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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】バイオセパレーションのための複合材料
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20230906BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20230906BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20230906BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20230906BHJP
   B01D 15/08 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
B01J20/26 H
C07K1/22
B01J20/26 L
B01J20/30
B01D15/08
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020570635
(86)(22)【出願日】2019-03-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-08
(86)【国際出願番号】 EP2019055384
(87)【国際公開番号】W WO2019170635
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-10-23
(31)【優先権主張番号】18160019.8
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520341304
【氏名又は名称】キラル テクノロジーズ ヨーロッパ エスアーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン,トン
(72)【発明者】
【氏名】フランコ,ピラール
(72)【発明者】
【氏名】森下 康人
(72)【発明者】
【氏名】ゴットシャル,クラウス
【審査官】柴田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-528312(JP,A)
【文献】特開2009-053191(JP,A)
【文献】国際公開第2018/050849(WO,A1)
【文献】特表2013-500291(JP,A)
【文献】特表2006-521433(JP,A)
【文献】DRAGAN S. Ecaterina,“Cross‐Linked Multilayers ofPoly(vinyl amine) as a Single Component and Their Interaction with Proteins”,Macromolecular RapidCommunications,Vol.31,No.3,2010年,P.317-322
【文献】ヴェルナーJ. アウホン,ほか2名,“ポリビニルホルムアマイド/ポリビニルアミン-新世代の製紙用薬品-”,表面化学,Vol.50,No.2,1996年,P.306-312
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/26
C07K 1/22
B01J 20/281
B01J 20/30
B01D 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均孔径が5~500nmである多孔性支持体であって、架橋されたポリマーが充填されている、多孔性支持体を含む複合材料であって、
前記ポリマーは、重量平均分子量(Mw)が2,000~500,000Daであり、前記重量平均分子量(Mw)が数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)において1.2~1.3であり、ホルムアミド基の加水分解度が68%~99%であるポリビニルアミン又はポリアリルアミンから選択され、前記重量平均分子量は、多角度光散乱及び示差屈折率検出器を連結したサイズ排除クロマトグラフィーを使用して決定されたものであり
前記架橋に用いられる架橋剤が、プロパンジオールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グルタルジアルデヒド及びコハク酸ジアルデヒドから選択され、
但し、重量平均分子量(Mw)が27,200であり、且つ加水分解度が70%であるポリビニルアミン及び重量平均分子量(Mw)が50,000であり、且つホルムアミド基の加水分解度が95%であるポリビニルアミンは除く、複合材料。
【請求項2】
前記多孔性支持体は、平均粒子径が1μm~500μmである粒子状材料である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記多孔性支持体材料は、多孔性シリカゲルである、請求項1又は2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記ポリビニルアミンは、ビニルアミンの直鎖若しくは分岐ホモポリマー又はビニルアミン及びビニルホルムアミドのコポリマーである、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項5】
架橋されたポリマーの濃度は、乾燥した前記複合材料の総重量を基準として少なくとも3%w/wである、請求項1~4のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項6】
a)平均孔径が5~500nmである多孔性支持体を、ポリマー、架橋剤及び溶媒を含む溶液又は分散液に浸す工程;及び
b)前記ポリマーを250℃未満の温度で前記架橋剤により架橋する工程
を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の複合材料の製造方法であって、
前記ポリマーは、重量平均分子量(Mw)が2,000~500,000Daであり、前記重量平均分子量(Mw)が数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)において1.2~1.3であり、ホルムアミド基の加水分解度が68%~99%であるポリビニルアミン又はポリアリルアミンから選択され、前記重量平均分子量は、多角度光散乱及び示差屈折率検出器を連結したサイズ排除クロマトグラフィーを使用して決定されたものであり
前記架橋剤が、プロパンジオールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グルタルジアルデヒド及びコハク酸ジアルデヒドから選択され、
但し、重量平均分子量(Mw)が27,200Daであり、且つホルムアミド基の加水分解度が70%であるポリビニルアミン及び重量平均分子量(Mw)が50,000Daであり、且つホルムアミド基の加水分解度が95%であるポリビニルアミンは除く、
方法。
【請求項7】
前記溶媒は、水、アルコール、エーテル及びケトン又はこれらの混合物から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項8】
