(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】樹脂延伸装置及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
B29C 55/20 20060101AFI20230906BHJP
【FI】
B29C55/20
(21)【出願番号】P 2019211212
(22)【出願日】2019-11-22
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】二宮 俊幸
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-503443(JP,A)
【文献】特開平06-254961(JP,A)
【文献】特開昭62-044426(JP,A)
【文献】特開2014-024351(JP,A)
【文献】特開2002-144416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/00
B29C 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が磁性材料で形成され、樹脂を把持又は解放するように構成された複数のクリップであって、当該クリップが閉状態となることによって前記樹脂を把持可能となり当該クリップが開状態となることによって前記樹脂を解放可能となる、複数のクリップと、
前記複数のクリップを走行させる走行機構と、
前記複数のクリップに把持された状態で搬送されている前記樹脂を加熱するように構成された熱処理部と、
前記熱処理部の入口領域に設けられ、前記クリップを閉状態とするように構成されたクローザと、
前記熱処理部の出口領域に設けられ、磁石によって形成され、前記クローザによって閉状態にされた前記クリップを開状態にするように構成されたオープナと、
磁石によって形成され、前記オープナと対向
し開状態の前記クリップを閉状態にするような前記オープナの磁力に抗して前記クリップを磁力によって開状態に維持させるような位置に配置され、前記オープナの近傍を開状態で走行する前記クリップを開状態に維持するように構成された磁石部材と、
を有する樹脂延伸装置。
【請求項2】
前記オープナは、前記出口領域における前記クリップの走行方向に対して斜めの方向に沿って配置されており、
前記磁石部材は、前記出口領域における前記クリップの走行方向に沿った方向に配置されている
請求項1に記載の樹脂延伸装置。
【請求項3】
前記クリップは、閉状態で前記樹脂を把持し開状態で前記樹脂を解放する把持部と、頭部が磁性材料で形成されたクリップレバーとを有し、前記クリップレバーが回転することで、前記把持部が開状態又は閉状態となり、
前記オープナは、前記出口領域において前記クリップが走行するにつれて前記クリップが徐々に閉状態から開状態となるように前記クリップレバーが回転するときの、前記頭部の軌跡に沿って配置され、
前記磁石部材は、前記出口領域において前記クリップが開状態で走行するときの前記クリップレバーの前記頭部の軌跡に沿って配置されている、
請求項2に記載の樹脂延伸装置。
【請求項4】
前記クローザは磁石で形成されている、
請求項1から3のいずれか1項に記載の樹脂延伸装置。
【請求項5】
前記オープナ
は、複数の磁石で構成され、前記磁石部材は、複数の磁石で構成されている、
請求項1から4のいずれか1項に記載の樹脂延伸装置。
【請求項6】
前記磁石部材の前記クリップの走行方向の長さは、前記オープナの前記クリップの走行方向の長さよりも短い、
請求項
2に記載の樹脂延伸装置。
【請求項7】
前記磁石部材の前記クリップの走行方向の長さは、前記オープナの前記クリップの走行方向の長さよりも長い、
請求項
2に記載の樹脂延伸装置。
【請求項8】
前記磁石部材の長さは、開状態で前記オープナの近傍に到達した前記クリップが、前記磁石部材によって開状態を維持しながら走行して連続した前記磁石部材の最下流側に達したときに、前記オープナの磁力によって閉状態とならない程度の長さ
以上の長さである、
請求項
2に記載の樹脂延伸装置。
【請求項9】
調整運転を行うときに、閉状態となることによって樹脂を把持可能となり開状態となることによって前記樹脂を解放可能となるように構成された複数のクリップを、前記クリップに把持された状態で搬送されている前記樹脂を加熱するように構成された熱処理部の入口領域で閉状態とするように構成された、クローザの機能を停止し、
前記樹脂が搬送されていない状態で、前記熱処理部を起動し、
開状態で前記複数のクリップを走行させ、
前記熱処理部の出口領域に設けられ前記クローザによって閉状態にされた前記クリップを開状態にするように構成され磁石によって形成されたオープナに対向
し開状態の前記クリップを閉状態にするような前記オープナの磁力に抗して前記クリップを磁力によって開状態に維持させるような位置に配置された磁石部材によって、前記クリップが開状態を維持したまま、前記オープナの近傍を走行する、
樹脂延伸装置の運転方法。
【請求項10】
成膜運転を行っているとき、閉状態で前記熱処理部の出口領域に到達した前記クリップは、前記出口領域における前記クリップの走行方向に対して斜めの方向に沿って配置された前記オープナによって、徐々に閉状態から開状態となるように走行し、
前記調整運転を行っているとき、開状態で前記出口領域に到達した前記クリップは、前記出口領域における前記クリップの走行方向に沿った方向に配置された前記磁石部材によって、開状態を維持したまま前記オープナの近傍を走行する、
請求項9に記載の運転方法。
【請求項11】
前記クリップは、閉状態で前記樹脂を把持し開状態で前記樹脂を解放する把持部と、頭部が磁性材料で形成されたクリップレバーとを有し、前記クリップレバーが回転することで、前記把持部が開状態又は閉状態となり、
前記成膜運転を行っている場合に、前記出口領域において前記クリップが走行するにつれて前記クリップが閉状態から開状態となるように前記クリップレバーが回転するときの前記頭部は、前記オープナの配置に沿って移動し、
前記調整運転を行っている場合に、前記クリップが開状態であるときの前記クリップレバーの前記頭部は、前記磁石部材の配置に沿って移動する、
請求項10に記載の運転方法。
【請求項12】
調整運転の際に、磁石で形成されている前記クローザを樹脂延伸装置から取り外すことで、前記クローザの機能を停止する、
請求項9から11のいずれか1項に記載の運転方法。
【請求項13】
熱可塑性の樹脂フィルムをクリップによって把持しながら運転する通常運転状態及び前記樹脂フィルムを前記クリップによって把持せずに運転する調整運転状態を有する樹脂延伸装置の運転方法であって、
(a)前記調整運転状態において、前記クリップを開放した状態で熱処理部の内部に移動させる工程;および
(b)工程(a)の後、
工程(a)において前記クリップが開放された状態で前記クリップを前記熱処理部の外に移動させ、磁力によって前記クリップを開放した状態を維持したまま、前記クリップを前記熱処理部の外で移動させる工程
を含む樹脂延伸装置の運転方法。
【請求項14】
前記樹脂延伸装置は、
一対のループ状のレール;
前記熱処理部の入口領域における前記一対のループ状のレールのそれぞれの近傍に前記クリップを閉じるための磁性を帯びたクローザ;
前記熱処理部の出口領域における前記一対のループ状のレールのそれぞれの近傍に前記クリップを開放するための磁性を帯びたオープナ;及び
