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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】銀ナノ粒子を基礎とするインキ
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20230906BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20230906BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230906BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
C09D11/38
C09D11/52
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021533566
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-03
(86)【国際出願番号】 EP2019083643
(87)【国際公開番号】W WO2020120252
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】1872892
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】515357185
【氏名又は名称】ジーンズインク エスア
(74)【代理人】
【識別番号】100181928
【弁理士】
【氏名又は名称】日比谷 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100075948
【弁理士】
【氏名又は名称】日比谷 征彦
(72)【発明者】
【氏名】リマージュ ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルシーニ コリン
(72)【発明者】
【氏名】カウフマン ルイ-ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ファドゥル リタ
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06020397(US,A)
【文献】特開2008-214530(JP,A)
【文献】特開2000-109733(JP,A)
【文献】特表2016-505651(JP,A)
【文献】特表2013-545878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.銀ナノ粒子から成る1種の化合物「a」と、
2.溶剤の混合物から成る1種の化合物「e」と、
3.水から成る1種の化合物「W」と、
を含むインキ組成物であって、
A.化合物「a」は、前記インキ組成物の少なくとも10重量%を構成し、
B.化合物「e」は、前記インキ組成物の少なくとも55重量%を構成し、かつ、
B.1.少なくとも1種の脂肪族一価アルコールと、
B.2.少なくとも1種のテルペンアルコールと、
B.3. 少なくとも1種のポリオール及び/又は1種のポリオール誘導体と、
から成り、かつ、
C.化合物「W」は、前記インキ組成物の少なくとも2.5重量%を構成し、かつ、
D.化合物「a」、化合物「e」及び化合物「W」の総量は、前記インキ組成物の少なくとも80重量%を構成することを特徴とする、インキ組成物。
【請求項2】
水の濃度は、少なくとも4重量%であり、かつ10重量%未満である、請求項1に記載のインキ組成物。
【請求項3】
前記銀ナノ粒子の濃度は、15重量%~25重量%の間である、請求項に記載のインキ組成物。
【請求項4】
前記脂肪族一価アルコールの濃度は、少なくとも10重量%であり、かつ20重量%未満である、請求項に記載のインキ組成物。
【請求項5】
前記テルペンアルコールの濃度は、少なくとも15重量%であり、かつ30重量%未満である、請求項に記載のインキ組成物。
【請求項6】
前記ポリオール及びポリオール誘導体の濃度は、少なくとも30重量%であり、かつ45重量%未満である、請求項に記載のインキ組成物。
【請求項7】
前記脂肪族一価アルコールは、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールヘキサノール、イソプロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノール、及び/又は上述の前記脂肪族一価アルコールの2種以上の混合物から成る群から選択される、請求項に記載のインキ組成物。
