(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】水質センサ及び水中の物質濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20230906BHJP
G01N 21/33 20060101ALI20230906BHJP
G01N 21/59 20060101ALI20230906BHJP
G01N 21/3577 20140101ALI20230906BHJP
【FI】
G01N21/27 D
G01N21/33
G01N21/59 C
G01N21/3577
(21)【出願番号】P 2022550140
(86)(22)【出願日】2022-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2022018880
(87)【国際公開番号】W WO2022239641
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2021081397
(32)【優先日】2021-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉井 一誠
(72)【発明者】
【氏名】小島 広大
(72)【発明者】
【氏名】藤井 義靖
(72)【発明者】
【氏名】小島 淳二
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 健太
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼原 大輝
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 克則
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0128256(US,A1)
【文献】特開平01-313737(JP,A)
【文献】特開2008-070293(JP,A)
【文献】特表平11-503236(JP,A)
【文献】特開2004-294355(JP,A)
【文献】特開平10-108857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
G01N 15/06
G01N 33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源から照射される光を透過光と反射光に分割するビームスプリッタと、
前記透過光を検出する第1検出器と、
前記反射光を検出する第2検出器と、
液体のサンプルで満たされる測定用空間と、
を備え、
前記第1検出器での検出結果と前記第2検出器での検出結果から前記サンプルの特定物質の濃度を特定する水質センサであって、
前記光が前記光源から前記第1検出器に至るまでの光路のうち前記測定用空間内を通る部分を第1光路とし、
前記光が前記光源から前記第2検出器に至るまでの光路のうち前記測定用空間内を通る部分を第2光路とするとき、
前記第2光路の光路長が前記第1光路の光路長と異なり
、
更に、前記光源と前記測定用空間との間を仕切る第1透過窓と、
前記測定用空間を挟んで前記第1透過窓側とは反対側に設けられ、前記測定用空間と前記ビームスプリッタとの間を仕切る第2透過窓と、
前記ビームスプリッタで分割された前記反射光を前記第2検出器に向けて反射させるミラーと、を備え、
前記光源、前記第1透過窓及び前記第2透過窓は、前記光源から照射された光が前記第1透過窓及び前記第2透過窓の面に対して垂直に入射する位置関係で配置され、
前記ビームスプリッタ、前記ミラー、前記第1透過窓及び前記第2透過窓は、前記ミラーで反射された前記反射光が前記第1透過窓及び前記第2透過窓の面に対して垂直に入射する位置関係で配置される水質センサ。
【請求項2】
硝酸イオン、亜硝酸イオン、又はアンモニウムイオンの濃度を測定対象とする請求項1に記載の水質センサ。
【請求項3】
前記測定用空間に異物が侵入することを抑制するフィルタを備える請求項1又は請求項2に記載の水質センサ。
【請求項4】
測定用空間内が液体のサンプルで満たされるようにする設置工程と、
光源から光を照射させる照射工程と、
前記光源から照射された光をビームスプリッタによって透過光と反射光に分割する分割工程と、
第1検出器によって前記透過光を検出する第1検出工程と、
第2検出器によって前記反射光を検出する第2検出工程と、
を含み、
前記光が前記光源から前記第1検出器に至るまでの光路のうち前記測定用空間内を通る部分を第1光路とし、
前記光が前記光源から前記第2検出器に至るまでの光路のうち前記測定用空間内を通る部分を第2光路とするとき、
