(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】ドレナージデバイスおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20230906BHJP
【FI】
A61F9/007 160
(21)【出願番号】P 2020554135
(86)(22)【出願日】2019-04-02
(86)【国際出願番号】 GB2019050949
(87)【国際公開番号】W WO2019193326
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-03-07
(32)【優先日】2018-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】506417186
【氏名又は名称】ユーシーエル ビジネス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブレメル,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】カウ,ペン ティ
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05433701(US,A)
【文献】米国特許第05626558(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0089073(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0254521(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼圧を低減させるために房水を排出するように眼内で使用されるドレナージデバイスであって、
第1の端部と、前記第1の端部の反対側の第2の端部と、前記第1の端部と前記第2の端部とを通る長手方向軸と、前記第1の端部と前記第2の端部との間に延在する複数のルーメンと、前記第1の端部と前記第2の端部との間に延在する外側表面と、を有する可撓性のマルチ・ルーメン・チューブを備え、
前記長手方向軸に垂直な断面が、前記外側表面においてアスペクト比(幅:高さ)が3:1、および/または離心率
が0.6
~0.98の非円形形状を有する、ドレナージデバイス。
【請求項2】
前記断面の形状が、前記外側表面において楕円である、請求項1に記載のドレナージデバイス。
【請求項3】
前記マルチ・ルーメン・チューブが、前記長手方向軸にそれぞれ垂直な2本の軸
の周りでの屈曲性が異方的である、請求項1また
は2に記載のドレナージデバイス。
【請求項4】
前記マルチ・ルーメン・チューブが幅および高さを有し、前記複数のルーメンが前記幅方向で離間して配置され、前記チューブが、前記高さ方向を含む平面で、前記幅方向を含む平面よりも大きな曲げ可撓性を有する、請求項3に記載のドレナージデバイス。
【請求項5】
前記ルーメンのうちの少なくとも1
つが、前記第1の端部で封止さ
れる、
請求項1~4のいずれか一項に記載のドレナージデバイス。
【請求項6】
前記第1の端部と前記第2の端部との間で前記チューブの長さ方向に沿って配置され、前記少なくとも1つのルーメンで、前記チューブの側壁を通して開口する少なくとも1つの開口部をさらに備え、
前記少なくとも1つの開口部は、前記チューブの前記第2の端部を、前記ルーメンを通して前記チューブの外側に流体的に接続する、請求項5に記載のドレナージデバイス。
【請求項7】
前記第2の端部から前記開口部までの距離が、前記デバイスを通る流体流れに所定の抵抗を提供するように選択される、請求項
6に記載のドレナージデバイス。
【請求項8】
複数の前記開口部をさらに備える、請求項
6または
7に記載のドレナージデバイス。
【請求項9】
複数の前記ルーメンが、それぞれ、個別に前記側壁を通る前記開口部を少なくとも1つ有する、請求項
8に記載のドレナージデバイス。
【請求項10】
前記ルーメンのうちの少なくとも1つが、前記チューブの前記長さに沿って離間された複数の前記開口部を有する、請求項
8に記載のドレナージデバイス。
【請求項11】
前記ルーメンのうちの少なくとも1つが、前記デバイスを通る流体流れに所定の抵抗を提供するように選択された内径を有する、請求項1~
10のいずれか一項に記載のドレナージデバイス。
【請求項12】
前記チューブが可撓性である、請求項1~
11のいずれか一項に記載のドレナージデバイス。
【請求項13】
各ルーメンが
、40ミクロン
~200ミクロン、
または45ミクロン
~110ミクロンの直径を有する、請求項1~
12のいずれか一項に記載のドレナージデバイス。
【請求項14】
各ルーメンが、前記チューブの長さに沿って実質的に一定の断面積を有する、請求項1~
13のいずれか一項に記載のドレナージデバイス。
【請求項15】
前記チューブの長さが
、5mm
~30mm、
または5mm
~20mm、
または8mm
~15mmである、請求項1~
14のいずれか一項に記載のドレナージデバイス。
【請求項16】
前記チューブの幅が
、0.5mm
~3mm、
または1mm
~2mmである、請求項1~
15のいずれか一項に記載のドレナージデバイス。
【請求項17】
前記チューブの最大高さが
、500ミクロン以下、
または300ミクロン以下、
または200ミクロン以下である、請求項1~
16のいずれか一項に記載のドレナージデバイス。
【請求項18】
前記ルーメンのうちの2つ以上が、異なる内径を有する、請求項1~
17のいずれか一項に記載のドレナージデバイス。
【請求項19】
前記ルーメンのうちの1つまたは複数が、実質的に円形断面を有する、請求項1~
18のいずれか一項に記載のドレナージデバイス。
【請求項20】
前記チューブが、生体適合性材料および/または生体安定性材料を含む、請求項1~
19のいずれか一項に記載のドレナージデバイス。
【請求項21】
前記チューブが、プラスチック材料およびシリコンのうちの少なくとも1つを含む、請求項1~
20のいずれか一項に記載のドレナージデバイス。
【請求項22】
前記チューブの側壁が
、5ミクロン
~200ミクロン、
または20ミクロン
~100ミクロンの厚さを有する、請求項1~
21のいずれか一項に記載のドレナージデバイス。
【請求項23】
前記チューブが、透明または半透明の材料を含む、請求項1~
22のいずれか一項に記載のドレナージデバイス。
【請求項24】
各ルーメンがバルブレスである、請求項1~
23のいずれか一項に記載のドレナージデバイス。
【請求項25】
前記チューブの前記第1の端部が面取りされたエッジを有する、請求項1~
24のいずれか一項に記載のドレナージデバイス。
【請求項26】
前記第1の端部と第2の端部との中間で前記チューブから突出する概ね平坦な延在部をさらに備える、請求項1~
25のいずれか一項に記載のドレナージデバイス。
【請求項27】
前記少なくとも1つの開口部が、前記概ね平坦な延在部と前記第1の端部との間に位置する、請求項
6に従属する場合の請求項
26に記載のドレナージデバイス。
【請求項28】
前記眼への配置に適合するプレートをさらに備え、
前記マルチ・ルーメン・チューブの前記第1の端部が、前記プレートの下面に開口している、請求項1~
25のいずれか一項に記載のドレナージデバイス。
【請求項29】
眼圧を低減させるために房水を排出するように眼内で使用される
、請求項6~請求項10のいずれか一項に記載のドレナージデバイスを製造する方法であって、
前記第1の端部と、前記第1の端部の反対側の
前記第2の端部と、前記第1の端部と前記第2の端部との間に延在する
前記複数のルーメンとを有する
前記マルチ・ルーメン・チューブを提供することと、
前記ルーメンのうちの1つで、前記チューブの壁を通して開口する
前記少なくとも1つの開口部を形成すること、および/または前記ルーメンのうちの1つに開口する
