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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】中硬膜動脈内インプラント
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20230906BHJP
【FI】
A61B5/00 B
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2020554256
(86)(22)【出願日】2019-04-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-19
(86)【国際出願番号】 US2019025757
(87)【国際公開番号】W WO2019195534
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】15/946,078
(32)【優先日】2018-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504311419
【氏名又は名称】タフツ メディカル センター インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】マレク アデル エム.
(72)【発明者】
【氏名】ヘイルマン カール
【審査官】外山 未琴
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-523922(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0293198(US,A1)
【文献】米国特許第08938300(US,B2)
【文献】米国特許出願公開第2002/0099412(US,A1)
【文献】特表2005-537092(JP,A)
【文献】特表平03-504563(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0095649(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0172774(US,A1)
【文献】特表2011-513038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植のためにカテーテルを介して中硬膜動脈に血管内送達するためのインプラントを備えた装置であって、
前記カテーテルは、前記インプラントの移植後に引き抜かれ、
前記インプラントは、キャリアと、固定機構と、ペイロードとを備え、
前記ペイロードは、脳組織とのエネルギー伝達に関与し、前記中硬膜動脈の壁に向かう方向に配置されており、
前記インプラントは、血管内を通って中硬膜動脈へ送ることが可能な大きさと形状を有し、
前記固定機構は、前記インプラントを前記中硬膜動脈に固定するように構成され、
前記キャリアは、前記ペイロードを担持する、装置。
【請求項2】
前記インプラントは第1のインプラントであり、
第2のインプラントであって、第2のペイロードを運ぶキャリアと、該第2のインプラントを前記中硬膜動脈内に固定するための固定機構とを有する第2のインプラントをさらに備え、
前記第1のインプラントは、前記第2のインプラントを制御する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記固定機構は、膨潤状態に遷移するように構成され、
前記膨潤状態において、前記固定機構は、前記インプラントを前記中硬膜動脈に固定し、
前記遷移が完了する前に、前記固定機構は、前記インプラントが血管内を通って前記中硬膜動脈に送られることを可能にする、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記固定機構は、第1の固定具と第2の固定具とを備え、
前記第1の固定具は、前記キャリアの第1の端部であって前記ペイロードの一方の側に設けられ、
前記第2の固定具は、前記キャリアの第2の端部であって前記ペイロードの他方の側に設けられる、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記固定機構は、前記インプラントの周囲に設けられた環状の固定具を備え、
前記環状の固定具は、体液に晒されると膨潤する、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記固定機構は、前記インプラントを取り囲むハイドロゲル層を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記固定機構は、互いに軸方向に変位した第1の環状の固定具および第2の環状の固定具を備え、
前記第1の環状の固定具および前記第2の環状の固定具は、体液に晒されると、前記インプラントが前記中硬膜動脈まで届くことのできる第1の大きさと、大きすぎて前記中硬膜動脈を通らない第2の大きさとの間で遷移する、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
第2のインプラントをさらに備え、
前記第2のインプラントは、前記第1のインプラントから前記第2のインプラントまで伝播する際に脳組織の広がりを横断した信号を前記第1のインプラントから受信するように構成され、
前記第2のインプラントが受信した前記信号は、前記脳組織の広がりの特性を推測できる特性を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記固定機構によって形成される閉塞をさらに備え、
前記閉塞が前記中髄膜動脈を閉塞し、
