IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友重機械エンバイロメント株式会社の特許一覧

特許7344328排水処理設備の運転制御装置及び運転制御方法
<>
  • 特許-排水処理設備の運転制御装置及び運転制御方法 図1
  • 特許-排水処理設備の運転制御装置及び運転制御方法 図2
  • 特許-排水処理設備の運転制御装置及び運転制御方法 図3
  • 特許-排水処理設備の運転制御装置及び運転制御方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】排水処理設備の運転制御装置及び運転制御方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/00 20230101AFI20230906BHJP
【FI】
C02F1/00 T
C02F1/00 V
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022028405
(22)【出願日】2022-02-25
(62)【分割の表示】P 2018054292の分割
【原出願日】2018-03-22
(65)【公開番号】P2022068358
(43)【公開日】2022-05-09
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】中野 淳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-002401(JP,A)
【文献】特開2017-091032(JP,A)
【文献】特開2012-172320(JP,A)
【文献】国際公開第2014/083779(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102184490(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0120561(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/00-11/20
E03F1/00-11/00
G06Q10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間の活動に起因して、排水処理設備に供給される水量及び時間を予測する予測手段であって、
人間の活動に関するデータを取得するデータ取得手段と、
前記データ取得手段により得られた人間の活動に起因するデータに基づき、人間の活動に起因して排水として排出される排出量及び排出時間を予測し、少なくとも予測された前記排出量及び前記排出時間を利用して、排水処理設備に供給される水量及び時間を予測する第1予測手段とを備え、
前記人間の活動に関するデータは、携帯端末による位置情報及び/又は家電機器の使用状況に基づくものとすることを特徴とする、予測手段。
【請求項2】
排水処理設備の運転状態を最適に管理するための運転制御装置であって、
請求項1に記載の予測手段と、
前記予測手段の結果に基づき、排水処理設備に係る負荷に対応するために必要な少なくとも生物処理槽に関する運転又は/及び排水処理設備に供給される水量の増加に対応するために必要な運転を制御する運転制御手段とを備えることを特徴とする、運転制御装置。
【請求項3】
人間の活動に起因して、排水処理設備に供給される水量及び排水処理設備に係る負荷を予測する予測手段を用いて行う予測方法であって、
人間の活動に関するデータを取得するデータ取得工程と、
前記データ取得工程により得られた人間の活動に起因するデータに基づき、人間の活動に起因して排水として排出される排量及び排時間を予測し、少なくとも予測された前記排出量及び前記排出時間を利用して、排水処理設備に供給される水量及び排水処理設備に係る負荷を予測する予測工程とを備え、
前記人間の活動に関するデータは、携帯端末による位置情報及び/又は家電機器の使用状況に基づくものとすることを特徴とする、予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理設備の運転状態を最適に管理するための運転制御装置及び運転制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、排水処理設備においては、流入する排水の水質変化に応じた運転が行われている。特に、下水処理場のように、流入する排水の水質及び水量が常に変化する排水処理設備においては、流入する排水の水質や水量に係る情報を予測して排水処理設備の運転を行うことが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、当日の天気予報および平日・休日別の情報に基づいて排水処理設備に流入する流入水量及び流入水質を予測し、この予測結果を用いて排水処理設備の運転を支援する運転支援装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-52458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、排水処理設備に流入する水質は、雨水と人間の活動の結果として排出される排水とでは大きく異なる。したがって、特許文献1に記載されるように、天気予報という天候に係る情報と平日・休日別に係る情報を一緒にして取り扱うことでは、排水処理設備を最適に運転することができない。また、平日・休日別といったカレンダーに基づく情報だけでは、人間の活動に係る情報を正確に把握しているとはいえない。特に、突発的に人が集まるなど、規則性から外れる人間の活動に起因する排水量の増加に対応できないという問題がある。
