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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】ガス分析装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20230906BHJP
   H01J 49/00 20060101ALI20230906BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
G01N27/62 E
H01J49/00 360
H01J49/04 220
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022578402
(86)(22)【出願日】2022-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2022002616
(87)【国際公開番号】W WO2022163635
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2021013409
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509339821
【氏名又は名称】アトナープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直樹
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-130584(JP,A)
【文献】国際公開第2019/016851(WO,A1)
【文献】特表2005-512274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
H01J 49/00 - H01J 49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス分析装置の制御方法であって、
当該ガス分析装置は、サンプルガスのイオン流を生成するイオン化装置と、
前記イオン化装置から供給される前記イオン流を連続または断続的に分析する分析計と、
前記イオン化装置の出口から前記分析計の入口に対し前記イオン流を非直線的に導く遮光性能を備えた第1のイオン経路と、
前記第1のイオン経路を介して前記分析計の質量フィルターに至る前記イオン流の経路の少なくとも一部の経路における前記イオン流を電場または磁場により断続的に阻止および解放する阻止装置とを有し、
当該方法は、
前記第1のイオン経路による遮光性能と共に、前記阻止装置により前記イオン流の通過が阻止された状態で前記分析計の前記質量フィルターにより検出対象の質量電荷比を含む第1の検出データを取得することと、
前記第1のイオン経路による遮光性能と共に、前記阻止装置により前記イオン流の通過が解放された状態で前記分析計の前記質量フィルターにより前記検出対象の質量電荷比を含む第2の検出データを取得することと、
前記第2の検出データと前記第1の検出データとの差分を含む検出結果を出力することとを有する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記第1の検出データおよび前記第2の検出データはスペクトルデータを含む、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、
前記阻止装置は、イオン流を非直線で導くエネルギーフィルターを含み、
前記第1の検出データを取得することは、前記エネルギーフィルターに全てのエネルギーのイオンが通過を阻止する電位を設定することを含み、
前記第2の検出データを取得することは、前記エネルギーフィルターを所定のエネルギーのイオンが通過する電位に設定することを含む、方法。
【請求項4】
サンプルガスのイオン流を生成するイオン化装置と、
前記イオン化装置から供給されるイオン流を連続または断続的に分析する分析計と、
前記イオン化装置の出口から前記分析計の入口に対し前記イオン流を非直線的に導く遮光性能を備えた第1のイオン経路と、
前記第1のイオン経路を介して前記分析計の質量フィルターに至る前記イオン流の経路の少なくとも一部の経路における前記イオン流を電場または磁場により断続的に阻止および解放する阻止装置と、
当該ガス分析装置を制御する制御装置とを有し、
前記制御装置は、前記第1のイオン経路による遮光性能と共に、前記阻止装置により前記イオン流の通過が阻止された状態で前記分析計の前記質量フィルターにより検出対象の質量電荷比を含む第1の検出データを取得する第1の機能と、
前記第1のイオン経路による遮光性能と共に、前記阻止装置により前記イオン流の通過が解放された状態で前記分析計の前記質量フィルターにより前記検出対象の質量電荷比を含む第2の検出データを取得する第2の機能と、
前記第2の検出データと前記第1の検出データとの差分を含む検出結果を出力する第3の機能とを含む、ガス分析装置。
【請求項5】
請求項4に記載のガス分析装置において、
前記イオン化装置は、前記サンプルガスをプラズマイオン化する装置を含む、ガス分析装置。
【請求項6】
請求項5に記載のガス分析装置において、
前記イオン化装置は、誘電性の壁体構造を含み、減圧されたサンプルチャンバーであって、監視対象のプロセスから前記サンプルガスが流入するサンプルチャンバーと、
