(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】油入電気機器の劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/00 20060101AFI20230906BHJP
H01F 27/00 20060101ALI20230906BHJP
G01J 3/52 20060101ALI20230906BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
H01F41/00 D
H01F27/00 B
G01J3/52
G01N1/00 102B
(21)【出願番号】P 2019120627
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000116666
【氏名又は名称】愛知電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮島 極
(72)【発明者】
【氏名】宮本 伸治
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特許第7152178(JP,B2)
【文献】特開平04-220547(JP,A)
【文献】特開昭64-020604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/00
H01F 27/00
G01J 3/52
G01N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開放型の油入電気機器を模擬すべく、絶縁油の分解により発生したガスを外部に散逸できる構造としたステンレス製の容器内に絶縁油及び絶縁紙を収容して当該容器を加熱し、予定の加熱時間が経過する毎に絶縁紙から
、平均重合度測定および色見本に必要な量(必要量)を採取して、採取した
必要量の絶縁紙を冷却した後、
当該必要量の一部を使用して平均重合度を測定し、かつ、
当該必要量の残部
を、その色相を明瞭とすべく脱脂処理して平均重合度の測定値における色見本とするとともに、当該色見本の
色相の変化量(新品の絶縁紙と当該色見本との間の色の差(色差))と平均重合度の相関関係
を求め、かつ、劣化診断対象である油入電気機器から絶縁油を抜油、もしくは電気機器本体を吊り上げ
ることで当該油入電気機器の絶縁紙を大気中に露出させた後、
大気中に露出させた当該絶縁紙の一部採取、その後、脱脂処理し、当該
脱脂処理した絶縁紙
と前記色見本を、非油浸状態同士で色相の比較をすることで、劣化診断対象である前記油入電気機器の絶縁紙の平均重合度を前記相関関係から推定し、当該油入電気機器の劣化状態を診断することを特徴とする油入電気機器の劣化診断方法。
【請求項2】
前記
劣化診断対象である油入電気機器の絶縁紙を白色の色
見本を並べ、
撮影機材を使用して、ホワイトバランスの調整を行いながら、前記白色の色見本が的確な白さに写るように色調を補正して撮影し、その後、当該撮影画像
に写った前記劣化診断対象である油入電気機器の絶縁紙と
前記平均重合度の測定値における色見本の色相の比較をすることで、当該劣化診断対象である前記油入電気機器の絶縁紙の平均重合度を前記相関関係から推定し、当該油入電気機器の劣化状態を診断することを特徴とする請求項1記載の油入電気機器の劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンテナンス時等に変圧器などの油入電気機器の劣化状態を診断する方法及び当該劣化診断に必要な基準の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器などの油入電気機器の劣化診断は、絶縁紙の分解生成物である絶縁油中の一酸化炭素、二酸化炭素などのガス濃度を測定したり、絶縁油中のフルフラール濃度を測定したりすることで間接的に行っていたが、これらの測定は、分析室に設置された油中ガス測定装置(ガスクロマトグラフ)やフルフラール測定装置(液体クロマトグラフ)で行う必要があったので、変圧器等から抽出した絶縁油を一旦分析室に持ち込まなければならず、迅速な分析ができなかった。
【0003】
他方、このような問題を解決できる手段として、絶縁材料に複数波長の光を照射して、その反射吸光度差あるいは反射吸光度比を利用して絶縁紙の劣化を判定する装置が提案されている(下記特許文献1参照)。当該装置は可搬型であるので、変圧器等を設置した現場に持ち込み、直接劣化度合いを分析することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
然るに、上記特許文献1記載の装置は、光ファイバーセンサを用いて二波長間の反射吸光度の差から材料(絶縁材料)の劣化度を診断するものであるので、その構成が特殊であり、一般的に高価となる問題点がある。
【0006】