【請求項8】
前記テルペンアルコールは、メントール、ネロール、シネオール、ラバンジュロール、ミルセノール、テルピネオールα-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、テルピネン-4-オール、イソボルネオール、シトロネロール、リナロール、ボルネオール、ゲラニオール、及び/又は上述の前記アルコールの2種以上の混合物から選択される、請求項に記載のインキ組成物。
【請求項9】
前記ポリオール及び/又はポリオール誘導体は、260℃未満の沸点を有する、請求項に記載のインキ組成物。
【請求項10】
前記ポリオールはグリコールであり、前記ポリオール誘導体はグリコールエーテルである、請求項に記載のインキ組成物。
【請求項11】
前記ポリオールは存在せず、前記ポリオール誘導体はグリコールエーテルの混合物から成る、請求項に記載のインキ組成物。
【請求項12】
前記ポリオール誘導体は、2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エタノール及び2-(2-ブトキシエトキシ)エタン-1-オールの混合物から成る、請求項11に記載のインキ組成物。
【請求項13】
アクリルポリマー、シラン、シロキサン、及び/又はポリシロキサンから選択される接着促進剤から成る化合物「p」を含み、その濃度は0.1重量%~5重量%の間である、請求項に記載のインキ組成物。
【請求項14】
5mPa・s~25mPa・sの間の20℃で測定された粘度を有する、請求項に記載のインキ組成物。
【請求項15】
前記銀ナノ粒子(化合物「a」)は長球形であり、10nm~150nmの間のD50値を有することを特徴とする、請求項に記載のインキ組成物。
【請求項16】
水の濃度は15重量%未満であることを特徴とする、請求項1に記載のインキ組成物。
【請求項17】
非接触型インクジェット印刷における、請求項に記載のインキ組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀ナノ粒子を基礎とするインキ配合物に関する。特に、本発明は、安定であり改善された導電性を有し、特にインクジェット型の非接触印刷技術に適している銀ナノ粒子を基礎とするインキ配合物に関する。
【0002】
同様のインキは、本出願人によって2016年11月24日に国際公開された特許文献1で既に記載されている。
【0003】
より具体的には、本発明は、銀ナノ粒子を基礎とするインキ配合物であって、上記インキが、例示を目的として、
・ より高い安定性、及び/又は、
・ 改善された表面張力、100、
・ より良好なアニーリング(堆積物の均質性)、及び/又は、
・ 印刷中の気泡/フォームの発生の不存在、及び/又は、
・ 室温で乾燥させた後の優れた導電性、
が挙げられる一連の改善された特性を特徴とする、インキ配合物に関する。
【0004】
より具体的には、本発明は、インクジェット型の非接触印刷技術だけでなく、スロットダイコーティング、吹き付け、塗布(「ブレード塗布」)、パッド印刷、フレキソ印刷、及び/又はエッチングにも適した導電性ナノ粒子を基礎とするインキの分野に関する。
【0005】
本発明による導電性ナノ粒子を基礎とするインキは、あらゆる種類の支持体上に印刷され得る。挙げられる例には、以下の支持体:ポリマー及びポリマー誘導体、複合材料、有機材料、及び/又は無機材料、特に紙が含まれる。
【0006】
本発明による導電性ナノ粒子を基礎とするインキは、多くの利点を有し、なかでも、非限定的な例として、
・ 現行のインキよりも優れた経時安定性、
・ 改善された表面張力、
・ 溶剤及びナノ粒子の非毒性、
・ ナノ粒子の固有の特性の維持、そして特に、
・ 一般的に120℃から300℃の間のアニーリング温度についての改善された導電性、及び/又は、
・ 室温で乾燥させた後の優れた導電性、
が挙げられる。
【0007】
本発明はまた、上記インキを調製する改善された方法に関し、最終的に、本発明はまた、インクジェット型の非接触印刷、スロットダイコーティング、吹き付け、塗布(「ブレード塗布」)、パッド印刷、フレキソ印刷、及び/又はエッチングの分野における上記インキの使用に関する。
【背景技術】
【0008】