前記少なくとも1つの開口部を封止することによって、前記マルチ・ルーメン・チューブを通る流れを調整することとを含む方法。
【請求項30】
前記開口部を形成する工程が、前記チューブの側壁を通る前記開口部を形成することを含む、請求項
29に記載の方法。
【請求項31】
前記ルーメンのうちの少なくとも1つが、端壁を提供するために前記第1の端部で封止され、前記開口部を形成する工程が、前記封止された第1の端部の前記端壁を通る前記開口部を形成することを含む、請求項
29に記載の方法。
【請求項32】
前記開口部を封止する工程が、前記ルーメンの開口する第1の端部を閉じること、または前記チューブの側壁を通る
前記開口部を閉じること、のいずれかを含む、請求項
31に記載の方法。
【請求項33】
前記開口部がレーザ切断によって形成される、請求項
29~
32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記マルチ・ルーメン・チューブが、押出成形、延伸成形、または射出成形によって形成され、押出成形が、マルチルーメンの予備成形品を、ダイを通して押し出し、前記ルーメンの径を小さくするために、場合により前記予備成形品を長手方向に延伸し、所望のチューブ長に切断することを含む、請求項
29~
33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
請求項1~27のいずれか一項に記載のドレナージデバイスを製造するための、請求項
29~
34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
請求項1~
28のいずれか一項に記載のドレナージデバイスと、相補的な鉗子ならびに/またはブレードおよび/もしくはインサータと、を備えるキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑内障治療に使用するためのドレナージデバイスおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
緑内障は、特徴的な視神経頭の変化と視野欠損を伴う不可逆性の慢性視神経症である。眼では、房水は、毛様体によって生成され、瞳孔を通って虹彩と角膜との間に形成された前房に到達する。正常な眼では、房水は線維柱帯網を通って排出される。そこでは、房水はシュレム管を通り、血液を運ぶ静脈と合流して静脈循環に入る。眼圧は、上記のように、房水の分泌および吸収または流出の複雑なバランスによって眼内で維持される。緑内障は、緑内障に関連する主な修正可能な危険因子である眼圧(IOP)を上昇させる、前房内の房水の過剰な増加に起因する。
【0003】
眼圧(IOP)の上昇は、投薬、レーザまたは手術で治療可能である。緑内障ドレナージデバイス(GDD)は、外科的治療の補助として有用であるが、通常は緑内障濾過手術の失敗後の患者、または新生血管緑内障、ぶどう膜炎緑内障、小児緑内障などの線維柱帯切除術に反応が乏しい状態の患者に限定される。GDDの埋め込みには、高度な外科技術と経験が必要であり、手術時間は45分~90分を必要とする可能性がある。さらに、従来型GDDを用いた手術後、IOPの低下を制御し、調整できる能力は乏しい。現代のほとんどのGDDは、緑内障の進行を最小化するために必要な低いレベルのIOPを達成しない。
【0004】
最初に知られたGDDデバイスの1つは、国際公開第2005/092260号パンフレットに記載されるMolteno(登録商標)であり、このデバイスは、一次排出領域を画定する内側隆起部、二次排出領域を画定するオプションの外側隆起部、およびドレナージチューブを接続するための内側隆起部の孔を有する円形のポリプロピレンプレートを備える。隆起部は、術後の低眼圧症の防止を意図する。
【0005】
他のGDDデバイスとしては、国際公開第2010/054035号パンフレットに記載されるものが挙げられ、このデバイスは、単一のルーメン・ドレナージ・チューブと、チューブが、切開部への挿入後につぶれて、後に膨張するようなフープ強度を有するプレートとを備える。ドレナージチューブは、流量制限器として機能し、経時的に房水の流出を増加させることを意図される。
【0006】
さらなる設計は、米国特許出願公開第20040215126号明細書に記載されている。このデバイスは、IOPに応動することを意図されるドレナージチューブ、プレート、および一方向弁を内蔵する。このデバイスは、患者に挿入でき、少なくとも3ヶ月間は経過観察が必要ないため、米国では一般的である。
【0007】
現在市場に出回っているGDD製品の大半は、線維形成に依存して眼球内の圧力を制御する。しかし、線維形成が多すぎる場合、デバイスは故障する。同様に、線維形成が少なすぎる場合、術後の低眼圧症のリスクがある。
【0008】
したがって、本発明者らは、線維形成ではなく、チューブの流量によってIOPを制御することが可能なGDDを提供する必要性を認識した。
【発明の概要】
【0009】
本発明の第1の態様は、眼圧を低減させるために房水を排出するように眼内で使用され
るドレナージデバイスであって、第1の端部と、第1の端部の反対側の第2の端部と、第1の端部と第2の端部との間に延在する複数のルーメンと、を有するマルチ・ルーメン・チューブとを備え、ルーメンのうちの少なくとも1つが、第1の端部で封止される、ドレナージデバイスを提供する。
【0010】
第1の態様の本発明は、封止されたルーメンの長さに沿った位置に1つまたは複数の開口部を設け、第2の端部と開口部との間に流路を形成することが可能であり、開口部の位置は流路の長さを画定し、したがって流路に沿った流動抵抗、および結果として生じる圧力降下を選択できるという点で有利である。圧力降下を微調整することにより、ドレナージデバイスは、個々の患者の要件に合わせて眼圧(IOP)を調節するように調整または「滴定」できる。これは、10mmHg未満のIOPを必要とする患者にとって特に有利であり得る。なぜなら、IOPをわずかな増分で低減でき、低眼圧症(5mmHg未満のIOP)のリスクを低減または回避できるからである。
【0011】
デバイスは、第1の端部と第2の端部との間でチューブの長さ方向に沿って配置され、少なくとも1つのルーメンで、チューブの側壁を通して開口する少なくとも1つの開口部をさらに含み、少なくとも1つの開口部は、チューブの第2の端部を、前記ルーメンを通してチューブの外側に流体的に接続する。
【0012】
開口部はチューブ内に形成されて、チューブを通る所望の流体流れ圧力降下を達成してもよい。あるいは、開口部は、チューブ内に形成されてもよく、開口部のうちの1つまたは複数は使用に先立って選択的に閉じられて、チューブを通る所望の流体流れ圧力降下を達成してもよい。
【0013】
チューブは、開口部が形成され得る点にマーキングされていてもよい。マーキングは、開口部を形成するのに適した点を示すために使用されてもよく、チューブを通る所望の流体流れ圧力降下に応じて選択されてもよい。マーキングは、チューブ材料の選択的に薄くされた領域の形態で提供されてもよく、例えば、マーキングは、チューブ材料のエッチングとして提供されてもよい。チューブ材料の厚さを薄くすることにより、マーキングされた点に開口部を形成することが容易になるという利点を提供し得る。
【0014】
チューブの第2の端部から開口部までの距離は、デバイスを通る流体流れに所定の抵抗を提供するように選択されてもよい。
【0015】
ドレナージデバイスは、複数の開口部を有していてもよい。例えば、複数のルーメンは、それぞれ、個別に側壁を通る開口部を少なくとも1つ有してもよい。あるいは、上記ルーメンのうちの少なくとも1つは、チューブの長さに沿って離間された複数の開口部を有する。
【0016】
上記ルーメンのうちの少なくとも1つは、デバイスを通る流体流れに所定の抵抗を提供するように選択された内径を有してもよい。
【0017】
チューブは可撓性であってもよい。特に、チューブは、眼の曲率または球体の周りに追従するために十分に可撓性であることが有利であり得る。チューブは、眼の曲率に追従するために十分に可撓性であり得るが、通常、実質的に直線的な構成である。換言すれば、チューブは、横方向に著しく湾曲しない、またはループ状に形成されない。