本発明は、前述の問題点を解決できるものであり、高価な装置を用いることなく油入電気機器の劣化診断を迅速に行うことのできる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、開放型の油入電気機器を模擬すべく、絶縁油の分解により発生したガスを外部に散逸できる構造としたステンレス製の容器内に絶縁油及び絶縁紙を収容して当該容器を加熱し、予定の加熱時間が経過する毎に絶縁紙から、平均重合度測定および色見本に必要な量(必要量)を採取して、採取した必要量の絶縁紙を冷却した後、当該必要量の一部を使用して平均重合度を測定し、かつ、当該必要量の残部を、その色相を明瞭とすべく脱脂処理して平均重合度の測定値における色見本とするとともに、当該色見本の色相の変化量(新品の絶縁紙と当該色見本との間の色の差(色差))と平均重合度の相関関係を求め、かつ、劣化診断対象である油入電気機器から絶縁油を抜油、もしくは電気機器本体を吊り上げることで当該油入電気機器の絶縁紙を大気中に露出させた後、大気中に露出させた当該絶縁紙の一部採取、その後、脱脂処理し、当該脱脂処理した絶縁紙と前記色見本を、非油浸状態同士で色相の比較をすることで、劣化診断対象である前記油入電気機器の絶縁紙の平均重合度を前記相関関係から推定し、当該油入電気機器の劣化状態を診断することに特徴を有する。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の劣化診断対象である油入電気機器の絶縁紙を白色の色見本を並べ、撮影機材を使用して、ホワイトバランスの調整を行いながら、前記白色の色見本が的確な白さに写るように色調を補正して撮影し、その後、当該撮影画像に写った前記劣化診断対象である油入電気機器の絶縁紙と前記平均重合度の測定値における色見本の色相の比較をすることで、当該劣化診断対象である前記油入電気機器の絶縁紙の平均重合度を前記相関関係から推定し、当該油入電気機器の劣化状態を診断することに特徴を有する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によれば、油入電気機器の劣化診断に使用する機材を安価に構成することができる。また、前記機材を構成する容器をステンレス製とすることによって、保管中や恒温槽で加熱した場合でも腐食しない。さらに、色見本と色差基準を使用して、油入電気機器の劣化状態を容易に把握することができる。しかも、既存の開放型の油入電気機器を容易に模擬できるとともに、油入電気機器を構成する絶縁紙と色見本の油浸・非油浸状態を統一することができ、劣化診断の精度を高めることができる。特に、前記絶縁紙と色見本を脱脂処理により非油浸状態とすることによって、色相が明瞭となり、より一層、劣化診断の精度を高めることができる。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、ホワイトバランスの調整をすることによって、照明や天候の違いに影響されることなく、油入電気機器を構成する絶縁紙の色相を正確に捉えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例に係る色見本作製器の断面図である。
【
図2】本発明の実施例に係る加熱時間毎の絶縁紙の平均重合度と色相の相関関係を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施例1について
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は本発明の実施形態に係る色見本の作製器Aを示している。
図1において、1は作製器Aを構成する収容容器であり、収容容器1には、劣化診断対象の油入電気機器に使用されるのと同種の絶縁紙2及び絶縁油3が収容されている。
【0016】
4は収納容器1のフランジ部5に開けられた貫通孔であり、6は収納容器1の上部開口部を閉塞する蓋である。7はフランジ部5の貫通孔4に対応する位置に開けられた蓋6の貫通孔であり、8は蓋6とフランジ部5の間に挟まれて収容容器1内の内容物の漏れを防ぐためのOリングなどのパッキンである。
【0017】
9は貫通孔4と貫通孔7に通すボルトであり、10はプレートワッシャ、11はスプリングワッシャを示している。12はボルト9に螺合されるナットであり、収容容器1と蓋2を締結している。
【0018】
13は収納容器1内の空気を収容容器1外の外気と交換するために蓋2に開けられた複数の通気孔であり、14は通気孔13に取り付けられた通気管、15は通気管14の先端に取り付けられたバルブである。
【0019】
次に上記構成の作製器Aを用いて、油入電気機器の劣化診断に使用する機材(色差基準)を作製する方法について説明する。
【0020】
上記構成の作製器Aは、既存の開放型の油入電気機器と同様に絶縁油3の分解により発生したガスを作製器Aの外に散逸できる構造となっている。
【0021】
この状態で、作製器Aを図示しない恒温槽に入れて、例えば、120~140℃で加熱し、所定時間(過去の経験則によって、劣化診断指標とする重合度が得られると予想した時間)が経過する毎に、作製器Aを恒温槽から取り出し、常温まで冷却する。この収容容器1及び蓋6は金属製であれば良いが、恒温槽で加熱されることを考慮して、保管中や加熱の影響で収容容器が腐食しないステンレス製とすることが望ましい。
【0022】
恒温槽から取り出した作製器Aからナット12、ボルト9を外し、蓋6を開けて、収容容器1内の絶縁紙2から、色見本及び平均重合度測定に必要な量の絶縁紙2を取り出す。
【0023】
必要量を取り出した後は、再度、蓋6を収容容器1に被せ、蓋6をボルト9及びナット12で収容容器1に締結した後、作製器Aを再び、恒温槽に入れて加熱し、再度、所定時間(過去の経験則によって、劣化診断指標とする重合度が得られると予想した時間)が経過したら作製器Aを恒温槽から取り出し、以降、前述したと同様の動作を繰り返す。
【0024】
一方、必要量取り出した絶縁紙2はその一部を平均重合度測定用試料として脱脂、漂白処理後、銅エチレンジアミン、または銅アンモニア溶液に溶解し粘度法によって平均重合度を測定し、取り出した絶縁紙の色相と平均重合度の関係を導く。絶縁紙2の平均重合度の測定にはGPC(液体クロマトグラフ)や光散乱などの方法を用いてもよい。
