(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】鋼コンクリート複合部材の切断方法及び切断装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/38 20140101AFI20230906BHJP
E04G 23/08 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
B23K26/38 Z
B23K26/38 A
E04G23/08 H
E04G23/08 D
(21)【出願番号】P 2018239227
(22)【出願日】2018-12-21
【審査請求日】2021-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】山田 淳夫
(72)【発明者】
【氏名】今井 久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光浩
(72)【発明者】
【氏名】宇野 哲生
(72)【発明者】
【氏名】峰原 英介
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-170475(JP,A)
【文献】特表2015-534904(JP,A)
【文献】特表2006-523537(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0032843(US,A1)
【文献】実開平07-021274(JP,U)
【文献】特開2009-154189(JP,A)
【文献】特開平02-247097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
E04G 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板表面にライニング材としてのコンクリート部材を一体化させた構造物を構成する鋼コンクリート複合部材の切断方法であって、
ノズルヘッド内の光学系を介して、長焦点距離をなして前記コンクリート部材表面近傍でスポット状に合焦するように集光してノズルから出射されるように導かれたレーザー光を、前記コンクリート部材表面に照射するとともに、前記ノズル内に酸素を含むガスを供給し、前記レーザー光と同軸をなすように前記ノズル内を通過させて前記コンクリート部材表面の切断箇所に噴射し、
前記切断箇所に前記レーザー光を照射するとともに前記ガスを噴射して前記コンクリートと前記鋼板とを厚さ方向及び部材延長方向に沿って連続して切断する際、前記鋼板中に含有する鉄成分を酸化燃焼促進材として用い、前記ガスの供給によって形成された酸素を含む雰囲気内で前記鉄成分を燃焼させ、その酸化燃焼熱と前記レーザー光の熱エネルギーとによって、前記鋼板の溶融と前記コンクリートの爆裂とを同時に生じさせ、前記鋼板と前記コンクリートの溶融ドロスを前記噴射されたガスで除去することを特徴とする鋼コンクリート複合部材の切断方法。
【請求項2】
前記ノズルの先端と前記コンクリート部材表面との距離が、前記ノズルの先端の内径とほぼ等しくなるように前記ノズルの先端が位置決めされ、前記レーザー光が、前記コンクリート部材表面近傍で合焦されて照射される請求項1に記載の鋼コンクリート複合部材の切断方法。
【請求項3】
請求項2に記載された切断方法において、前記ノズルの先端と前記コンクリート部材表面との距離の位置決めは、前記ノズルヘッドを、前記複合部材に向く方向の直線状レール上と、該直線状レールを支持する、前記複合部材の表面の延長方向形状に倣って設けられレール上とを移動させてなされる鋼コンクリート複合部材の切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼コンクリート複合部材の切断方法及び切断装置に係り、特にレーザー光の熱的エネルギーと鉄の燃焼熱とを利用して鋼板等の鋼材とコンクリートとで一体的に構築された各種構造物を解体するために、鋼コンクリート複合部材を効率よく切断する切断方法及び切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造上あるいは用途上の目的として、鉄筋コンクリートあるいは無筋コンクリートと、形鋼、鋼板等とを複合的に用いて(以下、鋼コンクリート複合部材と呼ぶ。)建造された各種の建築物、橋梁、ダム、各種発電所施設、放射性物質(RI)取扱保管施設、再処理工場、核燃料保管施設、加速器施設、及びこれらの施設に設けられた各種容器構造、容器内構造体等がある。これらの施設、建築物、構造物、構造体等(以下、構造物等と記す。)は供用期間、耐用年数の経過後、建て替え、更新等により解体される。
