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特許7344227取り外し可能な一体のインジェクターを備えたICP分光器トーチ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】取り外し可能な一体のインジェクターを備えたICP分光器トーチ
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/26 20060101AFI20230906BHJP
   G01N 21/73 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
H05H1/26
G01N21/73
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020568747
(86)(22)【出願日】2019-06-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-11
(86)【国際出願番号】 US2019036521
(87)【国際公開番号】W WO2019241226
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-06-06
(31)【優先権主張番号】62/683,685
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】399117121
【氏名又は名称】アジレント・テクノロジーズ・インク
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】スパークス,ルーク
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-028232(JP,A)
【文献】米国特許第05272308(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0175871(US,A1)
【文献】米国特許第05186621(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0016571(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0381777(US,A1)
【文献】特表2018-519637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
G01N 21/73
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一致した中心軸を有し実質的に入れ子になった円筒形の内側チューブおよび外側チューブを含み、前記内側チューブは終端を有するものであるチューブサブアセンブリと、
前記内側チューブ内において少なくとも部分的に延び、バンプと、入口と、出口と、前記内側チューブおよび前記外側チューブの前記中心軸と一致した中心軸とを有する取り外し可能なインジェクターと、
前記インジェクターの一部を収容するためのチャネルを有するシールと、
前記チューブサブアセンブリと、前記インジェクターと、前記シールとを支持するためのベースと
を有するトーチであって、
前記シールは内部溝を有し、前記内部溝において前記インジェクターの前記バンプを弾性的に捕捉して、前記インジェクターの軸方向の位置のずれを防ぎ、前記内側チューブの前記終端と前記インジェクターの前記出口との間にある一定のギャップを維持するものである、トーチ。
【請求項2】
前記シールは、前記内部溝を画定する複数の可撓性フィンガーを有する、請求項1に記載のトーチ。
【請求項3】
前記可撓性フィンガーの動きを制限することによって、前記インジェクターのバンプの動きを防止し、前記ベース内に前記インジェクターを保持するスクリューを更に備える請求項2に記載のトーチ。
【請求項4】
前記可撓性フィンガーは、その上を前記スクリューが通過しやすくするための内向きに傾斜した端部を有する、請求項3に記載のトーチ。
【請求項5】
前記ベース内に配置され、前記スクリューのねじ山と嵌合するためのねじ山と、前記ベース内に保持するためのバーブとを有するインサートを更に備える請求項3に記載のトーチ。
【請求項6】
前記インジェクターは、前記出口の方向にテーパ形状を有する、請求項1に記載のトーチ。
【請求項7】
前記インジェクターの材料が石英である、請求項1に記載のトーチ。
【請求項8】
前記外側チューブが、前記外側チューブを通って点火火花を伝達するためのオリフィスを含む、請求項1に記載のトーチ。
