(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 3/12 20060101AFI20230906BHJP
F16H 19/04 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
B62D3/12 503D
B62D3/12 503A
F16H19/04 G
(21)【出願番号】P 2019130500
(22)【出願日】2019-07-12
【審査請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 和樹
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-087972(JP,A)
【文献】特開2009-103206(JP,A)
【文献】特開昭59-166711(JP,A)
【文献】実開昭59-043718(JP,U)
【文献】実開昭57-156621(JP,U)
【文献】実開昭57-163476(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 3/12
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵力が伝達されることにより車輪を転舵させる転舵軸と、
前記転舵軸を収容するハウジングと、
前記ハウジングに設けられ前記転舵軸を摺動自在に支持するブッシュと、
前記転舵軸に揺動自在に連結される第1及び第2タイロッドと、
前記ハウジングに設けられ前記転舵軸と前記第1タイロッドとの連結部を覆う第1ブーツと、
前記ハウジングに設けられ前記転舵軸と前記第2タイロッドとの連結部を覆う第2ブーツと、を備え、
前記ブッシュ及び前記ハウジングの何れか一方には他方に向かって突出する突出部が形成され、他方には前記突出部が挿入される規制溝が前記転舵軸の軸方向に沿って形成され、
前記第1ブーツ内の空間と前記第2ブーツ内の空間とは、前記規制溝を通じて常に連通
し、
前記突出部が前記規制溝に挿入されることにより前記ブッシュが前記転舵軸の軸心を中心に回転することが規制されることを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
操舵力が伝達されることにより車輪を転舵させる転舵軸と、
前記転舵軸を収容するハウジングと、
前記ハウジングに設けられ前記転舵軸を摺動自在に支持するブッシュと、
前記転舵軸に揺動自在に連結される第1及び第2タイロッドと、
前記ハウジングに設けられ前記転舵軸と前記第1タイロッドとの連結部を覆う第1ブーツと、
前記ハウジングに設けられ前記転舵軸と前記第2タイロッドとの連結部を覆う第2ブーツと、を備え、
前記ブッシュ及び前記ハウジングの何れか一方には他方に向かって突出する突出部が形成され、他方には前記突出部が挿入される規制溝が前記転舵軸の軸方向に沿って形成され、
前記第1ブーツ内の空間と前記第2ブーツ内の空間とは、前記規制溝を通じて常に連通し、
前記突出部は前記ブッシュに形成され、前記規制溝は前記ハウジングに形成され、
前記ハウジングは、前記規制溝が前記転舵軸の軸方向において開口する開口端面を有し、
前記軸方向における前記規制溝の長さは、前記ハウジング内に挿入された前記ブッシュの挿入先端面と前記開口端面との間の長さよりも長いことを特徴とするステアリング装置。
【請求項3】
前記ブッシュは、筒状の本体部と、前記本体部から径方向外側に突出して形成され前記ハウジングに係止される抜止部と、を有し、
前記突出部は、前記抜止部から径方向外側に突出して形成されることを特徴とする請求項2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
操舵力が伝達されることにより車輪を転舵させる転舵軸と、
前記転舵軸を収容するハウジングと、
前記ハウジングに設けられ前記転舵軸を摺動自在に支持するブッシュと、
前記転舵軸に揺動自在に連結される第1及び第2タイロッドと、
前記ハウジングに設けられ前記転舵軸と前記第1タイロッドとの連結部を覆う第1ブーツと、
前記ハウジングに設けられ前記転舵軸と前記第2タイロッドとの連結部を覆う第2ブーツと、を備え、
前記ブッシュ及び前記ハウジングの何れか一方には他方に向かって突出する突出部が形成され、他方には前記突出部が挿入される規制溝が前記転舵軸の軸方向に沿って形成され、
前記第1ブーツ内の空間と前記第2ブーツ内の空間とは、前記規制溝を通じて常に連通し、
前記突出部は前記ハウジングに形成され、前記規制溝は前記ブッシュに形成され、
前記ハウジングは、前記ブッシュが組み付けられる組付孔が前記転舵軸の軸方向において開口する開口端面を有し、
前記軸方向における前記組付孔の長さは、前記ハウジング内に挿入された前記ブッシュの挿入先端面と前記開口端面との間の長さよりも長いことを特徴とするステアリング装置。
【請求項5】
前記ブッシュは、筒状の本体部と、前記本体部から径方向外側に突出して形成され前記ハウジングに係止される抜止部と、を有し、
前記規制溝は、前記本体部及び前記抜止部に形成されることを特徴とする請求項4に記載のステアリング装置。
【請求項6】
前記規制溝により形成され前記第1ブーツ内の空間と前記第2ブーツ内の空間とを連通する通路の断面積は、前記転舵軸の往復動に応じて前記第1ブーツ内の空間と前記第2ブーツ内の空間との間を移動する空気に付与される抵抗に基づいて設定されることを特徴とする請求項1から5の何れか1つに記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、操舵力が伝達されることにより車輪を転舵させるラック軸と、ラック軸を収容するハウジングと、ハウジングに設けられラック軸を摺動自在に支持するブッシュと、ラック軸に揺動自在に連結されるタイロッドと、ラック軸とタイロッドとの連結部を覆うブーツと、を備えたステアリング装置が開示されている。このステアリング装置では、ラック軸が往復動すると、この動きに応じて各ブーツ内の空間が拡張ないし収縮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるステアリング装置では、ブッシュとハウジングとの間やブッシュとラック軸との間には、グリースや潤滑油が存在することによって、空気が通過できる隙間がほとんどない。