(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】安定なプロテアーゼ変異型
(51)【国際特許分類】
C12N 15/57 20060101AFI20230906BHJP
C12N 9/54 20060101ALI20230906BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230906BHJP
A23K 10/10 20160101ALI20230906BHJP
C12Q 1/37 20060101ALN20230906BHJP
C12N 15/01 20060101ALN20230906BHJP
【FI】
C12N15/57
C12N9/54 ZNA
C12N15/63 Z
A23K10/10
C12Q1/37
C12N15/01 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022031591
(22)【出願日】2022-03-02
(62)【分割の表示】P 2019555724の分割
【原出願日】2017-12-22
【審査請求日】2022-03-31
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519225657
【氏名又は名称】イーダブル ニュートリション ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ミヒェルス アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】シャイディク アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】エレンド クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】クラップ クラウディア
(72)【発明者】
【氏名】ホルン トーマス
【審査官】松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/200880(WO,A1)
【文献】TSURUOKA N. et al.,Appl. Environ. Microbiol.,2003年,Vol.69 No.1,p.162-169
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、プロテアーゼ変異体、またはタンパク質分解活性を維持するそのフラグメント、部分もしくはシャッフル変異型であって、
該プロテアーゼ変異体
が、配列番号1に記載のクマモリシンASと比較して、D447S、A449Y、A517T、N510H、E360L、E360V、E360C、V502C、E453W、A514T、A514Y、A514D、A514S、A460W、A386I、A392V、A392L、A392I、A392Mからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を有する、プロテアーゼ変異体。
【請求項2】
(iii)配列番号4に記載のクマモリシンAS野生型、または
(iv)配列番号1~3のいずれかに記載のクマモリシンAS主鎖
と比較して少なくとも1つの変化または改善された安定性を示す、請求項1に記載のプロテアーゼ変異体。
【請求項3】
配列番号1に記載のクマモリシンAS主鎖と比較して、少なくとも2つのアミノ酸置換を有する、請求項1
または2に記載のプロテアーゼ変異体。
【請求項4】
D447S、A449Y、A517T、N510H、E360L、E360V、E360C、V502C、E453W、A514T、A514Y、A514D、A514S、A460W、A386Iからなる群から選択される、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つ、より好ましくは少なくとも4つ、より好ましくは少なくとも5つ、最も好ましくは少なくとも6つのアミノ酸置換を有する、請求項1~
3のいずれか一項に記載のプロテアーゼ変異体。
【請求項5】
配列番号1に記載のクマモリシンAS主鎖中の選択された残基に置換の組を有し、前記組は、
a)360、447、449、および510、
b)447、449、および514、並びに/または
c)447、449、453、および517
の少なくとも1つである、請求項1~
4のいずれか一項に記載のプロテアーゼ変異体。
【請求項6】
前記改善された安定性が、活性化酵素またはチモーゲンのいずれかの改善された熱安定性(IT
50)である、請求項1~
5のいずれか一項に記載のプロテアーゼ変異体。
【請求項7】
前記プロテアーゼ変異体が、≧75℃および≦105℃のIT
50を有する、請求項1~
6のいずれか一項に記載のプロテアーゼ変異体。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載のプロテアーゼ変異体をコードする、核酸分子。
【請求項9】
請求項
8に記載の核酸分子を含む、プラスミドまたはベクター系。
【請求項10】
請求項1~
7のいずれか一項に記載のプロテアーゼ変異体を含む組成物であって、≧5のpHを有する組成物。
【請求項11】
請求項1~
7のいずれか一項に記載のプロテアーゼ変異体または
請求項10に記載の組成物を含む、飼料添加剤、配合原料、飼料補給剤、および/または飼料。
【請求項12】
飼料の製造のための請求項1~
7のいずれか一項に記載のプロテアーゼ変異体または請求項
10に記載の組成物の使用。
【請求項13】
i)配列番号1に記載のクマモリシンASアミノ酸配列をコードするDNA、cDNAまたはmRNAを突然変異誘発すること、
ii)得られたクマモリシンASの1つ以上の突然変異体を発現すること、および
iii)安定性、好ましくは熱安定性について、クマモリシンASの1つ以上の突然変異体を試験すること
を含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載のプロテアーゼ変異体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロテアーゼの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテアーゼは今日、動物飼料、洗剤、果実および飲料加工、皮革加工、タンパク質加水分解物の製造、硬質表面洗浄またはバイオフィルム洗浄、創傷治癒を促進するための壊死組織または火傷組織の治療および/またはベーキング生地の調製などの食品の調製をはじめとする、数多くの一連の産業用途で使用されている。
【0003】
これらの用途の多くにおいて、酵素の安定性の改善は重要な利点である。プロテアーゼはしばしば製造工程中に熱処理を受けるので、熱安定性の改善は、それぞれのプロテアーゼの加工性を高めるのを助ける。
【0004】