前記固定機構は、前記インプラントが前記中硬膜動脈に送られている間に前記閉塞の形成を開始し、前記インプラントが前記中硬膜動脈に送られた後に前記閉塞の形成を完了する、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記固定機構は、第1の状態から第2の状態に自発的に遷移する円環状の固定具を備え、
前記第1の状態において、前記円環状の固定具の外径は前記中硬膜動脈の内径よりも小さく、
前記第2の状態において、前記円環状の固定具が前記中硬膜動脈の外側にあれば、前記円環状の固定具の外径は前記中硬膜動脈の内径よりも大きい、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記キャリアは管状本体を備え、
前記ペイロードは管状本体の内部に設けられる、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記キャリアはたわみ線を備え、
前記ペイロードは前記たわみ線に設けられる、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記キャリアはたわみ線を備え、
前記固定機構は前記たわみ線の両端部に固定具を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記インプラントは、アンテナと、前記インプラントが埋め込まれた患者の外部にあるコントローラと通信するための通信システムと、を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記キャリアはワイヤを備え、
前記ペイロードは前記ワイヤに沿った複数のノードを備え、
複数の前記ノードはそれぞれ、センサおよび刺激装置からなる群から選択され、
前記固定システムは、前記ワイヤの対向する端部を係合させる第1のステントおよび第2のステントを備える、請求項1に記載の装置。
【請求項16】
前記固定機構は、患者に挿入された後に増加した質量を維持するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項17】
神経インプラントをさらに備え、
前記インプラントは、脳刺激や脳からの信号の記録に用いられる前記神経インプラントの神経インターフェースの構成要素である、請求項1に記載の装置。
【請求項18】
前記キャリアはワイヤを備え、
前記ペイロードは前記ワイヤに設けられた複数の電極を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項19】
前記ペイロードは、側副インプラントからの信号を受信して、前記信号を、前記側副インプラントをフィードバック制御するための基準として用いる通信システムを備える、請求項1に記載の装置。
【請求項20】
前記ペイロードは、ペースメーカーのフィードバック制御を実行するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項21】
前記ペイロードは、発光源と光感知受信器のうちのいずれか1つを備える、請求項1に記載の装置。
【請求項22】
前記ペイロードは、音響エネルギー源と音響エネルギーを受け取るセンサのうちのいずれか1つを備える、請求項1に記載の装置。
【請求項23】
前記ペイロードはバイオマーカーチップを備える、請求項1に記載の装置。
【請求項24】
前記ペイロードは温度を計測するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項25】
前記ペイロードは水素イオン濃度を測定するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項26】
前記ペイロードは動きを検出するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項27】
前記ペイロードは、硬膜に対向する前記動脈の壁と接触するように構成された膜と、頭蓋内圧を測定するための前記壁と接触する圧力センサと、を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項28】
前記キャリアはワイヤを備え、
前記ペイロードは前記ワイヤに沿って設けられた複数のノードを備え、
前記ノードはそれぞれ、センサと刺激装置からなる群から選択される、請求項1に記載の装置。
【請求項29】
前記第1および第2のインプラントは、相互に異なる種類のペイロードを担持している、請求項2に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年4月5日に出願された、米国出願15/946,078に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【0002】
本発明は、手術、特に脳手術に関する。
【背景技術】
【0003】
脳内の物理的なパラメータを測定することが役に立つ場合がある。また、脳内の構造にエネルギーを供給することが役に立つ場合もある。
【0004】
頭蓋骨の存在は困難を生じさせる。頭蓋骨は有用な機能を果たしているが、脳内の活動を測定してそこにエネルギーを供給する機能を妨げる。
【0005】
もちろん、頭蓋骨に穴をあけて、それらの穴から様々な装置を挿入することはいつでも可能である。しかしこれは、どちらかというと、ある種のリスクを伴う侵襲性の措置である。
【0006】
頭皮に電極を配置することも可能である。しかし、頭皮と脳の間には多数の層がある。したがって、対象となる信号は、電極に到達する前に多くの層を通過しなければならない。この結果、かなりの減衰が生じる。
【0007】
さらに、頭皮付近の筋肉を動かす神経からの迷走電気信号と、収縮した筋線維自体からの大きな信号とが、対象とする信号を妨害することもある。
【0008】
さらに悪いことに、頭皮は頭蓋骨に対して完全に静止しているわけではない。そのため、電極を頭皮に取り付けると、電極は脳に対して相対的に動きうる。これらの動きによって測定された信号に偽像が生じ、正確で精密な記録が妨げられる。これらの全てが合わさって、測定のための信号対雑音比がしばしば許容できないほど低くなり、刺激を与えようとするときにエネルギーの伝達が不正確になる。