前記第1検出工程で検出した前記透過光の光量をIC1、前記第2検出工程で検出した前記反射光の光量をIC2、前記ビームスプリッタの透過率を反射率で割った値である分光度をD、前記第1光路の光路長に対する前記第2光路の光路長の割合をNとし、下記式(A)から求められる吸光度AC1を算出する演算工程と、
前記演算工程で算出された吸光度AC1を用いて前記サンプル内の特定物質の濃度を特定する特定工程と、を含み、
前記照射工程は、前記光源と前記測定用空間との間を仕切る第1透過窓の面と、前記測定用空間と前記ビームスプリッタとの間を仕切る第2透過窓の面とに対して、前記光源から照射される光を垂直に入射させ、
更に、前記ビームスプリッタで分割された前記反射光をミラーによって前記第2検出器に向けて反射させ、前記ミラーによって反射された前記反射光を前記第1透過窓及び前記第2透過窓の面に対して垂直に入射させる反射工程を含む水中の物質濃度測定方法。
AC1=[{-log(IC2/IC1)}+logD]/(N―1)・・・式(A)
【請求項5】
前記特定工程は、前記演算工程で算出された吸光度AC1を用いて前記サンプル内の硝酸イオン、亜硝酸イオン、又はアンモニウムイオンの濃度を特定する請求項4に記載の水中の物質濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水質センサ及び水中の物質濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2には、溶液中の特定の物質の吸光度をランベルト・ベールの法則に基づいて算出し、算出した吸光度を用いて溶液中の上記特定の物質の濃度を特定する技術が開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1では以下のように吸光度が求められる。
特許文献1では、発光ダイオードから照射された光が、ビームスプリッタを通過する。ビームスプリッタは、光の一部を分岐して対照光検出器に向け、残りの光は窓を通してフローセル内の溶液に導かれる。溶液を通過した光は、光検出器で検出される。
ランベルト・ベールの法則によれば、媒質に入射する前の光の強度をI0、媒質を透過した後の光の強度をI1としたとき、吸光度Aは下記式(X)で表される。
A=-log(I1/I0)・・・式(X)
よって、式(X)において、対照光検出器が検出した光の強度をI0に代入し、光検出器が検出した光の強度をI1に代入することで、吸光度Aが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2009-517641号公報
【文献】特開2019-109054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、対照光検出器によって検出される光の強度は、溶液中の測定対象の物質だけでなく、溶液の濁度にも影響される。これに対し、溶液を通過せずに光検出器によって検出される光の強度は、濁度の影響がない。このため、対照光検出器及び光検出器の検出値に基づいて吸光度を検出する場合、光源の熱的・電力的な揺らぎ、光量の低下、または濁度に起因した誤差の影響が生じることが懸念される。
【0006】
本開示は、光源の熱的・電力的な揺らぎ、光量の低下、または濁度に起因した誤差の影響を抑制しつつ、水中の特定物質の濃度を測定し得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の水質センサは、光源と、ビームスプリッタと、第1検出器と、第2検出器と、測定用空間と、を備える。上記ビームスプリッタは、上記光源から照射される光を透過光と反射光に分割する。上記第1検出器は、上記透過光を検出する。上記第2検出器は、上記反射光を検出する。上記測定用空間は、液体のサンプルで満たされる。上記水質センサは、上記第1検出器での検出結果と上記第2検出器での検出結果から上記サンプルの特定物質の濃度を特定する。光が上記光源から上記第1検出器に至るまでの光路のうち上記測定用空間内を通る部分を第1光路とする。光が上記光源から上記第2検出器に至るまでの光路のうち上記測定用空間内を通る部分を第2光路とする。上記第2光路の光路長は、上記第1光路の光路長と異なる。
【0008】
標準液に入射したと仮定した場合の透過光の光量をI0と仮定する。また、測定用空間がサンプルで満たされた状態で第1検出器が検出する光の光量をIC1、測定用空間がサンプルで満たされた状態で第2検出器が検出する光の光量をIC2とする。また、ビームスプリッタの透過率を反射率で割った値である分光度をDとする。この場合、ランベルト・ベールの法則より、第1検出器で検出される光の吸光度AC1は、下記式(1)で表され、第2検出器で検出される光の吸光度AC2は、下記式(2)で表される。