【請求項9】
前記オリフィスが、複数の微細な穴のパターンである、請求項8に記載のトーチ。
【請求項10】
一致した中心軸を有し実質的に入れ子になった円筒形の内側チューブおよび外側チューブを含み、前記内側チューブは終端を有するものであるチューブサブアセンブリと、
前記内側チューブ内において少なくとも部分的に延び、位置合わせ特徴部と、入口と、出口と、前記内側チューブおよび前記外側チューブの前記中心軸と一致した中心軸とを有する取り外し可能なインジェクターと、
前記インジェクターの前記位置合わせ特徴部を弾性的に捕捉するための少なくとも1つの可撓性フィンガーを有するシールと、
前記チューブサブアセンブリと、前記インジェクターと、前記シールとを支持するためのベースと
を有するトーチであって、
前記シールは、前記インジェクターの前記位置合わせ特徴部と係合する相補的特徴部を有し、前記インジェクターの軸方向の位置のずれを防ぎ、前記内側チューブの前記終端と前記インジェクターの前記出口との間にある一定のギャップを維持するものである、トーチ。
【請求項11】
前記位置合わせ特徴部はバンプである、請求項10に記載のトーチ。
【請求項12】
前記少なくとも1つの可撓性フィンガーは相補的特徴部を含み、前記相補的特徴部において前記インジェクターの前記位置合わせ特徴部を弾性的に捕捉する、請求項10に記載のトーチ。
【請求項13】
インジェクターと、
チューブサブアセンブリと、
前記インジェクターの一部を収容するためのチャネルを有するシールと、
前記チューブサブアセンブリと、前記インジェクターと、前記シールとを支持するためのベースと、
前記ベース内に配置され、クリューのねじ山と嵌合するためのねじ山と、前記ベース内に保持するためのバーブとを有するインサートと、
を有している、トーチ。
【請求項14】
実質的に入れ子になった円筒形の内側チューブおよび外側チューブを含む、チューブサブアセンブリを有し、前記外側チューブを通って点火花火を伝達するための複数の微細な穴を有している、トーチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に分析機器で使用されるトーチに関する。
【背景技術】
【0002】
誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma,ICP)発光分光分析(optical emission spectrometry, OES)タイプなどの分析機器では、トーチを使用して、対象の化学元素を制御されたプラズマ中に導入し、そのスペクトルやその他の特性を分析している。そのようなICPトーチの概略図が図1に示されている。このICPトーチは、通常溶融石英で作られた3つの同心チューブ10、11および13で構成される。チューブ13は、3つのチューブのうち最も外側にある。チューブ11は中間のチューブであり、より大きな直径の部分12を備えていてよく、設計によってはこの部分がチューブ11の全長にわたって延びていてもよい。部分12の目的は、ガス入口15を通って供給されるプラズマ形成ガス(通常はアルゴン)が通過するための、チューブ11とチューブ13との間の狭い環状のギャップを提供することにある。この狭いギャップによって、ガスに望ましい高速が与えられる。高周波誘導コイル16には、電源(図示せず)から高周波電流が供給される。プラズマ17は、ガス入口15を通って入ってくるガスに高電圧スパークを瞬間的に印加する(当技術分野で公知の手段による、図示せず)ことによって開始される。プラズマ17は、コイル16によって生成された高周波電磁場のプラズマとの誘導結合によって維持される。小流量のガスが、ガス入口14を通ってチューブ11、12に供給される。これは、チューブ11、12および10の端部19が過熱しないように、チューブ11、12および10の近くの端部19からプラズマ17を適切な距離に保つ役割を果たす。
【0003】
誘導結合プラズマの代わりにマイクロ波誘導プラズマを使用する場合は、コイル16は存在せず、トーチ9はマイクロ波電磁場をトーチに印加するための手段に適切に関連したものになるであろう。例えば、マイクロ波エネルギーが供給される共鳴空洞内にトーチ9を適切に配置してもよい。
【0004】
図1は、3つのチューブが恒久的に融合されているトーチ9を示しているが、当技術分野では、3つのチューブ10、11および13がそれらの必要な位置に保持され、チューブ10、11および13のうち1つまたは複数を取り外して交換できる機械的装置を提供することが知られている。
【0005】
