(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】フィルムコンデンサ用誘電体フィルム、これを用いたフィルムコンデンサおよび連結型コンデンサ、ならびにインバータ、電動車輌
(51)【国際特許分類】
H01G 4/32 20060101AFI20230906BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20230906BHJP
C08K 5/07 20060101ALI20230906BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230906BHJP
H01G 4/228 20060101ALI20230906BHJP
H01G 4/38 20060101ALI20230906BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20230906BHJP
【FI】
H01G4/32 511L
C08J5/18 CEZ
C08K5/07
C08L101/00
H01G4/228 J
H01G4/38 A
H02M7/48 Z
(21)【出願番号】P 2021567171
(86)(22)【出願日】2020-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2020045549
(87)【国際公開番号】W WO2021131653
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2019235159
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 和也
(72)【発明者】
【氏名】谷川 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 泰
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】実開昭53-081344(JP,U)
【文献】特開平10-072552(JP,A)
【文献】特開2009-023918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/14
H01G 4/228
H01G 4/32
H01G 4/38
H02M 7/48
C08J 5/18
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂
中に(B)金属ジケトン錯体
が分散した、厚さが0.1~10μmであるフィルムコンデンサ用誘電体フィルム。
【請求項2】
(B)金属ジケトン錯体の中心金属は、Mo、V、Zn、Ti、ZrおよびAlから選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のフィルムコンデンサ用誘電体フィルム。
【請求項3】
(B)金属ジケトン錯体の配位子は、β-ジケトンを一つ以上含む、請求項1または2に記載のフィルムコンデンサ用誘電体フィルム。
【請求項4】
(B)金属ジケトン錯体の配位子は、アセチルアセトナート、ジベンゾイルメタン、アセト酢酸エチルおよびマロン酸ジエチルから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか1つに記載のフィルムコンデンサ用誘電体フィルム。
【請求項5】
(A)熱可塑性樹脂は、ガラス転移点が50℃以上である、請求項1~
4のいずれか1つに記載のフィルムコンデンサ用誘電体フィルム。
【請求項6】
(A)熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂およびポリエーテルイミド樹脂から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~
5のいずれか1つに記載のフィルムコンデンサ用誘電体フィルム。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載のフィルムコンデンサ用誘電体フィルムの製造法であって、
前記熱可塑性樹脂を溶媒に溶解し、さらに前記金属ジケトン錯体を添加し混合して樹脂溶液を作成し、続いて前記樹脂溶液を基材の上に塗布して乾燥し成膜とした後、前記成膜された膜を前記基材から剥がしてフィルムとするフィルムコンデンサ用誘電体フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記樹脂溶液に、(C)ジケトン、アルコールまたはカルボン酸の少なくともいずれか1つをさらに含む、請求項
7記載のフィルムコンデンサ用誘電体フィルム
の製造方法。
【請求項9】