【0006】
本発明の課題は、排水処理設備の運転において、人間の活動及び天候に関するそれぞれの情報に基づいて排水処理設備の運転状態を最適に管理し、必要なときに必要な分だけ稼働させることのできる排水処理設備の運転制御装置及び運転制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、排水処理設備の運転状態を最適に管理するための運転において、人間の活動に係るデータと天候に関するデータを別に取得し、それぞれのデータに基づく予測及び運転制御を行うことで、排水処理設備の運転状態を最適に管理することが可能になることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の排水処理設備の運転制御装置及び運転制御方法である。
【0008】
上記課題を解決するための本発明の排水処理設備の運転制御装置は、排水処理設備の運転状態を最適に管理するための運転制御装置であって、人間の活動に関するデータを取得する第1データ取得手段と、天候に関するデータを取得する第2データ取得手段と、第1データ取得手段により得られた人間の活動に起因するデータに基づき、排水として排出される排水量及び排水時間を予測し、排水処理設備に係る負荷を予測する第1予測手段と、第2データ取得手段により得られた天候に起因するデータに基づき、排水処理設備に流入する流入水量及び流入時間を予測し、排水処理設備に供給される水量を予測する第2予測手段と、第1予測手段の結果に基づき、排水処理設備に係る負荷に対応するために必要な運転を制御する第1運転制御手段と、第2予測手段の結果に基づき、排水処理設備に供給される水量に対応するために必要な運転を制御する第2運転制御手段とを備えるという特徴を有する。
【0009】
本発明の運転制御装置は、まず、データ取得部によって人間の活動に関するデータと天候に関するデータを別々に取得する。そして、予測演算部においてそれぞれのデータに基づく排水量や排水が排水処理設備に流入する時間を予測し、排水処理設備に係る負荷及び水量の増加分を予測する。さらに、予測演算部による予測結果に基づき、運転制御手段によって排水処理設備の運転を制御する。
これにより、排水処理設備の運転において、負荷に対応する運転と、水量の増加分に対応する運転とを分けて、必要なときに必要なだけ稼働させることができ、排水処理設備の運転状態を最適に管理することが可能となるという効果を奏する。
【0010】
また、本発明の排水処理設備の運転制御装置の一実施態様としては、人間の活動に関するデータは、携帯端末による位置情報、家電機器の使用状況、上水の使用状況、工場の稼働状況に基づくものとするという特徴を有する。
この特徴によれば、人間の活動に係るデータとして、規則的なパターン化されたものではなく、人間が実際に活動していることに基づくデータを得ることができる。これにより、排水処理設備に流入する排水量や排水が排水処理設備に流入する時間に係る予測の精度を高めることが可能となる。
【0011】
また、上記課題を解決するための本発明の排水処理設備の運転制御方法としては、排水処理設備の運転状態を最適に管理するための運転制御方法であって、人間の活動に関するデータを取得する第1データ取得工程と、天候に関するデータを取得する第2データ取得工程と、第1データ取得工程により得られた人間の活動に起因するデータに基づき、排水として排出される排水量及び排水時間を予測し、排水処理設備に係る負荷を予測する第1予測工程と、第2データ取得工程により得られた天候に起因するデータに基づき、排水処理設備に流入する流入水量及び流入時間を予測し、排水処理設備に供給される水量を予測する第2予測工程と、第1予測工程の結果に基づき、排水処理設備に係る負荷に対応するために必要な運転を制御する第1運転制御工程と、第2予測工程の結果に基づき、排水処理設備に供給される水量に対応するために必要な運転を制御する第2運転制御工程とを備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、人間の活動に関するデータと天候に関するデータを別々に取得し、それぞれのデータに基づく排水量や排水が排水処理設備に流入する時間を予測し、排水処理設備に係る負荷及び水量の増加分を予測することができる。さらに、予測演算部による予測結果に基づき、運転制御手段によって排水処理設備の運転を制御することができる。
