(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】船舶推進軸用の軸受
(51)【国際特許分類】
B63H 23/36 20060101AFI20230906BHJP
B63H 23/32 20060101ALI20230906BHJP
F16C 33/20 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
B63H23/36
B63H23/32 B
F16C33/20 A
(21)【出願番号】P 2022516592
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2020043494
(87)【国際公開番号】W WO2021260965
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2020109827
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594001801
【氏名又は名称】株式会社ミカサ
(74)【代理人】
【識別番号】100121795
【氏名又は名称】鶴亀 國康
(72)【発明者】
【氏名】賀中 義雅
(72)【発明者】
【氏名】四方 正孝
(72)【発明者】
【氏名】原田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】横垣 賢司
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-103307(JP,A)
【文献】実開平2-90419(JP,U)
【文献】中国実用新案第207921117(CN,U)
【文献】中国実用新案第207470605(CN,U)
【文献】特開2002-115719(JP,A)
【文献】特開2004-28142(JP,A)
【文献】国際公開第01/55607(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3183964(JP,U)
【文献】特開2004-66977(JP,A)
【文献】Hiroyuki Sadaら,“PTFE Partial Arc Bearing for Large Water-lubricated Tail-shafts”,Paper presented at the SNAME 13th Propeller and Shafting Symposium,Norfolk, Virginia,米国,2012年,p.1-8,DOI: 10.5957/PSS-2012-003
【文献】吉川文隆,“船舶推進系海水潤滑軸受の技術”,月刊トライボロジー,日本,株式会社新樹社,2016年06月10日,第30巻第6号,pp.21-23,ISSN 0914-6121
【文献】吉川文隆,“水潤滑軸受の信頼性向上に関する研究”,日本,長崎大学,2009年,pp.1-119
【文献】吉川文隆,賀中義雅,“海水潤滑すべり軸受のトライボロジー ―船舶推進系への応用―”,トライボロジスト,日本,日本トライボロジー学会,2015年12月15日,第60巻第12号,pp.784-790,DOI:10.18914/tribologist.60.12_784,ISSN 2189-9967(online),0915-1168(print)
【文献】吉川文隆,“海水潤滑船尾管軸受の高性能化 -環境と省エネに最適なフッ素系樹脂軸受”,日本マリンエンジニアリング学会誌,日本,日本マリンエンジニアリング学会,2011年01月,第46巻第1号,p.32-37,DOI:10.5988/jime.46.32,ISSN 1884-3778(online),1346-1427(print)
【文献】LITWIN, Wojciech,Experimental research on water lubricated three layer sliding bearing with lubrication grooves in th,Tribology International,Elsevier Ltd.,2015年,Vol.82,pp.153-161,DOI:10.1016/j.triboint.2014.10.002,ISSN 0301-679X
【文献】齋藤年正,海水潤滑船尾管軸受の性能評価,日本マリンエンジニアリング学会誌,日本,日本マリンエンジニアリング学会,2007年05月31日,第42巻第4号,pp.700-705,DOI:10.5988/jime.42.4_700,ISSN 1884-3778(online),1346-1427(print)
【文献】宇野昭夫,新セグメントタイプ海水潤滑船尾管軸受 -分割型ゴム軸受,日本マリンエンジニアリング学会誌,日本,日本マリンエンジニアリング学会,2012年11月01日,第47巻第6号,pp.878-881,DOI:10.5988/jime.47.878,ISSN 1884-3778(online),1346-1427(print)