これは、とりわけ、それらが飼料の消化性および栄養素利用を改善するのを助ける、動物飼料におけるプロテアーゼの使用に当てはまる。
【0005】
飼料加工の間に、病原体を低下させまたは除去し、飼料の貯蔵寿命を延長し、成分の使用を最適化し、飼料要求率の改善をもたらすために、飼料はしばしば、例えば蒸気の適用により加熱される。調質時間は、飼料の種類および配合に応じて数秒から数分まで変化し得る。調質中の温度は、典型的には70℃から100℃の範囲にわたる。調質後、飼料はペレットダイから押し出されることもあり、それは短い時間の間に、摩擦によって引き起こされる熱放散のために、飼料の温度を徐々に上昇させる。
【0006】
さらにその他の用途でも、プロテアーゼ酵素は同様に熱に曝露される。これには、洗剤(例えば洗濯中の熱水への曝露)、果実および飲料加工(圧搾工程中または低温殺菌または滅菌による熱曝露)、皮革加工、タンパク質加水分解物の製造、硬表面浄化またはバイオフィルム洗浄、創傷治癒を促進するための壊死組織または熱傷組織の治療、組織工学における加工助剤(滅菌、およびプリオンタンパク質の変性)および/またはベーキング生地調製などの食品調製における使用が挙げられる。
【0007】
プロテアーゼはタンパク質であるため、熱と圧力による変性を受け易い。変性は本質的に酵素の構造を変化させ、結果として活性レベルが低下して酵素の効力が低下する。
【0008】
プロテアーゼの安定性を改善し、または熱の影響からプロテアーゼを保護するためのさまざまな方法がある。動物飼料用途では、1つの選択肢はペレット化後の液体塗布であり、これは特殊な装置の購入と設置、液体酵素を貯蔵するスペース、そして塗布する酵素量の注意深い計算を要することから、比較的複雑で高価である。
【0009】
別の選択肢は、プロテアーゼをその他の成分とペレット化する前に(例えば、飼料または洗剤中で)、保護コーティングを塗布することである。このアプローチは、コーティングが、例えば、洗浄媒体中または動物の消化管中で完全に溶解しないこともあるため、酵素の効力を低下させることもある。ペレット化工程の高い熱および水分含有量に耐え得るが、引き続いて、例えば、動物の腸または洗濯機中などのより低い温度およびより高い水分条件下で溶解するコーティングの設計は、さらに達成し難い。
【0010】
別の選択肢は、本質的に熱安定性のプロテアーゼを使用することである。これらのプロテアーゼは好熱性および超好熱性生物に由来し、高い熱安定性という独特の構造および機能特性を有する。しかし、これらのプロテアーゼは、最適以下の活性、特異性、生物学的利用能、pH範囲または加工性のようなその他の制限を受けることもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
それ故、本発明の目的は、上記の制限を受けない安定なプロテアーゼ変異型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらのおよびさらなる目的は、本発明の独立請求項に記載の方法および手段によって満たされる。従属請求項は、特定の実施形態に関連する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】チモーゲンおよび活性化酵素の熱安定性について最適化された変異型における、変異の分布を示す。
【
図2】WTおよび表4からの上位変異型#1~#7の安定性および性能に対する、イオン強度の影響を示す。
【
図3】別個のクローンおよびコンビナトリアルクローンの異なる組のAA位置における置換の発生を示す。
【
図4】別個のクローンおよびコンビナトリアルクローンの異なる組のAA位置における置換の発生を示す。
【
図5】別個のクローンおよびコンビナトリアルクローンの異なる組のAA位置における置換の発生を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を詳細に説明する前に、記載される装置および方法は変動してもよいため、本発明は、記載される装置または組成物の特定の構成部分または構造的特徴に、または記載される方法の工程段階に限定されないものと理解される。本明細書で使用される用語法は、特定の実施形態の説明のみを目的として、制限を意図しないこともまた理解される。特定の手段が互いに異なる従属請求項に列挙されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが有利に使用され得ないことを示すものではない。請求項中のいかなる参照符号も、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書および添付の特許請求範囲の用法では、文脈上例外が明記されていない限り、単数形「a」、「an」、および「the」は、単数形および/または複数形の指示対象を含むことに留意すべきである。さらに、特許請求の範囲において、「含む」という単語は、その他の要素またはステップを排除するものではない。
【0015】
さらに、数値で区切られたパラメータ範囲が与えられている場合、その範囲は、これらの制限値を含むと見なされるものと理解される。
【0016】
本明細書で開示される実施形態は、互いに関係しない個々の実施形態として理解されることが意図されないこともさらに理解される。一実施形態で論じられる特徴は、本明細書に示されるその他の実施形態に関連しても開示されることが意図される。ある場合に、特定の特徴が、1つの実施形態では開示されず、別の実施形態では開示される場合、当業者は、それが、前記特徴が前記別の実施形態と共に開示されることを必ずしも意味しないことを理解するであろう。当業者は、別の実施形態についても前記特徴を開示することが本出願の要旨であるが、単に明確さの目的のためにそして仕様を扱いやすい量に保つために、それが実施されていないことを理解するであろう。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、配列番号1~3のいずれかに記載のクマモリシンAS主鎖の全長アミノ酸配列と少なくとも90%と同一であるプロテアーゼ変異型、またはタンパク質分解活性を維持するそのフラグメント、部分もしくはシャッフル変異型が提供される。プロテアーゼ変異型は、
(i)配列番号4に記載のクマモリシンAS野生型、または
(ii)配列番号1~3のいずれかに記載のクマモリシンAS主鎖
と比較して改変されたまたは改善された安定性を示す。
【0018】
「シャッフル変異型」という用語は、このような組み合わせがタンパク質分解活性を維持する限り、このようなフラグメントまたは部分と、その他の相同酵素由来の1つまたは複数のフラグメントとの組み合わせに関する。
【0019】
「相同酵素」という用語は、クマモリシンと同じ構造的折り畳みに属し、少なくとも40%の配列同一性がある酵素を表す。このカテゴリーは、本明細書中で以下に論じるようにセドリシンを包含する。
【0020】