(C)ジケトンは、β-ジケトン、もしくはケト酢酸エステルである、請求項
8に記載のフィルムコンデンサ用誘電体フィルム
の製造方法。
【請求項10】
前記β-ジケトンは、アセチルアセトナートまたはジベンゾイルメタンの少なくともいずれか1つを含み、前記ケト酢酸エステルは、アセト酢酸エチルまたはマロン酸ジエチルの少なくともいずれか1つを含む、請求項
9に記載のフィルムコンデンサ用誘電体フィルム
の製造方法。
【請求項11】
(C)アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノールおよび2-エチルヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノールから選ばれる少なくとも1種である、請求項
8~10のいずれか1つに記載のフィルムコンデンサ用誘電体フィルム
の製造方法。
【請求項12】
請求項1~
6のいずれか1つに記載のフィルムコンデンサ用誘電体フィルム上に金属膜を備えた金属化フィルムが巻回または積層されてなる本体部と、該本体部に設けられた外部電極とを有することを特徴とするフィルムコンデンサ。
【請求項13】
請求項
12記載のフィルムコンデンサが、バスバーにより複数個接続されていることを特徴とする連結型コンデンサ。
【請求項14】
スイッチング素子により構成されるブリッジ回路と、該ブリッジ回路に接続された容量部とを備えているインバータであって、前記容量部が請求項
12に記載のフィルムコンデンサであることを特徴とするインバータ。
【請求項15】
スイッチング素子により構成されるブリッジ回路と、該ブリッジ回路に接続された容量部とを備えているインバータであって、前記容量部が請求項
13に記載の連結型コンデンサであることを特徴とするインバータ。
【請求項16】
電源と、該電源に接続されたインバータと、該インバータに接続されたモータと、該モータにより駆動する車輪と、を備えている電動車両であって、前記インバータが請求項
14または請求項
15に記載のインバータであることを特徴とする電動車輌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フィルムコンデンサ用誘電体フィルム、これを用いたフィルムコンデンサおよび連結型コンデンサ、ならびにインバータ、電動車輌に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の一例は、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示のフィルムコンデンサ用誘電体フィルムは、(A)熱可塑性樹脂中に(B)金属ジケトン錯体が分散した、厚さが0.1~10μmである構成である。
本開示のフィルムコンデンサ用誘電体フィルムの製造方法は、前記熱可塑性樹脂を溶媒に溶解し、さらに前記金属ジケトン錯体を添加し混合して樹脂溶液を作成し、続いて前記樹脂溶液を基材の上に塗布して乾燥し成膜とした後、前記成膜された膜を前記基材から剥がしてフィルムとする。
【0005】
本開示のフィルムコンデンサ用フィルムコンデンサは、上記のフィルムコンデンサ用誘電体フィルム上に金属膜を備えた金属化フィルムが巻回または積層されてなる本体部と、該本体部に設けられた外部電極とを有する。
【0006】
本開示の連結型コンデンサは、上記のフィルムコンデンサが、バスバーにより複数個接続されている。
【0007】
本開示のインバータは、スイッチング素子により構成されるブリッジ回路と、該ブリッジ回路に接続された容量部とを備えているインバータであって、前記容量部が上記のフィルムコンデンサまたは連結型コンデンサである。
【0008】
本開示の電動車輌は、電源と、該電源に接続されたインバータと、該インバータに接続されたモータと、該モータにより駆動する車輪と、を備えている電動車両であって、前記インバータが上記のインバータである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本開示の目的、特色、および利点は、下記の詳細な説明と図面とからより明確になるであろう。
【0010】
【
図1】本実施形態にかかるフィルムコンデンサ用誘電体フィルムの走査型透過電子顕微鏡(STEM)写真である。
【
図2A】フィルムコンデンサ用誘電体フィルムの表面に金属膜を有する構造を模式的に示す断面図である。
【
図2B】第1実施形態のフィルムコンデンサを示す外観斜視図である。
【
図3】フィルムコンデンサの第2実施形態の構成を模式的に示した展開斜視図である。
【
図4】連結型コンデンサの一実施形態の構成を模式的に示した斜視図である。
【
図5】インバータの一実施形態の構成を説明するための概略構成図である。
【