【0003】
これらの構造物等の解体作業は通常、機械的に順次切断され、小割された部材を搬出する工程を経て解体される。たとえば火力発電所等の100m級高さの煙突として、鋼板の内側にライニング材を吹付けした煙突筒身を有する煙突がある。この煙突を解体する場合、適切な機械的切断方法を用いて煙突筒身を輪切りにしてクレーン等で地上に荷卸しながら、順次上部から解体していく解体方法がとられている。
【0004】
機械的切断方法としては、従来以下の方法がある。
(1)非接触切断方法
非接触切断方法としては、サンドブラストやアブレシブウォータージェット等を用いる切断方法がある。サンドブラスト、アブレシブウォータージェットは、構造物等の表面から深い内部までを連続研削する方法で、サンドブラストではコンクリートは削りやすいが、鋼材は削りにくい。アブレシブウォータージェットは両方を削ることができるが、装置が高価で切断速度が遅い。また、砂やアブレシブ粒子などの研削粒子は消耗材であり、研削量よりも大量の研削粒子が必要であるため、使用後の廃棄物は膨大となる。
(2)接触切断方法
接触切断方法としては、バンドソー、グラインダー、ダイヤモンドソー等を用いる切断方法がある。バンドソーやグラインダーでは表面から対象材料の厚み分を研削する。バンドソー、グラインダーの研削ベルト、研削ディスクは消耗部品であり、使用後は大量の廃棄物となる。ダイヤモンドソーは鉄筋コンクリート材料等を容易に切断することできるが、ディスク刃の場合、切断対象の部材厚に制限あり、ワイヤー刃の場合、鋼板コンクリート複合部材を切断する際のワイヤー刃の張力制御が難しい。
(3)レーザー切断方法
レーザー光を用いて切断方法において、鋼材単体の切断は実用レベルで行われていたが、コンクリート単体での切断は実験レベルで行われているにとどまる(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。また、鋼コンクリート複合部材の切断は切断(破壊)のメカニズムか異なるため、行われていなかった。レーザー光を用いた鋼コンクリート複合部材の切断が可能になれば、上述した(1)、(2)に代わる有力な切断方法となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-319087号公報
【文献】特開平5-131286号公報
【文献】特開2007-230230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された発明は、レーザー光をコンクリート塊に照射した際にでる溶融したコンクリート(溶融ドロス)の抜けをよくするために気体ジェットのノズルの角度、レーザー光との交点位置の深さを適切に設定する発明である。また、特許文献2に開示された発明は、溶融ドロスの再固化を防止するために、アシストガスのノズルをレーザー光のノズルと独立させるとともに、ノズル角度を適切に設定して溶融ドロスを効率よく吹き飛ばすようにした発明である。特許文献3に開示された発明は、再固化ドロスを粉砕除去することで低出力のレーザーによってコンクリートを切断できるようにした発明である。
【0007】
特許文献1~3に開示された発明では、レーザー光が照射されたコンクリートの切断部位が比較的低温であるため、溶融ドロスが除去されずに切断溝内等に溜まって再固化してしまう状況にある。
【0008】
そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、鋼コンクリート複合部材にレーザー光を照射した際に、制御された高温のレーザー光に加え、鋼材の高温状態での燃焼(酸化反応)熱を利用することで、切断箇所のドロスを溶融状態のまま吹き飛ばして、効率よく鋼コンクリート複合部材を切断できるようにした鋼コンクリート複合部材の切断方法及び切断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は切断方法の発明として、鋼板表面にライニング材としてのコンクリート部材を一体化させた構造物を構成する鋼コンクリート複合部材の切断方法であって、ノズルヘッド内の光学系を介して、長焦点距離をなして前記コンクリート部材表面近傍でスポット状に合焦するように集光してノズルから出射されるように導かれたレーザー光を、前記コンクリート部材表面に照射するとともに、前記ノズル内に酸素を含むガスを供給し、前記レーザー光と同軸をなすように前記ノズル内を通過させて前記コンクリート部材表面の切断箇所に噴射し、前記切断箇所に前記レーザー光を照射するとともに前記ガスを噴射して前記コンクリートと前記鋼板とを厚さ方向及び部材延長方向に沿って連続して切断する際、前記鋼板中に含有する鉄成分を酸化燃焼促進材として用い、前記ガスの供給によって形成された酸素を含む雰囲気内で前記鉄成分を燃焼させ、その酸化燃焼熱と前記レーザー光の熱エネルギーとによって、前記鋼板の溶融と前記コンクリートの爆裂とを同時に生じさせ、前記鋼板と前記コンクリートの溶融ドロスを前記噴射されたガスで除去することを特徴とする。
