール部31からのドレーン材11の繰出し量を検知する公知の送出し量検知器33aや、ケーシング35の打込み時の抵抗を検知する公知の抵抗検出器33b等を備えており、これらの機器による計測データは、好ましくは施工管理装置33に送られて、記録されると共に、施工管理装置33において、ドレーン材11を埋設設置する際の施工を管理できるようになっている。
【0027】
なお、軟弱地盤50に埋設設置されるドレーン材11は、バーチカルドレーン工法に使用するプラスチックボードドレーン材の他、公知のサンドドレーン工法によって設置される砂杭や、公知のパックドレーン工法によって設置される袋詰め砂杭等であっても良い。
【0028】
本実施形態では、上下方向に延設して軟弱地盤50に埋設される循環流路材14は、図1及び図3に示すように、併設される供給流路14a及び返送流路14bを有すると共に可撓性を備える部材となっており、好ましくはドレーン材11と同様に、プラスチック複合成形品を用いて形成することができる。すなわち、循環流路材14は、熱可塑性樹脂で作った条板を所要の巾にして任意長さとし、その表面に長手方向に延設する凹溝を適宜数並設せしめ、各凹溝上に、透水性を備える不織布に換えて、不透水性を備えるシート材を跨らせて張貼することにより形成される、プラスチック複合成形品である通水板を用いることができる。
【0029】
より具体的には、循環流路材14は、プラスチック複合成形品である、商品名「キャッスルボード(登録商標)」(錦城護謨株式会社製)に、簡易な改良を加えたものを用いて形成することができる。すなわち、循環流路材14は、これらのプラスチック複合成形品における、芯体を覆う透水性を有するフィルター層に換えて、不透水性を備えるシート材
を、芯体を覆うようにして取り付けたものを使用することができる。
【0030】
また、循環流路材14は、このようなプラスチック複合成形品の下端部を、アンカー材34を介して打込み用重機30のケーシング35の下端部に係止する際に、アンカー材34で折り返される部分を、軟弱地盤の50の上方まで至る長さとなるよう延設させた状態で、アンカー材34に係止する。これによって循環流路材14は、好ましくは上述のドレーン材11を軟弱地盤50に打ち込む打込み用重機30と同様の重機を使用して、地中に打ち込まれ、アンカー材34で折り返された一方を供給流路14aとし、他方を返送流路14bとして(図4参照)、これらが併設された状態で、軟弱地盤50に埋設設置されることになる。
【0031】
すなわち、循環流路材14は、ドレーン材11を軟弱地盤50に埋設する際に用いた、公知の埋設施工システムを使用して、上下方向に延設させて軟弱地盤50に埋設設置することが可能であり、アンカー材34を介して下端部をケーシング35の下端部に係止した状態で、ケーシング35が下方に移動することにより、供給リール部31から繰り出されながら、ケーシング35と共に支持地盤51に向けて打ち込まれるようになっている。また、ケーシング35と共に循環流路材14を所定深さまで打ち込んだら、打ち込んだケーシング35を上方に移動させる。これによって、アンカー材34に折返し部が係止された循環流路材14は、アンカー材34が地中に残置されたままの状態で、ケーシング35のみが上方に引き抜かれることにより、供給流路14a及び返送流路14bの上部の所定の長さ部分を、軟弱地盤50の上面よりもさらに延設させた状態で、軟弱地盤50に埋設設置されることになる。
【0032】
軟弱地盤50を覆って敷設された透水層12の上に盛土される盛土載荷層13(図1参照)は、その自重により軟弱地盤50に載荷重を負荷して、軟弱地盤50から過剰間隙水が滲出し易くなる1ようにする機能を備えている。盛土載荷層13は、例えば他の土工現場で発生した残土のうち、良質なものを選定して使用して形成することが好ましい。盛土載荷層13は、十分な載荷重が得られるように、本実施形態では、例えば3~12m程度の高さとなるように盛土されると共に、盛土載荷層13を例えば造成地として使用することが可能なように、盛土された地盤を安定させるために、外周部分の法面を例えば1:1.5~1:3.0程度の安定勾配で、傾斜させた状態で盛土されるようになっている。
【0033】
また、本実施形態では、盛土載荷層13を形成土する際に、上述のようにして軟弱地盤の50に埋設された循環流路材14の上部の、軟弱地盤50の上面よりもさらに延設させた所定の長さ部分を、上下方向に起こしながら盛土載荷層13の各層に順次埋設して行くことができる。これによって、循環流路材14の上端部分を、盛土された盛土載荷層13の外周面部分からさらに突出させて、盛土された盛土載荷層13の外周面部分に設置される、太陽熱を捕集するソーラー装置15aを含む複数の熱媒体供給手段15に、各々接続できるようになっている。
