(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】電極前駆体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/24 20060101AFI20230906BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230906BHJP
H01M 4/26 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
H01M4/24 H
H01M4/62 C
H01M4/26 H
(21)【出願番号】P 2019200247
(22)【出願日】2019-11-01
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】原田 弘子
(72)【発明者】
【氏名】小川 賢
(72)【発明者】
【氏名】高澤 康行
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-034667(JP,A)
【文献】特開昭59-128768(JP,A)
【文献】特表2013-502026(JP,A)
【文献】特開平01-077872(JP,A)
【文献】特開昭59-035360(JP,A)
【文献】特開2016-167371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62@Z
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性の繊維からなるシート、亜鉛単体、及び、ポリマーを含むことを特徴とする電極前駆体。
【請求項2】
前記シートは、親水性の不織布であることを特徴とする請求項1に記載の電極前駆体。
【請求項3】
前記電極前駆体は、前記シートに亜鉛単体及びポリマーを含む組成物を含浸して得られることを特徴とする請求項1又は2に記載の電極前駆体。
【請求項4】
集電体と活物質層とを含んで構成される亜鉛電極であって、
該活物質層は、請求項1~3のいずれかに記載の電極前駆体を用いて構成されることを特徴とする亜鉛電極。
【請求項5】
請求項4に記載の亜鉛電極を含んで構成されることを特徴とする亜鉛電池。
【請求項6】
集電体と活物質層とを含んで構成される亜鉛電極を製造する方法であって、
該方法は、親水性の繊維からなるシート、亜鉛単体、及び、ポリマーを含む電極前駆体を集電体に接するように配置して亜鉛電極を得る工程を含むことを特徴とする亜鉛電極の製造方法。
【請求項7】
亜鉛電極を含んで構成される亜鉛電池を製造する方法であって、
該方法は、親水性の繊維からなるシート、亜鉛単体、及び、ポリマーを含む電極前駆体を集電体に接するように配置して、集電体と活物質層とを含んで構成される亜鉛電極を得る工程を含むことを特徴とする亜鉛電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極前駆体に関する。より詳しくは、亜鉛電極を得るために好適に用いることができる電極前駆体、該電極前駆体を用いて構成される亜鉛電極、該亜鉛電極を含んで構成される亜鉛電池、これらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型携帯機器から自動車等大型用途まで多くの産業において、電池の重要性が急速に高まっており、主にその容量、エネルギー密度や二次電池化の面において優位性を持つ新たな電池系が種々開発・改良されている。例えば、亜鉛種を負極活物質とする亜鉛負極が、電池の普及とともに古くから研究されてきており、特に、空気・亜鉛一次電池、マンガン・亜鉛一次電池、銀・亜鉛一次電池は実用化され、広く世界で使用されている。
【0003】
しかし、亜鉛負極を用いて構成される二次電池については、長期間充放電を繰り返すと、電極の活物質層等の近傍で金属の溶解析出反応が起こる過程で、デンドライトという電極活物質の樹状結晶が発生し、このデンドライトによる電極間の短絡に起因して電池の短寿命化が起こるという課題があった。また、当該二次電池は、長期間充放電を繰り返すと、電極の活物質層等の近傍で金属の溶解析出反応が起こる過程で、シェイプチェンジという電極活物質の形態変化が発生し、容量劣化や短寿命化が起こるという課題があった。
【0004】
このような課題に対し、多くの技術開発がなされている(例えば、特許文献1~3参照。)。
ところで、電池を容易に製造でき、電極形成時の自由度がより高く、材料を無駄なく使用する方法を提供する観点から、活物質とポリマーとを含む電極前駆体であって、該電極前駆体は、溶媒含有量が0.1質量%以下であり、集電体に接するように配置して活物質層を形成するために用いられる電極前駆体が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-185260号公報
【文献】特開2016-126842号公報
【文献】特開2016-46117号公報