供給原料中の目的タンパク質を精製するための、請求項1~のいずれか一項に記載の複合材料の使用。
【請求項9】
前記目的タンパク質はモノクローナル抗体である、請求項に記載の使用。
【請求項10】
供給原料中の目的タンパク質の精製方法であって:
i)前記供給原料を請求項1~のいずれか一項に記載の複合材料と十分な時間接触させる工程;
ii)精製された前記供給原料から前記複合材料を分離する工程
を含む、方法。
【請求項11】
iii)前記目的タンパク質を前記供給原料から単離する工程、をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
iv)前記複合材料を溶媒で洗浄し、得られた溶液を更なる処理のために回収する工程、をさらに含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記目的タンパク質はモノクローナル抗体である、請求項1012のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記接触の時間は少なくとも1分間である、請求項1013のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記供給原料は、宿主細胞由来タンパク質(HCP)及びDNAを含む、請求項1014のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的供給原料(biological feedstock)から得られるタンパク質の精製に有用な複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの治療及び診断用途において、タンパク質をバイオ医薬品として使用することの妥当性は、ここ数十年間で高まる一方である。特に関心が寄せられている分野の一つが組換えモノクローナル抗体(mAb)の使用である。炎症性疾患、糖尿病、各種がん及び血液疾患の治療に承認される治療用mAb及びその断片の数は年々増加している。
【0003】
mAbの初回の単回投与量は、多くの場合、その薬物動態特性により、患者一人当たり約0.1~1gの範囲とすることが必要であり、その後、同等の用量が毎週又は毎月投与される。そのため、多量の治療用mAbが必要となる。つまり、治療用mAbは工業規模で製造しなければならない。mAbは、発酵ブロス(濾過液)や細胞培養液等の生物学的供給原料で製造されるが、分泌される組換え抗体の発現量及びその不純物含有量は様々である。
【0004】
医薬品としての適格性が認められるためには、目的タンパク質は、回収後(例えば、細胞培養液中に分泌された目的タンパク質から細胞又は細胞片を回収した後)の細胞培養液上清又は濾液中に必ず含まれている、生成物由来又は製造工程由来不純物を基本的に含んでいてはならない。これらの夾雑物は、遺伝子組替え宿主由来タンパク質及び核酸(DNA及びRNA)、例えば、チャイニーズハムスター卵巣宿主由来タンパク質(CHO-HCP)又はDNA(CHO-DNA)のみならず、残存している、栄養素として添加されたタンパク質又は安定剤(例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)又はトランスフェリン)をはじめとした細胞培養液添加物、塩、緩衝剤に加えて、エンドトキシン及び病原菌又はその断片も含んでいる。
【0005】
目的タンパク質を精製するための公知の方法には、適切な膜濾過工程による(例えば、高強度のイオン交換膜に結合させることによる)、ウィルス、エンドトキシン及びある程度の核酸の除去、並びにダウンストリーム工程(Downstream Processing)(DSP)で行われる後段の単位操作における低分子量水溶性夾雑物の除去が含まれる。しかしながら、広範囲に亘る様々なHCPを完全に除去することは困難な作業であり、これまでは主として、複数の専用の分取クロマトグラフィー工程を適用することによって対応されてきた。
【0006】
mAb及び他の組換えタンパク質製品のDSPにおいて使用されるクロマトグラフィーによる精製方法には、アフィニティークロマトグラフィー、陽イオン及び陰イオン交換、疎水性相互作用並びに金属キレートアフィニティーが含まれる。更に最近になって、様々なマルチモード及び偽アフィニティー(pseudo-affinity)クロマトグラフィー媒体が利用できるようになり、各製造プロセスにおける用途、例えば、イオン交換又はアフィニティークロマトグラフィー工程後の生成物をポリッシングするための用途が見出されている(欧州特許出願公開第1807205(A)号)。現在適用されているクロマトグラフィー方法には、通常、2種の古典的なクロマトグラフィー方式が用いられている:1つは連続溶出クロマトグラフィープロセスに基づくものであり、もう1つは「結合溶出」概念に基づくものである。
【0007】
これらのクロマトグラフィー分離方法に共通する原理は、様々なクロマトグラフィー媒
体が、生物学的試料の1種以上の成分に対し選択的吸着能を有していることにある。したがって、結合していない(又は弱く結合する)成分は、(より)強力に結合している成分から分離し、対応するブレークスルー画分に出現する。また、結合している成分を互いに分離できるようにするためには、個々の成分を選択的に脱着させる、体積及び時間に応じて変化する条件が得られるように、イオン強度、pH又は特定の置換物質(displacer)の濃度を増加又は減少させて、連続的又は段階的勾配を形成することによって溶出条件を調整することが多い。
【0008】
利用可能なクロマトグラフィー方法の中でも、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、生産性が低く、分解能が低く、且つ速度が遅いことから、ポリッシング目的を除いて、大規模操作に有用ではないと考えられている。それとは対照的に、工業的なmAbのクロマトグラフィー精製のプラットフォームに最も広く使用されている第1工程の1つが、「捕捉」又は「結合溶出」親和性機構に基づくものである。この種のプロセスは、目的化合物を結合(「捕捉」)させることを含む一方で、望ましくない生成物の大部分を結合しないままであるか、或いは、結合した不純物を目的物質よりも先又は後に遊離させる選択的溶出工程により分離してもよい。この種の結合溶出プロセスの代表例には、Protein Aを使用するものが含まれれる。
【0009】
mAbのアフィニティー精製においては、目的タンパク質がクロマトグラフィー材料に非常に強固に結合することを容易にする条件下で、免疫グロブリンは、固定化されたProtein Aに特異的に結合し、一方、HCP及び他の不純物の大部分は結合しないままである。したがって、未結合成分を洗い流した後、カラムに適切な酸性緩衝液を流して各カラムのpHを中性付近から幾分酸性の条件(例えば、pH3)に変化させることにより、結合している免疫グロブリンを遊離させることができる。理論上、Protein Aは、別個の遺伝的に保存されている抗体分子の構造モチーフに結合する選択性が極めて高く且つ特異的であることから、この工程の後に回収される免疫グロブリン生成物は完全に純粋となるはずである。しかし、実際に実用されている製造プロセスにおいては、多くの副次的な作用がこの完璧な1段階精製を妨げる。その中でも、残存HCPが、Protein Aに、クロマトグラフィーマトリクス材料に、又は免疫グロブリンにさえ結合して、同時に溶出することが観測されている。更に、微量のProtein A及びその分解物の漏出も起こり得、特に、抗体の安定化に適したpH範囲に戻すために必要な、急速なpH調整を行った後に、目的タンパク質に再び結合する可能性もある。免疫グロブリンをProtein Aクロマトグラフィーの特定のプロセス条件に曝すことも、内在タンパク質の不安定性に起因して、例えば、凝集物の形成、タンパク質分解による一部の分解及び他の有害作用により、ある程度の不可逆な生成物の損失を促す可能性がある。