このため、各ブーツ内の空間はほぼ密閉された状態となる。このようにブーツ内の空間が密閉されると、ラック軸の往復動に応じてブーツが伸縮したとしてもブーツ内の空間に対して空気が出入りできないことから、ゴムや樹脂によって形成されたブーツが極度に変形し、破損に至るおそれがある。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ブーツの変形を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ステアリング装置が、操舵力が伝達されることにより車輪を転舵させる転舵軸と、転舵軸を収容するハウジングと、ハウジングに設けられ転舵軸を摺動自在に支持するブッシュと、転舵軸に揺動自在に連結される第1及び第2タイロッドと、ハウジングに設けられ転舵軸と第1タイロッドとの連結部を覆う第1ブーツと、ハウジングに設けられ転舵軸と第2タイロッドとの連結部を覆う第2ブーツと、を備え、ブッシュ及びハウジングの何れか一方には他方に向かって突出する突出部が形成され、他方には突出部が挿入される規制溝が転舵軸の軸方向に沿って形成され、第1ブーツ内の空間と第2ブーツ内の空間とは、規制溝を通じて常に連通し、突出部が規制溝に挿入されることによりブッシュが転舵軸の軸心を中心に回転することが規制されることを特徴とする。
【0007】
この発明では、第1ブーツ内の空間と第2ブーツ内の空間とが、ブッシュの回転を規制するために設けられた規制溝を通じて常に連通する。このように規制溝を利用して第1ブーツ内の空間と第2ブーツ内の空間とを常時連通させ、2つのブーツ間で空気が移動することを許容することによって、転舵軸の往復動に応じて各ブーツ内の空間が拡張ないし収縮する際に、ブーツが極度に変形することを抑制することができる。
【0008】
本発明は、突出部がブッシュに形成され、規制溝がハウジングに形成され、ハウジングが、規制溝が転舵軸の軸方向において開口する開口端面を有し、軸方向における規制溝の長さは、ハウジング内に挿入されたブッシュの挿入先端面と開口端面との間の長さよりも長く設定されることを特徴とする。
【0009】
この発明では、開口端面からの規制溝の長さが、開口端面からブッシュの挿入先端面までの長さよりも長く設定される。このため、規制溝は、転舵軸が収容される収容孔内の空間に対して開口した状態となる。このように規制溝を形成することにより、第1ブーツ内の空間と第2ブーツ内の空間とを収容孔内の空間を通じて常時連通させることが可能となる。
【0010】
本発明は、ブッシュが、筒状の本体部と、本体部から径方向外側に突出して形成されハウジングに係止される抜止部と、を有し、突出部が、抜止部から径方向外側に突出して形成されることを特徴とする。
【0011】
この発明では、ブッシュの回転を規制するために設けられる突出部が、抜止部から径方向外側に突出して形成される。このように突出部を単独で形成するのではなく、抜止部に形成した構成とすることによって、ブッシュの形状が簡素化され、ブッシュの製造コストを低減させることができる。
【0012】
本発明は、突出部がハウジングに形成され、規制溝がブッシュに形成され、ハウジングが、ブッシュが組み付けられる組付孔が転舵軸の軸方向において開口する開口端面を有し、軸方向における組付孔の長さが、ハウジング内に挿入されたブッシュの挿入先端面と開口端面との間の長さよりも長いことを特徴とする。
【0013】
この発明では、開口端面からの組付孔の長さが、開口端面からブッシュの挿入先端面までの長さよりも長く設定される。このため、規制溝は、ハウジングに遮られることなく、転舵軸が収容される収容孔内の空間に対して開口した状態となる。このように規制溝を形成することにより、第1ブーツ内の空間と第2ブーツ内の空間とを収容孔内の空間を通じて常時連通させることが可能となる。
【0014】
本発明は、ブッシュが、筒状の本体部と、本体部から径方向外側に突出して形成されハウジングに係止される抜止部と、を有し、規制溝が、本体部及び抜止部に形成されることを特徴とする。
【0015】
この発明では、ブッシュの回転を規制するために設けられる規制溝が、本体部及び抜止部に形成される。このように規制溝をブッシュの全長にわたって形成することによって、ブッシュの形状が簡素化され、ブッシュの製造コストを低減させることができる。
【0016】
本発明は、規制溝により形成され第1ブーツ内の空間と第2ブーツ内の空間とを連通する通路の断面積が、転舵軸の往復動に応じて第1ブーツ内の空間と第2ブーツ内の空間との間を移動する空気に付与される抵抗に基づいて設定されることを特徴とする。
【0017】
この発明では、規制溝により形成される通路の断面積の大きさが、第1ブーツ内の空間と第2ブーツ内の空間との間を移動する空気に付与される抵抗に基づいて設定される。第1ブーツ内の空間と第2ブーツ内の空間との間を移動する空気に付与される抵抗が所定値よりも小さくなるように通路の断面積の大きさを設定することによって、第1ブーツ内の空間と第2ブーツ内の空間との間で空気を円滑に行き来させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ブーツの変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係るステアリング装置の構成図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿う断面の一部を示した部分断面図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿う断面の一部を示した部分断面図である。
【
図4】
図2のIV-IV線に沿う断面の一部を示した部分断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るステアリング装置の変形例の
図3に相当する部分の部分断面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るステアリング装置の変形例の
図4に相当する部分の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0021】
図1及び
図2を参照して、本発明の実施形態に係るステアリング装置100について説明する。