【0012】
さらに、前記ノズルの先端と前記コンクリート部材表面との距離が、前記ノズルの先端の内径とほぼ等しくなるように前記ノズルの先端が位置決めされ、前記レーザー光が、前記コンクリート部材表面近傍で合焦されて照射されることが好ましい。
【0013】
上述した切断方法において、前記ノズルの先端と前記コンクリート部材表面との距離の位置決めは、前記ノズルヘッドを、前記複合部材に向く方向の直線状レール上と、該直線状レールを支持する、前記複合部材の表面の延長方向形状に倣って設けられレール上とを移動させてなされることが好ましい。
【0015】
また、前記位置決め駆動機構は、前記複合部材に向くアクセスレールと、前記レーザーヘッドを複合部材の表面の延長方向に倣って移動可能な横行レールとを備えたことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の鋼コンクリート複合部材の切断装置の一実施形態の構成を一部断面で示した装置構成断面図。
【
図2】
図1に示した切断装置のノズルの構成を示した部分拡大断面図。
【
図3】本発明の切断装置の切断対象となる鋼コンクリート複合部材の例を示した断面図。
【
図4】本発明の切断装置による構造物の切断状態を模式的に示した状態説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の鋼コンクリート複合部材の切断方法を実現するための切断装置の構成について、
図1、
図2を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明の鋼コンクリート複合部材の切断装置10によって鋼コンクリート複合部材1の一部を切断している状態を示している。切断装置10は、レーザー発振器11と、レーザー発振器11からのレーザー光Lを鋼コンクリート複合部材1に照射するレーザーヘッド20と、レーザーヘッド20を移動可能に支持する位置決め駆動機構30と、レーザーヘッド20のノズル23にアシストガスGを供給するガス供給装置40とから構成されている。
【0020】
レーザー発振器11は、本実施形態では出力10kW程度の連続波(CW)レーザーを発振可能な公知の発振器からなり、レーザー発振器11、発振器の冷却ユニット12は電源装置13で稼動する。
【0021】
レーザーヘッド20は、本実施形態では下端側にノズル23を有する細長筒状体からなる。
図1、
図2では、説明のために縦置き状態が示されている。本発明は、レーザーヘッド20が移動して鋼コンクリート複合部材1(以下、鋼コンクリート複合部材を複合部材1と記す。)を切断する構造であるため、レーザーヘッド20はレーザー光Lの照射時の反力を受けた場合にもノズル23に変位が生じないように位置決め駆動機構30に支持されている。
【0022】
レーザー光Lは、レーザー発振器11から光ファイバー14を介してレーザーヘッド20の上端に導かれる。レーザーヘッド20内のレーザー光Lの光路上には平凸レンズからなるコリメートレンズ21と、所定光路長をあけて同様の平凸レンズからなるコンデンサーレンズ22とが配置されている。光ファイバー14からレーザーヘッド20内に導かれたレーザー光Lは、コリメートレンズ21によって平行光にコリメートされ、コンデンサーレンズ22によって集光される。このレーザーヘッド20におけるレーザー光Lの焦点距離は、本実施形態では500mmに設定されている。レーザーヘッド20下端のノズル23の形状は、この長焦点距離のレーザー光Lと干渉しないようなノズル径φ(
図2)を有する円錐形状に設定されている。レーザーヘッド20内のノズル23上部には保護ガラス24が装着され、ノズル23内でのアシストガスGの圧力変動等による光学系への影響を遮断している。
【0023】
ノズル23の側面にはアシストガスの供給口25が形成されている。この供給口25から、ガス供給装置40から供給されたアシストガスGとしての酸素ガスが中高圧(P=15kPa)状態でノズル23内に供給される。ノズル23内に供給されたアシストガスGは、レーザー光Lと同軸に複合部材1に向けてノズル23から噴射され、切断箇所に生じた溶融物を吹き飛ばすことができる。
【0024】
