(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】鋳造用模型及び鋳造用模型の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22C 7/00 20060101AFI20230906BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20230906BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230906BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20230906BHJP
【FI】
B22C7/00 111
B22C7/00 112B
B22C7/00 113
B29C64/118
B33Y10/00
B33Y80/00
(21)【出願番号】P 2022210967
(22)【出願日】2022-12-27
【審査請求日】2023-01-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521488978
【氏名又は名称】株式会社ダイモール
(74)【代理人】
【識別番号】100118728
【氏名又は名称】中野 圭二
(74)【代理人】
【識別番号】100114638
【氏名又は名称】中野 寛也
(72)【発明者】
【氏名】大杉 謙太
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-039157(JP,A)
【文献】特開2018-023982(JP,A)
【文献】特開2002-347125(JP,A)
【文献】特開2005-349413(JP,A)
【文献】特開2003-053479(JP,A)
【文献】特表2001-511719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 5/00- 9/30
B29C 64/00-64/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化ナイロン樹脂を3Dプリンタによって3次元に積層して製品部を形成し、ABS樹脂を3Dプリンタによって3次元に積層して方案部を形成
し、前記製品部と前記方案部を砂に埋めて鋳型を製作する際の圧に耐えられる強度に形成する鋳造用模型の製造方法。
【請求項2】
前記ABS樹脂及び前記炭素繊維強化ナイロン樹脂を0.07mm以上0.15mm以下の積層ピッチで3次元に積層して形成する請求項1に記載の鋳造用模型の製造方法。
【請求項3】
前記製品部又は/及び前記方案部の内部を充填率25%以上50%以下の中空構造に形成する請求項1又は2に記載の鋳造用模型の製造方法。
【請求項4】
断面が三角形、四角形又は六角形の筒状体を連続して配列し、前記中空構造を形成する請求項3に記載の鋳造用模型の製造方法。
【請求項5】
炭素繊維強化ナイロン樹脂を3Dプリンタによって3次元に積層して充填率15%超えの中空構造又は非中空構造に形成した製品部と、ABS樹脂を3Dプリンタによって3次元に積層して充填率15%超えの中空構造又は非中空構造に形成した方案部と、を有する鋳造用模型。
【請求項6】
木材を切削加工して形成した製品部と、3DプリンタによってABS樹脂を3次元に積層して充填率15%超えの中空構造又は非中空構造に形成した方案部と、を有する鋳造用模型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型に鋳型空隙部を形成するための鋳造用模型及び鋳造用模型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳型を造型するときには、鋳型に空隙部を形成するための模型を使用している。この鋳造用模型には、木材、金属又はプラスチックを切削加工した模型が一般的に使用されている。金属を切削加工した金型は耐久性に優れるものの、コストが高く納期も長くなる。一方、木材を切削加工した木型は低コストで納期は短くなるものの、耐久性と精度が劣っている。
【0003】
特許文献1には、鋳造用の消失模型として、層状にした硬化性組成物にパターン状に紫外線を照射し、照射領域に硬化物層を形成する工程を繰り返すことで立体的な形状の硬化物を得る光造形法が開示され、3Dプリンタを用いて光造形法を実施することが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/189652号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、鋳造用模型として用いられている木型、金型、樹脂型は、コストや納期と耐久性や精度の両方を満たすものがなく、いずれも一長一短があるため、模型のうち製品部の精度を維持しつつ、低コストかつ短納期で製造可能な鋳造用模型が求められていた。
【0006】