【0018】
本発明の第2の態様は、眼圧を低減させるために房水を排出するように眼内で使用されるドレナージデバイスであって、第1の端部と、第1の端部の反対側の第2の端部と、第1の端部と第2の端部とを通る長手方向軸と、第1の端部と第2の端部との間に延在する
複数のルーメンと、第1の端部と第2の端部との間に延在する外側表面と、を有する可撓性マルチ・ルーメン・チューブを備え、長手方向軸に垂直な断面が、外側表面において非円形形状を有する、ドレナージデバイスを提供する。
【0019】
第2の態様の発明は、非円形形状により、チューブは、よじれにくい状態で可撓性を有することができるという点で有利である。これにより、チューブの取り扱いが容易になる。非円形形状はまた、円形形状よりも、チューブを組織内に形成された切口により良好に封止させ得る可能性がある(すなわち、チューブ形状は切口の形状に適合する)。
【0020】
外側表面の断面形状は、実質的に長円または楕円であってもよい。本発明の実施形態では、外側表面の断面形状は楕円であってもよい。外側表面の断面形状は、少なくとも3:1、または少なくとも4:1、または少なくとも5:1のアスペクト比(幅対高さ)を有してもよい。好ましくは、外側表面の断面形状は、少なくとも6:1、または少なくとも7:1、または少なくとも8:1のアスペクト比(幅対高さ)を有してもよい。
【0021】
外側表面の断面形状のアスペクト比は、チューブ長手方向軸周りでの横側/横方向の動きおよび/またはチューブの回転やねじれを低減または防止することを含むがこれらに限定されない特定な利点を提供し得る。外側表面の断面形状のアスペクト比はまた、患者の眼の周囲組織および細胞に対するチューブの圧力を、チューブの幅にわたって分布させ、したがって同様の体積の円形チューブの場合よりも大きな面積にわたって分布されるので、改善された圧力分布を提供し得る。
【0022】
チューブは、長手方向軸にそれぞれ垂直な2本の軸に関する屈曲性が異方的であってもよい。チューブは、幅および高さを有してもよく、複数のルーメンは、幅方向で離間されてもよく、チューブは、高さ方向を含む平面において、幅方向を含む平面よりも大きな曲げ可撓性を有してもよい。チューブは、一方向には柔軟であり、別の方向では硬くてもよい。
【0023】
以下の記述は、本発明の第1および/または第2の態様に適用され得る。
【0024】
ドレナージデバイスは、緑内障ドレナージデバイス(GDD)であり得る。
【0025】
各ルーメンは、約40ミクロン~約200ミクロン、好ましくは約45ミクロン~約110ミクロンの直径を有してもよい。
【0026】
各ルーメンは、チューブの長さに沿って実質的に一定の断面積を有してもよい。
【0027】
ルーメンは、チューブ内に非対称に配置されてもよい。例えば、各ルーメンは、デバイスが使用されるときに最上端のチューブ表面に近づくように配置されてもよい。各ルーメンと、デバイスが使用されるときの最下端のチューブ表面との間の側壁の厚さは、各ルーメンと、デバイスが使用されるときの最上端のチューブ表面との間の側壁の厚さの、少なくとも4倍または少なくとも5倍であり得る。各ルーメンとデバイスの最上端の表面との間の側壁の厚さは、約30ミクロン以下、または約20ミクロン以下であり得る。本発明の実施形態では、各ルーメンとデバイスの最上端の面との間の側壁の厚さは、約12ミクロン~約20ミクロンであり得る。
【0028】
チューブの長さは、約5mm~約30mm、好ましくは約5mm~約20mm、より好ましくは約8mm~約15mmであり得る。
【0029】
チューブの幅は、約0.5mm~約3mm、好ましくは約1mm~約2mmであり得る
。
【0030】
チューブは、約500ミクロン以下、好ましくは約300ミクロン以下、より好ましくは約200ミクロン以下の最大高さを有してもよい。
【0031】
2つ以上のルーメンは、異なる内径を有してもよい。
【0032】
ルーメンのうちの1つまたは複数は、実質的に円形断面を有してもよい。
【0033】
チューブは、生体適合性材料および/または生体安定性材料を含み得る。生体適合性材料および/または生体安定性材料は、チューブ基材材料のコーティングとして提供されてもよい。
【0034】
チューブは、プラスチック材料およびシリコンのうちの少なくとも1つを含んでもよい。
【0035】
チューブは、約5ミクロン~約200ミクロン、好ましくは約20ミクロン~約100ミクロンの厚さを有する側壁を有してもよい。
【0036】
チューブは、透明または半透明の材料を含んでもよい。より低い不透明度は、デバイスの反対側を通して開口部を観察できる利点となり得る。
【0037】
各ルーメンは、バルブレスおよび/またはフィルタレスであり得る。本発明の実施形態では、ルーメンは、膜および/または内部突起を含まない。デバイスを通る流体流れの圧力降下は、双方向性であってもよい。
【0038】
チューブの第1の端部は、面取りされたエッジを有してもよい。面取りされたエッジは、組織を通しての挿入性を向上させ得る。本発明の実施形態では、チューブの第1の端部は、(丸みがついた)チップ状であってもよい。チューブの第1の端部をチップ状にすることにより、チューブが埋め込まれるときに、周囲組織への損傷を低減し得る。チューブの第2の端部も、好適な場合には、チップ状であってもよい。
【0039】
ドレナージデバイスは、第1の端部と第2の端部との中間でチューブから突出する概ね平坦な延在部をさらに含んでいてもよい。概ね平坦な延在部は、安定化させるため「ウィング」の形態であってよい。延在部は、使用時にチューブ長手方向軸周りでの回転を防止または制限し得る。延在部は、チューブ長手方向の長さが5mm未満であり得る。延在部を有するチューブの領域は、開口部を有さなくてもよい。延在部は、使用時に組織内に埋め込まれることを意図したチューブの領域に配置され得る。
【0040】
少なくとも1つの開口部は、概ね平坦な延在部と第1の端部との間に配置されてもよい。
【0041】
ドレナージデバイスは、眼への配置に適合するプレートをさらに備えてもよい。プレートは、使用時にチューブ長手方向軸周りでの回転を防止または制限するように適合されてもよい。プレートは、概ね平坦な延在部の代わりとして使用されてもよい。
【0042】
チューブは、プレートに固定されるように構成されてもよく、少なくとも1つの開口部は、プレートに隣接して開口してもよい。
【0043】
チューブ、平坦な延在部、および/またはプレートのうちの1つまたは複数を含むドレ
ナージデバイスは、生体適合性および/または生理活性コーティングを含んでもよい。生理活性コーティングは、典型的には、デバイスが使用されるときに、周囲の組織に対して生物学的効果を有する薬剤または化合物、例えば小分子またはペプチドを含む。デバイスが使用されるときに、薬剤または化合物は、経時的に生理活性コーティングから放出されてもよい。生理活性コーティングとしては、抗線維化剤(例えば、マイトマイシン-cまたは5-フルオロウラシルなどの抗がん剤)メタロプロテアーゼ(MMP)阻害剤(イロマスタット、レナリドミドまたはトラニラストなど)、抗炎症剤(ステロイドなど)、非ステロイド性抗炎症剤、および/または抗血管新生剤である、薬剤または化合物を挙げられる。生体適合性コーティングとしては、例えばホスホリルコリン(PC)を含むポリマーコーティングを挙げられる。
【0044】
本発明のさらなる態様は、眼圧を低減させるために房水を排出するように眼内で使用されるドレナージデバイスを製造する方法であって、第1の端部と、第1の端部の反対側の第2の端部と、第1の端部と第2の端部との間に延在する複数のルーメンと、を有するマルチ・ルーメン・チューブを提供することと、チューブの壁を通してルーメンのうちの1つに開口する少なくとも1つの開口部を形成すること、および/またはルーメンのうちの1つに開口する少なくとも1つの開口部を封止することと、によって、マルチ・ルーメン・チューブを通る流れを調整することとを含む方法を提供する。本方法は、本発明の第1の態様または第2の態様のチューブを形成するために使用されてもよい。