前記誘電性の壁体構造を介して電場および磁場の少なくともいずれかにより前記サンプルチャンバー内でプラズマを生成する高周波供給装置と、
前記高周波供給装置より供給される高周波の周波数および電力を制御するプラズマコントローラとを含み、
前記第1のイオン経路は、前記サンプルチャンバーの出口と前記分析計の入口と接続する経路を含む、ガス分析装置。
【請求項7】
請求項6に記載のガス分析装置において、
前記プラズマコントローラは、前記高周波供給装置により供給される高周波の周波数を変化させて前記サンプルチャンバー内でプラズマを点火する機能を含む、ガス分析装置。
【請求項8】
請求項4ないし7のいずれか1項に記載のガス分析装置において、
前記阻止装置は、阻止電位発生装置およびエネルギーフィルターのいずれかを含む、ガス分析装置。
【請求項9】
請求項4ないし7のいずれか1項に記載のガス分析装置において、
前記阻止装置は、イオン流を非直線で導くエネルギーフィルターを含み、
前記第1の機能は、前記エネルギーフィルターに全てのエネルギーのイオンが通過を阻止する電位を設定し、
前記第2の機能は、前記エネルギーフィルターを所定のエネルギーのイオンが通過する電位に設定する、ガス分析装置。
【請求項10】
サンプルガスのイオン流を生成するイオン化装置と、
前記イオン化装置から供給されるイオン流を連続または断続的に分析する分析計と、
前記イオン化装置の出口から前記分析計の入口に対し前記イオン流を非直線的に導く遮光性能を備えた第1のイオン経路と、
前記第1のイオン経路を介して前記分析計の質量フィルターに至る前記イオン流の経路の少なくとも一部の経路における前記イオン流を電場または磁場により断続的に阻止および解放する阻止装置とを有するガス分析装置と、
前記ガス分析装置を制御するプログラムを実行する制御装置とを有するシステムにおいて、
前記制御するプログラムは、前記第1のイオン経路による遮光性能と共に、前記阻止装置により前記イオン流の通過が阻止された状態で前記分析計の前記質量フィルターにより検出対象の質量電荷比を含む第1の検出データを取得することと、
前記第1のイオン経路による遮光性能と共に、前記阻止装置により前記イオンの通過が解放された状態で前記分析計の前記質量フィルターにより前記検出対象の質量電荷比を含む第2の検出データを取得することと、
前記第2の検出データと前記第1の検出データとの差分を含む検出結果を出力することとを実行する命令を含む、システム。
【請求項11】
請求項10に記載のシステムにおいて、
前記阻止装置は、イオン流を非直線で導くエネルギーフィルターを含み、
前記第1の検出データを取得することは、前記エネルギーフィルターに全てのエネルギーのイオンが通過を阻止する電位を設定することを含み、
前記第2の検出データを取得することは、前記エネルギーフィルターを所定のエネルギーのイオンが通過する電位に設定することを含む、システム。
【請求項12】
サンプルガスのイオン流を生成するイオン化装置と、
前記イオン化装置から供給されるイオン流を連続または断続的に分析する分析計と、
前記イオン化装置の出口から前記分析計の入口に対し前記イオン流を非直線的に導く遮光性能を備えた第1のイオン経路と、
前記第1のイオン経路を介して前記分析計の質量フィルターに至る前記イオン流の経路の少なくとも一部の経路における前記イオン流を電場または磁場により断続的に阻止および解放する阻止装置とを有するガス分析装置の制御用のプログラムであって、
前記第1のイオン経路による遮光性能と共に、前記阻止装置により前記イオン流の通過が阻止された状態で前記分析計の前記質量フィルターにより検出対象の質量電荷比を含む第1の検出データを取得することと、
前記第1のイオン経路による遮光性能と共に、前記阻止装置により前記イオンの通過が解放された状態で前記分析計の前記質量フィルターにより前記検出対象の質量電荷比を含む第2の検出データを取得することと、
前記第2の検出データと前記第1の検出データとの差分を含む検出結果を出力することとを実行する命令を有する、プログラム。
【請求項13】
請求項12に記載のプログラムにおいて、
前記阻止装置は、イオン流を非直線で導くエネルギーフィルターを含み、
前記第1の検出データを取得することは、前記エネルギーフィルターに全てのエネルギーのイオンが通過を阻止する電位を設定することを含み、
前記第2の検出データを取得することは、前記エネルギーフィルターを所定のエネルギーのイオンが通過する電位に設定することを含む、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分析装置およびその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本国特開1996-7829号には、プラズマ質量分析装置のイオン偏向レンズの構成を簡単にし、調整を容易にすることが記載されている。そのため、ノズルからのイオンの出射方向に対して略垂直に設けた第1及び第2電極板の間に、端面を斜めに切断した円筒状の中間電極を設け、各電極に直流電圧を印加する。両電場が傾斜し、イオンは両電場により偏向される。一方、プラズマ光は直進するため、第2電極板により遮蔽される。
【発明の開示】
【0003】
サンプルガスをイオン化してサンプルガスに含まれる成分を検出する分析装置においてノイズを低減するとともに、ノイズが低減された検出結果を提供できるソフトウェア(制御方法、測定方法)、およびそのソフトウェアに適したハードウェアの提供が要望されている。
【0004】