前記オープナの近傍に配置された磁石部材
を有し、
前記クリップは、前記一対のループ状のレールそれぞれに案内されて走行し、
工程(b)において、
前記出口領域において、前記クリップは前記磁石部材の前記磁力によって開放された状態
を維持する
請求項13に記載の樹脂延伸装置の運転方法。
【請求項15】
前記熱処理部は、前記一対のループ状のレール
に案内された前記クリップによって前記樹脂フィルムが搬送される搬送方向と垂直な方向に前記樹脂フィルムが延伸される領域を覆うように配置されている
請求項14に記載の樹脂延伸装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂延伸装置及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム等の樹脂を搬送しながら延伸する樹脂延伸装置が知られている。この技術に関連し、特許文献1は、フィルム横延伸装置を開示している。特許文献1にかかるフィルム横延伸装置は、連続的に送られるフィルムの幅方向両縁部を把持し、フィルムを幅方向に延伸するクリップを有する。また、特許文献1にかかるフィルム横延伸装置は、クリップによるフィルムの把持を解放させるクリップオープナを有する。特許文献1にかかるクリップオープナは、クリップと接触することでクリップを開状態とする。このような構成では、クリップオープナ及びクリップが摩耗により損傷するおそれがある。
【0003】
一方、特許文献2は、フィルムの両端部を把持して該フィルムを幅方向に延伸するクリップ装置を開示している。特許文献2にかかるクリップ装置は、フィルムを把持するテンタークリップと、テンタークリップを閉じるクリップクローザと、テンタークリップを開くクリップオープナとを備える。テンタークリップは、頭部が磁性材料から構成されているクリップレバーを備える。また、クリップクローザおよびクリップオープナは、クリップレバーの頭部の回転軌道の外方に所定の隙間を空けて配置された複数個の磁石から構成される。クリップクローザおよびクリップオープナは、磁力による引力によって、クリップを開閉する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-270246号公報
【文献】特開2011-31528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2にかかる技術では、装置の調整運転時においてテンタークリップを閉状態としない場合であっても、テンタークリップがクリップオープナによって一旦閉状態となってしまうおそれがある。これにより、テンタークリップが損傷するおそれがある。
【0006】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施の形態にかかる樹脂延伸装置は、少なくとも一部が磁性材料で形成され、樹脂を把持又は解放するように構成された複数のクリップであって、当該クリップが閉状態となることによって前記樹脂を把持可能となり当該クリップが開状態となることによって前記樹脂を解放可能となる、複数のクリップと、前記複数のクリップを走行させる走行機構と、前記複数のクリップに把持された状態で搬送されている前記樹脂を加熱するように構成された熱処理部と、前記熱処理部の入口領域に設けられ、前記クリップを閉状態とするように構成されたクローザと、前記熱処理部の出口領域に設けられ、磁石によって形成され、前記クローザによって閉状態にされた前記クリップを開状態にするように構成されたオープナと、磁石によって形成され、前記オープナと対向する位置に配置され、前記オープナの近傍を開状態で走行する前記クリップを開状態に維持するように構成された磁石部材と、を有する。
【0008】
また、一実施の形態にかかる樹脂延伸装置の運転方法は、調整運転を行うときに、閉状態となることによって樹脂を把持可能となり開状態となることによって前記樹脂を解放可能となるように構成された複数のクリップを、前記クリップに把持された状態で搬送されている前記樹脂を加熱するように構成された熱処理部の入口領域で閉状態とするように構成された、クローザの機能を停止し、前記樹脂が搬送されていない状態で、前記熱処理部を起動し、開状態で前記複数のクリップを走行させ、前記熱処理部の出口領域に設けられ前記クローザによって閉状態にされた前記クリップを開状態にするように構成され磁石によって形成されたオープナに対向する位置に配置された磁石部材によって、前記クリップが開状態を維持したまま、前記オープナの近傍を走行する。また、一実施の形態にかかる樹脂延伸装置の運転方法は、熱可塑性の樹脂フィルムをクリップによって把持しながら運転する通常運転状態及び前記樹脂フィルムを前記クリップによって把持せずに運転する調整運転状態を有する樹脂延伸装置の運転方法であって、(a)前記調整運転状態において、前記クリップを開放した状態で熱処理部の内部に移動させる工程;および(b)工程(a)の後、前記クリップを磁力によって開放した状態で前記熱処理部の外を移動させる工程を含む。
【発明の効果】
【0009】
前記一実施の形態によれば、調整運転時にクリップが損傷することを容易に抑制できる樹脂延伸装置及びその運転方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1にかかる樹脂成形装置の構成を示す図である。
【
図2】実施の形態1にかかる樹脂延伸装置の構成を示す図である。
【
図3】実施の形態1にかかるクリップの構成を示す図である。
【
図4】実施の形態1にかかるオープナの構成を示す図である。
【
図5】実施の形態1にかかるクリップの動作を示す図である。
【
図6】実施の形態1にかかるクリップの動作を示す図である。
【
図7】実施の形態1にかかるオープナ及び磁石部材の構成を示す図である。
【
図8】実施の形態1にかかる樹脂延伸装置が成膜運転を行う際の、オープナ及び磁石部材の近傍におけるクリップレバーの頭部の軌跡を示す図である。
【
図9】成膜運転時の、オープナ及び磁石部材の近傍におけるクリップの動作を示す断面図である。
【
図10】成膜運転時の、オープナ及び磁石部材の近傍におけるクリップの動作を示す断面図である。
【
図11】成膜運転時の、オープナ及び磁石部材の近傍におけるクリップの動作を示す断面図である。
【
図12】成膜運転時の、オープナ及び磁石部材の近傍におけるクリップの動作を示す断面図である。
【
図13】実施の形態1にかかる樹脂延伸装置が調整運転を行う際の、オープナ及び磁石部材の近傍におけるクリップレバーの頭部の軌跡を示す図である。
【
図14】調整運転時の、オープナ及び磁石部材の近傍におけるクリップの動作を示す断面図である。
【
図15】調整運転時の、オープナ及び磁石部材の近傍におけるクリップの動作を示す断面図である。
【
図16】比較例にかかるオープナの近傍を示す図である。
【
図17】比較例にかかる樹脂延伸装置が成膜運転を行う際の、オープナの近傍におけるクリップレバーの頭部の軌跡を示す図である。
【
図18】比較例にかかる樹脂延伸装置が調整運転を行う際の、オープナの近傍におけるクリップレバーの頭部の軌跡を示す図である。
【
図19】比較例にかかる樹脂延伸装置が調整運転を行う際の、クリップの動作を説明するための図である。
【
図20】実施の形態2にかかるオープナ及び磁石部材の構成を示す図である。
【