また、特許文献1に記載の消失模型は、「造形精度の評価に関して、造形物の寸法が幅20mm±0.2mm×高さ40mm±0.2mm×厚さ1mm±0.05mmである場合は○」と記載されているように、製品部の寸法精度として満足できるものではないという課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、製品部の寸法精度を維持しつつ、低コストかつ短納期で製造可能な鋳造用模型及び鋳造用模型の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、製品部と方案部とから構成される鋳造用模型であって、ABS樹脂又は/及び炭素繊維強化ナイロン樹脂を3Dプリンタによって0.07mm以上0.15mm以下の積層ピッチで3次元に積層して形成した鋳造用模型を提供するものである。
【0009】
また、本発明の鋳造用模型は、前記製品部又は/及び前記方案部の内部を充填率25%以上50%以下の中空構造に形成したものである。
【0010】
また、本発明の鋳造用模型は、断面が三角形、四角形又は六角形の筒状体を連続して配列し、前記中空構造を形成したものである。
【0011】
また、本発明の鋳造用模型は、前記製品部を炭素繊維強化ナイロン樹脂で形成し、前記方案部をABS樹脂で形成したものである。
【0012】
また、本発明の鋳造用模型は、木材を切削加工して前記製品部を形成し、3DプリンタによってABS樹脂を3次元に積層して前記方案部を形成したものである。
【0013】
また、本発明は、炭素繊維強化ナイロン樹脂を3Dプリンタによって3次元に積層して製品部を形成し、ABS樹脂を3Dプリンタによって3次元に積層して方案部を形成する鋳造用模型の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鋳造用模型は、製品部と方案部とから構成される鋳造用模型であって、ABS樹脂又は/及び炭素繊維強化ナイロン樹脂を3Dプリンタによって0.07mm以上0.15mm以下の積層ピッチで3次元に積層して形成した構成を有することにより、模型の表面を研磨する必要がなく、寸法精度が比較的高い模型を低コストかつ短納期で製造することができる効果がある。
【0015】
また、本発明の鋳造用模型は、前記製品部又は/及び前記方案部の内部を充填率25%以上50%以下の中空構造に形成したことにより、模型の強度を維持しつつ、さらに低コストかつ短納期で模型を製造することができる効果がある。
【0016】
また、本発明の鋳造用模型は、断面が三角形、四角形又は六角形の筒状体を連続して配列し、前記中空構造を形成したことにより、模型の強度を維持しつつ、充填率を少なくすることができる効果がある。
【0017】
また、本発明の鋳造用模型は、前記製品部を炭素繊維強化ナイロン樹脂で形成し、前記方案部をABS樹脂で形成したことにより、高い寸法精度を必要とする製品部の精度を高めつつ、変更の多い方案部をコストの安い樹脂で形成するから、寸法精度が高い模型を低コストかつ短納期で製造することができる効果がある。
【0018】
また、本発明の鋳造用模型は、木材を切削加工して前記製品部を形成し、3DプリンタによってABS樹脂を3次元に積層して前記方案部を形成したことにより、高い寸法精度が要求されない製品では、さらに低コストかつ短納期で模型を製造することができる効果がある。
【0019】
また、本発明の鋳造用模型の製造方法は、炭素繊維強化ナイロン樹脂を3Dプリンタによって3次元に積層して製品部を形成し、ABS樹脂を3Dプリンタによって3次元に積層して方案部を形成する構成を有することにより、寸法精度を必要とする製品部の精度を維持しつつ、変更の多い方案部をコストの安い樹脂で形成するから、寸法精度が高い模型を低コストかつ短納期で製造することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る鋳造用模型の一実施例を示す断面図。
【
図3】その一実施例の内部構造を示す一部切断斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態を図示する実施例に基づいて説明する。
本発明の鋳造用模型は、製品部2と方案部3とから構成される鋳造用模型1であって、ABS樹脂又は/及び炭素繊維強化ナイロン樹脂を3Dプリンタによって0.07mm以上0.15mm以下の積層ピッチで3次元に積層して形成している。
【0022】
鋳造とは、溶融金属を所定形状寸法の鋳型4に注入し、凝固させて所要の鋳物製品をつくる方式である。このため、鋳型4には、内部に製品と同形の空間をつくる模型1が必要となる。模型1は、鋳型4内に製品と同形の空間をつくるための製品部2と、鋳型4に溶融金属を注ぎ込む入口である湯口、溶融金属が流れる経路である湯道、溶融金属が製品部2に流れ込む入口の部分である堰、鋳物の冷却及び凝固の際に鋳物が収縮したり内部に空隙ができたりするのを防ぐための余分に溶融金属を補給する部分である押湯などの方案部3とから構成されている。
【実施例1】
【0023】
本実施例において、鋳造用模型1は、3Dプリンタによって、熱可塑性樹脂を熱で溶融し、ノズルから吐出して層を形成し、その繰り返しで一層ずつ積み重ねて造形する熱溶解積層方式(Fused Deposition Modeling)で形成される。模型1に使用する樹脂としては、耐久性や耐熱性に優れたABS樹脂や、仕上がりが良好で寸法精度もよい炭素繊維強化ナイロン樹脂が好ましい。