図1は、ステアリング装置100の構成図であり、
図2は、
図1のII-II線に沿う断面の一部を示した部分断面図である。
【0022】
ステアリング装置100は、車両に搭載され、運転者がステアリングホイール10に加える操舵トルクを変換して車輪1を転舵する装置である。以下では、ステアリング装置100が、操舵力を補助する機能を有する電動パワーステアリング装置である場合について説明する。
【0023】
図1に示すように、ステアリング装置100は、ステアリングホイール10から入力される操舵トルクによって回転するステアリングシャフト20と、ステアリングシャフト20の回転に伴って車輪1を転舵させる転舵軸としてのラック軸30と、を備える。
【0024】
ステアリングシャフト20は、運転者がステアリングホイール10を操作するステアリング操作に伴って回転する入力シャフト21と、ラック軸30を変位させる出力シャフト22と、入力シャフト21と出力シャフト22とを連結するトーションバー23と、により構成される。
【0025】
ラック軸30は、車両の左右方向に延びて設けられる軸状部材であり、第1タイロッド41a及び第1ナックルアーム42aを介して一方の車輪1に連結され、第2タイロッド41b及び第2ナックルアーム42bを介して他方の車輪1に連結される。
【0026】
第1及び第2タイロッド41a,41bは、ラック軸30の両端部に設けられる連結部としての第1及び第2ボールジョイント43a,43bを介してラック軸30に対してそれぞれ揺動自在に連結される。なお、ラック軸30と第1及び第2タイロッド41a,41bとを連結する連結部としては、第1及び第2ボールジョイント43a,43bに限定されず、他の形式の自在継手が用いられてもよい。
【0027】
出力シャフト22とラック軸30とは、出力シャフト22の端部に設けられるピニオンギヤ22aと、ラック軸30に設けられるラックギヤ30aと、からなるラックアンドピニオン機構を介して互いに連結される。ピニオンギヤ22aとラックギヤ30aとは互いに噛み合っており、出力シャフト22のトルクは、ピニオンギヤ22a及びラックギヤ30aを介してラック軸30の軸心O1方向の荷重に変換されてラック軸30に伝達される。これにより、ラック軸30は、伝達されるトルクにより軸心O1方向に変位し、第1及び第2タイロッド41a,41bを介して車輪1を転舵する。
【0028】
また、ステアリング装置100は、ステアリング操作に応じて操舵力を補助するために駆動される電動モータ50と、電動モータ50の回転を減速してステアリングシャフト20に伝達する減速部52と、を備える。
【0029】
減速部52は、電動モータ50により駆動されるウォームシャフト53と、出力シャフト22に設けられるウォームホイール54と、からなるウォームギヤ機構である。ウォームシャフト53とウォームホイール54とは互いに噛み合っており、電動モータ50のトルクは、ウォームシャフト53及びウォームホイール54を介して出力シャフト22に伝達される。電動モータ50から出力シャフト22に伝達されたトルクは、ピニオンギヤ22a及びラックギヤ30aを介してラック軸30に更に伝達される。
【0030】
また、ステアリング装置100は、トーションバー23に作用するトルクを検出するトルクセンサ62と、トルクセンサ62の検出値に応じて電動モータ50の駆動を制御するコントローラ60と、を更に備える。
【0031】
コントローラ60は、演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)と、CPUにより実行される制御プログラム等を記憶するROM(Read-Only Memory)と、CPUの演算結果等を記憶するRAM(random access memory)と、を含むマイクロコンピュータで構成される。コントローラ60は、単一のマイクロコンピュータで構成されていてもよいし、複数のマイクロコンピュータで構成されていてもよい。
【0032】
トルクセンサ62は、運転者によるステアリング操作に伴って入力シャフト21に付与される操舵トルクを検出し、検出した操舵トルクに対応する電圧信号をコントローラ60に出力する。コントローラ60は、トルクセンサ62からの電圧信号に基づいて、電動モータ50が出力するトルクを演算し、そのトルクが発生するように電動モータ50の駆動を制御する。
【0033】
このように、上記構成のステアリング装置100では、入力シャフト21に付与される操舵トルクをトルクセンサ62にて検出し、その検出結果に基づいて電動モータ50の駆動をコントローラ60にて制御して運転者のステアリング操作をアシストすることが可能である。
【0034】
また、ステアリング装置100は、
図2に示すように、ラック軸30を収容するハウジングとしてのラックハウジング31と、ラックハウジング31に設けられラック軸30を摺動自在に支持する第1及び第2ブッシュ35,36と、ラック軸30をピニオンギヤ22aに向けて押圧する押圧機構38と、ラック軸30と第1及び第2タイロッド41a,41bとを連結する第1及び第2ボールジョイント43a,43bを覆う第1及び第2ブーツ37a,37bと、をさらに備える。
【0035】
ラックハウジング31は、ラック軸30を収容する第1収容孔31aが貫通して形成された筒状部材である。ラックハウジング31には、第1収容孔31aに交差する方向に形成されピニオンギヤ22aを収容する第2収容孔31bと、ラック軸30の軸心O1を挟んでピニオンギヤ22aとラックギヤ30aとの噛合部の反対側に形成され押圧機構38を収容する第3収容孔31cと、がさらに形成されている。
【0036】
また、第1収容孔31aの一端には、第1ブッシュ35が組み付けられる第1組付孔32が設けられ、第1収容孔31aの他端には、第2ブッシュ36が組み付けられる第2組付孔33が設けられる。第1組付孔32は、第1ブッシュ35の抜け止め及び位置決めを行うための環状溝32aを有し、第2組付孔33は、第2ブッシュ36の抜け止め及び位置決めを行うための環状溝33aを有する。
【0037】
また、第1組付孔32が開口する端面は、ラック軸30に結合された第1ボールジョイント43aが当接する第1規制面31dとなっており、第2組付孔33が開口する端面は、ラック軸30に結合された第2ボールジョイント43bが当接する第2規制面31eとなっている。このため、ラック軸30の軸方向への移動は、ラックハウジング31に設けられた第1及び第2規制面31d,31eに第1及び第2ボールジョイント43a,43bが当接することによって制限される。