図21】実施の形態2にかかる樹脂延伸装置が成膜運転を行う際の、オープナ及び磁石部材の近傍におけるクリップレバーの頭部の軌跡を示す図である。
【
図22】実施の形態2にかかる樹脂延伸装置が調整運転を行う際の、オープナ及び磁石部材の近傍におけるクリップレバーの頭部の軌跡を示す図である。
【
図23】本実施の形態にかかる樹脂延伸装置の運転方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施の形態1)
以下、実施形態について、図面を参照しながら説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。なお、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。また、図面が煩雑にならないように、ハッチングが省略されている部分がある。
【0012】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、応用例、詳細説明、補足説明等の関係にある。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0013】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(動作ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数等(個数、数値、量、範囲等を含む)についても同様である。
【0014】
<樹脂成形装置の構成>
図1は、実施の形態1にかかる樹脂成形装置1の構成を示す図である。実施の形態1にかかる樹脂成形装置1は、例えば、BOPP(Biaxially Oriented Polypropylene;二軸延伸ポリプロピレン)等の熱可塑性の樹脂を成形して、樹脂製品を製造する。樹脂成形装置1は、押出機2、キャスト成形機4、縦延伸機6、樹脂延伸装置100、及び巻取機8を有する。樹脂延伸装置100は、横延伸機として機能し得る。
【0015】
押出機2は、ポリプロピレン樹脂等の樹脂を溶融及び可塑化する。次に、キャスト成形機4は、溶融及び可塑化された樹脂を、冷却ロールにて冷却し、シート状に成形する。その後、縦延伸機6は、樹脂搬送方向(フィルム送り方向;MD)にシート(樹脂フィルム)を延伸する。また、樹脂延伸装置100は、幅方向(フィルム幅方向;TD)にシート(樹脂フィルム)を延伸する。これによって、シートは、厚み約20μm程度のフィルムとなる。そして、樹脂フィルム(樹脂)は、巻取機8によって巻き取られる。
【0016】
<樹脂延伸装置の構成>
図2は、実施の形態1にかかる樹脂延伸装置100の構成を示す図である。樹脂延伸装置100は、モータ101、レール102及びチェーン104から構成される走行機構106と、熱処理部110と、複数のクリップ120と、クローザ130と、オープナ140と、磁石部材150とを有する。なお、以後、特に言及しない限り、「上流」とは樹脂搬送方向(
図2の矢印Fで示す)の上流を意味し、「下流」とは樹脂搬送方向の下流を意味する。
【0017】
クリップ120は、少なくとも一部が磁性材料で形成され、樹脂90を把持又は解放するように構成されている。クリップ120が閉状態となることによって、クリップ120は樹脂90を把持可能となる。一方、クリップ120が開状態となることによって、クリップ120は、樹脂90を解放可能となる。
【0018】
走行機構106は、樹脂延伸装置100の
図2の矢印Fで示す樹脂搬送方向に対して左右に配置されている。つまり、2つの走行機構106が、一点鎖線で示す中心線に対して対称に配置され得る。したがって、樹脂延伸装置100は、一対の走行機構106を有している。言い換えると、樹脂延伸装置100は、一対のモータ101、一対のレール102、及び一対のチェーン104を有する。走行機構106は、連続した複数のクリップ120を走行させる。具体的には、複数のクリップ120が、チェーン104に連続的に取り付けられている。そして、モータ101が矢印Aの方向に回転することによってチェーン104が矢印Aで示す方向に移動(回転)する。これによって、クリップ120は、矢印Aで示す方向にレール102に案内されて走行する。このようにして、複数のクリップ120が連続してレール102上を走行する。そして、クリップ120によって把持された樹脂90は、矢印Fで示す樹脂搬送方向(MD)に搬送される。
【0019】
なお、
図2に示すように、レール102及びチェーン104は、ループ状(円環状)に形成され得る。つまり、レール102及びチェーン104は、それぞれ無端レール及び無端チェーンであり得る。したがって、複数の連続したクリップ120が、レール102に沿って循環する。
【0020】
熱処理部110は、走行機構106により走行している複数のクリップ120によって搬送されている樹脂90を加熱する。熱処理部110は、一対のループ状のレール102の中央部を覆うように配置されている。ここで、走行機構106は、熱処理部110において樹脂90の搬送方向(MD)と垂直な方向(幅方向;TD)に樹脂90が延伸されるように、クリップ120を走行させる。具体的には、熱処理部110の延伸領域110aにおいて、レール102は、樹脂搬送方向の下流方向(MD)に向かって幅方向(TD)に広がるように配置されている。これによって、クリップ120によって両端を把持された樹脂90が樹脂搬送方向の下流方向に向かって熱処理部110を通過すると、
図2の矢印Wで示すように、樹脂90は幅方向に延伸されることとなる。
【0021】
クローザ130(クリップクローザ)は、熱処理部110の樹脂搬送方向における上流側の領域である入口領域112に設けられている。クローザ130は、例えば磁石で形成されていてもよい。クローザ130は、後述するように、走行機構106によって走行しているクリップ120を閉状態にするように構成されている。つまり、クローザ130は、熱処理部110の入口領域112における一対のループ状のレール102のそれぞれの近傍に設けられており、クリップ120を閉じるための磁性を帯びている。なお、本実施の形態では、クローザ130が磁石で形成されているとするが、クローザ130は、磁石によってクリップ120を閉状態にする必要はない。例えば、円板等を用いて、機械的にクリップ120を閉状態にしてもよい。
【0022】
オープナ140(クリップオープナ)は、熱処理部110の樹脂搬送方向における下流側の領域である出口領域114に設けられている。オープナ140は、磁石で形成されている。オープナ140は、後述するように、クローザ130によって閉状態にされて走行機構106によって走行しているクリップ120を開状態にするように構成されている。つまり、オープナ140は、熱処理部110の出口領域における一対のループ状のレール102のそれぞれの近傍に設けられており、クリップ120を開放するための磁性を帯びている。
【0023】
磁石部材150は、磁石によって形成されている。磁石部材150は、出口領域114においてオープナ140と対向する位置に並んで配置されている。つまり、磁石部材150は、オープナ140の近傍に配置されている。そして、後述するように、磁石部材150は、クローザ130によって閉状態にされなかったクリップ120を開状態に維持するように構成されている。つまり、磁石部材150は、オープナ140の近傍を開状態で走行するクリップ120を開状態に維持するように構成されている。なお、クローザ130、オープナ140及び磁石部材150を形成する磁石は、例えば、ネオジウム磁石等の永久磁石である。