【0010】
したがって、医薬品用抗体製品に関し規定されている高水準の純度を達成するために、追加の精製工程が必ず必要となる。イオン交換法及び様々なマルチモードクロマトグラフィー法を含むこうした工程を行うことは、HCP及び核酸の量を更に低減すると共に、タンパク質凝集物及びより分子量の小さい抗体分解物を除去するために必要である。そのような精製工程は、生成物の収率を更に低下させる原因となり、また、全体の製造プロセスに、費用が嵩む作業及び時間のかかる労力を追加する。したがって、不純物の大部分を1段階の処理で除去することができる技術が求められている。
【0011】
mAb及び他のタンパク質を精製するために複合吸着材を利用する多くの方法が知られている。これらの方法において、複合吸着材は、通常、クロマトグラフィーカラムに充填される。
【0012】
国際公開第95/025574号には、生物学的流体(biological fluid)から夾雑物を除去するための方法が開示されており、これは、多孔性無機酸化物マ
トリックスを覆っているが、共有結合はしていない、架橋された疎水性高分子の網目(前記疎水性の網目によって、内部の空孔容積が実質的に充填されている)に、前記生物学的流体を接触させることを含み、それによって、平均分子質量が10,000Da未満である疎水性及び両親媒性分子が除去される。
【0013】
米国特許第6,783,962(B1)号は、生体高分子の単離/精製に有用な粒子状材料に関する。この粒子状材料は密度が少なくとも2.5g/mLであり、粒子状材料の粒子は平均径が5~75μmであり、粒子状材料の粒子は基本的に高分子ベースマトリックス及び非多孔性の芯材から構成されており、前記芯材は密度が少なくとも3.0g/mLである。高分子ベースマトリックスは、pH4.0で正に帯電しているか又は生体分子の親和性リガンドである側基を含む。
【0014】
国際公開第2004/073843号は、複数の孔を有する支持部材及び支持部材の孔に充填されているマクロ孔を有する架橋ゲルを含む複合材料を開示している。生物学的分子又は生物学的イオンを液体から吸着するためのプロセスも開示されており、これは、生物学的分子又は生物学的イオンを含む液体を、マクロ孔ゲル上に生体分子と特異的に相互作用する結合部位を有する複合材料に通過させることを含む。
【0015】
欧州特許出願公開第2545989(A)号には、多孔性支持体及び多孔性支持体表面上の架橋されたポリマーを含む、クロマトグラフィー用途のための複合材料が開示されており、多孔性支持体の孔径(pore size)[nm]及び架橋ポリマーの架橋度[%]の比は0.25~20[nm/%]であり、架橋ポリマー中の架橋性基の総数を基準とする架橋度は5~20%である。
【0016】
国際公開第2018/050849号には、孔径が25nmである多孔性シリカゲルと、平均分子量が27,200Daであり、加水分解度が70%(実施例1)である架橋されたポリ(ビニルホルムアミド-co-ポリビニルアミン)とを含む複合材料の調製が開示されている。当該文書の概要項には、平均分子量が50,000Daであり、95%まで加水分解されたポリビニルアミンについても述べられている。
【0017】
米国特許出願公開第2017/304803A号には、ポリビニルアミン等のアミノ基を含むポリマーで被覆された多孔性支持材料を含む収着材が開示されている。しかしながら、この参考文献には、ホルムアミド基の加水分解度が少なくとも66%であるポリビニルアミンについては述べられていない。
【0018】
Dragan,E.S.et al.,Macromol.Rapid Commun.,2010,vol.31,pp.317-322には、架橋されたポリビニルアミンで被覆された、平均粒子径が15~40μmであり、最大孔径が4~6nmの範囲にあるシリカ微粒子を含む複合材料の製造が記載されている。この参考文献には、シリカ内部の孔には高分子鎖が到達できないことが教示されている。
【0019】
欧州特許出願公開第2027921(A)号には、第1外面及び第2外面と、それらの間の多孔性厚みとを有し、両面が多孔性である基材を含む、多孔性収着性媒体が記載されており、前記基材は、基材の中実(solid)マトリックス並びに前記第1及び第2該面を実質的に覆っている収着性材料を有し、前記収着性材料は、1級アミン基が結合している架橋ポリマーを含む。この参考文献においては、粒子状材料の基材については述べられていない。
【0020】
本発明は、生体分子の精製における既存の技術の限界を克服するべく設計された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、mAb等のタンパク質を含む生物学的供給原料からの該タンパク質の精製を向上する複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の目的は、添付の請求項1に記載の複合材料によって達成される。
【0023】
具体的には、本発明は:
平均孔径が5~500nmである多孔性支持体であって、架橋されたポリマーが充填されている、多孔性支持体を含む複合材料であって、
このポリマーは、重量平均分子量(Mw)が2,000~500,000Daであり、ホルムアミド基の加水分解度が少なくとも66%であるポリビニルアミン又はポリアリルアミンから選択され、
但し、重量平均分子量(Mw)が27,200であり、且つ加水分解度が70%であるポリビニルアミン及び重量平均分子量(Mw)が50,000であり、且つホルムアミド基の加水分解度が95%であるポリビニルアミンは除く、
複合材料を提供する。
【0024】
驚くべきことに、ここに特定の多孔性支持体を特定の架橋されたポリマーと組み合わせることにより、精製能力が向上した複合材料が得られることが見出された。
【0025】
本発明は、溶液又は懸濁液中に含有されている望ましくない化合物から目的タンパク質を精製するための複合材料を提供する。この複合体は、製造されたmAb等のバイオ医薬品から不純物を効率的に除去するのに特に適しており、清澄化やダウンストリーム精製工程(DSP)に容易に統合することができる。
【0026】
この複合材料は、好ましくは、タンパク質製造時に得られるタンパク質含有溶液からDNA及びHCPを同時に除去(deplete)することができると共に、非常に高いタンパク質回収率を達成することもできる。
【0027】
本発明はまた、
a)平均孔径が5~500nmである多孔性支持体を、ポリマー、架橋剤及び溶媒を含む溶液又は分散液に浸す工程;及び
b)ポリマーを250℃未満の温度で架橋剤により架橋する工程
を含む、複合材料の製造方法であって、
