(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】異種金属部材の接合方法及び接合構造
(51)【国際特許分類】
B23K 11/20 20060101AFI20230906BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20230906BHJP
B21D 28/00 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
B23K11/20
B23K11/11 540
B21D28/00 B
(21)【出願番号】P 2019139279
(22)【出願日】2019-07-30
【審査請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000100791
【氏名又は名称】アイシン軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】松井 宏昭
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-122333(JP,A)
【文献】特開2016-059954(JP,A)
【文献】特開2016-128173(JP,A)
【文献】特開2017-064726(JP,A)
【文献】特表2014-516793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/20
B23K 11/11
B21D 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属部材と前記第1金属部材とは異種の第2金属部材との接合方法であって、
前記第1金属部材は接合のための貫通した孔を有し、前記第1金属部材を第2金属部材の上に重ね、
前記第1金属部材の上方にエレメントを打ち抜くためのシート材を配設し、前記シート材から前記エレメントを打ち抜き前記孔の上側に配置するステップと、前記エレメントと前記第2金属部材とを前記孔を介してスポット溶接するステップとを有することを特徴とする異種金属部材の接合方法。
【請求項2】
前記エレメントを打ち抜くためのパンチと、前記パンチの中央側に相対的に上下動可能な上部電極を有し、前記エレメントを打ち抜いた後に連続的に前記上部電極と前記第2金属部材の下側に配置した下部電極により、スポット溶接することを特徴とする請求項1記載の異種金属部材の接合方法。
【請求項3】
前記エレメントは前記シート材から順次、連続的に打ち抜かれるものであることを特徴とする請求項2記載の異種金属部材の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミニウム,マグネシウム等の軽合金部材と鉄系金属部材等との異なる材質からなる異種金属部材間の接合方法及び接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム,アルミニウム合金同士、マグネシウム,マグネシウム合金同士、あるいは鋼材等の鉄系金属部材同士間の接合には、溶融溶接,電気抵抗溶接等の各種接合方法が採用されているが、異種金属部材間にあっては相互の拡散層を形成するのが難しく、充分な接合強度や接合信頼性が得られ難い技術的課題がある。
【0003】
特許文献1にはアルミニウム合金等の第1の板に穴を空ける工程と、鋼製の第2板を重ね合せる工程と、段付きで中央部に貫通する中空部する接合補助部材を上記穴に挿入し、溶接ワイヤを用いて溶接する接合方法を開示する。
しかし、このような溶接方法にあっては、特殊な形状の接合補助部材が必要になり、生産性に問題がある。
また、特許文献2には、予め鉄系リベットを軽合金材にかしめ接合した上で、この鉄系リベットと鋼材とをスポット溶接する技術を開示する。
しかし、同公報に開示する接合構造は、特殊形状のリベットを用いなければならず、高価な接合構造になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6461056号公報
【文献】特開2009-285678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、生産性に優れるとともに接合信頼性が高い異種金属部材の接合方法及び接合構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る異種金属部材の接合方法は、第1金属部材と前記第1金属部材とは異種の第2金属部材との接合方法であって、前記第1金属部材は接合のための貫通した孔を有し、前記第1金属部材を第2金属部材の上に重ね、前記第1金属部材の上方にエレメントを打ち抜くためのシート材を配設し、前記シート材から前記エレメントを打ち抜き前記孔の上側に配置するステップと、前記エレメントと前記第2金属部材とを前記孔を介してスポット溶接するステップとを有することを特徴とする。
【0007】
本発明は、シート材からエレメントをプレス切断等にて打ち抜き、連続的に第1金属部材と第2金属部材とをエレメントを介して接合できる点で生産性に優れる。
【0008】
本発明において、前記エレメントを打ち抜くためのパンチと、前記パンチの中央側に相対的に上下動可能な上部電極を有し、前記エレメントを打ち抜いた後に連続的に前記上部電極と前記第2金属部材の下側に配置した下部電極により、スポット溶接するようにすると、さらに生産性が向上する。
この場合に、パンチと上部電極は複動機構によりパンチでエレメントを打ち抜くと、そのまま連続的に上部電極が下降し、エレメントを孔に内側に向けて凹部形状に成形し、下部電極とスポット溶接することができる。
【0009】
また、本発明は次のような接合構造を採用してもよい。
貫通した孔部を有する第1金属部材と前記第1金属部材とは異なる材質の第2金属部材との接合構造であって、前記孔部の開口径よりも大きく前記第2金属部材と溶接可能なエレメントを有し、前記エレメントと前記第2金属部材の間に前記第1金属部材が挟み込まれた状態にてエレメントと前記第2金属部材とが前記孔部にて溶接接合されているとともに、前記エレメントと第1金属部材との間に保護部材を有している接合構造にしてもよい。