ガス供給装置40は公知の設備構成からなり、本実施形態では酸素ボンベ41と、酸素ガスの供給圧調整を行うレギュレータ42が備えられている。本発明ではアシストガスGとして酸素ガス以外に、空気等のように酸素を含むガスであれば用いることができる。
【0025】
レーザーヘッド20を支持する位置決め駆動機構30は、
図1に示したように、複合部材1のコンクリート2の表面に向いたアクセスレール31と、アクセスレール31に直行する横行レール32とを備える。レーザーヘッド20は、これら2本のレール31,32をガイドとしてそれぞれ独立した方向に移動(走行)することができる。アクセスレール31に対する駆動機構としては公知のリニアスライダ33が用いられている。また横行レール32は複合部材1の形状に倣って直線状、曲線状に設定されるが、いずれの形状のレールにもスムースに倣って走行可能なスライダが適宜採用される。レーザーヘッド20のノズル先端23aと複合部材1との接近距離を検知するために、本実施形態ではレーザーヘッド20の外側面に位置検出センサー35が装着されている。位置検出センサー35による測距データは駆動機構を運転制御する制御部36に送られる。また、レーザーヘッド20の横行レール32上の位置検知にはスライダ34に搭載された位置検知センサー37が用いられる。これらの位置検出センサー35,37からの位置情報により、レーザーヘッド20のノズル先端23aと複合部材1との距離調整、切断作業時のレーザーヘッド20の運転(走行)を高精度に行うことができる。
【0026】
図2は、レーザーヘッド20のノズル23付近と複合部材1を拡大して示している。レーザーヘッド20のノズル径φは本実施形態では2mmに設定されている。また、ノズル先端23aと複合部材1の表面の距離S(スタンドオフ距離)も2mm(±0.1mm)程度に設定されている。複合部材1の裏面の鋼板3側には、鋼板3と所定の離れをとってレーザービームダンプ8が配置されている。レーザービームダンプ8によって、複合部材1を貫通したレーザー光Lは、安全に吸収し消散する。
【0027】
本発明のレーザー光Lは、同図に示したように、複合部材1のコンクリート2の表面近傍が焦点位置となるようにスポット径が0.8mm程度で収束するが、長焦点距離(f=500mm)に設定されているため、焦点深度を十分確保でき、厚い複合部材1の切断が可能となる。実験レベルで、この構成からなるレーザーヘッド20において、10kW程度の出力のレーザー光Lでコンクリート部材厚10cm、鋼板厚さ1cmの複合部材と、部材補強用リブとを模擬した高さ10cmの鋼材からなる試験体を切断した場合、切断速度3~10cm/分程度で切断できることが確認された。
【0028】
ここで、本発明の切断装置のレーザー光による複合部材の切断作業と、複合部材の切断作用について説明する。
鋼コンクリート複合部材の切断を行うには、まず高精度で制御されたレーザー光を、コンクリート部分の切断表面に集中して照射してコンクリートを溶融させる。さらにレーザー光と同軸的に噴射されるアシストガスによって形成された、酸素を含む雰囲気中で燃焼する鋼材中の鉄の燃焼(酸化)熱を用いて鋼材部分を溶融させ、高圧のアシストガスで、コンクリートと鋼材の溶融物を吹き飛ばし除去する。さらにコンクリート中の砕石骨材や炭酸塩による600℃以上での脱炭酸爆発と、200℃以上になる含有水による水蒸気爆発を連続的に発生させることで、ガスによる吹き飛ばしより効率的に溶融した複合部材を高速で吹き飛ばして除去することが可能になる。
【0029】
具体的には、
図1,
図2に示したように、長焦点光学系を構成するレーザーヘッド20内でレーザー光Lを集光してノズル23から複合部材1に照射する際、焦点位置近傍において1MW/cm程度の光パワー面密度以上が得られるよう集光し、概略焦点を複合部材1のコンクリート2の表面に照準し、その後切断深さ方向の所定幅の全域にわたって、コンクリート2と鋼板3とを同時に滑らかに低速度で準定常的に溶融して、高圧高速高流量の酸素を含むガスで、鋼板3中の鉄成分を
2Fe+(3/2)O
2=Fe
2O
3+824kJ
の燃焼熱で燃やしながら吹き飛ばすように切断を開始する。切断は、ほぼ停止状態から切断に最適な速度まで増速して、その後、定常あるいは切断状況にあった速度調整を行い、高精度で制御された光エネルギーをその切断部材に局所的に集中して熱に変えて材料を溶融させる。
【0030】
なお、酸素を含む雰囲気中で燃焼する鋼材に関しては、
図3各図に示したように、複合部材の表裏面に配置された鋼板(
図3(a))、鉄筋コンクリートのように構造設計上、あるいは被覆ライニングのように用途上、コンクリートの所定位置に配置された補強鋼材(