本発明の一態様は、サンプルガスのイオン流を生成するイオン化装置と、イオン化装置から供給されるイオン流を連続または断続的に分析する分析計と、イオン化装置から分析計の入口に対しイオン流を非直線的に導く第1のイオン経路と、第1のイオン経路を介して分析計の質量フィルターに至るイオン流の経路の少なくとも一部の経路におけるイオン流を電場または磁場により断続的に阻止および解放する阻止装置とを有し、イオン流が阻止された状態とイオン流が阻止されていない状態との測定を可能とするガス分析装置である。イオン化装置は、サンプルガスをプラズマイオン化する装置を含んでもよく、阻止装置は、阻止電位発生装置およびエネルギーフィルターのいずれかを含んでもよい。
【0005】
このガス分析装置においては以下の制御方法を採用することが可能であり、イオン化装置からの光の影響および他のノイズの影響を抑制した精度の高い測定が可能となる。この制御方法は、以下のステップを含む。
1.阻止装置によりイオン流の通過が阻止された状態で分析計により第1の検出データを取得すること。
2.阻止装置によりイオン流の通過が阻止されていない状態、すなわちイオン流の通過が解放された状態で分析計により第2の検出データを取得すること。
3.第2の検出データと第1の検出データとの差分を含む検出結果を出力すること。第1の検出データおよび第2の検出データはスペクトルデータを含んでもよい。
【0006】
イオン化の際に発生する光は直線的に進むのに対し、第1の経路によりイオン流を非直線的に導く(曲がるように、屈曲するように導く)ことにより、分析計においてノイズとなる光の影響を抑制でき、分析精度を向上できる。しかしながら、第1の経路では、イオン流を導くために、光を完全に遮断(遮光)することは不可能であり、漏光あるいは迷光などによりイオン化の際に発生する光の一部が分析計に到達し、測定結果に影響を与えるノイズの要因となる可能性がある。本発明においては、ノイズを低減するために遮光性能をさらに高める代わりに、あるいはそれとともに、イオン流を阻止(遮断)した状態でバックグラウンドの測定結果(第1の検出データ)を取得し、イオン流を積極的には阻止しない状態の第2の検出データとを差分を得ることにより、ノイズ成分がさらに低減された、精度の高い測定結果を取得できるようにする。
【0007】
ガス分析装置は、当該ガス分析装置を制御する制御装置を有し、制御装置は、阻止装置によりイオン流の通過が阻止された状態で分析計により第1の検出データを取得する第1の機能と、阻止装置によりイオン流の通過が解放された状態で分析計により第2の検出データを取得する第2の機能と、第2の検出データと第1の検出データとの差分を含む検出結果を出力する第3の機能とを含んでもよい。
【0008】
典型的には、制御装置はプログラムを実行する装置であり、制御するプログラムは、阻止装置によりイオン流の通過が阻止された状態で分析計により第1の検出データを取得することと、阻止装置によりイオン流の通過が解放された状態で分析計により第2の検出データを取得することと、第2の検出データと第1の検出データとの差分を含む検出結果を出力することとを実行する命令を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ガス分析装置の一例の外観を示す斜視図であり、図1(a)は右前方、図1(b)は左前方を示す。
図2】ガス分析装置のハウジングを展開して内部の概略構成を示す斜視図。
図3】ガス分析装置の概略構成を示すブロック図。
図4】ガス分析装置により得られるデータのいくつかの例を示す図。
図5】ガス分析装置の制御方法の概要を示すフローチャート。
図6】ガス分析装置の他の例の概略構成を示す図。
【発明の実施の形態】
【0010】
図1(a)および図1(b)に、ガス分析装置の外観を右前方および左前方から見た様子を示している。このガス分析装置1は、イオン化装置(イオン源)としてマイクロプラズマ生成装置と電子衝撃(EI)イオン源とを備えたハイブリッドタイプである。ガス分析装置1のサイズおよび重量の一例は、長さ400mm、幅297mm、高さ341mm、重さ15kgであり、24VDC(350W)の電力の供給を受けて動作する。ガス分析装置1は、プラズマ生成用のサンプルインレット3aと、EIイオン化用のサンプルインレット3bとを含み、側面にデータ入出力用のいくつかのポート4を含む。
【0011】
図2に、ガス分析装置1の上部ハウジング2aおよび側面パネル2bを外した状態を示している。ガス分析装置1は、モニタリング対象のプロセスから供給された測定対象のサンプルガス(サンプリングガス、ガスサンプル)をイオン化するイオン化ユニット(イオン生成ユニット)10と、生成されたイオン(イオン流)を介してサンプルガスを分析する分析ユニット(分析計)20と、分析ユニット20の制御モジュール30と、ガス分析装置1を制御して測定データを出力するシステムコントローラ(プルグラマブルロジックコントローラー、PLC)50と、排気システム60とを含む。
【0012】
図3に、ガス分析装置1を含むシステムの一例として、プロセスモニター100の概略構成を示している。ガス分析装置1は、モニタリング対象のプラズマプロセスが実施されるプロセスチャンバー101から供給されるサンプルガス9を分析する。プロセスチャンバー101において実施されるプラズマプロセスは、典型的には、様々な種類の膜あるいは層を基板の上に生成する工程や、基板をエッチングする工程であり、CVD(化学蒸着、Chemical Vapor Deposition)またはPVD(物理蒸着、Physical Vapor Deposition)を含む。プラズマプロセスは、レンズ、フィルターなどの光学部品を基板として様々な種類の薄膜を積層するプロセスであってもよい。