【0024】
樹脂延伸装置100の動作について説明する。入口領域112において、クローザ130によってクリップは閉状態となり、クリップ120が樹脂90を把持する。これにより、熱処理部110において、樹脂90は、熱処理部110によって加熱されながらクリップ120によって幅方向に延伸される。そして、出口領域114において、オープナ140によってクリップは開状態となり、クリップ120が樹脂90を解放する。幅方向に延伸された樹脂90は、巻取機8によって巻き取られる。
【0025】
<クリップの構成及び動作>
図3は、実施の形態1にかかるクリップ120の構成を示す図である。クリップ120は、把持部122と、クリップレバー124と、回転軸126と、ベース128とを有する。ベース128は、チェーン104のリンク104aに固定されている。また、ベース128に物理的に固定された案内部128bが、レール102に案内される。
【0026】
把持部122及びクリップレバー124は回転軸126を介して物理的に一体に形成されている。クリップレバー124は、回転軸126で把持部122に対して所定の角度で屈曲しており、回転軸126の下方に把持部122が設けられている。回転軸126は、ベース128と物理的に固定された支持部128aに回転自在に支持されている。したがって、把持部122及びクリップレバー124は、回転軸126の周りに回転する。後述するように、クリップレバー124が回転することによって、把持部122が開状態又は閉状態となる。
【0027】
クリップレバー124の頭部125は、例えば飽和磁束密度が1.0T(テスラ)以上の磁性材料で形成されている。例えば、頭部125を形成する磁性材料としては、球状黒鉛鋳鉄、FCD450(飽和磁束密度1.58T)、低炭素鋼、S25C(飽和磁束密度1.7T)、フェライト系不銹鋼であるSUS430(飽和磁束密度1.7T)等を適用することができる。
【0028】
<オープナの構成>
図4は、実施の形態1にかかるオープナ140の構成を示す図である。
図4は、
図2に示した2つのオープナ140のうち、樹脂搬送方向に向かって左側(
図2の上側)のオープナ140を
図2における矢印Bの方向から見た側面図である。なお、説明の明確化のため、
図4では、磁石部材150が省略されている。
図4は、複数のクリップ120が樹脂90を把持しながら矢印Fで示す樹脂搬送方向に沿って移動している状態を示している。
【0029】
図4に示すように、オープナ140は、複数の磁石142が矢印Fで示す樹脂搬送方向に沿って連続して配置されることで構成され得る。
図4の例では、オープナ140は、16個の磁石142で構成されている。オープナ140(磁石142)は、支持部材160に固定されている。ここで、後述する
図5及び
図6から分かるように、各磁石142は、その対向面142aが、各磁石142に対応する位置に到達したクリップレバー124の頭部125と対向するように、配置されている。したがって、各磁石142は、上流側では、クリップレバー124の傾きに対応して傾いて配置され、下流側の磁石142ほど、クリップレバー124が立ち上がっていくのに対応して傾きが軽減されるように配置されている。
【0030】
<クリップの動作>
図5及び
図6は、実施の形態1にかかるクリップ120の動作を示す図である。
図5において矢印Aで示されるように、クリップレバー124が立ち上がった状態(
図5で破線で示す)から、一点鎖線で示す状態(中間状態)を経て、クリップレバー124が傾いた状態(
図5で実線で示す)になると、クリップ120は閉状態となる。このとき、樹脂90が把持部122とベース128との間にあれば、把持部122の先端とベース128との間に樹脂90が挟まれ、把持部122がベース128の側に樹脂90を押圧する。これによって、クリップ120(把持部122)が樹脂90を把持する。
【0031】
なお、樹脂90が把持部122とベース128との間になければ、把持部122の先端がベース128に接触する。クローザ130は、後述するように、複数の磁石が樹脂搬送方向に連続して並べられ、さらに樹脂搬送方向に進むにつれて樹脂搬送方向と垂直な方向(矢印Aの方向)に徐々にずれるように配置されている。したがって、クローザ130は、磁力によって、クローザ130に沿って走行するクリップ120を閉状態にすることができる。
【0032】
一方、
図5において矢印Bで示されるように、クリップレバー124が傾いた状態(
図5で実線で示す)から、一点鎖線で示す状態(中間状態)を経て、クリップレバー124が立ち上がった状態(
図5で破線で示す)になると、クリップ120は開状態となる。このとき、把持部122の先端とベース128との間が開放される。したがって、樹脂90が把持部122とベース128との間にあれば、把持部122がベース128の側に樹脂90を押圧しなくなる。これにより、クリップ120(把持部122)が樹脂90を解放する。オープナ140は、後述するように、複数の磁石が樹脂搬送方向に連続して並べられ、さらに樹脂搬送方向に進むにつれて樹脂搬送方向と垂直な方向(矢印Bの方向)に徐々にずれるように配置されている。したがって、オープナ140は、磁力によって、オープナ140に沿って走行するクリップ120を開状態にする(開放する)ことができる。
【0033】
図6は、
図2に示した2つのオープナ140のうち、樹脂搬送方向に向かって左側(
図2の上側)のオープナ140を
図2における矢印Cの方向から見た斜視図である。なお、説明の明確化のため、
図6では、磁石部材150が省略されている。
図6に示すように、オープナ140は、複数の磁石142が矢印Fで示す樹脂搬送方向に沿って連続して配置され、さらに樹脂搬送方向に進むにつれて樹脂搬送方向と垂直な方向に徐々にずれるように配置されることで構成され得る。
図6において、矢印Aで示すように閉状態である(つまり樹脂90を把持した)クリップ120がオープナ140の近傍に到達すると、各磁石142の磁力によって頭部125が引き寄せられ、これによって、徐々にクリップレバー124が立ち上がる。そして、
図6の矢印Cで示す状態(
図5の一点鎖線で示す状態に対応)を経由して、クリップ120は、矢印Bで示すように開状態となり、樹脂90を解放する。なお、
図6及び後述する
図7に示すように、オープナ140を構成する複数の磁石142は、樹脂搬送方向に沿って並べられ、さらに、樹脂搬送方向と垂直な方向(幅方向;TD)に徐々にずれるように配置される。
【0034】
したがって、オープナ140は、出口領域114におけるクリップ120の走行方向(クリップ走行方向)に対して傾いた方向に沿って配置されている。言い換えると、オープナ140は、出口領域114におけるクリップ走行方向に沿って配置されているが、クリップ走行方向に対して垂直な方向に徐々にずれるように配置されている。これによって、オープナ140は、出口領域114においてクリップ120が走行するにつれてクリップ120が閉状態から開状態となるようにクリップレバー124が回転するときの、頭部125に対向する位置に配置されている。つまり、オープナ140は、頭部125の軌跡に沿って配置されている。したがって、上述したように、閉状態でオープナ140の近傍を通過するクリップ120は、徐々に閉状態から開状態へと移行していく。