クマモリシンASのいくつかの変異体が記載されている。クマモリシンASのN291D変異株の発見は、セリアック病に対する有用な治療を提供することが検討されている。ヒトの消化管においてN291DクマモリシンASタンパク質を産生する可能性がある遺伝子修飾生物の創製を示唆する、数多くの提案がある。米国特許出願第20140178355A1号明細書を参照されたい。
【0021】
好ましくは、本発明によるクマモリシンAS変異型は、93%の同一性、より好ましくは95%の同一、より好ましくは98%の同一性、最も好ましくは99%の同一性を有する。
【0022】
「クマモリシン」という用語は、酸作用性エンドペプチダーゼおよびトリペプチジルペプチダーゼを含む、セドリシンファミリーのペプチダーゼに由来する、S53とも称される酸性プロテアーゼを指す(MEROPS登録MER000995、Wlodawer et al,2003も参照されたい)。セドリシンはペプスタチンによる阻害に対して抵抗性であるという点で、大部分のエンドペプチダーゼと異なる酸性pH最適条件を有するエンドペプチダーゼである(Terashita et al.,1981;Oda et al.,1998)。
【0023】
セドリシンの活性化は、pH6.5未満、より良好にはpH3.5未満のpHにおける自己触媒的切断を伴い(欧州特許出願第16176044号明細書およびOkubo et al.,2016もまた参照されたい)、それは1つまたは複数のペプチドを放出して成熟および活性形態をもたらす。前記自己触媒的切断は、アルカリ性、中性、弱酸性条件下で阻害される。
【0024】
セドリシンは、配列番号1に記載のクマモリシンASでは、位置Glu267、Asp271、およびSer278に位置する、Glu、Asp、およびSerの触媒三つ組を含む。Ser残基は、サブチリシンプロテアーゼ(MEROPSファミリーS8)の触媒三つ組Asp、His、Ser三つ組中のSerに相当する求核剤であり、三つ組のGluはサブチリシン中のHis一般塩基の機能的置換であるが、構造的に同等の位置にはない。
【0025】
セドリシンのタンパク質折り畳みはサブチリシンの折り畳みと明らかに関連しており、どちらの群も時にセリンプロテアーゼと称される。しかし、セドリシンはさらなるループを有する。アミノ酸配列はサブチリシンとあまり類似しておらず、これは、かなり異なる活性部位残基と、その結果生じる最大活性のためのより低いpHと相俟って、別個のファミリーにすることを正当化する。
【0026】
一実施形態では、配列番号1に記載のクマモリシンASに由来するアミノ酸配列、またはタンパク質分解活性を維持するそのフラグメント、部分もしくはシャッフル変異型を含む、プロテアーゼ変異型が提供され、上記プロテアーゼ変異型は、D447、A449、A517、N510、V502、E453、E360、A514、A460、A392、A386、T301、D199、Q518、G266、P553、E269、R412、S435、G320、T326、T461、Q244、D293、A487、V274、A372、K283、T308、A418、I391、A423、A331、S327、I219、M333、A329、N515、A378、S434、E421、A433、S230、Q393、D399、Y490、G281、Y287、R516、A475、S354、S315P、W325、L442、A470、S324、Q361、A190、T196、Q202、E228、A229、A242、D251、S262、N291、L297、H305、D306、V314、A328、I330、L338、A342、A351、D358、G388、D402、V455、E459、A478、K483、Q497、T507、L540、Q542、A548、P551、R166および/またはD265からなる群から選択される、配列番号1中の1つまたは複数の残基位置に1つまたは複数のアミノ酸置換を有する。
【0027】
上記の番号付けは、配列番号1または4(それらはほぼ同一であり、4は野生型であり、1は変異誘発に使用される実際の主鎖であり、2つの間の差はN末端AA残基である)を参照する一方で、特許請求されるプロテアーゼは、タンパク質分解活性を維持するそのフラグメント、部分またはシャッフル変異型であり得ることに留意されたい。このような場合、得られるアミノ酸配列は配列番号1または4のものよりも短い一方で、変異体残基の番号付けは、なおも全長配列番号1~4を指し、それぞれ短い形態の番号付けに翻訳されなければならない。
【0028】
一実施形態では、プロテアーゼ変異型は、
(i)配列番号4に記載のクマモリシンAS野生型、または
(ii)配列番号1~3のいずれかに記載のクマモリシンAS主鎖
と比較して改変されたまたは改善された安定性を示す。
【0029】
一実施形態では、プロテアーゼ変異型は、配列番号1または4に記載のクマモリシンASと比較して、D447S、A449Y、A517T、N510H、E360L、E360V、E360C、V502C、E453W、A514T、A514Y、A514D、A514S、A460W、A386I、A392V、A392L、A392I、A392M、T301S、D199E、Q518G、P553K、E269M、E269T、E269C、E269H、E269Q、G266A、D293Y、G320A、R412Q、E421R、A487Q、T461V、T461C、A331F、A331Y、A329Q、A329H、A329T、S435I、S435R、S435T、S435V、V274I、A372S、K283L、Q244C、Q244G、T308C、A418W、I391W、A423V、T326R、T326W、T326L、T326K、I219L、S327F、S327L、S327W、M333I、N515G、A378G、S434G、A433G、S230D、Q393S、D399S、Y490W、A190D、T196S、Q202D、E228Q、A229W、A242S、D251S、S262C、G281R、Y287K、N291T、N291S、D293F、L297T、T301C、T301M、H305F、H305W、D306S、V314M、V314L、S315P、G320Q、G320S、S324L、S324R、W325K、A328W、A328D、A328R、A328Y、I330L、M333Y、M333L、L338R、A342R、A351S、S354E、S354Q、D358G、Q361C、Q361L、A386L、A386V、A386M、G388C、D402E、R412M、R412E、R412D、L442W、L442W、D447C、D447A、A449L、A449M、A449E、A449N、E453Y、E453F、V455I、V455L、E459W、A460R、A470V、A475V、A478L、K483A、Q497Y、Q497M、Q497D、Q497R、V502T、T507L、R516L、R516E、R516I、A517S、L540V、Q542H、Q542D、Q542S、A548S、P551N、P551R、P553L、R166I、D265Tからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を有する。