図6】電動車輌の一実施形態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示のフィルムコンデンサの基礎となる構成のフィルムコンデンサは、たとえばポリプロピレン樹脂からなる誘電体フィルムの表面に電極となる金属膜を蒸着した金属化フィルムを、巻回あるいは一方向に複数枚積み重ねて積層して形成されている。
【0012】
電子機器の小型化、コンデンサの高容量化などにより、電子部品の使用環境が高温化している。これらの電子部品には、高温の環境下でも長時間にわたり安定な電気的特性が得られる耐熱性が要求されている。
【0013】
フィルムコンデンサの小型化を図る手段としては、誘電体フィルムの薄層化や、誘電体フィルムの積層数や巻回数の低減が挙げられる。誘電体フィルムを薄層化するためには、誘電体フィルムの耐電圧を向上させる必要がある。例えば、特許文献1では、耐電圧を高めるため、誘電体フィルムに、エポキシ基を有する有機樹脂にセラミック粒子を分散させた複合誘電体材料を適用することが提案されている。
【0014】
フィルムコンデンサのさらなる小型化のために、フィルムコンデンサ用誘電体フィルムとして、従来よりも耐電圧性を高めることが望まれていた。
【0015】
本開示の目的は、耐電圧性が向上したフィルムコンデンサ用誘電体フィルム、これを用いたフィルムコンデンサおよび連結型コンデンサ、ならびにインバータ、電動車輌を提供することである。
【0016】
本実施形態のフィルムコンデンサ用誘電体フィルムは、(A)熱可塑性樹脂と、(B)金属ジケトン錯体と、を含む。
【0017】
金属ジケトン錯体は、中心金属に対して、一または複数のジケトンが、配位した錯体である。金属ジケトン錯体を用いると、中心金属の金属元素が、熱可塑性樹脂中に単分子レベルで分散する。また、金属ジケトン錯体は、熱可塑性樹脂と、各種反応による結合などが生じておらず、錯体を維持したまま、または少なくともジケトンおよび金属元素の状態で、熱可塑性樹脂中に分散している。フィルムコンデンサ用誘電体フィルムの断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM)で観察したとき、
図1に示すように、金属元素は、直径1nm以下として見える程度に分散されている。金属ジケトン錯体と熱可塑性樹脂とが未反応であること、例えば、熱可塑性樹脂とアセチルアセトナートとのエステル結合およびエーテル結合などが存在していないことは、NMR(核磁気共鳴分光法)によって確認されている。
【0018】
一般的に樹脂の劣化、すなわちフィルムコンデンサ用誘電体フィルム特性としては耐電圧性の低下の原因のひとつに酸素による分子内結合の切断がある。上記のように、本実施形態のフィルムコンデンサ用誘電体フィルムでは、熱可塑性樹脂中に、単分子レベルで金属元素を分散させることができる。酸素は、金属錯体と反応して金属酸化物を生成することから、熱可塑性樹脂中の金属元素によって、酸素が捕捉(トラップ)され、熱可塑性樹脂の特性劣化が抑制される。特に、金属ジケトン錯体として熱可塑性樹脂中に、金属元素が単分子レベルで分散することで、フィルムコンデンサ用誘電体フィルムの単位体積あたりの金属元素含有量、すなわち捕捉される酸素量が増大する。これにより、フィルムコンデンサ用誘電体フィルムの耐電圧性を向上させることができる。
【0019】
(A)熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂およびポリエーテルイミド樹脂から選ばれる少なくとも1種などを用いることができる。また、これら複数種類の樹脂の共重合体であってもよい。これらの樹脂は、耐熱性に優れており、これらの樹脂を用いることで、耐熱性に優れたフィルムコンデンサ用誘電体フィルムとすることができる。
【0020】
上記の各樹脂について、たとえば、ポリカーボネート樹脂であれば一般式(1)、ポリアリレート樹脂であれば一般式(2)または(3)で表される繰り返し単位を有するポリマーが、一例として挙げられる。
【0021】
【0022】
一般式(1)中、Xは、脂肪族の2価基または環状脂肪族の2価基、一般式(4)で表される2価基から選ばれる少なくとも1種を示し、一般式(2)または(3)中、Xは、一般式(4)で表される2価基から選ばれる少なくとも1種を示す。一般式(3)中、Yは、置換もしくは無置換のアリーレン(arylene)基を示す。
【0023】
一般式(4)中、R1、R2は、それぞれ独立して置換もしくは無置換のアルキル基、アリール基、またはハロゲン原子を示す。Aは、単結合、炭素原子数1~12の直鎖状、分岐状、または環状のアルキレン基を示す。
【0024】
上記一般式(1)、(2)、(3)中のXの具体例としては、たとえば一般式(5a)~(5n)で表される2価基が挙げられる。
【0025】
【0026】