【0035】
なお、クローザ130の近傍におけるクリップ120の動作は、オープナ140におけるクリップ120の動作と実質的に逆の動作となる。したがって、クローザ130を構成する複数の磁石は、
図6に示された磁石142の配置と実質的に逆に配置すればよい。つまり、
図6において、樹脂搬送方向を矢印Fで示す方向と逆にし、磁石142が配置された位置(例えば矢印A,B,Cで示す位置)に、クローザ130を構成する磁石を配置すればよい。言い換えると、クローザ130は、樹脂搬送方向を矢印Fで示す方向とし、下流側に向かって矢印A→矢印C→矢印Bの順で配置された磁石を、矢印B→矢印C→矢印Aの順で配置するようにすればよい。
【0036】
なお、クローザ130を構成する磁石の数は、オープナ140を構成する磁石142の数よりも少なくてもよい。以下に理由を説明する。樹脂90を把持する際、樹脂90から把持部122にかかる引っ張り力はそれほど大きくない(あるいは引っ張り力があっても把持部122が閉じる方向(
図5の矢印Cの方向)に働く)。したがって、クローザ130においてクリップ120が樹脂90を把持する際の力はそれほど大きくない。したがって、クローザ130を構成する磁石の数が少なく、それらの磁石の間隔が大きくても、磁石の磁力によってクリップレバー124の頭部125を引き寄せることができるので、クリップ120を閉状態にできる。
【0037】
一方、オープナ140の近傍で樹脂90を解放する際、樹脂90は幅方向に広げられているので、把持部122には、幅方向の内側の方向(
図5の矢印Cの方向)に樹脂90からの引っ張り力(反力)が働く。この方向は、
図5から分かるように、把持部122が開放する方向とは逆である。したがって、オープナ140においてクリップ120が樹脂90を解放する際に必要な力は、クローザ130における力よりも大きくなる。したがって、磁石142の間隔を小さくしなければ、磁石142の磁力によってクリップレバー124の頭部125を引き寄せることができない可能性がある。したがって、オープナ140を構成する磁石の数をクローザ130を構成する磁石の数よりも多くする必要がある。逆に言うと、クローザ130を構成する磁石の数は、オープナ140を構成する磁石の数よりも少なくてもよい。例えば、クローザ130を構成する磁石は、3個程度でもよい。したがって、クローザ130の大きさは、オープナ140と比較して、小さくてもよい。
【0038】
<磁石部材の構成>
図7は、実施の形態1にかかるオープナ140及び磁石部材150の構成を示す図である。
図7は、
図2に示した2つのオープナ140及び2つの磁石部材150のうち、矢印Fで示す樹脂搬送方向に向かって左側(
図2の上側)のオープナ140及び磁石部材150を上から見た平面図である。なお、矢印Fで示す樹脂搬送方向に向かって右側(
図2の下側)のオープナ140及び磁石部材150は、
図7を上下反転した配置となっている。
【0039】
磁石部材150は、複数の磁石152が矢印Fで示す樹脂搬送方向(クリップ走行方向)に沿って連続して配置されることで構成され得る。
図7の例では、磁石部材150は、9個の磁石152-1~152-9で構成されている。また、
図7の例では、オープナ140は、16個の磁石142-1~142-16で構成されている。
【0040】
上述したように、オープナ140を構成する磁石142-1~142-16は、樹脂搬送方向に対して斜めに配置されている。これに対し、磁石部材150を構成する磁石152-1~152-9は、樹脂搬送方向(クリップ走行方向)に沿った方向に(略平行に)配置されている。そして、磁石部材150は、出口領域114においてクリップ120が開状態で走行するときのクリップレバー124の頭部125に対向する位置に配置されている。言い換えると、磁石部材150は、出口領域114においてクリップ120が開状態で走行するときのクリップレバー124の頭部125の軌跡に沿って配置されている。したがって、磁石部材150を構成する複数の磁石152の配列の仮想的な延長線上には、オープナ140の樹脂搬送方向の最下流の磁石142-16が存在し得る。なお、実施の形態1では、磁石部材150の樹脂搬送方向(クリップ走行方向)の長さは、オープナ140の樹脂搬送方向(クリップ走行方向)の長さよりも短い。
【0041】
<成膜運転時の動作>
図8は、実施の形態1にかかる樹脂延伸装置100が成膜運転を行う際の、オープナ140及び磁石部材150の近傍におけるクリップレバー124の頭部125の軌跡を示す図である。ここで、成膜運転とは、樹脂90をフィルム等の所定の加工品に成形する運転、つまり通常運転である。成膜運転時、樹脂90を幅方向に延伸するため、樹脂90は、クリップ120によって把持されながら熱処理部110の内部を搬送される。したがって、クリップ120は、熱処理部110から出口領域114に達したときに閉状態である。したがって、成膜運転時、クリップレバー124の頭部125が、
図8の矢印Hfで示すように、オープナ140を構成する各磁石142に沿って移動することで、後述するように、クリップ120は閉状態から開状態となる。つまり、樹脂延伸装置100は、樹脂90(樹脂フィルム)をクリップ120によって把持しながら運転する通常運転状態を有する。
【0042】
図9~
図12は、成膜運転時の、オープナ140及び磁石部材150の近傍におけるクリップ120の動作を示す断面図である。
図9~
図12は、
図2に示した2つのオープナ140及び磁石部材150のうち、樹脂搬送方向に向かって左側のオープナ140及び磁石部材150を、樹脂搬送方向の上流側から下流側に見た図である。そして、
図9は、
図4,
図7,
図8のA-A断面図である。
図10は、
図4,
図7,
図8のB-B断面図である。
図11は、
図4,
図7,
図8のC-C断面図である。
図12は、
図4,
図7,
図8のD-D断面図である。つまり、成膜運転時にオープナ140及び磁石部材150の近傍に到達したクリップ120は、
図9に示す状態から
図10に示す状態、
図10に示す状態から
図11に示す状態、
図11に示す状態から
図12に示す状態といったように、徐々に動作する。
【0043】
オープナ140及び磁石部材150の近傍に到達したクリップ120は、
図9に示すように、閉状態で樹脂90を把持している。このとき、クリップレバー124の頭部125は、オープナ140の最上流の磁石142-1に対向している。ここで、上述したように、オープナ140を構成する磁石142は、樹脂搬送方向に対して垂直方向に徐々にずれて配置されている。したがって、クリップ120が樹脂搬送方向に走行してクリップレバー124の頭部125が下流側の磁石142に対向していくと、その下流側の磁石142の磁力による引力によって、クリップレバー124が徐々に立ち上がっていく。したがって、
図10で示すように、クリップレバー124の頭部125が磁石142-5に対向するときには、
図9の状態よりもクリップレバー124が立ち上がっている。
【0044】
同様に、
図11で示すように、クリップレバー124の頭部125が磁石142-9に対向するときには、
図10の状態よりもクリップレバー124が立ち上がっている。同様に、
図12で示すように、クリップレバー124の頭部125が磁石142-15に対向するときには、