【0030】
これらの個々のアミノ酸置換は、表1に示される。上記の番号付けは配列番号1または4を指す一方で、特許請求されるプロテアーゼは、タンパク質分解活性を維持するそのフラグメント、部分またはシャッフル変異型であり得ることに留意されたい。このような場合、得られるアミノ酸配列は、配列番号1または4のものよりも短いかまたは長い一方で、変異体残基の番号付けは、なおも全長配列番号1または4を指す。
【0031】
本発明の一実施形態では、プロテアーゼ変異型は、配列番号1または4に記載のクマモリシンASと比較して、少なくとも1つのアミノ酸置換を有し、置換は、
・A517TまたはA517S
・A514S、A514TまたはA514D
・N510H
・V502C
・A449Y、A449Nまたは好ましさに劣るA449E
・D447SまたはD447C
・A392I、A392L、A392VまたはA392M
・E360L、E360VまたはE360C
・E269H、E269T、E269M、E269CまたはE269Q
・Q518G
・G320Q、G320Aまたは好ましさに劣るG320S
・A386I、A386L、A386VまたはA386M
・G266A
・A372S
・E453Y、E453Wまたは好ましさに劣るE453F
・A460W
・A329Q、A329HまたはA329T
・D293Y
・R412E、R412D、R412QまたはR412M
・T301S
・D199E
・A331FまたはA331Y
・S435T、S435RまたはS435I
・V274I
・D399S
・S230D
・S434G
・M333IまたはM333L
・N515G
・A418W
・I391W
・E421R
・A487Q
・A378G
・A423V
・T326K、T326L、T326RまたはT326W
・A433G
・D399S
・Y490W
・R516EまたはR516I
・P553K
・V314L
・S327W、S327LまたはS327FA475V
・A342R
・S354EまたはS354Q
・S315P
からなる群から選択される。
【0032】
これらの置換のいくつかは、配列番号1または4に記載のクマモリシンASに個々に導入された場合、高いΔIT50をもたらし、したがって好ましい一方で、その他のものは、個々の置換と高い全体的ΔIT50との組み合わせを有する、表2a、2b、および4のコンビナトリアルクローンおよび別個のクローン、およびいくつかの組み合わせにおいて、高い発生率を有する。
【0033】
いくつかは区別なく使用されて酵素を安定化させ得て、いくつかの組み合わせは、発酵力価、プロテアーゼ阻害剤(大豆ボーマン・バークおよびクニッツ型トリプシンおよび/またはキモトリプシン阻害剤)としての抗栄養因子の加水分解、pHプロファイル、pHおよびペプシン安定性、またはより高いイオン強度に対する安定性およびその下での性能のような、飼料の生産または性能に関連するその他の形質をもたらす。
【0034】
上記の番号付けは配列番号1または4を指す一方で、特許請求されるプロテアーゼは、タンパク質分解活性を維持するそのフラグメント、部分またはシャッフル変異型であり得ることに留意されたい。このような場合、得られるアミノ酸配列は、配列番号1または4のものよりも短い一方で、変異体残基の番号付けは、なおも全長配列番号1または4を指す。
【0035】
本発明の一実施形態では、プロテアーゼ変異型は、配列番号1または4に記載のクマモリシンAS主鎖と比較して、少なくとも2つのアミノ酸置換を有する。好ましくはプロテアーゼ変異型は、前記群から選択される少なくとも3つ、より好ましくは少なくとも4つ、より好ましくは少なくとも5つ、最も好ましくは少なくとも6つのアミノ酸置換を有する。好ましくは、これらのアミノ酸置換は、上で論じた個々の置換の組み合わせである。
【0036】
本発明の一実施形態では、プロテアーゼ変異型は、配列番号1または4に記載のクマモリシンAS主鎖と比較して、少なくとも2つのアミノ酸置換を有し、少なくとも2つのアミノ酸置換は、447、および449、453、502、510、517、360、460、199、266、301、386、および514からなる群から選択される、配列番号1または4の2つ以上の残基位置にある。好ましくはプロテアーゼ変異型は、前記群から選択される少なくとも3つ、より好ましくは少なくとも4つ、より好ましくは少なくとも5つ、最も好ましくは少なくとも6つのアミノ酸置換を有する。
【0037】
好ましい一実施形態では、プロテアーゼ変異型は、D447S、A449Y、A517T、N510H、E360L、E360V、E360C、V502C、E453W、A514T、A514Y、A460W、A386I、D199E、G266A、T301Sからなる群から選択される、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つ、より好ましくは少なくとも4つ、より好ましくは少なくとも5つ、最も好ましくは少なくとも6つのアミノ酸置換を有する。
【0038】
表2a、2b、および4は、上記の個々の変異組み合わせを有する、いわゆる「別個のクローン」または「コンビナトリアルクローン」の組を示す。
【0039】
本明細書の用法では、「コンビナトリアルクローンまたは変異型」という用語は、組換えライブラリーからスクリーニングされた、クローンまたは変異型を意味する。そのような組換えライブラリーは、表1の群から選択される異なる量および変異を有する集団を含む。
【0040】
本明細書の用法では、「別個のクローンまたは変異型」という用語は、合理的なアプローチにおいて、表1の群から選択される定義された変異の組を含むように構築されたクローンを意味する。
【0041】
好ましくは、本発明によるプロテアーゼ変異型が有する前記改善された安定性は、改善された熱安定性(IT50)である。酵素の熱安定性は通常、不活性化温度(IT50)を測定することによって判定される。「不活性化温度」は、一定期間インキュベートし引き続いて室温まで冷却した後の酵素の残留活性が、室温において同一条件下で同一期間インキュベートした同一酵素の残留活性の50%である温度として定義される。
【0042】
一実施様態によれば、プロテアーゼ変異型は、配列番号1または4に記載のクマモリシンAS主鎖中の選択された残基に、
a)360、447、449、および510
b)447、449、および514、および/または
c)447、449、453、および517
の少なくとも1つの置換の組を有する。
【0043】
これらの3組の同時に置換された残基は、特に好ましい(コンセンサス変異)3組の特定の別個のクローンまたはコンビナトリアルクローンにおいて生じる。表2a/
図3、表2b/
図4、および表4/
図5を参照されたい。これらの理由から、これらの組の同時置換残基は、安定性の改善に関して言えば、特に相乗的であるように見える。
【0044】