(A)熱可塑性樹脂として、環状オレフィン系樹脂を用いることもできる。環状オレフィン系樹脂であれば、たとえば一般式(6)に示すようなノルボルネン系モノマーの重合体などが挙げられる。ノルボルネン系モノマーは、環状オレフィンモノマーの一種であり、環状オレフィンモノマーとは、炭素原子で形成される環構造を有するとともに、当該環構造中に炭素-炭素二重結合を有する化合物である。環状オレフィンモノマーとしては、ノルボルネン系モノマーのほか、単環環状オレフィンなどが挙げられる。ノルボルネン系モノマーは、反応式(7)~(10)にそれぞれ示すような開環重合、ビニル共重合、ビニル重合、またはラジカル重合などにより、環状オレフィン系の有機樹脂を形成する。
【0027】
【0028】
式(6)~(10)中、R3、R4、およびR5は、任意の官能基である。また、環状オレフィン系の樹脂材料は、通常、単一の種類のノルボルネン系モノマーの重合体であるが、複数の異なる種類のノルボルネン系モノマーの重合体であってもよい。
【0029】
ノルボルネン系モノマーの具体例としては、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、テトラシクロドデセン類などが挙げられる。これらは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基などの炭化水素基や、カルボキシル基、酸無水物基などの極性基を置換基として含有する場合もあるが、非極性の、すなわち炭素原子と水素原子のみで構成されるノルボルネン系モノマーであることが好ましい。
【0030】
非極性のノルボルネン系モノマーには、非極性のジシクロペンタジエン類、非極性のテトラシクロドデセン類、非極性のノルボルネン類、五環体以上の非極性の環状オレフィン類などがある。
【0031】
ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環の二重結合以外に、さらに二重結合を有していてもよい。
【0032】
このような環状オレフィン系の樹脂材料としては、具体的には、ノルボルネン系開環重合体(以下、単に開環重合体という場合もある)であるJSR株式会社製のARTON(登録商標)、日本ゼオン株式会社製のZEONEX(登録商標)、ZEONOR(登録商標)や、ノルボルネン系のビニル共重合体(以下、単にビニル共重合体という場合もある)である三井化学株式会社製のAPEL(登録商標)、APO(登録商標)、ポリプラスチック株式会社製のTOPAS(登録商標)などが市販されている。また、ノルボルネン環を有するモノマーの開環重合体の水素添加物、ノルボルネン環を有するモノマーとα-オレフィン類との付加重合体、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンの付加重合体の水素添加物、環状ジエンの付加重合体及び環状ジエンの付加重合体の水素添加物などを用いることもできる。これらのなかでも、特に開環重合体、すなわちノルボルネン環を有するモノマーの開環重合体が、フィルム成形性、耐薬品性などの観点から好ましい。
【0033】
(B)金属ジケトン錯体
金属ジケトン錯体は、中心金属に対して、少なくともジケトンを含む配位子が、1または複数配位した錯体である。ジケトンは、分子内に2つのケトン基を有しており、この2つのケトン基によって、中心金属との配位結合が生じる。
【0034】
本実施形態の金属ジケトン錯体において、中心金属は、例えば、Mo、V、Zn、Ti、ZrおよびAlから選ばれる少なくとも1種である。前述のとおり、金属ジケトン錯体が熱可塑性樹脂中に分散し、中心金属による酸素の捕捉によって、フィルムコンデンサ用誘電体フィルムの耐電圧性が向上する。
【0035】
本実施形態の金属ジケトン錯体において、ジケトンは、上記の中心金属に配位するものであれば、特に限定されない。金属ジケトン錯体の配位子は、β-ジケトンを一つ以上含んでいてもよい。ジケトンとしては、例えば、アセチルアセトナート(アセチルアセトン)、ジベンゾイルメタン、アセト酢酸エチルおよびマロン酸ジエチルから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0036】
本実施形態の金属ジケトン錯体は、全て同じジケトンが配位していてもよく、複数種類のジケトンが配位していてもよい。例えば、中心金属がZrの場合は、4つのジケトンが配位されて金属ジケトン錯体となる。4つの配位子全てがアセチルアセトナートであれば、金属ジケトン錯体は、Zrアセチルアセトナート(式(11))である。複数種類のジケトンが配位する場合、一部のアセチルアセトナートが別のジケトンに置換されていてもよい。例えば、4つのアセチルアセトナートのうちひとつがジベンゾイルメタンに置換されていてもよい。
【0037】
【0038】
本実施形態のフィルムコンデンサ用誘電体フィルムにおいて、金属ジケトン錯体の含有量は、例えば、0.5~10質量%である。