【文献】BARSZCZEWSKA, Agenieszka,EXPERIMENTAL RESEARCH ON INSUFFICIENT WATER LUBRICATION OF MARINE STERN TUBE JOURNAL BEARING WITH EL,POLISH MARITIME RESEARCH,PO,GDANSK UNIVERSITY OF TECHNOLOGY,2020年,No 4, Vol.27,pp.91-102,DOI:10.2478/pomr-2020-0069,ISSN 1233-2585
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 23/32,
F16C 17/02,33/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の推進軸を支持する円筒状のシェルの内周面に、一対の位置決めプレートと、複数の密閉形円弧片及び隙間形円弧片が配設されてなる軸受であって、
前記位置決めプレートは、前記シェルの水平軸上の対向する位置に固定され、
前記密閉形円弧片は、前記シェルの下側内周面
の垂直軸を対称軸とする中心角θがθ=80°~160°の間に前記隙間形円弧片に対向するように配設されて前記推進軸の負荷にかかり、摺動層、弾性体からなる中間層及び前記シェルの内周面に密接する基台の三層構造体であって、前記位置決めプレートを介して相隣るそれぞれの摺動層、中間層及び基台が相互に押圧されて前記シェルの内周面に保持され、
前記隙間形円弧片は、摺動層、弾性体からなる中間層及び前記シェルの内周面に密接する基台の三層構造体であって、両側縁部に溝形成部を有し、前記位置決めプレートを介して相隣るそれぞれの中間層及び基台が相互に押圧されて前記溝形成部が冷却水を流通させる溝を形成
してなる軸受。
ここで、シェルの水平軸とは、推進軸の重心の重力方向に直交するシェルの横断面の対称軸である。垂直軸とは、シェルの水平軸に直交する対称軸である。
【請求項2】
摺動層は、分子中にふっ素原子(F)を含有する合成高分子化合物、ポリアミド樹脂又はフェノール樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の軸受。
【請求項3】
中間層は、デュロメータ硬さ A50~90を有する弾性体が基台に接着されてなるものであることを特徴とする請求項1に記載の軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の推進軸を支持する軸受にかかり、推進軸との摺動面に形成される水皮膜の潤滑作用を利用する軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の推進軸を支持する張出軸受、船尾管軸受等の軸受においては、それ自体が海水などの水中にさらされるため防食や密封構造が重要である。そして、環境対応や経済性を考慮すると金属製の軸受や潤滑油を利用する軸受よりも、推進軸との摺動面にゴムやフッ素樹脂等を使用し、推進軸との摺動面に形成される水皮膜の潤滑作用を利用する軸受の方が好ましい。このような水皮膜の潤滑作用を利用する軸受が、各種提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に、プロペラ軸の最も荷重の掛かる部分を軸受両端部の平滑な軸受面で負担し、荷重の軽減される中央部寄りの部位は充分に冷却されるように、軸受本体の上側内面及び中央部下側内面に給水溝と、その給水溝を円周方向に接続する円周溝と、前記給水溝の両側開口部を円周方向に接続する第2の円周溝を設けてなる舶用プロペラ軸の張出軸受が提案されている。この張出軸受は、プロペラ軸の最も荷重の掛かる部分を軸受両端部の平滑な軸受面で負担し、荷重の軽減される中央部寄りの部位は充分に冷却されるとともに、円周溝及び第2の円周溝により海水の薄い皮膜が形成されるので、軸受摩耗が軽減され、焼付きが防止されるとされる。
【0004】
特許文献2には、船舶のプロペラ軸等に使用される電気防食軸受が提案されている。この電気防食軸受は、台金と、摺動性良好な合成樹脂からなるパッド材との間にゴム材を挿み込んで加硫接着してなるセグメント状のゴム軸受材を、円筒状のシェルメタルの内周面軸方向に並んで刻設した溝に前記台金部を嵌着し、または、メタルの内周面に円周方向に沿って樽状に並べ、前記台金の底面を該内周面に接着してなる電気防食軸受の製造方法が提案されている。上記ゴム軸受材は、パッド材として4フッ化エチレン、ポリアミド、高密度ポリエチレン等を使用することができ、耐久性、信頼性の高い水中ゴム軸受を得ることができるとされる。
【0005】
特許文献3に、円筒形状のシェルの内周面に沿って固定される補強材と、前記推進軸が摺動する摺動材とで構成される複数の軸受部材であって、前記摺動材は、シェルの略上半部がゴム材で構成され、前記シェルの略下半部がフッ素樹脂材で構成されてなる船舶の推進軸を支持する割型軸受が提案されている。この割型軸受は、推進軸との摺動抵抗が小さく船舶の燃費を低減することができるとされる。
【0006】
特許文献4に、船舶用船尾管における軸受材料に使用される水潤滑式軸受材料が提案されている。すなわち、12重量%~25重量%のテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA樹脂)、18重量%~33重量%の炭素繊維、及び残部がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂および/または変性PTFE樹脂を含有してなる水潤滑式軸受材料が提案されている。この水潤滑式軸受材料は耐摩耗性に加えて耐水性にも優れており、水潤滑式軸受の軸受材料に適しているとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-66977号公報