【0013】
例えば、半導体においては、近年では、記憶容量の増大、ロジック速度の向上、低電力化などの要求から、半導体チップ構造が三次元化している。このため、半導体プロセス制御では、プロセスがさらに複雑になり、原子レベルの品質が求められ、計測モニタコストが増大することが課題となっている。プロセスマッチング、成膜時の遷移点計測、エッチングのエンドポイントの検出には反応物や副生成物を含むガスの監視が重要であり、現在標準的に採用されているプラズマ発光計測(Optical Emission Spectroscopy、OES)では、総合的にプロセスをモニターすることは難しいとされている。一方で、通常の熱フィラメントを採用したイオン源の残留ガス分析計、質量分析計では、半導体ガスによるダメージによる寿命が問題となる。
【0014】
本例のガス分析装置1を用いたプロセスモニターシステム100においては、過酷な環境下においてもリアルタイムモニタを行い、信頼性の高い測定結果を提供することで革新的なプロセス制御を提供できる。ガス分析装置1は、半導体チップ製造におけるスループットを劇的に向上させ、歩留まり率を最大化することを目的に開発されたトータルソリューションプラットホームとして機能する。上記のように、本例のガス分析装置1は、設置面積が非常に小さいことから、チャンバー101に直接接続して現場で使用することが可能である。また、現在、半導体製造プロセス装置で主に取り入れられている標準的なプロトコル、例えば、イーサーキャット(Either CAT)プロトコルをPLC50に搭載することができ、プロセス機器制御システム100に統合することが可能である。
【0015】
ガス分析装置1は、サンプルガス9のイオン(イオン流)17を生成するイオン化装置10と、イオン化装置10から供給されるイオン17を分析する分析計(分析ユニット)20とを含む。イオン化装置10は、プロセスからサンプル入力3aを介して供給される測定対象のサンプルガス9のプラズマ(マイクロプラズマ)19を生成してイオン流17として分析ユニット20へ供給するプラズマ生成ユニット(プラズマ生成装置)11を含む。プラズマ生成ユニット11は、誘電性の壁体構造12aを備え、測定対象のサンプルガス9が流入するチャンバー(サンプルチャンバー)12と、誘電性の壁体構造12aを介して高周波電場および/または磁場により、減圧されたサンプルチャンバー12内でプラズマ19を生成する高周波供給装置(RF供給機構)13と、高周波の周波数および電力を制御するプラズマコントローラ16とを含む。
【0016】
本例のガス分析装置1は、プロセス100から供給されるサンプルガス9を連続して、または短い周期で断続的に分析することができる質量分析型の分析装置である。分析ユニット20は、イオン化されたサンプルガス(サンプルガスイオン)の流れ(イオン流)17を質量電荷比によりフィルタリングするフィルターユニット(質量フィルター、本例においては四重極部)25と、フィルタリングされたイオンを検出するディテクタユニット26とを含む。ガス分析装置1は、さらに、フィルターユニット25およびディテクタユニット26を収納した真空容器(ハウジング)40と、ハウジング40の内部を適当な負圧条件(真空条件)に維持する排気システム60を含む。本例の排気システム60は、ターボモレキュラポンプ(TMP)61と、ルーツポンプ(吸引段、Drag stage)62とを含む。排気システム60は、プラズマ生成装置11のサンプルチャンバー12の内圧も制御するスプリットフロータイプである。排気システム60の多段のTMP61のうち、チャンバー12の内圧に適した負圧となる段、またはルーツポンプ62の入力がチャンバー12と連通し、チャンバー12の内圧が制御されるようになっている。
【0017】
本例の質量フィルター25は、質量電荷比によるフィルタリング用の双曲電場を形成するために内側が双曲面に仕上げられた4本の円筒または円柱状の電極(ハイパークアッド、HyperQuad)25aを含む。四重極タイプの質量フィルター25は、複数の疑似双曲電場を形成するように多数、例えば9本の円柱状の電極を、マトリクス(アレイ)を形成するように配置したものであってもよい。ディテクタユニット26は、ファラデーカップ(FC、Faraday Cap)と二次電子増倍器(SEM、Secondary Electron Multiplier)とを含み、これらを組み合わせて、または、切り替えて使用することができる。ディテクタユニット26は、チャンネル型二次電子増倍器(CEM、Channel Electron Multiplier)、マイクロチャンネルプレート(MP、Microchannel Plate)などの他のタイプであってもよい。
【0018】
本例のプラズマ生成ユニット11は、ハウジング40の内部に一体に組み込まれたプラズマ生成用のサンプルチャンバー12を含む。チャンバー12の外郭はハステロイ製であり、内部に絶縁された円筒電極が挿入され、その内部でプラズマ19が生成される。減圧されたサンプルチャンバー12には、監視対象のプロセスチャンバー101からサンプル入力3aを介してサンプルガス9のみが流入し、サンプルチャンバー12の内部でプラズマ(マイクロプラズマ)19が形成される。すなわち、プラズマ生成ユニット11においては、アルゴンガスなどのアシストガス(サポートガス)は用いられずに、サンプルガス9のみにより分析用のプラズマ19が生成される。サンプルチャンバー12の壁体12aは誘電性の部材(誘電体)から構成されており、その一例は、石英(Quartz)、酸化アルミニウム(Al)および窒化ケイ素(SiN)などのプラズマに対して耐久性が高い誘電体である。