近年の文献を踏まえると、導電性コロイドナノ結晶は、それらの新規の光電子的特性、光起電的特性、及び触媒的特性のおかげで大きな注目を浴びている。これにより、導電性コロイドナノ結晶は、ナノエレクトロニクス、太陽電池、センサの分野、及び生物医学分野における将来の用途のために特に有利である。
【0009】
導電性ナノ粒子を開発することで、新たな用途を提供し、多数の新たな利用を想定することが可能となる。ナノ粒子は非常に大きな表面積/体積比を有し、その表面を界面活性剤で置き換えると、特定の特性、とりわけ光学特性及びそれらの分散可能性に変化を伴う。
【0010】
それらの小さなサイズにより、特定の場合には量子閉じ込め効果が引き起こされる場合がある。「ナノ粒子」という用語は、粒子の寸法の少なくとも1つが250nm以下である場合に使用される。ナノ粒子は、予め規定された形状を有しない場合に、ビーズ(1nm~250nm)、ロッド(200nm~300nm未満の長さ)、ワイヤ(数100nm又は更には数μm)、ディスク、星状体(stars)、角錐体、四脚体(tetrapods)、立方体、又は結晶体(crystals)であってもよい。
【0011】
導電性ナノ粒子を合成する幾つかのプロセスが開発されている。なかでも、非網羅的に、
- 物理的プロセス:基材をその表面上で反応又は分解する揮発させた化学的前駆体に曝露する化学蒸着(CVD)。このプロセスは一般的に、使用される条件に形態が依存するナノ粒子の形成につながる;熱蒸発;ナノ粒子を構成する原子をガス流の形で基材(ここにナノ粒子が結合することとなる)へと高速で衝突させる分子線エピタキシー、
- 化学的プロセス又は物理化学的プロセス:マイクロエマルジョン;前駆体を含有する溶液にレーザー光線を照射する場合の溶液中でのレーザーパルス。ナノ粒子は、溶液中でレーザー光線に沿って形成されることとなる;マイクロ波照射による合成;界面活性を利用した指向型合成;超音波を介した合成;電気化学的合成;有機金属的合成;アルコール媒体中での合成、
を挙げることができる。
【0012】
物理的合成はより多くの出発物質を消費し、大きな損失を伴う。物理的合成は一般的に、時間がかかり、高温を要することから、工業的規模の生産に移すには魅力的ではない。これにより、特定の基材、例えばフレキシブルな基材には不適切となる。更に、これらの合成は、基材上に小さなサイズの枠内で直接実施される。これらの生産方法は、比較的厳格であり、大きなサイズの基材上での製造を可能にしないが、本発明によるインキ配合物で使用される銀ナノ粒子の生産には全体的に適している可能性がある。
【0013】
化学的合成は、これについては多くの利点を有する。まずは溶液中で作業するという利点がある。こうして得られた導電性ナノ粒子は、既に溶剤中に分散されているため、その貯蔵及び使用が容易である。殆どの場合に、ナノ粒子は合成の最後に基材に付着していないため、それらの使用においてより大きな自由度が与えられる。これにより、種々のサイズ及び種々の性質の基材を使用する道が開かれる。これらの方法により、使用される出発物質をより良好に制御することもでき、損失を抑えることもできる。合成パラメーターを正しく調整することで、導電性ナノ粒子の合成及び成長速度の良好な制御がもたらされる。これにより、バッチ間での良好な再現性と共に、ナノ粒子の最終的な形態の良好な制御を保証することも可能である。ナノ粒子を迅速かつ大量に化学的に生産することができると同時に、製品に関して一定の自由度を確保することができることにより、工業的規模の生産を想定することができる。分散された導電性ナノ粒子の生産により、カスタマイズに関する多くの展望が開かれる。従って、目的とする用途に応じて、ナノ粒子の表面に存在する安定剤の性質を調整することが可能である。特に、湿性堆積には様々な方法が存在する。何れの場合にも、表面張力又は粘度などのインキの物理的特性に特に注意を払わねばならない。ナノ粒子を基礎とするインキを配合する間に使用される補助剤は、堆積方法の要件への準拠を可能にする。しかしながら、表面配位子もこれらのパラメーターに影響を及ぼし、それらの選択が決定的であることが分かる。従って、インキの全体像を見通して、関係する全ての要素、即ちナノ粒子、溶剤、配位子、及び補助剤を組み合わせて、目標とする用途に適合可能な生産物を得ることが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】国際公開第2016/184979号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、インクジェット型の非接触印刷、スロットダイコーティング、吹き付け、塗布(「ブレード塗布」)、パッド印刷、フレキソ印刷、及び/又はエッチングに適した、銀ナノ粒子を高濃度で含むインキ、例えば上記銀ナノ粒子の安定な分散液を提供することによって、従来技術の1つ以上の欠点を克服することである。上記インキは、例示を目的として、