【0009】
同様に、脳を覆う頭蓋骨、筋肉、および頭皮を横断することによって制限されることなく、酸素飽和度を測定するもの等、別の種類の光学的または音響的な刺激装置または変換器を脳の近くに配置することは有利である。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、中硬膜動脈が、脳と相互作用するインプラントを配置するための特別な位置として極めて有用な特定の性質を有するという認識に基づいている。そのような相互作用は、測定または刺激の形態をとりうる。
【0011】
この目的を達成するために、インプラントは、頭蓋骨内の組織と関連した様々な物理的パラメータを測定するための様々なセンサ、エミッタ、およびトランスデューサを備えうる。また、本明細書で述べるインプラントは、診断用または治療用の刺激装置を配置するのにも有用である。そのような刺激装置は、侵襲性の外科技術を用いて頭蓋骨を貫通することを必要とせず、脳表面に非常に近接した電気的、音響的、または光工学的な刺激装置を含みうる。
【0012】
刺激装置の別の例として、超音波刺激装置、超低周波刺激装置、超音波刺激装置、可聴周波数の圧力波を出力する刺激装置、および、nを0から9までの整数としたときに10Hzと10n+1Hzの間の周波数の縦方向の圧力波を出力する刺激装置を含む。
【0013】
さらに、刺激装置には、様々な周波数の電磁放射を出力する刺激装置も含まれる。これらの刺激装置は、nを0から14の整数としたとき、10Hzから10n+1Hzの間の周波数の放射線を出力する刺激装置を含む。
【0014】
刺激装置の別の例として、dc電圧またはdc電流を出力する刺激装置、またはac電圧またはac電流を出力する刺激装置が含まれる。
【0015】
刺激装置のさらに別の例として、電波を出力する刺激装置、マイクロ波を出力する刺激装置、赤外線を出力する刺激装置、可視光を出力する刺激装置、紫外線を出力する刺激装置、X線刺激装置、およびガンマ線刺激装置が含まれる。
【0016】
刺激装置のさらに別の例として、正味エネルギーを人体へ移動させる刺激装置が含まれる。これらの刺激装置は、機械波、電磁波、および圧力波を含む波からの沈着を介してエネルギーを移動させる刺激装置を含む。
【0017】
さらに別の刺激装置は、機械エネルギーを移動させる刺激装置、化学エネルギーを移動させる刺激装置、電気エネルギーを移動させる刺激装置、および熱エネルギーを移動させる刺激装置を含む。
【0018】
これらの刺激装置の中には、脳の特定の領域を対象とするための核放射線を放出する放射性同位体を含むものがある。
【0019】
ある態様において、本発明は、血管内を通って中硬膜動脈へ送ることが可能な大きさと形状を有するインプラントを特徴とする。インプラントはペイロードを担持するキャリアと、インプラントを中硬膜動脈に固定する固定機構とを備える。
【0020】
いくつかの実施形態において、インプラントは、膨潤状態に遷移する固定機構も含む。膨潤状態において、固定機構はインプラントを中硬膜動脈に固定する。固定機構は、膨潤状態への遷移が完了する前に、インプラントが血管内を通って中硬膜動脈に送られることを可能にする。上述の実施形態の中には、体液に晒されると固定機構が膨潤するものがある。
【0021】
いくつかの実施形態において、インプラントの直径は約1.8ミリメートル未満である。別の実施形態では、インプラントの直径は約1.5ミリメートル未満である。
【0022】
いくつかの実施形態において、インプラントは吸収性を有する。上述の実施形態において、インプラントは長期インプラントもよく、短期インプラントでもよい。本明細書で使用されるように、長期インプラントは30日よりも長い期間安全に使用できるものである。他の全てのインプラントは短期インプラントである。
【0023】
いくつかの実施形態では、固定機構は、キャリアの1つまたは複数の場所に配置された第1および第2の固定具を備える。これらの実施形態において、キャリアの対応する第1および第2の端部に固定具が設けられてもよく、固定機構はインプラントの周囲に設けられた環状の固定具を備えても良く、固定機構はインプラントを取り囲むハイドロゲル層を備えてもよい。さらに複雑な装置では、3つ以上の固定具が設けられる。
【0024】
実施形態において、固定機構は互いに軸方向に変位した環状の固定具を備えてもよい。
【0025】
別の実施形態では、それぞれ異なる円周角で動脈壁と係合する固定具を有する。そのような固定具は星状固定具を含む。これらの実施形態において、固定具は、同じまたは異なる角度範囲でそれぞれ分離した点で係合してもよい。
【0026】
これらの実施形態において、ステントに用いられるものと同様の支柱型固定具を用いてもよい。これらは、開放セル、閉鎖セル、および編組構造を含む。
【0027】
他の実施形態では、固定機構は、中硬膜動脈まで届くことのできる第1の大きさから、大きすぎて中硬膜動脈を通らない第2の大きさに遷移することで、外部からの入力に反応する。これらの実施形態において、体液に晒されることで、固定具が第1の大きさから第2の大きさに膨潤してもよい。
【0028】
他の実施形態において、インプラントは、体内に入ってから埋め込まれるまでの間に質量を変更する。この増加した質量は、様々な発生源から得られる。1つの方法として、質量は体液を吸収することで変化する。別の質量の変化の発生源としては、細いカテーテルを通して食塩水等の液体を注入することである。別の発生源としては、インプラントが正しい位置に到達すると注入される液体である。この液体によって、所望の位置に固定できる。液体は例えば、食塩水、ONYX(登録商標)等の液体塞栓性接着剤があげられる。
【0029】
別の実施形態では、インプラントは取り出し可能なステントの外部構造に含まれている。