【0019】
プラズマ生成ユニット11のプラズマ生成する装置(RF供給機構)13は、サンプルチャンバー12の内部で、プラズマトーチを用いずに、誘電性の壁体構造12aを介して電場および/または磁場によりプラズマ19を生成する。RF供給機構13の一例は高周波(RF、Radio Frequency)電力でプラズマ19を励起する機構である。RF供給機構13の例としては、誘電結合プラズマ(ICP、Inductively Coupled Plasma)、誘電体バリア放電(DBD、Dielectric Barrier Discharge)、電子サイクロトロン共鳴(ECR、Electron Cyclotron Resonance)などの方式を挙げることができる。これらの方式でプラズマを生成するRF供給装置13は、高周波電源と、RF場形成ユニットとを含んでもよい。RF場形成ユニットの典型的なものは、サンプルチャンバー12に沿って配置されたコイルを含む。
【0020】
本例のプラズマ生成ユニット11のプラズマコントローラ16は、RF供給装置13により供給されるRF場の周波数を調整して(マッチングさせて)プラズマを維持するマッチング制御ユニット16aと、マッチングの状態のRF周波数を変化させて点火する機能(点火ユニット)16bとを含む。点火ユニット16bは、例えば、マッチング周波数よりも高い周波数で高パワーの高周波電力をパルス状に短時間、例えば10ms程度投入することでプラズマを、RF供給装置13を用いて点火できる。このため、従来のグロー放電用の電極を設けたり、圧電素子などの高電圧刺激を与える機構を設けたりしなくても容易にプラズマを点火できる。プラズマが点火した後は、RF供給装置13を定常動作状態に移行することでプラズマを生成して維持できる。なお、プラズマ生成ユニット11は、アルゴンガスなどのアシストガスによる誘導結合プラズマ(ICP)を形成しサンプルガスを導入してイオン化するタイプであってもよい。
【0021】
本例のサンプルチャンバー12の内圧は、プラズマが生成しやすい圧力、例えば、0.01-1kPaの範囲であってもよい。プロセスチャンバー101の内圧が1-数100Pa程度に管理される場合、サンプルチャンバー12の内圧は、それより低い圧力、例えば、0.1-数10Pa程度に管理されてもよく、0.1Pa以上、または0.5Pa以上、10Pa以下、または5Pa以下に管理されてもよい。例えば、サンプルチャンバー12は内部が、1-10mTorr(0.13-1.3Pa)程度に減圧されてもよい。サンプルチャンバー12を上記の程度の減圧に維持することにより、サンプルガス9のみで、低温でプラズマ19を生成することが可能である。サンプルチャンバー12は、マイクロプラズマ19を生成できる程度の小型の、例えば、数mmから数10mm程度のチャンバー(ミニチュアチャンバー)であってもよい。サンプルチャンバー12の容量を小さくすることにより、リアルタイム性に優れたガス分析装置1を提供できる。サンプルチャンバー12は、円筒状であってもよい。
【0022】
ガス分析装置1は、イオン化装置10のプラズマ生成装置11、典型的にはチャンバー12の出口18から分析計(分析ユニット)20の入口27に対しイオン流17を非直線的に導く第1のイオン経路41と、分析ユニット20の入口27からフィルターユニット25に対して所定の角度、典型的にはフィルターユニット25の電極25aと平行に入力するようにイオン流17を導く第2のイオン経路42とを含む。第1のイオン経路41は、第1の静電レンズ群43を含み、電場によりサンプルチャンバー(プラズマチャンバー)12に形成されたプラズマ19からチャンバー出口18を通してイオン流17を抽出し、チャンバー出口(チャンバー開口)18に対して非直線の位置に設けられた入口(開口)27へイオン流17を導く。分析ユニット20の入口27は、障壁27aに設けられた開口となっており、入口(開口)27を通過したイオン流17のみが分析ユニット20に導入されるようになっている。本例においてチャンバー出口18に対して分析ユニット20の入口27は、第2のイオン経路42から見て、あるいは四重極フィルター25の中心軸に対して、それぞれの開口が重ならない程度にシフト(直交する方向に移動)して配置されており、第1のイオン経路41がそれらの開口18および27の間を、イオン流17を曲げて導くように設けられている。一方、チャンバー出口18から漏れ出る光は、障壁27aにより分析ユニット20に対して遮光されるようになっている。
【0023】
イオン流17の経路は、電場の影響を受けて曲がるのに対し、チャンバー出口18から漏れ出すプラズマ19の励起発光による光は電場の影響を受けずに直進する。したがって、チャンバー出口18に対してシフトした位置に、イオン流17をフィルターユニット25に導く開口27を設け、イオン流17は非直線的に(曲げて)導く第1のイオン経路41をそれらの間に設けることにより、チャンバー出口18から直線的に放出されるプラズマの励起光が分析ユニット20の入口(開口)27に到達することを抑制できる。そのため、プラズマの励起光がディテクタ26、本例では、ファラデーカップ(FC)と二次電子倍増器(SEM)との組み合わせ、に到達して質量スペクトルのバックグランド信号(ノイズ)となる二次電子が生成されることを抑制できる。