これにより、排水処理設備の運転において、必要なときに必要な分だけ稼働させることができ、排水処理設備の運転状態を最適に管理することが可能となるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、排水処理設備の運転において、人間の活動及び天候に関するそれぞれの情報に基づいて排水処理設備の運転状態を最適に管理し、必要なときに必要な分だけ稼働させることのできる排水処理設備の運転制御装置及び運転制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施態様に係る排水処理設備の運転制御装置の概略説明図である。
図2】本発明の第1の実施態様における排水処理設備の運転制御装置に係る制御を示すフロー図である。
図3】本発明の第2の実施態様に係る排水処理設備の運転制御装置の概略説明図である。
図4】本発明の第2の実施態様における排水処理設備の運転制御装置に係る制御を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る運転制御装置の実施態様を詳細に説明する。また、本発明の運転制御方法については、以下の運転制御装置の構造及び作動の説明に置き換えるものとする。
なお、実施態様に記載する運転制御装置については、本発明に係る運転制御装置を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0015】
本発明の運転制御装置は、排水処理設備に使用される。特に、雨水と生活排水が同じ管渠に合流して流入する合流式下水処理場や、雨水と生活排水が別々の管渠に流入する分流式下水処理場に好適に使用される。なお、実施態様において、排水処理設備として下水処理設備を例示したが、これに限定されるものではない。
【0016】
〔第1の実施態様〕
図1は、本発明の第1の実施態様における排水処理設備の運転制御装置を示す概略説明図である。また、図2は、本発明の第1の実施態様における排水処理設備の運転制御装置に係る制御を示すフロー図である。
本実施態様に係る排水処理設備の運転制御装置1aは、図1に示すように、排水処理設備100に係る運転管理を行うものであり、データ取得部2、予測演算部3、運転制御部4を有するものである。また、本実施態様における排水処理設備100は、沈砂池101、調整池102、生物処理槽103、消毒処理槽104を備えている。また、沈砂池101から調整池102へ排水を送る揚水ポンプP、調整池から生物処理槽へ排水を送るバルブB1及び調整池から消毒処理槽へ排水を送るバルブB2を備えている。また、図1において、実線で示された矢印は、各処理設備が配管などにより通水可能に連結されていることを示す。また、一点鎖線で示された矢印は、制御又は入力可能に接続されていることを示す。
【0017】
排水処理設備100において、排水Wは沈砂池101に流入し、排水中のごみなどを除去した後、揚水ポンプPによって調整池102に送られ、一時貯留される。また、調整池102に貯留された排水Wは、調整池102に設けられたバルブB1を介して、排水W中の有機物を生物処理する生物処理槽103に供給される。生物処理槽103において生物処理された排水Wは、消毒を行う消毒処理槽104に供給され、消毒処理槽104に添加される消毒液によって殺菌処理が行われた後、処理水W1として公共水域に放出される。なお、生物処理槽103の前後に沈殿池を設けるものとしてもよい(不図示)。また、消毒処理槽104の前段に濾過設備を設けるものとしてもよい(不図示)。
【0018】
データ取得部2は、排水処理設備に流入する排水量及び排水の水質に関連するデータを取得するためのものである。また、データ取得部2は、人間の活動に関するデータを取得する第1データ取得手段21と、天候に関するデータを取得する第2データを取得する第2データ取得手段22とを備える。
【0019】
データ取得部2における取得対象である人間の活動に関するデータとしては、人間が実際に活動していることに基づくデータとする。具体的には、携帯端末による位置情報、家電機器の使用状況、上水の使用状況、工場の稼働状況のうち、少なくとも1種類を含むことが好ましい。
また、人間の活動に関するデータを取得する第1データ取得手段21としては、例えば、GPSの位置信号に関するデータ収集、上水の供給量や管網の圧力変化に関するデータ収集、家庭及び工場の消費電力のデータ収集を行うことが挙げられる。なお、データ収集に際しては、各データを管理する者(各通信会社、各水道局、各電力会社等)から提供を受けるものであってもよい。
なお、人間の活動に関するデータとしては、平日・休日といったカレンダーに基づく人間の活動予測や、朝・昼・夜などの時間帯に基づく人間の活動予測に係るデータを含めるものとしてもよい。
【0020】