AC1=-log(IC1/I0)・・・式(1)
AC2=-log(IC2/D・I0)・・・式(2)
式(1)、式(2)から下記式(3)が求められる。
AC2-AC1
={-log(IC2/D・I0)}-{-log(IC1/I0)}
=-log(IC2/IC1)+logD・・・式(3)
他方、第2光路の光路長が第1光路の光路長のN倍である場合、下記式(4)が成り立つ。
AC2-AC1
=N・AC1-AC1
=(N―1)・AC1・・・式(4)
式(3)と式(4)から下記式(A)が求められる。
AC1=[{-log(IC2/IC1)}+logD]/(N―1)・・・式(A)
よって、予め把握しておいた分光度D、及び光路長の比Nと、水質センサで検出された光量IC1及び光量IC2を式(A)に代入することで、第1検出器で検出される光の吸光度AC1を求めることができる。つまり、この水質センサによれば、光量I0を用いることなく吸光度AC1を求めることができる。このため、サンプルに入射する前と後とでサンプルの濁度に起因して生じる誤差の影響を排除して、吸光度AC1を求めることができる。そして、この吸光度AC1を用いて特定物質の濃度を特定することができる。従って、この構成によれば、光源の熱的・電力的な揺らぎ、光量の低下、または濁度に起因した誤差の影響を抑制しつつ、水中の特定物質の濃度を測定し得る。
【0009】
(2)上記水質センサは、第1透過窓と、第2透過窓と、ミラーとを備えていてもよい。上記第1透過窓は、上記光源と上記測定用空間との間を仕切ってもよい。上記第2透過窓は、上記測定用空間を挟んで上記第1透過窓側とは反対側に設けられ、上記測定用空間と上記ビームスプリッタとの間を仕切ってもよい。上記ミラーは、上記ビームスプリッタで分割された上記反射光を前記第2検出器に向けて反射させてもよい。上記光源、上記第1透過窓及び上記第2透過窓は、上記光源から照射された光が上記第1透過窓及び上記第2透過窓の面に対して垂直に入射する位置関係で配置されてもよい。上記ビームスプリッタ、上記ミラー、上記第1透過窓及び上記第2透過窓は、上記ミラーで反射された上記反射光が上記第1透過窓及び上記第2透過窓の面に対して垂直に入射する位置関係で配置されてもよい。
【0010】
この構成によれば、光源から照射された光が第1透過窓及び第2透過窓を透過するときの透過率の低下を抑えることができる。また、この構成によれば、ミラーで反射された反射光が第1透過窓及び第2透過窓を透過するときの透過率の低下を抑えることができる。
【0011】
(3)上記水質センサは、硝酸イオン、亜硝酸イオン、又はアンモニウムイオンの濃度を測定対象としてもよい。
【0012】
この構成によれば、硝酸イオン、亜硝酸イオン、又はアンモニウムイオンの濃度を測定対象とすることができる。
【0013】
(4)上記水質センサは、上記測定用空間に異物が侵入することを抑制するフィルタを備える構成であってもよい。
【0014】
この構成によれば、フィルタによって異物の侵入を抑制しつつ、測定用空間内をサンプルで満たすことができる。
【0015】
(5)本発明の水中の物質濃度測定方法は、設置工程と、照射工程と、分割工程と、第1検出工程と、第2検出工程と、演算工程と、特定工程と、を含む。上記設置工程では、測定用空間内が液体のサンプルで満たされるようにする。上記照射工程では、光源から光を照射させる。分割工程では、上記光源から照射された光をビームスプリッタによって透過光と反射光に分割する。上記第1検出工程では、第1検出器によって上記透過光を検出する。上記第2検出工程では、第2検出器によって上記反射光を検出する。光が上記光源から上記第1検出器に至るまでの光路のうち上記測定用空間内を通る部分を第1光路とする。光が上記光源から上記第2検出器に至るまでの光路のうち上記測定用空間内を通る部分を第2光路とする。上記演算工程は、下記式(A)から求められる吸光度AC1を算出する。なお、上記第1検出工程で検出した上記透過光の光量をIC1、上記第2検出工程で検出した上記反射光の光量をIC2、上記ビームスプリッタの透過率を反射率で割った値である分光度をD、上記第1光路の光路長に対する上記第2光路の光路長の割合をNとする。
AC1=[{-log(IC2/IC1)}+logD]/(N―1)・・・式(A)
上記特定工程では、上記演算工程で算出された吸光度AC1を用いて上記サンプル内の特定物質の濃度を特定する。
【0016】