【文献】特開2016-167371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、出願人による更なる研究により亜鉛電極を用いた二次電池利用を阻む課題が明確になってきている。上述したように、短絡につながる要因は大きく2つあり、1つは充電生成物である亜鉛の対極への成長であり、もう1つは、充放電反応の繰り返しによって生じる亜鉛電極形状の変化である。どちらも亜鉛の電気化学反応が亜鉛酸イオンを介して行われることに起因している。ここで、長期の充放電サイクルを行うと、反応分布に従って活物質が消失する部分と蓄積する部分が現れる。特に活物質が消失する部分では、セパレータと集電体が直接接することとなるため、集電体が絶縁被覆されたのと同じ状態になり、実質的に使用可能な電極面積が縮小されることなり、電極の一部で電流集中が生じ、短絡につながることが新たに分かってきている。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、亜鉛電極を含んで構成される亜鉛電池を高寿命化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、亜鉛電池を高寿命化する方法を種々検討し、電極の活物質層の保水性と構造安定性に着目した。そして、本発明者は、当該活物質層を形成する材料となる電極前駆体が、親水性の繊維からなるシート、亜鉛単体、及び、ポリマーを含むものとすれば、親水性の繊維によって活物質層内部の電解液を保液できるとともに、活物質が残存しやすいことや当該シート自体によって活物質層の厚みを長期間にわたって保持でき、セパレータと集電体が直接接することに起因する電流集中を防止でき、活物質の溶解析出反応に関係なく、負極反応を生じる物理的空間を担保することができることを見出した。また、本発明者は、活物質として電子伝導性に優れる亜鉛単体を用いることによっても電流集中を防止できるため、短絡を防止する効果が顕著なものになることを見出した。
【0009】
更に、本発明者は、電極前駆体が、活物質である亜鉛単体及びポリマーとともに親水性の繊維からなるシートを含むことで、電極前駆体をシート化することができ、積層させて活物質層を形成したり、様々な形状の電池に対応したりできる等、電池組立時の自由度が高くなるとともに、集電体に接触させて配置するだけで充放電が可能となり、亜鉛電極の製造工程を簡略化できることを見出した。
本発明者は、上記の利点を見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明は、親水性の繊維からなるシート、亜鉛単体、及び、ポリマーを含む電極前駆体である。
本発明はまた、集電体と活物質層とを含んで構成される亜鉛電極であって、該活物質層は、本発明の電極前駆体を用いて構成される亜鉛電極である。
本発明は更に、本発明の亜鉛電極を含んで構成される亜鉛電池である。
本発明はそして、集電体と活物質層とを含んで構成される亜鉛電極を製造する方法であって、該方法は、親水性の繊維からなるシート、亜鉛単体、及び、ポリマーを含む電極前駆体を集電体に接するように配置して亜鉛電極を得る工程を含む亜鉛電極の製造方法である。
本発明はまた、亜鉛電極を含んで構成される亜鉛電池を製造する方法であって、該方法は、親水性の繊維からなるシート、亜鉛単体、及び、ポリマーを含む電極前駆体を集電体に接するように配置して、集電体と活物質層とを含んで構成される亜鉛電極を得る工程を含む亜鉛電池の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0011】
<電極前駆体>
本発明の電極前駆体は、親水性の繊維からなるシート、亜鉛単体、及び、ポリマーを含む。
【0012】
(親水性の繊維からなるシート)
上記親水性の繊維からなるシートにおける親水性は、本明細書中、接触角が90°以下であることをいう。
接触角は、親水性の繊維からなるシート表面を対象とし、25℃条件下で、純水2μlを滴下して30秒後の水の接触角を測定して得られるものをいう。
上記接触角は、60°以下であることが好ましく、40°以下であることがより好ましく、25°以下であることが更に好ましい。
【0013】
上記親水性の繊維としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等の炭化水素部位含有重合体、ポリテトラフルオロエチレン部位含有重合体、ポリフッ化ビニリデン部位含有重合体、セルロース、フィブリル化セルロース、ビスコースレイヨン、酢酸セルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール含有重合体、セロファン、ポリスチレン等の芳香環部位含有重合体、ポリアクリロニトリル部位含有重合体、ポリアクリルアミド部位含有重合体、ポリハロゲン化ビニル部位含有重合体、ポリアミド部位含有重合体、ポリイミド部位含有重合体、ナイロン等のエステル部位含有重合体、ポリ(メタ)アクリル酸部位含有重合体、ポリ(メタ)アクリル酸塩部位含有重合体、ポリイソプレノールやポリ(メタ)アリルアルコール等の水酸基含有重合体、ポリカーボネート等のカーボネート基含有重合体、ポリエステル等のエステル基含有重合体、ポリウレタン等のカルバメートやカルバミド基部位含有重合体、寒天、ゲル化合物、有機無機ハイブリッド(コンポジット)化合物、イオン交換膜性重合体、環化重合体、スルホン酸塩含有重合体、第四級アンモニウム塩含有重合体、第四級ホスホニウム塩重合体、エーテル基含有重合体等を繊維化したものであって、必要に応じて親水性となるように親水性処理したものが挙げられる。これらの親水性の繊維は1種用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0014】
上述したように、親水性の繊維を得るために、親水性処理を適宜用いることができる。親水性処理の方法は、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理等の気相反応;スルホン化処理、オゾン処理等の気相反応又は液相反応;アクリル酸グラフト処理、電子線グラフト処理等の液相反応を用いる方法が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
【0015】