ポリマーは、重量平均分子量(Mw)が2,000~500,000Daであり、ホルムアミド基の加水分解度が少なくとも66%であるポリビニルアミン又はポリアリルアミンから選択され、
但し、重量平均分子量(Mw)が27,200Daであり、且つホルムアミド基の加水分解度が70%であるポリビニルアミン及び重量平均分子量(Mw)が50,000Daであり、且つホルムアミド基の加水分解度が95%であるポリビニルアミンは除く、方法にも関する。
【0028】
更に、供給原料中の目的タンパク質を精製するための本発明の複合材料の使用も提供する。
【0029】
更に本発明は、供給原料中の目的タンパク質の精製方法であって:
i)供給原料を本発明の複合材料と十分な時間接触させる工程;
ii)精製された供給原料から複合材料を分離する工程;
iii)任意に、精製された目的タンパク質を供給原料から単離する工程;及び
iv)任意に、複合材料を溶媒で洗浄し、得られた溶液を更なる処理のために回収する工程
を含む、方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
複合材料
本明細書において、「複合体」、「複合材料」及び「吸着材」という語は互換的に使用される。
【0031】
本明細書において、「孔径」に言及する場合は常に「平均孔径」を意味する。
【0032】
多孔性支持材料の平均孔径は5nm~500nmである。上述又は後述の任意の実施形態と組み合わせて、平均孔径は、好ましくは15nm~300nm、より好ましくは20nm~200nm、更に好ましくは25nm~250nm、一層好ましくは30nm~200nm、最も好ましくは40nm~100nmである。本明細書における多孔性支持材料の平均孔径は、DIN 66133に準拠する水銀圧入により決定される。
【0033】
多孔性支持材料は、膜、中空繊維、不織布、モノリシックな材料又は粒子状材料であり得る。粒子状及びモノリシックな多孔性材料が好ましい。上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、多孔性支持材料は、不規則又は球状形状を有する粒子状多孔性支持材料である。
【0034】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた更なる好ましい実施形態において、多孔性支持材料は、金属酸化物、半金属酸化物、セラミック材料、ゼオライト又は天然若しくは合成のポリマー材料から構成される。
【0035】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた更なる好ましい実施形態において、多孔性支持材料は、多孔性シリカ、アルミナ又はチタニア粒子である。
【0036】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた更なる好ましい実施形態において、多孔性支持材料は、多孔性シリカゲルである。
【0037】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた更なる好ましい実施形態において、多孔性支持材料は、セルロース、キトサン、アガロース等の多孔性多糖類である。
【0038】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた更なる好ましい実施形態において、多孔性支持材料は、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリエーテルケトン、ポリアルキルエーテル(polyalkymether)、ポリアリールエーテル、ポリビニルアルコール若しくはポリスチレン又はこれらの混合物若しくはコポリマー等の多孔性合成ポリマーである。
【0039】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた更なる好ましい実施形態において、多孔性支持材料は、平均粒子径(particle size)(直径)が1μm~500μm、好ましくは20μm~200μmの間、より好ましくは30~150μmの間、最も好ましくは35~100μmの間にある粒子状材料である。
【0040】
本明細書における多孔性支持体の平均粒子径(直径)及び粒度分布は、Malvern
Laser Diffractionにより求められる。
【0041】
本明細書においては、特段の指定がない限り、「ポリマー」という語は架橋前のポリマーを指す。
【0042】
本明細書における「加水分解度」という語は、ポリマーのホルムアミド基の加水分解度を指す。
【0043】
本発明の複合材料は、架橋されたポリマーを含む。前記ポリマー(架橋前)は、重量平均分子量(Mw)が2,000~500,000Daであり、ホルムアミド基の加水分解度が少なくとも66%であるポリビニルアミン又はポリアリルアミンから選択される。
【0044】
本明細書において、ポリビニルアミン及びポリアリルアミンには、ビニルアミン又はアリルアミンの直鎖又は分岐ホモポリマー及びビニルアミン又はアリルアミンとアミノ基又はアミド基とのコポリマーが含まれる。
【0045】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、ポリビニルアミンは、ビニルアミンの直鎖若しくは分岐ホモポリマー又はビニルアミンとビニルホルムアミドとのコポリマーである。好ましくは、ビニルアミンとビニルホルムアミドとのコポリマーは、ビニルホルムアミド単位を、ポリマーの構造単位の総数を基準として、1%~70%、より好ましくは、ビニルホルムアミド単位を2%~40%、最も好ましくは、ビニルホルムアミド単位を5%~25%含む。上述又は後述の実施形態と組み合わせた更なる好ましい実施形態において、ポリアリルアミン(polyallyamine)は、アリルアミンの直鎖若しくは分岐ホモポリマー又はアリルアミンとアリルホルムアミドとのコポリマーである。好ましくは、アリルアミンとアリルホルムアミドとのコポリマーは、ポリマーの構造単位の総数を基準として、アリルホルムアミド単位を1%~70%、より好ましくは、アリルホルムアミド単位を2%~40%、最も好ましくは、アリルホルムアミド単位を5%~25%を含む。
【0046】
上述又は後述の実施形態と組み合わせた好ましい実施形態において、ポリビニルアミンまたはポリアリルアミンの重量平均分子量(Mw)は2,000~500,000Da、好ましくは15,000~400,000Da、より好ましくは20,000~300,000Da、最も好ましくは25,000~250,000Daである。
【0047】
本明細書において、ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、多角度光散乱及び示差屈折率検出器を連結したサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(SEC-MALS-RI)により決定される。
【0048】
上述又は後述の実施形態と組み合わせた好ましい実施形態において、ポリビニルアミン又はポリアリルアミンのホルムアミド基の加水分解度は、67%~99%、より好ましくは68%~94%、一層好ましくは72%~90%、最も好ましくは75%~86%である。
【0049】
本明細書におけるポリマーのホルムアミド基の加水分解度は、次に示す方法に従いH-NMRにより求められる:
ポリマー5.25gをフラスコに秤り取り、水10mLを加える。得られた混合物を回転させて均質な混合物を得、そして、乾燥固体が認められるまで50℃の真空下で蒸発させる。固体を80℃のオーブンで15時間高真空下(≦0.1mbar)に乾燥させることにより乾燥残渣を得る。
【0050】
加水分解度は、H-NMR(Bruckerからの400MHzの装置、溶媒:DO)にて、参考文献に記載されている方法に従い、加水分解可能な基全体に対する加水分
解された基の定量に基づき求められる。
【0051】
Q.Wen,A.M.Vincelli,R.Pelton,“Cationic polyvinylamine binding to anionic microgels yields kinetically controlled structures”,J Colloid Interface Sci.369(2012)223-230。
【0052】
上述又は後述の実施形態と組み合わせた更なる好ましい実施形態において、ポリビニルアミン又はポリアリルアミンは、重量平均分子量(Mw)が15,000~80,000Da、好ましくは20,000~70,000Da、より好ましくは25,000~50,000Daであり、ホルムアミド基の加水分解度が66%~90%、好ましくは67%~80%、より好ましくは68%~75%である。
【0053】
上述又は後述の実施形態と組み合わせた更なる好ましい実施形態において、ポリビニルアミン又はポリアリルアミンは、重量平均分子量(Mw)が100,000~500,000Da、好ましくは150,000~400,000Da、より好ましくは200,000~300,000Daであり、ホルムアミド基の加水分解度が70%~99%、好ましくは75%~95%、より好ましくは75%~90%である。
【0054】
上述又は後述の実施形態と組み合わせた更なる好ましい実施形態において、第1ポリマーは、架橋度が5~25%(mol/mol)になるように架橋されている。上述又は後述の実施形態と組み合わせた好ましい実施形態において、架橋度は6~15%(mol/mol)、好ましくは7~12%(mol/mol)、より好ましくは8~9%(mol/mol)である。
【0055】
本明細書における「架橋度」は、架橋剤/ポリマーの比として定義される(「架橋剤比」とも称する)。「架橋剤比」は、反応に使用されるポリマー溶液中に存在するビニルアミン構造単位(平均分子量に基づく)に対する架橋剤のモル数の百分率として定義される。
【0056】
即ち、架橋剤比は、次式(1)に従い求められる:
【0057】
【数1】
【0058】
(式中、V1(ml)は架橋剤の体積、d1(g/ml)は架橋剤の密度、C1(wt%)は架橋剤の濃度、W2(g)はポリマー溶液の重量、C2(wt%)はポリマーの濃度、Mw1(g/mol)は架橋剤の分子量、Mw2(g/mol)はモノマー単位の平均分子量である)。
【0059】
Mw2は次式(2)に従い求められる:
【数2】
(式中、Nkは、ポリマーを構成するタイプkのモノマー単位の個数であり、Mkは、タ
イプkのモノマー単位の分子量(g/mol)である)。
【0060】
架橋されたポリマーは、アミノ基又はアミド基以外の官能基で誘導体化することができる。しかしながら、架橋されたポリマーは、好ましくはそのような官能基で誘導体化されていない。
【0061】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、架橋されたポリマーの総濃度は、乾燥した複合材料の総重量を基準として、少なくとも3%w/w、好ましくは少なくとも5%w/w、より好ましくは少なくとも7%w/w、且つ好ましくは25%w/w未満、より好ましくは20%w/w未満、最も好ましくは15%未満である。
【0062】
複合材料の製造方法
本発明の複合材料は、次に示す方法:
a)平均孔径が5~500nmである多孔性支持体を、ポリマー、架橋剤及び溶媒を含む溶液又は分散液に浸し;及び
b)ポリマーを250℃未満の温度で架橋剤により架橋するこ
により製造することができ、
ポリマーは、重量平均分子量(Mw)が2,000~500,000Daであり、ホルムアミド基の加水分解度が少なくとも66%であるポリビニルアミン又はポリアリルアミンから選択され、但し、重量平均分子量(Mw)が27,200Daであり、且つホルムアミド基の加水分解度が70%であるポリビニルアミン及び重量平均分子量(Mw)が50,000Daであり、且つホルムアミド基の加水分解度が95%であるポリビニルアミンは除く。
【0063】
本発明には、少なくとも2個の反応性基を有する任意の架橋剤を使用することができる。
【0064】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、架橋剤は、ビスエポキシド、ジアルデヒド及びジグリシジルエーテルから選択される。上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせたより好ましい実施形態において、架橋剤は、プロパンジオールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グルタルジアルデヒド及びコハク酸ジアルデヒドから選択される。より好ましくは、架橋剤は、ブタンジオールジグリシジルエーテル及びヘキサンジオールジグリシジルエーテルから選択される。
【0065】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、架橋剤比は、6~15%(mol/mol)、より好ましくは7~12%(mol/mol)、最も好ましくは8~9%(mol/mol)である。
【0066】
上述の方法の工程b)の条件下において、架橋剤及びポリマーと反応しないか、又はゆっくりとしか反応しないのであれば、ポリマー及び架橋剤を溶解又は分散することができる任意の溶媒又は媒体を使用することができる。この文脈における、ゆっくり、とは、工程(b)を行う間、架橋剤と溶媒との間、及びポリマーと溶媒との間に観測可能な反応が起こらないことを意味する。
【0067】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、溶媒は、極性プロトン性溶媒又は極性非プロトン性溶媒である。上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、溶媒は、水、Cアルコール(例え
ば、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びブタノール)及びその混合物から選択される極性プロトン性溶媒である。水が最も好ましい。
【0068】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、工程a)で使用されるポリマー及び架橋剤の溶液のpHは、8~13、好ましくは9~11、最も好ましくは10~11に調整される。pHの調整は、NaOHやKOH等の強塩基を添加することにより行うことができる。
【0069】
上述の方法の工程b)を行う際の温度は、好ましくは20~180℃、より好ましくは40~100℃、最も好ましくは50℃~80℃である。