この水中の物質濃度測定方法によれば、予め把握しておいた分光度D、及び光路長の比Nと、第1検出工程で検出した透過光の光量IC1と、第2検出工程で検出した反射光の光量IC2と、を式(A)に代入することで、第1検出器で検出される光の吸光度AC1を求めることができる。つまり、この構成によれば、光量I0を用いることなく吸光度AC1を求めることができる。このため、サンプルに入射する前と後とでサンプルの濁度に起因して生じる誤差の影響を排除して、吸光度AC1を求めることができる。そして、この吸光度AC1を用いて特定物質の濃度を特定することができる。従って、この構成によれば、光源の熱的・電力的な揺らぎ、光量の低下、または濁度に起因した誤差の影響を抑制しつつ、水中の特定物質の濃度を測定し得る。
【0017】
(6)上記照射工程は、上記光源と上記測定用空間との間を仕切る第1透過窓の面と、上記測定用空間と上記ビームスプリッタとの間を仕切る第2透過窓の面とに対して、上記光源から照射される光を垂直に入射させてもよい。更に、上記水中の物質濃度測定方法は、反射工程を含んでもよい。上記反射工程は、上記ビームスプリッタで分割された上記反射光をミラーによって上記第2検出器に向けて反射させ、上記ミラーによって反射された上記反射光を上記第1透過窓及び上記第2透過窓の面に対して垂直に入射させてもよい。
【0018】
この構成によれば、光源から照射された光が第1透過窓及び第2透過窓を透過するときの透過率の低下を抑えることができる。また、この構成によれば、ミラーで反射された反射光が第1透過窓及び第2透過窓を透過するときの透過率の低下を抑えることができる。
【0019】
(7)上記特定工程は、上記演算工程で算出された吸光度AC1を用いて上記サンプル内の硝酸イオン、亜硝酸イオン、又はアンモニウムイオンの濃度を特定してもよい。
【0020】
この構成によれば、硝酸イオン、亜硝酸イオン、又はアンモニウムイオンの濃度を特定することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、光源の熱的・電力的な揺らぎ、光量の低下、または濁度に起因した誤差の影響を抑制しつつ、水中の特定物質の濃度を測定し得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、第1実施形態の水質センサを概念的に例示する構成図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態の水質センサのセル部を概略的に例示する構成図である。
【
図5】
図5は、特定物質の濃度を特定する流れを例示するフローチャートである。
【
図6】
図6は、第2実施形態の水質センサのセル部を概略的に例示する構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.第1実施形態
1-1.水質センサ1の構成
図1に示す水質センサ1は、液体のサンプルに含まれる特定物質の濃度を特定するセンサである。液体のサンプルは、例えば淡水や海水などであり、水以外の液体も含む概念である。液体のサンプルは、ある程度の透明度を有することが好ましく、例えば、散乱光法、又は、透過光法にて測定した濁度がホルマジン度で0度以上且つ500度以下であることが好ましい。特定物質は、吸光物質であればよく、例えば、硝酸イオン、亜硝酸イオン、アンモニウムイオンなどである。水質センサ1は、特定物質の吸光度を利用して特定物質の濃度を特定するものである。
【0024】
水質センサ1は、センサ本体10と、信号ケーブル70と、演算装置80とを備える。センサ本体10は、防水構造をなしている。センサ本体10は、一方向に延びる形態をなしている。センサ本体10の基端側には、信号ケーブル70が接続されている。センサ本体10は、基端側から先端側に向けて、コネクタ部11と、ボディ部12と、セル部13と、を有する。
【0025】
コネクタ部11の基端側には、信号ケーブル70が接続されており、コネクタ部11の先端側には、ボディ部12の基端側が接続されている。
【0026】
ボディ部12は、筒体12Aを有している。ボディ部12は、筒体12Aの内側に、図示しないオペアンプ、ADコンバータ、MPU、電圧変換器等を有する。筒体12Aの先端側には、セル部13が接続されている。
【0027】
セル部13は、水質センサ1の先端側に設けられる。セル部13は、第1筒部21と、第2筒部22と、連結部23と、測定用空間24と、を備える。第1筒部21及び第2筒部22は、水質センサ1と同軸状の筒状をなしており、互いに水質センサ1の延び方向に間隔をあけて配置されている。第1筒部21は、基端側に配置され、第2筒部22は、先端側に配置されている。第1筒部21及び第2筒部22は、一対の連結部23によって連結されている。第1筒部21と第2筒部22との間には、測定用空間24が形成されている。測定用空間24は、水質センサ1の外部に連続している。セル部13は、測定用空間24を形成する空間構成部24Aを備える。測定用空間24は、第1筒部21、第2筒部22及び連結部23に囲まれて形成されている。