【0045】
開口部を形成する工程は、チューブの側壁を通して開口部を形成することを含んでもよい。
【0046】
ルーメンのうちの少なくとも1つは、第1の端部で封止され、端壁を提供してもよく、開口部を形成する工程は、封止される第1の端部の端壁を通して開口部を形成することを含んでもよい。
【0047】
開口部を封止する工程は、ルーメンの開口する第1の端部を閉じること、またはチューブの側壁を通る開口部を閉じること、のいずれかを含んでもよい。
【0048】
開口部は、好ましくはレーザ切断により形成される。例えば、YAGレーザまたはアルゴンレーザを使用してもよい。あるいは、開口部は、穿刺によって形成されてもよい。
【0049】
本発明のマルチ・ルーメン・チューブは、押出成形、延伸成形、または射出成形によって形成されていてもよい。特に、チューブは、マルチルーメンの予備成形品を、ダイを通して押し出し、ルーメン径を小さくするために予備成形品を長手方向に延伸し、所望のチューブ長さに切断することにより形成されてもよい。押し出材料は、プラスチック材料であってもよい。押し出された予備成形品を延伸することにより、直接押し出される製品では達成できない小径のルーメンを達成できる。
【0050】
シリコン材料からデバイスを成形することは、概ね平坦な延在部または「ウィング」がチューブとともに成形できるという点で有利であり得る。チューブを押し出すことは、延在部を後で取り付ける必要があることを意味する。
【0051】
本発明のさらなる態様は、緑内障を治療するまたは患者の眼の眼圧を制御する方法であって、第1および/または第2の態様に記載のドレナージデバイスの第1の端部を、患者の眼の前房に配置することと、ドレナージデバイスの第2の端部を、患者の眼の結膜下腔に配置することと、を含む方法を提供する。
【0052】
方法は、ルーメンのうちの1つまたは複数に、1つまたは複数の開口部を開口すること
をさらに含み、ドレナージデバイスを通る房水の流量を制御してもよい。開口部は、眼へのデバイス挿入前、または眼へのデバイス挿入後に開口してもよい。デバイス挿入後に開口部を開口することにより、デバイスが定常所在にある間IOPを継続的に調整することが可能になる。これは、例えば濾過胞からの抵抗の増加など、経時的にIOPが増加する患者に有利であり得る。開口部は、必要に応じて、デバイスを通る房水の流量を増加させるために開口されてもよい。例えば、患者のIOPを一定間隔で監視してもよい。IOPが閾値を超えるように増加する場合は、1つまたは複数の開口部が、IOPをその患者の所望の値に低下させるように開口されてもよい。上述のように、開口部は、眼科で一般的に利用可能なYAGレーザなどのレーザを使用して開口されてもよい。
【0053】
患者は、好ましくはヒトを含む哺乳類であり、小児または高齢の患者であってもよい。
【0054】
所望により、一旦眼に挿入されると、デバイスは、縫合糸を使用して固定されてもよい。しかしながら、本発明の実施形態では、デバイスは、プレーナ延在部またはプレートを備える場合、縫合は不要であり得る。
【0055】
本発明のデバイスは、切開部を通して迅速かつ容易に挿入でき、その切開部はステップ形状ブレードを使用して形成されてもよい。ブレードは、シングルパス切開を使用することを可能にし得る。本発明のデバイスの挿入の容易さは、デバイスを埋め込むために必要な外科技術レベルおよび手術時間を低減させ得る。例えば、デバイスは、わずか10分で埋め込むことが可能であり得る。これは、より多くの患者がこのデバイスの恩恵を受けることができる可能性があることを意味し、これは、このデバイスが従来型GDDよりも世界の失明に大きな影響を与え得ることを意味する。
【0056】
本発明のさらなる態様は、手術のために第1および/または第2の態様にしたがってドレナージデバイスを準備する方法を提供し、方法は、患者から得られる眼圧測定値と閾値とを比較して、必要な眼圧の降下を計算することと、ルーメンのうちの1つまたは複数に、1つまたは複数の開口部を開口し、ドレナージデバイスを通る房水の流量を制御して、必要な眼圧の降下を提供することとを含む。
【0057】
本発明の実施形態では、デバイスは、約5mmHg~約22mmHg、好ましくは約7mmHg~約15mmHgのIOPを提供する。本発明の実施形態では、デバイスは、約10mmHgのIOPを提供する。
【0058】
理論に縛られることなく、従来型GDDが年間約10%の故障率を有するのに対し、本発明者らは、患者のIOPを調整または滴定する機能によって、本発明のデバイスは最大10年の生存期間を有し得ると考える。これは、患者に生活の質の改善を提供し、さらなる外科的介入の必要性を低減させることにより医療費を削減するであろう。
【0059】
本発明のさらなる態様は、第1および/または第2の態様によるドレナージデバイスと鉗子とを備えるキットを提供する。鉗子は、好ましくは、ドレナージデバイスと相補的である。キットは、さらにナイフを含んでもよく、ナイフは、ステップ形状および/またはインサータを備えるブレードを有してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
次に、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して説明する。
【0061】
【
図1】眼の前房と結膜下腔内の濾過胞とを接続する緑内障ドレナージデバイス(GDD)を示す図である。
【0062】
【0063】
【
図10(a)】GDDを通して圧力降下を調整するために、異なる位置に開口部を有するGDD例の図である。
【
図10(b)】GDDを通して圧力降下を調整するために、異なる位置に開口部を有するGDD例の図である。
【
図10(c)】GDDを通して圧力降下を調整するために、異なる位置に開口部を有するGDD例の図である。
【0064】
【
図11】
図10(a)~(c)の例についての圧力降下を示す図である。
【
図12】
図10(a)~(c)の例についての圧力降下を示す図である。
【0065】
【
図13】異なる直径の開口部の圧力降下の変化を示す図である。
【0066】
【
図14】GDDの様々な代替的断面を示す図である。
【0067】
【
図15】GDDとともに使用するプレートを示す図である。
【0068】
【
図16】3つの部分A、BおよびCに分割されたGDDを示す図である。
【0069】
【
図17】ウィングで保持したとき、(a)屈曲前に、および(b)屈曲後に、チューブ後部に力を加えたGDDの有限要素解析(FEA)シミュレーションを示す図である。
【0070】
【
図18】線維柱帯切除術(Khaw et al.Dev.Opthalmol.2017、59:15-35)中のマイトマイシン-c(MMC)塗布のための結膜マップのシミュレーションを示す図である。
【0071】
【
図19(b)】結膜フラップのたわみおよび関連するフォン・ミーゼス応力を示す図である。幅1mmで1mmの圧迫。圧迫は2.5mmの長さである。
【
図19(d)】結膜フラップのたわみおよび関連するフォン・ミーゼス応力を示す図である。幅0.5mmで0.5mmの圧迫。圧迫は2.5mmの長さである。
【
図19(f)】結膜フラップのたわみおよび関連するフォン・ミーゼス応力を示す図である。幅0.25mmで0.25mmの圧迫。圧迫は2.5mmの長さである。
【
図19(h)】結膜フラップのたわみおよび関連するフォン・ミーゼス応力を示す図である。0.125mm幅。圧迫は2.5mmの長さである。
【0072】
【
図21】(a)離心率0(円形チューブ)~0.98(本明細書に記載のGDDの一例)の範囲の楕円形チューブを示す図、および(b)楕円形チューブの高さ(H)と幅(b)の定義を示す図である。
【0073】
【
図22】切開を通して円形チューブを挿入したときの切開形状の模式図である。
