IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アサカ理研の特許一覧

<>
  • 特許-廃リチウムイオン電池の処理方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】廃リチウムイオン電池の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/02 20060101AFI20230906BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20230906BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20230906BHJP
   B02C 18/00 20060101ALN20230906BHJP
【FI】
C22B1/02
C22B7/00 C
H01M10/54
B02C18/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022576685
(86)(22)【出願日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2022001557
(87)【国際公開番号】W WO2022158441
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2021006860
(32)【優先日】2021-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391023415
【氏名又は名称】株式会社アサカ理研
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】平岡 太郎
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-034254(JP,A)
【文献】特許第5703884(JP,B2)
【文献】特開2005-042189(JP,A)
【文献】特開2011-094227(JP,A)
【文献】特開2013-004299(JP,A)
【文献】特開2019-153533(JP,A)
【文献】特開2021-015795(JP,A)
【文献】特開2015-002107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃リチウムイオン電池を粉砕した後、電解液が乾燥蒸発する温度以上であってフッ素樹脂が熱分解する温度未満の範囲の温度で、空気雰囲気、不活性ガス雰囲気、又は真空雰囲気下で加熱処理することを特徴とする廃リチウムイオン電池の処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の廃リチウムイオン電池の処理方法において、前記廃リチウムイオン電池を前記加熱処理後に粉砕して電池粉末を得ることを特徴とする廃リチウムイオン電池の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2項記載の廃リチウムイオン電池の処理方法において、前記加熱処理は、100~450℃の範囲の温度で行うことを特徴とする廃リチウムイオン電池の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃リチウムイオン電池の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等のリチウムを含む複合酸化物を正極活物質とするリチウムイオン電池が知られている。近年、リチウムイオン電池の普及に伴い、廃リチウムイオン電池からリチウム、マンガン、ニッケル、コバルト等の有価金属を回収し、前記正極活物質として再利用する方法が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
前記リチウムイオン電池は、例えば、アルミニウム等の筐体に、正極と、負極と、両極間に配設されたセパレータとが、電解液と共に収容されている。ここで、前記正極又は負極は、それぞれアルミニウム箔等の集電体に正極活物質又は負極活物質がポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂をバインダとして塗布されて形成されており、前記セパレータにはポリオレフィンからなるものが用いられている。
【0004】
前記廃リチウムイオン電池から前記有価金属を回収する際には、該廃リチウムイオン電池を加熱処理(焙焼)して得られた前記有価金属を含む粉末((以下、電池粉末という)を塩酸、硫酸等の酸溶液に溶解し、溶媒抽出に供することが行われており、特許文献1には、前記加熱処理を550~650℃の範囲の温度で行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-36490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記廃リチウムイオン電池の熱処理を550~650℃の範囲の温度で行うと、前記バインダに用いられているフッ素樹脂の熱分解により生成したフッ素が前記電池粉末に混入すると同時に、熱処理時の排ガス中に分解したフッ素が混入するという不都合がある。フッ素が混入した前記電池粉末を酸溶液に溶解すると、フッ素が溶出し、溶出したフッ素の排水処理及びフッ素が混入した排ガス処理が必要になる。
【0007】
本発明は、かかる不都合を解消して、熱分解により生成するフッ素を含まない電池粉末を得ることができ、かつ熱処理時の排ガス処理を必要としない、また電池粉末を溶解した際にフッ素の溶出を限りなく抑制することができる廃リチウムイオン電池の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明の廃リチウムイオン電池の処理方法は、廃リチウムイオン電池を、電解液が乾燥蒸発する温度以上であってフッ素樹脂が熱分解する温度未満の範囲の温度で、空気雰囲気、不活性ガス雰囲気、又は真空雰囲気下で加熱処理することを特徴とする。
【0009】
本発明の廃リチウムイオン電池の処理方法によれば、廃リチウムイオン電池を前記範囲の温度で加熱処理することにより、前記電解液を蒸発させて除去することができる一方、前記バインダ、セパレータ等に用いられているフッ素樹脂が熱分解されることがないので、酸で溶解するときにフッ素が溶出しない電池粉末を得ることができる。