【0038】
第1及び第2ブーツ37a,37bは、ゴムまたは樹脂(エラストマー)により形成された蛇腹状の部材である。第1ブーツ37aは、一端がラックハウジング31の端部に締結され、他端が第1タイロッド41aに締結され、ラック軸30と第1タイロッド41aとを連結する第1ボールジョイント43aを覆い、第2ブーツ37bは、一端がラックハウジング31の端部に締結され、他端が第2タイロッド41bに締結され、ラック軸30と第2タイロッド41bとを連結する第2ボールジョイント43bを覆う。
【0039】
このように第1及び第2ブーツ37a,37bを設けることで、ラックハウジング31内に水や異物が侵入することを防止することができる。また、第1及び第2ブーツ37a,37bを設けることで、第1及び第2ボールジョイント43a,43bの潤滑性を保持するとともに、第1及び第2ボールジョイント43a,43bにおいて異物等の噛み込みが生じることを防止することができる。
【0040】
押圧機構38は、ラック軸30に摺接するプレッシャパッド38aと、ラックハウジング31に螺合するアジャスタ38bと、プレッシャパッド38aとアジャスタ38bとの間に圧縮された状態で介装されピニオンギヤ22aに向けてプレッシャパッド38aを付勢するスプリング38cと、を有する。
【0041】
アジャスタ38bの螺合位置を変更することにより、スプリング38cのセット荷重が調整され、ラック軸30をピニオンギヤ22aに押し付ける力が変化する。このようにラック軸30をピニオンギヤ22aに向けて付勢することにより、ラックギヤ30aとピニオンギヤ22aとの間のバックラッシュが低減され、ピニオンギヤ22aの回転に応じてラック軸30が往復動する際の歯打ち音が低減される。
【0042】
第1ブッシュ35は、樹脂で形成される円筒状の部材であり、筒状の本体部35aと、本体部35aの一端から径方向外側に向けて突出して形成されるフランジ状の抜止部35bと、を有する。第1ブッシュ35は、第1組付孔32に形成された環状溝32aに抜止部35bが嵌め込まれることによってラックハウジング31に固定される。
【0043】
第2ブッシュ36は、第1ブッシュ35と同様の形状を有し、第2組付孔33に形成された環状溝33aに抜止部36bが嵌め込まれることによってラックハウジング31に固定される。
【0044】
上記形状の第1及び第2ブッシュ35,36に摺動支持されるラック軸30は、
図2に示すように、ラックギヤ30aが設けられるギヤ部30bと、ギヤ部30bの両端に設けられる第1及び第2円筒部30c,30dと、を有しており、第1円筒部30cと第1円筒部30cに隣接するギヤ部30bとが第1ブッシュ35により摺動支持され、第2円筒部30dと第2円筒部30dに隣接するギヤ部30bとが第2ブッシュ36により摺動支持される。
【0045】
ここで、第1及び第2ブッシュ35,36とラックハウジング31との間や第1及び第2ブッシュ35,36とラック軸30との間には、グリースや潤滑油が存在することによって、空気が通過できる隙間がほとんどない。このため、第1及び第2ブーツ37a,37b内の空間はほぼ密閉された状態となる。
【0046】
第1及び第2ブーツ37a,37b内の空間に対して空気が出入りできないと、例えば、ラック軸30の往復動に応じて第1及び第2ブーツ37a,37bが伸びたとしても、第1及び第2ブーツ37a,37b内に空気が流入しないため、第1及び第2ブーツ37a,37bが径方向内側に凹み、第1及び第2ボールジョイント43a,43bに接触するおそれがある。
【0047】
また、第1及び第2ブーツ37a,37b内の空間に対して空気が出入りできないと、例えば、ラック軸30の往復動に応じて第1及び第2ブーツ37a,37bが縮んだとしても、第1及び第2ブーツ37a,37b内から空気が流出しないため、第1及び第2ブーツ37a,37bが径方向外側に膨らみ、周辺に配置される部材に接触するおそれがある。
【0048】
このように、他の部材との接触や極度の変形が繰り返されると、やがて第1及び第2ブーツ37a,37bが破損し、ラックハウジング31内への水等の侵入を防止することができなくなり、結果として、ステアリング装置100が正常に機能しなくなってしまうおそれがある。
【0049】
また、車幅が比較的狭い車両、例えば、不整地を含む様々な地形を走行可能な全地形対応車(ATV : All Terrain Vehicle)や多用途四輪車(SSV : Side by Side Vehicle)では、車幅方向におけるラックハウジング31の長さが比較的短くなるため、第1及び第2ブッシュ35,36は、ラック軸30の第1及び第2円筒部30c,30dだけではなく、ギヤ部30bを支持することになる。
【0050】
そして、第1及び第2ブッシュ35,36が第1及び第2円筒部30c,30dを支持しているときは、第1及び第2ブーツ37a,37b内の空間はほぼ密閉された状態となる一方、第1及び第2ブッシュ35,36がギヤ部30bを支持しているときは、第1及び第2ブーツ37a,37b内の空間は第1収容孔31a内の空間と連通した状態となる。
【0051】
このように、第1及び第2ブーツ37a,37b内の空間が、密閉された状態から第1収容孔31a内の空間と連通した状態へと切り換わる際には、第1及び第2ブーツ37a,37b内の空間に対して空気の流出入が生じる。このため、第1及び第2ブーツ37a,37bが急激に変形するおそれがあるとともに、空気が急速に流れる音が異音として生じてしまうおそれがある。
【0052】
本実施形態では、上述のような現象が生じることを避けるために、第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間とを常時連通させ、第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間との間において空気の行き来を可能としている。
【0053】
次に、
図3及び
図4を参照して、第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間とを連通させる構成について説明する。