【0074】
【
図23】外側境界に示された0.500mmの切開での異なる離心率のチューブの断面図である。すべての単位はmmである。
【0075】
【
図24】外径0.2mm、長さ3mm、ルーメン径0.05mmの円形チューブの(a)初期セットアップの、および(b)流れの流跡線の計算流体力学解析を示す図である。切開部は高さ0.2mm、幅0.5mm、長さ3mmである。流量は2μl/分で固定し、圧力降下は0.1mmHg未満とした。
【0076】
【
図25】ルーメン径0.05mmを有する楕円形チューブ(H=0.2mm、b=0.438mm、長さ3mm)の(a)初期セットアップの、および(b)流れの流跡線の計算流体力学解析を示す図である。切開部は、高さ0.2mm、幅0.5mm、長さ3mmである。流量は2μl/分で固定し、圧力降下は約3mmHgであった。
【0077】
【
図26】ルーメン径0.05mmを有する楕円形チューブ(H=0.2mm、b=0.492mm、長さ3mm)の(a)初期セットアップの、および(b)流れの流跡線の計算流体力学解析を示す図である。切開部は、高さ0.2mm、幅0.5mm、長さ3mmである。流量は2μl/分で固定し、圧力降下は約5mmHgであった。
【0078】
【
図27】高さ0.2mm、幅0.5mm、長さ3mmの切開部に挿入した楕円ロッド(H=0.2mm、b=0.492mm、長さ3mm)周りの流跡線の計算流体力学解析を示す図である。流量は2μl/分で固定し、圧力降下は400mmHgを超えた。
【0079】
【
図28】(a)二次モーメント面積比I
ex/I
rxのb/Hによる変化を示す図、および(b)y軸に沿ったGDDのたわみの例を示す図である。
【0080】
【
図29】(a)二次モーメント面積比I
ey/I
ryのb/Hによる変化を示す図、および(b)x軸に沿ったGDDのたわみの例を示す図である。
【0081】
【
図30】(a)直径0.2mmの円柱と(b)楕円形(0.2mmx1mm)を1mNの力で屈曲したときのフォン・ミーゼス応力を示す図である。
【0082】
【
図31】(a)切開部から結膜下腔に進出したところでチューブが上向きにたわむ様子の概略図、(b)直径0.2mmの円形チューブが上向きに1mmたわんだ場合の対応する有限要素解析(FEA)モデル、および(c)高さ0.2mm、幅1mmの楕円形チューブが上向きに1mmたわんだ場合の対応する有限要素解析(FEA)モデルを示す図である。
【0083】
【
図32】(a-b)円形チューブについて、および(c-d)楕円形チューブについて
図31で言及したたわみに対応するチューブに沿ったフォン・ミーゼス応力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0084】
図1は、例えばヒトの眼を模式的に示しており、水晶体1、網膜2、視神経3、角膜4、強膜5および前房6を示す。緑内障ドレナージデバイス(GDD)7は、線維柱帯切除術後に前房6と結膜下腔の濾過胞8とを流体的に接続して、眼圧(IOP)を下降させる
ために使用される。第1の実施形態によるGDD7は、
図2~
図9に詳細に示されている。
【0085】
デバイスの形状
図2に示すように、GDD7は、第1の端部11と、第1の端部の反対側の第2の端部12とを有する3連のルーメンチューブである。
図3は、第1の端部から第2の端部まで延在する3つのルーメン13、14、15を示す「透視(X-ray)」タイプの画像である。使用時に、第1の端部11は、前房6内に位置決めするためのものであり、第2の端部は、結膜下腔内に位置決めして、濾過胞8内に房水を排出するためのものである。
【0086】
チューブは、第1の端部11に第1の端面16を、第2の端部12に第2の端面17を有する。
図4に最もよく示されているように、第1の端面16は、3つのルーメン13、14、15のすべてに対して閉鎖(封止)されており、
図5に最もよく示されているように、第2の端面17は、3つのルーメン13、14、15のすべてに対して開口されている。
【0087】
ルーメン13、14、15は、チューブ10の長手方向に延在する。中央ルーメン14は、外側のルーメン13、15よりも大径である。
【0088】
チューブ10は、第1の端面16および第2の端面17の間に延在する外側表面18を有する。チューブ10は、外側表面18と各ルーメン13、14、15との間に側壁を有する。外側表面18は、少なくとも3:1のアスペクト比(幅対高さ)を有する長円形の断面を有する。
【0089】
図6、
図8および
図9に最もよく示されているように、1つのルーメン13は、第1の端部11の近くの側壁21を通して開口する開口部20を有し、それにより、第2の端部12を、ルーメン13を介してチューブ10の外側に流体的に接続する。開口部20の位置は、開口部20とルーメン13の開口された第2の端部との間に流路を提供するように選択され、後に詳細に記述されるように、GDD7の全体にわたって所定の圧力降下を提供する。開口部20は、後に詳細に記述されるように、例えば、チューブの外側をレーザ加工することによって形成されてもよい。
【0090】
長円断面構成を採用することは、ルーメン13、14、15を互いに横方向に隣接して配置することにより、チューブ10の高さを低く維持しながら、異なるサイズの3つのルーメン13、14、15を収容するのに役立つ。すべてのルーメンがチューブの中心に配置される丸いチューブは、中央ルーメン14の側壁の厚さを増加させるであろう。これは、開口部20を作成するためにルーメンの外側をレーザ加工することに影響を与える。
【0091】
長円断面は、定常所在での横方向の動きの低減にも役立つ。円形断面チューブであれば、長手方向および横方向にたわませるのに同じ力が必要になる。しかしながら、長円形状であることにより、長手方向に比べて横方向に屈曲する際、チューブをたわませることが比較的難しく、実際、横方向と長手方向のたわみの比は(幅/高さ)
2である。
図2~
図9に示す実施形態では、高さ=0.2mm、幅=0.9mmの長円チューブ10は、チューブを横方向にたわませるのに長手方向の20.25倍の力を必要とする。
【0092】
安定化させるための概ね平坦な延在部(または「ウィング」)19は、第1の端部11と第2の端部12との中間の外側表面18から突出している。図示の実施形態では、ウィング19は、チューブ10の第1の端部11の後方4.5mmに配置される。「ウィング」19、またはより一般的にはチューブの動きを最小化するための部分(チューブ10に沿った切り欠きでもあり得る)は、チューブ10が前房6内で滑るのを防止することによ
り、GDD7を角膜輪の後ろの所定の位置にとどまらせるのに役に立つ。
【0093】
第1の端部11は、長手方向に面取りされている。
図2~
図9の例示された実施形態では、面取り角度は、0.4mmまたはチューブ10の高さの2倍の面取り長さを与えるため、約27°である。チューブ10の第1の端部11が面取りされると、結膜にGDD7を挿入する力は低減される。
【0094】
最後に、チューブが埋め込まれるとき、チューブ10の周囲組織への損傷を最小にするために、チューブ10の第1の端部11は、(丸みがついた)チップ状である。また、チューブの第2の端部12は、好適な場合には、チップ状であってもよい。
【0095】
デバイスの流動抵抗
GDD7は、そのルーメン13、14、15を通る圧力降下を制御する。古典的なハーゲン・ポアズイユの法則は、式1に示すように、円形チューブまたはルーメンを通る圧力降下を記述する。
【数1】
ここで、δPはルーメンの圧力降下、υは流体の動的粘度、qは流量、Dはルーメンの直径、Lはルーメンの長さである。ルーメンの抵抗は流量に依存せず、幾何学的パラメータと流体の動的粘度によってのみ定義される。式(1)は、抵抗(R)の観点からP=Q×Rとして書き換えることができ、Rは次のように定義される。
【数2】
【0096】