データ取得部2における取得対象である天候に関するデータとしては、降雨予測や実際の降雨に基づくデータとする。また、運転管理対象である排水処理設備の立地に基づき、この排水処理設備に対して雨水の流入が予測される範囲における天候に関するデータを取得するものとする。
また、天候に関するデータを取得する第2データ取得手段22としては、例えば、運転管理対象である排水処理設備のある地域及び排水処理設備に流入する下水管が設置された地域をメッシュ状に区分し、それぞれのメッシュごとに降雨予測及び実際の降雨測定量に関するデータ収集を行うことが挙げられる。なお、データ収集に際しては、気象データの収集・管理をする者(気象庁、民間の気象会社等)から提供を受けるものであってもよい。
【0021】
データ取得部2によって収集されるデータは、実際の人間の活動に関するデータや、運転管理対象の排水処理設備に雨水が流入する範囲の実際の降雨量に関するデータである。したがって、規則的にパターン化されたデータとは異なり、突発的に人が増える事象や天候の急激な変化などに係るデータを収集することができる。
【0022】
予測演算部3は、データ取得部2で得られたデータに基づき、排水処理設備に流入する排水の量及び時間に係る予測と、それに伴う排水処理設備100に係る負荷の予測を行うものである。また、予測演算部3は、第1予測手段31と、第2予測手段32を備え、それぞれの予測手段に係る演算部33、34と、演算部33、34の結果を表示する表示部35を備える。
【0023】
第1予測手段31は、第1データ取得手段21で得られた人間の活動に関するデータに基づき、排水として排出される排水量及び排水が排出される時間を予測する。また、人間の活動に起因して排出される排水は、排水処理設備に係る負荷となるため、この負荷分を予測するものである。
【0024】
第1予測手段31の演算部33は、第1データ取得手段21で得られたデータを基に解析を行うものである。例えば、解析に必要なプログラムをCPU等のプロセッサにより実行する計算装置である。
【0025】
演算部33で用いる解析プログラムの内容は、第1データ取得手段21で得られたデータを用いて排水として排出される排水量及び排水が排出される時間を予測し、排水処理設備に係る負荷を予測できるものであればよく、特に限定されない。
例えば、第1データ取得手段21で得られたデータとして、携帯端末による位置情報を用いた場合、人間が集まっている場所や集まっている人間の数に係る情報を得ることができ、このとき発生する排水量だけではなく、排水が生じる時間及び発生した排水が排水処理設備に到達する時間についての予測が可能となる。また、第1データ取得手段21で得られたデータとして、上水の使用状況を用いた場合、上水が使用された後に下水に流されて排水となる量及び時間を予測することが可能となる。また、排出された排水が下水管を介して排水処理設備に到達する時間についての予測も可能である。
このようにして、人間の活動に起因して排出される排水が排水処理設備に流入する量と時間を予測することができる。
【0026】
さらに、この予測結果に基づき、排水処理設備において必要な処理能力を予測する。排水処理設備における必要な処理能力の予測については、過去の処理実績に基づくものであってもよく、処理に用いる処理槽の性能に基づくものであってもよい。
【0027】
また、第2予測手段32は、第2データ取得手段22で得られた天候に関するデータに基づき、排水処理設備に流入する流入水量及び流入時間を予測する。また、天候に起因して流入する雨水は、負荷となる有機物をほとんど含まないため、排水処理設備に係る負荷はほとんどない。したがって、排水処理設備に流入する水量の増加分を予測するものである。
【0028】
第2予測手段の演算部34は、第2データ取得手段22で得られたデータを基に解析を行うものである。例えば、解析に必要なプログラムをCPU等のプロセッサにより実行する計算装置である。なお、第1予測手段31の演算部33と第2予測手段32の演算部34は、別々の計算装置とするものであってもよく、同一の計算装置としてもよい。
【0029】
演算部34で用いる解析プログラムの内容は、第2データ取得手段22で得られたデータを用いて排水処理設備に流入する流入水量及び流入時間を予測し、排水処理設備に供給される水量を予測できるものであればよく、特に限定されない。
例えば、第2データ取得手段で得られたデータとして、メッシュ状に分割された地域ごとの降雨予測に基づく予測降雨量を用いた場合、排水処理設備に流入する流入水量に関する予測と、雨が降った地域から排水処理設備までの距離に基づき、雨水が排水処理設備に到達する時間についての予測が可能となる。
以上のように、雨水が排水処理設備に流入する量と時間の予測に基づき、排水処理設備に供給される全体の水量を予測する。
【0030】
表示部35は、演算部33、34における予測結果を数値あるいは画像として表示させるものである。これにより、予測演算部3による予測結果をオペレーターが確認することができる。また、オペレーターは、その後の排水処理設備に係る運転状態を把握し、それに基づいた対応を行うことが可能となる。
【0031】