【文献】特開2009-103307号公報
【文献】実用新案登録第3183964号公報
【文献】国際公開第2016/114244号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、張出軸受にかかる負荷が必ずしも均等でないことを考慮し、軸受の機能を負荷負担部分と焼付き阻止部分とに分け、水皮膜を形成するように水冷溝を巧みに配設した張出軸受が記載されている。この張出軸受は、負荷に応じた構成にしなければならず、軸受の構成が複雑になるという問題がある。一方、特許文献2には電気防食軸受のゴム軸受材製造方法が記載され、各種構造のゴム軸受材が記載されている。しかし、それら各種構造のゴム軸受材がどの様な特性を有するかについて具体的な記載はない。
【0009】
特許文献3には、特許文献2に記載のゴム軸受材の構成及びその円筒状シェルメタルの内周面への配設形態がよく似た割型軸受が記載されている。この円筒状シェル内周面に配設された軸受部材の摺動面は、円筒状シェル内周面の略上半部がゴム製で、略下半部がフッ素樹脂製であるとされる。そして、特許文献4には、船舶用船尾管の軸受材料として好適なフッ素樹脂の組成が記載されている。しかしながら、かかる円筒状シェル内周面の略下半部がフッ素樹脂を軸受材とする軸受であっても不均一な面圧下においては摩耗が進むという問題がある。
【0010】
本発明は、このような従来の問題点及び要請に鑑み、船舶の推進軸を支持する軸受において、推進軸との摺動面に潤滑性に優れた水皮膜を形成することができ、低摩擦性、耐摩耗性、耐久性に優れ経済的な軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る軸受は、船舶の推進軸を支持する円筒状のシェルの内周面に、一対の位置決めプレートと、複数の密閉形円弧片及び隙間形円弧片が配設されてなる軸受であって、前記位置決めプレートは、前記シェルの水平軸上の対向する位置に固定され、前記密閉形円弧片は、前記シェルの下面側に配設されて前記推進軸の負荷にかかり、摺動層、弾性体からなる中間層及び前記シェルの内周面に密接する基台の三層構造体であって、前記位置決めプレートを介して相隣るそれぞれの摺動層、中間層及び基台が相互に押圧されて前記シェルの内周面に保持され、前記隙間形円弧片は、前記密閉形円弧片に対向して配設され、摺動層、弾性体からなる中間層及び前記シェルの内周面に密接する基台の三層構造体であって、両側縁部に溝形成部を有し、前記位置決めプレートを介して前記中間層及び基台が相互に押圧されて前記溝形成部が冷却水を流通させる溝を形成し、前記シェルの内周面に保持されてなる。ここで、シェルの水平軸とは、推進軸の重心方向に直交するシェルの横断面の対称軸である。
【0012】
上記発明において、密閉形円弧片は、シェルの内周面の60°~175°の範囲に敷き詰められてなるものとすることができる。
【0013】
また、摺動層は、分子中にふっ素原子(F)を含有する合成高分子化合物、ポリアミド樹脂又はフェノール樹脂からなるものとすることができる。
【0014】
また、中間層は、デュロメータ硬さ A50~90を有する弾性体が基台に接着されてなるものがよい。
【0015】
また、本発明に係る軸受は、円筒状のシェルの内周面に、順に弾性体層と摺動層の二層からなる軸受材が固着されてなる船舶の推進軸を支持する軸受であって、前記摺動層は、前記シェルの内周面の下面側にあって垂直軸を対称軸とする中心角θが、θ=60°~180°の範囲の前記推進軸の負荷にかかる負荷作用部分と、その負荷作用部分に対向し、両端部に設けられる水冷溝を最初と最後として複数の所要の水冷溝が設けられてなる冷却作用部分とを有してなる。ここで、垂直軸とは、推進軸の重心方向に平行なシェルの横断面の対称軸をいう。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、船舶の推進軸を支持する軸受において、推進軸との摺動面に潤滑性に優れた水皮膜を形成することができ、低摩擦性、耐摩耗性、耐久性に優れ経済的な軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る内張型軸受の構成を示す横断面図である。
【
図2】
図1に示す内張型軸受に配設される隙間形円弧片、密閉形円弧片、切欠けを有する密閉形円弧片の構成を示す説明図である。
【
図3】本発明に係る一体型軸受の構成を示す横断面図である。
【
図4】摩耗試験後の軸受内径変化量を示すグラフである。
【
図5】摩耗試験を行った軸受の横断面形状を示す説明図である。
【
図7】各種軸受部材を有する軸受の摺動面における面圧分布を示すグラフである。
【
図8】摩耗試験における周速と摩擦係数の関係を示すグラフである。
【
図9】摩耗試験における面圧を各種変化させた場合の周速と摩擦係数の関係を示すグラフである。
【
図10】摩耗試験における軸受材の温度変化を示すグラフである。
【