【0028】
セル部13は、
図2に示すように、接続空間25と、フィルタ26とを備える。接続空間25は、
図2において測定用空間24の左右両側に配置され、測定用空間24を、水質センサ1の外部につなぐ空間である。フィルタ26は、接続空間25に設けられ、水質センサ1の外部から測定用空間24に異物が侵入することを抑制する機能を有する。フィルタ26は、測定用空間24の両側(
図2では左右両側)に対をなして設けられている。
【0029】
セル部13は、光源31と、透過窓32と、ビームスプリッタ33と、第1検出器34と、第2検出器35とを備える。
【0030】
光源31は、指向性を有する光を照射する機能を有する。光源31は、例えばLEDを有する。光源31は、濃度を特定しようとする対象に対応した波長の光を照射するものが搭載される。
【0031】
図3及び
図4には、波長と吸光度との関係を示したグラフが開示されている。
図3及び
図4に示すグラフのうち、G1が亜硝酸イオンに対応し、G2が硝酸イオンに対応し、G3がアンモニウムイオンに対応する。
【0032】
図3に示すように、350nm以上且つ400nm以下の波長帯域(以下、第1波長帯域と称する)では、亜硝酸イオンのみが吸光特性を有する。このため、亜硝酸イオンの濃度を特定しようとする場合には、第1波長帯域の光を照射するLEDが搭載される。また、260nm以上且つ350nm以下の波長帯域(以下、第2波長帯域と称する)では、硝酸イオン及び亜硝酸イオンが吸光特性を有する。このため、硝酸イオンの濃度を特定しようとする場合には、第1波長帯域の光を照射するLEDと、第2波長帯域の光を照射するLEDとが搭載される。また、
図4に示すように、940nm以上且つ1000nm以下の波長帯域(以下、第3波長帯域と称する)では、硝酸イオン、亜硝酸イオン及びアンモニウムイオンが吸光特性を有する。このため、アンモニウムイオンの濃度を特定しようとする場合には、第1波長帯域の光を照射するLEDと、第2波長帯域の光を照射するLEDと、第3波長帯域の光を照射するLEDとが搭載される。本実施形態では、第1波長帯域の光を照射するLEDと、第2波長帯域の光を照射するLEDと、第3波長帯域の光を照射するLEDとが搭載される例について説明する。なお、たとえば、アンモニウムイオンの濃度を特定する際に硝酸イオン、亜硝酸イオンの濃度が既知である場合や有意な差を示すほどの量でない場合には、第3波長帯域の光を照射するLEDのみが搭載されていればよい。
【0033】
図2に示すように、光源31は、測定用空間24の基端側に配置され、測定用空間24に向けて光を照射する。
【0034】
透過窓32は、光源31から照射された光を透過させる窓である。透過窓32は、例えばサファイア窓である。透過窓32は、板状をなしている。透過窓32は、第1筒部21内に配置される。
【0035】
ビームスプリッタ33は、光源31から照射される光を透過光と反射光に分割する機能を有する。ビームスプリッタ33の透過率TRと反射率RRは、同じであってもよいし、同じでなくてもよい。つまり、ビームスプリッタ33の透過率TRを反射率RRで割った値(TR/RR)である分光度Dは1であってもよいし、1でなくてもよい。ビームスプリッタ33は、第2筒部22内に配置される。ビームスプリッタ33は、測定用空間24を挟んで透過窓32とは反対側に配置される。
【0036】
第1検出器34及び第2検出器35は、光を電気信号に変換する素子であり、例えばフォトダイオードとして構成される。
【0037】
光源31、透過窓32、測定用空間24、ビームスプリッタ33及び第1検出器34は、直線上に順に並んで配置されている。このため、光源31から照射された光は、透過窓32、測定用空間24及びビームスプリッタ33を順に通過する。そして、ビームスプリッタ33を透過した透過光は、第1検出器34に検出される。第2検出器35は、測定用空間24に対して、光源31と同じ側(具体的には基端側)に配置されている。ビームスプリッタ33で反射された反射光は、透過窓32を通過して、第2検出器35に検出される。
【0038】
ここで、光が光源31から第1検出器34に至るまでの光路のうち測定用空間24内を通る部分を第1光路L1とする。光が光源31から第2検出器35に至るまでの光路のうち測定用空間24内を通る部分を第2光路L2とする。このとき、第1検出器34及び第2検出器35は、第2光路L2の光路長が第1光路L1の光路長と異なるように配置される。本実施形態では、第2光路L2の光路長が第1光路L1の光路長の2倍に設定されている。