【0030】
いくつかの実施形態において、固定機構は、キャリアの側面に配置された第1および第2の環状の固定具を備える。
【0031】
他の実施形態は、中硬膜動脈の閉塞を特徴とする。これらの実施形態では、インプラントが中硬膜動脈に送られている間に固定機構が閉塞を形成し始め、インプラントが中硬膜動脈へ送られると、この閉塞の形成は完了する。
【0032】
さらに他の実施形態では、固定機構は第1の状態から第2の状態に自発的に遷移する円環状の固定具を備える。第1の状態において、円環状の固定具の外径は中硬膜動脈の内径よりも小さい。第2の状態において、円環状の固定具が中硬膜動脈の外側にあれば、円環状の固定具の外径は中硬膜動脈の内径よりも大きい。
【0033】
いくつかの実施形態において、キャリアは、管状本体と、管状本体の内部に設けたペイロードとを備える。しかし、ペイロードは本体の外にも伸びる。例えば、いくつかの実施形態において、キャリアは、たわみ線と、たわみ線に設けたペイロードとを備える。これらの実施形態において、固定機構はたわみ線の一方または両方の端部に設けた固定具を含む。
【0034】
いくつかの実施形態において、インプラントは、アンテナと、1つまたは複数の他の装置と通信するための通信回路とを備える。いくつかの実施形態において、他の装置とは、インプラントが埋め込まれた患者の外部のコントローラである。他の実施形態において、これらの装置は、患者の頭部にもあるインプラントと同様である。そのような実施形態において、様々なインプラントは、インプラントが互いに通信するパーソナルエリアネットワークを形成する。これらのパーソナルエリアネットワークのいくつかにおいて、インプラントは、外部のコントローラを用いて通信する必要なく互いに通信する。そのようなインプラント同士の通信は、データ交換、制御指令の交換、またはそれらの組み合わせを含む。そのようなネットワークにおいて、1つのインプラントはマスターの役割をし、1つまたは複数のインプラントはスレーブの役割をする。これらの実施形態において、マスターは制御指令を1つまたは複数のスレーブに送信し、スレーブはこれらの指令を実行する。
【0035】
いくつかの実施形態において、第1のインプラントは、組織の広がりにわたって第2のインプラントに信号を送信する。受信した信号の特性に基づいて、介在する組織の性質に関する推測を行うことができる。この信号は音響信号または電磁信号であってもよい。この信号方式は、外部から介入せずに時間をかけて繰り返すことができ、脳の膨潤または脳内への水の集中等の、経時変化する現象を追跡する方法を提供する。
【0036】
他の実施形態では、インプラントは、インプラントが埋め込まれた患者の外部にあるコントローラと通信するように構成された通信システムの動力源を備える。
【0037】
他の実施形態では、インプラントは、インプラントが埋め込まれた患者の外部から動力を受け取って通信するように構成された受動回路を備える。
【0038】
これらの実施形態では動力源を備えてもよい。いくつかの実施形態において、動力源は電池である。外部のワイヤレス充電器から誘導的に再充電できる電池が特に有用である。他の実施形態では、動力源は機械エネルギーを取り込み将来放出するために蓄積するものである。そのような機械エネルギーは患者自身の動きから得られる。機械エネルギーの特に大きな供給源は患者の歩行である。別のエネルギー供給源もある。これらは、患者の動脈拍動や患者の頭蓋内圧の変動と拍動の性質を含む。
【0039】
様々なペイロードを、単独でまたは組み合わせて使用できる。例えば、いくつかの実施形態において、ペイロードは電気変換器を備える。別の実施形態では、キャリアは可撓性を有するキャリアであり、ペイロードはたわみ線に設けられた複数のノードを備える。これらのノードは、信号の受信または脳の刺激に用いることができる電極として実現される。
【0040】
いくつかの実施形態において、ペイロードは、側副インプラントからの信号を受信してこの信号を側副インプラントをフィードバック制御する基準として用いる通信システムを備える。これらの実施形態において、ぺースメーカーのフィードバックを実行してもよい。これらの実施形態において、第1のインプラントが知覚野に近く、第2のインプラントが運動皮質に近い。そのような実施形態において、第1のインプラントは、知覚野からの知覚情報を受信すると、第2のインプラントに指示を送ることができる。
【0041】
ペイロードの他の例として、電極、グルコースセンサ、神経伝達物質センサ、加速度計、ジャイロメータ、化学的センサ、パルスオキシメトリに用いるNIRレーザおよび受信機、光遺伝刺激に用いる光源、音響エネルギー源、音響エネルギーを受信するためのセンサ、バイオマーカーチップ、温度センサ、水素イオン濃度を測定する機器、超音波変換器、赤外線変換器、蛍光検出器、動き検出装置、および圧力センサが挙げられる。
【0042】
いくつかの実施形態は、硬膜に面した動脈壁と接触するように構成された膜と、頭蓋内圧を測定するための壁と接触する圧力センサとを備えるペイロードを特徴とする。
【0043】
さらなる実施形態において、キャリアはたわみ線を備え、ペイロードはワイヤに沿って設けられたノードを備え、ノードはそれぞれ、センサと刺激装置からなる群から選択される。これらの実施形態のいくつかにおいて、固定システムは、ワイヤと係合するステントを備える。他の実施形態では、複数のステントがそれぞれ異なる位置、例えばワイヤの端部、でワイヤと係合する。
【0044】
したがって、本発明は、頭蓋骨内の組織に起こる電気的活動を測定する方法を提供する。これは、痙攣の検出を含む脳の機能を評価したり、他の埋め込み型装置または薬剤の注入または治療を和らげたりするのに有用な方法である。
【0045】
インプラントは、圧力、特に頭蓋内圧を測定する方法を提供する。上昇した頭蓋内圧は脳灌流に干渉し、そのため様々な重大な病気を引き起こしうる。これらのさらに望ましくない病気は、脳死である。