- より高い安定性、及び/又は、
- 改善された表面張力、及び/又は、
- より良好なアニーリング(堆積物の均質性)、及び/又は、
- 印刷中の気泡/フォームの発生の不存在、及び/又は、
- 室温で乾燥させた後の優れた導電性、
が挙げられる一連の改善された特性を特徴とする。
【0016】
特許文献1に記載されるインキは既に上記の多くの要件を満たしているが、本出願人は、その性能及びその使用範囲、従って可能な利用範囲の双方を更に改善することを可能にする新しいインキ組成物を開発することに成功した。
【課題を解決するための手段】
【0017】
従って、本発明は、少なくとも、
1.銀ナノ粒子から成る1種の化合物「a」、
2.溶剤の混合物から成る1種の化合物「e」、
3.水から成る1種の化合物「W」、
を含むインキ組成物であって、
A.化合物「a」は、上記インキ組成物の少なくとも10重量%を構成し、
B.化合物「e」は、上記インキ組成物の少なくとも55重量%、好ましくは少なくとも60重量%を構成し、かつ、
B.1.少なくとも1種の脂肪族一価アルコールと、
B.2.少なくとも1種のテルペンアルコールと、
B.3.少なくとも1種のポリオール及び/又は1種のポリオール誘導体と、
から成り、かつ、
C.化合物「W」は、上記インキ組成物の少なくとも2.5重量%を構成し、かつ、
D.化合物「a」、化合物「e」及び化合物「W」の総量は、上記インキ組成物の少なくとも80重量%を構成することを特徴とする、インキ組成物に関する。
【0018】
本発明によるインキの20℃で測定された粘度は一般的に、2mPa・s~2000mPa・sの間、好ましくは5mPa・s~1000mPa・sの間、例えば5mPa・s~50mPa・sの間、例えば5mPa・s~25mPa・sの間である。
【0019】
本出願人は、特許請求の範囲に記載される化合物及びそれらのそれぞれの濃度が組み合わされた本発明による銀ナノ粒子を基礎とするインキ組成物が、改善された特性、特に改善された安定性、優れた吐出可能性、並びに改善された導電性を有するインキを、非接触印刷(インクジェット)並びにスロットダイコーティング、吹き付け、塗布(「ブレード塗布」)、パッド印刷、フレキソ印刷、及び/又はエッチングの分野で使用するのに特に適した粘度の範囲で得ることを可能とし、特に本発明による銀ナノ粒子を基礎とするインキ配合物が、例示を目的として、
- より高い安定性、及び/又は、
- 改善された表面張力、及び/又は、
- より良好なアニーリング(堆積物の均質性)、及び/又は、
- 印刷中の気泡/フォームの発生の不存在、及び/又は、
- 室温で乾燥させた後の優れた導電性、
が挙げられる一連の改善された特性を有することを見い出した。
【0020】
このようにして配合されたインキのこれらの改善された特性、特にこのより高い安定性は、選択された溶剤及び水の思いもよらない組み合わせのため特に予想外であり、実際、出願人がこの改善された安定性を観察し、こうして本発明の前提を想定することができたのは、溶剤の特定の組み合わせへの水の偶発的な添加によるものである。
【0021】
本発明による導電性ナノ粒子を基礎とするインキは、あらゆる種類の支持体上に印刷され得る。挙げられる例には、以下の支持体:ポリマー及びポリマー誘導体、複合材料、有機材料、無機材料が含まれる。また、本発明によるインキを室温で使用することができることにより、使用可能な支持体の点でもその使用分野を拡げることが可能となる。例示を目的として、
- プラスチック(60℃未満のTg)、例えばPET、PVC(例えば、食品用フィルム)及び/又はポリスチレン上での印刷、
- コート紙又は非コート紙上での印刷、
- 生物学的基材(例えば、有機組織及び/又は植物組織)上での印刷、
- バイオセンサーの製造、及び/又は、
- 粗大な構成要素(例えば、壁、大きなサイズのプラスチック構成要素など)上での印刷、
が挙げられる。
【0022】
従って、本発明による化合物「a」は、銀ナノ粒子から成る。
【0023】
本発明の一変形実施形態によれば、本発明の目的は、特に化合物「a」が1nmから250nmの間の寸法を有する銀ナノ粒子から成る場合に達成される。ナノ粒子のサイズは、例えば透過型電子顕微鏡法によって決定される、安定剤を除いた銀を含む粒子の平均直径であると定義される。
