(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質、及びそれを用いた電極合剤、固体電解質層並びに電池
(51)【国際特許分類】
H01B 1/10 20060101AFI20230906BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230906BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230906BHJP
H01M 6/18 20060101ALI20230906BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230906BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230906BHJP
【FI】
H01B1/10
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M6/18 Z
H01M10/052
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2021533225
(86)(22)【出願日】2021-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2021010345
(87)【国際公開番号】W WO2021193192
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-06-15
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2020051637
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 崇広
(72)【発明者】
【氏名】高橋 司
【合議体】
【審判長】恩田 春香
【審判官】棚田 一也
【審判官】柴垣 俊男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/030436(WO,A1)
【文献】特開2018-029058(JP,A)
【文献】国際公開第2013/069243(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/10
H01M 4/13
H01M 4/62
H01M 6/18
H01M 10/052
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素、及びハロゲン(X)元素を含有し、
前記リン(P)元素に対する硫黄(S)元素のモル比(S/P)が3.5<S/P<4.1を満たし、
リン(P)元素に対するハロゲン(X)元素のモル比(X/P)が1.0<X/P<2.4を満たし、
前記ハロゲン(X)元素として臭素(Br)元素を含み、
アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含む、硫化物固体電解質。
【請求項2】
CuKα1線を用いたX線回折装置(XRD)により測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=21.3°±0.3°の位置に観測される回折ピークAの最大強度を
I
a
とし、X線回折パターンのバックグラウンドを
I
0
としたとき、前記
I
0
に対する前記
I
a
の比(
I
a
/
I
0
)が2.3以下である、請求項1に記載の硫化物固体電解質。
【請求項3】
前記ハロゲン(X)元素として、更に塩素(Cl)元素を含む、請求項1又は2に記載の硫化物固体電解質。
【請求項4】
前記臭素(Br)元素のモル数と前記塩素(Cl)元素のモル数の合計に対する前記臭素(Br)元素の割合が、0.2以上0.8以下である、請求項3に記載の硫化物固体電解質。
【請求項5】
リン(P)元素に対するリチウム(Li)元素のモル比(Li/P)が3.7<Li/P<5.4である、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質。
【請求項6】
CuKα1線を用いたX線回折装置(XRD)により測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=21.3°±0.3°の位置に観測される回折ピークAの最大強
度I
a
から、X線回折パターンのバックグラウンド
I
0
を引いた値を
I
A
とし、
CuKα1線を用いたX線回折装置(XRD)により測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=30.0°±1.0°の位置に観測される回折ピークBの最大強
度I
b
から、X線回折パターンのバックグラウン
ドI
0
を引いた値を
I
B
としたとき、
前記
I
B
に対する前記
I
A
の比(
I
A
/
I
B
)が0.2以下である、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質。
【請求項7】
CuKα1線を用いたX線回折装置(XRD)により測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=22.8°±0.5°の位置に観測される回折ピークCの最大強度を
I
c
とし、X線回折パターンのバックグラウンドを
I
0
としたとき、前記
I
0
に対する前記
I
c
の比(
I
c
/
I
0
)が2.5以下である、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質。
【請求項8】