【0046】
インプラントはまた、脳の組織潅流を測定する方法も提供する。そのような測定は、外傷性脳損傷または脳の動脈瘤の破裂によって生じる血管痙攣によって生じる血流の不足を早期に検出するのに有用である。脳の組織潅流の低下を早期に検出することによって是正措置を実施する時間が得られ、それによって、脳の虚血や不可逆的な脳卒中のリスクが低下する。
【0047】
また、インプラントは、切除後の隣接する脳腫瘍の再発または増殖を追跡する方法を提供する。これは、発光および受光特性によってインプラントが測定することのできる腫瘍細胞と強固に結合する蛍光マーカーを全身に投与することによって得られる。腫瘍の進行は、近赤外線または音波の伝達を用いて付近の組織の特性を測定することによっても監視できる。さらに、インプラントは、光または音の周波数を送信することで埋め込まれた箇所に隣接して局所的に薬剤を供給することを和らげることができ、全身に供給した薬剤を局所的に放出または活性化することを補助する。
【0048】
インプラントは、相対的に固定されて安全な位置にあると効果を得られる。展開されると、インプラントは骨の溝の内部に設けられた脈管の中に配置される。これは例外的な状況である。ほとんどの血管は比較的柔らかい組織に取り囲まれており、加えられた力に対して位置を変えることができる。これは、インプラントがそのような血管の中に配置された場合、特に外傷のような加速や減速中に、特定のものに対する位置が確実には分からないことを意味する。
【0049】
骨の溝の内部に支えられているため、中硬膜動脈は力に対して容易には移動しない。したがって、インプラントを動脈に固定すると、他の頭蓋内構造に対する位置が一定に保たれる。これは、それらの構造に対する位置決めが多かれ少なかれ定めっていることを意味する。これによって、他の血管では単純には得ることのできない大きな効果が得られる。
【0050】
さらに、中硬膜動脈は脳自体との相互作用に理想的な位置に偶然ある。それは頭蓋骨内部であり、それによって頭蓋骨はエネルギーを吸収したり分散したりすることを意味する。そして、使用中に浮遊電解を常に放出している筋肉からは遠く離れている。
【0051】
このような独特の状況により、インプラントは、外部からの操作による偶発的な動きから保護される。そのような偶発的な動きは、頭皮、顔、または首等の別の場所においてインプラントを血管に配置する際の重大なリスクである。
【0052】
したがって、インプラントは、頭蓋骨の線加速度と角加速度の両方を測定する理想的な構造を得られる。インプラントが溝の内部に固定されることは、その基準座標系と頭蓋骨の基準座標系とが同一であることを意味する。この臨界要素は、インプラントが他の場所に配置されると存在しない。
【0053】
ジャイロスコープ、ジャイロメータ、および加速度計等のマイクロセンサを用いた加速度の正確な測定は、外傷性の脳の損傷の閾値を設定するための定量的な基準を設ける目的で行われる。本明細書で述べるようなインプラントを用いると、衝撃に対するヘルメットの加速度は頭蓋骨自体の加速度と同じではないため、同様の器具をヘルメットに配置するよりもはるかに正確である。実際、第1の配置におけるヘルメットの目的は、衝撃から頭蓋骨を隔離することである。したがって、ヘルメットが上手く機能すればするほど、頭蓋骨自体の加速度を図るための基準としての適性は低くなる。
【0054】
中硬膜動脈には独特の効果があるが、本明細書で述べる経路に沿って装置を埋め込むことは不可能ではない。実際、患者へ大きな悪影響を及ぼすことなくインプラントを展開できる頭蓋骨の内部または近傍の他の位置もある。
【0055】
したがって、他の態様において、本発明は、キャリアを有するインプラントと、頭蓋骨に隣接した位置または頭蓋骨内の位置にインプラントを固定する固定機構と、キャリアに担持されたペイロードとを備えた装置を特徴とする。
【0056】
これらの実施形態のいくつかでは、インプラントは、外頸動脈によって供給されたネットワーク、後頭動脈によって供給されたネットワーク、浅側頭動脈によって供給されたネットワーク、および上顎動脈によって供給されたネットワーク、といった血管のネットワークのうちのいずれか1つに埋め込まれるように構成されている。
【0057】
上述した位置でインプラントを使用することは、頭蓋内測定を含む特定の機能を損なう。しかし、これらの機能の多くが保持される。例えば、近赤外線を用いて灌流を評価する実施形態でも同様である。近赤外線は頭蓋骨を透過しないといけないが、頭皮、筋肉、および髪の毛を迂回する。したがって、頭皮に装着された測定装置を改良することになる。
【0058】
他の実施形態では、インプラントは脳内血管に埋め込まれるように構成される。これらは、内頸動脈によって供給されたネットワーク、椎骨動脈によって供給されたネットワーク、中大脳動脈によって供給されたネットワーク、前大脳動脈によって供給されたネットワーク、脳底動脈によって供給されたネットワーク、および後大脳動脈によって供給されたネットワークからなる群から選択される血管のネットワークを含む。血管の閉塞を含む埋め込みによって引き起こされる流れに対するインピーダンスが患者に悪影響を及ぼさないように、インプラントを埋め込む血管は非致命的な血管であることが好ましい。
【0059】
そのような実施形態において、脳腫瘍および頭蓋内腫瘤からなる群から選択される構造を密接に監視することが可能になる。また、そのような実施形態において、頭蓋内圧を計測することも可能になる。
【0060】
上述の実施形態において、中硬膜動脈以外の場所に配置する場合には、脳卒中を起こすほど血流を阻害しないように注意しなければならない。これは、動脈を閉鎖することでそれ自体を固定する実施形態において特に重要である。これは、十分に遠位で重要でない枝にインプラントを配置することにより達成される。
【0061】