図3は、
図2のIII-III線に沿う断面の一部を示した部分図であり、
図4は、
図2のIV-IV線に沿う断面の一部を示した部分断面図である。
【0054】
図3に示すように、第1ブッシュ35は、上述の抜止部35bに加えて、抜止部35bから径方向外側に突出して設けられる突出部35cと、軸心O1を挟んで突出部35cとは反対側に設けられるスリット35dと、を有する。
【0055】
スリット35dは第1ブッシュ35の全長にわたって螺旋状に形成された切り欠きであり、第1ブッシュ35をラックハウジング31に組み付ける際に、第1ブッシュ35の外径を縮小させるために設けられる。
【0056】
スリット35dが設けられる部分では、スリット35dの面積分だけラック軸30との接触面積が小さくなることから面圧が大きくなる。このため、この部分に大きな荷重が作用すると第1ブッシュ35が破損するおそれがあることから、スリット35dが設けられる部分が所定の位置、例えば、比較的小さな荷重が作用する位置に配置されるように、第1ブッシュ35の周方向における位置決めを行うために突出部35cが設けられる。換言すれば、突出部35cは、第1ブッシュ35が軸心O1を中心に回転することを防止するために設けられる。
【0057】
一方で、ラックハウジング31の第1組付孔32には、突出部35cが挿入される規制溝32bが形成される。規制溝32bは、底面32cと、互いに対向する側面32dと、を有する溝であり、第1組付孔32の内周面にラック軸30の軸心O1に沿って形成される。
【0058】
規制溝32bに第1ブッシュ35の突出部35cが挿入されると、突出部35cの周方向への移動は規制溝32bの側面32dによって規制される。この結果、第1ブッシュ35は軸心O1を中心に回転することが規制され、スリット35dが設けられる部分は所定の位置に配置された状態に維持される。
【0059】
なお、一般的に車両が走行する際、ラック軸30は、走行中の振動によって鉛直方向上方や下方に向けてラックハウジング31に押し付けられる。このため、規制溝32bと突出部35cとの位置関係は、スリット35dが設けられる部分が鉛直方向上方や下方を避けて配置されるように設定される。
【0060】
また、規制溝32bは、第1規制面31dにおいて開口しており、この開口端面である第1規制面31dからのラック軸30の軸心O1方向における規制溝32bの長さである第1長さL1は、第1規制面31dから第1組付孔32に組み付けられた第1ブッシュ35の挿入先端面35eまでの間の長さである第2長さL2よりも長く設定される。
【0061】
このため、規制溝32bは、第1ブッシュ35が設けられる部分よりもラックハウジング31の中央寄りの部分において、第1収容孔31aに開口する。換言すると、規制溝32bは、第1ブッシュ35に遮られることなく、第1収容孔31a内の空間と連通した状態となっている。
【0062】
また、
図3に示すように、ラック軸30の軸心O1から規制溝32bの底面32cまでの長さである第3長さL3は、底面32cと突出部35cとの間に空気が流通可能な通路が形成されるように、ラック軸30の軸心O1から突出部35cの先端までの長さである第4長さL4よりも長く設定される。
【0063】
このように規制溝32bを形成したことによって、第1規制面31dが臨む空間、すなわち、第1ブーツ37a内の空間は、底面32cと突出部35cとの間に形成された通路と、第1ブッシュ35の挿入先端面35eよりも先まで延びて形成された規制溝32bと、を通じて、第1収容孔31a内の空間と常時連通する。
【0064】
なお、規制溝32bの底面32cには、何れの部材も接触しないことから、ラックハウジング31を鋳造により製造する場合、底面32cは鋳肌面のままであってもよい。この場合、底面32cは、軸心O1に対して平行ではなく、抜き勾配に応じて軸心O1に対してやや傾斜して形成される。
【0065】
一方で、第2ブッシュ36が組み付けられる第2組付孔33にも規制溝32bと同様の規制溝(不図示)が形成される。このため、第2ブーツ37b内の空間も、第2組付孔33に形成された規制溝を通じて、第1収容孔31a内の空間と常時連通する。
【0066】
この結果、第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間とは、第1収容孔31a内の空間を通じて常時連通した状態となる。
【0067】
したがって、例えば、
図2において、ラック軸30が右方向に移動し、第1ブーツ37aが伸び、第2ブーツ37bが縮んだ場合、収縮した第2ブーツ37b内の空間の空気は、第1収容孔31a内の空間を通じて、拡張した第1ブーツ37a内の空間へと流れることになる。このため、第1ブーツ37aが径方向内側に凹んだり、第2ブーツ37bが径方向外側に膨らんだりすることが防止され、結果として、第1及び第2ブーツ37a,37bが破損することを防止することができる。
【0068】
また、第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間とが常時連通していることから、第1及び第2ブッシュ35,36が第1及び第2円筒部30c,30dを支持した状態から第1及び第2ブッシュ35,36がギヤ部30bを支持した状態に切り換わったとしても、第1及び第2ブーツ37a,37b内の空間に対する空気の流れはあまり変化しない。このため、第1及び第2ブーツ37a,37bが急激に変形することを防止することができるとともに、空気が流れる音が生じることを抑制することができる。
【0069】
また、本実施形態では、ラック軸30の往復動に応じて第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間との間で空気が円滑に行き来できるようにするために、第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間とを連通する通路の最小通路断面積の大きさを、第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間との間を移動する空気に付与される流路抵抗に基づいて設定している。
【0070】