図11】発明例(FRB2)と比較例(FRB16)のFFTアナライザによる振動解析試験の結果を示すグラフである。
【
図12】発明例(FRB2)と比較例(FB2)のFFTアナライザによる振動解析試験の結果を示すグラフである。
【
図13】水膜圧強さと接触面角度との関係を示すグラフである。
【
図14】
図14の水膜圧強さ曲線が彎曲状を示す部分の水膜圧強さと周速との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を基に説明する。
図1は、本発明に係る軸受の構成を示す。本発明に係る軸受10は、船舶の推進軸を支持する軸受である。そして、この軸受10は、円筒状のシェル11の内周面であって、そのシェルの水平軸上の対向する位置に固定される一対の位置決めプレート12と、前記シェル内周面の下面側に配設される密閉形円弧片16と、その密閉形円弧片16に対向して配設される隙間形円弧片15と、を有する。相隣る隙間形円弧片15又は密閉形円弧片16は、それぞれ位置決めプレート12を介してシェル11の内周面に保持されている。かかる軸受10は、その構成から内張型軸受という。なお、シェル11の水平軸とは、推進軸の重心方向に直交するシェル11の横断面の対称軸AAをいう。
【0019】
位置決めプレート12は、例えば、シェル11の内周面にボルトやピンで固定されている。位置決めプレート12は、シェル11の内周面に配設される密閉形円弧片16又は隙間形円弧片15を挟み込んでシェル11の内周面に密着させて保持する。密閉形円弧片16又は隙間形円弧片15をシェル11の内周面に確実に保持するには、例えば、位置決めプレート12に接する密閉形円弧片16又は隙間形円弧片15の側縁面の面出しを行ったうえで嵌め込むのがよい。これにより各密閉形円弧片16又は隙間形円弧片15は、所定の押圧状態でシェル11の内周面に保持される。
【0020】
位置決めプレート12の裏面側(シェル11の内周面側)は円弧状でも平板状であってもよく、平板状の場合は成形が容易である。位置決めプレート12の材質は、金属製又は樹脂製でもよい。例えば金属製の場合は銅合金が使用され、例えば樹脂製の場合は炭素繊維強化フェノール樹脂が使用される。金属製の場合は、表面を耐食性ゴムで被うのがよい。
【0021】
隙間形円弧片15は、
図2(a)に示すように、摺動層153、中間層152及び基台151の三層構造体をなしており、両側縁部に溝形成部155が設けられている。位置決めプレート12を介して中間層152及び基台151が相互に押圧されてシェル11の内周面に保持され、相隣る溝形成部155によって水又は海水(冷却水)を流通させる溝18(
図1)が形成される。隙間形円弧片15が密閉形円弧片16に接する部分には半溝19が形成される。溝形成部155は、その深さが摺動層153又は摺動層153から中間層152におよぶように設けられる。溝形成部155は、軸受10の冷却に必要な冷却水量Qが供給されるように溝の深さと幅寸法が選択される。上記隙間形円弧片15の成形は、以下に説明する密閉形円弧片16と同様な方法及び材質により成形することができる。
【0022】
密閉形円弧片16は、
図2(b)に示すように、摺動層163、中間層162及び基台161の三層構造体をなしている。この三層構造体は、例えば、以下の様に形成する。すなわち、先ず平板状の三層構造体を成形して所定幅の素形材を成形し、次に、所定の円弧片形状になるように、両側縁部の傾斜面を形成するとともに基材161の裏面及び摺動層163の表面を弧状に成形する。摺動層163の表面(摺動面)は、水潤滑にかかる水皮膜が形成される部分であるから平滑であるのが好ましい。かかる観点から、微細なキズ、凹凸等であっても水皮膜の形成に悪影響を与えないようなものは許容される。三層構造体は、摺動層163、中間層162及び基台161を接着により成形することができる。位置決めプレート12に接する密閉形円弧片は、切欠け密閉形円弧片17(
図2(c))のように位置決めプレート12に接する側縁部に切欠け175を有するものが好ましい。この切欠けにより、摺動層163の端面部の浮き上がりを防止することができる。また、この切欠けは、水皮膜形成に好ましく、摺動層163の応力集中及び摩耗を防止する上で好ましい。
【0023】
基台161は、金属製又は樹脂製とすることができる。金属製の基台161として、例えば機械加工性がよく、耐食性のある銅合金を使用することができる。樹脂製の基台161として、繊維強化熱硬化性樹脂、例えば、炭素繊維強化フェノール樹脂を使用することができる。
【0024】
中間層162は、デュロメータ硬さ A50~90を有する弾性体が好ましい。例えば、デュロメータ硬さ A50~90の硬度を有するニトリルゴム(NBR)を使用することができる。中間層がゴムの場合は、三層構造体は加硫接着により成形するのがよい。これにより強固な接着構造体を成形することができる。本発明において、中間層162は重要な作用・機能を有している。以下に説明するように、中間層162は、推進軸からの負荷を均一化し、推進軸の摺動層163の摺動面における発熱を抑制し、密閉形円弧片16又は隙間形円弧片15の耐摩耗性及び耐久性を向上させる。
【0025】