インプラントの実施形態の中には、血管以外の場所に配置するように構成されたものもある。これにより、インプラントの利点の多くを保持しながら血管内手術を実行する必要がなくなる。頭皮の下に配置するように構成された実施形態もある。そのような実施形態において、針で皮膚を通したり、小さな外科的切開等のいくつかの方法で配置可能である。
【0062】
他の態様では、本発明は、血管内を通過させることでインプラントを中硬膜動脈に送ることを含む方法を特徴とする。インプラントは、ペイロードを担持するキャリアと、インプラントを中硬膜動脈に固定する固定機構とを備える。
【0063】
いくつかの実施は、インプラントの固定機構が、膨潤状態に徐々に遷移して膨潤が完了する前に中硬膜動脈に到達する間、インプラントを血管内に通すことを含む。
【0064】
いくつかの実施は、動脈内の血流を阻害するようにインプラントを中硬膜動脈内に残すことで、そうでなければ中硬膜動脈によって送達された酸素化血液の少なくとも一部を周囲の脳組織から奪うことを含む。
【0065】
本発明のこれらおよび他の特徴は、以下の詳細な説明および添付の図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1図1は、中硬膜動脈の位置を側頭面から示す。
図2図2は、頭蓋骨および硬膜に対する中硬膜動脈の位置を示す断面図である。
図3図3は、図1および図2に示す中硬膜動脈へ埋め込むためのインプラントを示す。
図4図4は、頭蓋骨の外に配置され、図3のインプラントと連通するコントローラを示す。
図5図5は、ペイロードとしての圧力センサを坦持する図3のインプラントを示す。
図6図6は、ペイロードとしての運動センサを坦持する図3のインプラントを示す。
図7図7は、ペイロードとしての電極群を坦持する図3のインプラントを示す。
図8図8は、ペイロードとしてのパルスオキシメータを坦持する図3のキャリアを示す。
図9図9は、ペイロードとしての光遺伝刺激装置を坦持する図3のキャリアを示す。
図10図10は、ペイロードとしての化学的センサを坦持する図3のキャリアを示す。
図11図11は、ペイロードとしてのpHセンサを坦持する図3のキャリアを示す。
図12図12は、ペイロードとしての蛍光センサを坦持する図3のキャリアを示す。
図13図13は、ペイロードとしてのバイオマーカーチップを坦持する図3のキャリアを示す。
図14図14は、ペイロードとしての方位検出器を坦持する図3のキャリアを示す。
図15図15は、中硬膜動脈に固定されたノード列を示す。
図16図16は、中硬膜動脈において2つの位置に固定されたノード列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0067】
図1は中硬膜動脈10の側頭図を示す。中硬膜動脈10は、頭蓋骨12内に含まれる組織と密接に相互作用するインプラントを配置する場所として用いられる特定の特性を有する。
【0068】
まず第1に、中硬膜動脈10は、標準的な広く利用可能なマイクロカテーテルを用いた技術によって容易に処置することができる。中硬膜動脈10へは、経大腿を通ってまたは経動脈挿入等の血管内外科的方法によって、容易に到達することができる。
【0069】
第2に、中硬膜動脈10は特に必須ではない。図1に示すように、それはかなりの側副血液を供給する関連ネットワークの一部である。これは、過度のまたは不可逆的な損傷または外傷なしで閉塞または犠牲にすることができることを意味する。
【0070】
中硬膜動脈10の第3の特性は、硬膜14に対する位置である。図2に示すように、中硬膜動脈10は頭蓋骨12の内表面の溝16内にあり、かつ硬膜14にも囲まれていることで安定している。
【0071】
したがって、中硬膜動脈10は脳実質に近い。また、頭蓋骨12に対して不動の保護構造にも含まれている。そのため、脳実質と密接に相互作用できるような極めて安定した構造を形成する。この独特の配置により、中硬膜動脈10は機械的安定性を得ることができ、中程度の頭部外傷も含む外力から大いに保護される。硬膜14と密接に関連しているため、頭蓋内圧にもさらされている。
【0072】
次に図3を参照すると、中硬膜動脈10内に配置されるインプラント20は、ペイロード24の種類に依存しない特定の要素とともに異なる機能を実行する異なるペイロード24を担持するキャリア22を特徴として有する。これらの要素は、アンテナ26と、ペイロード24が収集したデータを解析し、ペイロード24とアンテナ26とを接続する回路28とを含む。
【0073】
いくつかの実施形態において、動力源30は、回路28とペイロード24を動作させるための動力を供給する。典型的な実施形態では、動力源30は電池である。しかし、別の実施形態では、識別源によって供給される動力が用いられる。そのような実施形態においては、動力源30は省略される。
【0074】
ある実施形態において、図4に示すように、患者はコントローラ32を保持するヘルメットまたはストラップを着用する。したがって、コントローラ32はインプラント20と通信するのに十分に近い位置にある。あるいは、一対の眼鏡がコントローラ32を保持してもよい。いくつかの実施形態において、コントローラ32は、スマートフォン上で実行されるアプリケーションである。プライバシーが懸念される場合、または改ざんの可能性がある場合、回路28とコントローラ32の両方は、インプラント20とコントローラ32の間の通信を暗号化するように暗号化および復号化機構を特徴として有する。
【0075】
インプラント20は、インプラント20を中硬膜動脈10の壁に固定する固定機構をさらに備える。いくつかの実施形態において、固定機構は、配置状態と固定状態との間で遷移する固定具を有する。固定具が配置状態にあると、インプラント20は血管系を自由に移動する。しかし、いったん固定具が固定状態になると、移動できなくなる。
【0076】
いくつかの実施形態において、固定具はゆっくりと固定状態に遷移し、移動できなくなる前にインプラント20を正しい位置に操作するために十分な時間を確保できる。
【0077】