一実施様態によれば、前記改善された安定性は、活性化酵素またはチモーゲンのいずれかの改善された熱安定性(IT50)である。一実施形態では、プロテアーゼ変異型は、≧75~≦105℃のIT50を有する。
【0045】
いくつかの実施形態では、活性化酵素では≧70~≦90℃のIT50が提供される一方で、チモーゲンでは≦80および≧105℃のIT50が提供される。
【0046】
クマモリシンAS野生型酵素は、チモーゲン、すなわち不活性チモーゲンとして79.6℃+/-0.4℃(n=46)のIT50を有し、活性化酵素として59℃+/-1℃(n=10)のIT50を有する。本明細書中では、異なる変種は、それらのIT50、またはΔIT50(すなわち、野生型IT50と比較した差)のいずれかによって特徴付けられる。
【0047】
本発明の別の実施形態によれば、上記の説明に従ったプロテアーゼ変異型をコードする核酸分子が提供される。さらに、前記核酸分子を含む、プラスミドまたはベクター系が提供され、ならびに前記プラスミドまたはベクターで形質転換されおよび/または前記核酸分子を含む、宿主細胞が提供される。
【0048】
さらに、プロテアーゼまたはプロテアーゼ変異型を製造する方法が提供され、前記方法はa)前記宿主細胞を培養するステップと、
b)前記宿主細胞からプロテアーゼまたはプロテアーゼ変異型を単離し、または培地からプロテアーゼまたはプロテアーゼ変異型を採取するステップと
を包含する。
【0049】
本発明の別の実施形態によれば、上記の説明によるプロテアーゼ変異型を含んでなり≧5のpHを有する組成物が、提供される。
【0050】
このような組成物は、その内容が参照により本明細書に援用される、欧州特許出願第16176044.2-1375号明細書およびその優先権を主張する後時の出願において一般的に考察されているが、本明細書で開示される特定のプロテアーゼ変異型は考察されていない。
【0051】
本発明の別の実施形態によれば、上記の説明によるプロテアーゼ変異型または組成物を含む、飼料添加剤、配合原料、飼料補給剤、および/または飼料が提供される。
【0052】
さらに、飼料を製造するための上記の説明によるプロテアーゼ変異型の使用が提供される。
【0053】
このような飼料添加剤、配合原料、飼料補給剤、および/または飼料は、好ましくは単胃家禽、ブタ、魚類および水産養殖用であり、それはタンパク質消化と飼料からの吸収度を高めるのを助け、さらに動物の健康や消化に有害なタンパク質生成化合物を分解する。
【0054】
さらに、上記の説明によるプロテアーゼの使用は、
・洗剤
・果実および飲料加工
・皮革加工
・タンパク質加水分解物の製造
・硬質表面洗浄またはバイオフィルム洗浄
・創傷治癒を促進するための壊死組織または火傷組織の治療
・組織工学における加工助剤および/または
・ベーキング生地調製などの食品調製
からなる群から選択される、少なくとも1つの目的または薬剤のために提供される。
【0055】
同様に、
・洗剤
・果実および飲料加工
・皮革加工
・タンパク質加水分解物の製造
・硬質表面洗浄またはバイオフィルム洗浄
・創傷治癒を促進するための壊死組織または火傷組織の治療
・組織工学における加工助剤および/または
・ベーキング生地調製などの食品調製
なる群から選択される、1つの目的または薬剤のための添加剤、成分または薬剤
が提供され、上記添加剤、成分または薬剤は、上記の説明による組成物を含む。
【0056】
さらに、
i)配列番号1~4のいずれかに記載のクマモリシンASアミノ酸配列をコードするDNA、cDNAまたはmRNAを変異誘発するステップと、
ii)このようにして得られたクマモリシンASの1つまたは複数の変異体を発現するステップと、
iii)クマモリシンASの1つまたは複数の変異体を少なくとも安定性、好ましくは熱安定性について試験するステップと
を含む、上記の説明に従ってプロテアーゼ変異型を製造する方法が提供される。
【0057】
好ましくは、前記方法において、クマモリシンASの1つまたは変異型をコードする核酸配列および/またはアミノ酸配列が決定される。この目的のために、先行技術からの日常的方法が使用され得る。
【0058】
実験および図面
本発明を図面および前述の記載において詳細に例証し説明してきたが、このような図面および記載は例証的または例示的であり、限定的ではないと見なすべきであり;本発明は開示された実施形態に限定されない。開示された実施形態のその他のバリエーションは、図面、開示、および添付の特許請求の範囲の検討から、特許請求された発明の実施において当業者によって理解され達成され得る。いかなる参照符号も、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0059】
本明細書で開示される全てのアミノ酸配列は、N末端からC末端方向で示されており;本明細書で開示される全ての核酸配列は、5’→3’方向で示されている。
【0060】
1.クマモリシンAS主鎖のアミノ酸配列
配列番号1は、本明細書で使用されるクマモリシンAS主鎖のプロ酵素(プロペプチドが付いた酵素、本明細書ではチモーゲンとも称される)配列を示す。クマモリシンASの野生型配列がN末端M残基を有する一方で、本明細書で使用されるクマモリシンAS主鎖は前記Mを欠いていることを理解することが重要であるが、これは後者が、後に切断されたシグナル配列によって置換されたためである。このようなシグナル配列は、例えばsacBシグナルペプチドMNIKKFAKQATVLTFTTALLAGGATQAFAである。
【0061】
したがって、配列番号1では、プロペプチドはAA2~189(以前のN末端Mは欠損しているが、なおも配列番号の番号付けにおいてAA番号1と見なされる)を含んでなり、酵素はAA190~553を含む:
【化1】
【0062】
プロペプチドは灰色で網掛けされている。E267、D271、およびS467からなる触媒三つ組SED(=Ser/Glu/Asp)は、斜体で示される。本発明者らが、改変/改善された特性をもたらす変異を見いだした位置は、下線で強調される。
【0063】
2.リーダー配列およびHisTagが付いたクマモリシンAS主鎖のアミノ酸配列
配列番号2では、sacBリーダー配列は、AA1~29(波状の下線)を含んでなり、プロペプチドの最初のN末端Mを置換する。プロペプチド(灰色の網掛け)はAA30~217を含んでなり、活性化酵素はAA218-581を含んでなり、His標識はAA582~587(二重下線)を含む。
【化2】
【0064】
3.プロペプチドを欠く活性化クマモリシンAS主鎖のアミノ酸配列
配列番号3では、活性化クマモリシンAS主鎖酵素がAA1~364で示される:
【化3】
【0065】
4.クマモリシンAS野生型のアミノ酸配列