図11の状態よりもクリップレバー124が立ち上がっている。そして、クリップレバー124の頭部125が最下流の磁石142-16に対向するときには、クリップレバー124が最も立ち上がった状態となる。このようにして、クリップ120は、閉状態から開状態となる。
【0045】
<調整運転時の動作>
図13は、実施の形態1にかかる樹脂延伸装置100が調整運転を行う際の、オープナ140及び磁石部材150の近傍におけるクリップレバー124の頭部125の軌跡を示す図である。ここで、調整運転とは、成膜運転の前などに、樹脂90が搬送されない状態で、装置を運転させることである。つまり、樹脂延伸装置100は、調整運転状態を有する。後述するように、調整運転状態では、樹脂延伸装置100は、樹脂90(樹脂フィルム)をクリップ120によって把持せずに運転する。調整運転は、例えば、熱処理部110の炉を昇温させる運転を含む。このとき、複数のクリップ120を走行させながら、熱処理部110を昇温する。このように、クリップ120を走行させながら熱処理部110を昇温するのは、以下の理由による。クリップ120を走行させないと、熱処理部110の内部に存在するクリップ120のみが昇温されてしまう。これにより、連続したクリップ120に熱応力が発生したり、熱処理部110に存在するクリップ120が異常に過熱してしまうことによる損傷が発生したりするおそれがある。
【0046】
ここで、調整運転時では、樹脂90が搬送されないため、クリップ120は樹脂90を把持していない。したがって、開状態でクリップ120が走行することが好ましい。以下に理由を説明する。把持部122とベース128との間に樹脂90が存在しない状態でクローザ130によってクリップ120が閉状態になると、把持部122がベース128に衝突する(突き当たる)。この現象をクリップ120の「空打ち」と称する。ここで、クリップ120は金属で形成されているので、空打ちは金属同士の接触となる。したがって、空打ちは、把持部122及びベース128の摩耗を誘発し、クリップ120の損傷を誘発するおそれがある。したがって、樹脂90が搬送されない調整運転時では、空打ちを防止するため、開状態のままクリップ120を走行させることが好ましい。
【0047】
したがって、調整運転時では、何らかの方法により、クローザ130がクリップ120を閉状態にしないような処置が施される。例えば、調整運転時では、クローザ130が、樹脂延伸装置100から取り外され得る。なお、上述したように、クローザ130を構成する磁石の数が比較的少なくてもよいため、クローザ130の大きさはそれほど大きくない。したがって、樹脂延伸装置100からクローザ130を取り外すことは、比較的容易である。一方、上述したように、オープナ140を構成する磁石142の数は多くなるので、オープナ140の大きさは比較的大きい。したがって、樹脂延伸装置100からオープナ140を取り外すことは容易ではない。したがって、樹脂延伸装置100からオープナ140を取り外すことなく、オープナ140によるクリップ120の空打ちを抑制するため、本実施の形態では、磁石部材150がオープナ140に対向する位置に設けられている。
【0048】
上述したように、調整運転時では、クリップ120は、熱処理部110から出口領域114に入ったときに開状態である。したがって、調整運転時、クリップレバー124の頭部125は、
図13の矢印Haで示すように、磁石部材150を構成する磁石152-1~152-9に沿って移動し、さらに連続して、オープナ140を構成する磁石142-10~142-16に沿って移動する。これにより、後述するように、クリップ120は開状態のまま維持される。
【0049】
図14~
図15は、調整運転時の、オープナ140及び磁石部材150の近傍におけるクリップ120の動作を示す断面図である。
図14~
図15は、
図2に示した2つのオープナ140及び磁石部材150のうち、樹脂搬送方向に向かって左側のオープナ140及び磁石部材150を、樹脂搬送方向の上流側から下流側に見た図である。そして、
図14は、
図4,
図7,
図13のA-A,B-B,C-C断面図である。つまり、本実施の形態において、A-A,B-B,C-C断面図において、クリップ120及び磁石部材150の状態は変わらない。
図15は、
図4,
図7,
図13のD-D断面図である。なお、
図14において、オープナ140を構成する磁石142の図示は省略している。
【0050】
オープナ140及び磁石部材150の近傍に到達したクリップ120は、
図14に示すように、開状態である。このとき、クリップレバー124は立ち上がっているので、クリップレバー124の頭部125は、磁石部材150の最上流の磁石152-1に対向している。したがって、クリップレバー124の頭部125は、オープナ140の磁石142-1よりも近い磁石152-1の磁力の影響を受ける。したがって、クリップ120は、開状態に維持される。
【0051】
ここで、上述したように、磁石部材150を構成する磁石152は、樹脂搬送方向に対して略平行に配置されている。したがって、クリップ120が樹脂搬送方向に走行してクリップレバー124の頭部125が下流側の磁石152に対向していくと、磁石152の磁力による引力によって、オープナ140の磁石142の磁力に抗して、クリップレバー124は立ち上がったままとなる。したがって、
図14で示すように、クリップレバー124の頭部125が各磁石152に対向するとき、クリップレバー124が立ち上がっている。そして、
図15に示すように、クリップレバー124の頭部125がオープナ140の磁石142-15と対向するときも、クリップレバー124が立ち上がっている。このようにして、クリップ120は、オープナ140の近傍を通過するときでも、開状態が維持される。
【0052】
(比較例との比較)
図16~
図19は、比較例について説明するための図である。
図16は、比較例にかかるオープナ140の近傍を示す図である。比較例にかかる樹脂延伸装置100は、オープナ140と対向する位置に沿って磁石部材150が配置されていない点で、実施の形態1にかかる樹脂延伸装置100と異なる。
【0053】
図17は、比較例にかかる樹脂延伸装置100が成膜運転を行う際の、オープナ140の近傍におけるクリップレバー124の頭部125の軌跡を示す図である。上述したように、成膜運転時では、クリップ120は、熱処理部110から出口領域114に入ったときに閉状態である。したがって、実施の形態1の場合と同様に、
図16の矢印Hfで示すように、クリップレバー124の頭部125は、オープナ140を構成する各磁石142に沿って移動する。これにより、
図9~
図12を用いて上述したように、クリップ120は閉状態から開状態となる。
【0054】
図18は、比較例にかかる樹脂延伸装置100が調整運転を行う際の、オープナ140の近傍におけるクリップレバー124の頭部125の軌跡を示す図である。また、
図19は、比較例にかかる樹脂延伸装置100が調整運転を行う際の、クリップ120の動作を説明するための図である。上述したように、調整運転時では、クリップ120は、熱処理部110から出口領域114に入ったときに開状態である。したがって、調整運転時、クリップレバー124の頭部125は、
図18の矢印Ha1で示すような軌跡で、オープナ140の近傍に進行してくる。このとき、クリップ120は、
図19(a)に示す状態である。
【0055】
ここで、クリップレバー124の頭部125は、オープナ140の最上流付近の磁石142(例えば磁石142-1)の磁力によって、この磁石142(磁石142-1)に引き寄せられる。したがって、