CuKα1線を用いたX線回折装置(XRD)により測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=27.0°±0.5°の位置に観測される回折ピークDの最大強度を
I
d
とし、X線回折パターンのバックグラウンドを
I
0
としたとき、前記
I
0
に対する前記
I
d
の比(
I
d
/
I
0
)が4.0以下である、請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質。
【請求項9】
前記アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相の結晶子サイズが60nm以下である、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質。
【請求項10】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布によるD
50が0.1μm以上70μm以下である、請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質と活物質とを含む、電極合剤。
【請求項12】
請求項1ないし10のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質を含有する、固体電解質層。
【請求項13】
正極層と、負極層と、前記正極層及び前記負極層の間の固体電解質層とを有する電池であって、請求項1ないし10のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質を含有する、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硫化物固体電解質に関する。また本発明は、硫化物固体電解質を用いた電極合剤、固体電解質層並びに電池に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は先に、Li7-xPS6-xHax(HaはCl又はBrを表す。xは0.2以上1.8以下である。)で表される組成を有する化合物からなる硫化物固体電解質を提案した(特許文献1参照)。この硫化物固体電解質は、硫黄欠損が少なくて結晶性が高いことから、リチウムイオン伝導性が高く、電子伝導性が低く、リチウムイオン輸率が高いという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
これまでに知られている硫化物固体電解質は、大気中の水分と接触した場合、硫化水素を発生する可能性がある。近年、様々な硫化物固体電解質が提案されているが、硫化水素の発生を抑制できる硫化物固体電解質に対しては更なる検討が求められている。
【0005】
したがって本発明の課題は、硫化物固体電解質の改良にあり、更に詳しくは硫化水素の発生を抑制し得る硫化物固体電解質を提供することにある。
【0006】
本発明は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素、及びハロゲン(X)元素を含有し、
前記リン(P)元素に対する硫黄(S)元素のモル比(S/P)が3.5<S/P<4.1を満たし、
リン(P)元素に対するハロゲン(X)元素のモル比(X/P)が0.7<X/P<2.4を満たし、
アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含む、硫化物固体電解質を提供することによって前記の課題を解決したものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施例1ないし4並びに比較例1及び2で得られた硫化物固体電解質のX線回折パターンを示す図である。
【
図2】
図2は、実施例5及び6並びに比較例3で得られた硫化物固体電解質のX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。まず本発明の硫化物固体電解質について説明する。本発明の硫化物固体電解質は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素、ハロゲン(X)元素を含有するものである。ハロゲン(X)元素としては、フッ素(F)元素、塩素(Cl)元素、臭素(Br)元素、及びヨウ素(I)元素を挙げることができる。ハロゲン(X)元素は、これらの元素のうちの1種であってもよく、あるいは2種以上の組み合わせであってもよい。後述するアルジロダイト型結晶構造が固相反応によって生成しやすくなり、リチウムイオン伝導性が高まる観点から、硫化物固体電解質は、ハロゲン(X)元素として少なくとも臭素(Br)元素を含有することが好ましく、臭素(Br)元素及び塩素(Cl)元素を含有することが更に好ましい。また、リチウムイオン伝導性をより高める観点から硫化物固体電解質は、ハロゲン(X)元素として少なくともヨウ素(I)元素を含んでいてもよく、ハロゲン(X)元素がヨウ素(I)元素であってもよい。
【0009】
硫化物固体電解質がハロゲン(X)元素として臭素(Br)元素及び塩素(Cl)元素を含有する場合、臭素(Br)元素のモル数と塩素(Cl)元素のモル数の合計に対する臭素(Br)元素の割合、すなわちBr/(Br+Cl)の値を0.2以上0.8以下に設定することが好ましく、0.3以上0.7以下に設定することが更に好ましく、0.4以上0.6以下に設定することが一層好ましい。
臭素(Br)の導入はアルジロダイト型結晶構造を容易に形成できる一方で、臭素(Br)は塩素(Cl)や硫黄(S)に比べてイオン半径が大きいため、アルジロダイト型結晶構造へのハロゲン固溶量が少なくなると考えられる。したがって、上述のとおりBr/(Br+Cl)を適切に調整することで、アルジロダイト型結晶構造を容易に生成しつつ、アルジロダイト型結晶構造により多くのハロゲン元素を固溶させることができる。その結果、硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を一層高めることができる。アルジロダイト型結晶構造においてハロゲン固溶量が増加することは、結晶構造内のリチウムサイトの占有率が低下することに対応する。このことによってリチウムイオン伝導性が向上すると考えられる。