配列番号4は、アリシクロバチルス・センダイエンシス(Alicyclobacillus sendaiensis)から得られた、クマモリシンAS野生型のプロ酵素(プロペプチドが付いた酵素)配列(GenBank:AB085855.1)を示す。配列番号4は、本明細書で使用されるクマモリシンAS主鎖の配列を示す配列番号1と異なり、配列番号1は、野生型配列番号4にはなおも存在するN末端Mを欠く。これは、配列番号1では、N末端Mが後時に切断されるsacBシグナル配列によって置換されたためである。配列番号4では、プロペプチドはAA1~189を含んでなり、酵素はAA190~553を含む:
【化4】
ここでもプロペプチドは灰色で網掛けされている。E267、D271、およびS467からなる触媒三つ組SED(=Ser/Glu/Asp)は、斜体で示される。
【実施例】
【0066】
実施例1:プロテアーゼ活性試験
プロテアーゼ活性アッセイをマイクロタイタープレート内で実施した。
a)AAPFアッセイ96ウェルフォルメート
アッセイ緩衝液:200mMの酢酸ナトリウム、1mMのCaCl2、pH3の0.01%トリトンX-100、実験に応じて
基質原液:無水DMSO中の100mM
基質使用液:アッセイ緩衝液で1:50に希釈された基質原液
【0067】
実施:50μLの希釈サンプルをNunc96透明平底プレートのウェル内に装填する。サンプルの体積活性に対応する0.01%トリトン-X100を含むように、水で希釈する。50μLの基質使用液を加えて、反応を開始させる。酵素活性の尺度として410nmにおける吸着の増加をモニターすることによって、37℃で動態を測定する。活性は、参照法によって測定された既知のタンパク質分解活性を有する主鎖の標準酵素製剤を用いて、検量線を構築することによって計算した。
【0068】
異なるpH値でプロテアーゼ活性をアッセイするために、以下の緩衝液を使用した:各200mMのpH2.0~3.0のグリシン/HCL、pH3.0~6.0のクエン酸三ナトリウム/クエン酸、およびpH6.0~7.5のトリス/マレイン酸。
【0069】
b)IT50
IT50は、上述の条件下で活性の50%が不活性化される温度を定義する。同等ではないが、それは、例えば、ペレット化条件または洗剤用途における条件、食器洗いまたは布帛または硬質表面の洗浄、およびその他の技術的用途などの用途における、熱安定性の尺度である。
【0070】
予測条件下における酵素変異型のスクリーニングは必須である。本明細書に記載されるもののようなプロテアーゼでは、これもまた本明細書に記載される方法による熱的により安定な変異型のスクリーニングは、プロテアーゼの自己加水分解によって影響され得る。欧州特許出願16176044号明細書の実施例9に既に記載されているように、プロテアーゼが活性である条件下で、より高い熱安定性を有する変異型についてスクリーニングすると、熱不活性化および自己加水分解の混合効果の結果として、多数の偽陽性がもたらされる。同じ出願は、以下に記載する方法で、不活性酵素チモーゲンの形態の酵素および酵素変異型の熱安定性についての試験を実施することによって、本明細書に記載のクラスの酸性プロテアーゼの場合のように、小分子可逆酵素阻害剤の不在下でこの問題を回避することを教示する。
【0071】
アッセイ緩衝剤:50mMのリン酸ナトリウム、0.25mMのCaCl2、pH6.5
800mMのグリシン/HCl、pH2.8
【0072】
熱不活性化実施:サンプルをリン酸カリウム緩衝液中で体積活性に対応して希釈した。最終溶液のpHがpH6.3を超えていることを確認した。PCR装置の温度勾配の方向に従って、サンプルを1ウェルあたり20μLの複製で384ウェルPCRプレートに移し入れた。プレートを接着剤またはホットメルトのカバーホイルで密封し、予想されるIT50値付近で±12℃の温度勾配を有する熱勾配サイクラー上で、10分間インキュベートした。サンプルを8℃に冷却してから、以下のようにAAPF-pNAを用いてサンプルの残留活性を測定した。それぞれ15μLのサンプルを温度インキュベーションプレートから384ウェルグレイナー透明平底PS-マイクロプレートに移し入れ、9μLのグリシン緩衝液を添加し、プロテアーゼを37℃で1時間のインキュベーション中に活性化した。プロテアーゼの活性化後、24μLのAAPF-pNA溶液(0.01%Triton-X100を含む水中の2mMAAPF-pNA)を添加することによってアッセイを開始し、37℃での動態を追跡することによって活性を測定した。不活性化温度における残留活性の正規化実験データを4パラメータロジスティクス関数に当てはめ、IT50を評価した。
【0073】
c)プロペプチドなしの活性化酵素タンパク質のIT50:
熱不活性化実施前の酵素活性化。サンプルを、2b)に記載のようにグリシン緩衝液pH2.8中で体積活性に対応して希釈し、pHがpH4.0以下であることを確認した。サンプルを37℃で1時間のインキュベーションによって活性化した。インキュベーション後、サンプルを50mMリン酸ナトリウム緩衝液pH8.0で1:3に希釈することによって、pHが7.0を超えるようにした。活性化酵素タンパク質の熱不活性化の実施。PCR装置の温度勾配の方向に従って、活性化酵素タンパク質のアリコートを1ウェルあたり20μLの複製で384ウェルPCRプレートに移し入れた。プレートを接着剤またはホットメルトのカバーホイルで密封し、予想されるIT50値付近で±12℃の温度勾配を有する熱勾配サイクラー上で、10分間インキュベートした。サンプルを8℃に冷却してから、以下のようにAAPF-pNAを用いてサンプルの残留活性を測定した。それぞれ15μLのサンプルを温度インキュベーションプレートから384ウェルグレイナー透明平底PS-マイクロプレートに移し入れ、9μLのグリシン/HCl緩衝液を加えてpHを3.0に調節した。24μLのAAPF-pNA溶液(0.01%Triton-X100を含む水中の2mMのAAPF-pNA)を添加することによってアッセイを開始し、37℃での動態を追跡することによって活性を測定した。不活性化温度における残留活性の正規化実験データを4パラメータロジスティクス関数に当てはめ、IT50を評価した。
【0074】
d)pHプロファイル-活性化酵素タンパク質
酵素タンパク質を含有する未希釈細菌上清を1MのHClでpH4に滴定し、酵素を37℃で60分間活性化した。20μLのサンプルをpH1.8~7.0の200μLのブリトン・ロビンソン緩衝液に添加した(NaClで15mS/cmの導電率に調節)。次に20μLを384ウェルグレイナー平底PS-マイクロプレートに、20μlの基質溶液(0.01%トリトン-X100を含む水中の2mMのAAPF-pNA)と共に移し入れ、実施例1a)に記載のように410nmおよび37℃で動態をモニターすることによって活性を測定した。各動態実験は四連で行った。
【0075】
e)pH/ペプシン抵抗性