分析のためのサンプルエアロゾルを担持するガスの流れ(図示せず)は、公知の手段(図示せず)によって、プラズマから離れたチューブ10の端部(すなわち、チューブの入口33)に導入される。チューブ10はインジェクターと呼ばれることもある。エアロゾルを含んだガスは、プラズマ17に隣接するチューブ10のもう一方の端部(すなわち、出口35)から、プラズマ17を通過するのに十分な速度で出てくる。チューブ10から出てくるガスおよびエアロゾルが、プラズマ17を通過することにより、プラズマ17中に中央チャネル18が形成される。チューブ10の出口35から中央チャネル18に通過するエアロゾル液滴は、プラズマ17の熱によって逐次的に乾燥され、溶融し、気化する。気化したサンプルは続いて、プラズマ17の熱によって原子とイオンに変換され、これらの原子とイオンは、プラズマ17の熱によって励起され放射線を放出する。当技術分野で知られているように、励起された原子およびイオンによって放出された放射線は、発光分光分析による分光分析に使用することができる。さらに、中央チャネル18中のイオンは、質量分析による分析に使用できることも当技術分野では知られている。
【0006】
チューブ10の出口35から出てくるエアロゾルが、プラズマ17に効果的に浸透して中央チャネル18を形成できるように、出口35に隣接するチューブ10の少なくとも一部を通る狭い平行壁経路を提供して、そこを通る流れが実質的に層状となるようにすることが知られている。図1では、そのような狭い平行壁経路が、チューブ10の全長に延びることが示されている。しかしながら、高レベルの溶解性固形物を含むサンプルから生成されたエアロゾルがチューブ10に導入された際、そのような長くて狭い経路または毛細管は、エアロゾルから堆積した塩によって容易に妨害されることも知られている。さらに実際のところ、インジェクターをガス供給源に連結し、トーチアセンブリ内に配置して位置合わせするために、従来のトーチの中には、ベースに挿入してからトーチ本体内に取り付けるインジェクターを使用するものもある。そのようなトーチの構成が図2に示されている。ここでは、2つの同心の石英チューブ11および13からなるトーチ本体24であって、その近位端部分25がトーチベース20の一部を取り囲んでいるトーチ本体24内において、インジェクター10を保持するためにトーチベース20が使用される。Oリング26はベース20に収容され、インジェクター10を取り囲んでいる。Oリング26は取り外し可能であるが、一部の用途では位置合わせとガスシールの提供のために使用される。従来技術の装置のいくつかの欠点は、凹空間が形成され、物質が蓄積して汚染のキャリーオーバーの影響につながる可能性があることである。分析上の影響に加えて、インジェクターはトーチベース20に機械的に挿入され、インジェクター10の位置はユーザーによって手動で設定される必要がある。これらおよびその他の理由から、トーチを定期的に分解して、その構成要素、特にインジェクターを、清掃およびメンテナンスすることが望ましい。このようなメンテナンスに続いて、トーチの再組み立ての際には細心の注意を払う必要があり、インジェクターとその他の構成要素の正確な再位置合わせが達成されなければならない。不適切で不正確な再組み立てと再位置合わせは、トーチとその構成要素、およびトーチを取り付ける機器の急速な劣化と溶融、および誤った読み取り値や分析結果につながる可能性がある。
【発明の概要】
【0007】
本明細書では、一致した中心軸を有し実質的に入れ子になった円筒形の内側チューブおよび外側チューブを有し、該内側チューブは終端を有するものであるチューブサブアセンブリと、内側チューブ内において少なくとも部分的に延び、バンプと、入口と、出口と、内側チューブおよび外側チューブの中心軸と一致した中心軸とを有する取り外し可能なインジェクターと、該インジェクターの一部を収容するためのチャネルを有するシールと、該チューブサブアセンブリと、該インジェクターと、該シールとを支持するためのベースとを有するトーチが記載されている。シールには、インジェクターのバンプを捕捉するための内部溝があり、インジェクターの軸方向における位置のずれを防ぎ、内側チューブの終端とインジェクターの出口との間にある一定のギャップを維持する。
【0008】
また、本明細書には、一致した中心軸を有し実質的に入れ子になった円筒形の内側チューブおよび外側チューブを含み、該内側チューブは終端を有するものであるチューブサブアセンブリと、内側チューブ内において少なくとも部分的に延び、入口と、出口と、内側チューブおよび外側チューブの中心軸と一致した中心軸とを有する取り外し可能なインジェクターと、該インジェクターを受け入れるための第1のチャネルと、該第1のチャネル内におけるインジェクターの軸方向位置を固定するための末端停止部と、バンプとを有するアダプターと、インジェクターの一部を収容するための第2のチャネルを有するシールと、該チューブサブアセンブリと、該アダプターと、該シールとを支持するためのベースとを有するトーチが記載されている。シールには、アダプターのバンプを捕捉するための内部溝があり、インジェクターの軸方向における位置のずれを防ぎ、内側チューブの終端とインジェクターの出口との間にある一定のギャップを維持する。