【0039】
第1検出器34及び第2検出器35による検出結果を示す信号は、ボディ部12のオペアンプによって増幅され、信号ケーブル70を通じて演算装置80に入力される。
【0040】
演算装置80は、信号ケーブル70を介してセンサ本体10に接続されており、センサ本体10における第1検出器34及び第2検出器35の検出結果を受信し得る。演算装置80は、電源部81と、演算部82と、通信部83と、を有する。電源部81は、電池であってもよいし、外部電源から供給される電力を各機器に供給する電源回路であってもよい。演算部82は、例えばMPUを有して構成されている。演算部82は、第1検出器34及び第2検出器35の検出結果に基づいて特定物質の吸光度を算出し、算出した吸光度に基づいて特定物質の濃度を特定する。通信部83は、端末装置90等の外部装置と通信し得る。端末装置90は、携帯端末やパソコンなどである。
【0041】
次の説明は、水質センサ1を用いた水中の物質濃度測定方法に関する。
水中の物質濃度測定方法は、
図5に示すように、設置工程と、照射工程と、分割工程と、第1検出工程と、第2検出工程と、演算工程と、特定工程とを含む。
【0042】
設置工程は、測定用空間24が液体のサンプルで満たされるようにする工程である。設置工程では、例えば水質センサ1のうちセンサ本体10が、液体のサンプル内に直接投入される。これにより、測定用空間24内にサンプルが入り込み、測定用空間24内がサンプルで満たされる。
【0043】
照射工程は、光源31から光を照射させる工程である。測定開始条件が成立した場合、光源31は、演算装置80からの指示に応じて、光を照射させる。測定開始条件は、例えば予め設定された時間条件が成立したことや、図示しない操作部を用いて開始操作が行われたことなどである。光源31は、第1波長帯域、第2波長帯域及び第3波長帯域の光を順に照射させる。
【0044】
分割工程は、光源31から照射された光をビームスプリッタ33によって透過光と反射光に分割する工程である。
【0045】
第1検出工程は、第1検出器34によって透過光を検出する工程である。第1検出工程では、第1検出器34によって透過光を検出し、検出結果を示す信号を出力する。
【0046】
第2検出工程は、第2検出器35によって反射光を検出する工程である。第2検出工程では、第2検出器35によって反射光を検出し、検出結果を示す信号を出力する。
【0047】
演算工程は、演算装置80によって実行される工程であり、下記式(A)から求められる吸光度AC1を算出する工程である。
AC1=[{-log(IC2/IC1)}+logD]/(N―1)・・・式(A)
なお、IC1は、第1検出工程で検出した透過光の光量である。つまり、IC1は、測定用空間24がサンプルで満たされた状態で第1検出器34が検出する光量である。IC2は、第2検出工程で検出した反射光の光量である。つまり、IC2は、測定用空間24がサンプルで満たされた状態で第2検出器35が検出する光量である。Dは、ビームスプリッタ33の透過率TRを反射率RRで割った値である分光度である。つまり、D=TR/RRである。Nは、第1光路L1の光路長に対する第2光路L2の光路長の割合である。つまり、N=L2/L1である。但し、Nは1以外である。
【0048】
式(A)は、以下のように導出される。
サンプルに入射する前の光の光量、あるいは、仮に測定用空間24が標準液で満たされた状態で第1検出器34及び第2検出器35が検出する光量をI0とする。この場合、ランベルト・ベールの法則より、第1検出器34で検出される光の吸光度AC1は、下記式(1)で表され、第2検出器35で検出される光の吸光度AC2は、下記式(2)で表される。
AC1=-log(IC1/I0)・・・式(1)
AC2=-log(IC2/D・I0)・・・式(2)
式(1)、式(2)から下記式(3)が求められる。
AC2-AC1
={-log(IC2/D・I0)}-{-log(IC1/I0)}
=-log(IC2/IC1)+logD・・・式(3)
他方、第2光路L2の光路長が第1光路L1の光路長のN倍である場合、下記式(4)が成り立つ。
AC2-AC1
=N・AC1-AC1
=(N―1)・AC1・・・式(4)
式(3)と式(4)から下記式(A)が求められる。
AC1=[{-log(IC2/IC1)}+logD]/(N―1)・・・式(A)
【0049】
演算工程では、予め把握しておいた分光度D、及び光路長の比Nと、水質センサ1で検出された光量IC1及び光量IC2を式(A)に代入することで、第1検出器34で検出される光の吸光度AC1を求めることができる。つまり、この水質センサ1によれば、光量I0を用いることなく第1検出器34で検出される光の吸光度AC1を求めることができる。このため、サンプルに入射する前と後とでサンプルの濁度に起因して生じる誤差の影響を排除して吸光度AC1を求めることができる。演算工程では、第1波長帯域、第2波長帯域及び第3波長帯域のそれぞれについて、上記式(A)を用いて吸光度AC1が算出される。