運転制御部4は、予測演算部3で得られた予測結果に基づき、排水処理設備100において必要な運転を制御するものである。また、運転制御部4は、第1運転制御手段41と、第2運転制御手段42を備える。
【0032】
第1運転制御手段41は、第1予測手段31で得られた予測結果に基づき、排水処理設備100に係る負荷に対応するために必要な運転を制御するものである。例えば、第1予測手段31で予測された排水処理設備100に係る負荷分に対応するため、排水Wを生物処理する生物処理槽103における処理能力を高めるものとすることができる。また、沈砂池101から調整池102へ排水を送る揚水ポンプP及び調整池102から生物処理槽103へ排水を送るバルブB1を制御して、生物処理槽103における処理量を制御するものとしてもよい。
【0033】
生物処理槽103で行う生物処理は、好気処理、嫌気処理のいずれであってもよく、特に限定されない。例えば、好気処理の場合、生物処理槽103は、好気条件下で、活性汚泥を用いて有機物を分解するものとし、生物処理槽103には曝気装置及び撹拌装置を備えるものとしてもよい。このとき、曝気装置及び撹拌装置の駆動に係る制御を行うことで、生物処理槽における処理能力を高めるものとしてもよい。また、例えば、嫌気処理の場合、生物処理槽103は、嫌気条件下で、酸生成菌及びメタン生成菌によるメタン発酵により有機物を分解するものとし、生物処理槽103には酸発酵槽及びメタン発酵槽を備えるものとしてもよい。このとき、それぞれの槽における温度管理や撹拌装置の駆動に係る制御を行うことで、生物処理槽103における処理能力を高めるものとしてもよい。また、好気処理及び嫌気処理を組み合わせるものであってもよい。
【0034】
また、生物処理槽103に、微生物の活性を向上させるための栄養源となる物質を添加する添加手段を設けるものとしてもよい。このとき、第1運転制御手段41によって、添加手段により添加される物質の量を調整することで、生物処理槽103における処理能力を高めるものとしてもよい。
【0035】
排水処理設備100は、生物処理槽103を複数設けるものとしてもよい。例えば、第1予測手段31による予測結果に基づく排水量及び排水処理設備に係る負荷が、1台の生物処理槽103における処理能力を超える場合、第1運転制御手段によって、稼働する生物処理槽103の台数を増加させるものであってもよい。
また、第1予測手段31による予測結果に基づく排水量及び排水処理設備に係る負荷が、排水処理設備100における処理能力を超える場合、第1運転制御手段によって、排水の一部を他の排水処理設備に供給するものとしてもよい。
【0036】
また、第2運転制御手段42は、第2予測手段32で得られた予測結果に基づき、排水処理設備に流入する水量に対応するために必要な運転を制御するものである。雨水中には有機物がほとんど含まれないため、雨水により増加した流入水量は、排水処理設備に係る負荷を増加させるものではない。したがって、第2予測手段32に基づき増加した排水Wに対しては、生物処理槽103による生物処理を必要としない場合もある。
【0037】
排水処理設備100に流入した排水Wに対して、生物処理が必要であるか、不要であるかについては、生物処理を行う前に排水の水質について測定することにより判断が可能である。
例えば、調整池102にBOD計を設け、BOD計の値が所定値以下である場合、第2運転制御手段42として、調整池102から消毒処理槽104へ排水を送るバルブB2の駆動を制御して、流入した排水Wを消毒処理槽104に直接供給することが挙げられる。なお、BOD計の所定値としては、公共水域に放出可能な値を設定することが好ましい。これにより、雨水により一時的に増加した排水に対して、必要最低限の処理を行って排水処理設備100から処理水W1として公共水域へ放出することができる。その結果、排水処理設備100における処理速度が上がり、排水処理設備100において排水Wの受け入れ能力に余裕を持たせることが可能となる。
【0038】
また、第2運転制御手段42によって、消毒処理槽104に設けられる次亜塩素酸ナトリウム等の消毒液を添加する消毒液添加手段についても制御を行うものとしてもよい。これにより、流入する水量に対して適切な量の消毒液を添加することが可能となる。
【0039】
一方、例えば、調整池102のBOD計の値が所定値以上である場合、第2運転制御手段42としては、第1運転制御手段41と同様に、生物処理槽103における処理能力を高めるものとすることが好ましい。このとき、1台の生物処理槽103における処理能力を高めることとしてもよく、複数台の生物処理槽103を稼働させることで処理能力を高めるものとしてもよい。
また、第2予測手段32によって予測された流入水量が、排水処理設備100の許容量を超える場合、第2運転制御手段42によって、流入する排水の一部を他の排水処理設備に供給するものとしてもよい。
【0040】