酵素タンパク質を含有する未希釈細菌上清を1MのHClでpH2.5に滴定した。次に90μlをNunc96ウェル透明平底マイクロタイタープレートに移し入れた。pH2.5緩衝液中の250μg/mLペプシンストック溶液(アッセイにおける最終濃度25μg/mL)またはpH2.5緩衝液の10μlを各ウェルに添加し、次に37℃で30分間インキュベートした。最後に、5μlの100μMペプスタチンA溶液(最終濃度5μM)を各ウェルに添加し、ペプシン反応を停止させた。25μlのサンプルを新しいNunc96ウェル透明平底マイクロタイタープレート内の175μlのグリシン/HCl緩衝液pH3.0に移し入れた。次に20μLを384-ウェルグレイナー平底PS-マイクロプレートに、20μlの基質溶液(0.01%トリトン-X100を含む水中の2mMのAAPF-pNA)と共に移し入れ、実施例1a)に記載のように410nmおよび37℃で動態をモニターすることによって活性を測定した。各動態実験は四連で行った。
【0076】
f)導電率依存性
Nunc96ウェル透明平底マイクロタイタープレート内において、20μlの未希釈細菌上清を180μlのグリシン/HCl緩衝液pH3.0で希釈し、NaClで2、4、6、10、20、30、40、50mS/cmの伝導率に調節した。サンプルを37℃で20分間インキュベートし、次に20μLのサンプルを384ウェルグレイナー平底PS-マイクロプレートに、20μlの基質溶液(0.01%Triton-X100を含む水中2mMのAAPF-pNA)と共に移し入れ、実施例1a)に記載のように410nmおよび37℃で動態をモニターすることによって活性を測定した。各動態実験は四連で行った。
【0077】
g)BBI/KTI加水分解-機能的トリプシンアッセイ
ボーマン・バークおよびクニッツ型阻害剤(BBI/KTI)は、マメ科植物や穀物の種子に広く分布している、セリンプロテアーゼの強力な阻害剤である。アッセイ原理は、プロテアーゼ活性によるBBI/KTIのタンパク質分解が、阻害剤なしで、ベンジル-アルギニン-pNA(Bz-R-pNA)基質上の天然トリプシン活性を回復することである。酵素タンパク質を含有する90μLの細菌上清をグリシン/HCl緩衝液でpH3.0に希釈し、次に37℃で30分間インキュベートした。次に20μlのサンプルを20μlの阻害剤溶液(グリシン緩衝液pH3.0中で希釈された、KTI:8μg/mL;BBI:16μg/mL;KTI/BBI:4/8μg/mL)に混合し、37℃で60分間さらにインキュベートした。15μlのサンプルを384ウェルグレイナー平底PS-マイクロプレートに移し入れ、次にpH8.0の15μlトリプシン溶液(最終トリプシン濃度1μg/mL;最終pH7.0またはpH7.5)を各ウェルに添加し、プレートを37℃で10分間インキュベートした。最後に、30μLの基質溶液(0.01%Triton-X100を含む水中の2mMのBz-R-pNA)を各ウェルに添加し、実施例1a)に記載のように410nmおよび37℃で動態をモニターすることによって活性を測定した。各動態実験は四連で行った。
【0078】
実施例2:遺伝的多様性の創製
初期の遺伝的多様性は、配列番号1の活性酵素コア配列の各位置を無作為化することによって導入した。Green & Sambrook(eds),Molecular Cloning,4th edition,CSHLに記載されるような変異誘発法およびCadwell and Joyce(PCR Methods Appl.3[194],136-140)で開示されるような適切な変異誘発PCR法を用いて、大腸菌(E.coli)/バチルス属(Bacillus)シャトルベクター上に担持されている遺伝子に、変異体酵素単一部位飽和ライブラリーを導入した。バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)における異種発現後にプロテアーゼ酵素変異型を特徴付け、表現型的に最適化された変異型を実施例3に概説されるスクリーニング手順によって選択した。
【0079】
一般に、酵素のようなタンパク質を変異誘発し、そのメンバーが変化した特徴を有してもよい変異タンパク質ライブラリーを得る方法は十分に確立されている。タンパク質を変異誘発する方法は、例えば、その内容が使用可能化の目的で参照により本明細書に援用される、Hsieh & Vaisvila(2013)に記載されるような部位特異的変異誘発などを包含する。
【0080】
そのような方法は時に、すなわち確立されたライブラリーが次に特定の特徴についてスクリーニングされる場合、「指向性進化」と称される。その内容が使用可能化の目的で参照により本明細書に援用されるPacker & Liu(2015)が、各方法論の概説を提供する。
【0081】
実施例3:熱安定性が増大した酵素変異型の表現型スクリーニング
初期段階で単一部位飽和ライブラリーの形態で、またはその後の段階で組換えライブラリーまたは別個のクローンの形態で、生じた遺伝的多様性は、完全に自動化されたロボットワークステーションにおいてハイスループットでそれらを実行するために必要な適応を加えて、実施例1b)に記載の方法を用いて、最適化された表現型、すなわち熱安定性が増大した変異型についてスクリーニングした。これらは主にインキュベーション時間、体積、基質における適応であり、主な適応は、温度勾配上の熱不活性化プロファイルによってではなく、遺伝的多様性の平均から最適化変異型を区別するために設定された温度である単一温度でのインキュベーション後の残留活性によって、最適化変異型を選択することであった。2個の位置、3個の位置、n個の位置をはじめとする、1つまたは複数のアミノ酸位置が配列番号2と異なる、プロテアーゼ変異型を誘導した。本出願の要求を満たすために、本明細書に記載の手順の適切な反復ラウンドを実施した。
【0082】
実施例4:
使用された主鎖と比較してIT50を増加させる、以下の個々の変異を同定した。IT50を上記のように分析し、使用される主鎖(=N末端メチオニンが欠如した野生型)のIT50と比較し、対応するΔIT50によって変異型を特徴付けた。主鎖は、チモーゲンとして79.6℃+/-0.4℃(n=46)のIT50、および活性化酵素として59℃+/-1℃(n=10)のIT50を有する。
【0083】
【0084】
表3に示されるようにかなりの数の別個のクローンおよびコンビナトリアルクローンがこれらの位置に置換を有し、その2つ以上の残基が同時に変異した場合、熱安定化に相乗効果がもたらされる。
【0085】
実施例5:
部位特異的変異誘発を通じ、選択された別個の変異をクマモリシンAS野生型配列に導入することによって、別個の変異型を創成した。当該技術分野で公知の適切な突然変異誘発PCR法、およびGreen & Sambrook(eds),Molecular Cloning,4th edition,CSHLに記載されるような標準的なクローニング技術を用いた。バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)における異種発現、および上述の方法を用いた表現型的分析後に、プロテアーゼ酵素変異型を特徴付けた。
【0086】