また、密閉形円弧片16は円周上に均等に隙間なく配置されているので、中間層の弾性変形は推進軸の軸心から見て垂直方向に限定される。このため、摺動層と中間弾性層の接合面に対する剪断方向の変形が無い。そして、摺動層と中間弾性層の付着部分の劣化が抑制される。
【0026】
摺動層163は、低摩擦性、耐摩耗性、耐熱性の観点から分子中にふっ素原子(F)を含有する合成高分子化合物が好ましい。例えば、四フッ化エチレン(PTFE)樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合(FEP)樹脂、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合(PFA)樹脂等のフッ素系樹脂を使用することができる。または、ポリアミド樹脂又はフェノール樹脂を使用することができる。
【0027】
密閉形円弧片16の円弧片形状にかかる加工は以下のように行われる。例えば、
図1(a)に示す軸心Oを中心とする半径Rの円弧(成形円弧)を基に摺動層163の表面と基台161の裏面を曲面状に加工する。そして、密閉形円弧片16の両側縁部も相隣る密閉形円弧片16が相互に密接するように軸心Oを基に加工する。しかしながら、成形円弧の中心が軸心Oではなく、軸心O’を中心とする芯ずれ(半径R’)にして摺動層163の表面加工をすることができる。芯ずれは、摺動層163の推進軸による負荷を均一にするうえで好ましい。なお、芯ずれ加工は、シェル11自体の曲面加工による方法でもよい。この場合は芯ずれ加工を効率的に行うことができる。
【0028】
芯ずれは、推進軸径と軸受内径の間に所定のクリアランスを生ずることになるが、このクリアランスをシェル11の内周面側が小さくなるように配分する。例えば、軸受の内径が360~449mmの場合は、所定のクリアランスが0.8~1.3mmとされ、芯ずれは、Δ=0.53mmとする(
図1(a))。
【0029】
以上、シェル11の内周面に隙間形円弧片15と密閉形円弧片16を敷き詰めてなる軸受10(内張型軸受)について説明した。この軸受10は、大径の推進軸を支持する軸受として好ましい。また、必要に応じて、隙間形円弧片15又は密閉形円弧片16を容易に交換することができる点で好ましい。しかしながら、以下に説明する一体型の軸受(一体型軸受)は、軸受の効率的かつ経済的な成形が可能であり、特に小型の船舶の軸受として好ましい。
【0030】
この一体型軸受は、円筒状のシェルの内周面に、順に弾性体層と摺動層の二層からなる軸受材が固着されてなる船舶の推進軸を支持する軸受である。この軸受の摺動層は、前記シェルの内周面の下面側にあって垂直軸を対称軸とする中心角θが、θ=60°~180°の範囲の前記推進軸の負荷にかかる負荷作用部分と、その負荷作用部分に対向し、両端部に設けられる水冷溝を最初と最後として複数の所要の水冷溝が設けられてなる冷却作用部分とを有している。ここで、垂直軸とは、推進軸の重心方向に平行なシェルの横断面の対称軸をいう。
【0031】
図3に示すように、本一体型の軸受5は、円筒状のシェル1の内周面に、順に弾性体層2と摺動層3の二層からなる軸受材が固着されてなる。先ず、シェルの横断面の推進軸の重心方向に平行な対称軸を垂直軸BBとすると、本軸受5は、シェル1の内周面の下面側にあって垂直軸BBを対称軸とする中心角θが、θ=60°~180°の範囲の表面を有してなる負荷作用部分3aを有する。そして、本軸受5は、その負荷作用部分3aの両端部に設けられる水冷溝4を最初と最後として複数の所要の水冷溝4が設けられてなる冷却作用部分3bを有している。負荷作用部分3aは、水潤滑にかかる水皮膜が形成される部分であるから、密閉形円弧片16の摺動層163と同様に平滑であるのが好ましい。所要の水冷溝4は、例えば最初の水冷溝4と最後の水冷溝4の間を等間隔に設けることができる。
【0032】
本例の軸受5は、以下の様に成形することができる。先ず、シェル1及び中子を金型に装着し、中子に筒状の摺動層形成材を装着後、弾性体形成材を射出成形して軸受素材を成形する。そして、所定の範囲(360°-θ=180°~300°)に複数の水冷溝4を加工し冷却作用部分3bを形成し、軸受5を成形する。摺動層形成材は、上記隙間形円弧片15の摺動層163又は密閉形円弧片16の摺動層163と同一の材質とすることができる。弾性体形成材は、上記隙間形円弧片15の中間層152又は密閉形円弧片16の中間層162と同一の材質とすることができる。
【0033】
本軸受5は、軸受材が摺動層と弾性体層の二層構造を有し、中心角θ、θ=60°~180°の範囲に負荷作用部分3aを有することに特徴を有する。軸受は、一般に、軸心から下方部分で推進軸の負荷を受け、摺動層の摩耗は当該部分で生じている。このため、軸受5の推進軸の負荷を受ける負荷作用部分3aの大きさはどの程度必要であるかを試験した。摩耗試験結果を
図4に示す。
図4は、
図5に示す軸受内径60φ×長さ60(mm)の軸受を、
図6に示す摩耗試験機により摩耗試験を行い、試験後に軸受内径を測定した結果を示すグラフである。
図4のグラフに付記する数字は、水冷溝4の本数を示す。水冷溝の本数とは、
図5において、θ=180°は2本(接触面角度157.7°)、θ=120°は3本(接触面角度100°)、θ=90°は4本(接触面角度72.2°)である。なお、θ=60°は6本(接触面角度41.6°)、θ=45°は8本(接触面角度24.4°)である。水冷溝4のサイズは、深さ3mm×幅6mmであった。