ルーメン13の直径は、2μl/分かつ温度36.7℃で、5mmHg以上の圧力降下が得られるように選択される。長さ7.4mmにわたる直径3μmルーメンに対する公差を考慮すると、(面取り長さ0.4mm+最大差込長さ0.2mmを考慮)最大ルーメン径は57μmとなり、例えば、2μl/分かつ温度36.7℃で、5mmHgの圧力降下を与える。その値を上回る任意の直径は、5mmHgよりも小さい圧力降下を与えるように計算される。したがって、ルーメン13(およびルーメン15)の直径は54±3μmである。
【0097】
濾過胞8からの抵抗の増加などの様々な理由により、IOPが時間の経過とともに蓄積する場合、GDD7は、チューブ10上にレーザを照射し別の開口部20を作成することによりルーメン15を開口して、デバイス外部から第2の端部12への流路を形成する可能性を提供する。ルーメン13の開口部20と同じ位置でルーメン15を開口するとき、各抵抗が並行して作用するので、圧力降下は、ルーメン13の開口部20を単独で使用する場合のちょうど50%になる。
【0098】
中央ルーメン14は、110μmの直径を有する。中央ルーメン径は、中央ルーメン14の周囲に過度に薄い側壁21を有することなく、GDD7を通る圧力降下を可能な限り低減するように選択される。GDD7は、中央ルーメン14が開口されたときに、ほぼゼロに近い流動抵抗を有する。例えば、中央ルーメン14は、GDD7を用いて患者のIOPを可能な限り低減させるべき場合に、開口されてもよい。
【0099】
中央ルーメン14の直径の選択は、GDD7を通る圧力降下を比較的低く、理想的には2μl/分で0.5mmHg未満を確保するように選択されてもよい。中央ルーメン径が110μmの状態で、3つのルーメン13、14、15のすべてがチューブ10の第1の
端部11で開口さたとき、約0.3mmHgの圧力降下が達成される。
【0100】
抵抗値調整の可能性
GDD7は、単一のルーメンに沿って複数の開口部をレーザ加工することによって、もしくは2つ以上のルーメンをレーザ加工するか、またはその両方の組み合わせによって、デバイスの抵抗を変更する可能性を提供する。単一のルーメンに沿ってレーザ加工する場合、デバイスの抵抗は式(2)(他のすべてのパラメータは等しい)に示すようにチューブの長さに比例し、したがって、圧力降下は、ルーメンの長さに完全に影響される。複数のルーメンを並行して開く場合、N個のルーメンの抵抗は、式(3)にしたがって加算される。
【数3】
【0101】
GDD7によって与えられる最終的な圧力降下は、δP=QRtotである。GDD7の抵抗を変更することで、GDDによって与えられる圧力降下の微細な変更が可能になる。GDDは、3つのルーメン13、14、15のいずれかを、デバイスの第1の端部11から最大3.5mmまで開口する可能性を提供する(最小ルーメン長4.5mmに対して)。
【0102】
図10(a)~
図10(c)は、それぞれ1~18の番号がつけられたGDD7の18の変形例を示し、それぞれは、ルーメン13、14、15のうちの1つまたは複数において開口する開口部20の異なる構成を有する。
【0103】
表1は、各ルーメンに沿って1mm間隔でレーザ加工した位置に対するデバイス抵抗値と(2μl/分での)圧力降下を示す。
【表1】
【0104】
配置1は7.5mmのルーメン長Lに、配置2はL=6.5mmに、配置3はL=5.5mmに、配置4はL=4.5mmに対応する。各ルーメンの抵抗値は、配置4でルーメンを開口するとき最大40%減少するが、並行して動作するルーメンの組み合わせにより、各ルーメンが配置4で開口されるとき、2μl/分、36.7℃で最大約0.02mmHgの大きな減圧を達成する。配置1、2、3、および4は仮定の位置であるが、各配置の間の任意の位置もまた可能であり、GDD7の抵抗、したがって患者のIOPの無限の制御を提供することが可能である。
【0105】
図11は、ルーメン13または15のうちの1つに沿った、
図10(a)~
図10(c)および表1で報告された異なる構成に関して、2μl/分での圧力降下を示す。
図12は、3つのルーメン13、14、15のすべてに沿った、
図10(a)~
図10(c)および表1で報告された異なる構成に関して、2μl/分での圧力降下を示す。
図12の曲線は、1つのルーメンを開口したときの圧力降下の減少を実線で、2つのルーメンを開口したときの圧力降下の減少を破線で、3つのルーメンを開口したときの圧力降下の減少を鎖線で、対応して符号化される。3つの曲線によって示される任意の圧力降下δP値が達
成可能であることに留意することが重要である。GDD7は、100%~0%の任意の連続的な抵抗値の減少を提供し得ることが意図されている。しかしながら、図示した実施形態の選択された直径については、いくつかのギャップがある。
【0106】
第1のルーメン(13または15)を開口すると、デバイスの抵抗を最大40%まで減少させることができ、2つのサイドルーメン(13および15)を開口すると、抵抗を約50%~約70%減少させることができ、2つのサイドルーメンおよび中央ルーメン(13、14および15)を開口すると、抵抗を約99.5%~約99.7%減少させることができる。1つのサイドルーメンおよび中央ルーメンを開口することもまた、約99.5%~約99.7%で抵抗を減少させることは注目に値する。
【0107】
GDD7は、各ルーメン13、14、15に沿って単にレーザ加工することにより、抵抗の変更、したがって圧力降下の変更の可能性を提供する。GDD7は、ポリウレタンなどのプラスチック材料またはシリコンを含んでもよい。開口部は、レーザ切断によって形成されてもよい。例えば、YAGレーザまたはアルゴンレーザを使用してもよい。あるいは、開口部は、必要に応じて各ルーメンを穿刺することによって形成され、所望の流量を達成してもよい。
【0108】
マルチ・ルーメン・チューブ10は、マルチルーメンの予備成形品を、ダイを通して押し出し、ルーメン径を小さくするために予備成形品を長手方向に延伸し、所望のチューブ長に切断することにより作成されてもよい。押し出材料は、プラスチック材料であってもよい。押し出された予備成形品を延伸することにより、直接押し出される製品では達成できない小径のルーメンを達成できる。適切なプラスチックとしては、例えば、ポリカーボネート、ホスホリコリンヒドロゲル、ポリエーテルブロックアミド、ポリカーボネート系ポリウレタン、脂肪族系ポリウレタン、およびナイロンが挙げられる。生体適合性材料、または生体適合性コーティングを使用してもよい。
【0109】
シリコン材料からデバイスを成形することは、概ね平坦な延在部または「ウィング」19がチューブとともに成形できるという点で有利であり得る。チューブを押し出すことは、延在部を後で取り付ける必要があることを意味する。
【0110】
GDD7に沿ってレーザ加工することで、流れ抵抗を変更できる。ルーメンは上部からレーザ加工されるので、レーザ加工によって作成された開口部20(孔)に沿ってポアズイユの法則は完全には適用されず、それらはほぼ同じ幅および長さを有し、補正を加える必要がある。孔を通る流れは、サンプソン流れおよびポアズイユ流れの2つの流れの組み合わせと考えることができる。半径が50μm、長さが30μmである典型的な孔では、サンプソンの成分はポアズイユ流れの2倍であるため、孔を通る流れを考察するときは両方のパラメータを考慮することが重要である。側壁21の最小厚さは、約25μm以下であり得ることが期待される。
【0111】
図13(a)~
図13(f)は、孔径の増加に対する圧力降下が示されている。すなわち、
図13(a)には5~10μmの範囲の、
図13(b)には10~20μmの範囲の、
図13(c)には20~40μmの範囲の、
図13(d)には40~60μmの範囲の、
図13(e)には60~100μmの範囲の、
図13(f)には100~160μmの範囲の、孔径の増加に対する圧力降下が示されている。約26μmを上回る開口部20の直径に関して、開口部によってもたらされる圧力降下は、1mmHgの半分未満であることがわかる。
【0112】
上記実施形態では、GDD7は長円形状断面を有するが、
図14(a)~