【0010】
硫化物固体電解質からの硫化水素の発生を効果的に抑制し得る手段について鋭意検討した結果、本発明者は、硫化物固体電解質に含まれるPS4
3-ユニットを構成していない硫黄(S)元素を少なくすることが有効であると知見した。この観点から、硫化物固体電解質に含まれるリチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素、ハロゲン(X)元素の割合を適切に調整することが、硫化水素の発生抑制に有効であると本発明者は考えた。そこで、本発明者が更に検討を推し進めたところ、(i)リン(P)元素に対する硫黄(S)元素のモル比(S/P)、及び(ii)リン(P)元素に対するハロゲン(X)元素のモル比(X/P)の2つの比率を適切に調整することで、硫化物固体電解質からの硫化水素の発生を一層効果的に抑制し得ることを知見した。以下、これら2つの比率についてそれぞれ説明する。
【0011】
まずS/Pの値については、3.5<S/P<4.1を満たすことが好ましい。S/Pを3.5よりも大きくすることで、PS4
3-ユニットを構成していない硫黄(S)の生成(例えば、P2S7
4-、P2S6
4-等)を抑え、H2S発生量を抑制することができるので好ましい。また、S/Pを4.1よりも小さくすることで、PS4
3-ユニットを構成していない硫黄(S)の生成(例えばS2-等)を抑え、H2S発生量を抑制することができるので好ましい。例えば、これらの硫黄(S)はアルジロダイト型結晶構造内に含まれる場合やLi2Sとして生成する場合がある。これらの観点から、S/Pの値は、3.70<S/P<4.08を満たすことが更に好ましく、3.85<S/P<4.05を満たすことが一層好ましい。S/Pの値は、ICP発光分光測定によって測定される。
【0012】
X/Pの値については、0.7<X/P<2.4を満たすことが好ましい。X/Pを0.7よりも大きくすることで、固体電解質内のリチウムサイトの占有率を下げることができ、それによってイオン伝導性が向上するので好ましい。また、X/Pを2.4よりも小さくすることで、異相として生成するLiXの生成量が減少し、イオン伝導性が減少するので好ましい。これらの観点から、X/Pの値は、1.0<X/P<2.0を満たすことが更に好ましく、1.4<X/P<1.8を満たすことが一層好ましい。X/Pの値は、上述したS/Pの値と同様の方法で測定される。
【0013】
硫化物固体電解質からの硫化水素の発生を一層効果的に抑制し得る観点から、(iii)リン(P)元素に対するリチウム(Li)元素のモル比(Li/P)の比率を適切に調整することも有効である。詳細には、Li/Pの値は、3.7<Li/P<5.4を満たすことが好ましい。Li/Pを3.7よりも大きくすることで、リチウムイオン伝導性が向上するので好ましい。また、Li/Pを5.4よりも小さくすることでもリチウムイオン伝導性が向上するので好ましい。これらの観点から、Li/Pの値は、3.9<Li/P<5.2を満たすことが更に好ましく、4.2<Li/P<4.8を満たすことが一層好ましい。Li/Pの値は、上述したS/Pの値と同様の方法で測定される。
【0014】
S/P、X/P、及びLi/Pの値が上述した範囲を満たす硫化物固体電解質は、例えば後述する製造方法に従い製造できる。
【0015】
硫化物固体電解質は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素、及びハロゲン(X)元素以外の元素を含んでいてもよい。例えば、リチウム(Li)元素の一部を他のアルカリ金属元素に置き換えたり、リン(P)元素の一部を他のプニクトゲン元素に置き換えたり、あるいは硫黄(S)元素の一部を他のカルコゲン元素に置き換えたりすることができる。
【0016】
硫化物固体電解質は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素、及びハロゲン(X)元素以外に、本発明の効果を損なわない限りにおいて不可避不純物を含むことが許容される。不可避不純物の含有量は、硫化物固体電解質の性能への影響が低いという観点から、例えば高くても5mol%未満、好ましくは3mol%未満、特に好ましくは1mol%未満とすることができる。
【0017】
本発明の硫化物固体電解質は結晶性化合物であることが好ましい。結晶性化合物とは、X線回折(XRD)測定を行った場合に、結晶相に起因する回折ピークが観察される物質のことである。硫化物固体電解質は特にアルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含むことが、硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を高め得る点から好ましい。
【0018】
アルジロダイト型結晶構造とは化学式:Ag8GeS6で表される鉱物に由来する化合物群が有する結晶構造である。また、リチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素、ハロゲン(X)元素を有するアルジロダイト型化合物はPS4
3-構造を主骨格とし、周囲にリチウム(Li)元素、硫黄(S)元素、ハロゲン(X)元素が存在する構造をとっている。特にアルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質は高いリチウムイオン伝導性を有する一方で、結晶構造内に反応性の高い硫黄(S)元素が存在することでその他の硫化物固体電解質に比べて大気中に曝されたときに硫化水素が発生しやすい。