具体的には、例えば、底面32cと突出部35cとの間に形成される通路の断面積が最も小さい場合、この部分を最大流量の空気が流れる際に、空気の流れに対して付与される流路抵抗の大きさが所定値以下となるように第3長さL3の長さが設定される。例えば、第3長さL3の長さと第4長さL4の長さとの差を大きくし、底面32cと突出部35cとの間に形成される通路の断面積を大きくするほど流路抵抗を小さくすることができる。つまり、第3長さL3の長さを第4長さL4の長さに対して相対的に長くするほど流路抵抗を小さくすることが可能である。しかしながら、第3長さL3の長さは、ラックハウジング31の肉厚の大きさによって制限される。また、第4長さL4の長さを第3長さL3の長さに対して相対的に短くするほど流路抵抗を小さくすることが可能である。しかしながら、第4長さL4の長さは、突出部35cが回り止め機能を発揮し得る範囲内に制限される。
【0071】
また、例えば、挿入先端面35eと規制溝32bとの間に形成される通路の断面積が最も小さい場合、この部分を最大流量の空気が流れる際に、空気の流れに対して付与される流路抵抗の大きさが所定値以下となるように第1長さL1の長さが設定される。第1長さL1を長くするほど流路抵抗を小さくすることができるが、第1長さL1の長さは、ラックハウジング31に形成される第2収容孔31b及び第3収容孔31cの位置及び大きさによって制限される。
【0072】
なお、流路抵抗の所定値の大きさは、各ブーツ37a,37bの変形状態を考慮して実験的に設定される。具体的には、ラック軸30を最高速度で移動させた際の各ブーツ37a,37bの径方向外側及び径方向内側への変形量を、流路抵抗を変化させて計測し、計測された変形量が許容範囲内となったときの流路抵抗が所定値として設定される。
【0073】
このように第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間とを連通する通路の最小通路断面積の大きさ、具体的には、第1ブッシュ35と規制溝32bとの間に形成される通路や第2ブッシュ36と規制溝との間に形成される通路の最小通路断面積の大きさを適宜設定することによって、各ブーツ37a,37bの変形を確実に抑制することができる。
【0074】
以上の実施形態によれば以下の効果を奏する。
【0075】
ステアリング装置100では、第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間とが、ブッシュ35,36の回転を規制するためにラックハウジング31に設けられた規制溝32bを通じて常に連通する。このように規制溝32bを利用して第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間とを常時連通させ、2つのブーツ37a,37b間で空気が移動することを許容することによって、ラック軸30の往復動に応じて各ブーツ37a,37b内の空間が拡張ないし収縮する際に、ブーツ37a,37bが極度に変形してしまうことを抑制することができる。
【0076】
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0077】
上記実施形態では、ラック軸30を摺動支持するブッシュ35,36が2つ設けられている。これに代えて、ブッシュは1つだけであってもよい。
【0078】
また、上記実施形態では、転舵軸がラックギヤ30aを有するラック軸30である。転舵軸はラック軸30に限定されず、何らかの伝達機構を介して車輪1を転舵させるための操舵力が伝達される軸状部材であれば、ラックギヤ30aを有しないものであってもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、突出部35cは、第1及び第2ブッシュ35,36に形成され、突出部35cが挿入される規制溝32bは、ラックハウジング31の第1組付孔32に形成されている。これに代えて、
図5及び
図6に示すように、突出部132bをラックハウジング31側に形成し、規制溝135cを第1及び第2ブッシュ135,136側に形成した構成としてもよい。以下に、
図5及び
図6に示す変形例について説明する。なお、
図5は、
図3に示される断面に相当する断面を示した図であり、
図6は、
図4に示される断面に相当する断面を示した図である。
【0080】
この変形例における第1ブッシュ135は、樹脂で形成される円筒状の部材であり、筒状の本体部135aと、本体部135aの一端から径方向外側に向けて突出して形成されるフランジ状の抜止部135bと、を有する。第1ブッシュ135は、第1収容孔31aの一端に形成された第1組付孔132の抜止溝132aに抜止部135bが嵌め込まれることによってラックハウジング31に固定される。
【0081】
また、第1ブッシュ135は、上述の抜止部135bに加えて、抜止溝132aに設けられた突出部132bが挿入される規制溝135cと、軸心O1を挟んで規制溝135cとは反対側に設けられるスリット135dと、を有する。規制溝135cは、ラック軸30の軸心O1に沿って本体部135a及び抜止部135bに形成された溝であり、第1ブッシュ135の全長にわたって設けられる。
【0082】
突出部132bは、抜止溝132aの底面から軸心O1に向かって突出するように形成された突起であり、その先端面は、第1組付孔132の内周面と面一となるように形成される。換言すれば、抜止溝132aは、
図5に示されるように、突出部132bとなる部分が残るように断面視においてC字状に形成される。
【0083】
このように形成された突出部132bが第1ブッシュ135の規制溝135cに挿入されると、規制溝135cの側面135fが突出部132bに当接することよって、第1ブッシュ135が軸心O1を中心に回転することが規制される。また、第1ブッシュ135の回転が規制されることによって、スリット135dが設けられる部分は、所定の位置に配置された状態に維持される。
【0084】
また、
図6に示すように、第1組付孔132の開口端面である第1規制面31dからのラック軸30の軸心O1方向における第1組付孔132の長さである第5長さL5は、第1規制面31dから第1組付孔132に組み付けられた第1ブッシュ135の挿入先端面135eまでの間の長さである第6長さL6よりも長く設定される。このため、挿入先端面135eに及んで形成される規制溝135cは、ラックハウジング31に遮られることなく、第1収容孔31a内の空間と連通した状態となる。
【0085】