【0024】
イオン流17を非直線的に、曲げて(屈曲させて)導く第1のイオン経路41は、直進する光を遮ることができるものであればよく、イオン流17を一度屈曲するように導くものであってもよく、さらに屈曲させてチャンバー出口18と分析ユニット20の入口27とが直線的に並ぶように導くものであってもよい。また、この第1のイオン経路41は、イオン流17としての方向を制御すればよく、個々のイオンの移動方向を制御するような精度あるいは口径を備えている必要はなく、そのような制御あるいはフィルタリングが行われないように設計された経路であってもよい。
【0025】
第2のイオン経路42は、第2の静電レンズ群44と、それらの間に配置されたエネルギーフィルター28とを含む。第2の静電レンズ群44は、第1のイオン経路41との間に設けられた障壁27aの開口27を経て第2のイオン経路42に流入したイオン流17の方向を制御する。エネルギーフィルター28は、ベッセルボックス(Bessel-Box)であってもよく、CMA(Cylindrical Mirror Analyzer)であってもよく、CHA(Concentric Hemispherical Analyzer)であってもよい。ベッセルボックスタイプのエネルギーフィルター28は、円筒電極と円筒電極の中心部に配置した円板形電極(円筒電極と同電位)、円筒電極の両端に配置した電極とから構成され、円筒電極と両端電極の電位差Vbaによって作られる電場と円筒電極の電位Vbeとによって特定の運動エネルギーを持つイオンのみを通過させるバンドパスフィルターとして動作する。また、プラズマ生成の際に発生する軟X線や気体イオン化の際に発生する光が円筒電極中心に配置されている円板形電極により直接イオン検出器(ディテクタ)26に入射することを阻止でき、ノイズを低減できる。また、エネルギーフィルター28により、イオン生成部あるいは外部で生成され、フィルターユニット25に対して中心軸と平行に入射するイオンや中性粒子なども排除できるので、それらの検出を抑制できる構造となっている。
【0026】
さらに、エネルギーフィルター28は、電場の制御により、第2のイオン経路42を通過してフィルターユニット25に入力される予定の全ての運動エネルギーを持つイオン(イオン流)17の通過を阻止することが可能である。したがって、エネルギーフィルター28は、第1のイオン経路41を介して分析計20の質量フィルター25に至るイオン流17の経路の少なくとも一部の経路におけるイオン流17を電場または磁場により断続的に阻止および解放する阻止装置29として機能する。エネルギーフィルター28の代わりに、または協働して、第2のイオン経路42においてイオン流17の方向を制御する第2の静電レンズ群44の一部または全部の電場(電位)を制御して阻止電位として用い、質量フィルター25に至るイオン流17を断続的に阻止したり解放したりする阻止装置(阻止電位発生装置)29として機能させてもよい。
【0027】
本例のガス分析装置1のイオン化装置10は、さらに、プロセスからサンプル入力3bを介して供給される測定対象のサンプルガス9を電子衝撃によりイオン化するフィラメント(EIイオン源)15を含む。EIイオン源15は高真空で動作し、モニタリング対象のプロセスチャンバー101におけるプロセスが高真空でマイクロプラズマ19の生成が難しい条件の場合、ガス分析装置1の到達圧力での動作、さらには、感度補正を目的として使用できる。プラズマイオン化用のサンプル入力3aと、EIイオン化用のサンプル入力3bとへのサンプルガス9の供給は、上流に設けられたバルブ103aおよび103bにより、プロセスコントローラ105により自動的に切り替えることができる。
【0028】
一実施例では、プロセスコントローラ105が、プロセスチャンバー101の内圧が高い、例えば、1Pa以上で,反応性プロセスの場合にはバルブ103aを開いてガス分析装置1にサンプルガス9を供給し、さらに、ガス分析装置1の制御装置(PLCモジュール)50を介してサンプルガス9のプラズマ19を生成してイオン流17を引き出して質量分析を行う。この際、EIイオン源(フィラメント)15は点灯せず、バルブ(ポート)103bは閉鎖される。プロセスチャンバー101の内圧が低い、例えば、到達圧力などで測定するときには、プロセスコントローラ105がプラズマ側のポート(バルブ)103aを閉じて、EI側のポート103bを開いてサンプルガス9を供給し、制御装置50によりフィラメントを点灯して(EI作動させて)イオン流17を生成し、質量分析を行う。
【0029】
ガス分析装置1は、システムコントローラ(システム制御装置、PCLモジュール)50の下で分析ユニット20の各モジュールを制御する制御装置(ユニットコントローラ、モジュールコントローラ、コントロールボックス、制御モジュール)30を含む。ユニットコントローラ30は、第1の静電レンズ群43の電位を制御する第1のレンズ制御装置(制御ユニット、制御機能、回路、モジュール)31と、第2の静電レンズ群44の電位を制御する第2のレンズ制御装置(制御ユニット)32と、エネルギーフィルター28の電位を制御するエネルギーフィルター制御装置(エネルギーフィルタ制御ユニット)33と、フィラメント電流および電圧を制御するフィラメント制御装置(フィラメント制御ユニット)34と、質量フィルター25のRFおよびDC電圧を制御するフィルター制御装置(四重極フィルタ制御ユニット)35と、ディテクタ26を制御して検出電流を取得するディテクタ制御装置(ディテクタ制御ユニット)36とを含む。本例においては、例えば、第1の静電レンズ43および第2の静電レンズ44の制御条件は分析ユニット20により質量スペクトルを取得する条件と同じに設定してイオン流17を通過させ、エネルギーフィルター28のみの条件を変えることにより、分析ユニット20の質量フィルター25に流入するイオン流17を阻止したり解放したりすることができる。