【0010】
ここで、エレメントと第2金属部材とが相互の溶接性に優れているものであれば、第1金属部材と第2金属部材との間の組み合せに特に制限はない。
例えば、溶接接合が溶融接合であればエレメントと第2金属部材は、軽合金材であっても鉄系金属材であっても問題はない。
溶接接合がスポット溶接等の電気抵抗溶接である場合には、一般的に鉄系金属部材の方が軽合金部材よりも溶接が容易であることから、この場合には第1金属部材が軽合金部材でエレメント及び第2金属部材が鉄系金属部材であるのが好ましい。
【0011】
エレメントと第2金属部材との間を溶接接合する際には、エレメントの孔部内に位置する部分が第1金属部材の孔部内に挿入されるように、溶接前又は溶接と同時に凹部が成形されるが、エレメントの周辺部と第1金属部材との間に隙間ができると、その部分に水等が浸入し、隙間腐食が発生する問題が生じる。
また、エレメントと第1金属部材との間の電位差により、いわゆる電食と称される局部電池による電位差腐食が発生する恐れがある。
また、自動車部品等の振動する部品に応用するには、エレメントに振動衝撃が加わりやすい恐れもある。
エレメントを第1金属部材の孔の内側に挿入成形する際に、孔のエッジ部にエレメントが点当たりするようになる場合があり、局部亀裂発生の原因となる恐れもある。
そこで本発明は、上記の各種問題を防ぐために、エレメントと第1金属部材との間に保護部材を設けたものである。
したがって、本発明における保護部材は、エレメントと前記第1金属部材との間におけるシール材,電位差腐食防止材,振動吸収材,局部的な接触防止材のいずれかであってよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る接合方法は、エレメントの成形とスポット溶接を連続的に実行できるので、生産性が向上する。
また、本発明に係る異種金属部材の接合構造にあっては、エレメントと第2金属部材との間に、第1金属部材を挟み込むように接合する際に、エレメントと第1金属部材との間に保護部材を有しているので、接合構造の接合信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る接合の流れの例を示す。(a)はシート材からエレメントをパンチを用いて打ち抜く状態を示す。(b),(c)はパンチの先端側から上部電極が下降して、エレメントに凹部形状を成形し、スポット溶接する動きを示す。
【
図2】エレメント及び孔の形状例を示す。(a)は円形状(b)は長方形の形状例を示す。
【
図3】シート材から各種の形状のエレメントを打ち抜く例を(a)~(c)に示す。
【
図5】第1金属部材の孔の周囲に保護部材を設けた例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る接合方法の例を図に基づいて以下、説明する。
図1に接合の手順を模式的に示す。
最終的な接合構造は
図1(c)に示すように、第1金属部材11に設けた孔11aを利用し、第2金属部材12とエレメント13aで、この第1金属部材11を挟み込むようにして、スポット溶接にて溶接部15を形成することになる。
従って、エレメントは第2金属部材と電気抵抗溶接しやすい材質からなる。
スポット溶接は電気抵抗による発熱を利用した溶接方法であるため、軽合金部材よりも鋼材等の鉄系の金属部材に適している。
そこで、好ましい異種金属部材の組み合せは第1金属部材11がアルミニウム及びその合金、マグネシウム及びその合金等であり、第2金属部材12及びエレメント13a(シート材13)が鉄系金属部材の組み合せである。
【0015】
図1(a)に示すように、孔11aを形成した第1金属部材11を第2金属部材12の上に重ねる。
孔11aの上方にはダイ1aを配置し、その上にエレメント13aを打ち抜くためのシート材13を載置し、その上方であって孔11aに位置するように、パンチ1とその中央部側に複動機構によりパンチ1の先端から突没(上下動)する上部電極2を有する。
第2金属部材12の下方には、上部電極2に対向して下部電極3を有する。
パンチ1が下降し、ダイ1aに載置されているシート材13を打ち抜きエレメント13aを成形する。
エレメント13aは、孔11aの内側に落ちない大きさや形状になっている。
【0016】
エレメント13a及び孔11aの組み合せの例を
図2に示す。
図2(a)は内側が円形状の孔11aの上に重なるように孔11aの内径よりも大きい外形の円形状からなるエレメント13aの例を示す。
図2(b)は内側形状が長方形の孔11aの上に重なるように板状のエレメント13aを配置した例を示す。
このように孔11a及びエレメント13aの形状に特に制限はないし、いろいろな組み合せが可能である。
よって、シート材も
図3に示すように円形状のエレメント13aに対応したもの、板材113や線材213から打ち抜くエレメント113a,213a等であってもよい。
また、スポット溶接の位置を自動で検出できるようにシート材13に、
図4に示すようにアライメントマーク13cを予め印刷してあってもよい。
次に、本発明に係る接合方法を応用した接合構造例を説明する。
上記に説明した複動機構のパンチを設けることができるが、
図5では予め成形したエレメントを用いた場合で説明する。
【0017】
図5(a)に示すように、孔の径よりも大きいエレメント13aと第1金属部材11との間に保護部材14を配設するようにして、エレメント13aを孔11bの上側に重ねる。
保護部材14は、保護の目的に応じて各種材料を使用することができる。
例えば、シール材,絶縁材,クッション材が例として挙げられ、それらは接着剤の機能も有していてもよく、またシート材でもよい。
次に、
図5(b)に示すように、上部電極4と下部電極5とで上下からエレメント13aと第2金属部材12とを挟み込むようにして、スポット溶接する。
この際に、上部電極1にてエレメント13aの中央部を凹部形状13bに成形し、そのままスポット溶接することで、接合部15を形成する。
【符号の説明】
【0018】
1 パンチ
1a ダイ
2 上部電極
3 下部電極
11 第1金属部材
12 第2金属部材
13 シート材
13a エレメント
13b 凹部
14 保護部材
15 溶接部