Yolov and Shabarova(1990)に記載されるような周知のPCR法によって、そしてGreen & Sambrook(eds),Molecular Cloning,4th edition,CSHLに記載されるような標準的なクローニング技術を用いて、上記の実施例で同定され表1に概説される変異を組み合わせたコンビナトリアルライブラリーを作成した。実施例3に記載されるように、コンビナトリアルライブラリーを最適化変異型についてスクリーニングした。
【0087】
実施例6:
表1からの2つ以上の変異を含む別個のクローンおよびコンビナトリアルクローンを同定し、IT50を上記のように分析して使用された主鎖のIT50(=N末端メチオニンが欠如する野生型)と比較して、対応するΔIT50によって変異型を特徴付けた。主鎖のIT50は変異型と同じ実験で判定されたため、測定された主鎖のIT50は平均値とわずかに異なり得る。結果は以下の表2aに示される(
図3は結果を図の形式で示す):
【0088】
【0089】
表2a、2b、および4の別個のクローンの得られたΔIT50は、例えば表6に示されるように、別個のクローンに含まれる個々の変異のΔIT50の算術合計に必ずしも相当しないことを理解することが重要である。
【0090】
表2aおよび2bに示されるように、チモーゲンに対して最も高い安定化効果を有するコンビナトリアルクローンから分かるように、いくつかの変異は、活性化酵素と比較してチモーゲンにおいて異なる効果を有することを理解することがさらに重要である。
【0091】
表2bは、表2aに示されていないチモーゲンのIT50に基づく、クローンおよび変異を示す。(
図4は結果を図の形式で示す)。
【0092】
【0093】
いくつかの変異において、安定化効果がチモーゲンと比較して活性化酵素において減少するという知見は、理論に束縛されることなく、プロペプチドへの近接性およびプロペプチドと酵素コアとの間の潜在的に最適化された相互作用によって説明され得る。
【0094】
したがって、チモーゲンまたは活性酵素の安定化において最も高い効果を有する変異が組み合わされるかどうかの決定は、用途または貯蔵条件に左右される。
【0095】
熱処理前のpHが低い用途、すなわちpHが極めて低いプレミックスは、活性化酵素を最も安定化させる単一変異の組み合わせを有する変異型酵素の使用を要求するのに対して、熱処理前のより高いpH状態は、活性化酵素よりもさらにチモーゲンを安定化する変異を組み合わせられるようにし、その結果、プロペプチドの熱的安定化効果もまた利用できるようにし、それはこの場合、変異の影響に対して相加的である。
【0096】
さらに、絶対的な安定化効果が最も高いわけではないが、双方の酵素形態、すなわちチモーゲンおよび活性化酵素を同様に安定化する変異を組み合わせることは、道理にかなっているかもしれない。
【0097】
以下の表3および
図1において、いくつかの好ましい置換が示される。好ましいプロテアーゼ変異型は、配列番号1または4に記載のクマモリシンASと比較して、これらのアミノ酸置換の少なくとも1つを有する。これらの置換が好ましい理由は、a)それらが単独の置換として特定のΔIT50(チモーゲンまたは活性化酵素)を付与し、またはb)それらが好ましいコンビナトリアル変異型および別個の変異型においてしばしば生じるためである。
【0098】
【0099】
変異は、発酵微生物生産系における生産可能性、またはペプシンのような動物のpH条件または内因性プロテアーゼに対する安定性などのその他の酵素パラメータに対して、正または負の影響を及ぼし得ることもさらに理解される。低pHおよびペプシンの存在下で飼料用酵素の安定性を試験することは、飼料用酵素の標準であり、実施例1eに概説されるようにこの研究において実施された。より高いイオン強度に対する安定性は、飼料用酵素の標準試験法ではないが、高イオン濃度はこのような条件下における酵素安定性および酵素性能を妨害し得て、例えば腸内で見いだされ得る。腸内の酸分泌および飼料成分は、イオン強度の増加につながる。
【0100】
図2は、より高いイオン強度の存在下において、野生型が安定性と性能の低下の複合効果を被ることを示している。
図2はまた、表4に示す最上位の変種#1~#7に対するイオン強度の影響も示す。
【0101】
実施例1dに記載のように、高イオン強度における性能および安定性を試験した。pHプロファイルは対照パラメータであり、実施例1fに記載のように試験した。トリプシン/キモトリプシン阻害剤BBIおよびKTI(ボーマン・バーク阻害剤およびクニッツ型阻害剤)のようなタンパク質性抗栄養因子の分解は、実施例1gに記載のように試験したプロテアーゼに特徴的な潜在的な有益な性能である。
【0102】
表4は、詳細に試験された651の個々のコンビナトリアル変異型および別個の変異型から、多数の性能および安定性パラメータをまとめて変異型を記載する(
図5は結果を図の形式で示す)。
【0103】
表4に示される全ての変異型は、野生型よりも微生物生産系においてより良くまたは同等に生産され、実施例1dに記載されるように試験されたそれらのpH活性プロフィールに関連する変化を有さない。表4は、活性化酵素の熱安定性、pH/ペプシン安定性、およびより高いイオン強度に対する安定性ならびにその下での性能に基づいて、これらの変異型を格付けする。
【0104】
機能的トリプシン阻害アッセイで試験したところ、最良の変異型は、BBIおよびKTI(ボーマン・バーク阻害剤およびクニッツ型阻害剤)を加水分解し得ることがさらに見いだされ、それはこれらの変異型に組み込まれた高い熱安定性に加えて、これらの変異型を親酵素と区別する。
【0105】
【0106】
以下の表5は、所与の変異、好ましいコンビナトリアル変異型、および別個の変異型の出現頻度を示す。出現頻度は、所与の変異の役割と重要性の尺度である。
【0107】
【0108】
以下の表6は、チモーゲンまたは活性化形態のΔIT50に対する、単一変異の影響を示す。この場合も、ΔIT50に対する単一変異の影響の量は、前記変異の役割および重要性の尺度である。
【0109】
【0110】
表1および表6のいくつかの変異を区別なく使用し、クマモリシンASにおける熱安定性を操作し得ることがさらに理解される。表7は、表7の変異型#1に基づく変異型の組を示す。遺伝子操作の過程で、位置502および510における変異は、pH2未満の極端な酸性pHで活性を変化させるようであった。
【0111】
502および510での変異を除外すると、例えば表7のクローン#2のように、活性化酵素の目標温度安定性よりも著しく熱安定性が低下し、それはクローン#1と比較して熱安定性が7.8℃低下した。表1および6で同定され示された変異を利用し、合理的なアプローチによって一組の別個の変異型を構築し、502および510の影響を補償した。D399S置換を除いて、502および510における変異の影響は、徐々にまたは完全に補償され得る。
【0112】
【0113】
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【配列表】