【0034】
図6に示す摩耗試験機において、水槽の温度は20°Cに保持されており、水の強制対流は行っていない。軸受は、空圧シリンダにより持ち上げられ、推進軸のスリーブを介して軸受下方側に所定の負荷が掛けられるようになっている。スリーブは、所要のスリーブを推進軸に装着することができる。軸受内径変化量は、周速一定なじみ運転(周速1m/sを一定とし、面圧0.25MPaで24時間、さらに面圧0.50MPaで24時間、面圧1.00MPaで24時間の総計72時間の摩耗試験)を行った後に測定した。なお、軸受内径の測定は、摩耗試験終了後の軸受を室温(20°C)に6時間保持した後に行った。
【0035】
図4に示すグラフは、横軸が軸受の接触面角度(θ)、縦軸が軸受の内径変化量を示す。
図4によると、接触面角度が160°~80°の範囲は摩耗が緩やかに進行する。しかしながら、接触面角度が80°~40°の間に摩耗が急速に進行する接触面角度が存在するように解される。これは、接触面角度が160°~80°の範囲においては水皮膜が形成され、軸受は適正な水潤滑状態になっていると解される。一方、接触面角度が80°~40°の範囲のある接触面角度以上において水皮膜が不安定な状態又は破壊状態になり、適正な軸受の水潤滑が行われない状態になっていると解される。すなわち、中心角θ、θ=80°~180°の範囲に負荷作用部分3aを設けるのは好ましい。かかる特性は、内張型軸受(軸受10)についても同様に適用することができる。なお、軸受10は、位置決めプレート12を有しているので、この位置決めプレート12の配置及びサイズを考慮すると、好ましい接触面角度の範囲は、θ=80°~175°である。なお、以下に説明する試験・検討結果を総合的に判断すると、θ=60°~175°が好ましく、θ=80°~175°がより好ましい。
【0036】
上述のように、本軸受5は軸受材が摺動層と弾性体層の二層構造を有していることに特徴を有する。
図7~
図10に、この弾性体の作用・効果を示す。
図7は、軸受内径495mm、軸受長さ2000mmの軸受の摺動面部に生ずる面圧の構造解析値を示す。横軸は各断面位置を示し、プロペラ側の軸受端の横断面位置を0とし、船首側の軸受端横断面位置を2mとする。縦軸は面圧を示す。パラメータFRB(実線)は、軸受材が摺動層をフッ素樹脂(PTFE)、弾性体層をデュロメータ硬さ A70のニトリルゴム(NBR)の二層構造の軸受の場合を示す。RB(破線)は、軸受材が弾性体層(ニトリルゴム)の一層構造の軸受を示す。LB(一点鎖線)は、軸受材をリグナムバイタとする一層構造の軸受を示す。各軸受材の縦弾性係数は、FRBが50MPa、RBが10MPa、LBが2000MPaである。平均面圧(負荷荷重/軸受投影面積)は、0.18MPaであった。
【0037】
図7によると、LBの場合は、軸受の両端部に非常に高い面圧を生じており、断面0位置の面圧が最も高く0.8MPaである。中央部分の面圧は広範囲にゼロになっている。RBの場合は、面圧が最も均一化され、面圧は0.08MPa~0.28MPaの範囲になっている。FRBの場合はRBの場合と同等程度に面圧が均一になっている。しかしながら、FRBの場合は、面圧曲線が下に凸の形状をし、面圧は0.02MPa~0.4MPaの範囲にある。そしてFRBの場合は、RBの場合と比較すると面圧が軸受両端部でRBより高く、中央部でRBより低くなっている点で異なっている。FRBの場合は、面圧を均一にするという観点から弾性体層の硬度(デュロメータ硬さ A)は、50~90が好ましい。なお、以下に説明する軸受、例えばFRB16は上記FRBと同等の二層構造であって水冷溝数が16本の軸受を示す。FB16はフッ素樹脂のみ一層構造の軸受を示す。上記LBの例は、軸受FB16に適用することができる。
【0038】
図8及び9は、軸受内径60mm×軸受長さ60mmの軸受について周速と摩擦係数の関係を示すグラフである。
図10は、軸受内径60mm×軸受長さ190mmの軸受についてモデル運転試験中の軸部材(水冷溝下部の摺動層又は弾性体層)の温度測定結果を示すグラフである。軸受(
図8~10)の横断面は、
図5に示す軸受形状をしている。摩擦係数は、上記周速一定なじみ運転を行った後、各面圧(0.25MPa~1.00MPa)及び各周速(0.10m/s~4.00m/s)で所定時間(0.5h又は1h)の摩耗試験を行って求めた。摩耗試験は、
図6に示す摩耗試験機を使用した。水槽の温度は32°Cに保持した。
【0039】
図8において、横軸は周速を示し、縦軸は面圧が0.25MPaにおける摩擦係数を示す。パラメータFRB16、FRB8及びFRB2は、軸部材が二層構造で、水冷溝数がそれぞれ16本(接触面角度は12.7°)、8本(接触面角度は24.4°)、2本(接触面角度は157.7°)の軸受の場合を示す。FB16は軸部材が弾性体層を有しない一層構造で、水冷溝数が16本(接触面角度は12.7°)の場合を示す。