【0010】
本発明の廃リチウムイオン電池の処理方法では、前記廃リチウムイオン電池を前記加熱処理後に粉砕して電池粉末を得るようにしてもよく、前記廃リチウムイオン電池を粉砕した後に前記加熱処理を行って電池粉末を得るようにしてもよい。
【0011】
本発明の廃リチウムイオン電池の処理方法において、前記加熱処理は、100~450℃の範囲の温度で行うことが好ましい。前記加熱処理は、100℃未満の温度で行うと、前記電解液を乾燥蒸発させることができないことがあり、450℃超の温度で行うと前記フッ素樹脂が熱分解される虞がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の廃リチウムイオン電池の処理方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0014】
本実施形態の廃リチウムイオン電池の処理方法において、前記廃リチウムイオン電池とは、電池製品としての寿命の消尽した使用済みのリチウムイオン電池、製造工程で不良品等として廃棄されたリチウムイオン電池、製造工程において製品化に用いられた残余の正極材料等を意味する。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の廃リチウムイオン電池の処理方法では、前記廃リチウムイオン電池が電池製品としての寿命の消尽した使用済みのリチウムイオン電池、製造工程で不良品等として廃棄されたリチウムイオン電池である場合には、まず、STEP1で放電処理を行い、残留している電荷を全て放電させる。前記放電処理は例えば塩水中で行うことができる。
【0016】
次いで、STEP2で前記廃リチウムイオン電池の筐体に開口部を形成した後、STEP3で加熱処理(焙焼)を行う。前記加熱処理(焙焼)は、電解液が乾燥蒸発する温度以上であってフッ素樹脂が熱分解する温度未満の範囲の温度、好ましくは100~450℃の範囲の温度で行う。前記廃リチウムイオン電池の筐体に開口部を形成しておくことにより、前記加熱処理の際に前記電解液の蒸発気化により該筐体が爆発(破裂)することを防止することができる。
【0017】
そして、前記加熱処理後、STEP4で廃リチウムイオン電池を粉砕し、STEP5で前記筐体、集電体等を篩分けにより除去して、有価金属を含む粉末である電池粉末を得る。前記粉砕は、ハンマーミル、ジョークラッシャー等の粉砕機で行うことができる。
【0018】
あるいは、前記STEP2の筐体に開口部を形成する操作を行わずに、STEP4,5を行った後、STEP3を行ってもよい。すなわち、前記STEP1の放電処理後の前記廃リチウムイオン電池を前記粉砕機で粉砕(STEP4)し、前記筐体、集電体等を篩分け(STEP5)により除去した後、前記範囲の温度で加熱処理(STEP3)することにより、前記電池粉末を得るようにしてもよい。
【0019】
また、本実施形態の廃リチウムイオン電池の処理方法では、前記廃リチウムイオン電池が、製造工程において製品化に用いられた残余の正極材料等である場合には、前記放電処理(STEP1)及び開口部の形成(STEP2)を行うことなく、前記範囲の温度で加熱処理(STEP3)した後に前記粉砕機で粉砕(STEP4)し、集電体等を篩分け(STEP5)により除去して前記電池粉末を得るようにしてもよい。また、製造工程において製品化に用いられた残余の正極材料等である前記廃リチウムイオン電池を、前記粉砕機で粉砕(STEP4)し、集電体等を篩分け(STEP5)により除去した後に前記範囲の温度で加熱処理(STEP3)して前記電池粉末を得るようにしてもよい。
【0020】
本実施形態では、前記加熱処理を前記範囲の温度で行うことにより、フッ素を含まない電池粉末を得ることができる。前記加熱処理は、100~350℃の範囲の温度で行うことがより好ましく、150~250℃の範囲の温度で行うことがさらに好ましい。
【0021】
また、前記加熱処理は、例えば、電気炉中、空気雰囲気、不活性ガス雰囲気、真空雰囲気のいずれかの雰囲気で、0.5~24時間の範囲の時間で行うことができる。
【0022】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例
【0023】
〔実施例〕
本実施例では、廃リチウムイオン電池として、電池製品としての寿命の消尽した使用済みのリチウムイオン電池を塩水中で放電処理(STEP1)し、筐体に開口部を形成(STEP2)した後、電気炉中、不活性ガス雰囲気下で、150℃の温度に4時間保持して加熱処理(STEP3)を行った。前記加熱処理における排ガスからフッ素は検出されず、加熱処理後の臭気の残留も無かった。
【0024】
次に、前記加熱処理後の前記廃リチウムイオン電池をハンマーミルにより粉砕(STEP4)し、筐体、集電体等を篩分け(STEP5)により除去して、電池粉末を得た。
【0025】
次に、前記電池粉末を酸溶液としての塩酸に溶解して酸溶液を得た。そして、該電池粉末に含有される量に対するリチウム、マンガン、ニッケル、コバルト、フッ素の前記酸溶液への溶出率を測定したところ、リチウム、マンガン、ニッケル、コバルトの溶出量は98%以上であるのに対し、フッ素の溶出量は0.01%未満であった。また、前記酸溶液中のフッ素は2mg/L未満であった。
【0026】
〔比較例〕
本比較例では、廃リチウムイオン電池を電気炉中、600℃の温度に保持して加熱処理(焙焼)を行った以外は、実施例と全く同一にして、電池粉末を得た。前記加熱処理における排ガスからは0.5mg/Lのフッ素が検出されたが、加熱処理後の臭気の残留は無かった。
【0027】
次に、前記電池粉末を酸溶液としての塩酸に溶解して酸溶液を得た。そして、前記電池粉末に含有される量に対するリチウム、マンガン、ニッケル、コバルト、フッ素の前記酸溶液への溶出率を測定したところ、リチウム、マンガン、ニッケル、コバルトの溶出量は98%以上であり、フッ素の溶出量は0.10%であった。また、前記酸溶液中のフッ素は45mg/Lであった。
【0028】
以上から、廃リチウムイオン電池を、電解液が乾燥蒸発する温度以上であってフッ素樹脂が熱分解する温度未満の範囲の温度である150℃の温度で加熱処理する実施例の方法によれば、実質的にフッ素を含まない電池粉末を得ることができることが明らかである。一方、廃リチウムイオン電池を、フッ素樹脂が熱分解する温度以上の600℃の温度で加熱処理する比較例の方法によれば、電池粉末にフッ素が含まれることが明らかである。
【符号の説明】
【0029】
なし。
図1