【0039】
本実施形態のフィルムコンデンサ用誘電体フィルムは、添加剤として、(C)ジケトン、アルコールまたはカルボン酸の少なくともいずれか1つをさらに含んでいてもよい。添加剤(C)は、熱可塑性樹脂の酸化抑制効果を向上させることができる。
【0040】
(C)ジケトン、アルコールまたはカルボン酸
本実施形態のフィルムコンデンサ用誘電体フィルムは、例えば、溶媒中に、熱可塑性樹脂および金属ジケトン錯体を溶解させ、樹脂溶液を成膜することで得られる。ここで、金属ジケトン錯体は、熱可塑性樹脂が可溶な溶媒に対して難溶性を示すために、分散性が低下する場合がある。ジケトン、アルコールまたはカルボン酸を添加することで、金属ジケトン錯体が熱可塑性樹脂中に高分散することが可能となる。金属ジケトン錯体が熱可塑性樹脂中に高分散することで、中心金属による酸素の捕捉確率が高くなり、熱可塑性樹脂の酸化抑制効果が向上して、フィルムコンデンサ用誘電体フィルムの耐電圧性がさらに向上する。
【0041】
(C-1)ジケトン
添加剤であるジケトンは、上記金属ジケトン錯体の配位子であるジケトンとは、別に添加されてもよい。添加剤であるジケトンは、樹脂溶液中およびフィルムコンデンサ用誘電体フィルム中で単独の化合物として存在していてもよい。添加剤の一部のジケトンが、金像ジケトン錯体の一部の配位子として錯体を形成してもよい。
【0042】
添加剤であるジケトンは、上記の配位子であるジケトンと同様のものを用いることができる。ジケトンは、例えば、β-ジケトン、もしくはケト酢酸エステルを用いてもよい。β-ジケトンとしては、例えば、アセチルアセトナート(アセチルアセトン)またはジベンゾイルメタンの少なくともいずれかを用いることができる。ケト酢酸エステルとしては、例えば、アセト酢酸エチルまたはマロン酸ジエチルの少なくともいずれかを用いることができる。添加剤であるジケトンは、上記の配位子であるジケトンと同一の化合物を用いてもよく、異なる化合物を用いてもよい。例えば、金属ジケトン錯体として、Zrアセチルアセトナートを用い、添加剤として同一の化合物であるアセチルアセトンを用いてもよい。また、金属ジケトン錯体として、Zrアセチルアセトナートを用い、添加剤として異なる化合物であるジベンゾイルメタンを用いてもよい。異なる化合物を用いた場合、樹脂溶液中およびフィルムコンデンサ用誘電体フィルム中で、添加剤のジケトンが、金属ジケトン錯体の配位子の一部と置換されてもよい。
【0043】
本実施形態のフィルムコンデンサ用誘電体フィルムにおいて、ジケトンの含有量は、例えば、0.05~10質量%である。
【0044】
(C-2)アルコール
アルコールを添加剤として用いることで、金属ジケトン錯体が熱可塑性樹脂中に高分散することが可能となる。アルコールは、樹脂溶液中において、金属ジケトン錯体の配位子の一部と置換される。アルコール置換金属ジケトン錯体は、未置換の錯体よりも溶媒への可溶性が高くなる。
【0045】
添加剤であるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、2-エチルヘキサノールおよびオクタノール、ノナノール、デカノールから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。本実施形態のフィルムコンデンサ用誘電体フィルムにおいて、アルコールの含有量は、例えば、0.05~10質量%である。
【0046】
(C-3)カルボン酸
添加剤であるカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ラウリン酸、トリデシル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、クエン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、安息香酸、フタル酸から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。本実施形態の誘電体フィルムにおいて、カルボン酸の含有量は、例えば、0.05~10質量%である。
【0047】
本実施形態のフィルムコンデンサ用誘電体フィルムは、例えば以下のようにして得ることができる。熱可塑性樹脂を溶媒に溶解し、さらに、金属ジケトン錯体を添加し、樹脂溶液を得る。必要に応じて、さらに添加剤を添加してもよい。この樹脂溶液を用いて、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)製基材の上にフィルムコンデンサ用誘電体フィルムを成膜すればよい。成膜法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、ドクターブレード法、ダイコータ法およびナイフコータ法等から選ばれる成形法を用いることができる。