【0009】
また、本明細書には、一致した中心軸を有し実質的に入れ子になった円筒形の内側チューブおよび外側チューブを含み、該内側チューブは終端を有するものであるチューブサブアセンブリと、内側チューブ内において少なくとも部分的に延び、位置合わせ特徴部と、入口と、出口と、内側チューブおよび外側チューブの中心軸と一致した中心軸とを有する取り外し可能なインジェクターと、該インジェクターの一部を収容するためのチャネルを有するシールと、該チューブサブアセンブリと、該インジェクターと、該シールとを支持するためのベースとを有するトーチが記載されている。シールは、インジェクターの位置合わせ特徴部と係合する相補的特徴部を有しており、インジェクターの軸方向における位置のずれを防ぎ、内側チューブの終端とインジェクターの出口との間にある一定のギャップを維持する。
【0010】
記載された装置の利点として、トーチのインジェクターを単一の部品として維持することで、サンプルが蓄積して汚染につながる可能性が排除され、組み立ておよび分解に必要なステップ数が減り、インジェクターチップの配置および位置合わせをする能力が改善されることが挙げられる。一つの利点は、一体として取り外し清掃できる単一片のインジェクターを提供できることである。これにより、必要な嵌合部分を削減できるので、漏れや汚染のキャリーオーバーの可能性を低減できる。ICP分光法で使用される化学物質によっては、特に漏れが非常に危険となる場合がある。記載された装置では、先端の高さ、および側方から側方への並進に関して固定されたインジェクター位置が提供される。高さ制御および安全保持特徴部は、インジェクターに直接組み込まれている。これに対して、従来の解決策では、ユーザーがインジェクターをインジェクターベース内に至るまで押し込むことに依存している。これがユーザーエラーもしくは完全な挿入を妨げる異物により正しく行われない場合、インジェクターはプラズマ中でより高位となり、非常に早く損傷することになる。これに対して、ここで述べる装置では、インジェクター位置を高く設定しすぎてインジェクター/トーチが破壊される危険性は排除される。
【0011】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付の図面は、実施形態の1つまたは複数の例を示し、例示的実施形態の説明とともに、実施形態の原理および実施を説明する役割をする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】先行技術によるトーチの側面断面図である。
図2】先行技術によるトーチの側面断面図である。
図3】実施形態によるトーチの斜視図である。
図4図3のトーチの側面断面図である。
図5】実施形態によるチューブサブアセンブリの側面断面図を示す。
図5a】実施形態によるチューブサブアセンブリの側面断面図を示す。
図6a】実施形態によるインジェクターの図である。
図6b】実施形態によるインジェクターの図である。
図7】実施形態によるシールの異なる図を示す。
図7a】実施形態による、インジェクターの軸方向の並進を防止する際のシールフィンガーおよびバンプの作用を示す概略図である。
図8】実施形態によるインサートおよびスクリューの異なる図を示す。
図9】実施形態によるトーチの側面断面図である。
図10】実施形態によるアダプターおよびインジェクターの側面断面図を示す。
図10A】インジェクターがアダプターに締り嵌めされ、Oリングが排除されている実施形態である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で述べる例示的実施形態は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析(OES)タイプなどの分析機器で使用されるトーチに関するものであるが、他のタイプの分析機器で使用されるトーチもこの設計から利益を得ることができる。
【0014】
以下の記載は単なる例示にすぎず、限定することを意図したものではない。他の実施形態も、本開示の利益を受ける当業者にとっては明白であろう。添付の図面に示されている例示的実施形態の実施例が詳細に参照される。同じまたは同様の要素を指すために、図面および以下の記載全体を通して可能な範囲で同じ参照指標が使用される。