【0025】
このように、絶縁紙2を所定時間(過去の経験則によって、劣化診断指標とする重合度が得られると予想した時間)が経過する毎に必要量取り出し、その都度、脱脂処理後、平均重合度の測定が行われるので、作製器Aから取り出すまでの加熱時間に応じた絶縁紙の色相と平均重合度の関係を導くことができる。
【0026】
平均重合度測定用試料とした一部を除いた絶縁紙2(以下、残絶縁紙という)は劣化診断の色見本として活用する。JEM1463「変圧器用絶縁紙の平均重合度評価基準」において、絶縁紙の平均重合度450以下で寿命レベル、平均重合度250以下で危険レベルとの判定基準がある。このため、平均重合度250及び平均重合度450の色見本を作製して劣化診断に活用することで、油入電気機器の利用限界を判定することが可能となる。なお、残絶縁紙を脱脂処理することにより、残絶縁紙の色相を明瞭にすることができる。
【0027】
ここで、絶縁紙が加熱劣化の進行によってどのように色相の変化を生じるか説明すると、最初、薄黄色であった絶縁紙は、加熱による劣化が進行するにつれ濃い黄色から茶色に変化し、さらに劣化が進行すると黒ずんだ色に変化する。
【0028】
図2の散布図は絶縁紙2の平均重合度と色相の変化量(新品の絶縁紙と前記色見本との間の色の差を、色差という。)の相関関係を示している。
図2に示すとおり、前記相関関係は明瞭であるので、劣化診断対象である油入電気機器を構成する絶縁紙を測色計で測色すれば、
図2の散布図を利用して前記油入電気機器の劣化度の判定が可能となる。
【0029】
このとき、前記油入電気機器の絶縁紙と前記の色見本の関係は、(1)絶縁紙が油浸で色見本が非油浸の場合、(2)絶縁紙が油浸で色見本も油浸の場合、(3)絶縁紙が非油浸で色見本も非油浸の場合、(4)絶縁紙が非油浸で色見本が油浸の場合が考えられる。前記絶縁紙は油入電気機器の絶縁油に浸かった状態であるので、一般に(1)または(2)の場合の色差の関係を用いて診断する。状況が許せば変圧器の絶縁紙と前記の色見本を脱脂し双方とも非油浸状態とすることで、色相が明瞭になり両者の色差が明確になることから、より劣化診断の精度を高めることができる。
【0030】
つづいて、劣化診断対象である油入電気機器の実施例3に係る劣化診断方法の具体例を説明する。まず、劣化診断対象となる油入電気機器から絶縁油を抜く、電気機器本体を吊り上げる、一部を採取する等により絶縁物を露出させた後、油入電気機器を構成する絶縁物と白色の色見本(JIS Z8102「物体色の色名」等)を並べ、デジタルカメラ等の撮影機材を使用して、ホワイトバランスの調整を行ながら白色の色見本が適確な白さに写るように色調を補正して撮影する。
【0031】
ホワイトバランスの調整はデジタルカメラのプリセットホワイトバランスを使っても良いし、手動で設定するマニュアルホワイトバランスを使用しても良い。ホワイトバランスの調整をすることによって、照明や天候の違いに影響されることなく、油入電気機器を構成する絶縁物の色相を正確に捉えることができる。
【0032】
撮影対象となる絶縁物が狭部に存在する場合は、内視鏡ファイバースコープのような撮影機材を利用して撮影してもよい。
【0033】
このようにして撮影した画像は前述した色見本と比較され、その中から色相が一致するか最も近い色見本を特定する。次に、前述した色差基準を用いて特定した色見本に対応する平均重合度を求める。このようにして絶縁物の平均重合度を求めれば、油入電気機器の劣化度合いを診断することが可能となる。
【0034】
つづいて、劣化診断対象である油入電気機器の実施例4に係る劣化診断方法の具体例を説明する。まず、劣化診断対象となる油入電気機器から絶縁油を抜く、電気機器本体を吊り上げる、一部を採取する等により絶縁物を露出させ、新品の絶縁紙を同条件で、デジタルカメラ等の撮影機材を使用して撮影する。
【0035】
撮影した画像で、油入電気機器の絶縁紙と新品の絶縁紙の色相の色差を比較し、請求項2によって作成した平均重合度と色相の相関関係を示す散布図から、色差に当てはまる前記絶縁物の平均重合度を求めることで、油入電気機器の劣化度合いを判断することが可能となる。
【0036】
以上説明したように、本発明の劣化診断方法によれば、従来のように、油入電気機器から抽出した絶縁油を分析室に持ち帰って、ガスクロマトグラフや液体クロマトグラフによって劣化診断する必要はなく、油入電気機器が設置された現場で迅速に劣化診断をおこなうことができる。
【0037】
また、上記劣化診断は、絶縁紙と絶縁油の収容容器と、収容容器内の内容物が漏れることを防ぐ蓋体からなる作製器およびこれを加熱する恒温槽があればよいので、従来の装置と比較してその構成が簡素であり、安価に構成することができる。
【0038】
さらに、本発明の作製器A内を劣化診断対象となる油入電気機器のケース内とほぼ同じ環境に設定できるので、作製器A内で作製する色見本は劣化診断対象となる油入電気機器のケース内で劣化した絶縁紙と近似する色相及び色差となり、劣化診断の精度を高くすることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 収納容器
2 絶縁紙
3 絶縁油
4、7 貫通孔
5 フランジ部
6 蓋
8 パッキン
9 ボルト
10 プレートワッシャ
11 スプリングワッシャ
12 ナット
13 通気孔
14 通気管
15 バルブ
A 作製器