【0048】
本実施形態のフィルムコンデンサ用誘電体フィルムは、例えば、厚さが0.1~10μmである。また、フィルムコンデンサ用誘電体フィルムの絶縁破壊電界強度は、例えば、125℃で550~650V/μm、25℃で650~750V/μmである。
【0049】
溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノプロピルエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、キシレン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルアセトアミド、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン又は、これらから選択された2種以上の混合物を含んだ有機溶剤を用いる。
【0050】
樹脂溶液における熱可塑性樹脂の濃度(樹脂濃度)は、例えば1~25質量%である。樹脂溶液における金属ジケトン錯体の濃度は、例えば0.015~3質量%である。ジケトン、アルコールまたはカルボン酸の濃度は、例えば0.005~3質量%である。
【0051】
図2Aは、フィルムコンデンサ用誘電体フィルムの表面に金属膜を有する構造を模式的に示す断面図であり、
図2Bは、第1実施形態のフィルムコンデンサを示す外観斜視図である。
図2Bに示す第1実施形態のフィルムコンデンサAは、フィルムコンデンサ用誘電体フィルム1の片面に金属膜2を備えた金属化フィルム3を積層した本体部4に、外部電極5が設けられた構成を、基本的な構成とするものであり、必要に応じてリード線6が設置される。
【0052】
この場合、本体部4、外部電極5およびリード線6の一部は、必要に応じて絶縁性および耐環境性の点から、外装部材7に覆われていてもよい。
図2Bにおいては、外装部材7の一部を取り除いた状態を示しており、外装部材7の取り除かれた部分を破線で示している。
【0053】
本実施形態のフィルムコンデンサ用誘電体フィルム1は、
図2Aおよび
図2Bに示した積層型に限らず、巻回型のフィルムコンデンサBにも適用することができる。
【0054】
図3は、フィルムコンデンサの第2実施形態の構成を模式的に示した展開斜視図である。本実施形態のフィルムコンデンサBでは、巻回された金属化フィルム3a、3bにより本体部4が構成され、本体部4の対向する端面に外部電極5a、5bとしてメタリコン電極が設けられている。
【0055】
金属化フィルム3aは、フィルムコンデンサ用誘電体フィルム1aの表面に金属膜2aを有するものであり、金属化フィルム3bは、フィルムコンデンサ用誘電体フィルム1bの表面に金属膜2bを有するものである。
図3では、金属膜2a、2bはフィルムコンデンサ用誘電体フィルム1a、1bの幅方向の一端側に、金属膜2a、2bが形成されずフィルムコンデンサ用誘電体フィルム1a、1bが露出する部分(以下、金属膜非形成部8a、8bという場合がある)が長手方向に連続して残るように形成されている。
【0056】
金属化フィルム3aと3bとは、フィルムコンデンサ用誘電体フィルム1a、1bの幅方向において、金属膜非形成部8aと8bとが互いに異なる端部に位置するように配置され、金属膜非形成部8a、8bとは異なる端部が幅方向に突出するようにずれた状態で重ねあわされている。
【0057】
すなわち、フィルムコンデンサBは、フィルムコンデンサ用誘電体フィルム1aと金属膜2aとによって構成される金属化フィルム3aと、フィルムコンデンサ用誘電体フィルム1bと金属膜2bとによって構成される金属化フィルム3bとが、
図3に示すように重ねられ巻回されている。なお、
図3では、フィルムコンデンサBの構成を見易くするため、フィルムコンデンサ用誘電体フィルム1a、1b、金属膜2a、2bの厚みを、
図3の奥から手前に向けて厚くなるように記載したが、実際にはこれらの厚みは一定である。
【0058】
図4は、連結型コンデンサの一実施形態の構成を模式的に示した斜視図である。
図4においては構成を分かりやすくするために、ケースおよびモールド用の樹脂を省略して記載している。本実施形態の連結型コンデンサCは、複数個のフィルムコンデンサBが一対のバスバー21、23により並列接続された構成となっている。バスバー21、23は、端子部21a、23aと、引出端子部21b、23bと、により構成されている。端子部21a、23aは外部接続用であり、引出端子部21b、23bは、フィルムコンデンサBの外部電極5a、5bにそれぞれ接続される。連結型コンデンサCには、フィルムコンデンサBに替えてフィルムコンデンサAを用いてもよい。
【0059】