【0019】
硫化物固体電解質がアルジロダイト型結晶構造の結晶相を有しているか否かは、XRD測定などによって確認できる。例えばCuKα1線を用いたX線回折装置によって測定される回折パターンにおいて、アルジロダイト型結晶構造の結晶相は、2θ=15.3°±1.0°、17.7°±1.0°、25.2°±1.0°、30.0°±1.0°、30.9°±1.0°及び44.3°±1.0°に特徴的な回折ピークを示す。また、硫化物固体電解質を構成する元素種によっては、上記回折ピークに加えて、2θ=47.2°±1.0°、51.7°±1.0°、58.3°±1.0°、60.7°±1.0°、61.5°±1.0°、70.4°±1.0°及び72.6°±1.0°に特徴的な回折ピークを示す場合もある。アルジロダイト型結晶構造に由来する回折ピークの同定には、PDF番号00-034-0688のデータを用いることができる。
【0020】
硫化物固体電解質がアルジロダイト型結晶構造の結晶相を有していることが好ましいことは上述のとおりであるところ、硫化物固体電解質は他の結晶構造の結晶相を有していないことが好ましい。あるいは他の結晶構造の結晶相を有しているとしても、その存在割合が低いことが好ましい。例えば、CuKα1線を用いたX線回折装置により測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=21.3°±0.3°の位置に回折ピークが観察される場合があるところ、この位置に観察される回折ピークはアルジロダイト型結晶構造に由来するものではない。この位置に回折ピークが観察される硫化物固体電解質は、当該回折ピークが観察されない硫化物固体電解質に比べてリチウムイオン伝導性が低くなる傾向にある。したがって、硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を高める観点から、2θ=21.3°±0.3°の位置に観測される回折ピークAの最大強度をIaとし、X線回折パターンのバックグラウンドをI0としたとき、I0に対するIaの比であるIa/I0の値が好ましくは2.3以下であるように硫化物固体電解質の結晶相の存在状態を制御することが好ましい。Ia/I0の値は更に好ましくは1.9以下、より一層好ましくは1.6以下である。Ia/I0の値は小さければ小さいほどリチウムイオン伝導性を向上させる観点から有利であり、理想的にはゼロである。
バックグラウンドI0は、結晶相ピークの観測されない位置での強度であり、例えば2θ=20.3°±1.0°の範囲内において最もカウント数の小さい強度をバックグラウンド強度I0とすることができる。
【0021】
前記と同様の観点から、2θ=21.3°±0.3°の位置に観測される回折ピークAの最大ピーク強度IaからバックグラウンドI0を引いた値をIAとし、2θ=30.0°±1.0°の位置に観察される回折ピークB(この回折ピークはアルジロダイト型結晶構造に帰属するものである。)の最大強度IbからバックグラウンドI0を引いた値をIBとしたとき、IBに対するIAの比であるIA/IBの値が好ましくは0.2以下であるように、硫化物固体電解質に含まれる結晶相の存在状態を制御することが好ましい。IA/IBの値は更に好ましくは0.1以下であり、一層好ましくは0.06以下である。IA/IBの値は小さければ小さいほど、リチウムイオン伝導性を向上させる観点から有利であり、理想的にはゼロである。
【0022】
上述した2θ=21.3°±0.3°の位置に回折ピークが観察される結晶構造以外に、硫化物固体電解質は例えばLi3PS4の結晶相を有していないことが好ましく、あるいは当該結晶相を有しているとしてもその存在割合が低いことが好ましい。例えば、硫化物固体電解質がβ―Li3PS4又はγ―Li3PS4の結晶相を有している場合、CuKα1線を用いたX線回折装置により測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=22.8°±0.5°の位置に回折ピークが観察される場合があるところ、この位置に回折ピークが観察される硫化物固体電解質は、当該回折ピークが観察されない硫化物固体電解質に比べてリチウムイオン伝導性が低くなる傾向にある。したがって、硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を一層高める観点から、2θ=22.8°±0.5°の位置に観測される回折ピークCの最大強度をIcとし、X線回折パターンのバックグラウンドをI0としたとき、I0に対するIcの比であるIc/I0の値が好ましくは2.5以下であるように硫化物固体電解質の結晶相の存在状態を制御することが好ましい。Ic/I0の値は更に好ましくは2.0以下、より一層好ましくは1.7以下である。Ic/I0の値は小さければ小さいほど、リチウムイオン伝導性を向上させる観点から有利であり、理想的にはゼロである。バックグラウンドをI0の定義は上述したとおりである。
【0023】
硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を更に一層高める観点から、2θ=22.8°±0.5°の位置に観測される回折ピークCの最大強度IcからバックグラウンドI0を引いた値をICとし、2θ=30.0°±1.0°の位置に観察される回折ピークBの最大強度IbからバックグラウンドI0を引いた値をIBとしたとき、IBに対するICの比であるIC/IBの値が好ましくは0.5以下であるように、硫化物固体電解質に含まれる結晶相の存在状態を制御することが好ましい。IC/IBの値は更に好ましくは0.2以下であり、一層好ましくは0.1以下である。IC/IBの値は小さければ小さいほど、リチウムイオン伝導性を向上させる観点から有利であり、理想的にはゼロである。
【0024】