【0024】
本発明の一変形実施形態によれば、銀ナノ粒子は、長球形状及び/又は球形状を有する。本発明及び以下の特許請求の範囲では、「長球形状」という用語は、形状が球形状に似ているが、完全な円形ではない(「準球形」)、例えば楕円体形状であることを意味する。ナノ粒子の形状は一般的に、顕微鏡で撮影された写真によって判定される。従って、本発明のこの変形実施形態によれば、ナノ粒子は、1nm~250nmの間の直径を有する。
【0025】
本発明の一変形実施形態によれば、銀ナノ粒子は、予め規定された形を有しない場合に、ビーズ(1nm~250nm)、ロッド(200nm~300nm未満の長さ)、ワイヤ(数100nm又は更には数μm)、立方体、小板、又は結晶体の形で存在する。
【0026】
本発明の特定の実施形態によれば、銀ナノ粒子は、物理的合成又は化学的合成によって事前に合成されている。本発明の文脈においては、あらゆる物理的合成又は化学的合成を使用することができる。本発明による特定の一実施形態では、銀ナノ粒子は、銀前駆体として有機銀塩又は無機銀塩を使用する化学的合成を介して得られる。挙げられる非限定的な例には、単独で又は混合物として、酢酸銀、硝酸銀、炭酸銀、リン酸銀、三フッ化銀(silver trifluorate)、塩化銀、過塩素酸銀が含まれる。本発明の一変形形態によれば、前駆体は酢酸銀である。
【0027】
従って、本発明で有利に使用されるナノ粒子は、それらの合成方法(物理的又は化学的)に拘らず、有利には1nm~250nmの間であるD50値を特徴とし、これらのナノ粒子はまた、好ましくは凝集物を含まない単分散(均質)分布を特徴とする。長球形の銀ナノ粒子について10nm~150nmの間のD50値を使用することが有利である場合もある。
【0028】
従って、本発明によるインキ組成物の少なくとも2.5重量%を構成する化合物「W」は、水から成る。特に、本発明によるインキ組成物中の含水量は、少なくとも3重量%、例えば少なくとも4重量%であり、好ましくは15重量%未満、例えば10重量%未満である。
【0029】
従って、本発明によるインキ組成物の少なくとも55重量%、好ましくは少なくとも60重量%を構成する化合物「e」は、
- B.1.少なくとも1種の脂肪族一価アルコールと、
- B.2.少なくとも1種のテルペンアルコールと、
- B.3.少なくとも1種のポリオール及び/又は1種のポリオール誘導体と、
から成る溶剤の混合物から成る。
【0030】
特に、本発明によるインキ組成物中の脂肪族一価アルコールの含有量は、少なくとも5重量%、例えば少なくとも10重量%であり、好ましくは25重量%未満、例えば20重量%未満である。
【0031】
特に、本発明によるインキ組成物中のテルペンアルコールの含有量は、少なくとも10重量%、例えば少なくとも15重量%であり、好ましくは35重量%未満、例えば30重量%未満である。
【0032】
特に、本発明によるインキ組成物中のポリオール及びポリオール誘導体の含有量は、少なくとも20重量%、例えば少なくとも30重量%であり、好ましくは50重量%未満、例えば45重量%未満である。
【0033】
脂肪族一価アルコールは、好ましくは、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール及びヘキサノール、並びにそれらの異性体(例えば、イソプロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノール)、及び/又は上記脂肪族一価アルコールの2種以上の混合物から成る群から選択される。
【0034】
テルペンアルコールは、好ましくは、メントール、ネロール、シネオール、ラバンジュロール、ミルセノール、テルピネオール(α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、及び/又はテルピネン-4-オール、好ましくはα-テルピネオール)、イソボルネオール、シトロネロール、リナロール、ボルネオール、ゲラニオール、及び/又は上記アルコールの2種以上の混合物から選択され、α-テルピネオール及びγ-テルピネオールの混合物が特に適していることが判明した。
【0035】