上記親水性の繊維からなるシートとしては、例えば、親水性の不織布、親水性の織布、親水性のメッシュ、フェルト等が挙げられる。
中でも、本発明の電極前駆体における上記シートは、親水性の不織布であることが好ましい。
【0016】
上記親水性の繊維からなるシートは、通常多孔質シートである。多孔質シートは、本発明の技術分野において多孔質と言えるものであればよいが、ガーレー値が100秒以下であることが好ましい。該ガーレー値は、80秒以下であることがより好ましい。該ガーレー値は、その下限値は特に限定されないが、通常は1秒以上である。
ガーレー値は、気体の通過しやすさを表す指標であり、値が小さいほど気体を通しやすい。ガーレー値は、JIS P 8117に準じて、ガーレー測定器を用いて100ccの空気が透過する時間を測定して求めることができる。
【0017】
上記親水性の繊維からなるシートは、引張強度が1N以上であることが好ましい。該引張強度は、3N以上であることがより好ましい。該引張強度は、その上限値は特に限定されないが、例えば50N以下であることが好ましい。
引張強度は、デジタルフォースゲージ ZTA-50N(イマダ社製)を用い、試験片の幅15mm、チャック間距離80mm、引っ張り速度300±10mm/minの条件下で、引張り、破断するまでの引張強度を測定することにより求められる。
【0018】
上記親水性の繊維からなるシートは、密度が0.01g/cm3以上であることが好ましく、0.03g/cm3以上であることがより好ましく、0.05g/cm3以上であることが更に好ましく、0.1g/cm3以上であることが特に好ましい。
上記密度は、その上限値は特に限定されないが、1g/cm3以下であることが好ましく、0.7g/cm3以下であることがより好ましく、0.5g/cm3以下であることが更に好ましい。
なお、上記密度は、上記シートの試験片について、質量と体積を測定し、質量を体積で除すことにより算出されるものである。
【0019】
上記親水性の繊維からなるシートの膜厚は、500μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましい。
また、該膜厚は、5μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。
【0020】
上記親水性の繊維からなるシートの質量割合は、特に限定されないが、例えば、本発明の電極前駆体100質量%中、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、7質量%以上であることが更に好ましい。また、該質量割合は、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。
【0021】
(ポリマー)
本発明の電極前駆体は、上述した親水性の繊維からなるシート以外に、ポリマーを含む。
上記ポリマーとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等の炭化水素部位含有ポリマー、ポリスチレン等の芳香族基含有ポリマー;アルキレングリコール等のエーテル基含有ポリマー;ポリビニルアルコールやポリ(α-ヒドロキシメチルアクリル酸塩)等の水酸基含有ポリマー;ポリアミド、ナイロン、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンやN-置換ポリアクリルアミド等のアミド結合含有ポリマー;ポリマレイミド等のイミド結合含有ポリマー;ポリ(メタ)アクリル酸、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリメチレングルタル酸等のカルボキシル基含有ポリマー;ポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリマレイン酸塩、ポリイタコン酸塩、ポリメチレングルタル酸塩等に代表されるカルボン酸塩含有ポリマー;ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のハロゲン含有ポリマー;エポキシ樹脂;スルホン酸塩部位含有ポリマー;第四級アンモニウム塩や第四級ホスホニウム塩含有ポリマー;陽イオン・陰イオン交換膜等に使用されるイオン交換性重合体;共役ジエン系ポリマー;セルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース)、カルボキシメチルセルロース、キチン、キトサン、アルギン酸(塩)等の糖類;ポリエチレンイミン等のアミノ基含有ポリマー;カルバメート基部位含有ポリマー;カルバミド基部位含有ポリマー;エポキシ基部位含有ポリマー;複素環、及び/又は、イオン化した複素環部位含有ポリマー;ポリマーアロイ;ヘテロ原子含有ポリマー;低分子量界面活性剤などが挙げられる。これらのポリマーは、電極前駆体やこれから得られる亜鉛電極の活物質層のバインダーとしてはたらき、例えば亜鉛電極においてクラックの発生を防止できる。
【0022】
上記ポリマーは、中でも、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基及びエーテル基からなる群より選択される少なくとも1種を含有するポリマーであることが好ましい。カルボキシル基の代りにカルボン酸塩を有するポリマーも好ましい。より好ましくは、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素含有ポリマーである。フッ素含有ポリマーを用いると、活物質及びポリマーを混錬する際に、ペースト化しやすくなり、扱いやすくなる。また、ポリマーの繊維化(短繊維化)が促進されるため、得られる亜鉛電極においてクラックの発生を防止できる効果が顕著なものとなる。