【0015】
以下の例示的実施形態の記載において、「1つの実施形態」、「一実施形態」、「一例の実施形態」、「いくつかの実施形態」等と言う場合、これは、説明される実施形態が特定の特徴、構造または特性を含むことができるが、あらゆる実施形態がその特定の特徴、構造、又は特性を必ずしも含んでいるとは限らない場合があることを示す。その上、そのような語句は必ずしも同じ実施形態を指しているとは限らない。さらに、特定の特徴、構造または特性が一実施形態に関して説明される場合、明示的に説明されているか否かを問わず、そのような特徴、構造、又は特性を他の実施形態に関して実施することが当業者の知識の範囲内にあることを述べておく。
【0016】
本明細書における単語「例示的(exemplary)」は、「例、実例、または例示の役割を果たすこと」を意味するように使用される。本明細書において「例示的」として説明される任意の実施形態は、必ずしも、他の実施形態に対して好ましい、または有利であると解釈されるべきではない。
【0017】
分かりやすくするため、本明細書に記載されている実施例の通例の特徴のうち全てが示され記載されているわけではない。そのような任意の実際の実施例の開発では、開発者の特定の目標を達成するために、用途やビジネスに関わる制約への準拠など、実施例固有の多数の決定を行う必要があり、これらの特定の目標は、実施例ごとおよび開発者ごとに異なることが理解されるだろう。さらに、そのような開発努力は複雑で時間を要するものかもしれないが、それでも本開示の利益を受ける当業者にとって日常的なエンジニアリングの作業であることが理解されるであろう。
【0018】
図3は、1つの実施形態における誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析(OES)タイプなどの分析機器での使用に適したトーチ30の斜視図である。トーチ30は通常、取り外し可能な一体のインジェクター32と、チューブサブアセンブリ34と、べース36とを備える。これらの構成要素は、中心軸Aの周りに同心円状に配置される。
【0019】
図4は、トーチ30の側面断面図である。インジェクター32は用途に応じて、石英、アルミナ、セラミック、または他の材料であり得るが、ガス入口21およびガス出口35を備えた、中空で略細長のテーパ形状を有するものとして示されている。このインジェクターはベース36内でシール40内に着座している。シール40は部分的にインサート42によって囲まれており、このインサートは、その近位端でスクリュー44と嵌合するようにねじが切られている。1つの実施形態では、オーバーモールド51はゴム製であってよく、ベース36を部分的に囲むように備えられる。1つの実施形態では、ベース36は射出成形プラスチックであってよい。
【0020】
インジェクター32の遠位部分を同心円状に取り囲むのはチューブサブアセンブリ34であり、内側チューブ46および外側チューブ48を備え、1つの実施形態において、これらは軸方向の固定された配置で溶接されている。1つの実施形態では、チューブ46および48の材料は石英である。モールディング23および25は、ガスシールを提供し、外側チューブサブアセンブリ34の位置決めや保持を助けており、この外側チューブサブアセンブリは摩擦干渉によって所定の位置に保持される。内側チューブ46は、ガス出口35を少しの距離を超えて終端する拡大された遠位部分47を有し、前記距離はギャップ41として定義される。外側チューブ48は、内側チューブ46の終端43をさらに超えたところで終端する。図5にさらに詳しく示されるように、第1のガスは、ベース36の貫通孔46A(図4)およびチューブ開口46B(図5)を通って内側チューブ46に入る。第2のガスは、ベース36の貫通孔48A(図4)および側方スロット開口48B(図5)を通って外側チューブ48に入る。操作中、チューブ壁を介する点火火花の伝達を容易にするために、外側チューブ48には、外側チューブの壁を貫通するオリフィス48Cがある。オリフィス48Cは、点火火花の通過を可能にしつつ、チューブ48の壁を介する明らかなガスの漏れを制限するのに十分小さいサイズである。オリフィス48Cは、チューブの壁を貫通する1つまたは複数の微細な穴の形をとることができる。いくつかの実施形態において、これらの微細な穴はそれぞれ直径約0.1mmであってよい。複数のそのような微細な穴54のパターン形状のオリフィス48Cが図5aに示されている。
【0021】