硫化物固体電解質は、例えばLi2Sの結晶相を有していないことも好ましく、あるいは当該結晶相を有しているとしてもその存在割合が低いことが好ましい。例えば、硫化物固体電解質がLi2Sの結晶相を有している場合、CuKα1線を用いたX線回折装置により測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=27.0°±0.5°の位置に回折ピークが観察される場合があるところ、この位置に回折ピークが観察される硫化物固体電解質は、当該回折ピークが観察されない硫化物固体電解質に比べてリチウムイオン伝導性が低くなる傾向にある。これに加えてH2Sの発生量が増大する傾向にある。したがって、硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を一層高める観点、及びH2Sの発生を抑制する観点から、2θ=27.0°±0.5の位置に観測される回折ピークDの最大強度をIdとし、X線回折パターンのバックグラウンドをI0としたとき、I0に対するIdの比であるId/I0の値が好ましくは5.0以下であるように硫化物固体電解質の結晶相の存在状態を制御することが好ましい。Id/I0の値は更に好ましくは4.0以下、より一層好ましくは3.0以下であり、更に一層好ましくは2.7以下である。Id/I0の値は小さければ小さいほど、リチウムイオン伝導性を向上させる観点及びH2Sの発生を抑制する観点から有利であり、理想的にはゼロである。バックグラウンドをI0の定義は上述したとおりである。
【0025】
硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を更に一層高める観点及びH2Sの発生を更に一層抑制する観点から、2θ=27.0°±0.5°の位置に観測される回折ピークDの最大強度IdからバックグラウンドI0を引いた値をIDとし、2θ=30.0°±1.0°の位置に観察される回折ピークBの最大強度IbからバックグラウンドI0を引いた値をIBとしたとき、IBに対するIDの比であるID/IBの値が好ましくは1.0以下であるように、硫化物固体電解質に含まれる結晶相の存在状態を制御することが好ましい。ID/IBの値は更に好ましくは0.8以下であり、一層好ましくは0.6以下であり、更に一層好ましくは0.45以下である。ID/IBの値は小さければ小さいほど、リチウムイオン伝導性を向上させる観点から有利であり、理想的にはゼロである。
【0026】
硫化物固体電解質はリチウム(Li)元素とハロゲン(X)元素から構成される化合物であるLiXを含む場合がある。硫化物固体電解質におけるLiXの存在量は、リチウムイオン伝導性を高める観点から50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることが更に好ましく、15質量%以下であることがより一層好ましい。
【0027】
硫化物固体電解質は、X線回折パターンにおいて、2θ=25.2°±1.0°の範囲に回折ピークが1本のみ観察されることも好ましい。この範囲に回折ピークが1本のみ観察されることも、硫化物固体電解質がアルジロダイト型結晶構造以外の結晶相を有さないことの証左であり、それによって硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性が向上する。
【0028】
硫化物固体電解質は、上述したとおりアルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を有するところ、該結晶相の結晶子サイズは過度に大きくないことが固体電池とした際に活物質との良好な接触を確保できる観点から好ましい。この観点から、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相は、その結晶子サイズが60nm以下であることが好ましく、50nm以下であることが更に好ましく、40nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることが更に一層好ましい。結晶子サイズの下限値は1nmであることが好ましく、5nmであることが更に好ましく、10nmであることが一層好ましい。結晶子サイズの測定方法は後述する実施例において詳述する。
【0029】
XRDの回折ピークが上述した条件を満たす硫化物固体電解質は、例えば以下に述べる製造方法に従い製造できる。
【0030】
本発明の硫化物固体電解質は、固体の状態においてリチウムイオン伝導性を有するものである。硫化物固体電解質は好ましくは室温、すなわち25℃で0.5mS/cm以上のリチウムイオン伝導性を有することが好ましく、1.0mS/cm以上のリチウムイオン伝導性を有することが好ましく、中でも1.5mS/cm以上のリチウムイオン伝導性を有することが好ましい。リチウムイオン伝導性は、後述する実施例に記載の方法を用いて測定できる。
【0031】
次に、本発明の硫化物固体電解質の好適な製造方法について説明する。硫化物固体電解質は、所定の原料の混合物をメカニカルミリングに付すことによって製造することが好ましい。加熱による固相反応で合成することも可能であるが、その場合には、アルジロダイト型結晶構造が安定化する前に原料の揮発や副反応が生じ、低いリチウムイオン伝導性を示す結晶相が生じる場合があるので注意を要する。
【0032】
前記の原料は、硫化物固体電解質を構成する元素を含む物質のことであり、詳細には、リチウム(Li)元素を含有する化合物、硫黄(S)元素を含有する化合物、及びリン(P)元素を含有する化合物、及びハロゲン(X)元素を含有する化合物のことである。
【0033】
リチウム(Li)元素を含有する化合物としては、例えば硫化リチウム(Li2S)、酸化リチウム(Li2O)、炭酸リチウム(Li2CO3)等のリチウム化合物、及びリチウム金属単体等を挙げることができる。