フィルムコンデンサA、Bまたは連結型コンデンサCを構成するフィルムコンデンサ用誘電体フィルムとして、本実施形態のフィルムコンデンサ用誘電体フィルム1を適用すると、ポリプロピレンやポリエチレンテレフタレートなどによって形成されていた従来のフィルムコンデンサ用誘電体フィルムよりも厚みを薄くできるため、フィルムコンデンサA,Bおよび連結型コンデンサCのサイズの小型化とともに高容量化を図ることができる。
【0060】
また、フィルムコンデンサ用誘電体フィルム1の主成分である熱可塑性樹脂として、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、環状オレフィン系、ポリエーテルイミド系等の樹脂材料を適用した場合には、フィルムコンデンサA、Bおよび連結型コンデンサCの耐熱性が高いため、高温域(例えば、温度が80℃以上の雰囲気)での使用においても静電容量および絶縁抵抗の低下の小さいコンデンサ製品を得ることができる。なお、連結型コンデンサCは、
図4に示したような平面的な配置の他に、フィルムコンデンサBの平坦な面同士が重なるように積み上げた構造であっても同様の効果を得ることができる。
【0061】
図5は、インバータの一実施形態の構成を説明するための概略構成図である。
図5には、整流後の直流から交流を作り出すインバータDの例を示している。本実施形態のインバータDは、
図5に示すように、ブリッジ回路31と、容量部33を備えている。ブリッジ回路31は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)のようなスイッチング素子と、ダイオードにより構成される。容量部33は、ブリッジ回路31の入力端子間に配置され、電圧を安定化する。インバータDは、容量部33として、上記のフィルムコンデンサA、Bまたは連結型コンデンサCを含む。
【0062】
なお、このインバータDは、直流電源の電圧を昇圧する昇圧回路35に接続される。ブリッジ回路31は駆動源となるモータジェネレータ(モータM)に接続される。
【0063】
インバータDの容量部33に上記した本実施形態のフィルムコンデンサA、Bまたは連結型コンデンサCを適用すると、インバータDに占める容量部33の体積を小さくすることができるため、より小型化かつ静電容量の大きい容量部33を有するインバータDを得ることができる。また、高温域においても変調波の変動の小さいインバータDを得ることができる。
【0064】
図6は、電動車輌の一実施形態を示す概略構成図である。
図6には、電動車輌Eとしてハイブリッド自動車(HEV)の例を示している。
【0065】
電動車輌Eは、駆動用のモータ41、エンジン43、トランスミッション45、インバータ47、電源(電池)49、前輪51aおよび後輪51bを備えている。
【0066】
この電動車輌Eは、駆動源としてモータ41またはエンジン43、もしくはその両方を備えている。駆動源の出力は、トランスミッション45を介して左右一対の前輪51aに伝達される。電源49は、インバータ47に接続され、インバータ47はモータ41に接続されている。
【0067】
また、
図6に示した電動車輌Eは、車両ECU53及びエンジンECU57を備えている。車輌ECU53は電動車輌E全体の統括的な制御を行う。エンジンECU57は、エンジン43の回転数を制御し電動車輌Eを駆動する。電動車両Eは、さらに運転者等に操作されるイグニッションキー55、図示しないアクセルペダル、及びブレーキ等の運転装置を備えている。車両ECUには、運転者等による運転装置の操作に応じた駆動信号が入力される。この車輌ECU53は、その駆動信号に基づいて指示信号をエンジンECU57、電源49、および負荷としてのインバータ47に出力する。エンジンECU57は、指示信号に応答してエンジン43の回転数を制御し、電動車輌Eを駆動する。
【0068】
本実施形態のフィルムコンデンサA、Bまたは連結型コンデンサCを容量部33として適用し、小型化されたインバータDを、例えば、
図6に示すような電動車輌Eに搭載すると、ポリプロピレンやポリエチレンテレフタレートなどによって形成されていた従来のフィルムコンデンサ用誘電体フィルムを適用したフィルムコンデンサや連結型コンデンサを用いた大型のインバータに比較して、車輌の重量を軽くできる。本実施形態では、このように車輌を軽量化することができ、燃費を向上させることが可能になる。また、エンジンルーム内における自動車の制御装置の占める割合を小さくできる。制御装置の占める割合を小さくすることで、エンジンルーム内に耐衝撃性を高めるための機能を内装させることが可能となり、車輌の安全性をさらに向上させることが可能になる。
【0069】
なお、本実施形態のインバータDは、上記のハイブリッド自動車(HEV)のみならず、電気自動車(EV)や電動自転車、発電機、太陽電池など種々の電力変換応用製品に適用できる。
【実施例】
【0070】
以下、本開示のフィルムコンデンサ用誘電体フィルムについて、実施例に基づき詳細に説明する。