【0030】
ガス分析装置1を制御するシステム制御装置(PLCモジュール)50は、CPUおよびメモリ59などのコンピュータ資源を含み、プログラム(制御用プログラム)55をダウンロードして実行することによりガス分析装置1を制御する。プログラム55は、阻止装置29によりイオン流17の通過が阻止された状態で分析ユニット(分析計)20により第1の検出データ71を取得する処理(第1の処理)を行う第1のモジュール(第1の機能)51と、阻止装置29によりイオン流17の通過が阻止されていない状態(イオン流17の通過が解放された状態)で分析ユニット20により第2の検出データ72を取得する処理(第2の処理)を行う第2のモジュール(第2の機能)52と、第2の検出データ71と第1の検出データ72との差分を含む検出結果73を出力する処理(第3の処理)を行う第3のモジュール(第3の機能)53としてPLCモジュール50を機能させるための命令を含む。
【0031】
図4に、質量スペクトル(スペクトルデータ、スペクトラ)のいくつかの例を模式的に示している。図4(a)は、本例のガス分析装置1ではなく、イオン流17を曲げて導くような第1のイオン経路を有しない、従来型の質量分析装置により得られる検出結果の一例である。すなわち、プラズマ19の発光を遮光せずに分析ユニット20にイオン流17を入力して得られる質量スペクトル79の一例である。質量スペクトル79のピーク幅P1も広く、オフセット量P2も大きく、プラズマ19の発光がディテクタ26に届いていることによるノイズが、検出される質量スペクトルの精度を低下させていることがわかる。
【0032】
図4(b)は、本例のガス分析装置1において検出結果として得られる質量スペクトルの一例である。この質量スペクトル78は、阻止装置29によりイオン流17の通過が阻止されていない状態(解放された状態)で計測されたデータ(第2の計測データ)72を模式的に示したものである。分析ユニット20により第1のイオン経路41においてイオン流17を非直線的に導くことにより、直線的に進むプラズマ19の発光の影響を抑制することが可能となる。このため、質量スペクトル78のピークが鋭くなり(幅が狭くなり)、オフセット(ノイズフロアー)量P2が減少していることがわかる。さらに、このガス分析装置1においては、エネルギーフィルター28により質量フィルター25に入力されるイオン17のエネルギーを選別することが可能である。このため、よりシャープなピークを持った質量スペクトを得ることができる。
【0033】
図4(c)は、本例のガス分析装置1において検出結果として得られるスペクトル77であるが、阻止装置29によりイオン流17の通過が阻止された状態で分析ユニット20により計測されたデータ(第1の検出データ)71を模式的に示したものである。すなわち、スペクトル77は、エネルギーフィルター28の条件を全てのエネルギーのイオンが通過しないように設定し、阻止装置29として機能させた状態で、ディテクタ26により得られる検出スペクトルの一例である。第1のイオン経路41において、イオン流17は開口27に向かって非直線的に導かれる。しかしながら、検出対象の様々な質量電荷比(m/z)のイオンを含むイオン流17を分析ユニット20に、計測に十分な量を供給するためにはイオン流17の偏向角度および/または開口27の面積を、遮光を優先して選択できないこともある。特に、携帯可能なコンパクトなガス分析装置1を実現しようとするとイオン流17の長さおよび角度が、遮光のために十分に確保できないことがある。
【0034】
また、ガス分析装置1の内部において迷光は、ほぼ必ず発生し、質量フィルター25によりフィルタリングされないイオンがディテクタ26に到達することもある。したがって、ガス分析装置1の固有のノイズは常に発生する可能性があり、そのようなノイズを全てハードウェアで阻止することは難しい。ガス分析装置1においては、PLC50の第1のモジュール(機能)51により、質量フィルター25に対し、設計通りに入力するイオン流17を阻止装置29により阻止して計測を行う。このプロセスにおいて得られたデータ(第1の検出データ)71を、ガス分析装置1における、計測条件に固有のノイズ(オフセット)とすることができる。
【0035】
図4(d)は、PLC50の第3のモジュール(機能)53により、第2のモジュール52によりイオン流17が阻止装置29により阻止されていない状態で測定された第2の検出データ72(図4(b))と、第1のモジュール51によりイオン流17が阻止装置29により阻止された状態で取得された第1の検出データ71(図4(c))と、の差分の質量スペクトル76を示す。第2の検出データ72として得られた質量スペクトル78から、第1の検出データ71として得られた分析装置1の固有のノイズスペクトル(バックグラウンドスペクトル)77を差し引くことにより、オフセットを含むノイズの影響がほぼ見られない、精度の高い質量スペクトル76を得ることができ、それを検出結果73として出力することができる。
【0036】