【0023】
ポリマーはその構成単位に該当するモノマーより、ラジカル重合、ラジカル(交互)共重合、アニオン重合、アニオン(交互)共重合、カチオン重合、カチオン(交互)共重合、グラフト重合、グラフト(交互)共重合、リビング重合、リビング(交互)共重合、分散重合、乳化重合、懸濁重合、開環重合、環化重合、光、紫外線や電子線照射による重合、メタセシス重合、電解重合等により得ることができる。これらポリマーが官能基を有する場合には、それを主鎖及び/又は側鎖に有していても良く、架橋剤との結合部位として存在しても良い。これらポリマーは、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
上記ポリマーは、架橋されていてもよい。
【0024】
上記ポリマーは、重量平均分子量が、200~7000000であることが好ましい。これにより、得られる亜鉛電極のイオン伝導性や可とう性等を調節することができる。ポリマーの重量平均分子量は、より好ましくは、1000~2000000であり、更に好ましくは、5000~800000である。
上記重量平均分子量は、以下の条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算された重量平均分子量として測定することができる。
装置:東ソー株式会社製 HCL-8220GPC
カラム:TSKgel Super AWM-H
溶離液(LiBr・H2O、リン酸入りNMP):0.01mol/L
【0025】
上記ポリマーの質量割合は、電極前駆体が含む活物質(亜鉛単体及び所望により亜鉛含有化合物)、及び、ポリマー(固形分)の合計100質量%に対して、0.1~30質量%であることが好ましい。該ポリマーの質量割合は、より好ましくは、0.3~15質量%であり、更に好ましくは、0.5~10質量%であり、特に好ましくは、1~5質量%である。
なお、本発明の電極前駆体を、圧延により脱水時に生じる空隙を減らして高密度化した場合は、得られる電極において空隙に起因するクラックの発生をより抑制できることから、電極前駆体中の上記ポリマーの質量割合を小さくして(例えば、3質量%未満として)導電性能を高めてもよい。
【0026】
(亜鉛単体)
本発明の電極前駆体は、亜鉛単体(金属亜鉛)を含む。
上記亜鉛単体は、導電助剤としても機能するが、電池の使用の過程で酸化還元反応をおこなって活物質としても機能する。本明細書中、亜鉛単体、及び、後述する亜鉛含有化合物を、活物質ともいい、導電助剤とは区別する。
本発明の電極前駆体が電子伝導性に優れる亜鉛単体を予め含むことによって、電池使用時の電流集中を更に防止できるため、短絡を防止する効果が非常に優れるものとなる。
また本発明の電極前駆体が亜鉛単体を含むことにより、電極前駆体を集電体に接するように配置して形成される電極は、亜鉛が充放電等の過程でイオン化し、移動できるため、当初集電体と活物質層との間に隙間があっても、隙間が埋まって密着性が高くなる。これにより、優れた充放電特性を有する電池を簡便に製造できる。
【0027】
本発明の電極前駆体は、活物質として、亜鉛単体以外の亜鉛含有化合物を含んでいてもよい。亜鉛含有化合物は、活物質として用いることができるものであればよく、例えば、酸化亜鉛(例えば、JIS K1410(2006年)に規定する1種/2種/3種)や、水酸化亜鉛・硫化亜鉛・テトラヒドロキシ亜鉛アルカリ金属塩・テトラヒドロキシ亜鉛アルカリ土類金属塩・亜鉛ハロゲン化合物・亜鉛カルボキシラート化合物・亜鉛合金・亜鉛固溶体・ホウ酸亜鉛・リン酸亜鉛・リン酸水素亜鉛・ケイ酸亜鉛・アルミン酸亜鉛・炭酸化合物・炭酸水素化合物・硝酸化合物・硫酸化合物等に代表される周期表の第1族~第17族に属する元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素を有する亜鉛(合金)化合物、有機亜鉛化合物、亜鉛化合物塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。なお、上記亜鉛合金は、(アルカリ)乾電池や空気電池に使用される亜鉛合金であってもよい。
亜鉛含有化合物の中でも、酸化亜鉛が好ましい。
【0028】
上記活物質は、平均粒子径が1nm~500μmであることが好ましい。より好ましくは10nm~400μmであり、更に好ましくは100nm~200μmであり、特に好ましくは、1μm~100μmである。
本明細書中、平均粒子径とは、動的光散乱法による粒度分布測定により得られる、体積基準の粒度分布における平均粒子径である。
好ましくは、親水性粒子を分散媒(0.2%ヘキサメタりん酸ナトリウム含有イオン交換水)で希釈したものを測定試料とする。
動的光散乱法による粒度分布測定器としては、例えば、大塚電子株式会社製 濃厚系粒径アナライザー FPAR-1000ASを用いることができる。
【0029】
本発明の電極前駆体において、亜鉛単体と亜鉛含有化合物の質量割合は、1:99~100:0であることが好ましく、2:98~80:20であることがより好ましく、3:97~50:50であることが更に好ましく、5:95~35:65であることが一層好ましく、8:92~25:75であることが特に好ましい。
【0030】
上記活物質の質量割合は、本発明の電極前駆体が含む活物質及びポリマー(固形分)の合計100質量%に対して、50~99.9質量%であることが好ましい。活物質の割合がこのような範囲であると、電極前駆体を用いて形成される電極が、電池容量の点でもより充分なものとなる。該金属種の割合は、より好ましくは、55~99.5質量%であり、更に好ましくは、60~99質量%である。
【0031】