また、
図5に示すように、ラック軸30の軸心O1から規制溝135cの底面までの長さである第8長さL8は、規制溝135cの底面と突出部132bとの間に空気が流通可能な通路が形成されるように、ラック軸30の軸心O1から突出部132bの先端までの長さである第7長さL7よりも短く設定される。
【0086】
このように規制溝135cを形成したことによって、第1規制面31dが臨む空間、すなわち、第1ブーツ37a内の空間は、規制溝135cの底面と突出部132bとの間に形成された通路と、規制溝135cと第1組付孔132との間に形成された通路と、を通じて、第1収容孔31a内の空間と常時連通する。
【0087】
一方で、図示しない第2ブッシュ136及び第2ブッシュ136が組み付けられる図示しない第2組付孔133も同様の形状に形成される。このため、第2ブーツ37b内の空間も、第2ブッシュ136に形成された規制溝を通じて、第1収容孔31a内の空間と常時連通する。
【0088】
この結果、この変形例においても、第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間とは、第1収容孔31a内の空間を通じて常時連通した状態となることから、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0089】
また、この変形例においても、ラック軸30の往復動に応じて第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間との間で空気が円滑に行き来できるようにするために、第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間とを連通する通路の最小通路断面積の大きさは、第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間との間を移動する空気に付与される流路抵抗に基づいて設定される。
【0090】
なお、上記変形例では、規制溝135cは、ラック軸30の軸心O1に沿って本体部135aと抜止部135bとに形成されているが、抜止部135bのみに規制溝135cを形成した場合であっても、規制溝135cを通じて2つのブーツ37a,37b間で空気が十分に移動可能であれば、本体部135aには規制溝135cを形成しなくともよい。また、抜止部135bのみに規制溝135cを形成した場合、第1ブーツ37a内の空間と第1収容孔31a内の空間とを連通する通路の最小通路断面積の大きさが小さくなるおそれがあることから、当該通路の最小通路断面積を十分な大きさとするために、抜止部135bに形成された規制溝135cと第1収容孔31a内の空間とを連通する溝や抜止部135bに形成された規制溝135cと第1ブーツ37a内の空間とを連通する溝を第1組付孔132の内周面に形成してもよい。
【0091】
また、上記実施形態と上記変形例とを組み合わせ、第1及び第2ブッシュの何れか一方には突出部を設け、他方には規制溝を設けた構成としてもよい。
【0092】
以下、本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0093】
ステアリング装置100は、操舵力が伝達されることにより車輪1を転舵させるラック軸30と、ラック軸30を収容するラックハウジング31と、ラックハウジング31に設けられラック軸30を摺動自在に支持する第1及び第2ブッシュ35,36,135,136と、ラック軸30に揺動自在に連結される第1及び第2タイロッド41a,41bと、ラックハウジング31に設けられラック軸30と第1タイロッド41aとの連結部を覆う第1ブーツ37aと、ラックハウジング31に設けられラック軸30と第2タイロッド41bとの連結部を覆う第2ブーツ37bと、を備え、第1及び第2ブッシュ35,36,135,136及びラックハウジング31の何れか一方には他方に向かって突出する突出部35c,132bが形成され、他方には突出部35c,132bが挿入される規制溝32b,135cがラック軸30の軸方向に沿って形成され、第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間とは、規制溝32b,135cを通じて常に連通する。
【0094】
この構成では、第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間とが、ブッシュ35,36の回転を規制するために設けられた規制溝32b,135cを通じて常に連通する。このように規制溝32b,135cを利用して第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間とを常時連通させ、2つのブーツ37a,37b間で空気が移動することを許容することによって、ラック軸30の往復動に応じて各ブーツ37a,37b内の空間が拡張ないし収縮する際に、ブーツ37a,37bが極度に変形してしまうことを抑制することができる。
【0095】
また、突出部35cは第1及び第2ブッシュ35,36に形成され、規制溝32bはラックハウジング31に形成され、ラックハウジング31は、規制溝32bがラック軸30の軸心O1方向において開口する開口端面としての第1及び第2規制面31d,31eを有し、軸心O1方向における規制溝32bの長さである第1長さL1は、ラックハウジング31内に挿入された第1及び第2ブッシュ35,36の挿入先端面35eと第1及び第2規制面31d,31eとの間の長さである第2長さL2よりも長く設定される。
【0096】
この構成では、開口端面である第1及び第2規制面31d,31eからのラック軸30の軸心O1方向における規制溝32bの長さである第1長さL1が、第1及び第2規制面31d,31eから第1及び第2組付孔32,33に組み付けられた第1及び第2ブッシュ35,36の挿入先端面35eまでの間の長さである第2長さL2よりも長く設定される。このため、規制溝32bは、第1及び第2ブッシュ35,36が設けられる部分よりもラックハウジング31の中央寄りの部分において第1収容孔31aに開口し、第1収容孔31a内の空間と常時連通した状態となる。このように規制溝32bを形成することによって、第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間とを第1収容孔31a内の空間を通じて常時連通させることが可能となる。