【0070】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、工程b)を行う時間は、好ましくは1時間~100時間、より好ましくは8~60時間、最も好ましくは18時間~48時間である。
【0071】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた更なる好ましい実施形態において、工程b)は、40~100℃で8~60時間、好ましくは50~80℃で12~50時間、より好ましくは60℃で24~48時間実施される。
【0072】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた更なる好ましい実施形態において、本方法は、工程b)の後に、架橋剤の未反応の架橋性基を加水分解する工程c)を更に含む。
【0073】
複合材料の使用
本明細書において、「供給原料(feedstock)」及び「供給物(feed)」という語は互換的に使用される。
【0074】
本明細書における「タンパク質」という語は、ポリペプチドを包含する。この種のポリペプチドは、好ましくは、少なくとも20個のアミノ酸残基、より好ましくは40~80個のアミノ酸残基を含む。
【0075】
本発明の複合材料は、供給原料中の目的タンパク質の精製に有用である。
【0076】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、供給原料は、宿主細胞由来タンパク質(HCP)及びDNA、並びに任意にRNA及び他の核酸を含む。
【0077】
本発明における供給原料は、任意に、アルブミン、エンドトキシン、界面活性剤(detergent)及び微生物又はそれらの断片が含まれる。
【0078】
本発明はまた、供給原料中の目的タンパク質の精製方法であって:
i)供給原料を本発明による複合材料と十分な時間接触させる工程;
ii)精製された供給原料から複合材料を分離する工程;
iii)任意に、目的タンパク質を供給原料から単離する工程;及び
iv)任意に、複合材料を溶媒で洗浄し、得られた溶液を更なる処理のために回収する工程
を含む、方法を提供する。
【0079】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、目的タンパク質は、モノクローナル抗体(mAb)(例えば、ヒト免疫グロブリン(hIgG)
)等の組換えタンパク質である。
【0080】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、供給原料の溶媒は、任意に、緩衝剤、塩及び/又は調整剤(modifier)を含む水である。
【0081】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、供給原料は、目的タンパク質及びDNA、RNA又は他の核酸並びに不純物としての宿主細胞由来タンパク質(HCP)を含む発酵ブロスの上清(濾過の前又は後)又は細胞培養液の上清(CCS)である。
【0082】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、複合材料は、バッチ吸着法で使用される。この実施形態における本発明の精製方法の工程i)において、複合材料を供給原料中に分散させ、工程ii)において、複合材料を供給原料から分離する(例えば、遠心分離による)。
【0083】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた他の好ましい実施形態において、複合材料はクロマトグラフィーカラムに充填される。
【0084】
本発明の目的タンパク質の精製方法においては、供給原料を本発明による複合材料と十分な時間接触させる。後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、接触時間は1分間~10時間、好ましくは3分間~5時間、より好ましくは5分間~1時間である。
【0085】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態においては、複合材料を供給原料と接触させる前に、複合材料を、pHが8未満、好ましくは3~7.5、より好ましくは4~7、最も好ましくは5~6の水溶液中で平衡化させる。水溶液のpHは任意の好適な緩衝剤により調整することができる。例えば、一塩基酸又はその塩をpHの調整に使用することができる。好ましい一塩基酸は、ギ酸、酢酸、スルファミン酸、塩酸、過塩素酸及びグリシンである。一塩基酸の好ましい塩は、アンモニウム、アルキルアンモニウム、ナトリウム及びカリウム塩である。
【0086】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、pHは酢酸アンモニウムを用いて調整される。
【0087】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた更なる好ましい実施形態において、pHはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で調整される。
【0088】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、供給原料対複合材料(供給物の体積対乾燥複合材料の重量)の比は、2:1~100:1、好ましくは5:1~80:1、より好ましくは10:1~70:1、最も好ましくは20:1~50:1の範囲にある。供給原料対複合材料の比が高い方が、複合材料を効率的に利用するという意味で好ましい。
【0089】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、上述の方法の工程ii)で分離される、吸着された不純物を含む複合材料を、前記不純物を溶出するための溶出手順に付し、それにより、複合材料を更に使用するために再生する。
【0090】
本発明の目的タンパク質の精製方法は、当該技術分野において知られている更なる精製工程を含むことができる。この種の精製工程の例としては、イオン交換クロマトグラフィ
ー、凝集剤又は沈殿剤の添加、遠心分離、結晶化、アフィニティークロマトグラフィー(例えば、Protein A、Protein G又はこれらの組合せを収容している分離媒体を用いる)、膜濾過、深層濾過(珪藻土又は活性炭を用いる)及びモノリシックな分離剤(monolithic separation agent)の適用が挙げられる。
【0091】
上述又は後述の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態において、本発明の目的タンパク質を分離するための方法の工程i)及びii)は、本発明による同一又は異なる複合材料を用いて連続して複数回(例えば、2、3、4、5、6回)繰り返す。
【0092】
次に示す実施例により本発明を説明する。
【実施例
【0093】
実施例に使用する出発物質
次に示す出発物質を実施例の複合材料の調製に使用した:
ポリマー:
A1 Lupamin 4570(BASFから供給)(ビニルアミン及びビニルホルムアミドのコポリマー)
A2 Lupamin 4570を加水分解度68%まで更に加水分解したもの
A3 Lupamin 4570を加水分解度86%まで更に加水分解したもの