図14(e)に示すような複数のルーメンを収容することのできる他のGDD断面形状を考慮すること
は有用である。
図14(a)は、4つのルーメンを有する長方形の断面を有するチューブ110を示す。
図14(b)は、可変の厚さを有する断面を有するチューブ210を示し、4つのルーメンが、それぞれの上下隆起部の間のそれぞれの上下谷部に隣接して配置される。
図14(c)は、断面の中心から実質的に等距離となるように、チューブの上部のみの周りに放射状に配置された5つのルーメンを有する円形断面を有するチューブ310を示す。
図14(d)は、3つのルーメンを有する三日月形断面を有するチューブ410を示し、そのうちの2つは異なる直径の円形であり、そのうちの1つは楕円形である。本発明は、様々な断面、および数、形状、サイズなどが異なる様々なルーメンを採用し得ることが理解されよう。
図14(e)は、少なくとも約7:1のアスペクト比(幅対高さ)を有し、並んで配置された3つの円形ルーメン(中央に大径のルーメン、両側に小径のルーメン)を有するチューブ510を示す。上述したように、他の適切なルーメン断面形状を使用できる。チューブ510のルーメンは、デバイスが使用されるときに最上端の面に近づくように、チューブ内に非対称に配置される。
図14(e)に示す実施形態では、チューブ510は、全幅約1.49mm~約1.57mm、および最大高さ約200ミクロンを有する。中央ルーメンは、チューブの最大高さの約60%に等しい直径を有し、一方、2つのサイドルーメンは、中央ルーメンの直径の約40%~約50%に等しい直径を有する。中央ルーメンの中心からサイドルーメンのそれぞれの中心までの距離は、サイドルーメンの直径の約6倍~約7倍に等しい。サイドルーメンのそれぞれの中心からチューブの外縁までの距離は、サイドルーメンの直径の約6.5倍~約7.5倍に等しい。
【0113】
図15は、マルチ・ルーメン・チューブ501とともに使用するためのプレート500を示す。このマルチ・ルーメン・チューブは、ウィング19がないことを除いてGDD7のチューブ10とほぼ同一である。他のすべての点において、上述したようなチューブ10およびその変形例は、プレート500とともに使用されてもよい。チューブ501は、チューブ501を患者の眼に固定し安定させることができるプレート500の下面に開口している。プレート500は、GDD7のウィング19の代わりに使用されてもよい。
【0114】
いずれの緑内障デバイスも、ヒトの眼に埋め込むとき、周囲の組織に局所的に伸縮力および圧縮力を加える。したがって、デバイスの寿命を延ばし、過剰な瘢痕化を避けるためには、これらの力を可能な限り最小にすることが極めて重要である。これらの目標を達成するために、デバイス形状に細心の注意が必要である。挿入時には、
図16に示すように、チューブは、異なる要件を有する3つの異なるゾーン(部分A、B、およびC)に分割され、チューブと周囲の組織との干渉を最適化してもよい。
【0115】
部分Aは、結膜組織に触れるチューブの部分を表す。部分Bは、前房と結膜下組織との間の封止を維持するための強膜トンネル内のチューブ区間である。最後に、部分Cは、まばたき、眼球サッカードおよび頭部の動きのために周期的にフラップする前房内のチューブ部分に相当する。
【0116】
部分A:結膜組織応力の最小化
【0117】
チューブが定常所在にあるとき、結膜組織に触れるチューブの後部(ウィングの後)は下方にたわみ、眼球表面に沿って所定の位置に保持される。チューブのたわみの例を
図17に示すが、ここではGDDの後部(ウィングの後側)は約1.6mm下向きにたわんでいる。
【0118】
これは、結膜組織の外傷を可能な限り低減するために、最小化される必要がある圧力下の組織との接触領域をもたらす。第1に、組織の外傷を低減するために、結膜組織への圧迫深度を最小にする必要がある。第2に、組織への応力を低減するために、固定された侵入深さの最大接触圧もまた、最小化する必要がある。
【0119】
結膜組織におけるチューブ圧迫深度
【0120】
この点を例示するために、本発明者らは有限要素解析法を使用した。本発明者らは、
図18に示すように、厚さ0.2mmの結膜フラップをモデル化した。
【0121】
深さ1mm×幅1mm、深さ0.5mm×幅0.5mm、深さ0.25mm×幅0.25mm、深さ0.125mm×幅0.125mmの4つの圧迫深度をそれぞれ局所的に作成した。これらの圧迫深度は、結膜組織がそれを覆っている強膜上のチューブの直径に相当する。結膜フラップと干渉するチューブの長さは、2.5mmである。
【0122】
図19では、チューブ外径が小さくなるにつれて(a、c、e、g)、結膜フラップのたわみが予想通り低減されることがわかる。また、チューブの外径が小さくなるにつれて、組織の角錘形状が大きく低減されることがわかる。実際、これは、(b)の1mmのたわみ、(d)の0.5mmのたわみ、(f)の0.25mmのたわみ、および(h)の0.125mmのたわみの対応するプロットに示された応力に反映される。例えば、チューブの直径を0.5mmから0.25mmに小さくすると、最大フォン・ミーゼス応力が950Paから415Paに約半分になる。したがって、結膜への外傷を低減するためにチューブの直径を小さくすることが重要である。チューブの第1の要件は、結膜組織への圧迫を低減するために、小径であることである。
【0123】
結膜組織の最大接触圧
【0124】
チューブと結膜下組織との干渉は、円柱と平面との干渉としてモデル化できる。実際、局所的に眼球の曲率がチューブ半径よりも1~2桁大きいので、結膜組織は平面部として扱うことができる。
図20に示すように、円筒は半径Rと長さLを有し、結膜組織に向かって力Fで押される。
【0125】
接触面は次のように定義される幅aを有する。
【0126】
【0127】
E*は次のように定義される。
【0128】
【0129】
E1、E2は、チューブと結膜組織の弾性ヤング率であり、v1、v2は関連するポアソン比である。したがって、チューブの半径が増加するにつれて、表面接触の幅がチューブの半径の平方根で、予想通りに増加することがわかる。接触の最大圧力は、表面接触の中心で得られ、次のように定義される。
【0130】
【0131】
最大接触圧は、
に比例し、固定された圧迫に対してチューブの半径を増加させることにより低減できる。したがって、チューブの半径を大きくして、チューブにより結膜に加えられる最大接触圧を、減少させることが重要である。固定された圧迫長さを維持しつつチューブの組織との接触面を増加させる唯一の手段は、
図21(a)に示すように楕円形状を採用し、チューブの高さを一定に保ちつつチューブの幅を増加させることである。換言すれば、それはチューブの離心率eを増加させることであり、以下のように定義される。
【0132】
【0133】
図21(b)に示すように、Hはチューブの高さ(つまり半短径の2倍)、bはチューブの幅(つまり半長径の2倍)である。
【0134】
したがって、チューブの離心率を増加させ、チューブと結膜組織との最大接触圧を低減することが重要である。本明細書に記載のGDDは、好ましくは約0.98の離心率を有する。
【0135】
部分B:強膜切開封止の最小化
【0136】
緑内障手術では、各チューブは、前房を眼の他の部分(結膜下または脈絡膜上の空間)に接続する切開部を通して挿入されなければならない。しかしながら、組織の切開は通常、ナイフを使用して行われ、これによりまっすぐな切口となる。したがって、水平方向の切口に配置された円形チューブにより、
図22に示すように、組織が上方に延伸され、その結果、切開が主に楕円形になる傾向があるので、円形チューブの外側周囲に漏れが生じる。
【0137】
第1の近似では、切開部は楕円形状でモデル化できる。本発明者らは、長さ3mmの切開部(高さ0.2mm、幅0.5mm)に挿入された、離心率が増加する50μmのルーメンを有する3mmの長さのチューブを通過する2μl/分の流れをシミュレートし、セットアップ全体にわたる圧力降下を記録した。