【0034】
なお、盛土載荷層13は、循環流路材14を軟弱地盤50に埋設した後に、軟弱地盤50の上面よりもさらに延設させた所定の長さ部分を、盛土の各層に順次埋設しながら施工する必要は必ずしも無く、盛土載荷層13を、循環流路材14を軟弱地盤50に埋設するのに先立って、先行して施工することもできる。この場合には、盛土載荷層13を形成した後に、形成された盛土載荷層13の上から、上述と同様の打込み用重機30を用いて、盛土載荷層13及び透水層12を貫通させて、循環流路材14を軟弱地盤50に埋設することができる。
【0035】
本実施形態では、軟弱地盤50に埋設された各々の循環流路材14に、加熱された熱媒体を供給する熱媒体供給手段15は、好ましくは太陽熱を捕集する公知のソーラー装置1
5aを含んで構成されており、ソーラー装置15aは、盛土された盛土載荷層13の外周面部分の略全域に、分散配置された状態で複数設置されている。ソーラー装置15aは、太陽熱を捕集する採光面に沿って循環水を循環させることで、太陽熱によって循環水を加熱し、加熱されて温水となった循環水を熱媒体として循環流路材14に送り出すことによって、循環流路材14を介して軟弱地盤50の中を循環させ、軟弱地盤50を加温させることができるようになっている。
【0036】
すなわち、本実施形態では、形成された盛土載荷層13の外周部分からさらに突出する部分の循環流路材14の供給流路14aを、ソーラー装置15aにおける循環水の流出口(図示せず)と接続し、返送流路14bをソーラー装置15aにおける循環水の流入口(図示せず)と接続して、例えばソーラー装置15aにおける循環水の流出口に設けた循環ポンプ(図示せず)を駆動する。これによって、軟弱地盤50に埋設された各々の循環流路材14に、ソーラー装置15aで加熱された熱媒体である温水が、供給流路14aを介して地中に供給されて、軟弱地盤50との間で熱交換がなされると共に、熱交換がなされた後の循環水を、返送流路14bを介してソーラー装置15aに返送することが可能になる。またこれによって、軟弱地盤50とソーラー装置15aとの間で、加熱された温水による循環水を循環させ、軟弱地盤50との間の熱交換によって軟弱地盤50を加温することにより、軟弱地盤50中の過剰間隙水のドレーン材11に向けた滲出を、促進することが可能になる。
【0037】
上述の構成を備える圧密促進システム10を設置するには、図5(a)~(c)に示すように、軟弱地盤50における圧密沈下させる領域を覆って、透水性の高い砂や砂礫を敷設することで、サンドマットとなる透水層12を形成する(図5(a)参照)。しかる後に、上述の打込み用重機30を用いて、複数のドレーン材11及び循環流路材14を、上下方向に延設させて軟弱地盤50に埋設する(図5(b)参照)。ドレーン材11と循環流路材14の埋設深さは、同程度となるようにすることが好ましい。複数のドレーン材11及び循環流路材14を軟弱地盤50に埋設したら、軟弱地盤50を覆って敷設された透水層12の上に盛土を行って、盛土載荷層13を形成する(図5(c)参照)。サンドマットとなる透水層12は、透水層12の盛土載荷層13の底面部よりも、例えば一回り大きな領域に敷設しておくことが好ましい。
【0038】
軟弱地盤50を覆って敷設された透水層12の上に盛土を行って、盛土載荷層13を形成したら、形成された盛土載荷層13の外周面部分の略全域に、熱媒体供給手段15を構成する複数のソーラー装置15aを、分散配置して複数設置する。また設置した各々のソーラー装置15aに、盛土された盛土載荷層13の外周面部分からさらに突出する部分における、循環流路材14の供給流路14aや返送流路14bを接続することで、図1に示すように、本実施形態の軟弱地盤における圧密促進システム10が形成されることになる。
【0039】
また、本実施形態では、工期の短縮を図ることができるように、図6に示すように、盛土載荷層13を盛土する際に、盛土される領域の外側にソーラー装置15aを設置すると共に、軟弱地盤50に埋設された循環流路材14の上部の、軟弱地盤50の上面よりもさらに延設させた所定の長さ部分を、例えば透水層12の上面に沿わせて横方向に配設し、これの先端部分の供給流路14aや返送流路14bを、ソーラー装置15aに接続する。これによって、軟弱地盤50に埋設された循環流路材14に、ソーラー装置15aで加熱された温水を循環させることができるので、盛土載荷層13の施工中においても、軟弱地盤50を加温することが可能になって、軟弱地盤50の圧密沈下の促進を図ることが可能になる。