【0024】
炭素繊維強化ナイロン樹脂としては、短繊維カーボンをナイロン樹脂に混錬して強化した樹脂、例えば商品名ONYX(Markforged社製)を用いることが好ましい。ONYXは、ナイロンの耐熱性・柔軟性にカーボンの剛性・耐衝撃性が付加された特殊樹脂であり、模型1の仕上がりが良好で、寸法精度もよい。
【0025】
3Dプリンタとしては、ONYXなどの炭素繊維強化ナイロンを用いて寸法精度の高い模型を形成することができるから、例えばX3(Markforged社製)を用いることが好ましい。
【0026】
鋳造用模型1は、軽量かつ製作期間を短縮できることから、製品部2又は方案部3の内部を中空構造に形成していることが好ましい。実施例において、中空構造10は、断面が三角形、四角形又は六角形の筒状体を連続して配列して形成している。充填率などの違いによる中空構造10の評価結果を表1に示す。
【0027】
【0028】
表1に示すように、炭素繊維強化ナイロン(ONYX)を用いて充填率37%で三角形を連続配列した中空構造は、良好であった。この中空構造の上面と下面は0.4mmの厚さで形成し、壁は0.8mmの厚さで形成した。また、ABS樹脂を用いて充填率30%で六角形を連続配列(ハニカム)した中空構造も、良好であった。この中空構造の上面と下面は1.0mmの厚さで形成し、壁は2.0mmの厚さで形成した。一方、ABS樹脂を用いて充填率15%で四角形を連続配列(格子)した中空構造は、模型1を砂に埋めて鋳型を製作する際の圧によって変形した。この中空構造の上面と下面は1.0mmの厚さで形成し、壁は2.0mmの厚さで形成した。
【0029】
製品部2又は方案部3の内部を中空構造にするときは、模型1を砂に埋めて鋳型を製作する際の圧に耐えられるように充填率を25%以上にすることが好ましい。また、模型1の軽量化や製作期間の短縮のために充填率を50%以下にすることが好ましい。
【0030】
【0031】
表2は、模型1の材料別に積層ピッチと寸法精度との関係を示している。炭素繊維強化ナイロン(ONYX)を用いて0.1mmの積層ピッチで積層したときの寸法精度は、±0.05mmであった。同じ材料で積層ピッチを0.05mmにしたときの寸法精度は、±0.1mmと少し精度が悪くなった。また、ABS樹脂を用いて0.1mmの積層ピッチで積層したときの寸法精度は、±0.2mmであった。同じく積層ピッチを0.05mmにしたときの寸法精度は、±0.5mmと精度が悪くなった。
【0032】
炭素繊維強化ナイロン(ONYX)とABS樹脂の何れの場合も、0.1mmの積層ピッチで積層したときの寸法精度がよく、そこから積層ピッチを小さくしても寸法精度が悪化することが分かった。一方、0.2mm以上の積層ピッチで積層した場合は、模型1の表面が荒くなって砂型から模型を引き抜く際に引っ掛かるため、模型1の表面を研磨する必要が生じる。以上より、模型1は、0.07mm以上0.15mm以下の積層ピッチで3次元に積層して形成していることが好ましい。
【0033】
また、0.1mmの積層ピッチで積層したときに、炭素繊維強化ナイロン(ONYX)の寸法精度は±0.05mmであり、製品部2の一般的な寸法許容度の±0.1mm以内に収まっている。一方、ABS樹脂の寸法精度は±0.2mmであり、高い寸法精度を要求される製品部2には適さない。しかし、ABS樹脂は、取り扱いが容易で炭素繊維強化ナイロン樹脂に比べて安価であるから、高い寸法精度を要求されず、形状変更を行うことが多い方案部3の材料としては適している。このため、鋳造用模型1は、製品部2を炭素繊維強化ナイロン樹脂で形成し、方案部3をABS樹脂で形成することが好ましい。
【0034】
本発明の鋳造用模型1は、3DプリンタによってABS樹脂又は炭素繊維強化ナイロン樹脂を3次元に積層して形成するから、従来の木型や金型、樹脂型のように切削による削り屑が発生しないため、環境にも優しい。
【実施例2】
【0035】
鋳造用模型1は、木材を切削加工して製品部2を形成し、3DプリンタによってABS樹脂を3次元に積層して方案部3を形成してもよい。製品の高い寸法精度を要求されない場合には、木材を切削加工した木型で製品部2を形成することにより、さらに短納期で模型1を製作することが可能になる。一方、方案部3は、製品部2と比較して体積が小さく形状の変更が多いため、ABS樹脂を積層して形成する方が時間短縮になる。
【符号の説明】
【0036】
1 模型
2 製品部
3 方案部
4 鋳型
10 中空構造
11 積層ピッチ
【要約】
【課題】鋳型に鋳型空隙部を形成するための鋳造用模型であって、製品部の寸法精度を維持しつつ、低コストかつ短納期で製造可能な鋳造用模型及び鋳造用模型の製造方法を提供する。
【解決手段】製品部2と方案部3とから構成され、ABS樹脂又は/及び炭素繊維強化ナイロン樹脂を3Dプリンタによって0.07mm以上0.15mm以下の積層ピッチで3次元に積層して形成した鋳造用模型。
【選択図】
図1