以上のように、本実施態様における運転制御装置1は、まず、データ取得部2によって人間の活動に関するデータと天候に関するデータを別々に取得する。そして、予測演算部3においてそれぞれのデータに基づく排水量や排水が排水処理設備に流入する時間を予測し、排水処理設備に係る負荷及び水量の増加分を予測する。さらに、予測演算部3による予測結果に基づき、運転制御部4によって排水処理設備の運転を制御する。
これにより、排水処理設備の運転において、負荷に対応する運転と、水量の増加分に対応する運転とを区別して、必要なときに必要なだけ稼働させることができ、排水処理設備の運転状態を最適に管理することが可能となる。
【0041】
〔第2の実施態様〕
図3は、本発明の第2の実施態様における排水処理設備の運転制御装置を示す概略説明図である。また、図4は、本発明の第2の実施態様における排水処理設備の運転制御装置に係る制御を示すフロー図である。
第2の実施態様に係る排水処理設備の運転制御装置1bは、図3に示すように、第1の実施態様に係る排水処理設備の運転制御装置1aにおいて、第1予測手段31と第2予測手段32によって得られた予測結果に対して、排水処理設備100の運転への影響に応じた優先順位を判断し、運転制御部4を制御する判断部5を設けるものである。なお、第1の実施態様の構造と同じものについては、説明を省略する。
【0042】
判断部5は、第1予測手段31及び第2予測手段32の予測結果が入力可能に接続されている。また、判断部5は、第1運転制御手段41及び第2運転制御手段42に対して制御可能に接続されている。
判断部5は、第1予測手段31及び第2予測手段32の予測結果を基に解析を行うものである。例えば、解析に必要なプログラムをCPU等のプロセッサにより実行する計算装置である。なお、判断部5は、第1演算部33及び第2演算部34における計算装置と同一の装置としてもよく、別の計算装置とするものであってもよい。
【0043】
判断部5は、第1予測手段31と第2予測手段32の予測結果に基づき、第1運転制御手段41と第2運転制御手段42のいずれを優先させるべきであるかを判断し、その判断結果に基づき、第1運転制御手段41及び第2運転制御手段42を制御する。このとき、判断の基準としては、処理が不十分な排水を系外に放出させないことを第一とする。
例えば、第2予測手段32によって、雨水に基づく流入水量が増加することが予測され、それに基づいて第2運転制御手段42を稼働させた場合、BOD値が所定値以下であれば生物処理槽を介さずに排水処理が進行する。一方、その後、第1予測手段31によって、人間の活動に起因する排水量が増加することが予測された場合、そのまま第2運転制御手段42に基づく運転を継続すると、生物処理が必要な排水が生物処理槽103を介さない排水処理に供されてしまう可能性がある。したがって、第1予測手段31の予測結果として排水量の増加が予測された場合、この予測結果に基づく排水が排水処理設備に到達するよりも前に、第2運転制御手段42に基づく排水処理設備の運転を切り替える必要がある。ここで、判断部5において、第1予測手段31における予測結果を第2予測手段32における予測結果より優先させるように判断し、その判断結果に基づき、それぞれの運転制御部4を制御するものとする。これにより、未処理の排水を系外に排出することを防止することができる。
【0044】
なお、上述した実施態様は運転制御装置の一例を示すものである。本発明に係る運転制御装置は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る運転制御装置を変形してもよい。
【0045】
例えば、本実施態様における予測演算部において得られた予測結果が平均よりも低い値であった場合、運転制御部によって、排水処理設備の運転に係る電力等を抑制するように運転を制御するものであってもよい。これにより、少ない排水量や低負荷の排水に対して過度な処理能力を発揮することがなく、排水処理設備の最適な運転が可能となる。
【0046】
また、排水処理設備に各種水質計を設置し、水質計の測定結果に基づき本実施態様における運転制御部における制御を行うものとしてもよい。これにより、排水処理設備に流入する排水に係る予測結果だけではなく、排水処理設備での処理の進行状態に係るデータも併せて利用することができ、より排水処理設備の運転状態を最適に管理することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の排水処理設備の運転制御装置及び運転制御方法は、人間の活動及び天候によって処理する排水量が変化する下水処理場等の排水処理設備の運転管理において好適に利用されるものである。
【符号の説明】
【0048】
1a,1b 運転制御装置、2 データ取得部、21 第1データ取得手段、22 第2データ取得手段、3 予測演算部、31 第1予測手段、32 第2予測手段、33,34 演算部、35 表示部、4 運転制御部、41 第1運転制御手段、42 第2運転制御手段、5 判断部、100 排水処理設備、101 沈砂池、102 調整池、103 生物処理槽、104 消毒処理槽、B1,B2 バルブ、P 揚水ポンプ、W 排水、W1 処理水

図1
図2
図3
図4