図3(b)鉄筋4、
図3(c)金網5、被覆ライニング6)も補助的に燃焼酸化作用を促進する役割を果たすことができる。また、切断作業にあわせて自動あるいは手動で鉄粉、鉄線、帯鋼板等の燃焼酸化促進材(
図3(d)鉄線7)をレーザー照射箇所に付加的に連続あるいは断続的に供給することも好ましい。
【0031】
一方、コンクリート中の骨材やモルタルペーストに含有するカルシウムなどの炭酸塩による概略600℃程度以上での脱炭酸爆発と、200℃以上での結晶水と含有水による水蒸気爆発を連続的に切断箇所とその周辺近傍に発生させることによって、単なるアシストガスGによる吹き飛ばしよりも効率的に、コンクリート内に発生するガラス状溶融物等の溶融物を、高温かつ低粘度を保持して高速度で吹き飛ばして除去することができる。
【0032】
定量的には、10kW程度以下からこれより大きな出力のレーザー光を用いて0.5~1cm幅で1~2cm以上のLcm厚の鋼板と、約10cm厚のコンクリート部材とからなる複合部材を10cm/分で切断する場合、必要とする最小の熱量はレーザー熱10kW程度と鋼材に含有する鉄1.35g×L/秒の燃焼熱が10kw×L程度である燃焼する領域体積から生成する鉄の酸化熱を用いて対応することができる。
【0033】
図4は、本発明の切断装置10を用いて、内張コンクリート2を有する鋼製煙突(複合部材1)の解体状態(切断状態)の一実施例を示している。同図において、切断装置10の構成を示すために、煙突は一部のみが描かれている。本発明の切断装置10のレーザーヘッド20は、図示しない架台上に設置された位置決め駆動機構30の2軸(θ、r)に配置された、煙突内周と同心をなす円弧状の横行レール32、煙突中心から半径方向に直線状のアクセスレール31上を独立して移動可能なスライダ(図示せず)を介して支持されている。レーザーヘッド20は、図示したように、煙突中心から半径方向外側を向くように設置され、ノズル先端23aが煙突内周面の内張コンクリート2表面と常に所定のスタンドオフ距離を確保してアクセスレール31上を移動することができる。また、切断作業の進行に合わせてレーザーヘッド20は横行レール32に沿って円周方向に移動することができる。レーザーヘッド20のこれらの移動動作は、スタンドオフ距離、切断箇所の検知等を行う位置検知センサー(図示せず)によって得られた位置信号をもとに制御部36で設定された自動運転とすることもできるし、得られた各位置信号をもとにオペレータによるマニュアル操作とすることもできる。
【0034】
切断作業は、
図1において説明した構成の場合と同様に、レーザー発振器11、アシストガス供給装置40からレーザーヘッド20に供給されるレーザー光L、アシストガスGによって開始される。横行速度は、複合部材1である煙突のコンクリート厚さ、鋼板厚さ、その他の補強部材の存在等により適正な速度を初期値として設定するが、実際の切断状況に応じて適宜速度調整することが好ましい。なお、
図4では、複合部材1としての煙突をほぼ水平に輪切りにするような切断作業が行われているが、レーザーヘッド20を支持するレール31,32のうち、円弧状の横行レール32に代えて、鉛直方向にリニアレール(図示せず)を設置し、このリニアレールにスライダを介してレーザーヘッド20を支持させることにより、レーザーヘッド20を鉛直方向に走行させることができる。これにより、たとえば輪切りにされた切断部材をさらに鉛直方向に複数箇所で小割りにすることができる。
【0035】
レーザー光Lは、図示したように、煙突を貫通するが、貫通した位置の煙突の外側には、レーザービームダンプ8が配置されており、煙突を内部から外部に貫通したレーザー光Lはレーザービームダンプ8に衝突して、光エネルギーが消費されるため、外部への影響は生じない。このレーザービームダンプ8は、図示しない駆動機構によって、レーザー光Lによる切断動作、すなわちレーザーヘッド20の運転動作に同期させ、煙突外周面から所定距離を保持して設定速度で移動できる。なお、レーザーヘッド20の位置決め駆動機構としては、公知の6軸ロボットアーム機構等の各種ロボットを用いることもできることは言うまでもない。
【0036】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0037】
1 鋼コンクリート複合部材(複合部材)
2 コンクリート
3 鋼板(鋼材)
8 レーザービームダンプ
10 切断装置
11 レーザー発振器
14 光ファイバー
20 レーザーヘッド
23 ノズル
30 位置決め駆動機構
40 ガス供給装置
G アシストガス
L レーザー光
S スタンドオフ距離
φ ノズル径