図8によると、FRB16、FRB8及びFRB2の摩擦係数曲線はほぼ同等で、周速が0.1m/s~1m/sの範囲で摩擦係数が急速に小さくなる。そして、摩擦係数曲線は周速1m/sにおいては0.005になり、それ以降は周速に関係なく一定値になる。一方、FB16の場合は、周速が0.1m/s~1m/sの範囲において摩擦係数が急速に小さくなるが、周速1m/sにおいて0.03である。そして、周速4m/sにおいてFRB16等の二層構造の軸受とほぼ同等(0.007)になっている。すなわち、弾性体層を有する二層構造の軸受の摩擦係数は、水冷溝数が2本の場合が最も小さいが、水冷溝数(2本~16本)に関わらずほぼ同等であることが分かる。そして、二層構造の軸受は、一層構造の軸受よりも小さい摩擦係数を有することが分かる。
【0040】
図8に示すように、摩擦係数が、周速とともに急速に小さくなり、一定の周速以上でほぼ一定になる傾向は、面圧が高くなっても同様な傾向を示す。
図9は、二層構造を有する軸受(FRB8)の各種面圧下における摩擦係数を示す。
図9によると、低面圧(0.25MPa)で低い摩擦係数を示し、高面圧(1.0Mpa)で高い摩擦係数を示す傾向がみられるが、面圧が異なることによる測定点のばらつきは小さいことが分かる。
【0041】
図10は、モデル運転の周速・面圧一定運転の各サイクルにおける軸受材の温度変化を示すグラフである。
図10(a)は、二層構造を有する軸受(FRB16)の軸受材の温度変化を示す。
図10(b)は一層構造の軸受(FB16)の軸受材の温度変化を示す。モデル運転とは、摩耗試験のスリーブ形状を調整することにより軸受両端部の面圧が0.8MPa、平均面圧が0.31MPaとなるように負荷をかけ、周速変化運転と周速・面圧一定運転とを1サイクルとし、これを繰り返す摩耗試験をいう。周速変化運転は、面圧(0.31MPa)を一定にし、0.4m/s×30min、0.6m/s×30min、1.0m/s×30min及び1.6m/s×30minと段階的に周速を上げて行う摩耗試験である。周速・面圧一定運転は、周速(0.6m/s)及び面圧(0.31MPa)で25時間行う摩耗試験である。図中に0~25h、25~50h・・と示す。本例の摩耗試験は、4サイクル行い(総計108時間)、さらに周速変化運転を2時間(総計110時間)行った。
【0042】
図10によると、FRB16の場合は軸受材の温度が36°C~40°Cの範囲でほぼ一定である。これに対し、FB16の場合は、温度が37°C~45°Cの範囲で高く、さらに温度変動が大きいことが分かる。特に、FB16の周速・面圧一定運転(25~50h)の場合の温度変動は大きくなっている。なお、周速変化運転においては、周速を増加すると水冷溝に流入する水量が増加して軸受材の温度が低下する傾向が見られる。かかる現象は、軸受FB16よりも軸受FRB16の場合が顕著であった。
【0043】
上記試験後に軸受FRB16と軸受FB16の摩耗量を測定した。軸受FB16の摩耗量は軸受FRB16の摩耗量の2.6倍であった。すなわち、二層構造を有する軸受FRB16は、一層構造を有する軸受FB16と比較すると、摺動層部分の面圧が均一であり、摩擦係数が小さい。そして、軸受FRB16は、稼働中の軸受材の温度が低く安定しており、摩耗量が少ないことが分かる。耐摩耗性は、軸受FRB16が軸受FB16よりも優れている。そして、かかる特徴は、上記の内張型軸受(軸受10)においても適用することができる。また、船舶の軸受の設計値は、一般に周速12m/s以下、面圧0.6MPa以下に設定されており、上記摩耗試験の結果は一般の船舶に適用できる。
【0044】
以上、本発明に係る軸受5又は軸受10は、シェル内周面に軸受材として耐摩耗性及び耐熱性に優れる摺動層3、153又は163と、推進軸からの負荷の均一化を図る弾性体層2、中間層152又は中間層162(弾性体層)を有している。そして、それらの軸受5又は軸受10の推進軸に接する内周面には、推進軸からの負荷を担う負荷作用部分3a又は密閉形円弧片が配設された部分(負荷作用部分)と、これらに対向して水冷溝4を有する冷却作用部分3b又は溝18を形成する溝形成部155を有する隙間形円弧片が配設された部分(冷却作用部分)とを有する。この負荷作用部分は、シェル内周面の中心角θ=60°~180°又は中心角θ=60°~175°に配設される。この範囲において、水皮膜が安定して形成され水潤滑が行われる。そして、軸受5又は10の所要の冷却が行われるように、冷却作用部分に所要の水冷溝4又は溝18が設けられる。水冷溝4又は溝18に供給される冷却水量Q(kg/hr)は、軸受内径をD(cm)とするとき、Q>k×D2、D=15~100(cm)の場合はk=4とするのがよい。Q=4×D2は、大型船舶(D=15~100)において実用上必要とされる冷却水量である。しかしながら、どの程度の冷却水量にするかは、船舶の特性や種類、所要ポンプのコスト等を勘案して決定される。そして、かかる冷却水量の給水に要する水冷溝4又は溝18のサイズ及び個数が決定される。本発明に係る軸受5又は軸受10は、従来の船舶の張出軸受のように推進軸の荷重負荷部分を強制的に冷却する円周溝や給水溝などを要せず、耐摩耗性、耐久性に優れている。また、軸受5又は軸受10は、張出軸受のみならず船尾管軸受にも使用することができる。
【0045】
また、本軸受5又は軸受10(本軸受)は、上記のようにその負荷作用部分において摺動面が平滑で弾性体層を含む二層構造を有しており、均一な応力状態にある。このため、本軸受は、以下に説明する
図11、
図12に示すように比較例のような周期的に生ずる異常な振動の発生を防止することができる。また、本軸受は、