図5に、ガス分析装置1において、オフセット(ノイズ)をキャンセルした計測結果を出力する処理に関する制御方法の概要を示している。ステップ81において、第1のモジュール51によりオフセット(ノイズ)に関する第1の検出データ71を取得するか否かを判断する。ガス分析装置1は、基本的には連続してイオン流17を生成でき、そのイオン流17を連続して、または短時間の繰り返しによる平均化を図るために断続的に分析することができる。したがって、ほぼ同じ条件で、イオン流17を遮断(阻止)した状態の測定と、イオン流17を解放した(阻止しない)状態の測定とを繰り返し行うことができる。オフセットに関する第1の検出データ71は、精度を優先して、質量スペクトルに関する第2の検出データ72を取得する都度、取得してもよく、測定に要する時間を優先して所定の測定回数あるいは時間が経過したときに定期的に、あるいは測定条件が変わったとき、ガス分析装置1が起動したときなどの限られたタイミングで取得してもよい。
【0037】
第1の検出データ71を取得する場合は、ステップ82において、エネルギーフィルター28を阻止装置29として機能する条件に設定し、ステップ83において、エネルギーフィルター28によりイオン17の通過が阻止された状態で分析ユニット(分析計)20により第1の検出データ71を取得する。オフセット(ノイズ)に関する第1の検出データ71ではなく、オフセットも含めた質量スペクトルに関する第2の検出データ72を取得する場合は、第2のモジュール52により、ステップ84において、エネルギーフィルター28を所定の条件でイオン流17のエネルギー選別を行うように設定し、ステップ85において、イオン流17が阻止されていない状態で分析ユニット20により質量スペクトルに関する第2の検出データ72を取得する。さらに、ステップ86において、第3のモジュール53により、オフセットを含めて得られた第2の検出データ72から、オフセットに関する第1の検出データ71を差し引いた質量スペクトルを検出結果73として出力する。
【0038】
この分析装置1においては、イオン流17を曲げて導く第1のイオン経路41により、プラズマ19の発光の影響は抑制されており、第2の検出データ72に含まれる質量スペクトル78のピークは鋭く、オフセット量も小さい。したがって、イオン流17を遮断して得られる第1の検出データ71に含まれる、限られたバックグランドの情報をほぼ単純に差し引くことにより、複雑な処理を経ずに、よりシャープで、オフセット量の小さな質量スペクトを得ることができる。
【0039】
図6にガス分析装置1のいくつかの異なる例を示している。図6(a)に示したガス分析装置1は、イオン流17の経路(第1のイオン経路)41を、静電レンズ群に代わり制御するイオンガイド装置(ガイドユニット)45を用いて構成した例を示している。このガイドユニット45はイオン経路41の周囲を構成する、例えば円筒状の電極47と、その内部に配置された偏向用の電極46aおよび46bとを含む。ガイドする対象のイオンがプラス電荷である場合、円筒状の周囲電極47は正電位、例えば100V程度に維持され、偏向用の電極46aおよび46bは接地電位、例えば0Vに維持される。これらの電極により構成される電場に沿ってイオン流17の方向は制御され、図面上、上下にシフトして非直線状に2回曲げられて分析ユニット20の開口27へ導かれる。したがって、イオン化装置10であるプラズマ生成装置11のチャンバー出口18からイオン流17を、分析ユニット20の入口の開口27に対し非直線的に導き、直線的に進むプラズマ光の影響を抑制できる。
【0040】
図6(b)に示したガス分析装置1は、イオン経路41に配置されたエネルギーフィルター28を、イオン化装置10であるプラズマ生成装置11のチャンバー出口18からイオン流17を非直線で導く電場を形成する装置と、イオン流17を阻止する阻止装置29として機能させるように設けた装置である。上述したように、ベッセルボックスタイプのエネルギーフィルター28は、円筒電極と円筒電極の中心部に配置した円板形電極と、円筒電極の両端に配置した電極とから構成され、イオン流17は、円筒電極中心に配置されている円板形電極を避けるように非直線に導かれる。典型的には、イオン流17は、エネルギーフィルター28の入口から出口に向かって、円板形電極の周囲を迂回して通過するように、屈曲した流路でエネルギーフィルター28を通過する。このため、円筒電極中心に配置されている円板形電極によりプラズマ生成の際に発生する軟X線や気体イオン化の際に発生する光が直にディテクタ26に入射することを阻止できる。したがって、これらの構成のガス分析装置1においても、プラズマ生成装置11においては発生する光による影響を、イオン流17を非直線的に導くことにより抑制できる。さらに、イオン流17を阻止した状態でオフセット(ノイズ)を測定することにより、残存するノイズ成分についても効率よく除去することが可能となり、より精度の高い質量スペクトルを検出結果として出力することができる。
【0041】
なお、上記では、ガス分析ユニット20の質量フィルター25として四重極タイプを採用した例を説明しているが、質量フィルター25は、イオントラップ、ウィーン(Wien)フィルターなどの他のタイプであってもよい。
【0042】
また、上記においては、本発明の特定の実施形態を説明したが、様々な他の実施形態および変形例は本発明の範囲および精神から逸脱することなく当業者が想到し得ることであり、そのような他の実施形態および変形は以下の請求の範囲の対象となり、本発明は以下の請求の範囲により規定されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6