硫黄(S)元素を含有する化合物としては、例えば三硫化ニリン(P2S3)、五硫化二リン(P2S5)等の硫化リン等を挙げることができる。また、硫黄(S)元素を含有する化合物として、硫黄(S)単体を用いることもできる。
リン(P)元素を含有する化合物としては、例えば三硫化ニリン(P2S3)、五硫化二リン(P2S5)等の硫化リン、リン酸ナトリウム(Na3PO4)等のリン化合物、及びリン単体等を挙げることができる。
【0034】
X(ハロゲン)元素を含有する化合物としては、フッ素(F)元素、塩素(Cl)元素、臭素(Br)元素及びヨウ素(I)元素からなる群から選択される1種又は2種以上の元素と、ナトリウム(Na)元素、リチウム(Li)元素、ホウ素(B)元素、アルミニウム(Al)元素、ケイ素(Si)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素、ゲルマニウム(Ge)元素、ヒ素(As)元素、セレン(Se)元素、スズ(Sn)元素、アンチモン(Sb)元素、テルル(Te)元素、鉛(Pb)元素及びビスマス(Bi)元素からなる群から選択される1種又は2種以上の元素との化合物、又は、当該化合物に更に酸素又は硫黄が結合した化合物を挙げることができる。より具体的には、LiF、LiCl、LiBr、LiI等のハロゲン化リチウム、PF3、PF5、PCl3、PCl5、POCl3、PBr3、POBr3、PI3、P2Cl4、P2I4等のハロゲン化リン、SF2、SF4、SF6、S2F10、SCl2、S2Cl2、S2Br2等のハロゲン化硫黄、NaI、NaF、NaCl、NaBr等のハロゲン化ナトリウム、BCl3、BBr3、BI3等のハロゲン化ホウ素などを挙げることができる。これらの化合物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、ハロゲン化リチウム(LiX(Xはハロゲンを表す。))を用いることが好ましい。
【0035】
上述した各原料を混合してメカニカルミリングに付す。各原料の混合に際しての添加量は、目的とする硫化物固体電解質の組成、すなわち上述したLi/P、S/P及びX/Pの値が上述した範囲を満たすように調整される。
【0036】
メカニカルミリングには、例えばアトライター、ペイントシェーカー、遊星ボールミル、ボールミル、ビーズミル、ホモジナイザー等を用いることができる。これらの装置を用いてメカニカルミリングを行うには、原料の混合粉を強撹拌して高いエネルギーを付与することが有利である。ミリングエネルギーを定量的に表すことは容易ではないが、一例として遊星ボールミルを用いたメカニカルミリングの場合、原料と液媒体との質量比(原料/液媒体)を0.1以上1.0以下に設定し、ボールの直径を0.5mm以上100mm以下に設定し、装置の回転数を120rpm以上700rpm以下に設定し、処理時間を1時間以上200時間以下に設定することが挙げられる。
【0037】
原料の混合粉をメカニカルミリングに付すことによって、メカノケミカル反応が生じ、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含む硫化物固体電解質が得られる。また、メカニカルミリングによれば、アルジロダイト型結晶構造以外の結晶相が生成しづらくなるという利点もある。得られた硫化物固体電解質は、粒径の調整等の公知の後処理を経てそのまま所望の用途に用いることができる。あるいは、得られた硫化物固体電解質を加熱して焼成する工程に付し、アルジロダイト型結晶構造を一層安定化させてもよい。
【0038】
焼成に用いる容器は、蓋付の容器でもよく、あるいは蓋なしの容器でもよいが、封管などの気密性のある容器ではなく、容器内外のガスが流通し得るものであることが好ましい。容器としては例えば、カーボン、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素などの材料からなる匣鉢などを挙げることができる。
【0039】
焼成は、メカニカルミリングによって生成したアルジロダイト型結晶構造が他の結晶構造へ変質しないようにする観点から必須のものではない。焼成を実施する場合は、穏やかな条件で行うことが好ましい。この観点から、焼成温度、すなわち焼成対象物の品温の最高到達温度は、比較的低い温度である100℃以上600℃以下に設定することが好ましく、150℃以上500℃以下に設定することが更に好ましく、200℃以上450℃以下に設定することが一層好ましい。
焼成時間は、1時間以上10時間以下に設定することが好ましく、2時間以上8時間以下に設定することが更に好ましく、3時間以上6時間以下に設定することが一層好ましい。
焼成時の昇温速度は、加熱むらを低減する観点から、300℃/h以下であることが好ましく、焼成効率を維持する観点を加味すると、中でも50℃/h以上250℃/h以下、その中でも100℃/h以上200℃/h以下であること更に好ましい。
焼成雰囲気は、メカニカルミリングによって生成したアルジロダイト型結晶構造が他の結晶構造へ変質しないようにする観点から、不活性ガス雰囲気であることが好ましい。例えばアルゴン雰囲気や窒素雰囲気で焼成を行うことが好ましい。
【0040】
焼成後には、焼成物を必要に応じて解砕粉砕し、更に必要に応じて分級してもよい。例えば、遊星ボールミル、振動ミル、転動ミル等の粉砕機、混練機等を使用して、粉砕ないし解砕することが好ましい。
【0041】