A4 Lupamin 4570を加水分解度99%まで更に加水分解したもの
【0094】
ポリマーA2~A4は、ポリマーA1を次に示すように更に加水分解することにより得たものである。
【0095】
ポリマーA1を回転台上で穏やかに撹拌することにより均質化した。この均質化したポリマーを丸底フラスコに秤り取り、水酸化ナトリウム水溶液を加えて80℃で数時間、N気流で保護しながら加熱した。次いで混合物を室温に冷却し(23℃)、塩酸溶液を用いてpHを調整した。正確な条件を表1に列挙する。
【0096】
【表1】
【0097】
ポリマーA1~A4の特性を次の表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
1)加水分解度
ポリマーA1~A4のホルムアミド基の加水分解度を次に示すようにH-NMRを用いて測定した。
【0100】
NMR分析用のポリマー試料を次に示す一般手順により調製した:
市販のポリマー又は更に加水分解したポリマー5.25gをフラスコに秤り取り、水10mLを加えた。混合物を回転させて均質な組成物を得、そして、50℃の真空下で乾燥固体が得られるまで蒸発させた。固体を80℃のオーブンを用いて高真空下で(≦0.1mbar)15時間乾燥させることにより乾燥した残渣を得た。
【0101】
H-NMRによるホルムアミド基に対する遊離アミン基の定量に基づき、参考文献に記載されている方法に従い加水分解度を決定した:
Q.Wen,A.M.Vincelli,R.Pelton,“Cationic polyvinylamine binding to anionic microgels yields kinetically controlled structures”,J Colloid Interface Sci.369(2012)223-230。
【0102】
H-NMR測定には400MHzの装置を使用した。乾燥試料をDOに溶解した。
【0103】
2)ポリマー濃度
ポリマーA1~A4のポリマー濃度を元素分析に基づき決定した。試料をH-NMRの項に記載した手順と同じ手順で調製し、乾燥残渣が得られるまで実施した。元素分析装置はFLASH 2000 Organic Elemental Analyzer(Thermo Scientific)とした。
【0104】
3)ポリマーの重量平均分子量(Mw)、多分散度(Mw/Mn)及び固有の屈折率増分(dn/dc)
ポリマーの重量平均分子量(Mw)、多分散度(Mw/Mn)及び固有の屈折率増分(dn/dc)を次に示すように求めた。
【0105】
多角度光散乱及び示差屈折率検出器を連結したサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(SEC-MALS-RI)を使用し、重量平均分子量(Mw)を、Zimm形式によるレイリー・ガンズ・デバイ(Rayleigh-Gans-Debye)の式を用いて
決定した。
【0106】
この手法においては、光散乱シグナルが、クロマトグラムの任意の点における平均分子量及び試料濃度並びに固有の屈折率増分(dn/dc)に比例すると仮定する。したがって、濃度検出器としての屈折率検出器を連結した光散乱検出器は、クロマトグラムの任意の点の平均分子量を正確に求めることができ、dn/dcの値が得られた場合、クロマトグラフィーの分布全体の分析を用いて重量平均分子量(Mw)を決定することができる。
【0107】
レイリー・ガンズ・デバイの式(式(1))において、光散乱シグナルは、クロマトグラムの任意の点における平均分子量及び試料濃度並びに固有の屈折率増分(dn/dc)に比例する。
R(θ)=KMCP(θ)[1-2A MCP(θ)]R(θ) (1)
式(1)中、R(θ)は、過剰(溶質単独に対する)レイリー(Rayleigh)比(即ち、散乱体積及び散乱体積からの距離に関し補正された、散乱光及び入射光強度の比)、Mはモル質量(分子量)、Cは分析物の濃度、Kは式(2)に従い定められるレイリー比の定数であり:
=(4π(n/N(λ)(dn/dc) (2)
式(2)中、nは溶媒の屈折率、Nはアボガドロ数、λは入射光の真空波長、dn/dcは固有の屈折率増分、P(θ)は形状因子又は散乱関数であり、粒子の平均二乗半径(r)に対する散乱強度の角度変化に関連し、Aは、溶質と溶媒の相互作用の目安である、第2ビリアル係数である。
【0108】
この解析から、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、多分散度(Mw/Mn)及びピーク分子量(Mp)を求めることができる。
【0109】
測定装置:
SEC/MALS/RIシステムは、Shimadzu LC 20Aシステム、Wyatt Optilab rEX RI検出器及びWyatt DAWN HELEOS-II MALS検出器から構成されるものとした。
【0110】
分子量(Mw及びMn)及び多分散度(Mw/Mn)は、WyattからのAstra(バージョン:5.3.4.20)ソフトウェアを用いて算出した。
【0111】
ポリマーのSEC分析を行うために、プレカラムTosoh TSKgel G6000PWxL(13μm、7.8mmI.D×30cm)を取り付けたTosoh TSKgel G3000PWxL(7μm、7.8mmI.D×30cm)を使用した。
【0112】
分析条件:
移動相:0.45M 硝酸ナトリウム水溶液+0.5%(v/v)トリフルオロ酢酸(TFA)
流速:0.5mL/分
検出:
MALSの直線偏光レーザーの波長:658nm
RI
温度:25℃
注入量:50μL
試料の希釈:ポリマー10mg(表2に示した濃度)を移動相1.5mLで希釈
運転時間:58分
【0113】
多孔性支持体:
B1 シリカゲルDavisil LC 250、40~63μm(W.R.Graceから供給)
B2 シリカゲルXWP500A、35~75μm(W.R.Graceから供給)
B3 シリカゲルXWP1000A、35~75μm(W.R.Graceから供給)
多孔性支持体B1~B3の特性を次の表3に示す。
【0114】
【表3】
【0115】
多孔性支持体の孔径は、DIN 66133に準拠し、水銀圧入により求めた。
【0116】
多孔性支持体の粒度分布はMalvern Laser Diffractionにより求めた。
【0117】
架橋剤:
1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(HDGE;Ipox Chemicalsから供給されているipox RD18)
1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDGE;Sigma-Aldrichから供給、及びIpox Chemicalsから供給されているipox RD3)
【0118】
実施例1:
ポリマーA2の水溶液(ポリマーA2の11%溶液)15mLを、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(HDGE)の溶液(704μL)と混合することにより、架橋剤が7~9%になるようにした。架橋剤比は、反応に使用したポリマー溶液中に存在するビニルアミン単位に対する反応性基の量を考慮して算出した。混合後、0.5M NaOHを用いてpHを11に調整した。
【0119】