図19(b)の矢印E1で示すようにクリップレバー124が移動して、
図18の矢印E1で示すようにクリップレバー124の頭部125が磁石142-1と対向するようになる。これに伴い、クリップ120が閉状態となるので、矢印E2で示すように、把持部122の先端がベース128に衝突してしまう。その後、クリップレバー124の頭部125は、
図18の矢印Ha2で示すように、オープナ140に沿って移動するので、クリップ120は、オープナ140によって開状態となる。
【0056】
このように、比較例では、調整運転時に、樹脂90を把持していないクリップ120が、オープナ140の近傍で、一旦、開状態から閉状態となることにより、クリップ120の空打ちが発生するおそれがある。なお、比較例にかかる樹脂延伸装置100では、調整運転時にクリップ120の空打ちを防止するために、何らかの処置をする必要がある。例えば、オープナ140を取り外す、あるいはオープナ140の磁石142の磁力に抗して物理的にクリップ120が閉状態にさせないようにするといった処置を施す必要がある。ここで、上述したように、オープナ140はクローザ130と比較して大きいので、オープナ140を取り外すのは極めて困難である。したがって、比較例においては、調整運転時にクリップ120の空打ちを抑制するのは容易ではない。
【0057】
これに対し、本実施の形態にかかる樹脂延伸装置100では、オープナ140に対向する位置に磁石部材150が配置されている。これにより、クローザ130によって閉状態とならなかったクリップ120を、何らの特別な処置を行うことなく、オープナ140の近傍でも開状態に維持することができる。したがって、本実施の形態にかかる樹脂延伸装置100では、クローザ130によって閉状態とならなかったクリップ120がオープナ140の近傍で閉状態となることを容易に抑制することが可能となる。よって、本実施の形態にかかる樹脂延伸装置100では、調整運転時でもクリップ120の空打ちが発生することを容易に抑制できるので、調整運転時にクリップ120が損傷することを容易に抑制することが可能となる。
【0058】
なお、磁石部材150を構成する磁石152の数は、開状態でオープナ140の近傍に到達したクリップ120がオープナ140の磁力によって閉状態となって把持部122の先端とベース128とが衝突(空打ち)しない程度であり得る。例えば磁石部材150が例えば磁石152-1~152-3の3個のみで構成されるといったように、磁石152の数が少ない場合を想定する。この場合、最下流の磁石152-3までは開状態であったが、その後、磁石142-4~142-16の磁力(引力)によって、クリップ120は開方向に動作し、空打ちするが発生するおそれがある。したがって、磁石152の数は、開状態でオープナ140の近傍に到達したクリップ120が磁石部材150によって開状態を維持しながら走行して連続した磁石部材150の最下流側に達したときに、オープナ140の磁力によって閉状態とならない程度であり得る。言い換えると、磁石部材150の長さは、開状態でオープナ140の近傍に到達したクリップ120が磁石部材150によって開状態を維持しながら走行して連続した磁石部材150の最下流側に達したときに、オープナ140の磁力によって閉状態とならない程度であり得る。なお、磁石部材150を構成する磁石152の数は、磁石152及び磁石142の磁力にも依存する。つまり、磁石152の磁力が磁石142の磁力よりも大きければ、磁石152の数を少なくできる。
【0059】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2にかかる樹脂延伸装置100では、オープナ140を構成する磁石142及び磁石部材150を構成する磁石152の配列が、実施の形態1にかかるものと異なる。実施の形態2にかかる樹脂延伸装置100のその他の構成については、実施の形態1と実質的に同様であるので、説明を省略する。
【0060】
<オープナ及び磁石部材の構成>
図20は、実施の形態2にかかるオープナ140及び磁石部材150の構成を示す図である。
図7と同様に、
図20は、
図2に示した2つのオープナ140及び2つの磁石部材150のうち、矢印Fで示す樹脂搬送方向に向かって左側のオープナ140及び磁石部材150を上から見た平面図である。
【0061】
実施の形態1と同様に、実施の形態2にかかるオープナ140を構成する磁石142は、樹脂搬送方向に対して斜めに配置されている。また、実施の形態1と同様に、磁石部材150は、複数の磁石152が矢印Fで示す樹脂搬送方向に沿って連続して配置されることで構成され得る。ここで、
図7に示すように、実施の形態1にかかる樹脂延伸装置100では、磁石部材150を構成する磁石152の数は、オープナ140を構成する磁石142の数よりも少ない。一方、
図20に示すように、実施の形態2にかかる樹脂延伸装置100では、磁石部材150を構成する磁石152の数は、オープナ140を構成する磁石142の数よりも多い。したがって、実施の形態2では、磁石部材150のクリップ走行方向(樹脂搬送方向)の長さは、オープナ140のクリップ走行方向(樹脂搬送方向)の長さよりも長い。
【0062】
図20の例では、オープナ140は、9個の磁石142-1~142-9で構成されている。また、磁石部材150は、16個の磁石152-1~152-16で構成されている。そして、実施の形態1と同様に、実施の形態2にかかる磁石部材150は、樹脂搬送方向に沿って略直線に配置されている。したがって、磁石部材150は、出口領域114においてクリップ120が開状態であるときのクリップレバー124の頭部125の軌跡に沿って配置されている。つまり、実施の形態2では、磁石部材150を構成する16個の磁石152-1~152-16が、樹脂搬送方向に沿って略直線に配置されている。
【0063】
一方、実施の形態2にかかるオープナ140を構成する9個の磁石142-1~142-9は、樹脂搬送方向に対して斜めに配置されている。そして、磁石部材150を構成する16個の磁石152のうち、磁石152-1~152-9が、それぞれ、オープナ140を構成する磁石142-1~142-9と対向している。したがって、実施の形態2では、磁石部材150を構成する磁石152-10~152-16は、オープナ140と対向していない。したがって、実施の形態2にかかる磁石部材150は、一部がオープナ140と対向している。
【0064】
<成膜運転時の動作>
図21は、実施の形態2にかかる樹脂延伸装置100が成膜運転を行う際の、オープナ140及び磁石部材150の近傍におけるクリップレバー124の頭部125の軌跡を示す図である。上述したように、クリップ120は、熱処理部110から出口領域114に達したときに閉状態である。したがって、成膜運転時、クリップレバー124の頭部125は、
図21の矢印Hfで示すように、オープナ140を構成する磁石142-1~142-9に沿って移動し、さらに連続して、磁石部材150を構成する磁石152-10~152-16に沿って移動する。
【0065】
このように、実施の形態2では、成膜運転時、クリップ120は、オープナ140及び磁石部材150によって、閉状態から開状態となる。なお、クリップ120の動作は、
図9~
図12に示したものと実質的に同様である。つまり、実施の形態2でも、クリップ120は、徐々に閉状態から開状態となる。