【0071】
(実施例) 熱可塑性樹脂として、ポリアリレートを用い、金属ジケトン錯体として、Zrアセチルアセトナートを用い、添加剤として、アセチルアセトンを用いた。ポリアリレートをトルエンに溶解させ、さらに、Zrアセチルアセトナートおよびアセチルアセトンを溶解させ、熱可塑性樹脂濃度が12質量%であり、金属ジケトン錯体濃度が、0.36質量%であり、ジケトン濃度が、0.18質量%である樹脂溶液を得た。
【0072】
この樹脂溶液を、コータを用いてポリエチレンテレフタレート(PET)基材上に塗布し、125℃で3時間乾燥して溶媒を除去し、実施例のフィルムコンデンサ用誘電体フィルムを作製した。塗布量を変えることで、厚さが2.0μmのフィルムコンデンサ用誘電体フィルム(実施例1)と厚さが2.7μmのフィルムコンデンサ用誘電体フィルム(実施例2)を得た。
【0073】
(比較例) Zrアセチルアセトナートおよびアセチルアセトンを含まない樹脂溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例のフィルムコンデンサ用誘電体フィルムを得た。
【0074】
(特性評価)フィルムコンデンサ用誘電体フィルムの絶縁破壊電界強度は、以下のように測定した。フィルムコンデンサ用誘電体フィルムからPETフィルムを剥がし、フィルムコンデンサ用誘電体フィルムの両面に真空蒸着法により平均厚みが75nmのAlの電極層を形成して金属化フィルムを作製した。得られた金属化フィルムについて絶縁破壊電界強度を測定した。絶縁破壊電界強度は、25℃または125℃の雰囲気下で、金属化フィルムの金属膜間に、毎秒10Vの昇圧速度で直流電圧を印加し、漏れ電流値が1.0mAを越えた瞬間の電圧値から求めた。結果を表1に示す。
【0075】
【0076】
25℃および125℃いずれの雰囲気下においても、実施例1,2は、比較例に比べて、高い絶縁破壊電界強度が得られた。150℃の雰囲気下においても、実施例1は、比較例に比べて、高い絶縁破壊電界強度が得られた。
【0077】
本開示は次の実施の形態が可能である。
【0078】
本開示のフィルムコンデンサ用誘電体フィルムは、(A)熱可塑性樹脂と、(B)金属ジケトン錯体と、を含む。
【0079】
本開示のフィルムコンデンサ用フィルムコンデンサは、上記のフィルムコンデンサ用誘電体フィルム上に金属膜を備えた金属化フィルムが巻回または積層されてなる本体部と、該本体部に設けられた外部電極とを有する。
【0080】
本開示の連結型コンデンサは、上記のフィルムコンデンサが、バスバーにより複数個接続されている。
【0081】
本開示のインバータは、スイッチング素子により構成されるブリッジ回路と、該ブリッジ回路に接続された容量部とを備えているインバータであって、前記容量部が上記のフィルムコンデンサまたは連結型コンデンサである。
【0082】
本開示の電動車輌は、電源と、該電源に接続されたインバータと、該インバータに接続されたモータと、該モータにより駆動する車輪と、を備えている電動車両であって、前記インバータが上記のインバータである。
【0083】
本開示によれば、耐電圧性が向上したフィルムコンデンサ用誘電体フィルム、これを用いたフィルムコンデンサおよび連結型コンデンサ、ならびにインバータ、電動車輌を提供できる。
【0084】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、また、本開示は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、改良等が可能である。上記各実施形態をそれぞれ構成する全部または一部を、適宜、矛盾しない範囲で組み合わせ可能であることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0085】
A、B・・・・・・・フィルムコンデンサ
C・・・・・・・・・連結型コンデンサ
D、47・・・・・・インバータ
E・・・・・・・・・電動車輌
1、1a、1b・・・フィルムコンデンサ用誘電体フィルム
2、2a、2b・・・金属膜
3、3a、3b・・・金属化フィルム
4・・・・・・・・・本体部
5、5a、5b・・・外部電極
6・・・・・・・・・リード線
7・・・・・・・・・外装部材
8a、8b・・・・・金属膜非形成部
21、23・・・・・バスバー
31・・・・・・・・ブリッジ回路
33・・・・・・・・容量部
35・・・・・・・・昇圧回路
41・・・・・・・・モータ
43・・・・・・・・エンジン
45・・・・・・・・トランスミッション
47・・・・・・・・インバータ
49・・・・・・・・電源
51a・・・・・・・前輪
51b・・・・・・・後輪
53・・・・・・・・車輌ECU
55・・・・・・・・イグニッションキー
57・・・・・・・・エンジンECU