ポリオール及び/又はポリオール誘導体は、好ましくは、260℃未満の沸点を特徴とする。挙げられる例には、グリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,2-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキシレングリコールなど)、及び/又はグリコールエーテル(例えば、グリコールモノエーテル又はジエーテルが含まれ、なかでも、挙げられる例には、エチレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、グリム、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジブチレングリコールジエチルエーテル、ジグリム、エチルジグリム、ブチルジグリム)、及び/又はグリコールエーテルアセテート(例えば、2-ブトキシエチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート)及び/又は上述の溶剤の2種以上の混合物が含まれる。本発明による好ましい実施形態では、インキは、少なくとも2種のポリオール及び/又はポリオール誘導体、好ましくは少なくとも2種のグリコールエーテルを含む。TEGMEという略記によっても知られる2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エタノール、及びブチルカルビトールという名称でも知られる2-(2-ブトキシエトキシ)エタン-1-オールが、本発明による配合物に特に適した2種のグリコールエーテルである。
【0036】
本発明の一変形実施形態によれば、インキ組成物はまた、濃度が好ましくは0.01重量%を超える、例えば0.1重量%~5重量%の間である化合物(p)から成る少なくとも1種の接着促進剤を含む。挙げられる接着促進剤の例には、アクリルポリマー、シラン、シロキサン、及び/又はポリシロキサンが含まれ、その目的は、様々な種類の機械的応力に対する耐久性、例えば多数の基材への接着を改善することである。特許請求の範囲に記載されるインキに特に適した基材の例示として、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリールエーテルケトン、ポリエステル、熱安定化ポリエステル、ガラス、ITOガラス、AZOガラス、SiNガラスが挙げられる。
【0037】
本発明の一変形実施形態によれば、インキ組成物はまた、化合物「f」、化合物「g」又はこれら2つの混合物から成る少なくとも1種のレオロジー調整剤を含み、インキ中でのそれらの合計濃度は、好ましくは0.01重量%を超える、例えば0.1重量%~5重量%の間である。
【0038】
本発明による化合物「f」は、例えば尿素型レオロジー調整剤から選択されるレオロジー調整剤から成る。尿素型レオロジー調整剤は、好ましくは変性尿素、好ましくはポリ尿素及び/又はそれらの混合物から選択される。
【0039】
本発明による化合物「g」は、例えばセルロース型レオロジー調整剤から選択されるレオロジー調整剤から成る。挙げられる例には、アルキルセルロース、ナノセルロース、好ましくはエチルセルロース、ニトロセルロース、及び/又はそれらの混合物が含まれる。
【0040】
本発明によるインキの調製の特定の例を、以下に例示を目的として記載する。
【0041】
全てのアルコール溶剤+水の混合物を反応器中で機械的に撹拌しながら調製する。次いで任意に、接着促進剤及び/又はレオロジー調整剤を添加する。次いで、この混合物に銀ナノ粒子を添加し、撹拌を3時間継続する。次いで、超音波処理を15分間実施する。
【0042】
本発明によるインキの利点は、その調製を、非制限的な圧力及び/又は温度の条件下で、例えば、通常条件又は周囲条件に近い又はそれと同一の圧力及び/又は温度の条件下で行うことができるということにある。通常又は周囲の圧力及び/又は温度の条件の40%未満に維持することが好ましい。例えば、本出願人は、インキを調製する間の圧力及び/又は温度の条件を、通常条件又は周囲条件の値の前後で最大30%、好ましくは15%変動する値に維持することが好ましいことを見い出した。従って、これらの圧力条件及び/又は温度条件の制御が、有利にはこれらの条件を満たすためにインキ調製装置に含まれ得る。非制限的な条件下でのインキの調製と関連する利点は、上記インキの容易な使用によっても明らかに反映される。
【0043】
本発明の特定の実施形態によれば、本発明により配合されたインキは、40重量%未満、好ましくは12.5重量%~30重量%の間、より具体的には15重量%~25重量%の間の銀ナノ粒子(化合物「a」)の含有量を有する。
【0044】
本発明の一実施形態によれば、銀インキは、