【0066】
<調整運転時の動作>
図22は、実施の形態2にかかる樹脂延伸装置100が調整運転を行う際の、オープナ140及び磁石部材150の近傍におけるクリップレバー124の頭部125の軌跡を示す図である。上述したように、調整運転時では、クリップ120は、熱処理部110から出口領域114に達したときに開状態である。したがって、調整運転時、クリップレバー124の頭部125は、
図22の矢印Haで示すように、磁石部材150を構成する磁石152-1~152-16に沿って移動する。これにより、クリップ120は開状態のまま維持される。
【0067】
上述したように、実施の形態2にかかる樹脂延伸装置100でも、オープナ140に対向する位置に磁石部材150が配置されている。これにより、クローザ130によって閉状態とならなかったクリップ120を、何らの処置を行うことなく、オープナ140の近傍でも開状態に維持することができる。したがって、実施の形態2にかかる樹脂延伸装置100でも、クローザ130によって閉状態とならなかったクリップ120がオープナ140の近傍で閉状態となることを容易に抑制することが可能となる。よって、実施の形態2にかかる樹脂延伸装置100でも、調整運転時でもクリップ120の空打ちが発生することを容易に抑制できるので、調整運転時にクリップ120が損傷することを容易に抑制することが可能となる。
【0068】
また、実施の形態1では、
図13に示すように、調整運転時に、クリップレバー124の頭部125が磁石部材150のみに沿って移動するわけではなく、途中でオープナ140に沿って移動する。したがって、磁石部材150とオープナ140との境目(
図13の例では磁石152-9と磁石142-10との間)で、クリップレバー124の頭部125は、一瞬、クリップ120が閉方向に移動し得る。この場合、オープナ140及び磁石部材150の磁力によっては、クリップ120が空打ちしてしまうほど、クリップレバー124が移動してしまうおそれがある。
【0069】
一方、実施の形態2にかかる樹脂延伸装置100では、磁石部材150の樹脂搬送方向の長さが、オープナ140の樹脂搬送方向の長さよりも長い。このように構成することで、
図22に示すように、調整運転時では、クリップレバー124が最も立ち上がった状態を維持したまま、クリップ120がオープナ140の近傍を通過することができる。したがって、実施の形態2にかかる樹脂延伸装置100は、調整運転時にクリップ120が閉状態となって空打ちが発生することを、さらに確実に抑制することが可能となる。
【0070】
(本実施の形態にかかる樹脂延伸装置の運転方法)
図23は、本実施の形態にかかる樹脂延伸装置100の運転方法を示すフローチャートである。なお、以下に説明する運転方法にかかるクリップ120の動作は、ある1つのクリップ120に着目したものである。また、以下に説明する運転方法は、まず初めに調整運転を行い、調整運転が終了したのち、成膜運転を行う例を示している。
【0071】
まず、樹脂延伸装置100の調整運転を開始する(ステップS102)。このとき、クローザ130の機能を停止する(ステップS104)。上述したように、例えば、樹脂延伸装置100からクローザ130を取り外すことで、クローザ130の機能を停止できる。
【0072】
次に、熱処理部110を起動する(ステップS106)。そして、走行機構106によって、開状態でクリップ120の走行を開始する(ステップS108)。このとき、クローザ130の機能が停止しているので、入口領域112では、クリップ120は開状態を維持しながら走行する(ステップS110)。
【0073】
そして、クリップ120は、熱処理部110を通過して出口領域114に到達する(ステップS112)。したがって、調整運転状態において、S112は、クリップ120を開放した状態で熱処理部110の内部に移動させる工程である。このとき、磁石部材150によって、クリップ120は、開状態を維持したまま、オープナ140の近傍を走行する(ステップS114)。このとき、クリップレバー124の頭部125は、磁石部材150の配置に沿って移動する。したがって、S114は、S112の工程の後、クリップ120を磁石部材150の磁力によって開放した状態で熱処理部110の外を移動させる工程である。そして、調整運転が終了しなければ(ステップS116のNO)、クリップ120は、S110~S114の動作を繰り返す。
【0074】
調整運転が終了すると(S116のYES)、樹脂延伸装置100の成膜運転を開始する(ステップS120)。このとき、クローザ130を機能させる(ステップS122)。具体的には、樹脂延伸装置100にクローザ130を取り付けることで、クローザ130を機能させることができる。したがって、入口領域112で、クローザ130によって、クリップ120は開状態から閉状態となる(ステップS124)。これにより、クリップ120は、樹脂90を把持する。
【0075】
クリップ120は、熱処理部110を通過して、出口領域114に到達する(ステップS126)。なお、上述したように、クリップ120が熱処理部110を通過する段階で、樹脂90が延伸される。そして、オープナ140によって、クリップ120は、開状態となる(ステップS128)。これにより、クリップ120は樹脂90を解放する。なお、このとき、クリップレバー124の頭部125は、オープナ140の配置に沿って移動する。
【0076】
(変形例)
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、本実施の形態にかかる樹脂延伸装置100によって延伸される樹脂90は、BOPPに限られない。例えば、樹脂90は、PET(Polyethylene Terephthalate;ポリエチレンテレフタレート)でもよい。
【0077】
また、上述した実施の形態では、オープナ140及び磁石部材150は、複数の磁石で構成されているとしたが、このような構成に限られない。オープナ140及び磁石部材150は、物理的に一体となった長い形状の磁石で形成されてもよい。なお、オープナ140及び磁石部材150を複数の磁石で構成することによって、上述した機能を発揮させるようにこれらを配置することが容易となる。
【0078】
また、上述した実施の形態では、クリップ120は、クリップレバー124が立ち上がったときに開状態となり、クリップレバー124が傾いたときに閉状態となるとしたが、このような構成に限られない。クリップ120は、クリップレバー124が立ち上がったときに閉状態となり、クリップレバー124が傾いたときに開状態となってもよい。この場合、オープナ140及び磁石部材150の配置を、
図7に示したものを上下反転したものに対応するような配置としてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 樹脂成形装置
2 押出機
4 キャスト成形機
6 縦延伸機
8 巻取機
90 樹脂
100 樹脂延伸装置
101 モータ
102 レール
104 チェーン
106 走行機構
110 熱処理部
110a 延伸領域
112 入口領域
114 出口領域
120 クリップ
122 把持部
124 クリップレバー
125 頭部
126 回転軸
128 ベース
128a 支持部
128b 案内部
130 クローザ
140 オープナ
142 磁石
150 磁石部材
152 磁石
160 支持部材