図6aおよび6bは、インジェクター32の詳細図であり、このインジェクターは、それぞれが略一定の外径を有し、テーパ部分32cで結合された第1の部分および第2の部分32a、32bを備える。部分32aの外径は、部分32bの外径よりも小さい。インジェクター32の内部にはガス流路が画定されており、その形状はすなわち、部分32aにおける実質的に一定の内径が、部分32bにおける実質的に一定の内径よりも小さく、部分32cの結合テーパ部分を含む外観に実質的に一致する。しかしながら、1つの実施形態では、部分32bの内径は、入口21まで延びるより大きな一定の内径領域32dまで拡大する形状をとることができる。この例示的な装置における部分32cのテーパは、凝縮およびサンプル堆積の影響を低減するために使用される。1つの実施形態では、サンプル入口接続または配管(図示せず)への取り付けを容易にするために、入口21がボールジョイント32eを備えていてもよい。1つの実施形態では、インジェクター材料は石英である。
【0022】
インジェクター32は位置合わせ特徴部を有し、この例では、インジェクター材料と一体に形成され、例えば部分32bに外向きに延びる環状のバンプ50を有する。図7でより詳細に示されているが、部分32bがシールのチャネル39内に着座した際、このバンプ50はシール40のフィンガー52に捕捉される。図7aでさらに詳細に示されている、そのような捕捉によって、一体のインジェクター32をシール40内で正確に位置合わせすることが可能になり、このインジェクターは、石英チューブ46および48のようにベース36内の所定の位置に取り付けられ、位置合わせされる。フィンガー52は可撓性であり、内部溝53が画定されている。この内部溝はバンプ50を受け入れ、スクリュー44がインサート42にねじ込まれた際に、該スクリューの内部孔によって付与されるフィンガー52の制限により、該バンプを保持する。フィンガー52は、バンプ50の周りを部分的に取り囲み、湾曲し、図7aの両方向矢印Rによって示される軸方向のいずれの方向への並進を防ぐ。このようにして達成された正確な位置合わせによって、内側チューブ46の終端43に対して、インジェクター32の出口35の位置が軸方向に固定され、かつ、例えば清掃やメンテナンスのためにトーチ30を分解し再度組み立てた後、ギャップ41が確実に公称寸法に復元され、ギャップのさらなる調整が不要となる。いくつかの実施形態では、分解は、単にスクリュー44の取り外しおよびトーチ30からのインジェクター32の引き抜きを伴う。チューブサブアセンブリ34もまた、インジェクター32とは独立して取り外し可能である。さらに操作中は、ボールジョイント32eが外部に露出した状態で、トーチ30が機器内に垂直に取り付けられ、保持される。サンプル導入スプレーチャンバー(図示せず)は、ボールジョイント32eを介してトーチアセンブリ30に接続できる。上記のようにシール40内にインジェクター32が確実に捕捉されることで、トーチ30でスプレーチャンバの重量を支えることが可能になる。
【0023】
位置合わせ特徴部は、断面が半円形で、一体に形成されたバンプ50として示されているが、例えば、他のより小さい円形または楕円形の部分、または直線あるいは湾曲したランプ形状を含む他の形状が考えられる。さらに、バンプはインジェクターと一体に形成されなくてもよく、代わりに同じまたは異なる材料の別個の構成要素とすることができる。いくつかの実施形態では、シールのフィンガーに設けられたバンプなどの相補的特徴部と係合するように、バンプではなく凹部をインジェクターのシャフトに設けることで、インジェクターの保持および軸方向の位置合わせが同様に実現される。
【0024】
図7および図7aから分かるように、フィンガー52のそれぞれは、内向きに(中心軸Aに向かって)テーパが付された端部55を備えている。このテーパによって、スクリュー44がインサート42に挿入されねじ込まれた際に、スクリュー44の先端43がフィンガー52の上をフィンガー52に沿って通過しやすくなる。スクリュー44がインサート42に挿入されて締められると、スクリューの先端43がシール40に衝突してシール40を圧縮する。この圧縮力により、シールの凹部40Aがインジェクターシャフト部分32bの周りでつぶれて、ガスシールが確立される。この例において、加えられた力はフィンガー52を内側に変位させシール40を圧縮するものであり、スクリュー44によって提供されるものであるが、スクリューの代わりにバヨネット取り付け具などの他の機構が考えられることが理解されるであろう。1つの実施形態では、シール40は、そのフィンガー52のように、必要な柔軟性を付与するために、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)または同様の材料でできている。同時に、インジェクター30が石英チューブ46および48と同心となるように、かつこれらの構成要素の中心軸が実質的に一致した状態を保てるように保証できるほど、シール40は十分に硬い。