本発明の電極前駆体は、これを用いて作成した二次電池等の電池で水含有電解液を使用した場合に生じるおそれのある水の分解副反応を抑制するために、元素の単体又はこれらの元素を構成元素とする化合物を含ませたものであってもよい。特定の元素としては、Al、B、Ba、Bi、Br、C、Ca、Cd、Ce、Cl、Cu、Eu、F、Ga、Hg、In、La、Mg、Mn、N、Nb、Nd、Ni、P、Pb、S、Sb、Sc、Si、Sm、Sn、Sr、Ti、Tl、Y、Zr等が挙げられる。
【0032】
(導電助剤)
本発明の電極前駆体は、上述した亜鉛単体等の活物質の他に、更に導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤を含むことで、電極前駆体を用いて形成される活物質層の導電性能が高くなり、活物質層に含まれる活物質を有効に利用して電池の容量を更に高めることができる。
上記導電助剤としては、例えば、導電性カーボン、導電性セラミックス、銅・真鍮・ニッケル・銀・ビスマス・インジウム・鉛・錫等の金属等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0033】
上記導電性カーボンとしては、天然黒鉛・人造黒鉛等の黒鉛、グラッシーカーボン、アモルファス炭素、易黒鉛化炭素、難黒鉛化炭素、カーボンナノフォーム、活性炭、グラフェン、ナノグラフェン、グラフェンナノリボン、フラーレン、カーボンブラック、黒鉛化カーボンブラック、ケッチェンブラック、気相法炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、金属によりコートしたカーボン、カーボンコートした金属、ファイバー状カーボン、ホウ素含有カーボン、窒素含有カーボン、多層/単層カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、バルカン、アセチレンブラック、酸素含有官能基を導入することにより親水処理したカーボン、SiCコートカーボン、分散・乳化・懸濁・マイクロサスペンジョン重合等により表面処理したカーボン、マイクロカプセルカーボン等が挙げられる。
【0034】
上記導電性セラミックスとしては、例えば、酸化亜鉛と共に焼成したBi、Co、Nb、及び、Yから選ばれる少なくとも1種を含有する化合物等が挙げられる。
【0035】
上記導電助剤の中でも、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛、易黒鉛化炭素、難黒鉛化炭素、グラフェン、カーボンブラック、黒鉛化カーボンブラック、ケッチェンブラック、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、ファイバー状カーボン、多層/単層カーボンナノチューブ、バルカン、アセチレンブラック、酸素含有官能基を導入することにより親水処理したカーボン、銅・真鍮・ニッケル・銀・ビスマス・インジウム・鉛・錫等の金属が好ましい。上記導電助剤は、1種でも2種以上でも使用することができる。
【0036】
上記導電助剤には、水含有電解液を使用した場合の水の分解副反応を抑制するため、上述した特定の元素と同様の元素の単体又はこれらの元素を構成元素とする化合物を含ませたものであってもよい。導電性カーボンを導電助剤の一つとして使用する場合には、特定の元素としては、Al、B、Ba、Bi、C、Ca、Cd、Ce、Cu、F、Ga、In、La、Mg、Mn、N、Nb、Nd、Ni、P、Pb、S、Sb、Sc、Si、Sn、Ti、Tl、Y、Zrが好ましい。
【0037】
本発明の電極前駆体において導電助剤を使用する場合、上記導電助剤の質量割合は、電極前駆体中の活物質100質量%に対して、0.0001~100質量%とすることができる。好ましくは、0.0005~60質量%であり、より好ましくは、0.001~40質量%である。
【0038】
(溶媒)
本発明の電極前駆体は、溶媒含有量が0.1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましく、0.03質量%以下であることが更に好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。上記溶媒含有量の下限は特に限定されず、0質量%であってもよい。
上記溶媒含有量とは、電極前駆体全体100質量%中の溶媒の含有量を意味する。
上記溶媒含有量は、本発明の電極前駆体を加熱等による乾燥工程を経て調製した場合は、乾燥工程により溶媒成分が蒸発した後に残った溶媒の質量を算出し、当該溶媒の質量の、電極前駆体全体の質量に対する百分率として算出することができる。
【0039】
本発明の電極前駆体が含む溶媒としては、水;エタノール、アセトン、イソプロピルアルコール、ブタノール、酢酸ブチル、N-メチルピロリドン等の有機溶媒が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0040】
(その他の成分)
本発明の電極前駆体は、親水性の繊維からなるシート、活物質、ポリマー以外に、導電助剤、溶媒を含んでもよいが、さらにこれら以外のその他の成分を1種又は2種以上含んでいてもよい。
その他の成分は、特に限定されないが、例えば、アルミナ、シリカ等が挙げられる。その他の成分は、イオン伝導性を補助する等の働きが可能である。
本発明の電極前駆体中、他の成分の質量割合は、活物質100質量%に対して1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
【0041】
本発明の電極前駆体は、集電体をもたないものである。本発明の電極前駆体は、例えば、集電体上に接するように配置して用いることができものであり、