【0040】
そして、上述の構成を備える軟弱地盤における圧密促進システムによれば、軟弱地盤を
地盤改良する施工現場において、軟弱地盤を効率良く加温して、圧密沈下の促進を効果的に図ることが可能になる。
【0041】
すなわち、本実施形態によれば、圧密促進システム10は、ドレーン材11の上端部と連続させて軟弱地盤50を覆って敷設された透水層12と、透水層12の上に盛土された盛土載荷層13と、上下方向に延設して軟弱地盤50に埋設された、併設される供給流路14a及び返送流路14bを有すると共に可撓性を備える複数の循環流路材14と、各々の循環流路材14に加熱された熱媒体として好ましくは温水を供給する、ソーラー装置15aによる熱媒体供給手段15とを含んで構成されている。
【0042】
これによって、本実施形態によれば、ソーラー装置15aによる熱媒体供給手段15から供給される熱媒体である温水を、各々の循環流路材14を介して循環させることにより、軟弱地盤50を温水との熱交換により加温して、軟弱地盤50に含まれる間隙水の粘性の低下と、間隙水の膨張による過剰間隙水圧の発生とによって、圧密沈下量を増加させ、圧密速度を向上させることで、軟弱地盤50中の過剰間隙水のドレーン材11に向けた滲出及び排出を、効果的に促進することが可能になり、図7に示すように、圧密沈下の促進を効果的に図ることが可能になる。
【0043】
また、本実施形態によれば、循環流路材14は、可撓性を備える好ましくはドレーン材11と同様のププラスチック複合成形品からなっているので、軟弱地盤50が圧密沈下して圧縮変形した場合でも、その変形に追随して変形することができるので、破損することなく、熱媒体を循環させる機能を、長期間に亘って保持することが可能になる。
【0044】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、熱媒体供給手段は、太陽熱を捕集するソーラー装置を含んで構成されている必要は必ずしも無く、工業排熱による温水等を循環流路材に送り出すものあっても良い。循環流路材を介して軟弱地盤中を循環する加熱された熱媒体は、温水である必要は必ずしも無く、加熱された温風等であっても良い。可撓性を有する前記循環流路材は、プラスチック複合成形品以外の、その他の材料からなるものであっても良い。
【0045】
また、軟弱地盤50に埋設される循環流路材14は、形成された盛土載荷層13の外周面部分から盛土載荷層13及び透水層12を貫通させて設けられる必要は必ずしも無く、図8に示すように、軟弱地盤50に埋設された循環流路材14の上部の、軟弱地盤50の上面よりもさらに延設させた所定の長さ部分を、例えば透水層12の上面に沿わせて横方向に配設し、さらに盛土載荷層13の周囲の法面に沿って延設させることで、各々のソーラー装置15aによる熱媒体供給手段15と接続させて、本発明の軟弱地盤における圧密促進システム10’とすることもできる。図8に示す圧密促進システム10’は、特に図6に示すように、盛土載荷層13を盛土する際に、盛土される領域の外側にソーラー装置15aを設置すると共に、軟弱地盤50に埋設された循環流路材14の上部の軟弱地盤50の上面よりもさらに延設させた所定の長さ部分を、透水層12の上面に沿わせて配設してソーラー装置15aに接続し、盛土載荷層13の施工中においても軟弱地盤50の圧密沈下の促進を図るようにした場合に、このような工程に続けて効率良く設けることが可能になる。また、図8に示す圧密促進システム10’によれば、循環流路材14を盛土載荷層13の上から打込む必要がないため、打込み用重機30を盛土載荷層13の上に移動させる等の必要がなく、施工手間を軽減することが可能になる。循環用のポンプの電源とするために、ソーラー装置15aの一部を太陽電池にしても良い。
【符号の説明】
【0046】
10,10’圧密促進システム
11 ドレーン材
12 透水層
13 盛土載荷層
14 循環流路材
14a 供給流路
14b 返送流路
15 熱媒体供給手段
15a ソーラー装置
30 打込み用重機
30a 移動機構
30b 基台部
31 供給リール部
32 タワー部
33 施工管理装置
33a 送出し量検知器
33b 抵抗検出器
34 アンカー材
35 ケーシング
50 軟弱地盤
51 支持地盤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8