【0097】
また、第1及び第2ブッシュ35,36は、筒状の本体部35aと、本体部35aから径方向外側に突出して形成されラックハウジング31に係止される抜止部35bと、を有し、突出部35cは、抜止部35bから径方向外側に突出して形成される。
【0098】
この構成では、第1及び第2ブッシュ35,36の回転を規制するために設けられる突出部35cが、抜止部35bから径方向外側に突出して形成される。このように突出部35cを抜止部35bとは別に単独で形成するのではなく、突出部35cを抜止部35bに連続して形成した構成とすることによって、第1及び第2ブッシュ35,36の形状が簡素化され、第1及び第2ブッシュ35,36の製造コストを低減させることができる。
【0099】
また、突出部132bはラックハウジング31に形成され、規制溝135cは第1及び第2ブッシュ135,136に形成され、ラックハウジング31は、第1及び第2ブッシュ135,136が組み付けられる第1及び第2組付孔132,133がラック軸30の軸心O1方向において開口する開口端面としての第1及び第2規制面31d,31eを有し、軸心O1方向における第1及び第2組付孔132,133の長さである第5長さL5は、ラックハウジング31内に挿入された第1及び第2ブッシュ135,136の挿入先端面135eと第1及び第2規制面31d,31eとの間の長さである第6長さL6よりも長く設定される。
【0100】
この構成では、開口端面である第1及び第2規制面31d,31eからのラック軸30の軸心O1方向における第1及び第2組付孔132,133の長さである第5長さL5が、第1及び第2規制面31d,31eから第1及び第2組付孔132,133に組み付けられた第1及び第2ブッシュ135,136の挿入先端面135eまでの間の長さである第6長さL6よりも長く設定される。このため、規制溝135cは、ラックハウジング31に遮られることなく、第1収容孔31aに開口し、第1収容孔31a内の空間と常時連通した状態となる。このように規制溝135cを形成することによって、第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間とを第1収容孔31a内の空間を通じて常時連通させることが可能となる。
【0101】
また、第1及び第2ブッシュ135,136は、筒状の本体部135aと、本体部135aから径方向外側に突出して形成されラックハウジング31に係止される抜止部135bと、を有し、規制溝135cは、本体部135a及び抜止部135bに形成される。
【0102】
この構成では、第1及び第2ブッシュ135,136の回転を規制するために設けられる規制溝135cが、本体部135a及び抜止部135bに形成される。このように規制溝135cを、第1及び第2ブッシュ135,136の一部分ではなく、第1及び第2ブッシュ135,136の全長にわたって形成することによって、第1及び第2ブッシュ135,136の形状が簡素化され、第1及び第2ブッシュ135,136の製造コストを低減させることができる。
【0103】
また、規制溝32b,135cにより形成され第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間とを連通する通路の断面積は、ラック軸30の往復動に応じて第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間との間を移動する空気に付与される流路抵抗に基づいて設定される。
【0104】
この構成では、規制溝32b,135cにより形成される通路の断面積の大きさが、第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間との間を移動する空気に付与される流路抵抗に基づいて設定される。第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間との間を移動する空気に付与される流路抵抗が所定値よりも小さくなるように通路の断面積の大きさを設定することによって、第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間との間で空気を円滑に行き来させることが可能となる。このように第1ブーツ37a内の空間と第2ブーツ37b内の空間との間で空気を円滑に行き来させることによって、ブーツ37a,37bが極度に変形してしまうことを確実に抑制することができる。
【0105】
また、規制溝32bを構成する面の少なくとも一部は鋳肌面である。
【0106】
この構成では、規制溝32bを構成する面の少なくとも一部が鋳肌面である。このように規制溝32bの一部を鋳肌面のままとすることによって、規制溝32bの形成に必要とされる切削加工工程を減らし加工コストを低減させることが可能となり、結果として、ステアリング装置100の製造コストを低減させることができる。
【0107】
また、第1及び第2ブッシュ35,36,135,136は、樹脂製である。
【0108】
この構成では、第1及び第2ブッシュ35,36,135,136が樹脂により形成される。このため、第1及び第2ブッシュ35,36,135,136を金属製とした場合と比較し、第1及び第2ブッシュ35,36,135,136の重量が軽くなる。この結果、ステアリング装置100の重量を低減させることができる。
【0109】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0110】
100・・・ステアリング装置、30・・・ラック軸(転舵軸)、31・・・ラックハウジング(ハウジング)、31d・・・第1規制面(開口端面)、31e・・・第2規制面(開口端面)、32b・・・規制溝、32c・・・底面、32d・・・側面、35,135・・・第1ブッシュ(ブッシュ)、35a,135a・・・本体部、35b,135b・・・抜止部、35c・・・突出部、35e,135e・・・挿入先端面、36,136・・・第2ブッシュ(ブッシュ)、37a・・・第1ブーツ、37b・・・第2ブーツ、41a・・・第1タイロッド、41b・・・第2タイロッド、43a・・・第1ボールジョイント(連結部)、43b・・・第2ボールジョイント(連結部)、135c・・・規制溝、132b・・・突出部