このようにして得られた硫化物固体電解質は、それ単独で又は他の固体電解質と混合して用いることができる。硫化物固体電解質は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布によるD50が0.1μm以上150μm以下であることが好ましい。硫化物固体電解質のD50が0.1μm以上であることによって、硫化物固体電解質の表面積が過度に増えることが抑制され、抵抗増大を抑制でき、また活物質との混合を容易にすることができる。他方、硫化物固体電解質のD50が150μm以下であることによって、例えば硫化物固体電解質と他の固体電解質とを組み合わせて用いる場合に、両者を最密充填させやすくなる。それによって、固体電解質どうしの接触点及び接触面積が大きくなり、イオン伝導性の向上を図ることができる。かかる観点から、硫化物固体電解質のD50は、例えば0.3μm以上であることが好ましく、特に0.5μm以上であることが好ましい。一方、硫化物固体電解質のD50は、例えば70μm以下であることが好ましく、特に50μm以下であることが好ましい。
【0042】
本発明の硫化物固体電解質は、固体電解質層、正極層又は負極層を構成する材料として用いることができる。具体的には、正極層と、負極層と、正極層及び負極層の間の固体電解質層とを有する電池に、本発明の硫化物固体電解質を用いることができる。つまり硫化物固体電解質は、いわゆる固体電池に用いることができる。より具体的には、リチウム固体電池に用いることができる。リチウム固体電池は、一次電池であってもよく、あるいは二次電池であってもよい。電池の形状に特に制限はなく、例えばラミネート型、円筒型及び角型等の形状を採用することができる。「固体電池」とは、液状物質又はゲル状物質を電解質として一切含まない固体電池のほか、例えば50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下の液状物質又はゲル状物質を電解質として含む態様も包含する。
【0043】
固体電解質層に本発明の硫化物固体電解質が含まれる場合、該固体電解質層は、例えば硫化物固体電解質とバインダー及び溶剤からなるスラリーを基体上に滴下し、ドクターブレードなどで擦り切る方法、基体とスラリーとを接触させた後にエアーナイフで切る方法、スクリーン印刷法等で塗膜を形成し、その後加熱乾燥を経て溶剤を除去する方法等で製造できる。あるいは、粉末状の硫化物固体電解質をプレス等によって圧粉体とした後、適宜加工して製造することもできる。
固体電解質層の厚さは、短絡防止と体積容量密度とのバランスから、典型的には5μm以上300μm以下であることが好ましく、中でも10μm以上100μm以下であることが更に好ましい。
【0044】
本発明の硫化物固体電解質は、活物質ともに用いられて電極合剤を構成する。電極合剤における硫化物固体電解質の割合は、典型的には10質量%以上50質量%以下である。電極合剤は、必要に応じて導電助剤やバインダー等のほかの材料を含んでもよい。電極合剤と溶剤とを混合してペーストを作製し、アルミニウム箔等の集電体上に塗布、乾燥させることによって正極層及び負極層を作製できる。
【0045】
正極層を構成する正極材としては、リチウムイオン電池の正極活物質として使用されている正極材を適宜使用可能である。例えばリチウムを含む正極活物質、具体的にはスピネル型リチウム遷移金属酸化物及び層状構造を備えたリチウム金属酸化物等を挙げることができる。正極材として高電圧系正極材を使用することで、エネルギー密度の向上を図ることができる。正極材には、正極活物質のほかに、導電化材を含ませてもよく、あるいは他の材料を含ませてもよい。
【0046】
負極層を構成する負極材としては、リチウムイオン電池の負極活物質として使用されている負極材を適宜使用可能である。本発明の硫化物固体電解質は電気化学的に安定であることから、リチウム金属又はリチウム金属に匹敵する卑な電位(約0.1V対Li+/Li)で充放電する材料であるグラファイト、人造黒鉛、天然黒鉛、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)などの炭素系材料を負極材として使用できる。それによって固体電池のエネルギー密度を大きく向上させ得る。また、高容量材料として有望なケイ素又はスズを活物質として使用することもできる。一般的な電解液を用いた電池では、充放電に伴い電解液と活物質が反応し、活物質表面に腐食が生じることに起因して電池特性の劣化が著しい。このこととは対照的に、電解液の代わりに本発明の硫化物固体電解質を用い、負極活物質にケイ素又はスズを用いると、上述した腐食反応が生じないので電池の耐久性の向上を図ることができる。負極材についても、負極活物質のほかに導電化材を含ませてもよく、あるいは他の材料を含ませてもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0048】
〔実施例1〕
以下の表1に示す組成となるように、硫化リチウム(Li2S)粉末と、五硫化二リン(P2S5)粉末と、塩化リチウム(LiCl)粉末と、臭化リチウム(LiBr)粉末とを、全量で5gとなるようにそれぞれ秤量した。これらの粉末に10mLのヘプタンを加えてスラリーを調製した。このスラリーを容積80mLの遊星ボールミル装置に入れた。メディアとして直径10mmのZrO2製ボールを用いた。原料粉とメディアとの質量比(原料粉/メディア)は0.05とした。ボールミル装置の運転条件は370rpmとし、50時間にわたってメカニカルミリングを行った。このようにして硫化物固体電解質を得た。得られた固体電解質のリチウムイオン伝導率は1.6×10-3S/cmであった。リチウムイオン伝導率の測定方法は以下の〔評価4〕に記載のとおりである。
【0049】
〔実施例2ないし6比較例1ないし3〕
以下の表1に示す組成となるように、硫化リチウム(Li2S)粉末と、五硫化二リン(P2S5)粉末と、塩化リチウム(LiCl)粉末と、臭化リチウム(LiBr)粉末とを混合した。それ以外は実施例1と同様にして硫化物固体電解質を得た。実施例2ないし4の固体電解質のイオン伝導率はそれぞれ、1.75×10-3S/cm、9.25×10-4S/cm、1.57×10-3S/cmであった。実施例5及び6のイオン伝導率はそれぞれ1.48×10-3S/cm、6.03×10-4S/cmであった。