図13に示すように水皮膜による水潤滑状態にあり、問題となるスティックスリップ現象の発生を防止することができる。スティックスリップ現象は低周速回転下に生じ易いとされ、低速モードで航行しソナーにより情報を得る海洋調査船や潜水艦において問題とされていたが、本軸受はかかる海洋調査船や潜水艦の推進軸用の軸受として好適に使用することができる。本軸受は、従来の軸受と異なり軸受下部の水冷溝を削除したこと、および、従来の一層構造の軸受と異なり弾性体層を含む二層構造にしたことの相乗効果により、軸受部で生ずる振動を大幅に低減することができるからである。
【0046】
図11は、軸を発明例(FRB2)と比較例(FRB16)の軸受により支持したときのFFT(fast fourier transform)アナライザによる振動解析試験の結果を示す。
図11において、横軸は周期(軸の1回転が0.47、2回転が0.94)、縦軸は振動の強度(m/s2)を示し、白抜き状部分が発明例の振動状態を示す。とげ状に張り出している部分が比較例の振動状態を示す。
図11によると、発明例は小さな安定した振動状態が観察される。一方、比較例は発明例の振動より強い一定幅の振動中に部分的に非常に強い振動が観察される。なお、比較例は、特許文献2又は3に記載の軸受に相当する。
【0047】
図12は、軸を発明例(FRB2)と比較例(FB2)の軸受により支持したときのFFTアナライザによる振動解析試験の結果を示す。
図12において、横軸は周期、縦軸は振動の強度を示し、微細なとげ状の黒線部分が発明例で、灰色部分が比較例である。FB2は、弾性体層のない一層構造で水冷溝数が2の軸受を示す。
図12によると、発明例は、0h~100hにおいて小さな安定した振動が観察される。一方、比較例は、0h~50hにおいて、発明例と同等の小さな安定した強さで振動しているが、75hの0.4回転近辺、100hの0.8回転近辺で強い振動が見られる。なお、比較例は、特許文献1に記載の軸受に相当する。
【0048】
軸受5において、接触面角度又は周速が水膜圧強さにどのような影響を与えるかについて、接触問題解析ソフトTED/CPA(Tribology Engineering Dynamics / Contact Problem Analyzer)により解析した。解析結果を
図13に示す。解析条件は、軸受の内径×長さを550φ×1100(mm)、軸受面圧を0.5MPa、周速をそれぞれ0.4、1、2、4(m/s)とした。表1に、接触面角度と溝数の関係を示す。
【0049】
【0050】
図13は、横軸が接触面角度、縦軸が水膜圧強さを示し、パラメータは周速である。
図13によると、水膜圧強さは、接触面角度が0°~20°において一定であるが、20°~40°において急速に増大している。しかしながら、水膜圧強さの接触面角度に対する増大量は、40°~60°において次第に減少し、60°を越えると急速に減少している。そして、80°以上になると、水膜圧強さは接触面角度に対してほぼ一定状態になる。すなわち、水膜圧強さ曲線は、接触面角度が0°~20°の直線部分から20°~80°の彎曲部分を経て80°以上の一段上の直線部分からなる階段状をしている。
【0051】
上記水膜圧強さ曲線が彎曲状を示す部分の水膜圧強さと周速との関係を
図14に示す。
図14は、横軸が周速、縦軸が水膜圧強さを示し、パラメータは接触面角度である。
図14によると、接触面角度22.5~80.3°のいずれの水膜圧強さ曲線もほぼ直線状であり、水膜圧強さは周速に対して比例している。そして、接触面角度が56.7°と80.3°の水膜圧強さ曲線はほとんど重複している。接触面角度が41.7°の水膜圧強さ曲線は、その勾配が接触面角度80.3°の水膜圧強さ曲線の0.8倍になっている。接触面角度が41.7°の水膜圧強さ曲線は、その勾配が接触面角度80.3°の水膜圧強さ曲線の0.25倍になっている。上記
図13~
図14の結果と考察、及び上述の
図4に示す摩耗試験の結果と考察を考慮すると、本発明に係る軸受においては、負荷作用部分3aの中心角θは、θ=60°~180°の範囲が好ましく、θ=80°~180°の範囲はより好ましいと解される。なお、船舶の周速は、通常走行において周速2~4m/sである。周速4m/sは高速走行に相当し、周速0.4m/sは港内走行に相当する。
【0052】
以上、本発明に係る軸受について説明した。本発明に係る軸受は、平滑な表面を有し耐摩耗性及び耐熱性に優れた材質からなる摺動層と、推進軸からの負荷を均一化することができる弾性体層を有しており、低摩擦性、耐摩耗性、耐久性に優れている。そして、本発明は、支持している推進軸の重さによる変形や推進軸の回転により物理的な応力を多く受ける軸受下面側において、水冷溝を排除することで水又は海水と中間弾性層の接触を極少化し、水又は海水による高アルカリ環境又は硫化水素環境による中間弾性層への化学的浸食を抑制し、軸受の耐久性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 シェル
2 弾性体層
3 摺動層
4 水冷溝
5 軸受
10 軸受
11 シェル
12 位置決めプレート
15 隙間形円弧片
151 基台
152 中間層
153 摺動層
155 溝形成部
16 密閉形円弧片
161 基台
162 中間層
163 摺動層
17 切欠け密閉形円弧片
18 溝
19 半溝