【0050】
特定工程は、演算装置80によって実行される工程であり、演算工程で算出された吸光度AC1を用いてサンプル内の物質濃度を特定する工程である。サンプル内の物質濃度を特定する具体的な方法は、公知の方法を採用することができる。例えば、特許文献2と同様に、吸光度と濃度との対応関係を示す対応関係データを予め記憶しておき、この対応関係データと演算工程で算出された吸光度AC1とに基づいて濃度を特定する。対応関係データは、一次関数等の演算式であってもよいし、テーブルであってもよい。
【0051】
特定工程では、第1波長帯域に対応する吸光度AC1に基づいて亜硝酸イオンの濃度を特定する。更に、第2波長帯域に対応する吸光度AC1に基づいて硝酸イオン及び亜硝酸イオンの双方が含まれる濃度を特定し、双方が含まれる濃度から亜硝酸イオンの濃度を減算することで、硝酸イオンの濃度を特定する。更に、第3波長帯域に対応する吸光度AC1に基づいて硝酸イオン、亜硝酸イオン及びアンモニウムイオンの3種が含まれる濃度を特定し、3種が含まれる濃度から硝酸イオン及び亜硝酸イオンの濃度を減算することで、アンモニウムイオンの濃度を特定する。
【0052】
この水中の濃度測定方法によれば、サンプルに入射する前と後とでサンプルの濁度に起因して生じる誤差の影響を排除して、吸光度AC1を求めることができる。そして、この吸光度AC1を用いて濃度を特定することができる。したがって、光源の熱的・電力的な揺らぎ、光量の低下、または濁度に起因した誤差の影響を抑制しつつ、水中の物質濃度を測定し得る。特に、この構成によれば、硝酸イオン、亜硝酸イオン、及びアンモニウムイオンの濃度を測定することができる。
【0053】
2.第2実施形態
第2実施形態の水質センサ201は、セル部の構成が第1実施形態の水質センサ1とは異なり、その他の点で共通する。以下では、第1実施形態と同じ構成について同じ符号を付し、詳しい説明を省略する。
【0054】
図6には、第2実施形態の水質センサ201のセル部213が示されている。セル部213は、水質センサ201の先端側に設けられる。セル部213は、第1筒部21と、第2筒部22と、連結部23と、測定用空間24と、接続空間25と、フィルタ26と、を備える。測定用空間24は、水質センサ201の外部に連続している。セル部213は、測定用空間24を形成する空間構成部24Aを備える。接続空間25は、
図6において測定用空間24の左右両側に配置され、測定用空間24を、水質センサ201の外部につなぐ空間である。フィルタ26は、接続空間25に設けられ、水質センサ201の外部から測定用空間24に異物が侵入することを抑制する機能を有する。フィルタ26は、測定用空間24の両側(
図6では左右両側)に対をなして設けられている。
【0055】
セル部213は、光源31と、第1透過窓241と、第2透過窓242と、ビームスプリッタ243と、ミラー244と、第1検出器34と、第2検出器35とを備える。
【0056】
第1透過窓241及び第2透過窓242は、光源31から照射された光を透過させる窓である。第1透過窓241及び第2透過窓242は、例えばサファイア窓である。第1透過窓241及び第2透過窓242は、板状をなしている。
【0057】
第1透過窓241は、第1筒部21内に配置される。第1透過窓241は、光源31と測定用空間24との間を仕切っている。第2透過窓242は、第2筒部22内に配置される。第2透過窓242は、測定用空間24を挟んで第1透過窓241とは反対側に設けられる。第2透過窓242は、測定用空間24とビームスプリッタ243との間を仕切っている。
【0058】
ビームスプリッタ243は、光源31から照射される光を透過光と反射光に分割する機能を有する。ビームスプリッタ243の透過率TRと反射率RRは、同じであってもよいし、同じでなくてもよい。つまり、ビームスプリッタ243の透過率TRを反射率RRで割った値(TR/RR)である分光度Dは1であってもよいし、1でなくてもよい。
【0059】
ミラー244は、ビームスプリッタ243で分割された反射光を反射する測定用空間24に向けて反射する。ミラー244は、測定用空間24に対して、ビームスプリッタ243と同じ側(具体的には先端側)に配置されている。
【0060】