- 15重量%~25重量%の間の含有量の化合物「a」(銀ナノ粒子)と、
- 60重量%~80重量%の間の含有量の化合物「e」(脂肪族一価アルコール、テルペンアルコール、並びにポリオール及び/又はポリオール誘導体)と、
- 4重量%~10重量%の間の含有量の化合物「W」(水)と、
- 0.1重量%~5重量%の間の含有量の化合物「p」(接着促進剤)と、
を含む。
【0045】
従って、本発明によれば、化合物「a」、化合物「e」及び化合物「W」の総量は、インキ組成物の少なくとも80重量%を構成する。本発明の特定の変形形態によれば、化合物「a」、化合物「e」、化合物「f」、化合物「g」、化合物「W」及び化合物「p」の総量は、好ましくは、最終的なインキの少なくとも85重量%、好ましくは少なくとも90重量%、例えば少なくとも95重量%、少なくとも98重量%、少なくとも99重量%、又は更には100重量%を構成する。
【0046】
本発明の一実施形態によれば、インキはその組成中に制御された濃度で水を含むので、選択される溶剤「e」の選択に関してはより大きな自由度が許容される。具体的には、特許請求の範囲に記載されるインキの成分は、こうして調製されたインキの安定性を損なうことなく水を含むことができるため、もはや高い純度を有する溶剤を選択する必要はなく、これは本発明によるインキの更なる利点を表す。
【0047】
本発明の一実施形態によれば、銀インキはまた、任意に酸化防止剤から成る化合物「h」を含み得る。挙げられる例には、
- アスコルビン酸、即ちビタミンC(E300)、アスコルビン酸ナトリウム(E301)、アスコルビン酸カルシウム(E302)、5,6-ジアセチルL-アスコルビン酸(E303)、6-パルミチルL-アスコルビン酸(E304)、
- クエン酸(E330)、クエン酸ナトリウム(E331)、クエン酸カリウム(E332)、及びクエン酸カルシウム(E333)、
- 酒石酸(E334)、酒石酸ナトリウム(E335)、酒石酸カリウム(E336)、及び酒石酸カリウムナトリウム(E337)、
- ブチルヒドロキシアニソール(E320)、及びブチルヒドロキシトルエン(E321)、
- 没食子酸オクチル(E311)、又は没食子酸ドデシル(E312)、
- 乳酸ナトリウム(E325)、乳酸カリウム(E326)、又は乳酸カルシウム(E327)、
- レシチン(E322)、
- 天然トコフェロール(E306)、合成α-トコフェロール(E307)、合成γ-トコフェロール(E308)、及び合成δ-トコフェロール(E309)(これらのトコフェロールが一緒になってビタミンEを構成する)、
- オイゲノール、チモール、及び/又はシンナムアルデヒド、並びに
- 上記酸化防止剤の2種以上の混合物、
が含まれる。
【0048】
これは本発明による好ましい実施形態を構成するものではないが、インキ組成物は、例示を目的として、
- 溶剤(例えば、炭化水素;例示を目的として、ペンタン(C5H12)、ヘキサン(C6H14)、ヘプタン(C7H16)、オクタン(C8H18)、ノナン(C9H20)、デカン(C10H22)、ウンデカン(C11H24)、ドデカン(C12H26)、トリデカン(C13H28)、テトラデカン(C14H30)、ペンタデカン(C15H32)、セタン(C16H34)、ヘプタデカン(C17H36)、オクタデカン(C18H38)、ノナデカン(C19H40)、エイコサン(C20H42)、シクロペンタン(C5H10)、シクロヘキサン(C6H12)、メチルシクロヘキサン(C7H14)、シクロヘプタン(C7H14)、シクロオクタン(C8H16)(好ましくは、これが化合物「b」として使用されない場合)、シクロノナン(C9H18)、シクロデカン(C10H20)が挙げられる5個~20個の炭素原子を含むアルカン;例示を目的として、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、エチルトルエンが挙げられる7個~18個の炭素原子を含む芳香族炭化水素、及びそれらの混合物)、
- 分散剤、例えば少なくとも1個の炭素原子を含む有機分散剤(これらの有機分散剤は、ハロゲン化化合物、窒素、酸素、硫黄、又はケイ素などの1個以上の非金属ヘテロ原子も含み得る。例示を目的として、チオール及びその誘導体、アミン及びその誘導体(例えば、アミノアルコール及びアミノアルコールエーテル)、カルボン酸及びそのカルボキシレート誘導体、及び/又はそれらの混合物が挙げられる)、
が挙げられる追加の化合物の存在も許容し得る。
【0049】