集電体とは、電池を構成したときに、正極及び負極のそれぞれにおいて、活物質層よりも、正極と負極とが電気的に接続される経路側に配置される集電体を言う。
本発明の電極前駆体は、通常、シート状であり、この主面を平面視したときの形状は、電池の設計に応じて好適な形状とすることができ、特に限定されない。
【0042】
本発明の電極前駆体は、上述したように、集電体をもたず、集電体上に接するように配置して用いるものであればよいが、通常、電気抵抗が1×106Ωcm以上である。本発明の電極前駆体は、通常は亜鉛単体、導電助剤等の導電物が連通していない状態であり、この点で電池に含まれる電極の活物質層とは異なるものである。
上記電気抵抗は、テスターにより測定されるものである。
【0043】
本発明の電極前駆体は、真密度に対するみかけ密度の割合が、20%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましい。また、該真密度に対するみかけ密度の割合は、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましい。
【0044】
本発明の電極前駆体は、後述するように、親水性の繊維からなるシートに亜鉛単体及びポリマーを含む組成物を含浸して得られるものであることが好ましい。
本発明の電極前駆体は、例えば、本発明に係る活物質とポリマーを含むスラリー状又はペースト状(以下、スラリー状等とも言う。)の組成物を、親水性の繊維からなるシートに接触・含浸させたものである。
該組成物が溶媒等の揮発成分を含む場合は、さらに乾燥してもよい。例えば、該組成物を親水性の繊維からなるシートに接触・含浸させた後に、必要に応じて、組成物に含まれる溶媒等の揮発成分の一部または全部を蒸発させる乾燥を行ったものを電極前駆体とすることもできる。
【0045】
本発明の電極前駆体は、集電体上に塗工・圧着・接着・圧電・圧延・延伸・溶融等して活物質層を形成するために用いられるものであってもよいが、集電体に接するように配置して活物質層を形成するために用いられるものであることが好ましい。これにより、後述する亜鉛電極を簡便に得ることができる。
【0046】
<亜鉛電極>
本発明はまた、集電体と活物質層とを含んで構成される亜鉛電極であって、該活物質層は、本発明の電極前駆体を用いて構成される亜鉛電極でもある。
本発明の電極前駆体を用いて構成される亜鉛電極は、長寿命化の効果に際立って優れると共に、形成時の自由度が高く、必要に応じて製造工程を簡略化可能なものである。
【0047】
本発明の亜鉛電極が含む活物質層は、厚みが20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることが更に好ましい。また、該活物質層の厚みは、10mm以下であることが好ましい。
なお、ここでいう活物質層の厚みは、活物質層全体の厚みを意味し、複数の電極前駆体が積層して形成された構造の活物質層の場合、当該活物質層全体の厚みを意味する。なお、本発明の亜鉛電極が含む活物質層は、集電用の導電部材を含まない電極前駆体を重ね合わせて形成することができる等、形成時の自由度が高いため、例えば、活物質層の厚みが厚く容量の大きな電極を容易に形成することができる。
活物質層の厚みは、マイクロメーター等により測定することができる。
【0048】
本発明の亜鉛電極が含む活物質層の好ましい形状は、上述した本発明の電極前駆体の形状、又は、これを積層して得られる形状である。
【0049】
本発明の電極が含む活物質層は、1つの電極前駆体のみから形成された構造であってもよく、複数の電極前駆体が積層して形成された構造であってもよい。
複数の電極前駆体が積層して形成された構造の活物質層においては、それぞれの電極前駆体の各種成分の種類・割合は、同じであってもよく、異なっていてもよい。必要であれば、特定の成分の割合が異なる複数の電極前駆体を積層させることにより、活物質層の厚み方向に当該成分割合の分布がある活物質層を作製することも可能である。
【0050】
本発明の電極を構成する集電体としては、(電解)銅箔、銅メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡銅、パンチング銅、真鍮等の銅合金、真鍮箔、真鍮メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡真鍮、パンチング真鍮、ニッケル箔、耐食性ニッケル、ニッケルメッシュ(エキスパンドメタル)、パンチングニッケル、金属亜鉛、耐食性金属亜鉛、亜鉛箔、亜鉛メッシュ(エキスパンドメタル)、(パンチング)鋼板、導電性を付与した不織布;Ni・Zn・Sn・Pb・Hg・Bi・In・Tl・真鍮等を添加した(電解)銅箔・銅メッシュ(エキスパンドメタル)・発泡銅・パンチング銅・真鍮等の銅合金・真鍮箔・真鍮メッシュ(エキスパンドメタル)・発泡真鍮・パンチング真鍮・ニッケル箔・耐食性ニッケル・ニッケルメッシュ(エキスパンドメタル)・パンチングニッケル・金属亜鉛・耐食性金属亜鉛・亜鉛箔・亜鉛メッシュ(エキスパンドメタル)・(パンチング)鋼板・不織布;Ni・Zn・Sn・Pb・Hg・Bi・In・Tl・真鍮等によりメッキされた(電解)銅箔・銅メッシュ(エキスパンドメタル)・発泡銅・パンチング銅・真鍮等の銅合金・真鍮箔・真鍮メッシュ(エキスパンドメタル)・発泡真鍮・パンチング真鍮・ニッケル箔・耐食性ニッケル・ニッケルメッシュ(エキスパンドメタル)・パンチングニッケル・金属亜鉛・耐食性金属亜鉛・亜鉛箔・亜鉛メッシュ(エキスパンドメタル)・(パンチング)鋼板・不織布;銀;アルカリ(蓄)電池や空気亜鉛電池に集電体や容器として使用される材料等が挙げられる。
【0051】
<亜鉛電極の製造方法>