【0025】
図8により詳細に示されるように、スクリュー44はインサート42の雌ねじ部47と係合する雄ねじ45を有する。いくつかの実施形態では、スクリューをインサート42にねじ込む際のオペレーターによるグリップを改善するために、スクリューは楕円形の外形および/または粗面加工またはローレット加工された表面49を備えることができる。1つの実施形態では、スクリューはポリプロピレンでできており、シール40に作用する圧縮力をインサート42と協同で維持できるほど十分硬い。
【0026】
インサート42は環状のバーブ42Aを有しており、ベース36内に組み込まれた際、このバーブはショルダー36B(図4)に対して係合しつつ、環状の凹部36A内に係合して、インサートをベース内の所定の位置にロックする。これにより、ベース36内でインサート42とシール40を固定保持できる。バーブ42Aはまた、シール40を圧縮するスクリュー44から、インサート42を介してベース36に反力を伝達する。ベース36の隆起した鍵形体(図示せず)とインターフェースするいくつかのキー溝42Cを、インサート42は有する。この相互作用によって、ベース36内に取り付けられた後のインサート42の回転が防止され、スクリュー44のベース36への挿入によって生成された任意の回転トルクが変換される。例えば、初期の組み立て中にバーブ42Aからの内向きの力によって生じる圧力を緩和するために、1つまたは複数のスロット42Bをインサートに設けることができる。1つの実施形態では、インサート42はPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)でできており、シール40の圧縮によるベース36での永久的な保持が可能になるほどの十分な強度を有する。
【0027】
図9は、1つの実施形態によるトーチ60の側面断面図である。このトーチはインジェクター62を含んでおり、このインジェクターは用途に応じて、石英、セラミック、または他の材料であってよく、ガス入口61およびガス出口63を備えた、中空で略円筒形の形状を有する。インジェクター62はアダプター65内に着座し、アダプター65はベース36内のシール40に着座する。トーチ60の詳細は、アダプター65を必要とする別のインジェクター(62)がトーチ60で使用されることを除いては、トーチ30に関して上で説明したことと実質的に同じである。
【0028】
インジェクター62およびアダプター65は、図10により詳細に示されている。アダプター65は、アダプター材と一体に形成された環状のバンプ67の形状をした位置合わせ特徴部と、ボールジョイント69とを有する。チャネル71は、その中にインジェクター62を収容するために備えられる。このチャネルは、任意選択的にインジェクターが静止する末端停止部72を有していて、アダプター内でインジェクターの位置を軸方向に固定する。したがって、末端停止部72は、バンプ67と共に、インジェクター62の軸方向における位置合わせ、および上述したギャップ41の所望の寸法への制御を確実にする。いくつかの実施形態では、インジェクター62は、インジェクターの動きを防ぐ締り嵌めによってアダプター65に物理的に押し込まれ、任意選択的に末端停止部72の必要性は排除される。そのような構成が図10Aに示されている。
【0029】
流路75は、入口61でインジェクター62の内部77と連絡している。アダプターの周りにある同心のOリング69Aによってチャネル71の直径が減少し、取り付けられた際のインジェクター62の周りの放射状のガスシールが容易になる。いくつかの実施形態では、Oリングを排除することができ、図10に示されているように、材料の締り嵌めによってシーリングが達成される。1つの実施形態では、インジェクター62が有するテーパが形成されていない円筒形の形状およびアルミナ組成によって、フッ化水素酸を含むサンプルの不活性インジェクターとして、インジェクター62は特に有用となる。1つの実施形態では、アダプター65の材料はPTFEであり、これもまたフッ化水素酸を含むサンプルに対する耐薬品性を提供する。
【0030】
実施形態および用途が示され説明されているが、本開示の利益を受ける当業者にとって、本明細書に開示される本発明の概念から逸脱することなく、上記よりもはるかに多くの改変が可能であることは明らかであろう。したがって、本発明は、前述の説明に基づいて制限されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図5a
図6a
図6b
図7
図7a
図8
図9
図10
図10A