乾燥粉末状の多孔性支持体B1を10g、底が平らな直径8cmのステンレス鋼製の皿に敷いた。ポリマー-架橋剤溶液39.5gを、多孔性支持体B1全体に均しく行き渡るように滴下し、スパチュラを用いてかき混ぜた。得られたペーストを、表面が滑らかな均質なまとまりになるように、旋回シェーカーにて600rpmで1分間振盪した。皿にステンレス鋼の蓋を被せた後、ペーストを更に混ぜたり動かしたりすることなく、60℃のオーブンで48時間加熱し、湿った複合体49.6gを得た。
【0120】
次いでこの湿った複合体41.3gをフリット上において水25mLで5回洗浄した。次いで、未反応のエポキシ基を加水分解するために、この複合体のケークを10%硫酸31.6mL中に懸濁させ、振盪恒温槽において2時間周囲温度(23℃)で処理した。そして、生成物をフリット上において再び水25mLで5回洗浄した後、20%エタノール水中で保管した。
【0121】
実施例2~4並びに比較例1及び2:
実施例2~4並びに比較例1及び2を、表4に列挙する出発物質を使用したことを除いて比較例1と同様にして調製した。
【0122】
【表4】
【0123】
実施例の複合材料の除去性能及びhIgG回収率の測定
複合材料の精製能力を測定するために、目的物質から不純物又は望ましくない化合物が除去(分離)された度合いを測定する。この目的のために、供給物中の個々の成分の濃度を、選択的測定(selective assay)を用いて決定する。精製工程の後、精製された画分に対しこの濃度測定を繰り返す。このようにして、これらの濃度及び対応する体積から、純度及び回収率の両方を算出することが可能である。
【0124】
供給物
未処理且つ未希釈の細胞培養液上清CHO K1に、ヒト血漿由来hIgG(Octagam、10%溶液、Octapharma、Vienna)を2mg/mLスパイクしたものを供給物とした。
【0125】
細胞培養液上清(CCS)
CCS1
CHO-K1(Invivo、Berlin)
細胞株:CHO-K1(2.5×10生細胞/mL)
電気伝導度:15mS/cm
平均宿主細胞由来タンパク質(HCP)濃度:100~150μg/mL
平均DNA濃度:700~1,000ng/mL
【0126】
CCS2
CHO-K1(Invivo、Berlin)
細胞株:CHO-K1
電気伝導度:13mS/cm
平均宿主細胞由来タンパク質(HCP)濃度:65~82μg/mL
平均DNA濃度:250~500ng/mL
【0127】
吸着材は全て供給物と接触させる前に50mM酢酸アンモニウムを用いてpH6.5で平衡化させた。
【0128】
吸着材200mgをエッペンドルフ管又は遠心管を用いて供給物1mLと一緒にインキュベートした。供給物の体積対吸着材重量の比を5:1(供給物1mL:吸着材0.2g)とした。5分間穏やかに振盪した後、続いて分析を行うため上清を遠心分離した。供給物体積対吸着材重量の比がより高い50:1(供給物1mL:吸着材0.02g)についても試験を行った。特段の指定がない限り、接触時間は5分間とした。
【0129】
宿主細胞由来タンパク質(HCP)及びDNAの除去効率並びにhIgGの回収効率を
求めるために、上に示した3種の物質の定量を、未精製供給物及び複合材料と所定の時間接触させた後の除去処理された供給物について実施した。次いで両方の値を比較した。
【0130】
宿主細胞由来タンパク質(HCP)測定
宿主細胞由来タンパク質(HCP)の除去効率を求めるためにCygnus CHO HCP Elisa Kit 3Gを使用した。Southport(USA)のCygnus TechnologiesからのCHO Host Cell Proteins 3rd Generation(#F550)を製造業者の指示(取扱説明書“800-F550,Rev.3,21JUL2015”)に従い使用し、PerkinElmer(Courtaboeuf,France)からのVictorX Spectrophotometer及び対応するソフトウェアを読取り及びデータ評価に使用した。試料をサンプル希釈液で希釈した(製品カタログ番号#I028、Cygnus Technologiesより購入)。
【0131】
HCP除去率を次に示すように表す:
HCP除去率(%)=100×(上清中のHCP濃度)/(初期スパイク時のCCS中のHCP濃度)
上式における「上清」は精製後のCCSを指す。
【0132】
DNA測定
分析試料は初期CCS(スパイクhIgG含有又は非含有)及び除去処理後の試料とした。
【0133】
DNA Extraction Kit(#D100T),Cygnus Technologies,Southport(USA)を用いて製造業者の指示に従いDNAを抽出した後、Quant-iT(商標)PicoGreen(登録商標)dsDNA Reagent Kit(#P7589),Invitrogen (Germany)を使用し、DNA特異的蛍光アッセイ(DNA specific fluorescence assay)によりDNAの定量を行った。PerkinElmer(Courtaboeuf,France)からのVictorX Spectrophotometer及び対応するソフトウェアを読取り及びデータ評価に使用した。
【0134】
DNAの除去率を次に示すように表す:
DNA除去率(%)=100×(上清中のDNA濃度)/(初期スパイク時のCCS中のDNA濃度)
上式における「上清」は精製後のCCSを指す。
【0135】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によるhIgG回収率測定
hIgG回収率を次に示すように定量SECによって求めた。
【0136】
供給物中のhIgG濃度及び精製後の溶液中のhIgG回収率を次に示す条件でSECを用いて求めた。
カラム:Tosoh Bioscience LCCからのTSKgel UP SW3000 4.6 × 300mm(粒子径2μm)
移動相:100mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.7)+100mM NaSO+0.05% NaN
注入量:10μL(試料を移動相で希釈)
流速:0.35mL/分
検出器:DAD 280nm
温度:25℃
【0137】
この高効率カラム及びそれに付随する分析条件により、単量体及び二量体ピークを適切に定量することが可能になる。
【0138】
hIgG回収率を次に示すように表す:
回収率(%)=100×(上清中のhIgG濃度)/(初期スパイク時のCCS中のhIgG濃度)
上式における「上清」は精製後のCCSを指す。
【0139】
結果を表5に示す。
【0140】
【表5】
【0141】
表5から分かるように、供給物:複合体比を50:1とした場合のhIgGの回収率はほぼ定量的であった(≧96%)。
【0142】
供給物:複合体比を5:1とした場合、実施例1~4は95%を超えるDNA及びHCPを供給原料から除去した。
【0143】
表5から分かるように、ポリマーA1(加水分解度65%)を用いて得られた比較例1は、HCP及びDNAの除去能力が実施例1よりも劣っている。
【0144】
このように、本発明の複合材料は、高い供給原料対複合体比においても優れたDNA及びHCP除去率並びにhIgG回収率を達成し、したがって、目的タンパク質の効率的且つ費用対効果の高い精製に適している。