【0050】
〔評価1〕
実施例及び比較例で得られた硫化物固体電解質について、ICP発光分光を用いて元素分析を行い、Li/P、S/P及びX/Pのモル比を算出した。実施例1ではそれぞれ4.83、3.90、1.96であった。実施例2ではそれぞれ4.34、3.85、1.58であった。
【0051】
〔評価2〕
実施例及び比較例で得られた硫化物固体電解質について、XRD測定を行い、I
a/I
0、I
c/I
0、I
d/I
0、I
A/I
B、I
C/I
B及びI
D/I
Bの値を算出した。その結果を表1に示す。
更に、2θ=25.19°±1.00°の範囲に観察されるピークの本数を計測した。その結果、ピークの本数はいずれの実施例においても1本であった。
実施例1ないし4並びに比較例1及び2のXRD測定は、株式会社リガク製のX線回折装置「Smart Lab」を用いて行った。測定条件は、大気非曝露、走査軸:2θ/θ、走査範囲:10°以上140°以下、ステップ幅0.01°、走査速度1°/minとした。大気非曝露セルには株式会社リガク製雰囲気セパレーター(粉末用)を用いた。ドーム材質はポリカーボネートであり、雰囲気はArとした。
X線源はヨハンソン型結晶を用いたCuKα1線とした。検出には一次元検出器を用いた。測定は21.3±1.0°の強度が100以上700以下のカウント数となるように実施した。また、10°以上140°以下の最大ピーク強度が1000以上のカウント数となるように実施した。
実施例1ないし4並びに比較例1及び2のX線回折パターンを
図1に示す。実施例1は測定値に対して+3000カウントオフセットした結果である。実施例2ないし4並びに比較例1及び2はオフセット後の実施例1に対してそれぞれ+1500カウントずつオフセットした結果である。
更に得られたX線回折パターンをPDXL(リガク製プログラム)に読み込み、WPPF法を用いて、実施例及び比較例で得られた硫化物固体電解質について、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相の結晶子サイズを算出した。装置由来パラメータは標準試料を用いて補正した。その結果を表1に示す。
実施例5及び6並びに比較例3のXRD測定は、株式会社リガク製のX線回折装置「Smart Lab SE」を用いて行った。測定条件は、大気非曝露、走査軸:2θ/θ、走査範囲:10°以上120°以下、ステップ幅0.02°、走査速度1°/minとした。大気非曝露セルには株式会社リガク製ASC用気密ホルダー(A00012149)を用いた。気密カバーは透明気密フィルムであり、雰囲気はArとした。X線源はヨハンソン型結晶を用いたCuKα1線とした。管電圧は40kV、管電流は80mAとした。検出には一次元検出器を用いた。測定は21.3±1.0°の強度が100以上700以下のカウント数となるように実施した。また、10°以上140°以下の最大ピーク強度が1000以上のカウント数となるように実施した。実施例5及び6並びに比較例3のX線回折パターンを
図2に示す。実施例5は測定値に対して+7000カウントオフセットした結果である。実施例6は測定値に対して+3000カウントオフセットした結果である。比較例3は測定値に対して+11000カウントオフセットした結果である。更に得られたX線回折パターンをSmart Lab StudioIIに読み込み、WPPF法を用いて、実施例及び比較例で得られた硫化物固体電解質について、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相の結晶子サイズを算出した。装置由来パラメータは標準試料を用いて補正した。
【0052】
〔評価3〕
実施例及び比較例で得られた硫化物固体電解質について、以下の方法で硫化水素の発生量を測定した。その結果を表1に示す。
各硫化物固体電解質を、十分に乾燥されたアルゴンガス(露点-60℃以下)で置換されたグローブボックス内で2mgずつ秤量し、ラミネートフイルムで密閉された袋に入れた。その後、乾燥空気と大気を混合することで調整した露点-30℃雰囲気で、室温(25℃)に保たれた恒温恒湿糟の中に、容量1500cm3のガラス製のセパラブルフラスコを入れた。セパラブルフラスコをその内部が恒温恒湿糟内の環境と同一になるまで保持してから、硫化物固体電解質が入った密閉袋を恒温恒湿糟の中で開封し、素早くセパラブルフラスコ内に硫化物固体電解質を入れた。セパラブルフラスコ内にはガスの滞留を抑制する目的でファンを設置し、ファンを回転させてセパラブルフラスコ内の雰囲気を撹拌した。セパラブルフラスコを密閉した直後から30分経過するまでに発生した硫化水素の濃度を、30分後に硫化水素センサー(理研計器製GX-2009)によって測定した。硫化水素センサーの最小測定値は0.1ppmである。
【0053】
〔評価4〕
実施例及び比較例で得られた硫化物固体電解質について、以下の方法でリチウムイオン伝導率を測定した。
各硫化物固体電解質を、十分に乾燥されたアルゴンガス(露点-60℃以下)で置換されたグローブボックス内で、約6t/cm2の加重を加え一軸加圧成形し、直径10mm、厚み約1mm~8mmのペレットからなるリチウムイオン伝導率の測定用サンプルを作製した。リチウムイオン伝導率の測定は、東陽テクニカ株式会社のソーラトロン1255Bを用いて行った。測定条件は、温度25℃、周波数100Hz~1MHz、振幅100mVの交流インピーダンス法とした。
【0054】
【0055】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた硫化物固体電解質は、比較例の硫化物固体電解質に比べて硫化水素の発生量が極めて少ないことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、硫化水素の発生を抑制し得る硫化物固体電解質が提供される。