体液に晒される固定状態に遷移し始める固定具もある。そのような固定具は、体液をゆっくりと吸収し、血管を通って適合できなくなるほど膨張するまで次第に膨らむ物質で構成されうる。これらの特性を有する適切な材料にはハイドロゲルがある。
【0078】
そのようにして膨張が遅れることにより、外科医がインプラント20を血管に挿入する時間に余裕が得られる。この時間の余裕は、経大腿または経動脈経路を経由して送られる適切な大きさのマイクロカテーテルを用いて中硬膜動脈10にカテーテルを容易に挿入できるのに十分な程度に長い。
【0079】
中硬膜動脈10に入ると、外科医はインプラント供給マイクロワイヤを用いて、適切な取り外し位置に操作する。取り外しは、電気的、機械的、油圧的に行うことができる。
【0080】
固定具は、さまざまな形に形成することができる。いくつかの場合において、固定具は、周辺部を取り囲むそれぞれ分離した構造物であり、膨張すると互いに接触して円環を形成するように配置される。別の場合では、固定具は、最初は円環状の固定具である。また別の場合では、固定具は機械的自己拡張突起または固定具である。さらに別の場合では、固定具は、流体の滴下または注入によって膨張する膜であってもよい。
【0081】
図3は、キャリア22の対向する端部の側面に配置された第1および第2の環状の固定具34、36を示す。これらの環状の固定具34、36は、体液で膨らむとキャリア22と血管の壁との間の空間を完全に満たすように膨らみ、キャリア22を血管の壁に固定するのに十分な圧力を加えるのに十分な程度膨張する。
【0082】
所定の位置につくと、第1および第2の環状の固定具34、36は次第に体液を吸収して膨張しはじめる。この時点まで、キャリア22は中硬膜動脈10に安全に送られているはずである。膨張することにより、第1および第2の環状の固定具34、36は、キャリア22を中硬膜動脈10内に固定する。さらに、第1および第2の環状の固定具34、36は、中硬膜動脈10を通る血流を遮断する。ペイロード24の機能により、血流を遮断することによって特定の効果が得られる。
【0083】
したがって、膨張した第1および第2の環状の固定具34、36はキャリア22を不動化し、それによってキャリア22を動脈の壁に固定し、動きを防止する。
【0084】
いくつかの実施形態において、キャリア22は管状本体38の形をとる。そのような実施形態において、第1および第2の環状の固定具34、36と管状本体38とが協働して管状本体38の中央部分を隔離して封止し、それにより血液および血圧の変動から隔離する。
【0085】
次に図5を参照すると、ペイロード24の一例は圧力センサ42である。そのようなペイロード24は、脳手術の前または後に続く回復期において特に有用である。圧力センサ42により、いずれも閉塞しやすい脳室脳脊髄液シャントまたは外部脳室ドレナージシステムを有する患者の頭蓋内圧を監視することが可能になる。
【0086】
そのような装置の閉塞等の誤作動の症状は、非特異性の頭痛や全身症状と区別することが難しい。これらの結果、頻繁に救急室へ入ったり、頻繁に入院したりすることとなり、針をシャント弁または貯蔵所に配置する等の弁組立体の使用や外科的探索/再置換手術を伴う。したがって、誤った警告を避けることは有用である。
【0087】
圧力センサ42を有するキャリア22によって、患者または介護者が、データを迅速にスキャンし、リアルタイムな測定とともに頭蓋内圧の履歴を得ることができる。このことにより、実際のシャント誤動作を迅速かつ確実に識別できる。
【0088】
管状本体32の壁は、中央部分の膜40を含む。膜40は、硬膜に接触している中硬膜動脈10の壁に接触する。その結果、膜40は頭蓋内圧に対して敏感になる。圧力センサ42は膜40と機械的に連通しており、それによって頭蓋内圧を示す信号を受け取ることができる。管状本体32の内部は血液から隔離されているので、周囲の血圧は測定結果を損なわない。
【0089】
図5に関連して説明するインプラント20の別の適用例は、外傷性脳損傷による脳浮腫のある患者を非侵襲的に監視することに関する。そのようなインプラント20は連続的な神経学的検査が不要であり、さらには、侵襲性頭蓋内圧モニタを脳実質に配置することも不要になる。この方法では、頭蓋骨に穿頭孔を開ける必要があり、それには、頭蓋骨から突出した器具が邪魔になることは勿論、頭蓋内出血や感染のリスクを伴う。
【0090】
中硬膜動脈内のインプラント20によって、全身的な抗凝血の必要を避け、迅速に実施できる、簡易で最小限の侵襲性の血管内処置が可能になる。一度埋め込まれると、インプラント20は、一定の頭蓋内圧監視を可能にし、集中治療に費やされる入院日数を短縮し、浸透圧療法および頭蓋内圧制御のための誘発された薬理学的鎮静をガイドする助けになる非侵襲的な測定を提供する。
【0091】
いくつかの実施形態において、インプラント20は、手術後の頭蓋内圧を測定し、その後の頭蓋内出血除去手術および/または外傷性脳浮腫の減圧後の変化を監視するために、腫瘍手術等の外科的処置の後、硬膜外の空間に配置してもよい。インプラント20を、チタンミニプレートまたはスクリューを用いて頭蓋皮弁の内表面に取り付けることができる。あるいは、インプラント20を開頭術の閉鎖中に硬膜に縫合してもよい。
【0092】
いくつかの実施形態において、管状本体32の内部に別の様々なセンサが設けられている。例えば、図6において、ペイロード24は、線加速度および角加速度を測定するための加速度計44とジャイロメータ46とを含む。
【0093】