図23に示すように、本発明者らは、高さ0.2mmで、幅0.2mm(e=0)、0.25mm(e=0.6)、0.375mm(e=0.85)、0.438mm(e=0.89)、および0.492mm(e=0.91)の5つの異なる形状のチューブを選択した。すべてのチューブは、0.05mmのルーメン径を有する。
【0138】
すべての構成の圧力降下を監視することにより、漏れの兆候が得られる。切開部が適切に封止されていれば、流れはチューブを通るだけのはずなので、圧力降下は5~6mmHg程度になるはずで、低い値を示す場合は漏れを意味する。本発明者らは、最初の3つの構成(b=0.2、0.25、0.375mm)では、セットアップを通る圧力降下は1mmHgをはるかに下回っており、重要な漏れを示すことを見いだした。しかしながら、第4の構成(0.438mm)では、圧力降下は約3mmHgであり、これは適正値の約
半分であり、流れが、チューブおよび切開によって作られた空間を通っていることを意味する。チューブの幅が0.492mmの場合(第5の構成)、圧力降下は約5~6mmHgと適正であり、流れが主にチューブを通っていることを示す。
【0139】
前房に播種された粒子のパスラインを以下にプロットして示す。(i)重要な漏れがある場合(
図24);(ii)流れがチューブと切開によって作られた空間とを通る場合(
図25);(iii)流れが主にチューブを通る場合(
図26)。
【0140】
本発明者らは、
図26に示す構成について追加のシミュレーションを行った。そこでは、本発明者らは、ルーメンを塞ぎ、
図27に示すように、チューブと組織との間の切開部の間隙を通って2μl/分の流量で、房水液(同一の粘度)を押し出すのに必要な圧力降下を計算した。得られた圧力は、チューブのルーメンを閉じた状態で400mmHgを超えていた。これは、流れが好ましくは、最も抵抗の少ない経路である開口したルーメンを通る傾向があることを示しており、それゆえに、この離心率に関してチューブの外側に最小の漏れがあった。
【0141】
これらのシミュレーションは、同じ結果を有する任意の切開寸法に当てはまる。切開部に挿入された楕円形チューブは、作られた切開部と同様の形状であることにより、漏れを低減させる傾向がある。
【0142】
部分C:前房におけるチューブフラッピングの最小化
【0143】
眼の前房におけるチューブ端部のフラッピングは、角膜上皮に外傷を引き起こす可能性がある。前項で定義したチューブの楕円形状は、一定の力で前房におけるチューブのたわみを低減させる。チューブは角膜輪部のウィングで所定の位置に保持されていると単純化すると、前房前部におけるチューブの潜在的な変位は、ウィング部で所定の位置に保持された片持梁としてモデル化できる。その場合、片持梁の微小なたわみ△は、次のように計算される。
【0144】
【0145】
ここで、F:チューブに加わる力、E1:チューブ材料のヤング率、I:断面二次モーメント、L:変位するチューブの長さである。パラメータIは、たわみの方向に応じて、与えられた軸に対するチューブの断面形状を特徴づける。Iの値が大きいほど、与えられた力に対するチューブのたわみは小さくなる。前房のチューブは、どのような方向にもフラップできる。本発明者らは、主な2つの方向に集中し、他の任意の方向はこれら2つの方向の組み合わせになる。
【0146】
最初に、角膜の表面に対して垂直な、チューブの変位に目を向ける。その方向では、円柱の断面二次モーメントは、Dを外径とすると、
である。楕円形状については、断面二次モーメントは、
図21(b)に示すようにチューブの長円の高さをH、幅をbとすると、
により与えられる。同様の力、ヤング率、長さについては、円筒形チューブと楕円形チ
ューブの変位の比(式5)は、断面二次モーメントIのみを使用して書き換えることができる。円筒形チューブと楕円形チューブとの高さが同じ(D=H)であると仮定する。その場合、同一の長さL、ヤング率E、および力Fのチューブでの、楕円形チューブに対する円形チューブのたわみの比は、式5から次のように完全に書き換えることができる。
【0147】
【0148】
たわみの比は、円形チューブの高さまたは直径に対する楕円形チューブの幅の、2つの要因にのみ依存する。例えば、チューブが直径D=HでD=0.2mm、楕円形チューブの幅が1mmの場合、I
ex/I
rx=5となる。これは、本明細書に記載されるGDDが、角膜に対して垂直な楕円形チューブのたわみを、円形チューブ(D=0.2mm)と比較して、式(5)にしたがって固定された力について5倍低減させることを意味する。この比のさらなる特徴は
図28(a)に示され、GDDからのたわみの図示は、
図28(b)に示される。
【0149】
第2に、チューブによる角膜上皮の摩擦を避けるために、チューブの横方向の変位も低減されるべきである。実際、一点に固定された円形チューブは、同じ力でどの方向(角膜に垂直かつ平行な方向)にも動くことができる。しかしながら、楕円形チューブについては、そうではない。平行変位に対する断面二次モーメントを増加させることにより、任意の横方向の変位を最小にする。式(5)で説明した力は依然として有効であり、横方向の変位を反映するように断面二次モーメントを変更するだけでよい。円形チューブについては、断面二次モーメントは変化せず、
に等しい。楕円形チューブについては、
になる。したがって、D=Hと仮定した場合、横方向の変位は次のようになる。
【0150】
【0151】
その比は
図29(a)にプロットされ、
図29(b)に示すGDDからのたわみが図示されている。
【0152】
この比はb3/H3に比例し、b=1mm、H=0.2mmのときには125である。GDDは、角膜に対して平行な楕円形チューブのたわみを、円形チューブ(D=0.2mm)と比較して、式(5)にしたがって所与の力について125倍低減させる。
【0153】
結論として、楕円形状を採用することは、経時的に角膜上皮層を損傷する可能性のある、任意の方向へのチューブのフラッピングをかなり低減させる。
【0154】
部分A~B~C:チューブ内部応力の最小化
【0155】
一般的なチューブの屈曲
【0156】
埋め込み時にチューブが受ける応力を最小にすることが重要である。実際、チューブは埋め込み時、曲げられるため一定の応力を受ける。これは、表面接触圧の最小化とは異なる要件であり、埋め込み時にチューブが受ける内部応力に関係する。形状は内部応力を低減するのに役立つ。
図30では、同じたわみ力について、離心率0.98(H=0.2mm、b=1mm)のGDDの例の楕円形状の内部応力は、同じ高さ(D=0.2mm)の円形チューブの3分の1に低減されていることがわかる。このことは、楕円形状はまた、チューブの内部応力を低減させ、その結果、比較的低い応力を受けるので、デバイスの寿命を延ばすことができることを示す。
【0157】
切開による特定のチューブの屈曲
【0158】
切開部から結膜下腔にチューブが進出するとき、
図31(a)の矢印で示される進出点で、チューブに応力がかかる。チューブは何十年間その配置にとどまる可能性があるため、内部応力を低減することは重要である。直径0.2mmの円形チューブおよび高さ0.2mm、幅1mmの楕円形チューブ(GDDと同様の離心率0.98)を用いて、
図31(b)および
図31(c)に示すような上向きに1mmのたわみが生じた状態で、2つの有限要素解析を行った。
【0159】
図31に示すたわみの対応するチューブ内部応力を
図32にプロットする。直径0.2mmの円形チューブと、GDDと同様の高さ0.2mm、幅1mmの楕円形チューブを比較すると、チューブの最大内部応力は、3.75MPaから約2.8MPaへと約25%低減されていることがわかる。したがって、楕円形状により、チューブが結膜下形状に切開部を進出したとき、内部応力を低減させることができる。
【0160】
本発明は、1つまたは複数の好ましい実施形態を参照して上述してきたが、添付の特許請求範囲に記載の通り、本発明の趣旨を逸脱することなく、様々な変更または修正が可能であることが理解されるであろう。
【図 】