本発明の一実施形態によれば、上記インキは、有利には非接触型インクジェット印刷で使用され得る。
【0050】
従って、本発明が、特許請求の範囲に記載される本発明の利用分野から逸脱することなく、多くの他の特定の形の実施形態を可能にすることは当業者には明らかである。従って、本実施形態は例示とみなされるべきであり、添付の特許請求の範囲によって規定される範囲内で変更されてもよい。
【0051】
ここで、本発明及びその利点を、以下の表に整理された配合物によって例示する。インキ配合物は、詳細な説明で上記された実施形態に従って調製された。使用される化学的化合物及び特性は表に示されている。F3は本発明による配合物であるが、CF4は、比較目的で示された本発明によるものではない(テルピネオール及び水が存在しない)配合物である。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
銀(Ag)ナノ粒子は長球形であり、50nmのD50を有する。
【0055】
Edaplanは、ミュンツィング・ヘミー・ゲーエムベーハー(Munzing Chemie GmbH)社製のEdaplan(登録商標)LA 413であり、これは変性有機ポリシロキサンである。
【0056】
TEGMEは、2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エタノールである。
【0057】
ブチルカルビトールは、2-(2-ブトキシエトキシ)エタン-1-オールである。
【0058】
【表3】
【0059】
本発明に挙げられるインキのシート抵抗は、あらゆる適切な方法に従って測定され得る。表に整理された測定値に対応する例として、シート抵抗は、有利には以下の方法に従って測定される。スピンコーターによって基材上に堆積されたインキ(600rpm/3分-例えばガラス)を、ホットプレート又はオーブン(150℃)を使用してアニーリングに供する。シート抵抗の分析は、以下の条件下で行われる。
- 装置の参照:S302 Resistivity Stand
- 4ポイントヘッドの参照:SP4-40045TFY
- 電源の参照:Agilent U8001A
- マルチメーターの参照:Agilent U3400
- 測定温度:室温
- 電圧/抵抗変換係数:4.5324
【0060】
本発明に挙げられる銀ナノ粒子の含有量は、あらゆる適切な方法に従って測定され得る。表に整理された測定値に対応する例として、含有量は、有利には以下の方法に従って測定される。
- 熱重量分析
- 装置:TAインスツルメント(TA Instrument)社製のTGA Q50
- 坩堝:アルミナ- 方法:ランプ
- 測定範囲:室温から600℃
- 昇温:20℃/分
【0061】
本発明に挙げられるインキの粘度は、あらゆる適切な方法に従って測定され得る。一例として、粘度は、有利には以下の方法に従って測定され得る。
- 装置:TAインスツルメント(TA Instrument)社製のAR-G2レオメーター
- コンディショニング時間:40s-1で1分間の予備剪断/1分間の平衡化
- 試験型:剪断段階
- 段階:40s-1、100s-1、及び1000s-1
- 段階の期間:5分間
- モード:線形
- 測定:10秒ごと
- 温度:20℃
- 曲線再処理方法:ニュートン性
- 再処理領域:曲線全体
【0062】
本発明に挙げられるインキの表面張力は、あらゆる適切な方法に従って測定され得る。一例として、表面張力は、有利には以下の方法に従って測定され得る。
- 装置:アポロ・インスツルメント(Apollo Instrument)社製のOCA 15
- 方法:
- ペンダントドロップ(左)
- 測定容量:0.2μL
- 流速:0.5μL/秒
- 1.65mmの針
- インキ密度を入力:1.1675
- 測定:インキ容量:1mLのインキ/測定回数=4
【0063】
インクジェット印刷物は、ケレン・テクノロジー(Kelenn Technology)社製のKSCANプリンターを用いて作成された。
- 解像度:600×1200dpi
- 基材:Folex CF-T1/PD
- レイヤー数:1
【0064】
本発明の一変形形態によるインキ組成物は、そのシート抵抗特性値が、300nm以下の厚さの場合に350mΩ/sq未満であることを特徴とする(150℃のアニーリング温度)。
【0065】
上記の2つの配合物で作成された印刷物の比較は、本発明によって与えられる利点の視覚化の好例を表す。具体的には、配合物F3の印刷解像度において、CF4の印刷解像度に比べて顕著な改善が認められる。