図6に示すように、インプラント20を選択的に配置するのに適した対象としては、頭部の損傷を繰り返す可能性が高い、または過去に深刻な脳震盪を起こしたため入念な縦断的な監視が必要な、アスリートや兵士が挙げられる。図6に示すインプラント20の一例として、急激な加速を示す事象を含む直接の頭部運動履歴を得ることができる。図6に示すような加速度計44やジャイロメータ46を組み込んだインプラント20は、上述のように埋め込まれた場合、頭蓋骨と同じ慣性座標系を共有するため、ヘルメットや身体に装着する装置よりも非常に有利である。そのようなインプラント20によって、ヘルメットの加速度と頭部の加速度との間の不一致の交絡因子を用いたり、胴体、腹部、四肢等の身体の別の部分の加速度から頭部の加速度を推測したりすることなく、対象の組織事象を正確に定量化することができる。さらに、そのようなインプラント20は、頭蓋内圧情報も送信することができる。このような情報は、治療を必要とする脳の膨潤の発症を介護者に警告するのに役に立つ。
【0094】
他の実施形態では、ペイロード24は環状の固定具24、26と一体化されている。例えば、図7に示す実施形態では、ペイロード24は、電極48が動脈壁と電気的に接触するように第1および第2環状の固定具24、26に埋め込まれた電極群48、49に相当する。そのような電極48は、EEG信号等の電気信号の測定値を集めるのに使用できる。そのような電極48の構造はエネルギーの流れの方向に無関係であるため、電極48は電気的刺激にも用いることができる。
【0095】
図8に示す別の実施形態では、ペイロード24は1つまたは複数のレーザー50と光検出器52とを含む。レーザー50が近赤外域で発光する場合には、このようなペイロード24は、パルスオキシメトリと局所脳組織潅流解析とを実行するのに用いることができる。
【0096】
図9に示す別の実施形態では、ペイロード24は発光アレイ54を含む。ペイロード24は、光遺伝刺激を実行するのに適している。これは、特定の周波数と振幅の光を照射することによって遺伝子発現を促進する方法を提供する。この実施形態では、回路28は、脳の表面の特定のパターンにおいて遺伝子発現の所望のパターンを促進するように、アレイ54に設けられた発光源を制御して特定の領域を所望の振幅、周波数、パターンで照射するように構成することができる。アレイ54が脳の表面の近くに設けられることにより、光遺伝応答を誘発するのに有利になる。そのような光活性の例は、「光遺伝学的ゲノム工学のための光活性可能なCre-loxP組み替えシステム、Fuun Kawano, Risako Okazaki, Masayuki Yazawa & Moritoshi Sato著、ネイチャーケミカルバイオロジー、第12巻、1059~1064ページ、2016年)に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0097】
図10に示す別の実施形態では、インプラント20は化学的センサ56を含む。
【0098】
図11に示す別の実施形態では、インプラント20はpHセンサ58を含む。
【0099】
図12に示す別の実施形態では、インプラント20は蛍光センサ60を含む。
【0100】
図13に示す別の実施形態では、インプラント20はバイオマーカーチップ62を含む。
【0101】
図14に示す別の実施形態では、インプラント20は、水準器等のインプラント20の配置を計測するための方位検出器64を含む。
【0102】
インプラント20が上述のペイロードのうちの1つのみを坦持する必要はない。インプラント20は、上述のセンサのいずれかの組み合わせを担持してもよい。
【0103】
異なる種類のキャリア22を有する他の種類のインプラント20を同様に中硬膜動脈10に埋め込んでもよい。
【0104】
例えば、図15に示す実施形態では、キャリア22は弛み線66であり、ペイロード24はその上に一定の間隔で配置されたノード68の形態をとる。固定具64は、アンテナ26と、動力源30と、電子機器28とを含む本体の側面に配置された第1および第2の環状の固定具34、36で構成される。固定具64は、ワイヤ66と連結することで、ノード列68を中硬膜動脈10に固定する。これにより、脳実質に非常に近い場所に確実に配置することができる。その結果、さらに高い信号対雑音比で脳実質と電気的に相互作用することが可能になる。
【0105】
いくつかの実施形態において、ノード68は脳から発せられる信号を記録する、または、脳の刺激を行うために信号を印加するのに用いられる神経インプラントとして機能するセンサ電極である。インプラントを配置するので、そのような刺激は表面刺激を含む。しかし、インプラントに近接する脳の中間層において刺激を実行すること、さらには、位相配列刺激法等で脳への深い刺激を実行することにおいて、インプラントの使用を妨げるものはない。
【0106】
ノード68で受信された信号は脳の状態に関する情報を含んでいる。好適なコンピュータ回路に設けられた場合、そのような信号は、患者の特定の状態、または特定の精神疾患があることを判断する基準となりうる。例えば、信号の空間的および時間的変動の特定のパターンは、鬱病等の感情障害と関連する場合がある。
【0107】
反対に、ノード68は電圧を印加するのに用いることができ、それによって制御された方法で脳の領域を刺激できる。これによって、神経療法値を有する刺激のパターンを発見また推測することによって、鬱病、てんかん、麻痺等の精神疾患を治療できる可能性が生じる。
【0108】
さらに別の実施形態では、ノード68は化学的センサである。さらに別の実施形態では、上述の両方の組み合わせを含む。
【0109】
関連回路28によってノード68を制御できる。さらに関連回路28は、図3および図4に関連して説明するように、アンテナ26を経由したコントローラ32との通信に対応する。
【0110】
図16は、図15に示したものと同様であるが、ワイヤ66の第1の端部に設けられた第1の固定具64と、ワイヤ66の第2の端部に設けられた固定具70とを備えた実施形態を示す。これによって、ワイヤ66の両端部が固定される。
【0111】
以上、本発明およびその好ましい実施形態を説明したが、新規であり特許証により保護されると主張するものは以下の通りである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16