本発明は更に、集電体と活物質層とを含んで構成される亜鉛電極を製造する方法であって、該方法は、親水性の繊維からなるシート、亜鉛単体、及び、ポリマーを含む電極前駆体を集電体に接するように配置して亜鉛電極を得る工程を含むことを特徴とする亜鉛電極の製造方法でもある。
上記「電極前駆体を集電体に接するように配置して亜鉛電極を構成する」は、本明細書中、本発明の電極前駆体を集電体上に塗工・圧着・接着・圧電・圧延・延伸・溶融等する必要はなく、固体状態の電極前駆体の少なくとも一部が集電体の少なくとも一部に接触するように配置すればよい。これにより、活物質と集電体とが電気的に接続され、電池を駆動できる電極を形成できる。本発明の亜鉛電極が、複数の電極前駆体が積層して形成された構造のものである場合も、結着材等を用いる等して電極前駆体間を結着させる必要はなく、本発明の電極前駆体を複数重ね合わせればよい。
なお、本発明の電極前駆体を集電体上に圧着等して活物質層を形成したり、結着材等を用いる等して電極前駆体間を結着したりしても構わない。
【0052】
本発明の電極前駆体を集電体に接するように配置する際に、電極前駆体の集電体に接する部分(電極前駆体がシート状である場合は、底面積)が、集電体の電極前駆体に接する部分よりも大きいときは、本発明の電極前駆体をカットして容易にサイズ調整することができる。電極前駆体の集電体に接する部分の面積は、電池の設計に応じて適宜決定することができる。
なお、カット時に発生した切れ端等の部材は、公知の方法で粉砕し、水等の溶媒を加えて再度混錬し、その後、必要に応じて脱水・圧延等することにより、再度本発明の電極前駆体を得ることができる。
【0053】
<亜鉛電池>
本発明はそして、上述した本発明の亜鉛電極を含んで構成される亜鉛電池でもある。
上述したとおり、本発明の亜鉛電池は、本発明の亜鉛電極を用いて構成されることにより、充分に駆動できるとともに、容易に製造でき、また、組立時の自由度が高いものである。
【0054】
本発明の亜鉛電池の正極活物質としては、一次電池や二次電池の正極活物質として通常用いられるものを用いることができ、特に制限されないが、例えば、酸素(酸素が正極活物質となる場合、正極は、酸素の還元や水の酸化が可能なペロブスカイト型化合物、コバルト含有化合物、鉄含有化合物、銅含有化合物、マンガン含有化合物、白金含有化合物等より構成される空気極となる)、オキシ水酸化ニッケル、水酸化ニッケル、コバルト含有水酸化ニッケル等のニッケル化合物、酸化銀などが挙げられる。これらの中でも、例えば、正極活物質がニッケル化合物であることが好ましい。
また、正極活物質が酸素であることもまた好ましい。上述したとおり、本発明の亜鉛電極が含む活物質層は、集電用の導電部材を含まない電極前駆体を重ね合わせて形成することができる等、形成時の自由度が高いため、容易に活物質層の厚みを厚くすることができる。したがって、本発明の亜鉛電池が、容量を大きくするために負極活物質の厚みを厚くすることが求められる亜鉛空気電池であることが好ましい。言い換えれば、本発明の亜鉛電池が空気亜鉛電池であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
また、本発明の亜鉛電極を負極として使用した電池の形態としては、一次電池、充放電が可能な二次電池、メカニカルチャージ(亜鉛負極の機械的な交換)の利用、本発明の負極と上述したような正極活物質より構成される正極とは別の第3極の利用等、いずれの形態であっても良い。
【0055】
本発明の亜鉛電池に用いる電解質としては、蓄電池の電解質として通常用いられるものを用いることができ、特に制限されないが、例えば、有機溶剤系電解液、水系電解液、固体電解質等が挙げられる。有機溶剤系電解液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジエトキシエタン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、イオン性液体、フッ素含有カーボネート類、フッ素含有エーテル類、ポリエチレングリコール類、フッ素含有ポリエチレングリコール類等が挙げられ、これらの1種でも2種以上でも使用することができる。水系電解液としては、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、硫酸亜鉛水溶液、硝酸亜鉛水溶液、リン酸亜鉛水溶液、酢酸亜鉛水溶液等などが挙げられる。これらの中でも、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液といったアルカリ性電解質が好ましい。上記水系電解液は、1種でも2種以上でも使用することができる。水系電解液は、上記有機溶剤系電解液を含んでいてもよい。
【0056】
本発明の亜鉛電池には、更に、セパレータを使用することもできる。セパレータは、正極と負極を隔離し、電解液を保持して正極と負極との間のイオン伝導性を確保する部材であればよい。