光源31、第1透過窓241、測定用空間24、第2透過窓242、ビームスプリッタ243、及び第1検出器34は、直線上に順に並んで配置されている。このため、光源31から照射された光は、第1透過窓241、測定用空間24、第2透過窓242、及びビームスプリッタ243を順に通過する。そして、ビームスプリッタ243を透過した透過光は、第1検出器34に検出される。第2検出器35は、測定用空間24に対して、光源31と同じ側(具体的には基端側)に配置されている。ビームスプリッタ243で反射された反射光は、ミラー244で反射される。ミラー244、第2透過窓242、測定用空間24、第1透過窓241、及び第2検出器35は、直線上に順に並んで配置されている。ミラー244で反射された反射光は、第2透過窓242、測定用空間24、第1透過窓241を順に通過して、第2検出器35に検出される。
【0061】
第1透過窓241は、光源31と対向する第1面241Aと、第1面241Aとは反対側の第2面241Bと、を有する。第2面241Bは、第2透過窓242と対向する。第2透過窓242は、第1透過窓241の第2面241Bと対向する第3面242Aと、第3面242Aとは反対側の第4面242Bと、を有する。第4面242Bは、ビームスプリッタ243側を向いている。
【0062】
光源31、第1透過窓241、及び第2透過窓242は、光源31から照射された光が第1透過窓241の第1面241A及び第2透過窓242の第3面242Aに対して垂直に入射する位置関係で配置される。ビームスプリッタ243、ミラー244、第1透過窓241及び第2透過窓242は、ミラー244で反射された反射光が第1透過窓241の第2面241B及び第2透過窓242の第4面242Bに対して垂直に入射する位置関係で配置される。なお、垂直には、厳密な垂直だけでなく、実質的な垂直も含まれる。実質的な垂直とは、面と直交する方向に対する傾きが3°以内のことをいう。
【0063】
ここで、光が光源31から第1検出器34に至るまでの光路のうち測定用空間24内を通る部分を第1光路L21とする。光が光源31から第2検出器35に至るまでの光路のうち測定用空間24内を通る部分を第2光路L22とする。このとき、第1検出器34及び第2検出器35は、第2光路L22の光路長が第1光路L21の光路長と異なるように配置される。本実施形態では、第2光路L22の光路長が第1光路L21の光路長の2倍に設定されている。
【0064】
次の説明は、水質センサ201を用いた水中の物質濃度測定方法に関する。
水中の物質濃度測定方法は、第1実施形態で説明した設置工程、照射工程、分割工程、第1検出工程、第2検出工程、演算工程、及び特定工程に加え、反射工程を含む。
【0065】
第2実施形態の照射工程では、第1透過窓241の第1面241A及び第2透過窓242の第3面242Aに対して、光源31から照射される光を垂直に入射させる。反射工程では、ビームスプリッタ243で分割された反射光をミラー244によって反射させ、ミラー244によって反射された反射光を第1透過窓241の第2面241B及び第2透過窓242の第4面242Bに対して垂直に入射させる。
【0066】
第2実施形態の水質センサ201によれば、光源31から照射された光が第1透過窓241及び第2透過窓242を透過するときの透過率の低下を抑えることができる。また、この構成によれば、ミラー244で反射された反射光が第1透過窓241及び第2透過窓242を透過するときの透過率の低下を抑えることができる。
【0067】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。また、上述した実施形態や後述する実施形態の様々な特徴は、矛盾しない組み合わせであればどのように組み合わされてもよい。
【0068】
上記各実施形態では、第2光路の光路長が、第1光路の光路長の2倍であったが、第2光路の光路長が第1光路の光路長と異なっていれば2倍でなくてもよい。
【0069】
上記各実施形態では、水質センサがフィルタを備える構成であったが、フィルタを備えない構成であってもよい。
【0070】
なお、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、請求の範囲によって示された範囲内又は請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
1…水質センサ
24…測定用空間
26…フィルタ
31…光源
33…ビームスプリッタ
34…第1検出器
35…第2検出器
201…水質センサ
241…第1透過窓
242…第2透過窓
243…ビームスプリッタ
244…ミラー
AC1…第1検出器で検出される光の吸光度
D…分光度
IC1…第1検出器が検出する光の光量
IC2…第2検出器が検出する光の光量
L1…第1光路
L2…第2光路
N…第1光路の光路長に対する第2光路の光路長の割合