セパレータとして特に制限はないが、不織布、濾紙、ポリエチレンやポリプロピレン等の炭化水素部位含有ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン部位含有ポリマー、ポリフッ化ビニリデン部位含有ポリマー、セルロース、フィブリル化セルロース、ビスコースレイヨン、酢酸セルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール含有ポリマー、セロファン、ポリスチレン等の芳香環部位含有ポリマー、ポリアクリロニトリル部位含有ポリマー、ポリアクリルアミド部位含有ポリマー、ポリハロゲン化ビニル部位含有ポリマー、ポリアミド部位含有ポリマー、ポリイミド部位含有ポリマー、ナイロン等のエステル部位含有ポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸部位含有ポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸塩部位含有ポリマー、ポリイソプレノールやポリ(メタ)アリルアルコール等の水酸基含有ポリマー、ポリカーボネート等のカーボネート基含有ポリマー、ポリエステル等のエステル基含有ポリマー、ポリウレタン等のカルバメートやカルバミド基部位含有ポリマー、寒天、ゲル化合物、有機無機ハイブリッド(コンポジット)化合物、イオン交換膜性ポリマー、環化ポリマー、スルホン酸塩含有ポリマー、第四級アンモニウム塩含有ポリマー、第四級ホスホニウム塩ポリマー、環状炭化水素基含有ポリマー、エーテル基含有ポリマー、セラミックス等の無機物等が挙げられる。セパレータはこれらのうちの1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0057】
<亜鉛電池の製造方法>
本発明はまた、亜鉛電極を含んで構成される亜鉛電池を製造する方法であって、該方法は、親水性の繊維からなるシート、亜鉛単体、及び、ポリマーを含む電極前駆体を集電体に接するように配置して、集電体と活物質層とを含んで構成される亜鉛電極を得る工程を含む亜鉛電池の製造方法でもある。
【0058】
上記亜鉛電極を用いて亜鉛電池を構成する工程は、活物質と集電体との接触が維持される限り、公知の方法を適宜用いることができる。例えば、集電体上に本発明の電極前駆体を1つ以上重ね合わせ、その上にセパレータ、正極を重ね合わせ、適切なサイズの電池セルに挿入して活物質と集電体との接触を維持し、電解質溶液を電池セル中に導入して電池を作製することができる。
なお、本発明の亜鉛電池の製造方法における亜鉛電極を構成する工程は、上述した本発明の亜鉛電極の製造方法と同様である。
【発明の効果】
【0059】
本発明の電極前駆体は、上述の構成よりなり、必要に応じて亜鉛電極の製造工程を簡略化できるうえ、亜鉛電極を高寿命化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0061】
(実施例1)
酸化亜鉛(平均粒子径1μm)と亜鉛金属(亜鉛単体)とポリテトラフルオロエチレンを85:11:4の質量比で塗料化しポリビニルアルコール(ビニロン)からなる親水性不織布に含浸させ、これを乾燥し、シート状の電極前駆体(厚さ300μm)を作製した。得られた電極前駆体と、錫でメッキされたパンチング鋼板とを重ねることにより亜鉛負極として電池セル内に配置した。この亜鉛負極、正極としてニッケル極、正極及び負極間には不織布とアニオン伝導体を配置し、電解液として酸化亜鉛を飽和させた8M水酸化カリウム水溶液を用いて充放電サイクル試験を行った。電流値は13.9mA/cm2(充放電時間:各1時間)とした。その結果、1000サイクル以上のサイクル寿命が得られた。
【0062】
(実施例2~4)
親水性不織布の種類を、下記表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に亜鉛電池を作製し、充放電サイクル試験を行なった。結果は表1に示す通りである。なお、実施例2~4の親水性処理は、スルホン化処理を用いた。
【0063】
【0064】
(比較例1)
酸化亜鉛(平均粒子径1μm)と亜鉛金属とポリテトラフルオロエチレンを85:11:4の質量比で混練しペースト化した亜鉛極合剤を錫でメッキされたパンチング鋼板に圧延によって貼り付け亜鉛負極とした。亜鉛負極の厚さは250μmであった。この亜鉛負極、正極としてのニッケル極、正極及び負極間には不織布とアニオン伝導体を配置し、電解液として酸化亜鉛を飽和させた8M水酸化カリウム水溶液を用いて充放電サイクル試験を行った。電流値は13.9mA/cm2 (充放電時間:各1時間)とした。その結果350サイクルで短絡した。
【0065】
(比較例2)
亜鉛極合剤に更に短繊維である親水性繊維を添加した以外は、比較例1と同様に亜鉛電池を作製し、充放電サイクル試験を行なった。結果は表2に示す通りである。
【0066】
(比較例3)
親水性不織布の種類を、下記表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様に亜鉛電池を作製し、充放電サイクル試験を行なった。結果は表2に示す通りである。
【0067】
【0068】
(実施例5~7、比較例4)
酸化亜鉛と亜鉛金属の質量割合を、下記表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様に亜鉛電池を作製し、充放電サイクル試験を行なった。結果は表3に示す通りである。
【0069】
【0070】
また実施例1、比較例1について、サイクル数評価後の亜鉛負極を観察したところ、比較例1の亜鉛負極では集電体上の亜鉛活物質がほぼ消失しているのに対し、実施例1の亜鉛負極では活物質が残存していた。亜鉛の形態変化に対して親水性の繊維からなるシートが大きく影響しており、長寿命化に寄与したと考えられる。
【0071】
上述した実施例から、親水性の繊維からなるシート、亜鉛単体、及び、ポリマーを含む電極前駆体であれば、親水性の繊維からなるシートや亜鉛単体によって電流集中を防止でき、亜鉛電池を高寿命化する効果が顕著なものとなることが分かった。また、実施例の電極前駆体は、集電体に接触させて配置するだけで充放電が可能となり、亜鉛電極の製造工程を簡略化できることが分かった。なお、実施例の電極前駆体は、シート状であり、積層させて活物質層を形成したり、様々な形状の電池に対応したりできる等、電池組立時の自由度が高くなると理解される。